説明

琥珀から得られるヒアルロン酸産生促進因子を含有する組成物及びその使用

【課題】本願発明は、安全かつ効率的に、ヒアルロン酸産生を促進させる成分(組成物)を含有する化粧品及び皮膚外用剤並びにそれらの候補を提供することを課題とする。
【解決手段】琥珀を粉砕後、低級アルコールで抽出する工程を含む方法により、ヒアルロン酸合成促進剤を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、化粧品及び皮膚外用剤並びにヒアルロン酸産生促進因子の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚が加齢により、ハリやみずみずしさを失い、小じわが現れるのは女性のみならず人々の悩みの種となっている。この現象は様々な要因が複雑にからみあって起こると考えられており、全てが解明されているわけではないものの、皮膚の乾燥と、皮膚細胞間マトリックス中のヒアルロン酸との関連性があるとされている。
【0003】
ヒアルロン酸は、D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンが繰り返し連結された直鎖状グリコサミノグリカンで分子量約1×105〜5×106Daの生体内で最大の高分子ポリマーである。ヒアルロン酸の特性は、その大きな水和力(保湿力)、粘弾性、水溶液中でとり得る可変的な網目構造である。この物理的性質は細胞外マトリックスの一員として重要な特性である。ヒアルロン酸は生体では水を内包したゲルとして存在する(非特許文献1:井上、佐用、ヒアルロン酸のターンオーバーと疾患、生化学 Vol.77,No.9,1152-1164,2005)。
【0004】
皮膚は表皮層と真皮層の二層から成り、下側の真皮層はコラーゲン等の細胞間マトリックスと真皮線維芽細胞で構成され、その上部の表皮層は表皮角化細胞と表皮細胞間マトリックスであるヒアルロン酸で構成されている。ヒアルロン酸は真皮層、表皮層のいずれにも存在するが、その存在様式は異なる。真皮では散在する線維芽細胞の周りに広く存在する細胞外マトリックス一面にヒアルロン酸が存在するが、表皮層では真皮層と異なり、密接に隣接した表皮細胞間隙に網目状に局在している。
【0005】
つまり表皮層のヒアルロン酸はその物理的性質及び存在様式から考えて、表皮細胞間の空間を維持し、血管の通わない重層した構造の維持に酸素、イオン、栄養成分、生理活性成分の移動や拡散に寄与し、表皮層のみずみずしさや粘弾性(皮膚のハリ)に関与していると考えられる。
【0006】
このことから肌がみずみずしくハリのある状態であるためには、表皮にヒアルロン酸が十分量存在していることが重要であると考えられる。ところが、皮膚に存在するヒアルロン酸は、加齢により減少することが報告されている(非特許文献2:Ghersetich,Lotti,Hyaluronic acid in cutaneous intrinsic aging.Int.J.Dermatol.Vol.33(No.2),119-122,1994)。
【0007】
また近年、小じわ改善効果と表皮におけるヒアルロン酸産生促進作用との関連の可能性が報告されている(非特許文献3:佐用、ヒアルロン酸代謝に着目したシワ改善へのアプローチ、フレグランスジャーナル、65-71,2004年5月号)。
【0008】
他方、本願発明者らが、注目した琥珀については、琥珀粉末を油性化粧料の肌感触改善目的で化粧品に配合する旨の技術(特許文献1)がある。
【0009】
さらに、琥珀に外部エネルギーを与えて琥珀構成成分を変性させることにより得た組成成分を有効成分とする抽出物に抗菌、抗酸化、消臭、手、肌荒れ、抗炎症効果があることが見出されている。(特許文献2)。
【0010】
【特許文献1】特許第3725848号
【特許文献2】特開平9-227334
【非特許文献1】井上、佐用、ヒアルロン酸のターンオーバーと疾患、生化学 Vol.77,No.9,1152-1164,2005
【非特許文献2】Ghersetich,Lotti,Hyaluronic acid in cutaneous intrinsic aging.Int.J.Dermatol.Vol.33(No.2),119-122,1994
【非特許文献3】佐用、ヒアルロン酸代謝に着目したシワ改善へのアプローチ、フレグランスジャーナル、65-71,2004年5月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、我々は老化した皮膚のヒアルロン酸産生量を上げることができれば、加齢に伴う乾燥肌、すなわちハリやみずみずしさの減少や小じわ改善効果につながると考えた。
【0012】
他方、既に表皮角化細胞のヒアルロン酸産生を促進すると報告されている物質には、レチノイド類(Akiyama H, Saito M, Qiu G, Toida T,Imanari T, ANALYTICAL STUDIES ON HYALURONIC ACID SYNTHESIS BY NORMAL HUMAN EPIDERMAL KERATINOCYTES CULTURED IN A SERUM-FREE MEDIUM. Biol Pharm Bull. Vol.17,No.3,361-364,1994.)が挙げられる。レチノイド類も強い催奇性を有し、肌に対する刺激が強いので医師の監視の下に使用するか、もしくは化粧品のように医師の処方箋なしで購入可能な場合でも肌に合わずに使用を断念しなくてはならないケースが出てくることが懸念される好ましくない。
【0013】
また17βエストラジオールはマウス皮膚のヒアルロン酸産生を促進するとの報告がある(Uzuka M. et al. THE MECHANISM OF ESTROGEN-INDUCED INCREASE IN HYALURONIC ACID BIOSYNTHESIS, WITH SPECIAL REFERENCE TO ESTROGEN RECEPTOR IN THE MOUSE SKIN. Biochimica et Biophysica Acta Vol.627,199-206,1980)。このうち、17βエストラジオールついては発ガン性があるといわれているので、医師の監視の下に使用することが要求される。
【0014】
なお、皮膚細胞のヒアルロン酸産生能を促進すると報告されている物質は多数ある。しかし、そのほとんどは培養真皮線維芽細胞においてヒアルロン酸産生促進能を有していることは確認されているものの、実際のヒト皮膚に近い構造を有しているヒト皮膚再構築モデル系やin vivo(動物皮膚及びヒト皮膚)におけるヒアルロン酸産生促進能までも確認されている物質の数は、それと比較して少ない。
【0015】
また、「なるべく環境や人にやさしい成分を化粧品に配合してほしい」という考え方が消費者の間に浸透しているため、化粧品に配合するものにも、環境や人にやさしい成分、できるだけ安全で環境に影響を及ぼさない成分の開発が求められている。
【0016】
そこで、安全かつ効率的に皮膚のヒアルロン酸産生促進能を亢進させる成分(組成物)を含有する皮膚の乾燥防止、保湿用化粧品及び皮膚外用剤並びにそれらの候補を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者らは、ヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を探索していたところ、従来から安全性に問題なく使用されている琥珀の抽出物に、ヒアルロン酸産生を促進する作用があることを見出し、本願発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0018】
既に化粧品に配合され安全性の確立しているものから、新たにヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を調製したものであり、安全性に優れた化粧品及び/又は皮膚外用薬の開発を可能とするという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1.はじめに
1−1.琥珀
琥珀とは主にマツ属植物の樹脂が長期間地下に埋没し凝結してできた化石で、主に樹脂、精油、コハク酸等を含む。エタノールやジエチルエーテル或いはベンゼンに少量溶ける(中薬大辞典 第二巻 上海科学技術出版社(江蘇新医学院「中薬大辞典」編集部)小学館編より)。装飾工芸品、宝石、絶縁材料の用途か削りカスをお香にするなどの用途のほかに、19世紀頃にはキズ薬などに使用されていた(K.Kaiserling Pathloge Vol.22,No.4,285-286,2001)。近年では、琥珀粉末を化粧品に配合する旨の技術(五十嵐則夫、梅平和孝、新田智美、武田令子 化粧料 第3725848号)、琥珀の抽出物を皮膚外用剤に配合する技術(澤口希能、澤口能一、中尾和朗、 琥珀成分含有剤、特開平9-227334、 澤口希能、澤口能一、中尾和朗、 琥珀成分含有剤 特開2001-131048)、及び琥珀抽出画分中の皮膚ターンオーバー促進因子を利用する技術(小嶋聡一、武田令子、琥珀から得られる皮膚ターンオーバー促進因子を含有する組成物及びその使用 特願2006-121181)が紹介されている。
今回、以上の背景に基づき、琥珀から皮膚においてヒアルロン酸の産生を促進させる画分を精製する方法を確立した。
【0020】
1−2.ヒアルロン酸の産生の促進
ヒトにおけるヒアルロン酸は、3種類のヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS1, HAS2, HAS3)によりコードされる3種類のヒアルロン酸合成酵素により合成されている。表皮細胞のヒアルロン酸合成ではHAS3,真皮線維芽細胞ではHAS2が主に働いているといわれている。
【0021】
そこで、これらの遺伝子の転写を促進するなどにより、ヒアルロン酸の合成を促進することが考えられる。なお、例えば、ある候補組成物が、ヒアルロン酸の産生促進能を有するか否かは、例えば、(イ)マウス皮膚を用いて、(ロ)ヒト皮膚再構築モデル系を用いて確認することができる。
【0022】
2.琥珀から抽出したヒアルロン酸産生促進能を有する組成物の調製方法
本願発明の琥珀から抽出したヒアルロン酸産生促進能を有する組成物としては、琥珀から抽出したヒアルロン酸産生促進能を有する組成物が包含され、具体的には、以下の2−1.及び2−2.でそれぞれ説明される(1)琥珀からのヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物及び(2)琥珀からのヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物の精製品が包含される。
【0023】
2−1.琥珀からのヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物の調製
皮膚細胞に働きかけて、自らを活性化する組成物として、ヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物を琥珀から調製することができる。
【0024】
本願発明の琥珀からヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物を抽出する方法には、琥珀から低級アルコールで有効成分を抽出する工程を含んでいる。より具体的には、本願発明は、少なくとも、琥珀から有効成分である抽出物(組成物)を低級アルコールで抽出する工程を含み、好適には、抽出の前処理工程として、琥珀を粉砕する工程、及び、必要に応じて、粉砕された琥珀を疎水性有機溶媒で洗浄処理する工程が含まれる。また、本願発明には、前記琥珀から低級アルコールで抽出する工程により抽出された抽出物を炭化水素結合型シリカゲルカラムで分画する工程を含めることもできる。
【0025】
以下に工程について説明する。
(i)前処理工程
琥珀を溶媒抽出しやすいように、適宜な大きさまで粉砕する。粉砕手段としては、やすり、ジェットミル粉砕機を用いることができる。また、琥珀を宝石として加工する際に出る切りくずを粉砕したものなどを用いることもできる。粉砕する大きさは特に限定されないが、溶媒による抽出効率から見て、例えば、平均粒径が100μmまで、好適には、10〜30μm程度とすることができる。粉砕した琥珀を、必要に応じ、疎水性有機溶媒で、洗浄する。疎水性有機溶媒としては、ヘキサン、ベンゼン、クロロホルム又はこれらの混合物等を用いることができる。この洗浄は、省略することもできる。
【0026】
(ii)抽出工程
琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を低級アルコールに浸漬して抽出物を得ることができる。例えば、琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を微温もしくは室温で低級アルコールに長期間浸漬して抽出物を得る。具体的には、琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を、例えば25℃から40℃の温度で、低級アルコールに、7日以上、好適には15日以上浸漬することにより抽出物を得る。より具体的には、例えば、エタノールの場合には、琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を、25℃から50℃の温度で7日以上、好適には40℃で約1ヶ月(15日から30日間)浸漬することにより抽出物を得る。抽出物は、濃縮し、乾固すると、茶褐色あめ状の乾個物となる。なお、低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール又はこれらの混合物などを用いることができる。
【0027】
このようにして得られた抽出物は、ヒアルロン酸産生促進能を有し、ヒアルロン酸産生促進能を亢進させる組成物として使用できる。また、本抽出物は、皮膚の乾燥防止剤、保湿剤、シワ防止剤としても使用できる。
【0028】
なお、本抽出物は、HB-EGF(ヘパリン結合性表皮増殖因子様因子(Heparin-binding EGF-like growth factor))遺伝子発現促進活性を有する成分も含有し、HB-EGF遺伝子発現促進活性を有する組成物としても使用できる。
【0029】
2−2.ヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物の粗精製物及び精製品
上記2−1.で得られた(ii)ヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物を分画し、粗精製物を得ることができる。
【0030】
(i)分画工程
得られた抽出物を、低級アルコール、例えば、メタノールを溶媒とし、炭化水素化学結合型シリカゲル、例えばオクタデシルシリル化したシリカゲルを担体としたカラムクロマトグラフィーを行うことにより、溶出液の色により分画することができる。特に、最初に溶出される無色透明な液の次に溶出される、濃黄色透明な液でかつ乾固したとき濃黄色あめ状になる画分は、保存安定性に優れ、ヒアルロン酸産生促進能を有している。
【0031】
本分画を、琥珀からのヒアルロン酸産生促進能を亢進させる成分を有する組成物の粗精製物として使用できる。また、本分画は、乾固して又は適切な溶媒、例えば低級アルコール、具体的にはエタノールに溶解して使用できる。このような抽出物の粗精製物は、保存においても非常に安定である。なお、本粗精製物には、HB-EGF遺伝子発現促進活性をも有している。
【0032】
(ii)吸着カラムクロマトグラフィーによる精製
また、吸着カラムクロマトグラフィーにより更に、精製することができる。
具体的には、吸着カラムクロマトグラフィーとしては、シリカゲルを担体としたカラムクロマトグラフィーを用いることができる。溶出溶媒としては、例えば、ベンゼン、酢酸エチルの混合液を溶媒として、具体的には、ベンゼン:酢酸エチル=50:1で溶出することができる。
【0033】
3.琥珀からのヒアルロン酸産生促進能を有する琥珀抽出物又はその粗精製物若しくは精製物の利用(<<用途発明についての記載の追加位置)
本願発明には、ヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物、並びにその粗組成物及び精製物を包含する。本願発明のヒアルロン酸産生促進能を有する組成物には、上記2−1.で調製された琥珀からのヒアルロン酸産生促進能を有する抽出物又は2−2.で更に精製されたヒアルロン酸産生促進能を有する琥珀抽出物の粗精製物及び精製品を包含する。
【0034】
本願発明のヒアルロン酸産生促進能を有する組成物は、ヒアルロン酸産生促進剤として、使用でき、乾燥肌、すなわちハリやみずみずしさの減少や小じわ改善のために使用できる。
【0035】
3−1.化粧品
本願発明の琥珀から抽出した組成物は化粧品又は皮膚外用剤に添加することができる。
より具体的には、本願発明の琥珀から抽出した組成物を含有する化粧品又は皮膚外用品は、シワ防止用化粧品又は皮膚外用剤として使用することができる。
【0036】
本発明の琥珀抽出物は乾固された状態又は適宜な溶媒に溶解した状態、例えば、エタノールで溶解した状態で、化粧料に添加することができる。本発明の抽出組成物の含有量は、化粧料全体を1 0 0 とした場合に、0.01〜50質量%程度添加することができる。
【0037】
本発明の琥珀抽出物が添加された化粧料は、その剤形は問わず、乳液,クリーム,軟膏,溶液,ゲル等の剤形や、パック,ローション,パウダー,スティック等が挙げられる。
【0038】
本発明の化粧料には、化粧料の原料として通常用いられるその他の添加剤成分を適宜含有させることができる。また、本発明の化粧料には、通常化粧料原料として用いられるその他の基剤成分を含有させることができる。基剤成分としては、液体油脂(オリーブ油等),固体油脂(シア脂等),ロウ類(ミツロウ等),炭化水素油(流動パラフィン,パラフィン,ワセリン等),高級脂肪酸(ステアリン酸等),高級アルコール(セタノール等),合成エステル油(ミリスチン酸オクチルドデシル等),シリコーン類(メチルポリシロキサン等)等の油性成分,各種の界面活性剤,金属イオン封鎖剤,水溶性高分子(カルボキシビニルポリマー等),増粘剤,各種の粉末成分,香料,水等が挙げられる。
【0039】
3−2.皮膚外用剤
本発明の琥珀から抽出した組成物は、また、皮膚外用薬に添加することもできる。
皮膚外用薬としては、液状、ペースト状、クリーム状、軟膏状、パウダー状、貼付剤など種々の形態に製造できる。さらに皮膚外用薬には、他の通常添加される成分、例えば、鉱物油、高級アルコール、動植物油、ワックス類、シリコーン油などの油剤、保湿剤、湿潤剤、水溶性高分子、低級アルコール、水、抗酸化剤、pH調整剤、色素、顔料、防腐殺菌剤、消炎剤などの薬効剤、キレート剤などを添加することもできる。
【実施例1】
【0040】
<琥珀から皮膚細胞のヒアルロン酸産生を高める画分を得る方法>
ロシア・バルト海沿岸産琥珀を平均粒径20μm程度にまで粉砕し、10gをヘキサン100mLに浸漬し、室温で一週間放置後、ろ紙(No.2)でろ過した。このろ液は廃棄した。ろ取した粉末はエタノール100mLに浸漬し、40℃の水浴上あるいは恒温機内に一週間放置した。ろ紙(No.2)でろ過し、ろ液は暗所で保管する。ろ取した粉末はエタノール50mLに浸漬し、アルミホイルでフタをして40℃の水浴上あるいは恒温機内に一週間放置した。ろ紙(No.2)でろ過する。さらに50mLのエタノールに浸漬することを2回繰り返し、ろ液をすべて合わせる。このろ液をわずかに温めながら(38℃程度)エバポレーターで濃縮、乾固し、茶褐色であめ状の画分 約1.3gを得る。(以下、ここまでの工程を「エタノール抽出」という。)
【0041】
この乾固物0.4gをエタノールに溶かし、オクタデシルシリル化シリカゲル(和光純薬工業社製 ワコーゲル100C18)11gを担体とし、メタノール(和光純薬工業社製 試薬特級)を溶媒としてカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ:2.2cm i.d.×4.7cm;18 mL)を行ない、溶出液の色により分取した。オクタデシルシリル化シリカゲル11gをメタノール25mLに膨潤させ、直径2.2cmのカラムに充填し、メタノール50mLにより平衡化した。上記琥珀抽出乾固物0.4gをエタノール2mLに溶解した液をカラムにアプライし、エタノール1.5mL、次いで、エタノール:メタノール1:1混合液 1mLにてカラム中に浸透させた後に、メタノールを流し、分取を開始した。1mLずつ分取し、最初の5mLで溶出される無色透明な液をF1画分、400nmにおける吸光度が約0.4となる6mL目からの15mLで溶出される濃黄色透明(7mL目から19mL目の間に同吸光度が1.5以上となり、20mL目の同吸光度は約1.4、21mL目の同吸光度は約1.0)な液でかつ乾固したとき濃黄色あめ状になる画分をF2画分、同吸光度が1.0より低くなる22mL目からの30mLで溶出される黄色透明な液でかつ乾固したとき無色固体と黄色あめ状物質との混合体となる画分をF3画分、4番目の45mLで溶出される無色透明な液をF4画分とし、最後にヘキサン30mLで溶出した画分をF5画分として集めた。各画分を乾固したときの重量は、それぞれ、F1画分が126mg、F2画分が444mg、F3画分が216mg、F4画分が82mg、F5画分が205mgであった。
【実施例2】
【0042】
<ヒト皮膚再構築モデル系を用いたF2画分のヒアルロン酸産生促進能の確認>
実際のヒト皮膚は、表皮角化細胞から成る表皮層と、その下のコラーゲン等の細胞間マトリックス並びに真皮線維芽細胞から成る真皮層との2層で構築されているため、ヒト皮膚に近い状態を再構築した細胞培養モデル系を用いて上記琥珀抽出物がヒアルロン酸産生に与える影響を調べた。ここで、実施例2で用いたF2画分は、ロシア・バルト海沿岸産琥珀を平均粒径20μm程度のものからエタノール抽出したものと、平均粒径150μm程度のものからエタノール抽出したものを混合し、調製したものである。その他の調製方法は実施例1の記載に同じ。
【0043】
[培養方法]
ヒト皮膚再構築モデルは東洋紡績株式会社製 TESTSKIN LSE-002を使用した。ジメチルスルホキシドに溶解したF2画分を終濃度5μg/mL及び50μg/mLになるように添加したHBSS緩衝液(ジメチルスルホキシド1%含有)を組織上部にのせ、この組織を93%空気-7%炭酸ガスの下36時間培養した。対照として、HBSS緩衝液(ジメチルスルホキシド1%含有)を同様に組織上部にのせた。陽性対照としてジメチルスルホキシドに溶解したオールトランスレチノイン酸(シグマアルドリッチ社)を終濃度5μMになるよう添加したHBSS緩衝液(ジメチルスルホキシド1%含有)を組織上部にのせた。
【0044】
[染色方法]
ヒト皮膚再構築モデル組織をHBSSで洗浄後、3%中性ホルマリン溶液に2時間浸漬することにより固定した。常法に従い固定した組織をエタノールで脱水後、キシレンで置換し、最終的にパラフィン切片に加工した。この切片のパラフィンをキシレンで洗浄後、0.1μM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に終濃度1μMになるようエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、1μMになるようフッ化フェニルメチルスルフォニル、及び1μg/mLになるようペプスタチンAを溶解した液と37℃で16時間インキュベーションした。
【0045】
95℃に過熱した0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH6.0)に20分間インキュベーションした。放冷後、3%過酸化水素水と60分間インキュベーションした後、PBS緩衝液で洗浄した。次に1%ウシ血清アルブミン(医学生物学研究所)-PBS緩衝液と40分間インキュベーションし、この液を除去した後に溶解したビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパク(生化学工業社)水溶液(終濃度4.5μg/mL)とインキュベーションし、4℃で16時間放置した。PBS緩衝液で洗浄し、ペルオキシダーゼ結合アビジン液(VECTOR社 VECTASTAIN ABC kit Goat IgGに添付)とインキュベーションし、室温で5分放置後、PBS緩衝液で洗浄した。ジアミノベンジジン基質溶液(VECTOR社 DAB SUBSTRATE KIT FOR PEROXISADEの製品マニュアルに従い調製)とインキュベーションし室温で8分放置後、精製水で洗浄した。最後にデラフィールド・ヘマトキシリン液(武藤化学薬品社)に室温で1分間インキュベーションし、精製水で洗浄後、0.1M 四ほう酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)に室温で1分間インキュベーションし水道水で洗浄した。
【0046】
陰性対照としては、0.1μM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に終濃度1μMになるようエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、1μMになるようフッ化フェニルメチルスルフォニル、及び1μg/mLになるようペプスタチンAを溶解した液にさらに終濃度100TRU/mLになるようヒアルロニダーゼ(生化学工業社)を溶解した液と37℃で16時間インキュベーションした切片を用いた。
【0047】
結果を図1に示した。ビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いてヒアルロン酸を茶色に染色したとき、陽性対照であるレチノイン酸処理組織(c)では有棘層の基底層側の細胞と細胞の間のマトリックスの一部に茶色の染色像(矢印の部分)が認められた。同様にF2画分処理組織(e)でも有棘層の基底層側の細胞周囲並びに細胞間マトリックス部分に濃い茶色の染色像(矢印で示した部分)が認められた。これに対して、対照組織(a)では茶色の染色像は認められなかった。また、ヒアルロン酸を特異的に分解、消失させるヒアルロニターゼとインキュベーションした後に染色操作を行った場合は、対照組織(b)、陽性対照組織(d)及びF2画分処理組織(f)の全てにおいて茶色の染色像は認められなかった。このことから、F2画分にはヒト皮膚再構築モデル系において表皮有棘層の基底層との境界部分の細胞から産生されるヒアルロン酸量を増大させる活性があると考えられる。
【実施例3】
【0048】
<マウス皮膚を用いたF2画分のヒアルロン酸産生促進能の確認>
次にマウス皮膚を用いたin vivo実験を行なった。ここで、実施例3で用いたF2画分は、ロシア・バルト海沿岸産琥珀を平均粒径150μm程度に粉砕したものを調製したものである。その他の調製方法は実施例1の記載に同じ。
【0049】
[本試験例で使用した実験動物]
ICRマウス(メス 週齢 試験開始時9週齢)1群2匹を用いた。
【0050】
[検体の塗布方法]
30 mg/mL及び50 mg/mL琥珀由来F2画分エタノール溶液500μLをマウス背部皮膚のしみ作成部分に毛筆用筆を用いて1日1回、5日間連続塗布を行った。対照として、エタノールのみを500μL同様に塗布した。
【0051】
[塗布前の準備]
マウス背部 約3cm×約3cmを剃毛した後、エタノールで清拭する。
【0052】
[染色方法]
マウス背部皮膚組織を採取し、これを4%パラホルムアルデヒド水溶液に4℃にて一晩浸漬することにより固定した。固定した組織を常法に従い、エタノールで脱水後、キシレンで置換し、最終的にパラフィン切片に加工した。この切片のパラフィンをキシレンで洗浄後、終濃度1μMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、1μMフッ化フェニルメチルスルフォニル、及び1μg/mLペプスタチンAを含む0.1μM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)と37℃で16時間インキュベーションした。
【0053】
95℃に過熱した0.1Mクエン酸緩衝液(pH6.0)と20分間インキュベーションし放冷後、3%過酸化水素水と60分間インキュベーションした後、PBS緩衝液にて洗浄した。次に1%ウシ血清アルブミン(医学生物学研究所)-PBS緩衝液に40分間インキュベーションし、この液を除去した後に溶解したビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパク(生化学工業社)水溶液(終濃度4.5μg/mL)とインキュベーションし、4℃で16時間放置した。PBS緩衝液で洗浄し、ペルオキシダーゼ結合アビジン液(VECTOR社 VECTASTAIN ABC kit Goat IgGに添付)とインキュベーションし、室温で5分放置後、PBS緩衝液で洗浄した。ジアミノベンジジン基質溶液(VECTOR社 DAB SUBSTRATE KIT FOR PEROXISADEの製品マニュアルに従い調製)にインキュベーションし室温で9分放置後、精製水で洗浄した。最後にデラフィールド・ヘマトキシリン液(武藤化学薬品社)と室温で1分間インキュベーションし、精製水で洗浄後、0.1M 四ほう酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)と室温で1分間インキュベーションし水道水で洗浄した。
【0054】
陰性対照として、終濃度1μMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、1μMフッ化フェニルメチルスルフォニル、及び1μg/mLペプスタチンA、並びに終濃度100TRU/mLヒアルロニダーゼ(生化学工業社)含有0.1μM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)と37℃で16時間インキュベーションした。
【0055】
結果を図2に示す。ビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いてヒアルロン酸を茶色に染色したとき、対照群(a)では、表皮と真皮の境界線(矢印で示した部分)に薄い茶色の染色像が観察された。F2画分(15mg/日)処理組織(b)では表皮と真皮の境界線部分(矢印で示した部分)に加え、真皮内部の細胞間マトリックス部分にも全体的に茶色の染色像が認められた。塗布するF2画分の量を増量させた(25mg/日))組織(c)では、さらに濃い茶色の染色像が表皮、真皮境界部分並びに真皮細胞間マトリックス部分に全体的に認められた(矢印で示した部分)。これに対して、ヒアルロン酸を特異的に分解、消失させるヒアルロニターゼ処理した後に染色操作を行った検体では、対照組織、F2画分処理組織全てにおいて茶色の染色像は認められなかった(d〜f)。このことから、F2画分はマウス皮膚、特に表皮、真皮境界部分並びに真皮においてヒアルロン酸の産生を促進したと考えられる。
以上
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】はビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いて、ヒト皮膚再構築モデル系におけるヒアルロン酸発現部分を茶色に染色したときの図を示す。F2画分を終濃度5μg/mL(e)及び50μg/mL(g)になるよう調製したHBSS緩衝液(1%ジメチルスルホキシド含有)にて36時間処理した。陰性対照として、F2画分を終濃度5μg/mL(f)、及び50μg/mL(h)になるよう処理したものにヒアルロニダーゼを処理し、その後ビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いてヒアルロン酸発現部分を染色した。対照(a)として同量のHBSS緩衝液(ジメチルスルホキシド1%含有)を処理した。陽性対照としてオールトランスレチノイン酸を終濃度5μM(c)になるよう調製したHBSS緩衝液(1%ジメチルスルホキシド含有)を処理した。陰性対照として、同量のHBSS緩衝液(ジメチルスルホキシド1%含有)を処理したものにヒアルロニダーゼを処理し、その後ビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いてヒアルロン酸発現部分を染色した(b)。陰性対照として、ヒアルロニダーゼを用いて特異的にヒアルロン酸を分解、消失させた組織の染色を行なったときは茶色の染色像がみられないことを確認した。このことにより組織中の茶色の染色像は特異的にヒアルロン酸が茶色に染色されていることが示された。
【図2】はビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いて、マウス皮膚におけるヒアルロン酸発現部分を茶色に染色したときの図を示す。マウス皮膚にF2画分を15mg/日(e, f)及び25mg/日(i, j)で5日間連続塗布した。陰性対照として、ヒアルロニダーゼを処理後ビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いてヒアルロン酸発現部分を染色した。対照群として溶媒であるエタノールを5日間連続塗布した(a, b)。陰性対照として、エタノールを塗布したものにヒアルロニダーゼを処理し、その後ビオチン標識ヒアルロン酸結合性タンパクを用いてヒアルロン酸発現部分を染色した。陰性対照として、ヒアルロニダーゼを用いて特異的にヒアルロン酸を分解、消失させた組織の染色を行なったときは茶色の染色像がみられないことを確認した。このことにより組織中の茶色の染色像は特異的にヒアルロン酸が茶色に染色されていることが示された。各群につきn=2(2匹)で実験を行なった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
琥珀を低級アルコールで抽出する工程を含む、ヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤の製造方法。
【請求項2】
琥珀を粉砕後疎水性有機溶媒により洗浄する工程、低級アルコールで抽出する工程、及びカラムクロマトグラフィーで精製する工程を含む、ヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤の製造方法。
【請求項3】
低級アルコールでの抽出を微温ないし室温で7日以上行なう請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
更に、吸着カラムクロマトグラフィーで精製する工程を含む請求項3記載のヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤の製造方法。
【請求項5】
疎水性有機溶媒が、ベンゼン、ヘキサン及びクロロホルムからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である請求項1〜4いずれか1項記載のヒアルロン酸産生能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤の製造方法。
【請求項6】
低級アルコールが、エタノール、メタノール及びブタノールからなる群から選ばれる1種以上のアルコールである請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
カラムクロマトグラフィーが、炭化水素が化学結合したシリカゲルを充填剤とする請求項2から6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
琥珀を低級アルコールで抽出して得られるヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項9】
琥珀を粉砕後、疎水性有機溶媒により洗浄し、低級アルコールで抽出し、カラムクロマトグラフィーで分画して得られるヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項10】
琥珀を粉砕後、疎水性有機溶媒により洗浄し、低級アルコールで抽出し、カラムクロマトグラフィーで分画し、更に吸着カラムクロマトグラフィーで精製して得られたヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項11】
低級アルコールでの抽出が微温ないし室温で7日以上行なわれる請求項8から10いずれか1項記載のヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項12】
疎水性有機溶媒が、ベンゼン、ヘキサン、及びクロロホルムからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である請求項8から11いずれか1項記載のヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項13】
低級アルコールが、エタノール、メタノール、及びブタノールからなる群から選択される1種以上のアルコールである請求項8から12いずれか1項記載のヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項14】
カラムクロマトグラフィーが、炭化水素化学結合型シリカゲルを充填剤とする請求項8から13いずれか1項記載のヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項15】
請求項8から14いずれか1項記載の組成物を含有するヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するシワ防止用化粧品。
【請求項16】
請求項8から14いずれか1項記載の組成物を含有するヒアルロン酸産生促進能を有する組成物を含有するシワ防止用皮膚外用薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−266260(P2008−266260A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114617(P2007−114617)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】