説明

生バラコの殺菌方法

【課題】 タラコ等の魚卵、特に選別で加工処理の対象とならなかったタラコからのバラコ、および加工処理中に発生する多量のバラコをタンパク質変性させることなく、それに付着する細菌を殺菌して、クズ卵(バラコ)を生食用食品として販売し得るようにした生食用食品の殺菌方法の提供。
【解決手段】 扁平なプラスチック袋に入れた生食用の魚卵を、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして所定時間低温で加熱する生食用の魚卵の殺菌方法。プラスチック袋は三角形の袋である。60℃以上70℃以下で10分ないし20分低温殺菌する。生食用の魚卵は辛子明太子である。生食用の魚卵は生バラコである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱処理することにより、変性、例えば、蛋白凝固や変色が生じ、それに伴なって、味、風味、うまみなどが変質する生食用の食品、例えば、タラコ等の魚卵、特にバラコを変性させることなく殺菌することができるようにした生バラコの殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スケトウダラ等の魚卵は、塩漬、タラコまたはメンタイコとして生食に供せられ、その需要が多いが、それらを調理加工中に、魚卵を包む外皮が破れて卵が散乱し、以後における加工、包装及び出荷、販売の過程から外されるバラコと称するクズ卵が多量に発生する。
【0003】
加工処理工程から外されたクズ卵は、まとまりがなく、調理場に散乱するため、細菌の付着が多く、一般的には10〜10個/g内外の細菌に取り付かれ、それらの殺菌処理なしに、クズ卵を生食用の食品として提供することは衛生上不可能であり、そこで、クズ卵(バラコ)の殺菌処理が要求される。
【0004】
ところが、魚卵も細菌もその組成が同じ生細胞からなるため、従来慣用の殺菌処理、例えば、加熱処理、アルコールや殺菌剤等(特許文献1,2)の化学薬品処理、または、加圧等による物理的処理では、細菌ばかりでなく、魚卵の細胞自体もタンパク質変性を生じ、生食用食品としての価値を損なうのみならず、アルコールや殺菌剤を含む化学的殺菌手段は生食用食品の用途からみて不適当であり、また、熱源をマイクロウエーブや遠赤外線とした加熱処理であっても、加熱によって魚卵自体にタンパク凝固が生じ、生食としての商品価値を失うことになる。
【特許文献1】特開平11−42050号公報
【特許文献2】特開平11−56229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
選別で加工処理工程から外されるタラコや、調理加工中に、魚卵を包む外皮が破れて卵が散乱し、以後における加工、包装及び出荷、販売の過程から外されるバラコと称するクズ卵の数量も多く、それらのクズ卵(バラコ)をも有効に利用し得れば、無駄がなく、経済的かつ効率的であってコスト低廉に提供することを課題とする。
【0006】
したがって、本発明は、タラコ等の魚卵、特に選別で加工処理の対象とならなかったタラコからのバラコ、および加工処理中に発生する多量のバラコをタンパク質変性させることなく、それに付着する細菌を殺菌して、クズ卵(バラコ)を生食用食品として販売し得るようにした生食用食品の殺菌方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、扁平なプラスチック袋に入れた生食用の魚卵を、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして所定時間低温で加熱する生食用の魚卵の殺菌方法を要旨とする。
【0008】
プラスチック袋が三角形の袋であり、その場合、本発明は、扁平な三角形のプラスチック袋に入れた生食用の魚卵を、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして所定時間低温で加熱する生食用の魚卵の殺菌方法を要旨とする。
【0009】
60℃以上70℃以下で10分ないし20分低温殺菌をしており、その場合、本発明は、扁平なプラスチック袋、好ましくは三角形の袋に入れた生食用の魚卵を、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして60℃以上70℃以下で10分ないし20分低温殺菌する生食用の魚卵の殺菌方法を要旨とする。
【0010】
生食用の魚卵が辛子明太子であり、その場合、本発明は、扁平なプラスチック袋、好ましくは三角形の袋に入れた辛子明太子を、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして60℃以上70℃以下で10分ないし20分低温殺菌する辛子明太子の殺菌方法を要旨とする。
【0011】
生食用の魚卵が生バラコであり、その場合、本発明は、扁平なプラスチック袋、好ましくは三角形の袋に入れた生バラコを、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして60℃以上70℃以下で10分ないし20分低温殺菌する生バラコの殺菌方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
生食用の魚卵の包装体、より具体的には例えばバラコ包装体を扁平状に形成し、上下から温水を平面状のシャワーとして浴びせるので、生バラコ包装体全体にわたって均一にかつ速やかに殺菌温度に達する。したがって、本発明は、タラコ等の魚卵、特に選別で加工処理の対象とならなかったタラコからのバラコ、および加工処理中に発生する多量のバラコをタンパク質変性させることなく、それに付着する細菌を殺菌して、クズ卵(バラコ)を生食用食品として販売し得るようにした生食用食品の殺菌方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
バラコなどの生食用の魚卵を対象としており、プラスチックフィルムの袋に入れて殺菌処理をする。プラスチックフィルムの袋は、材質は食品包装用のプラスチックフィルムであって、本発明の殺菌処理に耐性のあるものであればよく、形状は三角形の扁平な袋が好ましい。扁平な袋であることから、上下から温水を平面状のシャワーとして浴びせることで中までよく熱が通り、また、三角形であることで、バラコを使うときに絞り効果を発揮する。三角袋の形状については、商品のトッピング時(絞り出し時)に便利な図1に示すような先端部を有する広い意味の三角形であるが、殺菌時での効率の良し悪しは形状の扁平さに依る。
【0014】
殺菌方法について、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして、袋の中身が60℃以上70℃以下の温度に加熱されるように、10分ないし20分低温殺菌する。図5に示すように明太子から分離した乳酸菌の耐熱性試験によると、乳酸菌は、60℃10分で菌数が0になることがわかったからである。
【0015】
殺菌装置について、本発明の方法を実施するための装置の一例を説明する。
食品殺菌装置は図2、3に示すように、図1のプラスチック袋に生バラコを包装した生バラコ包装体(図示せず)を殺菌領域内を搬送する搬送手段2と、殺菌領域内に温水をシート状水噴射流を発生する水噴射流発生手段3と、温度調節手段によって規定温度に調節された温水を水噴射流発生手段に供給する水循環手段4と、で構成されている。以下、各手段の詳細を説明する。
【0016】
搬送手段2は、無端コンベヤベルトの形態であるのが好ましく、上下のコンベヤ部材5,6から成っている。無端の上下のコンベヤ部材5,6は、図示しない駆動源によって一定の速度で連続的に駆動される。これらの無端の上下のコンベヤ部材5,6は、種々の食品(生食用の魚卵)を搬送するために間隔を調整することができるのが好ましい。
被殺菌物(バラコ包装体)は、これらの上下の無端コンベヤベルト5a,6aで挟まれながら図2、3に示される矢印によって示されるように装置の入口から出口に向けて搬送される。無端コンベヤベルトは、水透過性材料から形成され、好ましくは、水が通過することができるネット状コンベヤベルトから形成されている。
なお図示の例では、上下のコンベヤ部材で生バラコ包装体を挟んで搬送するように構成しているが、下方のネット状コンベヤベルトのみで構成し、載置して搬送するように構成してもよい。
【0017】
水噴射流発生手段3は、複数のシート状水噴射流層7wを含むシート状水噴射流を発生するのが好ましく、これらのシート状水噴射流は、食品搬送手段の搬送面に対して所定の角度でその搬送方向に対して種々の方向からバラコ包装体の表面に突き当てられる。
なお、図示の例では、水噴射流発生手段3は、4対の上下の水噴射流発生器7から成り、これらの水噴射流発生器7は、各対の相対する水噴射流層を発生するように構成されている。
図4に示すように、これらの対の水噴射流発生手段3は、水供給槽(水供給源)に接続された水導管に共通に設けられた多数のスリット状ノズル8から成っている。
図3に示すように、これらのノズルから噴出する対の相対する水噴射流層は、三角形のシート状に広げられてこれらのシート状水噴射流集合層7wを形成するように相互に集合してバラコ包装体に向けられる。
水噴射流発生手段3は、後に述べる水導管を経てこれも後に述べる水供給槽から所定の圧力で水を供給する高圧ポンプを含んでいるのが好ましい。この特定のポンプは、約30kg/cm2以下の高圧水を供給するが、水噴射流が生食用の魚卵に噴射される圧力は、殺菌すべき食品(生食用の魚卵)によって異なる。
図3および図4に示すように、相対する水噴射流層が好ましくは共通の平面を形成するように相対する方向から食品の相対する面に噴射される。相対する水噴射流層と同様の方法で生食用の魚卵(生バラコ)の表面に噴射される。これらの相対する水噴射流層は、生バラコ包装体の相対する表面にかけられる力を平衡させる働きを有する。
生バラコ包装体の相対する表面に平衡力がかけられると、生バラコ包装体は、上下のコンベヤ部材の間で均一の厚さにされながらこれらのコンベヤ部材の間で滑ることなく、生バラコ包装体は、中心部まで速やかに殺菌温度に加熱することができる。
【0018】
水循環手段4について、図示の形態では、食品殺菌装置は、水噴射流発生手段3に水を供給し、この水を食品殺菌領域から受け取って水噴射流発生手段3に戻すように温水を循環する水循環手段を備えている。
この水循環手段4は、水噴射流発生手段3に温水を供給する水供給槽と、食品殺菌領域から水を受け取る水受け取り槽と、水戻し通路とから成っており、水戻し通路は、汚れた水を濾過して純化しつつ水受け取り槽内の水を水供給槽に移送する水ポンプと図示しないフィルタとを含んでいるのが好ましい。水供給槽と水ポンプとは、水導管に水を供給する水供給源を構成している。
また、水循環手段4を構成する水供給層内には、加熱手段および温度調節手段が設けられており、噴射流発生手段に温水を供給する温水の温度を調節するべく構成されている。
【0019】
殺菌装置の動作について述べると、生バラコ包装体は、装置の入口で下部コンベヤベルトに移送され、次いで上部コンベヤベルトによって搬送されてこれらの上下のコンベヤベルトの間に挟まれながら食品殺菌領域に搬送されるが、これらのコンベヤベルトによって生バラコ包装体は、展開されて有効に殺菌される。従って、生バラコ包装体は、水噴射流が噴射されている間、上下のコンベヤベルトによって、高圧を受けて水噴射流によって移動するのが防止される。
食品殺菌領域に生バラコ包装体が達すると、水噴射流発生器からのシート状水噴射流層7wが生バラコ包装体に種々の方向から噴射される。
各対の相対するシート状水噴射流層7wが直線的に食品の表面に向けられるが、水噴射流層は、食品がコンベヤベルトと共に移動する間、種々の方向から食品に向けられるので、水噴射流層は、生バラコ包装体の全面にわたって噴射される。
【参考例】
【0020】
明太子から分離した乳酸菌の耐熱性試験結果を図5に示す。該当食品に存在する微生物を分離、同定し耐熱性を調査し、その温度帯での耐熱性(熱抵抗性)を検証した。今回のたらこに関しては乳酸菌(ラクトバチルス)であったため、その菌について耐熱性を調査した。50℃から60℃、10分以上という調査内容から分離した菌(乳酸菌)について、50℃と60℃の2パタ−ンの熱を加え経時的に菌の減少を確認した。結果として50℃加熱では15分後に菌が死滅し、60℃では10分後に菌(乳酸菌)が死滅している。この結果をもとに実施例で採用する低温殺菌の湯温とコンベアースピードを設定した。
【実施例1】
【0021】
辛子明太子について未殺菌、低温殺菌との比較において経時的に微生物の(乳酸菌、一般生菌数、大腸菌群)変化を検証した。辛子明太子を図1に示される三角形状のプラスチック袋に充填した。得られた各包装体を、63℃の温水のシャワーを毎時97 l(リットル)の割合で13分間包装体の上下より浴びた後の試験体における菌の状態を、初発(表1)、25℃17時間経過後(表2)、25℃41時間経過後(表3)に示す。表中、検体に(1)(2)(3)(丸数字)とあるのは、個々の検体における微生物における残存のバラツキが考えられるため、同一検体を3回サンプリングし検査精度を高めている(1検体のデータより3検体のデータの方が信頼性がある)。
【表1】


【表2】


【表3】

【0022】
試験の評価について説明する。表1ないし表3に示すように、未殺菌の物と低温殺菌かけた物とでは、明らかに微生物の残存は、未殺菌の商品の方があり、低温殺菌をかけた商
品の方が微生物の残存がない。低温殺菌をかけることで、すでに微生物はほぼ死滅していることがわかる。
【実施例2】
【0023】
生たらこを、(1)三角形状のプラスチック袋にバラコを充填した包装体、(2)具材にした通常のサイズのおにぎりに未殺菌の物と63℃の温水シャワーを毎時97 l(リットル)の割合で13分間包装体の上下より浴びせた後の試験体のものを具材として菌の状態を、初発(表4)、25℃17時間経過後(表5)、25℃41時間経過後(表6)に示す。表中、検体に(1)(2)(3)(丸数字)とあるのは、個々の検体における微生物における残存のバラツキが考えられるため、同一検体を3回サンプリングし検査精度を高めている(1検体のデーターより3検体のデーターの方が信頼性がある)。
【表4】


【表5】


【表6】

【0024】
試験の評価について説明する。表4ないし表6に示すように、「生たらこ」についても辛子明太子と同様のことが言える。未殺菌の物と低温殺菌かけた物とでは、明らかに微生物の残存は、未殺菌の商品の方があり、低温殺菌をかけた商品の方が微生物の残存がない。低温殺菌をかけることで、すでに微生物はほぼ死滅していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例で用いた三角形のプラスチック袋の概略図である。
【図2】殺菌装置の正面図である。
【図3】殺菌装置の平面図である。
【図4】殺菌装置のノズルの(A)一つの形態、(B)他の形態の斜視図である。
【図5】明太子から分離した乳酸菌の耐熱性試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 生バラコ包装用プラスチック袋
2 搬送手段
3 水噴射流発生手段
4 水循環手段
5 上のコンベヤ部材
5a 無端コンベヤベルト
6 下のコンベヤ部材
6a 無端コンベヤベルト
7 水噴射流発生器
7w シート状水噴射流層
8 スリット状ノズル
9 スリットノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平なプラスチック袋に入れた生食用の魚卵を、網目状の搬送面に載せて加熱領域に搬送し、高圧水の噴射面が平面状になる上下温水シャワーで前記搬送面上の袋を挟むようにして所定時間低温で加熱する生食用の魚卵の殺菌方法。
【請求項2】
プラスチック袋が三角形の袋である請求項1記載の生食用の魚卵の殺菌方法。
【請求項3】
60℃以上70℃以下で10分ないし20分低温殺菌する請求項1または2の生食用の魚卵の殺菌方法。
【請求項4】
生食用の魚卵が辛子明太子である請求項1、2または3の生食用の魚卵の殺菌方法。
【請求項5】
生食用の魚卵が生バラコである請求項1、2または3の生食用の魚卵の殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−109712(P2006−109712A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298124(P2004−298124)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(392023625)わらべや日洋株式会社 (4)
【出願人】(599051384)株式会社日洋 (1)
【Fターム(参考)】