説明

生体状態測定装置

【課題】第1の生体情報と第2の生体情報とを測定する装置において、いずれか一方のデータが欠落した場合に、データを補完すること。
【解決手段】生体情報測定装置は、生体中の振動源からの第1の生体情報を取得する第1のセンサーと、振動源からの第2の生体情報を取得する第2のセンサーと、第1のセンサーおよび第2のセンサーが取得した情報を示すデータを、時系列に記録する記録手段と、記録されたデータにおいて第1の生体情報および第2の生体情報の一方の生体情報の時系列データに欠落部分があった場合、他方の生体情報の欠落部分の始点以前の時系列データのうち、欠落部分と同時刻の区間の時系列データとの相関を示す指標が所定の条件を満たす対応区間を特定する特定手段と、欠落部分のあるデータの対応区間と同時刻の区間の時系列データを用いて、記録されたデータの欠落部分の補完をする補完手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の状態を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心電等、生体からの生体情報を測定する装置が知られている(例えば、特許文献1および2)。特許文献1は、心電図データを圧縮する技術を開示している。特許文献2は、パルスオキシメータの信号から、吸気事象や呼気事象を判定する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−90000号公報
【特許文献2】特表2008−538936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、第1の生体情報と第2の生体情報とを測定する装置において、いずれか一方のデータが欠落した場合に、データを補完する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生体中の振動源からの第1の生体情報を取得する第1のセンサーと、前記振動源からの第2の生体情報を取得する第2のセンサーと、前記第1のセンサーおよび前記第2のセンサーが取得した情報を示すデータを、時系列に記録する記録手段と、前記記録されたデータにおいて前記第1の生体情報および前記第2の生体情報の一方の生体情報の時系列データに欠落部分があった場合、他方の生体情報の前記欠落部分の始点以前の時系列データのうち、前記欠落部分と同時刻の区間の時系列データとの相関を示す指標が所定の条件を満たす対応区間を特定する特定手段と、前記欠落部分のあるデータの前記対応区間と同時刻の区間の時系列データを用いて、前記記録されたデータの前記欠落部分の補完をする補完手段とを有する生体情報測定装置を提供する。
この生体情報測定装置によれば、同一の被験者のデータを用いて欠落部分のデータが補完できる。
【0006】
好ましい態様において、前記補完は、前記対応区間と同時刻の区間の時系列データにおける前記対応区間の始点のデータを前記欠落部分の始点に一致させる処理、または前記対応区間の終点のデータを前記欠落部分の終点に一致させる処理を含んでもよい。
この生体情報測定装置によれば、補完されたデータの他の部分とのデータの整合性が向上する。
【0007】
別の好ましい態様において、前記補完は、前記対応区間と同時刻の区間の時系列データにおける前記対応区間の始点のデータを前記欠落部分の始点に一致させ、かつ前記対応区間の終点のデータを前記欠落部分の終点に一致させる処理を含んでもよい。
この生体情報測定装置によれば、補完されたデータの他の部分とのデータの整合性が向上する。
【0008】
さらに別の好ましい態様において、前記所定の条件は、前記相関を示す指標が最大であるという条件であってもよい。
この生体情報測定装置によれば、相関を示す指標が最大の部分のデータを用いて補完が行われる。
【0009】
さらに別の好ましい態様において、前記振動源からの第3の生体情報を取得する第3のセンサーを有し、前記特定手段は、前記記録されたデータにおける前記第1の生体情報、前記第2の生体情報および前記第3の生体情報を含む複数の生体情報のうちいずれか一の生体情報の時系列データに欠落部分があった場合、前記一の生体情報以外の他の生体情報のうちあらかじめ決められた信頼性が最も高い生体情報について、前記対応区間を特定してもよい。
この生体情報測定装置によれば、信頼性のより高いデータを用いて補完することがきできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態に係る生体情報測定装置10の機能構成を示す図である。
【図2】生体情報測定装置10のハードウェア構成を示す図である。
【図3】生体情報測定装置10の動作を示すフローチャートである。
【図4】欠落部分が無い測定データを例示する図である。
【図5】欠落部分がある測定データを例示する図である。
【図6】対象区間を例示する図である。
【図7】対象区間を例示する図である。
【図8】対応区間を例示する図である。
【図9】データの補正を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.構成
図1は、本発明の一実施形態に係る生体情報測定装置10の機能構成を示す図である。この例で、生体情報測定装置10は、脈波(第1の生体情報の一例)および心電(第2の生体情報の一例)を測定する装置である。生体情報測定装置10は、脈波センサー11と、心電センサー12と、記録手段13と、記憶手段14と、特定手段15と、補完手段16とを有する。
【0012】
脈波センサー11は、脈波を測定するセンサーである。心電センサー12は、心電を測定するセンサーである。記録手段13は、心電センサー12および脈波センサー11が取得した(測定した)情報を示すデータを、記憶手段14に記憶する。記憶手段14は、データを記憶する記憶装置を含む。記録手段13は、心電センサー12および脈波センサー11からのデータを時系列に記憶手段14に記憶する。特定手段15は、記憶手段14において脈波および心電の一方の時系列データに欠落部分があった場合、他方の生体情報における欠落部分の始点以前の時系列データから対応区間を特定する。「対応区間」とは、他方の生体情報における欠落部分の以外の時系列データのうち、欠落部分と同時刻の区間の時系列データとの相関を示す指標が所定の条件を満たす区間(時間軸上の区間)をいう。補完手段16は、一方のデータのうち、対応区間と同時刻の区間の時系列データを用いて、記憶手段14における欠落部分のデータの補完をする。ここで、「欠落部分のデータの補完」とは、欠落部分にデータを追加することをいう。
【0013】
図2は、生体情報測定装置10のハードウェア構成を示す図である。生体情報測定装置10は、脈波センサー11と、心電センサー12と、プロセッサー101と、メモリー102と、メモリーコントローラー103と、ディスプレイ104とを含む。この例で生体情報測定装置10は腕時計型のケースに収められている。使用者(被験者)は、生体情報測定装置10を腕にはめて使用する。
【0014】
プロセッサー101は、生体情報測定装置10の各要素を制御する制御装置である。メモリー102は、データを記憶する記憶装置である。メモリーコントローラー103は、脈波センサー11および心電センサー12により測定されたデータを、プロセッサー101の制御下で、メモリー102に書き込む。メモリー102にデータを書き込む際、メモリーコントローラー103は、データが取得された時刻(すなわちデータが測定された時刻)を示す情報を、測定データとともに書き込む。ディスプレイ104は、プロセッサー101の制御に従って画像を表示する表示装置である。この例で、メモリー102は記憶手段14の一例である。メモリーコントローラー103は、記録手段13の一例である。プロセッサー101は、特定手段15および補完手段16の一例である。ディスプレイ104は表示手段の一例である。図示は省略したが、生体情報測定装置10は、使用者が情報や命令を入力するための操作子(ボタンやキーパッド、タッチパネル)を有する。
【0015】
2.動作
図3は、生体情報測定装置10の動作を示すフローチャートである。図3のフローは、例えば、生体情報の測定が終了したこと(測定終了の操作が行われたこと、または所定の測定期間が終了したこと)を契機として開始される。あるいは、図3のフローは、生体情報の測定中に開始されてもよい。すなわち、図3のフローが生体情報の測定と平行して行われてもよい。
【0016】
ステップS100において、プロセッサー101は、データに欠落部分があるか判断する。メモリー102は欠落部分の判定に用いられる条件(例えば、値がゼロのデータが所定の時間以上継続した場合には、その部分を欠落部分と判断するという条件)を記憶しており、メモリー102に記憶されている脈波または心電のデータに、その条件を満たす部分が存在するか判断することにより、データに欠落部分があるか判断する。データに欠落部分があると判断された場合(S100:YES)、プロセッサー101は、処理をステップS110に移行する。データに欠落部分が無いと判断された場合(S100:NO)、プロセッサー101は、図3の処理を終了する。
【0017】
図4は、欠落部分が無い測定データを例示する図である。脈波と心電とは、同一の振動源(心臓)に起因する生体情報を示すものであり、ほぼ同じ周期で変化している。なお、この例でメモリー102に記憶されているデータは離散的であるが、説明の便宜上、測定データは曲線で示されている。また、図4に図示されているデータは3周期分であるが、メモリー102に記憶されるデータの量はこれに限定されるものではない。以下の図についても同様である。
【0018】
図5は、欠落部分がある測定データを例示する図である。この例では、脈波のデータにおいて、時刻t1と時刻t2との間のデータが欠落している。この例の場合、プロセッサー101は、脈波において、時刻t1と時刻t2との間が欠落部分であると判断する。
【0019】
ふたたび図3を参照する。ステップS110において、プロセッサー101は、対応区間を特定する。具体的には以下のとおりである。プロセッサー101は、処理の対象となる欠落部分が含むデータとは別のデータ(この例では心電)において、欠落部分と同時刻のデータ(この例では時刻t1と時刻t2との間)を抽出する。以下、心電のデータにおいてこの区間を「区間a」という。
【0020】
次に、プロセッサー101は、時刻t1より前の時刻のデータにおいて、区間aのデータと相関が最も高い区間を特定する。具体的には以下のとおりである。プロセッサー101は、比較の対象となる区間(以下「対象区間」という)の始点を特定する。始点の初期値は時刻t1から所定の時間(所定のデータ数)前の時刻である。いま、対象区間が時刻t3からt4の区間である場合を例に考える(なお、t2−t1=t4−t3である)。
【0021】
図6および図7は、対象区間を例示する図である。プロセッサー101は、対象区間のデータを抜き出し、両者の始点を揃えて(すなわち両者の始点を時間軸上同一の位置に揃えて)、両者の相関を示す指標を計算する。ここでいう「相関を示す指標」は、例えば、相関係数や二乗誤差など、2つの曲線の類似度合いを示す指標を広く含む。
【0022】
相関を示す指標を計算すると、プロセッサー101は、算出された相関を示す指標が、あらかじめ決められた条件(例えば、相関係数がしきい値rth以上であるという条件や二乗誤差がしきい値eth以下であるという条件)を満たすか判断する。対象区間がこの条件を満たすと判断された場合、プロセッサー101は、この対象区間を対応区間として特定する。対象区間がこの条件を満たさないと判断された場合、プロセッサー101は、対象区間の始点をさらに所定の時間前の時刻に更新し、対応区間が特定されるまで同様の処理を繰り返し実行する。
【0023】
図8は、対応区間を例示する図である。ここでは、時刻t5から時刻t6の間の区間(以下「区間b」という)が、対応区間として特定された場合を例として説明する。
【0024】
ふたたび図3を参照する。ステップS120において、プロセッサー101は、補完を行う。具体的には以下のとおりである。プロセッサー101は、欠落部分があったデータ(この例では脈波)のうち、区間bと同時刻の区間のデータ、すなわち時刻t5から時刻t6の間の区間(以下この区間を「区間c」という)のデータを、メモリー102から読み出す。プロセッサー101は、区間cの始点の値および終点の値が、欠落部分の始点および終点の値に一致するように、区間cのデータを補正する。
【0025】
図9は、データの補正を例示する図である。この例で、区間cの始点の値および終点の値はそれぞれc1およびc2、欠落部分の始点および終点の値はx1およびx2である(図9(A))。プロセッサー101は、例えば、区間cの始点の値をx1/c1倍し、区間cの終点の値をx2/c2倍する補正を行う。区間cの中間のデータは、始点と終点の間で係数がx1/c1からx2/c2に線形に変化する関数を用いて補正される。図9(B)は、補正後のデータを示している。プロセッサー101は、こうして補正されたデータを用いて欠落部分を補完する。すなわち、補正されたデータを欠落区間のデータとして書き込むようにメモリーコントローラー103を制御する。
【0026】
以上で説明したように、本実施形態によれば、脈波センサー11と心電センサー12のいずれかのデータが欠落した場合でも、同一の被験者のデータを用いて、欠落部分のデータが補完される。
【0027】
3.他の実施形態
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下で説明する変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
3−1.変形例1
補完に用いられるデータ(区間cのデータ)の補正方法は、実施形態で説明したものに限定されない。始点または終点のいずれか一方だけが、欠落部分の始点または終点に一致するように補正されてもよい。あるいは、始点のずれおよび終点のずれ(例えば二乗誤差)が最小となるように、区間cのデータ全体が等倍されてもよい。さらにあるいは、補正は行われなくてもよい。
【0029】
3−2.変形例2
対応区間を検索する方法は、実施形態で説明したものに限定されない。例えば、プロセッサー101は、所定の時間(30分や1時間など)前までのデータについては全て対象区間として相関の指標を算出し、算出された指標により相関が最も高いと判断された区間を対応領域と特定してもよい。
【0030】
3−3.変形例3
測定の対象となる生体情報は、脈波および心電に限定されない。SpO2、心拍音や、頸動脈音など振動源が共通のものであれば、どのような生体情報が測定の対象とされてもよい。
【0031】
3−4.変形例4
測定の対象となる生体情報の数は2つに限定されない。生体情報測定装置10は、3つ以上の生体情報を測定するものであってもよい。この場合において、対応区間は、あらかじめ決められた信頼性が最も高い生体情報のデータからを検索されてもよい。
【0032】
3−5.変形例5
生体情報測定装置10のハードウェア構成と機能構成との対応関係は、実施形態で説明したものに限定されない。実施形態では、プロセッサー101が特定手段15および補完手段16の機能を兼ね備えていたが、特定手段15および補完手段16は、それぞれ異なるハードウェア要素により実現されてもよい。あるいは、メモリーコントローラー103を省略し、プロセッサー101がメモリーコントローラー103の機能も兼ね備えていてもよい。また、実施形態において生体情報測定装置10は測定データを記憶するための記憶手段14を内蔵している例を説明した。しかし、生体情報測定装置10は記憶手段14を内蔵しておらず、外部の記憶装置にデータを書き込む構成を有していてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…生体情報測定装置、11…脈波センサー、12…心電センサー、13…記録手段、14…記憶手段、15…特定手段、16…補完手段、101…プロセッサー、102…メモリー、103…メモリーコントローラー、104…ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体中の振動源からの第1の生体情報を取得する第1のセンサーと、
前記振動源からの第2の生体情報を取得する第2のセンサーと、
前記第1のセンサーおよび前記第2のセンサーが取得した情報を示すデータを、時系列に記録する記録手段と、
前記記録されたデータにおいて前記第1の生体情報および前記第2の生体情報の一方の生体情報の時系列データに欠落部分があった場合、他方の生体情報の前記欠落部分の始点以前の時系列データのうち、前記欠落部分と同時刻の区間の時系列データとの相関を示す指標が所定の条件を満たす対応区間を特定する特定手段と、
前記欠落部分のあるデータの前記対応区間と同時刻の区間の時系列データを用いて、前記記録されたデータの前記欠落部分の補完をする補完手段と
を有する生体情報測定装置。
【請求項2】
前記補完は、前記対応区間と同時刻の区間の時系列データにおける前記対応区間の始点のデータを前記欠落部分の始点に一致させる処理、または前記対応区間の終点のデータを前記欠落部分の終点に一致させる処理を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記補完は、前記対応区間と同時刻の区間の時系列データにおける前記対応区間の始点のデータを前記欠落部分の始点に一致させ、かつ前記対応区間の終点のデータを前記欠落部分の終点に一致させる処理を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記所定の条件は、前記相関を示す指標が最大であるという条件である
ことを特徴とする請求項1−3のいずれかの項に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
前記振動源からの第3の生体情報を取得する第3のセンサーを有し、
前記特定手段は、前記記録されたデータにおける前記第1の生体情報、前記第2の生体情報および前記第3の生体情報を含む複数の生体情報のうちいずれか一の生体情報の時系列データに欠落部分があった場合、前記一の生体情報以外の他の生体情報のうちあらかじめ決められた信頼性が最も高い生体情報について、前記対応区間を特定する
ことを特徴とする請求項1−4のいずれかの項に記載の生体情報測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−264168(P2010−264168A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119714(P2009−119714)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】