説明

環状化合物を含む製剤

本発明は、式(I)(式中、各構成単位中のA、Bはそれぞれ、炭素数kのアルカン−i,j−ジイル(i及びjはそれぞれk以下であり、且つkは1〜10から選択される)であり、当該アルカン−i,j−ジイルは、(i)1又は複数の二重結合を含んでもよく、(ii)任意選択で置換され、且つ/又は(iii)環を含み、環状化合物中の環状糖である環の合計数は0〜4から選択され、且つp・(n+m)未満であり、各構成単位中のX、Yはそれぞれ、少なくとも1個の酸素原子又は2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基であり、n、mは互いに独立して、0〜20から選択され、pは1〜10から選択され、n+mは1以上であり、且つp・(n+m)は3〜30から選択される)の環状化合物の医薬組成物又は診断用組成物の製造における使用であって、前記医薬組成物又は前記診断用組成物は1又は複数のプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質をさらに含み、前記化合物はプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能であり、上記活性物質の(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は(c)安定性が改善される、環状化合物の使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
(式中、各構成単位中のA、Bはそれぞれ、炭素数kのアルカン−i,j−ジイル(i及びjはそれぞれk以下であり、且つkは1〜10から選択される)であり、当該アルカン−i,j−ジイルは、(i)1又は複数の二重結合を含んでもよく、(ii)任意選択で置換され、且つ/又は(iii)環を含み、環状化合物中の環状糖である環の合計数は0〜4から選択され、且つp・(n+m)未満であり、各構成単位中のX、Yはそれぞれ、少なくとも1個の酸素原子又は2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基であり、n、mは互いに独立して、0〜20から選択され、pは1〜10から選択され、n+mは1以上であり、且つp・(n+m)は3〜30から選択される)の環状化合物の医薬組成物又は診断用組成物の製造における使用であって、前記医薬組成物又は前記診断用組成物は1又は複数のプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質をさらに含み、前記環状化合物はプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能であり、上記活性物質の(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は(c)安定性が改善される、環状化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
本明細書では、特許出願及び製造者マニュアルを含む多くの文献を引用する。これらの文献の開示内容は、本発明の特許性に関連があるとは考えられないが、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0005】
ペプチド性又はタンパク質性を有する薬物はますます多くなっている。こうした薬物は、場合によっては有効期間が制限され、且つ/又はそれらの投与を侵襲的にしか行うことができない。静脈内投与は肝臓において薬物の著しい分解を伴うことが多い。この分解は、仮に肝臓の分解系を避ける形で薬物を輸送することができれば回避することができる。さらに、非侵襲的な投与の方が煩雑でなく、患者及び医療スタッフにとって好都合である。しかしながら、多くの薬物(特にペプチド及びタンパク質)は静電荷を保有するため、例えば、経口経路、口腔内経路、舌下経路、経鼻経路、経肺経路、皮膚経路又は経皮経路による非侵襲的な投与が不可能になっている。静電荷が存在するために、細胞膜がこれらの薬物にとって乗り越えられない障壁になっている。電荷を除去するための共有結合修飾には、ポリペプチド構造の誤った折畳み等、有害な効果がある可能性がある。共有結合修飾の他の欠点は、当該修飾によって、承認されている薬物とは異なる化合物が得られることである。
【0006】
環状ポリエステル(ポリラクトン)は、陽イオンイオノフォアとして文献公知である。例えば、ノナクチン及びテトラナクチンは、金属イオンを配位するマクロテトロリド抗生
物質である。他のタイプの環状ポリエステル(ポリグリコール酸エステル又はポリ乳酸エステル)が非経験的分子軌道計算によって研究されており、ユニットの数(環の大きさ)に応じて、ある選択性である特定の陽イオンを収容することが見出されている(McGeary及びBruget(2000)、Lifson他(1983)、Lifson他(1984))。
【0007】
グリコール酸及び乳酸を含むある特定のα−ヒドロキシ酸の合成ポリマー及び合成コポリマーは、外科手術及びインプラントで使用するための生分解性の可塑性材料として記載されている。広範な使用を享受する具体例としては、直鎖ポリマーである、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)が挙げられる。特に、PLGAは、その生分解性及び生体適合性から治療用機器のホストに使用される、米国食品医薬品局(FDA)承認のコポリマーである。
【0008】
特許文献1には、乳酸の環状ポリマー又は環状オリゴマー及びそれらの合成が記載されている。
【0009】
環状ポリエーテルが陽イオンと錯形成することは文献公知である。例えば、18−クラウン−6は、Na+、K+及びNH4+を含む多くの陽イオンと錯形成することが知られている環状ポリエーテルである。
【0010】
ポリエチレングリコール(PEG)の合成ポリマー及び合成コポリマーは、治療用のペプチド及びタンパク質並びに活性成分のビヒクル及び製剤化剤の生物薬剤学的特性を増強するために使用されている。
【0011】
Popescu等(非特許文献1)は、スルホンアミドスルファジミジンの無機塩(Na+、K+)とバリノマイシン又はある特定のクラウンエーテルとを錯形成させることにより、スルファジミジンがクロロホルム障壁を通じて様々な程度で輸送されることを報告している。しかし、Popescu他は、生体膜を透過するスルファジミジンの輸送の増強については実証していない。また、極めて人工的な、すなわち、酸性(pH=1又は6)の受容相(クロロホルム障壁の後ろの水相)が使用されている。
【0012】
上記を鑑みると、薬物(特に、ペプチド性薬物又はタンパク質性薬物)を修飾して、それらの製剤及びそれに関連したそれらの投与特性を増強する必要性が満たされていない。「投与特性」という用語は、所定の製剤中の所定の活性物質の利用可能な投与経路を含むこととする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1219616号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Revue Roumaine de Chimie 43, 1059-1064(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在利用可能な手段が限られているため、本発明の根底にある技術的課題は、医薬活性物質又は診断用活性物質の製剤特性を修飾する手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、式(I):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、各構成単位中のA、Bはそれぞれ、炭素数kのアルカン−i,j−ジイル(i及びjはそれぞれk以下であり、且つkは1〜10から選択される)であり、当該アルカン−i,j−ジイルは、(i)1又は複数の二重結合を含んでもよく、(ii)任意選択で置換され、且つ/又は(iii)環を含み、環状化合物中の環状糖である環の合計数は0〜4から選択され、且つp・(n+m)未満であり、各構成単位中のX、Yはそれぞれ、少なくとも1個の酸素原子又は2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基であり、n、mは互いに独立して、0〜20から選択され、pは1〜10から選択され、n+mは1以上であり、且つp・(n+m)は3〜30から選択される)の環状化合物の医薬組成物又は診断用組成物の製造における使用であって、前記医薬組成物又は前記診断用組成物は1又は複数のプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質をさらに含み、前記環状化合物はプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能であり、上記活性物質の(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は(c)安定性が改善される、環状化合物の使用に関する。
【0019】
式(I)の曲線は、Aの最初の残基とYの最後の残基とを共有結合で接続する1個の単結合を表す。「最初の残基」及び「最後の残基」という用語はそれぞれ、式(I)の化合物の非環状相当部(式[−(−A−X−)n−(−B−Y−)m−]p−)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ポリ乳酸6量体と錯形成した(ポリ)ペプチドの経粘膜輸送を示す模式図である。
【図2−1】本発明のポリエステル及びポリアミドの例を示す図である。
【図2−2】本発明のポリエステル及びポリアミドの例を示す図である。
【図3】ペプチド上のアスパラギン酸及びグルタミン酸のカルボン酸のエステル化を示す模式図である。
【図4】小分子と環状ポリエステルとの錯形成を示す図である。(A)小分子のカリウム塩、ここでは、カリウムイオンが環状ポリエステルと錯体を形成する。(B)小分子のリシン塩、ここでは、リシンのプロトン化第1級アミノ基が環状ポリエステルと錯体を形成する。
【図5】左パネル:水及びアセトニトリル中に溶解したM8(標準)を示す図である。HPLCは、元のメチオニン酸化に起因する2個のピークを示す。右パネル:環状エサグリシンとのM8錯体を示す図である:(A)(固体の)遠心分離された物質を除去した後のメタノール溶液、(B)水/アセトニトリル中に再溶解した遠心分離後の物質。実験A及び実験Bでは共に、等量の溶液を注入した。
【図6】ノナクチンと錯形成したケモカインRANTESのHPLCトレースを示す図である。
【図7】Caco−2細胞を透過するインスリン輸送を示す図である。受容チャンバ中のインスリンのHPLCトレース。受容チャンバがCaco−2細胞を通って出てくる溶液を回収する。
【図8】血漿中でのオキソクラウンエーテルの安定性試験を示す図である。
【図9−1】マウスにおけるインスリン舌下輸送時の血糖レベルの測定結果を示す図である。IP ITT=注射によって得られた標準インスリンの効果。SubL1 ITT:舌下投与による用量1。SubL2 ITT:舌下投与による用量2。
【図9−2】マウスにおけるインスリン舌下輸送時の血糖レベルの測定結果を示す図である。IP ITT=注射によって得られた標準インスリンの効果。SubL1 ITT:舌下投与による用量1。SubL2 ITT:舌下投与による用量2。
【図10】Caco−2細胞を透過するリポソームでのインスリン輸送を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
「アルカン−i,j−ジイル」という用語は、炭素原子に2個の自由原子価i及びjを有するアルカンに関する。好ましいアルカン−i,j−ジイルを、対応するモノマーに関して以下に開示する。
【0022】
本発明による化合物は、以下の方法のいずれか1個で特徴付けられることとする。第1に、官能基X及びYによって連結される構成単位A及びBで特徴付けることができる。第2に、また上記官能基X、Yが、例えば、エステル基(−C(=O)−O−)又はアミド基(−C(=O)−NH−)であると規定すると、本発明による化合物は、当該化合物を生じるモノマーで特徴付けることができる。さらに説明すると、モノマーとしては、ヒドロキシ酸(ポリエステルの場合)及びアミノ酸(ポリアミドの場合)が挙げられる。構成単位A、B並びにヒドロキシ酸及びアミノ酸等のモノマーでの特性化の違いは、以下の通りである。モノマーは、これらの官能基、例えば、ヒドロキシ酸モノマーの場合、−COOH、−OH、アミノ酸モノマーの場合、−COOH、−NH2を含み、本発明の化合物を当該モノマーから形成する際、エステル又はアミド等の官能基X、Yを生じる。他方、構成単位A及びBは、官能基X、Yを含まない。結果として、乳酸のモノマーを含む環状ポリエステルは、モノマーである乳酸又はエタン−1,1−ジイルである構成単位A及び/又はBで特徴付けることができる。同様に、モノマーであるグリコール酸はその相当部が構成ブロックAにあり、且つ/又はメチレン(−CH2−)である。したがって、例示的な/好ましいkの値は2及び1である。
【0023】
上記モノマーからの本発明の化合物の形成は、重合と称され得る。「重合」という用語は、本明細書中で使用する場合、重縮合、すなわち、ポリマーの他に、水等の低分子量化合物が形成されるポリマーの形成を含む。さらに、本発明によるポリマー中のモノマーの数に下限はない。したがって、「ポリマー」又は「ポリ」という用語はそれぞれ、「オリゴマー」及び「オリゴ」を含む。
【0024】
好ましいアルカン−i,j−ジイルとしては、1,k−ジイル及びi=jのアルカン−i,j−ジイルが挙げられる。アルカン−i,j−ジイルの例は、上記エタン−1,1−ジイルである。
【0025】
「置換」という用語は、任意の置換基を含むこととする。好ましくは、「置換」は一置換を指す。アルカン−i,j−ジイル中で置換される好ましい炭素原子は、炭素原子i及び/又はjである。置換基は、存在する場合、アルカン−i,j−ジイルのk個の炭素原子の他にさらなる炭素原子を構成単位A又はBに導入することとする。本明細書に添付した図2において、置換基は「R」で示す。
【0026】
好ましい置換基としては、好ましくは炭素数1〜10の直鎖アルキル又は分枝アルキルが挙げられ、この直鎖アルキル置換基又は分枝アルキル置換基は任意選択で、1又は複数の−OH、−COOH及びハロゲンで置換される。さらに好ましい置換基としては、置換又は非置換のアリール又はヘテロアリールが挙げられる。好ましいアリール置換基は、フ
ェニル、4−メチルフェニル等のメチルフェニル及び4−ヒドロキシフェニル等のヒドロキシフェニルである。アルカン−i,j−ジイルのさらに好ましい置換基は、1又は複数の−OH、−COOH及びハロゲンである。
【0027】
「環」という用語は、ノナクチンの構成単位等、環状構造を含む構成単位を指す(下記参照)。モノマー中に存在する環の他の例は、環状糖又は環状糖誘導体である。本発明の環状糖としては、グルコピラノース等のピラノース及びフラノースが挙げられる。存在する場合、環状糖であるか、又は環状糖を含むモノマーの数は、本発明の化合物のモノマーの合計数未満である。より好ましくは、環状糖から成るか、又は環状糖を含むモノマーの数は、存在する場合、1、2又は3である。また、好ましくは、環状糖から成るか、又は環状糖を含む2個以下のモノマーが互いに直接連結し、ここで、この連結、すなわち、官能基X又はYはそれぞれ、グリコシド結合の−O−である。「糖誘導体」という用語は、1個、複数又はすべてのヒドロキシ基がアセチル化及び/又はアルキル化された糖を含む。
【0028】
アルカン−i,j−ジイルは環状であってもよいこととする。代替的には又はさらに、アルカン−i,j−ジイルの置換基が環状であってもよい。アルカン−i,j−ジイル及び置換基の両方の原子を含む環も想定される。
【0029】
「少なくとも1個の酸素原子又は2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基」という用語は、2個の類の官能基を指し、1個の類は酸素含有官能基の類であり、他の類は2個の硫黄原子を含むか、又は2個の硫黄原子から成る官能基の類であり、両方の類の官能基は、本発明の医薬組成物で治療するか、又は本発明の診断用組成物を使用して診断する生体に投与しても、有害反応又は副作用を引き起こさない。「生体適合性」という用語は、「概して安全と認められる(GRAS)」と同義である。生体適合性を評価する手段は、当該技術分野においてよく知られており、細胞系で実施されるin vitro試験、動物でのin vivo試験、及びヒトでの臨床試験を含み、ここでさらに詳述する必要はない。ある化合物が概して安全と認められる(GRAS)か否かを評価するための、規制当局により要求されるか、又は推奨される任意の試験は、好ましくは、酸素含有官能基(複数可)が生体適合性であるこれらの環状化合物の同定に用いられる。好ましくは、少なくとも1個の酸素原子を含む上記生体適合性官能基の酸素原子は、上記プロトン化第1級アミノ基、上記プロトン化第2級アミノ基又は上記プロトン化グアニジニウム基との錯体の形成に利用可能である。同様に、好ましくは、2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基の硫黄原子の一方又は両方が錯体形成に利用可能である。少なくとも1個の酸素原子を含む好ましい生体適合性官能基としては、エステル(−C(=O)−O−)、アミド(−C(=O)−NH−)、エーテル(−O−)、オキシム(−C=N−O−)、チオエステル(−C(=O)−S−及び−C(=S)−O−)、ヘミアセタール、アセタール及びスルホキシド(−S(=O)−)が挙げられる。より好ましくは、エステル(−C(=O)−O−)、アミド(−C(=O)−NH−)及びエーテル(−O−)である。2個の硫黄原子を含む好ましい生体適合性官能基は、ジスルフィド(−S−S−)及びジチオエステル(−C(=S)−S−)である。より好ましくは、ジスルフィド(−S−S−)である。生体適合性でない少なくとも1個の酸素原子を含む官能基としては、過酸化物が挙げられる。
【0030】
好ましい実施の形態において、Aのすべての残基は同一である。代替的には又はさらに、Bのすべての残基が同一であってもよい。Aのすべての残基が同一、例えば、エタン−1,1−ジイル等の基A1であり、且つBのすべての残基が同一、例えば、メチレン等の基B1である場合、構成単位の交互配列パターンが得られる。変数pは、本発明の化合物中での上記パターンの反復数を規定する。さらに、A及びBのすべての残基に対してA=Bを適用してもよい。
【0031】
同様に、Xのすべての官能基は同一であってもよい。代替的には又はさらに、Yのすべての官能基が同一であってもよい。さらに、X及びYのすべての官能基に対してX=Yを適用してもよい。
【0032】
p・(n+m)の値の3という下限は、少なくとも3個の酸素原子が本発明の化合物に含まれることを保証する。好ましくは、少なくとも4個の酸素原子が本発明の化合物に含まれる。これは、p・(n+m)の最小値を4にすることで達成することができる。p・(n+m)の好ましい範囲としては、3〜20、3〜10、4〜10及び4〜8が挙げられる。
【0033】
「環状化合物の使用」という語句は、1個の化合物の使用の他に、主な実施の形態で規定される2個以上の異なる化合物の使用も包含することとする。
【0034】
好ましい実施の形態において、上記環状化合物は、(i)環状ポリエステル、(ii)環状ポリアミド、(iii)環状ポリエーテル、(iv)環状ポリオキシム、(v)環状ポリチオエステル、(vi)アミノキシ酸の環状ポリマー、(vii)環状ポリジスルフィド及び(viii)(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物から選択される。より好ましくは、環状ポリエステル、環状デプシペプチド及び環状ポリエーテルである。さらにより好ましくは、環状ポリエステルである。
【0035】
本発明はまた、(i)環状ポリエステル、(ii)環状ポリアミド、(iii)環状ポリエーテル、(iv)環状ポリオキシム、(v)環状ポリチオエステル、(vi)アミノキシ酸の環状ポリマー、(vii)環状ポリジスルフィド及び(viii)(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物の医薬組成物又は診断用組成物の製造における使用であって、前記医薬組成物又は前記診断用組成物は1又は複数のプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質をさらに含み、前記環状ポリエステル、前記環状ポリアミド、前記環状ポリエーテル、前記環状ポリオキシム、前記環状ポリチオエステル、前記アミノキシ酸の環状ポリマー、前記環状ポリジスルフィド又は前記(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物は、前記プロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能であり、上記活性物質の(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は(c)安定性が改善される、使用に関する。
【0036】
「環状」という用語は、環を含有する本発明のポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアミド、デプシペプチド、ポリエーテル及びポリオキシム等の本発明の化合物を指す。ここでの場合のように、全体として本発明の化合物の特徴を示すために使用する場合、「環」という用語は、すべての官能基X及びYを含む環を指す。上記環を閉環する官能基は、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアミド、デプシペプチド、ポリオキシム又はポリエーテルとしての分類を生じる官能基と同一であってもよく又は異なっていてもよい。好ましくは、閉環する官能基は、上記分類を生じる官能基と同一であり、すなわち、環状ポリエステルの場合、対応する直鎖体を環状体に変換する場合に1個のさらなるエステル結合が形成される。「対応する直鎖体」という用語は、直鎖ポリマーを形成するために所定数のモノマーが相互に連結したポリマー又はオリゴマー(「ポリマー」という用語は、本明細書中で使用する場合、オリゴマーを含む)を指し、ここで、上記所定数は、本発明の環状化合物中のモノマーの数と同一である。すなわち、一方のモノマーの数及び他方のエステル官能基(環状ポリエステルの場合)、オルトエステル官能基(環状ポリオルトエステルの場合)、アミド官能基(環状ポリアミドの場合)の数又はエステル官能基及びアミド官能基の総数(環状デプシペプチドの場合)が同一である。
【0037】
「ポリマー」という用語は、構成単位からポリマーを形成する際、水等のさらなる分子(複数可)が形成されない、狭義のポリマー、すなわち、複数の構成単位、すなわち、1又は複数の種類から形成される分子(複数の種類から形成される場合、上記ポリマーはコポリマーとも称される)、及びその構成単位からポリマーを形成する際、ポリマーの他に、水等のさらなる分子(複数可)が形成される、重縮合物、すなわち、本発明によるポリマーの両方を含むこととする。
【0038】
「ポリエステル」という用語は、本明細書中で使用する場合、少なくとも2個のエステル官能基、すなわち、2個の−C(=O)−O−基を含む化合物に関する。環状エステルはラクトンとも称される。ポリエステル及びデプシペプチド(下記参照)の構成単位はそれぞれ、ヒドロキシ酸であるか、又はヒドロキシ酸を含む。本発明による好ましい構成単位又はモノマーは、α−ヒドロキシ酸及びβ−ヒドロキシ酸である。また、炭素数が10までのヒドロキシ酸が好ましく、10未満の任意の数が本発明の範囲に明確に含まれる。したがって、好ましいα−ヒドロキシ酸としては、炭素数が2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10のα−ヒドロキシ酸又は炭素数が20までのα−ヒドロキシ酸が挙げられる。好ましいβ−ヒドロキシ酸としては、炭素数が3、4、5、6、7、8及び9のβ−ヒドロキシ酸が挙げられる。具体的な好ましいα−ヒドロキシ酸は、グリコール酸、乳酸、α−ヒドロキシ−n−酪酸、α−ヒドロキシ−n−ペンタン酸及びα−ヒドロキシ−n−ヘキサン酸である。好ましいβ−ヒドロキシ酸としては、β−ヒドロキシプロピオン酸、β−ヒドロキシ−n−酪酸、β−ヒドロキシ−n−ペンタン酸及びβ−ヒドロキシ−n−ヘキサン酸が挙げられる。β−ヒドロキシ−i−酪酸及びα−ヒドロキシ−i−ペンタン酸等の分枝アルキル側鎖を有するヒドロキシ酸、並びにヒドロキシアルキル側鎖を有するヒドロキシ酸も想定される。好ましくは、上記ヒドロキシアルキル側鎖は、末端ヒドロキシ基を保有する。本発明のかかる環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド、環状デプシペプチド、環状ポリエーテル及び環状ポリオキシムは、エステル化による誘導体化等、さらなる利用のために、側鎖に1又は複数の遊離のヒドロキシル部分を保有してもよい。さらに、芳香族側鎖を有するヒドロキシ酸が想定される。芳香族側鎖を有するヒドロキシ酸としては、フェニル基で置換される上述の脂肪族酸の任意のものが挙げられる。フェニル基も置換されてもよい。例は、2−フェニル−2−ヒドロキシ酢酸(マンデル酸)である。本発明による環状ポリエステルは、一種類のモノマーから成ってもよく、又は複数種類のモノマーから成ってもよい。上記複数は、例えば、複数のα−ヒドロキシ酸であってもよく、又はα−ヒドロキシ酸及びβ−ヒドロキシ酸の混合物であってもよい。好ましい実施の形態では、α−ヒドロキシ酸及びβ−ヒドロキシ酸が交互に配列する。
【0039】
ポリエステルは、ヒドロキシ酸の重合から生じ得ることとする。代替的には、ポリエステルは、ジアルコールと二酸との重合から生じ得る。同じことが、本発明のポリアミド及びデプシペプチドにも準用される。
【0040】
「オルトエステル」という用語は、本明細書中で使用する場合、3個のアルコキシ基と連結した炭素原子を含む化合物に関する。したがって、ポリオルトエステルは、少なくとも2個のかかる官能基を含む化合物である。環状ポリオルトエステルは、環状ポリエステルの原子価互変異性体である(McGeary及びBruget(2000)を参照されたい)。両方の互変異性型が本発明の実施に好適である。さらに、「ポリオルトエステル」という用語は、本発明の「ポリエステル」という用語に包含されることとする。
【0041】
本発明による「ポリチオエステル」という用語は、少なくとも2個のチオエステル官能基、すなわち、(i)少なくとも2個の−C(=O)−S−基、(ii)少なくとも2個の−C(=S)−O−基又は(iii)少なくとも1個の−C(=O)−S−基及び少なくとも1個の−C(=S)−O−基を含む化合物を指す。
【0042】
環状ポリジチオエステルである本発明の環状化合物も想定される。「ポリジチオエステル」という用語は、本明細書中で使用する場合、少なくとも2個のジチオエステル官能基(−C(=S)−S−)を含む化合物を指す。
【0043】
本発明による「ポリアミド」という用語は、少なくとも2個のアミド官能基、すなわち、2個の−C(=O)−NH−基を含む化合物を指す。環状アミドはラクタムとも称される。アミド結合は、特に、ペプチドに関する文脈では、ペプチド結合とも称される。本発明による環状ポリアミドの好ましい構成単位又はモノマーは、α−アミノ酸及びβ−アミノ酸である。また、デプシペプチド(下記参照)は、α−アミノ酸を含む。さらに好ましくは、炭素数が10までのアミノ酸であり、10未満の任意の数が本発明の範囲に明確に含まれる。したがって、好ましいα−アミノ酸としては、炭素数が2、3、4、5、6、7、8、9又は10のα−アミノ酸が挙げられる。好ましいβ−アミノ酸としては、炭素数が3、4、5、6、7、8及び9のβ−アミノ酸が挙げられる。具体的な好ましいα−アミノ酸は、天然アミノ酸である。特に好ましいα−アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン及びフェニルアラニンである。1又は複数の残りの天然アミノ酸の残基(例えば、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン)も適宜、意図的に想定される。さらなるα−アミノ酸は、α−アミノ酪酸及びα−アミノ−i−酪酸である。好ましいβ−アミノ酸としては、β−アラニンが挙げられる。さらに、γ−アミノ酪酸を、単独で使用してもよく、又は本発明の環状ポリアミド又は環状デプシペプチド中のモノマーの1個として使用してもよい。本発明による環状ポリアミドは、一種類のモノマーから成ってもよく、又は複数種類のモノマーから成ってもよい。上記複数は、例えば、複数のα−アミノ酸であってもよく、又はα−アミノ酸及びβ−アミノ酸の混合物であってもよい。好ましい実施の形態では、α−アミノ酸及びβ−アミノ酸が交互に配列する。
【0044】
「ポリアミド」という用語は、モノマーがα−アミノオキシ酸及びβ−アミノオキシ酸(例えば、Yang他 J. Am. Chem. Soc, 2002, 124, 12410-12411参照)である本発明の化合物及び関連化合物も含む。
【0045】
「デプシペプチド」という用語は、当該技術分野において既知であり、本明細書中では、α−ヒドロキシ酸及びα−アミノ酸を含むか、又はα−ヒドロキシ酸及びα−アミノ酸から成る化合物を指し、これらは、α−ヒドロキシ酸のヒドロキシ基とヒドロキシ酸又はアミノ酸のいずれかのカルボキシル基とがエステル結合によって、また、α−アミノ酸のアミノ基とヒドロキシ酸又はアミノ酸のいずれかのカルボキシル基とがアミド結合によって互いに連結する。デプシペプチド中に、二種類以上のα−ヒドロキシ酸及び/又はα−アミノ酸が存在してもよい。他方で、一種類のみのα−ヒドロキシ酸及び/又は一種類のみのα−アミノ酸が存在するデプシペプチドも本発明の範囲に含まれる。α−ヒドロキシ酸モノマー及びα−アミノ酸モノマーが交互に配列してもよい。厳密に交互になっている配列は、本発明の環状デプシペプチド中のモノマーが偶数であることを意味する。代替的には、複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9個以上)のα−ヒドロキシ酸モノマーから成る1又は複数のエステル結合で繋がった部分に引き続いて、複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9個以上)のα−アミノ酸から成る1又は複数のアミド結合で繋がった部分が存在してもよい。好ましいα−アミノ酸及びα−ヒドロキシ酸は、本明細書の上記に記載されている。
【0046】
「ポリエーテル」という用語は、少なくとも2個のエーテル官能基を含む化合物を指す。エーテル官能基は−O−で表され、ここで、酸素原子に直接隣接する炭素は、ヘテロ原子で置換されていない。例えば、PEGのような生体適合性ポリマーが、「ポリエーテル」という用語に包含されるものとする。
【0047】
「ポリオキシム」という用語は、少なくとも2個のオキシム官能基(−C=N−O−)を含む化合物を指す。環状ポリオキシムの例を図2に示す。
【0048】
本発明の環状化合物のさらに好ましい類は、アミノキシ酸、好ましくはα−アミノキシ酸の環状ポリマーである。アミノキシ酸の環状ポリマー中の酸素含有官能基は、−C(=O)−NH−O−又は−C(=O)−N(OH)−である。官能基が−C(=O)−N(OH)−であるアミノキシ酸のポリマーは、ポリヒドロキサム酸とも称される。
【0049】
本発明の環状化合物の別の好ましい類は、環状ポリジスルフィドである。「ポリジスルフィド」という用語は、本明細書中で使用する場合、少なくとも2個のジスルフィド官能基(−S−S−)を含む化合物を指す。例を図2に示す。ジスルフィドは、グルタチオン及び他の内因性メルカプタン等、ヒト又は動物の体内に元々存在する還元剤によってin
vivoでの生理的条件下で可逆性/分解性であることが知られている。
【0050】
「ポリエステル」、「ポリアミド」、「ポリエーテル」、「ポリオキシム」及び「アミノキシ酸の環状ポリマー」という用語は、すべての残基に対してX=Y=エステル(ポリエステルの場合)、すべての残基に対してX=Y=アミド(ポリアミドの場合)等である本発明の化合物を含む。X及びYの両方のすべての残基の大多数、すなわち、50%超がそれぞれ、エステル(ポリエステルの場合)、アミド(ポリアミドの場合)、エーテル(ポリエーテルの場合)又はオキシム(ポリオキシムの場合)である化合物も含まれる。したがって、合計k個の官能基(X、Y)のうち、k−1個の官能基が1個の特定の種類(エステル等)であり、1個の官能基が異なる種類(アミド等)である化合物も含まれる。すなわち、本発明の環状化合物の好ましい類は、単一のアミド結合が単一のエステル結合に置き換わることによりモノアミド環状ポリエステルが生じる、環状ポリエステルである。さらに好ましい実施の形態において、環状ポリエステルは、α−ヒドロキシ酸によって構成され、単一のアミド結合(CO−NH−)がエステル結合(CO−O−)を1個のみ置き換える。さらに好ましい実施の形態において、環状ポリエステルは、α−ヒドロキシ酸から構成され、単一のアミノ酸を使用して、単一のα−ヒドロキシ酸を置き換える。環状構造ですべてのポリエステル結合の主な特徴を維持するかかる環状化合物の類は、優れた収率でより容易に合成及び製造することができる。このタイプの環状化合物の別の例は、図2の右下に示す化合物等のモノオキソクラウンエーテルである。かかる化合物は、k−1個のエーテル基及び1個のエステル基を有する。
【0051】
「(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物」という用語は、ポリエステル・エーテル、デプシペプチド、ポリエステル・オキシム及びポリアミド・エステル等を含む。上記「(i)〜(iv)の2個以上に属する環状化合物」の好ましい実施の形態は、Peg−ポリエステル(モノオキソPEG及びジオキソPEGを含むオキソPEGとも称される、図2も参照されたい)である。かかる実施の形態において、それぞれ2個の末端にヒドロキシル基及びカルボキシル基を有するPeg又はポリエーテルを含むか、又はこれから成る少なくとも2個のオリゴマーは、少なくとも2個のエステル結合を形成することによって共に単一の環状構造(環状ポリエーテル・エステル(poly-ether-co-esters))に縮合する。かかる環状化合物の例は、特開昭55−143981号公報(岡原光男;松嶋健児)中に見出すことができる(K. Matsushima, N. Kawamura, Y. Nakatsuji及びM. Okahara(1982), Bull. Chem. Soc. Jpn, 55, 2181-2185も参照されたい)。さらに好ましい実施の形態において、本発明の環状化合物は、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリオキシム及びアミノキシ酸の環状ポリマーの2個以上に属する環状化合物である。この実施の形態において、X又はYの1又は複数の残基は、−C(=O)−NH−O−である。
【0052】
本明細書の上記で規定したようなポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリオキシム及び(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物の好ましいモノマー、すなわち、好ましいヒドロキシ酸及び好ましいアミノ酸等は、同時に、主な実施の形態の好ましい構成単位A、Bを規定することとする。ヒドロキシ基及びカルボン酸基を上記で開示したヒドロキシ酸から除去することによって、位置i及びjがヒドロキシ基及びカルボン酸基の位置である、アルカン−i,j−ジイルが得られる。同様に、アミノ基及びカルボン酸基を上記で開示したアミノ酸から除去することによって、位置i及びjがアミノ基及びカルボン酸基の位置である、アルカン−i,j−ジイルが得られる。概して、主な実施の形態においてX、Yで示される官能基を生じる上記モノマー上に存在するこれらの官能基を除去することによって(例えば、−OH及び−COOHは、−C(=O)−O−を生じ、−NH2及び−COOHは、−C(=O)−NH−を生じる)、上記アルカン−i,j−ジイルが得られる。得られたアルカン−i,j−ジイルは、本発明の環状化合物中の任意の生体適合性の酸素含有官能基X又はYと結合し得る構成単位A又はBを提供する。さらに、主な実施の形態と一致して、上記アルカン−i,j−ジイルは、1又は複数の二重結合を含んでもよく、上記で規定したように置換してもよく、且つ/又は上記で規定したように環を含んでもよいこととする。
【0053】
「錯体」及び「錯形成」という用語は、当該技術分野においてよく知られており、非共有化学結合による分子、原子又はイオンの可逆的会合を指す。通常、2個の相互作用パートナー、複数の官能基を有する錯化剤、及び当該複数の官能基によって結合する小分子、原子又はイオンが含まれる。本明細書中で使用する場合、「錯体」という用語は、錯化剤と結合した金属イオンに限られない。「錯体」という用語は概して、本発明の化合物と陽イオン又は陽イオン性基との錯体に関する。本発明の環状化合物は、錯体形成に利用可能な酸素を含有する官能基を提供する。酸素原子の例は、本発明の環状ポリエーテル中のエーテル酸素である。本発明の環状ポリエステル、環状ポリアミド及び環状デプシペプチドは、錯体形成に関与する官能基として(アミド官能基及びエステル官能基の一部である)カルボニル基を提供する。本発明の環状ポリオルトエステルは、錯体形成に関与する官能基として(当該ポリオルトエステル中のアルコキシ基の一部である)酸素原子を提供する。
【0054】
本発明の有利な効果、すなわち、本発明の環状化合物と錯形成する活性物質の経膜輸送及び/又は経粘膜輸送、非水性溶媒への溶解度及び/又は安定性の改善が、小分子である活性物質に関して観察されるだけでなく、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質である活性物質に関しても観察されることが分かる。このことが特に驚くべきことであるのは、完全に異なる機構又は効果がいずれかの場合の上記改善を担っているためである。小分子の場合、本発明の環状化合物との錯形成により、典型的には、上記小分子は実質的に遮蔽される。これは、上記小分子が大きさに応じて、別の小分子(医薬活性物質)と錯形成する小分子(環状化合物)であるためである。さらに、小分子は、それらの大きさが小さいことから(例えば、500ダルトン以下の範囲)、傍細胞機構を通じて、すなわち、組織を構成する細胞間の小孔又はチャネルを通じて吸収される可能性もある。さらに、問題の小分子が顕著な疎水性を含む他の具体的な特徴を保有し、分子は、経細胞経路で、すなわち、受動吸収によっても吸収される。さらに、例えば、経膜輸送及び/又は経粘膜輸送を損なう上記小分子の任意の特性、特に物理化学的特性は、錯形成が、大きさの類似性に起因して本質的に小分子全体の遮蔽を伴うため、錯形成するとあまり関係なくなる。
【0055】
他方、例えば、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質等の生体高分子の場合、ポリペプチド又はタンパク質の大きさが概して上記環状化合物の大きさを著しく超過するため、本発明の環状化合物による分子全体の遮蔽は典型的には起こらないが、それにもかかわらず上記改善が依然として起こる。驚くべきことに、膜を透過することが知られている小分子とは違って、逆に膜を透過しないことが知られている上記ペプチド、ポリペプチド又は
タンパク質上の電荷を局所的に遮蔽すれば、上記改善をもたらすのに十分であることが分かる。驚くべきことに、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質全体を全体的に遮蔽しても、上記改善が達成される際の大きな駆動力にはならないことが分かる。
【0056】
本発明の使用及び方法は、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアミド、デプシペプチド、ポリエーテル及びポリオキシム等、2個以上の類の化合物から選択される環状化合物の混合物を使用して行ってもよい。代替的には、環状ポリエステルのみ又は環状ポリオルトエステルのみ又は環状ポリアミドのみ又は環状デプシペプチドのみ又は環状ポリエーテルのみ又は環状ポリオキシムのみ等、1個の特定の類の化合物のみを使用してもよい。この場合、例えば、上記ポリエステルは、異なるポリエステルの混合物であってもよく、上記ポリオルトエステルは、異なるポリオルトエステルの混合物であってもよく、上記ポリアミドは、異なるポリアミドの混合物であってもよく、上記デプシペプチドは、異なるデプシペプチドの混合物であってもよい。好ましくは、1個の化学種のみ、すなわち、特定のポリエステル、特定のポリオルトエステル、特定のポリアミド又は特定のデプシペプチドを使用する。
【0057】
本発明の化合物が上記プロトン化第1級アミノ基若しくは上記プロトン化第2級アミノ基又は上記プロトン化グアニジニウム基と錯体を形成する能力は、当業者によって直接的に求めることができる。
【0058】
好適なアッセイは、ペプチド又はタンパク質(例えば、インスリン又はエリスロポエチン)等の活性物質の、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール又はジクロロメタン)への溶解度の評価を含む。第1の実験では、有機溶媒へのペプチド又はタンパク質の溶解度を求める。第2の実験では、3倍モル過剰〜10倍モル過剰、より好ましくは3倍モル過剰〜5倍モル過剰の、環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド、環状デプシペプチド、環状ポリエーテル又は環状ポリオキシム等の本発明の化合物を、有機溶媒と共にペプチド又はタンパク質に添加する。「モル過剰」という用語は、ペプチド又はタンパク質のプロトン化第1級アミノ基、プロトン化第2級アミノ基及びプロトン化グアニジニウム基の量を超える環状化合物の量を指す。本発明の環状化合物が存在しない場合、ペプチド/タンパク質は、懸濁液、コロイド状懸濁液又は粒子状の析出物を生じる。同じことが、上記ペプチド又は上記タンパク質と、プロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが不可能である環状化合物との混合物にも当てはまる。他方、プロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能である環状化合物は、ペプチド/タンパク質の清澄な有機溶媒溶液を生じる。
【0059】
アッセイのさらなる実施の形態において、いずれかの実験で依然として存在する任意の不溶性物質は、遠心分離によって除去することが可能であり、溶液中のペプチド/タンパク質の濃度は、引き続いて当該技術分野において既知の手段によって求められる。かかる手段としては、遠心分離由来の上清のHPLC分析、及びクロマトグラムにおけるペプチド/タンパク質ピークの面積を求めることによるペプチド又はタンパク質の定量が挙げられる。
【0060】
上記錯体の解離定数KDは、好ましくは10-3未満、より好ましくは10-4、10-5又は10-6未満である。
【0061】
「医薬活性物質」という用語は、医薬効果を惹起することが可能である任意の物質を指す。「薬物」という用語が本明細書中では等価に使用される。本発明による医薬組成物は、1又は複数の医薬活性物質を含み得る。好ましい医薬活性物質は、ペプチド、ポリペプ
チド、タンパク質、抗体及び小分子、特に小有機分子である。「(ポリ)ペプチド」という用語は、本明細書中では、ペプチド及びポリペプチドの両方を指すために使用される。(ポリ)サッカライド又は核酸である医薬活性物質も含まれる。好ましいポリサッカライドは、以下でさらに説明するヘパリン等の1又は複数のスルホン酸基(−SO3-)を有するポリサッカライドである。医薬活性物質が核酸である場合、負に荷電したリン酸の対イオンの正電荷を遮蔽するために、環状化合物を使用することが想定される。上記(正に荷電した)対イオンとしては、アンモニウム、リシン等のアミノ酸及びそれらの誘導体、並びに金属イオンが挙げられる。リン酸をアルキルアミノ基又はアルキルグアニジノ基でエステル化した核酸も含まれる。本発明による核酸としては、cDNA又はゲノムDNA等のDNA及びRNAが挙げられる。「RNA」という用語は、本明細書中で使用する場合、mRNA、ncRNA(非コード化RNA)、tRNA及びrRNAを含むRNAのすべての形態を含むこととする。「非コード化RNA」という用語は、siRNA(低分子干渉RNA)、miRNA(マイクロRNA)、rasiRNA(反復配列関連低分子干渉RNA)、snoRNA(核小体低分子RNA)及びsnRNA(核内低分子RNA)を含む。
【0062】
好ましい核酸は低分子干渉RNAである。場合によっては短鎖干渉RNA又はサイレンシングRNAとして知られている「低分子干渉RNA」(siRNA)という用語は、生物学や拡張分野、及び種々の疾患及び病態の治療において種々の役割を果たす、概して短鎖及び二本鎖のRNA分子の類を指す。最も顕著には、siRNAは、siRNAが特定の遺伝子の発現に干渉するRNA干渉(RNAi)経路に関与する(例えば、Zamore Nat
Struct Biol 2001, 8(9):746-50、Tuschl T. CHEMBIOCHEM. 2001, 2:239-245、Scherr及びEder, Cell Cycle. 2007 Feb;6(4):444-9、Leung及びWhittaker, Pharmacol Ther. 2005 Aug;107(2):222-39、de Fougerolles他, Nat. Rev. Drug Discov. 2007, 6: 443-453を参照されたい)。
【0063】
「診断用活性物質」という用語は、診断方法を実践するのに好適な任意の物質を指す。例としては、その有無又は量を求める標的分子と結合するペプチド、ポリペプチド、抗体又は小有機分子が挙げられる。標的分子もまた、健康状態及び/又は病的状態のヒト又は動物の体内に存在する任意の分子であり得る。「標的分子」という用語は、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を含む。好ましくは、上記診断用活性物質は、検出可能に標識される。
【0064】
「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体又はそれらのフラグメントを含み、二重特異性抗体、合成抗体、抗体フラグメント(例えば、Fabフラグメント、F(ab2)’フラグメント、Fvフラグメント若しくはscFvフラグメント等)又はこれらのうちいずれかの化学修飾誘導体も含まれる。本発明に従って用いる抗体又はそれらの対応する免疫グロブリン鎖(複数可)はさらに、当該技術分野において既知の従来技法、例えば、当該技術分野において既知のアミノ酸の欠失(複数可)、挿入(複数可)、置換(複数可)、付加(複数可)及び/若しくは組換え(複数可)並びに/又は任意の他の修飾(複数可)を単独で又は組み合わせて使用することによって修飾することができる。免疫グロブリン鎖のアミノ酸配列の根底にあるDNA配列にかかる修飾を導入する方法は、当業者にはよく知られており、例えば、Sambrook著「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989を参照されたい。
【0065】
また、「モノクローナル」又は「ポリクローナル抗体」という用語(Harlow及びLane(1988)、上掲書を参照されたい)は、それらの結合特異性を保持するか、又は本質的に保持する上記抗体の誘導体に関する。
【0066】
「scFvフラグメント」(単鎖Fvフラグメント)という用語は当該技術分野において十分に理解されており、その大きさが小さく、且つかかるフラグメントを組換えで生成することができるため好ましい。
【0067】
本発明の使用又は方法の特に好ましい実施の形態において、上記抗体又は上記抗体結合部分は、ヒト抗体若しくはヒト化抗体であるか、又はヒト抗体若しくはヒト化抗体に由来する。
【0068】
「ヒト化抗体」という用語は、本発明によれば、可変領域中の少なくとも1個の相補性決定領域(CDR)(CDR3及び好ましくは6個すべてのCDR等)が、所望の特異性を有するヒト由来の抗体のCDRで置き換えられている非ヒト由来の抗体を意味する。任意選択で、抗体の非ヒト定常領域(複数可)は、ヒト抗体の定常領域(複数可)で置き換えられている。ヒト化抗体の製造方法は、例えば、欧州特許出願公開第0239400号明細書及び国際公開第90/07861号パンフレットに記載されている。
【0069】
「小分子」という用語は、本明細書中で使用する場合、以下に列記する物質を含むが、ここでは、対応する医療適用も提示する:(a)合成及び天然の抗生物質:ピリドン環の誘導体(ナリジクス酸、オキソリン酸)、ペニシリン誘導体(ベンジルペニシリン、フェノキシメチルペニシリン、メチシリン、オキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、ピバムピシリン、タランピシリン、カルベニシリン、チカルシリン)、セファロスポリン誘導体(セファロスポリンC、セファログリシン、セフォタキシム、セフメタゾール、セフラジン、セファレキシン、セファロチン、セファロリシン、セファゾリン、セフスロジン、セファセトリル、セファピリン、セフロキシム、セファマンドール、セフォキシチン、セファゾール、セフォペラゾン、セフトリアキソン)、アミノグリコシド系抗生物質(ストレプトマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン)、ポリエン(ナイスタチン、アムホテリシンB)、抗結核薬(p−アミノサリチル酸);(b)神経伝達物質:カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、L−ドーパミン、ドーパミン、カルビドパ)、セロトニン、γ−アミノ酪酸(GABA);(c)非ステロイド系消炎鎮痛剤:サリチル酸、アセチルサリチル酸;フェニル酢酸:イブプロフェン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク;複素環(Etherocyclic)酢酸:インドメタシン、クロメタシン、スリンダク、ゾメピラク、チアプロフェン酸;アントラニル酸:メフェナム酸、フルフェナム酸、メクロフェナム酸、トルフェナム酸、ニフルム酸;(d)抗凝血剤:ヘパリン(ナトリウム誘導体又はカルシウム誘導体のいずれか)、デルマタン硫酸、エノキサパリンナトリウム、ダルテパリンナトリウム;(e)利尿薬:フロセミド、ブメタニド、エタクリン酸、チエニル酸、トリアムテレン、アミロライド;(f)その他:バルプロ酸(抗てんかん薬)、クラブラン酸(β−ラクタマーゼ阻害剤)、リチウム塩(抗精神病薬)。
【0070】
本発明は、本発明の使用及び方法により、すなわち、錯体形成によって修飾されるさらに治療に適した小分子にも関することとする。この場合、想定される医療適用は、検討中の小分子を用いて予防、寛解又は治癒することができる適用である。
【0071】
本発明による「ペプチド」という用語及び治療する関連疾患は、例えば、(a)ペプチドがプリビニルとしても知られているリシノプリルであり、疾患が高血圧である;(b)ペプチドがゴセレリン(黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)の合成デカペプチド
アナログ)であり、疾患が前立腺癌である;(c)ペプチドがカルシトニンであり、疾患が骨粗鬆症である;(d)ペプチドがロイプロリドであり、疾患が前立腺癌である;(e)ペプチドがグルカゴンであり、疾患が低血糖である;(f)ペプチドがインテグリリンであり、疾患が抗凝血である;(g)ペプチドがヒルジンであり、抗凝血薬及び抗血栓剤として使用される;(h)ペプチドがバソプレシンのアナログであるデスモプレシンで
あり、抗利尿薬として、また、血友病及びフォンウィルブランド病の幾つかの形態を患う個体の出血を管理において治療的に使用される。ここで、(ポリ)ペプチドは、本明細書の上記で規定するように、すなわち、本発明の環状化合物と錯体と形成することによって、修飾される。
【0072】
本発明は、本発明により修飾(すなわち、錯形成)される、さらに治療に適したペプチドの使用にも関することとする。この場合、想定される医療適用は、検討中のペプチド又はポリペプチドを用いて予防、寛解又は治癒することができる適用である。
【0073】
本発明による「(ポリ)ペプチド」という用語及び治療する関連疾患は、例えば、(a)(ポリ)ペプチドがインスリン(インスリンリスプロ、インスリンアスパルトを含む)であり、疾患が糖尿病である;(b)(ポリ)ペプチドがエポエチンαであり、疾患が貧血症である;(c)(ポリ)ペプチドがエポエチンβであり、疾患が貧血症である;(d)(ポリ)ペプチドがダーベポエチンであり、疾患が貧血症である;(e)(ポリ)ペプチドがエリスロポエチンであり、疾患が貧血症又は慢性腎不全である;(f)(ポリ)ペプチドがフィルグラスチムであり、適応が免疫障害、白血病、糖尿病による足の壊疽;白血球減少症及び腫瘍性疾患である;(g)(ポリ)ペプチドがレノグラスチムであり、適応が白血球減少症である;(h)(ポリ)ペプチドがサルグラモスチムであり、適応が白血球減少症である;(i)(ポリ)ペプチドがモルグラモスチムであり、適応が白血球減少症である;(j)(ポリ)ペプチドがミリモスチムであり、適応が白血球減少症である;(k)(ポリ)ペプチドがナルトグラスチムであり、適応が白血球減少症である;(i)(ポリ)ペプチドがGCSFであり、疾患が化学療法誘発好中球減少症である;(m)(ポリ)ペプチドがGMCSFであり、適応が自己骨髄移植であり;(n)(ポリ)ペプチドがアスパラギナーゼであり、疾患が癌である;アスパラギナーゼでの治療に適している好ましい癌の形態は、リンパ芽球性白血病及び大細胞リンパ腫である;(o)(ポリ)ペプチドが第VIIa因子産物、第VIII因子産物、第IX因子産物(血液凝固因子)であり、疾患が血友病A、血友病Bである;(p)(ポリ)ペプチドがインターフェロンα(ここで、−α−は、インターフェロンα−2a、インターフェロンα−2b、インターフェロンアルファコン−1、インターフェロンα3nを含む)であり、疾患が慢性肝炎B又はC及び幾つかのタイプの癌である;(q)(ポリ)ペプチドがインターフェロンβ(ここで、−β−は、インターフェロンβ−1a及びインターフェロンβ1bを含む)であり、多発性硬化症及び肝炎を治療する;(r)(ポリ)ペプチドがインターフェロンγ(ここで、−γ−は、インターフェロンγ−1bを含む)であり、疾患が線維症、結核、髄膜炎又は癌である;(s)(ポリ)ペプチドがヒト成長ホルモン(hGH)であり、疾患が小児のヒト発育不全である;(t)(ポリ)ペプチドがソマトレム/ソマトロピンであり、疾患が小児の成長ホルモン分泌不全症である;(u)(ポリ)ペプチドがスーパーオキシドジスムターゼであり、疾患が脳障害である;(v)(ポリ)ペプチドがインターロイキン−2であり、疾患が癌(転移性腎癌)又は免疫刺激を必要とする病態である;(w)ヒト成長ホルモン(hGH)アンタゴニストB2036は当該技術分野においてよく知られている。B2036は、アンタゴニスト特性及び受容体親和性の増大をもたらす9個のアミノ酸の置き換えを導入することによって、hGHから得られる(米国特許第5,849,535号明細書参照)。先端巨大症を治療する目的で、任意の他の成長ホルモン(GH)−受容体アンタゴニストが、(代替的に又はGH受容体アンタゴニストB2036の他に)想定され;(x)(ポリ)ペプチドがトランスツズマブであり、疾患が癌である。「(ポリ)ペプチド」という用語は、本明細書中で使用する場合、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を含むこととする。
【0074】
本発明は、本発明により修飾(すなわち、錯形成)される、さらに治療に適した(ポリ)ペプチドの使用にも関する。この場合、想定される医療適用は、検討中の(ポリ)ペプチドを用いて予防、寛解又は治癒することができる適用である。
【0075】
本発明による医薬活性物質又は診断用活性物質には、プロトン化第1級アミノ基(−NH3+)、プロトン化第2級アミノ基(−NH2+−)及びプロトン化グアニジニウム基(−NH−C(=NH2+)−NH2)から選択される1又は複数の基が存在する。以下でさらに詳述するように、1又は複数の正電荷が存在することにより、上記物質を製剤化及び輸送する可能性が制限される。好ましい実施の形態において、上記第1級アミノ基又は上記第2級アミノ基はそれぞれ、第1級脂肪族アミノ基又は第2級脂肪族アミノ基である。また、上記グアニジニウム基は、好ましくは脂肪族グアニジニウム基、すなわち、脂肪族部分と結合したグアニジニウム基である。上記活性物質がペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は抗体である場合、「第1級脂肪族アミノ基」は、リシンのアミノ基を含むか、又はリシンのアミノ基を指し、「脂肪族グアニジニウム基」は、アルギニンのグアニジニウム基を含むか、又はアルギニンのグアニジニウム基を指すこととする。
【0076】
医薬活性物質又は診断用活性物質の他に、機能性食品又は栄養補助食品の構成成分が、本発明の化合物と錯形成してもよい。但し、機能性食品の構成成分又は栄養補助食品の構成成分は、1又は複数のプロトン化第1級アミノ基、プロトン化第2級アミノ基及びプロトン化グアニジニウム基を保有する。かかる構成成分(活性物質とも称される)は、本発明の使用及び方法において、医薬活性物質又は診断用活性物質に代替してもよい。機能性食品の構成成分の例はクレアチンである。
【0077】
したがって、本発明は、主な実施の形態で規定される環状化合物の使用であって、当該環状化合物が、1又は複数のプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む活性物質の(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送;(b)非水性溶媒への溶解度;並びに/又は(c)安定性を改善するために、プロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能である、環状化合物の使用にも関する。「活性物質」という用語は、医薬活性物質又は薬物、診断用活性物質並びに機能性食品の構成成分及び栄養補助食品の構成成分を含む。
【0078】
医薬組成物はさらに、薬学的に許容可能な担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含んでもよい。好適な医薬担体、賦形剤及び/又は希釈剤の例は、当該技術分野においてよく知られており、リン酸緩衝食塩水、水、水中油型乳剤等の乳剤、各種タイプの湿潤剤、滅菌溶液等を含む。本発明による製剤用の好ましい経膜輸送若しくは経粘膜輸送用の担体又は希釈剤は、以下でさらに説明する非水性溶媒を含む。かかる担体を含む組成物は、よく知られている常法によって製剤化することができる。これらの医薬組成物は、好適な用量で被験者に投与してもよい。投与計画は、主治医及び臨床学的因子によって決定される。医療分野においてよく知られているように、任意の1人の患者に対する投与量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間及び投与経路、健康状態及び同時に投与される他の薬物等、多くの因子によって決まる。タンパク質性の医薬活性物は、1用量当たり1ng/kg体重〜10mg/kg体重の量で存在してもよいが、特に上述の因子を考慮して、この例示的な範囲前後の用量が想定される。想定される製剤としては、さらに、マイクロスフェア、リポソーム、マイクロカプセル及びナノ粒子/ナノカプセルが挙げられる。
【0079】
本発明による医薬組成物又は診断用組成物のさらなる想定される構成成分としては、シクロデキストリン(例えば、Irie及びUekama(1999)又はChalla他(2005)を参照されたい)及び/又はキトサンが挙げられる。シクロデキストリンは、化合物上に存在する疎水性部分と包摂錯体を形成する。さらに、シクロデキストリンの外部表面は親水性である。シクロデキストリン又はキトサンを含む組成物は、遅延特性を示す可能性があり、すなわち、活性物質の遅延放出及び/又は長期間の放出をもたらす。
【0080】
したがって、別の好ましい実施の形態において、製造する上記医薬組成物又は上記診断用組成物はさらに、シクロデキストリンを含む。シクロデキストリンは、当該技術分野において既知であり、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンを含む。すなわち、活性物質は、第1の工程で、活性物質上に存在する正電荷(複数可)を遮蔽する環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド、環状デプシペプチド、環状ポリエーテル及び/又は環状ポリオキシム等の本発明の環状化合物と錯形成した後、第2の工程で、活性物質は、第2の層を形成するために、シクロデキストリン、より具体的にはシクロデキストリンの疎水性内腔と錯形成することにより、合計で2レベルの錯形成がもたらされる。これにより、新規の輸送アプローチ(例えば、(i)リポソーム、(ii)マイクロスフェア、(iii)マイクロカプセル、(iv)ナノ粒子/ナノカプセル中への活性成分の取込み)を設計する可能性が開かれる。
【0081】
さらに説明すると、疎水性の増加及び医薬活性物質又は診断用活性物質上に存在する正電荷(複数可)の遮蔽により、現在利用可能な輸送系を利用及び増強することによって、以前は利用できなかった輸送の可能性が開かれる。例えば、シクロデキストリンは、親油性の内腔及び親水性の外表面を有することが知られており、多数の分子と相互作用することが可能である。シクロデキストリンは製剤で使用されて、疎水性(難水溶性)薬物の見掛けの薬物溶解度を改善し、その結果、薬物溶解度、溶出及び/又は薬物透過性を増加させることによって不溶性薬物のバイオアベイラビリティを増大させる。本発明の文脈において、本発明の環状化合物による正電荷(複数可)の遮蔽に起因して活性物質の疎水性が増大することにより、より直接的に及びより深くシクロデキストリン構造の親油性コアに包摂することが可能となる。すなわち、環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド、環状デプシペプチド及び/又は環状ポリエーテル等の本発明の化合物と非共有結合で且つ一時的に錯形成する親水性の活性物質は、その生物物理学的特性が変化し、活性物質又は活性物質の疎水性部分がシクロデキストリンの内部(親油性コア)に挿入することができるほどに疎水性になる。その結果、活性物質は、第1の工程において、存在する正電荷(複数可)を遮蔽する本発明の環状化合物と錯形成した後、第2の工程において、活性物質及び上記環状化合物(複数可)によって形成された錯体が、1又は複数のシクロデキストリンと錯体を形成することができることにより、合計で2層の錯形成がもたらされる。この二重錯体は、非侵襲的な薬物輸送、例えば、眼、直腸、皮膚及び経皮輸送、さらには、血液脳関門(BBB)透過を増大させることによって脳への輸送を目的とする非経口薬物輸送(注射)、及び医薬製剤における機能性キャリア材料として機能して、効率的で且つ正確な輸送を達成する制御薬物輸送に好適である。
【0082】
さらに、本発明の使用及び方法による医薬活性物質又は診断用活性物質上に存在する正電荷(複数可)の遮蔽によって疎水性を増加させることにより、新規の輸送アプローチ(例えば、(i)リポソーム、(ii)マイクロスフェア、(iii)マイクロカプセル、(iv)例えば、限定するものではないが、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)、メシル酸ガベキセート(GM)、キトサン、デンプン、塩化テレフタロイル(TC)、架橋シクロデキストリン、ポリシアノアクリル酸エチル(PECA)及びPEG等から構成されるナノ粒子/ナノカプセル中への活性成分の取込み)を設計する可能性が開かれる。
【0083】
「経膜輸送」という用語は、上記活性物質が細胞膜を透過する能力に関する。細胞膜は、膜脂質の親油性部分によって形成される疎水性層を含むため、荷電分子が膜を透過するのは容易ではない。結果として、膜を透過する輸送はごく僅かであるか、又は0である。経膜輸送の改善は、経皮輸送及び経上皮輸送の改善も伴うこととなる。
【0084】
「経粘膜輸送」という用語は、上記活性物質が粘膜を透過する能力に関する。口、鼻及
び肺の粘膜を含む任意の粘膜が想定される。任意の粘膜は細胞膜を含むため、上記細胞膜に関する考察は粘膜にも当てはまる。
【0085】
「溶解度の改善」という用語は、上記非水性溶媒への溶解度の任意の増加を指す。好ましくは、溶解度の増加は、1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、100倍又は1000倍である。3桁を超える溶解度の増加も意図的に想定される。
【0086】
「非水性溶媒」という用語は、本明細書中で使用する場合、水系でない溶媒に関する。この用語は、有機溶媒、特に非極性有機溶媒、双極子モーメントが水よりも小さい有機溶媒、及び疎水性である有機溶媒、すなわち、水とほとんど又は全く混和しない溶媒を含む。「有機溶媒」という用語は、当該技術分野において既知であり、1又は複数の物質を溶解又は分散させることが可能な、化学産業において一般的に使用される炭素系物質に関する。概して言えば、有機溶媒は、水よりも親油性又は疎水性である。結果として、それらのlogP値は、概して0よりも大きい。本発明による有機溶媒は、酸素(例えば、アルコール、ケトン、グリコールエステル)、ハロゲン(例えば、四塩化炭素)、窒素(例えば、DMF:ジメチルホルムアミド及びアセトニトリル)又は硫黄(例えば、DMSO:ジメチルスルホキシド)のようなヘテロ原子を含有するパラフィン系炭化水素、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素並びにそれらの誘導体のような非置換炭化水素溶媒を指す。一般的に使用される有機溶媒は、メタノール、エタノール、炭素数3〜10のアルコール、アセトニトリル、ブタノン、1,1,1−トリフルオロエタン(TFE)、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、酢酸エチル、四塩化炭素、ブタノール、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、塩化メチレン(ジクロロメタン)、ヘキサン、酢酸ブチル、ジイソプロピルエーテル、ベンゼン、ジペンチルエーテル、クロロホルム、ヘプタン、テトラクロロエチレン、トルエン、ヘキサデカン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)及びジオキサンである。
【0087】
本発明による好ましい非水性溶媒としては、医薬組成物又は診断用組成物中の構成成分として使用することができる溶媒、及び/又は当該医薬組成物又は当該診断用組成物の製造及び製剤化の過程で使用することができる溶媒が挙げられる。すなわち、かかる溶媒の医療使用は承認されており、且つ/又はそれらの使用により治療する個体の健康が脅かされることはない。意図的に想定される具体的な非水性溶媒としては上記有機溶媒が挙げられる。「非水性溶媒」という用語は、オリーブ油を含む油等の天然物も含む。別の好ましい非水性溶媒は、FDAが承認した疎水性のビヒクル又は希釈剤、例えば、限定するものではないが、Cremofor EL等である。
【0088】
「安定性」という用語は、純粋形態の活性物質又は活性物質を含む製剤の有効期間を含む。したがって、「安定性」という用語は、活性物質の固体形態(純粋な錯体又は固体の医薬組成物又は診断用組成物)及び液体/溶液形態(液体製剤を含む)の両方での安定性に関する。「安定性」という用語はさらに、熱安定性及び酵素分解に対する安定性を含む。「安定性」という用語は、生体活性、医薬活性及び/又は診断用活性の維持を含む。「安定性」という用語は、本明細書の上記で記載した機能性食品又は栄養補助食品の構成成分の安定性も指す。上記活性物質の安定性の改善は、経膜輸送又は経粘膜輸送の改善による明白な結果又は推認ではないとする必要がある。実際、安定性の改善に関して、活性物質の分子間の相互作用の環状化合物による調節は、活性物質と膜又は粘膜内の環境との相互作用の調節とは対照的に関連している。このことは、核酸を含む分解しやすい活性分子に関しては特に有利である。
【0089】
さらに、医薬活性成分と環状化合物(限定するものではないが、クラウンエーテル等)との錯形成は、生薬学及び医薬技法の分野において著しい利点を提供する。実際、とりわけ、主に水性媒体中で取り扱うことができる、例えば、ペプチド、ポリペプチド、タンパ
ク質及び核酸のような生体高分子の場合、医薬成分を(本発明の環状化合物との錯体として)水及び有機溶媒の両方に可溶させるという二重且つ同時に起こる選択肢により、製剤形態(例えば、限定するものではないが、丸剤、錠剤、カプセル剤、坐剤、エリキシル剤、エアロゾル、ドロップ、散剤、凍結乾燥製剤、乳剤、ゲル、クリーム、パッチ及びコロイド)の改善が可能になり得る。上記活性物質の製剤形態の改善は、経膜輸送又は経粘膜輸送の改善による明白な結果又は推認ではないとする必要がある。本発明による環状化合物により、医薬活性物質又は診断用活性物質が環状化合物と錯形成すると疎水性が増加する。同時に、プロトン化第1級アミノ基若しくはプロトン化第2級アミノ基又はプロトン化グアニジニウム基の正電荷の遮蔽が起こる。疎水性の増加及び医薬活性物質又は診断用活性物質上に存在する正電荷(複数可)の遮蔽により、製剤に対して以前は利用することができなかった可能性が開かれる。例えば、抗体を含むペプチド、ポリペプチド又はタンパク質等の主に親水性の活性物質は、(それらの錯体形態で、)それらの非錯体形態での溶解度が低いか、又は0である溶媒に溶解することができる。かかる溶媒としては非水性溶媒が挙げられる。さらに、その錯体形態での活性物質の疎水性の増加により、今まで、静脈内等、侵襲的にしか投与することができなかった活性物質の新規な投与経路が開かれる。かかる侵襲的な投与(静脈内投与を含む)には、肝臓における活性物質の部分的な又は著しい分解等、既知の欠点があるにもかかわらず、特にタンパク質性活性物質を含む多くの活性物質に利用することができる他の選択肢がこれまで存在しなかった。本発明による環状化合物と錯形成すると、活性物質は十分に疎水性となり、細胞膜(粘膜又は皮膚に存在する細胞膜等)(例示として図1参照)を通じての十分な透過が保証される。結果として、下記でさらに詳述する非侵襲的な輸送経路は、かかる活性物質に関して検討することができる。代替的には、非侵襲的な輸送はまた、活性物質の非錯体形態に対する選択肢であってもよいが、粘膜又は皮膚の透過が制限されるという欠点を伴う。かかる場合、本発明による環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド、環状デプシペプチド及び環状ポリエーテルとの錯形成により、輸送が増強され、非侵襲的な輸送が輸送の好ましい経路になる。本発明の使用により得られる医薬組成物又は診断用組成物は、好ましくは疎水性であるが、活性物質の疎水性錯体により、疎水性担体の使用が可能となることに留意されたい。組成物の疎水性(及び親油性)に起因して、輸送時の被験者への活性物質の放出を、従来の疎水性のより低い製剤と比較して遅延させることができる。すなわち、本発明により得られるある特定の組成物は、含まれる活性物質の遅延放出形態である。
【0090】
好ましい実施の形態において、本発明の環状化合物のlogP値は1よりも大きく、より好ましくは2よりも大きく、さらにより好ましくは3よりも大きい。
【0091】
さらに、活性物質の安定性は、本発明による環状化合物との錯形成によって増大し得る。
【0092】
本発明のさらなる利点は、非侵襲的な輸送、特に、皮下輸送に関する。皮下輸送の医薬組成物又は診断用組成物の容量は、本来制限されている。従来の製剤が、皮下注射用の制限された容量が必要用量を含む、注射用の溶液を得ることができない場合、治療は煩雑となる(投与間隔が短い)か、又は不可能である。本発明の使用により活性物質の濃度が高い組成物の調製が可能になることに着目して、従来技術のこれらの問題を克服することができる。
【0093】
本発明による環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド、環状デプシペプチド及び環状ポリエーテル等の環状化合物のさらなる利点は、それらの活性物質との相互作用(錯体形成)が一過性であることである。「一過性」という用語は、本明細書中で使用する場合、生理的条件下での可逆性を指す。細胞膜、粘膜及び/又は皮膚の透過時、環状化合物は、例えば、アンモニウムイオン又は第1級アミド若しくは第2級アミド
等の競合するリガンドが存在する結果、活性物質から解離するか、又は分解するかのいずれかである。
【0094】
本発明による生理的条件は、例えば、細胞の内部と細胞外の間隙とを比較すると、著しく異なる可能性がある。細胞内条件の例としては、14mM Na+、140mM K+、10-7mM Ca2+、20mM Mg2+、4mM Cl-、10mM HCO3-、11mM HPO42-及びH2PO4-、1mM SO42-、45mMホスホクレアチン、14mMカルノシン、8mMアミノ酸、9mMクレアチン、1.5mM乳酸塩、5mM ATP、3.7mMヘキソース一リン酸、4mMタンパク質並びに4mM尿素が挙げられる。間質条件の例としては、140mM Na+、4mM K+、1.2mM Ca2+、0.7mM
Mg2+、108mM Cl-、28.3mM HCO3-、2mM HPO42-及びH2PO4-、0.5mM SO42-、2mMアミノ酸、0.2mMクレアチン、1.2mM乳酸塩、5.6mMグルコース、0.2mMタンパク質並びに4mM尿素が挙げられる。
【0095】
「疎水性の」及び「疎水性」という用語は、当該技術分野においてよく知られており、水及び水性媒体との混和性が低いか、又は全くないことを示す。「親油性の」及び「親油性」という用語は、本明細書中では同義で使用される。疎水性の定量に一般的に使用されるパラメータはlogP値である。
【0096】
2個の不混和性の又は実質的に不混和性の溶媒の界面での分子の質量流束は、その親油性によって支配される。分子は親油性になる程、親油性の有機相に可溶となる。水及びn−オクタノールの間で観察される分子の分配係数Pは、親油性の標準的な評価基準として採用されている。種Aの分配係数Pは、比P=[A]n-オクタノール/[A]水と定義される。一般的に報告される数字は、分配係数Pの対数であるlogP値である。分子がイオン性である場合、原則、複数の異なる微細化学種(分子のイオン化形態及び非イオン化形態)が両方の相に存在する。イオン性の化学種の総体的な親油性を記述する量が分配係数Dであり、比D=[すべての微細化学種の濃度の総和]n-オクタノール/[すべての微細化学種の濃度の総和]水と定義される。logPと同様に、分配係数Dの対数であるlogDが報告されることが多い。
【0097】
第1の分子上の置換基の親油性の特性を評価及び/又は定量する場合、その置換基に対応する第2の分子を評価してもよく、ここで、当該第2の分子は、例えば、上記置換基と第1の分子の残部とを接続する結合を破壊し、それにより得られた(その)自由原子価(複数可)を水素(複数可)と接続することによって得られる。
【0098】
代替的には、分子のlogPへの置換基の寄与を求めてもよい。分子R−XのlogPへの置換基Xの寄与πXは、πX=logPR-X−logPR-H(式中、R−Hは、非置換の親化合物である)と定義される。1よりも大きいP及びDの値並びに0よりも大きいlogP、logD及びπXの値が、親油性/疎水性の特性を示す一方、1よりも小さいP及びDの値並びに0よりも小さいlogP、logD及びπXの値は、各分子又は置換基の親水性の特性を示す。
【0099】
本発明による親油性基の親油性を特性化する上記パラメータは、実験的手段によって求めることができ、且つ/又は当該技術分野において既知の計算法によって予測することができる(例えば、Sangster著「オクタノール−水分配係数:原理及び物理化学」John Wiley & Sons, Chichester.(1997)を参照されたい)。
【0100】
実際には、logP、logD及びπXの値は、測定が行われる具体的な条件により、ある特定の程度異なる。
【0101】
薬物又は活性物質が、十分に吸収される妥当な確率を有するには、それらのlogP値が5より大きくなってはいけないことは知られている。市販の薬物のlogP値の確率密度(例えば、http://www.organic-chemistry.org/prog/peo/cLogP.htmlを参照されたい)によると、logP値の最大値は約3である。
【0102】
本発明の使用及び方法(方法はさらに下記で説明する)の好ましい実施の形態において、上記化合物、例えば、上記環状ポリエステル、上記環状ポリオルトエステル、上記環状ポリアミド、上記環状デプシペプチド、上記環状ポリエーテル又は上記環状ポリオキシムは生分解性である。上記化合物が生体適合性であることがさらに好ましい。「生分解性」という用語は、生体内で分解性である物質を指す。「生体適合性」という用語は、好ましくは、未変化体であっても、分解された場合であっても、ヒト又は動物の身体の有害反応を引き起こさない物質を指す(「生体適合性」という用語に関するさらなる詳細に関しては、本明細書の上記を参照されたい)。本明細書の上記で説明したように、各種直鎖ポリエステル、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)は、生分解性及び生体適合性の特性が実証されている。それらの対応する環状体は、非常に類似した生分解性及び生体適合性の特性を示現すると予想される。生分解性は、定量的に、例えば、本発明の環状化合物の血漿中での半減期で表すことができる。血漿中での半減期を求める手段及び方法は、当該技術分野において既知である。アッセイの例を、本明細書に添付した実施例7で示す。好ましい実施の形態において、血漿中の本発明の環状化合物の半減期は、4時間、より好ましくは3時間、2時間、1時間、30分、20分、10分又は5分より短い。「生分解性」という用語は、上記化合物の分解を指し、ここで、分解は、上記環状化合物の上記官能基X、Yのうち少なくとも1つの開裂又は加水分解から成るか、又はこれを含むこととする。
【0103】
環状ポリエチレングリコール構造体(クラウンエーテル)は、陽イオンと結合することが知られている。最も汎用されている化合物である18−クラウン−6が示す毒性は中程度であるか、又は低い(マウスではLD50が0.71g/Kgと報告されている、Toxicology and Applied Pharmacology, 1978, 44, 263-268を参照されたい)。
【0104】
生分解性結合を有する環状ポリエチレングリコール(PEG)により、陽イオン並びに第1級アミン及び第2級アミン及びグアニジニウム基の錯形成が可能となる。生分解性結合を有する環状ポリエチレングリコールは、環状体から直鎖のアイソフォームへ生理的条件下で生理的に分解されるため、in vivoでの毒性はごく僅かであるか、又は全くないことが予想される。さらなる例としては、文献(Bull. Chem. Soc. Jpn., 1982, 55,
2181-2185)において既知であるオキソクラウンエーテル又は糖が生分解性ユニットを提供する糖系の環状PEGが挙げられる(例に関しては、本明細書に添付した図2を参照されたい)。生分解性結合のさらなる例としては、PEGとケトン又はアセトアルデヒド又はホルムアルデヒド等のアルデヒドとのアセタールが挙げられる。
【0105】
代替的な実施の形態において、ポリアクリルアミド及びポリアクリレート(例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド及びブチルメタクリレート)の使用が想定される。これらのポリマーは、生分解性が低いか、又は全くない。
【0106】
本発明の使用及び方法のさらに好ましい実施の形態において、上記化合物と上記第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは上記第2級プロトン化アミノ基並びに/又は上記プロトン化グアニジニウム基との錯体形成は選択的である。選択性は、当業者によって直接的に評価することができる。この目的のために、本明細書中に記載し、錯体を形成する能力を判定するために使用するアッセイは、反復して(又は並行して)実施され、ここで、アッセイの一実施態様は、上記化合物と上記第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは上記第2級プロトン化アミノ基並びに/又は上記プロトン化グアニジニウム基との錯体形成を
判定することを目的とし、アッセイの少なくとも1個のさらなる実施態様は、上記化合物と競合種との錯体形成を判定することを目的とする。競合種としては、K+及びNa+等の金属イオンが挙げられる。選択性は、上記化合物の大多数が、上記第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは上記第2級プロトン化アミノ基並びに/又は上記プロトン化グアニジニウム基と錯体を形成する一方(「錯体A」;ここで、「錯体A」は、一方の上記環状化合物と、他方の上記第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは上記第2級プロトン化アミノ基並びに/又は上記プロトン化グアニジニウム基との間で形成される錯体の量又は濃度を指す)、残部(又は残部の一部分)が1又は複数の競合種と錯体を形成する(「錯体B」;ここで「錯体B」は、競合種との錯体の量又は濃度の総和を指す)。すなわち、錯体A/錯体Bである比は1よりも大きい。好ましくは、上記比は1.2、1.5、2、3、4、5、10、100、1000以上である。
【0107】
本発明の使用及び方法のさらに好ましい実施の形態では、対イオンを組成物に添加する。1又は複数のプロトン化第1級アミノ基及び/若しくは第2級アミノ基並びに/又は1又は複数のプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質の好ましい対イオンとしては、特に、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質に関しては、トリフルオロ酢酸塩(TFA)及びアルカン酸、好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは2〜20、さらにより好ましくは2〜10のアルカン酸の塩が挙げられる。他の好ましい実施の形態において、かかる対イオンは、芳香族基を含んでもよい。これらの対イオンを使用して、上記第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは上記第2級プロトン化アミノ基並びに/又は上記プロトン化グアニジニウム基と塩を形成する他の対イオンを置き換えてもよい。アルカン酸の塩は、リン酸塩等の一般的に存在する対イオンよりも親油性である。さらに、TFAはより低いpKa値を示すため、その結果、一方の第1級プロトン化アミノ基若しくは第2級プロトン化アミノ基又はプロトン化グアニジニウム基と、他方のTFAとの塩結合はより強くなる。アリールカルボン酸塩は、好適な対イオンのさらなる例である。対イオンの別の好ましい類は、特に、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質に関しては、アルキルスルホン酸又はアリールスルホン酸である。好ましいアルキルスルホン酸は炭素数が2〜30、より好ましくは8〜10のアルキル鎖である。芳香環上に1又は複数のアルキル置換基(各アルキル置換基の炭素数は好ましくは2〜30、より好ましくは8〜10である)を含むアリールスルホン酸は、好適な対イオンのさらなる例である。好ましい対イオンの別の類は、特に、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質に関しては、リン酸塩上に少なくとも酸性プロトンを有するリン脂質、例えば、ホスファチジルグリセロール又は1個の酸性プロトンを有するホスファチジル糖又は2個の酸性プロトンを有するホスファチジン酸である。上記リン脂質に含まれるアルカン酸、又はホスファチジル部分はそれぞれ、炭素数が好ましくは各4〜30、より好ましくは6〜20、さらにより好ましくは8〜18である。2個のアルカン酸を含むリン脂質は、対称であってもよく又は非対称であってもよい。非対称の場合、リン脂質分子は、2個の異なる脂肪酸を含む。別の好ましい実施の形態において、リン脂質は、例えば、ホスファチジルイノシトールのように天然由来である。
【0108】
他方、酸性ポリマー(例えばヘパリン)又は他の酸性の医薬活性物質若しくは診断用活性物質に好ましい対イオンは、正電荷を保有するリン脂質である。好ましくは、限定するものではないが、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンのように、遊離の第1級アミノ基を有する。
【0109】
対イオンの親油性が増大すると、本発明の環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド又は環状デプシペプチド等の環状化合物と上記第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは上記第2級プロトン化アミノ基並びに/又は上記プロトン化グアニジニウム基との錯体の安定性が増加する。
【0110】
本発明の使用及び方法のさらに好ましい実施の形態において、上記化合物に含まれる環は、9個〜90個の原子から成り、ここで、当該環は、X及びYのすべての残基を含む。全体として本発明の化合物の特徴を示すために使用する場合、「環」という用語は、1又は複数のモノマー内に存在し得る環とは対照的に、すべての官能基X及びYを含む環を指す。上記環中の原子の数を求める場合、任意の置換基又は環外原子は無視される。例えば、環状ポリグリコール酸及び環状ポリ乳酸は共に、以下の構造(−O−C−C(=O)−)n(nは整数であり、中央のC原子は任意選択で置換され、且つカルボニル基の酸素は上記で規定した環の一部ではない)の環である。これらの例に伴って、α−ヒドロキシル酸の9員環は3量体の環状ポリエステルを特定し、48員環は、16量体の環状ポリエステルを特定する。
【0111】
上記環状ポリエステル、上記環状ポリオルトエステル、上記環状ポリアミド又は上記環状デプシペプチドに含まれる環は、好ましくは18〜48個、より好ましくは18個〜36個、さらにより好ましくは18〜24個の原子から成る。
【0112】
さらに好ましくは、上記環状ポリエステル若しくは上記環状ポリオルトエステルのモノマー、又は存在する場合、上記(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物のヒドロキシ酸モノマーは、α−ヒドロキシ酸を含むか、又はα−ヒドロキシ酸のみからなる。
【0113】
同様に、好ましくは、上記環状ポリアミドのモノマー、又は存在する場合、上記(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物のアミノ酸モノマーは、α−アミノ酸を含むか、又はα−アミノ酸のみからなる。
【0114】
より好ましくは、上記(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物がデプシペプチドであり、当該デプシペプチド中で、α−ヒドロキシ酸及びα−アミノ酸が交互に配列する。
【0115】
好ましいα−ヒドロキシ酸はグリコール酸及び乳酸である。
【0116】
好ましいα−アミノ酸はグリシンである。
【0117】
好ましい環状ポリアミドはエサグリシンである。
【0118】
本発明の使用及び方法のさらに好ましい実施の形態において、上記α−ヒドロキシ酸の1又は複数はグリコール酸であり、且つ/又は上記α−アミノ酸の1又は複数はグリシンであり、当該グリコール酸及び/又は当該グリシンの1又は複数のα−炭素原子は、炭素数1、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10の直鎖アルキル基若しくは分枝アルキル基、又は置換アリール基若しくは非置換アリール基で置換される。好適なアルキル置換基としてはメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、2−メチルブチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、2-メチルペンチル、3−メチルペンチル及び2−エチルブチルが挙げられる。さらに好ましい実施の形態において、上記直鎖アルキル基又は上記分枝アルキル基は、末端ヒドロキシ基を保有してもよい。このヒドロキシ基(α−ヒドロキシ酸の場合、第2のヒドロキシ基である)により、例えば、アルカン酸等によるエステル化によるさらなる誘導体化が可能となる。好ましいアリール基はフェニルである。同じことがα−アミノキシ酸にも準用される。好ましいα−アミノキシ酸はアミノキシグリシンであり、これは上記のように任意選択で置換されもよい。
【0119】
好ましくは、炭素数Nのアルキル基又はアリール基を有するモノマー及び炭素数N+Kのアルキル基を有するモノマーが上記化合物中で交互に配列する(Nは0及び1から選択
され、且つKは1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10から選択される)。「交互に配列する」という用語は、偶数のモノマーを指し示す。環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド又は環状デプシペプチド等の好ましい化合物は、4量体、6量体、8量体、10量体、12量体、14量体及び16量体である。
【0120】
好ましくは、上記環状ポリエステル又は上記環状ポリオルトエステルは、環状ポリ乳酸、環状ポリグリコール酸又は環状ポリ乳酸・グリコール酸のエステル又はオルトエステルである。
【0121】
より好ましくは、乳酸モノマー及びグリコール酸モノマーが、上記環状ポリエステル又は上記環状ポリオルトエステル中で交互に配列する。
【0122】
本発明の使用及び方法の好ましい実施の形態において、上記環状ポリエステル又は上記環状ポリオルトエステルは、ノナクチン(図2参照)、又は乳酸、グリコール酸若しくは乳酸・グリコール酸の環状4量体、環状5量体、環状6量体、環状7量体、環状8量体、環状9量体若しくは環状10量体である。乳酸・グリコール酸の4量体、6量体及び8量体に関しては、乳酸モノマー及びグリコール酸モノマーが交互に配列することが好ましい。「交互に配列する」という用語は、本明細書中で使用する場合、xyxyxy等のモノマーx、yの配列を指す。しかしながら、xxyyxxyy等の他の配列又は不規則配列も想定される。
【0123】
さらに好ましい環状ポリエステル又は環状ポリオルトエステルは、R体及びS体のモノマーが交互に配列する、乳酸等のキラルなα−ヒドロキシ酸の環状4量体、環状6量体、環状8量体又は環状10量体である。上述したように、環状ポリオルトエステルは、環状ポリエステルの原子価互変異性体である。
【0124】
他のキラルな酸のR体及びS体の交互配列も想定される。例としては、マンデル酸及びキラルな天然アミノ酸が挙げられ、天然のL体がD体と交互に配列する。
【0125】
本発明の使用及び方法の好ましい実施の形態において、上記活性物質は、(a)ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は抗体、(b)第1級アミン又は第2級アミンを含む塩、又は(c)グアニジニウム基を含む化合物を含む塩である。「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、1又は複数の非天然アミノ酸(例えば、β−アラニン、α−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、α−アミノイソ酪酸、ノルバリン、ノルロイシン、ε−リシン、オルニチン、ホモセリン及びヒドロキシプロリン)を含む化合物を含む。さらに、N末端及びC末端を含む反応性基を、保護基でブロックしてもよい。天然の翻訳後修飾を含む、当該技術分野において既知のペプチド、ポリペプチド及びタンパク質のさらなる誘導体化も意図的に含まれる。
【0126】
第1級アミン又は第2級アミンを含む塩である医薬活性物質の例は、イブプロフェンリシネート、すなわち、イブプロフェンのリシン塩及びプロカインペニシリンである。イブプロフェンリシネートの場合、イブプロフェンが、カルボン酸塩を提供する上記塩の構成成分であり、リシンは、第1級アミノ基を提供する構成成分である。同様に、プロカインペニシリンの場合、ペニシリンが、カルボン酸塩を提供する上記塩の構成成分であり、プロカインは、第1級アミノ基及び第2級アミノ基を提供する構成成分である。これらは単なる具体例である一方、(i)カルボン酸官能基を含み、且つ(ii)第1級アミン若しくは第2級アミン又はグアニジニウム基を含む化合物との塩である任意の薬物が本発明の化合物との錯体として製剤化され得ることが想定される。かかる薬物としては、これらの2個の要件を満たす抗炎症薬、例えば、イブプロフェンリシネート、及びプロカインペニシリン又はアミノグリコシド等の抗生物質が挙げられる。図4(B)はこの原理を示す。
【0127】
好ましくは、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質である上記活性物質は、リシン、アルギニン、ヒスチジン及びトリプトファンから選択される1又は複数のアミノ酸を含む。リシン及びアルギニンが最も好ましい。
【0128】
本発明の使用及び方法の好ましい実施の形態において、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質である上記活性物質は、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択される1又は複数のアミノ酸を含む。
【0129】
好ましくは、上記医薬組成物又は診断用組成物は酸性である。本実施の形態は、プロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基の他に、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質中のアスパラギン酸及びグルタミン酸のカルボン酸等、中性pHで負に荷電する基を含む活性物質を対象とする。かかる場合、アスパラギン酸及びグルタミン酸のカルボン酸等、中性pHで負に荷電する上記基に関しては、疎水性が増加している本発明の化合物と錯体を形成すると共に、電荷を遮蔽する目的が達成されない可能性がある。電荷を除去する1つの選択肢は、中性pHで負に荷電する上記基のかなりの部分がプロトン化され、結果的に電荷が除かれるpHまで組成物を酸性化することである。
【0130】
より好ましくは、上記医薬組成物又は上記診断用組成物のpH値は2〜6である。さらにより好ましくは、pH値は約4〜約5である。酸性である上記医薬組成物又は上記診断用組成物の代わりに、又はそれに加えて、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基の1又は複数が、アミノ基が第1級アミノ基又は第2級アミノ基であるアミノアルコール及び/又はグアニジニウムアルコールでエステル化される。アスパラギン酸残基及び/又はグルタミン酸残基のエステル化の説明を図3に示す。好ましくは、大部分(すなわち、50%超)、より好ましくは60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はすべての上記アスパラギン酸残基又は上記グルタミン酸残基がエステル化される。エステル化により、プロドラッグが形成される。「プロドラッグ」は、概して生物学的及び/又は薬理学的に活性でない化合物である。しかしながら、活性化されると、典型的にはin
vivoでの酵素開裂又は加水開裂により、プロドラッグが生物学的及び/又は薬理学的に活性な化合物に変換されるため、プロドラッグの投与には、所期の医療効果がある。プロドラッグは、典型的には、例えば、生物学的及び/又は薬理学的に活性な化合物の上記エステル化による化学修飾によって形成される。好適なプロドラッグ誘導体の選択及び調製の従来の手順は、例えば、「プロドラッグの設計」H. Bundgaard編, Elsevier, 1985に記載されている。
【0131】
好ましくは、上記アミノアルコールはω-アミノ−アルキル−オールである。
【0132】
好ましくは、上記アミノアルコールは、4−アミノ−1−ブタノール又は6−アミノ−1−ヘキサノールである。アスパラギン酸及び/又はグルタミン酸のエステル化体は、他の末端に第1級アミノ基を保有する直鎖アルキル鎖がその末端の一方で(エステル結合により)カルボン酸と結合して、リシンと類似した構造となるため、本明細書中では「シュードリシン」と称される。代替的には又はさらに、ω−グアニジニウム−アルコールを使用してもよく、それにより「シュードアルギニン」が生成される。
【0133】
好ましい実施の形態では、(i)過剰の上記化合物を使用し、且つ/又は(ii)上記アスパラギン酸及び/又は上記グルタミン酸のカルボン酸の対イオンである陽イオンと錯体を形成することが好ましい本発明による第2の化合物を使用する。「陽イオン」という用語は、無機陽イオンを含む。無機陽イオンとしては、Na+及びK+等の金属イオンが挙げられる。組成物を酸性化するという選択肢の代わりに、又はそれに加えて、上記アスパ
ラギン酸及び/又は上記グルタミン酸をエステル化して、本実施の形態は、2個のさらなる選択肢を提供する。これら4個の選択肢のいずれかを単独で使用してもよく、又は組み合わせて使用してもよい。
【0134】
「過剰」という用語は、錯形成する上記第1級アミノ基及び/若しくは上記第2級アミノ基並びに/又は上記グアニジニウム基の等モル量を超える上記化合物の量に関する。かかる過剰は、錯形成する上記第1級アミノ基及び/若しくは上記第2級アミノ基並びに/又は上記グアニジニウム基のかなりの部分又はすべての錯形成を保証するために使用され得る。この目的には等モル量で十分であり得るが、過剰、例えば、好ましくは3倍モル過剰〜10倍モル過剰、より好ましくは3倍モル過剰〜5倍モル過剰を使用する。
【0135】
第1級アミノ基及び/若しくは第2級アミノ基並びに/又はグアニジニウム基との錯体に関与しない任意の過剰量は、上記アスパラギン酸残基及び/又は上記グルタミン酸残基上に存在する負に荷電したカルボン酸の対イオンとして働く陽イオンの錯形成に利用可能である。(上記第1級アミノ基及び/若しくは上記第2級アミノ基並びに/又は上記グアニジニウム基のかなりの部分又はすべての錯形成の他に、)これらの対イオンの錯形成も保証するため、環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド、環状デプシペプチド、環状ポリエーテル及び/又は環状ポリオキシム等の環状化合物の好ましい量は、カルボン酸の5倍モル過剰量〜7倍モル過剰量である。結果として、好ましくは、第1級アミノ基及び/若しくは第2級アミノ基並びに/又はグアニジニウム基の3倍モル過剰量〜5倍モル過剰量と、カルボン酸の5倍モル過剰量〜7倍モル過剰量の総和である上記化合物の量を使用する。第1級アミノ基及び/若しくは第2級アミノ基並びに/又はグアニジニウム基と錯形成するように設計された本発明の環状化合物によるかかる陽イオンの錯形成が上手くいく程、上記第1級アミノ基及び/若しくは上記第2級アミノ基並びに/又は上記グアニジニウム基の錯形成は非特異的になる。上記第1級アミノ基及び/若しくは上記第2級アミノ基並びに/又は上記グアニジニウム基と高度な特異性で錯形成する本発明の環状化合物を使用する場合、好ましくは、例えば、金属イオンである上記陽イオンと錯体を形成する、環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド及び/又は環状デプシペプチド等の本発明の第2の環状化合物を使用することが好ましい。これらの場合、上記第1級アミノ基及び/若しくは上記第2級アミノ基及び/又は上記グアニジニウム基と錯形成する上記化合物は「第1の」化合物と称される。さらに好ましい実施の形態において、第1の環状化合物及び/又は第2の環状化合物は、アンモニウムイオン(NH4+)と錯体を形成することが可能である。
【0136】
「金属イオン」という用語は、本明細書中で使用する場合、任意の金属イオンを指す。「金属イオン」という用語は、好ましくは、人体に存在するこれらの金属のイオンに関する。具体的な好ましい金属イオンとしては、Na+、K+、Ca2+及びMg2+が挙げられる。
【0137】
好ましくは、上記活性物質は小有機分子である。本発明の組成物は、小有機分子を唯一の活性物質として含んでもよい。代替的には、本発明の組成物は、複数の活性物質を含んでもよく、ここで、当該活性物質は、好ましくはペプチド、ポリペプチド、タンパク質及び小有機分子から成る群から選択される。小有機分子は、好ましくは分子量約500Da以下である。しかしながら、必ずしもペプチド、ポリペプチド、タンパク質ではなく、且つ分子量が500Da〜5000Daである活性物質も想定される。
【0138】
本発明は、式(I):
【0139】
【化3】

【0140】
(式中、各構成単位中のA、Bはそれぞれ、炭素数kのアルカン−i,j−ジイル(i及びjはそれぞれk以下であり、且つkは1〜10から選択される)であり、当該アルカン−i,j−ジイルは、(i)1又は複数の二重結合を含んでもよく、(ii)任意選択で置換され、且つ/又は(iii)環を含み、環状化合物中の環状糖である環の合計数は0〜4から選択され、且つp・(n+m)未満であり、各構成単位中のX、Yはそれぞれ、少なくとも1個の酸素原子又は2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基であり、n、mは互いに独立して、0〜20から選択され、pは1〜10から選択され、n+mは1以上であり、且つp・(n+m)は3〜30から選択される)の環状化合物の医薬組成物又は診断用組成物の製造における使用であって、前記医薬組成物又は前記診断用組成物は金属イオンと塩を形成する医薬活性物質又は診断用活性物質をさらに含み、前記環状化合物は金属イオンと錯体を形成することが可能であり、上記活性物質の(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は(c)安定性が改善される、環状化合物の使用をも提供する。好ましい医薬活性物質又は診断用活性物質は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体及び小有機分子である。錯体を形成する能力を評価するためのアッセイは、当該技術分野において既知であり、本明細書の上記に記載している。これらのアッセイは、金属イオンとの錯体を形成することが可能である環状化合物の判定に準用される。上記金属と錯体を形成する活性物質としては、負に荷電したカルボン酸等、負電荷を含む活性物質が挙げられる。例を図4(A)に示す。
【0141】
主な実施の形態のすべての好ましい実施の形態は、当該好ましい実施の形態が本発明の化合物のさらなる構造的特性化を提供する限り、すぐ上で開示した本発明による使用について準用することとする。
【0142】
医薬活性物質又は診断用活性物質の他に、機能性食品又は栄養補助食品の構成成分が、上述した本発明の環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド及び環状デプシペプチドと錯形成することができるが、但し、機能性食品の構成成分又は栄養補助食品の構成成分は、1又は複数の金属イオンと塩を形成する。かかる構成成分(活性物質とも称される)は、本発明の使用及び方法において、医薬活性物質又は診断用活性物質に代替し得る。
【0143】
したがって、本発明は、本発明の環状化合物の使用であって、当該環状化合物が、1又は複数の金属イオンと塩を形成する活性物質の(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は(c)安定性を改善するために、金属イオンと錯体を形成することが可能である、本発明の環状化合物の使用にも関する。「活性物質」という用語は、医薬活性物質又は薬物、診断用活性物質、並びに機能性食品の構成成分及び栄養補助食品の構成成分を含む。
【0144】
「医薬活性物質又は診断用活性物質」という用語は、本明細書中で使用する場合、ヘパリン等の複合多糖も含む。ヘパリンは、抗凝血性を有するグリコサミノグリカンと呼ばれる、直鎖のアニオン性ムコ多糖の混成群である。他のものが存在してもよいが、ヘパリン中に存在する主な糖は、(1)α−L−イズロン酸2−硫酸塩、(2)2−デオキシ−2−スルフアミノ−α−D−グルコース6−硫酸塩、(3)β−D−グルクロン酸、(4)
2−アセトアミド−2−デオキシ−α−D−グルコース及び(5)α−L−イズロン酸である。これらの糖の存在量は通常、(2)>(1)>(4)>(3)>(5)の順に減少し、グリコシド結合によって接合し、様々な大きさのポリマーを形成する。ヘパリンは、その共有結合で連結した硫酸基及びカルボン酸基の含量のために強酸性である。ヘパリンナトリウムにおいて、硫酸ユニットの酸性プロトンは、部分的にナトリウムイオンに置き換えられる。以下に示すのは、ヘパリンナトリウムの代表的なフラグメントである:
【0145】
【化4】

【0146】
ヘパリンナトリウム及びヘパリンカルシウムは薬剤として承認されている。本発明の使用により、ヘパリンナトリウム及びヘパリンカルシウムの吸収、輸送及び/又は安定性(半減期)を増大させることができると予想される。同じことがヘパリンのリシン塩にも当てはまると予想される。
【0147】
好ましくは、上記化合物は生分解性である。
【0148】
好ましくは、上記化合物は、上記金属イオンとの錯体を選択的に形成することが可能である。
【0149】
ポリエステルである、金属イオンと錯体を形成することが可能である好ましい化合物は、ノナクチン(図2参照)及びテトラナクチンから選択される。デプシペプチドである、金属イオンと錯体を形成することが可能である好ましい化合物は、バリノマイシン及びエニアチンBから選択される。
【0150】
好ましくは、上記医薬組成物又は上記診断用組成物は、経口輸送、口腔内輸送、舌下輸送、経鼻輸送、経肺輸送、皮膚輸送、経皮輸送、経眼輸送及び/又は直腸輸送等、非侵襲的に輸送される。「口腔内」という用語は、口内で吸収される組成物を含む。上述したように、本発明の一利点は、今まで侵襲的にしか輸送することができなかった活性物質を、本発明の環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド又は環状デプシペプチドとのそれらの錯体形態で得ることができ、非侵襲的に投与することができることである。上述した理由から皮下投与も好ましい。
【0151】
本発明は、経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送が改善され、且つ/又は安定性が改善された医薬組成物又は診断用組成物の製造方法であって、(a)1又は複数の第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは第2級プロトン化アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質と、第1級プロトン化アミノ基若しくは
第2級プロトン化アミノ基又はプロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能である本発明の化合物とを接触させる工程を含む方法にも関する。
【0152】
上記接触は、1又は複数の第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは第2級プロトン化アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基と上記化合物との間での錯体の形成に好適な条件下で行われる。
【0153】
錯体形成に好適な条件は、上記医薬活性物質又は上記診断用活性物質及び上記化合物の有機溶媒溶液を含む。好ましい有機溶媒は、極性及び/又はプロトン性の溶媒(例えば、メタノール又はエタノール)である。代替的には、非極性及び非プロトン性の溶媒(例えば、ジクロロメタン)も使用することができる。本発明の方法の好ましい実施の形態において、上記接触は、上記医薬活性物質又は上記診断用活性物質及び上記化合物の極性及び/又はプロトン性の溶媒溶液中で起こる。さらに好ましい実施の形態において、上記極性及び/又はプロトン性の溶媒は、引き続いて、例えば、蒸発によって除去される。より好ましい実施の形態において、蒸発で得られた錯体を、非極性及び非プロトン性の溶媒に入れる。非極性及び非プロトン性の溶媒に溶解した錯体を調製するこの2工程の手順により、活性物質、環状ポリエステル、環状ポリオルトエステル、環状ポリアミド及び/又は環状デプシペプチド並びに非極性及び非プロトン性の溶媒を組み合わせる「直接的な」手順と比較して濃度が高い上記活性物質の溶液が得られる。
【0154】
本発明の使用の好ましい実施の形態は、本発明の方法の好ましい実施の形態に準用される。
【0155】
好ましくは、過剰の上記化合物を使用する。
【0156】
本発明の方法のさらに好ましい実施の形態において、上記活性物質は、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択される1又は複数のアミノ酸を含むペプチド、ポリペプチド又はタンパク質であり、本方法はさらに、(b)上記医薬組成物又は上記診断用組成物を酸性化する工程、(c)1又は複数のアスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基を、アミノ基が第1級アミノ基であるアミノアルコールでエステル化する工程、並びに/又は(d)好ましくは、上記アスパラギン酸及び/若しくは上記グルタミン酸のカルボン酸の対イオンである金属イオンと錯体を形成する本発明の1又は複数のさらなる化合物を、上記医薬活性物質又は上記診断用活性物質と接触させる工程を含む。
【0157】
本発明は、経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送が改善され、並びに/又は安定性が改善された医薬組成物又は診断用組成物の製造方法であって、金属イオンとの塩である医薬活性物質又は診断用活性物質と、当該金属イオンと錯体を形成することが可能である本発明の化合物とを接触させる工程を含む製造方法にも関する。
【0158】
好ましくは、非水性溶媒を上記医薬組成物又は診断用組成物に添加する。
【0159】
さらに、本発明は、添付の特許請求の範囲に記載した使用及び方法の実践に好適な化合物を提供する。
【0160】
したがって、本発明は、(a)炭素数Nの直鎖アルキル基又は分枝アルキル基でα位が置換されたグリコール酸モノマー及び炭素数N+Kの直鎖アルキル基又は分枝アルキル基でα位が置換されたグリコール酸モノマーが交互に配列する(Nは0及び1から選択され、且つKは1、2、3、4又は5から選択される)、環状4量体、環状6量体又は環状8量体のポリエステル又はポリオルトエステル、(b)グリコール酸又は乳酸・グリコール酸の環状6量体、環状7量体又は環状8量体、(c)乳酸の環状7量体、及び(d)環状
4量体、環状6量体又は環状8量体のデプシペプチドであって、当該デプシペプチド中で、炭素数2〜10、好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4のα−ヒドロキシ酸及びグリシンが交互に配列する、環状4量体、環状6量体又は環状8量体のデプシペプチドから選択される化合物を提供する。
【0161】
好ましくは、炭素数Nのアルキル基を含むモノマーがグリコール酸であり、且つ炭素数N+Kのアルキル基を含むモノマーが乳酸である。
【0162】
好ましくは、α−ヒドロキシ酸はグリコール酸又は乳酸である。
【0163】
本発明は、本発明による1又は複数の化合物を含む医薬組成物又は診断用組成物も提供する。
【実施例】
【0164】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、限定するものではないと解釈されるべきである。
【0165】
<実施例1>
環状エサグリシンポリマーの調製及び使用
Cardona他 Journal of Peptide Research, 2003, 61, 152-157に従って、環状エサグリシンポリマーを調製した。
【0166】
逆相クロマトグラフィ精製の後、環状エサグリシンを使用して、配列MSPPLMQTTPCCFAYIARPLPRAHIKEYFYTSGKCSNPAVVFVTRKNRQVCANPEKKWVREYINSLEMSを有するM8と呼ばれるモデルケモカインを錯形成し、メタノール等の有機溶媒に溶解させた。エサグリシン−タンパク質錯体のメタノール溶液を遠心分離して、有機溶媒に溶解していないタンパク質の量を求めた。遠心分離後、有機溶液を第2のバイアルに移し、元のバイアルを水/アセトニトリルで洗浄して、最終的に沈殿したタンパク質を再溶解した。図5のHPLCクロマトグラムは、a)錯形成及び遠心分離後のメタノール溶液、並びにb)遠心分離バイアルの洗浄に使用した水/アセトニトリル溶液を示す。
【0167】
<実施例2>
オキソクラウンエーテル環状化合物の合成及び特性化
本実施例では、各種オキソクラウンエーテルの調製について記載する(スキーム1)。AGE−01の合成は、Matsushima他, Bull. Chem. Soc. Jpn., 1982, 55, 2181-2185に記載されている。しかしながら、AGE−02及びAGE−04の合成は、今まで実施されていない。Meijer他 Macromolecules, 1997, 30, 8113-8128に記載されているようなオキソクラウンエーテルの合成に類似した合成が、最も有望なアプローチであると考えた。
【0168】
【化5】

【0169】
AGE−01に至る合成経路をスキーム2にまとめる。このアプローチは、文献記載のルートとは完全に異なる。実際、環化工程に必要な熱分解条件はスケールアップに適用することができないため、代替的なアプローチを練る必要があった。
【0170】
標的分子AGE−01は、5工程の合成で得られる。
【0171】
【化6】

【0172】
スキーム2に示すように、合成は、ペンタエチレングリコールの選択的一保護から開始する。ペンタエチレングリコール1を、水素化ナトリウム存在下、tert−ブチルジフェニルシリルクロリドと反応させることにより、クロマトグラフィ精製後、一保護誘導体2を収率75%で得た。ごく少量の二保護ジオールが観察された。工程2では、α−ブロモフェニル酢酸を、THF中、大過剰のNaHで処理した後、一保護ジオール2のDMF溶液を滴下した。標準的なワークアップの後、カルボン酸3を高収率(86%〜定量的収率)で単離した。酸3は、さらに精製することなく、次の工程で使用した。無水THF中で、トリクロロエタノール、DCC及びDMAPと反応させることによって、カルボン酸3からエステル4を合成した。トリクロロエチルエステル4を、中程度の収率〜好収率(70%)で無色の油として単離した。
【0173】
THF中、TBAF(5等量)を使用してシリルの脱保護を実施したが、大量の分解が観察された。トリクロロエチルエステル4の安定性の低さから、初期の条件の変更が必要となった。分解を避けるために、大過剰(87等量)の氷酢酸の存在下で反応を実施した。この場合、一晩反応させることによって完全な脱保護が観察され、シリカゲルクロマトグラフィによって精製した後、4を収率60%で単離した。少量の酢酸(5等量)を使用することにより、反応を加速することができ、完全に脱保護し終えるのにほんの数分しか要しなかった。
【0174】
希釈条件で大過剰(10等量)のK2CO3等の塩基の存在下、トリクロロエチルエステル4を直接環化する試みにより、オキソクラウンエーテルAGE−01を中程度の収率(64%)で得た。
【0175】
TBAF/AcOHの条件を使用する4のシリル脱保護時、既にAGE−01のトレースが観察された。ワンポット反応を想定することができ、シリル部分の脱保護後、反応混合物をTHFで希釈し、一晩K2CO3(15等量)で処理した。AGE−01を2工程全体で好収率(74%)で単離した。
【0176】
1H−NMR及びMSでは構造と一致する。オキソクラウンエーテルではなくセコ酸を引き抜く簡素な反応を試みた。90% AcOH/水中でZnダストを使用する還元性条件下、及び塩基性条件(LiOH/THF/MeOH)でトリクロロエチルエステル5を加水分解することにより、対応するセコ酸を得た。
【0177】
LiOHを使用するオキソクラウンAGE−01の開環によっても、対応するセコ酸が得られた。
【0178】
AGE−01:
1H−NMR(500MHz、CDCl3):3.62−3.78(m、20H);4.04−4.10(ddd、J=2.6、5.6、9.1、1H)、4.41−4.47(ddd、J=2.6、7.2、9.7、1H)、7.31−7.40(m、3H)、7.46−7.52(m、2H);MS m/z [M+H]+に対する計算値:355、実測値:355、377(+Na)及び393(+K)。
【0179】
第2のオキソクラウンエーテルAGE−02は、フェニル部分の位置がAGE−01とは異なる(スキーム3)。
【0180】
【化7】

【0181】
スキーム3に示すように、合成は、テトラエチレングリコールの選択的一保護から開始する。テトラエチレングリコール6を、水素化ナトリウム存在下、tert−ブチルジフェニルシリルクロリドと反応させることにより、クロマトグラフィによる精製後、一保護誘導体7を中程度の収率(63%)で得た。この場合、ペンタエチレングリコールの保護よりも多くの二保護ジオールが観察された。工程2では、α−ブロモフェニル酢酸を、THF中、大過剰のNaHで処理した後、一保護ジオール7のDMF溶液を滴下した。標準的なワークアップの後、カルボン酸8を定量的収率で単離した。酸8は、さらに精製することなく、次の工程で使用した。
【0182】
8のカルボニル部分を、0℃その後室温で、THF中、BH3・THF錯体で還元する
ことにより、アルコール9を低収率〜高収率で得た。シリカゲルクロマトグラフィによりアルコール9を精製すると、低収率(31%)でしか9が得られなかった。それゆえ、アルコール9は、シリカゲルクロマトグラフィにより精製せず、標準的なワークアップの後、そのまま次の工程で使用した。
【0183】
t−BuOH中でのブロモ酢酸tert−ブチル及びt−BuOKを用いたカップリング反応により、大きな問題もなく、シリカゲルでの精製後、対応するエステル10を収率50%で得た。tert−ブチルエステル部分の脱保護を、最初にTHF/MeOH中、水性LiOHを使用して行い、カルボン酸11を定量的収率で得た。粗物質は、さらに精製することなく、そのまま次の工程で使用した。11を無水THF中でトリクロロエタノール、DCC及びDMAPと反応させることによって、エステル12を合成した。クロマトグラフィ精製後、エステル12を中程度の収率(55%)で無色の油として単離した。THF及びAcOH(5等量)中で、5等量のTBAFを使用して、大きな問題もなくシリルの脱保護を実施した。ワークアップ及び精製後、13を収率73%で単離した。希釈条件で大過剰(10等量)の塩基(例えば、K2CO3)の存在下、トリクロロエチルエステル13を環化する試みにより、オキソクラウンエーテルAGE−02を収率47%で僅かに黄色の油(ゆっくりと固化した)として得た。ワークアップ及び中間体の単離をすることなく、TBAF処理後15等量のK2CO3を用いて12から直接環化することにより、AGE−02を良好な収率で得た(2工程で89%)。
【0184】
AGE−02:
MS m/z [M+H]+に対する計算値:355、実測値:355、377(+Na)及び393(+K)。
【0185】
AGE−05に至る合成経路を、スキーム4にまとめる。AGE−01に使用した戦略を適用した。実際は、工程2でのカップリング反応を、α−ブロモフェニル酢酸ではなく、2−ブロモプロピオン酸を使用して実施する。
【0186】
標的分子であるAGE−04は、5工程の合成で得られる。
【0187】
【化8】

【0188】
スキーム4に示すように、合成は、ペンタエチレングリコールの選択的一保護から開始する。工程2では、2−ブロモプロピオン酸を、THF中、大過剰のNaHで処理した後、一保護ジオール2のDMF溶液を滴下した。標準的なワークアップの後、カルボン酸3を高収率(定量的収率)で単離した。酸3は、さらに精製することなく、次の工程で使用した。無水THF中で、トリクロロエタノール、DCC及びDMAPと反応させることによって、カルボン酸3からエステル4を合成した。トリクロロエチルエステル4を、中程度の収率(56%)で無色の油として単離した。
【0189】
THF中、TBAF(5等量)及び AcOH(5等量)を使用してシリルの脱保護を実施したが、生成物を単離せず、反応混合物をTHFで希釈した後、そのまま大過剰のK2CO3で処理した。これらの条件の下、オキソクラウンAGE−05を中程度の収率(2工程で52%)で単離した。
【0190】
AGE−05:
1H−NMR(500MHz、CDCl3):3.62−3.78(m、20H);4.04−4−10(ddd、J=2.6、5.6、9.1、1H)、4.41−4.47(ddd、J=2.6、7.2、9.7、1H)、7.31−7.40(m、3H)、7.46−7.52(m、2H);MS m/z [M+H]+に対する計算値:293、実測値:293、316(+Na)及び331(+K)。
【0191】
最後の鍵化合物AGE−03を調製するための合成戦略は、スキーム5に示す6工程の手順を包含した。
【0192】
【化9】

【0193】
第1の工程では、ペンタエチレングリコールをその一保護誘導体2に変換した。続いてのブロモ酢酸t−ブチルとのカップリングにより、化合物14を収率76%で得た。このt−ブチルエステル誘導体の鹸化の後、得られた酸15をトリクロロエタノールとカップリングし、アルコール保護基を除去することにより、鍵直鎖中間体16を得た。そして、続いてのTBAF処理によるシリルエーテルの脱保護直後に高希釈条件で環化反応を行った。実際は、脱保護反応混合物をそのまま希釈し、K2CO3を添加した。最終的に、この
ワンポットシークエンスにより、精製後、オキソクラウンAGE−03を16から収率61%で得た。NMRデータ及びMSデータは標的構造と一致した。
【0194】
<実施例3>
PLGA様環状ポリエステルの合成及び特性化
【0195】
【化10】

【0196】
環状オリゴエステルAGE−05及びAGE−06の調製を提起し、次に最適化するために、
−乳酸に由来する構成単位並びに得られた中間体及び形成されたエステル結合の安定性の低さ、
−仮に塩基性条件を使用した場合に、場合によってはジアステレオマーの複雑な混合物をもたらす、ラセミ化の危険性、
−構成単位のヒドロキシ保護基及び酸保護基の親和性
を考慮して、溶液相戦略を適用することを決断した。
【0197】
これらの理由から、THP基をヒドロキシ保護に選ぶ一方、ベンジルエステルを酸官能基に使用した(乳酸ベンジルは市販されている)。収束的3+3合成戦略をスキーム7に示す。標的環状化合物は、それらの構造中に、フェニル乳酸ユニット(AGE−05)、乳酸ユニット及び1個のアラニン残基(AGE−05及びAGE−06)を含むため、5個のエステル結合及び1個のアミド結合を含む。スキーム7に示すように、この1個のアミド結合は、最後の重要なマクロラクトン化工程で形成された。
【0198】
【化11】

【0199】
この合成経路は、DIC/DMAPカップリング条件及び穏和な保護基除去(THP基にはp−TsOH/MeOH、ベンジル基にはPd触媒による水素化)を包含した。それぞれTHP保護フェニル乳酸17及びTHP保護乳酸18から出発して、3量体21及び3量体22を4工程の手順で調製した:化合物19及び化合物20に至る乳酸ベンジルとのカップリングの後、酸性条件でTHPを脱保護し、これらを、Boc−Ala−OH又はO−THP保護乳酸18のいずれかと反応させた。続いて、TFA処理又はPd/C存在下での水素化によりBoc保護基又はベンジル保護基を脱保護することにより、それぞれ酸21又はアルコール22を得た。最後のカップリングにより、完全保護6量体23を収率96%で得た。直鎖23を、11工程での全収率12%で得た。TFA(ジクロロメタン中10%)処理によるBocの脱保護、続く水素化による最後の脱ベンジル化によって、全く精製することなく、マクロラクトン化反応に使用するアミノ酸24を得た。この
マクロラクトン化反応は、高希釈条件でBOP−Cl試薬を使用して実施した。そして、環状AGE−04を、完全に保護した直鎖前駆体から全収率35%で得た(3工程)。
【0200】
同一の合成経路を使用して、環状AGE−06を、乳酸及びBoc−Ala−OHを構成単位として使用して調製し(スキーム8)、最後の3工程の全収率は17%であった。
【0201】
【化12】

【0202】
<実施例4>
タンパク質Rantesと錯形成し、有機媒体に溶解させるためのノナクチンの使用
折り畳まれたタンパク質Rantes各0.2mgの2個の試料を採取した。1個の試料は標準として使用し、固定容量(300μL)の水/アセトニトリル50%(v/v)に溶解し、30μLをHPLCに注入した(図6、HPLCセクションA)。
【0203】
第2の試料を、DCM/MeOH 70%/30%(V/V)混合物(300μL)に懸濁させた。固体粒子を含む懸濁液を遠心分離し、上清をHPLC容量に注入した(30μL)。HPLCトレースからは、クロマトグラムにおけるタンパク質の存在は示されなかった(図6、HPLCセクションB)。
【0204】
次に、ノナクチン2.0mgを添加し、混合物をボルテックスした。懸濁液は清澄な溶
液となった。その後、混合物を遠心分離し、上清30μLをHPLCに注入した。この時、HPLCトレースからは、標準の領域と同様の比率でペプチドが存在することが示され、その結果、有機混合物中にタンパク質が溶解したことが示された(図6、HPLCセクションC)。HPLCセクションCでは、タンパク質の保持時間が、セクションAの標準とは異なる(溶出が早い)。この現象は、溶出を早くするノナクチンとのタンパク質錯体を実現する有機溶媒(例えば、図中に示すCH2Cl2)の割合が高いことで説明することができる。
【0205】
<実施例5>
バソプレシン及びグルカゴンの輸送の改善
バソプレシン(9アミノ酸ペプチド)及びグルカゴン(29アミノ酸ペプチド)は(共に)よく知られ、分子量が小さい、研究されている分子である。バソプレシン及びグルカゴンは小型なため良好なモデルとなるので、研究対象として関心が高い。
【0206】
【化13】

【0207】
下線は、本発明によるポリエステルと錯体を形成するのに好適な第1級アミンを有する残基である。太字及びイタリック体は、カルボン酸官能基を有する残基である(アスパラギン酸及びCα末端)。分子のpIは6.75である。グルカゴンは、本発明者らが天然分子(上記)及び本発明の錯形成戦略を用いる非侵襲的な輸送のためのプロドラッグ体を試験することができるため、良いモデル分子である。実際、天然のカルボキシル部分(アスパラギン酸残基、Cα)のシュードリシン(下記参照;それによりプロドラッグ体が得られる)への(エステル化による)変異によって、本発明者らは、錯形成に利用可能な部位の数を有意に増加させた。
【0208】
【化14】

【0209】
したがって、錯形成戦略をエステルプロドラッグ戦略と組み合わせることにより、錯形成に利用可能な7側鎖を示現する分子が生成される。プロドラッグペプチド(アスパラギン酸残基及びCαをシュードリシンへと変換した)のクラウン構造体との錯体の方が、疎水性の製剤媒体にかなり可溶である。したがって、プロドラッグペプチドの濃度をより高くし、且つその疎水性を高めることにより、細胞膜を透過する輸送が優れたものになる。細胞膜を透過する輸送を判定する標準的な試験としては、Caco−2細胞単層試験が挙げられる(in vitro試験;J. E. Lopez及びN. A. Peppas(2004), J. Biomater
. Sci. Polymer Edn., 15, 385-396;J. F. Liang, V. C. Yang(2005) Biochemical and Biophysical Research Communication, 335, 734-738を参照されたい)。代替的には又はさらに、Z. Orynbayeva他(2005)の比色法(Angew. Chem. Int. Ed., 44, 1092-1096)を使用してもよい。
【0210】
<実施例6>
インスリン錯体18−クラウン−6を用いたCaco−2輸送試験
本実施例では、クラウンエーテル(CE)18−クラウン−6を使用することによって、Caco−2細胞へのインスリンの輸送が改善することを示す。
【0211】
図7に、受容チャンバのHPLCクロマトグラムを示す。受容チャンバは、Caco−2細胞から出てくる溶液を回収する。インスリンがCaco−2細胞系を透過すると、受容チャンバで見出される。
【0212】
Caco−2細胞インスリン輸送プロトコル
インスリン濃度:オリーブ油/Peg、92%/8%(v/v)125μL中3mg
ビヒクル:オリーブ油/Peg(エサエチレングリコール)
製剤化剤:18−クラウン−6
陽性対照:イブプロフェン:生理的バッファー125μL中1mg
ボルテックス後、最終混合物50μLを、Caco−2細胞の二連のウェルに添加する。
【0213】
活性試料調製品(インスリン及びビヒクル+製剤化剤)
MeOH 200μL中で、事前に脱塩したインスリン3mg及び18−クラウン−6
7.5mgを混合する。MeOHを蒸発させた後、オリーブ油115μL及びPeg 10μLを添加する。2分間〜3分間ボルテックスする。ボルテックス後、最終混合物50μLを、二連でCaco−2細胞のウェルに添加する。
【0214】
対照(生理的バッファー中のインスリン及び製剤化剤、有機ビヒクル又は非水性ビヒクルは存在せず)
18−クラウン−6 7.5mgをメタノール0.2mL中に溶解し、引き続いてインスリン3mgに添加する。混合物を2分間〜3分間ボルテックスする。溶液は透明になるはずである。次に、メタノールを蒸発させ、生理的バッファー125μLを添加し、上記溶液50μLを、Caco−2細胞の二連のウェルに添加する。
【0215】
生理的バッファー(製剤化剤及び有機ビヒクルを含まない)中の同一濃度のインスリンは、Caco−2細胞を透過しない。
【0216】
【表1】

【0217】
上記表は、18−クラウン−6存在下、異なる混合物で処理した場合のCaco−2パラメータを示す。Caco−2細胞の結合の接合性を測定するTEERからCaco−2の結合の接合性が明らかになる。MTT処理後の吸光度(O.D.)測定結果から細胞の機
能性が示される。
【0218】
<実施例7>
ヒト血漿中でのオキソクラウンエーテルの安定性試験
オキソクラウン400ng/血漿1mLの濃度を使用して、各オキソクラウンエーテルの安定性試験を実施した。試験に使用した血漿は、血漿プールであった。試料を撹拌しながら37℃のインキュベータに入れた。次に、毎回血漿20μLをACN80μLで処理して遠心分離した。分析用に、30μLをHPLCに注入した。
【0219】
図8は、オキソクラウンエーテルの経時的な相対量(%表示)を示す。
【0220】
【化15】

【0221】
<実施例8>
舌下投与によるマウスでのin vivo輸送試験
用量1:TFA対イオンを含む脱塩ヒトインスリン0.5mg(未処理の標準インスリン0.4mgに相当する)を、18−クラウン−6 60mgと混合する。これらの固体に対して、プロピレングリコール及び50%グリセロールの50%混合物200μL、モノデカノイルグリセロール200mg及びCremofor EL 100μLから成る混合物250μLを添加した。最終容量はおよそ310μLである。
【0222】
用量2:TFA対イオンを含む脱塩ヒトインスリン2.6mgを18−クラウン−6 60mgと混合する。これらの固体に対して、プロピレングリコール及び50%グリセロールの50%混合物200μL、モノデカノイルグリセロール200mg及びCremofor EL 100μLから成る混合物250μLを添加した。最終容量はおよそ310μLである。
【0223】
マウスをそれぞれ、混合物1及び混合物2 6.5μLで処理した。用量1では、各マウスを、TFA対イオンを含む脱塩ヒトインスリンおよそ10μg(未処理の標準インス
リン8μgに相当する)で処理した。用量2では、各マウスを、TFA対イオンを含む脱塩ヒトインスリンおよそ52μg(未処理の標準インスリン41.6μgに相当する)で処理した。データを図9に示す。
【0224】
結果:インスリン輸送を血糖降下によって測定する。
用量1の効果は、IP注射の効果に近い。用量1は、対照として注射した用量のおよそ7倍であるため、実際の輸送は10%前後であると結論付けられる。用量2の場合、インスリンの沈殿が起こり、溶解度の回復には、試料を加熱する必要があった。
【0225】
<実施例9>
Caco−2細胞でのリポソーム中のインスリン輸送
リポソームは、Sigma−Aldrichから購入し(プレリポソーム製剤8;製品No.L3531)、以下の手順に従って使用した。代替的には、同一の成分を他の供給業者(Avanti)から購入し、Sigmaが示した手順に従ってリポソームを調製した。インスリン透過は、受容チャンバで試料をHPLC注入して測定した。
【0226】
結果:Sigma調製品によるリポソームへのヒトインスリン(h−インスリン)取込みは、Caco−2細胞を通る測定可能なインスリン透過を生じなかった。同一量のインスリンを18−クラウン−6と錯形成させ、tert−ブタノール等の有機溶媒に可溶化した。インスリンを含有する有機混合物をSigmaの脂質混合物と混合した後、溶媒を蒸発させるか、又は凍結乾燥した。水の添加により、Caco−2細胞における輸送を試験するリポソームを作製した。18−クラウン−6との錯形成からは、受容チャンバ中の溶液のHPLCのインスリンのピークが示された。データを図10に示す。
【0227】
<その他の参考文献>
Irie and Uekama (1999), Advanced Drug Delivery Reviews 36: 101-123
Lifson, S., Felder, C.E. and Shanzer, A. (1983), J. Am. Chem. Soc, 105, 3866-3875
Lifson, S., Felder, C.E. and Shanzer, A. (1984), J. Am. Chem. Soc, 23, 2577-2590McGeary and Bruget (2000). Tetrahedron 56: 8703-8713
Challa et al. (2005). AAPS PharmSciTech 6: E329-E357

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、
各構成単位中のA、Bはそれぞれ、炭素数kのアルカン−i,j−ジイル(i及びjはそれぞれk以下であり、且つkは1〜10から選択される)であり、該アルカン−i,j−ジイルは、
(i)1又は複数の二重結合を含んでもよく、
(ii)任意選択で置換され、且つ/又は
(iii)環を含み、化合物中の環状糖である環の合計数は0〜4から選択され、且つp・(n+m)未満であり、
各構成単位中のX、Yはそれぞれ、少なくとも1個の酸素原子又は2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基であり、
n、mは互いに独立して、0〜20から選択され、
pは1〜10から選択され、
n+mは1以上であり、且つ
p・(n+m)は3〜30から選択される)
の環状化合物の医薬組成物又は診断用組成物の製造における使用であって、前記医薬組成物又は前記診断用組成物は1又は複数のプロトン化第1級アミノ基及び/若しくはプロトン化第2級アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質をさらに含み、前記化合物は前記プロトン化第1級アミノ基及び/若しくは前記プロトン化第2級アミノ基並びに/又は前記プロトン化グアニジニウム基と錯体を形成することが可能であり、前記活性物質の
(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、
(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は
(c)安定性
が改善される、環状化合物の使用。
【請求項2】
前記化合物が、
(i)環状ポリエステル、
(ii)環状ポリアミド、
(iii)環状ポリエーテル、
(iv)環状ポリオキシム、
(v)環状ポリチオエステル、
(vi)アミノキシ酸の環状ポリマー、
(vii)環状ポリジスルフィド、及び
(viii)(i)〜(vii)の2個以上に属する化合物
から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記化合物が生分解性である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記化合物の、前記第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは前記第2級プロトン化アミノ基並びに/又は前記プロトン化グアニジニウム基との錯体形成が選択的である、請求
項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記化合物に含まれる環が、9個〜90個の原子から成り、該環が、X及びYのすべての残基を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記環状ポリエステルのモノマー、又は存在する場合には、前記(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物のヒドロキシ酸モノマーが、α−ヒドロキシ酸を含むか、又はα−ヒドロキシ酸のみからなる、請求項2〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記環状ポリアミドのモノマー、又は存在する場合には、前記(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物のアミノ酸モノマーが、α−アミノ酸を含むか、又はα−アミノ酸のみからなる、請求項2〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記(i)〜(vii)の2個以上に属する環状化合物がデプシペプチドであり、且つ該デプシペプチド中で、α−ヒドロキシ酸及びα−アミノ酸が交互に配列する、請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
前記α−ヒドロキシ酸がグリコール酸又は乳酸である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記α−アミノ酸がグリシンである、請求項7〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記環状ポリアミドがエサグリシンである、請求項2〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
1又は複数の前記α−ヒドロキシ酸がグリコール酸であり、且つ/又は1又は複数の前記α−アミノ酸がグリシンであり、1又は複数の該グリコール酸及び/又は該グリシンのα−炭素原子が、炭素数1、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10の直鎖アルキル基若しくは分枝アルキル基、又は置換アリール基若しくは非置換アリール基で置換された、請求項6〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
炭素数Nのアルキル基又はアリール基を含むモノマー及び炭素数N+Kのアルキル基を含むモノマーが、前記化合物中で交互に配列し、Nは0及び1から選択され、且つKは1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記環状ポリエステルが、環状ポリ乳酸エステル、環状ポリグリコール酸エステル又は環状ポリ乳酸・グリコール酸エステルである、請求項2〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
乳酸モノマー及びグリコール酸モノマーが交互に配列する、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記環状ポリエステル又は前記環状ポリオルトエステルが、ノナクチン、又は乳酸、グリコール酸若しくは乳酸・グリコール酸の環状4量体、環状5量体、環状6量体、環状7量体、環状8量体、環状9量体又は環状10量体である、請求項2〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記環状ポリエステルが、乳酸等のキラルなα−ヒドロキシ酸の環状4量体、環状6量体、環状8量体又は環状10量体であり、R体及びS体のモノマーが交互に配列する、請求項6〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記活性物質が、
(a)ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、
(b)第1級アミン又は第2級アミンを含む塩、又は
(c)グアニジニウム基を含む化合物を含む塩
である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記ペプチド、前記ポリペプチド又は前記タンパク質が、リシン、アルギニン、ヒスチジン及びトリプトファンから選択される1又は複数のアミノ酸を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記ペプチド、前記ポリペプチド又は前記タンパク質が、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択される1又は複数のアミノ酸を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記医薬組成物又は前記診断用組成物が酸性である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬組成物又は前記診断用組成物のpH値が2〜6である、請求項20又は21に記載の使用。
【請求項23】
1又は複数の前記アスパラギン酸残基又は前記グルタミン酸残基が、アミノアルコール及び/又はグアニジニウムアルコールでエステル化され、該アミノアルコールのアミノ基が、第1級アミノ基又は第2級アミノ基である、請求項20〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記アミノアルコールがω−アミノ−アルキル−オールである、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記アミノアルコールが4−アミノ−1−ブタノール又は6−アミノ−1−ヘキサノールである、請求項23又は24に記載の使用。
【請求項26】
(i)過剰の前記化合物を使用し、且つ/又は
(ii)好ましくは、前記アスパラギン酸及び/又は前記グルタミン酸のカルボン酸の対イオンである陽イオンと錯体を形成する、請求項1〜17のいずれか一項に規定される第2の化合物を使用する、請求項1〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記活性物質が小有機分子である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
式(I):
【化2】

(式中、
各構成単位中のA、Bはそれぞれ、炭素数kのアルカン−i,j−ジイル(i及びjはそれぞれk以下であり、且つkは1〜10から選択される)であり、該アルカン−i,j−ジイルは、
(i)1又は複数の二重結合を含んでもよく、
(ii)任意選択で置換され、且つ/又は
(iii)環を含み、化合物中の環状糖である環の合計数は0〜4から選択され、且つp・(n+m)未満であり、
各構成単位中のX、Yはそれぞれ、少なくとも1個の酸素原子又は2個の硫黄原子を含む生体適合性官能基であり、
n、mは互いに独立して、0〜20から選択され、
pは1〜10から選択され、
n+mは1以上であり、且つ
p・(n+m)は3〜30から選択される)
の環状化合物の医薬組成物又は診断用組成物の製造における使用であって、前記医薬組成物又は前記診断用組成物は金属イオンと塩を形成する医薬活性物質又は診断用活性物質をさらに含み、前記化合物は前記金属イオンと錯体を形成することが可能であり、前記活性物質の
(a)経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送、
(b)非水性溶媒への溶解度、並びに/又は
(c)安定性
が改善される、環状化合物の使用。
【請求項29】
前記化合物が生分解性である、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記化合物が、前記金属イオンとの錯体を選択的に形成することが可能である、請求項28又は29に記載の使用。
【請求項31】
(i)前記化合物が、ノナクチン及びテトラナクチンから選択されるポリエステルであるか、又は
(ii)前記化合物が、バリノマイシン及びエニアチンBから選択されるデプシペプチドである、
請求項28〜30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
前記医薬組成物又は前記診断用組成物が、経口輸送、口腔内輸送、舌下輸送、経鼻輸送、経肺輸送、皮膚輸送、経皮輸送、経眼輸送及び/又は直腸輸送等、非侵襲的に輸送される、請求項1〜31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送が改善され、且つ/又は安定性が改善された医薬組成物又は診断用組成物の製造方法であって、
(a)1又は複数の第1級プロトン化アミノ基及び/若しくは第2級プロトン化アミノ基並びに/又はプロトン化グアニジニウム基を含む医薬活性物質又は診断用活性物質を、請求項1〜17のいずれか一項に規定される化合物と接触させる工程
を含む製造方法。
【請求項34】
過剰の前記化合物を使用する、請求項33に記載の製造方法。
【請求項35】
前記活性物質が、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択される1又は複数のアミノ酸を含むペプチド、ポリペプチド又はタンパク質であり、
(b)前記医薬組成物又は前記診断用組成物を酸性化する工程、
(c)1又は複数の前記アスパラギン酸残基又は前記グルタミン酸残基を、アミノ基が第1級アミノ基であるアミノアルコールでエステル化する工程、並びに/又は
(d)前記医薬活性物質又は前記診断用活性物質を、好ましくは前記アスパラギン酸及び/若しくは前記グルタミン酸のカルボン酸の対イオンである金属イオンと錯体を形成する、請求項28〜31のいずれか一項に規定される1又は複数のさらなる化合物と接触さ
せる工程、
をさらに含む、請求項33又は34に記載の製造方法。
【請求項36】
経膜輸送及び/若しくは経粘膜輸送が改善され、且つ/又は安定性が改善された医薬組成物又は診断用組成物の製造方法であって、金属イオンとの塩である医薬活性物質又は診断用活性物質を請求項28〜31のいずれか一項に規定される化合物と接触させる工程を含む製造方法。
【請求項37】
非水性溶媒を前記医薬組成物又は前記診断用組成物に添加する工程をさらに含む、請求項33〜36のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項38】
(a)炭素数Nの直鎖アルキル基又は分枝アルキル基でα位が置換されたグリコール酸モノマー及び炭素数N+Kの直鎖アルキル基又は分枝アルキル基でα位が置換されたグリコール酸モノマーが交互に配列し、Nは0及び1から選択され、且つKは1、2、3、4又は5から選択される、環状4量体、環状6量体又は環状8量体のポリエステル又はポリオルトエステル、
(b)グリコール酸又は乳酸・グリコール酸の環状6量体、環状7量体又は環状8量体、
(c)乳酸の環状7量体、及び
(d)環状4量体、環状6量体又は環状8量体のデプシペプチドであって、該デプシペプチド中で、炭素数2〜10のα−ヒドロキシ酸及びグリシンが交互に配列する、環状4量体、環状6量体又は環状8量体のデプシペプチド
から選択される化合物。
【請求項39】
前記請求項38(a)に記載のポリエステル又はポリオルトエステルであって、炭素数Nのアルキル基を有する前記モノマーが、グリコール酸であり、且つ炭素数N+Kのアルキル基を有する前記モノマーが乳酸である、請求項38(a)に記載のポリエステル又はポリオルトエステル。
【請求項40】
前記請求項38(d)に記載のデプシペプチドであって、前記α−ヒドロキシ酸がグリコール酸又は乳酸である、請求項38(d)に記載のデプシペプチド。
【請求項41】
請求項38〜40のいずれか一項に規定される1又は複数の化合物を含む、医薬組成物又は診断用組成物。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−504934(P2010−504934A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529613(P2009−529613)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008442
【国際公開番号】WO2008/037484
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509087988)
【Fターム(参考)】