説明

生分解性樹脂組成物および生分解性フィルム

【課題】脂肪族ポリエステルの生分解性を改善し、それから得られたフィルムの水蒸気バリア性を改善し、さらに、二酸化炭素を原料とする脂肪族ポリカーボネートを積極的に活用することにより地球環境問題の一つの改善策となり、経済性にも優れた生分解性樹脂組成物および生分解性フィルムを提供すること。
【解決手段】脂肪族ポリエステル(A)5〜99質量%および二酸化炭素とエポキシドの交互共重合で得られた脂肪族ポリカーボネート(B)95〜1質量%からなる組み合わせを含むことを特徴とする生分解性樹脂組成物および同組成物を成形してなる生分解性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂組成物および生分解性フィルムに関するものである。さらに詳しくは、生分解性や成形性が改良された生分解性樹脂組成物および水蒸気バリア性や機械的特性が改良された生分解性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂は、水中や土中で有害物を生成することなく比較的容易に分解することが知られている。そのため、ゴミ処理問題などの環境保全の面から世界的に注目されている。これらの中でも、脂肪族ポリエステル樹脂は、ポリエチレンに近い物性を有することもあって、該樹脂を成形して得られるフィルムは、農業資材、土木資材、植生資材、包装材等のフィルム用途として将来が期待されている(例えば、特許文献1および2参照)。
しかしながら、従来の生分解性フィルムは、その化学構造がエステル結合を有しており極性があることから本質的に水蒸気の透過しやすいフィルムである。
この特性は、場合によっては、不織布等に求められる特性として、中身が蒸れないなどの利点もあるが、容器にした場合、内容物の液体が透過して減ってしまうという問題や、農業用マルチフィルムとして使用した場合、土壌が乾燥するなどの問題があった。
一方、地球環境におけるもう一つの大きな問題として、炭酸ガスの排出が挙げられる。産業、交通等の発達によりエネルギー消費が著しく増加し、排出される炭酸ガス量が増えることにより温室効果による地球環境の破壊が進んでいる。京都議定書に基づき、各国で排出削減の努力がなされているが、排出量を減らすだけでは限界がある。そのため炭酸ガスを原料としたポリマーの開発はカーボンニュートラルとして注目を浴びている。カーボンニュートラルの一つの方法として、植物由来原料である乳酸を原料にしたポリ乳酸の研究が盛んに行われている。さらに直接的に炭酸ガスを原料とするポリマーとして脂肪族ポリカーボネートが上げられる。これは、炭酸ガスとエポキシ化合物とを原料として、高度に交互構造が進行した共重合体である。この重合体は、主鎖にエステル結合が存在するため、光崩壊させることができ、また完全に生分解性のプラスチックでもある。このような高分子量の共重合物のフィルムは、良好な透明性を有し、しかも酸素ガスと水蒸気を透過させない優れた機能を有しているから、炭酸ガスの有効利用が可能で、使い捨ての医薬品および食品包装材料などの領域において、広範囲の応用が期待されている。
実際に非特許文献1〜8あるいは特許文献3に示されている通り重合に関する研究開発が精力的に行われている。しかし、実用的な意味では、発泡断熱体(特許文献4)、高分子固体電解質(特許文献5)、ポリマー分散液(特許文献6)などの技術は開示されているが、組成物やフィルムに関する技術の開示はない。これは、フィルムなどの成形品とするには、一般にガラス転移温度が低く、結晶性も低いことから、ペレット同士のブロッキングや、成形したフィルムのブロッキングなど、成形性および物性に問題があるためである。
【0003】
【特許文献1】特開平5−271377号公報
【特許文献2】特開平6−170941号公報
【特許文献3】特開2004−263168号公報
【特許文献4】特2746069号公報
【特許文献5】特3384174号公報
【特許文献6】特3197353号公報
【非特許文献1】Macromolecules: 24,5305,1991
【非特許文献2】Macromolecules: 30,3147,1997 20
【非特許文献3】J.Polym.Sci.: PartA: Polym.Chem.37,1863,1999
【非特許文献4】Macromolecules: 28,7577,1995
【非特許文献5】Macromolecules: 32,2137,1999
【非特許文献6】Journal of American Chemical Society: 1998,120,4690
【非特許文献7】Journal of American Chemical Society: 1999,121,107
【非特許文献8】Journal of American Chemical Society: 1998,120,11018
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は脂肪族ポリエステルの生分解性や同ポリエステルから形成されたフィルムの水蒸気バリア性を改善し、あるいは、脂肪族ポリカーボネートの成形性を改善するとともに同ポリカーボネートから得られたフィルムのブロッキングを防ぎ、かつ、二酸化炭素を原料とするポリマーを積極的に活用することにより地球環境問題の一つの改善策となる生分解性樹脂組成物および生分解性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、脂肪族ポリエステルと特定の脂肪族ポリカーボネートからなる樹脂組成物によって上記問題を解決することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下、
(1)脂肪族ポリエステル(A)5〜99質量%および二酸化炭素とエポキシドの交互共重合で得られる脂肪族ポリカーボネート(B)95〜1質量%からなる組み合わせを含むことを特徴とする生分解性樹脂組成物、
(2)生分解速度比が前記(A)単独の場合の0.1〜0.6である上記(1)に記載の生分解性樹脂組成物、
(3)前記エポキシドがプロピレンオキシドである上記(1)または(2)に記載の生分解性樹脂組成物、
(4)前記(B)がそれ自身および前記(A)をさらに重合あるいは解重合させるに足る量の触媒を実質的に含まない上記(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物、
(5)前記(A)が脂肪族ポリカルボン酸と脂肪族ポリオールの共重合により得られ、重量平均分子量が30,000〜300,000の脂肪族ポリエステルである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物、
(6)前記(A)が脂肪族ポリカルボン酸と脂肪族ポリオールの共重合により得られた重量平均分子量が30,000〜50,000のプレポリマーを、さらにポリイソシアネートでカップリングして得られた重量平均分子量が100,000〜300,000の脂肪族ポリエステルである(1)〜(5)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物、
(7)前記(A)が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリ3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシヘキサノエート共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンおよびこれらの共重合体から選ばれる1種類以上である(1)〜(6)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物、
(8)前記(A)と前記(B)をドライブレンドしてなる上記(1)〜(7)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物、
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を成形してなる生分解性フィルム、および
(10)水蒸気バリア性(JIS Z0208に準拠)が前記(A)単独の樹脂から得られるフィルムに対し1.2〜20.0倍である上記(9)に記載の生分解性フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、脂肪族ポリエステルの生分解速度を適度に低下させ、それをフィルムに成形した場合の水蒸気バリア性を改善し、あるいは、脂肪族ポリカーボネートの成形性を改善し、二酸化炭素を原料とするポリマーを積極的に活用することにより地球環境問題の一つの改善策となり、かつコンポストバッグ、農業用フィルムおよび包装材料などに好適で、経済性にも優れた、生分解性樹脂組成物および生分解性フィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明の生分解性樹脂組成物における一方の樹脂成分(A)の脂肪族ポリエステルは、特に制限はないが、それ自身生分解性を有するものであれば良く、成形性を考慮すると熱可塑性であることが好ましい。
それらは化学合成系樹脂、微生物系樹脂、天然物利用系樹脂等のいずれに属する樹脂でも良い。例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート−アジペート、ポリエチレンサクシネートのようなポリオールとポリカルボン酸との重縮合によって得られる脂肪族ポリエステル、ポリカプロラクトンやポリ乳酸のようなオキシカルボン酸の分子間重合体や共重合体、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシヘキサノエート共重合体、ポリヒドロキシブチレート・バリレート共重合体等を挙げることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いても良い。
中でも、フィルム成形性、物性を考えた場合、脂肪族ポリエステルとしては、脂肪族ポリカルボン酸と脂肪族ポリオールの共重合により得られ、融点が50〜180℃であり、重量平均分子量(以下、Mwと記す場合がある)は30,000以上であることが良好な成形品を得る点で好ましく、100,000〜300,000程度であることが良好な成形品を得る点でさらに好ましい。この程度の重量平均分子量を有する脂肪族ポリエステルは特殊な装置を使用して特殊な条件下、1段で得ることもできるが、脂肪族ポリオールと脂肪族ポリカルボン酸とを重縮合させて重量平均分子量が30,000〜50,000程度のプレポリマーを製造した後、ポリイソシアネートによりカップリングする方法によっても得られ、このような脂肪族ポリエステルを用いるのが経済性の観点から特に好ましい。
脂肪族ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンポリオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール(ジオール)類が挙げられる。脂肪族ポリカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸のようなジカルボン酸並びにこれらの無水物等が挙げられる。
また、その他成分として、3官能または4官能を有するポリオール、ポリカルボン酸またはオキシカルボン酸を少量添加して共重合させたものでもよい。
また、生分解性を損ねない範囲で芳香族ポリオールまたは、芳香族ポリカルボン酸成分を含んでいてもよい。
【0008】
重縮合型の脂肪族ポリエステルとしては、市販品があり、例えば、昭和高分子(株)製の"ビオノーレ"シリーズがよく知られている。
また、ポリカプロラクトンの市販品としては、例えば、ダイセル化学工業(株)製の"セルグリーンPH"シリーやユニオンカーバイド社製の"Tone"シリーズなどが挙げられる。ポリ乳酸の市販品としては、豊田自動車(株)製の"U'z"シリーズ、三井化学(株)製の"レイシア"シリーズやカーギル・ダウ社の"Nature Works"シリーズなどが挙げられる。
【0009】
本発明の生分解性樹脂組成物におけるもう一方の成分(B)の二酸化炭素とエポキシドの交互共重合で得られる脂肪族ポリカーボネートで、−O−R−O−CO−(式中、Rは、置換又は非置換の、直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基を表し、その総炭素数は好ましくは2〜35である)で示される繰り返し単位を有するものであれば、特に制限はない。
成分(B)の脂肪族ポリカーボネートは、通常、温度は−30〜220℃、重合触媒存在下、二酸化炭素とエポキシドとの交互共重合によって製造される。重合触媒としては、有機亜鉛化合物と2価以上の活性水素を有する化合物との混合物(たとえば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛等と水との二元系触媒)、又は同二元系触媒にアルコール又はキレート化合物を添加した三元系触媒(たとえば、トリクロロ酢酸イットリウム-グリセリン-ジエチル亜鉛)、亜鉛アルコキシド、アルキルリチウム、及びこれらと水の混合物、金属酸化物担持の有機亜鉛化合物、亜鉛酢酸塩、水酸化亜鉛と脂肪族ジカルボン酸の反応混合物、または金属酸化物担持した亜鉛ハロゲン化物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物と水の二元系触媒、またこれにアルコール又はキレート化合物を添加した三元系触媒、アルミニウムトリアルコキシド、ジアルキルアルミニウムアルコキシド、ジアルキルアルミニウムヒドリド、アルキルアルミニウムジアルコキシド、メチルアルミノキサン、有機アルミニウム硫酸塩、アルキルマグネシウム、及びそれらと水の混合物、その他の還元能を有する有機、無機化合物等が挙げられる。上記の中で、交互共重合性を高めるという観点では、トリクロロ酢酸イットリウム−グリセリン−ジエチル亜鉛のような亜鉛化合物を含む三元系触媒を用いるのが好ましい。
重合触媒は、エポキシドのモル数に対し、好ましくは0.0001〜10当量、さらに好ましくは0.002〜2当量である。
用いられた重合触媒は除去(脱灰処理)するのが好ましく、除去することにより成分(A)および成分(B)のさらなる重合や解重合が防止され、本発明の生分解性樹脂組成物およびそれから得られた生分解性フィルム等の品質の安定性を確保することができる。触媒の除去は通常、メタノール等成分(B)の貧溶媒を成分(B)に対して質量基準で通常2〜10倍量、好ましくは3〜8倍量程度添加して洗浄することにより行なわれる。
なお、本発明でいう「さらに重合あるいは解重合させるに足る量の触媒を実質的に含まない」とは成分(B)中に残存している触媒が実質的に触媒作用を示さない量、具体的には100ppm(質量基準)以下であることを意味する。
【0010】
成分(B)の脂肪族ポリカーボネートの製造に用いるエポキシドは、モノエポキシドが好ましく、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキサンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシド、3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド、メチルグリシジルカーボネートなど、エチルグリシジルカーボネート、コレステリルグリシジルカーボネート、好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロヘキセンオキシドが挙げられる。これらの中で、入手のし易さの観点から、特にエチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましく用いられる。
上記のエポキシドは単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して用いてもよい。二酸化炭素については、特に制限はなく、通常市販されている純度のものを使用することができる。
本発明に用いられる成分(B)の脂肪族ポリカーボネートは機械的物性およびフィルム成形安定性の観点から、重量平均分子量100,000〜1,000,000のものが好ましく、さらに好ましくは、150,000〜500,000である。
【0011】
本発明の生分解性樹脂組成物中の成分(A)と成分(B)の配合割合としては、特に、同樹脂組成物を成形して生分解性フィルムを製造する際の成形性と得られる生分解性フィルムの機械物性の観点から、成分(A)と成分(B)との合計量に基づき、成分(A)が5〜99質量%、好ましくは60〜80質量%である。
脂肪族ポリエステルを5質量%以上とすることにより、ペレットのブロッキングを防止でき、かつ、生分解性フィルムを製造する際の成形性の向上効果が得られる。
また、脂肪族ポリエステルを99質量%以下とすることにより、本発明の樹脂組成物から形成された生分解性フィルムにおいて水蒸気バリア性の向上効果が得られる。
本発明の生分解性樹脂組成物はそれから形成されたフィルムの水蒸気バリア性が成分(A)単独の樹脂から形成されたフィルムの水蒸気バリア性の1.2〜5.0倍であることが好ましく、生分解速度は成分(A)単独の樹脂から形成されたフィルムに対し0.1〜0.5倍であることが好ましい。本発明の生分解性樹脂組成物において、成分(A)が60〜80質量%、成分(B)が40〜20質量%の場合、上記のような範囲の水蒸気バリア性と生分解速度比を有するものにすることができる。
なお、本発明における水蒸気バリア性はJIS Z0208に準拠して測定した成分(A)単独の樹脂から作製したフィルムの透湿度(水蒸気透過度)を成分(A)と成分(B)からなる樹脂組成物から作製したフィルムの透湿度で除した数値によって表わされる。
また、本発明においては、後記するように、特定の場所の地面から約10cmの深さのところに10cm角に裁断したフィルムをナイロンメッシュに挟んで1ヶ月埋設した後、質量減少量を測定し、その減少割合を生分解速度とする。
【0012】
本発明の生分解性樹脂組成物を製造する方法としては、熱可塑性樹脂を溶融混合する場合に用いられる押出機を使用してもよいが、成分(A)と成分(B)をドライブレンドするだけで生分解性樹脂組成物を調製することもできる。
【0013】
また、本発明の生分解性樹脂組成物には、所望により当該技術分野において通常用いられている添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、可塑剤などを本発明の特性を損なわない範囲で添加してもよい。
具体的には、酸化防止剤としては2,6-ジ−t−ブチル-p-クレゾール、3,5-ジ−t−ブチル-4-ヒドロキシアニソール等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;熱安定剤としてはトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等;紫外線吸収剤としてはp−t−ブチルフェニルサリシレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2,−カルボキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン等;帯電防止剤としてはN,N−ビス(ヒドロキシエチル)アルキルアミン、アルキルアミン、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルホネート等;難燃剤としてはヘキサブロモシクロドデカン、トリス−(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、ペンタブロモフェニルアリルエーテル等;結晶化促進剤としてはタルク、ホロンナイトライト、ポリエチレンテレフタレート、ポリ−トランスシクロヘキサンジメタノールテレフタレート等が挙げられる。
【0014】
次に上記生分解性樹脂組成物を成形してなる本発明の生分解性フィルムについて説明する。
本発明の生分解性フィルムの製造方法としては、例えば、上記のように成分(A)と成分(B)を押出機で温度130〜230℃程度、好ましくは、150〜200℃程度で溶融混合することにより生分解性樹脂組成物とした後、ペレット化やフレーク化することなく押出機出口を公知の水冷または空冷インフレーション成形、Tダイ式フィルム成形機に連結して連続して製造することができる。このようにすれば、熱履歴および剪断履歴が少なくなるため得られたフィルム等の物性が低下するのを防止できるので好ましい。
また、生分解性樹脂組成物を一旦ペレット化またはフレーク化して、その後、公知の水冷または空冷インフレーション成形、Tダイ式フィルム押出成形機を用いて成形しても良い。
さらに、前記のようにドライブレンドにより調製した生分解性樹脂組成物をペレット化やフレーク化することなくインフレーション成形機等に供給してフィルム等を製造してもよい。このようにすれば、連続製造と同様に熱履歴および剪断履歴が少なくなるため得られたフィルム等の物性が低下するのを防止できるので好ましい。
【0015】
上記のように、生分解性樹脂組成物の調製に引き続いて連続してフィルムの製造を行うのでなく、一旦ペレット化またはフレーク化された生分解性樹脂組成物またはドライブレンドした生分解性樹脂組成物を用いてフィルムの製造を行う場合、インフレーション成形、Tダイ式フィルム押出成形機の設定温度は130〜180℃程度、好ましくは、145〜170℃程度である。
本発明の生分解性フィルムは、前記フィルムをさらに一軸又は二軸延伸したものであってもよい。
本発明の生分解性樹脂組成物は、それを生分解性フィルムに成形する際の成形性
が改良されているので、生産性が向上し、かつ、得られた生分解性フィルムは水蒸気バリア性が改良されているので生分解性を有するコンポストバッグ、農業用フィルムおよび包装材料などに好適に用いられる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例になんら限定されるものではない。
【0017】
[実施例1〜9および比較例1〜4]
表1に脂肪族ポリエステル(A)および脂肪族ポリカーボネート(B)の種類、各配合量(質量%)を示す。各例における原料をタンブラー内で混合し、池貝鉄工製のベントを備えたスクリュー径30mmの同方向二軸押出機(L/Dは25)を用いて溶融混練し、生分解性樹脂組成物のペレットを得た。設定温度150〜180℃である。
各例で得られたペレットを温度70℃で3時間除湿空気循環式乾燥機で乾燥後、吉井鉄工社製インフレーション成形機を用いて厚さ30μm、折幅300mm(ブローアップ比=3相当)のフィルムを成形した。成形温度は165℃である。
【0018】
各特性の測定方法を以下に示す。
<MFR>
JIS K7210に準拠し、温度190℃、荷重21.18MPaの条件で測定した。
<生分解性(生分解速度)>
昭和高分子(株)竜野工場内の地面から約10cmの深さのところに10cm角に裁断したフィルムをナイロンメッシュに挟んで1ヶ月埋設した後、質量減少量を測定し、その減少割合を生分解速度とした。農業用マルチなどの実用性として要求される性能を考慮(生分解速度が使用期間より著しく早い場合、破れや、飛散などの問題を生じ、著しく遅い場合、鋤き込んでも分解せずに残る問題がある)して次の4段階のランク付けを行なって表1に示した。また、脂肪族ポリエステル(A)単独の樹脂から得られたフィルムの生分解度で各樹脂組成物のそれから得られたフィルムの生分解度を除して生分解速度比として表1に記載した。
◎:30〜60%未満
○:10〜30%未満
△:60〜80%未満
×:80%以上あるいは10%未満
<フィルム成形性>
以下の通り3段階評価とした。
○:バブルが安定し所定の寸法のフィルムが得られた場合
△:バブルが不安定で所定の寸法のフィルムを調節できなかった場合
×:バブルが立ち上がらずあるいはパンクが生じて成形できなかった場合
<フィルム物性>
以下の方法で測定した結果を元に4段階評価とした。
◎:引張破断強度、20MPa以上、引張破断伸度200%以上、ヤング率250〜500MPa、 インパクト強度2000Ncm/mm以上である場合
○:上記いずれか1項目が未達の場合
△:上記いずれか2項目が未達の場合
×:上記いずれか3項目以上が未達の場合
それぞれの測定方法は以下の通りである。
・引張破断強度:JIS Z−1702に準じて測定した。
・引張破断伸度:JIS Z−1702に準じて測定した。
・ヤング率:ASTM D−822に準じて測定した。
・インパクト強度:JIS P−8134に準じて測定した。
上記の機械的特性はフィルム成形性の評価が○あるいは△で、フィルムが得られた場合のみ各フィルムについて測定した。インパクト強度以外の機械的特性は、いずれも縦方向(フィルム引き取り方向、MD)と横方向(TD)の両者について測定した。
<ブロッキング>
ブロッキングについては成形したフィルムの開口度合いで次のような方法で評価した。製膜した直後のフィルムを下記の判定基準でランク付を行なって表1に示した。
◎:軽く触れるだけで開く
○:普通に指でひねって1〜2回で開く
△:普通に指でひねって3〜5回で開く
×:強く指で6回以上ひねっても開かない
<水蒸気バリア性>
水蒸気バリア性については、成形した厚さ30μのフィルムを用いて、JIS Z0208(40℃)に従って水蒸気透過度(g/m2・day・atm)の測定を行い、脂肪族ポリエステル(A)単独の樹脂から得られたフィルムの水蒸気透過度を各樹脂組成物のそれから得られたフィルムの水蒸気透過度で除して水蒸気バリア性として表1に記載した。下記の判定基準で水蒸気透過度のランク付を行なって併せて表1に示した。
◎:50g/m2・day・atm 未満
○:50〜100g/m2・day・atm未満
△:100〜300g/m2・day・atm未満
×:300g/m2・day・atm 以上
【0019】
<使用材料>
(1) 脂肪族ポリエステル(A):昭和高分子(株)製脱水縮合型脂肪族ポリエステル[ビオノーレ30 01G(融点;95℃、MFR;1.2g/10分)]
この脂肪族ポリエステル(A)を表1中では、A−1と記す。
(2) 脂肪族ポリエステル(A):昭和高分子(株)製脱水縮合型脂肪族ポリエステル[ビオノーレ10 01G(融点;114℃、MFR;1.2g/10分)]
この脂肪族ポリエステル(A)を表1中では、A−2と記す。
(3) 脂肪族ポリエステル(A):ダイセル化学工業(株)製のポリカプロラクトン[プラクセルH−7 (融点;60℃、MFR;3.5g/10分)]
この脂肪族ポリエステル(A)を表1中では、A−3と記す。
(4) 脂肪族ポリカーボネート(B):
三元触媒として、モル比が1:10:20のトリクロロ酢酸イットリウム−グリセリン−ジエチル亜鉛を用いて、ポリプロピレンカーボネートの合成を行った。
触媒の調製は以下の手順により行った。グリセリン:トリクロロ酢酸イットリウムを10:1のモル比で1,4−ジオキサン中に添加し、二酸化炭素の存在条件で、反応混合物の温度を25℃以下に保持し、トリクロロ酢酸イットリウム:ジヒドロカルビル亜鉛のモル比が1:20になるようにジヒドロカルビル亜鉛を滴下して、その後、さらに二酸化炭素の雰囲気で、3時間エージングすることにより、三元触媒懸濁液を調製した。用いた1,4−ジオキサンの量は、ジヒドロカルビル亜鉛0.002〜0.02モルに対して40ミリリットルに相当する量であった。
ポリプロピレンカーボネートの重合は以下のように行なった。
先ず、プロピレンオキシド166gを容量500ミリリットルの圧力釜に仕込んだ。ついで、エージングされた上記三元触媒の有効量が8質量%の触媒懸濁液の、有効触媒量3.0gになる量を添加して、ただちに二酸化炭素を充填し、温度を65℃にして反応を開始した。反応中に消費された二酸化炭素を補充して、反応が終了するまで、釜内の圧力を3.5MPa(絶対圧)、温度を65℃に維持しつつ、共重合反応を10時間行った。
ついで、反応生成物に1.5倍量(質量比)のメタノールを添加して反応を停止させ、さらに反応生成物の5倍量(質量比)のメタノールを添加して洗浄し、乾燥後、白色のポリプロピレンカーボネート98.4gを得た。触媒効率はジエチル亜鉛1モルあたりポリプロピレンカーボネート6,500gであった。ポリプロピレンカーボネートの重量平均分子量は80,000、二酸化炭素の固定率は40質量%以上、交互構造含有量は95%以上であった。
このポリプロピレンカーボネートを表1中では、B−1と記す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示されている結果から、本発明の生分解性樹脂組成物は比較例のものと比べてフィルム成形性に優れ、得られた生分解性フィルムは比較例のものと比べて機械的強度において優れており、さらに、ブロッキング防止性能と水蒸気バリア性能のバランスに優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の生分解性樹脂組成物はフィルム成形性に優れ、得られた生分解性フィルムはブロッキング防止性能と水蒸気バリア性能のバランスに優れており、さらに機械的性能に優れており、コンポストバッグ、農業用フィルムおよび包装材料などとして好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル(A)5〜99質量%および二酸化炭素とエポキシドの交互共重合で得られる脂肪族ポリカーボネート(B)95〜1質量%からなる組み合わせを含むことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
生分解速度比が前記(A)単独の場合の0.1〜0.6である請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシドがプロピレンオキシドである請求項1または2に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)がそれ自身および前記(A)をさらに重合あるいは解重合させるに足る量の触媒を実質的に含まない請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)が脂肪族ポリカルボン酸と脂肪族ポリオールの共重合により得られ、重量平均分子量が30,000〜300,000の脂肪族ポリエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)が脂肪族ポリカルボン酸と脂肪族ポリオールの共重合により得られた重量平均分子量が30,000〜50,000のプレポリマーを、さらにポリイソシアネートでカップリングして得られた重量平均分子量が100,000〜300,000の脂肪族ポリエステルである請求項1〜5のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)が、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリ3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシヘキサノエート共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンおよびこれらの共重合体から選ばれる1種類以上である請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)と前記(B)をドライブレンドしてなる請求項1〜7のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を成形してなる生分解性フィルム。
【請求項10】
水蒸気バリア性(JIS Z0208に準拠)が前記(A)単独の樹脂から得られるフィルムに対し1.2〜20.0倍である請求項9に記載の生分解性フィルム。

【公開番号】特開2008−285521(P2008−285521A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129486(P2007−129486)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】