説明

生体観察装置

【課題】像ブレの残留を抑制して観察精度を向上する。
【解決手段】生体の被検査部位からの光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより集光された光を撮影して2次元的な画像を取得する撮像部と、該撮像部により取得された画像を処理して被検査部位の振動波形を計測する振動計測部17と、該振動計測部17により計測された複数回の振動波形に基づいて、次回の少なくとも1周期分の振動波形を予測する振動予測部18と、振動の位相を検出する位相検出部19と、対物レンズを振動予測部18により予測された振動波形および位相検出部19により検出された位相で駆動する対物レンズ駆動部とを備える生体観察装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光軸に垂直もしくは平行な方向の生体の振動を画像処理により検出し、その検出結果に基づいて対物レンズを駆動することにより、生体の振動に対物レンズを追従させて、ブレを抑制した鮮明な画像を得る生体観察装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−187810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、画像処理により生体の振動を検出する方法では、多大な画像処理時間によって検出遅れが発生し、特に、急峻な振動を伴う生体を観察する際に、生体の振動に追従させて対物レンズを駆動することが困難であるという不都合がある。すなわち、高精度な制御を実現できず、その結果、像ブレが残留し、精緻な観察を行うことができないという不都合がある。また、細胞の核を操作する場合のように極めて小さい対象を扱う場合には、像ブレの影響が大いに問題になる。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、像ブレの残留を抑制して観察精度を向上することができる生体観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体の被検査部位からの光を集光する対物レンズと、該対物レンズにより集光された光を撮影して2次元的な画像を取得する撮像部と、該撮像部により取得された画像を処理して被検査部位の振動波形を計測する振動計測部と、該振動計測部により計測された複数回の振動波形に基づいて、次回の少なくとも1周期分の振動波形を予測する振動予測部と、振動の位相を検出する位相検出部と、前記対物レンズを前記振動予測部により予測された振動波形および前記位相検出部により検出された位相で駆動する対物レンズ駆動部とを備える生体観察装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、生体の被検査部位からの光が対物レンズにより集光され、撮像部の作動により2次元的な画像が取得されると、振動計測部において画像処理されて被検査部位の振動波形が計測される。振動計測部において複数回の振動波形が計測されると、振動予測部の作動により次回の少なくとも1周期分の被検査部位の振動波形が予測される。また、位相検出部により振動の位相が検出される。
【0008】
そして、対物レンズ駆動部の作動により、予測された振動波形および検出された位相で対物レンズが駆動される。これにより、周期的に繰り返される生体の振動に一致するように対物レンズが移動させられ、像ブレを抑えて観察精度を向上することができる。
【0009】
上記発明においては、前記振動予測部が、複数回の振動波形のピーク位置に基づいて振動の周期を抽出し、連続的に繰り返される振動波形を、抽出された振動の周期で分割し、分割された複数の1周期分の振動波形を平均して次回の振動波形を生成することとしてもよい。
このようにすることで、周期的に繰り返される生体の被検査部位の振動波形から、次回の少なくとも1周期分の被検査部位の振動波形を精度よく予測することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記位相検出部が、過去の振動波形から振動の位相を抽出し、その抽出された位相に対して画像処理に要する時間だけ早めた値を振動の位相として検出することとしてもよい。画像処理に要する時間はある程度予測することができるので、これを一定値として、位相を早めることで、予測される振動波形を現実の振動波形に精度よく一致させることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記位相検出部が、振動を検出するセンサであることとしてもよい。画像処理によらずにセンサにより振動を検出するので、その位相を時間遅れなく検出することができる。
また、上記発明においては、前記センサが加速度センサまたは生体信号センサであることとしてもよい。振動の加速度または生体信号の検出により、振動の位相を精度よく検出することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記振動予測部が、直近の複数回の振動波形に基づいて次回の1周期分の振動波形を予測することとしてもよい。
直近の振動波形によれば、経時的に変化する周期的な振動波形を精度よく予測することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記対物レンズ駆動部による対物レンズの追従誤差を検出する誤差検出部と、前記位相検出部により検出された振動の位相に対して微小量だけ位相をずらして、前記誤差検出部により検出される追従誤差が最小となる位相を新たな振動の位相として設定する位相調節部とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、生体の振動の不規則性により、振動の位相がずれても、追従誤差が最小となるように位相調節部が位相を設定するので、さらに精度よく観察することができる。
【0014】
また、上記発明においては、生体の呼吸のタイミングを調整する人工呼吸器を備えることとしてもよい。
このようにすることで、人工呼吸器の作動により、生体の振動の不規則性を抑えて規則的に振動するように呼吸のタイミングを強制することができ、観察精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、像ブレの残留を抑制して観察精度を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る生体観察装置1について、図1〜図5を参照して説明する。
本実施形態に係る生体観察装置1は、図1に示されるように、試料Sを搭載するステージ2と、励起光Eを出射する励起光源3と、該励起光源3からの励起光Eを導く照明レンズ(照明光学系)4と、該照明レンズ4により導かれた励起光Eを試料Sに導く一方、試料Sにおいて発生した蛍光Fをコリメートする対物レンズ5と、該対物レンズ5によりコリメートされた蛍光Fを励起光Eから分岐するダイクロイックミラー6と、分岐された蛍光Fをさらに分岐するビームスプリッタ7と、分岐された蛍光Fを検出する2つのCCDのような撮像装置(光検出部)8,9とを備えている。図中符号21は結像レンズである。
【0017】
前記励起光源3、照明レンズ4、ダイクロイックミラー6、ビームスプリッタ7および2つの撮像装置8,9は、顕微鏡本体10に備えられている。一方、前記対物レンズ5は、顕微鏡本体10に対してX,Y,Z方向に移動可能に対物レンズ駆動装置11により支持されている。
【0018】
対物レンズ駆動装置11は、前記対物レンズ5をステージ2と顕微鏡本体10との間に配置するアーム12と、該アーム12により保持された対物レンズ5を鉛直方向に移動させる第1の駆動機構13と、前記対物レンズ5を水平2方向に移動させる第2、第3の駆動機構14,15とを備えている。各駆動機構13〜15には、アーム12を駆動するモータ13a〜15aと、駆動機構13〜15による対物レンズ5の位置を検出するエンコーダ(図示略)とが備えられている。
【0019】
前記撮像装置9には、制御装置16が接続されている。
制御装置16は、図2に示されるように、撮像装置9により取得された画像を処理して試料Sの振動波形を計測する振動計測部17と、計測された複数回の振動波形に基づいて、次回の少なくとも1周期分の振動波形を予測する振動予測部18と、振動の位相を検出する位相検出部19と、振動予測部18により予測された振動波形および位相検出部19により検出された位相に基づいて駆動指令信号を生成する駆動指令部20とを備えている。
【0020】
振動計測部17は、まず、試料Sの振動波形の周期ΔTを抽出する。振動波形の周期ΔTは、図3に示されるように、撮像装置9により連続して取得された試料Sの複数周期分の振動波形を画像処理することにより、振動の振幅の時間変化を計測する。
【0021】
次に、振動計測部17は、計測された振動の振幅値が、ピーク値Yppの80%となるときの時刻T1a,T1b,T2a,T2b…を計測する。そして、下式により振動のピーク時の時刻Txを算出する。
Tx=(Txa+Txb)/2 (xは1,2,3…)
最後に振動計測部17は、このようにして求められた複数のピーク時の時刻Txから、各ピーク値Ypp間の所要時間ΔTxを算出し、これを平均することにより振動波形の周期ΔTを算出する。
【0022】
振動予測部18は、図4(a)に示されるように、連続して取得された複数回の振動波形から、図4(b)に示されるように、振動波形のピーク値Yppを中心として周期ΔTの振動波形を切り出し、図4(c)に示されるように、これらを平均することにより、基準振動波形を算出する。基準振動波形は、試料Sの規則的な振動の単位となる振動波形を示すので、これを次回の振動波形として予測することができる。
【0023】
位相検出部19は、図5に示されるように、最後に計測した振動波形のピーク値Yppの時刻を基準として所定時間ΔT′だけ経過した時刻に次回のピーク値Yppが配置されるように位相を設定するようになっている。
ここでは、ΔT′は、振動計測部18により算出された周期ΔTから演算処理に要する時間dTを減算したものである。
【0024】
したがって、駆動指令部20は、最後に計測した振動波形のピーク値Yppの時刻から所定時間ΔT′だけ経過した時刻に次回のピーク値Yppが配置されるような位相で、振動予測部18により算出された基準振動波形に従い、その後は、振動計測部17により算出された周期ΔTで基準振動波形を繰り返す駆動指令信号を対物レンズ駆動装置11に対して出力する。これにより、対物レンズ5が、試料Sの振動波形にほぼ一致するパターンで、かつ、試料Sの振動の位相に一致する位相で移動させられる。
【0025】
このように、本実施形態に係る生体観察装置1によれば、過去の振動波形から予想した次回の振動波形によって対物レンズ5を移動させるので、画像処理の遅れにかかわらず、規則的に繰り返される生体等の試料の振動に対物レンズ5を精度よく追従させ、あたかも静止している試料Sを観察しているかのような画像により観察を行うことができる。その結果、観察精度を向上することができるという利点がある。
【0026】
なお、本実施形態においては、振動波形を適用する位相として画像処理の所要時間dTを考慮した所定時間ΔT′を採用したが、これに限定されるものではなく、画像処理を使用しない加速度センサや生体状態検出センサ、例えば、呼吸や活動電位を検出する歪みゲージ等のセンサにより振動波形を適用する位相を検出することとしてもよい。これによっても、画像処理の遅れを伴うことなく、基準振動波形で対物レンズ5を移動させて、試料Sの振動に対物レンズ5を追従させることができる。
【0027】
また、本実施形態に係る生体観察装置1において、予測した基準振動波形を設定された位相で適用した結果、対物レンズ5が試料Sの動作に追従させられると、撮像装置9においては、追従誤差分の試料Sの動作が見られることになる。そこで、この追従誤差分の試料Sの動作を検出する誤差検出部(図示略)と、適用する位相を微小変動させて追従誤差の増減を観察し、追従誤差が最も小さくなるように位相を調節する位相調節部(図示略)とを備えることにしてもよい。
【0028】
このようにすることで、試料Sの振動の不規則性により、非周期的な振動が発生しても、対物レンズ5を試料Sの振動に精度よく追従させて、あたかも静止している試料Sを観察しているかのように観察することができる。
また、追従誤差が最小となるように位相を調節することに代えて、追従誤差が所定値以上となったら警告を発生するようにしてもよい。
【0029】
また、本実施形態においては、過去の複数回の振動波形から少なくとも1周期分の振動波形を切り出して、それを平均して得られた基準振動波形を用いることとしたが、これに代えて、直近の複数回の振動波形を平均して基準波形を生成することにしてもよい。
【0030】
また、振動波形のピーク値Yppを利用して振動の周期ΔTを算出することとしたが、振動の速度を検出して振動の周期ΔTを算出することにしてもよい。
また、生体観察装置1に人工呼吸器(図示略)を備えることとしてもよい。
このようにすることで、試料Sの呼吸のタイミングを人工呼吸器で強制し、所定の周期を有する波形で試料Sを振動させることができる。
また、呼気として生体Sに送る気体に含有させる麻酔の濃度を調節することで、振動を安定させることにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体観察装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の生体観察装置の制御装置を示すブロック図である。
【図3】図2の制御装置の振動計測部による振動の周期の算出方法を示す図である。
【図4】図2の制御装置の振動予測部による基準振動波形の生成方法を示す図である。
【図5】図3の振動予測部により生成された基準振動波形を、図2の制御部の位相検出部により検出された位相で適用した対物レンズの駆動指令信号を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
S 試料(生体)
ΔT 周期
1 生体観察装置
5 対物レンズ
9 撮像装置(撮像部)
11 対物レンズ駆動装置(対物レンズ駆動部)
17 振動計測部
18 振動予測部
19 位相検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の被検査部位からの光を集光する対物レンズと、
該対物レンズにより集光された光を撮影して2次元的な画像を取得する撮像部と、
該撮像部により取得された画像を処理して被検査部位の振動波形を計測する振動計測部と、
該振動計測部により計測された複数回の振動波形に基づいて、次回の少なくとも1周期分の振動波形を予測する振動予測部と、
振動の位相を検出する位相検出部と、
前記対物レンズを前記振動予測部により予測された振動波形および前記位相検出部により検出された位相で駆動する対物レンズ駆動部とを備える生体観察装置。
【請求項2】
前記振動予測部が、複数回の振動波形のピーク位置に基づいて振動の周期を抽出し、連続的に繰り返される振動波形を、抽出された振動の周期で分割し、分割された複数の1周期分の振動波形を平均して次回の振動波形を生成する請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項3】
前記位相検出部が、過去の振動波形から振動の位相を抽出し、その抽出された位相に対して画像処理に要する時間だけ早めた値を振動の位相として検出する請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項4】
前記位相検出部が、振動を検出するセンサである請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項5】
前記センサが加速度センサまたは生体信号センサである請求項4に記載の生体観察装置。
【請求項6】
前記振動予測部が、直近の複数回の振動波形に基づいて次回の1周期分の振動波形を予測する請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項7】
前記対物レンズ駆動部による対物レンズの追従誤差を検出する誤差検出部と、
前記位相検出部により検出された振動の位相に対して微小量だけ位相をずらして、前記誤差検出部により検出される追従誤差が最小となる位相を新たな振動の位相として設定する位相調節部とを備える請求項1に記載の生体観察装置。
【請求項8】
生体の呼吸のタイミングを調整する人工呼吸器を備える請求項1に記載の生体観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−11928(P2010−11928A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172649(P2008−172649)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】