説明

生体サンプルの自動分析システム

【課題】処理能力を向上させた自動分析装置を提供することにある。
【解決手段】処理能力の大きく異なる分析部により構成される自動分析装置において、処理能力の低い分析部の処理能力を超えた検体ラックをラック供給部101からラック待機部105へ搬送する。
【効果】ラック供給部出口で検体ラックが詰まらなくなり、自動分析装置全体の処理速度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液,尿などの生体サンプルを分析する自動分析装置に係り、特に、生化学分析装置の他に免疫分析装置,遺伝子分析装置等を検体搬送ラインで接続した生体サンプルの自動分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液,尿などの生体由来の試料(検体)を分析する自動分析装置において、従来は検体中に含まれる酵素や脂質等の測定に適した生化学自動分析装置による分析が主流であったが、近年、感染症や腫瘍マーカー等の免疫分析や、感染症の抗原が生体中で増加する際に検出される抗原のDNAやRNA等の遺伝子を分析するのに適した遺伝子分析の依頼も増加している。
【0003】
臨床検査での感染症や腫瘍マーカー等の項目の分析依頼比率が高まるにつれて、検査室での作業効率向上のために、同一のサンプル容器中の検体を用いて生化学分析と、免疫分析,遺伝子分析等、従来は別個の分析装置で小分けした試料を用いて行っていた分析を一台で分析することが可能な装置への要求が高まりつつある。この要求を満たすためには、生化学分析部,免疫分析部あるいは遺伝子分析部等を組み合わせる統合システムが考えられる。また、生化学分析のように検体キャリオーバーの影響を受けにくい項目と、免疫分析,遺伝子分析のように検体キャリオーバーの影響を受けやすい項目の分析を同一システム上で実行するために、何らかの検体キャリオーバー回避手段が必要となる。
【0004】
生化学分析部と免疫分析部を組み合わせる統合システムの例として、特許文献1が知られている。ここに記載されている自動分析装置では、検体キャリオーバー回避のために免疫分析部での測定を優先して開始して、その分析結果を待ち、免疫分析部での再検査の必要が無ければ生化学分析部での測定を開始するようになっている。
【0005】
また、ラック待機部を備えた自動分析装置の例として、特許文献2,特許文献3,特許文献4などが知られている。これらに記載されている自動分析装置でのラック待機部は自動再検を行うためのもので、ラック供給部から供給された検体ラックはラック待機部へ直接移動はせず、必ずどこかの分析部で検体ラックに収容されている試料が分注処理されてからラック待機部へ移動する。
【0006】
【特許文献1】特開2000−74925号公報
【特許文献2】特公平8−33402号公報
【特許文献3】特開平6−207943号公報
【特許文献4】特開平10−213586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1での生化学分析部と免疫分析部などを組み合わせた自動分析装置では、免疫分析部での分析項目を依頼された検体が多い場合、システム全体としての処理能力が低下する。なぜならば、免疫分析部は生化学分析部に比べて5分の1以下の処理能力であることが多いが、検体キャリオーバー回避のためには生化学分析部に先立ち免疫分析部から分析を開始しなければならず、従って、免疫分析の依頼比率が高い場合にはラック供給部出口で免疫分析を行うための検体ラックの多くが免疫分析部への搬送待ちになる。すなわち、後続するラックで生化学分析だけ行うものがあったとしても生化学分析部へ搬送されず、免疫分析を行うための検体ラックにより搬送待ちを余儀なくされるので、システム全体として効率良く分析が行われないからである。
【0008】
一方、システムに含まれる免疫分析部の数を増やせば、処理能力の低下を防げるが、システムの占有面積が大きくなるという問題が発生する。
【0009】
本発明の目的は、生化学分析と免疫分析のような処理能力の異なる分析部を一つの搬送ラインで接続した生体サンプルの自動分析システムにおいて、各分析部に効率的に検体ラックを搬送することにより、処理能力を向上した生体サンプルの自動分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下の通りである。
(1)検体ラックを収容可能なラック供給部と、該検体ラックに収容されているサンプル容器から採取したサンプルを分析する分析部と、該分析部での分析が終了したサンプルを収容する検体ラックを回収するラック回収部と、前記検体ラックを一時待機させるラック待機部と、該検体ラックを、前記ラック供給部,前記分析部,前記ラック待機部,前記ラック回収部の間で移動させる検体搬送部と、を備えた生体サンプルの自動分析システムであって、前記検体搬送部に複数の分析部が接続されており、前記ラック供給部が次に前記検体搬送部に供給しようとしている検体ラックについて、該検体ラックに収容されたサンプルの分析項目を分析する分析部が、その処理能力を超えており、既に他の検体ラックの処理待ちをしている場合には、該検体ラックを前記分析部をバイパスして待機部に直接搬送するように前記検体搬送部を制御する制御部を備える生体サンプルの自動分析システム。
(2)(1)において、前記複数の分析部にそれぞれラックを供給するための複数の搬送ラインを単一のラック供給部から配置し、前記ラック供給部にいずれの搬送ラインに対して検体ラックを搬送するかを振り分ける振分部を設けた生体サンプルの自動分析システム。
(3)(2)において、前記ラック供給部に、ラック識別装置を設け、該ラック識別装置の識別結果に基づいて前記ラック振分部を制御する制御部を設けた生体サンプルの自動分析システム。
(4)(3)において、検体間のキャリオーバー回避が必要な分析項目をもつ任意の数の分析部と、検体間のキャリオーバー回避が必要な分析項目をもたない任意の数の分析部とがあり、前者の検体処理能力が後者の検体処理能力よりも低い場合には、前者およびそれに付随する搬送ラインと、後者およびそれに付随する搬送ラインとを前記ラック供給部から反対の方向に配置した生体サンプルの自動分析システム。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、本発明によれば、ラック供給部出口で検体ラックが詰まらなくなり、生体サンプルの自動分析システム全体の処理速度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の一実施例である自動分析装置のブロック図である。
【0013】
本実施例による自動分析装置は、ラック供給部101,ID読取部102,主搬送ライン103,戻し搬送ライン104,分析部110,120,ラック待機部105,ラック回収部106、とこれら全体を制御する制御部107を備えている。
【0014】
ラック供給部101は、複数個の検体(試料)を保持する複数個の検体ラックを投入する部分である。分析部110,120は、主搬送ライン103に沿って配置され、任意の数を配置することが可能である。本実施例では生化学分析部が免疫分析部との二つの分析から構成されている。これら分析部の生化学分析部と免疫分析部の数も任意であり、また、例えば遺伝子分析部など他の分析部を含めた任意の構成となっていてもよい。
【0015】
主搬送ライン103は、ラック供給部101からの検体ラックを、各分析部もしくはラック待機部105へ搬送する。また、主搬送ライン103は各分析部での分析が終了した検体ラックをラック待機部105もしくはラック回収部106に搬送する。各分析部110,120は、引き込みライン111,121を有している。主搬送ライン103から各分析部への検体ラックの搬送は、この引き込みライン111,121に引き込むことにより行われる。引き込みライン111,121は検体ラックを一時待機させることができるので、検体ラックが主搬送ライン103の入口で詰まりにくくなり、検体ラックの各分析部への搬送効率が向上する。戻し搬送ライン104は、ラック待機部105にある検体ラックを主搬送ライン103の入口に戻すためのものである。ラック待機部105は、再検査の要不要を待つ間など、すでにラック供給部101から出てしまった検体ラックのうち分析する可能性を残しているものを一時待機させる部分である。ラック回収部106は全ての分析が終了した検体ラックを回収する部分である。
【0016】
検体ラックによって保持された検体は、検体に関する情報を示す検体IDを有し、検体ラックはラック番号等のラック識別情報を示すラックIDを有する。ラック供給部101に置かれた検体ラックは、主搬送ライン103によって各分析部へ搬送される。検体ラックが主搬送ライン103に移った際に、検体IDや検体ラックIDが、ID読取部102で読み取られ、情報が制御部107に送られる。制御部107は、その情報と操作部108から入力された分析依頼情報に基づいて、依頼された分析項目の分析をいずれの分析部で行うかを決定し、主搬送ライン103などの移動機構に対して検体ラックの搬送指示を出し、各分析部へ検体ラックを搬送させる。また、制御部107は、各分析部から分析結果を収集し、表示部109などに分析結果を出力する。
【0017】
図2は本発明の別の一実施例である自動分析装置のブロック図である。
【0018】
本実施例による自動分析装置は、ラック供給部101,ID読取部102,主搬送ライン103,202,戻し搬送ライン104,分析部110,120,ラック待機部105、ラック回収部106、とこれら全体を制御する制御部107を備えている。
【0019】
ラック供給部101は、複数個の検体(試料)を保持する複数個のラックを投入する部分で、生化学分析部120と免疫分析部110という種類の異なる分析部により挟まれた配置としている。同じ種類の分析部は、ラック供給部から見て同方向の主搬送ラインに沿って任意の数を配置することが可能である。本実施例では一つの生化学分析部120と一つの免疫分析部110から構成されている。
【0020】
ラック供給部101の出口には左右の主搬送ライン103,202に振り分けるためのラック振分部201が配置されている。ラック回収部106はラック供給部101から見て生化学分析部120の奥に配置されており、完全に分析の終了した検体ラックを回収する部分である。このような配置により、生化学分析部120に比べて処理能力の低い免疫分析部110側の搬送ライン202を免疫分析部用のラック待機部として扱えるので、免疫分析部での分析依頼のかかった検体ラックがラック供給部101の出口で詰まりにくくなり、装置全体としての処理能力が向上する。
【0021】
主搬送ライン103,202は、ラック振分部201で振り分けられた検体ラックを各分析部へ搬送する。また、主搬送ライン103,202は各分析部での分析が終了した検体ラックをラック待機部105もしくはラック回収部106に搬送する。戻し搬送ラインは104は、ラック待機部105にある検体ラックをラック振分部201へ戻すためのものである。ラック待機部105は、再検査の要不要を待つ間など、すでにラック供給部
101から出てしまった検体ラックのうち分析する可能性を残しているものを一時待機させる部分である。
【0022】
検体ラックによって保持された検体は、検体に関する情報を示す検体IDを有し、検体ラックはラック番号等のラック識別情報を示すラックIDを有する。ラック供給部101に置かれた検体ラックは、ラック振分部201により各主搬送ライン103,202に振り分けられ、更に各主搬送ライン103,202により各分析部110,120へ搬送される。検体ラックがラック振分部に移った際に、検体IDや検体ラックIDが、ID読取部102で読み取られ、情報が制御部107に送られる。制御部107は、その情報と操作部108から入力された分析依頼情報に基づいて、依頼された分析項目の分析をいずれの分析部で行うかを決定し、ラック振分部、主搬送ラインなどの移動機構に対して検体ラックの搬送指示を出し、各分析部へ検体ラックを搬送させる。また制御部107は、各分析部からの分析結果を収集し、表示部109などに分析結果を表示する。
【0023】
本発明の一実施形態による自動分析における検体ラックの流れについて説明する。図3および図4は、本発明の一実施形態による自動分析における検体ラック搬送処理を示すフローチャートである。
【0024】
ステップS301でID読取部102は、検体IDおよびラックIDを読み取る。読み取られた情報は制御部107に送られ、操作部108から入力された分析依頼情報と照合される。ステップS302で制御部107は、検体ラック上にある検体に依頼された項目について、ある特定の分析部で分析する必要があるか判断を行う。ある特定の分析部で先に分析する必要がない場合はステップS313に、その必要がある場合にはステップ
S303に進む。ある特定の分析部で先に分析する必要がある例として、自動分析装置が生化学分析部と免疫分析部により構成される場合に、検体ラック上の試料のうち一つでも免疫分析部での分析項目が依頼されている場合が挙げられる。この場合、検体キャリオーバー回避のためにその検体ラックは最初に必ず免疫分析部での分析を行う。
【0025】
ステップS303で制御部107は、測定すべき項目を分析可能な分析部が受入可能であるかの判断を行う。受入可能である場合はステップS306へ進み、検体ラックをその分析部へ搬送する。受入不可能である場合はステップS304,S305に進み、検体ラックを待機部105へ搬送し、分析部が受入可能になったらステップS306へ進む。
【0026】
ステップS307では、分析部での分注が行われる。分注終了後、ステップS308で制御部107は、分注の終了した検体ラックが再検待ちの必要のあるものか判断する。再検待ちの必要がある検体ラックの場合はステップS309へ進み、検体ラックを待機部
105へ搬送する。再検待ちの必要がない検体ラックの場合は、ステップS302へ進む。
【0027】
ステップS310で分析部での分析が終了後、ステップS311で制御部107は、分析結果を元に再検査の要不要を判断する。再検査が必要な場合はステップS303へ進み、再検査が不要な場合はステップS302へ進む。
【0028】
処理がステップS313まで進んだ時点で、依頼された分析項目のうち分析されていない項目の測定順序に優劣はないことになる。ステップS313で制御部107は、測定すべき項目を分析可能な分析部が受入可能であるかの判断を行う。受入可能である場合はステップS316へ進み、検体ラックをその分析部へ搬送する。受入不可能である場合はステップS314,S315に進み、検体ラックを待機部105へ搬送し、分析部が受入可能になったら分析部へ搬送する。
【0029】
ステップS317では、分析部での分注が行われる。分注終了後、ステップS318で制御部107は、他の分析部で分析項目が残っているか判断する。分析項目が残っている場合はステップS313に進み、残っていない場合は、ステップS319へ進む。
【0030】
ステップS319で制御部107は、検体ラックが再検待ちの必要のあるものか判断する。再検待ちの必要がある検体ラックの場合はステップS320へ進み、検体ラックを待機部へ搬送する。再検待ちの必要がない検体ラックの場合は、ステップS323へ進む。
【0031】
ステップS321で分析部での分析が終了後、ステップS322で制御部107は、分析結果を元に再検査の要不要を判断する。再検査が必要な場合はステップS313へ進み、再検査が不要な場合はステップS323へ進み、検体ラックは回収部へ搬送される。
【0032】
以上が本発明の一実施形態による自動分析装置における検体ラック搬送処理である。ここでラック供給からラック回収までの流れを説明したが、この中で従来技術において実施されてないものは、ステップS303,S304,S305,S306(S313,
S314,S315,S316)の処理である。この処理により、検体ラックを各分析部へより効率的に搬送でき、装置全体としての自動分析装置の処理能力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例である自動分析装置のブロック図である。
【図2】本発明の一実施例である自動分析装置のブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による自動分析における検体ラック搬送処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態による自動分析における検体ラック搬送処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
101…ラック供給部、102…ID読取部、103,202…主搬送ライン、104…戻し搬送ライン、105…ラック待機部、106…ラック回収部、107…制御部、
108…操作部、109…表示部、110,120…分析部、111,121…引き込みライン、201…ラック振分部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学分析部と免疫分析部という種類の異なる分析部と、
検体ラックを該分析部に搬送する搬送ラインと、
検体ラックを該搬送ラインに供給するラック供給部と、
を備えた自動分析システムであって、
前記ラック供給部は、前記生化学分析部と免疫分析部により挟まれて配置されており、更に前記ラック供給部はラックを前記生化学分析部と免疫分析部のいずれかに振り分けるラック振分部を備えたことを特徴とする自動分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析システムにおいて、
前記分析部は同じ種類の分析部がラック供給部から見て同方向の搬送ラインに沿って複数台配置されていることを特徴とする自動分析システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動分析システムにおいて、
前記ラック供給部に、ラック識別装置を設け、該ラック識別装置の識別結果に基づいて前記ラック振分部を制御する制御部を設けたことを特徴とする生体サンプルの自動分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−38881(P2006−38881A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305157(P2005−305157)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【分割の表示】特願2001−249730(P2001−249730)の分割
【原出願日】平成13年8月21日(2001.8.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】