説明

生体由来物質からなる投薬用微細針

【課題】 従来、投薬を目的とした皮膚表面内挿入用微細針が金属やプラスチックのような工業材料である場合、その微細針が体内に折れて残る事故、いわゆる体内残留事故が課題であり、また、微細針による医薬剤投与において、通常は針表面に塗布する方法をとるが、経皮浸透できる量的限界があり、十分な投与量の確保において課題である。
【解決手段】 本発明の生体由来物質からなる皮膚表面内挿入用微細針は、生体由来物質の膨潤作用により微細針から医薬剤を徐放させることができ、また、体内残留事故が発生しても微細針が生体内で溶解するという効果を提供できる。さらに、上記生体由来物質は皮膚中の水分を吸収して膨張し皮膚をふっくらとさせるという美容的効果を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮投薬に関する技術分野に属し、人の皮膚表面下に健康や治療のため医薬剤を投与する技術に関するものである。さらに本発明は、人の皮膚内に化粧剤を挿入する、あるいは皮膚栄養補助剤(サプリメント)の投与を行うための肌修飾に関する技術に属するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、経皮投薬については、金属あるいはプラスチックの微細針の表面に塗布し、その微細針を皮膚に挿入して塗布薬を皮膚に浸透させる方法をとっていたが、金属あるいはプラスチックのような工業用材料では、生体内に残る事故がしばしばであり、生体には不向きな素材である。
【0003】
また従来、美容技術には、皮膚表面の塗布、経皮投与のための超音波浸透法、電気泳動、等々の技術があるが、外来物に対応する皮膚保護膜のため、十分な量の投与ができない。
【0004】
さらに、サプリメントの体内への投与の場合、経口限定であるので、低濃度の水溶性溶解物に限定される。
【0005】
また、ヒアルロン酸、キトサン等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン等の蛋白質の水溶物を素材とする微細針の製造方法は、樹脂加工で利用される射出成形方法や、製糸に利用される引き上げ方法では、ほとんど成形が不可能であった。
【0006】
そこで、皮膚用微細針として、皮膚又は皮膚角質層への機能付与の際に、無痛状態にて皮膚機能再生に向けての簡便性、安全性を大きく向上させるマイクロパイルとその製造方法を提供したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】 特開2003−238347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体由来物質からなる、投薬を目的とした皮膚表面内挿入用微細針において、素材が金属やプラスチックのような工業材料である場合、その微細針が体内に折れて残る事故、いわゆる体内残留事故が課題である。
【0008】
また、生体に馴染む素材の代表である糖を微細針に利用する方法があるが、加熱溶解させて成形するので、混在させる医薬剤によっては、熱分解等により薬効特性を損なうことが課題である。
【0009】
さらに、微細針による医薬剤投与において、通常は針表面に塗布する方法をとるが、経皮浸透できる量的限界があり、十分な投与量の確保において課題である。
【0010】
また、サプリメントの体内への投与は経口に限られており、その投与は低濃度の水溶性溶解物に限定されるという課題がある。
【0011】
さらに、ヒアルロン酸やキトサンのような多糖類、あるいはゼラチンやコラーゲンのような蛋白質を皮膚に投与するには、一般には溶液内に溶かし注射する方法をとるが、その場合には医療従事者による投与に限定されるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の微細針においては、ヒアルロン酸やキトサンのような多糖類あるいはゼラチンやコラーゲンのような蛋白質を素材とし、後述する医薬剤を混在させ微細針を皮膚投与することにより、素材が体内の水分を吸収して膨潤し、それに従い医薬剤が放出される。すなわち素材から医薬剤を徐放させることができる。また、本発明の微細針において、ヒアルロン酸のような多糖類あるいはコラーゲンのような蛋白質を素材とするならば、体内に残す事故が発生しても生体で溶解する素材であるので問題は解決する。さらに上記素材は皮膚中の水分を吸収して膨張し皮膚をふっくらとさせるという美容的効果をもたらす。
【0013】
また、本発明の微細針においては、ヒアルロン酸やキトサンのような多糖類あるいはゼラチンやコラーゲンのような蛋白質を素材とするならば、室温で成型することが可能であり、かつ医薬剤あるいは化粧剤を混在させることにも有利である。実際に微細針を作成するには、ヒアルロン酸のような多糖類あるいはコラーゲンのような蛋白質の水溶液を室温で乾燥させて薄膜基板(基板シートであり、膜厚が100μmから1,000μm)を作成し、後述する適当な方法で微細針化すればよい。図1は、生体由来物質である、上記の多糖類あるいは蛋白質の水溶物を射出成形することにより微細針を作製し、それを基板上に複数個設けた、円錐状の皮膚表面内挿入用微細針の概要図である。ここで、基板の材質は特に限定されず、金属、プラスチック、または上記の多糖類または蛋白質等であっても好適に使用できる。尚、上記微細針は基板上に設けなくとも、基板側面に設けても好適に使用でき得るものである。
【0014】
さらに、本発明の微細針においては、ヒアルロン酸やキトサンのような多糖類あるいはゼラチンやコラーゲンのような蛋白質を素材とするならば、その素材に医薬剤あるいは化粧剤を混在することができるので、量不足の問題を解決することができる。混在させ得る医薬剤あるいは化粧剤は水溶性であればよく、好ましい医薬剤としては、例えば、リドカインのような局所麻酔剤を始めとして数多い。特に本発明において有効なのは高分子医薬剤である。例えば、生理活性ペプチド類とその誘導体、核酸、オリゴヌクレオチド、各種の抗原蛋白質、バクテリア、ウイルスの断片等が挙げられる。
【0015】
また、上記生理活性ペプチド類とその誘導体としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、hPTH(1→34)、EGF、インスリン、セクレチン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、G−CSF、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。抗原蛋白質としては、HBs表面抗原、HBe抗原等が挙げられる。
上記化粧品の原料としては、例えば、コウジ酸、ルシノール、トラネキサム酸、ビタミンA誘導体等の美白成分;レチノール、レチノイン酸、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等の抗しわ成分;、カプサイン、ノリル酸バニリルアミド等の血行促進成分;ラズベリーケトン、月見草エキス、海草エキス等のダイエット成分;イソプロピルメチルフェノール、感光素、酸化亜鉛等の抗菌成分:ビタミンD、ビタミンD、ビタミンK等のビタミン類などが挙げられる。これら医薬剤あるいは化粧剤混在の微細針を作成するにはヒアルロン酸やキトサンのような多糖類あるいはゼラチンやコラーゲンのような蛋白質の水溶液にともに溶解させ、室温下で水を蒸発させることにより医薬剤あるいは化粧剤含有基板シートを作成し、その後基板を成形することにより達成される。
【0016】
さらには、ヒアルロン酸やキトサンのような多糖類あるいはゼラチンやコラーゲンのような蛋白質の微細針の成形において、薄膜基板にV字状の切り目を入れ、このV字状部を針状になるように折り返すことにより、薄膜基板上に複数本の生体由来物質を素材とする皮膚表面内挿入用微細針を設けることができる。図2は、ヒアルロン酸からなる平面状の薄膜基板にV字状の切り目を入れ、上記のV字状部を折り返して立てた、生体由来物質を素材とする皮膚表面内挿入用微細針の概要図である。図には、上記のV字状部を折り返して立てた方向を矢印6にて示す。また、図3は、上記の微細針を複数個設けた、皮膚表面内挿入用微細針の概要図である。
【発明の効果】
【0017】
上述したように、本発明の生体由来物質を素材とする皮膚表面内挿入用微細針は、上記素材の膨潤作用により、上記素材から医薬剤を徐放させることができ、さらに、上記の多糖類あるいは蛋白質を素材とし、微細針を体内に残す事故が発生しても微細針が生体内で溶解するという効果を提供できる。その上、上記素材は皮膚中の水分を吸収して膨張し皮膚をふっくらとさせるという美容的効果も提供できる。
【0018】
また、本発明の微細針は、ヒアルロン酸やキトサンのような多糖類あるいはゼラチンやコラーゲンのような蛋白質を素材とするならば、室温で成型することが可能であり、かつ医薬剤あるいは化粧剤を混在させることにも有利であり、さらには、その素材に医薬剤あるいは化粧剤を混在することができるので、量不足の問題をも解決することができ得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
水溶性コラーゲン水溶液を室温で乾燥させ、厚さ500μmのコラーゲン基板を得た。本基版にV字状の切れ目を入れ、それを折り返して立てたV字高さ800μm、V字底辺300μm(微細針を折り返して立てた際の底辺)のコラーゲン微細針を得た。本コラーゲン微細針によって皮膚表面に穴を多数開けた後、そこからアスコルビン酸リン酸ナトリウム1%を溶解させた水溶液を皮膚表面に塗布し、アスコルビン酸リン酸ナトリウムのような加熱分解しやすい特性のあるビタミンCを効果的に皮膚内に浸透させることができた。
【0020】
生体由来物質を素材とするヒアルロン酸微細針に美白用化粧剤として、ビタミンCの一種アスコルビン酸リン酸マグネシウムを重量比1%だけ混在させて、表面より200μm以内皮膚浅くに投与したところ、1ヶ月ほどで、顔面の褐色しみを薄めることができた。
【0021】
生体由来物質を素材とするコラーゲン微細針に美白用化粧剤として、αアルブチンを重量比0.3%だけ混在させて、表面より200μm以内皮膚浅くに投与したところ、1ヶ月ほどで、顔面の褐色しみを薄めることができた。
【0022】
浸透性の強いオレンジ色素、タータルジンを1%混在して生体由来物質を素材とする、高さ600μm直径200μm底面のヒアルロン酸円錐形微細針に混在させてラット皮膚に挿入したところ、皮膚切り抜いて断面を観察したところ、タータルジン色が皮膚深く浸透していることが確認できた。
【0023】
蛋白質に付着性の強い青色素、クーマシーブリリアンブルー(CBB)を1%混在して生体由来物質を素材とする、高さ600μm直径200μm底面のヒアルロン酸円錐形微細針に混在させてラット皮膚に挿入したところ、皮膚切り抜いて断面を観察したところ、CBB色が微細針の挿入部の断面形状を映し出すことができた。
【0024】
ビタミンAの一種カロテノイドを、多糖類であるプルランと非結晶マルトースの混合材に重量比1%だけ混合してチップを製作し、生体由来物質を素材とする、高さ600μm直径200μm底面のヒアルロン酸円錐形微細針に混入して皮膚表面内に挿入したところ、皮膚角質層にカロテノイドを残留させることができた。
【0025】
水溶性キトサン水溶液を室温で乾燥させて厚さ500μmの基板を得た。本基板を加工した、生体由来物質を素材とする、高さ600μm直径200μm底面のキトサン円錐形生体由来物質を素材からなる微細針で、皮膚表面を数回当たることによって多数の穴を開け、比較的に不安定な化学物質であるハイドロキノンを1%の水溶液を肌に刷り込むことによって皮膚角質層にハイドロキノンを浸透させることができた。
【0026】
生体由来物質を素材とするヒアルロン酸微細針で、皮膚表面を数回当たることによって多数の穴を開け、比較的に不安定な化学物質であるアスコルビン酸リン酸ナトリウムあるいはマグネシウムを1%の水溶液を肌に刷り込むことによって皮膚にアスコルビン酸リン酸ナトリウムあるいはマグシウムを皮膚角質層に浸透させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の皮膚表面内挿入用微細針は、人体にとって安全な生体由来物質を素材とし、かつ微細針の構造が複雑でなく工業的量産が可能であり、産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】生体由来物質を素材とする、複数の皮膚表面内挿入用微細針の概要図。
【図2】生体由来物質であるヒアルロン酸からなる皮膚表面内挿入用微細針の概要図。
【図3】ヒアルロン酸からなる、複数の皮膚表面内挿入用微細針の概要図。
【符号の説明】
【0029】
1 円錐状微細針
2 基板
3 折り返して立てた微細針
4 V字状部
5 平面状薄膜基板
6 折り返して立てた方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上あるいは基板側面に配置された、円錐あるいは多角錘であり、50%以上の生体由来物質を素材とする皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項2】
生体由来物質からなる薄膜基板にV字状の切り目を入れ、前記V字状部を針状になるように折り返して立てた、生体由来物質を素材とする皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項3】
前記の生体由来物質が多糖類から選ばれた1種あるいは2種以上の混合物を素材とする請求項1又は2記載の皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項4】
前記の生体由来物質が蛋白質から選ばれた1種あるいは2種以上の混合物を素材とする請求項1又は2記載の皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項5】
前記の多糖類がヒアルロン酸である請求項3記載の皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項6】
前記の多糖類がキトサンである請求項3記載の皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項7】
前記の蛋白質がゼラチンである請求項4記載の皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項8】
前記の蛋白質がコラーゲンである請求項4記載の皮膚表面内挿入用微細針。
【請求項9】
前記の皮膚表面内挿入用微細針が、医薬剤、化粧剤から選ばれる1あるいは2以上を含有する、請求項1から8いずれか一項記載の生体由来物質を素材とする皮膚表面内挿入用微細針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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