説明

生体光計測装置

【課題】本発明の目的は、生体内深部の病変部位を高精度で検出できる生体光計測装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、時間的に強度が変化する波長の異なる複数の光を発光する発光手段と、前記発光手段により発光された光を同一光路上に合成する合成手段と、前記合成手段により合成された光を照射する照射手段と、前記照射手段により照射した光を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された光の強度を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された光の強度の時間的な変化量が極小になるように、前記発光手段により発光する複数の光の強度を調整する調整手段とを具備する生体光計測装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いて生体内部情報を非侵襲的に得ることができる生体光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織や血液などの光学的性質、例えば光の散乱係数や吸収係数といった値は生理的状態などにより変化することが知られている。この代表的な例が、血液中に存在するヘモグロビンの酸化状態による吸収係数の変化である。具体的には、図5に示すように、酸化ヘモグロビンは900-1000nm近傍の光に対しては還元ヘモグロビンと比較してより大きな吸収係数をもっている。但し、この大小関係は800nm辺りを境に逆転し、これより短波長側の光吸収係数は逆に還元ヘモグロビンの方が大きくなっている。従って、例えば酸化ヘモグロビンの吸収が大きな値をもつ900nm近傍の波長の光と、還元ヘモグロビンの吸収係数の大きな波長700nmの光を同時に生体に照射し、その吸収量の比などを測定することで体内のヘモグロビンの酸化度を推定することができる。また、このようなアイデアに基づいて体表面を流れる血液の酸素飽和度を求める計測装置は既に実用化されており、さらに同様の原理を用いて大脳の機能を測定しようとする試みも行われている。なお、生体にレーザー光などの光を照射すると、光は生体内部で散乱され、再び皮膚を通過して生体外に出射する。この光には生体内部の情報が含まれており、最近ではがんの早期診断などに出射光が利用できるのではないかと期待されている。
【0003】
このときの測定原理の一例は、上述のヘモグロビンの酸化度を評価することにより診断を行うというものである。すなわち、一般に、がんの組織は細胞が異常増殖していることにより、正常組織より酸素の供給が不十分な状態となっている。したがって、がん組織は周囲の正常組織と比較して相対的に還元ヘモグロビン量が多く、このような体内での変化を測定することが出来れば、がんの早期発見が可能となるわけである。
【0004】
勿論、現在のがん診断においては、超音波診断やX線CTといった方法が良く用いられており、健康診断などにおいて大きな成果をあげている。しかしながら、これらの診断は組織の音響インピーダンスやX線の透過率といった主に物理的な特性を計測している。そのためにこのような検査では、正常組織内に存在する通常の状態とは異なる組織の有無は計測できるものの、その組織が悪性なのか良性なのかといった、主に化学的な情報にもとづいた知見までは得ることが出来ない。そこで、上述のような光を用いた医療診断機器が実現できれば、これを既存の診断機器と組み合わせることで、診断精度を大幅に向上できると期待される。但し、生体光を用いた診断においては、光の体内への入射効率などがさまざまな要因により異なっている事から、検出した光の絶対強度により情報を引き出すのではなく、光の入射位置や検出位置を変化させることにより、光が入射位置から検出位置までに生体内を通過する領域を変化させ、これによる検出光の変化から生体内部を診断する試みが進められている。
【0005】
しかしながら、実際のがん検診などの場面で求められるものは、生体内深部にある組織の診断である。生体内深部の組織は生体表面で観測される光にごく僅かな影響しか与えない。すなわち生体表面で観測される光には、生体内部で数多くの散乱を繰り返し、いろいろな場所を通過した光が含まれている。そこで、光を用いた生体診断の開発においては、微弱な信号の測定感度を向上させるために照射する光の強度を変調させ、観測された光強度の変調の変化をロックインアンプなどにより測定するという手法が用いられている。
【0006】
例えば、正常組織と異常組織で吸収係数が大きく異なる波長λ1の光を準備する。このとき波長λ1の光の強度に周波数ωの振幅変調をかけた場合の光強度I1は以下の等式で表わすことができる。なお、a1、b1は定数DC成分とする。
【数1】

【0007】
この時、光の照射点あるいは測定点を変化させ、生体内に存在するがん組織を通過する光が増加したとする。すると、波長λ1の光は、吸収量が変化することとなる。一般的にこの変化量は非常に微量である。今この変化量が10-6と仮定すると、変化した後の波長λ1の光強度I1’は以下の等式で表わすことができる。
【数2】

【0008】
このときのI1とI1’を同一スケールの図で表すと図6aのようになる。図6aの一部分を拡大すると図6bのようになる。光強度I1’とI1は極めて近似しており、光強度の振幅変調の差は非常に小さい。このような微小な差を検出すためには、大きな絶対値の信号中の微小な変化を捉える必要があり、測定における有効数字を非常に大きくしなければならない。
【特許文献1】特開平9−19408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、生体内深部の病変が反射光強度に与える影響は、絶対値で5桁から6桁程度の非常に微量な変化でしかない。これに対し、生体内は非常に複雑な組織系からなり、入射光に変調を加えたとしても、測定したい領域以外を通過した桁違いに大きい光も同様に変調されており、これが検出信号に重畳されてしまう。従って、大きな絶対値の信号中の微小な変化を捉えなければ生体深部の情報を得ることができなかった。アンプのダイナミックレンジの関係から考えると、このような微量な変化を検出することは困難であり、生体光計測装置の測定精度に問題があった。本発明の目的は、このような従来の構成が有していた問題を解決しようとするものであり、生体内深部の病変部位を高精度で検出できる生体光計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、時間的に強度が変化する波長の異なる複数の光を発光する発光手段と、前記発光手段により発光された光を同一光路上に合成する合成手段と、前記合成手段により合成された光を照射する照射手段と、前記照射手段により照射した光を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された光の強度を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された光の強度の時間的な変化量が極小になるように、前記発光手段により発光する複数の光の強度を調整する調整手段とを具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生体光計測装置は、検出光の変化分を測定する際に障害となっていた大きな信号成分を除去することができ、検出信号の測定に過大なダイナミックレンジを要求することなく必要な信号のみを検出することができる。これによって検出感度が増し、従来見過ごされてきた小さな病変部位の検出が可能になり、既存の診断機器と組み合わせることによって病気の初期的発見に威力を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の生体光計測装置について説明する。
【0013】
図1は、本発明の生体光計測装置の一実施形態の構成を示す。
【0014】
1.発光手段
発光手段12は、第1の光ビームを出射する第1の光源12(a)と、第1の光ビームとは異なる波長の第2の光ビームを出射する第2の光源12(b)と、第1および第2の光ビームとは異なる波長の第3の光ビームを出射する第3の光源12(c)とを備える。前記第1ないし第3の光源としては、例えば3種類の異なる半導体レーザーを使用する。半導体レーザーは、ヘッド部とドライバー部で構成され、ヘッド部は光源としてレーザーを照射し、ドライバー部はヘッド部から照射される光ビームの強度を制御する。
【0015】
例えばがん組織を検出する場合、第1の光源12(a)から出射される第1の光ビームとして正常組織とがん組織で吸収係数が大きく異なる波長λ1の光を準備する。ここで重要なことは、第1の光ビームは、生体組織内の正常部位とがん組織部位での光学定数が異なることである。光学定数が異なるとは、散乱係数や吸収係数が異なることを意味する。上述したように、がん組織は正常組織と比較して還元ヘモグロビン量が多い。従って、還元ヘモグロビン量の多い組織と少ない組織で光の吸収係数が異なる波長の光を照射する必要がある。すなわち、第1の光ビームを出射する第1の光源12(a)は、検出光用の光源としての役割を担う。
【0016】
そして、第2の光源12(b)から出射される光ビームと第3の光源12(c)から出射される光ビームとして、正常組織とがん組織で吸収係数が殆ど変わらない2種類の波長λ2、λ3の光を準備する。第2の光ビームを出射する第2の光源12(b)と第3の光ビームを出射する第3の光源12(c)は、参照光用の光源としての役割を担う。
【0017】
2.変調手段
変調手段11は、前記第1ないし第3の光源から出射される光ビームの強度に変調をかける制御信号を出力する。変調手段としては、例えばファンクションジェネレータを使用する。
【0018】
波長λ1の光の強度に周波数ωの変調をかけた場合の光強度I1は、以下の式(1)で表わすことができる。波長λ1の光強度の周期的な変化の状態を図2aに示す。λ1の光と同様、λ2およびλ3の光の強度に周波数ωの変調をかけ、かつI1に対してそれぞれ2π/3および4π/3の位相差を設けた光強度I2およびI3は、それぞれ式(2)および(3)で表わすことができる。波長λ2およびλ3の光強度の周期的な変化の状態を図2bに示す。
【数3】

【0019】
ここで重要なことは、前記2以上の光を重ね合わせたときにそれぞれの光強度の周期的な変化が打ち消し合うような位相差を設けることである。図1の実施形態では、第1ないし第3の光ビームは、光の強度が等しく(定数a)、かつその光強度の周期的な変化が2π/3ずつずれている(ωt、ωt+2π/3、ωt+4π/3)。また、波長の異なる光に対する生体組織の光学定数は一般に同じではない。したがって、この段階で重ね合わされた光強度が仮に定数となっていても、検出光強度は定数とはならない。しかしながら、波長による生体物質の光学定数の差の影響は、主に入射光強度と検出光強度の比を変化させることにある。したがって、a+a+aを調整することによって、検出光強度を式(4)のように表わすことができる。
【数4】

【0020】
3.合成手段
合成手段13は、前記第1ないし第3の光源から出射された第1ないし第3の光ビームを重ね合わせる機構を備える。
【0021】
上記(1)〜(3)の式で入射された第1ないし第3の光ビームを同一光路上に重ね合わせると、検出光ではそれぞれの光の強度の周期的な変調分が打ち消し合い、検出光にはDC成分のみが残る。また測定にあたっては、この調整を行い、この調整時からの検出光の変化でおこなう。
【0022】
4.光照射手段
光照射手段14は、合成手段13に連結され、合成手段13よって重ね合わされた第1ないし第3の光ビームを生体に照射する機構を備える。光照射手段としては、例えば光ファイバーを使用する。
【0023】
第1ないし第3の光ビームは、合成手段13によって重ね合わされた状態で光照射用の光ファイバ14を通して生体組織に照射される。生体に照射された第1ないし第3の光ビームは、生体組織内部に進行し、生体組織の光吸収特性に応じて一部が吸収され、一部が反射光として生体外に放射される。第1ないし第3の光ビームの反射光は生体組織内で拡散されるため、拡散する反射光からがん組織を検出するための情報を得るためには、光照射手段から一定の間隔をあけた定位置での反射光を光検出手段に伝送する必要がある。従って、光照射用の光ファイバー14と光検出用の光ファイバー16はプローブ21に一定の間隔をあけて固定されており、プローブ21を生体組織表面に沿って走査していくことによって、拡散する第1ないし第3の光ビームの反射光をがん組織を検出するための情報として使用することができる。
【0024】
プローブ21を生体組織表面に沿って走査し、がん組織に第1の光ビームが照射されると、生体外に放射される反射光としての第1の光ビームの光量が変化する。すなわち、上述したように、第1の光ビームは正常組織とがん組織で吸収係数が大きく異なる波長λ1の光であるため、第1の光ビームが「正常組織」に照射されたときに生体外に放射される反射光としての第1の光ビームの光強度と、第1の光ビームが「がん組織」に照射されたときに生体外に放射される反射光としての第1の光ビームの光強度との間には検出可能な光量差が生じる。
【0025】
なお、15は、生体モデルサンプルを表わす。生体モデルサンプル15はモデルブロック24と薄板23とで構成され、モデルブロック24にはモデル血液を入れる溝25が複数設けられており、その上に脂肪と同じ光学定数を示す薄板23が密着して静置されている。
【0026】
5.光検出手段
光検出手段17は、光検出用の光ファイバー16と連結され、光照射用の光ファイバー14を通して生体組織内に照射された第1ないし第3の光ビームの生体からの反射光を検出する機構を有する。前記生体外に放射された反射光としての第1ないし第3の光ビームを、光照射用の光ファイバー14から一定の間隔をあけて固定された光検出用の光ファイバー16で受光し、受光した光を光ファイバー16を通して光検出手段17へ伝送する。光検出手段としては、例えばOE変換器を使用する。
【0027】
6.光強度測定手段
光強度測定手段18は、前記生体外に放射された反射光としての第1ないし第3の光ビームの光強度を測定する機構を有する。光強度測定手段としては、例えばロックインアンプを使用する。
【0028】
プローブ22を生体組織表面に沿って移動させ、がん組織部位において変化する反射光の光強度の変化を検出する。がん組織では還元ヘモグロビン量が多いため、病変部位を通過した波長λ1の光は、正常組織を通過した場合に比べてより多く組織に吸収される。一方、波長λ2およびλ3の光は、正常組織とがん組織で吸収係数が殆ど変化しないため、がん組織を通過しても検出される出射光に変化がない。従って、プローブ22を移動させ、光検出部において検出される反射光の光強度に振幅変調が現れたとき、その変化は波長λ1の光が還元ヘモグロビン量の多いがん組織に強く吸収されたことに起因するものと推定することができる。
【0029】
今この変化量が10-6と仮定すると、変化した後の波長λ1の光強度I1’は以下の等式で表わすことができる。
【数5】

【0030】
ここで、重なり合った3つの光の強度I1’、I2、I3を足しあげた値は、
【数6】

【0031】
となる。このとき、定数分3bの信号は測定する際にハイパスフィルターを通過させることにより容易に除去することができる。このようにしてDC成分を除去した後の検出強度を図3に示す。すなわち、本発明の測定方法により検出光の変化分を測定する際の障害となっていた大きな信号成分を除去することができ、検出信号の測定に過大なダイナミックレンジを要求することなく、必要な信号のみを検出することが可能となる。
【0032】
以上の議論においては、光の照射位置あるいは観測位置を変えても係数a2,a3は変化しないことを仮定したが、通常の場合、照射された光の中で、実際に生体内部に入る量や、あるいは生体内部から外部に出射される光の量は皮膚表面の状態などに依存するために、この仮定は正しくない。しかしながら、このことが検出光強度にあたえる影響の周波数依存性は小さく、係数a1,a2,a3に対する影響は、大きさが1程度のオーバーオールな定数因子を乗じることと考える事ができる。これによる変化は式(4)に大きさが1程度の因子がかかるだけであり、得られる結論に変わりはない。また、波長λ2、λはがん組織と正常組織でその吸収係数が変化しないと仮定したが、吸収係数が変化しても波長λの光と同一の変化とならなければ、同じ結論が得られる。
【0033】
7.調整手段
調整手段19は、光強度測定手段18で検出された反射光としての第1ないし第3の光ビームの光強度の時間的な変化に基づいて、変調手段11における光の時間的な強度を調整する機構を有する。
【0034】
生体は複雑な組織系の統合体である。例えば、光照射用の光ファイバ14から出射された光は、先ず最初に皮膚を通過し、その下に存在するがん組織に到達する。がん組織に到達した光は、一部が吸収され、一部が反射される。ここで、皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の三層から成り、真皮には多量の線維成分、神経末端および毛細血管が存在し、さらには皮脂腺や汗腺といった体表面の保湿や発熱に関与する組織系が多数存在している。そして、皮下組織よりも内部では、軟骨組織、骨組織、造血組織、筋組織、神経組織等が絡み合う複雑な組織系が展開されている。
【0035】
上述したように、本実施形態では、還元ヘモグロビンに対する吸収特性の違いによって第1の光ビームを検出光、第2および第3の光ビームを参照光として使用する。生体内の複雑な組織系内からがん組織を検出するためには、参照光として使用する第2および第3の光ビームから得られる反射光が正常組織とがん組織でほぼ一定である必要がある。しかし、上記複雑な組織系の中には、第2または第3の光ビームの波長域付近での光吸収特性がその他の波長域と比べて大きく異なる組織が存在する。すると、たとえ正常組織内を走査していても、第2および第3の光ビームの吸収量が変化してしまい、結果として第2および第3の光ビームから得られる反射光が正常組織内でも変化してしまう。このような変化がバックグラウンドとして大きくなると、真に検出すべき第1の光ビームから得られる反射光の変化を検出することができなくなる。従って、複雑な組織系の内部に潜むがん組織を検出するためには、絶えず反射光を補正する必要がある。
【0036】
光強度測定手段18において、第2および第3の光ビームの少なくとも一方の反射光の減少によって光強度に変調が現れた場合、この変調分を読み取り、調整手段19が変調手段11および発光手段12に対してフィードバック制御を行い、この変調分に応じて第2および第3の光源から出射される第2および第3の光ビームの光強度が調整される。調整手段19が変調手段11および発光手段12に対してフィードバック制御を行うので、正常組織内で変化する第2および第3の光ビームの光強度の変化を絶えず補正することができる。その結果、正常組織内から反射光として得られる第1ないし第3の光ビームの光強度の合波を常に定数値(DC成分のみ)に保つことができる。これによって、プローブ22ががん組織上を走査した際、反射光として得られる第1の光ビームの微量の変化量を検出することができる。
【0037】
以上、本発明の一実施態様を図1を用いて説明した。当該実施形態は、本発明の一例に過ぎず、その他種々の態様が考えられる。より端的に言えば、本願発明は、2以上の光に周期的な光強度の変化と位相差を生じさせ、かつ検出された参照光の出力に基づいて前記2以上の光の強度を制御するコントローラを備える生体光計測装置である。
【0038】
例えば、上記実施形態では3つの光ビームを使用したが、使用する光の数は少なくとも2以上あればよく、その数に制限はない。例えば、2つの光を使用する場合、それぞれの光強度の周期的な変化はπずれている必要がある。重要なことは、2以上の光が重ね合わされたときに周期的に変化する光強度が打ち消され、その光強度の変化量が極小となることである。「光強度の変化量が極小となる」とは、実際には、光強度の周期的な変化を完全に打ち消し合うことはできないことを考慮し、この変化量をできる限り小さくすることを意味する。すなわち、理論的には、光強度の周期的な変化が打ち消し合い、DC成分のみが残るような2以上の光が選択されていればよい。
【0039】
また、光強度の周期的な変化を打ち消しあうという要件を満たす限り、光強度の異なる光(すなわち、上記式の係数aが異なる光)を使用してもよい。さらに、使用する2以上の光の中に、光の強度が一定の光(すなわちDC成分のみの光)が含まれていてもよい。
【実施例】
【0040】
実施例1
測定対象を血液とし、吸収体としてヘモグロビン還元体とヘモグロビン酸化体を選んだ。装置性能を評価する際の測定対象として、下記のモデルサンプルを準備した。シリコーン樹脂を母材とし、散乱体(10%脂肪球分散液、製品名:イントラリピッド)と吸収体(近赤外領域用色素、製品名:グリーニッシュグリーン)を分散させた後に硬化させ、脂肪と同じ光学定数(散乱係数・吸収係数)とした。このサンプルを15mm厚みにスライスした薄板を用意する一方、ブロック表面に幅と長さが5mmから25mm(5mm刻み)で、深さ5mmの溝を作製した。モデル血液として、ヘモグロビン還元体、ヘモグロビン酸化体の近赤外領域(800nm付近)の吸収スペクトルと一致するスペクトルを示す色素を各々選び、2種類の水溶液を作製した(モデル1:ヘモグロビン還元体の水溶液、モデル2:ヘモグロビン酸化体の水溶液)。ブロックに作成した溝の中に空気が残らないように注意しながらモデル血液を注入した(奇数の溝にモデル1、偶数の溝にモデル2)。ブロック上に薄板を注意深く置いて空気層ができないように密着させた。
【0041】
測定波長をヘモグロビン還元体、ヘモグロビン酸化体、水の吸収帯と合わせて760nm、840nm、970nmとし、光源として3本の近赤外LD(連続発振LDを周波数500kHzの正弦波で強度変調したもの)を選んだ。ファンクションジェネレータで正弦波を発生させた後、各LDのドライバーには位相を120度ずつずらした信号を入力した。各LDから出力する変調光をフィルター上で合波し、1本の光ファイバー(石英シングルコア、250μm径)を介してサンプル上に光照射する形状とした。一方、光ファイバー(プラスチックマルチコア、500μm径)で出射光を転送し、高速応答Siフォトダイオードに対数アンプを接続したシステム(OE検出器、サブnW〜10mWまでの出力を検出可能)にて光検出した。2本の光ファイバー間の距離は3cmとした。OE出力をロックインアンプにつなぎ、LDドライバーへの信号で外部トリガーをかけることにより各LDの出力を独立して検出できるようにした。更にOE出力をAC結合アンプに切り替えられるようにし、信号強度をメインアンプで増幅した後にAD変換してPCに取り込むようにした。
【0042】
まず溝のない位置の上にプローブを合わせた状態で各LDからの光出力をロックインアンプで検出し、吸収体がない状態でモデルを通過してくる光強度を計測した。LDに供給する電流値を調整し、3つのLD出力が同程度(10nW〜サブμWレベル)になるようにした。この状態でOE出力をAC結合アンプに接続し、吸収体がない状態での光強度基準(出力=0)と設定した。溝のある位置の上にプローブが来るまで、プローブを光源ファイバーの位置を中心にして回転させた(すなわち、光源の位置を変えずに検出器の位置を変化させた)。ACアンプからの出力が0から減衰し、溝のある位置の上で最小を示した後に再び増加に転じて0に戻ることを観測した。このプローブの回転角とAC結合アンプ出力との関係を図4に示す。溝のない位置において同様の回転操作を行ったところ、ACアンプからの出力は0を中心として上下したのみであった。溝の幅が25mmから5mmと減少するに従って、アンプ出力の減少は小さくなるが、5mmであっても雑音と区別できるだけの減少を観測することができた。
【0043】
出力が最小となる位置にプローブを設置し、OE出力をロックインアンプに再接続したところ、奇数の溝の場合には760nmLD光の出力が減衰し、偶数の溝の場合には840nmLD光の出力が減衰していた。これらの結果は、奇数の溝に入っている吸収体がヘモグロビン還元体であり、偶数の溝に入っている吸収体がヘモグロビン酸化体であることと整合するものである。
【0044】
比較例1
AC結合アンプの代わりにDC結合アンプを用い、OE出力そのものを検出するシステムとして同様の実験を行った。プローブを各位置に設置しながらOE出力をモニタしたところ、溝の幅が15mm以上である場合には溝のない位置での出力と比較して有意に信号が小さくなっていることを観測した。一方、溝の幅が10mm以下の場合には信号強度は必ずしも小さくならず、吸収体を検知することができなかった。
【0045】
実施例2
光源ファイバーを中心とし、中心から半径3cmの円周上に12個のファイバーヘッドを等間隔に配置した。各ファイバーで受光した光は12個の高速応答Siフォトダイオードに対数アンプを接続したシステム(OE検出器列)にて光検出した。基準とするファイバーを決め(番号を0とする、以下時計回りに1から11と番号をつける)、このファイバーを溝のない位置に設置し、ここから得られる信号に対して実施例1と同様の操作により3LDの光強度を調整し、吸収体がない状態での光強度基準(出力=0)と設定した。OE検出器列から得られる各検出器からの信号は、番号0を基準とした差動増幅回路を通過した後にAD変換してPCに取り込むようにした。
【0046】
ファイバー0を溝のない位置に設置し、いくつかのファイバーが溝のある位置の上に来るようにプローブを置いて検出したところ、幅5mmの溝まで吸収による光強度の減少を検出することができた。
【0047】
比較例2
一方、差動増幅回路を使用せずOE出力そのものを検出するシステムとして同様の実験を行ったところ、検出できる幅は15mmまでであった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の生体光計測装置の一実施形態の構成を示す図。
【図2a】波長λ1の光強度の周期的な変化の状態図。
【図2b】波長λ2およびλ3の光強度の周期的な変化の状態図。
【図3】生体組織内の病変部位における、波長λ1、λ2およびλ3の合波の光強度からDC成分を除去した後の検出強度。
【図4】プローブの回転角とAC結合アンプ出力の関係を示す図。
【図5】ヘモグロビンの酸化状態と還元状態における光吸収係数の変化を示す図。
【図6a】等式AおよびCで表わされる光強度をもつ波長λ1とλ2の光強度の周期的な変化の状態図。
【図6b】図6aの拡大図。
【符号の説明】
【0049】
1 波長λの光の出力光強度
2 波長λの光の出力光強度
3 波長λの光の出力光強度
11 変調手段
12 発光手段
13 合成手段
14 光照射手段
15 生体モデルサンプル
16 光検出手段
17 光検出手段
18 光強度測定手段
19 調整手段
20 AC結合アンプ(+メインアンプ)
21 AD変換器+PC
22 プローブ
23 薄板
24 モデルブロック
25 モデル血液いり溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間的に強度が変化する波長の異なる複数の光を発光する発光手段と、
前記発光手段により発光された光を同一光路上に合成する合成手段と、
前記合成手段により合成された光を照射する照射手段と、
前記照射手段により照射した光を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された光の強度を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された光の強度の時間的な変化量が極小になるように、前記発光手段により発光する複数の光の強度を調整する調整手段と
を具備する生体光計測装置。
【請求項2】
前記複数の光のうち、少なくとも1つの光は、生体組織内の正常部位と病変部位とで光学定数が異なる光であることを特徴とする請求項1に記載の生体光計測装置。
【請求項3】
前記発光手段により発光する光は、強度I1、強度I2、強度I3で定義される3つの光であり、前記3つの光は、下記数式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の生体光計測装置。
【数1】

【請求項4】
前記複数の光の調整は、各々の光の強度が周期的な場合には、各々の振幅と位相差で行うことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の生体光計測装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2007−267837(P2007−267837A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95596(P2006−95596)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】