説明

生体試料解析方法

【課題】厚みのある生きた組織のような生体試料を、当該生体試料にダメージを与えずに鮮明に捉えることができ、その結果、生体試料を正確且つ詳細に解析することができる生体試料解析方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の生体試料解析方法は、CCDカメラで、生物発光タンパク質を有する微生物を含む生体試料の発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像を繰り返し撮像し、パーソナルコンピュータで、CCDカメラで撮像した各発光画像と各明視野画像および/または各蛍光画像とを重ね合わせた複数の重ね合わせ画像に基づいて生体試料内の微生物の生態の変化を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、組織、個体などの生体試料を解析する生体試料解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、微生物の検出方法などが開示されている。具体的には、試料に存在する目的微生物を特異的に捕捉する物質を結合した基板材を用いて当該目的微生物を捕捉し、当該基板材上に捕捉された目的微生物を光学的に検出する装置および方法が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、微生物を蛍光標識して組織内の感染の様子を観察する方法、および電子顕微鏡を用いて微生物の感染を観察する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−172680号公報
【非特許文献1】Fengwu Li et al.,「Plasmodium Ookinate−secreted Proteins Secreted through a Common Micronemal Pathway Are Targets of Blocking Malaria Transmission」,J.Biol.Chem.,Vol.279,No.25,Jun 18,pp.26635−26644,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1によれば、血液や糞便、食品などの非組織を対象とし、これらから特定の微生物を捕捉するので、組織内の微生物を、当該組織から取り出すことなく当該組織内に存在させた状態で検出することができないという問題点があった。
【0006】
また、非特許文献1によれば、蛍光を用いるが故に、自家蛍光に因るバックグラウンドが高く、ノイズも大きいので、組織内の微生物を鮮明に捉えることができないという問題点があった。また、非特許文献1によれば、蛍光を用いるが故に、厚みのある組織に対してはレーザーの透過性が低いので、厚みのある組織内の微生物を鮮明に捉えることができないという問題点があった。また、非特許文献1によれば、蛍光を用いるので、レーザー照射に因る組織へのダメージを避けることができないという問題点があった。また、非特許文献1によれば、電子顕微鏡を用いるので、装置や設備が大掛かりになるうえ、組織を生きた状態で観察することができないという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、厚みのある生きた組織のような生体試料を、当該生体試料にダメージを与えずに鮮明に捉えることができ、その結果、生体試料を正確且つ詳細に解析することができる生体試料解析方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、簡易な装置構成で生体試料を解析することができる生体試料解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の生体試料解析方法は、少なくとも1つが宿主であり、少なくとも1つが微生物である複数の生体試料のうち少なくとも1つから発せられた微弱光を選択的に検出することで、少なくとも1つの前記生体試料の発光画像を撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像した前記発光画像に基づいて前記生体試料を解析する解析工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる請求項2に記載の生体試料解析方法は、請求項1に記載の生体試料解析方法において、前記撮像工程では、前記発光画像を繰り返し撮像し、前記解析工程では、複数の前記発光画像に基づいて前記生体試料の変化を解析することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる請求項3に記載の生体試料解析方法は、請求項1に記載の生体試料解析方法において、前記撮像工程では、前記発光画像の他に、前記生体試料の明視野画像および/または前記生体試料の蛍光画像をさらに撮像し、前記解析工程では、前記撮像工程で撮像した前記発光画像と前記明視野画像および/または前記蛍光画像とを重ね合わせた画像である重ね合わせ画像に基づいて前記生体試料を解析することを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる請求項4に記載の生体試料解析方法は、請求項3に記載の生体試料解析方法において、前記撮像工程では、前記発光画像ならびに前記明視野画像および/または前記蛍光画像を繰り返し撮像し、前記解析工程では、複数の前記重ね合わせ画像に基づいて前記生体試料の変化を解析することを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる請求項5に記載の生体試料解析方法は、請求項1から4のいずれか1つに記載の生体試料解析方法において、前記撮像工程では、冷却電荷結合光検出素子で、少なくとも前記発光画像を撮像することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる請求項6に記載の生体試料解析方法は、請求項1から5のいずれか1つに記載の生体試料解析方法において、前記撮像工程では、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.01以上である対物レンズを用いて、少なくとも前記発光画像を撮像することを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる請求項7に記載の生体試料解析方法は、請求項6に記載の生体試料解析方法において、前記対物レンズの前記(NA÷β)2の前記値が0.039以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる請求項8に記載の生体試料解析方法は、請求項7に記載の生体試料解析方法において、前記対物レンズの前記(NA÷β)2の前記値が0.071以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる請求項9に記載の生体試料解析方法は、請求項1から8のいずれか1つに記載の生体試料解析方法において、前記宿主は、細胞、組織、個体のいずれか1つであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる請求項10に記載の生体試料解析方法は、請求項1から9のいずれか1つに記載の生体試料解析方法において、前記微生物は、生物発光タンパク質を有するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、少なくとも1つが宿主であり、少なくとも1つが(他方が)微生物である複数の生体試料のうち少なくとも1つから発せられた微弱光を選択的に検出することで、少なくとも1つの生体試料の発光画像を撮像し、撮像した発光画像に基づいて生体試料を解析するので、生体試料にダメージを与えずに鮮明に捉えることができ、その結果、生体試料を正確且つ詳細に解析することができるという効果を奏する。また、本発明では、簡易な装置構成で生体試料を解析することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明にかかる生体試料解析方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明では、生体試料として、少なくとも1種類の宿主と少なくとも1種類の微生物を対象とする。本発明では、撮像する対象は、少なくとも2種類の異なる生体試料のうち、少なくとも1種類のものであればよい。例えば、動物または植物組織とそれに感染する1種類以上の微生物の組み合わせなどが挙げられる。これらの対象を用いることにより、微生物が感染している様子などを検出することができる。また、動物または植物組織とそれに感染する遺伝子変異を起こした1種類以上の微生物の組み合わせなどの例が挙げられる。遺伝子変異を起こした微生物とは、ノックアウト遺伝子、キメラ遺伝子、特定タンパク質過剰発現遺伝子、RNA干渉など、一般的に用いられる遺伝子操作により特定の遺伝子の発現量が調整された微生物のことであり、それらの微生物を用いることにより、発現が調整された遺伝子の組織および/または微生物に対する効果を検出することができる。
【0021】
また、本発明において、微弱光とは、典型的には生物発光による遺伝学的な発現量を表すような肉眼では見えない程度の極めて微弱な光シグナルを指す。なお、本発明における微弱光としては、生物発光以外にも、当該生物発光と同等レベルに微弱な光シグナルを発する蛍光や化学発光などを含む。例えば、BRET(生物発光共鳴エネルギー転移)における蛍光は、基質による生物発光の微弱エネルギーにより発するので、生物発光に含める。本発明では、少なくとも2種類の生体試料を対象とするので、少なくとも1種の生体試料が微弱光を発生していれば当該微弱光を検出して画像化すればよいが、残りの他の生体試料についても識別可能な光シグナル、つまりは微弱光を発生していれば当該微弱光も検出して画像化してもよい。
【0022】
つぎに、本発明にかかる生体試料解析方法を実施するための装置である生体試料解析装置100の構成について図1を参照して説明する。図1は生体試料解析装置100の構成を示す図である。図1に示すように、生体試料解析装置100は、試料ステージ102と、ヒートプレート104と、プレート温度コントローラー106と、ガス供給機構108と、水供給機構110と、対物レンズ112と、対物レンズヒーター114と、ヒーター温度コントローラー116と、対物レンズZ軸駆動機構118と、赤外線カットフィルター120と、CCDカメラ122と、CCDカメラ冷却装置124と、パーソナルコンピュータ128と、で構成されている。試料ステージ102、ヒートプレート104、対物レンズ112、対物レンズヒーター114、対物レンズZ軸駆動機構118、赤外線カットフィルター120、CCDカメラ122およびCCDカメラ冷却装置124は、図示の如く、フタ付き遮光ボックス130で覆われている。フタ付き遮光ボックス130は例えばアルミニウムのような遮光性の部材からなり、当該部材の表面には、当該フタ付き遮光ボックスの外部の光がその内部に入り込まないように黒色の塗装処理がされている。フタ付き遮光ボックス130の上面には、蝶番を介して、開閉自在のフタ130aが取り付けられている。実験者は、フタ130aを開閉して、試料Sの設置や除去などを行なう。
なお、本実施の形態で必須とする構成は、これらの装置構成のうち、後述するような光学条件(具体的には開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値に関する条件)を満たす対物レンズ112と、フタ付き遮光ボックス130のような適宜の遮光環境と、CCDカメラ122とであり、簡易なものである。
【0023】
試料ステージ102は試料Sを配置するためのものであり、その上にはヒートプレート104が重ねて置かれている。試料ステージ102はネジ操作により水平方向(XY方向)に移動することができる。ヒートプレート104の上には水槽Tが配置されている。ヒートプレート104は、プレート温度コントローラー106と接続されており、当該プレート温度コントローラーにより0.5℃間隔で微生物の生育に適した環境温度(例えば37℃程度)の設定が行なわれている。
【0024】
水槽Tの中には、試料Sを保持するための容器である試料容器Cが配置されており、さらに、試料容器C内の湿度を保つために純水Wが張られている。試料容器Cには試料Sが配置されている。試料容器C周囲の拡大図を図2に示す。図2は試料容器C周囲の拡大図である。試料Sはシャーレなどから成る試料容器Cに入れられ、培養液Csに浸されている。試料容器Cには試料容器カバーCvが取り付けられており、その中の試料Sが乾燥したり、ゴミなどが試料容器Cに混入したりするのを防いでいる。図1に戻り、試料容器Cにおいて少なくともその底面は、通常の対物レンズが対応できるよう、光学的に透明になっており、顕微鏡用カバーガラスと同じ材質でその厚さは0.17mmである。水槽Tに張られている純水Wは、水供給機構110を構成するノズル110aを通して供給されている。水槽Tの上方には、ガス供給機構108を構成するガスボンベ108a内の混合ガス(CO2を5%、O2を95%含有するガス)が、ガス供給機構108を構成するガス供給チューブ108bを通して50mL/minの流速で供給される。
【0025】
ここで、試料Sは、生物発光タンパク質を有する微生物を含む生体試料であり、微生物に対する宿主である。宿主には、個体、組織、細胞などが挙げられる。個体は、動物や植物などである。これにより、様々な物を対象として微生物の生態の解析を行うことができる。なお、個体は動物や植物などである。動物は、微生物が感染する可能性のある全てのものであり、例えば哺乳類や昆虫類などである。植物は、微生物が感染する可能性のある全てのものであり、例えばタバコ、トマト、ナスなどである。組織は、微生物が感染する可能性のある全てのものであり、例えば脳や腎臓、腸などである。細胞は、微生物が感染する可能性のある全てのものであり、例えばHeLa細胞、CHO細胞などの培養細胞、初代神経細胞などの個体または組織から採取した細胞などが挙げられる。さらに、試料Sは外科的に摘出されたものでもよく、摘出されずに外科的に露呈された個体の一部であってもよい。また、微生物を選択的に撮像するのであれば、試料Sは必ずしも生きている必要は無く、微生物のみが試料S中において生きていればよい。なお、微生物を選択的に撮像する場合、微生物は、試料S中の成分または培養溶液によって適宜の培養環境に置かれているのが好ましい。
【0026】
生物発光タンパク質には、いつくかの種類が知られている。例えば、ルシフェラーゼ系(luc)の生物発光タンパク質を含有する代表的な生物はホタルやコメツキムシであり、これらは緑色や黄緑色、黄色、橙色の光を放射するが、中でも橙色の光は、他の短い波長の光よりも容易に組織を貫通する波長をもつので、好適である。なお、ルシフェラーゼ酵素を発光させるには、発光基質を当該ルシフェラーゼ酵素に供給しなければならない。使用する発光基質は、生物発光タンパク質に合わせて選択する。例えば、生物発光タンパク質がホタルルシフェラーゼである場合にはルシフェリンを発光基質として選択し、生物発光タンパク質がウミシイタケルシフェラーゼである場合にはセレンテラジンを発光基質として選択する。
【0027】
微生物は、寄生虫や原虫、細菌、真菌、ウイルスなどである。寄生虫は、組織や個体(具体的には動物)内で感染形態をとる全てのものであり、例えばアニキサス、シュードテラノーバ、旋毛虫などである。原虫は、組織や個体(具体的には動物)内で感染形態をとる全てのものであり、例えばクリプトスポリジウムやネオスポラ、マラリア、トキソプラズマ、イソスボーラ、サイクロスボーラなどである。細菌は、細胞や組織や個体(動物または植物)内で感染形態をとる全てのものであり、例えばチフス菌やサルモネラ菌、炭素菌、セレウス菌、結核菌、アグロバクテリウムなどである。真菌は、細胞や組織や個体(具体的には動物)内で感染形態をとる全てのものであり、例えばアスペルギルス属真菌やムコール・リゾプス属真菌、ペニシリウム属真菌、アクレモニウム属真菌などである。ウイルスは、細胞や組織や個体(具体的には動物)内で感染形態をとる全てのものであり、ノロウイルス、タロウイルス、インフルエンザウイルスなどである。
【0028】
宿主と微生物との組み合わせは以上の通りである。宿主が個体または組織の場合、微生物は主に寄生虫、原虫、真菌、細菌、ウイルスが用いられる。宿主が細胞の場合、微生物は主に真菌、細菌、ウイルスが用いられる。
【0029】
図1の説明に戻り、試料ステージ102の下方には、対物レンズ112が倒立に配置されている。対物レンズ112の周囲には対物レンズヒーター114が取り付けられており、対物レンズ112と対物レンズヒーター114とは接触している。ここで、本出願人は、対物レンズの開口数(NA)を、従来の蛍光撮像用顕微鏡などで常識的に用いられている開口数を基準にして変更することにより、生物発光のような微弱な発光成分を撮像して短い時間(例えば1分〜20分程度)でその発光画像を得ることができることを明らかにした(WO2006/088109参照)。具体的には、本出願人は、生物発光を容易に画像化するための対物レンズとして、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.01以上であるものが好ましく、その値が0.039以上であるものがより好ましいことを明らかにした(WO2006/088109参照)。さらには、本出願人は、鋭意検討の結果、5分以内(場合によっては1分程度)で視認可能且つ解析可能な発光画像を得るための対物レンズとして、(NA÷β)2の値が0.071以上であるものが好ましいことを明らかにした(WO2006/088109参照)。したがって、本実施の形態で用いる対物レンズ112としては、(NA÷β)2の値が0.01以上であるものが好ましく、その値が0.039以上であるものがより好ましく、その値が0.071以上であるものがさらに好ましい。
【0030】
対物レンズヒーター114は、ヒーター温度コントローラー116と接続されており、対物レンズ112を外側から一定温度に保持するため、当該ヒーター温度コントローラーにより0.5℃間隔で温度の設定が行なわれている。また、対物レンズヒーター114の周囲には、対物レンズをZ軸(光軸方向)に沿って駆動する対物レンズZ軸駆動機構118が備えられている。対物レンズZ軸駆動機構118の操作は、コンピューターにより制御される。
【0031】
対物レンズ114の下方には、その受光面のほぼ中心が光軸に合うように、光検出器としてのCCDカメラ122が置かれている。CCDカメラ122により、試料Sから発せられる光を2次元画像として検出する。試料Sから発せられた光は微弱光であるため、CCDカメラ122はできる限り高感度のものを用いる。CCDカメラ122の画素数は1,360×1,024である。本実施の形態では、試料S内からの微弱な光を妥当な時間で(好ましくは約30分以内に)撮像することができるような(換言すると、試料Sから検出した信号を使って妥当な時間で(好ましくは約30分以内に)画像を構築することができるような)感度の高い光検出器を用いる。具体的には、本実施の形態では、極めて弱い発光成分を検出するため、例えば浜松ホトニクス社製のORCA−AGやORCA−IIER、オリンパス社製のDP30BWなどのような高感度の光検出器である冷却電荷結合光検出素子を用いる。なお、極めて明るい発光成分を検出する場合には、一般的な高感度ビデオカメラ(例えば暗視ゴーグルや例えば浜松ホトニクス社製のシリコン増倍管(SIT)カメラなど)を用いればよい。CCDカメラ122は3板式カラーカメラとして、カラーの明視野像が得られるようにしてもよい。本実施の形態では、CCDカメラに限ることなく、例えばCMOSイメージセンサーなどを用いてもよい。
【0032】
CCDカメラ122から発する暗電流を抑えるために、CCDカメラ122の底部にはペルチエ素子から成るCCDカメラ冷却装置124が設置されており、CCDカメラ122の温度を0℃程度で冷却保温する。CCDカメラ122の受光面の上方には赤外線カットフィルター120が配置されており、当該赤外線カットフィルターにより、背景光となる信号光に関係しない赤外光を遮断する。CCDカメラ122には、信号ケーブルを通して、モニタを含むパーソナルコンピュータ128が接続されている。パーソナルコンピュータ128のモニタの画面上には、試料Sの画像が描出される。
【0033】
パーソナルコンピュータ128は、CCDカメラ122のような高感度光子計数カメラを含むシステムの一部として、例えばフォトメトリクス社や浜松ホトニクス社などで販売されているものである。パーソナルコンピュータ128は、CCDカメラ122で撮像した画像(具体的には発光画像や蛍光画像、明視野画像など)をデジタルファイルの形式に処理する機能を有し、このデジタル画像を、当該パーソナルコンピュータに予め設定された様々な画像処理プログラムで操作したり、当該パーソナルコンピュータと予め接続されたプリンタで印刷したりすることができる。
【0034】
具体的には、パーソナルコンピュータ128は、CCDカメラ122で撮像した発光画像を解析して試料Sに含まれる微生物の生態に関する情報を生成したり、CCDカメラ122で撮像した発光画像と明視野画像および/または蛍光画像とを重ね合わせることで重ね合わせ画像を作成し、作成した重ね合わせ画像を解析して試料Sに含まれる微生物の生態に関する情報を生成したりする。これにより、発光画像や重ね合わせ画像から、微生物の挙動や形態、局在、生死などの微生物の生態に関する情報を得ることができる。また、具体的には、パーソナルコンピュータ128は、CCDカメラ122により所定の時間間隔で繰り返し撮像した複数の発光画像を解析して試料Sに含まれる微生物の生態の変化に関する情報を生成したり、CCDカメラ122により所定の時間間隔で繰り返し撮像した各発光画像と各明視野画像および/または各蛍光画像とを重ね合わせることで複数の重ね合わせ画像を作成し、作成した複数の重ね合わせ画像を解析して試料Sに含まれる微生物の生態の変化に関する情報を生成したりする。これにより、時系列の発光画像や重ね合わせ画像から、微生物の挙動や形態、局在、生死、増殖、減少などの微生物の生態の変化に関する情報を得ることができる。換言すると、時系列の発光画像や重ね合わせ画像から、微生物の挙動や形態、局在、生死、増殖、減少を経時的に追跡することができる。なお、上述した所定の時間間隔は、例えば数分程度の短いものから数日または数週間程度の長いものまで、任意に設定してよい。
【0035】
つぎに、生体試料解析装置100で行うメイン処理の一例について図3を参照して説明する。実験者が、試料Sを培養液Csと共に試料容器Cに入れ、当該試料容器Cを純水で満たされている水槽Tに入れ、当該水槽Tをヒートプレート104の上に置き、パーソナルコンピュータ128に対してメイン処理の開始を指示すると、生体試料解析装置100はパーソナルコンピュータ128を中心として以下のメイン処理を実行する。なお、ここでは、発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像を経時的に撮像した場合のメイン処理を一例として説明する。
【0036】
まず、パーソナルコンピュータ128はCCDカメラ122に対して撮像実行を指示すると共に、当該指示した時の時刻を、CCDカメラ122で画像を撮像した時の時刻(撮像時刻)として当該パーソナルコンピュータの所定の記憶領域に格納する(ステップSA−1)。
【0037】
つぎに、CCDカメラ122は、パーソナルコンピュータ128からの指示を受けると、試料Sの撮像を実行して試料Sの発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像を取得する(ステップSA−2:撮像工程)。
【0038】
つぎに、CCDカメラ122は、ステップSA−2で撮像した発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像をパーソナルコンピュータ128へ転送する(ステップSA−3)。
【0039】
つぎに、パーソナルコンピュータ128は、ステップSA−3で転送した発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像を取得し、取得した発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像を、ステップSA−1で格納した撮像時刻と対応付けて当該パーソナルコンピュータの所定の記憶領域に格納する(ステップSA−4)。
【0040】
つぎに、パーソナルコンピュータ128は、ステップSA−4で格納した発光画像と明視野画像および/または蛍光画像とが重ね合わされた画像である重ね合わせ画像を作成する(ステップSA−5)。
【0041】
つぎに、パーソナルコンピュータ128は、ステップSA−5で作成した重ね合わせ画像を解析して、微生物の生態に関する情報を生成する(ステップSA−6:解析工程)。
【0042】
つぎに、パーソナルコンピュータ128は、ステップSA−6で生成した微生物の生態に関する情報を、ステップSA−5で作成した重ね合わせ画像や、ステップSA−4で格納した発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像や、ステップSA−1で格納した撮像時刻と共に、当該パーソナルコンピュータのモニタにサムネイル表示する(ステップSA−7)。
【0043】
つぎに、パーソナルコンピュータ128は、ステップSA−1で格納した撮像時刻からの経過時間を計時し、当該撮像時刻から所定の時間が経過した時(ステップSA−8:Yes)にステップSA−9へ進む。
【0044】
そして、パーソナルコンピュータ128は、初回の撮像時刻から所定の時間が経過するまで又は所定の回数の撮像を終える(ステップSA−9:Yes)まで、当該パーソナルコンピュータを中心として上記の処理を繰り返し実行することで、微生物の生態の変化に関する情報を生成する。
【0045】
以上、詳細に説明したように、生体試料解析装置100によれば、生物発光タンパク質を有する微生物を含む生体試料である試料Sの発光画像と明視野画像および/または蛍光画像を撮像し、撮像した発光画像と明視野画像および/または蛍光画像とを重ね合わせた重ね合わせ画像に基づいて微生物の生態を解析するので、厚みのある生きた組織のような生体試料内の微生物を、当該微生物を当該生体試料から取り出すことなく当該生体試料に存在させた状態で、当該生体試料にダメージを与えずに簡易な装置構成で鮮明に捉えることができ、その結果、生体試料内の微生物の生態、具体的には生体試料内の微生物の挙動や形態、局在、生死などを正確且つ詳細に解析する(知る)ことができる。換言すると、発光画像と明視野画像および/または蛍光画像とを重ね合わせることによって、厚みのある生体試料からの光シグナルを、バックグラウンドがなく組織へのダメージがなく感度よく測定することができ、その結果、生体試料内の微生物の挙動、形態、局在、生死などの生態を正確且つ詳細に解析することができる。
【0046】
また、生体試料解析装置100によれば、発光画像ならびに明視野画像および/または蛍光画像を経時的に撮像し、撮像した各発光画像と各明視野画像および/または各蛍光画像とを重ね合わせた複数の重ね合わせ画像に基づいて微生物の生態の変化を解析するので、厚みのある生きた組織のような生体試料内の微生物を、当該微生物を当該生体試料から取り出すことなく当該生体試料に存在させた状態で、当該生体試料にダメージを与えずに簡易な装置構成で鮮明に捉えることができ、その結果、生体試料内の微生物の生態の変化、具体的には生体試料内の微生物の挙動や局在、生死、増殖、減少などを正確且つ詳細に経時的に解析(追跡)することができる。換言すると、光シグナルによる画像をタイムラプス観察することによって、厚みのある生体試料からの光シグナルを、バックグラウンドがなく組織へのダメージがなく感度よく経時的に測定(追跡)することができ、その結果、生体試料内の微生物の挙動、局在、生死、増殖、減少などの生態変化を経時的に正確且つ詳細に解析することができる。
【0047】
また、生体試料解析装置100によれば、冷却電荷結合光検出素子で、発光画像や明視野画像、蛍光画像を撮像するので、高感度の画像を得ることができ、その結果、生体試料内の微生物の生態やその変化をより正確且つ詳細に解析することができる。また、生体試料解析装置100によれば、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.01以上、好ましくは0.039以上、さらに好ましくは0.071以上である対物レンズを用いて、発光画像や明視野画像、蛍光画像を撮像するので、高感度の画像を得ることができ、その結果、生体試料内の微生物の生態やその変化をより正確且つ詳細に解析することができる。
【0048】
また、実験者は、生物発光タンパク質を様々な方法で微生物に投与し、当該微生物をさらに動物などの個体に投与し、当該個体に対し発光基質を加えた後、生体試料解析装置100で、当該個体内または当該個体の組織内に存在する微生物から発せられる発光を撮像してもよい。
【0049】
なお、本実施の形態において、発光シグナルの測定は数十分間続く(具体的には撮像の際の露光時間は数十分になる)場合もあるので、撮像中は、細胞や組織や個体などの試料を固定しておくことが望ましい。また、発光シグナル成分の撮像には、極めて低レベルの光を検出することができる冷却電荷結合光検出素子を用いるのが望ましい。
【実施例1】
【0050】
実施例1では、マウスの小腸の断片を試料として、発光観察および明視野観察を行った。
(1)試料の準備
まず、ルシフェラーゼ遺伝子恒常発現ベクターをエレクトロポレーションによりクリプトスポリジウムに導入した。そして、オーシスト形態をとったルシフェラーゼ発現クリプトスポリジウムをマウスに経口感染させ、腸内でクリプトスポリジウムを増殖させた。そして、マウスの小腸の断片を採取し、ルシフェリンを1mM含有するPBS(Phosphate Buffered Saline:リン酸緩衝塩類溶液)が入っている35mmカバーガラスディッシュに、採取した断片を入れた。
(2)試料の観察
実施例1では、発光イメージングシステムLUMINOVIEW LV100(オリンパス社製)を用いて、カバーガラスディッシュ内の断片を観察した。なお、実施例1で用いた対物レンズは、市販の顕微鏡用のものであり、20倍・NA0.75の仕様のものである。倍率Mgに対応する総合倍率は4倍である。実施例1で用いたCCDカメラは、−30℃冷却の顕微鏡用デジタルカメラORCA−AG(浜松ホトニクス社製)であり、CCD3としてのCCD素子は2/3インチ型で、画素数は1,360×1,024、画素サイズは6.45μm角である。実施例1では、自己発光による標本の像を1分間露光して撮像した。試料の観察は、試料(標本)がインキュベータ内に載置されるため、37℃の環境で行った。
(3)観察結果
図4に示すように、クリプトスポリジウムが、マウスの小腸内でオーシスト形態をとり感染している様子を確認することができた。図4は、マウスの小腸の断片を撮像したときの明視野画像、発光画像および重ね合わせ画像の一例を示す図である。
【実施例2】
【0051】
実施例2では、マウスの小腸の断片を試料として経時的に発光観察および明視野観察を行うことで、マウス腸内におけるクリプトスポリジウムの増殖の様子を観察した。なお、クリプトスポリジウムの調整、マウスの調整、発光イメージングシステム、対物レンズ、CCDカメラおよび撮像条件は、実施例1と同じである。実施例2では、撮像間隔を30分とし、24時間のタイムラプス撮像を行った。その結果、クリプトスポリジウムが経時的に増殖している様子を捉えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明にかかる生体試料解析方法は、例えば医療やバイオテクノロジー、食品分析などの分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】生体試料解析装置100の構成を示す図である。
【図2】生体試料解析装置100の構成を示す図である。
【図3】生体試料解析装置100が行うメイン処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】マウスの小腸の断片を撮像したときの明視野画像、発光画像および重ね合わせ画像の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
100 生体試料解析装置
112 対物レンズ
122 CCDカメラ
124 CCDカメラ冷却装置
128 パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つが宿主であり、少なくとも1つが微生物である複数の生体試料のうち、少なくとも1つから発せられた微弱光を選択的に検出することで、少なくとも1つの前記生体試料の発光画像を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像した前記発光画像に基づいて前記生体試料を解析する解析工程と
を含むことを特徴とする生体試料解析方法。
【請求項2】
前記撮像工程では、前記発光画像を繰り返し撮像し、
前記解析工程では、複数の前記発光画像に基づいて前記生体試料の変化を解析すること
を特徴とする請求項1に記載の生体試料解析方法。
【請求項3】
前記撮像工程では、前記発光画像の他に、前記生体試料の明視野画像および/または前記生体試料の蛍光画像をさらに撮像し、
前記解析工程では、前記撮像工程で撮像した前記発光画像と前記明視野画像および/または前記蛍光画像とを重ね合わせた画像である重ね合わせ画像に基づいて前記生体試料を解析すること
を特徴とする請求項1に記載の生体試料解析方法。
【請求項4】
前記撮像工程では、前記発光画像ならびに前記明視野画像および/または前記蛍光画像を繰り返し撮像し、
前記解析工程では、複数の前記重ね合わせ画像に基づいて前記生体試料の変化を解析すること
を特徴とする請求項3に記載の生体試料解析方法。
【請求項5】
前記撮像工程では、電荷結合光検出素子で、少なくとも前記発光画像を撮像すること
を特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の生体試料解析方法。
【請求項6】
前記撮像工程では、開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)2の値が0.01以上である対物レンズを用いて、少なくとも前記発光画像を撮像すること
を特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の生体試料解析方法。
【請求項7】
前記対物レンズの前記(NA÷β)2の前記値が0.039以上であること
を特徴とする請求項6に記載の生体試料解析方法。
【請求項8】
前記対物レンズの前記(NA÷β)2の前記値が0.071以上であること
を特徴とする請求項7に記載の生体試料解析方法。
【請求項9】
前記宿主は、細胞、組織、個体のいずれか1つであること
を特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の生体試料解析方法。
【請求項10】
前記微生物は、生物発光タンパク質を有するものであること
を特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の生体試料解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−96266(P2008−96266A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278039(P2006−278039)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】