説明

環状化合物の製法

【課題】ビスイミノピリジル錯体を触媒として用いた末端オレフィンの二量化反応において線状化合物(linear体)を効率よく合成し、エキザルトンやムスコンを効率よく合成する。
【解決手段】一般式RCHCH=CHCHCHCH(式中、Rは炭素数2以上の炭化水素基を表す。)で表される線状化合物を水素化し、これにハロゲン化剤を作用させて酸ハロゲン化物へ誘導してβ−ラクトンを生成させ、このβ−ラクトンを酸性条件で脱炭酸することから成る環状化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、末端オレフィンの二量化反応により線状化合物を優先的に製造し、これを利用してエキザルトンやムスコンを製造することができる方法に関する
【背景技術】
【0002】
ムスクは、香料として香水や化粧品等に広く用いられている。しかし、天然ムスクはジャコウジカなどから取るため、「絶滅のおそれある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)によって、その商業的利用はほぼ不可能である。そのため、ニトロムスクをはじめとする人工ムスクが代替品として汎用されるようになっている。
天然ムスクの香気成分であるムスコン(化2、R=Me)及びエキザルトン(化2、R=H)は、15員環という特異な構造を持っているため、その合成は困難である。近年では、いくつかの合成法が報告されているが、いずれも合成に多段階を有する方法や入手困難な長鎖化合物を原料とするため高価となり、工業的な合成に向かない。そこで、効率の良い合成法が求められている。
【0003】
【化2】

【0004】
ムスコンの最初の全合成に成功したのは、ドイツのZieglerであった(非特許文献1)。ニトリル基を両末端に有する鎖状化合物を高度希釈条件下、リチウムアミドを触媒として作用させ、分子内Thrope反応により環化した。
エキザルトンなどのムスクの合成には、環化原料である16炭素化合物を効率良く入手することが鍵である。そこで16炭素化合物のような長鎖化合物の合成法として、入手容易な8炭素化合物同士をカップリングさせ、2倍の炭素鎖にすることが考えられてきた。
このような炭素間結合形成反応として、Heck反応(非特許文献2)、Suzukiカップリング反応(非特許文献3)、Grubbs触媒を用いたオレフィンメタセシス反応(非特許文献4)などが検討されているが、特に、本発明に近い技術として、Ziegler-Natta触媒のようなTi-Al系金属など様々な遷移金属を中心金属とした遷移金属錯体であるビスイミノピリジル錯体を用いた1−ブテンの二量化反応が報告されている(非特許文献5,6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Ziegler and K. Weber, Ann. Chem., 512, 164 (1938)
【非特許文献2】I. -I. I. Kim et al., J. Org. Chem., 46, 1067 (1981)
【非特許文献3】N. Miyaura et al., J. Am. Chem. Soc., 107, 972 (1985)
【非特許文献4】Amab K. Chatterjee, et al., J. Am. Chem. Soc., 125, 11360 (2003)
【非特許文献5】Brooke L. Small et al., U. S. Patent , US 6291733 B1 (2001)
【非特許文献6】Brooke L. Small, Organometallics, 22, 3178 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ビスイミノピリジル錯体を触媒として用いた1−ブテンの二量化反応(非特許文献5,6)においては、下式に示すように反応に位置選択性がある(式中、波線はシス若しくはトランス又はこれらの混在を示す。以下同じ。)。
【化3】

そのためムスクの合成のための環化原料である16炭素化合物を効率よく合成するためには、オレフィンの末端同士でカップリングさせるhead to head型(linear体が得られる。)とオレフィンの末端と内部でカップリングするhead to tail型(branched体が得られる。)の位置選択性を制御する必要がある。
本発明は、このようなビスイミノピリジル錯体触媒を用いた末端オレフィンの二量化反応において線状化合物(linear体)を効率よく合成し、エキザルトンやムスコンを効率よく合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ビスイミノピリジル錯体触媒に注目し、触媒配位子及び中心金属の検討を行った結果、中心金属を適切に選択し、ビスイミノピリジル錯体の触媒中心金属の周辺に立体的制御能力を持った配位子を選択することにより、末端オレフィンの二量化反応において線状化合物を効率よく合成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、一般式
CHCH=CHCHCHCH
(式中、Rは炭素数2以上の炭化水素基を表す。)で表される線状化合物を水素化し、これにハロゲン化剤を作用させて酸ハロゲン化物へ誘導してβ−ラクトンを生成させ、このβ−ラクトンを酸性条件で脱炭酸することから成る環状化合物を製造する方法である。
【0009】
また本発明は、上記R
−(CHOY
(式中、Yは水素原子又は水酸基の保護基を表す。)である製造方法によりエキザルトンを製造する方法である。
更に本発明は、ムスコンの製造のためのこのエキザルトンの使用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の触媒は下式で表される。
【化1】

は、それぞれ同じであっても異なってもよく、炭化水素基、好ましくはアルキル基を表す。より好ましくは炭素数が1〜3のアルキル基を表す。Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子又は炭化水素基、好ましくは水素原子又はアルキル基を表す。Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、炭化水素基又はハロゲン原子、好ましくはハロゲン原子,より好ましくは塩素原子又は臭素原子を表す。炭化水素基としては、好ましくは炭素数が1〜3のアルキル基である。
Xは、それぞれ同じであっても異なってもよく、ハロゲン原子又はアルキル基、好ましくはハロゲン原子、より好ましくは塩素原子又は臭素原子を表す。アルキル基としてはメチル基が好ましい。
その他上記化合物(化1)のベンゼン環はアルキル基やアリール基などの置換基を有していてもよい。
【0011】
本発明はコバルトと上記配位子との錯体である。錯体形成は、通常室温の有機溶媒中で配位子とコバルト塩を溶解させることにより行うことができる。
本発明においては、遷移金属としてコバルトを用いることにより、他の遷移金属を用いた場合に比べて、末端オレフィンを二量化する際に線状化合物の選択性を格段に改善することができた。
【0012】
本発明においては、上記触媒を用いて末端オレフィンを二量化する。
基質である末端オレフィンは下式で表される。
CH=CHCH
は炭素数2以上の炭化水素基、好ましくは炭素数が2〜15のアルキル基、より好ましくは炭素数が3〜5のアルキル基を表す。
溶媒は、有機溶媒であれば特に限定は無いがトルエンやMAOが好ましく用いられる。
触媒の濃度は、好ましくは0.01〜0.2Mである。
反応温度は、通常―25℃〜室温で行われ、反応時間は30分以上である。
【0013】
この反応の結果下式で表される線状化合物が優先的に生成する。
CHCH=CHCHCHCH
この反応に際して下式で表される側鎖化合物も生成するがその収率は低い。
CHCH=CHCH(CH)CH
この段階で適宜公知の手段により線状化合物のみを精製して利用してもよい。
このようにして得られる線状化合物は様々な化合物の原料として有用である。その例として、エキザルトン及びムスコンの製造方法を以下に示す。
【0014】
(1)エキザルトン(exaltone)は以下の工程により製造することができる。
(i)上記一般式中のR
−(CHOY
(式中、Yは水素原子又は水酸基の保護基を表す。)で表される末端オレフィンを二量化する。この保護基として、ベンジル基、t-ブチル基、i-プロピル基、シリル基、アセチル基、RCO-基(Rは炭化水素基を表す。)などを用いることができる。
例えば、7−オクテン−1−オールを水素化ナトリウム等を用いてベンジルブロミドと反応させて、水酸基を保護する。得られたベンジルエーテルを本発明の触媒とMAO(Methylaluminoxane)存在下でトルエンなどの有機溶媒中で反応させて、二量化する。本発明の方法により線状化合物(linear体)が優先的に得られる。必要に応じて線状化合物を精製してもよい。
【0015】
(ii)得られた線状化合物を水素化する。例えば、二量体をPd-C等により水素添加する。同時に保護基の脱保護を行ってもよい。この結果1,16-ヘキサデカンジオールが得られる。
(iii)これにハロゲン化剤を作用させて酸ハロゲン化物へ誘導してβ−ラクトンを生成させる。
例えば、上記のジオールをJones酸化法等によりに酸化してジカルボン酸として、このジカルボン酸を塩化チオニル、オキサリルクロリド等により酸ハロゲン化物へ誘導する。この反応は、通常生成する酸ハロゲン化物が空気中で不安定であるため禁水及びアルゴン雰囲気下で行うことがよい。また、この反応はほとんど副反応を起こさないため、粗生成物のまま次の反応に用ることができる。
得られた酸ハロゲン化物にDABCO(1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン)等を作用させてβ−ラクトンを生成する。このDABCOの高度希釈溶液に、酸ハロゲン化物の溶液を長時間かけて滴下することが好ましい。DABCOの代わりに、N-メチルピロリドン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、キヌクリジン等の含窒素環状化合物やテトラメチルエチルジアミン等の脂肪族アミン等を用いてもよい。
【0016】
(iv)得られたβ−ラクトンを酸性条件で脱炭酸する。その結果エキザルトンが生成する。この脱炭酸を効率よく行うために、シリカゲルによる酸性条件で行うことが好ましい。すなわち、トリクロルメタン等の酸化剤の存在下、β−ラクトンをシリカゲルに接触させることにより、緩やかな酸化条件が得られ脱炭酸が容易に進行する。例えば、上記β−ラクトンを含む溶液をトリクロルエタンを含むシリカゲルカラムクロマトグラフィーに数回通すこと等により加水分解及び脱炭酸を行う。
【0017】
(2)エキザルトンからムスコン(muscone)は以下の工程により製造することができる。 シクロペンタデカノン(エキザルトン)を臭素化して、2−ブロモシクロペンタデカノンを合成する。これにトリエチルアミン等の塩基により脱臭化水素(HBr)を行ってα、β不飽和ケトンへ導き、ジオール成分として1,4−ジ−O−メチル−D−スレイトールを用いたケタール化により(E)−α,β−不飽和ケタールを得る。(E)−α,β−不飽和ケタールを、ジエチルエーテル還流下で過剰のシモンズ−スミス試薬で処理し、シクロプロパンケタールジアステレオマーを得る。このジアステレオマーを加水分解して、芳香を有するビシクロケトンを得る。このビシクロケトンのシクロプロパン環を還元開環し、生成したアルコールを酸化してムスコンを得る。
【実施例】
【0018】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
触媒配位子は、2,6−ジアセチルピリジンを出発原料として様々なアミンとイミノ化することにより合成した。
製造例1
本製造例では2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物1)を合成した。
反応容器(50mlナスフラスコ)は予め真空下加熱し禁水条件にて行い、また反応溶媒も乾燥したものを用いた。アルゴンガス雰囲気下、2,6−ジアセチルピリジン0.49g(3.0mmol)と塩化メチレン20mlの混合溶液にアニリン1.26g,1.24ml(13.5mmol)を加えた。この反応溶液にギ酸(97%)を5drops加え、室温で40時間撹拌した。反応溶液をエバポレーターにて濃縮し、真空乾燥した。その後、反応フラスコを冷凍庫にて−40℃に冷却した。反応フラスコに氷浴で冷却したメタノールを徐々に加えることで黄色結晶が析出した。その結晶を吸引濾過し、氷浴で冷却したメタノールで洗った。その結晶を真空乾燥し黄色結晶を0.65g(Y.68%)得た。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 2.41(s, 6H), 6.85(d, J = 7.9Hz, 4H), 7.12(t, J = 7.3Hz, 2H), 7.38(t, J = 7.3Hz, 4H), 7.88(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.34(d, J = 7.9Hz, 2H)
【0019】
ピリジンの置換基を適宜変更して同様の反応で下記配位子(化合物2-8)を製造した。
【表1】

【0020】
製造された2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物2)の分析データを下記に示す。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 2.13(s, 6H), 2.34(s, 6H), 6.69(d, J = 6.6Hz, 2H), 7.03(t, J = 7.3Hz, 2H), 7.21(m, 4H), 7.89(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.41(d, J = 7.9Hz, 2H)
製造された2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物3)の分析データを下記に示す。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 2.01(s, 6H), 2.34(s, 12H), 6.59(d, J = 7.9Hz, 2H), 7.02(t, J = 7.9Hz, 4H), 7.87(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.38(d, J = 7.9Hz, 2H)
製造された2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物4)の分析データを下記に示す。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 2.11(s, 6H), 2.34(s, 6H), 6.63(d, J = 8.6Hz, 2H), 7.20(t, J = 8.6Hz, 4H), 7.90(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.38(d, J = 7.9Hz, 2H)
13C-NMR(CDCL3) δ ppm 167.4, 155.0, 136.8, 130.1, 128.4, 126.3, 122.3, 119.3, 17.8, 16.5
製造された2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物5)の分析データを下記に示す。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.16(t, J = 7.9Hz, 6H), 2.37(s, 6H), 2.52(q, J = 7.9Hz, 4H), 6.67(d, J = 7.9Hz, 2H), 7.02(dt, J = 19.8, 7.9Hz, 6H), 7.89(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.40(d, J = 7.9Hz, 2H)
製造された2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物6)の分析データを下記に示す。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.15(t, J = 7.25, 6H), 2.36(s, 6H),2.48(q, J = 7.25, 4H), 6.55(d, J = 8.6Hz, 2H), 7.32(dd, J = 8.6, 2.0Hz, 2H), 7.39(d, J = 2.0Hz, 2H), 7.90(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.38(d, J = 7.9Hz, 2H)
13C-NMR(CDCL3) δ ppm 167.1, 155.0, 148.1, 136.8, 135.7, 131.4, 129.1, 122.3, 119.8, 116.6, 24.7, 16.5, 13.9
製造された2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物7)の分析データを下記に示す。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.20(d, J = 7.3Hz, 12H), 2.39(s, 6H), 2.52(dq, J = 6.9, 7.3Hz, 2H), 6.65(d, J = 7.9Hz, 2H), 7.02(m, 6H), 7.90(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.41(d, J = 7.9Hz, 2H)
製造された2,6-ビス(イミノ)ピリジル配位子(化合物8)の分析データを下記に示す。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 2.41(s, 6H), 6.85(d, J = 7.3Hz, 2H), 7.47(m, 6H), 7.65(d, J = 8.6Hz, 2H), 7.82(d, J = 8.6Hz, 2H), 7.88(d, J = 7.9Hz, 2H), 8.00(t, J = 7.9Hz, 1H), 8.60(d, J = 7.9Hz, 2H)
【0021】
製造例2
本製造例では製造例1で製造した各配位子とコバルトとの錯体を製造した。
反応容器(10mlナスフラスコ)は、予め真空化加熱し禁水条件にて行い、また反応溶媒も乾燥したものを用いた。アルゴンガス雰囲気下、ビスイミノピリジル配位子0.3mmolとTHF3mlの混合溶液に塩化コバルト(II)六水和物(CoCl2・6H2O)0.25mmolを加えた。室温で5分間撹拌すると、青紫色の結晶が析出してくる。反応容器にエーテルを加え、結晶を完全に析出させる。吸引濾過により、溶媒を除去しエーテル及びn−ペンタンで洗浄する。その結晶を真空乾燥し青紫色結晶を収率87〜96%で得た。
【0022】
製造例3
本製造例では製造例1で製造した各配位子と鉄との錯体を製造した。
反応容器(10mlナスフラスコ)は、予め真空化加熱し禁水条件にて行い、また反応溶媒も乾燥したものを用いた。アルゴンガス雰囲気下、ビスイミノピリジル配位子0.3mmolとTHF 3mlの混合溶液に塩化第一鉄四水和物(FeCl2・4H2O)0.25mmolを加えた。室温で5分間撹拌すると、青紫色の結晶が析出してくる。反応容器にエーテルを加え、結晶を完全に析出させる。吸引濾過により、溶媒を除去しエーテル及びn−ペンタンで洗浄する。その結晶を真空乾燥し青紫色結晶を収率90〜100%で得た。
【0023】
製造例4
製造例では、上記製造例2で得た触媒(Co触媒)を用いて1−オクテンの二量化反応を行った。
反応容器(10mlナスフラスコ)は、予め真空化加熱し禁水条件にて行った。アルゴンガス雰囲気下、2.0×10−3molの各触媒と10mmolの1−オクテン混合溶液を室温で数分間撹拌した。その反応溶液に、10%MAOトルエン溶液0.4mlを加え、室温(あるいは0,−40,−78℃)で30分撹拌した。反応溶液を水の入ったビーカーに少しずつ加え反応を終了させる。このとき無機塩として水酸化アルミニウムが生成するので吸引濾過により除去し、濾液をヘキサンにより抽出した。エバポレーターにより濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン、20倍)により精製し、真空乾燥することで二量体を収率24〜78%で得た。さらに位置選択性を決定するために、オレフィンの水素化を行った。二量体に対して10wt%の10%Pd-Cを加え、酢酸エチルを10ml加え水素ガス雰囲気下1日撹拌した。この反応は、定量的に進行するため、反応の位置選択性には影響しない。この反応物を1H-NMRによりオレフィンが完全に水素化されているかを確認した。GC14Aにより位置選択性を算出した。GC条件(INJ:250℃,DET:250℃,COL INIT.TEMP:200℃,COL INIT.TIME:3min,COL PROG.RATE:10℃,COL FINAL.TEMP:250℃,COL FINAL.TIME:20min)linear体検出時間:7〜8mim, branched体:6〜7min
【0024】
結果を下表に示す。
【表2】

【0025】
後記の製造例5のFe触媒を用いた場合に比べ、本実施例のCo触媒を用いた場合には、収率は低いが、ほぼ位置選択的にLinear体を与えた。
Entry1,2,5,6では直接的に立体の大きさによる制御を検討したところ、R1がHでは、二量体がほとんど得られなかった。これは立体的に小さすぎるために制御されず、原料のオレフィンが異性化した生成物を与えてしまうためであると考えられる。
Entry2,5,7ではentry5の時最も収率良く二量体が得られた。これらの反応を通して位置選択性は高選択性を保持した。
R3については、電子吸引性のハロゲンの場合に、収率が高かった。
【0026】
製造例5
本比較例では、上記製造例3で得た触媒(Fe触媒)を用いて製造例4と同様の条件で1−オクテンの二量化反応を行った。結果を下表に示す。
【表3】

【0027】
Feを中心金属とした場合、良好な収率で二量化が進行するが、側鎖化合物(branched)が高収率で生成し、目的である線状化合物(linear)の収率は製造例4のものより劣り、位置選択性は高いものではなかった。
【0028】
実施例1
本実施例ではエキザルトンの合成を行った。
200mlナスフラスコを用いて、窒素ガス雰囲気下、7−オクテナール(化合物32)17.0g,20ml(0.135mol)とエタノール70mlの混合溶液を氷浴により冷却した。その混合溶液に水素化ホウ素ナトリウム2.55g(0.068mol)を少しずつ加え、その後45分間撹拌した。反応溶液に1N塩酸を加え中和し、生成した無機塩を吸引濾過し除去した。濾液を酢酸エチルにより抽出し、エバポレーターにより濃縮した。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=5/1,50倍)により精製し、7−オクテン−1−オール(化合物33)を14.0g(Y.81%)得た。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.36(bs, 6H), 1.57(bs, 3H), 2.04(t, J = 6.6Hz, 2H)
3.63(t, J = 6.6Hz, 2H), 4.97(m, 2H), 5.81(tdq, J = 20.1, 17.1, 3.3Hz, 1H)
IR(neat) cm-1 638, 728, 911, 996, 1058, 1463, 1642, 2858, 2930, 3078, 3332
【0029】
反応容器(200ml二口ナスフラスコ)は、予め真空化加熱し禁水条件にて行い、また反応溶媒も乾燥したものを用いた。水素化ナトリウムは、油との混合物であるためヘキサンにより洗浄して用いた。窒素ガス雰囲気下、水素化ナトリウム0.96g(40mmol)とTHF100mlの混合溶液を氷浴により冷却した。その混合溶液を0℃に保ちながら、7−オクテン‐1−オール5.13g(40mmol)を30分かけて滴下した。続いてベンジルブロミド3.42g,2.40ml(20mmol)を滴下し混合溶液に加えた。室温に上昇させ、一日撹拌した。反応混合物に氷浴で冷却しながら0.1N塩酸を弱酸性になるまで加えた。無機塩が生成するので吸引濾過により除去し濾液をエーテルにより抽出し、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=9/1,50倍)により精製し、7−オクテニルベンジルエーテル(化合物34)を4.26g(Y.98%)で得た。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.34(bs, 6H), 1.62(m, 2H), 2.04(m, 2H), 3.46(t, J=6.6Hz, 2H), 4.50(s, 2H), 4.97(m, 2H), 5.81(tdq, J=20.8, 16.8, 3.3Hz, 1H), 7.31(m, 5H)
IR(neat) cm-1 698, 735, 910, 995, 1029, 1104, 1204, 1362, 1455, 1496, 1640, 2856, 2931, 2976, 3031, 3066, 3480
【0030】
以上の反応式を以下に示す。
【化4】

【0031】
反応容器(100mlナスフラスコ)は、予め真空化加熱し禁水条件にて行い、また反応溶媒も乾燥したものを用いた。アルゴンガス雰囲気下、触媒(19)70.68mg(0.15mmol)とベンジルオクテニルエーテル(34)16.37g,17.79ml(75mmol)の混合溶液を‐25℃で数分撹拌した。10%MAO 31.5mlをゆっくり加え30分撹拌した。反応溶液を水の入ったビーカーに少しずつ加え反応を終了させる。このとき無機塩として水酸化アルミニウムが生成するので吸引濾過により除去し、濾液をヘキサンにより抽出した。エバポレーターにより濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=9/1、50倍)により精製し、無色の液体ベンゾイルオクテニルエーテル2量体(化合物35)6.55g(Y.40%)を得た。
位置選択性については、次段階のオレフィンの水素化と脱保護後にGC14Aにより測定した。なお、次段階の反応は、定量的に進行するため、反応の位置選択性の変化は次反応後でも変化しない。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.36(m, 8H), 1.61(t, J = 5.9Hz, 8H), 2.01(m, 4H), 3.46(t, J = 6.6Hz, 4H), 4.50(s, 2H), 5.41(m, 2H), 7.32(m, 10H)
【0032】
以上の反応式を以下に示す。
【化5】

【0033】
反応容器は、200mlナスフラスコを用いた。二量体6.55g(15mmol)と10%Pd-C 2gの混合溶液にEtOH 150mlを加える。この混合溶液を水素ガス雰囲気下1日撹拌する。このとき、TLCによりベンジル保護が完全に外れるまで反応時間は調整する。このとき反応が完結しなければ、Pd-C,水素ガスを追加する。このオレフィンの水素化と脱保護は、ほぼ定量的に進行する。反応生成物をセライト濾過し、濃縮する。結晶が析出するので、ヘキサンで洗浄し、吸引濾過により白色結晶(1,16−ヘキサデカンジオール(化合物36))を3.87g(quant.)で得た。GC14Aによりlinear体100%であった。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.26(bs, 22H), 1.58(bs, 8H), 3.63(m, 4H)
IR(neat) cm-1 692, 720, 732, 1028, 1044, 1062, 1072, 1124, 1409, 1462, 1473, 1560, 1646, 2850, 2919, 3286
m.p. 91.7〜92.4℃(lit.92.0〜93.0℃)
GC条件(INJ:250℃,DET:250℃,COL INIT.TEMP:200℃,COL INIT.TIME:3min,COL PROG.RATE:10℃,COL FINAL.TEMP:250℃,COL FINAL.TIME:20min)linear体検出時間:29min
【0034】
Jones試薬は以下のようにして調整した。反応容器(20mlナスフラスコ)に三酸化クロム1.8g(17.8mmol)と水5.6mlを加えた。氷浴により冷却し、95%硫酸1.61mlを滴下した。超音波により反応容器内の固体を完全に溶解させた。
200mlナスフラスコに1,16−ヘキサデカンジオール0.77g(2.96mmol)とアセトン110mlを加える。超音波により固体を完全に溶解させ、反応系を20℃に保ちながら、上記で調整したJones試薬を滴下した。滴下後、4時間撹拌する、反応後、濃縮しアセトンを除去する。残分には、青色のクロム固体と白色の結晶が残っている。ここに水を加えクロムを完全に溶解させた。吸引濾過することでクロム水溶液と白色結晶を分離し、その結晶をさらに水で洗浄する。得られた結晶をテトラヒドロフランに溶解させた(THFの飽和溶液になるようにする)。さらにヘキサンを加えると白色結晶が再度析出してくるので濾過し、真空乾燥することでヘキサデカンニ酸(化合物37)を0.77g(Y.91%)で得た。
1H-NMR(d6DMSO) δ ppm 1.24(bs, 20H), 1.52(bs, 4H), 2.17(t, J=7.3Hz, 4H)(Aldrich date baseと比較カルボン酸のHは検出できない)
IR(neat) cm-1 548, 685, 724, 939, 1184, 1216, 1258, 1298, 1431, 1468, 1701, 2689, 2851, 2919
m.p. 120.1〜122.9℃(lit.122.0〜124.0℃)
【0035】
反応容器(50mlナスフラスコ)は、予め真空化加熱し禁水条件にて行った。反応に用いる塩化チオニルは、常圧蒸留により精製したものを用いた。(b.p. 77.5℃)窒素ガス雰囲気下、ヘキサデカン二酸(37)1.01g(3.5mmol)と塩化チオニル(14.0mmol)の混合溶液を30分かけてゆっくり昇温し、還流条件下2時間撹拌した。濃縮することにより、塩化チオニルを留去することで、酸クロリド粗生成物(酸クロリド(化合物38))1.13g(Y.99%)を得た。この反応は副反応がほとんど起こらないことより、組成生物を次段階に用いた。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.27(s, 20H), 1.70(t, J=7.3Hz, 4H), 2.88(t, J = 7.3Hz, 4H)
IR(neat) cm-1 571, 595, 692, 726, 955, 1136, 1404, 1466, 1803, 2855, 2928
【0036】
以上の反応式を以下に示す。
【化6】

【0037】
反応容器(200mlナスフラスコ)は、予め真空化加熱し禁水条件にて行い、また反応溶媒も乾燥したものを用いた。DABCOは、エーテルで再結晶することにより精製したものを用いた。DABCO 0.10g(0.31mmol)のTHF(60ml)溶液0.07Mを40℃に昇温する。酸クロリド(38)0.100gのTHF溶液(酸クロリド0.31mmol/THF3.5ml)0.09Mをマイクロフィーダーにより四時間かけて滴下した。滴下後、30分撹拌し、塩酸により中和した。エーテル抽出を行い硫酸マグネシウム乾燥後、濾過し硫酸マグネシウムを除去し、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/ヘキサン1:1,100倍)を行い、β-ラクトン(化合物41)を0.054g(Y.70%)で得た。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 0.85-2.41(m, 24H), 4.05(bs, 1H), 4.68(dd, J=10.6,4.0Hz, 1H)
【0038】
β-lactone 0.054g(0.25mmol)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム,50倍)を数回行うことで、エキザルトン(化合物2)を0.054g(Y.96%)で得た。
1H-NMR(CDCL3) δ ppm 1.30(m, 20H), 1.65(t, J=7.3Hz, 4H), 2.42(t, J = 7.3Hz, 4H)
IR(neat) cm-1 711, 734, 1079, 1127, 1153, 1215, 1286, 1368, 1409, 1460, 1712, 2856, 2934
【0039】
以上の反応式を以下に示す。
【化7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
CHCH=CHCHCHCH
(式中、Rは炭素数2以上の炭化水素基を表す。)で表される線状化合物を水素化し、これにハロゲン化剤を作用させて酸ハロゲン化物へ誘導してβ−ラクトンを生成させ、このβ−ラクトンを酸性条件で脱炭酸することから成る環状化合物を製造する方法。
【請求項2】
請求項の製造方法において、前記R
−(CHOY
(式中、Yは水素原子又は水酸基の保護基を表す。)であるエキザルトンを製造する方法。
【請求項3】
前記線状化合物が、一般式
【化1】

(式中、Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、炭化水素基を表し、Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子又は炭化水素基を表し、Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、炭化水素基又はハロゲン原子を表し、Xは、それぞれ同じであっても異なってもよく、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。)で表される錯体を触媒として、一般式
CH=CHCH
(式中、Rは炭素数2以上の炭化水素基を表す。)で表される末端オレフィンを二量化することにより製造される請求項に記載のエキザルトンを製造する方法。
【請求項4】
前記Rがアルキル基、Rがハロゲン原子、Xがハロゲン原子を表す請求項に記載の方法。
【請求項5】
ムスコンの製造のための請求項2〜4のいずれか一項で製造したエキザルトンの使用。

【公開番号】特開2012−25758(P2012−25758A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190250(P2011−190250)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【分割の表示】特願2005−217152(P2005−217152)の分割
【原出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】