説明

生分解性卒塔婆

【課題】水墨等による筆記性や印刷性に優れ、環境に優しい軽量で堅固な生分解性卒塔婆を提供する。
【解決手段】見かけ密度が0.2〜1.0g/cm3、かつ発泡平均セル径が1000μm以下である生分解性ポリエステル樹脂組成物の発泡体で構成された生分解性卒塔婆。生分解性ポリエステル樹脂組成物が、生分解性ポリエステル(A)100質量部と、(メタ)アクリル酸エステル(B1)及び/又はグリシジルエーテル(B2)0.01〜5質量部とからなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宗教行事に使用する卒塔婆に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の卒塔婆は、ほとんどが天然の木材で、モミやヒノキ等の白木が好まれ、無節で木目の通ったものが上級品として用いられていた。しかしながら、これら木製の卒塔婆は、一定期間墓地に立てられた後、焼却によって処分されることが多く、焼却による資源の浪費や大気汚染が問題視されていた。また、木目の美しさを追求するため、原木の選定、製材、乾燥等に厳しい条件が課され、非常に歩留まりが悪く、木材資源枯渇の危機が叫ばれる中で、資源の有効利用という点で問題があった。
【0003】
そこで、木材に替わりポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、あるいは塩化ビニルからなるプラスチック卒塔婆が提案されているが、焼却処分すると、木製の卒塔婆よりも深刻な大気汚染につながる恐れがあった。また、これらのプラスチックは生分解性を持たないため、埋め立て廃棄しても半永久的に地中に残存するため、自然環境を汚染する可能性があった。
【0004】
こうした中、近年では、生分解性プラスチック発泡体からなる卒塔婆が提案されており、澱粉粉末、炭酸カルシウム粉末又はタルク粉末と発泡体を適宜配合した生分解性プラスチック発泡体の卒塔婆(特許文献1)や、発泡性プラスチック芯体とその表裏面に配設されたシート状物とで構成された卒塔婆、あるいは中空プラスチック成形体からなる卒塔婆(特許文献2)などが開示されている。
【0005】
しかしながら、一般的に生分解性プラスチックは溶融張力や歪み硬化性等の特性上、発泡状態を制御することが困難であるため、発泡倍率を上げると破泡が起こって表面がザラザラになったり、また、発泡剤を減らすとセル径が大きくなって発泡体表面がデコボコになるなどの傾向があり、卒塔婆のような使用目的においては、表面の筆記性・印刷性に適した発泡体表面を維持しつつ、軽量性を確保することが難しかった。さらに、特許文献2のように発泡体の表裏面にシート状物を配設する場合においても、シート状物との接着性が低下するという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−146262号公報
【特許文献2】特開平11−244131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、水墨等による筆記性や印刷性に優れ、環境に優しい軽量で堅固な生分解性卒塔婆を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、次に示される卒塔婆によって前記問題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
(1)見かけ密度が0.2〜1.0g/cm3、かつ発泡平均セル径が1000μm以下の生分解性ポリエステル樹脂組成物の発泡体で構成された生分解性卒塔婆。
(2)生分解性ポリエステル樹脂組成物が、生分解性ポリエステル(A)100質量部と、(メタ)アクリル酸エステル(B1)及び/又はグリシジルエーテル(B2)0.01〜5質量部とからなる(1)記載の生分解性卒塔婆。
(3)生分解性ポリエステル(A)がポリ乳酸系重合体であることを特徴とする(2)記載の生分解性卒塔婆。
(4)卒塔婆の表面が、親水処理または放電加工処理されている(1)〜(3)いずれかに記載の生分解性卒塔婆。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硬固でかつ木材に近い軽量性を有し、表面の筆記性・印刷性に優れ、自然分解やコンポスト分解などのクリーンで有効な分解が行える環境に優しい卒塔婆が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の生分解性卒塔婆は、生分解性ポリエステル樹脂組成物の発泡体からなる。
【0013】
生分解性ポリエステル樹脂組成物の主成分である生分解性ポリエステルは、脂肪族ポリエステル重合原料に由来する成分を樹脂成分の主成分として70質量%以上有するものであって、脂肪族ポリエステルのブロック及び/またはランダム共重合体、および脂肪族ポリエステルに他の成分、例えば芳香族ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオルガノシロキサン等を30質量%未満(ブロックまたはランダム)共重合したもの及び/またはそれらの混合したものである。
【0014】
具体的な生分解性ポリエステル(A)としては、(1)グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチルカルボン酸などのヒドロキシアルキルカルボン酸、(2)グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン、(3)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどの脂肪族ジオール、(4)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレン/プロピレングリコール、ジヒドロキシエチルブタンなどのようなポリアルキレンエーテルのオリゴマ−、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテルなどのポリアルキレングリコール、(5)ポリプロピレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリヘキサンカーボネート、ポリオクタンカーボネート、ポリデカンカーボネート等のポリアルキレンカーボネートグリコール及びそれらのオリゴマ−、(6)コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸などから形成されるものを挙げることができる。
【0015】
上記の生分解性ポリエステルの中でも、ポリ乳酸は、植物由来の資源循環型樹脂であり、本発明の卒塔婆として使用する樹脂としては最適である。また、ポリ乳酸は、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリD、L−乳酸またはこれらの混合物も用いることができる。これらのポリ乳酸の中で、L−乳酸、D−乳酸のどちらか一方の単位が90モル%以上であると比較的融点が高いため、使用上あるいは輸送上における耐熱性の観点からより好適に卒塔婆として用いることができる。さらに、この乳酸系重合体の性能を損なわない程度にヒドロキシカルボン酸類、ラクトン類等のコモノマー等との共重合体を用いてもよい。共重合可能なヒドロキシカルボン酸類、ラクトン類としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ絡酸、4−ヒドロキシ絡酸、4−ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、グリコリド、プロピオラクトン、ブチロラクトン、カプロラクトン等が挙げられる。
【0016】
これらの乳酸系の重合体は、従来公知の方法で乳酸から製造することができる。重合法の例としては、例えば、乳酸を直接脱水縮合して行う方法や、乳酸の環状二量体であるラクチドを開環重合して得る方法等が挙げられる。また、これらの重合反応を溶媒中で行ってもよく、必要な場合には触媒や開始剤を用いて反応を効率よく行ってもよい。これらの方法は、必要な分子量や溶融粘度を考慮して適宜選択すればよい。
【0017】
本発明における生分解性卒塔婆において、これを構成する発泡体のみかけ密度は、軽量性の観点から、0.2〜1.0g/cm3の範囲であることが好ましく、0.3〜0.8g/cm3の範囲であることがより好ましく、0.35〜0.6g/cm3の範囲がさらに好ましい。一般に、木材の比重は、種類によっても異なるが、0.2〜0.7g/cm3程度あり、本発明に規定する見かけ密度範囲とすることで、ほぼ木材と同様の軽量性を有する卒塔婆を得ることができる。
【0018】
生分解性ポリエステル樹脂組成物の見かけ密度を上記のような範囲とするためには、生分解性ポリエステル樹脂組成物の発泡倍率を1.2〜5.0倍の範囲とすることが好ましく、1.5〜3.5倍であることがより好ましい。発泡倍率が1.2未満では、木製の卒塔婆と比較した場合に重くなり、必ずしも軽量とはいえない場合がある。一方、発泡倍率が5.0を越えると、強度が低下する場合がある。
【0019】
また、生分解性ポリエステル樹脂組成物からなる発泡体の発泡平均セル径は1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。発泡平均セル径が1000μmを超えると、発泡体の表面平滑性が損なわれ、強度も低下する場合がある。適度な筆記性や印刷性を得るために、発泡セル径は小さいほど好ましい。下限は特に限定されないが、後述の一般的な製法で得られる発泡平均セル径の下限は100μm程度である。
【0020】
本発明に規定する範囲の見かけ密度と発泡セル径を実現するために好ましい樹脂組成物は、上記した生分解性ポリエステル(A)に対して、架橋剤としての(メタ)アクリル酸エステル(B1)及び/又はグリシジルエーテル(B2)を配合した生分解性ポリエステル樹脂組成物である。(B1)成分、(B2)成分は、これらの合計量が、生分解性ポリエステル(A)100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲となるよう配合することが好ましく、0.05〜3質量部がより好ましい。このような範囲の配合量とすることで、溶融粘度、歪み硬化性といった樹脂特性が改良され、見かけ密度や発泡セル径を本発明の範囲内に制御しやすくなる。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル(B1)成分としては、生分解性樹脂との反応性が高く、モノマーが残りにくく、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、又は1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましい。具体的な化合物としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、(これらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体でも構わない)、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられる。
【0022】
また、グリシジルエーテル(B2)成分としては、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセリン、エピクロルヒドリン0〜1モル付加物のポリグリシジルエーテル、エチレングリコール、エピクロルヒドリン0〜2モル付加物のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0023】
また、(B1)、(B2)成分のような架橋剤を用いる場合には、架橋助剤として、有機過酸化物(C)を併用することが好ましい。有機過酸化物の使用により、架橋効率を高めることができ、より好ましい溶融粘度と歪み硬化性を生分解性ポリエステル樹脂組成物に付与することができる。有機過酸化物(C)の配合量は、脂肪族ポリエステル(A)100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0024】
有機過酸化物(C)の例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)メチルシクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。
【0025】
さらに、発泡体の発泡セル径を細かくするために、無機充填剤を添加することが好ましい。無機充填剤としては、安全で安価であることから、タルクや炭酸カルシウムが好適に使用される。無機充填剤の粒径は、特に限定されないが、1〜10μmの範囲が好ましい。1μm以上であれば、セル径を細かくするのに有効である。一方、粒径が10μm以下であれば、卒塔婆の表面状態が良好に保たれる。無機充填剤の添加量は、樹脂成分100重量部に対して0.1〜5質量部の範囲が適当である。
【0026】
本発明において、生分解性ポリエステル樹脂組成物中に、必要に応じて、例えば熱安定剤、艶消し剤、可塑剤、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、帯電防止剤、香料、末端封鎖剤、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、充填材その他類似のもので本発明を損なわない範囲内に添加することができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物或いはこれらの混合物を使用することができる。無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、ワラステナイト、炭酸亜鉛、珪藻土、焼成パーライト、カオリンゼオライト、ベントナイト、クレイ、シリカ微粉末、ホウ砂、ホウ酸亜鉛、水酸化アルミニウム、ガラス、層状珪酸塩、石灰石、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシュウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ハイドロタルサイト、酸化アルミニウム、炭酸第二鉄、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。また有機系では、木炭、セルロース、でんぷん、木粉、おから、籾殻、フスマ、セルロース誘導体、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0027】
生分解性ポリエステル樹脂組成物としての溶融粘度は、MFR値0.01〜50g/10分であることが好ましく、0.10〜30g/10分、さらに0.50〜10g/10分であることがより好ましい。MFR値が0.01g/10分未満では樹脂の流動性が低下するため、操業性が劣る恐れがある。50g/10分を超えると溶融粘度が低すぎて発泡体や成形体の機械的物性の低下や操業性が低下するため好ましくない。
【0028】
また、生分解性ポリエステル樹脂としては、その融点より10℃高い温度での伸長粘度測定で得られる時間―伸張粘度の対数プロット(図1参照)曲線において、屈曲点が現れるまでの伸張初期の線形領域の傾きa1と屈曲点以降の伸長後期の傾きa2との比(a2/a1)で表される歪み硬化係数が、1.5〜50であるような歪み硬化性が発現されることが好ましい。より好ましい歪み硬化係数は1.5〜30である。歪み硬化係数が1.05未満であると、発泡成形時に破泡を起こすため、卒塔婆の表面平滑性が損なわれる傾向がある。一方、歪み硬化係数が50を超えると成形時にゲルの凝集が強くなり、流動性も大きく低下して発泡成形性が悪くなる傾向がある。
【0029】
生分解性ポリエステル樹脂組成物を発泡体とするためには、発泡剤を用いるのが好ましい。発泡剤としては、熱分解型発泡剤や揮発型発泡剤が好適に使用される。熱分解型発泡剤の例としては、アゾジカルボンアミドやバリウムアゾジカルボキシレートに代表されるアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンに代表されるニトロソ化合物、4,4'−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)やヒドラジカルボンアミドに代表されるヒドラジン化合物、あるいは炭酸水素ナトリウムなどの無機系の発泡剤などを挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いることができる。また、揮発型発泡剤の例としては、炭酸ガス、窒素、空気等の無機不活性ガス、プロパン、ブタン、ペンタン、へキサン、メタンなどの各種炭化水素、フロン化合物、エタノールやメタノール等の各種アルコール類が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
発泡剤の添加量は、樹脂組成物成分100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。0.05質量部未満であると、発泡倍率が不足する傾向があり、一方、5質量部を超えると、卒塔婆としての強度が低下する傾向にある。
【0031】
本発明の生分解性卒塔婆は、卒塔婆の表面に、親水処理または放電加工処理が施されていることが好ましい。親水処理方法としては、生分解性ポリエステル樹脂に、親水基を有するポリマーを共重合したり、親水性ポリマーを練り込んだり、親水性ポリマーを表面にコーティングするなどが挙げられる。放電加工処理方法としては、コロナ放電、プラズマ放電等が挙げられ、特にコロナ放電による処理が好ましい。これらの親水加工を施すことにより、卒塔婆表面に水墨で戒名等を書いたり、家紋等の様々なマークを印刷したりすることがさらに容易となる。さらに、補助的に木目を印刷すれば、より鮮明で複雑な木目模様を実現することもできる。印刷としては通常のグラビア印刷やオフセット印刷が好適に使用することができる。
【0032】
次に、本発明の生分解性卒塔婆の好ましい製造法について説明するが、特にこの方法に限定されるものではない。
【0033】
一例として、まず、脂肪族ポリエステル(A)と、(メタ)アクリル酸エステル(B1)及び/又はグリシジルエーテル(B2)、有機過酸化物(C)、着色剤等を、溶融混練して、生分解性ポリエステル樹脂組成物を作製する。樹脂以外の副原料は、固体状であればドライブレンドや粉体フィーダーを用いて供給する方法が望ましく、液体状の場合には、液体注入ポンプを用いて混練機に注入することができる。また、熱分解型発泡剤を用いて生分解性ポリエステル樹脂組成物を発泡する場合には、前記溶融混練の際に、熱分解型発泡剤を加えておいてもよい。熱分解型発泡剤の発泡開始温度は、混練時に発泡が起こって発泡成形時に問題が生じないよう、混練温度よりも高いものを選ぶのが好ましい。
【0034】
架橋剤である(メタ)アクリル酸エステル化合物及び/又はグリシジルエーテルや有機過酸化物を使用する場合には、これらを適当な媒体に溶解又は分散して用いると、混練中の操業性を大幅に向上させることができるため好ましい。前記媒体としては、一般的なものが用いられ、特に限定されないが、生分解性ポリエステルとの相溶性に優れた可塑剤が好ましく、また生分解性のものが好ましい。例えば、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体、脂肪族オキシエステル誘導体、脂肪族ポリエーテル誘導体、脂肪族ポリエーテル多価カルボン酸エステル誘導体などから選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネートなどが挙げられる。可塑剤の使用量としては樹脂100質量部に対し20質量部以下が好ましく、0.1〜10質量部がさらに好ましい。架橋剤の反応性が低い場合には可塑剤を使用しなくてもよいが、反応性が高い場合には0.1質量部以上用いることが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル化合物と過酸化物は別々に注入してもよい。
【0035】
次に、得られた生分解性ポリエステル樹脂組成物を発泡させる。熱分解型発泡剤を用いる場合、生分解性ポリエステル樹脂組成物と熱分解型発泡剤とをブレンドし、熱分解型発泡剤の発泡開始温度よりも高い温度にて樹脂を溶融し、一般的な押出し発泡装置により、スリットダイから押し出して、卒塔婆として使用可能な厚みが0.5〜2.0cmで、幅が5〜10cmの板状の生分解性ポリエステル樹脂組成物発泡体を作製することができる。このとき、厚みの薄いシート状の発泡体を製造し、後で積層・熱圧着することにより、厚みが0.5〜2.0cmの板材とすることもできる。押出発泡装置としては、単軸あるいは2軸の押出機を用いることができ、必要に応じて、タンデムの押出機を用いてもよい。また、揮発型発泡剤を用いる場合、押出機の途中から揮発型発泡剤を注入して発泡することも可能である。このとき、熱分解型発泡剤あるいは揮発柄型発泡剤の添加量あるいは注入量を適宜選択することにより、発泡倍率を調整することができる。
【0036】
得られた生分解性ポリエステル樹脂組成物の発泡体は、同じ工程あるいは別の工程において、外表面に親水加工、放電加工や印刷等が施され、適切な長さ(短いもので30cmから、長いもので200cmを超える)に切断される。さらに、必要に応じ、外側面に五輪を表す刻みを入れたり、上下端を尖らせたりする加工を施してもよい。
【0037】
また、必要に応じて、紙やプラスチックフィルムからなるシートを発泡体表裏面に配設してもよい。これらのシートを発泡体表裏面に配設する方法としては、既存の接着剤を用いて貼り付けたり、熱圧着して貼り付けたりすることができる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各種特性の測定及び評価は、次の方法により実施した。
(1)分子量:
示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置(島津製作所製)をもちい、テトラヒドロフランを溶出液として40℃で標準ポリスチレン換算により求めた。
(2)溶融粘度(MFR)(g/10分):
JIS K7210に従い、付属書A表1のFの条件(温度:190℃、荷重:2.16kg)にて測定した。
(3)歪み硬化係数:
生分解性ポリエステル樹脂組成物の融点より10℃高い温度での伸長粘度を測定し、得られた時間―伸張粘度の対数プロット(図1参照)曲線において、屈曲点が現れるまでの伸張初期の線形領域の傾きa1と屈曲点以降の伸長後期の傾きa2との比(a2/a1)を歪み硬化係数とした。
(4)曲げ強度:
ASTM−790に準じて150mm×12.5mm×3.2mmの試験片を作製し、変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ強度を測定した。
(5)見かけ密度(g/cm3):
発泡体を水中に浸漬した際に増加する体積を測定し、この値で発泡体の質量を割って見かけ密度を算出した。
(6)発泡倍率:
発泡体を構成する樹脂の真密度を前記発泡体の見掛け密度で割って算出した。
(7)発泡平均セル径:
発泡体の断面を電子顕微鏡にて観察し、ランダムに10個のセルを選択し、それぞれのセルの短辺と長辺を測定し、その平均値をセル径とした。さらに、10個のセル径の平均値から平均セル径を算出した。
(8)表面平滑性:
○:表面にザラザラ感や凹凸がなく、平滑性に優れた表面状態である。
×:表面にザラザラ感や凹凸があり、平滑性に劣る表面状態である。
(9)筆記性・印刷性:
○:水墨あるいはインキのぬれが良好で、にじみやブレがなく、文字や模様を正確に識別できる。
△:水墨あるいはインキのぬれが比較的良好で、にじみやブレが少なく、文字や模様を識別できる。
×:水墨あるいはインキのぬれが悪く、にじみやブレがあり、文字や模様を識別できない。
(10)生分解性評価:
試料片(縦10cm×横5cm×厚み1cm)を採取し、家庭用生ゴミよりなる発酵コンポストにて、ISO14855に準じてコンポスト処理を行った。試料片を、温度58℃で45日処理した後の生分解性を評価すると共に、コンポスト中より掘り出して、目視観察も行って、総合的に生分解性を判定した。
◎:殆ど崩壊しており、生分解率70%以上。
○:部分的又は半分程度崩壊し、生分解率40%以上70%未満。
△:形態を保持しているが、生分解率10%以上40%未満。
×:形態は全く変化なし。生分解率10%未満。
実施例及び比較例に用いた原料は次の通りである。
(A)生分解性ポリエステル樹脂
・A1:ポリL−乳酸(重量平均分子量18万、D体1%:カーギル・ダウ社製)
・A2:ポリL−乳酸(重量平均分子量12万、D体1%:カーギル・ダウ社製)
・A3:ポリL−乳酸(重量平均分子量8万、D体1%:カーギル・ダウ社製)
(B)(メタ)アクリル酸エステル化合物:
・PEGDM:ポリエチレングリコールジメタクリレート(日本油脂製)
・GM:グリシジルメタクリレート(日本油脂製)
(C)有機過酸化物:
・PO1:ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製)
(D)発泡剤
・炭酸ガス(昭和炭酸製)
・ADCA:アゾジカルボンアミド(永和化成製)
【0039】
実施例1
100質量部の生分解性ポリエステル樹脂A1に対して、着色剤として茶系顔料0.05質量部、無機充填剤として平均粒径2.5μmのタルク(林化成社製)1.0質量部をドライブレンドしたのち、2軸混練機(PCM−30、池貝製、ダイス;0.4mm径×3孔)にて混練温度210℃、ダイ温度180℃、吐出量10kg/hrの条件で溶融混練し、冷却バスで冷却後、ペレタイザーでカットして生分解性ポリエステル樹脂組成物のペレットを採取した。また、(メタ)アクリル酸エステル成分としてPEGDMと、有機過酸化物成分としてPO1と、希釈剤成分としてアセチルトリブチルクエン酸とを質量比1/2/5とした溶液を、液体定量ポンプにて2軸混練機の途中より注入した。このとき、(メタ)アクリル酸エステル成分の配合量は0.15質量部であった。得られた生分解性ポリエステル樹脂組成物は乾燥温度60℃、乾燥時間48hの条件で真空乾燥を実施した。
【0040】
次に、得られた前記樹脂組成物を、連続押出発泡成形装置(スリットダイ;幅7cm、間隔5mm)を用い、発泡剤として樹脂組成物100質量部あたり炭酸ガス0.3質量部を発泡成形機の途中から注入し、押出温度220℃、ダイ温度165℃、吐出量20kg/hrの条件で発泡成形することにより、幅7.5cm、厚み10mmの板状発泡体を作製した。得られた板状発泡体に、コロナ放電加工装置を用いて、コロナ放電処理を実施した。処理後、電動カッターにより切断し、長さ180mmの卒塔婆を作製した。
【0041】
得られた卒塔婆の評価結果を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2〜5
生分解性ポリエステル樹脂の種類、架橋剤の種類・濃度、発泡剤種類・濃度などを表1に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして卒塔婆を作成した。各種評価結果を表1に示した。
【0044】
比較例1〜3
実施例1〜3と同様の組成で、架橋剤・架橋助剤を用いずに実施例1と同様の操作を行って卒塔婆を作成した。各種評価結果を表1に示す。
【0045】
表1から明らかなように、実施例1〜5で得られた卒塔婆は、樹脂組成物の歪み硬化係数が高く、発泡状態は良好であった。すなわち、良好な発泡倍率を有し、木に近い見かけ密度を有していた。また、セル径も小さく表面の平滑性に優れており、水墨・インキでの筆記性及び印刷性にも優れていた。また、生分解性も良好であった。
【0046】
実施例2〜3では、分子量の異なるポリL−乳酸を用い、また、実施例4〜5では、架橋剤、発泡剤の種類を変更したが、いずれも実施例1と同様に良好な卒塔婆が得られた。
【0047】
比較例1〜3では、架橋剤・架橋助剤を用いずに卒塔婆の作成を行ったところ、発泡が起こらず、見かけ密度が大きく、また、破泡による表面のザラザラ感があった。また、セル径も大きく本発明で規定する範囲を上方に超えていたため、表面のデコボコが目立ち、表面の平滑性に欠け、筆記性及び印刷性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】屈曲点が現れるまでの伸長初期の線形領域の傾きa1と屈曲点以降の伸長後期の傾きa2との比(a2/a1、歪み硬化係数)を求める際の伸長時間と伸長粘度の模式図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
見かけ密度が0.2〜1.0g/cm3、かつ発泡平均セル径が1000μm以下である生分解性ポリエステル樹脂組成物の発泡体で構成された生分解性卒塔婆。
【請求項2】
生分解性ポリエステル樹脂組成物が、生分解性ポリエステル(A)100質量部と、(メタ)アクリル酸エステル(B1)及び/又はグリシジルエーテル(B2)0.01〜5質量部とからなる請求項1記載の生分解性卒塔婆。
【請求項3】
生分解性ポリエステル(A)がポリ乳酸系重合体であることを特徴とする請求項2記載の生分解性卒塔婆。
【請求項4】
卒塔婆の表面が、親水処理または放電加工処理されている請求項1〜3いずれかに記載の生分解性卒塔婆。

【図1】
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【公開番号】特開2006−6628(P2006−6628A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188032(P2004−188032)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】