説明

生物医学的充填材

生物医学的セラミック粒状物を含む骨置換充填材であって、この充填材は、外部からの剪断応力若しくは圧縮力の付与なしで、又は比較的低い剪断応力若しくは圧縮力の下で流れることができるが、より高い剪断応力又は圧縮力を受けた場合は流れにくい、又は流れず、セラミック粒状物中の粒子の少なくとも一部は、微孔性表面構造及び/又は微孔性表面下構造を有する、骨置換充填材。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、生物医学的材料に関し、特に、骨のための充填材料に関する。
【0002】
高齢化と生活の質への期待の高まりとが合わさった結果として、損傷した骨や関節の置換又は増強のための整形外科用インプラントへの需要が全世界で増加している。骨移植の分野において、現在の主流は自家移植片や同種移植変の使用であるが、これらの方法は、罹患率、又は供給及び一貫性における制限により、非理想的であると次第に認識されている。セラミックは、30年以上にわたる従来の骨移植片に取って代わるか又はそれを拡張するための骨移植片代替物としての用途について考えられている。特に、ヒドロキシアパタイトのようなリン酸カルシウムは、骨伝導性があることから推されている。
【0003】
したがって、外科的技術及び医学的知識が進歩し続けるにつれて、合成骨置換材料への需要が高まってきている。その結果、関節再構築、頭蓋上顎顔面再構築、外傷、腫瘍、脊椎圧迫骨折、脊髄手術等において、耐荷重性骨欠損と非耐荷重性骨欠損の両方の充填のために、合成骨置換材料の開発に対してますます関心が高まっている。
【0004】
国際公開第03/007853号パンフレットは、拡張可能な多孔性メッシュバッグデバイス及びその骨手術への使用に関する。このバッグは、骨中に準備された空洞に挿入され、次いで骨置換材料を用いて膨張させて、空洞を拡張し充填する。
【0005】
従来の多孔性セラミック骨移植片は、しばしば、耐荷重性を要する用途に用いることができない。特に、材料の生物学的性質が最適化される場合、その材料は一般的に、生理学的荷重に耐えるのに十分な強度を維持しない。これは、セラミック骨移植片が、(a)骨成長及び栄養のための相互連結されたマクロ多孔質と、(b)修復に先立って移植片へのタンパク質及び細胞の接着を可能にする微孔性骨多孔質(microporous strut porosity)との両方を有しなければならないからである。
【0006】
PCT/GB99/03283には、生物医学的用途のための発泡性セラミック材料の製造方法が記載されている。
【0007】
さらに、従来の多孔性セラミック骨移植片は、通常(i)流動性/注入可能性がありかつ非多孔性であるか、又は(ii)多孔性でかつ注入可能性/流動性がないかのいずれかである。
【0008】
本発明は、従来技術に関連する問題の少なくとも一部に対処すること、及び/又は新規な生物医学的充填材を提供することを目的とする。
【0009】
したがって、本発明は、生物医学的セラミック粒状物を含む骨置換充填材を提供し、この充填材は、外部からの剪断応力若しくは圧縮力の付与なしで、又は比較的低い剪断応力若しくは圧縮力の下で流れることができるが、より高い剪断応力又は圧縮力を受けた場合は流れにくい、又は流れず、セラミック粒状物中の粒子の少なくとも一部は、微孔性表面構造(micro−porous surface structure)及び/又は微孔性表面下構造(micro−porous sub−surface structure)を有する。
【0010】
好ましくは、セラミック粒状物中の粒子の少なくとも一部は、微孔性表面構造及び微孔性バルク構造を有する。
【0011】
本明細書で用いられる場合、マクロ多孔性という用語は、モード径dmode≧約50μm、好ましくはdmode≧約100μmの細孔を意味する。用語微孔性とは、モード径0.1μm≦dmode≦50μm、好ましくは0.1μm≦dmode≦40μmの細孔を意味する。
【0012】
充填材は、好ましくは、実質的に乾燥した形で提供されるが、スラリーの形、例えば、スラリーと血液又は血液代替物との混合物の形でも提供することもできる。セラミック粒状物は、外部からの剪断応力若しくは圧縮力の付与なく流れることができるか、又は比較的低い剪断応力若しくは圧縮力下で流れることができるが、より高い剪断応力若しくは圧縮力を受けた場合は流れにくいか、又は流れないような粒径分布を有する。
【0013】
このような粒状物は、単に重力の作用により部位へと送達され得る。したがって、部位への送達を容易にする外力の使用は必須ではなく、任意選択にすぎない。空間又は空隙に送達され、剪断応力又は圧縮力を受ける場合、粒状物中の粒子は、互いに密着し、「固定し合う」ことで、安定で耐荷重性の充填材を形成する。
【0014】
セラミック粒状物は、実質的に球状粒子で構成されていてもよい。好ましくは、粒径分布が存在する。これは、宿主の骨が成長し得る粒子の周囲及び粒子間のチャネル及び空間を可能にするので有利である。
【0015】
本発明の充填材の流動性により、充填材は、例えば、1個の可撓性チューブ又はカニューラを介して所望の部位へ簡単に送達されることが可能となる。
【0016】
有利には、セラミック粒状物の粒子の少なくとも一部は、少なくとも微孔性表面構造を含む。これにより、タンパク質及び細胞の表面接着、並びに栄養物及びサイトカインの伝達が容易となる。好ましくは、粒子は、微孔性バルク構造も有する。
【0017】
セラミック粒状物は、好ましくは、少なくとも90%の粒子が0.04〜10mmの等円径、より好ましくは0.05〜10mmの等円径である粒径分布を有する。なおより好ましくは、少なくとも90%の粒子は0.05〜5mmの等円径、さらにより好ましくは、少なくとも90%の粒子は0.1〜5mmの等円径である。好ましい実施形態において、少なくとも90%の粒子は0.1〜2mmの等円径である。
【0018】
微孔性顆粒の粒子径の範囲は、例えば、リン酸カルシウム系材料のようなバルク様多孔性セラミック材料の従来からの乾燥粉砕により形成され得る。粒子は、従来のふるい技術により分画され得る。例えば、ふるい分けされた粉末の混合物は、
40〜90ミクロンが40〜58wt%
90〜125ミクロンが40〜58wt%
125〜250ミクロンが1〜5wt%
250〜500ミクロンが1〜5wt%
を構成する。
【0019】
より好ましくは、ふるい分けされた粉末の混合物は、
40〜90ミクロンが42〜53wt%
90〜125ミクロンが42〜53wt%
125〜250ミクロンが1〜4wt%
250〜500ミクロンが1〜4wt%
を構成する。
【0020】
なおより好ましくは、ふるい分けされた粉末の混合物は、
40〜90ミクロンが45〜50wt%
90〜125ミクロンが45〜50wt%
125〜250ミクロンが2〜3wt%
250〜500ミクロンが2〜3wt%
を構成する。
【0021】
セラミック粒状物は、任意の周知の生物医学的材料(種々のリン酸カルシウム材料をベースとする天然又は合成の骨を含む)を含み得る。適切な例としては、ヒドロキシアパタイト、アパタイト、置換ヒドロキシアパタイト(例えば、シリカ被覆リン酸カルシウム)、置換アパタイト、リン酸三カルシウム、そのα多形又はβ多形、ケイ酸カルシウム、リン酸四カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、モネタイト、ブラッシャイト(brushite)、ピロリン酸カルシウム及びリン酸八カルシウムの1つ又は複数が挙げられる。これらの材料は全て、当該分野で通常使用されており、それらの調製には多数の周知の方法が存在する。例えば、PCT/GB97/02325には、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト材料が記載されている。
【0022】
本発明において、セラミック粒子は、好ましくは、相互連結された微孔性を有する。空間又は空隙に送達され、剪断応力又は圧縮力を受ける場合、粒状物中の粒子は、互いに密着し、「固定し合う」ことで、安定で耐荷重性の充填材を形成する。相互連結は、粒子内の細孔を通じてよりも粒子間にあるので、有利な生物学的性質が維持されるのと同時に、移植片強度も維持される。言い換えると、粒子の微孔性構造は、タンパク質及び細胞のための接着部として役立つが、異なる大きさの粒子間の空間は、骨成長のためのマクロ細孔として役立つ。このことは、従来技術の骨移植片材料と対比されるべきである。
【0023】
本発明に係るセラミック粒子状物質は、好ましくは、多孔性セラミック材料を成形することにより調製される。これを達成するための多数の周知の方法、例えば、PCT/GB99/03283に記載の方法がある。しかし、好ましくは、材料は、スラリー(非発泡)をスリップキャストし、次いで乾燥し、いかなるバインダーをも燃焼させ、次いで最後には焼結し、緻密化して作製される。次いで、焼結した材料を粉末状にして、微孔性を有する粒状物を得ることができる。所望の粒径分布は、粉末化パラメータの調整及び/又は粒状物のふるい分けにより達成される。
【0024】
本発明において、生物医学的充填材は、流動性があり、また微孔性及び/又はマクロ多孔性である。さらに、このことは従来技術の骨移植片材料と対比されるべきである。
【0025】
調合薬及び/又は生物学的に機能するペプチドは、制御された送達を可能にするように微細孔に浸透されていてもよい。
【0026】
これより、以下の非限定的な実施例を参照しつつ、本発明をさらに説明する。
【0027】
実施例1
微孔性顆粒の粒子径範囲を、バルク様多孔性シリカ被覆リン酸カルシウムの乾燥粉砕により形成した。粒子をふるいにより分画し、40〜90ミクロンが47.5wt%、90〜125ミクロンが47.5wt%、125〜250ミクロンが2.5wt%、250〜500ミクロンが2.5wt%を構成する混合物を形成した。この混合物に53重量%の血液代替物(63%の脱イオン水及び37%のグリセロール)を加えた。混合物を蠕動ポンプ中に置き、ポンプを20rpmで作動させて、スラリーを骨粗しょう症の脊椎海綿骨(Swabones Europe AB)のモデルに送達した。低荷重条件下で、スラリーを1.12g/sの速度で送達した。海綿骨モデル中の局所的な領域ではスラリーで満たされていたので、生じた背圧は、送達された塊内及び送達チューブ内において圧縮力を生じさせた。これにより、スラリーは「固定し合い」、流れは停止した。
【0028】
実施例2
一定の粒子径範囲の微孔性顆粒を、バルク様多孔性シリカ被覆リン酸カルシウムの乾燥粉砕により形成した。粒子をふるいにより分画し、粒子径範囲が125〜250μのものを保存した。これらの粒子を、低応力条件下(動)、直径2.7mmのカニューラを通して、骨粗しょう症の脊椎海綿骨(Swabones Europe AB)のモデルへ流した。
【0029】
本発明に係る充填材には、実施例により示される以下の医学的手技における用途がある。
【0030】
体内融合
残存する前線維輪/後線維輪及び側線維輪を残すように注意しながら、椎間板材料を除去する。終板が暴露されると、椎間板の空間を散乱させることができ、次いで、充填材を椎間板の空間に導入する。充填されると、散乱力は解放される。自然な圧縮荷重により、粒状物は、一緒になって固定/結合し、安定で耐荷重性の充填材を提供する。粒子の微孔性構造は、タンパク質や細胞の接着部として役立つが、異なる大きさの粒子間の空間は、骨成長のためのマクロ細孔として働く。
【0031】
茎ネジ増強
ネジを緩める/トグリング(toggling)により取り除いた場合、少量の充填材を茎を通じて送達することができる。次いで、充填材中の粒子を押しのけるようにネジを挿入し、以前の機能しなかったネジのトグル作用によって骨中に生成された空間へ粒子を詰めることができる。
【0032】
脊椎圧迫骨折
椎体が、転移性疾患又は代謝性疾患により骨折又は脆弱化している場合、茎を通じて、又は茎を通さずに、機器を挿入して、空間を生成することができる。次いで、送達チューブを取り付けて、入口孔から戻ってくるようになるまで、充填材を空間に送達する。小型のプラグを所定の位置に固定して、充填材の脱出を防止することができる。
【0033】
本発明に係る充填材を用いて、空間に詰め込み、骨へのインプラントの固定を改善してもよい。例えば、膝関節及び股関節修正の手術において、充填材をインプラントと骨との間に挿入して、一次的な固定と二次的な安定性を補助するための充填装置を提供してもよい。この種の用途はまた、引き抜き強度を増加させるために、ネジ固定を改善するための外傷手術において適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物医学的セラミック粒状物を含む骨置換充填材であって、前記充填材は、外部からの剪断応力若しくは圧縮力の付与なしで、又は比較的低い剪断応力若しくは圧縮力の下で流れることができるが、より高い剪断応力又は圧縮力を受けた場合は流れにくい、又は流れず、セラミック粒状物中の粒子の少なくとも一部は、微孔性表面構造及び/又は微孔性表面下構造を有する、骨置換充填材。
【請求項2】
前記セラミック粒状物中の粒子の少なくとも一部は、微孔性表面構造及び微孔性バルク構造を有する、請求項1に記載の骨置換充填材。
【請求項3】
前記セラミック粒状物のための液体キャリアのない実質的に乾燥した形で提供される、請求項1又は2に記載の骨置換充填材。
【請求項4】
前記セラミック粒状物は、外部からの剪断応力若しくは圧縮力の付与なく流れることができるか、又は比較的低い剪断応力若しくは圧縮力下で流れることができるが、より高い剪断応力若しくは圧縮力を受けた場合は流れにくいか、又は流れないような粒径分布を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の骨置換充填材。
【請求項5】
前記セラミック粒状物は、実質的に球状粒子で構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の骨置換充填材。
【請求項6】
前記セラミック粒状物は、実質的に球状粒子で構成され、粒径分布が存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の骨置換充填材。
【請求項7】
前記セラミック粒状物は、少なくとも90%の粒子が0.05〜10mmの等円径である粒径分布を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の骨置換充填材。
【請求項8】
前記セラミック粒状物は、少なくとも90%の粒子が0.1〜5mmの等円径である粒径分布を有する、請求項7に記載の骨置換充填材。
【請求項9】
前記セラミック粒状物は、少なくとも90%の粒子が0.1〜2mmの等円径である粒径分布を有する、請求項8に記載の骨置換充填材。
【請求項10】
以下の径分布:40〜90ミクロンが40〜58wt%;90〜125ミクロンが40〜58wt%;125〜250ミクロンが1〜5wt%;250〜500ミクロンが1〜5wt%を構成する粒状物を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の骨置換充填材。
【請求項11】
以下の径分布:40〜90ミクロンが42〜53wt%;90〜125ミクロンが42〜53wt%;125〜250ミクロンが1〜4wt%;250〜500ミクロンが1〜4wt%を構成する粒状物を含む、請求項10に記載の骨置換充填材。
【請求項12】
以下の径分布:40〜90ミクロンが45〜50wt%;90〜125ミクロンが45〜50wt%;125〜250ミクロンが2〜3wt%;250〜500ミクロンが2〜3wt%を構成する粒状物を含む、請求項11に記載の骨置換充填材。
【請求項13】
前記セラミック粒状物は、ヒドロキシアパタイト、アパタイト、置換ヒドロキシアパタイト、置換アパタイト、リン酸三カルシウム、そのα多形又はβ多形、ケイ酸カルシウム、リン酸四カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、モネタイト、ブラッシャイト、ピロリン酸カルシウム及びリン酸八カルシウムの1つ又は複数を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の骨置換充填材。
【請求項14】
製剤及び/又は生物学的に機能するペプチドが、前記セラミック粒状物の少なくとも一部の微細孔に浸透されている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の骨置換充填材。

【公表番号】特表2009−530005(P2009−530005A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500914(P2009−500914)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000960
【国際公開番号】WO2007/107729
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(508004557)アパテック リミテッド (6)
【Fターム(参考)】