説明

生体サンプル像取得装置、生体サンプル像取得方法及びプログラム

【課題】サンプル部位の像を効率よく取得し得る生体サンプル像取得装置、生体サンプル像取得方法及びプログラムを提案する。
【解決手段】サンプルステージに対してステージを追従させることで、撮像素子に対する露光の開始時期をサンプルステージの停止時点よりも前としても、サンプル部位のぶれを回避する。また、撮像素子に対する露光の開始時期をサンプルステージの停止時点よりも前とすることで、一のサンプル部位に対する、ステージ起動時点から撮像終了時点までの時間を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体サンプル像取得装置、生体サンプル像取得方法及びプログラムに関し、例えば生体サンプルを拡大して観察する分野に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
生体サンプルは、組織切片等をスライドガラスに固定し、必要に応じて染色を施した後に保管される。一般に、保管期間が長期間となると、組織切片の劣化や退色等により生体サンプルに対する顕微鏡での視認性が悪くなる。また、生体サンプルは、作成された病院等の施設以外の施設で診断されることもあるが、該生体サンプルの受け渡しは一般に郵送であり、一定の時間を要する。
【0003】
このような実情等に鑑み、生体サンプルを画像データとして保存する装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−222801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の装置では、生体サンプル全体の像を取得する場合、生体サンプル全体を対物レンズを通じて撮像面に結像することは困難である。したがって、対物レンズの撮像範囲に対して生体サンプルを割り当てて、各サンプル部位の像を取得する必要がある。
【0006】
一般に、各サンプル部位の像を取得に要する時間を短縮するには、ステージの移動速度を速めることが考えられるが、ステージの高速化は、機械的要因や振動防止等の観点より限界がある。このため、ステージを高速化すること以外で、各サンプル部位の像を取得に要する時間を短縮することが望まれている。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、サンプル部位の像を効率よく取得し得る生体サンプル像取得装置、生体サンプル像取得方法及びプログラムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明は、生体サンプル像取得装置であって、生体サンプルが配され、該生体サンプルが配される面の方向に移動可能なサンプルステージと、生体サンプルの部位を拡大する対物レンズと、対物レンズにより拡大される部位を撮像する撮像素子と、撮像素子又は対物レンズが配され、当該面の方向と対応する対応方向に移動可能なステージと、生体サンプルの対象とすべき部位が撮像範囲に位置するように、サンプルステージを移動させる第1の移動手段と、サンプルステージの移動速度に対して対物レンズの倍率を乗算した移動速度で、対応方向にステージを移動させる第2の移動手段と、第1の移動手段により移動されるサンプルステージが停止する前に、撮像素子の露光を開始させる撮像制御手段とを含む構成とする。
【0009】
また本発明は、生体サンプル像取得方法であって、生体サンプルが配されるサンプルステージを、対象とすべき部位が撮像範囲に位置するように、該生体サンプルが配される面の方向に移動させる第1のステップと、対物レンズにより拡大される部位を撮像する撮像素子又は対物レンズが配されるステージを、当該面の方向と対応する方向に、サンプルステージの移動速度に対して対物レンズの倍率を乗算した移動速度で移動させる第2のステップと、第1のステップで移動されるサンプルステージが停止する前に、撮像素子の露光を開始させる第3のステップとを経るようにする。
【0010】
また本発明は、プログラムであって、生体サンプルが配されるサンプルステージに対して、対象とすべき部位が撮像範囲に位置するように、該生体サンプルが配される面の方向に移動することを実行させ、対物レンズにより拡大される部位を撮像する撮像素子又は対物レンズが配されるステージに対して、当該面の方向と対応する方向に、サンプルステージの移動速度に対して対物レンズの倍率を乗算した移動速度で移動することを実行させ、撮像素子に対して、移動されるサンプルステージが停止する前に露光を開始することを実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、サンプルステージに対して、撮像素子又は対物レンズが配されるステージを追従させることで、該撮像素子に対する露光の開始時期をサンプルステージの停止時点よりも前としても、サンプル部位のぶれを回避することができる。また、撮像素子に対する露光の開始時期をサンプルステージの停止時点よりも前とすることで、一のサンプル部位に対する、ステージ起動時点から撮像終了時点までの時間を短縮できる。かくして、サンプル部位の像を効率よく取得し得る生体サンプル像取得装置、生体サンプル像取得方法及びプログラムが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】生体サンプル像取得装置の構成を示す略線図である。
【図2】蛍光像を示す写真である。
【図3】データ処理部の構成を示すブロック図である。
【図4】生体サンプルに対する領域ごとの画像の取得の説明に供する略線図である。
【図5】生体サンプル像の生成に要する時間の短縮化(1)の説明に供する略線図である。
【図6】サンプル像取得処理手順を示すフローチャートである。
【図7】生体サンプル像の生成に要する時間の短縮化(2)の説明に供する略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序とする。
<1.実施の形態>
[1−1.生体サンプル像取得装置の構成]
[1−2.データ処理部の構成]
[1−3.生体サンプル像における生成時間の短縮化対策]
[1−4.サンプル像取得処理手順]
[1−5.効果等]
<2.他の実施の形態>
【0014】
<1.実施の形態>
[1−1.生体サンプル像取得装置の構成]
図1において、本一実施の形態による生体サンプル像取得装置1を示す。この生体サンプル像取得装置1は、顕微鏡10と、データ処理部20とを含む構成される。
【0015】
顕微鏡10は、組織切片、細胞又は染色体等の生体高分子でなる生体サンプルSPLを配置可能な面をもち、その面に対して平行方向及び直交方向(xyz軸方向)に移動可能なステージ(以下、これをサンプルステージとも呼ぶ)11を有する。
【0016】
生体サンプルSPLは、この実施の形態ではスライドガラスSGに対して所定の固定手法により固定され、必要に応じて染色が施される。この染色には、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色、ギムザ染色又はパパニコロウ染色等に代表される一般染色のみならず、FISH(Fluorescence In-Situ Hybridization)や酵素抗体法等の蛍光染色が含まれる。
【0017】
この顕微鏡10におけるサンプルステージ11の一方の面側には光学系12が配され、該サンプルステージ11の他方の面側には照明灯13が配される。照明灯13の光は、サンプルステージ11に対して穿設される開口から、該サンプルステージ11の一方の面に配される生体サンプルSPLに対する照明光として到達する。
【0018】
顕微鏡10は、この照明光で得られる生体サンプルSPLにおける一部の像を、光学系12の第1の対物レンズ12A及び第2の対物レンズ12Bによって所定の倍率に拡大する。そして顕微鏡10は、これら対物レンズ12A,12Bにより拡大される像を、撮像素子30の撮像面に結像するようになされている。
【0019】
一方、この顕微鏡10の所定位置には、蛍光染色に対する励起光を照射する励起光源14が設けられる。この実施の形態では励起光源14として、小型化、長寿命化、高輝度化又は省電力化等の観点から発光ダイオード(Light Emitting Diode)が採用される。
【0020】
顕微鏡10は、この励起光源14から励起光が照射された場合、該励起光を、第1の対物レンズ12A及び第2の対物レンズ12B間に設けられるダイクロイックミラー12Cで反射させて第1の対物レンズ12Aに導く。そして顕微鏡10は、この励起光を、第1の対物レンズ12Aによってサンプルステージ11に配されるスライドガラスSGに集光する。
【0021】
スライドガラスSGに固定される生体サンプルSPLに対して蛍光染色が施されていた場合、励起光により蛍光色素が発光する。この発光によって得られる光(以下、これを発色光とも呼ぶ)は第1の対物レンズ12Aを介してダイクロイックミラー12Cを透過する。そしてこの発色光は、ダイクロイックミラー12C及び第2の対物レンズ12B間に設けられる吸光フィルタ板12Dを介して、該第2の対物レンズ12Bに到達する。
【0022】
顕微鏡10は、発色光に得られる像を第1の対物レンズ12Aによって拡大し、該発色光以外の光(以下、これを外光とも呼ぶ)を吸光フィルタ板12Dによって吸収する。そして顕微鏡10は、外光が喪失された発色光で得られる像を、第2の対物レンズ12Bによって拡大し、該拡大される像を撮像素子30の撮像面に結像するようになされている。
【0023】
ここで、この顕微鏡10によって撮像された生体サンプルSPLの蛍光像の写真を一例として図2に示す。この図2は、乳腺組織におけるHER2(Human Epithelial growth factor Receptor type 2)蛋白と、プローブ(abbott社のHER−2DNAプローブキットのPathVysion)とをFISH法によりハイブリダイゼーションさせて得られたものである。図2(A)における乳腺組織は正常人から採取し、図2(B)における乳腺組織は乳癌患者から採取したものである。
【0024】
図2に示すとおり、悪性の乳腺組織では、正常の乳腺組織に比べて、標識物質の蛍光色素(矢印で示す部分)が増量している。この図2からも明らかなように、HER2蛋白は乳がん、卵巣がん、子宮がん、胃がん、膀胱がん、小細胞肺がん又は前立腺がん等の悪性腫瘍では増殖するため、悪性腫瘍の進行の程度を表す指標として生きた細胞のまま視認させることが可能である。
【0025】
一方、データ処理部20は、撮像素子30を用いて、生体サンプルSPL全体の像(以下、これを生体サンプル像とも呼ぶ)を生成し、これを所定形式のデータ(以下、これをサンプルデータとも呼ぶ)として保存するようになされている。
【0026】
このようにこの生体サンプル像取得装置1は、スライドガラスSGの生体サンプルSPLを、鏡検状態の画像として保存することができるようになされている。したがってこの生体サンプル像取得装置1は、スライドガラスSG自体を保存する場合に比して、固定や染色等の状態を劣化させることなく長期にわたって生体サンプルSPLを保存することが可能となる。
【0027】
[1−2.データ処理部の構成]
次に、データ処理部20の構成について説明する。このデータ処理部20は、図3に示すように、制御を司るCPU(Central Processing Unit)21に対して各種ハードウェアを接続することにより構成される。
【0028】
具体的にはROM(Read Only Memory)22、CPU21のワークメモリとなるRAM(Random Access Memory)23、ユーザの操作に応じた命令を入力する操作入力部24、インターフェイス25、表示部26及び記憶部27がバス28を介して接続される。
【0029】
ROM22には、各種の処理を実行するためのプログラムが格納される。インターフェイス25には、サンプルステージ11、励起光源13又は撮像素子30(図1)がそれぞれ接続される。この撮像素子30は、光学系12の光軸に対して、平行方向及び直交方向に移動可能なステージ(以下、これを撮像素子ステージとも呼ぶ)31(図1)に配されており、該撮像素子ステージ31もインターフェイス25に接続される。
【0030】
表示部25には、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ又はプラズマディスプレイ等が適用される。また記憶部26には、HD(Hard Disk)に代表される磁気ディスクもしくは半導体メモリ又は光ディスク等が適用される。
【0031】
CPU21は、ROM22に格納される複数のプログラムのうち、操作入力部23から与えられる命令に対応するプログラムをRAM23に展開し、該展開したプログラムにしたがって、表示部25及び記憶部26を適宜制御する。またCPU21は、インターフェイス25を介してサンプルステージ11、撮像素子ステージ31、励起光源13又は撮像素子30を適宜制御するようになされている。
【0032】
この実施の形態では、操作入力部23から、生体サンプルSPL全体の像をデータとして取得する命令が与えられた場合、CPU21は、該命令に対応するプログラム(以下、これをサンプル像取得プログラムとも呼ぶ)をRAM23に展開する。この場合におけるCPU21の処理は、機能的にみると、前処理部21A、サンプル像生成部21B及び記録部21Cとして分類することができる。
【0033】
前処理部21Aは、少なくとも、光学系12のフォーカス位置を調整することと、撮像素子30の感度を調整することを前処理として実行するようになされている。
【0034】
具体的に前処理部21Aは、光学系12のフォーカス位置を調整する場合、撮像素子30での光電変換結果として得られる撮像データを取得する。そして前処理部21Aは、撮像データが示す画素値に基づいて、ステージ11又は31を通じて、光学系12と撮像素子30の撮像面との光軸方向(z方向)における相対的位置を可変する。
【0035】
また前処理部21Aは、撮像素子30の感度を調整する場合、撮像素子30から撮像データを取得する。そして前処理部21Aは、撮像データが示す画素値に基づいて、励起光源14に対する励起光の照射光量(光強度)と、撮像素子30に対する露光時間と、絞り(図示せず)に対する開口量との全部又は一部を可変する。
【0036】
サンプル像生成部21Bは、前処理部21Aの各種調整が終了した場合、サンプルステージ11を面方向に移動させる。
【0037】
具体的には、生体サンプルSPLの対象とすべき部位(以下、これをサンプル部位とも呼ぶ)が撮像範囲ARに位置するように、サンプルステージ11を順次移動させ、例えば図4に示すように、該撮像範囲ARに対して生体サンプルSPLを割り当てる。この図4では、撮像範囲ARに割り当てるべき生体サンプルSPLの領域が重ならない態様となっているが、隣接する領域の一部が重なる態様であってもよい。
【0038】
そしてサンプル像生成部21Bは、対象とすべきサンプル部位が撮像範囲ARに移動されるごとに、当該部位を撮像素子30に撮像させ、この結果得られる各サンプル部位の像を連結して生体サンプル像を生成する。
【0039】
記録部21Cは、生体サンプル像が生成された場合、該生体サンプル像の全部又は生体サンプル像を復元可能な一部を示す画素情報を含むサンプルデータを生成する。
【0040】
そして記録部21Cは、このサンプルデータに対して、生体サンプル像に関する識別情報を示すデータを付加し、該データが付加されたサンプルデータを記憶部27に記録する。
【0041】
この識別情報は、例えば、生体サンプルSPLの採取者名、採取者性別、採取者年齢及び採取日付等といった情報である。記録部21Cは、この識別情報を入力すべきことを、生体サンプルSPLのデータ保存命令が与えられたタイミングや、スライドガラスSGをセットすべきタイミング等といった所定のタイミングで通知するようになされている。
【0042】
また記録部21Cは、生体サンプルデータデータが生成されたときに識別情報が得られていない場合には、該識別情報を入力すべきことを警告するようになされている。ちなみに、識別情報を入力すべきことの通知又は警告は、例えば音声や、GUI(Graphical User Interface)画面等により実行される。
【0043】
[1−3.生体サンプル像における生成時間の短縮化対策]
ところで、この実施の形態におけるサンプル像生成部21Bでは、生体サンプル像を生成するまでに要する時間を短縮化する対策が講じられている。
【0044】
上述したように、サンプル像生成部21Bは、生体サンプルSPLを部位ごとに撮像する場合、該生体サンプルSPLの対象とすべき部位が対物レンズ12Bの撮像範囲ARに位置するように、サンプルステージ11を順次移動させる。
【0045】
この場合、サンプル像生成部21Bは、図5に示すように、対象とすべきサンプル部位が撮像範囲ARに位置するまで移動させたサンプルステージ11の停止時点よりも前から、撮像素子30に対して露光を開始させる(撮像を開始させる)。
【0046】
したがって、対象とすべき部位を撮像するまでに要するサンプルステージ11の移動時間と、撮像素子30の露光時間との一部は重複することになる。このことから、これら移動時間及び露光時間の合計時間txは、撮像素子30に対する露光の開始時期をサンプルステージ11が完全に停止した時点からとする場合の合計時間tyに比して短縮される。
【0047】
この結果、サンプル像生成部21Bは、生体サンプルSPLにおける部位の像を連結して生体サンプル像を生成するまでの生成時間を短縮化することが可能となる。
【0048】
またサンプル像生成部21Bは、撮像素子30が配される撮像素子ステージ31を、対物レンズ12A,12Bの合計倍率を考慮した移動速度で、サンプルステージ11の移動方向に移動させることで、生体サンプルSPLに対して撮像素子30を追従させる。
【0049】
具体的にサンプル像生成部21Bは、サンプルステージ11の駆動モータから所定のサンプリング周期ごとに位置データを取得し、当該位置に基づいてサンプルステージ11の移動速度及び移動方向を算出する。またサンプル像生成部21Bは、サンプルステージ11の移動速度を対物レンズ12A及び12Bの倍率と乗算する。
【0050】
そしてサンプル像生成部21Bは、この乗算結果として得られる移動速度で、サンプルステージ11の移動方向と対応する方向に移動させるべき制御データを生成し、これを撮像素子ステージ31の駆動モータに与えるようになされている。
【0051】
したがって、サンプルステージ11と撮像素子ステージ31との相対位置は、これらステージ11,31が静止している場合の位置関係と同一又は実質上同一となるため、サンプルステージ11の停止時点よりも前から撮像素子30に対して露光を開始させることに起因する画像のぶれは生じないことになる。
【0052】
このようにサンプル像生成部21Bは、サンプルステージ11の移動方向と対応する方向に、対物レンズ12の倍率を考慮した移動速度で撮像素子ステージ31を移動させるとともに、該サンプルステージ11の停止前から撮像素子30の露光を開始させる。これによりこのサンプル像生成部21Bは、画像劣化(ぶれ)を抑えながら、生体サンプル像における生成時間を短縮化することができる。
【0053】
[1−4.サンプル像取得処理手順]
次に、サンプル像取得プログラムをRAM23に展開したCPU21のサンプル像取得処理手順を説明する。ただし、記録部21Cについて上述した事項のうち、識別情報を入力すべきことの通知又は警告については、便宜上、省略する。
【0054】
すなわち、CPU21は、生体サンプルSPL全体の像をデータとして取得する命令が操作入力部23から与えられた場合、サンプル像取得処理を開始し、ステップSP1に進む。
【0055】
CPU21は、ステップSP1では、少なくとも、光学系12のフォーカス位置を調整することと、撮像素子30の感度を調整することとを前処理として実行し、次のステップSP2に進む。
【0056】
CPU21は、ステップSP2では、生体サンプルSPLのうち、対象とすべきサンプル部位が撮像範囲ARに位置するようにサンプルステージ11の移動を開始させ、次のステップSP3に進む。
【0057】
CPU21は、ステップSP3では、サンプルステージ11の移動方向と対応する方向に、該サンプルステージ11の移動速度に対して対物レンズ12(12A及び12B)の倍率を乗算した移動速度で、撮像素子ステージ31を移動させる。
【0058】
そしてCPU21は、ステップSP4に進んで、サンプルステージ11における極大となる移動速度を基準として、該サンプルステージ11を減速させ始めた時点から停止する時点までの間に撮像素子30に対する露光を開始させ、次のステップSP5に進む。
【0059】
CPU21は、ステップSP5では、生体サンプルSPLにおけるすべての部位を撮像し終えたか否かを判定する。ここで、すべての部位を撮像し終えていない場合、CPU21は、ステップSP4で開始させた露光が終了した時点でステップSP2に戻る。
【0060】
これに対して、すべての部位を撮像し終えた場合、CPU21は、次のステップSP6に進んで、生体サンプルSPLにおける各部位の像を連結して生体サンプル像を生成する。
【0061】
そしてCPU21は、ステップSP7に進んで、生体サンプル像をサンプルデータとして生成し、該サンプルデータを、識別情報を示すデータを付加した状態で記憶部27に記録した後、このサンプル像取得処理を終了する。
【0062】
このようにしてCPU21は、サンプル像取得プログラムにしたがってサンプル像取得処理を実行するようになされている。
【0063】
[1−5.効果等]
以上の構成において、この生体サンプル像取得装置1は、サンプルステージ11の移動によって、対象とすべきサンプル部位を撮像範囲に位置させる場合、該サンプルステージ11に対して撮像素子ステージ31を追従させる。
【0064】
そして生体サンプル像取得装置1は、対象とすべきサンプル部位を撮像範囲に位置させたサンプルステージ11が完全に停止する前から、撮像素子30の露光を開始させる(図5参照)。
【0065】
生体サンプル像取得装置1は、サンプルステージ11に対して撮像素子ステージ31を追従させることで、撮像素子30に対する露光の開始時期をサンプルステージ11の停止時点よりも前としても、サンプル部位のぶれを回避することができる。
【0066】
また生体サンプル像取得装置1は、撮像素子30に対する露光の開始時期をサンプルステージ11の停止時点よりも前とすることで、一のサンプル部位に対する、ステージ起動時点から撮像終了時点までの時間を短縮できる。
【0067】
したがって、生体サンプル像取得装置1は、生体サンプルSPLを対物レンズ12Bの撮像範囲に割り当て、その割り当て分のサンプル部位の像を得るまでの時間を大幅に短縮することができる。
【0068】
サンプルステージ11の移動開始時点からその直後までの期間(立ち上がり期間)と、停止直前から停止時点までの期間(立ち下がり期間)との速度は、機械的構造又は振動防止等の要因により緩やかである(図5参照)。いいかえると、移動開始時点から停止時点までの移動時間全体に占める、立ち上がり期間又は立ち下がり期間の割合は、当該期間以外よりも高いものとなる。
【0069】
したがって、撮像素子30に対する露光の開始時期をサンプルステージ11の停止時点よりも前にできるということは、ステージ起動時点から撮像終了時点までの時間を短縮する観点では特に有用となる。また、減速を一定にさせるといった特別な制御を要することなく、ステージ起動時点から撮像終了時点までの時間を短縮する観点でも有用となる。
【0070】
なお、撮像素子の撮像面サイズとして、36[mm] ×24[mm]のフルサイズを用いた場合、該フルサイズよりも小さい撮像面サイズを用いた場合に比べると、生体サンプルSPL全体に対する、撮像すべき部位の画像枚数(撮像回数)は少なくなる。
【0071】
したがって、この実施の形態における撮像素子30の撮像面サイズとして、36[mm] ×24[mm]以上のサイズを適用すれば、生体サンプル像における生成時間をより一段と短縮化することが可能となる。
【0072】
以上の構成によれば、画像劣化(ぶれ)を抑えながら、生体サンプル像における生成時間を高速化でき、かくして、サンプル部位の像を効率よく取得し得る生体サンプル像取得装置1が実現できる。
【0073】
<2.他の実施の形態>
上述の実施の形態では、現に対象とされるサンプル部位の撮像(露光)が終了した時点から、次に対象とすべきサンプル部位が撮像範囲に位置するように、サンプルステージ11の移動が開始された(図6:ステップSP5(NO)の場合の説明参照)。
【0074】
このサンプルステージ11の移動の開始時期は、現に対象とされる部位の撮像が終了(露光が終了)する前としてもよい。すなわち、図6について上述したように、CPU21は、ステップSP4で開始させた露光が終了した時点でステップSP2に戻るのではなく、該終了前にステップSP2に戻ることができる。
【0075】
このようにした場合、図7からも明らかなように、対象とすべき部位を撮像するまでに要するサンプルステージ11の移動時間と、撮像素子30の露光時間との重複期間は、上述の実施の形態の場合(図5)よりも短縮されることになる。したがって、CPU21は、画像劣化(ぶれ)を抑えながら、生体サンプル像における生成時間を上述の実施の形態の場合(図5)に比べてより一段と短縮化することができる。
【0076】
また上述の実施の形態では、撮像素子30の露光開始時期は、サンプルステージ11の停止時期よりも前とされた。どの程度前かという点については、対象とすべきサンプル部位が撮像範囲内にある程度に、サンプルステージ11の停止時期よりも前であればよい。
【0077】
好ましくは、サンプルステージ11における極大となる移動速度を基準として、該サンプルステージ11を減速させ始めた時点から停止する時点までの間がよい。より好ましくは、極大となる移動速度を基準として、サンプルステージ11を一定に減速させ始め、その減速が緩やかとなる時期よりも前がよい。
【0078】
また上述の実施の形態では、生体サンプルSPLにおけるすべての部位に対する撮像が終了してから、当該撮像される各部位の像が連結された。しかしながら連結態様はこの実施の形態に限定されるものではない。例えば、1又は規定数の部位を単位とする像が撮像されるごとに連結するといった連結態様が適用されてもよい。
【0079】
また上述の実施の形態では、2つの対物レンズ12A,12Bが用いられた。しかしながら対物レンズは1つであってもよい。また、各対物レンズ12A,12Bを、レボルバー等を適用して倍率が可変できるようにしてもよい。さらに、対物レンズ12Bは接眼レンズとすることもできる。
【0080】
ちなみに、対物レンズ12Bを接眼レンズとする場合、該接眼レンズを通じて目視可能にするためには撮像素子ステージ31の配する位置の変更が必要となる。例えば、光学系12の光路上にビームスプリッタが配され、該ビームスプリッタにより分離される一方の光の光軸上に接眼レンズが配されるようにする。また、他方の光の光軸に対して平行方向及び直交方向に移動可能な撮像素子ステージ31が配され、該撮像素子ステージ31に撮像素子30が配されるようにする。このようにすれば、接眼レンズを通じて目視可能としながらも、上述の実施の形態の効果を奏することが可能である。
【0081】
なお、このようにする場合又は上述の実施の形態の場合のいずれの場合であっても、サンプルステージ11と、撮像素子ステージ31とを平行に設けなければならないといった制約はない。
【0082】
また上述の実施の形態では、生体サンプルSPLにおける所望の部位を撮像範囲に移動させる場合、サンプルステージ11に対して撮像素子ステージ31が追従された。しかしながら追従させるべき対象は、撮像素子ステージ31に代えて、対物レンズ12(12A,12B)とするようにしてもよい。このようにしても上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
また上述の実施の形態では、サンプルステージ11に追従させる場合、駆動モータから所定のサンプリング周期ごとに取得した位置データに基づく演算により移動度(移動速度及び移動方向)が算出された。しかしながら移動度を得る手法はこの実施に限定されるものではない。例えば、加速度センサから得られる電圧又は電流の変化から移動度を得る手法が適用可能である。
【0084】
また上述の実施の形態では、サンプル像取得処理により得られるサンプルデータはデータ処理部20内の記憶部27にバス28を通じて保存された。記憶部27は、データ処理部20内に設ける場合に限定されるものではなく、該データ処理部20の外部としてもよい。また記憶部27に対するサンプルデータの通信媒体はバス27に限定されるものではなく、例えば、ローカルエリアネットワークやインターネット、ディジタル衛星放送等の有線又は無線の通信媒体としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、生物実験、医薬の創製又は患者の経過観察などのバイオ産業上において利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1……生体サンプル像取得装置、10……顕微鏡、11……サンプルステージ、12……光学系、12A,12B……対物レンズ、12C……ダイクロイックミラー、12D……吸光フィルタ板、13……照明灯、14……励起光源、20……データ処理部、21……CPU、22……ROM、23……RAM、24……操作入力部、25……インターフェイス、26……表示部、27……記憶部、30……撮像素子、31……撮像素子ステージ、SG……スライドガラス、SPL……生体サンプル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体サンプルが配され、該生体サンプルが配される面の方向に移動可能なサンプルステージと、
上記生体サンプルの部位を拡大する対物レンズと、
上記対物レンズにより拡大される部位を撮像する撮像素子と、
上記撮像素子又は上記対物レンズが配され、上記方向と対応する対応方向に移動可能なステージと、
上記生体サンプルの対象とすべき部位が撮像範囲に位置するように、上記サンプルステージを移動させる第1の移動手段と、
サンプルステージの移動速度に対して対物レンズの倍率を乗算した移動速度で、上記対応方向に上記ステージを移動させる第2の移動手段と、
上記第1の移動手段により移動されるサンプルステージが停止する前に、上記撮像素子の露光を開始させる撮像制御手段と
を有する生体サンプル像取得装置。
【請求項2】
上記第1の移動手段は、
上記撮像制御手段により開始される露光が終了する前に、次に対象とすべき部位が撮像範囲に位置するように、上記サンプルステージの移動を開始させる
請求項1に記載の生体サンプル像取得装置。
【請求項3】
生体サンプルが配されるサンプルステージを、対象とすべき部位が撮像範囲に位置するように、該生体サンプルが配される面の方向に移動させる第1のステップと、
上記対物レンズにより拡大される部位を撮像する撮像素子又は上記対物レンズが配されるステージを、上記方向と対応する方向に、サンプルステージの移動速度に対して対物レンズの倍率を乗算した移動速度で移動させる第2のステップと、
上記第1のステップで移動されるサンプルステージが停止する前に、上記撮像素子の露光を開始させる第3のステップと
を有する生体サンプル像取得方法。
【請求項4】
生体サンプルが配されるサンプルステージに対して、
対象とすべき部位が撮像範囲に位置するように、該生体サンプルが配される面の方向に移動することを実行させ、
上記対物レンズにより拡大される部位を撮像する撮像素子又は上記対物レンズが配されるステージに対して、
上記方向と対応する方向に、サンプルステージの移動速度に対して対物レンズの倍率を乗算した移動速度で移動することを実行させ、
上記撮像素子に対して、
移動されるサンプルステージが停止する前に露光を開始することを実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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