説明

生体光計測装置

【課題】本発明は、高精細計測を実現しつつ、他の組の信号の影響を低減し、信号精度を向上させることができる生体光計測装置を得ることを目的とするものである。
【解決手段】検出器6で電流に変換された検出信号は、それぞれ増幅器13で電圧変換され、アナログスイッチ部14により所定の周期でオン・オフされる。アナログスイッチ部14は、光源の切換に同期して他の組からの強い信号を減衰させる。低域カットフィルタ部15は、検出器6のダーク電流による変動や外部の照明等による外来光の影響を除去する。低域カットフィルタ部15としては、複数組のコンデンサ及び抵抗が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光を用いて被検体の光学特性を計測する生体光計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の高分解能方式の生体光計測装置では、第1組(A面)の照射プローブ及び検出プローブの中間位置に第2組(B面)の照射プローブ及び検出プローブが配置されている。そして、第1組の照射プローブからの光の照射タイミングと、第2組の照射プローブからの光の照射タイミングとをずらすことにより、異なる組の照射プローブからの光の影響を除いている。また、生体光計測では、高精度の微弱光検出が求められるため、検出器のダーク電流変動や、外部からの光による信号変化で生じるベースラインの低周波変動を除くため、低域カットフィルタ(コンデンサ)が直列に接続される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−178708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の生体光計測装置では、時分割で計測の組を分離しているものの、他の組の照射プローブからの強い信号による影響が、低域カットフィルタの効果により自組の信号検出時間帯にまで及び、これにより計測信号が大きく変動し、信号精度が低下してしまう。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、高精細計測を実現しつつ、他の組の信号の影響を低減し、信号精度を向上させることができる生体光計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る生体光計測装置は、所定の変調周波数で変調された光を発生する光源部、光源部からの光を被検体に照射する複数の照射プローブ、被検体から戻る光を検出する複数の検出プローブ、検出プローブに入射された光をそれぞれ光電変換する検出器、検出器からの信号に対して、光源部での変調周波数を参照周波数としてそれぞれロックイン処理を行うロックイン処理部、及びロックイン処理部からの信号に基づいて被検体の光学特性を計測する計測装置本体を備え、ロックイン処理部には、検出器からの信号から低周波成分を取り除くコンデンサが設けられており、コンデンサには、照射プローブからの光の照射のオン・オフに同期してコンデンサに入力する信号のオン・オフを行うスイッチ部が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
この発明の生体光計測装置は、照射プローブからの光の照射のオン・オフに同期してコンデンサに入力する信号のオン・オフを行うスイッチ部をコンデンサに設けたので、高精細計測を実現しつつ、他の組の信号の影響を低減し、信号精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による生体光計測装置を示すブロック図である。図において、光源部1は、複数(図では1つのみ示す)の半導体レーザ2と、半導体レーザ2を駆動するレーザ駆動回路3とを有している。各半導体レーザ2は、可視から赤外の波長領域中で複数の波長、例えば780nmの光を放射する。
【0009】
レーザ駆動回路3は、半導体レーザ2に対して直流バイアス電流を印加するとともに、半導体レーザ2から放射される光に強度変調を与える。この例では、変調方法として、矩形波によるデジタル変調が用いられるが、例えば正弦波等の任意波形の繰り返しを用いてもよい。レーザ駆動回路3には、発振器4により変調周波数が印加される。
【0010】
光源部1で発生された光は、被検体5の頭部に照射される。被検体5を透過した光は、光電変換部である検出器6で検出される。検出器6で検出された光は、皮膚及び頭蓋骨を通過しており、大脳の血流の情報を含んでいる。即ち、検出器6での検出光量は、計測点のヘモグロビン濃度に応じて変化する。従って、検出光量の変化から、被検体5の光学特性としてヘモグロビン濃度の相対変化を計測することができる。
【0011】
検出器6からの検出信号は、ロックイン処理部7に入力される。ロックイン処理部7は、変調周波数と同位相・同周波数の信号を参照信号とするロックイン処理を行う。ロックイン処理部7から出力された信号は、計測装置本体としてのコンピュータ8に入力される。コンピュータ8は、検出器6での検出光量を計測し、その計測結果から各計測点における血液中のヘモグロビン濃度の変化量を計測し、計測結果に関する情報をモニタに表示する。コンピュータ8としては、例えば汎用のパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0012】
被検体5には、光源部1からの光を被検体5に照射するとともに被検体5から戻る光を検出するためのプローブ装置(図示せず)が装着される。プローブ装置は、被検体5の頭部に装着されるホルダと、ホルダに装着された複数のプローブとを有している。
【0013】
図2は図1の生体光計測装置におけるプローブの配置状態を示す説明図である。プローブは、複数の第1組(A面)の照射プローブ11a(図2では斜線付きの四角で示す)と、複数の第1組の検出プローブ11b(図2では斜線無しの四角で示す)と、複数の第2組(B面)の照射プローブ12a(図2では斜線付きの円で示す)と、複数の第2組の検出プローブ12b(図2では斜線無しの円で示す)とを含んでいる。
【0014】
即ち、図2では、第1組のプローブ11a,11bを四角で示し、第2組のプローブ12a,12bを円で示している。また、図2では、照射プローブ11a,12aに斜線を付し、検出プローブ11b,12bを斜線無しで示している。照射プローブ11a,12aは、光源部1からの光を被検体5に照射する。検出プローブ11b,12bは、被検体5を透過した光を受光する。検出プローブ11b,12bで受光された光は、それぞれ検出器6に送られる。
【0015】
第1組のプローブ11a,11bは、マトリクス状に配置されている。また、第1組の照射プローブ11a及び検出プローブ11bは、交互に配置されている。第2組のプローブ12a,12bも、マトリクス状に配置されている。また、第2組の照射プローブ12a及び検出プローブ12bも、交互に配置されている。さらに、第2組のプローブ12a,12bは、第1組のプローブ11a,11b間に配置されている。各組において、照射プローブ11a,12aと検出プローブ11b,12bとの間のピッチは、30mmである。
【0016】
図3は図1の生体光計測装置における計測点の分布を示す説明図である。図3では、計測点を四角で示している。照射プローブ11a,12aから照射された光の一部は、計測点で大脳皮質を透過し検出プローブ11b,12bに入射する。従って、計測点は、図2における照射プローブ11a,12aと検出プローブ11b,12bとの間に位置している。この例における計測点は、45箇所(45チャンネル)であり、互いに隣接する計測点のピッチは15mmである。
【0017】
図4は図1のロックイン処理部7を示すブロック図である。ロックイン処理部7は、増幅器13、アナログスイッチ部14、低域カットフィルタ部15、AD変換器16及びロックイン演算部17を有している。
【0018】
検出器6で電流に変換された検出信号は、それぞれ増幅器13で電圧変換され、アナログスイッチ部14により所定の周期でオン・オフされる。アナログスイッチ部14は、光源の切換に同期して他の組からの強い信号を減衰させる。また、アナログスイッチ部14は、検出プローブ11b,12bに対応した複数のアナログスイッチを有している。
【0019】
低域カットフィルタ部15は、検出器6のダーク電流による変動や外部の照明等による外来光の影響を除去する。低域カットフィルタ部15としては、複数組のコンデンサ及び抵抗が用いられる。
【0020】
低域カットフィルタ部15を通過した信号は、それぞれAD変換器16でデジタル信号に変換され、ロックイン演算部17に入力される。ロックイン演算部17は、例えばDSP(Digital Signal Processor)により構成され、変調周波数、例えば10kHzを参照信号として、参照信号と同期した信号の抽出を行う。
【0021】
ここで、AD変換器16の変換サイクルは、光源部1の変調周期に比べて十分に大きい100kHzとする。これにより、デジタル信号のサンプルナイキスト周波数は50kHzとなり、変調信号10kHzを十分な精度でサンプルすることができる。
【0022】
図5は図1の生体光計測装置の一対の照射プローブ11a及び検出プローブ11bに関する信号変調回路及び信号検出回路を示す回路図である。半導体レーザ2で発生された光は、照射用光ファイバ18aを通して照射プローブ11aへ送られる。検出プローブ11bに入射した光は、検出用光ファイバ18bを通して検出器6へ送られる。
【0023】
パルス発生器19は、光源をオン・オフするとともに、アナログスイッチ部14をオン・オフするためのパルスを発生する。発振器4からの変調信号とパルス発生器19からのパルス信号とは、アンドゲート20に入力される。アンドゲート20からの出力は、レーザ駆動回路3に入力される。これにより、レーザ駆動回路3は、パルス発生器19で発生されたパルスに同期して半導体レーザ2のオン・オフを行う。
【0024】
また、パルス発生器19からのパルス信号は、アナログスイッチ部14にも入力される。これにより、アナログスイッチ部14は、パルス発生器19で発生されたパルスに同期して低域カットフィルタ部15への信号の入力のオン・オフを行う。
【0025】
次に、動作について説明する。図6は図1の光源部1に対する制御信号の波形を示す説明図である。図において、第1組の光源の変調周波数はf1、第2組の光源の変調周波数はf2である。また、光源のオン・オフの周期は20m秒である。即ち、25Hzの周波数で光源がオン・オフされる。このとき、第1組の光源と第2組の光源とが交互にオン・オフされる。
【0026】
ここで、照射プローブ11a,12a及び検出プローブ11b,12bが図2のように高精細で配置されている場合、例えば第1組の計測組を自組とすると、自組の照射プローブ11aから自組の検出プローブ11bまでの距離が30mmであるのに対して、他の組の照射プローブ12aから自組の検出プローブ11bまでの距離は15mmになる。このため、生体の減衰散乱による信号減弱を考慮しても、検出器6で検出される他の組の信号強度は、例えば図7に示すように自組の信号強度の約10倍程度となる。
【0027】
このような信号を、アナログスイッチ部14を通さずに低域カットフィルタ部15に入力した場合、例えば図8に示すように、他の組からの強い信号のテールが自組の信号に付加され、自組の計測信号が大きく変動し、信号精度が低下してしまう。
【0028】
これに対して、図7のような信号を、アナログスイッチ部14を通して低域カットフィルタ部15に入力するとともに、アナログスイッチ部14のオン・オフを光源のオン・オフに同期させた場合、低域カットフィルタ部15の上流で他の組の信号が取り除かれるので、例えば図9に示すように、低域カットフィルタ部15を通過した後の信号に他の組の信号の影響が残ることがない。従って、計測信号の計測時間域におけるベースライン変動を除きながら、他の組の強い光によるベース変化をも除去することができ、簡便に高精度な高精細(高分解能)計測を可能にすることができる。
【0029】
このような他の組の信号の影響は、デジタル信号処理により除くことも可能であるが、信号を精度良く処理するためには高いビット精度を持つ電圧変換幅の広いAD変換器が必要となり、多くの場合は適用可能なAD変換器の入手が困難で、入手可能としても高価なものとなる。また、最適なデジタル化ができないため、十分な信号精度を得るのが困難になる。
【0030】
なお、上記の例では、デジタル方式のロックイン演算部17を示したが、同様の機能を有するアナログ方式のロックイン回路を用いてもよい。
また、上記の例では、アナログスイッチ部14を増幅器13と低域カットフィルタ部15との間に設けたが、検出器6と増幅器13との間に設けることもできる。また、アナログスイッチ部14を検出器6に設け、検出器6で電流信号をオン・オフしてもよい。さらに、検出器6の感度又は増幅率をアナログスイッチ部14によりオン・オフしてもよい。
さらに、上記の例では、照射プローブ11a,12a及び検出プローブ11b,12bを2つの組に分けたが、3つ以上の組に分けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施の形態1による生体光計測装置を示すブロック図である。
【図2】図1の生体光計測装置におけるプローブの配置状態を示す説明図である。
【図3】図1の生体光計測装置における計測点の分布を示す説明図である。
【図4】図1のロックイン処理部を示すブロック図である。
【図5】図1の生体光計測装置の一対の照射プローブ及び検出プローブに関する信号変調回路及び信号検出回路を示す回路図である。
【図6】図1の光源部に対する制御信号の波形を示す説明図である。
【図7】図5の検出器で検出される信号の波形を示す説明図である。
【図8】図7の信号を図5のアナログスイッチ部を通さずに低域カットフィルタ部に入力した場合の信号の波形を示す説明図である。
【図9】図7の信号を図5のアナログスイッチ部を通して低域カットフィルタ部に入力した場合の信号の波形を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 光源部、6 検出器、7 ロックイン処理部、8 コンピュータ(計測装置本体)、11a 第1組の照射プローブ、11b 第1組の検出プローブ、12a 第2組の照射プローブ、12b 第2組の検出プローブ、14 アナログスイッチ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の変調周波数で変調された光を発生する光源部、
上記光源部からの光を被検体に照射する複数の照射プローブ、
上記被検体から戻る光を検出する複数の検出プローブ、
上記検出プローブに入射された光をそれぞれ光電変換する検出器、
上記検出器からの信号に対して、上記光源部での変調周波数を参照周波数としてそれぞれロックイン処理を行うロックイン処理部、及び
上記ロックイン処理部からの信号に基づいて上記被検体の光学特性を計測する計測装置本体
を備えた生体光計測装置において、
上記ロックイン処理部には、上記検出器からの信号から低周波成分を取り除くコンデンサが設けられており、
上記コンデンサには、上記照射プローブからの光の照射のオン・オフに同期して上記コンデンサに入力する信号のオン・オフを行うスイッチ部が設けられていることを特徴とする生体光計測装置。
【請求項2】
上記スイッチ部は、上記検出器と上記コンデンサとの間に設けられた複数のアナログスイッチを含むことを特徴とする請求項1記載の生体光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−424(P2009−424A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166364(P2007−166364)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】