説明

生分解性発泡体の製造方法

【課題】再生可能資源由来で生分解可能なポリマーを用いて、高発泡倍率と資源循環特性に優れた環境適合型発泡体の製造方法を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基を有する生分解性ポリマーとアミノ基を有する天然物由来のポリマーとを炭酸ガスの存在下に加熱混合し生分解性発泡体を成形すること、および、カルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマーとアルコキシシラン化合物とを発泡剤の存在下に加熱混合し生分解性発泡体を成形すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基および/または水酸基を有し生分解性と資源循環特性に優れたポリマーから合成される環境適合型発泡体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガスの増大に基づく地球温暖化の問題のために、化石燃料から合成されるポリマー材料に代わって、再生可能資源であるバイオマスから合成され、かつ生分解可能なポリマーの利用が活発に展開されてきている。このようなポリマーを利用することの利点は、炭酸ガスを固定したバイオマスから合成されているため、例え焼却処理されても、全プロセスを通じて炭酸ガスの増大は非常に少ないというカーボンニュートラルの考え方によって支持されている。さらに生分解可能なポリマーは、環境中で利用された場合、環境中の分解因子である微生物、水、光などによって分解され、最終的には炭酸ガスと水にまで変換されるため、自然の物質循環に安全に組み込まれうる材料である。
【0003】
現在、合成ポリマーを用いて各種発泡体が成形され、多くの分野で利用されている。発泡体は、その軽量性やクッション性、断熱性などの優れた特性により、省資源・省エネルギーや安全確保に不可欠な材料となっている。この発泡体にバイオマス由来の生分解可能なポリマーを利用することにより、バイオマスの有効利用につながる。さらに、環境中で利用された場合、徐々に分解し、最終的に無機化される。
【0004】
従来、生分解可能なポリマーを用いた発泡体については、多くの検討が為され、さまざまな成形技術が開示されてきた。たとえば、特許論文1においては、ポリ乳酸系重合体から良溶媒と貧溶媒を組み合わせて溶媒気散法によってセル構造体を作成している。しかし、複数の溶剤を用いる点で、環境への影響が懸念される。
【0005】
特許文献2には、化学発泡として重曹−クエン酸系発泡剤が用いられている。しかし、一般的に脂肪族ポリエステルからなる生分解可能なポリマーは、アルカリ金属に対して極めて反応性が高く、速やかに分解反応およびラセミ化反応を起こしてしまう。
【0006】
特許文献3には、エポキシ基含有ビニルポリマーを用いて、脂肪族ポリエステルの末端活性水素との反応により末端封鎖を行い、溶融粘度を向上させる技術が開示されている。また、特許文献4には、脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として、カルボジイミド、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の利用技術が開示されている。しかし、これらの技術で作成された発泡体は、環境適合型材料としての特性が一部犠牲になっている。
【0007】
さらに、特許文献5には、架橋方法として電離性放射線を利用する技術が開示されているが、脂肪族ポリエステルの中には、電離性放射線の照射によって、架橋ではなく分解反応を起こすポリ乳酸などがあり、一般的に利用可能な架橋技術とは言い難い。
【0008】
環境適合型発泡体として、生分解性を有するポリマーにキトサン誘導体を添加する方法、あるいはアルコキシシラン化合物を添加してゾル−ゲル反応を行い相溶体を形成させる技術が開示されている。例えば、特許文献6では、生分解樹脂発泡体にキチン・キトサン質を混合しても良いとの記述があるが、その効果については何ら開示されていない。また、特許文献7では、生分解性を有する有機高分子化合物にアルコキシシランを添加し、ゾル−ゲル反応によって相溶体を形成させた難燃性複合樹脂組成物に関する技術が開示されているが、発泡体形成技術に関しては何ら開示されていない。
【0009】
【特許文献1】特開平08−257055号公報
【特許文献2】特開2008−231184号公報
【特許文献3】特開2008−222987号公報
【特許文献4】特開2005−60689号公報
【特許文献5】特開2004−258298号公報
【特許文献6】特開2004−258298号公報
【特許文献7】特開2000−319532号公報
【0010】
以上のように、生分解可能なポリマー、とりわけ脂肪族ポリエステルを用いた発泡体を形成させる場合、さまざまな構造的および化学反応的要因が、発泡体形成反応に影響する。従って、十分な構造的強度を保ちつつ高発泡倍率を達成するには、より安定的かつ環境適合性に優れた発泡技術の開発が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、再生可能資源由来で生分解可能なポリマーを用いて、高発泡倍率と資源循環特性に優れた環境適合型発泡体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、高発泡倍率と資源循環特性に優れた環境適合型発泡体を合成するために、再生可能資源由来で生分解可能なポリマーの高粘性化、末端封鎖剤および連鎖延長剤として機能する環境適合型反応試剤、およびそれらの反応制御について、鋭意研究を行った結果、カルボキシル基を有する生分解性ポリマーとアミノ基を有する天然物由来のポリマーとを炭酸ガスの存在下に加熱混合し成形する方法、あるいは、カルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマーとアルコキシシラン化合物とを発泡剤の存在下に加熱混合し成形することによって、目的の高発泡倍率の環境適合型発泡体を得ることが可能であるということを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明の課題は、生分解可能なポリマーのカルボキシル基と、アミノ基を有する天然物由来のポリマーのアミノ基との反応によってアミド結合を形成し、ポリマーの溶融粘度を上昇させることで達成される。その際にCO2を共存させることにより、発泡剤として機能させるとともに、アミノ基との反応により炭酸塩を形成させ、アミノ基によるポリ乳酸の分解を抑制する。
【0014】
さらに、本発明の課題は、アルコキシシランのゾル−ゲル反応を利用し、シリカ微粒子の形成に伴うアルコールガスの発生とともに、生分解可能なポリマー末端とのSi−O−C結合形成により、シリカ微粒子表面で発泡開始点形成および架橋点形成が同時に行なわれ、ポリマーの溶融粘度を上昇させることで達成される。発泡開始点が形成したのち、発泡剤から発生したガスによって発泡開始点の気泡が拡大し、高倍率発泡が可能となる。また、このシリカ微粒子を中心にした網状組織は、弾性率などの機械的強度に寄与する。
【0015】
前述したように、従来、生分解性を有するポリマーにキトサン誘導体を添加する方法、あるいはアルコキシシラン化合物を添加してゾル−ゲル反応を行い、相溶体を形成させる技術はすでに開示されている。しかし、特許文献6では、キチン・キトサン質と炭酸ガスとの相互作用および機能については何ら開示されていない。また、特許文献7では、ゾル−ゲル反応によって相溶体を形成させた複合樹脂組成物からの発泡体形成技術に関しては何ら開示されていない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、(1)アミノ基を有する天然物由来のポリマー分子上あるいはゾル−ゲル反応によって生成したシリカ微粒子表面上に生分解可能なポリマーの分子末端を結合させ、ポリマー相の溶融粘度あるいはゲル化率を上昇させることによって、高倍率発泡が可能となる。また、(2)多数の生分解可能なポリマー分子がアミノ基を有するポリマー分子上あるいはシリカ微粒子表面上に高密度にグラフトするため、高い機械的強度が発現する。さらに、(3)アミノ基の炭酸塩からアミド結合への変換反応に伴う炭酸ガスの発生、およびゾル−ゲル反応に伴う低分子量のアルコールの発生によって、効果的に発泡開始点が形成される。これら本発明の特徴は、均一で高倍率の発泡と、機械的強度に優れた網状組織の形成に寄与するため、安定な発泡体形成において極めて効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、第一に、カルボキシル基を有する生分解性ポリマーとアミノ基を有するポリマーとを炭酸ガスの存在下に加熱混合し成形してなる発泡体およびその製造方法に関するものであるが、本発明においてカルボキシル基を有する生分解性ポリマーとは、分子内に少なくとも一つのカルボキシル基を有する熱可塑性の生分解性ポリマーであり、カルボキシル基の位置が分子末端、側鎖上、および連鎖分岐部のいずれであっても良い。また、生分解性ポリマーとは、微生物、酵素、コンポスト内、および生体内で分解・吸収される性質を持っているポリマーをいう。好適に用いられる生分解性ポリマーを具体的に例示すれば、ポリ乳酸(ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、ポリ−D,L−乳酸、ステレオコンプレックス、およびステレオブロック共重合体を含む)、ポリグリコール酸、ポリ−p−ジオキサノン、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸/3−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ−4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸/3−ヒドロキシヘキサノエート)などのオキシ酸の重合体およびこれらの共重合体;ポリ(琥珀酸ブチレン)、ポリ(琥珀酸エチレン)、およびポリ(琥珀酸/アジピン酸ブチレン)などのAABB型共重合体:およびこれらの共重合体;さらに上記以外のコモノマー、たとえばグリセリンやプロピレングリコール、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのユニットが20モル%以内で含まれる共重合体である。これらの生分解性ポリマーの中でも、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、およびそれらの共重合体がより好適に用いられ、さらに、ポリ乳酸及びその共重合体が最も好適に用いられる。
【0018】
カルボキシル基を有する生分解性ポリマーは、一般的に分子量が高いほど、その溶融粘度も高いが、分子末端が連鎖延長剤などで封鎖され、架橋点あるいは疑似架橋点を形成する場合、その架橋密度が高いほど溶融粘度への寄与は大きい。この場合、カルボキシル基を有する生分解性ポリマーの分子量は、低分子量であるほど末端カルボキシル基の密度が高くなり、末端封鎖剤との反応が進んだ場合、架橋点間距離が短く、結果としてゲル化もしくは高い溶融粘度をもたらすため、好適である。ただし、分子量が低すぎた場合、末端反応率が低下し、末端封鎖が効率的に進まないため、適当な分子量範囲が存在する。好適なカルボキシル基を有する生分解性ポリマーの数平均分子量としては、10万〜1000、より好ましくは、5万〜2000、さらに好ましくは、2万〜3000の範囲である。
【0019】
本発明において、アミノ基を有するポリマーとは、分子内に少なくとも2つ以上のアミノ基を有しているポリマーであり、天然物由来の生分解性を持ったポリマーであることがより好ましい。好適に用いられるアミノ基を有するポリマーを例示すれば、キトサン、キチンのアルカリ処理物、グルコサミンを構成単位として複数含有したアミノ基含有多糖類;リジン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファンを構成単位として複数含有するポリアミノ酸類などである。これらの中で、アミノ基含有多糖類が、より好適に用いられる。
【0020】
本発明において、アミノ基を有するポリマーは、カルボキシル基を有する生分解性ポリマー100重量部に対して、0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは、1〜20重量部で添加される。アミノ基を有するポリマーは、一般的に単独では融解し難いため、50重量部を超える範囲では未反応のアミノ基を有するポリマーが粒子状で残り、発泡体の表面状態に悪影響を及ぼす。一方、0.1重量部未満では、その末端封鎖効果が明確に現れない。
【0021】
本発明においては、カルボキシル基を有する生分解性ポリマーとアミノ基を有するポリマーとが炭酸ガスの存在下に加熱混合され、反応後に成形される。ここで炭酸ガスの存在下とは、炭酸ガスがアミノ基よりもそのモル比において過剰に存在することを意味する。これは、炭酸ガスを発泡剤として機能させるためだけでなく、アミノ基のトラップ剤としても機能させることを意味している。炭酸ガスがアミノ基をトラップすることにより、アミノ基による脂肪族ポリエステルのエステル結合の分解が抑制され、カルボキシル基を有する生分解性ポリマーの溶融粘度の低下を抑えることができる。
【0022】
炭酸ガスの添加方法としては、一般的に加圧下で加える方法が好適に用いられる。加える圧力は、0.1〜2MPaの圧力で行われるのが一般的であり、生分解ポリマーとアミノ基を有するポリマーの混合物を加熱混合する前に、十分な量の炭酸ガスが共存することが、アミノ基のトラップとエステル結合の保護のために重要である。また、加熱混合後、圧力を開放する際に高発泡させるために、比較的高い圧力0.5〜2MPa、さらに好ましくは1〜2MPaの圧力が望ましい。
【0023】
加熱混合時の温度は、生分解性ポリマーが融解する温度以上であることが必要である。しかし、高温では生分解性ポリマーおよびアミノ基を有するポリマーの分解も進行しやすいので、生分解性ポリマーの融点から+50℃以内、より好ましくは+30℃以内で加熱することが望ましい。生分解性ポリマーがポリ−L−乳酸の場合、ポリ−L−乳酸の分子量に応じて融点が変化するため、好適に実施される温度としては、140〜230℃、より好ましくは、150〜200℃、さらに好ましくは、160〜190℃の範囲である。
【0024】
加熱混合後、発泡成形する際には、炭酸ガス発泡以外の一般公知の発泡方法を何等制限無く共用することができる。好ましく用いられる方法としては、化学発泡剤および物理発泡剤を用いる方法が挙げられる。
【0025】
化学発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロジニトリル、アゾジカルボン酸バリウムなどのアゾ化合物、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジドなどのヒドラジド化合物、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどのニトロソ化合物、ヒドラゾジカルボンアミドなどのヒドラゾ化合物、5−フェニルテトラゾール、5−アミノテトラゾール、アゾビステトラゾール系、ビステトラゾール系などのテトラゾール化合物、ヒドラゾジカルボン酸エステル、アゾジカルボン酸エステル、クエン酸エステルなどのエステル化合物、イソシアネート化合物、重炭酸ソーダ、炭酸ソーダなどを挙げることができ、容易に使用できるという点から、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロジニトリル、アゾジカルボン酸バリウムなどのアゾ化合物、5−フェニルテトラゾール、5−アミノテトラゾール、アゾビステトラゾール系、ビステトラゾール系などのテトラゾール化合物、イソシアネート化合物が好ましく、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロジニトリル、アゾジカルボン酸バリウムなどのアゾ化合物がより好ましく、アゾジカルボンアミドがさらに好ましい。
【0026】
物理発泡剤としては、エタン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレン、石油エーテル、空気、窒素ガスなどを挙げることができ、容易に使用できるという点から、ブタン、ペンタン、ヘキサン、空気、窒素ガスが好ましく、空気、窒素ガスがより好ましい。
【0027】
上記発泡剤の添加量は、必要な発泡倍率を得るための有効量であればよく、種類によって若干異なるが、生分解可能なポリマー100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、0.5〜7重量部であることがより好ましく、1〜5
重量部であることがさらに好ましい。少なすぎると発泡剤の効果が十分でなく、多すぎると表面外観を損なう恐れがある。
【0028】
本発明は、第二に、カルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマーとアルコキシシラン化合物とを加熱混合し成形してなる発泡体およびその製造方法に関するものであるが、本発明においてカルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマーとは、分子内に少なくとも一つのカルボキシル基および/または水酸基を有する熱可塑性の生分解性ポリマーであり、カルボキシル基および/または水酸基の位置が分子末端、側鎖上、および連鎖分岐部のいずれであっても良い。好適に用いられる生分解性ポリマーを具体的に例示すれば、上記したカルボキシル基を有する生分解性ポリマーに加え、下記のポリマーが挙げられる。すなわち、多価アルコールを開始剤として開環重合されたラクトン類、具体的には、両末端水酸基のポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸およびそれらの共重合体;カルボン酸に対してアルコールの組成比が過剰なAABB型縮合ポリマー類;エステル置換度が3未満のセルロース誘導体である。
【0029】
本発明で用いられるアルコキシシラン化合物としては、ゾル−ゲル反応によってシリカ微粒子を形成し、その表面でSi−O−C結合を形成しうるものであれば、一般公知のアルコキシシラン化合物がなんら制限なく用いられる。好適に用いられるアルコキシシラン類を例示すれば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、その他のアルコキシシラン或いはその誘導体等が挙げられる。また、これらのアルコキシシラン化合物を2種以上組み合せて使用することも可能である。さらに、アルコキシシランと同様にゾル−ゲル反応によって酸化物に変換される他のアルコキシ金属を20モル%以内で混合して用いることも可能である。このようなアルコキシ金属としては、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛などの金属のアルコキシドが好適に用いられる。
【0030】
本発明でアルコキシシラン化合物の添加量は、カルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマー100重量部に対して、1〜100重量部、より好ましくは5〜70重量部、さらに好ましくは10〜50重量部の範囲で用いられる。1重量部未満では添加効果は殆ど認められず、100重量部を超える添加量では、得られる組成物の溶融粘性に悪影響が現れやすい。
【0031】
本発明でアルコキシシラン化合物のゾル−ゲル反応は加水分解反応と重縮合反応からなっており、結果として微細シリカゲルがポリマー相内で形成する。この反応は、カルボキシル基によって促進され、さらにポリマー末端の活性水素と反応し、アルコールを発生しながら、多数のSi−O−C結合を形成し、ポリマー相とシリカゲル界面の結合を強固にするとともに、ポリマー相の溶融粘度を上昇、あるいは架橋体を形成し、発泡後の気泡の安定化に寄与する。また、アルコキシシラン化合物のゾル−ゲル反応で生成するアルコールおよび水分はシリカゲル周辺に発泡開始点を形成する。
【0032】
本発明のカルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマーとアルコキシシラン化合物との反応に際し、発泡剤を共存させることによって、気泡形成が速やかに進行し、高倍率発泡体が形成する。ここで共存可能な発泡剤としては、前記した化学発泡剤および炭酸ガスを含む物理発泡剤が利用可能である。ただし、発泡剤がアルコキシシラン化合物のゾル−ゲル反応に影響を及ぼす場合、ゾル−ゲル反応条件とは離れた条件(反応温度など)で発泡を開始する発泡剤を用いることが好ましい。
【0033】
本発明において発泡体を成形する方法としては、従来公知の発泡成形技術がなんら制限なく用いることができる。好適に用いられる成形方法としては、押出機のダイスから大気圧条件下に押し出して発泡させる押出発泡、および型内で加熱により発泡、膨張、成型を経て型どおりの発泡体を得る型内発泡成形などの方法が好適に用いられる。最終的に得られる発泡体の発泡倍率は、1〜50倍の発泡倍率の中で、その用途に応じて選択される。
【0034】
本発明の発泡体に共存可能なその他の添加剤としては、加水分解抑制剤、結晶化促進剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤などである。これらの添加剤は、本発明の発泡体の実用物性に顕著な影響を及ぼさない範囲で添加可能であり、通常、生分解可能なポリマー100重量部に対して5重量部以下、好ましくは3重量部以下で使用される。
【0035】
本発明の発泡体は、種々の用途に応用可能である。例えば、精密機器、電化製品、電子機器、電子部品などの緩衝材、食品類、酒類、薬品類などの包装材、展示パネル、マネキン、デコレーション等の美粧材、食品、機械部品、電子部品などの通い箱、断熱材、建築材、玩具、アイスクリーム、冷凍食品等の保温材などに使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
[参考例1]キトサンによるポリ-L-乳酸の連鎖延長と末端封鎖。
ポリ−L−乳酸(数平均分子量5000)0.4gとキトサン(東京化成)0.1g(100:25重量比)を混合し、ジメチルスルホキシド20mLを加えて溶解した。この混合液を窒素雰囲気中、60℃で5時間加熱した。加熱に伴い液の粘度が上昇し、キトサンがほぼ溶解するとともに、透明ゲル化成分の生成が確認された。加熱後、溶液を濾紙でろ過したところ、ゲル化した不溶成分が濾取された。不溶成分をクロロホルムで洗浄し、乾燥した結果、架橋した不溶成分の生成量は約60重量%であった。一方、ろ液にクロロホルム50mLを添加して、室温で15時間攪拌し、可溶成分をクロロホルムに溶解させた。可溶成分の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて測定したところ、数平均分子量5300であり、可溶成分も原料のポリ−L−乳酸がわずかに連鎖延長された生成物であった。
【0038】
[実施例1]ポリ−L−乳酸とキトサンからの発泡体の形成。
井本製作所製ベント付2軸混練押出機160B型(同方向回転2軸スクリュー、スクリュー直径:20mm、L/D:25、ベント口数:1)を用いて、ポリ−L−乳酸(重量平均分子量15000)とキトサン(東京化成)を80:20重量比で混合し、炭酸ガス雰囲気下(0.15MPa)に溶融混練を行った。加熱温度は、ホッパー部80℃、シリンダー前部165℃、シリンダー中間部165℃、およびシリンダー後部160℃、スクリュー回転数を35rpmで行った結果、溶融粘度の上昇とともにダイスより発泡体が得られ、10〜1000μのサイズの気泡形成が確認された。
【0039】
[実施例2]ポリ−L−乳酸とテトラメトキシシランからの発泡体の形成。
井本製作所製ベント付2軸混練押出機160B型(同方向回転2軸スクリュー、スクリュー直径:20mm、L/D:25、ベント口数:1)を用いて、ポリ−L−乳酸(重量平均分子量15000)とテトラメトキシシラン(東京化成)を80:20重量比で混合し、炭酸ガス雰囲気下(0.15MPa)に溶融混練を行った。加熱温度は、ホッパー部80℃、シリンダー前部165℃、シリンダー中間部165℃、およびシリンダー後部160℃、スクリュー回転数を35rpmで行った結果、溶融粘度の上昇ととともにダイスより発泡体が得られ、10〜100μのサイズの気泡形成が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によって、再生可能資源を原料として、環境適合性と十分な構造的強度を有する高倍率発泡体の形成が可能となった。これは、化石資源に依存せず再生可能資源を有効利用し、環境適合型資源循環材料を創生する上で極めて効果的である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する生分解性ポリマーとアミノ基を有するポリマーとを炭酸ガスの存在下に加熱混合し成形してなる発泡体の製造方法。
【請求項2】
カルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマーとアルコキシシラン化合物とを発泡剤の存在下に加熱混合し成形してなる発泡体の製造方法。
【請求項3】
カルボキシル基を有する生分解性ポリマーとカルボキシル基および/または水酸基を有する生分解性ポリマーがポリ乳酸およびその共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の発泡体の製造方法。
【請求項4】
アミノ基を有するポリマーと炭酸ガスおよびアルコキシシラン化合物とを同時または逐次添加し加熱混合し成形してなる請求項3記載の発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2010−248298(P2010−248298A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96550(P2009−96550)
【出願日】平成21年4月11日(2009.4.11)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】