説明

生分解性樹脂組成物

【課題】結晶化速度が著しく遅いPHA共重合体を主体としながらも結晶性が高く、成形用途において好適に使用可能な生分解性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート共重合体を主体とする生分解性樹脂組成物であって、さらに、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体と、造核剤とを含有することを特徴とする生分解性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性が高く、成形用途において好適に使用可能な生分解性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止、循環型社会の構築に貢献する新たな資源として、植物等の生物由来の樹脂であるバイオマスが注目されている。バイオマスを燃焼すると、石油由来の樹脂と同様に二酸化炭素(CO)が発生するが、植物は、成長過程で光合成によりCOを吸収しており、ライフサイクル全体でみると大気中のCOを増加させず、収支はゼロであると考えられる。このように、COの増減に影響を与えない性質のことをカーボンニュートラルと呼んでいる。このカーボンニュートラルという思想が近年普及し、様々な植物由来樹脂が開発されている。これらのうち溶融成形が可能な植物由来樹脂として、例えば、でんぷん、グルコース、ポリ3−ヒドロキシアルカノエート、ポリ乳酸などの脂肪族系ポリステルが知られている。
【0003】
脂肪族系ポリエステルのうちポリ3−ヒドロキシアルカノエートは微生物から培養できるバイオポリマーとして、溶融成形可能な植物由来樹脂の中でも高く期待されている。なかでもPHBH共重合体:ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体は良好な機械的物性を有しているものであり、溶融成形材料としての今後の展開が特に期待されている植物由来樹脂である。しかしながら、PHBH共重合体には産業用の成形材料として用いるには結晶化速度が著しく遅いという問題があった。
【0004】
一般に、造核剤を添加すると結晶性重合体の結晶化が促進され得ると考えられており、適切な造核剤を添加することによって、核生成密度、及び晶析速度を向上させることができる。ポリ3−ヒドロキシアルカノエートの1種であるPHB重合体:ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体の結晶化に関しては、タルク、窒化ホウ素、サッカリン等数多くの種類の造核剤が有効に作用することが知られている(非特許文献1及び2を参照)。
【0005】
しかしながら、PHBH共重合体等のポリ3−ヒドロキシアルカノエート共重合体(以下PHA共重合体ともいう)の結晶化を促進する方法については知られていない。
【0006】
なお、特許文献1では、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA−X)に、PHA−Xよりも融点が高いポリヒドロキシアルカノエート(PHA−Y)を添加し、PHA−Yの融点以下で成形加工することで、融け残った結晶を核剤として利用する方法が示されているが、成形加工温度に制約があり実用的な成形加工方法ではない。
【特許文献1】米国特許第5,693,389号明細書
【非特許文献1】R.E.Withey,J.N.Hay,Polymer,1999,40,5147-5152
【非特許文献2】Y.He,Y.Inoue,Biomacromolecules,2003,4,1865−1867
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らがPHBH共重合体等のPHA共重合体の結晶化を促進する方法について検討したところ、PHBH共重合体等のPHA共重合体、特に3HH単位の含量が比較的高いPHBH共重合体に対しては、上述した造核剤が有効に機能しない、すなわち造核剤を添加しても結晶化が促進されないことが判明した。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、結晶化速度が著しく遅いPHA共重合体を主体としながらも結晶性が高く、成形用途において好適に使用可能な生分解性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PHA共重合体に対して、造核剤とともにPHB重合体を配合することによって、PHA共重合体の結晶化を促進できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート共重合体を主体とする生分解性樹脂組成物であって、さらに、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体と、造核剤とを含有することを特徴とする生分解性樹脂組成物に関する。
【0011】
好ましくは、ポリヒドロキシアルカノエート共重合体として、ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体またはポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシバレレート)]共重合体を含有する。
【0012】
好ましくは、生分解性樹脂組成物が、ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体を主体とする。
【0013】
好ましくは、前記ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体100重量部に対して、前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体を1〜30重量部、及び前記造核剤を0.1〜10重量部含有する。
【0014】
好ましくは、前記ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体において3−ヒドロキシヘキサノエート単位の含量が5〜25モル%である。
【0015】
好ましくは、前記造核剤が、タルク、窒化ホウ素、及びサッカリンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0016】
また、本発明は、上述した生分解性樹脂組成物を用いて、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体の融点以上の温度で成形加工することを特徴とする生分解性樹脂組成物成形体の製造方法にも関する。
【0017】
さらに、本発明は、上述した生分解性樹脂組成物を、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体の融点以上の温度で成形加工することを特徴とする加工方法にも関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、結晶化速度が著しく遅いPHA共重合体を主体としながらも結晶性が高く、溶融成形用途において好適に使用可能な生分解性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を詳述する。
【0020】
本発明の生分解性樹脂組成物は、少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート共重合体を主体とするものである。ここで「主体とする」とは、組成物を構成する総生分解性樹脂成分のうち50重量%以上、好ましくは60重量%以上を、少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート共重合体が占めていることを意味する。
【0021】
ポリヒドロキシアルカノエート共重合体とは、[−CHR−CH−CO−O−](ここに、RはC2n+1で表されるアルキル基で、n=1〜15の整数である。)で示される2種以上の繰り返し単位からなる共重合体をいう。この共重合体は嫌気性下で分解する性質を有しており、耐湿性に優れるとともに、高分子量化が可能である。
【0022】
当該共重合体の代表例としては、例えば、ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体、ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシバレレート)]共重合体、[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシオクタノエート)]共重合体、[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシデカノエート)]共重合体等が挙げられる。この中でも、[(3−ヒドロキシブチレート)−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体、ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシバレレート)]共重合体が好ましく、さらに、[(3−ヒドロキシブチレート)−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体が特に好ましい。
【0023】
ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体(以下「PHBH共重合体)ともいう)とは、3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシヘキサノエートを主成分とする共重合体のことをいう。ここで「主成分とする」とは、共重合体を構成する総モノマー単位のうち50モル%以上、好ましくは60モル%以上を、3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシヘキサノエートが占めていることを意味する。当該共重合体は、これを構成するモノマー単位が3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシヘキサノエートのみからなるものであってもよいし、これらを主成分とするものである限り、他のモノマー単位を含むものであってもよい。
【0024】
他のモノマー単位としては特に限定されないが、例えば、3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシヘキサノエート以外のヒドロキシカルボン酸由来単位、多価カルボン酸由来単位、多価アルコール由来単位、ラクトン由来単位等が挙げられる。具体的には、グリコール酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシヘキサン酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸類;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の多価カルボン酸類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の多価アルコール類;グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。これら他のモノマー単位としては1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
PHBH共重合体の重合形式としては特に限定されず、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合等のいずれの共重合形式であってもよいが、得られる共重合体の物性を制御しやすいことから、ランダム共重合が好ましい。
【0026】
PHBH共重合体のモノマー単位の構成比としては特に限定されず、例えば、3−ヒドロキシブチレート単位/3−ヒドロキシヘキサノエート単位=99/1〜70/30(mol/mol)であることが好ましいが、良好な機械的物性を示しながらも本発明における結晶化促進という効果がより顕著に発揮されることから、3−ヒドロキシブチレート単位/3−ヒドロキシヘキサノエート単位=95/5〜75/25(mol/mol)であることがより好ましい。
【0027】
PHBH共重合体の分子量としては特に限定されないが、数平均分子量で3万〜250万であることが好ましく、5万〜200万であることがより好ましく、10万〜150万であることが更に好ましい。PHBH共重合体の数平均分子量が3万未満では、強度などの機械的特性が不十分である場合があり、300万を超えると、成形性が劣る場合がある。なお、PHBH共重合体の重量平均分子量の測定方法は特に限定されないが、一例としては、クロロホルムを移動相として、システムとして、ウオーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いることにより、ポリスチレン換算での分子量として求めることができる。
【0028】
PHBH共重合体の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができるが、好ましくは、グルコースや植物油脂等を原料として微生物の体内に産生させる方法が挙げられる。
【0029】
ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシバレレート)]共重合体(以下「PHBV共重合体」ともいう)とは、3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシバレレートを主成分とする共重合体のことをいう。ここで「主成分とする」とは、共重合体を構成する総モノマー単位のうち50モル%以上、好ましくは60モル%以上を、3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシバレレートが占めていることを意味する。当該共重合体は、これを構成するモノマー単位が3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシバレレートのみからなるものであってもよいし、これらを主成分とするものである限り、他のモノマー単位を含むものであってもよい。他のモノマー単位としては、PHBH共重合体に関して上述したものが挙げられる。PHBV共重合体の分子量は特に限定されず、PHBH共重合体の分子量と同程度であってよい。PHBV共重合体の製造方法についても、既知の重合方法を用いることができ、グルコースや植物油脂等を原料として微生物の体内に産生させる方法が好ましい。 本発明の生分解性樹脂組成物は、PHA共重合体を主体としつつ、PHA共重合体の結晶化を促進し、溶融成形用途での使用を容易にするために、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体(以下「PHB重合体」ともいう)と、造核剤とを含有する。後述するように、一般的に造核剤として知られている物質をPHA共重合体に添加しただけでは、PHA共重合体の結晶化促進を達成することはできない。ところが、造核剤により結晶化促進が達成され得る生分解性樹脂であるPHB重合体とともに、造核剤をPHA共重合体に添加すると、PHA共重合体の結晶性が明らかに改善される。
【0030】
PHB重合体は、実質的に3−ヒドロキシブチレート単位のみからなる重合体である。PHB重合体の分子量は特に限定されず、PHBH共重合体の分子量と同程度であってよい。PHB重合体の製造方法についても、既知の重合方法を用いることができるが、グルコースや植物油脂等を原料として微生物の体内に産生させる方法が好ましい。
【0031】
造核剤としては、重合体に対して添加することによってその結晶性を改善する物質として知られているものを使用することができる。例えば、高級脂肪酸アミド、尿素誘導体、ソルビトール系化合物、窒化ホウ素、高級脂肪酸塩、芳香族脂肪酸塩、タルク、サッカリン等が挙げられ、これらは少なくとも1種類用いることができる。なかでも、本発明における結晶化促進効果に優れているので、タルク、窒化ホウ素、サッカリンが好ましい。
【0032】
本発明の生分解性樹脂組成物においては本発明の効果が達成される限りにおいて、各成分の配合量は特に限定されない。しかしながら、具体的には、PHA共重合体100重量部に対して、PHB重合体の配合量が1〜30重量部、造核剤の配合量が0.1〜10重量部であることが好ましい。より好ましくはPHB重合体の配合量が1〜20重量部、造核剤の配合量が0.5〜5重量部である。
【0033】
PHB重合体の配合量が1重量部未満であったり造核剤の配合量が0.1重量部未満であると、核剤としての効果が低くなり成形性が低下する傾向がある。一方、PHB重合体の配合量が30重量部を超えたり造核剤の配合量が10重量部を超えると、含有量に見合うだけの効果が期待できず、実際的でないばかりか、不経済である。
【0034】
本発明の生分解性樹脂組成物には必要に応じて次のような添加剤を配合してもよい。添加剤としては、安定剤、滑剤、難燃剤、顔料、無機フィラー、有機フィラー、離型剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌抗カビ剤、可塑剤等が挙げられる。これらの添加剤は、組成物が使用される用途等に応じて適宜最適なものを選択すればよい。
【0035】
本発明の生分解性樹脂組成物を成形するにあたっては、各成分を直接成形加工機に投入することにより行ってもよいが、ハンドリング、混練の均一性等の観点から、一旦ペレット化した後に成形加工を行ってもよい。ペレット化するには、例えば、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダー、単軸又は多軸の押出機等の公知の装置を用い、適当な温度で加熱しながら機械的に混練することで、ペレット状に賦形することができる。その混練時の温度は、使用する重合体の溶融温度等に応じて調整すればよく、例えば100〜200℃程度でよいが、PHB重合体と造核剤の併用による結晶化促進の効果をより効率よく発揮するために、当該組成物に含まれているPHB重合体の融点以上の温度とすることが好ましい。成形加工するにあたっては、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、発泡成形、射出成形、インジェクションブロー等の任意の成形加工法を採用することができる。
【0036】
本発明の生分解性樹脂組成物の具体的な用途としては、例えば、食品容器、シート類、ボトル、透明板、フィルム、延伸フィルム、包装材、レジ袋、緩衝材、農業用マルチフィルム、魚網、食器、ごみ袋等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
1.P(3HB−co−3HH)
3HH単位の含量が18モル%である微生物産生P(3HB−co−3HH)を原料として用いた。この重合体はコモノマー単位の組成分布が極めて広いものであったので、常温でクロロホルム/n−ヘプタン混合溶媒を用いて分別を行った。この分別によって得た3HH単位の含量が21モル%である分画(Mn=1.15x10、Mw/Mn=1.42)を以下で使用した。
2.P(3HB)
微生物産生P(3HB)として、Mn=1.55x10、Mw/Mn=2.56のものを精製して使用した。
3.窒化ホウ素
ナカライテスク社から入手した窒化ホウ素の微粉末を使用した。
4.3HH単位の含量測定法
原料、及び分別後のP(3HB−co−3HH)における3HH単位の含量を測定するにあたっては、600MHzのH NMRスペクトルを、CDCl溶液中30℃で、ブルカー社のAVANCE600分光計で測定した。
5.重合体の分子量測定法
各重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)は、TSK GEL G2000Hxl及びGMHxlカラム(東ソー社製)を含むTosoh HPLC−8020ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。溶出液としてはクロロホルムを流速1.0mL・min−1で使用した。GPC溶出曲線を作成する際には標準物質として、分子量分布が狭いポリスチレンを使用した。
実施例1
窒化ホウ素の微粉末を超音波処理によってクロロホルムに分散し、その後重合体を溶解することによって、P(3HB−co−3HH)を88重量%、P(3HB)を10重量%、そして窒化ホウ素を2重量%含むクロロホルム溶液を調製し、これから溶液流延法によってフィルムを作製した。得られたフィルムを室温、真空下で1週間乾燥して残留溶媒を除去した後、下記評価に使用した。
比較例1
実施例1記載の方法に準じてP(3HB−co−3HH)のみからなるフィルムを得た。
比較例2
実施例1記載の方法に準じて、P(3HB−co−3HH)98重量%と窒化ホウ素2重量%とからなるフィルムを得た。
比較例3
実施例1記載の方法に準じて、P(3HB−co−3HH)90重量%とP(3HB)10重量%とからなるフィルムを得た。
参考例1
実施例1記載の方法に準じてP(3HB)のみからなるフィルムを得た。
参考例2
実施例1記載の方法に準じて、P(3HB)98重量%と窒化ホウ素2重量%とからなるフィルムを得た。
(評価方法)
以上で得た各フィルムをサンプルとし、パージガスとして窒素を用いた示差走査熱量測定法(DSC:Pyris Diamond、パーキンエルマー社)によって非等温結晶化調査を行った。非等温結晶化にあたって、まずサンプルを190℃で3分間かけて融解し熱履歴を破壊した後、走査速度を2.5℃/minとして190℃から−40℃までサンプルを冷却(冷却走査)して結晶化の挙動を観察した。
【0038】
冷却後サンプルを−40℃で3分間保持した。最後に走査速度を10℃/minとして−40℃から200℃までサンプルを加熱(加熱走査)して、低温晶析及び融解の挙動を観察した。融点とは前記の−40℃から200℃まで加熱したときの融解ピーク温度で示される。融解ピーク温度が複数存在する場合は高温側の温度を融点とする。
【0039】
結果を図1及び図2に示す。
【0040】
図1は、190℃での融解状態から冷却して得たDSC冷却曲線を示している。参考例1及び参考例2では結晶化ピークが、それぞれ113.6℃と118.1℃にある。参考例1と比較すると、参考例2では結晶化温度がより高温側にあり、結晶化の温度範囲はより狭い。このことから、窒化ホウ素がP(3HB)に対して良好な造核剤であることが確認された。
【0041】
P(3HB−co−3HH)単独である比較例1ではDSC冷却走査中に結晶化しなかった。さらに、窒化ホウ素を共存させた比較例2においても、発熱ピークはまったく検出されなかった。このことより、窒化ホウ素がP(3HB−co−3HH)に対しては有効な造核剤でないことが分かる。さらには、P(3HB−co−3HH)とP(3HB)の2成分系である比較例3においても、発熱ピークはまったく検出されなかったことから、この系ではP(3HB)は結晶化しないことが分かる。
【0042】
しかしながら、P(3HB−co−3HH)とP(3HB)と窒化ホウ素の3成分系である実施例1では、115.4℃と98.9℃に2つの発熱ピークが観察された。発熱温度115.4℃は参考例1及び参考例2における発熱温度と非常に近いので、このピークは3成分系中でP(3HB)が結晶化したことによるものであることが分かる。よって98.9℃でのピークは、3成分系中でP(3HB−co−3HH)が結晶化していることを示す。
【0043】
図2は、−40℃でのガラス状態から走査して得たDSC加熱曲線を示している。参考例1及び参考例2では融点のピークがそれぞれ170.9℃と172.7℃にある。実施例1では融点がいくつかあって、約169.4℃にある最も高いピークは、参考例1及び参考例2における融点のピークと対応している。よって、実施例1で80〜95℃にある広範な吸熱ピークは、P(3HB−co−3HH)が融解したことによるものである。
【0044】
比較例1〜3と実施例1ではガラス転移点が−7.0〜−6.5℃の範囲にあるが、比較例1及び2では発熱(冷却晶析)ピークは検出されなかった。このことからも、窒化ホウ素がP(3HB−co−3HH)に対しては有効な造核剤ではないことが明らかである。
【0045】
比較例3では約80〜90℃で発熱(冷却晶析)ピークが、約170℃で吸熱(溶融)ピークが検出された。加熱走査における発熱エンタルピーと吸熱エンタルピーの絶対値はほぼ同等であり、このことから、P(3HB−co−3HH)とP(3HB)の二成分系ではP(3HB)成分がDCS加熱走査では結晶化するが、冷却走査においては結晶化しないことが分かる。参考例1、参考例2、及び実施例1では、加熱走査において発熱(冷却晶析)ピークが検出されなかったことから、DSC冷却走査において結晶化がほとんど完了していることが分かる。
【0046】
以上の結果から、P(3HB−co−3HH)とP(3HB)と窒化ホウ素の三成分系では、窒化ホウ素がP(3HB)の結晶化を選択的に加速し、系中で生じたP(3HB)の結晶がP(3HB−co−3HH)の急速な結晶化を後押ししていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】190℃での融解状態から冷却して得たDSC冷却曲線
【図2】−40℃でのガラス状態から走査して得たDSC加熱曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート共重合体を主体とする生分解性樹脂組成物であって、
さらに、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体と、
造核剤とを含有することを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリヒドロキシアルカノエート共重合体として、ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体またはポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシバレレート)]共重合体を含有することを特徴とする請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
生分解性樹脂組成物が、ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体を主体とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体100重量部に対して、前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体を1〜30重量部、及び前記造核剤を0.1〜10重量部含有することを特徴とする請求項3に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリ[(3−ヒドロキシブチレート)−co−(3−ヒドロキシヘキサノエート)]共重合体において3−ヒドロキシヘキサノエート単位の含量が5〜25モル%であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
前記造核剤が、タルク、窒化ホウ素、及びサッカリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を用いて、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体の融点以上の温度で成形加工することを特徴とする生分解性樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)重合体の融点以上の温度で成形加工することを特徴とする加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−96849(P2009−96849A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267934(P2007−267934)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】