説明

球面滑り軸受装置

【課題】耐摩耗性、耐熱性、低摩擦特性に優れ、さらには、大きい揺動角を確保でき、外輪と内輪の嵌合隙間を管理可能な合成樹脂製の球面滑り軸受装置を提供する。
【解決手段】球状の外周面2bを有し、内周面2aに支持軸を貫挿できる軸受孔5が形成されている内輪2と、該外周面2bに対応する凹面3eを有する外輪3との組合せからなる球面滑り軸受装置1であって、内輪2および外輪3が個別に成形された樹脂組成物の成形体であり、内輪2を成形する樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に固体潤滑剤が配合されてなり、外輪3を成形する樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に補強材が配合されてなり、上記外輪3の一方の端面には、内輪2を挿入可能に保持する爪部3a、3b、3cを一体に有し、該爪部3a、3b、3cは外輪端面の周方向に形成されたスリット4によって設けられた薄肉部からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業機械などの軸受部に用いられる球面滑り軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
球状の外周面を有する内輪と、該外周面に対応する凹面を有する外輪との組合せからなる球面滑り軸受装置において、内輪および外輪が合成樹脂で形成された球面滑り軸受装置は公知であり、市場で入手可能である。球面滑り軸受装置は、滑り部が球面であり、ラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重が負荷でき、揺動運動や調心運動などに適している。特に、上述の合成樹脂製の球面滑り軸受装置は、軽量であり、低価格であり、無潤滑性のため、各種軸受部(例えば、事務機器、産業機械などの関節軸受部など)への需要が拡大している。このような球面滑り軸受装置の製造方法として、あらかじめ成形した外輪を金型に仕込み、内輪を射出成形(インサート成形)することで製造する方法が知られている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
これらの軸受における具体的な樹脂材料に関して、特許文献1には、耐熱性、耐摩耗性、潤滑性に優れた樹脂(例えば、コプナ樹脂やポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂や、フェノール樹脂にカーボンや二硫化モリブデンを添加して潤滑性を高めた樹脂など)で内輪を形成することが開示されている。また、特許文献2には、成形収縮性を生じ、良好な射出成形性と高い耐油性を満足する材料(例えば、ポリアセタール、ナイロン、PETなど)で内輪を形成することが開示されている。
【0004】
また、球状外周面を有する内輪を備えた自動調心すべり軸受において、外輪へ内輪を組み付ける際に内輪の外周面に押されて歪み、組み付けられた状態では、歪みが復元して内輪の外周面を保持する外輪構造を有するものが知られている(特許文献3参照)。当該軸受では、その樹脂製外輪が、両端面の円周方向に沿って形成された溝によって分けられる内周面側の内周部と、外周面側の外周部とからなり、樹脂の歪みを利用することで外輪への内輪の組み付けを容易にしている(特許文献3の図1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−280879号公報
【特許文献2】特開2008−032050号公報
【特許文献3】特開2007−100905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、滑り軸受の用途によっては、特許文献1の技術では、耐摩耗性、潤滑特性が不十分であり、特許文献2の技術では、耐摩耗性、耐熱性が不十分である。
【0007】
また、特許文献1および特許文献2のいずれの技術でも、内輪の成形収縮によって外輪との嵌合隙間が大きくなりすぎるために偏摩耗が発生する問題がある。これとは逆に、あらかじめ成形した内輪を金型に仕込み、外輪を射出成形することで製造した場合は、内輪に外輪が抱き付いた状態となり、回転トルクが高くなるという問題がある。このため、特許文献1および特許文献2のような方法で得られた球面滑り軸受装置は、低回転、回転トルクが高くてもよいなどの使用条件が緩い部分での使用に限定されていた。
【0008】
また、特許文献3は、特許文献3の図1に示すように、金型内に射出した合成樹脂からなる外輪を、金型から無理抜きするために、外輪10の内周部14の周縁は、内輪20の外周面21の径よりも小さく、内輪20の端面22の径よりも大きい径を有する内輪導入面18が球面に続いて形成されている。このため、外輪10の内周面11の円弧高さは、内輪20外周面21の円弧高さよりも小さく、かつ外輪10の内周面11の幅は外輪10の幅より狭くなっている。このような外輪構造のため、許容調心角が20°程度にしかならないという問題がある。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、耐摩耗性、耐熱性、低摩擦特性に優れ、さらには、大きい揺動角を確保でき、外輪と内輪の嵌合隙間を管理可能な合成樹脂製の球面滑り軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の球面滑り軸受装置は、球状の外周面を有し、内周面に支持軸を貫挿できる軸受孔が形成されている内輪と、該外周面に対応する凹面を有する外輪との組合わせからなる球面滑り軸受装置であって、上記内輪および上記外輪が、個別に成形された樹脂組成物の成形体であり、上記内輪を成形する上記樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に固体潤滑剤が配合されてなり、上記外輪を成形する上記樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に補強材が配合されてなることを特徴とする。
【0011】
上記外輪は、該外輪の少なくとも一方の端面に、上記内輪を挿入可能に保持する2分割以上に分割された爪部を一体に有し、上記爪部は、上記外輪端面の周方向に形成されたスリットによって設けられた薄肉部からなることを特徴とする。
【0012】
上記外輪の軸方向と、上記内輪の軸方向とのなす角である揺動角の上限が15〜20°であることを特徴とする。
【0013】
上記スリットは、上記外輪の一方の端面に形成されており、上記スリットの深さは上記外輪の軸方向中央部まで形成されていることを特徴とする。
【0014】
上記固体潤滑剤が、有機質粉末であることを特徴とする。特に、上記有機質粉末が、熱硬化性樹脂粉末およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粉末から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。また、上記補強材が、カーボン系補強材であることを特徴とする。
【0015】
上記内輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂と、上記外輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂とが、異なる樹脂であることを特徴とする。特に、上記内輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂が、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂であり、上記外輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂が、ポリアミド樹脂であることを特徴とする。
【0016】
上記内輪および上記外輪が、それぞれを成形する上記樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする。
【0017】
上記外輪の外周面は、ハウジングに挿嵌できる円筒状に形成されていることを特徴とする。また、上記外輪は、ハウジングに上記内輪の外周面に対応する凹面が形成されたものであることを特徴とする。
【0018】
上記外輪の内周面の軸方向断面形状が、V字状であることを特徴とする。
【0019】
上記内輪の外周面は、軸方向中央部の全周に非球面部が形成されていることを特徴とする。また、上記内輪が、該内輪を成形する上記樹脂組成物の射出成形体であり、上記非球面部にパーティングラインが形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の球面滑り軸受装置は、球状の外周面を有し、内周面に支持軸を貫挿できる軸受孔が形成されている内輪と、該外周面に対応する凹面を有する外輪との組合わせからなり、上記内輪および上記外輪が、個別に成形された樹脂組成物の成形体であり、上記内輪を成形する上記樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に固体潤滑剤が配合されてなり、上記外輪を成形する上記樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に補強材が配合されてなるので、耐摩耗性、耐熱性、低摩擦特性に優れる。また、内輪と外輪とを個別に製造することで、嵌合隙間を管理できる。よって、管理された嵌合隙間を有する球面滑り軸受装置となり、偏摩耗などの不具合が生じることがない。
【0021】
上記外輪において、該外輪の少なくとも一方の端面に、上記内輪を挿入可能に保持する2分割以上に分割された爪部を一体に有し、上記爪部が、上記外輪端面の周方向に形成されたスリットによって設けられた薄肉部からなる構成とすることで、内輪の外周面の曲率が大きい場合でも、分割された薄肉部からなる爪部を介して外輪に内輪を組み込むことが容易であり、かつ、確実に保持できる。
【0022】
上記外輪の軸方向と、上記内輪の軸方向とのなす角である揺動角の上限が15〜20°である構成とすることで、事務機器、産業機械などの関節軸受部などに好適となる。また、揺動角の上限がこの範囲であっても、上記構造により、内輪を外輪に容易に組み込むことができる。
【0023】
上記スリットが上記外輪の一方の端面に形成されており、スリットの深さは上記外輪の軸方向中央部まで形成されている構成とすることで、爪部の強度を十分に確保することができる。
【0024】
上記内輪を成形する上記樹脂組成物に配合する固体潤滑剤を、有機質粉末とすることで、潤滑特性に優れ、低摩擦特性となる。特に、熱硬化性樹脂粉末およびPTFE樹脂粉末から選ばれる少なくとも1つとすることで、耐熱性を損なうことなく、潤滑特性に優れ低摩擦特性となる。
【0025】
上記外輪を成形する上記樹脂組成物に配合する補強材を、カーボン系補強材とすることで、低摩擦特性を損なうことなく、補強効果が得られる。
【0026】
上記内輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂と、上記外輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂とを異なる樹脂とすることで、内輪と外輪との凝着を防止することができ、低摩擦特性を経時的に安定させることができる。特に、上記内輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂を、PPS樹脂とし、上記外輪を成形する樹脂組成物における上記合成樹脂を、ポリアミド樹脂とすることで、耐摩耗性、耐熱性、低摩擦特性のバランスが優れる。
【0027】
上記内輪および上記外輪を、それぞれを成形する上記樹脂組成物の射出成形体とすることで、嵌合隙間によるマッチングが容易となる。
【0028】
上記外輪の外周面をハウジングに挿嵌できる円筒状に形成することで、ハウジングへの組み込み性が優れる。また、ハウジングに上記内輪の外周面に対応する凹面を形成して、これを外輪とすることで、部品点数を減らすことができる。
【0029】
上記外輪の内周面の軸方向断面形状をV字状とすることで、外輪の設計および製造が容易となる。
【0030】
上記内輪の外周面において、軸方向中央部の全周に非球面部を形成することで、内輪の外輪への組み込み性に優れる。また、上記内輪が該内輪を成形する上記樹脂組成物の射出成形体であり、上記非球面部にパーティングラインが形成されることで、内輪の射出成形が容易でありパーティングラインの突状が外輪の摺接面と干渉しない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の球面滑り軸受装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の球面滑り軸受装置の他の例を示す斜視図である。
【図3】図3(a)は図2の球面滑り軸受装置を示す正面図であり、図3(b)は図3(a)をA−A線で切断した断面図である。
【図4】本発明の球面滑り軸受装置の外輪の他の例を示す正面図である。
【図5】本発明の球面滑り軸受装置の外輪の他の例を示す軸方向断面図である。
【図6】本発明の球面滑り軸受装置の内輪の他の例を示す側面図である。
【図7】図3(b)の内輪が揺動したときの状態を内輪のみ斜視図で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の球面滑り軸受装置の一実施例を図1により説明する。図1は、本発明の球面滑り軸受装置の一例を示す斜視図である。図1に示すように、球面滑り軸受装置1は、球状の外周面2bを有し、内周面2aに支持軸を貫挿できる軸受孔5が形成されている内輪2と、該外周面2bに対応する凹面3eを有する外輪3との組合せからなる。内輪2および外輪3は、個別に成形された樹脂組成物の成形体である。個別に成形した内輪2および外輪3において、内輪2の外輪3への組み込み方法は、任意の方法を採用できるが、内輪の組み込み性や保持性に優れることから後述(図2、図3参照)の爪部を設ける方法が好ましい。内輪2と外輪3とを個別に製造することで、嵌合隙間を管理でき、偏摩耗などの不具合が生じることがない。なお、本発明の球面滑り軸受装置は、例えば、外輪3の外径が5mm〜30mm程度の大きさである。
【0033】
ここで、(1)内輪2を成形する樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に固体潤滑剤が配合されてなり、(2)外輪3を成形する樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に補強材が配合されてなる。
【0034】
外輪2または内輪3を形成する樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂は、融点200℃以上の合成樹脂である。より好ましくは、融点が200℃〜400℃の合成樹脂である。本発明で使用できる合成樹脂としては、例えば、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド6−6(PA66)樹脂、ポリアミド6−10(PA610)樹脂、ポリアミド6−12(PA612)樹脂、ポリアミド4−6(PA46)樹脂などの脂肪族ポリアミド樹脂、ポリアミド9−T(PA9T)樹脂、ポリアミド6−T(PA6T)樹脂、ポリメタキシレンアジパミド(ポリアミドMXD−6)樹脂などの高分子主鎖中に芳香族環を有する芳香族(脂肪族芳香族)ポリアミド樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、PPS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂“オーラム”(登録商標) 、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)樹脂などが挙げられる。なお、各ポリアミド樹脂において、数字はアミド結合間の炭素数を表し、Tはテレフタル酸残基を表す。これらの各樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。また、射出成形可能な合成樹脂であれば、内輪2および外輪3を射出成形体にすることができ、製造が容易であり、寸法精度も均一にできるので嵌め合い隙間を管理する上でも好ましい。
【0035】
内輪2を成形する樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂は、摺動特性に優れる潤滑性樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂として、例えば、上記の中で、PA6樹脂、PA66樹脂、PA610樹脂、PA612樹脂、PPS樹脂、PEEK樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂“オーラム”(登録商標)、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂などを用いることが好ましい。また、上記以外の潤滑特性の低い合成樹脂に上記の合成樹脂を配合したポリマーアロイであってもよい。また、潤滑特性の低い合成樹脂であっても、後述の固体潤滑剤や潤滑油を添加することで潤滑特性を高めることができる。
【0036】
内輪2を成形する樹脂組成物は、ベース樹脂となる上記合成樹脂に固体潤滑剤を配合してなる。固体潤滑剤を配合することで、樹脂成形体の耐摩耗性、機械的強度を低下させることなく、低摩擦特性を向上させることができる。本発明で使用できる固体潤滑剤としては、例えば、PTFE樹脂粉末、グラファイト、二硫化モリブデン、ポリイミド樹脂やフェノール樹脂や全芳香族ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂粉末などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性を損なうことなく、潤滑特性に優れ、低摩擦特性となることから、PTFE樹脂粉末、熱硬化性樹脂粉末などの有機質粉末が特に好ましい。これらの固体潤滑剤は、1種類を配合しても2種類以上を組み合わせて配合してもよい。
【0037】
外輪3を成形する樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂は、機械的強度に優れた合成樹脂を用いることが好ましい。このような樹脂として、例えば、上記の中で、PA6樹脂、PA66樹脂、PA610樹脂、PA612樹脂、PA46樹脂、PA9T樹脂、PA6T樹脂、PC樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、PEEK樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂“オーラム” 、PAI樹脂などを用いることが好ましい。
【0038】
外輪3を成形する樹脂組成物は、ベース樹脂となる上記合成樹脂に補強材を配合してなる。補強材を配合することで、機械的強度を高めることができる。本発明で使用できる補強材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、各種鉱物性繊維(ウィスカ)、カーボン粉末などが挙げられる。これらの中でも、低摩擦特性を損なうことなく、機械的強度および耐摩耗性を向上できることから、カーボン繊維、カーボンウィスカ、カーボン粉末などのカーボン系補強材が特に好ましい。これらの補強材は、1種類を配合しても2種類以上を組み合わせて配合してもよい。さらに、外輪3を成形する樹脂組成物において、固体潤滑剤などを併用してもよい。
【0039】
内輪2を成形する樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂と、外輪3を成形する樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂とは、互いに異なる樹脂とすることが好ましい。ベース樹脂が異なることで、滑り面である内輪外周面と外輪内周面との間の凝着を防止でき、低摩擦特性を経時的に安定させることができる。異なるベース樹脂の選択に際し、外輪は内輪嵌め込み時の拡径に対処しやすく内輪を傷付けにくいことが好ましいことから、外輪用のベース樹脂は内輪用のベース樹脂よりも硬度が低い樹脂を用いることが好ましい。
【0040】
本発明においては、内輪をPPS樹脂にPTFE樹脂粉末や熱硬化性ポリイミド樹脂粉末を配合したPPS樹脂組成物から成形し、外輪をポリアミド樹脂にカーボン系補強材を配合したPA樹脂組成物から成形して、これらを組み合わせた球面滑り軸受装置が特に好ましい。このような組合わせとすることで、外輪が内輪嵌め込み時の拡径に対処しやすく内輪を傷付けにくく、さらに、耐摩耗性、耐熱性、低摩擦特性のバランスに優れる球面滑り軸受装置となる。
【0041】
本発明の球面滑り軸受装置の他の実施例として、外輪に3分割された爪部を有する球面滑り軸受装置を図2および図3により説明する。図2は、3分割された爪部を有する球面滑り軸受装置を示す斜視図であり、図3(a)は、この球面滑り軸受装置を示す正面図であり、図3(b)は、図3(a)をA−A線で切断した断面図である。図2および図3に示すように、この球面滑り軸受装置1は、球状の外周面2bを有する内輪2と、該外周面2bに対応する凹面3eを有する外輪3との組合せからなり、外輪3は、一方の端面に、内輪2を挿入可能に保持する3分割された爪部3a、3b、3cを外輪と一体に有している。内輪2および外輪3は、個別に成形された上述の樹脂組成物の成形体である。
【0042】
このような分割された薄肉部からなる爪部3a、3b、3cを外輪3に設けることで、内輪2の外周面2bの曲率が大きい場合でも、該爪部を介して外輪3に内輪2を組み込むことが容易であり、かつ、確実に保持できる。爪部は、2分割以上ないし8分割以内であれば内輪の組み込みが可能でかつ容易に外れないため好ましい。
【0043】
爪部3a、3b、3cは外輪端面の周方向に形成されたスリット4によって設けられた薄肉部からなる。スリット4は外輪3の一方の端面に形成されており、スリット4の深さは、図3(b)に示すように、外輪3の軸方向中央部まで形成されていることが好ましい。スリットの深さを外輪の軸方向中央部までとすることで、上記爪部の強度を十分に確保できる。
【0044】
各図に示すように、内輪2において、内周面2aに支持軸を貫挿できる軸受孔5が形成されている。また、外輪3の外周面3dはハウジングに挿嵌できる円筒状に形成されている。このような形状とすることで、ハウジングへの組み込み性が優れる。また、外輪3は、ハウジングに内輪2の外周面2bに対応する凹面が形成されたものであってもよい。すなわち、図4に示すように、ハウジングに対して外輪を別体とせず、ハウジング6に直接、内輪2の外周面2bに対応する凹面6aを形成してもよい。このような構成とする場合、部品点数を削減することができる。なお、図4では、ハウジング6に爪部も形成している。
【0045】
球面滑り軸受装置1において、外輪3の内周面は、内輪2の外周面2bに倣った凹面3eであり、爪部間を除いて、その軸方向断面形状は円弧状である(図3(b)参照)。また、他の態様として、図5に示すように、外輪3の内周面は、略そろばん駒状のような2本の直線でつなげた凹面3eであってもよい。この場合の該内周面の軸方向断面形状は、V字状である。外輪3を機械加工によって形成する場合は、図3(b)に示す形状よりも、図5に示す形状の方が、外輪の設計(寸法管理)および製造が容易となる。
【0046】
図6は、本発明の球面滑り軸受装置の内輪の一例を示す側面図である。図6に示すように、内輪2の外周面2bには、該外周面の軸方向中央部の全周に非球面部2cを形成することが好ましい。該非球面部2cを形成することで、図2などに示す構成において、内輪2と外輪3の軸方向を合せて、内輪2を外輪3に組み込む際に、非球面部2cがない場合よりも内輪外径が小さく、内輪2の外輪3への組み込み性が優れる。また、非球面部2c以外の内輪外周面の曲率は、非球面部2cがない場合と同じであるため、内輪2は外輪3の爪部により非球面部2cがない場合と同様の精度で保持される。
【0047】
図6に示すように、内輪2の外周面2bの軸方向中央部に形成された非球面部2cの径方向に、2分割された金型の合わせ目であるパーティングライン(PL)2dが形成されていることが好ましい。この部分にPLを設けることで、球状の外周面2bを有する内輪2の射出成形が容易となり、該PLの突状が外輪の摺接面と干渉しない。そのため、PLの研磨を省略することができる。
【0048】
図7は、図3(b)の内輪が揺動したときの状態を内輪のみ斜視図で示す図である。図7に示すように、本発明の球面滑り軸受装置1は、内輪2が球面滑りし、該内輪2が外輪3に対して揺動できる。外輪3の軸方向と、内輪2の軸方向とのなす角が揺動角(θ)である。本発明の球面滑り軸受装置1では、この揺動角(θ)の上限が15〜20°であることが好ましい。すなわち、内輪2が外輪3に対して揺動できる許容角(θ)としては、30〜40°であることが好ましい。
【0049】
図2に示す構成の球面滑り軸受装置1の製造工程を図3により説明する。球面滑り軸受装置1は、内輪2と外輪3とを上述の樹脂組成物を用いて個別に成形した後に、内輪2を外輪3に組み込む(嵌合する)ことで製造する。組み込みは、外輪3の爪部3a、3b、3cに内輪2をあてがい、外輪3の内側に内輪2を押し込むように挿入して行なう。図3(a)および図3(b)に示すように、外輪3の爪部3a、3b、3cは円周方向に相互に分割隙間3fを有するとともに、爪部3aと外輪3の外周面3dとの間にスリット4が形成されているので、各爪部の端面内径よりも大きい外径を有する内輪2が、外周面2bで外輪3の各爪部の周縁をスリット4側にめくり上げるように、かつ、分割隙間3fを拡げるように外輪3の凹面3eを拡径しながら押し込まれる。また、各爪部のない外輪3の他方の端面側にはスリット4および分割隙間3fがないので、この端面側では外輪3の凹面3eは拡径できず、押し込まれた内輪2は、外輪3の幅方向中心線まで押し込まれてそれ以上進めなくなり、位置決めされる。組み込まれた内輪2は、外輪3の一方の端部の爪部3a、3b、3cと、他方の端部とにより保持される。
【0050】
図2などに示す構成の球面滑り軸受装置1は、このように分割された爪部構造を有することで、揺動角の上限が15〜20°(許容角としては30〜40°)と大きく、内輪外周面の曲率が大きい場合であっても、内輪2を外輪3に容易に組み込むことができる。また、内輪2の組み込みにより完成した球面滑り軸受装置1は、インサート成形などを行なわないため、内輪2および外輪3のそれぞれの設計値に基づく嵌合隙間を保持することができ、使用時に違和感なく円滑に作動することができる。さらに、内輪2および外輪3がそれぞれ所定の樹脂組成物で成形されるので、耐摩耗性、耐熱性、低摩擦特性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の球面滑り軸受装置は、耐摩耗性、耐熱性、低摩擦特性に優れ、さらには、大きい揺動角を確保でき、外輪と内輪の嵌合隙間を管理可能で偏摩耗などの不具合が生じることがないので、事務機器、産業機械、自動車などの各種軸受部において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 球面滑り軸受装置
2 内輪
2a 内輪の内周面
2b 内輪の外周面
2c 非球面部
2d パーティングライン
3 外輪
3a、3b、3c 爪部
3d 外輪の外周面
3e 外輪の凹面
3f 分割隙間
4 スリット
5 軸受孔
6 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の外周面を有し、内周面に支持軸を貫挿できる軸受孔が形成されている内輪と、該外周面に対応する凹面を有する外輪との組合わせからなる球面滑り軸受装置であって、
前記内輪および前記外輪が、個別に成形された樹脂組成物の成形体であり、
前記内輪を成形する前記樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に固体潤滑剤が配合されてなり、前記外輪を成形する前記樹脂組成物が、融点200℃以上の合成樹脂に補強材が配合されてなることを特徴とする球面滑り軸受装置。
【請求項2】
前記外輪は、該外輪の少なくとも一方の端面に、前記内輪を挿入可能に保持する2分割以上に分割された爪部を一体に有し、前記爪部は、前記外輪端面の周方向に形成されたスリットによって設けられた薄肉部からなることを特徴とする請求項1記載の球面滑り軸受装置。
【請求項3】
前記外輪の軸方向と、前記内輪の軸方向とのなす角である揺動角の上限が15〜20°であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の球面滑り軸受装置。
【請求項4】
前記スリットは、前記外輪の一方の端面に形成されており、前記スリットの深さは前記外輪の軸方向中央部まで形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の球面滑り軸受装置。
【請求項5】
前記固体潤滑剤が、有機質粉末であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項6】
前記有機質粉末が、熱硬化性樹脂粉末およびポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項5記載の球面滑り軸受装置。
【請求項7】
前記補強材が、カーボン系補強材であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項8】
前記内輪を成形する前記樹脂組成物における前記合成樹脂と、前記外輪を成形する前記樹脂組成物における前記合成樹脂とが、異なる樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項9】
前記内輪を成形する前記樹脂組成物における前記合成樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂であり、前記外輪を成形する前記樹脂組成物における前記合成樹脂が、ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項10】
前記内輪および前記外輪が、それぞれを成形する前記樹脂組成物の射出成形体であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項11】
前記外輪の外周面は、ハウジングに挿嵌できる円筒状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項12】
前記外輪は、ハウジングに前記内輪の外周面に対応する凹面が形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項13】
前記外輪の内周面の軸方向断面形状が、V字状であることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項14】
前記内輪の外周面は、軸方向中央部の全周に非球面部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載の球面滑り軸受装置。
【請求項15】
前記内輪が、該内輪を成形する前記樹脂組成物の射出成形体であり、前記非球面部にパーティングラインが形成されていることを特徴とする請求項14記載の球面滑り軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−82843(P2012−82843A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226810(P2010−226810)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】