説明

環状カーボネートおよびその製造方法

【課題】熱安定性が高く、製造容易で、かつイオン伝導性の高い化合物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。


(式(1)において、R1およびR2はそれぞれメチレン基、または炭素数2〜20の置換または非置換アルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示し、mおよびnはそれぞれ0〜5の整数であって、1≦n+m≦5を満たす数であり、pは1〜100の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性官能基を含有する環状カーボネート、その製造方法、およびイオン性官能基を含有する環状カーボネートにより成形された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーやリチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに使用される電解質材料として、これまでは主に有機系溶剤に電解質を溶解させた電解液が用いられてきたが、発火性が問題となってきたため、高分子固体電解質やゲル電解質の開発が盛んに進められてきた。
しかしながら、これらの材料においては、固体電解質のため高い導電性を求め難く実用化の妨げとなっている。そこで、イオン性液体をセパレータやフィルム等に含浸させる開発が進められてきた。イオン性液体は常温で液体状の溶融塩で、不揮発性、不燃性でイオン伝導性を示すことから、さまざまな電気化学デバイスへの応用が期待されている。
【0003】
特許文献1には、不揮発性の常温溶融塩を用いて非水電解質の難燃化を図り、優れたリサイクル特性を有するイオン性液体を電気化学デバイスに用いる事ができる旨記載されている。特許文献1において、常温溶融塩とは、カチオンとアニオンとから構成され、常温で液体状態となる塩類である。この常温溶融塩は、イオン結合性が強いために不揮発性であり、かつ難燃性という特徴を有する塩についての定義である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−260952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記イオン性液体は高温処理は必要ないが、常温での熱安定性が良好ではないため、電解質フィルムへ添加するにはアセトン等の溶媒に溶解することが必要となり、また、フィルムに対する相溶性が低く高含有率化が困難であり、作業性が悪かった。
【0006】
本発明の課題は、常温で液体であり、かつ熱安定性に優れた、新規イオン性液体、その製造方法、および該化合物を用いた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、種々検討した結果、イオン性官能基と環状カーボネート構造とをエーテル結合で連結した構造を有する新規化合物が、高いイオン伝導性を示すとともに、常温で液体であり、熱安定性に優れ、有機溶剤を使用することなく固体電解質材料等として利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される化合物を提供するものである。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)において、R1およびR2はそれぞれメチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示し、mおよびnはそれぞれ0〜5の整数であって、1≦n+m≦5を満たす数であり、pは1〜100の整数である。)
【0011】
また、本発明は、式(2)で表される化合物と、ハロゲン化グリシジル化合物を、塩基および溶媒存在下で反応させ、式(3)で表される化合物を得る工程と、式(3)で表される化合物と、二酸化炭素を、触媒および溶媒存在下で反応させる工程を含む、下記式(1)で表される化合物の製造方法を提供するものである。
【0012】
【化2】

【0013】
(式(2)において、R2はメチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示す。)
【0014】
【化3】

【0015】
(式(3)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、メチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示す。)
【0016】
【化4】

【0017】
(式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、メチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示し、mおよびnは、それぞれ0〜5の整数であって、1≦n+m≦5を満たす数を示し、pは1〜100の整数である。)
【0018】
また、本発明は、エポキシ樹脂と、下記式(1)で表される化合物を含有する樹脂組成物を提供するものであり、該エポキシ樹脂は(A)一つのエポキシ基を有するイオン性化合物と、(B)2個以上のエポキシ基を有する化合物と、(C)2個以上のアミノ基を有する化合物から得られる樹脂であるのが好ましい。
【0019】
【化5】

【0020】
(式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に、メチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示し、mおよびnは0〜5の整数であって、1≦n+m≦5を満たす数を示し、pは1〜100の整数である。)
【発明の効果】
【0021】
本発明化合物(1)は、常温で液体であって、熱安定性に優れ、高いイオン伝導性を有し、かつ電解質フィルムに対する高い相溶性を有する。従って、本発明化合物(1)を含有する樹脂は、バッテリーやキャパシタ等の電気化学デバイス用の電解質、帯電防止剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】試料1の1H−NMRスペクトル(in DMSO−d6)を示す図である。
【図2】試料1の熱安定性(TGA)を示す図である。
【図3】試料1のガラス転移温度、融点(DSC結果)を示す図である。
【図4】試料2の1H−NMRスペクトル(in DMSO−d6)を示す図である。
【図5】試料2の熱安定性(TGA)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明化合物(1)は、アルキレンオキシ(−OR2−)スペーサーを有するイオン性環状カーボネートである。式(1)中、Zで示されるイオン性官能基は、化合物の樹脂への結合pHにおいては部分的に静電気的に荷電し、化合物の樹脂からの放出pHにおいてはさらに荷電しているかまたは異なった極性のいずれかに荷電する。
【0024】
該イオン性官能基は、アニオン性官能基およびカチオン性官能基のいずれでもよい。アニオン性官能基にはカウンターカチオンが結合して塩を形成していてもよく、カチオン性官能基は、カウンターアニオンが結合して塩を形成していてもよい。
【0025】
上記アニオン性官能基としては、酸由来のアニオン性官能基が好ましく、具体的には、カルボン酸基(カルボキシレート基)、スルホン酸基(スルホネート基)、硫酸基(サルフェート基)、リン酸基(ホスホネート基)、スルホニルアミド基、スルホニルイミド基等が挙げられ、このうち、カルボン酸基、スルホン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。当該酸由来のアニオン性官能基に結合し得るカウンターカチオンとしては、金属カチオン、有機アンモニウムカチオンが好ましく、アルカリ金属カチオンがより好ましい。
すなわち、アニオン性官能基とカウンターカチオンが形成する塩としては、酸のアルカリ金属塩や、酸と有機アミンとの塩などが挙げられる。また、当該アルカリ金属塩としては、例えば、Na塩、K塩、Li塩などが挙げられる。酸のアルカリ金属塩の具体例としては、−COO-Na+、−COO-+、−SO3-Na+、−SO3-Li+などが挙げられる。
【0026】
酸と有機アミンとの塩としては、−COO-+abc、−SO3-+def(Ra、Rb、Rc、Rd、ReおよびRfはそれぞれ独立に、水素原子、あるいは置換基、例えば、炭素数1〜5のアルキル基などを示す)等が挙げられる。
【0027】
また、カチオン性官能基としては、カチオンを有していれば特に限定されないが、オニウムイオン;例えば環状ならびに非環状のトリアルキルアンモニウムイオン等のアンモニウムイオン(アンモニウム基);イミダゾリウムイオン(イミダゾリウム基);ピリジニウムイオン(ピリジニウム基);ホスホニウムイオン(ホスホニウム基);スルホニウムイオン(スルホニウム基)等が挙げられる。
より具体的には、トリ(炭素数1〜12アルキル)アンモニウムイオン、1〜3個の炭素数1〜12のアルキル基が置換していてもよいイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0028】
上記トリ(炭素数1〜12アルキル)アンモニウムイオンとしては、下記式(4)で表される基が好ましい。
【0029】
【化6】

【0030】
(式(4)において、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
上記R14、R15およびR16としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、メチル基が特に好ましい。
【0031】
また、前記炭素数1〜12のアルキル基が置換していてもよいイミダゾリウムイオンとしては、下記式(5)で表される基が好ましい。
【0032】
【化7】

【0033】
(式(5)において、R17、R18、R19およびR20は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
上記R17、R18、R19およびR20において、炭素数1〜5のアルキル基としては、前記R14と同様のものが好ましい。
【0034】
また、カチオン性官能基に結合するカウンターアニオンとしては、負電荷を帯びていれば特に限定されないが、例えば、ハロゲンイオン、有機酸アニオン、無機酸アニオン等が挙げられる。ここで有機酸アニオンとしては、カルボン酸アニオン、有機スルホンアニオン、有機リン酸アニオン、スルホニルアミノアニオン、ジスルホニルアミドアニオン等が挙げられる。無機酸アニオンとしては、スルホン酸アニオン、ルイス酸アニオン等が挙げられる。好ましいカウンターアニオンの具体例としては、Br-、AlCl4-、Al2Cl7-、NO3-、BF4-、PF6-、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3-、(CF3SO22-、(FSO2)2-、(CF3SO23-、AsF6-、SbF6-、F(HF)n-、CF3CF2CF2CF2SO3-、(CF3CF2SO22-、CF3CF2CF2COO-等が挙げられ、融点が低く、耐熱性が高い点でBF4-、PF6-、(CF3SO22-、(FSO2)2-がさらに好ましく、PF6-、(CF3SO22-、(FSO2)2-が特に好ましい。
【0035】
式(1)中のR1およびR2のうち、炭素数2〜20の非置換アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等が挙げられ、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基が好ましい。なお、これらのアルキレン基には、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基等が置換していてもよい。
また、炭素数2〜20の非置換アルキレン基のうち、炭素数2〜10の直鎖または分岐鎖のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基がより好ましく、炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基が特に好ましい。
【0036】
pは、1〜100の整数であるが、1〜50が好ましく、さらに1〜20が好ましく、特に1〜10が好ましい。また、p個のOR2は、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。
【0037】
mおよびnはそれぞれ0〜5の整数であって、1≦m+n≦5を満たす数であるが、0または1が好ましく、特にm=0、n=1の場合、あるいはm=1でn=1の場合が好ましい。
【0038】
式(1)の化合物は、例えば次の反応式に従って製造することができる。
【0039】
【化8】

【0040】
(式中、R1、R2、Zおよびm、n、pは前記と同じ。)
【0041】
すなわち、式(2)の化合物とハロゲン化グリシジル化合物を、塩基および溶媒存在下で反応させて式(3)の化合物を得、式(3)の化合物と二酸化炭素を溶媒存在下で反応させて式(1)の化合物を得る。
【0042】
式(2)の化合物の例としては、塩化コリン、ポリオキシエチレンコリン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2, 3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、2, 3−ジメチル−1−(ポリオキシエチレンイミダゾリウム)クロライドイオン性官能基を有するポリオキシアルキレン化合物が挙げられる。ハロゲン化グリシジル化合物の例としては、エピクロルヒドリン、エピブロムヒドリン等が挙げられる。
【0043】
式(2)の化合物とハロゲン化グリシジル化合物との反応に用いる塩基としては、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム、アルキルリチウム、アルキルナトリウム、アルキルマグネシウム、アルキルマグネシウムハライド、リチウムアミド、ナトリウムアミド等の強塩基、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、エーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等が用いられる。
【0044】
高収率で、式(3)の化合物を得るために式(2)の化合物に対してハロゲン化グリシジル化合物を1〜10等量用いることが望ましい。反応は、0〜150℃で1〜50時間行えばよい。
【0045】
式(3)の化合物と二酸化炭素との反応に用いられる触媒としては、LiBr、NaBr、KBr、(CH34+Br-、(C254+Br-、(n-C494+Br-、C65CH2(CH33+Br-などの臭化物塩;LiCl、NaCl、KCl、(CH34+Cl-、(C254+Cl-、(n-C454+Cl-、C65CH2(CH33+Cl-などの塩化物塩;LiI、NaI、KI、(CH34+-、(C254+-、(n−C494+-、C65CH2(CH33+-などのよう化物塩等が挙げられる。溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、アセトン、エーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等が用いられる。
【0046】
式(3)の化合物の二酸化炭素によるカーボネート化反応は、式(3)の化合物に対して過剰量のCO2雰囲気下でLiBr等の触媒を0.05〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%、さらに好ましくは0.2〜10重量%加えて反応を行うことが好ましい。反応は、0〜150℃で1〜50時間行えばよい。
【0047】
上記反応で得られた式(1)の化合物は、常温で液体であり、熱安定性に優れ、高い導電性を示す。従って、本発明の式(1)で表される化合物を用いて、例えば、リチウムイオンバッテリーやリチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに使用される電解質材料を形成することが出来る。
【0048】
式(1)の化合物は、エポキシ樹脂中に含有させることにより電解質材料として有用な樹脂組成物とするのが好ましい。そのような本発明の樹脂組成物は、式(1)で表される化合物を、(A)一つのエポキシ基を有するイオン性化合物と、(B)2個以上のエポキシ基を有する化合物と、(C)2個以上のアミノ基を有する化合物から得られる樹脂に含有させることにより得られる。
【0049】
(A)一つのエポキシ基を有するイオン性化合物としては、式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0050】
【化9】

【0051】
(上記式(6)において、Lはグリシジル基を示し、Mはイオン性官能基を示し、R21はそれぞれ独立に炭素数2〜20の置換または非置換アルキレン基を示す。qは1〜100の整数である。)
【0052】
本発明の樹脂組成物を製造する際、(A)一つのエポキシ基を有するイオン性化合物の使用量は、エポキシ樹脂に電解質としての作用を発揮させる点から、1〜40重量%、さらに1〜30重量%、特に1〜25重量%であるのが好ましい。
【0053】
また、式(6)の(A)一つのエポキシ基を有するイオン性化合物の繰り返し単位数(x)および、(B)の繰り返し単位数(y)が大きくなるほど、ポリマーの自由度が大きくなり、高いイオン伝導性を有する樹脂が得られる。また、式(6)中のR21で示されるアルキレン基及びMで示されるイオン性官能基は、前記R2及びZと同様のものが挙げられる。qとしては1〜50、特に1〜20が好ましい。
【0054】
また、(B)2個以上のエポキシ基を有する化合物としては、2個以上のエポキシ基、グリシジル基、グリシジルオキシ基、グリシジルアミノ基等のエポキシ含有基を有する化合物が挙げられる。また、2個以上のエポキシ基を有する化合物としては、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜3個、さらに好ましくは2個のエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0055】
上記(B)化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、スピロ環型エポキシ樹脂、ビスフェノールアルカン類型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエーテル、脂肪酸変性エポキシ樹脂、トルイジン型エポキシ樹脂、アニリン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ダイマー酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエーテル、シリコーン変性エポキシ樹脂、ケイ素含有エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、NBR変性エポキシ樹脂、CTBN変性エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエンなどが挙げられる。このうち、これらの化合物は単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
これらのうち、成分(B)としては、下記式(7)で表される化合物が好ましい。
【0056】
【化10】

【0057】
(上記式(7)において、R22は、炭素数2〜5の置換または非置換アルキレン基を示し、rは、1〜100の整数である。)
【0058】
上記R22としては、炭素数2または3の置換もしくは非置換アルキレン基が好ましい。当該R22の具体例としては、エチレン基、プロピレン基が挙げられ、エチレン基が特に好ましい。
また、rとしては、1〜50、特に1〜20が好ましい。なお、r個のR22Oは、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。
【0059】
成分(B)の好適な具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルが挙げられ、特に好適にはポリエチレングリコールジグリシジルエーテルである。
【0060】
本発明の樹脂組成物を製造する際の(B)エポキシ基を2個有する化合物の使用量は、イオン性液体の溶出防止の点から、1〜90重量%、さらに5〜80重量%、特に10〜70重量%であるのが好ましい。
【0061】
次に、本発明の樹脂組成物の製造に用いる(C)2個以上のアミノ基を有する化合物は、式(8)で表され、硬化剤として作用する。
【0062】
【化11】

【0063】
(上記式(7)において、R23〜R26はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の置換もしくは非置換アルキル基を示し、R27〜R29はそれぞれ独立してメチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基を示し、sは9〜100の整数である。)
【0064】
式(8)中のR23〜R26において、炭素数1〜20の置換または非置換アルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
また、式(8)中のR23〜R26としては、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0065】
また、式(8)中のR27およびR28において、メチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基としては、好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜10、さらに好ましくは炭素数2〜6の置換もしくは非置換アルキレン基である。
【0066】
当該炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基の具体例としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられ、エチレン基、トリメチレン基が好ましい。
【0067】
また、R27およびR28の好適な具体例としては、エチレン基、トリメチレン基が挙げられ、トリメチレン基が特に好ましい。
【0068】
また、R29としては、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数2〜6の置換もしくは非置換アルキレン基である。ここでアルキレン基に置換し得る基としては、ヒドロキシ基が挙げられる。好適な具体例としては、前記R27およびR28と同様のものが挙げられるが、エチレン基、グリセリル基が特に好ましい。
【0069】
27、R28、R29で示されるアルキレン基に置換し得る基としては、ヒドロキシ基、(メタ)アクリレート基、酸無水物に由来する基等が挙げられる。
【0070】
ここで、式(8)の繰り返し単位(s)数が大きくなると、ポリマーとしての柔軟性が向上するため、ポリマーに固定化されたイオン性官能基の自由度が高くなり、イオン伝導性を向上させることができる。このイオン伝導性を向上させるために、ジアミン化合物(C)の繰り返し単位数(s)は、sが9〜100であり、好ましくはsが9〜99であり、より好ましくはsが20〜99であり、さらに好ましくはsが20〜90である。
【0071】
上記式(8)の−R27(−OR29−)sOR28−を具体的に示すと、アルキレンポリ(オキシアルキレン)基;アルキレンポリ(グリセリン)アルキレン基等のヒドロキシが置換した基;メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ等のアルコキシ基置換アルキレンポリ(オキシ)アルキレン基;(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)グリセリン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート基;無水酢酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物に由来する基が置換した基が挙げられる。さらに、本発明における式(8)の化合物(B)中の−R27(−OR29−)sOR28−としては、エチレンポリ(オキシエチレン基、プロピレンポリ(オキシプロピレン)基等のアルキレンポリ(オキシアルキレン)基がより好ましい。なお、上記例示において、(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0072】
本発明の樹脂組成物の製造には、(C)式(8)のジアミン化合物以外にさらに他の硬化剤を使用することもできる。そのような他の硬化剤としてはアミン化合物、フェノール類、酸無水物等が挙げられる。
上記式(8)以外のアミン化合物としては、ジエチルアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ジプロピレントリアミン(DPTA)、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ジエチルアミノプロピルアミン、アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、メタキシリレンジアミン、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、メチレンジアニリン、メタフェニレンジアミン、イソホロンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
【0073】
フェノール類としては、フェノール性水酸基を有するものであれば特に限定されないが、ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、キシレン−ノボラック、メラミン−ノボラック、p−ヒドロキシスチレン(共)重合物およびこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体等が挙げられる。
【0074】
酸無水物としては、無水ヘキサヒドロフタル酸(HPA)、無水テトラヒドロフタル酸(THPA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、無水クロレンド酸(HET)、無水ナディック酸(NA)、無水メチルナディック酸(MNA)、無水ドデシニルコハク酸(DDSA)、無水フタル酸(PA)、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(MeHPA)、無水マレイン酸等が挙げられる。
これらの式(8)の化合物以外の硬化剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
本発明の樹脂組成物を製造する際の(C)式(8)の化合物の使用量は、エポキシ樹脂にイオン伝導性を高める作用を発揮させる点から、30〜80重量%、好ましくは40〜75重量%、より好ましくは45〜70重量%が好ましい。また、必要に応じて硬化触媒とともに、硬化反応を促進する目的で硬化促進剤を併用することもできる。これらのポリマーを反応させることで、より自立膜としての柔軟性が向上し、ポリマー自体がフレキシブルに自由運動するため、イオン伝導性を高めることができる。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分および(C)成分から得られた樹脂に、式(1)で表される化合物(D)を膨潤させることで、さらにイオン伝導性を高めることができる。
【0077】
また、その他の添加剤(E)として、例えば、カルボン酸類、二塩基酸ジヒドラジド、イミダゾール類、有機ボロン、有機ホスフィン、グアニジン類、過塩素酸類、スルホン酸類、スルホニルアミド類、ビススルホニルイミド類、これらの塩、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられ、これらは1種単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
上記添加剤(E)としては、イオン伝導性の点で、下記式(9)で表される化合物が好ましい。
【0079】
【化12】

【0080】
(上記式(9)において、Xはハロゲン原子又はトリハロゲノメチル基を示す。)
X中のハロゲンとしては、フッ素原子が好ましい。
【0081】
上記成分(E)を使用する場合、当該使用量は、1〜30重量%、さらに5〜25重量%が好ましい。
【0082】
本発明の樹脂組成物の、成分(A)と成分(B)と成分(C)の含有質量比(A:B:C)は、1〜90:0.5〜40:2〜95、さらに5〜80:0.5〜35:2〜95が好ましい。また、本発明の樹脂組成物においては、(A)、(D)、(E)成分の質量を大きくすることでイオン伝導性が向上する。特に、(A)成分の質量比を大きくすることでイオン伝導性が向上する。
【0083】
また、本発明においては、イオン伝導性の点で、上記により得られた樹脂組成物を膨潤剤で膨潤せしめ、膨潤樹脂組成物とするのが好ましい。
当該膨潤剤としては、電解質溶液が好ましく、具体的には、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸エチレン、炭酸ビニレン、γ−ブチロラクトン、ジメトキシエタン、プロパンサルトン、ブタンサルトンおよびこれらの混合物が挙げられる。また、イオン伝導性の点で、当該膨潤剤に、上記の添加剤(E)を含有せしめて膨潤させてもよい。また当該膨潤は、公知の方法により行えばよく、膨潤樹脂の膨潤度は、イオン伝導性の点で、1.5〜50が好ましく、2〜20がより好ましい。ここで膨潤度は、膨潤樹脂の重量をWswollen(g)、乾燥樹脂の重量をWdry(g)とするとWswollen / Wdryにより求めることができる。
【0084】
本発明で得られる樹脂組成物は、式(1)で表される化合物が、モノマー中にオキシスペーサー(エーテル結合)を有するため、常温での熱安定性が高く液体状で存在し、無溶媒で樹脂中に含浸できるので、高分子電解質膜として有用である。
【0085】
また、本発明の樹脂組成物の製造に際し、成分(D)を添加する前の樹脂は、例えば、成分(A)、(B)および(C)の各成分と、必要に応じて溶剤その他の成分とを混合することによって製造することができる。この樹脂の製造方法としては、従来公知の方法を適宜使用することができ、各成分を一度に、あるいは任意の順序で加えて撹拌、混合、分散すればよい。また、この樹脂は、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)を混合してから硬化するまでの時間が短いため、化合物(A)および化合物(B)を含む(I)成分と、化合物(C)を含む(II)成分とを夫々で保管することで、貯蔵安定性が向上しやすくなる。
【0086】
本発明に係る樹脂組成物は、必要に応じて、リチウム塩等の電解質、無機フィラー、密着助剤、高分子添加剤、反応性希釈剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、帯電防止剤、無機充填剤、防カビ剤、調湿剤、難燃剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0087】
本発明の組樹脂成物は、熱硬化させることによって、イオン性官能基が固定され、イオン性官能基の溶出が防止された成形体を得ることができる。また、得られた成形体は、エポキシ樹脂特有の機械的特性、電気特性、接着性、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性等の特性を有し、膨潤状態で優れたイオン伝導性を有し、且つ電解質としての特性も有する。特に熱硬化性フィルムの形態にすることが好ましく、フィルムの形態とすることにより、帯電防止フィルム、耐熱フィルム、難燃フィルム、接着フィルム、イオン伝導性フィルム、導電性フィルム、バッテリー用電解質フィルム、キャパシタ用電解質フィルム等に特に有用である。特に、本発明のフィルムは、バッテリー用途、キャパシタ用途に使用するのが好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0089】
本実施例に用いた試薬は以下の通りである。
塩化コリン、エピクロロヒドロン、水素化ナトリウム(50〜72wt%in oil)、臭化リチウム(無水)、トルエン(特級)、ジエチルエーテル(特級)、ジクロロメタン(特級)は、和光純薬工業から購入し、そのまま使用した。グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド(25wt%含水)(GTMACl)は、Flukaから購入してそのまま使用した。二酸化炭素(液化炭酸ガス)は、福豊帝酸から購入し、そのまま使用した。ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(Mw=526,PEGGE)および、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)(Mw=1500,PEGBA1500)は、Aldrichから購入してそのまま使用した。リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)は、和光純薬工業から購入し、真空下120℃に3時間加熱して乾燥させてから使用した。N−N−ジメチルホルムアミド(DMF)は、水素化カルシウム上から減圧蒸留して用いた。
【0090】
本実施例および比較例に用いた試料の分析は以下の通りである。
IRスペクトルは、サーモサイエンティフィック社製のSMART iTRサンプリングユニット付NICOLET iS10を用いてATR法により測定した。1H−NMRは、Varian UNITY INOVA 400でDMSO−d6を溶媒として測定し、DMSO−d6中の残存プロトンを基準に用いて化学シフトを決定した。熱重量分析(TGA)は、セイコーインスツルメント社製TG−DTA6200により、アルミパンを用いて、50mL/minの窒素気流中10℃/minで昇温させて測定した。示差走査熱分析(DSC)は、セイコーインスツルメント社製DSC6200を用いて、アルミパン内に封入しサンプルを100℃で5分間熱処理した後、液体窒素で−80℃まで急冷し、10mL/minの窒素気流中10℃/minで昇温させて測定した。イオン伝導度測定は、ステンレス平板電極を用いて交流4端子法によりインピーダンスを測定し、ナイキストプロットによる解析を行い、イオン伝導度を求めた。(HIOKI 3532−80Chemical impedance meter,9140 4端子プローブ、電圧:50mV,測定周波数:4Hz〜1MHz)
【0091】
製造例1
リチウム 3−グリシジルオキシプロパンスルホネート(LiGPS)の製造
2,3−エポキシ−1−プロパノール(1.48g,20.0mmol)とプロパンサルトン(2.44g,20mmol)のDMF(4mL)溶液中に水素化リチウム(176mg,22mmol)を加え室温で20時間攪拌した後、反応混合物にアセトン(100mL)を加え生成物を沈殿させた。沈殿を回収しアセトンで沈殿を洗浄後、得られた固体を真空乾燥することにより目的の化合物(2.21g,10.9mmol)を収率54.7%で得た。
【0092】
ATR−IR:751,800,851,891,910,1045,1076,1104,1166,1221,2876,2940cm-1
1H−NMR δ in CD3OD:2.00−2.13(m,2H),2.63(dd,J=2.8,5.2Hz,1H),2.81(dd,J=4.4,5.2Hz,1H),2.92(t,J=7.8Hz,2H),3.10−3.20(m,1H),3.37(dd,J=6.0,11.4Hz,1H),3.57−3.68(m,2H),3.79(dd,J=2.8,11.4Hz,1H).
【0093】
製造例2
2−グリシジルオキシエチルトリメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(GETMATFSI)の製造
室温にて、塩化コリン(6.98g,50.0mmol)の12mL水溶液にリチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(14.4g,50.0mmol)の12mL水溶液を加え、24h攪拌後、下層液体を回収し、純水(10mL)で2回洗浄した後、70℃で3時間真空乾燥することによりコリンのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(14.2g,36.9mmol)を収率74%で得た。このコリンTFSI塩(6.14g,16mmol)とエピクロロヒドリン(4.44g,48mmol)のDMF(16mL)溶液を水冷しながら、水素化ナトリウム(約50wt%オイル分散物,1g,約21mmol)をゆっくり加え攪拌した。20時間後に、ジエチルエーテル(200mL)を加え、沈殿物を回収しジエチルエーテル(10mL)で2回洗浄した後、純水(5mL)を加え攪拌後下層液体を回収し、純水(5mL)で洗浄後、室温で3時間真空乾燥し目的の化合物(4.47g,10.2mmol)を収率64%で得た。
【0094】
ATR−IR:739,788,866,895,926,969,1049,1130,1175,1325,1346,1476,1487cm-1
1H−NMR δ in CD3OD:2.67(dd,J=2.7,5.0Hz,1H),2.85(dd,J=4.2,5.0Hz,1H),3.16−3.28(m,1H),3.21(s,9H),3.41(dd,J=6.3,11.6Hz,1H),3.62−3.68(m,2H),3.96(dd,J=2.1,11.6Hz,1H),3.75−4.05(m,2H).
【0095】
製造例3
エチレンオキシスペーサーを介してトリメチルアンモニウムの置換したプロピレンカーボナートのビス(トリフルオロメタンスルニル)イミド塩(TAEPCTFSI:試料1)の合成
100mLのナスフラスコに磁気回転子、GEMATFSI(4.4g,10mmol)、DMF(10mL)、LiBr(87mg、1mmol)を加え、二酸化炭素を充填した2Lのゴム風船を付けた三方コックを装着し、フラスコ内を減圧し二酸化炭素で置換した後、混合物を100℃で16時間加熱撹拌した。室温に放冷後混合物をトルエン(300mL)に注ぎ、沈殿を回収しトルエン(10mL)で2回洗浄後、蒸留水(5mL)で2回洗浄し、真空乾燥を行ったところ、褐色液体状の目的化合物TAEPCTFSI(3.81g,7.87mmol)が収率79%で得られた。
【0096】
IR(neat、ATR)718,740、765,792,878,957、1045,1132,1175,1325,1345,1480,1790cm-1
1H−NMR δ (DMSO−d6)3.08(s,9H),3.52−3.57(m,2H),3.64(dd,J=3.1,11.1Hz,1H),3.75(dd,J=2.5,11.1Hz,1H),3.86−3.93(m、2H),4.32(dd、J=5.5,8.6Hz,1H),4.55(dd、J=8.6,8.7Hz,1H),4.95−5.02(m、1H).
【0097】
製造例4
トリメチルアンモニウムの置換したプロピレンカーボナートのビス(トリフルオロメタンスルニル)イミド塩(TAPCTFSI:試料2)の合成
3方コックと2Lのゴム風船を備えた100mLのナスフラスコに、磁気回転子とGTMACl(6.04g,25wt%含水,30.0mmol)のDMF(30mL)溶液を入れ、減圧しながらフラスコ内を二酸化炭素ガスに置換した。反応混合物を攪拌しながら12時間50℃に加熱した。室温まで冷却後、反応混合物を300mLのジクロロメタンに攪拌しながら注いだ。粘稠な液体が沈殿した。デカンテーションにより沈殿を回収し、ジクロロメタン(10mL)で2回洗浄後、粗生成物に蒸留水(20mL)を加え、LiTFSI(8.61g、30mmol)の蒸留水(25mL)溶液を室温で攪拌しながら加えたところ、直ちに白色固体が析出した。10時間攪拌後、ガラスフィルターでろ過し、固体を回収した。得られた固体を蒸留水(5mL)で3回洗浄し、回収固体を真空乾燥し、目的のTAPCTFSI(9.45g、21.5mmol)を収率72%で得た。融点は、80.7〜81.0℃であった。
【0098】
IR(neat、ATR)721,740,765,792,952,968,1050,1077,1135,1180,1333,1480,1490,1795cm-1
1H−NMRδ(DMSO−d6)3.13(s,9H),3.64(d,J=14.8Hz,1H),3.92(dd,J=9.2,14.8Hz,1H),4.18(dd,J=7.6,8.6Hz,1H),4.7(dd,J=8.4,8.6Hz,1H),5.42(m,1H).
【0099】
エポキシ樹脂とアミン硬化剤を用いたポリマーフィルムの合成
エポキシ樹脂、イオン性エポキシ、アミン硬化剤(全エポキシ基に対して化学量論量)の混合物にメタノールを加え、混合物をよく練り混ぜた後、フッ素樹脂の型に流し込み、メタノールを蒸発させた後、100℃で7時間加熱した。室温まで冷却後フッ素樹脂の型をはずして黄色透明あるいは無色透明のエポキシ形成体を得た。硬化物(15mm×5mm)を切り出し、メタノール50mL中に2時間浸漬した後形成体を取り出しメタノールで洗浄した。この操作を3回行った後、一晩風乾し、さらに電気乾燥機を用いて100℃で3時間加熱乾燥させイオン基を持つエポキシ硬化樹脂からなるポリマーフィルムを合成した。
【0100】
実施例1
ポリマーフィルムの調製−1
上記方法で合成したPEGGE/LiGPS−1.0/PEFBA1500のポリマーフィルム(厚膜)(100℃、3時間加熱乾燥済み)8.4 mg (5.5 mm × 6.0 mm × 0.41 mm)を切り出し、TAEPCTFSI (67 mg)中に浸漬し100℃で20時間加熱し、膜をTAEPCTFSI液から取り出し表面の余分のTAEPCTFSIをキムワイプでふき取ることでTAEPCTFSI−added PEGGE/LiGPS−1.0/PEGBA1500 (26.6 mg、 6.0 mm × 7.0 mm × 0.44 mm、 TAEPCTFSI含有量68wt%)を得た。イオン伝導度は1.4×10-2[S/m]であった。
【0101】
実施例1
ポリマーフィルムの調製−2
実施例1と同様の方法で合成したPEGGE/LiGPS−1.0/PEFBA1500のポリマーフィルム(厚膜)(100℃、3時間加熱乾燥済み)10.6mg(6mm×6mm×0.41mm)を切り出し、LiTFSI(12.6mg)をTAEPCTFSI(85mg)に溶解して得た溶液中に浸漬し100℃で20時間加熱し、膜をLiTFSI/TAEPCTFSI溶液から取り出し表面の余分のLiTFSI/TAEPCTFSIをキムワイプでふき取ることでLiTFSI/TAEPCTFSI−added PEGGE/LiGPS−1.0/PEGBA1500(33.5mg,6.5mm×6.5mm×0.51mm,LiTFSI/TAEPCTFSI含有量68wt%)を得た。イオン伝導度は5.3×10-3[S/m]であった。
【0102】
比較例1
ポリマーフィルムの調製−3
実施例1および実施例2と同様の方法で合成したPEGGE/LiGPS−1.0/PEGBA1500のポリマーフィルム(厚膜)(100℃、3時間加熱乾燥済み)16.2mg(5.5mm×7mm×0.41mm)を切り出し、上記合成方法で得られたTAPCTFSI(16.2mg)のアセトン(30mg)溶液に3時間浸漬後、100℃で3時間加熱乾燥させてTAPCTFSI−added PEGGE/LiGPS−1.0/PEFBA1500(31mg、6mm×8mm×0.47mm,TAPCTFSI含有量48wt%)を得た。イオン伝導度は1.2×10-3[S/m]であった。
【0103】
表1に実施例1、2および比較例1の評価結果を示す。
【0104】
【表1】

【0105】
本発明による実施例1の結果から、エーテル結合含有の環状カーボネートを膨潤させた電解質フィルムは、高い導電性を示す事が確認された。
【0106】
本発明による実施例2の結果から、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加したエーテル結合含有の環状カーボネートを膨潤させた電解質フィルムは、ある程度高い導電性を示す事が確認された。
【0107】
比較例1の結果から、プロピレンカーボネートを膨潤させた電解質フィルムは、実施例1および実施例2と比較して、高い導電性が得られなかった事が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

(式(1)において、R1およびR2はそれぞれメチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示し、mおよびnはそれぞれ0〜5の整数であって、1≦m+n≦5を満たす数であり、pは1〜100の整数である。)
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物とハロゲン化グリシジル化合物を、塩基および溶媒存在下で反応させ、下記式(3)で表される化合物を得る工程と、
下記式(3)で表される化合物と、二酸化炭素を、触媒および溶媒存在下で反応させる工程を含む、下記式(1)で表される化合物の製造方法。
【化2】

(式(2)において、R2はメチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示す。)
【化3】

(式(3)において、R1およびR2はそれぞれメチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換のアルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示す。)
【化4】

(式(1)において、R1およびR2はそれぞれメチレン基、または炭素数2〜20の置換または非置換アルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示し、mおよびnはそれぞれ0〜5の整数であって、1≦n+m≦5を満たす数であり、pは1〜100の整数である。)
【請求項3】
エポキシ樹脂と請求項1記載の化合物を含有する樹脂組成物。
【化5】

(式(1)において、R1およびR2はそれぞれメチレン基、または炭素数2〜20の置換もしくは非置換アルキレン基を示し、Zはイオン性官能基を示し、mおよびnはそれぞれ0〜5の整数であって、1≦m+n≦5を満たす数であり、pは1〜100の整数である。)
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、
(A)一つのエポキシ基を有するイオン性化合物と、
(B)2個以上のエポキシ基を有する化合物と、
(C)2個以上のアミノ基を有する化合物から得られる樹脂である請求項3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)が、下記式(8)で表される化合物であり、前記(B)が、下記式(9)で表される化合物であり、前記(C)が下記式(10)で表される化合物である請求項3または4に記載の樹脂組成物。
【化6】

(式(8)において、Lはグリシジル基を示し、Mはイオン性官能基を示し、R20は炭素数2〜20の置換または非置換アルキレン基を示す。qは1〜100の整数である。)
【化7】

(式(9)において、R21は、炭素数2〜5の置換または非置換アルキレン基を示し、rは1〜100の整数である。)
【化8】

(式(10)において、R22、R23、R24およびR25は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の置換もしくは非置換アルキル基を示し、R26およびR27は、それぞれ独立に炭素数1〜20の置換または非置換アルキレン基を示し、R28は、炭素数2〜20の置換または非置換アルキレン基を示し、sは9〜100の整数である。)
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて成形された成形体。
【請求項7】
請求項3に記載の樹脂組成物を用いて成形されたバッテリーまたはキャパシタ用電解質フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98897(P2011−98897A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253244(P2009−253244)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】