説明

生体適合性が向上した医療用プロテーゼ装置およびインプラント

【課題】生物活性生体分子を金属表面に安定に結合したインプラントを提供する。
【解決手段】チタンまたはその合金、ジルコニウムまたはその合金、タンタルまたはその合金、ハフニウムまたはその合金、ニオブまたはその合金、ならびにクロム−バナジウム合金から成るグループから選択された金属材料(A)を含み、金属材料(A)の表面部分が、水素化チタン、水素化ジルコニウム、水素化タンタル、水素化ハフニウム、水素化ニオブ、ならびに水素化(クロムおよび/またはバナジウム)から選択されたそれぞれの対応する水素化物材料(B)の層でコーティングされた医療用プロテーゼ装置または医療用インプラントであって、水素化物材料(B)の層が、それに関連した1種またはそれ以上の生体分子物質(C)を含むことを特徴とする装置またはインプラント。この装置またはインプラントは改善された生体適合性を示す。金属材料(A)はチタンであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性が向上した医療用プロテーゼ装置およびインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばチタン・プロテーゼの生体適合性を、例えばプラズマ・ボンバード(plasma bombardment)または電解によってチタン・プロテーゼの金属表面を水素化チタンの層でコーティングすることによって向上させることが提案されている。
【0003】
さらに、プロテーゼの表面、例えばチタン・プロテーゼの金属表面にさまざまな活性生体分子を結合させまたは組み込むことによって、プロテーゼまたはインプラントの生体適合性を向上させることも提案されている。このように調製されたインプラントを用いる狙いは、このようなインプラントが、改良された適合性(fit)を有し;増大した組織粘着性および増大した組織適合性を示し;細胞の成長、分化および成熟の増大に関して生物学的に活性な表面を有し;低減された免疫反応性を示し;抗菌活性を示し;増大したバイオミネラリゼーション(biomineralisation)能力を示し;創傷および/または骨の癒合を改善し;骨密度を高め;「装てん時間(time to load)」を短縮させ;炎症を引き起こしにくくすることである。
【0004】
このような結合はたいてい、例えば2つの反応性官能基を有するホルマリン、グルタルアルデヒドなどの化学反応剤を使用して実施するように提案されているが、これらの薬剤の反応性によってしばしば、生体分子が生物学的に不活性となり、かつ/または望ましくない免疫反応性の強化が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
意外にも、水素化物層を金属表面に電解によって形成する無機プロセスの間に、多種多様な生体分子を水素化物層にインターロックし、結合させ、捕捉し、かつ/または組み込むことができることが分かった。この観察より以前には、無修飾の生物活性生体分子を金属に結合し、安定化すること、特に、このようにして脊椎動物の体内のインプラントとしてin vivoで使用するために金属の生物活性表面として使用することは非常に難しいと考えられていた。
【0006】
したがって本発明は、チタンまたはその合金、ジルコニウムまたはその合金、タンタルまたはその合金、ハフニウムまたはその合金、ニオブまたはその合金、ならびにクロム−バナジウム合金から成るグループから選択された金属材料(A)を含み、金属材料(A)の表面部分が、水素化チタン、水素化ジルコニウム、水素化タンタル、水素化ハフニウム、水素化ニオブ、ならびに水素化(クロムおよび/またはバナジウム)から選択されたそれぞれの対応する水素化物材料(B)の層でコーティングされた医療用プロテーゼ装置または医療用インプラントであって、水素化物材料(B)の層が、それに結合した1種またはそれ以上の生体分子物質(C)を含むことを特徴とする装置またはインプラントに関する。
【0007】
本発明はさらに、上で定義した医療用プロテーゼ装置またはインプラントを調製する方法であって、上で定義した金属材料(A)の表面部分を電解処理にかけて水素化物材料(B)の層を形成することを含み、前記電解処理が、1種またはそれ以上の生体分子物質(C)の存在下で実施される方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の文脈では、句「医療用プロテーゼ装置およびインプラント」がその範囲の中に、脊椎動物、特にヒトなどの哺乳動物の体内に埋め込むことを意図した任意の装置を含む。このような装置の非限定的な例は、股関節;大腿骨頭;寛骨臼杯;幹(stem)、楔(wedge)、関節挿入物を含む肘;大腿骨および脛骨構成要素、幹、楔、骨関節挿入物、または膝蓋骨構成要素を含む膝;幹および頭を含む肩;手首;足首;手;手指;足指;椎骨;脊椎円板;人工関節;人工歯根;オシクロプラスチック(ossiculoplastic)インプラント;きぬた骨、つち骨、あぶみ骨、きぬた骨−あぶみ骨、つち骨−きぬた骨、つち骨−きぬた骨−あぶみ骨を含む中耳インプラント;人工内耳;釘、ねじ、ステープル、プレートなどの整形外科用固定装置;心臓弁;ペースメーカ;カテーテル;脈管;空間充てんインプラント;補聴器保持用インプラント;外固定用インプラント;さらに子宮内器具(IUD);蝸牛内電子装置、頭蓋内電子装置などの生体電子装置(bioelectronic device)などの解剖学的構造を置き換え、またはこのような身体機能を修復する医療装置である。
【0009】
本発明の文脈では、用語「生体分子」が、語の最も広い意味において生物学的に活性な非常に多種多様な分子をカバーし、これらをその意味の中に含む。これらは、天然生体分子(すなわち天然の供給源に由来する天然に生じる分子)、合成生体分子(すなわち合成によって調製された天然に生じる分子ならびに合成によって調製された天然には生じない分子または天然には生じない形態の分子)、または組換え生体分子(すなわち組換え技法の使用によって調製された生体分子)である。
【0010】
本発明に従って金属水素化物層へ(安定かつ/または生理的に可逆的な方法で)組み込むのに適していると考えられる生体分子の主なグループおよび種を以下に非限定的に列挙する。
【0011】
抽出生体分子
生体接着剤(bioadhesive):
これらは、ガラス、岩などのような非生物表面上への細胞、組織、器官または生物の付着を媒介する生体分子である。このグループの生体分子には、海産イガイ類の接着タンパク質、フィブリン様タンパク質、クモの巣のタンパク質、植物由来接着剤(樹脂)、海生動物から抽出される接着剤、および(レジリンのような)昆虫由来の接着剤が含まれる。接着剤の具体的な例は、フィブリン;フィブロイン;ムラサキイガイ脚タンパク質(Mytilus edulis foot protein)(mefp1、「イガイ類接着タンパク質」);他のイガイ類の接着タンパク質;グリシンに富むブロックを含むタンパク質およびペプチド;ポリアラニン・ブロックを含むタンパク質およびペプチド;ならびに絹である。
【0012】
細胞付着因子:
細胞付着因子(Cell attachment Factor)は、生物学的表面または他の細胞および組織への細胞の付着および展着を媒介する生体分子である。このグループの分子には一般に、脊椎動物の発生、新生、再生および修復の間の細胞−基質および細胞−細胞相互作用に関与する分子が含まれる。このクラスの典型的な生体分子は、白血球表面のCDクラスの受容体、免疫グロブリン、血球凝集タンパク質のような細胞外表面の分子、ならびにこのような細胞分子に接着する細胞外基質分子/リガンドである。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有する細胞付着因子の典型的な例は、アンキリン;カドヘリン(カルシウム依存性接着分子);コネキシン;デルマタン硫酸;エンタクチン;フィブリン;フィブロネクチン;糖脂質;グリコホリン;糖タンパク質;ヘパラン硫酸;ヘパリン硫酸;ヒアルロン酸;免疫グロブリン;ケラタン硫酸;インテグリン;ラミニン;N−CAM(カルシウム非依存性接着分子);プロテオグリカン;スペクトリン;ビンキュリン;ビトロネクチンである。
【0013】
バイオポリマー:
バイオポリマーは、適当な条件を与えると集合して重合性の巨大分子構造を与えることができる生物学的に調製される任意の分子である。このような分子は細胞外基質の重要な部分を構成し、そこで、組織の弾力性、強度、剛性、結合性などの付与に関与する。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有する重要なバイオポリマーは、アルギン酸塩;アメロゲニン;セルロース;キトサン;コラーゲン;ゼラチン;オリゴ糖;ペクチンである。
【0014】
血液タンパク質:
このクラスのタンパク質には一般に、通常は全血中に存在する任意の溶解または凝集タンパク質が含まれる。このようなタンパク質は、炎症、細胞のホーミング、凝固、細胞シグナリング、防御、免疫反応、代謝などのような広範囲の生物学的プロセスに関与することができる。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有する典型的な例は、アルブミン;卵白アルブミン;サイトカイン;第IX因子;第V因子;第VII因子;第VIII因子;第X因子;第XI因子;第XII因子;第XIII因子;ヘモグロビン(鉄の有無は問わない);免疫グロブリン(抗体);フィブリン;血小板由来増殖因子(PDGF);プラスミノゲン;トロンボスポンジン;トランスフェリンである。
【0015】
酵素:
酵素は、事実上、単純な糖類からDNAのような複雑な巨大分子にわたる任意の1種またはそれ以上の生物学的基質に対して特異的な触媒効果を有する任意のタンパク質またはペプチドである。酵素は、基質分子の分解によって組織内の生物反応の引き金を引くのに潜在的に有用であり、またはインプラント・コーティング内の生物活性化合物を活性化させ、または放出させる目的に使用することができる。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有する重要な例は、アブザイム(酵素能力を有する抗体);アデニル酸シクラーゼ;アルカリホスファターゼ;カルボキシラーゼ;コラーゲナーゼ;シクロオキシゲナーゼ;ヒドロラーゼ;イソメラーゼ;リガーゼ;リアーゼ;メタロ−マトリックス・プロテアーゼ(MMP);ヌクレアーゼ;オキシドレダクターゼ;ペプチダーゼ;ペプチドヒドロラーゼ;ペプチジルトランスフェラーゼ;ホスホリパーゼ;プロテアーゼ;スクラーゼ−イソマルターゼ;TIMP;トランスフェラーゼである。
【0016】
細胞外基質タンパク質および生体分子:
分化した細胞、例えば線維芽細胞および骨芽細胞は細胞外基質を生み出す。この基質は、重要ないくつかのプロセスに関与する。基質は、例えば創傷の癒合、組織のホメオスタシス、発生および修復、組織の強度、ならびに組織の完全性にとって極めて重要である。基質はさらに、pH、イオン強度、オスモル濃度などのような細胞外環境を決定する。さらに、細胞外基質分子は、バイオミネラル形成(biomineral formation)(骨、軟骨、歯)の誘導および制御にとって極めて重要である。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有する重要な細胞外タンパク質および生体分子には、アメロブラスチン(Ameloblastin);アメリン(amelin);アメロゲニン;コラーゲン(IからXII);象牙質−シアロ−タンパク質(dentin−sialo−protein:DSP);象牙質−シアロ−リン−タンパク質(dentin−sialo−phospho−protein:DSPP);エラスチン;エナメリン;フィブリン;フィブロネクチン;ケラチン(1から20);ラミニン;タフテリン(tuftelin);炭水化物;コンドロイチン硫酸;ヘパラン硫酸;ヘパリン硫酸;ヒアルロン酸;脂質および脂肪酸;リポ多糖類が含まれる。
【0017】
増殖因子およびホルモン:
増殖因子およびホルモンは、細胞表面の構造(受容体)に結合し、特定の生物学的プロセスを開始させるシグナルを標的細胞中に生み出す分子である。このようなプロセスの例は、成長、プログラムされた細胞死、他の分子(例えば細胞外基質分子または糖)の放出、細胞分化および成熟、代謝速度の調節などである。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有するこのような生体分子の典型的な例は、アクチビン(Act);アンフィレグリン(Amphiregulin)(AR);アンギオポイエチン(Angiopoietin)(Ang1から4);Apo3(TWEAK、DR3、WSL−1、TRAMP、LARDとしても知られている弱いアポトーシス誘導因子);βセルリン(BTC);塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF−b);酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF、FGF−a);4−1BBリガンド;脳由来神経栄養因子(BDNF);胸部および腎臓由来のボロカイン(Bolokine)(BRAK);骨形態形成タンパク質(BMP);Bリンパ球誘引物質/B細胞誘引ケモカイン1(BLC/BCA1);CD27L(CD27リガンド);CD30L(CD30リガンド);CD40L(CD40リガンド);A増殖誘導リガンド(APRIL);カルジオトロフィン−1(Cardiotrophin−1)(CT−1);毛様体神経栄養因子(CNTF);結合組織増殖因子(CTGF);サイトカイン;6−システイン・ケモカイン(6Ckine);上皮増殖因子(EGF);エオタキシン(Eotaxin)(Eot);上皮細胞由来好中球活性化タンパク質78(ENA−78);エリスロポレチン(Erythropoletin)(Epo);線維芽細胞増殖因子(FGF3から19);フラクタルカイン(Fractalkine);神経膠由来神経栄養因子(GDNF);糖質コルチコイド誘導TNF受容体リガンド(GITRL);顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF);顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM−CSF);顆粒球化学走性タンパク質(GCP);成長ホルモン(GH);I−309;成長関連癌遺伝子(GRO);インヒビン(Inh);インターフェロン誘導T細胞α誘引物質(1−TAC);ファス・リガンド(FasL);ヘレグリン(Heregulin)(HRG);ヘパリン結合上皮増殖因子様増殖因子(HB−EGF);fms様チロシン・キナーゼ3リガンド(Flt−3L);ヘモフィルトラート(Hemofiltrate)CCケモカイン(HCC−1から4);肝細胞増殖因子(HGF);インスリン;インスリン様増殖因子(IGF1および2);インターフェロンγ誘導性タンパク質10(IP−10);インターロイキン(IL1から18);インターフェロンγ(IFNγ);ケラチノサイト増殖因子(KGF);ケラチノサイト増殖因子2(FGF−10);レプチン(OB);白血病抑制因子(LIF);リンフォトキシンβ(LT−B);リンフォタクチン(Lymphotactin)(LTN);マクロファージ−コロニー刺激因子(M−CSF);マクロファージ由来ケモカイン(MDC);マクロファージ刺激タンパク質(MSP);マクロファージ炎症性タンパク質(MIP);ミッドカイン(MK);単球走化性タンパク質(MCP−1から4);MIG(Monokine induced by IFN−gamma);MSX1;MSX2;ミュラー抑制物質(MIS);骨髄性前駆細胞(progenitor)抑制因子1(MPIF−1);神経増殖因子(NGF);ニューロトロフィン(NT);好中球活性化ペプチド2(NAP−2);オンコスタチンM(OSM);オステオカルシン;OP−1;オステオポエチン;OX40リガンド;血小板由来増殖因子(PDGFaa、abおよびbb);血小板第4因子(PF4);プレイオトロフィン(Pleiotrophin)(PTN);肺性活性化調節ケモカイン(PARC);RANTES(regulated on Activation、Normal T−Cell Expressed and Secreted);感覚および運動ニューロン由来因子(SMDF);SCYA26(small inducible Cytokine Subfamily A Member 26);幹細胞因子(SCF);間質細胞由来因子1(SDF−1);胸腺および活性化調節ケモカイン(TARC);胸腺発現ケモカイン(TECK);TNFおよびApoL関連白血球発現リガンド−1(TALL−1);TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL);TNF関連活性化誘導サイトカイン(TRANCE);LIGHT(Lymphotoxin Inducible Expression and Competes with HSV Glycoprotein D for HVEMT−lymphocyte Receptor);胎盤増殖因子(PIGF);トロンボポエチン(Tpo);トランスフォーミング増殖因子(TGFα、TGFβ1、TGFβ2);腫瘍壊死因子
(TNFαおよびβ);脈管内皮増殖因子(VEGF−A、B、CおよびD);カルシトニン;およびステロイド化合物、例えばエストロゲン、プロゲステロン、テストステロンなどの天然性ホルモン、ならびにその類似体である。したがって、例えばエストロゲンまたはプロゲステロン、あるいはその類似体を含むIUD(子宮内器具)などのある種のインプラントを企図することができる。
【0018】
核酸(DNA):
DNAは、タンパク質およびペプチドの遺伝子をコードする。DNAはさらに、含まれる遺伝子の発現を調節する幅広い配列を含む。供給源、機能、起源および構造によっていくつかのタイプのDNAが存在する。インプラント上の緩放性生物活性コーティングとして利用することができるDNAベースの分子(局所遺伝子治療)の典型的な例は、A−DNA;B−DNA;哺乳動物のDNAを担持した人工染色体(YAC);染色体DNA;環状DNA;哺乳動物のDNAを担持したコスミド;DNA;二本鎖DNA(dsDNA);ゲノムDNA;半メチル化(hemi−methylated)DNA;線状DNA;哺乳動物のcDNA(相補DNA;RNAのDNAコピー);哺乳動物のDNA;メチル化DNA;ミトコンドリアDNA;哺乳動物のDNAを担持したファージ;哺乳動物のDNAを担持したファージミド(phagemid);哺乳動物のDNAを担持したプラスミド;哺乳動物のDNAを担持したプラスチド;組換えDNA;哺乳動物のDNAの制限フラグメント;哺乳動物のDNAを担持したレトロポゾン;一本鎖DNA(ssDNA);哺乳動物のDNAを担持したトランスポゾン;T−DNA;哺乳動物のDNAを担持したウイルス;Z−DNAである。
【0019】
核酸(RNA):
RNAは、DNAにコードされた情報の転写産物である。(時には(あるウイルスでは)RNAが実質上の情報コード化単位である)。遺伝子発現の中間体である他に、RNAは、いくつかの生物学的機能を有することが示されている。リボザイムは触媒作用を有する単純なRNA分子である。これらのRNAは、DNAおよびRNAの開裂および結さつを触媒し、ペプチドを加水分解することができ、RNAのペプチドへの翻訳の中核である(リボソームはリボザイムである)。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有するRNA分子の典型的な例は、アセチル化されたトランスファーRNA(活性化tRNA、チャージドtRNA);環状RNA;線状RNA;哺乳動物のヘテロ核RNA(hnRNA)、哺乳動物のメッセンジャーRNA(mRNA);哺乳動物のRNA;哺乳動物のリボソームRNA(rRNA);哺乳動物のトランスポートRNA(tRNA);mRNA;ポリアデニル化RNA;リボソームRNA(rRNA);組換えRNA;哺乳動物のRNAを担持したレトロポゾン;リボザイム;トランスポートRNA(tRNA);哺乳動物のRNAを担持したウイルスである。
【0020】
受容体;
受容体は、シグナル(例えばホルモン・リガンドおよび増殖因子)と結合し、細胞膜越しに細胞の内部機構にシグナルを伝達する細胞表面生体分子である。異なる受容体は異なって「配線(wired)」されており、同じリガンドであっても異なる細胞内応答を強いる。これによって細胞は、それらの表面の受容体のパターンを変化させることによって外部シグナルに差別的に反応することができる。受容体は一般に、それらのリガンドと可逆的に結合する。受容体が組織内へ放出する増殖因子の担体として適当なのはこのためである。したがって、インプラントを増殖因子受容体でコーティングし、次いでこれらの受容体にそれらの主要なリガンドをロードすることによって、埋込み後に周囲の組織へ増殖因子を制御された方法で放出するのに使用することができる生物活性表面が得られる。金属水素化物でコーティングされたインプラント上の生物活性コーティングとして使用される可能性を有する適当な受容体の例には、CDクラスの受容体CD;EGF受容体;FGF受容体;フィブロネクチン受容体(VLA−5);増殖因子受容体、IGF結合タンパク質(IGFBP1から4);(VLA1〜4を含む)インテグリン;ラミニン受容体;PDGF受容体;トランスフォーミング増殖因子αおよびβ受容体;BMP受容体;ファス;脈管内皮増殖因子受容体(Fit−1);ビトロネクチン受容体が含まれる。
【0021】
合成生体分子
合成生体分子は、天然に生じる生体分子(の模倣)に基づく分子である。このような分子を合成することによって、分子を安定化し、あるいは分子をより生物活性化または特異化することができる化学的および構造的な幅広い修飾を導入することができる。したがって分子が不安定であるか、または非特異的であるために抽出物から使用できない場合には、それらを設計および合成して、インプラントの表面コーティングとして使用することができる。さらに、多くの生体分子は豊富には存在しないので、産業規模での抽出は不可能である。このような希少な生体分子は、例えば組換え技術または(生)化学によって合成しなければならない。インプラント・コーティングとして潜在的に有用ないくつかの合成分子クラスを以下に示す。
【0022】
合成DNA:
A−DNA;アンチセンスDNA;B−DNA;相補DNA(cDNA);化学的に修飾されたDNA;化学的に安定化されたDNA;DNA;DNA類似体;DNAオリゴマー;DNAポリマー;DNA−RNAハイブリッド;二本鎖DNA(dsDHA);半メチル化DNA;メチル化DNA;一本鎖DNA(ssDNA);組換えDNA;三重式DNA(triplex DNA);T−DNA;Z−DNA。
【0023】
合成RNA:
アンチセンスRNA;化学的に修飾されたRNA;化学的に安定化されたRNA;ヘテロ核RNA(hnRNA);メッセンジャーRNA(mRNA);リボザイム;RNA;RNA類似体;RNA−DNAハイブリッド;RNAオリゴマー;RNAポリマー;リボソームRNA(rRNA);トランスポートRNA(tRNA)。
【0024】
合成バイオポリマー:
カチオン性およびアニオン性リポソーム;酢酸セルロース;ヒアルロン酸;ポリ乳酸;アルギン酸ポリグリコール;ポリグリコール酸;ポリプロリン;多糖類。
【0025】
合成ペプチド;
DOPAおよび/またはdiDOPAを含むデカペプチド;配列「Ala Lys Pro Ser Tyr Pro Pro Thr Tyr Lys」を有するペプチド;Proがヒドロキシプロリンで置換されたペプチド;1つまたは複数のProがDOPAで置換されたペプチド;1つまたは複数のProがdiDOPAで置換されたペプチド;1つまたは複数のTyrがDOPAで置換されたペプチド;ペプチド・ホルモン;上に挙げた抽出タンパク質に基づくペプチド配列;RGD(Arg Gly Asp)モチーフを含むペプチド。
【0026】
組換えタンパク質:
組換え技術によって調製された全てのペプチドおよびタンパク質。
【0027】
合成酵素阻害剤:
合成酵素阻害剤は、酵素に直接に結合することによって酵素活性をブロックするある種の金属イオンのような単純な分子から、酵素の天然の基質をまね、したがって主な基質と競合する合成分子までにわたる。酵素阻害剤を含むインプラント・コーティングは、コーティングの中に存在する他の生体分子の安定化を助け、これらの分子の分解を妨げることができ、そのため、より長い反応時間および/または生体活性化合物のより高い濃度が達成される。酵素阻害剤の例は、ペプスタチン;ポリプロリン;D−糖;D−アミノ酸;シアン化物;フルオロリン酸ジイソプロピル(DFP);金属イオン;N−トシル−1−フェニルアラニンクロロメチルケトン(TPCK);フィゾスチグミン;パラチオン;ペニシリンである。
【0028】
水素化物中に組み込まれる(合成または抽出)ビタミン:
ビオチン;カルシフェロール(ビタミンD類;骨鉱化に不可欠);シトリン;葉酸;ナイアシン;ニコチンアミド;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD、NAD+);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP、NADPH);レチノイン酸(ビタミンA);リボフラビン;ビタミンB類;ビタミンC(コラーゲン合成に不可欠);ビタミンE;ビタミンK類。
【0029】
水素化物中に組み込まれる他の生物活性分子:
アデノシン二リン酸(ADP);アデノシン一リン酸(AMP);アデノシン三リン酸(ATP);アミノ酸;サイクリックAMP(cAMP);3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA);5′−ジ(ジヒドロキシフェニル−L−アラニン(diDOPA);diDOPAキノン;DOPA様o−ジフェノール類;脂肪酸;グルコース;ヒドロキシプロリン;ヌクレオシド;ヌクレオチド(RNAおよびDNAのベース);プロスタグランジン;糖類;スフィンゴシン1−リン酸;ラパマイシン;エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン類似体などの合成性ホルモン、例えばタモキシフェン(Tamoxifene);ラロキシフェン(Raloxifene)などのエストロゲン受容体モジュレータ(SERM);アレンドロナート、リセンドロナート、エチドロナートなどのビス−ホスホナート;セリバスタチン(cerivastatin)、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン(fluvastatin)、アトルバスタチン(atorvastatin)、3,5−ジヒドロキシ−7−[3−(4−フルオロフェニル)−1−(メチルエチル)−1H−インドール−2−イル]−ヘプト−6−エン酸ナトリウムなどの染料。
【0030】
水素化物コーティングに組み込まれる薬物:
水素化物層に組み込んだ薬物を、侵入微生物に対する局所抵抗性、局所的なペイン・コントロール、プロスタグランジン合成の局所阻害;局所炎症調節、バイオミネラリゼーションの局所誘導および組織成長の局所刺激の向上のような局所効果に利用することができる。金属水素化物層への組込みに適した薬物の例には、抗生物質;シクロキシゲナーゼ阻害剤;ホルモン;炎症抑制剤;NSAID;鎮痛剤;プロスタグランジン合成阻害剤;ステロイド、テトラサイクリン(バイオミネラリゼーション作用薬)が含まれる。
【0031】
水素化物コーティングに組み込まれる生物学的に活性なイオン:
イオンは生物学的機構の多様性において重要である。インプラント上の金属水素化物層に生物学的に活性なイオンを組み込むことによって、酵素機能、酵素ブロッキング、生体分子の細胞取込み、特定の細胞のホーミング、バイオミナラリゼーション、アポトーシス、生体分子の細胞分泌、細胞代謝および細胞防御のような生物学的プロセスを局所的に刺激することができる。金属水素化物に組み込まれる生物活性イオンの例には、カルシウム;クロム;銅;フッ化物;金;ヨウ化物;鉄;カリウム;マグネシウム;マンガン;セレン;銀;ナトリウム;亜鉛が含まれる。
【0032】
マーカー生体分子:
生物学的マーカーは、例えば、特定の機器または顕微鏡法、あるいはX線、磁気共鳴のような画像化法によって検出することができる発光、酵素活性、放射能、特定の色、磁気、X線密度、特定の構造、抗原性などによって検出可能なシグナルを生成する分子である。マーカーは、新しい生物医学的治療戦略の研究開発において生物学的プロセスを監視するのに使用される。インプラント上で、このようなマーカーは一般に、生体適合性、組織の形成、組織の新生、バイオミネラリゼーション、炎症、感染、再生、修復、組織ホメオスタシス、組織の分解、組織の交代、インプラント表面からの生体分子の放出、放出された生体分子の生物活性、インプラント表面から放出された核酸の取込みおよび発現、ならびにインプラント表面の抗生能力のようなプロセスを監視して、臨床研究の前に「原理の照明」、効果、効能および安全性確認を提供するのに使用されると考えられる。
【0033】
水素化物コーティングへの組込みに適したマーカー生体分子には、カルセイン;アリザリンレッド;テトラサイクリン;フルオレセイン;フラ;ルシフェラーゼ;アルカリフォスファターゼ;放射標識されたアミノ酸(例えば32P、33P、3H、35S、14C、125I、52Cr、45Caで標識する);放射標識されたヌクレオチド(例えば32P、33P、3H、35S、14Cで標識する);放射標識されたペプチドおよびタンパク質;放射標識されたDNAおよびRNA;免疫金複合体(immuno−gold complex)(抗体を付着させた金粒子);免疫銀複合体;免疫磁鉄鉱複合体;緑色蛍光タンパク質(GFP);赤色蛍光タンパク質(E5);ビオチニル化されたタンパク質およびペプチド;ビオチニル化された核酸;ビオチニル化された抗体;ビオチニル化された炭素−リンカー;リポータ遺伝子(発現したときにシグナルを生成する任意の遺伝子);ヨウ化プロピジウム;ジアミジノイエローが含まれる。
【0034】
本発明に基づく装置またはインプラントはいくつかの目的に使用することができる。このような目的の例には、埋込み部位での局所的な硬組織(例えば骨組織)形成の誘導;埋込み部位または全身の微生物成長および/または侵入の制御;埋込み部位または全身の炎症の低減;靱帯の修復、再生または形成の刺激;軟骨形成の誘導;バイオミネラリゼーションの核形成、制御および/またはテンプレーティング;インプラントと組織の間の付着性の向上;インプラントのオセオインテグレーション(osseointegration)の向上;インプラントへの組織付着の向上;(半永久的なまたは一時的な)インプラントへの組織付着の防止;組織間の接触または組織とインプラントの間の接触の向上、(外科的な)創傷の組織密封の向上;不要な細胞(例えば癌細胞)でのアポトーシス(細胞死)の誘導;特定の細胞分化および/または成熟の誘導、組織抗張力の増大;創傷癒合の向上;創傷癒合のスピードアップ化;組織形成のテンプレーティング;組織形成の誘導;局所遺伝子治療;神経成長の刺激;インプラントに隣接した組織での血管新生の向上;局所的な細胞外基質合成の刺激;局所的な細胞外基質分解の抑制;局所的な増殖因子放出の誘導;局所的な組織代謝の増大;組織または体部分の機能の向上;局所的な痛みおよび不快感の低減に対する使用が含まれる。目的は、インプラントのタイプならびにインプラント上の水素化物層に存在する生体分子の性質および/または濃度によって決まる。
【0035】
金属材料(A)がチタン、ジルコニウム、タンタル、ハフニウムまたはニオブの合金であるとき、金属材料は、これらの金属元素のうちの1種またはそれ以上の元素間の合金とすることができ、あるいはアルミニウム、バナジウム、クロム、コバルト、マグネシウム、鉄、金、銀、銅、水銀、スズ、亜鉛などの1種またはそれ以上の他の金属を含む合金とすることができ、あるいはその両方とすることができる。
【0036】
金属材料(A)がチタンまたはその合金、例えばジルコニウム、タンタル、ハフニウム、ニオブ、アルミニウム、バナジウム、クロム、コバルト、マグネシウム、鉄、金、銀、銅、水銀、スズまたは亜鉛との合金であることが好ましい。特に好ましい実施形態では金属材料(A)がチタンである。
【0037】
対応する水素化物材料(B)は水素化チタンであることが好ましい。
【0038】
プロテーゼ、装置またはインプラントの水素化物でコーティングされた部分の水素化物層(B)の表面または内部に存在する生体分子物質(C)の量は、例えば1種またはそれ以上の問題の生体分子物質の化学的および生物学的特徴に応じて、幅広い範囲の中で変化させることができる。したがって、水素化物材料(B)に結合する生体分子物質(C)は、水素化物でコーティングされた装置またはインプラントの表面1mm2あたり1ピコグラムから1mgの範囲の量で存在することができる。しかし、最も有用な生体分子コーティングの範囲は、0.1ナノグラム/mm2から100マイクログラム/mm2であると考えられる。
【0039】
先に指摘したとおり、本発明の方法は、金属材料(A)の表面部分を電解処理にかけて、水素化物層(B)を形成することを含み、前記処理は、先に論じた1種またはそれ以上の生体分子物質の存在下で実施される。電解液の条件(pH、イオン強度など)が、生体分子が正味の正電荷を持つような条件であることが重要であることが分かった。したがって、大部分の生体分子が両性電解質であること、すなわち大部分の生体分子が、自体が溶解した溶液のイオン強度およびpHに従って自体の正味の電荷が変化する弱酸(または塩基)であることが有利である。したがって、水素化物層に生体分子を組込む際の主な関心は、生体分子−水素化物調製に必要な条件、すなわち水素化物調製に十分な量のH+イオンを供給し、同時に、問題の生体分子の正味の電荷を正に維持する環境下での生体分子の安定性である。これは主に、電解液が高い塩類濃度、したがって高いイオン強度を有し;比較的に高い温度および低いpHを有していなければならないことを意味する。ただし電解液の温度は生体分子物質のどの変性温度よりも低いことが好ましい。
【0040】
したがって電解液は、所望の生体分子を溶解させた任意の塩類溶液、好ましくは水性塩類溶液、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム溶液、リン酸緩衝食塩水(PBS)、食塩水、生理的条件をまねた塩類溶液、重炭酸塩、炭酸塩溶液などとすることができる。塩のイオン強度は一般に1Mであるが、濃度は、生体分子の化学的特性および濃度に従って0.01Mおよび10Mに調整することができる。
【0041】
生体分子を含む電解液の温度は、周囲温度(20℃)から一般に約100℃である電解液の沸点までの範囲で変化させることができるが、この範囲の比較的に高い温度を使用できるかどうかは、明らかに、生体分子が損傷を受けることなくこのような温度に耐えることができるかどうかに依存する。生体分子がその温度に耐えることができる場合、水素化物形成の最適温度は約80℃である。
【0042】
電解液のpHは一般に、強酸、例えばHCl、HF、H2SO4などによって所望のpHに調整されるが、2よりも低いpHは、チタン上に腐食した不規則なインプラント表面を生み出し、一方、2よりも高いpHは本来の表面を維持することを考慮すべきである。pHは、所望の水素化物/生体分子比に従って調整される。低いpHは、高い水素化物/生体分子比(=金属水素化物が多い)を有するインプラント表面を生み出し、一方、問題の生体分子のpIに近い高いpHは、低い水素化物/生体分子比(=生体分子が多い)を有する表面を生み出す。したがって、0から10の間の任意のpHを使用することができるが、水素化物調製に好ましいpHは、生体分子の化学的特徴および濃度、使用する電解液、ならびに好ましい水素化物/生体分子比に応じ、5から2の間にある。より高い水素化物/生体分子比(=水素化物が多い)のためには、pHをより酸性に調整し、より低い水素化物/生体分子比(=生体分子が多い)のためには、pHを生体分子のpI値pIBIOMOLECULEに近い値に調整する。ただしpIBIOMOLECULEを超えてはならない。唯一の要件は、電解液中に、水素イオン(H+)および正に帯電した生体分子(Biomolecule+、正味電荷)が存在することである。
【0043】
電解液中の生体分子(1種または任意の2種以上の組合せ)の濃度は、生物活性のタイプ、分子のタイプ、化学的および生物学的特徴、毒性、効力、作用機序、水素化物層から放出されるかどうか、in vivoでの安定性、電解液中での安定性、使用可能性、最適pHなどに応じて、非常に広い範囲にわたって変化させることができる。したがって電解液中の生体分子の濃度は、1ミリリットルあたり1pgから50mgの範囲とすることができる。好ましい範囲は、1ミリリットルあたり10pgから1mgの間であるが、生体分子の最適濃度は常に、それぞれの生体分子または生体分子混合物を用いたパイロット実験で最終的に決定しなければならない。さらに、電解を持続する時間は変更することができるが、これは主に水素化物層の厚さ、したがって水素化物層中の生体分子の濃度に影響を与える。
【0044】
本発明の方法で使用する電解槽は、従来の任意の設計の電解槽とすることができるが、一般的には電解液の他に室間に導電性接続のない2室式電解槽である。水素化物で修飾する金属インプラントを、陰極(すなわち負に帯電した電極)室に置き、一方、一般に炭素から作られた陽極(正に帯電した電極)は別の室に配置される。それぞれの室の電解液は、多孔質ガラスまたは磁気フィルタを介して連絡されており、これによって電流が妨害されずに流れることができる。ただし2つの室間に電解液の交換はない。陽極反応の生成物、例えば塩化物、次亜塩素酸塩などは生体分子−水素化物層の形成を潜在的に妨害し、あるいは陰極電解液中の生体分子を破壊しまたは修飾する恐れがあるので、このことは重要である。2つの室を分離することによってさらに、より小さな陰極電解液容積の使用、したがって、生体分子のより効果的な使用が可能となり、さらに、電解プロセスの最適化を可能にする2電解液系、例えば陰極側の生体分子に最適の1つの電解液と、電解自体の効力(導電率、有毒な生成物の回避、または有用な副生物/コーティングの生成)に対して最適な陽極側の電解液の使用が可能になる。
【0045】
先に指摘したとおり、陰極室内の温度(Tcat)はできる限り高くなければならない。水素化物調製のための最適温度は80℃である。
【0046】
電解プロセス自体も熱を生み出し、これが2つの問題を生じさせる可能性がある。電解液の成分が蒸発し、そのために体積が低下し、生体分子のイオン強度および濃度が好ましい範囲を越えて増大し、温度の上昇は、存在する生体分子の沈殿、凝固、変性、分解または破壊を引き起こす可能性がある。したがって、電解槽の陰極区画は、蒸発した電解液を凝縮させるための冷却されたふたを備え、電解中の温度および体積を安定させるために温度調節されたラジエータ・シェルを備えることが好ましい。
【0047】
電流、電荷および電解質組成を調整することによって、大部分の生体分子に好都合な正電荷環境を提供することもできる。そうでない場合には、生体分子−水素化物層の調製の間、制御されたサイクルで電極の極性が切り替わるパルス・フィールド電解設定が、負の正味電荷問題を省略する1つの方法となりうる。
【0048】
電源は一般にいわゆる電流ポンプ、すなわち回路内の抵抗が変化したとしても一定の電流を送達する装置である。0.1から1000ボルトの間の電圧を使用することができるが、電圧は一般に10ボルト未満である。電解中の電流密度は一般に、インプラント標本1平方センチメートル(cm2)あたり0.1mAから1Aである。好ましい電荷密度は1mA/cm2だが、生体分子の適合性を増大させるために電解液、pHおよび温度を調整するときには、この値からの多少の逸脱が可能である。
【0049】
プロセスの持続時間は、生体分子−水素化物層の所望の厚さ、電解液の組成および特性、生体分子の特性、温度およびpH、所望の水素化物/生体分子比、インプラント標本のサイズ、陰極電解液の容積、生体分子の濃度などのいくつかのパラメータによって決まる。したがって、プロセスの持続時間は0.5時間から数日にわたる可能性がある。しかし、最適な持続時間は一般に8時間から24時間である。
【0050】
生体分子−水素化物プロセスを監視するため、一般に、陰極室にカロメル電極を配置することができる。陰極での水素化物層形成プロセスが最適であるときには、カロメル電極と陰極の間に−1ボルトの差が観察される。電流がこの値とは大きく異なる場合には、プロセスは最適でない条件下で実行されており、設定の変更を考慮しなけばならない。さらに、プロセスが所望のpHおよび温度範囲の中で実行されていることを監視するため一般に、温度プローブおよびpHプローブを陰極室に配置することができる。さらに、電解液を絶え間なく混合し、温度を均一に保ち、局所的なイオン強度、pHおよび生体分子濃度の変動を回避するために、マグネチック・スターラなどの攪拌装置を陰極室に適用することができる。
【0051】
電解段階の後、生体分子/水素化物でコーティングされた金属装置またはインプラントを電解液からすぐに取り出し、問題の生体分子の要件に従って処理する。一般に、装置またはインプラント標本は空気乾燥し、次いで滅菌された気密プラスチック袋に詰め、埋込みに使用するまでその中で保管する。しかし、いくつかの生体分子は乾燥に敏感である可能性があり、その場合には、例えば缶詰、または食塩水または単純に製造プロセスからの電解液のような液体の中で貯蔵のように湿式の貯蔵方式が望ましいことがある。電解は無菌または滅菌条件下で実行することができるが、使用前に、イオン化放射線、加熱、加圧減菌、エチレンオキシドガスなどの従来の方法を使用した滅菌段階を含めることによって、これを実施する必要性を回避することができる。方法の選択は、金属水素化物層に存在する生体分子の特定の特徴および特性によって決まる。
【0052】
電解処理の前に、装置またはインプラントを十分にきれいにしなければならない。これは一般に、電解研摩またはサンドブラストによってインプラントを機械的に前処理して必要に応じて表面構造を修飾し、その後に熱苛性ソーダ、続いて例えば濃トリクロロエチレン、エタノールまたはメタノール中での脱脂段階によって十分にきれいにし、その後に、酸洗い液、例えばフッ化水素酸中で処理して表面の酸化物および不純物を除去することから成る。酸洗いの後、インプラント標本を2度蒸留した熱イオン交換水中で十分に洗浄する。
【0053】
以下の非限定的な実施例によって本発明をさらに説明する。実施例1〜4は実際に実施された実験を記載したものであり、実施例5〜11は企図されている作業例を示したものである。
【実施例】
【0054】
実施例1
細胞外基質タンパク質を含む水素化チタン・インプラント表面層の調製
2室式電解槽を使用して、電解研磨したコイン形の5つのチタン・インプラント上に、細胞外基質分子アメロゲニンを含む水素化チタンの層を調製した。電解液に曝露されるそれぞれのチタン・インプラントの表面積は0.6cm2である。電解液室には入れるが電解電流へは接続しない同様の5つのアイテムを対照として使用した。両室内の電解液はともに、滅菌水に溶解し、HClを使用してpH4に調整した1M NaClであり、アメロゲニンの初期濃度は0.1mg/mlであった。電解では、電圧10ボルト、電荷密度1mA/cm2を使用した。陰極室の温度は70℃にセットした。電解は18時間続け、その後、チタン・インプラントを電解槽から取り出し、滅菌水中で洗浄し、デシケータの中で空気乾燥させた。
【0055】
乾燥後、試験および対照チタン標本を、pH6.5の食塩水1ml中でそれぞれ3回、洗浄した。洗浄後、2×SDS−PAGEサンプル緩衝液(SDS0.4g、2−メルカプトエタノール1.0g、ブロモフェノールブルー0.02gおよびグリセリン4.4gを0.125Mトリス/HCl10mlに溶解したもの。pH6.8)0.5ml中でチタン標本を煮沸することによって、チタン表面に残ったタンパク質を溶解した。その中にタンパク質を含んでいる可能性がある洗浄液および2×SDS−PAGEサンプル緩衝液を、等量の0.6N過塩素酸で沈殿させ、上澄みが透明になるまで遠心分離にかけた。次いで、塩および可能な有機分子を含む沈殿ペレットを、2×SDS−PAGEサンプル緩衝液50μlに溶解し、5分間、煮沸した。次いで、全てのサンプルを、12%SDS−ポリアクリルアミドゲル上で80mAの電気泳動に一晩かけた。電気泳動の後、ゲル中のタンパク質を、半乾燥「サンドイッチ」エレクトロブロッティング技法によってポリ(ビニリデンジフルオリド)膜上に移した。次いで、ウサギ・アメロゲニン特異性一次IgG抗体およびビオチン標識ヤギ抗ウサギIgG二次抗体を使用した免疫検定によってアメロゲニン・タンパク質を検出した。このウエスタン・ブロットによれば、試験標本からの抽出物中にはかなりの量のアメロゲニンが存在し、したがってその表面の水素化チタン層にアメロゲニンが捕捉されており、一方、電解電流に接続しなかった対照標本の抽出物中にはアメロゲニンは検出されなかった。
【0056】
この実験は、電解プロセス中にかなりの量のアメロゲニンが水素化物層に取り込まれたことを明確に示している。最初の洗浄液中にはアメロゲニン・タンパク質の痕跡は見られなかったので、アメロゲニン・タンパク質は単なるコーティングとして存在しているわけではなかった。強力な洗浄剤(SDS)、還元剤(メルカプトエタノール)および高温(100℃)の組合せによって始めて、水素化チタン表面層からアメロゲニンを抽出し、ウエスタン・ブロットによって検出することができた。抽出されたタンパク質の量は、アメロゲニン標準との比較によって50μg/cm2と計算された。この数字は、この細胞外基質タンパク質の生物活性の範囲に十分に含まれる。
【0057】
実施例2
アメロゲニン含有水素化チタン・インプラント表面層の生成
実施例1の設定を使用して、電解研磨したチタン・インプラント上に、細胞外基質分子アメロゲニンを含む水素化チタンの層を生成した。電解液に曝露される表面積は0.35cm2である。両室の電解液はともに、滅菌水に溶解し、HClを使用してpH4に調整した1M NaClであり、アメロゲニンの初期濃度は0.1mg/mlであった。電解では、電圧10ボルト、電荷密度1mA/cm2を使用した。Tcatは70℃にセットした。電解を18時間続け、その後、チタン・インプラントを電解槽から取り出し、滅菌水中で洗浄し、デシケータの中で空気乾燥させた。
【0058】
乾燥後、チタン標本を、pH6.5の食塩水1ml中で3回、洗浄した。洗浄後、2×SDSサンプル緩衝液(SDS0.4g、2−メルカプトエタノール1.0gをpH6.8の0.125Mトリス/HCl10mlに溶解したもの。pH6.8)0.1ml中でチタン標本を5分間煮沸することによって、チタン表面に残ったタンパク質を溶解した。次いで、洗浄したチタン表面からSDS溶液中に溶解したアメロゲニンの量を、2×SDSサンプル緩衝液ブランクに対する280および310nmの吸光度を測定し、その結果を、2×SDSサンプル緩衝液中のアメロゲニンの標準希釈系列と比較する標準測光によって分析した。実験は、16連のインプラントで2回繰り返し、両回とも、全プロセスの間、反応室の中には存在するが陰極には接続されていない全く同じチタン・インプラントの形態の5つの負の内部対照を使用した。
【0059】
この実験は、電解プロセス中にかなりの量のアメロゲニンが水素化物層に取り込まれたことを明確に示している。洗浄液中にはアメロゲニン・タンパク質の痕跡は見られないので、アメロゲニン・タンパク質は単なるコーティングとして存在するわけではなかった。強力な洗浄剤(SDS)、還元剤(メルカプトエタノール)および高温(100℃)の組合せによって始めて、水素化チタンの表面層からアメロゲニンを抽出することができた。抽出されたタンパク質の量は、アメロゲニン標準との比較によって、57から114μg/cm2と計算され、平均値は1cm2あたり87μgであった。この数字は、この細胞外基質タンパク質の生物活性の範囲に十分に含まれる。実験インプラントと同じ電解槽に存在していたが、陰極には接続されなかった全く同一の対照インプラントでは、表面に有意量のアメロゲニン・タンパク質の付着は示されなかった(<1μg/cm2)。
【0060】
実施例3
核酸含有水素化チタン・インプラント表面層の生成
実施例1の設定を使用して、放射標識された全ヒト胎盤DNAの形態の核酸を含んだ水素化チタン層を、電解研磨されたチタン・インプラント上に生成した。電解液に曝露される合計表面積は0.35cm2である。両室の電解液はともに、滅菌水に溶解した1M NaClであった。pHは、HClを使用してpH2に調整した。電解液中のDNAの初期濃度は10μg/mlであった。電解では、電圧10ボルト、電荷密度1mA/cm2、Tcat75℃を使用した。電解を16または24時間続け、その後、チタン標本を電解槽から取り出し、十分な量のトリス−EDTA緩衝液(TE緩衝液;滅菌水に溶解した10mmトリス−Cl、1mm EDTA溶液。pH7.6)中で3回洗浄し、デシケータの中で一晩、空気乾燥させた。
【0061】
DNAは、高比活性プローブを生み出すStratagene Prime−It(登録商標)Random Primer Labeling Kitおよび[α−32P]dATP(Amersham)を使用して放射標識した。DNAの標識付けの後、DNAプローブの比放射能をPackard Tricarb(登録商標)シンチレーション・カウンタで測定し、標識されたDNA1マイクログラムあたり3.0×108の毎分崩壊数(dpm/μg)を得た。
【0062】
乾燥後、試験核酸が付着したチタン標本を蛍光スクリーン(Fujii(登録商標))上に15分間置いた。次いで標本を除去し、それぞれのインプラントの表面で起こった崩壊の数を100μm格子(インプラントあたり12265点)を使用して測定するBioRad(登録商標)蛍光体画像化機で蛍光スクリーンを走査した。実験は、16連のインプラントで2回繰り返し、両回とも、全プロセスの間、反応室の中には存在するが陰極には接続されていない全く同じチタン・インプラントの形態の5つの負の内部対照を使用した。最初の連の反応時間は24時間、第2の連では16時間であった。インプラントあたりのdpmの総数を計算し、1平方センチメートル当たりのDNAμg(μgDNA/cm2)に変換した。
【0063】
反応時間が24時間のとき、インプラント上に存在するDNAの量は、0.25から0.75μm/cm2の間にあり、平均値は0.43μm/cm2であった。反応時間を16時間まで短縮すると、それぞれの値は0.19から0.32μm/cm2の間、平均値は0.30μm/cm2となった。この数字は、遺伝子治療およびDNAワクチン、ならびに他の分子医学応用に適用可能な範囲に含まれる。実験インプラントと同じ電解槽に存在していたが、陰極には接続されなかった全く同一の対照インプラントでは、表面に付着したDNAは非常にわずかな量(ピコグラム程度)であった。
【0064】
この実験は、電解プロセスの間にかなりの量のDNAが水素化物層に取り込まれたことを明確に示している。TEで洗浄中にDNAは溶解されず、または試験インプラントから洗浄されなかったので、DNAは、単なるコーティングとして存在するわけではなかった。さらに、水素化チタン表面層に組み込まれたDNAの量が反応時間とともに直線的に増大したことは、反応時間を調整することが、水素化物層中の生体分子の量を制御する簡単な方法であることを示している。
【0065】
実施例4
アスコルビン酸を含む水素化チタン・インプラント表面層の調製
実施例1の設定を使用して、電解研磨したコイン形のチタン・インプラント上に、アスコルビン酸(ビタミンC)を含む水素化チタンの層を調製した。電解液に曝露される合計表面積は0.35cm2である。両室の電解液はともに、リン酸によってpH3に調整した食塩水である。アスコルビン酸の初期濃度は10mg/mlであった。電圧6ボルト、電流密度2mA/cm2、陰極室温20℃の電解を使用した。電解を16時間続け、その後、チタン・インプラントを電解槽から取り出し、滅菌水中で2回洗浄し、デシケータの中で乾燥させた。
【0066】
一晩乾燥させた後、pH8.0のトリス−EDTA緩衝液(TE緩衝液;滅菌水に溶解した10mmトリス−Cl、1mm EDTA溶液)1mlの中に標本を振盪しながら1時間沈めることによって、チタン標本から試験アスコルビン酸を溶解した。次いで、緩衝液サンプル中のアスコルビン酸の量を、250nmの光吸収を測定し、その結果を、pH8.0のTE中でのこの波長でのアスコルビン酸の標準曲線と比較することによって分析した。実験インプラントと同じ電解槽の中に存在するが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを対照として使用することができる。実験は、16連のインプラントで2回繰り返し、両回とも5つの負の内部対照を使用した。
【0067】
アスコルビン酸標準と比較することによって、チタン標本から抽出されたアスコルビン酸の量は、28から76μg/cm2であり、平均値は39μg/cm2であると計算された。この数字は、このビタミンの生物活性範囲の中に十分に含まれる(ヒトの正常血漿濃度は8〜15μg/mlである)。実験インプラントと同じ電解槽に存在していたが、陰極には接続されなかった全く同一の内部対照標本では、表面に付着したアスコルビン酸の量は非常にわずかであった(<4μg/cm2)。この実験は、電解プロセスの間に、生物学的に有意な量のアスコルビン酸を水素化チタン層に組み込みまたは付着させることができることを明確に示している。
【0068】
実施例5
増殖因子ベースの合成ペプチドを含む水素化チタン・インプラント表面層の調製
実施例1の設定を使用して、フルレングス(37アミノ酸)の合成線維芽細胞増殖因子4(FGF−4)ペプチドを含む水素化チタンの層を、電解研磨されたコイン形のチタン・インプラント上に調製することができる。電解液に曝露される合計表面積は0.6cm2である。電解液、pH、電圧、電流密度および電解時間は実施例1と同様とすることが適当である。FGF−4の初期濃度は0.1mg/mlとし、陰極室温度は50℃とすることが適当である。
【0069】
実施例1と同様の食塩水および2×SDS−PAGE緩衝液中での洗浄、沈殿、遠心分離、SDS−PAGEへの再溶解、煮沸および電気泳動の後、ゲル中のタンパク質を銀染色液に移し、存在するフルレングス合成FGF−4ペプチドを、ゲル中の異なったバンドとして視覚化する。実験インプラントと同じ電解槽に組み込まれているが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを、対照として使用することができる。
【0070】
実施例6
抗生物質を含む水素化チタン・インプラント表面層の調製
実施例1の設定を使用して、抗生物質アモキシシリン(アミノペニシリニウム(aminopenicillinium))を含む水素化チタンの層を、電解研磨されたコイン形のチタン・インプラント上に調製する。電解液に曝露される表面積は0.6cm2である。両室の電解液はともに、滅菌水に溶解し、HClでpH2に調整した1M NaClであることが適当であり、アモキシシリンの初期濃度は5mg/mlであることが適当である。電解では、電圧10ボルト、電荷密度1mA/cm2、および陰極室温度50℃を使用する。適当には、電解を24時間続け、その後に、電解槽からチタン・インプラントを取り出し、滅菌水で洗浄し、デシケータ中で乾燥させる。
【0071】
乾燥後、チタン・インプラント上の水素化物層に捕捉されたアモキシシリンの量を、培養液中でのペニシリン感受性細菌大腸菌(E.coli)、K12株に対するその抗菌効果によって評価する。培養液にLBブロス5ml中のE.coli K12の1つのコロニーを接種するのが適当である。接種後、修飾されたインプラントおよび対照を培養液に入れ、37℃で一晩インキュベートする。次の日、培養液中に存在する細菌の量を測光および標準希釈との比較によって評価する。実験インプラントと同じ電解槽の中に存在するが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを対照として使用することができる。
【0072】
実施例7
バイオミネラル誘導性水素化チタン・インプラント表面層の調製
実施例1の設定を使用して、リン酸カルシウム飽和溶液中でのミネラル形成の生物学的核形成促進剤として作用する潜在性を有する合成ポリプロリン・ペプチドを含む水素化チタンの層を調製する。この生体分子を、電解研磨されたコイン形のチタン・インプラントの表面の水素化物層に取り込ませる。電解液に曝露される合計面積は0.6cm2である。両室の電解液はともに、滅菌水に溶解し、HClでpH2に調整した1M NaClとし、合成ポリプロリンの初期濃度は0.1mg/mlとするのが適当である。電解では、電圧10ボルト、電荷密度1mA/cm2、および陰極室温度70℃を使用する。適当には、電解を18時間続け、その後に、電解槽からチタン・インプラントを取り出し、滅菌水で洗浄し、乾性にデシケータ中で空気乾燥させる。
【0073】
乾燥後、試験鉱物核形成ペプチドを付着させたチタン・インプラントおよび対照を、リン酸カルシウム飽和溶液5mlに入れる。室温で4時間インキュベートした後、インプラントを鉱液から取り出し、滅菌水中で洗浄し、デシケータ中で空気乾燥する。乾燥したら、インプラントを直接に走査型電子顕微鏡法にかけて、修飾された表面に存在する鉱物焦点の数を評価する。実験インプラントと同じ電解槽の中に存在するが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを対照として使用することができる。
【0074】
実施例8
膨張(空間充てん)生体分子−水素化チタン・インプラント表面層の調製
実施例1の設定を使用して、アルギン酸Caナノスフェア(Pronova AS)を含む水素化チタンの層を、電解研磨されたコイン形のチタン・インプラント上に調製する。電解液に曝露される合計面積は0.6cm2である。両室の電解液はともに、滅菌水に溶解し、HClでpH5.5に調整した1M CaCl2とし、アルギン酸Caの初期濃度は1%(w/v)とすることが適当である。電解では、電圧10ボルト、電荷密度1mA/cm2、および陰極室温度35℃を使用する。適当には、電解を48時間続け、その後に、電解槽からチタン・インプラントを取り出し、冷滅菌水で洗浄し、デシケータ中で空気乾燥させる。
【0075】
乾燥後、適当には、水素化物−アルギン酸塩層を有するチタン・インプラントを、ブロモフェノールブルー(0.02g/ml)で染色された滅菌食塩水に沈め、修飾された表面を溶液に向けて37℃で1時間インキュベートする。染色された食塩水でのインキュベーションの後、インプラントおよび対照を蒸留水中で洗浄し、試験的な膨張したアルギン酸塩層による青色染料の保持を拡大鏡で観察する。さらに、較正された光学顕微鏡でインプラントの縁を見ることによってアルギン酸塩層の厚さを評価する。実験的インプラントと同じ電解槽の中に存在するが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを対照として使用することができる。
【0076】
実施例9
二重層生体分子−水素化チタン・インプラント表面の調製
実施例1の設定を使用して、電解研磨されたコイン形のチタン・インプラントの表面に水素化チタンを含む生体分子の二重層を調製する。電解液に曝露される合計表面積は0.6cm2である。内層は、実施例1の方法に基づく生体分子としてアメロゲニンを使用して調製する。この手順の後、間に空気乾燥を挟むことなくすぐに、電解液および条件を、ゲノム・ヒトDNAを生体分子として使用する実施例3のそれに変更する。このようにして、水素化チタン−DNAの外層が水素化チタン−アメロゲニンの内層の上に重なったチタン・インプラントを調製する。電解の後、インプラントを電解槽から取り出し、滅菌水中で洗浄し、デシケータ中で空気乾燥する。
【0077】
乾燥後、適当には、試験核酸およびタンパク質が付着したチタン標本をトリス−EDTA緩衝液(TE緩衝液;滅菌水に溶解した10mmトリス−Cl、1mm EDTA溶液)中で3回洗浄する。それぞれの洗浄でpHを増大させ、最初はpH7.4で洗浄し、次いでpH7.6で洗浄し、最後にpH8.0で洗浄する。TE中での洗浄の後、チタン・インプラント上に残ったDNAおよびタンパク質を0.1N NaOHを使用して最終的に除去する。次いで洗浄画分を2つに分割する。一方の部分は核酸分析用であり、他方はタンパク質分析用である。DNA画分は、適当には、−20℃の等量の無水アルコールを用いて1時間、沈殿させ、次いで、4℃、13,000gの遠心分離によって上澄みを透明にする。次いで沈殿ペレットを、pH7.4のTE緩衝液50μlに溶解し、全ての4つの洗浄液からのDNAの量を、Hoechst染料(Boehringer Mannheim)を使用した蛍光分析によって評価する。
【0078】
適当には、タンパク質分析用の画分を、等量の0.6N過塩素酸を用いて沈殿させ、上澄みを遠心分離によって透明にする。次いで、塩およびタンパク質を含んでいる沈殿ペレットを、2×SDS−PAGEサンプル緩衝液(SDS0.4g、2−メルカプトエタノール1.0g、ブロモフェノールブルー0.02gおよびグリセリン4.4gを0.125Mトリス/HCI10mlに溶解したもの。pH6.8)50μlに溶解し、5分間煮沸する。次いで、全てのサンプルを、10%SDS−ポリアクリルアミドゲル上での80mA、4時間の電気泳動にかける。電気泳動の後、ゲル中のタンパク質を銀染色液へ移し、画分中に存在するアメロゲニンをゲル中の異なったバンドとして視覚化する。実験的インプラントと同じ電解槽の中に存在するが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを対照として使用することができる。
【0079】
実施例10
二重ゾーン生体分子−水素化チタン層インプラント表面の調製
実施例1の設定を使用して、水素化チタン層から成る2つの別個のゾーンを調製する。合計面積2cm2の電解研磨された棒状のチタン・インプラントを実施例3および6に従って処理した。まず最初に、実施例3の電解液の中にインプラントを、それぞれのインプラントの半分だけが電解液に沈むように入れた。実施例3の手順が完了した後、インプラントの向きを変えて、実施例6で使用したものと同様の新しい電解液の中に、それぞれのインプラントの未処置の半分が電解液に沈むように入れた。次いで、実施例6の手順および反応条件を実施し、その後、チタン標本を電解槽から取り出し、滅菌水中で洗浄し、デシケータ中で乾燥させた。
【0080】
電解の後、二重ゾーン・インプラントを中央で2つに切断する。水素化チタン−合成FGF−4ペプチド層を有する半分を、実施例2に基づく分析にかける。水素化チタン−アモキシシリン層を有するインプラントの他の半分を、実施例5に基づく細菌増殖検定で分析する。実験的インプラントと同じ電解槽の中に存在するが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを対照として使用することができる。
【0081】
実施例11
生体分子を含んだ骨誘導性(osteoinductive)水素化チタン・インプラント表面層の調製
実施例1と同様に調製したインプラント(水素化チタン−アメロゲニン)を、ウサギの脛骨の較正された骨欠損部に入れ、インプラントの下の骨髄への開窓が、骨形成細胞の修飾されたインプラント表面への移動を可能にすることを確保する。標準化され妥当性が確認されたモデル(Ronold and Ellingsen、European Society for Biomaterials Conference、Amsterdam、2000年10月)を使用して、手術後、およびその後、毎週、ウサギに、体重1kgあたり10mgの静脈内カルセイン(Sigma)注射を与える。修飾されたインプラントおよび対照インプラントの配置の4週間後、ウサギを死亡させ、脛骨を取り出し、4%ホルムアルデヒド中で固定し、骨および組み込まれたインプラント材料を通したグラウンド・セクション(ground Section)の調製のために埋め込む。実験的インプラントと同じ電解槽の中に存在するが陰極には接続されていない全く同じ対照インプラントを対照として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはその合金、ジルコニウムまたはその合金、タンタルまたはその合金、ハフニウムまたはその合金、ニオブまたはその合金、およびクロム−バナジウム合金から成るグループから選択された金属材料(A)を含み、金属材料(A)の表面部分が、水素化チタン、水素化ジルコニウム、水素化タンタル、水素化ハフニウム、水素化ニオブ、ならびに水素化(クロムおよび/またはバナジウム)から選択されたそれぞれの対応する水素化物材料(B)の層でコーティングされた医療用プロテーゼ装置または医療用インプラントであって、水素化物材料(B)の層が、それに結合した1種またはそれ以上の生体分子物質(C)を含むことを特徴とする上記の装置またはインプラント。
【請求項2】
金属材料(A)がチタンまたはその合金であり、好ましくはチタンである、請求項1に記載の装置またはインプラント。
【請求項3】
生体分子物質(C)が以下のタイプの物質:天然または組換え生体接着剤;天然または組換え細胞付着因子;天然、組換えまたは合成バイオポリマー;天然または組換え血液タンパク質;天然または組換え酵素;天然または組換え細胞外基質タンパク質;天然または合成細胞外基質生体分子;天然または組換え増殖因子およびホルモン;天然、組換えまたは合成ペプチド・ホルモン;天然、組換えまたは合成デオキシリボ核酸;天然、組換えまたは合成リボ核酸;天然または組換え受容体;酵素阻害剤;薬物;生物学的に活性なアニオンおよびカチオン;ビタミン;アデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)またはアデノシン三リン酸(ATP);マーカー生体分子;アミノ酸;脂肪酸;ヌクレオチド(RNAおよびDNA塩基);糖類から選択された、請求項1または2に記載の装置またはインプラント。
【請求項4】
生体分子物質(C)が水素化物材料(B)の表面に存在するか、または水素化物材料中に捕捉されている、請求項1〜3のいずれかに記載の装置またはインプラント。
【請求項5】
1種またはそれ以上の生体分子物質(C)が水素化物材料(B)と、1ピコグラム/mm2から1mg/mm2、好ましくは0.1ナノグラムから100マイクログラム/mm2の量で結合している、請求項1〜4のいずれかに記載の装置またはインプラント。
【請求項6】
1種またはそれ以上の生体分子物質(C)が、装置を哺乳動物の体に配置したときに骨または他の組織と接触する表面と結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の装置またはインプラント。
【請求項7】
股関節;大腿骨頭;寛骨臼杯;幹、楔、関節挿入物を含む肘;大腿骨および脛骨構成要素、幹、楔、骨関節挿入物または膝蓋骨構成要素を含む膝;幹および頭を含む肩;手首;足首;手;手指;足指;椎骨;脊髄円板;人工関節;人工歯根;オシクロプラスティック・インプラント;きぬた骨、つち骨、あぶみ骨、きぬた骨−あぶみ骨、つち骨−きぬた骨、つち骨−きぬた骨−あぶみ骨を含む中耳インプラント;人工内耳;釘、ねじ、ステープル、プレートなどの整形外科用固定装置;心臓弁;ペースメーカ;カテーテル;脈管;空間充てんインプラント;補聴器保持用インプラント;外固定用インプラント;子宮内器具(IUD);蝸牛内電子装置、頭蓋内電子装置などの生物電子装置などの解剖学的構造を置き換え、またはこのような身体機能を修復する、請求項1〜6のいずれかに記載の装置またはインプラント。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の医療用プロテーゼ装置またはインプラントを調製する方法であって、金属材料(A)の表面部分を電解処理にかけて水素化物材料(B)の層を形成することを含み、上記電解処理が、1種またはそれ以上の生体分子物質(C)の存在
下で実施される方法。

【公開番号】特開2009−195731(P2009−195731A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112412(P2009−112412)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【分割の表示】特願2002−547546(P2002−547546)の分割
【原出願日】平成13年12月5日(2001.12.5)
【出願人】(508149744)
【Fターム(参考)】