説明

生体材料の安定化及び保存のためのジグリコシルグリセリル化合物

【課題】新規な適合溶質を提供する。
【解決手段】本発明は、例えばマンノシル−1,2−グルコシル−1,2−グルセレート(mannosyl(1-2)glucosyl(1-2)glycerate)のようなグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリル(glycosyl(1-2)glycosyl(1-2)glyceryls)、それの混合物、または、それを構成物として含む適切な製剤の利用方法である。本発明は、一般的な応力に対して、酵素、たんぱく質、抗体、DNA分子、RNA分子、生体膜、リポソーム、生体内物質または他の細胞成分に関連した脂質、及び生体材料を保護及び/または安定化させるためのものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、熱、高浸透圧、フリーラジカル、乾燥、凍結乾燥、及び反復利用に起因する一般的な応力に対して、酵素や他の細胞成分及び生体材料を保護及び/または安定化させるためのジグリコシルグリセリル(di-glycosyl glyceryl)化合物またはそれを構成物として含む製剤(formulation)の利用に関するものである。
【0002】
上記化合物は図1に示す一般式に従うものであり、その一般名はグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリル(glycosyl(1-2)glycosyl(1-2)glyceryls)である。
【0003】
〔背景技術〕
トレハロース、多価アルコール、またはエクトイン(ectoine)等の低分子量の有機溶質を集めることは、多くの中温性微生物の浸透圧を調整するために必要不可欠なことである。しかしながら、ごく異質な溶質、すなわち、ジ−ミオ−イノシトール−フォスフェート(di-myo-inositol-phosphate)、ジマンノシル−ジ−ミオ−イノシトール−フォスフェート(di-mannosyl-di-myo-inositol-phosphate)、リン酸ジグリセロール(diglycerol phosphate)、マンノシルグリセレート(mannosylglycerate)、及びマンノシルグリセルアミド(mannosylglyceramide)は、好熱性あるいは超好熱性の微生物中で確認されてきた。また、細胞内における上記の溶質の含有量は、例えば高浸透圧や高温度等のストレス条件に応じて増加するものである。
【0004】
マンノシルグリセレート及びリン酸ジグリセロールは、とても広範囲にわたって研究されてきた。そして、上記マンノシルグリセレート及びリン酸ジグリセロールが、中温菌由来の適合溶質(compatible solute)よりも、生体外で酵素及びたんぱく質を保護することが開示されている(ラモス(Ramos. A)ら、1997年、「マンノシルグリコシル酸塩による熱応力及び凍結乾燥に対する酵素の安定性(Stabilisation of enzymes against thermal stress and freeze-drying by mannosylglycerate)」、応用環境微生物学(Appl.Environ.Microbiol.)No.63、p4020−4025、ボルヘス(Borges.N)ら、2002年、「モデル酵素におけるマンノシルグリセリン酸塩と他の適合溶質との熱安定特性の比較研究(Comparative study of the themostabilising properties of mannosylglycerate and other compatible solutes on model enzymes)」、Extremohiles、6巻、p209−216、ラモーサ(Lamosa.P)ら、2000年、「リン酸グリセロールによるたんぱく質の熱安定性。超好熱菌Archaeoglobus fulgibus由来の新規適合溶質(Thermostabilisation of proteins by diglycerol phosphate, a new compatible solute from the hyperthermophile Archaeoglobus fulgibus.)」、応用環境微生物学(Appl.Environ.Microbiol.)66巻、p1974−1979参照)。さらに、生体材料の安定化剤として、好熱性及び超好熱性の生物由来の適合溶質の応用が様々な特許文献に開示されている(欧州特許第97670002.1号明細書、欧州特許第98670002.9号明細書、葡国特許第101813号明細書参照)。
【0005】
〔発明の詳細な説明〕
我々は、好熱性の微生物であるペトロトガ・ミオサーマ(Petrotoga miotherma)中に新規な適合溶質を発見した。この好熱性の微生物であるペトロトガ・ミオサーマは55℃において好適に増殖する生物であり、65℃においても増殖することが可能なものである。この生物は塩類の応力を受けるとき、新規の二糖化合物を多量に(たんぱく質1mg当たり1μmol以上)蓄積する。我々は上記二糖化合物を抽出・精製して、核磁気共鳴を用いてスペクトル特性を調べることにより、この化合物の分子構造を決定した。この化合物は、α−1,2−マンノピラノシル−α−1,2−グルコピラノシル−グリセレート(α(1-2)mannopyranosyl-α(1-2)glucopyranosyl-glycerate)という、現在、未知の化合物であった。
【0006】
この適合溶質の分子構造はマンノシルグリセレートに二つの分岐構造(マンノシル基及びグリセリル基)が存在した構成となっており興味深いものである。そして、上記溶質は、好熱性生物から超好熱性生物のうちに広く分布していた(サントス(Santos.H)ら、2001年、好熱菌及び超好熱菌由来の有機溶質(Organic solutes from thermophiles and hyperthermophiles.)、Methods Enzymol、334巻、p.302−315参照)。加えて、この適合溶質にはマンノシル基及びグリセリル基と結合するグルコシル分岐鎖が存在している。
【0007】
マンノシルグリセレートは好熱菌由来の一般的によく知られている生物安定化剤であり、欧州特許第97670002.1号明細書によって産業における利用が保護されているものである。上記の好熱菌由来の新規の溶質は、マンノシルグリセレートに類似する構造を有しており、我々に、この新規な溶質は、すでに例示したマンノシルグルセレートと同等かもしくは優れた安定化特性を有していると想定させるものである。この観点から、上記溶質は、商業、産業、医療、医薬品、医学診断、化粧品、または学術的応用研究において安定化剤として機能するであろう。
【0008】
或る低分子量の有機溶質によって、たんぱく質がより一層安定化され、温度、圧力、イオン強度、pH、界面活性剤もしくは有機溶媒の存在におけるより過酷な条件下において、酵素を機能させるようにする。現代バイオテクノロジーの特性の一つは、安定な酵素や、熱変性や化学的な変性に対して上記の酵素を安定化させる安定な試薬を得ることである。したがって、酵素を安定化させる適合溶質の能力は、現代バイオテクノロジーにおいて最も重要なことである。この点は、これらの安定性が問題となるプロセスにおいて利用される、もしくは利用されうる全てのたんぱく質に適用されることは言うまでもない。この理由は、酵素活性の有無に関わらず全てのたんぱく質が、全体としてみれば基本となる構成要素については同じものを共有しており、一般的に同じ機構やプロセスを経て変性や不活性化に対して保護されるためである。
【0009】
乾燥による悪影響からたんぱく質、細胞膜、リポソーム、及び細胞を保護すると共に、強度の吸湿特性を有する、適合溶質もまた注目する必要がある。乾燥あるいは凍結乾燥した、細胞成分及び生体材料の保護は、医学、医薬産業、化粧品工業、食品産業、及び科学研究において多くの用途がある。生物製剤試料の保存において乾燥や凍結乾燥は重要なことであるが、低分子量の安定化剤の利用によって、その使用中には、たんぱく質の変性や培養物の生菌数の減少が必然的に生じることを防止することや、減少させることができた。
【0010】
また、マーリン(Malin G)ら、1999年、「たんぱく質−核酸間の相互作用におけるテトラヒドロピリミジン誘導体の影響。モデルシステムとしてのII型制限エンドヌクレアーゼ(Effect of tetrahydropyrimidine derivatives on protein-nucleic acids interaction. Type II restriction endonucleases as a model system)」、J.Biol.Chem.、274巻、p.6920−6929に記載されているエクトインのように、超好熱菌由来の適合溶質を添加することによって、DNAやRNA等の核酸分子の安定性が改善される。そして、医学、製薬産業、もしくは科学研究における様々な用途でのこれらの利用が想定される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】立体異性体の全てを包括するグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの化学構造式である。この式はα位の立体配置もしくはβ位の立体配置を有する六炭糖を表現するものである。「R」はカルボン酸基、アミド基、第一アルコール基、もしくはメチル基を表現するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリル、すなわち、マンノシル−1,2−グルコシル−1,2−グルセラートの利用方法であって、
上記グリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルは、一般的な応力に対して、酵素または他の細胞成分、及び生体材料を保護する、及び/または安定化させるために、そのあらゆる立体異性体における、単体、又は適切な製剤中の組成物となるものであるグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項2】
マンノシル残基が、六員環の炭水化物残基(six member ring carbohydrate residue)であるグルコース、ガラクトース、グロース、タロース、フコース、ラムノース、イドース、またはアルトロースのいずれかによって置換されていることを特徴とする請求項1に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項3】
グルコシル残基が、六員環の炭水化物残基であるグルコース、ガラクトース、グロース、タロース、フコース、ラムノース、イドース、またはアルトロースのいずれかによって置換されていることを特徴とする請求項1及び2に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項4】
グリセレート残基がグリセロールによって置換されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項5】
グリセレート残基がグリセルアミドによって置換されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項6】
グリセリル残基がラクトイル残基によって置換されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項7】
グリセリル残基がプロピレングリコールによって置換されていることを特徴とする請求項1〜3に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項8】
グリコシル残基がα位の立体配置またはβ位の立体配置となっているものであることを特徴とする請求項1〜7に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項9】
グリセリル残基がD位の立体配置またはL位の立体配置となっているものであることを特徴とする請求項1〜8に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルの利用方法。
【請求項10】
精製、輸送および/または保存による温度変性に対して、酵素または他のたんぱく質を保護することを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項11】
酵素の高温再利用期間だけでなく保存期間に、臨床目的、生物学的目的、及び産業目的のためのポリメレーサ連鎖反応酵素の活性の保護剤となることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項12】
低温度における凍結乾燥期間、乾燥期間またはフリーズドライ期間、及び保存期間に、酵素または他のたんぱく質の安定化剤となることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項13】
診断目的、生物学的目的、及び産業目的のために、試験用酵素を用いる製造期間、保存期間、及び分析期間に、安定化剤となることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項14】
臨床目的、生物学的目的、及び産業目的のために、通常の利用中に酵素または他のたんぱく質を安定化させることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項15】
臨床目的、生物学的目的、研究目的、及び産業目的のために、抗体を保護するまたは安定化させるためのものであることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項16】
臨床目的、生物学的目的、及び産業目的のために、天然たんぱく質のワクチン又は非天然たんぱく質のワクチンを保護するまたは安定化させるためのものであることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項17】
細胞膜、リポソーム、リポソーム含有化粧剤、または脂質に関連した物質の乾燥または凍結乾燥のような応力に対して、生体材料を保護するためのものであることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項18】
DNA分子またはRNA分子の構造を保護または安定化させることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項19】
DNAマイクロアレイまたはRNAマイクロアレイの性能を、保護する、安定化させる、または改善させるものであることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項20】
化合物またはリポソームの湿潤特性の安定化を改善するための化粧品添加物となる、又はフリーラジカルの抑制物となることを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項21】
凍結乾燥、乾燥、高温、及び微生物細胞の凍結による損傷から保護することを特徴とする請求項1〜9に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。
【請求項22】
上記グリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルは、酵素又は他の細胞成分、及び生体材料を保護する、及び/又は安定化させるための適切な製剤中の組成物であることを特徴とする請求項1、及び10〜21に記載のグリコシル−1,2−グリコシル−1,2−グリセリルまたはその混合物の利用方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−514678(P2006−514678A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571126(P2004−571126)
【出願日】平成15年4月22日(2003.4.22)
【国際出願番号】PCT/PT2003/000006
【国際公開番号】WO2004/094631
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(505396350)インスティテュート デ バイオロジア エクスペリメンタル エ テクノロジカ (1)
【Fターム(参考)】