説明

生分解性ポリエステル系樹脂組成物およびその製造方法並びに生分解性ポリエステル系樹脂成形体および生分解性ポリエステル系樹脂繊維

【課題】成形体や繊維等への加工が容易で、しかも機械物性に優れた成形体や繊維等を得ることができる生分解性ポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】3−ヒドロキシアルカノエート重合体および一般式(1)の有機アンモニウム塩化合物で処理された膨潤性層状珪酸塩を含有し、下記条件(a)および(b)を満たす生分解性ポリエステル系樹脂組成物、成形体および繊維。
[NR1234+- (1)
(Xはハロゲン原子、R1〜R4は炭素数1〜20の炭化水素基、水素原子。)
(a)生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上(但し、[N]値は、樹脂組成物の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数。)。
(b)生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚の比)が10以上。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル系樹脂に関し、更に詳しくは、成形体や繊維への加工が容易で、しかも得られる機械物性に優れた成形体や繊維を得ることができる生分解性ポリエステル系樹脂組成物、その製造方法、並びに前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物からなる成形体および繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、地球規模での循環型社会の実現が切望される中で、使用後、微生物の働きによって分解される生分解性樹脂が注目を集めている。生分解性樹脂の中でも、炭酸ガス排出量削減、固定化(カーボンニュートラル)という観点から、植物由来ポリマーである3−ヒドロキシアルカノエート重合体などが注目されている。
【0003】
しかしながら、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体などは、成形後に起こる2次結晶化により機械物性(特に伸びなどの靭性)が経時劣化するという難点がある。このため、従来から、3−ヒドロキシアルカノエート重合体に、窒化ホウ素などの無機物を配合して結晶化を促進しようとする提案があったものの、得られた成形体の強度が低下したり、成形体表面外観が悪化するなどの弊害が多く、効果は不十分であった。また、ポリヒドロキシアルカノエートおよび有機オニウムイオンにより処理された膨潤性層状珪酸塩を、一軸押し出し機、二軸押し出し機、ロール混練機、ブラベンダー等を用いて溶融混練する方法もが開示されている(特許文献1参照。)。しかしながら、当該方法では、ポリヒドロキシアルカノエート中に有機オニウム塩で表面処理された膨潤性層状珪酸塩を均一分散させるために、溶融混練時に大きな剪断力が必要となり、溶融混練時の剪断発熱および前記剪断発熱による有機オニウム塩による分解促進効果によってポリヒドロキシアルカノエート樹脂が分解劣化してしまい、成形後には目的とする機械物性などが保持できない。
【0004】
更に、3−ヒドロキシアルカノエート重合体のなかでも、特にポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(以下、「PHBH」と略記することもある。)は結晶化が遅いため、通常の溶融紡糸による繊維の製造が困難であった。そこで、3−ヒドロキシアルカノエート重合体を、溶融押し出し機から押し出した直後にポリマーのガラス転移点以下に急冷して、フィラメントをブロッキングから開放し、次いで、ガラス転移点以上の温度で速やかに部分的な結晶化を進行させる冷延伸法が開示されている(特許文献2参照。)。この方法によれば、PHBHのような結晶化度、結晶化速度の小さなポリマーの紡糸を可能とし、独特の性質を有する延伸フィラメントを作ることができる。しかし、その一方、当該方法においては、必須工程として紡糸直後にTg(約0℃)以下に急冷する必要があり、エネルギー的にも無駄であり、また設備が大掛かりになるという難点もある。また、PHBH繊維は耐熱性に劣るという問題もある。例えば、PHBH繊維はガラス転移温度(Tg、通常は0℃程度)以上では弾性率が下がることから、カツラ用途に必要なドライヤーのヒートセットが難しいという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−070092号公報
【特許文献2】特開2002−371431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような生分解性ポリエステル系樹脂における問題点に鑑み、成形体や繊維への加工が容易で、しかも機械物性に優れた成形体や繊維を得ることができる生分解性ポリエステル系樹脂組成物、その製造方法、並びに前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物からなる成形体および繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の有機アンモニウム塩化合物により処理された膨潤性層状珪酸塩を、生分解性ポリエステル系樹脂組成物中、成形体中または繊維中に所定の密度および平均アスペクト比で存在させることにより、前記のような生分解性ポリエステル系樹脂における問題点を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、前記、特定の有機アンモニウム塩化合物により処理された膨潤性層状珪酸塩を、アルコールを含む有機溶媒に分散させて生分解性ポリエステル系樹脂組成物に混合することで、前記のような所定の密度および平均アスペクト比で生分解性ポリエステル系樹脂組成物中、成形体中または繊維中に存在させることができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の第1は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体および膨潤性層状珪酸塩を含有する生分解性ポリエステル系樹脂組成物であって、前記膨潤性層状珪酸塩が下記一般式(1)で表される有機アンモニウム塩化合物で処理されており、かつ下記条件(a)および(b)を満たす生分解性ポリエステル系樹脂組成物に関する。
[NR1234+- (1)
(但し、式中、Xはハロゲン原子であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子であり、少なくとも1つは炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
(a)生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上である(但し、[N]値は、樹脂組成物の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数である。)。
(b)生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚の比:「層長」は)が10以上である。
【0009】
また、本発明の第2は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体および膨潤性層状珪酸塩を含有してなる生分解性ポリエステル系樹脂成形体であって、前記膨潤性層状珪酸塩が下記一般式(1)で表される有機アンモニウム塩化合物で処理されており、かつ下記条件(a)および(b)を満たす生分解性ポリエステル系樹脂成形体に関する。
[NR1234+- (1)
(但し、式中、Xはハロゲン原子であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子であり、少なくとも1つは炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
(a)生分解性ポリエステル系樹脂成形体中の膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上である(但し、[N]値は、樹脂成形体の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数である。)。
(b)生分解性ポリエステル系樹脂成形体中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚)が10以上である。なお、本発明で、膨潤性層状珪酸塩の「層長」とは、図6−1において、モンモリロナイト(Montmorillonite;MMT)の小片(One clay platelet)について左右の両矢印で示す方向の長さ(図6−1では100〜200nm)をいい、同じく「層厚」とは、前記小片について上下の両矢印で示す方向の長さ(図6−1では1nm)である。
【0010】
更に、本発明の第3は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体および膨潤性層状珪酸塩を含有してなる生分解性ポリエステル系樹脂繊維であって、前記膨潤性層状珪酸塩が下記一般式(1)で表される有機アンモニウム塩化合物で処理されており、かつ下記条件(a)および(b)を満たす生分解性ポリエステル系樹脂繊維に関し、好ましい実施形態では、前記膨潤性層状珪酸塩が、繊維軸方向に配向している。
[NR1234+- (1)
(但し、式中、Xはハロゲン原子であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子であり、少なくとも1つは炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
(a)生分解性ポリエステル系樹脂繊維中の膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上である(但し、[N]値は、繊維の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数である。)。
(b)生分解性ポリエステル系樹脂繊維中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚の比)が10以上である。
【0011】
好ましい実施形態は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して膨潤性層状珪酸塩を0.1〜15重量部含有する前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物、成形体および繊維に関する。更に、別の好ましい実施形態は、有機アンモニウム塩化合物で処理された膨潤性層状珪酸塩が、水中で膨潤性層状珪酸塩と有機アンモニウム塩を混合して処理されたものである前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物、成形体および繊維に関する。
【0012】
また、本発明は、アルコールを含む有機溶媒中で、3−ヒドロキシアルカノエート重合体および前記膨潤性層状珪酸塩を混合することを特徴とする前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施形態は、前記膨潤性層状珪酸塩を、アルコールを含む有機溶媒に懸濁させ、該懸濁液に3−ヒドロキシアルカノエート重合体を加えて混合する前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法に関する。また、好ましい実施形態は、前記膨潤性層状珪酸塩をアルコール以外の有機溶媒に懸濁させ、該懸濁液にアルコールを加えた後、3−ヒドロキシアルカノエート重合体を加えて混合する前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法に関する。更に好ましい実施形態は、アルコール以外の有機溶媒がクロロホルム、塩化メチレンおよびアセトンから選ばれる少なくとも1種である前記生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
有機オニウム塩等で処理された膨潤性層状珪酸塩等を微分散させるためには、3−ヒドロキシアルカノエート重合体等の生分解性ポリエステル系樹脂と混練し、大きな剪断力を作用させる必要がある。その場合、混練時に発生する剪断発熱によって生分解性ポリエステル系樹脂が分解され易く、有機オニウム塩による分解効果が混練時に発生する剪断発熱で促進されるため、機械特性などに優れた成形品や繊維を得ることが困難になる。これに対し、本願発明によれば、前記のような混練時の熱分解が抑制され、有機アンモニウム塩化合物で処理された膨潤性層状珪酸塩が、生分解性ポリエステル系樹脂組成物、成形体または繊維中に所定の密度および平均アスペクト比で存在し、優れた機械特性を有する生分解性ポリエステル系樹脂組成物、成形体および繊維を提供することができる。これは、膨潤性層状珪酸塩が3−ヒドロキシアルカノエート重合体(以下、「P3HA」と略記することもある。)の結晶化を促進するとともに、有機アンモニウム塩で表面処理された板状の膨潤性層状珪酸塩が壁になって、3−ヒドロキシアルカノエート重合体の微小結晶が球晶に成長するのを阻害するため、成形後に起こる2次結晶化による機械物性(特に伸びなどの靭性)の経時劣化が抑制されるためと推測される(図1〜図5−3に示す資料を参照。)。
【0015】
また、本発明の製造方法によれば、特定の有機アンモニウム塩化合物により処理された膨潤性層状珪酸塩を、アルコールを含む有機溶媒中で生分解性ポリエステル系樹脂組成物に混合することで、膨潤性層状珪酸塩を前記のような所定の密度および平均アスペクト比で生分解性ポリエステル系樹脂組成物中、成形体中または繊維中に存在させることができ、目的とする、機械特性に優れた生分解性ポリエステル系樹脂組成物、成形体および繊維を容易に製造することができる。これは、本発明では、前記有機溶媒中で予め前記膨潤性層状珪酸塩と3−ヒドロキシアルカノエート重合体を混合しておくことにより、従来技術(特許文献1;特開2006−070092号公報)が開示しているように3−ヒドロキシアルカノエート重合体中に溶融混練によって膨潤性層状珪酸塩を分散させる場合のような大きな剪断力を作用させる必要がなくなる。このため、本発明においては、溶融混練時に膨潤性層状珪酸塩が大きく割れたり、塊状になったりせず、有機アンモニウム塩化合物で処理された膨潤性層状珪酸塩の各層が劈開して互いに独立して細分化することで、平均アスペクト比が大きな薄板状の膨潤性層状珪酸塩が樹脂組成物中に均一に微分散され、また溶融紡糸した繊維においては、前記薄板状に剥離した膨潤性層状珪酸塩が、繊維軸方向に配向することによるものであると推定される(図6−1、図6−2に示す資料を参照。)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】PHBH(3HH:3.2mol%)の110℃における等温結晶化(Isothermal crystallization at 110℃)のグラフ。
【図2】PHBH(3HH:3.2mol%)の等温結晶化 120℃における球晶観察の偏光顕微鏡写真。
【図3】PHBH(3HH:5mol%、核剤;モンモリロナイト)の結晶化、融解温度の確認のためのDSC(示差走査熱量測定)。
【図4】モンモリロナイト(MMT)がPHBH(3HH:5mol%)の溶融粘度に与える影響(Viscosity enhancement effect of MMT)を示すグラフ。
【図5−1】各種アンモニウム塩化合物により処理したモンモリロナイト(MMT)を添加したPHBH(3HH:5mol%)繊維のX線回折。
【図5−2】PHBH(3HH:7mol%)にステアリルアミン処理したMMTを1重量%添加した繊維の引張強度を示すグラフ。
【図5−3】ステアリルアミン処理したMMTを5重量%添加したPHBH(3HH:5mol%)繊維のX線回折測定結果。
【図6−1】モンモリロナイト(Montmorillonite (MMT))を有機アンモニウム塩化合物により処理した場合の説明図とTEM写真。
【図6−2】ステアリルアミン処理したモンモリロナイトを5重量%添加したPHBH(3HH:3.2mol%)の透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)写真。
【図7−1】PHBH(3HH=5モル%)の繊維の動的粘弾性測定結果。
【図7−2】PHBH(3HH=5モル%)の繊維の貯蔵弾性率の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。膨潤性層状珪酸塩を含有してなる本発明に係る生分解性ポリエステル系樹脂成形体、成形体および繊維は、(a)前記膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上であり(但し、[N]値は、樹脂組成物の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数である。)、かつ(b)前記膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚の比)が10以上である、という特徴を有し、更に前記繊維においては、前記膨潤性層状珪酸塩が繊維軸方向に配向している、という特徴を有する。以下、前記特徴に関し、生分解性ポリエステル系樹脂組成物について説明するが、成形体および繊維においても同様である。
【0018】
本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物中で分散している膨潤性層状珪酸塩の構造は、使用前の膨潤性層状珪酸塩が有していたような、多数の層が積層してなる凝集構造とは全く異なる。すなわち、膨潤性層状珪酸塩の層が劈開して互いに独立して細分化している。その結果、膨潤性層状珪酸塩が、生分解性ポリエステル系樹脂組成物中で非常に細かく互いに独立した薄板状で分散し、その数は、配合前の膨潤性層状珪酸塩に比べて著しく増大する(図6−1、図6−2参照。)。このような薄板状の膨潤性層状珪酸塩の分散状態は、以下に述べる、(a)分散粒子数[N]および(b)平均アスペクト比(層長/層厚の比率)により表現され得る。
【0019】
(a)分散粒子数[N]
本発明においては、生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の分散状態について、分散粒子数[N]値を、生分解性ポリエステル系樹脂組成物の顕微鏡画像の面積100μm2における、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの分散粒子数であると定義する。本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の分散粒子数[N]値は、30以上であり、好ましくは40以上であり、さらに好ましくは50以上であり、特に好ましくは60以上である。上限値は特にないが、分散粒子数[N]値が1000程度を越えると、それ以上効果は変わらなくなるので、1000より大きくする必要はない。分散粒子数[N]値は、例えば、次のようにして求められ得る。すなわち、生分解性ポリエステル系樹脂組成物を約50μm〜100μm厚の超薄切片に切り出し、該切片をTEM等で撮影した像上で、面積が100μm2の任意の領域に存在する膨潤性層状珪酸塩の粒子数を、用いた膨潤性層状珪酸塩の重量比率で除すことによって求められ得る。あるいは、TEM像上で、100個以上の粒子が存在する任意の領域(面積は測定しておく)を選んで該領域に存在する粒子数を、用いた膨潤性層状珪酸塩の重量比率で除し、面積100μm2に換算した値を[N]値としてもよい。従って、[N]値は生分解性ポリエステル系樹脂組成物のTEM写真等を用いることにより定量化できる。
【0020】
(b)平均アスペクト比
また、本発明では、膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比を、生分解性ポリエステル系樹脂組成物中に分散した膨潤性層状珪酸塩の(層長/層厚)の比の平均値であると定義する。本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比は、10以上が好ましく、より好ましくは10〜300であり、更に好ましくは15〜300であり、特に好ましくは20〜300である。前記平均アスペクト比が10未満であると、得られる生分解性ポリエステル系樹脂組成物の機械物性の改善効果が十分に得られない場合がある。また、300より大きくても効果はそれ以上変わらないため、平均アスペクト比を300より大きくする必要はない。
【0021】
生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の層長および層厚は、生分解性ポリエステル系樹脂組成物を加熱溶融した後に、熱プレス成形あるいは延伸成形して得られるフィルム、溶融樹脂を射出成形して得られる薄肉の成形品、または溶融紡糸して得られた繊維から切り出した試験片等を、顕微鏡等を用いて撮影した像から求めることができる。すなわち、X−Y面上に上記の方法で調製したフィルムの、あるいは肉厚が約0.5〜2mm程度の薄い平板状の射出成形した試験片を置いたと仮定する。上記のフィルムあるいは試験片をX−Z面あるいはY−Z面と平行な面で約50μm〜100μm厚の超薄切片を切り出し、該切片を、透過型電子顕微鏡などを用いて約4〜10万倍以上の高倍率で観察して求めることができる。測定は、上記の方法で得られた透過型電子顕微鏡の像上において、100個以上の膨潤性層状珪酸塩を含む任意の領域を選択し、画像処理装置などで画像化し、計算機処理することなどにより定量化できる。あるいは、定規などを用いて計測しても求めることもできる。
【0022】
本発明において使用する膨潤性層状珪酸塩は、等価面積円直径[D]の平均値が5000Å以下であることが好ましい。本発明では。前記等価面積円直径[D]は、顕微鏡などで得られる像内で様々な形状で分散している個々の膨潤性層状珪酸塩の該顕微鏡の像上での面積と等しい面積を有する円の直径であると定義する。その場合、本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の等価面積円直径[D]の平均値は5000Å以下であり、好ましくは4500Å以下であり、さらに好ましくは4000Å以下であり、特に好ましくは3500Å以下である。等価面積円直径[D]の平均値が5000Åより大きいと生分解性ポリエステル系樹脂の微結晶を多数生成させて機械物性の長期安定性を改良する効果が十分でなくなる場合がある。等価面積円直径[D]の下限値は特にないが、おおよそ100Å未満では効果はほとんど変わらなくなるので、100Å未満にする必要はない。等価面積円直径[D]の測定は、顕微鏡などを用いて撮影した像上で、100個以上の膨潤性層状珪酸塩の層を含む任意の領域を選択し、画像処理装置などを用いて画像化して計算機処理することによって定量化できる。
【0023】
上記のように、本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物中での膨潤性層状珪酸塩の形態は微細な薄板状であるが、それら薄板状の膨潤性層状珪酸塩が樹脂組成物中で部分的に遍在していると、生分解性ポリエステル系樹脂の微結晶が効率よく生成されず、機械物性の長期安定性が改良されない場合がある。従って、本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物中で、微細薄板状の膨潤性層状珪酸塩は、むら無く均一に存在していることが好ましい。この点、本発明の製造方法によれば、特定の有機アンモニウム塩化合物により処理された膨潤性層状珪酸塩を、有機溶媒に懸濁し、好ましくは3−ヒドロキシアルカノエート重合体の良溶媒に懸濁し、更に好ましくはアルコールを含む有機溶媒に懸濁して、3−ヒドロキシアルカノエート重合体に混合することで、膨潤性層状珪酸塩を前記のような所定の密度および平均アスペクト比で生分解性ポリエステル系樹脂組成物中に微分散させることができる。このように、有機溶媒を用いた混合により生分解性ポリエステル系樹脂組成物中に膨潤性層状珪酸塩を分散させておくことで、その後、加熱溶融し、熱プレス成形あるいは延伸成形して得られるフィルム、溶融樹脂を射出成形して得られる薄肉の成形体、または溶融紡糸して得られた繊維においても、膨潤性層状珪酸塩が、所定の平均アスペクト比を有する微細薄板状の形態のまま分散された状態で存在することで、生分解性ポリエステル系樹脂からなる成形体や繊維の機械特性が向上する。
【0024】
本発明の生分解性ポリエステル系樹脂において使用する3−ヒドロキシアルカノエート重合体は、微生物から生産されるものが好ましい。3−ヒドロキシアルカノエート重合体は、[−CHR−CH2−CO−O−](ただし、式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、n=1〜15の整数)で示されるヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位を有する重合体である。
【0025】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体を生産する微生物としては、3−ヒドロキシアルカノエート重合体類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(以下、「PHB」と略記することもある。)生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)、(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)などの天然微生物が知られており、これらの微生物ではPHBが菌体内に蓄積される。
【0026】
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)(以下、「PHBV」と略記することもある。)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「PHBH」と略記することもある。)生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)などが知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、3−ヒドロキシアルカノエート重合体合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したい3−ヒドロキシアルカノエート重合体に合わせて、各種3−ヒドロキシアルカノエート重合体合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0027】
本発明で使用する3−ヒドロキシアルカノエート重合体の具体例としては、3−ヒドロキシブチレート(3HB)、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)、3−ヒドロキシバリレート(3HV)、3−ヒドロキシオクタノエート(3HO)、3−ヒドロキシデカノエート(3HD)、3−ヒドロキシプロピオネート(3HP)などのホモポリマーやそれらの共重合体が挙げられる。本発明は、特に従来法では紡糸が困難であった、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)や、3HBと3HHに加えて第3成分として他のヒドロキシアルカン酸を含む共重合体に適しているが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明で用いられる膨潤性層状珪酸塩とは、主として酸化ケイ素の四面体シートと、主として金属水酸化物の八面体シートから形成され、例えば、スメクタイト族粘土および膨潤性雲母などが挙げられる。
【0029】
前記のスメクタイト族粘土は下記一般式(2)
0.20.623410(OH)2・nH2O (2)
(ただし、XはK、Na、1/2Caおよび1/2Mgから成る群より選ばれる1種以上であり、YはMg、Fe、Mn、Ni、Zn、Li、AlおよびCrから成る群より選ばれる1種以上であり、ZはSiおよびAlから成る群より選ばれる1種以上である。なお、H2Oは層間イオンと結合している水分子を表すが、nは層間イオンおよび相対湿度に応じて著しく変動する)で表される、天然または合成されたものである。該スメクタイト族粘土の具体例としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイトおよびベントナイト等、またはこれらの置換体、誘導体、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0030】
また、前記の膨潤性雲母は下記一般式(3)
0.51.023(Z410)(F、OH)2 (3)
(ただし、XはLi、Na、K、Rb、Ca、BaおよびSrから成る群より選ばれる1種以上であり、YはMg、Fe、Ni、Mn、AlおよびLiから成る群より選ばれる1種以上であり、ZはSi、Ge、Al、FeおよびBから成る群より選ばれる1種以上である。)で表される、天然または合成されたものである。これらは、水、水と任意の割合で相溶する極性溶媒、および水と該極性溶媒の混合溶媒中で膨潤する性質を有するものであり、例えば、リチウム型テニオライト、ナトリウム型テニオライト、リチウム型四ケイ素雲母およびナトリウム型四ケイ素雲母等、またはこれらの置換体、誘導体、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
上記の膨潤性雲母の中にはバーミキュライト類と似通った構造を有するものもあり、この様なバーミキュライト類相当品等も使用し得る。該バーミキュライト類相当品には3八面体型と2八面体型があり、下記一般式(4)
(Mg,Fe,Al)23(Si4-xAlx)O10(OH)2・(M+,M2+1/2x・nH2O (4)
(ただし、MはNaおよびMg等のアルカリまたはアルカリ土類金属の交換性陽イオン、x=0.6〜0.9、n=3.5〜5である)で表されるものが挙げられる。
【0032】
膨潤性層状珪酸塩の結晶構造は、c軸方向に規則正しく積み重なった純粋度が高いものが望ましいが、結晶周期が乱れ、複数種の結晶構造が混じり合った、いわゆる混合層鉱物も使用され得る。膨潤性層状珪酸塩は単独で用いても良く、2種以上組み合わせて使用しても良い。これらの内では、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライトおよび層間にナトリウムイオンを有する膨潤性雲母が、得られる生分解性ポリエステル系樹脂組成物中での分散性および生分解性ポリエステル系樹脂組成物の物性改善効果の点から好ましい。
【0033】
本発明では前記のような膨潤性層状珪酸塩を有機アンモニウム塩化合物で処理して使用する。前記有機アンモニウム塩としては、以下に示す有機アンモニウムイオンとハロゲンとの塩が挙げられる。前記有機アンモニウムイオンとしては、ステアリルアンモニウム、ラウリルアンモニウム、オクチルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、ヘキサデシルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、メチルドデシルアンモニウム、ブチルドデシルアンモニウム、メチルオクタデシルアンモニウム、ジメチルオクチルアンモニウム、ジメチルドデシルアンモニウム、ジメチルヘキサデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウム、トリメチルドデシルアンモニウム、トリエチルテトラデシルアンモニウム、トリブチルヘキサデシルアンモニウム、ジメチルジドデシルアンモニウム、ジエチルジテトラデシルアンモニウム、ジブチルジヘキサデシルアンモニウム、トリデシルメチルアンモニウム等のアルキル基を有するアンモニウム、ジメチルフェニルアンモニウム、ジフェニルドデシルアンモニウム、ジフェニルオクタデシルアンモニウム、メチルベンジルジドデシルアンモニウム、ジベンジルジヘキサデシルアンモニウム、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウム、ベンジルジメチルステアリルアンモニウム等のアリール基を有するアンモニウムを挙げることができる。また、得られる樹脂組成物に悪影響を与えない範囲において、上記アルキル基やアリール基等の炭化水素基は置換基を有していてもよい。炭化水素基がエーテル基で結合している基で置換されている場合の例としては、[PEG]アンモニウム(以下、[PEG]はポリエチレングリコール鎖を示す)、メチル[PEG]アンモニウム、ドデシル[PEG]アンモニウム、ヘキサデシル[PEG]アンモニウム、ジメチル[PEG]アンモニウム、メチルドデシル[PEG]アンモニウム、メチルオクタデシル[PEG]アンモニウム、メチルビス[PEG]アンモニウム、ドデシルビス[PEG]アンモニウム、ヘキサデシルビス[PEG]アンモニウム等を挙げることが出来る。また、カルボキシル基で置換されている基である場合の例としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トレオニン、セリン、ブロニン、トリプトファン、メチオニン、シスチン、システイン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン等のα−アミノ酸のアンモニウム、6−アミノカプロン酸、8−アミノオクタン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のω−アミノ酸のアンモニウムが挙げられる。前記のアンモニウム塩化合物の中では、ステアリルアンモニウム塩化合物、ラウリルアンモニウム塩化合物、オクチルアンモニウム塩化合物などのモノアルキルアンモニウム塩化合物が好ましい。本発明で用いられる有機アンモニウム塩化合物は従来公知の方法で得られ、例えば、ステアリルアミンやラウリルアミンなどのアミン化合物と塩酸などの酸との中和反応によって得られる。
【0034】
有機アンモニウム塩化合物による膨潤性層状珪酸塩の処理方法としては、水中で膨潤性層状珪酸塩と有機アンモニウム塩を混合して膨潤性層状珪酸塩の表面を処理する。処理方法の1例を挙げると、まず、膨潤性層状珪酸塩をイオン交換水に加え攪拌することにより膨潤性層状珪酸塩の懸濁液を調製する。また、アルキルアミンと塩酸などの酸を水に加えて攪拌することにより有機アンモニウム塩水溶液を調製する。ついで、前記膨潤性層状珪酸塩懸濁液に前記有機アンモニウム塩水溶液を加えて攪拌し、更に超音波処理を行なった後、濾過を行い、濾物を水で数回洗浄した後、真空乾燥させることによって有機アンモニウム塩化合物で処理された膨潤性層状珪酸塩を得る。
【0035】
本発明における有機アンモニウム塩化合物の使用量は、本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物中での膨潤性層状珪酸塩の分散性が十分に高まるように調製し得る。必要であるならば、異種の官能基を有する複数種の有機アンモニウム塩化合物を併用し得る。従って、有機アンモニウム塩化合物の使用量は一概に数値で限定されるものではないが、膨潤性層状珪酸塩100重量部に対する有機アンモニウム塩化合物の使用量の下限値は、1重量部であり、好ましくは2重量部であり、より好ましくは3重量部であり、更に好ましくは4重量部であり、特に好ましくは5重量部である。膨潤性層状珪酸塩100重量部に対する有機アンモニウム塩化合物の使用量の上限値は、200重量部であり、好ましくは180重量部であり、より好ましくは150重量部であり、更に好ましくは120重量部であり、特に好ましくは100重量部である。有機アンモニウム塩化合物の使用量が1重量部未満であると、膨潤性層状珪酸塩の微分散化効果が充分で無くなる場合がある。また、有機アンモニウム塩化合物の使用量を200重量部以上にしても微分散化効果が変わらないばかりか3−ヒドロキシアルカノエート重合体の特性を損なう場合がある。
【0036】
本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物、成形体および繊維は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体と、有機アンモニウム塩化合物により処理した膨潤性層状珪酸塩を含有する。膨潤性層状珪酸塩の含有量は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して0.1重量部〜15重量部が好ましい。膨潤性層状珪酸塩の使用量が0.1重量部未満であると生分解性ポリエステル系樹脂組成物の機械物性を改善する効果が小さくなる。一方、膨潤性層状珪酸塩の使用量が15重量部を超えると生分解性ポリエステル系樹脂組成物の靭性が低下して脆くなり、機械物性の優れた生分解性ポリエステル系樹脂組成物を得ることが困難となる。
【0037】
本発明において、3−ヒドロキシアルカノエート重合体と膨潤性層状珪酸塩との混合は、有機溶媒中行うことが好ましく、前記有機溶媒としては、クロロホルムや熱アセトンなど、3−ヒドロキシアルカノエート重合体の良溶媒がより好ましく、更に、アルコールを少量含む有機溶媒中で混合することが好ましい。また、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体と膨潤性層状珪酸塩との混合は、前記有機溶媒、好ましくはアルコールを含む有機溶媒中に膨潤性層状珪酸塩を懸濁させた懸濁液に3−ヒドロキシアルカノエート重合体を添加し混合溶解することが好ましく、アルコール以外の有機溶媒に膨潤性層状珪酸塩を懸濁させた懸濁液にアルコールを添加した後、3−ヒドロキシアルカノエート重合体を加えて混合溶解することが特に好ましい。前記有機溶媒中のアルコールの含有量は、好ましくは前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体の良溶媒100重量部に対して0.1〜15重量部、更に好ましくは0.2〜12重量部、特に好ましくは0.5〜10重量部である。
3−ヒドロキシアルカノエート重合体と膨潤性層状珪酸塩との好ましい混合方法は以下のとおりである。
(i) アルコール以外の有機溶媒と、表面処理された膨潤性層状珪酸塩との懸濁液を作製する。
(ii) 前記(i)の懸濁液にアルコールを添加する。
(iii) 前記(ii)の懸濁液に3−ヒドロキシアルカノエート重合体を溶解させる。
(iv) 溶媒を除去する。
【0038】
なお、本発明における生分解性樹脂組成物、成形体、繊維には、上記3−ヒドロキシアルカノエート重合体成分以外のポリマー成分や、膨潤性層状珪酸塩の以外の、例えば、酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料などの着色剤;可塑剤;滑剤;無機充填剤;または帯電防止剤などの成分を含有してもよい。これらの他のポリマーや成分の添加量としては、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体の特性や膨潤性層状珪酸塩による作用を損なわない程度であればよく、特に限定はない。
【0039】
上記のようにして得られる本発明の生分解性ポリエステル系樹脂組成物の利用方法は、公知の樹脂組成物と同様であり、そのまま各種成形や紡糸に使用してもよいし、押出機、ロールミル、バンパリーミキサーなどにより混練してペレットとし、成形体や繊維等に加工することもできる。加工方法としては、公知のものでよく、例えば、射出成形、フィルム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡成形、ビーズ発泡成形などが挙げられる。加工条件としては、特に限定はない。本発明に係る生分解性ポリエステル系樹脂組成物は、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、糸、ロープ、織物、編物、不織布などの形態で使用することができ、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料繊維製品(例えば、カーテン、絨毯、カバン、布袋など)、包装、自動車、建材、その他の分野においても好適に使用することができる。その中でも、溶融紡糸による繊維の製造に用いることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
<生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造例1(実施例1〜3)>
以下のとおりにして、本発明に係る生分解性ポリエステル系樹脂組成物を製造した。
【0042】
(1)3−ヒドロキシアルカノエート重合体(P3HA:PHBH(3HH7%))
微生物として、Alcaligenes eutrophusにAeromonas caviae由来のPHA合成酵素遺伝子を導入したAlcaligenes eutrophus AC32株(J・Bacteriol,179,4821(1997))(FERM BP−6038)を用いて、原料、培養条件を適宜調整して生産されたPHBHで、HH率が7mol%であり、Mw(重量平均分子量)が約50万のものを使用した。
【0043】
(2)膨潤性層状珪酸塩
ボルクレイ・ジャパン社のモンモリロナイト(商品名:ポーラゲル)を特に精製せずに用いた。
【0044】
(3)ステアリルアミンによるモンモリロナイト(MMT)の表面処理
モンモリロナイト10gを300mLのイオン交換水(80℃)に加え攪拌機を用いて300rpmで1時間攪拌することによりモンモリロナイト懸濁液を調製した。また14mmolのステアリルアミンと6mLの6規定HClとを200mLのイオン交換水(80℃)に加えて攪拌機を用いて300rpmで攪拌することによりモノステアリルアンモニウム塩水溶液を調製した。モンモリロナイト懸濁液にモノステアリルアンモニウム塩水溶液を加えて攪拌機を用いて300rpmで1時間攪拌した後、超音波発生装置を用いて超音波処理を1時間行った。超音波処理後、ブフナー漏斗を用いて濾過を行い、濾物をイオン交換水(80℃)で数回洗浄した後、40℃で真空乾燥させることによってモノステアリルアンモニウムで処理されたモンモリロナイト(SteMMT)を調製した。
【0045】
(4)溶媒中でのPHBHとSteMMTの混合
前記(3)で得たSteMMT(5g)をクロロホルム200mLに加えてマグネチックスターラーを用いて30分攪拌した。攪拌後、SteMMT/クロロホルムスラリーにメタノールを2g加え更に30分攪拌した。前記(1)のPHBH(3HH7%)ポリマーを、モンモリロナイト懸濁液に所定量で加え、マグネチックスターラーを用いて6時間攪拌した。その後、ポリマー混合溶液をガラスシャーレにキャストし、室温(25℃)で乾燥させて、有機アンモニウム化合物(ステアリルアミン)で処理されたモンモリロナイト(SteMMT)を20重量%含有するPHBH(3HH7%)組成物を得た。
得られた組成物とPHBH(3HH7%)とを、2軸押出機(テクノベル社、KZW15TWIN−45MG)で混合し、SteMMTを1重量%、5重量%、10重量%含有するポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0046】
<生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造例2(比較例1)>
製造例1で用いた3−ヒドロキシアルカノエート重合体(P3HA:PHBH(3HH7%))を、SteMMTを混合することなく、そのまま用いた。
【0047】
<生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造例3(比較例2)>
製造例1で用いた3−ヒドロキシアルカノエート重合体(P3HA:PHBH(3HH7%))に、タルク5重量%を溶融混練して生分解性ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0048】
<生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造例4(比較例3)>
製造例1で用いた3−ヒドロキシアルカノエート重合体(P3HA:PHBH(3HH7%))に、窒化ホウ素(BN)5重量%を溶融混練して生分解性ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0049】
<生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造例5(比較例4)>
製造例1で用いた3−ヒドロキシアルカノエート重合体(P3HA:PHBH(3HH7%))に、特開2006−070092号に記載されたと同様にSteMMTを溶融混練して生分解性ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0050】
<熱プレスシートの製造>
上記の製造例1〜4の生分解性ポリエステル系樹脂組成物から熱プレス成形法によりシートを成形し、シートの引張強度を測定した。熱プレス成形法は、(株)神籐金属工業所の圧縮成形機(型式:NSF−50)を用い、予め80℃5時間乾燥した樹脂18〜19gを160℃7分で予熱し、次いで5MPaの圧力をかけ2分間保持し、圧力を開放した後に5分間冷却した。評価に用いたシートの厚みは0.5mmである。また、有機アンモニウム塩で処理されたモンモリロナイトの分散状態を調べた。結果を表1に示す。なお、表1には、生分解性ポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度も示した。SteMMTを溶融混練した製造例5(比較例4)の生分解性ポリエステル系樹脂組成物は、混練により樹脂が分解劣化し、測定不能であった。
【0051】
<引張強度の測定>
得られたシートからテストピースを打ち抜き、(株)島津製作所のオートグラフを用いて、JIS K7161に準拠して測定した。
【0052】
<有機アンモニウム塩で処理されたモンモリロナイトの分散状態>
厚み50〜100μmの超薄切片を用いた。透過型電子顕微鏡(日本電子JEM−1200EX)を用い、加速電圧80kVで倍率4万〜100万倍で膨潤性層状珪酸塩の分散状態を観察撮影した。TEM写真において、100個以上の膨潤性層状珪酸塩粒子が存在する任意の領域を選択し、層長(長径)、層厚、粒子数([N]値)を、目盛り付きの定規を用いた手計測またはインタークエスト社の画像解析装置PIASIIIを用いて処理することにより測定した。
【0053】
(i)平均アスペクト比の測定
平均アスペクト比は個々の膨潤性層状珪酸塩の層長(長径)と層厚の比の数平均値とした。
【0054】
(ii)[N]値の測定
[N]値の測定は以下のようにして行った。まず、TEM像上で、選択した領域に存在する膨潤性層状珪酸塩の粒子数を求める。これとは別に、膨潤性層状珪酸塩に由来する樹脂組成物の灰分率を測定する。上記粒子数を灰分率で除し、面積100μm2に換算した値を[N]値とした。分散粒子が大きく、TEM観察の視野に納まりきらない場合は、光学顕微鏡(オリンパス光学(株)製の光学顕微鏡BH−2)を用いて上記と同様の方法で[N]値を求めた。ただし、必要に応じて、サンプルはLINKAM製のホットステージTHM600を用いて140〜160℃で溶融させ、溶融状態のままで分散粒子の状態を測定した。また、板状に分散しない分散粒子の平均アスペクト比は、長径/短径の値とした。ここで、長径とは、顕微鏡像等において、対象となる粒子の外接する長方形のうち面積が最小となる長方形を仮定すれば、その長方形の長辺を意図する。また、短径とは、上記最小となる長方形の短辺を意図する。
【0055】
<溶融粘度の測定>
(株)東洋精機製作所のキャピログラフ(先端ダイス径1mm、流路長10mm)を用いた。予め80℃5時間乾燥した樹脂30〜35gを160℃5分で加熱溶融させて測定した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すとおり、有機アンモニウム塩化合物により処理した膨潤性層状珪酸塩を溶媒混合した本発明の実施例1〜3の生分解性ポリエステル系樹脂組成物からなるシートは、無機物の添加剤なしの場合(比較例1)、タルク(比較例2)または窒化ホウ素(比較例3)を溶融混練した生分解性ポリエステル系樹脂組成物からなるシートに較べて、機械特性(引張強度)が向上している。
【0058】
<生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造例6(実施例4)>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体として、HH率が7mol%のPHBH(PHBH(3HH7%))の代わりにHH率が5mol%のPHBH(PHBH(3HH5%))を用い、製造例1と同じようにしてSteMMTが20重量%含有されたPHBH(3HH5%)組成物を得た。
得られた組成物とPHBH(3HH5%)とを、短軸押出機(オオバ機械社、スクリュー径15mm)で混合し、SteMMTを5重量%含有するポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0059】
<生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造例7(比較例5)>
製造例6と同じPHBH(PHBH(3HH5%)を、SteMMTを混合せずに用いた。
【0060】
<繊維の溶融紡糸>
製造例6、7の生分解性ポリエステル系樹脂組成物を、内径0.5mmのモノホールノズルを取り付けた単軸スクリュー押出機(オオバ機械製、スクリュー径15mm)を用いて、スクリュー回転数10rpm、吐出量60g/h、樹脂温度155℃で溶融紡糸を行い、繊維径20μmの繊維を得た。得られた繊維について、引張強度、耐熱性を調べた。また、各生分解性ポリエステル系樹脂組成物についての限界紡糸速度を調べた。結果を表2に示す。
【0061】
<繊維の引張強度の測定>
(株)オリエンテック製の引張試験機(STA−1150)を用いて評価した。試験片の長さは20mmとし、引張速度は50mm/分とした。測定は室温(25℃)で行った。応力−ひずみ曲線を求め、引張弾性率、引張強度および破壊伸びを求めた。
【0062】
<繊維の耐熱性の測定>
繊維の耐熱性は動的粘弾性にて測定した。(株)ユービーエム製の動的粘弾性装置Rheogel−E4000を用いて動的粘弾性の温度依存性を測定した。測定温度範囲−50℃〜150℃、引張モード、チャック間距離15mm、昇温速度3℃/分、測定温度1℃/分、測定周波数16Hzとし、窒素雰囲気下で行なった(図7−1、7−2参照。)。
【0063】
<限界紡糸速度の測定>
上記溶融紡糸機から出てくる繊維を巻取り速度可変式巻取機で、巻取り速度を徐々に上げて巻取り、5分間安定して巻取りができる速度を限界速度とした。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示すとおり、有機アンモニウム塩化合物により処理した膨潤性層状珪酸塩を溶媒混合した本発明(製造例6)の生分解性ポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸した繊維(実施例4)は、無機物の添加剤なし生分解性ポリエステル系樹脂組成物(製造例7)を溶融紡糸した繊維(比較例5)に較べて、機械特性(引張強度)、耐熱性および限界紡糸速度が向上している。
【0066】
<実施例5、6>
製造例6において、モノステアリルアンモニウムで処理されたモンモリロナイト(SteMMT)5wt%の代わりにモノステアリルアンモニウムで処理されたヘクトライト(SteHEC)5%またはモノラウリルアンモニウムで処理されたモンモリロナイト(LauMMT)5%を混合した以外は製造例6と同様にして生分解性ポリエステル系樹脂組成物を得た。得られた生分解性ポリエステル系樹脂組成物から溶融紡糸して繊維径20μmの繊維を得た。得られた実施例5、6の繊維は、製造例6の生分解性ポリエステル系樹脂組成物から得られた実施例4の繊維と同様に、いずれも機械特性(引張強度)、耐熱性および限界紡糸速度に優れたものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体および膨潤性層状珪酸塩を含有する生分解性ポリエステル系樹脂組成物であって、前記膨潤性層状珪酸塩が下記一般式(1)で表される有機アンモニウム塩化合物で処理されており、
[NR1234+- (1)
(但し、式中、Xはハロゲン原子であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子であり、少なくとも1つは炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
かつ下記条件(a)および(b)を満たす生分解性ポリエステル系樹脂組成物。
(a)生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上である(但し、[N]値は、樹脂組成物の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数である。)。
(b)生分解性ポリエステル系樹脂組成物中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚の比)が10以上である。
【請求項2】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して膨潤性層状珪酸塩を0.1〜15重量部含有する請求項1に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
有機アンモニウム塩化合物で処理された膨潤性層状珪酸塩が、水中で膨潤性層状珪酸塩と有機アンモニウム塩を混合して処理されたものである請求項1または2に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
アルコールを含む有機溶媒中で、3−ヒドロキシアルカノエート重合体および前記膨潤性層状珪酸塩を混合することを特徴とする請求項1記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記膨潤性層状珪酸塩を、アルコールを含む有機溶媒に懸濁させ、該懸濁液に3−ヒドロキシアルカノエート重合体を加えて混合する請求項4に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記膨潤性層状珪酸塩をアルコール以外の有機溶媒に懸濁させ、該懸濁液にアルコールを加えた後、3−ヒドロキシアルカノエート重合体を加えて混合する請求項4に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
アルコール以外の有機溶媒が、クロロホルム、塩化メチレンおよびアセトンから選ばれる少なくとも1種である請求項4〜6のいずれかに記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体および膨潤性層状珪酸塩を含有してなる生分解性ポリエステル系樹脂成形体であって、前記膨潤性層状珪酸塩が下記一般式(1)で表される有機アンモニウム塩化合物で処理されており、
[NR1234+- (1)
(但し、式中、Xはハロゲン原子であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基、または水素原子であり、少なくとも1つは炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
かつ下記条件(a)および(b)を満たす生分解性ポリエステル系樹脂成形体。
(a)生分解性ポリエステル系樹脂成形体中の膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上である(但し、[N]値は、樹脂成形体の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数である。)。
(b)生分解性ポリエステル系樹脂成形体中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚の比)が10以上である。
【請求項9】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体および膨潤性層状珪酸塩を含有してなる生分解性ポリエステル系樹脂繊維であって、前記膨潤性層状珪酸塩が下記一般式(1)で表される有機アンモニウム塩化合物で処理されており、
[NR1234+- (1)
(但し、式中、Xはハロゲン原子であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基、または水素原子であり、少なくとも1つは炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
かつ下記条件(a)および(b)を満たす生分解性ポリエステル系樹脂繊維。
(a)生分解性ポリエステル系樹脂繊維中の膨潤性層状珪酸塩の[N]値が30以上である(但し、[N]値は、繊維の面積100μm2中に存在する、膨潤性層状珪酸塩の単位重量比率当たりの粒子数である。)。
(b)生分解性ポリエステル系樹脂繊維中の膨潤性層状珪酸塩の平均アスペクト比(層長/層厚の比)が10以上である。
【請求項10】
前記膨潤性層状珪酸塩が、繊維軸方向に配向している請求項9に記載の生分解性ポリエステル系樹脂繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【公開番号】特開2012−57120(P2012−57120A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204184(P2010−204184)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】