生物材料の固定
本発明は、i)生物材料を提供する工程、およびii)該生物材料を、(a1)10〜90容量%のメタノール、および(a2)少なくとも1つのさらなる添加剤、および(a3)任意に酸を含む第一の非水性組成物と接触させる工程、iii)該生物材料を最高99容量%のエタノールを含む第二の組成物(B)中に移動させる工程を含む生物材料の処理方法、並びに、該方法に使用可能な生物材料の保存のための新規組成物およびこの方法より得られる生物材料、処理された生物材料の分析方法、種々のキット、および、このような方法における組成物の使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物材料の固定方法、この方法により得られる生物材料、該方法を実施するためのキット、および該方法のための組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、生物材料の病理学的または組織学的試験はもっぱら重要事項であった。仮にそうであったとしても、これらのタイプの試験のための試料は、通常、ホルムアルデヒド溶液中に試料を保存するか、および/または、パラフィン中にそれらを包埋することによって、保存または安定化された。しかし、冷却または凍結による生物材料の保存も、長い間、標準的技法であった。
【0003】
初めに、特に医療および臨床診断の分野において、例えば核酸やタンパク質等の生物材料の特定成分の測定は非常に有益であることが認められ、また、新規で、より有効かつより経済的な保存および安定化試薬および/または方法の必要性が明らかになった。
【0004】
これらの開発過程において、分子生物学的試験のための新鮮な試料の重要成分の状態(遺伝子発現プロファイルまたはプロテオーム)が、試料をその自然のままの環境から取り出した直後に正に急激に変化することがあり、その結果、例えば研究室への運搬が故意ではなく遅れる等、未処理の状態で試料をより長く保存することで、分子分析が無効または非常に不可能になり得ることが認められた。
【0005】
確かに、試料はその分析までの経過時間が長くなるほど、生物材料の核酸状態はより変化する。リボ核酸(RNA)は、遍在するリボヌクレアーゼによって、特に迅速に分解する。また、核酸の分解に加えて、例えばストレス遺伝子が誘導され、試料の翻訳パターンをさらに強力に変化させる新たなmRNAの合成を引き起こす。従って、遺伝子発現プロファイルを保持するためには、被験試料を迅速に安定化しなければならない。
【0006】
核酸分析のためだけではなく、生物材料のプロテオームの詳細な試験のためにも、試料を迅速に安定化する必要があるが、これは、タンパク質のパターンも試料の移動の後、迅速に変化するからである。このことは、第一に、分解または新たな合成によって起こり、第二に、例えばリン酸化/脱リン酸化等のタンパク質修飾へと変化することによって特に迅速に起こる。
【0007】
科学捜査、薬学、食品分析、農業、環境分析等の医療および臨床診断分野以外の分野および多くの研究分野においても、タンパク質の化学分析および分子分析の使用は増えていることから、試料の分子構造の完全性の保持およびその結果としてそれらの迅速な安定化は、これらの全ての分野において必要条件である。
【0008】
従って、長年にわたって、広範囲の非常に多様な生物材料の安定化のため、大多数の非常に多様な安定化試薬および安定化方法が開発されてきた。
【0009】
前記の通り、組織の組織学的試験のため、ホルマリンによる安定化およびその後の安定化した試料の包埋が、長い間知られていた。しかし、このタイプの安定化は、結果的に核酸の安定化が非常に不十分であるので、殆どが分子生物学的工程における使用には不適当であり、また、存在する核酸または核酸断片は、定量的な表示ではなく、よくても定性的な表示のみが可能である。さらに、ホルマリン等の架橋安定化剤による安定化は、組織からの核酸またはタンパク質の抽出率の低下を招く。またホルマリンは毒性学的に無害ではない。
【0010】
カチオン性洗浄剤等の安定化試薬は、米国特許US 5,010,184号、米国特許US 5,300,545号、国際特許WO-A-02/00599号および国際特許WO-A-02/00600号(特許文献1〜4)に記載されており、核酸の非常に良好な定性的同定が達成され得る。しかし、これらのタイプの安定化剤は、組織の小片では核酸の安定化が充分ではない。
【0011】
例えば高濃度の硫酸アンモニウムを含む他の安定化剤(例えば米国特許US 6,204,375号(特許文献5)参照)は、種々の組織において核酸の安定化に非常に好適である。しかし、それらは、例えば血液、血清または血漿等の細胞含有または無細胞の体液の安定化における使用には極めて不適当であり、加えて、例えば脂肪組織等のある種の組織では、より低い安定化特性を示す。
【0012】
さらに、核酸を定量的同定のために安定化し得る、これらの試薬および方法は、一般に組織学的検査には適さないが、それは、これらの安定化剤が核酸は保存するが、細胞構造または組織構造は保存しないためである。
【0013】
このことにより、組織試料においてRNA、DNAおよびタンパク質を同時に安定化し、組織試料を組織学的に保存することは特に困難であることが示される。さらに、細胞または他の生物材料を用いた作業は、必ずしも小さな組織に適用できるとは限らない。小さな組織試料における核酸の安定化は、他の生物材料と比較して、特に困難である。組織は、それらの組成、それらの成分および構造のため、複雑で不均一である。小さな組織試料において核酸を安定化するために、安定化剤の効果は、細胞の表面上および/または細胞層の内側だけではなく、複雑な試料材料の内部深くまで達しなければならない。加えて、しばしば一つのおよび同一の生物材料の内部において、例えばタンパク質、炭水化物および/または脂質含有量に関して、例えば細胞構造、膜の構成、局在化および生体分子について非常に異なる組織および/または細胞型に対処しなければならない。
【0014】
全ての成分を含み、先行技術から知られる、頻繁に用いられる組織試料の安定化の形態は、試料の冷凍または低温凍結である。試料は、その自然のままの環境からの移動後、直接、液体窒素中、−80℃未満に低温凍結する。この方法で処理した試料は、次に、約−70℃で、ほぼ時間に無制限に、完全性を損なうことなく保管できる。しかし、これらのタイプの方法は、非常に面倒な運搬条件が常に必要で、移動、保管の間または非常に多様な適用および使用の間、試料の解凍を回避しなければならない。特別なサンプルホルダーおよび試料の持続冷却のための追加費用に加えて、さらに、液体窒素の使用は非常に煩雑なだけではなく、特定の安全対策の下でのみ実施可能である。
【0015】
さらに、低温凍結した試料のその後の分析は、特に試料の個々の成分については、多くの場合、非常に困難であることが判っている。従って、移動および処理の間、試料の解凍または溶解により、特にRNAの分解が起きる。このことは、このような溶解または解凍した試料からは、もはや再現性のある結果が得られないことを意味する。また、正確には、このような凍結状態の組織の断片は、例えば非常に困難な手での分割や、高額の装置費用を要しなければ処理できない。
【0016】
いわゆる移動溶液も、特にRNAの単離のための低温凍結試料の処理に関する不利点を低減することが記載されている。これには、低温凍結した試料を最初に、予め-70℃〜-80℃に冷却された溶液中に移し、次に約-20℃で数時間(少なくとも16時間)その中で保管することが必要である。次に、移動溶液に浸した試料は、例えば核酸の状態を変化させずに試料を分割するために充分な短時間のみであるが、作業温度である-4℃〜室温に加温し得る。しかし、特に室温では、試料のさらなる分析および保管は可能ではない。例えば国際特許WO-A-2004/72270号(特許文献6)より知られるこれらの種類の移動溶液は、主として一価アルコールより成る。
【0017】
不都合なことには、現在の移動溶液で処理した試料は、室温では非常に短時間しか安定ではなく、その結果、処理時間は非常に短く、特に切断および秤量工程は、非常に簡単に処理時間を超過する。さらに、移動は非常にゆっくりであって、その後直ぐに試験が行われず、大部分は待機期間が1日となる可能性がある。同様に、移動だけではなくその後の安定な試料の貯蔵も≦-20℃で実施しなければならないので、この方法で処理された試料を室温で損傷を受けずに輸送することは可能ではない。また、試料の輸送は、≦-20℃で、例えばドライアイス等の冷却剤の使用を必要としてのみ可能である。
【0018】
慣用の移動溶液の使用により、例えば秤量や分割等の試料処理が改善されるが、装置の費用は削減されないか(移動のための溶液は-70〜-80℃に冷却しなければならないので、いずれにしても適当な冷却装置が使用可能でなければならない)、または移動溶液で処理した試料は、室温でより長い時間安定化できない。
【0019】
新鮮な組織試料の急速冷凍を含む全ての方法のもう一つの不利点は、作為的結果である氷晶のために形態学的詳細が正確に保持されないことである。このことは組織学的染色に基づく診断を損なう可能性がある。
【0020】
形態学的構造を保存するための組織固定剤は2つの群に分けられる。1群は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドまたはグリオキサルのような架橋剤を含有する。これらの中では、4%緩衝ホルムアルデヒドが、最も広く使用される固定剤である。1896年にF. Blumが導入した以降になされた唯一の変化は、生理学的pHでホルマリンを中性緩衝化することである(NBF、中性緩衝ホルマリン)。完全には理解されていないが、アルデヒドがタンパク質の間に架橋を形成すると考えられる。これにより、酵素活性が失われ、溶解性タンパク質が構造タンパク質に固定される。また、ホルムアルデヒドは核酸と反応するので、NBF固定化により、低収率となり、核酸の分解が起こる。
【0021】
第二の群は、架橋剤を含有しないが、主成分としてアルコールを含有する。非架橋アルコール固定剤が導入されて、有害なホルムアルデヒド固定化が回避され、組織高分子および特に免疫組織化学法のためのタンパク質エピトープの保存が向上した。アルコールは組織に浸透して、タンパク質の凝結および変性のため、一定の局所濃度に達しなければならない。近頃、カーノイズ(Carnoy's)(60%エタノール、30%クロロホルム、10%酢酸)またはメタカーン(Methacarn)(カーノイズのエタノールをメタノールで置換)のようないくつかのアルコール固定剤は、アルデヒドと比較して核酸固定剤としてより優れた結果が得られることがわかった(コックス(Cox)ら、Experimental and Molecular Pathology 2006年、80巻、183-191頁:非特許文献1)。その他のより最近公表されたアルコール系の固定剤は、70%のエタノール(ジルスピー(Gillespie)ら、Am. J. Pathol. 2002年、160(2)巻、449-457頁:非特許文献2)、56%のエタノールおよび20%のPEG(ポリエチレングリコール、ボストウィック(Bostwick)ら;Arch.Pathol. Lab. Med. 1994年、118巻、298-302頁:非特許文献3)または90%のメタノールおよび10%のPEG300(ヴィンヴェク(Vinvek)ら、Lab. Investigation 2003年、83(10)巻、1427-35頁:非特許文献4)よりなる。
【0022】
加えて、いくつかの最近公開された特許出願は、改良された非架橋固定剤を特許請求している。独国特許DE 199 28820号(特許文献7)には、種々のアルコール、アセトン、PEGおよび酢酸の混合物を含有する固定剤が記載されている。米国特許 US 2003/0211452 A1号(特許文献8)には、RNA、DNAおよび形態の保存のため、少なくとも80%のメタノールと20%以下のPEG300を含有する、「アムフィックス(Umfix)」として商品化された固定剤が記載されている。分子含量および形態の保存のためのエタノール系固定剤は、米国特許 US 2005/0074422 A1号(特許文献9)(「ファインフィックス(Finefix)」)、国際特許 WO 2004/083369号(特許文献10)(「RCL2」)および国際特許 WO 05/121747 A1号(特許文献11)(「ブーンフィックス(Boonfix)」)に記載されている。米国特許US 2003/119049号(特許文献12)には、水性で、緩衝成分、一種のアルコール、固定剤成分および分解阻害剤を含む、一般的な捕集培地が記載されている。
【0023】
しかし、これら上述のアルコール性固定剤は全て、重大な不利点を示す。エタノール、または水とバランスする種々のアルコールの混合物をベースとした固定剤は、RNAの分解を抑制しない。酸および多量のアルコールを含まない固定剤は、短時間はRNAを保護するが、形態学的な細部の崩壊を引き起こす、組織硬化または収縮のような作為的結果を示す。
【0024】
記載された固定剤はいずれも、同時に形態学的安定性を有しつつ、周囲温度で、例えば最高3日間等、長期間にわたってRNAの完全性を維持することはできない。
【0025】
架橋およびアルコール性固定剤に加えて、固定剤の両群を混合した多数の薬剤が知られている。一例は「ゲノフィックス(Genofix)」であり、形態学、免疫原性並びにRNAおよびDNAの完全性の維持のためとして、米国特許 US 5,976,829 A号(特許文献13)に記載されている。ホルムアルデヒドが成分の一つであるため、「ゲノフィックス」もまた、架橋剤の全ての不利点を示す。
【0026】
国際特許 WO 03/029783 A1号(特許文献14)には、異なるアプローチが記載されている。いわゆるHOPE技術(Hepes-グルタミン酸緩衝液媒介有機溶媒保護効果)は、有機緩衝剤、唯一の脱水剤としてのアセトン、および融点が52〜54℃の純パラフィンを有する保護溶液を含む。HOPEの不利点は、組織を処理するまで、4℃で一晩保持しなければならないことである。国際特許 WO 2004/099393 A1号(特許文献15)に記載されているオンコサイエンス(OncoSience)の「リフォルラボ(Liforlab)」は、無機塩、アミノ酸、ビタミン類、コレステロールおよびアデノシンを含有する、酸素富化溶液である。HOPEもリフォルラボも組織を固定しないので、それらは、細胞がまだ患者の体内にあるかのように細胞の分子含量を保持しない。それどころか、例えばRNAの発現プロファイルが貯蔵および/または輸送中に変化することは大いに起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】米国特許 US 5,010,184号
【特許文献2】米国特許 US 5,300,545号
【特許文献3】国際特許 WO-A-02/00599号
【特許文献4】国際特許 WO-A-02/00600号
【特許文献5】米国特許 US 6,204,375号参照
【特許文献6】国際特許 WO-A-2004/72270号
【特許文献7】独国特許 DE 199 28820号
【特許文献8】米国出願公開 US 2003/0211452 A1号
【特許文献9】米国出願公開 US 2005/0074422 A1号
【特許文献10】国際特許 WO 2004/083369号
【特許文献11】国際特許 WO 05/121747 A1号
【特許文献12】米国出願公開 US 2003/119049号
【特許文献13】米国特許 US 5,976,829 A号
【特許文献14】国際特許 WO 03/029783 A1号
【特許文献15】国際特許 WO 2004/099393A1号
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Experimental and Molecular Pathology 2006年、80巻、183-191頁
【非特許文献2】Am. J. Pathol. 2002年、160(2)巻、449-457頁
【非特許文献3】Arch.Pathol. Lab. Med. 1994年、118巻、298-302頁
【非特許文献4】Lab. Investigation 2003年、83(10)巻、1427-35頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の目的は、核酸および/またはタンパク質の単離および組織学的分析を可能にする、有効で迅速かつ容易な方法で、生物材料を安定化する方法を提供することであった。
【0030】
特に、本発明は、可能であれば架橋物質、発がん性物質または胎児傷害性物質を添加することなく、生物材料の容認可能な安定化がもたらされる生物材料を安定化する方法を特定するという目的に基づいたものであった。
【0031】
さらに、本発明は、冷凍の生物材料と、さらには新鮮生物材料との両者を、生物材料のゲノムおよび/またはプロテオームの発現プロファイルを損なうことなく、例えば室温などの、実行できる最も穏やかな温度条件下で安定化し得る、生物材料を安定化する方法を特定するという目的に基づいたものであった。
【0032】
さらに、該生物材料の安定化方法は、安定化された生物材料の組織学的分析および生物材料に含まれる生体分子の分析の両者を可能にすることを意図した。これに関連して、該安定化方法は、特に、安定化された生物材料におけるタンパク質および核酸の両者の定性的および定量的分析を可能にすべきである。従って、生物材料を安定化することによって、例えばゲル分析または所定量の核酸が得られるまでの数のPCRサイクルによって測定し得る核酸の質および量、およびポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、または例えば酵素が適当な活性試験によって測定される場合に測定し得るタンパク質の質および量は、損なわれるべきではない。
【0033】
さらに、該生物材料の安定化方法は、例えば室温等の穏やかな温度で分析され得るだけではなく、このような穏やかな温度条件下でできるだけ長い時間、分析の前または後に任意に貯蔵し得る、安定化された生物材料を提供することを意図した。
【0034】
生体分子の場合、「安定化」という用語は、好ましくは、生体分子の活性における分解、修飾、誘導または変化の阻害を意味することを意図する。生物材料の組織学的分析の場合、「安定化」という用語は、好ましくは、試料の形態学の著しい変化の阻止を意味することを意図する。
【課題を解決するための手段】
【0035】
上記の目的達成への寄与は、生物材料の処理方法であって、該方法が、
i) 生物材料を提供する工程、および
ii) 該生物材料を、
(a1) 10〜90容量%のメタノール、および
(a2) 少なくとも1つのさらなる添加剤、および
(a3) 任意に酸、
を含む第一の非水性組成物と接触させる工程、
iii) 該生物材料を最高99容量%のエタノールを含む第二の組成物(B)中に移動させる工程
を含む方法によって提供される。
【0036】
工程ii)における第一の組成物として特に有用なものは、生物材料の保存のための非水性組成物(A)であって、該非水性組成物(A)は、
(α1) 10以上80容量%未満のメタノール、および
(α2) 少なくとも一つのさらなる添加剤、および
(α3) 酸
を含むものである。
【0037】
驚くべきことに、特に、新鮮に単離された生物材料がメタノールを含有する組成物(A)を用いて安定化され得ること、および、好ましくは新鮮または冷凍、例えば液体窒素で急速冷凍され得る生物材料が、組織学的、分子生物学的および/または微生物学的分析のために調製し得ることがわかった。組成物と接触させた生体材料は、0℃以下に冷却し、そのような低温で分析または貯蔵する必要はなく、従って、本発明の方法は、あらゆる高価な装置を用いず、特に冷却機または冷却剤を用いずに、実施し得る。
【0038】
本明細書に記載した組成物は、その化学的単純性、組織の形態学的・遺伝的特長を保持する能力、および周囲温度での使用の利便性および実用性により開発された。細胞または組織は組成物中に保存してもよく、細胞学、組織学、および/または遺伝学的分析のアーカイブ源となる。その細胞または組織は、プロスペクティブ(前向き)またはレトロスペクティブ(後ろ向き、遡及的)研究のため、保存および/または貯蔵してもよい。好ましくはないが、細胞または組織を他の保存料および/または固定剤と接触させた後に、本発明の組成物中に保存してもよい。
【0039】
該方法の工程i)において調製される生物材料は、冷凍の、または好ましくは非冷凍の生物材料であり得るが、当業者に知られている全ての生物材料を該生物材料として使用し得る。好ましい生物材料は、例えば、RNA、特にmRNA、siRNA、miRNA、snRNA、tRNA、hnRNAまたはリボザイム、DNA等の、天然の、好ましくは単離された線状、分枝状または環状の核酸等の生体分子を含むもの;例えば、特にプライマーのためのオリゴヌクレオチド、PCRに使用するプローブまたは標準物質、ジゴキシゲニン、ビオチンまたは蛍光染料で標識した核酸またはPNA(ペプチド核酸)等、好ましくは単離したタンパク質またはオリゴペプチドである、合成または修飾核酸;例えば、蛍光マーカーを有する抗体、または酵素、ホルモン、成長因子、脂質、オリゴサッカライド、ポリサッカライド、プロテオグルカンと結合した抗体等の、合成または修飾タンパク質またはオリゴペプチド;血液、精液、脳脊髄液、唾液、痰または尿等の体液;血清または血漿等の、血液処理の際に得られる液体;白血球画分または「軟膜」、唾液、糞便、塗抹(スメア)、吸引物、表皮、毛髪、皮膚断片、法医学試料;遊離または結合した生体分子、特に遊離または結合した核酸を含む、食物または環境試料;代謝産物;生物全体、好ましくは非生命体;後生動物、好ましくは昆虫および哺乳類の組織、特にヒト由来の組織、例えば組織断片または器官の形態のもの;単離細胞、例えば接着または懸濁細胞培養物の形態のもの;オルガネラ、例えば葉緑体またはミトコンドリア、小胞、細胞核または染色体;植物、植物の一部、植物の子孫または植物細胞、バクテリア、ウイルス、ウイロイド、プリオン、イーストおよび菌類より選択される。
【0040】
細胞は、ペレットまたは懸濁液であってもよく、好ましくは、生体液(例えば、腹水、血液、脳脊髄液、リンパ液、胸膜滲出液)由来の単離細胞、器官の吸引物または体腔洗浄液由来の細胞懸濁液、または細胞スメア(例えば、頸部)であってもよい。細胞は、酵素的および/または機械的解離によって単離してもよい。細胞は、保存および/または貯蔵の前に、維持または繁殖のための生細胞として培養してもよい。細胞は、遠心分離によって洗浄および回収してペレットにしてもよく、スライドまたは他の基材上に回収してもよい。
【0041】
血液および他の単細胞懸濁液については、細胞の単離は、沈殿または他の密度勾配遠心分離、被覆または非被覆プラスチックプレート上でのパニング(選鉱)、グラスウールまたは他のクロマトグラフィー充填材の通過、ロゼット化、光散乱または蛍光標識抗体による選別、抗体被覆磁粉への結合、またはそれらの組み合わせによって行ってもよい。細胞は、癌に罹っているか、癌が疑われているか(正常または罹患)、または他の病状を患っている、動物またはヒト被験者より得られた、癌性(良性または悪性)または前癌性のものであってもよい。細胞は、剖検または生検(例えば、カテーテル法または静脈切開術)または他の液体回収により得てもよい。細胞は、好ましくは、生体またはインビトロの培養物から取り出した後1〜30分以内、組成物(A)と接触させておくが、この時間は、細胞を氷上で冷却することにより延長してもよい。細胞は保存および/または貯蔵してもよい。
【0042】
細胞は、細胞学的に処理してもよい。細胞は、スライド上に塗抹し、顕微鏡で観察してもよい。抗原または抗体は、検出可能な、比色分析用、酵素性、蛍光、発光、磁性または放射性部分で、直接的または間接的に標識してもよい。細胞は、抗体のパニング(選鉱)または選別、または他の親和性クロマトグラフィーによる抗原発現によって、特定および/または単離してもよい。このような細胞を、DNA/RNA含有量、大きさ、生存能力、蛍光標識抗体の結合、またはこれらの組み合わせによって、血球計算器で分析してもよく、または細胞選別器で分離してもよい。磁石によって、抗体被覆電磁ビーズに結合する細胞を、アフィニティー精製してもよい。細胞は、細胞周期、分裂、成長、またはオルガネラによって特徴付けてもよい。細胞集団の単離のため、陰性または陽性の選択(例えば、アフィニティーまたは選別技術)を用いてもよい。
【0043】
組織は、剖検または生検より、または手術によって得てもよい。組織は、例えば、実質組織、結合組織または脂肪組織、心筋または骨格筋、平滑筋、皮膚、脳、腎臓、肝臓、脾臓、乳房、癌腫(例えば、腸、鼻咽頭、乳房、肺、胃等)、軟骨、リンパ腫、髄膜腫、胎盤、前立腺、胸腺、扁桃腺、臍帯または子宮等の、固形組織であってもよい。任意に、骨や歯のような石灰化組織は、さらなる処理の前に、脱灰する必要があるかもしれない。「組織」は、通常、生体液(例えば、腹水、血液、胸膜滲出液)からの単細胞、器官の吸引物または体腔洗浄液由来の細胞懸濁液、または細胞塗抹スメアには言及しない。組織は、癌に罹っているか、癌が疑われているか(正常または罹患)、または他の病状を患っている、動物またはヒト被験者より得られた、癌性または前癌性の腫瘍(良性または悪性)であってもよい。組織は、剖検または生検(例えば、内視鏡または腹腔鏡検査)または外科的切除により得てもよい。組織は、好ましくは、死亡後または生体からの摘出後1〜30分以内に、組成物(A)と接触させるが、この時間は、組織を氷上で冷却することにより延長してもよい。組織片(例えば、薄片または塊)は本発明の組成物を用いて保存および/または本発明の組成物中に貯蔵してもよく、保存および/または貯蔵した組織は培地中に包埋してもよい。組織は、隣接するセクションに適用された種々の分析法を有する連続的再構築によって分析してもよい。細胞集団の単離のため、陰性または陽性の選択(例えば、光ピンセットまたレーザー切断による顕微解剖)を用いてもよい。
【0044】
新鮮に調製した生物材料、例えば、生存または死亡有機体からの新鮮な組織試料または新鮮に単離した血液細胞、または生物材料として合成生体分子の場合には、新鮮に合成された核酸またはタンパク質は、好ましくは、本発明の方法の工程i)において非凍結生物材料として使用される。本発明によれば、「新鮮な」生物材料とは、好ましくは、工程ii)における組成物と接触する前、または、合成生体分子の場合には合成された後、96時間以下、好ましくは48時間以下、特に好ましくは24時間以下、さらに好ましくは10時間以下、さらにより好ましくは60分以下、最も好ましくは10分以下に摘出された試料を意味すると理解される。しかし、「新鮮な」生物材料という表記は、上述の期間以内に摘出されたが、組成物と接触させる前に、例えばホルマリン等の慣用の固定剤、エオジン等の染料、抗体などで前処理されなかった試料も含む。新鮮な細胞試料または組織試料の調製は、この目的のために当業者に知られている全ての調製方法、例えば、組織試料の場合は、例えば剖検の間に外科用メスで、血液細胞試料の場合には新たに採取した血液の遠心分離等によって行われる。新鮮な生物材料を使用する場合、工程ii)で使用される第一の組成物は、主として安定化組成物となる。この第一の組成物は好ましくは組成物(A)である。
【0045】
生物材料は、本発明の方法の工程i)において冷凍生物材料として使用してもよく、前述の技術に従って単離した後、工程ii)において第一の組成物と接触させる前に、先ず、例えば液体窒素と接触させることにより、0℃以下の温度、好ましくは-20℃以下の温度、および最も好ましくは-70℃以下の温度に冷却する。本発明の方法において冷凍生物材料を使用する場合、次に、工程ii)において使用する第一の組成物は、主に、移動組成物となる。工程ii)で使用される第一の組成物は、好ましくは組成物(A)である。
【0046】
組成物(A)の成分(α1)はメタノールである。メタノールは組成物(A)中、10から80%未満、好ましくは20%から80容量%未満、より好ましくは30から80%未満、および最も好ましくは50から80容量%未満の量、含有される。このことは、メタノールが組成物(A)中、最高で79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、17、16、15、14、13、12、11容量%、または10容量%の量、含まれることを意味する。好ましくは、メタノールは約70容量%、約60容量%または約50容量%、含まれる。
【0047】
上記方法の工程(ii)の、組成物(A)の少なくとも1つの添加剤(α2)または第一の組成物の少なくとも1つの添加剤(a2)は、それぞれ、メタノールと異なるさらなる溶媒、または、洗浄剤;例えばプロテアーゼ阻害剤PMSFまたは市販製品ANTI-RNase(アンビオン(Ambion)社、米国、オースティン(St. Austin))、RNAsecure(R)(アンビオン社)またはDEPC等の、核酸またはタンパク質の分解を阻害する阻害剤;アルキル化剤;アセチル化剤;ハロゲン化剤;ヌクレオチド;ヌクレオチド類似化合物;アミノ酸;アミノ酸類似化合物;粘度調整剤;染料、特に、ある種の細胞構造を特異的に着色する染料;例えばHEPES、MOPS、TRISまたはリン酸緩衝液等の緩衝剤;保存料;例えばEDTAまたはEGTA等の錯形成剤;例えば2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール(DTT)、プテリン、硫酸水素、アスコルビン酸、NADPH、トリカルボキシエチルホスフィン(TCEP)およびヘキサメチルホスホルアミド(Me2N)3P等の還元剤;5,5'-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)等の酸化剤;例えばDMSOまたはDOPE等の、細胞透過性を改善する物質;例えばイソチオシアン酸グアニジウムまたは塩酸グアニジウム等のカオトロピック物質、または;F-、PO43- 、SO42-、CH3COO-、Cl-、Br-、I-、NO3-、ClO4-、SCN-、Cl3CCOO-のようなアニオン、およびNH4+、Rb+、K+、Na+、Li+、Mg2+、Ca2+、Ba2+のようなカチオンとのカオトロピック塩を含む群から選択される添加剤;および、これらの添加剤の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたは少なくとも6つの混合物であり得る。
【0048】
好ましいさらなる成分は、制限されないが、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ジヒドロキシアセトン、2,2-ジブチル-1,3-プロパンジオール、3-メトキシ-1,3-プロパンジオール、3-メトキシ-1,2-プロパンジオール、3-メトキシ-2,3-プロパンジオール、2-メトキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-エトキシ-1,3-プロパンジオール、3-エトキシ-1,2-プロパンジオール、3-エトキシ-2,3-プロパンジオール、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-ヘプタンジオール、1,4-ヘプタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,3-オクタンジオール 1,4-オクタンジオール、1,5-オクタンジオール、1,6-オクタンジオール、1,7-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,2-ウンデカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタエチレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、ヘプタエチレングリコール、ヘプタプロピレングリコール、オクタエチレングリコール、オクタプロピレングリコール、ノナエチレングリコール、ノナプロピレングリコール、デカエチレングリコール、デカプロピレングリコール、シス-またはトランス-1,2-シクロペンタンジオール、シス-またはトランス-1,3-シクロペンタンジオール、シス-またはトランス-1,2-シクロヘキサンジオール、シス-またはトランス-1,3-シクロヘキサンジオール、シス-またはトランス-1,4-シクロヘキサンジオール、シス-またはトランス-1,2-シクロヘプタンジオール、シス-またはトランス-1,3-シクロヘプタンジオール、シス-またはトランス-1,4-シクロヘプタンジオール、1,2,3-シクロペンタントリオール、1,2,4-シクロペンタントリオール、1,2,3-シクロヘキサントリオール、1,2,4-シクロヘキサントリオール、1,2,3-シクロヘプタントリオール、1,2,4-シクロヘプタントリオール、1,2,3-プロパントリオール、3-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,3-ブタントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール、1,2,3-ヘキサントリオール、1,2,4-ヘキサントリオール、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、2,3,5-ヘキサントリオール、1,2,3-ヘプタントリオール、1,2,7-ヘプタントリオール、1,2,3-オクタントリオール、1,2,8-オクタントリオール、1,2,3-ノナントリオール、1,2,9-ノナントリオール、1,2,3-デカントリオール、1,2,10-デカントリオール、1,2,3-ウンデカントリオール、1,2,11-ウンデカントリオール、1,2,3-ドデカントリオール、1,1,12-ドデカントリオール、2,2,-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,3,4-ブタンテトラオール、1,2,3,4-ペンタンテトラオール、1,2,3,5-ペンタンテトラオール、1,2,3,4-ヘキサンテトラオール、1,2,3,6-ヘキサンテトラオール、1,2,3,4-ヘプタンテトラオール、1,2,3,7-ヘプタンテトラオール、1,2,3,4-オクタンテトラオール、1,2,3,8-オクタンテトラオール、1,2,3,4-ノナンテトラオール、1,2,3,9-ノナンテトラオール、1,2,3,4-デカンテトラオール、1,2,3,10-デカンテトラオール、トリメチロールプロパノール、ペンタエリスリトール、糖様マンニット、ソルビトールまたはアラビトール、ヘキサンヘキソール、1,2,3,4,5-ペンタンペントールおよび1,2,3,4,5,6-ヘキサンヘキサオールを含む群に属する、C2〜C12ポリオールである。最も好ましいさらなる成分は、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、グリコール等のジオールおよび/またはトリオール;ポリエチレングリコール(PEG)およびジエチレングリコールモノエチルエーテル酢酸塩(DEGMEA)およびクロロホルムである。本発明によれば、組成物Aにおけるさらなる成分または工程ii)における非水性組成物は、それぞれ、ハロゲン化炭化水素、特に塩素化炭化水素、および特にクロロホルムおよび/またはトリクロロエタンを含まないことが好ましい。PEGの融点は、好ましくは、周囲温度以下である。PEGの平均分子量は、約800ダルトン以下、好ましくは約600ダルトン以下、より好ましくは約400ダルトン以下、およびさらにより好ましくは約300ダルトン以下であればよく;平均分子量は、0〜約800ダルトンの間、約100〜約600ダルトンの間、または約200ダルトン〜約400ダルトンの間であればよい。PEGの平均分子量に言及する場合の「約」という用語は、10、25または50ダルトンの変動が許容されることを意味する。より大きい分子量のPEG(例えば平均分子量が1000以上)は、分子量分布の5%、10%または20%未満の量で存在するかもしれないが、好ましくない。PEG400の融点は、約4℃〜約8℃であり、PEG600は約20℃〜約25℃である。組成物に使用されるPEGの融点は、37℃以下、32℃以下、27℃以下、22℃以下、15℃以下、10℃以下、または5℃以下であればよく;貯蔵の間、冷凍または冷蔵される組織には、より低い融点が好ましい。PEGは、その分子量によって密度が約1.1〜1.2mg/mlであるので、本明細書で与えられる濃度は、比重を1.1として、重量および容量測定の間で変換してもよい。
【0049】
メタノールと異なる溶媒は、メタノール以外の有機溶媒であり得、好ましくは、一価アルコール(モノオール)、C2-C12ポリオール、ケトン、ジメチルスルホキシド、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、カルボン酸、カルボン酸アミド、二トリル、ニトロアルカンおよびエステルを含む群から選択され、ここで好適な溶媒は、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、アセトニトリル、アセトン、アニソール、ベンゾニトリル、1-メトキシ-2-プロパノール、キノリン、シクロヘキサノン、ジアセチン、ジクロロメタン、クロロホルム、キシレン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、トルエン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、アジピン酸ジメチル、炭酸ジメチル、亜硫酸ジメチル、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチルベンゼン、ホルムアミド、三酢酸グリセリン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-N-エチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルチオホルムアミド、N,N-ジエチルチオホルムアミド、N-メチル-N-エチルチオホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ニトロエタン、ニトロメチルトルエンおよびリン酸トリエチルの群から選択し得る。好ましくは、工程ii)における組成物Aまたは非水性組成物は、それぞれ、ハロゲン化炭化水素、特に塩素化炭化水素、および特にクロロホルムおよび/またはトリクロロエタンを含まない。
【0050】
本発明において成分(α2)および(a2)の濃度は、約50%(v/v)、好ましくは40%(v/v)以下、より好ましくは約30%(v/v)以下、さらにより好ましくは約20%(v/v)以下、約1%(v/v)以上、5%(v/v)以上、約10%(v/v)以上、およびそれらのあらゆる中間域である。「約」という用語は、1%(v/v)または2.5%(v/v)の変動を有する濃度に言及する。
【0051】
上記の方法の工程(ii)において使用される、組成物(A)の成分(α3)および第一の組成物の任意成分(a3)は、それぞれ酸であり、すなわち有機または無機酸、好ましくは弱酸である。本発明による弱酸は、好ましくはpKs値が2〜12、より好ましくは3.5〜8、最も好ましくは4〜7.5の酸を意味する。好ましくは該化合物は弱有機酸である。より好ましくは、該有機酸は、アミノ酸またはカルボン(モノ-、ジ-、トリ-、ポリカルボン)酸の群に属し、カルボン酸としては例えばギ酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸等であり、最も好ましくは酢酸またはプロピオン酸である。
【0052】
成分(α3)または(a3)は、それぞれ、0.5%〜30%、好ましくは1〜15%、より好ましくは5〜10%の量で組成物(A)中に存在し、このことは、量が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20%、特に好ましくは5、6、7、8、9、10%であり得ることを意味する。
【0053】
工程ii)における組成物(A)または第一の組成物は、好ましくは、それぞれ、成分(α1)〜(α3)または(a1)〜(a3)より、成分を単純に混合することによって調製される。成分のいずれかが室温以上の融点を有する場合、成分をその融点まで加熱した後、添加物と混合することが好ましいことがある。しかし、調製には、組成物の(α2)〜(α3)または(a2)〜(a3)のうちのそれぞれ一つが固体であり、他の成分が液体である場合には、固体成分を液体成分、少なくともメタノール中に溶解することも可能である。従って、例えば、固体化合物は、液体添加剤または成分(α1)または(a1)中にそれぞれ溶解し得る。
【0054】
組成物(A)として使用可能な、特に好適な組成物は、例えば、実施例で使用される組成物であって、上記の成分(A)の定義に該当するものであり、実施例で示した条件に依存しない。このことは、本明細書の上記の定義に該当する、実施例で使用される全ての組成物は、組成物(A)の最も好ましい態様を表し、示された実施例の他の条件に依存せず該組成物として使用し得ることを意味する。
【0055】
組成物(A)は、本発明の方法の工程ii)における第一の組成物として使用し得る。しかし、組成物(A)はさらに、「移動工程」iii)なしで、生物材料の処理または保存方法に使用し得ることが特に指摘される。さらに、本発明の方法における工程ii)の第一の組成物は、工程ii)の第一の組成物が上記で規定した通り主成分としてメタノールを含む限りは、組成物(A)と異なる組成物であり得る。
【0056】
生物材料と、工程ii)の組成物(A)または第一の組成物との接触は、好ましくは接触の間液体形態である組成物中に、生物材料を浸すことによって好ましく実施され、完成した試料は、組成物で飽和し得る。液体または単離細胞または、例えば粒状試料を生物材料として使用する場合、接触は、生物材料を組成物と混合するか、生物材料を組成物中に懸濁することによって実施される。
【0057】
故に、本発明の方法の特定の態様に従って、生物材料と組成物との接触は、-80℃〜+80℃の範囲内の温度で実施することが好ましく、好ましくは0℃〜+80℃の範囲、より好ましくは2、3、4、5、6、7または8℃〜+80℃の範囲、さらに好ましくは18℃〜+80℃の範囲であり、例えば、少なくとも−20℃、-19℃、-18℃、-17℃、-16℃、-15℃、-14℃、-13℃、-12℃、-11℃、-10℃、-9℃、-8℃、-7℃、-6℃、-5℃、-4℃、-3℃、-2℃、-1℃、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、室温、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃または60℃の温度である。
【0058】
ここで、「生物材料と組成物との接触は、-80℃〜+80℃の範囲内の温度で実施する」か他の前述した温度のうちの一つで実施するという記述は、生物材料を組成物と接触させた後、この方法で得られる混合物の温度が前述した温度内であることを意味する。従って、例えば、-20℃未満の温度で急速冷凍した試料、例えば液体窒素中で保存されている試料は、生物材料として使用し得るが、この場合、ある量の組成物または組成物は、生物材料と組成物とを接触させた後、混合物の温度(従って、生物材料の温度でもある)が上記の温度範囲にあるような温度で使用される。
【0059】
本発明によれば、生物材料の処理方法は、「移動工程」iii)を含み、ここで生物材料は最高99容量%のエタノールを含む第二の組成物(B)中に移される。移動工程は、例えばさらなる処理が次の1〜3日間以内に実施され得ない場合、生物材料を保存するのに特に好適である。
【0060】
該移動は、生物材料を工程ii)の組成物または組成物(A)からそれぞれ取り出し、該材料を組成物(B)に浸すことによって、または、試料全体を移動または混合することによって実施され得るが、これは、生物材料を工程ii)の組成物または組成物(A)のそれぞれと一緒に、組成物(B)中に移動するかまたは組成物(B)と共に混合することを意味する。最後に述べた場合では、例えば、組成物(B)を、試料(生物材料および工程ii)の組成物または組成物(A))に添加することもでき、または、試料を組成物(B)中に注ぐこともできる。該生物材料の移動工程または試料の組成物(B)との混合工程は、例えば2つの異なる容器/チューブ/皿を用い、一つにはそれぞれ工程ii)の組成物または組成物(A)を、一つには組成物(B)を入れ、生物材料を一つから他方に移すことによるか、または、試料全体(生物材料および工程ii)の組成物または組成物(A))を組成物(B)中に注ぎ入れることによるか、または、組成物(B)を試料に添加することによって実施し得る。他方で、該移動工程iii)には、特別に設計された装置、例えば、2つのチャンバーを有し、1つは工程ii)の組成物または組成物(A)を含有し、1つは組成物(B)を含有するものを使用し得る。装置は、例えば、装置を回転させること、障壁を開けること、または試料(生物材料および工程ii)の組成物または組成物(A))の組成物(B)との混合を可能にするあらゆる他の好適な工程等の、あらゆる操作によって該移動工程を実施する選択肢を提供するように設計される。
【0061】
移動工程が試料を組成物(B)と混合することによって実施される場合、工程ii)の組成物または組成物(A)は、すべての割合で組成物(B)と混合してもよい。組成物(B)は、工程ii)の組成物または組成物(A)と比較して少なくとも等量比で使用することが好ましく、好ましくは組成物(B)を過剰量使用する。従って、工程ii)の組成物または組成物(A)の組成物(B)に対する割合は、20:1〜1:50の範囲内であり、好ましくは1:1〜1:20、より好ましくは1:5〜1:10の範囲内である。
【0062】
工程iii)の移動は、好ましくは、生物材料を工程ii)の第一の組成物と接触させた後、10分〜72時間以内に実施され、好ましくは48時間以内、最も好ましくは24時間以内に実施される。
【0063】
組成物(B)は、主成分としてエタノールを含む。エタノール含量は、最高で99%であり得、好ましくは20〜90%の範囲内であり、より好ましくは40〜85%の範囲内であり、さらにより好ましくは50〜80%の範囲内であり、最も好ましくは60〜70%の範囲内である。組成物(B)はさらに、組成物(A)の成分(α3)または(a3)に対応する酸を、0〜30%、好ましくは1〜15%、より好ましくは5〜10%の量で含み得、2価または3価アルコールおよび組成物(A)の成分(α2)または(a2)に対応するさらなる成分を、組成物(A)について上記した量で含み得る。しかし、組成物(B)は、非常に好ましい態様においては水を含有せず、このことは組成物(B)が同様に非水性組成物であることを意味する。
【0064】
加えて、本発明の方法の特別な態様では、生物材料は、好ましくは上記の温度条件下で工程ii)の組成物と接触させた後、-80℃〜+80℃の範囲内の温度で工程ii)の後、または好ましくは工程iii)の後、保存され、好ましくは0℃〜+80℃の範囲内、さらにより好ましくは、2、3、4、5、6、7または8℃〜+80℃の範囲内、さらに好ましくは18℃〜+80℃の範囲内で保存され、例えば最低で-20℃、-19℃、-18℃、-17℃、-16℃、-15℃、-14℃、-13℃、-12℃、-11℃、-10℃、-9℃、-8℃、-7℃、-6℃、-5℃、-4℃、-3℃、-2℃、-1℃、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、室温、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃または60℃の温度で保存され、この保存は、少なくとも1日、好ましくは少なくとも2日、さらに好ましくは少なくとも3日、任意に少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月または少なくとも12ヶ月の期間、行われ得る。
【0065】
本発明の方法は、処理された生物材料を室温、冷蔵庫の温度またはさらにより高い温度で、生物材料中の核酸やタンパク質等の生体分子の観察可能な分解を起こさずに、保存することを可能にする。これは、中性緩衝ホルマリンでの慣用の固定化を凌ぐ、顕著な利点を表すが、過剰な固定化を避けるため、24時間以内に試料のさらなる処理が必要である。組織形態を傷つける低温固定と比較して、提示された方法は、形態を傷害せず、液体窒素や急速冷凍装置を使用せずに実施され、安定化された試料は液体窒素や急速冷凍装置を使用せずに保存することもできるという、優位点を有する。
【0066】
本発明の処理後、および任意に、可能な保存工程の前または後に、処理された生体材料、特に組織材料の場合には、さらに処理される可能性がある。組織は、一連の試薬によって採取され、最終的に、固まった際にミクロトーム法(薄片試料作成法)に必要な支持体を提供する、安定な媒体中に浸潤して包埋される。処理の第一の工程は脱水である。組織は、遊離した水の一部または全てを除去することにより、包埋媒体に処理される。これは、親水性または水混和性液体の濃度上昇を経て、試料を移すことによって実施される。脱水剤の例としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、直鎖および第三ブタノール等のアルコール、2-エトキシエタノール、ジオキサンまたはポリエチレングリコール等のグリコールエーテル、および、アセトン、テトラヒドロフランまたは2,2-ジメトキシプロパン等の他の脱水剤が挙げられる。処理の次の工程は、溶媒での清浄であり、これにより、脱水および浸潤工程の間の移動を促進する。この工程は、脱水剤と包埋媒体とが混和しない場合は常に必要である。清浄剤の例としては、キシレン、リモネン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、石油エーテル、二硫化炭素、四塩化炭素、ジオキサン、丁子油またはシダー油、または他の市販のキシレン代用品が挙げられる。
【0067】
処理および任意の清浄の後、組織学的検査に好適な生物材料の組織切片をより簡単に製造することができるように、生物材料を、例えば、パラフィン、鉱物油、非水溶性ワックス、ジエチレングリコール、エステルワックス、ポリエステルワックス、セロイジン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリビニルアルコール、寒天、ゼラチン、ニトロセルロース、メタクリレート樹脂、エポキシ樹脂、他のプラスチック媒体等の、好適な包埋材料(C)に浸潤および包埋し得る。該浸潤および包埋工程は、好ましくは、例として、例えば60℃未満等の低融点パラフィン(ワックス)を用いた緩和な条件下で出来るだけ速く実施されるが、本発明の方法を制限しない。該工程は、手作業または、あらゆる自動システムによって実施され得る。組織処理装置の例には、サーモ・エレクトロン社(Thermo Electron Corporation)のシャンドン・エクセルシオール(Shandon Excelsior)、シャンドン・パスセンター(Shandon Pathcentre)またはシャンドン・シタデル(Shandon Citadel)、および、ライカ・マイクロシステムズ(Leica Microsystems)のライカTP1020、ライカASP200SまたはライカASP300S、または他のあらゆる組織処理装置が挙げられる。
【0068】
加えて、本発明の方法の特別な態様によれば、工程iii)の後に、さらなる工程:
iv) 生物材料の手作業での処理、生物材料のマイクロ波エネルギーによる処理または生物材料のあらゆる組織処理装置による処理から選択される、
さらなる処理工程
が続くことが好ましくあり得る。
【0069】
生物材料のマイクロ波エネルギーによる処理は知られている方法である。最良の結果のための該方法および好適な装置は、例えば、米国特許US 6,207,408 B1号、国際特許WO99/09390号、国際特許WO01/44783号および国際特許WO01/44784号に記載されている。該書類に記載された装置は、本発明の方法に好ましく使用される。
【0070】
この工程において、生物材料は、マイクロ波放射を受ける。好ましくは、生物材料は、脱水のため100%エタノール中で撹拌する間に放射を受け、任意にその後、中間試薬として100%イソプロパノールを用い、その後、好適なマイクロ波装置(即ち、温度を厳格に制御する、実験用途のために設計されるべきマイクロ波;例えば、マイルストン(Milestone)社のRHS-1、ペルコ(Pelco)社のペルコ・バイオウエーブ(Pelco BioWave)またはサーモ(Thermo)社のシャンド・ティッシュウエーブ(Shando TissueWave))において包埋材料(C)を用いる。あるいは、中間工程は省略することができ、撹拌は、組成物Bまたは種々のアルコールの混合物中で直接実施することができ、その後、包埋材料(C)を用いる。好ましくは、生物材料は、40〜85℃、より好ましくは40〜75℃、最も好ましくは40〜65℃のマイクロ波放射による加熱条件下で処理され、最長で60分間、好ましくは最長30分間実施される。
【0071】
マイルストン社(Milestone Inc.)のRHS-1真空マイクロ波包埋装置を用いた標準的プロトコルによれば、生物材料は、100%エタノール中、放射下で18分間撹拌し、最後には65℃に達し、その後同条件下で100%イソプロパノールを用いる。70℃、500mbarの真空下で30秒間、組織を乾燥した後、試料を流動パラフィン中、150mbarに達する真空下、70℃で最高30分間撹拌する。
【0072】
生物材料のマイクロ波処理には、2つの主要な優位点がある:第一に、生物材料が最終的に調製された試料となるまでの処理の全ての処理は、著しく短縮され得る。第二に、マイクロ波エネルギーによる処理時間の短縮は、非変性核酸、特にRNAの収率を顕著に増加させることが判った。
【0073】
従って、好ましい態様において、本発明の方法は、i)試料を供給する工程、ii)組成物(A)であり得る、第一の組成物中での固定化/脱水工程、iii)第二の組成物(B)中へ移動させる工程、iv)マイクロ波エネルギーまたは処理装置および包埋により、手作業で試料を処理する工程を含む。
【0074】
本発明の組成物および方法は、試料中に元来含有される生物学的成分のほとんどが単離され得るような方法で処理される試料を提供する。生体分子は、崩壊度が非常に低いため、RNAも非常に高収率で単離され得る(RNAは、ユビキタノンRNA分解酵素のため、通常は崩壊度が非常に高い分子である)。RNAの維持のみのために開発された、例えばRNAレイター(RNAlater)(アンビオン(Ambion)社)等の、従来の組成物と比較により、試料からのRNA収率はほぼ同様であるが、RNAレイターの場合とは異なり、本発明の組成物および方法を使用する場合は、試料の形態が完全に維持されることが示される。従って、同様の試料が分子生物学的分析および組織学的分析に使用し得る。加えて、本発明の組成物および方法により、例えばレーザー顕微解剖装置を使用して、形態学的分析の後であっても、少量の試料または単細胞からの生体分子の抽出が可能になる。
【0075】
組織学的検査は、好ましくは、例えば、顕微鏡検査および任意に当業者に知られた染色および標識技術を使用して、好ましくは、組織、組織切片、細胞または細胞内構造の形態学的状態の分析に好適な各検査方法を意味すると理解される。
【0076】
分析され得る生体分子としては、当業者に知られた全ての生体分子が含まれ、特に、天然、修飾または合成核酸、天然、修飾または合成タンパク質またはオリゴペプチド、ホルモン、成長因子、代謝基質、脂質、オリゴサッカライドまたはプロテオグルカンが挙げられる。核酸としては、当業者に知られた全ての核酸が含まれ、特に、リボ核酸(RNA)、例えばmRNA、siRNA、miRNA、snRNA、t-RNA、hnRNAまたはリボザイム、またはデオキシリボ核酸(DNA)が挙げられる。基本的に、プリン塩基またはピリミジン塩基のN-グリコシドまたはC-グリコシドを含む、全ての種類のポリヌクレオチドが関係する。核酸は、一本鎖、二本鎖または多重鎖の、線状、分枝状または環状であり得る。核酸は、例えばゲノムDNAまたはメッセンジャーRNA(mRNA)等、細胞中に発生する分子に対応するか、相補的DNA(cDNA)、逆鎖RNA(aRNA)、または合成核酸等、インビトロで製造され得る。核酸は2、3のサブユニットから成り得、少なくとも2つのサブユニット、好ましくは例えばオリゴヌクレオチド等の8以上のユニット、例えば発現ベクター等の数百ユニットから数千サブユニット、またはゲノムDNA等の大多数のサブユニットから成り得る。好ましくは、核酸は、調節配列を有する機能的結合においてポリペプチドのコーディング情報を含むが、調節配列は、該核酸が細胞に持ち込まれているか、生来存在するかである細胞においてポリペプチドの発現を可能にする。従って、好ましい態様において、核酸は、発現ベクターである。別の態様において、核酸は、pDNA(プラスミドDNA)、siRNA、siRNA重複体またはsiRNAヘテロ重複体であり、ここで、「siRNA」という用語は、長さが約22個のヌクレオチドのリボ核酸を意味すると理解され、これは、酵素「ダイサー」によって二本鎖RNA(dsRNA)の断片より形成され、酵素複合体「RISC」(RNA誘導サイレンシング複合体)に組み込まれる。
【0077】
「組成物と接触させた、生物材料中のまたは生物材料の、生体分子分析」との記述は、例えば、生物材料から生体分子を単離した後、分析がその場で、または、その場以外の両方で実施し得ることを意味する。分析目的のため、生体分子の単離をしようとする際には、特に細胞、組織または他の複合体または少量の試料の場合、先ず試料を均質化することが有利であり得るが、この均質化は、例えばカニューレ、乳鉢、ロータ・ステータ・ホモジナイザー、ボールミル等で機械的に、または通常洗浄剤および/またはカオトロピック物質を含有する好適な溶解緩衝液を添加することによって化学的に、または、例えばプロテアーゼを添加することによって酵素的に、または、これらの技術の組み合わせにより、実施し得る。
【0078】
組織学的分析、または、生物材料中のまたは生物材料の、生体分子の分析には、当業者に知られており、好適であると思われる全ての分析方法を使用し得るが、好ましくは、クレシル・バイオレット、フクシン-メチレンブルー-アズール、ガロシアニン、ギムザ、グリーン・マッソン・トリクローム、ハイデンハインのアザン、ハイデンハイムの鉄ヘマトキシリン、ヘマトキシリン-エオジン、ヘマトキシリン-エオジン+アルシアンブルー、銀によるレチクリンの包埋、ルクソール・ファースト・ブルー、メチレンブルー、パッペンハイム染色、トルイジンブルー、ワイゲルト・レゾルシン-フクシン、ワイゲルト・ワンギーソン、イエロー・マッソン・トリクローム等の染色法;光学顕微鏡法、電子顕微鏡法、共焦点レーザー走査顕微鏡法、レーザーマイクロダイゼクション、走査電子顕微鏡法、インサイチュハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション、原色素インサイチュハイブリダイゼーション、免疫組織化学法、ウエスタンブロット法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降、アフィニティークロマトグラフィー、変異分析;ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)、特に二次元PAGE;制限されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、転写媒介増幅(TMA)、NASBA、SDA、分岐DNA分析、RFLP分析(制限断片長多型分析)、SAGE分析(遺伝子発現連続分析)を含む核酸増幅技術;FPLC分析(中高圧液体クロマトグラフィー);質量分析、例えばMALDI-TOFF質量分析またはSELDI質量分析;マイクロアレイ解析、リキチップ(LiquiChip)解析、酵素活性解析、HLAタイピング、シークエンシング、WGA(全ゲノム増幅)、RT-PCR、リアルタイプPCRまたは-RT-PCR、リボヌクレアーゼプロテクション解析またはプライマー伸長解析を含む群から選択された方法を使用し得る。
【0079】
本発明の方法の特別の態様によれば、分析は、生物材料の組織学的分析と、生物材料中の、または生物材料の生体分子の分析との両者を含む。本発明の方法のさらに特別な態様では、生体分子の分析は、生物材料中の、または生物材料の核酸の分析と、生物材料中の、または生物材料のタンパク質の分析との両者を含む。
【0080】
本発明の方法によって処理された生物材料も、上記の目的達成に寄与する。
【0081】
また、
(b1) 上記の本発明の方法の文脈において記載された、工程ii)の第一の組成物として使用可能な組成物、および
(b2) 組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含むキットも、上記の目的達成に寄与する。
【0082】
さらに、
(b1) 組成物(A)
(b2) 任意に、組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含むキットもまた、本発明の目的達成に寄与する。
【0083】
生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬は、基本的に、当業者に知られた全ての試薬であり得るが、試薬は、生物材料の形態分析のためまたはその間、または生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析のためまたはその間、使用し得る。これらの試薬としては、特に、細胞または細胞成分の染色用染料、抗体、任意に蛍光染料または酵素で標識した抗体、例えばDEAEセルロースまたはシリカ膜等の吸収マトリックス、酵素基質、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル、エタノールまたはフェノール等の溶媒、水性緩衝液、RNAを含まない水、溶解試薬、アルコール溶液等があげられる。
【0084】
また、生物材料の処理のための、組成物(A)または上述のキットの一つの使用、および、生物材料の処理のため、特に生物材料の安定化のための、本発明の方法の工程ii)の第一の組成物と組成物(B) との組み合わせまたは本発明の方法における上述のキットの一つの使用も、上記の目的達成に寄与する。
【0085】
さらに、以下の、
(c1) 方法工程i)、ii)、iii)および任意にiv)を含む本発明の方法を実施する工程、および
(c2) 処理された生物材料を分子生物学的および/または組織学的に分析する工程
を含む、生体外での疾患の診断方法が、上記の目的達成に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、実施例1で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表1の試料番号に対応する。
【図2】図2は、実施例2で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表2の試料番号に対応する。
【図3】図3は、実施例3で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表3の試料番号に対応する。
【図4】図4は、実施例4で説明した、ゲル上の腸組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表4の試料番号に対応する。
【図5】図5は、実施例5で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表5の試料番号に対応する。
【図6】図6は、実施例6で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表6の試料番号に対応する。
【図7】図7は、実施例7で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表7の試料番号に対応する。
【図8】図8は、実施例8で説明した、ゲル上の脾臓組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表8の試料番号に対応する。
【図9】図9は、実施例9で説明した、ゲル上の脾臓組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表9の試料番号に対応する。
【図10】図10は、実施例10で調製した、固定および染色した腸組織を示す。
【図11】図11は、実施例11で調製した、固定および染色した脾臓組織を示す。
【図12】図12は、実施例11で調製した、固定および染色した腎組織を示す。
【図13】図13は、実施例12で調製および単離した、ゲル上に固定した脾臓組織から単離したDNAを示す。
【発明を実施するための形態】
【0087】
ここで、以下の実施例により、本発明をより詳細に記載する。実施例は例示のためのみに提供され、本発明を示された態様に限定するものと考えるべきではない。
【実施例】
【0088】
実施例1
組成物Aに従った種々の試薬で安定化された組織試料からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlのポリプロピレン製の回収容器中、組成物A(表1)に従った2〜4mlの固定化溶液中に完全に浸した。組織試料を周囲温度で24時間保存した。
【0089】
動物組織から全RNAを単離するため、市販のキット(RNeasy Mini、キアゲン(QIAGEN)社)を用い、RNeasy Miniプロトコルに記載された通り、RNA抽出を実施した。組織試料を小片に切り分け、2mlの微小遠心管に入れた。組織各片の重量を測定し、イソシアン酸グアニジン(GITC)を含有する、組織10mg当り容量350μlの溶解緩衝液(Buffer RLT、キアゲン社)を、鋼球(5mm)と共に加えた。ミキサーミル(Mixer-Mill)(Tissue-Lyser、キアゲン社)で20Hzで2分間、破壊と同時に均質化を実施した。最新技術によれば、GITCは細胞を溶解し、タンパク質を沈殿させる。溶解物を14,000rpmで3分間遠心分離した。組織約10mgに相当する350μlの上澄みを、新たな遠心管に移し、1容量(350μl)の70%エタノールと混合し、シリカ膜含有スピンカラム(RNeasy-Miniカラム)に適用した。溶解物は遠心分離によって膜を通って移動し、それによりRNAを膜に吸着させた。膜を350μlのGITC含有洗浄緩衝液RW1(キアゲン社)で2回洗浄することによって、混入物質を除去した。2回の洗浄工程の間に、70μlの緩衝液RDD(キアゲン社)と混合した10μlのDNase(約30Kunitzユニット)を膜にピペッティングし、周囲温度で15分間インキュベートすることによって、残存するDNAを膜から除去した。Tris-Cl緩衝液およびアルコールを含有する500μlの洗浄緩衝液RPE(キアゲン社)による、さらに2回の洗浄工程の後、膜を14,000rpmで1分間、フルスピードの遠心分離により乾燥した。最後に、RNAを40μlの水でピペッティングして溶出した後、周囲温度で1分間インキュベーションし、10,000rpmで1分間遠心分離した。さらに40μlの水で溶出工程を繰り返し、両方の溶出物を合わせた。全ての抽出は3重に行った。
【0090】
260nmでの吸光度(A260)を分光光度計で測定することにより、RNA濃度を定量した。有意性を確かにするため、溶出物をpH7.5の10mMトリス-Clで希釈し、吸光度A260が1〜0.15の間であることを示した。これらの条件下、260nmでの1ユニットの吸光度は、44μgのRNAに対応する。
【0091】
変性アガロースゲル電気泳動によって、全RNAの完全性およびサイズ分布を分析した。例えば、15μlの溶出液を、ホルムアルデヒド(FA)およびブロモフェノールブルーを含有する3μlの試料緩衝液と混合し、70℃で10分間インキュベートし、氷上で冷やし、1x FAゲルランニングバッファーで平衡化した1.0%ホルムアルデヒド-アガロース-MOPSゲルに負荷した。電気泳動装置の長さ1cm当り約3ボルトで90分間、電気泳動を実施した。RNAは、エチジウムブロマイド染色で視覚化した。ゲルは図1に示し、ゲル上のレーンは、表1に示した試料番号に対応する。
【0092】
表1に示した通り、組織を24時間以内で保存する場合、組成物Aに従った組成物で組織試料を処理することにより、RNAlaterでの組織固定と同等の高RNA収率となる。種々の濃度の成分a1および種々の添加成分およびある濃度の成分a2およびa3を用いた実施例(表1、1〜18および20〜26)、および対照としてRNAlaterを用いた例(表1、19)を示す。
【0093】
完全性およびサイズ分布の分析により、18S-および28S rRNAのリボゾームのバンドが染色ゲル上でシャープなバンドとして現れることが示された(図1)。28S rRNAのバンドは、18S RNAのバンドの約2倍の強度であり、染色ゲル上では、より小さいサイズのRNAは見られず、スメアもほとんど見られなかったことから、RNA試料は固定化または調製の間、分解を受けなかったと結論し得る。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例2
組成物Aに従った種々の試薬および主成分としてエタノールを含有する試薬で安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlのポリプロピレン製の回収容器中、組成物Aに従ったエタノール(表2、4〜6)またはメタノール(表2、1〜3)を含有する2〜4mlの固定化溶液中に完全に浸した。組織試料を周囲温度で24時間保存した。
【0096】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量及び完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図2に示し、ゲル上のレーンは、表2に示した試料番号に対応する。
【0097】
表2に示した通り、エタノールを主成分として含有する試薬で組織試料を安定化した場合、RNA収量は非常に高かった。高収量にもかかわらず、アガロースゲル電気泳動では、エタノール含有安定化試薬で得られたRNAは、保存中に様々な程度の分解を受けたことが示された。組成物1〜3と対照的に、18Sおよび/または28SリボソームRNAは、シャープで明確なバンドとして染色できなかった。代わりに、種々の程度のスメアおよびより小さいサイズのRNAのバンドが可視化した(図2)。エタノール含有試薬の場合、リボ核酸のより小さい断片が260nmでより高い吸光度を示すという事実から、収量の定量は人為的に高かったことが推測され得る。
【0098】
【表2】
【0099】
実施例3
主成分としてメタノールを含有する、含水または無水の種々の試薬で安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、2〜4mlの、水溶液中のメタノール含有固定化溶液(表3、1)または組成物Aに従った無水試薬中のメタノール含有固定化溶液(表3、2)中に完全に浸した。組織試料を周囲温度でかなりの期間である4日間保存した。
【0100】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図3に示し、ゲル上のレーンは、表3に示した試料番号に対応する。
【0101】
表3および図3(2番)に示されるように、4日間の保存後であっても、組成物Aに従った無水試薬中で保存した組織試料から、損傷を受けないRNAを単離することができた。実施例1および2に示された結果と比較して、収量は低下したが、28S-および18S rRNAは、スメアやより小さな明確なRNAバンドを伴わない完全なバンドとして、なおも見ることができた。対照的に、水性試薬で安定化した組織試料からのRNAは、かなり分解され、低濃度であった(表3および図3の1番)。
【0102】
【表3】
【0103】
実施例4
種々の試薬で安定化し、本発明の組成物B を有する第二の試薬中へ移すか移さない組織からのRNAの単離
ラットの腸組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、組成物Aに従った種々の試薬5ml中に完全に浸し、周囲温度で保存した。試料は、7日間保存するか(表4、1〜4)、または、4時間後に組成物Bに従った試薬5ml中に移して、この試薬中で7日間保存した(表4、5〜8)。
【0104】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図4に示し、ゲル上のレーンは、表4に示した試料番号に対応する。
【0105】
表4に示されるように、試料を第二の試薬中に移さなかった場合、本発明の組成物Bに従った試薬中に移した試料と比較して、RNA収量は有意に低下した。
アガロースゲル電気泳動により、7日間の保存後であっても、本発明に従って組成物AおよびBに従った試薬中で保存し、処理した組織試料から、損傷を受けないRNAを単離できたことが示された。移動を実施しなかった場合(図4)、ゲルによって低収量が確認された。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例5
本発明の組成物AおよびBに従った試薬で安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、10mlの組成物Aに従った試薬中に完全に浸し、周囲温度で保存した。1つの試料は3日間保存し(表5、10)、他のものは2時間後に10mlの組成物Bに従った種々の試薬中に移し、これらの試薬中で3日間保存した(表5、1〜8)。対照として、1つの試料をRNAlater中で保存した(表5、9)。
【0108】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図5に示し、ゲル上のレーンは、表5に示した試料番号に対応する。
【0109】
この実施例によって、本発明によるRNA安定性に対する組織処理の効果、即ち、組成物Aに従った試薬から組成物Bに従った試薬へ移動させる効果が再度示される。移を行った試料では、RNA収量は依然として高く、RNAlaterを用いた対照に相当する範囲であった(表5、1〜7および9)。保存3日後でも、目に見えるRNAの分解は観察できなかった(表5、1〜7および9)。対照的に、移さなかった場合、収量は有意に低下し、スメアの増加と28S rRNAのバンドの減弱により、RNAの分解が可視的になった(表5、10および図5、10)。試料をBoonfix(上記参照)中に移した場合、類似の効果が観察できたが、供給業者によれば、これは主としてエタノールよりなる試薬であるが、水とバランスしたものである(表5、8および図5、8)。
【0110】
【表5】
【0111】
実施例6
本発明に従って安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、2mlの工程ii)の組成物に従った試薬中に完全に浸し、周囲温度で4時間保存し、組成物Bに従った種々の試薬中に移し、さらに2日間保存した(表6、3〜9)。加えて、1つの試料は移さずに、工程ii)に従った試薬組成物中に保存し(表6、10)、一つの試料は100%エタノール中に移し(表6、1)、一つの試料は70%エタノール中に移した(表6、2)。
【0112】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図6に示し、ゲル上のレーンは、表6に示した試料番号に対応する。
【0113】
この実施例は、組成物Bに従った種々の試薬中への移動の、本発明の安定化効果を実証する。種々の添加成分(a2)および種々の濃度の有機酸(a3)を有する種々の試薬が示される(表6、3〜9および図6、3〜9)。第二の試薬を水とバランスすることにより、RNA収量は低下し、アガロースゲル上のスメアは増加したが、このことは、分解の進行を示す(表および図6、2)。試料を移さないことで、RNA収量が低下した(表6および図6、10)。100%エタノール中へ移動させることにより、分解は全く起こらず、RNA収量が高くなった(表6および図6、1)。しかし、100%エタノール中に保存された組織試料が硬化および収縮を受けることは、一般に是認されている。結果として、試料は脆くなり、その後に組織学的作業方法を実施する際に、不自然な結果となる。
【0114】
【表6】
【0115】
実施例7
本発明に従って安定化した組織からのRNAの単離、クロロホルムの置換
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、それぞれ、5mlの、クロロホルム含有試薬、クロロホルムを対応量の水またはメタノールで置換した試薬、または工程ii)の組成物による従った試薬のいずれかに完全に浸し、周囲温度で48時間保存した(表7、1〜4)。加えて、1つの試料は、3時間後に、組成物Bに従った試薬中に移し、さらに45時間保存した(表7、5)。
【0116】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図7に示し、ゲル上のレーンは、表7に示した試料番号に対応する。
【0117】
この実施例により、固定化試薬内のクロロホルムは対応量のメタノールまたは水で置換できないことが実証される(表7および図7、1〜3)。クロロホルムをメタノールまたは水で置換することによって、RNA収量が減少し、アガロースゲル上のスメアが増加したが、このことは分解の進行を示唆する(表および図7、2および3)。同様の安定化効果を達成するため、クロロホルムは、(a2)に従った少なくとも1つの更なる添加剤で置換しなければならない(表および図7、4)。しかし、RNA収量が最高でRNA分解が最低である、最良の安定化効果は、3時間後に組織試料を組成物Bに従った試薬中に移動させることによって達成することができた(表および図7、5)。
【0118】
【表7】
【0119】
実施例8
本発明に従って組成物AおよびBに従った試薬で安定化し、慣用法で処理した、パラフィン包埋組織からのRNAの単離
ラットの脾臓組織を、解剖直後に約4x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlの、組成物Aに従った試薬中に完全に浸し、周囲温度で24時間保存した。このインキュベーション期間の後、試料は、直接処理するか(表8、1および4)、または、組成物Bに従った試薬中に移し、周囲温度で(表8、2および5)または4℃で(表8、3および6)さらに4日間保存して、最終的に処理した。
【0120】
標準的プロトコルに従って、脱水、清浄、浸潤および包埋を含む処理を手作業で実施した。試料を標準的な処理カセット(ヒストセット(histosette))中に入れ、エタノール濃度を上げることにより、即ち、それぞれ60分間、70%、80%、2回の96%エタノール中でのインキュベーションにより脱水した。清浄は、脱水と包埋培地での浸潤の間の移動工程として、100%キシレン中、60分のインキュベーションを2回実施した。組織腔および細胞を、56℃で約12時間、流動パラフィン(低融点パラプラスト(Paraplas)XTRA、ロス(Roth)社)で飽和させた。ミクロトーム法に必要な支持材を提供するため、試料を浸潤用に用いられる同一のパラフィン中に包埋した。
【0121】
RNA抽出の出発材料として、パラフィン塊の新たな切断部を使用した。パラフィン塊は、回転式ミクロトーム(ライカ(Leica)RM2243)で切り取り、各試料から切り出した、厚さがそれぞれ10μmの薄片10枚を、微小遠心管に回収した。キシレン1mlを加え、ボルテックスし、14,000rpmで2分間、遠心分離することによって、脱パラフィンを行った。上澄を除去し、ペレットを100%エタノール1mlに溶解した。14,000rpmで2分間、遠心分離した後、上澄を除去し、エタノール洗浄工程を繰り返した。遠心分離およびエタノール除去の後、ペレットを、0.143M β-メルカプトエタノールを含有する350μlのバッファーRLT(キアゲン(QIAGEN)社)中に溶解した。均質化のため、溶解物を、QIAシュレッダー(QIAshredder)・スピンカラム(キアゲン社)に負荷し、14,000rpmで3分間、遠心分離した。通過液を1容量の70%エタノール(350μl)と混合し、RNeasy MinEluteスピンカラム(キアゲン社)に負荷した。溶解物を遠心分離によって膜を通過させることにより、RNAを膜に吸収させた。緩衝液RW1およびRPEによる洗浄工程、および、膜上でのDNase消化を、実施例1に記載した通り、実施した。溶出のため、シリカ膜上、15μlの水をピペッティングした。周囲温度で1分間インキュべーションした後、14,000rpmで1分間の遠心分離によってRNAを溶出した。
【0122】
全ての抽出は3重に行い、実施例1に記載した通り、収量および完全性のRNA分析を実施した。ゲルは図8に示し、ゲル上のレーンは、表8に示した試料番号に対応する。
【0123】
アガロースゲル電気泳動(図8)によるRNA完全性の分析により、本発明に従って処理された、パラフィン包埋組織試料から、完全な長さのRNAを単離し得ることが明らかになった。試料包埋に要する流動パラフィン中での最高12時間のインキュベーションでも、大きなRNA分解を引き起こさなかった。28S-および18S-rRNAのバンドは、鋭く明らかなバンドとして、なお可視的であった(図8)。RNA収量の変化(表8)は、出発物質の量の違いによって説明し得る。軟部組織からのRNA抽出と対照的に、薄片内の出発物質は、例えば試料あたり10mg等に定量および正規化することはできなかった。組成物Bに従った試薬中での、4℃または周囲温度での組織の保存では、有意差は認められなかった。
【0124】
【表8】
【0125】
実施例9
本発明に従って安定化し、マイクロ波エネルギーで処理した、パラフィン包埋組織からのRNAの単離
ラットの脾臓組織を、解剖直後に約4x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlの、組成物Aに従った試薬中に完全に浸した。試料は、周囲温度で24時間保存するか(表9、2および3)、または30分後に組成物Bに従った試薬中に移し、周囲温度で24時間保存した(表9、4および5)。並行して、1つの試料を5mlのBoonfixに浸した(表9、1)。
【0126】
24時間後、試料を標準的な処理カセット(ヒストセット(histosette))中に入れ、RHS-1マイクロ波ヒストプロセッサー(マイルストン(Milestone)社)で処理した。
処理には、試料の100%エタノール中での脱水およびマイクロ波エネルギーによる65℃の加熱を含む、4工程の標準的プロトコルを適用した。エタノールをイソプロパノールで置換し、真空加熱で風乾後、マイクロ波エネルギーによる熱と真空を同時に用いる最終工程において、試料を流動パラフィン(低融点パラプラスト(Paraplas)XTRA、ロス(Roth)社)に浸透させた(プロトコル工程は表10参照)。ミクロトーム法に必要な支持材を提供するため、試料を浸潤用に用いられる同一のパラフィン中に手作業で包埋した。
【0127】
パラフィン包埋組織塊は、RNA抽出の前に、周囲温度で5週間保存した。RNAは、新たに調製した厚さが10μmの薄片10枚から抽出した。実施例8(およびそれぞれ1)に記載した通り、脱パラフィン、RNA抽出、ならびに収量および完全性の分析を実施した。抽出は全て2重に実施した。ゲルは図9に示し、ゲル上のレーンは、表9に示した試料番号に対応する。
【0128】
図9に示すように、本発明に従って安定化され、マイクロ波エネルギーで処理された組織試料からのRNAは、質が高く、分解の兆候がなかった(図9、2〜5)。Boonfixで処理した試料とは対照的に、28S-および18S rRNAのリボゾームのバンドは鋭く、スメアや検出可能なより小さいバンドを伴わなかった(図9、1)。
【0129】
【表9】
【0130】
【表10】
【0131】
実施例10
本発明に従って組成物AおよびBに従った試薬で安定化し、慣用法で処理した、組織試料の組織学的分析
ラットの小腸組織を、解剖直後に約6mmの長さの小片に切り分けた。試料は、5mlの、組成物Aに従った試薬中に完全に浸した。周囲温度で4時間後、試料を組成物Bに従った試薬中に移し、周囲温度で20時間保存した(表11、A)。並行して、1つの試料を5mlの10%中性緩衝ホルマリン中に浸した(NBF;表11、B)。24時間後、試料を標準的な処理カセット(ヒストセット(histosette))中に入れ、初めに100%エタノール中でそれぞれ180分間のインキュベーションを2回行う、標準的なプロトコルに従って、手作業で処理した。100%キシレン中で60分間のインキュベーションを2回行って、清浄した。65℃で約12時間、流動パラフィン(低融点パラプラスト(Paraplas)XTRA、ロス(Roth)社)への浸透を行った後、同一のパラフィン中に包埋した。
【0132】
回転式ミクロトーム(ライカ (Leica)RM2245)で6μmの厚さの切片を薄く切り、スライド上で標本にした。標準的プロトコル(表12)に従って、シグマ社の染料を用い、ヘマトキシリン-エオジン染色を手作業で実施した。
【0133】
図10に示す通り(100倍の倍率)、本発明に従って安定化した組織試料からの切片(図10、A)は、10%中性緩衝ホルマリン中で保存した切片(図10、B)と、類似の形態学的維持を示した。
【0134】
【表11】
【0135】
【表12】
【0136】
実施例11
本発明の組成物Aに従って種々の試薬で安定化し、慣用法で処理した、組織試料の組織学的分析
ラットの脾臓および腎臓を、解剖直後に約3x5x5mmの小片に切り分けた。試料は、10mlの、組成物Aに従った試薬または10%中性緩衝ホルマリン中に完全に浸した(表13)。周囲温度で24時間後、試料を処理し、染色した。試料の処理は、ライカ(Leica)TP1020ティッシュ・プロセッサー(Tissue Processor)にて、解剖の約30時間後に実施した。パラフィン包埋組織試料を6μmの薄片に切った。10%ホルマリン中に保存した腎臓試料のみ、4μmの薄片に切った。実施例8および10に詳細に記載した方法と同一または類似の標準的プロトコルに従って、ライカ・オートステイナー(Autostainer)でヘマトキシリン-エオジン染色を実施した。
【0137】
図11は、ヘマトキシリン-エオジン染色した脾臓切片を100倍の倍率で示す。その結果は、組成物Aに従った試薬中で保存した組織試料(図11、A)と、10%中性緩衝ホルマリン中で保存した試料(図11、B)とは、形態学的に同様に保存されることを実証する。同じ結果が腎臓についても当てはまり、図12(A)または(B)にそれぞれ200倍の倍率で示される。観察される唯一の差は、赤血球に対してである。組成物Aに従った固定試薬の場合、赤血球はヘモグロビンを含有しない。
【0138】
【表13】
【0139】
実施例12
本発明に従って組成物Aに従った試薬で安定化し、慣用法で処理した、パラフィン包埋組織からのDNA単離
ラットの脾臓組織を、解剖直後に約2x5x5mmの小片に切り分けた。試料は、5mlの組成物Aに従った種々の試薬中に完全に浸し(表14)、周囲温度で24時間保存した。このインキュベーション期間の後、実施例7に記載した通り、試料を手作業で処理した。パラフィン包埋組織塊は、DNA抽出の前に、周囲温度で5週間保存した。
【0140】
DNA抽出のため、パラフィン塊を半分に切った。純パラフィンを除去し、組織をキシレンおよびエタノールで脱パラフィンした(実施例8も参照)。動物組織からの全DNA精製のためのDNeasyティッシュ(Tissue)プロトコルに記載された通り、市販のキット(DNeasyティッシュ・キット、キアゲン(QIAGEN)社)を用いて、DNA抽出を実施した。脱パラフィンで得られたペレットを、180μlの緩衝液ATL中に溶解し、鋼球(5mm)を加えた。ミキサーミル(Mixer-Mill)(Tissue-Lyser、キアゲン社)で20Hzで15秒間、破壊と同時に均質化を実施した。溶解物は-20℃で冷凍し、24時間後に40μlのプロテイナーゼK(活性600mAU/ml)を加えることによってさらに処理した。試料を常に穏やかに混合しながら、55℃で1時間、消化を行った。4μlのRNase A(100mg/ml)を加え、周囲温度で2分間インキュベーションすることにより、RNAを除去した。200μlの溶解緩衝液AL(キアゲン社)を加えた後、さらに70℃で10分間インキュベーションし、200μlのエタノール(100%)を加え、溶解物をシリカ膜含有DNeasy Miniスピンカラムに適用した。溶解物は遠心分離(1分、8000rpm)によって膜を通って移動し、それによりDNAを膜に吸収させた。膜を500μlのAW1および500μlのAW2(キアゲン社)で洗浄することによって、混入物質を除去した。最後の洗浄工程の後、膜を14,000rpmで3分間、フルスピードでの遠心分離により乾燥した。最後に、DNAを100μlの水でピペッティングして溶出した後、周囲温度で1分間インキュベーションし、10,000rpmで1分間遠心分離した。この溶出工程を別の100μlの水で繰り返し、両溶出液を合わせた。
【0141】
分光光度計において260nm(A260)での吸収を測定することにより、DNAの濃度を定量した。DNAについては、260nmでの1ユニットの吸収が50μgのDNAに対応する。
【0142】
全DNAの完全性およびサイズを、アガロースゲル電気泳動で分析した。15μl容量中の400ngのDNAを5μlの負荷緩衝液(50%グリセリンおよびブロモフェノールブルー含有)と混合した。試料を1x TBE緩衝液中、0.8%のアガロースゲルに適用した。電気泳動は、電気泳動装置の長さ1cm当り約3.3ボルトで120分間実施した。DNAをエチジウムブロマイド染色で視覚化した。
【0143】
組成物Aに従った試薬中に保存した組織試料から抽出し、処理し、パラフィン塊中に包埋し、5週間保存したDNAは、QIAamp DNeasy方法で抽出した場合、高分子量であった。図13は、各試料からの400ngのDNAのゲル電気泳動を示す(レーンは表14の試料番号に対応する)。典型的な収量を表14に列記する。
【0144】
【表14】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物材料の固定方法、この方法により得られる生物材料、該方法を実施するためのキット、および該方法のための組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、生物材料の病理学的または組織学的試験はもっぱら重要事項であった。仮にそうであったとしても、これらのタイプの試験のための試料は、通常、ホルムアルデヒド溶液中に試料を保存するか、および/または、パラフィン中にそれらを包埋することによって、保存または安定化された。しかし、冷却または凍結による生物材料の保存も、長い間、標準的技法であった。
【0003】
初めに、特に医療および臨床診断の分野において、例えば核酸やタンパク質等の生物材料の特定成分の測定は非常に有益であることが認められ、また、新規で、より有効かつより経済的な保存および安定化試薬および/または方法の必要性が明らかになった。
【0004】
これらの開発過程において、分子生物学的試験のための新鮮な試料の重要成分の状態(遺伝子発現プロファイルまたはプロテオーム)が、試料をその自然のままの環境から取り出した直後に正に急激に変化することがあり、その結果、例えば研究室への運搬が故意ではなく遅れる等、未処理の状態で試料をより長く保存することで、分子分析が無効または非常に不可能になり得ることが認められた。
【0005】
確かに、試料はその分析までの経過時間が長くなるほど、生物材料の核酸状態はより変化する。リボ核酸(RNA)は、遍在するリボヌクレアーゼによって、特に迅速に分解する。また、核酸の分解に加えて、例えばストレス遺伝子が誘導され、試料の翻訳パターンをさらに強力に変化させる新たなmRNAの合成を引き起こす。従って、遺伝子発現プロファイルを保持するためには、被験試料を迅速に安定化しなければならない。
【0006】
核酸分析のためだけではなく、生物材料のプロテオームの詳細な試験のためにも、試料を迅速に安定化する必要があるが、これは、タンパク質のパターンも試料の移動の後、迅速に変化するからである。このことは、第一に、分解または新たな合成によって起こり、第二に、例えばリン酸化/脱リン酸化等のタンパク質修飾へと変化することによって特に迅速に起こる。
【0007】
科学捜査、薬学、食品分析、農業、環境分析等の医療および臨床診断分野以外の分野および多くの研究分野においても、タンパク質の化学分析および分子分析の使用は増えていることから、試料の分子構造の完全性の保持およびその結果としてそれらの迅速な安定化は、これらの全ての分野において必要条件である。
【0008】
従って、長年にわたって、広範囲の非常に多様な生物材料の安定化のため、大多数の非常に多様な安定化試薬および安定化方法が開発されてきた。
【0009】
前記の通り、組織の組織学的試験のため、ホルマリンによる安定化およびその後の安定化した試料の包埋が、長い間知られていた。しかし、このタイプの安定化は、結果的に核酸の安定化が非常に不十分であるので、殆どが分子生物学的工程における使用には不適当であり、また、存在する核酸または核酸断片は、定量的な表示ではなく、よくても定性的な表示のみが可能である。さらに、ホルマリン等の架橋安定化剤による安定化は、組織からの核酸またはタンパク質の抽出率の低下を招く。またホルマリンは毒性学的に無害ではない。
【0010】
カチオン性洗浄剤等の安定化試薬は、米国特許US 5,010,184号、米国特許US 5,300,545号、国際特許WO-A-02/00599号および国際特許WO-A-02/00600号(特許文献1〜4)に記載されており、核酸の非常に良好な定性的同定が達成され得る。しかし、これらのタイプの安定化剤は、組織の小片では核酸の安定化が充分ではない。
【0011】
例えば高濃度の硫酸アンモニウムを含む他の安定化剤(例えば米国特許US 6,204,375号(特許文献5)参照)は、種々の組織において核酸の安定化に非常に好適である。しかし、それらは、例えば血液、血清または血漿等の細胞含有または無細胞の体液の安定化における使用には極めて不適当であり、加えて、例えば脂肪組織等のある種の組織では、より低い安定化特性を示す。
【0012】
さらに、核酸を定量的同定のために安定化し得る、これらの試薬および方法は、一般に組織学的検査には適さないが、それは、これらの安定化剤が核酸は保存するが、細胞構造または組織構造は保存しないためである。
【0013】
このことにより、組織試料においてRNA、DNAおよびタンパク質を同時に安定化し、組織試料を組織学的に保存することは特に困難であることが示される。さらに、細胞または他の生物材料を用いた作業は、必ずしも小さな組織に適用できるとは限らない。小さな組織試料における核酸の安定化は、他の生物材料と比較して、特に困難である。組織は、それらの組成、それらの成分および構造のため、複雑で不均一である。小さな組織試料において核酸を安定化するために、安定化剤の効果は、細胞の表面上および/または細胞層の内側だけではなく、複雑な試料材料の内部深くまで達しなければならない。加えて、しばしば一つのおよび同一の生物材料の内部において、例えばタンパク質、炭水化物および/または脂質含有量に関して、例えば細胞構造、膜の構成、局在化および生体分子について非常に異なる組織および/または細胞型に対処しなければならない。
【0014】
全ての成分を含み、先行技術から知られる、頻繁に用いられる組織試料の安定化の形態は、試料の冷凍または低温凍結である。試料は、その自然のままの環境からの移動後、直接、液体窒素中、−80℃未満に低温凍結する。この方法で処理した試料は、次に、約−70℃で、ほぼ時間に無制限に、完全性を損なうことなく保管できる。しかし、これらのタイプの方法は、非常に面倒な運搬条件が常に必要で、移動、保管の間または非常に多様な適用および使用の間、試料の解凍を回避しなければならない。特別なサンプルホルダーおよび試料の持続冷却のための追加費用に加えて、さらに、液体窒素の使用は非常に煩雑なだけではなく、特定の安全対策の下でのみ実施可能である。
【0015】
さらに、低温凍結した試料のその後の分析は、特に試料の個々の成分については、多くの場合、非常に困難であることが判っている。従って、移動および処理の間、試料の解凍または溶解により、特にRNAの分解が起きる。このことは、このような溶解または解凍した試料からは、もはや再現性のある結果が得られないことを意味する。また、正確には、このような凍結状態の組織の断片は、例えば非常に困難な手での分割や、高額の装置費用を要しなければ処理できない。
【0016】
いわゆる移動溶液も、特にRNAの単離のための低温凍結試料の処理に関する不利点を低減することが記載されている。これには、低温凍結した試料を最初に、予め-70℃〜-80℃に冷却された溶液中に移し、次に約-20℃で数時間(少なくとも16時間)その中で保管することが必要である。次に、移動溶液に浸した試料は、例えば核酸の状態を変化させずに試料を分割するために充分な短時間のみであるが、作業温度である-4℃〜室温に加温し得る。しかし、特に室温では、試料のさらなる分析および保管は可能ではない。例えば国際特許WO-A-2004/72270号(特許文献6)より知られるこれらの種類の移動溶液は、主として一価アルコールより成る。
【0017】
不都合なことには、現在の移動溶液で処理した試料は、室温では非常に短時間しか安定ではなく、その結果、処理時間は非常に短く、特に切断および秤量工程は、非常に簡単に処理時間を超過する。さらに、移動は非常にゆっくりであって、その後直ぐに試験が行われず、大部分は待機期間が1日となる可能性がある。同様に、移動だけではなくその後の安定な試料の貯蔵も≦-20℃で実施しなければならないので、この方法で処理された試料を室温で損傷を受けずに輸送することは可能ではない。また、試料の輸送は、≦-20℃で、例えばドライアイス等の冷却剤の使用を必要としてのみ可能である。
【0018】
慣用の移動溶液の使用により、例えば秤量や分割等の試料処理が改善されるが、装置の費用は削減されないか(移動のための溶液は-70〜-80℃に冷却しなければならないので、いずれにしても適当な冷却装置が使用可能でなければならない)、または移動溶液で処理した試料は、室温でより長い時間安定化できない。
【0019】
新鮮な組織試料の急速冷凍を含む全ての方法のもう一つの不利点は、作為的結果である氷晶のために形態学的詳細が正確に保持されないことである。このことは組織学的染色に基づく診断を損なう可能性がある。
【0020】
形態学的構造を保存するための組織固定剤は2つの群に分けられる。1群は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドまたはグリオキサルのような架橋剤を含有する。これらの中では、4%緩衝ホルムアルデヒドが、最も広く使用される固定剤である。1896年にF. Blumが導入した以降になされた唯一の変化は、生理学的pHでホルマリンを中性緩衝化することである(NBF、中性緩衝ホルマリン)。完全には理解されていないが、アルデヒドがタンパク質の間に架橋を形成すると考えられる。これにより、酵素活性が失われ、溶解性タンパク質が構造タンパク質に固定される。また、ホルムアルデヒドは核酸と反応するので、NBF固定化により、低収率となり、核酸の分解が起こる。
【0021】
第二の群は、架橋剤を含有しないが、主成分としてアルコールを含有する。非架橋アルコール固定剤が導入されて、有害なホルムアルデヒド固定化が回避され、組織高分子および特に免疫組織化学法のためのタンパク質エピトープの保存が向上した。アルコールは組織に浸透して、タンパク質の凝結および変性のため、一定の局所濃度に達しなければならない。近頃、カーノイズ(Carnoy's)(60%エタノール、30%クロロホルム、10%酢酸)またはメタカーン(Methacarn)(カーノイズのエタノールをメタノールで置換)のようないくつかのアルコール固定剤は、アルデヒドと比較して核酸固定剤としてより優れた結果が得られることがわかった(コックス(Cox)ら、Experimental and Molecular Pathology 2006年、80巻、183-191頁:非特許文献1)。その他のより最近公表されたアルコール系の固定剤は、70%のエタノール(ジルスピー(Gillespie)ら、Am. J. Pathol. 2002年、160(2)巻、449-457頁:非特許文献2)、56%のエタノールおよび20%のPEG(ポリエチレングリコール、ボストウィック(Bostwick)ら;Arch.Pathol. Lab. Med. 1994年、118巻、298-302頁:非特許文献3)または90%のメタノールおよび10%のPEG300(ヴィンヴェク(Vinvek)ら、Lab. Investigation 2003年、83(10)巻、1427-35頁:非特許文献4)よりなる。
【0022】
加えて、いくつかの最近公開された特許出願は、改良された非架橋固定剤を特許請求している。独国特許DE 199 28820号(特許文献7)には、種々のアルコール、アセトン、PEGおよび酢酸の混合物を含有する固定剤が記載されている。米国特許 US 2003/0211452 A1号(特許文献8)には、RNA、DNAおよび形態の保存のため、少なくとも80%のメタノールと20%以下のPEG300を含有する、「アムフィックス(Umfix)」として商品化された固定剤が記載されている。分子含量および形態の保存のためのエタノール系固定剤は、米国特許 US 2005/0074422 A1号(特許文献9)(「ファインフィックス(Finefix)」)、国際特許 WO 2004/083369号(特許文献10)(「RCL2」)および国際特許 WO 05/121747 A1号(特許文献11)(「ブーンフィックス(Boonfix)」)に記載されている。米国特許US 2003/119049号(特許文献12)には、水性で、緩衝成分、一種のアルコール、固定剤成分および分解阻害剤を含む、一般的な捕集培地が記載されている。
【0023】
しかし、これら上述のアルコール性固定剤は全て、重大な不利点を示す。エタノール、または水とバランスする種々のアルコールの混合物をベースとした固定剤は、RNAの分解を抑制しない。酸および多量のアルコールを含まない固定剤は、短時間はRNAを保護するが、形態学的な細部の崩壊を引き起こす、組織硬化または収縮のような作為的結果を示す。
【0024】
記載された固定剤はいずれも、同時に形態学的安定性を有しつつ、周囲温度で、例えば最高3日間等、長期間にわたってRNAの完全性を維持することはできない。
【0025】
架橋およびアルコール性固定剤に加えて、固定剤の両群を混合した多数の薬剤が知られている。一例は「ゲノフィックス(Genofix)」であり、形態学、免疫原性並びにRNAおよびDNAの完全性の維持のためとして、米国特許 US 5,976,829 A号(特許文献13)に記載されている。ホルムアルデヒドが成分の一つであるため、「ゲノフィックス」もまた、架橋剤の全ての不利点を示す。
【0026】
国際特許 WO 03/029783 A1号(特許文献14)には、異なるアプローチが記載されている。いわゆるHOPE技術(Hepes-グルタミン酸緩衝液媒介有機溶媒保護効果)は、有機緩衝剤、唯一の脱水剤としてのアセトン、および融点が52〜54℃の純パラフィンを有する保護溶液を含む。HOPEの不利点は、組織を処理するまで、4℃で一晩保持しなければならないことである。国際特許 WO 2004/099393 A1号(特許文献15)に記載されているオンコサイエンス(OncoSience)の「リフォルラボ(Liforlab)」は、無機塩、アミノ酸、ビタミン類、コレステロールおよびアデノシンを含有する、酸素富化溶液である。HOPEもリフォルラボも組織を固定しないので、それらは、細胞がまだ患者の体内にあるかのように細胞の分子含量を保持しない。それどころか、例えばRNAの発現プロファイルが貯蔵および/または輸送中に変化することは大いに起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】米国特許 US 5,010,184号
【特許文献2】米国特許 US 5,300,545号
【特許文献3】国際特許 WO-A-02/00599号
【特許文献4】国際特許 WO-A-02/00600号
【特許文献5】米国特許 US 6,204,375号参照
【特許文献6】国際特許 WO-A-2004/72270号
【特許文献7】独国特許 DE 199 28820号
【特許文献8】米国出願公開 US 2003/0211452 A1号
【特許文献9】米国出願公開 US 2005/0074422 A1号
【特許文献10】国際特許 WO 2004/083369号
【特許文献11】国際特許 WO 05/121747 A1号
【特許文献12】米国出願公開 US 2003/119049号
【特許文献13】米国特許 US 5,976,829 A号
【特許文献14】国際特許 WO 03/029783 A1号
【特許文献15】国際特許 WO 2004/099393A1号
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Experimental and Molecular Pathology 2006年、80巻、183-191頁
【非特許文献2】Am. J. Pathol. 2002年、160(2)巻、449-457頁
【非特許文献3】Arch.Pathol. Lab. Med. 1994年、118巻、298-302頁
【非特許文献4】Lab. Investigation 2003年、83(10)巻、1427-35頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の目的は、核酸および/またはタンパク質の単離および組織学的分析を可能にする、有効で迅速かつ容易な方法で、生物材料を安定化する方法を提供することであった。
【0030】
特に、本発明は、可能であれば架橋物質、発がん性物質または胎児傷害性物質を添加することなく、生物材料の容認可能な安定化がもたらされる生物材料を安定化する方法を特定するという目的に基づいたものであった。
【0031】
さらに、本発明は、冷凍の生物材料と、さらには新鮮生物材料との両者を、生物材料のゲノムおよび/またはプロテオームの発現プロファイルを損なうことなく、例えば室温などの、実行できる最も穏やかな温度条件下で安定化し得る、生物材料を安定化する方法を特定するという目的に基づいたものであった。
【0032】
さらに、該生物材料の安定化方法は、安定化された生物材料の組織学的分析および生物材料に含まれる生体分子の分析の両者を可能にすることを意図した。これに関連して、該安定化方法は、特に、安定化された生物材料におけるタンパク質および核酸の両者の定性的および定量的分析を可能にすべきである。従って、生物材料を安定化することによって、例えばゲル分析または所定量の核酸が得られるまでの数のPCRサイクルによって測定し得る核酸の質および量、およびポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、または例えば酵素が適当な活性試験によって測定される場合に測定し得るタンパク質の質および量は、損なわれるべきではない。
【0033】
さらに、該生物材料の安定化方法は、例えば室温等の穏やかな温度で分析され得るだけではなく、このような穏やかな温度条件下でできるだけ長い時間、分析の前または後に任意に貯蔵し得る、安定化された生物材料を提供することを意図した。
【0034】
生体分子の場合、「安定化」という用語は、好ましくは、生体分子の活性における分解、修飾、誘導または変化の阻害を意味することを意図する。生物材料の組織学的分析の場合、「安定化」という用語は、好ましくは、試料の形態学の著しい変化の阻止を意味することを意図する。
【課題を解決するための手段】
【0035】
上記の目的達成への寄与は、生物材料の処理方法であって、該方法が、
i) 生物材料を提供する工程、および
ii) 該生物材料を、
(a1) 10〜90容量%のメタノール、および
(a2) 少なくとも1つのさらなる添加剤、および
(a3) 任意に酸、
を含む第一の非水性組成物と接触させる工程、
iii) 該生物材料を最高99容量%のエタノールを含む第二の組成物(B)中に移動させる工程
を含む方法によって提供される。
【0036】
工程ii)における第一の組成物として特に有用なものは、生物材料の保存のための非水性組成物(A)であって、該非水性組成物(A)は、
(α1) 10以上80容量%未満のメタノール、および
(α2) 少なくとも一つのさらなる添加剤、および
(α3) 酸
を含むものである。
【0037】
驚くべきことに、特に、新鮮に単離された生物材料がメタノールを含有する組成物(A)を用いて安定化され得ること、および、好ましくは新鮮または冷凍、例えば液体窒素で急速冷凍され得る生物材料が、組織学的、分子生物学的および/または微生物学的分析のために調製し得ることがわかった。組成物と接触させた生体材料は、0℃以下に冷却し、そのような低温で分析または貯蔵する必要はなく、従って、本発明の方法は、あらゆる高価な装置を用いず、特に冷却機または冷却剤を用いずに、実施し得る。
【0038】
本明細書に記載した組成物は、その化学的単純性、組織の形態学的・遺伝的特長を保持する能力、および周囲温度での使用の利便性および実用性により開発された。細胞または組織は組成物中に保存してもよく、細胞学、組織学、および/または遺伝学的分析のアーカイブ源となる。その細胞または組織は、プロスペクティブ(前向き)またはレトロスペクティブ(後ろ向き、遡及的)研究のため、保存および/または貯蔵してもよい。好ましくはないが、細胞または組織を他の保存料および/または固定剤と接触させた後に、本発明の組成物中に保存してもよい。
【0039】
該方法の工程i)において調製される生物材料は、冷凍の、または好ましくは非冷凍の生物材料であり得るが、当業者に知られている全ての生物材料を該生物材料として使用し得る。好ましい生物材料は、例えば、RNA、特にmRNA、siRNA、miRNA、snRNA、tRNA、hnRNAまたはリボザイム、DNA等の、天然の、好ましくは単離された線状、分枝状または環状の核酸等の生体分子を含むもの;例えば、特にプライマーのためのオリゴヌクレオチド、PCRに使用するプローブまたは標準物質、ジゴキシゲニン、ビオチンまたは蛍光染料で標識した核酸またはPNA(ペプチド核酸)等、好ましくは単離したタンパク質またはオリゴペプチドである、合成または修飾核酸;例えば、蛍光マーカーを有する抗体、または酵素、ホルモン、成長因子、脂質、オリゴサッカライド、ポリサッカライド、プロテオグルカンと結合した抗体等の、合成または修飾タンパク質またはオリゴペプチド;血液、精液、脳脊髄液、唾液、痰または尿等の体液;血清または血漿等の、血液処理の際に得られる液体;白血球画分または「軟膜」、唾液、糞便、塗抹(スメア)、吸引物、表皮、毛髪、皮膚断片、法医学試料;遊離または結合した生体分子、特に遊離または結合した核酸を含む、食物または環境試料;代謝産物;生物全体、好ましくは非生命体;後生動物、好ましくは昆虫および哺乳類の組織、特にヒト由来の組織、例えば組織断片または器官の形態のもの;単離細胞、例えば接着または懸濁細胞培養物の形態のもの;オルガネラ、例えば葉緑体またはミトコンドリア、小胞、細胞核または染色体;植物、植物の一部、植物の子孫または植物細胞、バクテリア、ウイルス、ウイロイド、プリオン、イーストおよび菌類より選択される。
【0040】
細胞は、ペレットまたは懸濁液であってもよく、好ましくは、生体液(例えば、腹水、血液、脳脊髄液、リンパ液、胸膜滲出液)由来の単離細胞、器官の吸引物または体腔洗浄液由来の細胞懸濁液、または細胞スメア(例えば、頸部)であってもよい。細胞は、酵素的および/または機械的解離によって単離してもよい。細胞は、保存および/または貯蔵の前に、維持または繁殖のための生細胞として培養してもよい。細胞は、遠心分離によって洗浄および回収してペレットにしてもよく、スライドまたは他の基材上に回収してもよい。
【0041】
血液および他の単細胞懸濁液については、細胞の単離は、沈殿または他の密度勾配遠心分離、被覆または非被覆プラスチックプレート上でのパニング(選鉱)、グラスウールまたは他のクロマトグラフィー充填材の通過、ロゼット化、光散乱または蛍光標識抗体による選別、抗体被覆磁粉への結合、またはそれらの組み合わせによって行ってもよい。細胞は、癌に罹っているか、癌が疑われているか(正常または罹患)、または他の病状を患っている、動物またはヒト被験者より得られた、癌性(良性または悪性)または前癌性のものであってもよい。細胞は、剖検または生検(例えば、カテーテル法または静脈切開術)または他の液体回収により得てもよい。細胞は、好ましくは、生体またはインビトロの培養物から取り出した後1〜30分以内、組成物(A)と接触させておくが、この時間は、細胞を氷上で冷却することにより延長してもよい。細胞は保存および/または貯蔵してもよい。
【0042】
細胞は、細胞学的に処理してもよい。細胞は、スライド上に塗抹し、顕微鏡で観察してもよい。抗原または抗体は、検出可能な、比色分析用、酵素性、蛍光、発光、磁性または放射性部分で、直接的または間接的に標識してもよい。細胞は、抗体のパニング(選鉱)または選別、または他の親和性クロマトグラフィーによる抗原発現によって、特定および/または単離してもよい。このような細胞を、DNA/RNA含有量、大きさ、生存能力、蛍光標識抗体の結合、またはこれらの組み合わせによって、血球計算器で分析してもよく、または細胞選別器で分離してもよい。磁石によって、抗体被覆電磁ビーズに結合する細胞を、アフィニティー精製してもよい。細胞は、細胞周期、分裂、成長、またはオルガネラによって特徴付けてもよい。細胞集団の単離のため、陰性または陽性の選択(例えば、アフィニティーまたは選別技術)を用いてもよい。
【0043】
組織は、剖検または生検より、または手術によって得てもよい。組織は、例えば、実質組織、結合組織または脂肪組織、心筋または骨格筋、平滑筋、皮膚、脳、腎臓、肝臓、脾臓、乳房、癌腫(例えば、腸、鼻咽頭、乳房、肺、胃等)、軟骨、リンパ腫、髄膜腫、胎盤、前立腺、胸腺、扁桃腺、臍帯または子宮等の、固形組織であってもよい。任意に、骨や歯のような石灰化組織は、さらなる処理の前に、脱灰する必要があるかもしれない。「組織」は、通常、生体液(例えば、腹水、血液、胸膜滲出液)からの単細胞、器官の吸引物または体腔洗浄液由来の細胞懸濁液、または細胞塗抹スメアには言及しない。組織は、癌に罹っているか、癌が疑われているか(正常または罹患)、または他の病状を患っている、動物またはヒト被験者より得られた、癌性または前癌性の腫瘍(良性または悪性)であってもよい。組織は、剖検または生検(例えば、内視鏡または腹腔鏡検査)または外科的切除により得てもよい。組織は、好ましくは、死亡後または生体からの摘出後1〜30分以内に、組成物(A)と接触させるが、この時間は、組織を氷上で冷却することにより延長してもよい。組織片(例えば、薄片または塊)は本発明の組成物を用いて保存および/または本発明の組成物中に貯蔵してもよく、保存および/または貯蔵した組織は培地中に包埋してもよい。組織は、隣接するセクションに適用された種々の分析法を有する連続的再構築によって分析してもよい。細胞集団の単離のため、陰性または陽性の選択(例えば、光ピンセットまたレーザー切断による顕微解剖)を用いてもよい。
【0044】
新鮮に調製した生物材料、例えば、生存または死亡有機体からの新鮮な組織試料または新鮮に単離した血液細胞、または生物材料として合成生体分子の場合には、新鮮に合成された核酸またはタンパク質は、好ましくは、本発明の方法の工程i)において非凍結生物材料として使用される。本発明によれば、「新鮮な」生物材料とは、好ましくは、工程ii)における組成物と接触する前、または、合成生体分子の場合には合成された後、96時間以下、好ましくは48時間以下、特に好ましくは24時間以下、さらに好ましくは10時間以下、さらにより好ましくは60分以下、最も好ましくは10分以下に摘出された試料を意味すると理解される。しかし、「新鮮な」生物材料という表記は、上述の期間以内に摘出されたが、組成物と接触させる前に、例えばホルマリン等の慣用の固定剤、エオジン等の染料、抗体などで前処理されなかった試料も含む。新鮮な細胞試料または組織試料の調製は、この目的のために当業者に知られている全ての調製方法、例えば、組織試料の場合は、例えば剖検の間に外科用メスで、血液細胞試料の場合には新たに採取した血液の遠心分離等によって行われる。新鮮な生物材料を使用する場合、工程ii)で使用される第一の組成物は、主として安定化組成物となる。この第一の組成物は好ましくは組成物(A)である。
【0045】
生物材料は、本発明の方法の工程i)において冷凍生物材料として使用してもよく、前述の技術に従って単離した後、工程ii)において第一の組成物と接触させる前に、先ず、例えば液体窒素と接触させることにより、0℃以下の温度、好ましくは-20℃以下の温度、および最も好ましくは-70℃以下の温度に冷却する。本発明の方法において冷凍生物材料を使用する場合、次に、工程ii)において使用する第一の組成物は、主に、移動組成物となる。工程ii)で使用される第一の組成物は、好ましくは組成物(A)である。
【0046】
組成物(A)の成分(α1)はメタノールである。メタノールは組成物(A)中、10から80%未満、好ましくは20%から80容量%未満、より好ましくは30から80%未満、および最も好ましくは50から80容量%未満の量、含有される。このことは、メタノールが組成物(A)中、最高で79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、17、16、15、14、13、12、11容量%、または10容量%の量、含まれることを意味する。好ましくは、メタノールは約70容量%、約60容量%または約50容量%、含まれる。
【0047】
上記方法の工程(ii)の、組成物(A)の少なくとも1つの添加剤(α2)または第一の組成物の少なくとも1つの添加剤(a2)は、それぞれ、メタノールと異なるさらなる溶媒、または、洗浄剤;例えばプロテアーゼ阻害剤PMSFまたは市販製品ANTI-RNase(アンビオン(Ambion)社、米国、オースティン(St. Austin))、RNAsecure(R)(アンビオン社)またはDEPC等の、核酸またはタンパク質の分解を阻害する阻害剤;アルキル化剤;アセチル化剤;ハロゲン化剤;ヌクレオチド;ヌクレオチド類似化合物;アミノ酸;アミノ酸類似化合物;粘度調整剤;染料、特に、ある種の細胞構造を特異的に着色する染料;例えばHEPES、MOPS、TRISまたはリン酸緩衝液等の緩衝剤;保存料;例えばEDTAまたはEGTA等の錯形成剤;例えば2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール(DTT)、プテリン、硫酸水素、アスコルビン酸、NADPH、トリカルボキシエチルホスフィン(TCEP)およびヘキサメチルホスホルアミド(Me2N)3P等の還元剤;5,5'-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)等の酸化剤;例えばDMSOまたはDOPE等の、細胞透過性を改善する物質;例えばイソチオシアン酸グアニジウムまたは塩酸グアニジウム等のカオトロピック物質、または;F-、PO43- 、SO42-、CH3COO-、Cl-、Br-、I-、NO3-、ClO4-、SCN-、Cl3CCOO-のようなアニオン、およびNH4+、Rb+、K+、Na+、Li+、Mg2+、Ca2+、Ba2+のようなカチオンとのカオトロピック塩を含む群から選択される添加剤;および、これらの添加剤の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つまたは少なくとも6つの混合物であり得る。
【0048】
好ましいさらなる成分は、制限されないが、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ジヒドロキシアセトン、2,2-ジブチル-1,3-プロパンジオール、3-メトキシ-1,3-プロパンジオール、3-メトキシ-1,2-プロパンジオール、3-メトキシ-2,3-プロパンジオール、2-メトキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-エトキシ-1,3-プロパンジオール、3-エトキシ-1,2-プロパンジオール、3-エトキシ-2,3-プロパンジオール、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-ヘプタンジオール、1,4-ヘプタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,3-オクタンジオール 1,4-オクタンジオール、1,5-オクタンジオール、1,6-オクタンジオール、1,7-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,2-ウンデカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタエチレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、ヘプタエチレングリコール、ヘプタプロピレングリコール、オクタエチレングリコール、オクタプロピレングリコール、ノナエチレングリコール、ノナプロピレングリコール、デカエチレングリコール、デカプロピレングリコール、シス-またはトランス-1,2-シクロペンタンジオール、シス-またはトランス-1,3-シクロペンタンジオール、シス-またはトランス-1,2-シクロヘキサンジオール、シス-またはトランス-1,3-シクロヘキサンジオール、シス-またはトランス-1,4-シクロヘキサンジオール、シス-またはトランス-1,2-シクロヘプタンジオール、シス-またはトランス-1,3-シクロヘプタンジオール、シス-またはトランス-1,4-シクロヘプタンジオール、1,2,3-シクロペンタントリオール、1,2,4-シクロペンタントリオール、1,2,3-シクロヘキサントリオール、1,2,4-シクロヘキサントリオール、1,2,3-シクロヘプタントリオール、1,2,4-シクロヘプタントリオール、1,2,3-プロパントリオール、3-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,3-ブタントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール、1,2,3-ヘキサントリオール、1,2,4-ヘキサントリオール、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、2,3,5-ヘキサントリオール、1,2,3-ヘプタントリオール、1,2,7-ヘプタントリオール、1,2,3-オクタントリオール、1,2,8-オクタントリオール、1,2,3-ノナントリオール、1,2,9-ノナントリオール、1,2,3-デカントリオール、1,2,10-デカントリオール、1,2,3-ウンデカントリオール、1,2,11-ウンデカントリオール、1,2,3-ドデカントリオール、1,1,12-ドデカントリオール、2,2,-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,3,4-ブタンテトラオール、1,2,3,4-ペンタンテトラオール、1,2,3,5-ペンタンテトラオール、1,2,3,4-ヘキサンテトラオール、1,2,3,6-ヘキサンテトラオール、1,2,3,4-ヘプタンテトラオール、1,2,3,7-ヘプタンテトラオール、1,2,3,4-オクタンテトラオール、1,2,3,8-オクタンテトラオール、1,2,3,4-ノナンテトラオール、1,2,3,9-ノナンテトラオール、1,2,3,4-デカンテトラオール、1,2,3,10-デカンテトラオール、トリメチロールプロパノール、ペンタエリスリトール、糖様マンニット、ソルビトールまたはアラビトール、ヘキサンヘキソール、1,2,3,4,5-ペンタンペントールおよび1,2,3,4,5,6-ヘキサンヘキサオールを含む群に属する、C2〜C12ポリオールである。最も好ましいさらなる成分は、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、グリコール等のジオールおよび/またはトリオール;ポリエチレングリコール(PEG)およびジエチレングリコールモノエチルエーテル酢酸塩(DEGMEA)およびクロロホルムである。本発明によれば、組成物Aにおけるさらなる成分または工程ii)における非水性組成物は、それぞれ、ハロゲン化炭化水素、特に塩素化炭化水素、および特にクロロホルムおよび/またはトリクロロエタンを含まないことが好ましい。PEGの融点は、好ましくは、周囲温度以下である。PEGの平均分子量は、約800ダルトン以下、好ましくは約600ダルトン以下、より好ましくは約400ダルトン以下、およびさらにより好ましくは約300ダルトン以下であればよく;平均分子量は、0〜約800ダルトンの間、約100〜約600ダルトンの間、または約200ダルトン〜約400ダルトンの間であればよい。PEGの平均分子量に言及する場合の「約」という用語は、10、25または50ダルトンの変動が許容されることを意味する。より大きい分子量のPEG(例えば平均分子量が1000以上)は、分子量分布の5%、10%または20%未満の量で存在するかもしれないが、好ましくない。PEG400の融点は、約4℃〜約8℃であり、PEG600は約20℃〜約25℃である。組成物に使用されるPEGの融点は、37℃以下、32℃以下、27℃以下、22℃以下、15℃以下、10℃以下、または5℃以下であればよく;貯蔵の間、冷凍または冷蔵される組織には、より低い融点が好ましい。PEGは、その分子量によって密度が約1.1〜1.2mg/mlであるので、本明細書で与えられる濃度は、比重を1.1として、重量および容量測定の間で変換してもよい。
【0049】
メタノールと異なる溶媒は、メタノール以外の有機溶媒であり得、好ましくは、一価アルコール(モノオール)、C2-C12ポリオール、ケトン、ジメチルスルホキシド、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、カルボン酸、カルボン酸アミド、二トリル、ニトロアルカンおよびエステルを含む群から選択され、ここで好適な溶媒は、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、アセトニトリル、アセトン、アニソール、ベンゾニトリル、1-メトキシ-2-プロパノール、キノリン、シクロヘキサノン、ジアセチン、ジクロロメタン、クロロホルム、キシレン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、トルエン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、アジピン酸ジメチル、炭酸ジメチル、亜硫酸ジメチル、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチルベンゼン、ホルムアミド、三酢酸グリセリン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-N-エチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルチオホルムアミド、N,N-ジエチルチオホルムアミド、N-メチル-N-エチルチオホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ニトロエタン、ニトロメチルトルエンおよびリン酸トリエチルの群から選択し得る。好ましくは、工程ii)における組成物Aまたは非水性組成物は、それぞれ、ハロゲン化炭化水素、特に塩素化炭化水素、および特にクロロホルムおよび/またはトリクロロエタンを含まない。
【0050】
本発明において成分(α2)および(a2)の濃度は、約50%(v/v)、好ましくは40%(v/v)以下、より好ましくは約30%(v/v)以下、さらにより好ましくは約20%(v/v)以下、約1%(v/v)以上、5%(v/v)以上、約10%(v/v)以上、およびそれらのあらゆる中間域である。「約」という用語は、1%(v/v)または2.5%(v/v)の変動を有する濃度に言及する。
【0051】
上記の方法の工程(ii)において使用される、組成物(A)の成分(α3)および第一の組成物の任意成分(a3)は、それぞれ酸であり、すなわち有機または無機酸、好ましくは弱酸である。本発明による弱酸は、好ましくはpKs値が2〜12、より好ましくは3.5〜8、最も好ましくは4〜7.5の酸を意味する。好ましくは該化合物は弱有機酸である。より好ましくは、該有機酸は、アミノ酸またはカルボン(モノ-、ジ-、トリ-、ポリカルボン)酸の群に属し、カルボン酸としては例えばギ酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸等であり、最も好ましくは酢酸またはプロピオン酸である。
【0052】
成分(α3)または(a3)は、それぞれ、0.5%〜30%、好ましくは1〜15%、より好ましくは5〜10%の量で組成物(A)中に存在し、このことは、量が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20%、特に好ましくは5、6、7、8、9、10%であり得ることを意味する。
【0053】
工程ii)における組成物(A)または第一の組成物は、好ましくは、それぞれ、成分(α1)〜(α3)または(a1)〜(a3)より、成分を単純に混合することによって調製される。成分のいずれかが室温以上の融点を有する場合、成分をその融点まで加熱した後、添加物と混合することが好ましいことがある。しかし、調製には、組成物の(α2)〜(α3)または(a2)〜(a3)のうちのそれぞれ一つが固体であり、他の成分が液体である場合には、固体成分を液体成分、少なくともメタノール中に溶解することも可能である。従って、例えば、固体化合物は、液体添加剤または成分(α1)または(a1)中にそれぞれ溶解し得る。
【0054】
組成物(A)として使用可能な、特に好適な組成物は、例えば、実施例で使用される組成物であって、上記の成分(A)の定義に該当するものであり、実施例で示した条件に依存しない。このことは、本明細書の上記の定義に該当する、実施例で使用される全ての組成物は、組成物(A)の最も好ましい態様を表し、示された実施例の他の条件に依存せず該組成物として使用し得ることを意味する。
【0055】
組成物(A)は、本発明の方法の工程ii)における第一の組成物として使用し得る。しかし、組成物(A)はさらに、「移動工程」iii)なしで、生物材料の処理または保存方法に使用し得ることが特に指摘される。さらに、本発明の方法における工程ii)の第一の組成物は、工程ii)の第一の組成物が上記で規定した通り主成分としてメタノールを含む限りは、組成物(A)と異なる組成物であり得る。
【0056】
生物材料と、工程ii)の組成物(A)または第一の組成物との接触は、好ましくは接触の間液体形態である組成物中に、生物材料を浸すことによって好ましく実施され、完成した試料は、組成物で飽和し得る。液体または単離細胞または、例えば粒状試料を生物材料として使用する場合、接触は、生物材料を組成物と混合するか、生物材料を組成物中に懸濁することによって実施される。
【0057】
故に、本発明の方法の特定の態様に従って、生物材料と組成物との接触は、-80℃〜+80℃の範囲内の温度で実施することが好ましく、好ましくは0℃〜+80℃の範囲、より好ましくは2、3、4、5、6、7または8℃〜+80℃の範囲、さらに好ましくは18℃〜+80℃の範囲であり、例えば、少なくとも−20℃、-19℃、-18℃、-17℃、-16℃、-15℃、-14℃、-13℃、-12℃、-11℃、-10℃、-9℃、-8℃、-7℃、-6℃、-5℃、-4℃、-3℃、-2℃、-1℃、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、室温、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃または60℃の温度である。
【0058】
ここで、「生物材料と組成物との接触は、-80℃〜+80℃の範囲内の温度で実施する」か他の前述した温度のうちの一つで実施するという記述は、生物材料を組成物と接触させた後、この方法で得られる混合物の温度が前述した温度内であることを意味する。従って、例えば、-20℃未満の温度で急速冷凍した試料、例えば液体窒素中で保存されている試料は、生物材料として使用し得るが、この場合、ある量の組成物または組成物は、生物材料と組成物とを接触させた後、混合物の温度(従って、生物材料の温度でもある)が上記の温度範囲にあるような温度で使用される。
【0059】
本発明によれば、生物材料の処理方法は、「移動工程」iii)を含み、ここで生物材料は最高99容量%のエタノールを含む第二の組成物(B)中に移される。移動工程は、例えばさらなる処理が次の1〜3日間以内に実施され得ない場合、生物材料を保存するのに特に好適である。
【0060】
該移動は、生物材料を工程ii)の組成物または組成物(A)からそれぞれ取り出し、該材料を組成物(B)に浸すことによって、または、試料全体を移動または混合することによって実施され得るが、これは、生物材料を工程ii)の組成物または組成物(A)のそれぞれと一緒に、組成物(B)中に移動するかまたは組成物(B)と共に混合することを意味する。最後に述べた場合では、例えば、組成物(B)を、試料(生物材料および工程ii)の組成物または組成物(A))に添加することもでき、または、試料を組成物(B)中に注ぐこともできる。該生物材料の移動工程または試料の組成物(B)との混合工程は、例えば2つの異なる容器/チューブ/皿を用い、一つにはそれぞれ工程ii)の組成物または組成物(A)を、一つには組成物(B)を入れ、生物材料を一つから他方に移すことによるか、または、試料全体(生物材料および工程ii)の組成物または組成物(A))を組成物(B)中に注ぎ入れることによるか、または、組成物(B)を試料に添加することによって実施し得る。他方で、該移動工程iii)には、特別に設計された装置、例えば、2つのチャンバーを有し、1つは工程ii)の組成物または組成物(A)を含有し、1つは組成物(B)を含有するものを使用し得る。装置は、例えば、装置を回転させること、障壁を開けること、または試料(生物材料および工程ii)の組成物または組成物(A))の組成物(B)との混合を可能にするあらゆる他の好適な工程等の、あらゆる操作によって該移動工程を実施する選択肢を提供するように設計される。
【0061】
移動工程が試料を組成物(B)と混合することによって実施される場合、工程ii)の組成物または組成物(A)は、すべての割合で組成物(B)と混合してもよい。組成物(B)は、工程ii)の組成物または組成物(A)と比較して少なくとも等量比で使用することが好ましく、好ましくは組成物(B)を過剰量使用する。従って、工程ii)の組成物または組成物(A)の組成物(B)に対する割合は、20:1〜1:50の範囲内であり、好ましくは1:1〜1:20、より好ましくは1:5〜1:10の範囲内である。
【0062】
工程iii)の移動は、好ましくは、生物材料を工程ii)の第一の組成物と接触させた後、10分〜72時間以内に実施され、好ましくは48時間以内、最も好ましくは24時間以内に実施される。
【0063】
組成物(B)は、主成分としてエタノールを含む。エタノール含量は、最高で99%であり得、好ましくは20〜90%の範囲内であり、より好ましくは40〜85%の範囲内であり、さらにより好ましくは50〜80%の範囲内であり、最も好ましくは60〜70%の範囲内である。組成物(B)はさらに、組成物(A)の成分(α3)または(a3)に対応する酸を、0〜30%、好ましくは1〜15%、より好ましくは5〜10%の量で含み得、2価または3価アルコールおよび組成物(A)の成分(α2)または(a2)に対応するさらなる成分を、組成物(A)について上記した量で含み得る。しかし、組成物(B)は、非常に好ましい態様においては水を含有せず、このことは組成物(B)が同様に非水性組成物であることを意味する。
【0064】
加えて、本発明の方法の特別な態様では、生物材料は、好ましくは上記の温度条件下で工程ii)の組成物と接触させた後、-80℃〜+80℃の範囲内の温度で工程ii)の後、または好ましくは工程iii)の後、保存され、好ましくは0℃〜+80℃の範囲内、さらにより好ましくは、2、3、4、5、6、7または8℃〜+80℃の範囲内、さらに好ましくは18℃〜+80℃の範囲内で保存され、例えば最低で-20℃、-19℃、-18℃、-17℃、-16℃、-15℃、-14℃、-13℃、-12℃、-11℃、-10℃、-9℃、-8℃、-7℃、-6℃、-5℃、-4℃、-3℃、-2℃、-1℃、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、室温、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃または60℃の温度で保存され、この保存は、少なくとも1日、好ましくは少なくとも2日、さらに好ましくは少なくとも3日、任意に少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月または少なくとも12ヶ月の期間、行われ得る。
【0065】
本発明の方法は、処理された生物材料を室温、冷蔵庫の温度またはさらにより高い温度で、生物材料中の核酸やタンパク質等の生体分子の観察可能な分解を起こさずに、保存することを可能にする。これは、中性緩衝ホルマリンでの慣用の固定化を凌ぐ、顕著な利点を表すが、過剰な固定化を避けるため、24時間以内に試料のさらなる処理が必要である。組織形態を傷つける低温固定と比較して、提示された方法は、形態を傷害せず、液体窒素や急速冷凍装置を使用せずに実施され、安定化された試料は液体窒素や急速冷凍装置を使用せずに保存することもできるという、優位点を有する。
【0066】
本発明の処理後、および任意に、可能な保存工程の前または後に、処理された生体材料、特に組織材料の場合には、さらに処理される可能性がある。組織は、一連の試薬によって採取され、最終的に、固まった際にミクロトーム法(薄片試料作成法)に必要な支持体を提供する、安定な媒体中に浸潤して包埋される。処理の第一の工程は脱水である。組織は、遊離した水の一部または全てを除去することにより、包埋媒体に処理される。これは、親水性または水混和性液体の濃度上昇を経て、試料を移すことによって実施される。脱水剤の例としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、直鎖および第三ブタノール等のアルコール、2-エトキシエタノール、ジオキサンまたはポリエチレングリコール等のグリコールエーテル、および、アセトン、テトラヒドロフランまたは2,2-ジメトキシプロパン等の他の脱水剤が挙げられる。処理の次の工程は、溶媒での清浄であり、これにより、脱水および浸潤工程の間の移動を促進する。この工程は、脱水剤と包埋媒体とが混和しない場合は常に必要である。清浄剤の例としては、キシレン、リモネン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、石油エーテル、二硫化炭素、四塩化炭素、ジオキサン、丁子油またはシダー油、または他の市販のキシレン代用品が挙げられる。
【0067】
処理および任意の清浄の後、組織学的検査に好適な生物材料の組織切片をより簡単に製造することができるように、生物材料を、例えば、パラフィン、鉱物油、非水溶性ワックス、ジエチレングリコール、エステルワックス、ポリエステルワックス、セロイジン、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリビニルアルコール、寒天、ゼラチン、ニトロセルロース、メタクリレート樹脂、エポキシ樹脂、他のプラスチック媒体等の、好適な包埋材料(C)に浸潤および包埋し得る。該浸潤および包埋工程は、好ましくは、例として、例えば60℃未満等の低融点パラフィン(ワックス)を用いた緩和な条件下で出来るだけ速く実施されるが、本発明の方法を制限しない。該工程は、手作業または、あらゆる自動システムによって実施され得る。組織処理装置の例には、サーモ・エレクトロン社(Thermo Electron Corporation)のシャンドン・エクセルシオール(Shandon Excelsior)、シャンドン・パスセンター(Shandon Pathcentre)またはシャンドン・シタデル(Shandon Citadel)、および、ライカ・マイクロシステムズ(Leica Microsystems)のライカTP1020、ライカASP200SまたはライカASP300S、または他のあらゆる組織処理装置が挙げられる。
【0068】
加えて、本発明の方法の特別な態様によれば、工程iii)の後に、さらなる工程:
iv) 生物材料の手作業での処理、生物材料のマイクロ波エネルギーによる処理または生物材料のあらゆる組織処理装置による処理から選択される、
さらなる処理工程
が続くことが好ましくあり得る。
【0069】
生物材料のマイクロ波エネルギーによる処理は知られている方法である。最良の結果のための該方法および好適な装置は、例えば、米国特許US 6,207,408 B1号、国際特許WO99/09390号、国際特許WO01/44783号および国際特許WO01/44784号に記載されている。該書類に記載された装置は、本発明の方法に好ましく使用される。
【0070】
この工程において、生物材料は、マイクロ波放射を受ける。好ましくは、生物材料は、脱水のため100%エタノール中で撹拌する間に放射を受け、任意にその後、中間試薬として100%イソプロパノールを用い、その後、好適なマイクロ波装置(即ち、温度を厳格に制御する、実験用途のために設計されるべきマイクロ波;例えば、マイルストン(Milestone)社のRHS-1、ペルコ(Pelco)社のペルコ・バイオウエーブ(Pelco BioWave)またはサーモ(Thermo)社のシャンド・ティッシュウエーブ(Shando TissueWave))において包埋材料(C)を用いる。あるいは、中間工程は省略することができ、撹拌は、組成物Bまたは種々のアルコールの混合物中で直接実施することができ、その後、包埋材料(C)を用いる。好ましくは、生物材料は、40〜85℃、より好ましくは40〜75℃、最も好ましくは40〜65℃のマイクロ波放射による加熱条件下で処理され、最長で60分間、好ましくは最長30分間実施される。
【0071】
マイルストン社(Milestone Inc.)のRHS-1真空マイクロ波包埋装置を用いた標準的プロトコルによれば、生物材料は、100%エタノール中、放射下で18分間撹拌し、最後には65℃に達し、その後同条件下で100%イソプロパノールを用いる。70℃、500mbarの真空下で30秒間、組織を乾燥した後、試料を流動パラフィン中、150mbarに達する真空下、70℃で最高30分間撹拌する。
【0072】
生物材料のマイクロ波処理には、2つの主要な優位点がある:第一に、生物材料が最終的に調製された試料となるまでの処理の全ての処理は、著しく短縮され得る。第二に、マイクロ波エネルギーによる処理時間の短縮は、非変性核酸、特にRNAの収率を顕著に増加させることが判った。
【0073】
従って、好ましい態様において、本発明の方法は、i)試料を供給する工程、ii)組成物(A)であり得る、第一の組成物中での固定化/脱水工程、iii)第二の組成物(B)中へ移動させる工程、iv)マイクロ波エネルギーまたは処理装置および包埋により、手作業で試料を処理する工程を含む。
【0074】
本発明の組成物および方法は、試料中に元来含有される生物学的成分のほとんどが単離され得るような方法で処理される試料を提供する。生体分子は、崩壊度が非常に低いため、RNAも非常に高収率で単離され得る(RNAは、ユビキタノンRNA分解酵素のため、通常は崩壊度が非常に高い分子である)。RNAの維持のみのために開発された、例えばRNAレイター(RNAlater)(アンビオン(Ambion)社)等の、従来の組成物と比較により、試料からのRNA収率はほぼ同様であるが、RNAレイターの場合とは異なり、本発明の組成物および方法を使用する場合は、試料の形態が完全に維持されることが示される。従って、同様の試料が分子生物学的分析および組織学的分析に使用し得る。加えて、本発明の組成物および方法により、例えばレーザー顕微解剖装置を使用して、形態学的分析の後であっても、少量の試料または単細胞からの生体分子の抽出が可能になる。
【0075】
組織学的検査は、好ましくは、例えば、顕微鏡検査および任意に当業者に知られた染色および標識技術を使用して、好ましくは、組織、組織切片、細胞または細胞内構造の形態学的状態の分析に好適な各検査方法を意味すると理解される。
【0076】
分析され得る生体分子としては、当業者に知られた全ての生体分子が含まれ、特に、天然、修飾または合成核酸、天然、修飾または合成タンパク質またはオリゴペプチド、ホルモン、成長因子、代謝基質、脂質、オリゴサッカライドまたはプロテオグルカンが挙げられる。核酸としては、当業者に知られた全ての核酸が含まれ、特に、リボ核酸(RNA)、例えばmRNA、siRNA、miRNA、snRNA、t-RNA、hnRNAまたはリボザイム、またはデオキシリボ核酸(DNA)が挙げられる。基本的に、プリン塩基またはピリミジン塩基のN-グリコシドまたはC-グリコシドを含む、全ての種類のポリヌクレオチドが関係する。核酸は、一本鎖、二本鎖または多重鎖の、線状、分枝状または環状であり得る。核酸は、例えばゲノムDNAまたはメッセンジャーRNA(mRNA)等、細胞中に発生する分子に対応するか、相補的DNA(cDNA)、逆鎖RNA(aRNA)、または合成核酸等、インビトロで製造され得る。核酸は2、3のサブユニットから成り得、少なくとも2つのサブユニット、好ましくは例えばオリゴヌクレオチド等の8以上のユニット、例えば発現ベクター等の数百ユニットから数千サブユニット、またはゲノムDNA等の大多数のサブユニットから成り得る。好ましくは、核酸は、調節配列を有する機能的結合においてポリペプチドのコーディング情報を含むが、調節配列は、該核酸が細胞に持ち込まれているか、生来存在するかである細胞においてポリペプチドの発現を可能にする。従って、好ましい態様において、核酸は、発現ベクターである。別の態様において、核酸は、pDNA(プラスミドDNA)、siRNA、siRNA重複体またはsiRNAヘテロ重複体であり、ここで、「siRNA」という用語は、長さが約22個のヌクレオチドのリボ核酸を意味すると理解され、これは、酵素「ダイサー」によって二本鎖RNA(dsRNA)の断片より形成され、酵素複合体「RISC」(RNA誘導サイレンシング複合体)に組み込まれる。
【0077】
「組成物と接触させた、生物材料中のまたは生物材料の、生体分子分析」との記述は、例えば、生物材料から生体分子を単離した後、分析がその場で、または、その場以外の両方で実施し得ることを意味する。分析目的のため、生体分子の単離をしようとする際には、特に細胞、組織または他の複合体または少量の試料の場合、先ず試料を均質化することが有利であり得るが、この均質化は、例えばカニューレ、乳鉢、ロータ・ステータ・ホモジナイザー、ボールミル等で機械的に、または通常洗浄剤および/またはカオトロピック物質を含有する好適な溶解緩衝液を添加することによって化学的に、または、例えばプロテアーゼを添加することによって酵素的に、または、これらの技術の組み合わせにより、実施し得る。
【0078】
組織学的分析、または、生物材料中のまたは生物材料の、生体分子の分析には、当業者に知られており、好適であると思われる全ての分析方法を使用し得るが、好ましくは、クレシル・バイオレット、フクシン-メチレンブルー-アズール、ガロシアニン、ギムザ、グリーン・マッソン・トリクローム、ハイデンハインのアザン、ハイデンハイムの鉄ヘマトキシリン、ヘマトキシリン-エオジン、ヘマトキシリン-エオジン+アルシアンブルー、銀によるレチクリンの包埋、ルクソール・ファースト・ブルー、メチレンブルー、パッペンハイム染色、トルイジンブルー、ワイゲルト・レゾルシン-フクシン、ワイゲルト・ワンギーソン、イエロー・マッソン・トリクローム等の染色法;光学顕微鏡法、電子顕微鏡法、共焦点レーザー走査顕微鏡法、レーザーマイクロダイゼクション、走査電子顕微鏡法、インサイチュハイブリダイゼーション、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション、原色素インサイチュハイブリダイゼーション、免疫組織化学法、ウエスタンブロット法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫沈降、アフィニティークロマトグラフィー、変異分析;ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)、特に二次元PAGE;制限されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、転写媒介増幅(TMA)、NASBA、SDA、分岐DNA分析、RFLP分析(制限断片長多型分析)、SAGE分析(遺伝子発現連続分析)を含む核酸増幅技術;FPLC分析(中高圧液体クロマトグラフィー);質量分析、例えばMALDI-TOFF質量分析またはSELDI質量分析;マイクロアレイ解析、リキチップ(LiquiChip)解析、酵素活性解析、HLAタイピング、シークエンシング、WGA(全ゲノム増幅)、RT-PCR、リアルタイプPCRまたは-RT-PCR、リボヌクレアーゼプロテクション解析またはプライマー伸長解析を含む群から選択された方法を使用し得る。
【0079】
本発明の方法の特別の態様によれば、分析は、生物材料の組織学的分析と、生物材料中の、または生物材料の生体分子の分析との両者を含む。本発明の方法のさらに特別な態様では、生体分子の分析は、生物材料中の、または生物材料の核酸の分析と、生物材料中の、または生物材料のタンパク質の分析との両者を含む。
【0080】
本発明の方法によって処理された生物材料も、上記の目的達成に寄与する。
【0081】
また、
(b1) 上記の本発明の方法の文脈において記載された、工程ii)の第一の組成物として使用可能な組成物、および
(b2) 組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含むキットも、上記の目的達成に寄与する。
【0082】
さらに、
(b1) 組成物(A)
(b2) 任意に、組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含むキットもまた、本発明の目的達成に寄与する。
【0083】
生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬は、基本的に、当業者に知られた全ての試薬であり得るが、試薬は、生物材料の形態分析のためまたはその間、または生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析のためまたはその間、使用し得る。これらの試薬としては、特に、細胞または細胞成分の染色用染料、抗体、任意に蛍光染料または酵素で標識した抗体、例えばDEAEセルロースまたはシリカ膜等の吸収マトリックス、酵素基質、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲル、エタノールまたはフェノール等の溶媒、水性緩衝液、RNAを含まない水、溶解試薬、アルコール溶液等があげられる。
【0084】
また、生物材料の処理のための、組成物(A)または上述のキットの一つの使用、および、生物材料の処理のため、特に生物材料の安定化のための、本発明の方法の工程ii)の第一の組成物と組成物(B) との組み合わせまたは本発明の方法における上述のキットの一つの使用も、上記の目的達成に寄与する。
【0085】
さらに、以下の、
(c1) 方法工程i)、ii)、iii)および任意にiv)を含む本発明の方法を実施する工程、および
(c2) 処理された生物材料を分子生物学的および/または組織学的に分析する工程
を含む、生体外での疾患の診断方法が、上記の目的達成に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、実施例1で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表1の試料番号に対応する。
【図2】図2は、実施例2で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表2の試料番号に対応する。
【図3】図3は、実施例3で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表3の試料番号に対応する。
【図4】図4は、実施例4で説明した、ゲル上の腸組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表4の試料番号に対応する。
【図5】図5は、実施例5で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表5の試料番号に対応する。
【図6】図6は、実施例6で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表6の試料番号に対応する。
【図7】図7は、実施例7で説明した、ゲル上の肝組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表7の試料番号に対応する。
【図8】図8は、実施例8で説明した、ゲル上の脾臓組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表8の試料番号に対応する。
【図9】図9は、実施例9で説明した、ゲル上の脾臓組織由来のRNA調製物を示す。ゲル上のレーンは、表9の試料番号に対応する。
【図10】図10は、実施例10で調製した、固定および染色した腸組織を示す。
【図11】図11は、実施例11で調製した、固定および染色した脾臓組織を示す。
【図12】図12は、実施例11で調製した、固定および染色した腎組織を示す。
【図13】図13は、実施例12で調製および単離した、ゲル上に固定した脾臓組織から単離したDNAを示す。
【発明を実施するための形態】
【0087】
ここで、以下の実施例により、本発明をより詳細に記載する。実施例は例示のためのみに提供され、本発明を示された態様に限定するものと考えるべきではない。
【実施例】
【0088】
実施例1
組成物Aに従った種々の試薬で安定化された組織試料からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlのポリプロピレン製の回収容器中、組成物A(表1)に従った2〜4mlの固定化溶液中に完全に浸した。組織試料を周囲温度で24時間保存した。
【0089】
動物組織から全RNAを単離するため、市販のキット(RNeasy Mini、キアゲン(QIAGEN)社)を用い、RNeasy Miniプロトコルに記載された通り、RNA抽出を実施した。組織試料を小片に切り分け、2mlの微小遠心管に入れた。組織各片の重量を測定し、イソシアン酸グアニジン(GITC)を含有する、組織10mg当り容量350μlの溶解緩衝液(Buffer RLT、キアゲン社)を、鋼球(5mm)と共に加えた。ミキサーミル(Mixer-Mill)(Tissue-Lyser、キアゲン社)で20Hzで2分間、破壊と同時に均質化を実施した。最新技術によれば、GITCは細胞を溶解し、タンパク質を沈殿させる。溶解物を14,000rpmで3分間遠心分離した。組織約10mgに相当する350μlの上澄みを、新たな遠心管に移し、1容量(350μl)の70%エタノールと混合し、シリカ膜含有スピンカラム(RNeasy-Miniカラム)に適用した。溶解物は遠心分離によって膜を通って移動し、それによりRNAを膜に吸着させた。膜を350μlのGITC含有洗浄緩衝液RW1(キアゲン社)で2回洗浄することによって、混入物質を除去した。2回の洗浄工程の間に、70μlの緩衝液RDD(キアゲン社)と混合した10μlのDNase(約30Kunitzユニット)を膜にピペッティングし、周囲温度で15分間インキュベートすることによって、残存するDNAを膜から除去した。Tris-Cl緩衝液およびアルコールを含有する500μlの洗浄緩衝液RPE(キアゲン社)による、さらに2回の洗浄工程の後、膜を14,000rpmで1分間、フルスピードの遠心分離により乾燥した。最後に、RNAを40μlの水でピペッティングして溶出した後、周囲温度で1分間インキュベーションし、10,000rpmで1分間遠心分離した。さらに40μlの水で溶出工程を繰り返し、両方の溶出物を合わせた。全ての抽出は3重に行った。
【0090】
260nmでの吸光度(A260)を分光光度計で測定することにより、RNA濃度を定量した。有意性を確かにするため、溶出物をpH7.5の10mMトリス-Clで希釈し、吸光度A260が1〜0.15の間であることを示した。これらの条件下、260nmでの1ユニットの吸光度は、44μgのRNAに対応する。
【0091】
変性アガロースゲル電気泳動によって、全RNAの完全性およびサイズ分布を分析した。例えば、15μlの溶出液を、ホルムアルデヒド(FA)およびブロモフェノールブルーを含有する3μlの試料緩衝液と混合し、70℃で10分間インキュベートし、氷上で冷やし、1x FAゲルランニングバッファーで平衡化した1.0%ホルムアルデヒド-アガロース-MOPSゲルに負荷した。電気泳動装置の長さ1cm当り約3ボルトで90分間、電気泳動を実施した。RNAは、エチジウムブロマイド染色で視覚化した。ゲルは図1に示し、ゲル上のレーンは、表1に示した試料番号に対応する。
【0092】
表1に示した通り、組織を24時間以内で保存する場合、組成物Aに従った組成物で組織試料を処理することにより、RNAlaterでの組織固定と同等の高RNA収率となる。種々の濃度の成分a1および種々の添加成分およびある濃度の成分a2およびa3を用いた実施例(表1、1〜18および20〜26)、および対照としてRNAlaterを用いた例(表1、19)を示す。
【0093】
完全性およびサイズ分布の分析により、18S-および28S rRNAのリボゾームのバンドが染色ゲル上でシャープなバンドとして現れることが示された(図1)。28S rRNAのバンドは、18S RNAのバンドの約2倍の強度であり、染色ゲル上では、より小さいサイズのRNAは見られず、スメアもほとんど見られなかったことから、RNA試料は固定化または調製の間、分解を受けなかったと結論し得る。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例2
組成物Aに従った種々の試薬および主成分としてエタノールを含有する試薬で安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlのポリプロピレン製の回収容器中、組成物Aに従ったエタノール(表2、4〜6)またはメタノール(表2、1〜3)を含有する2〜4mlの固定化溶液中に完全に浸した。組織試料を周囲温度で24時間保存した。
【0096】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量及び完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図2に示し、ゲル上のレーンは、表2に示した試料番号に対応する。
【0097】
表2に示した通り、エタノールを主成分として含有する試薬で組織試料を安定化した場合、RNA収量は非常に高かった。高収量にもかかわらず、アガロースゲル電気泳動では、エタノール含有安定化試薬で得られたRNAは、保存中に様々な程度の分解を受けたことが示された。組成物1〜3と対照的に、18Sおよび/または28SリボソームRNAは、シャープで明確なバンドとして染色できなかった。代わりに、種々の程度のスメアおよびより小さいサイズのRNAのバンドが可視化した(図2)。エタノール含有試薬の場合、リボ核酸のより小さい断片が260nmでより高い吸光度を示すという事実から、収量の定量は人為的に高かったことが推測され得る。
【0098】
【表2】
【0099】
実施例3
主成分としてメタノールを含有する、含水または無水の種々の試薬で安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、2〜4mlの、水溶液中のメタノール含有固定化溶液(表3、1)または組成物Aに従った無水試薬中のメタノール含有固定化溶液(表3、2)中に完全に浸した。組織試料を周囲温度でかなりの期間である4日間保存した。
【0100】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図3に示し、ゲル上のレーンは、表3に示した試料番号に対応する。
【0101】
表3および図3(2番)に示されるように、4日間の保存後であっても、組成物Aに従った無水試薬中で保存した組織試料から、損傷を受けないRNAを単離することができた。実施例1および2に示された結果と比較して、収量は低下したが、28S-および18S rRNAは、スメアやより小さな明確なRNAバンドを伴わない完全なバンドとして、なおも見ることができた。対照的に、水性試薬で安定化した組織試料からのRNAは、かなり分解され、低濃度であった(表3および図3の1番)。
【0102】
【表3】
【0103】
実施例4
種々の試薬で安定化し、本発明の組成物B を有する第二の試薬中へ移すか移さない組織からのRNAの単離
ラットの腸組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、組成物Aに従った種々の試薬5ml中に完全に浸し、周囲温度で保存した。試料は、7日間保存するか(表4、1〜4)、または、4時間後に組成物Bに従った試薬5ml中に移して、この試薬中で7日間保存した(表4、5〜8)。
【0104】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図4に示し、ゲル上のレーンは、表4に示した試料番号に対応する。
【0105】
表4に示されるように、試料を第二の試薬中に移さなかった場合、本発明の組成物Bに従った試薬中に移した試料と比較して、RNA収量は有意に低下した。
アガロースゲル電気泳動により、7日間の保存後であっても、本発明に従って組成物AおよびBに従った試薬中で保存し、処理した組織試料から、損傷を受けないRNAを単離できたことが示された。移動を実施しなかった場合(図4)、ゲルによって低収量が確認された。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例5
本発明の組成物AおよびBに従った試薬で安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、10mlの組成物Aに従った試薬中に完全に浸し、周囲温度で保存した。1つの試料は3日間保存し(表5、10)、他のものは2時間後に10mlの組成物Bに従った種々の試薬中に移し、これらの試薬中で3日間保存した(表5、1〜8)。対照として、1つの試料をRNAlater中で保存した(表5、9)。
【0108】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図5に示し、ゲル上のレーンは、表5に示した試料番号に対応する。
【0109】
この実施例によって、本発明によるRNA安定性に対する組織処理の効果、即ち、組成物Aに従った試薬から組成物Bに従った試薬へ移動させる効果が再度示される。移を行った試料では、RNA収量は依然として高く、RNAlaterを用いた対照に相当する範囲であった(表5、1〜7および9)。保存3日後でも、目に見えるRNAの分解は観察できなかった(表5、1〜7および9)。対照的に、移さなかった場合、収量は有意に低下し、スメアの増加と28S rRNAのバンドの減弱により、RNAの分解が可視的になった(表5、10および図5、10)。試料をBoonfix(上記参照)中に移した場合、類似の効果が観察できたが、供給業者によれば、これは主としてエタノールよりなる試薬であるが、水とバランスしたものである(表5、8および図5、8)。
【0110】
【表5】
【0111】
実施例6
本発明に従って安定化した組織からのRNAの単離
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、2mlの工程ii)の組成物に従った試薬中に完全に浸し、周囲温度で4時間保存し、組成物Bに従った種々の試薬中に移し、さらに2日間保存した(表6、3〜9)。加えて、1つの試料は移さずに、工程ii)に従った試薬組成物中に保存し(表6、10)、一つの試料は100%エタノール中に移し(表6、1)、一つの試料は70%エタノール中に移した(表6、2)。
【0112】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図6に示し、ゲル上のレーンは、表6に示した試料番号に対応する。
【0113】
この実施例は、組成物Bに従った種々の試薬中への移動の、本発明の安定化効果を実証する。種々の添加成分(a2)および種々の濃度の有機酸(a3)を有する種々の試薬が示される(表6、3〜9および図6、3〜9)。第二の試薬を水とバランスすることにより、RNA収量は低下し、アガロースゲル上のスメアは増加したが、このことは、分解の進行を示す(表および図6、2)。試料を移さないことで、RNA収量が低下した(表6および図6、10)。100%エタノール中へ移動させることにより、分解は全く起こらず、RNA収量が高くなった(表6および図6、1)。しかし、100%エタノール中に保存された組織試料が硬化および収縮を受けることは、一般に是認されている。結果として、試料は脆くなり、その後に組織学的作業方法を実施する際に、不自然な結果となる。
【0114】
【表6】
【0115】
実施例7
本発明に従って安定化した組織からのRNAの単離、クロロホルムの置換
ラットの肝組織を、解剖直後に約5x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、それぞれ、5mlの、クロロホルム含有試薬、クロロホルムを対応量の水またはメタノールで置換した試薬、または工程ii)の組成物による従った試薬のいずれかに完全に浸し、周囲温度で48時間保存した(表7、1〜4)。加えて、1つの試料は、3時間後に、組成物Bに従った試薬中に移し、さらに45時間保存した(表7、5)。
【0116】
実施例1に記載した通り、RNAの抽出と収量および完全性の分析とを実施した。全ての抽出は3重に行った。ゲルは図7に示し、ゲル上のレーンは、表7に示した試料番号に対応する。
【0117】
この実施例により、固定化試薬内のクロロホルムは対応量のメタノールまたは水で置換できないことが実証される(表7および図7、1〜3)。クロロホルムをメタノールまたは水で置換することによって、RNA収量が減少し、アガロースゲル上のスメアが増加したが、このことは分解の進行を示唆する(表および図7、2および3)。同様の安定化効果を達成するため、クロロホルムは、(a2)に従った少なくとも1つの更なる添加剤で置換しなければならない(表および図7、4)。しかし、RNA収量が最高でRNA分解が最低である、最良の安定化効果は、3時間後に組織試料を組成物Bに従った試薬中に移動させることによって達成することができた(表および図7、5)。
【0118】
【表7】
【0119】
実施例8
本発明に従って組成物AおよびBに従った試薬で安定化し、慣用法で処理した、パラフィン包埋組織からのRNAの単離
ラットの脾臓組織を、解剖直後に約4x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlの、組成物Aに従った試薬中に完全に浸し、周囲温度で24時間保存した。このインキュベーション期間の後、試料は、直接処理するか(表8、1および4)、または、組成物Bに従った試薬中に移し、周囲温度で(表8、2および5)または4℃で(表8、3および6)さらに4日間保存して、最終的に処理した。
【0120】
標準的プロトコルに従って、脱水、清浄、浸潤および包埋を含む処理を手作業で実施した。試料を標準的な処理カセット(ヒストセット(histosette))中に入れ、エタノール濃度を上げることにより、即ち、それぞれ60分間、70%、80%、2回の96%エタノール中でのインキュベーションにより脱水した。清浄は、脱水と包埋培地での浸潤の間の移動工程として、100%キシレン中、60分のインキュベーションを2回実施した。組織腔および細胞を、56℃で約12時間、流動パラフィン(低融点パラプラスト(Paraplas)XTRA、ロス(Roth)社)で飽和させた。ミクロトーム法に必要な支持材を提供するため、試料を浸潤用に用いられる同一のパラフィン中に包埋した。
【0121】
RNA抽出の出発材料として、パラフィン塊の新たな切断部を使用した。パラフィン塊は、回転式ミクロトーム(ライカ(Leica)RM2243)で切り取り、各試料から切り出した、厚さがそれぞれ10μmの薄片10枚を、微小遠心管に回収した。キシレン1mlを加え、ボルテックスし、14,000rpmで2分間、遠心分離することによって、脱パラフィンを行った。上澄を除去し、ペレットを100%エタノール1mlに溶解した。14,000rpmで2分間、遠心分離した後、上澄を除去し、エタノール洗浄工程を繰り返した。遠心分離およびエタノール除去の後、ペレットを、0.143M β-メルカプトエタノールを含有する350μlのバッファーRLT(キアゲン(QIAGEN)社)中に溶解した。均質化のため、溶解物を、QIAシュレッダー(QIAshredder)・スピンカラム(キアゲン社)に負荷し、14,000rpmで3分間、遠心分離した。通過液を1容量の70%エタノール(350μl)と混合し、RNeasy MinEluteスピンカラム(キアゲン社)に負荷した。溶解物を遠心分離によって膜を通過させることにより、RNAを膜に吸収させた。緩衝液RW1およびRPEによる洗浄工程、および、膜上でのDNase消化を、実施例1に記載した通り、実施した。溶出のため、シリカ膜上、15μlの水をピペッティングした。周囲温度で1分間インキュべーションした後、14,000rpmで1分間の遠心分離によってRNAを溶出した。
【0122】
全ての抽出は3重に行い、実施例1に記載した通り、収量および完全性のRNA分析を実施した。ゲルは図8に示し、ゲル上のレーンは、表8に示した試料番号に対応する。
【0123】
アガロースゲル電気泳動(図8)によるRNA完全性の分析により、本発明に従って処理された、パラフィン包埋組織試料から、完全な長さのRNAを単離し得ることが明らかになった。試料包埋に要する流動パラフィン中での最高12時間のインキュベーションでも、大きなRNA分解を引き起こさなかった。28S-および18S-rRNAのバンドは、鋭く明らかなバンドとして、なお可視的であった(図8)。RNA収量の変化(表8)は、出発物質の量の違いによって説明し得る。軟部組織からのRNA抽出と対照的に、薄片内の出発物質は、例えば試料あたり10mg等に定量および正規化することはできなかった。組成物Bに従った試薬中での、4℃または周囲温度での組織の保存では、有意差は認められなかった。
【0124】
【表8】
【0125】
実施例9
本発明に従って安定化し、マイクロ波エネルギーで処理した、パラフィン包埋組織からのRNAの単離
ラットの脾臓組織を、解剖直後に約4x4x4mmの小片に切り分けた。試料は、5mlの、組成物Aに従った試薬中に完全に浸した。試料は、周囲温度で24時間保存するか(表9、2および3)、または30分後に組成物Bに従った試薬中に移し、周囲温度で24時間保存した(表9、4および5)。並行して、1つの試料を5mlのBoonfixに浸した(表9、1)。
【0126】
24時間後、試料を標準的な処理カセット(ヒストセット(histosette))中に入れ、RHS-1マイクロ波ヒストプロセッサー(マイルストン(Milestone)社)で処理した。
処理には、試料の100%エタノール中での脱水およびマイクロ波エネルギーによる65℃の加熱を含む、4工程の標準的プロトコルを適用した。エタノールをイソプロパノールで置換し、真空加熱で風乾後、マイクロ波エネルギーによる熱と真空を同時に用いる最終工程において、試料を流動パラフィン(低融点パラプラスト(Paraplas)XTRA、ロス(Roth)社)に浸透させた(プロトコル工程は表10参照)。ミクロトーム法に必要な支持材を提供するため、試料を浸潤用に用いられる同一のパラフィン中に手作業で包埋した。
【0127】
パラフィン包埋組織塊は、RNA抽出の前に、周囲温度で5週間保存した。RNAは、新たに調製した厚さが10μmの薄片10枚から抽出した。実施例8(およびそれぞれ1)に記載した通り、脱パラフィン、RNA抽出、ならびに収量および完全性の分析を実施した。抽出は全て2重に実施した。ゲルは図9に示し、ゲル上のレーンは、表9に示した試料番号に対応する。
【0128】
図9に示すように、本発明に従って安定化され、マイクロ波エネルギーで処理された組織試料からのRNAは、質が高く、分解の兆候がなかった(図9、2〜5)。Boonfixで処理した試料とは対照的に、28S-および18S rRNAのリボゾームのバンドは鋭く、スメアや検出可能なより小さいバンドを伴わなかった(図9、1)。
【0129】
【表9】
【0130】
【表10】
【0131】
実施例10
本発明に従って組成物AおよびBに従った試薬で安定化し、慣用法で処理した、組織試料の組織学的分析
ラットの小腸組織を、解剖直後に約6mmの長さの小片に切り分けた。試料は、5mlの、組成物Aに従った試薬中に完全に浸した。周囲温度で4時間後、試料を組成物Bに従った試薬中に移し、周囲温度で20時間保存した(表11、A)。並行して、1つの試料を5mlの10%中性緩衝ホルマリン中に浸した(NBF;表11、B)。24時間後、試料を標準的な処理カセット(ヒストセット(histosette))中に入れ、初めに100%エタノール中でそれぞれ180分間のインキュベーションを2回行う、標準的なプロトコルに従って、手作業で処理した。100%キシレン中で60分間のインキュベーションを2回行って、清浄した。65℃で約12時間、流動パラフィン(低融点パラプラスト(Paraplas)XTRA、ロス(Roth)社)への浸透を行った後、同一のパラフィン中に包埋した。
【0132】
回転式ミクロトーム(ライカ (Leica)RM2245)で6μmの厚さの切片を薄く切り、スライド上で標本にした。標準的プロトコル(表12)に従って、シグマ社の染料を用い、ヘマトキシリン-エオジン染色を手作業で実施した。
【0133】
図10に示す通り(100倍の倍率)、本発明に従って安定化した組織試料からの切片(図10、A)は、10%中性緩衝ホルマリン中で保存した切片(図10、B)と、類似の形態学的維持を示した。
【0134】
【表11】
【0135】
【表12】
【0136】
実施例11
本発明の組成物Aに従って種々の試薬で安定化し、慣用法で処理した、組織試料の組織学的分析
ラットの脾臓および腎臓を、解剖直後に約3x5x5mmの小片に切り分けた。試料は、10mlの、組成物Aに従った試薬または10%中性緩衝ホルマリン中に完全に浸した(表13)。周囲温度で24時間後、試料を処理し、染色した。試料の処理は、ライカ(Leica)TP1020ティッシュ・プロセッサー(Tissue Processor)にて、解剖の約30時間後に実施した。パラフィン包埋組織試料を6μmの薄片に切った。10%ホルマリン中に保存した腎臓試料のみ、4μmの薄片に切った。実施例8および10に詳細に記載した方法と同一または類似の標準的プロトコルに従って、ライカ・オートステイナー(Autostainer)でヘマトキシリン-エオジン染色を実施した。
【0137】
図11は、ヘマトキシリン-エオジン染色した脾臓切片を100倍の倍率で示す。その結果は、組成物Aに従った試薬中で保存した組織試料(図11、A)と、10%中性緩衝ホルマリン中で保存した試料(図11、B)とは、形態学的に同様に保存されることを実証する。同じ結果が腎臓についても当てはまり、図12(A)または(B)にそれぞれ200倍の倍率で示される。観察される唯一の差は、赤血球に対してである。組成物Aに従った固定試薬の場合、赤血球はヘモグロビンを含有しない。
【0138】
【表13】
【0139】
実施例12
本発明に従って組成物Aに従った試薬で安定化し、慣用法で処理した、パラフィン包埋組織からのDNA単離
ラットの脾臓組織を、解剖直後に約2x5x5mmの小片に切り分けた。試料は、5mlの組成物Aに従った種々の試薬中に完全に浸し(表14)、周囲温度で24時間保存した。このインキュベーション期間の後、実施例7に記載した通り、試料を手作業で処理した。パラフィン包埋組織塊は、DNA抽出の前に、周囲温度で5週間保存した。
【0140】
DNA抽出のため、パラフィン塊を半分に切った。純パラフィンを除去し、組織をキシレンおよびエタノールで脱パラフィンした(実施例8も参照)。動物組織からの全DNA精製のためのDNeasyティッシュ(Tissue)プロトコルに記載された通り、市販のキット(DNeasyティッシュ・キット、キアゲン(QIAGEN)社)を用いて、DNA抽出を実施した。脱パラフィンで得られたペレットを、180μlの緩衝液ATL中に溶解し、鋼球(5mm)を加えた。ミキサーミル(Mixer-Mill)(Tissue-Lyser、キアゲン社)で20Hzで15秒間、破壊と同時に均質化を実施した。溶解物は-20℃で冷凍し、24時間後に40μlのプロテイナーゼK(活性600mAU/ml)を加えることによってさらに処理した。試料を常に穏やかに混合しながら、55℃で1時間、消化を行った。4μlのRNase A(100mg/ml)を加え、周囲温度で2分間インキュベーションすることにより、RNAを除去した。200μlの溶解緩衝液AL(キアゲン社)を加えた後、さらに70℃で10分間インキュベーションし、200μlのエタノール(100%)を加え、溶解物をシリカ膜含有DNeasy Miniスピンカラムに適用した。溶解物は遠心分離(1分、8000rpm)によって膜を通って移動し、それによりDNAを膜に吸収させた。膜を500μlのAW1および500μlのAW2(キアゲン社)で洗浄することによって、混入物質を除去した。最後の洗浄工程の後、膜を14,000rpmで3分間、フルスピードでの遠心分離により乾燥した。最後に、DNAを100μlの水でピペッティングして溶出した後、周囲温度で1分間インキュベーションし、10,000rpmで1分間遠心分離した。この溶出工程を別の100μlの水で繰り返し、両溶出液を合わせた。
【0141】
分光光度計において260nm(A260)での吸収を測定することにより、DNAの濃度を定量した。DNAについては、260nmでの1ユニットの吸収が50μgのDNAに対応する。
【0142】
全DNAの完全性およびサイズを、アガロースゲル電気泳動で分析した。15μl容量中の400ngのDNAを5μlの負荷緩衝液(50%グリセリンおよびブロモフェノールブルー含有)と混合した。試料を1x TBE緩衝液中、0.8%のアガロースゲルに適用した。電気泳動は、電気泳動装置の長さ1cm当り約3.3ボルトで120分間実施した。DNAをエチジウムブロマイド染色で視覚化した。
【0143】
組成物Aに従った試薬中に保存した組織試料から抽出し、処理し、パラフィン塊中に包埋し、5週間保存したDNAは、QIAamp DNeasy方法で抽出した場合、高分子量であった。図13は、各試料からの400ngのDNAのゲル電気泳動を示す(レーンは表14の試料番号に対応する)。典型的な収量を表14に列記する。
【0144】
【表14】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物材料の処理方法であって、該方法が、
i) 生物材料を提供する工程、および
ii) 該生物材料を、
(a1) 10〜90容量%のメタノール、および
(a2) 少なくとも1つのさらなる添加剤、および
(a3) 任意に酸
を含む第一の非水性組成物と接触させる工程、
iii) 該生物材料を最高99容量%のエタノールを含む第二の組成物(B)中に移動させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記生物材料の前記組成物との前記接触が、-80℃〜+80℃の範囲の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
移動工程iii)が、生物材料を工程ii)の組成物から取り出し、該材料を組成物(B)に浸すことによって、または、生物材料を含有する工程ii)の組成物を組成物(B)と混合することによって実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法であって、該方法が、
iv) 前記生物材料の手作業での処理、マイクロ波エネルギーによる前記生物材料の処理または任意の組織処理装置による前記生物材料の処理から選択される、
さらなる処理工程
を含む、方法。
【請求項5】
前記生物材料が細胞または組織を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記生物材料が、生命体、単離細胞、オルガネラ、バクテリア、菌類または菌類の一部、ウイルス、ウイロイド、プリオン、組織、組織片、組織切片、体液、天然の、任意に単離されたタンパク質、合成または変性タンパク質、天然の、任意に単離した核酸、合成または変性核酸、脂質、炭水化物、代謝産物および代謝物等の他の生体分子、植物または植物の一部、糞便、スワブ、吸引物、食品試料、環境試料、法医学試料を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程iii)の後に、前記材料を包埋材料(C)中、好ましくは、パラフィン、鉱物油、非水溶性ワックス、セロイジン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、寒天、ゼラチン、ニトロセルロース、メタクリレート樹脂、エポキシ樹脂、または他のプラスチック媒体より選択される包埋材料(C)中に、浸透および/または包埋させることをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記の処理した生物材料を保存すること、
前記試料中に元来含有されていた少なくとも一つの生物学的成分の単離、
生物材料中のまたは生物材料の、少なくとも一つの生物学的成分の分析であって、
生物学的成分が核酸、タンパク質、ペプチドおよび/もしくはペプチド核酸を含む、分析
ならびに/または
特に、染色、顕微鏡検査、解剖、ハイブリダイゼーションおよび/もしくは免疫組織化学を含む、生物材料の組織学的分析
をさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
生物材料の保存のための非水性組成物(A)であって、
(α1) 10〜80容量%未満のメタノール、および
(α2) 少なくとも一つのさらなる添加剤、および
(α3) 酸
を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法において使用可能な、組成物。
【請求項10】
成分(α1)が、20%〜80容量%未満、好ましくは30〜80%未満、および最も好ましくは50〜80容量%未満の量で存在する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
成分(α2)または(a2)が1〜50%の量で存在する、請求項9または10に記載の組成物または請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
成分(α3)または(a3)が少なくとも一つの有機酸であり、好ましくは弱有機酸であり、より好ましくはギ酸、酢酸およびプロピオン酸またはそれらの混合物から選択される、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物または方法。
【請求項13】
成分(α2)または(a2)が、1以上の洗浄剤、核酸および/またはタンパク質の分解を阻害する1以上の阻害剤、1以上の粘度調整剤、1以上の染料、1以上の緩衝化合物、1以上の保存料、1以上の錯形成剤、1以上の還元剤、細胞透過性を改善する1以上の物質、1以上のカオトロピック物質、1以上の固定剤、メタノールと異なる1以上のさらなる溶媒および少なくとも2つのこれらの添加物の混合物を含む群から選択される、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物または方法。
【請求項14】
成分(α2)または(a2)が、C2〜C12ポリオール、特に1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、グリコール;PEGおよびDEGMEA等のジオールおよび/またはトリオールより選択される、請求項13に記載の組成物または方法。
【請求項15】
(b1) 請求項1〜8のいずれかの方法において工程ii)の第一の組成物として使用可能な組成物、および
(b2) 組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含む、キット。
【請求項16】
(b1) 組成物(A)
(b2) 任意に、組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含む、キット。
【請求項17】
生物材料の処理のための、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項14または15に記載のキットの使用。
【請求項18】
請求項1〜8または11〜14のいずれかに記載の方法における、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項15または16に記載のキットの使用。
【請求項19】
処理された生物材料の製造方法であって、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項15または16に記載のキットを使用する、方法。
【請求項20】
生体外の生物材料の分析方法であって、請求項1〜8または11〜14のいずれかに記載の方法、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項15または16に記載のキットを使用する、方法。
【請求項21】
請求項1〜8または11〜14のいずれかに記載の方法によって、または、請求項9〜14のいずれかにおいて定義された通りの組成物(A)と生物材料を接触させることによって得られる、処理された生物材料。
【請求項1】
生物材料の処理方法であって、該方法が、
i) 生物材料を提供する工程、および
ii) 該生物材料を、
(a1) 10〜90容量%のメタノール、および
(a2) 少なくとも1つのさらなる添加剤、および
(a3) 任意に酸
を含む第一の非水性組成物と接触させる工程、
iii) 該生物材料を最高99容量%のエタノールを含む第二の組成物(B)中に移動させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記生物材料の前記組成物との前記接触が、-80℃〜+80℃の範囲の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
移動工程iii)が、生物材料を工程ii)の組成物から取り出し、該材料を組成物(B)に浸すことによって、または、生物材料を含有する工程ii)の組成物を組成物(B)と混合することによって実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法であって、該方法が、
iv) 前記生物材料の手作業での処理、マイクロ波エネルギーによる前記生物材料の処理または任意の組織処理装置による前記生物材料の処理から選択される、
さらなる処理工程
を含む、方法。
【請求項5】
前記生物材料が細胞または組織を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記生物材料が、生命体、単離細胞、オルガネラ、バクテリア、菌類または菌類の一部、ウイルス、ウイロイド、プリオン、組織、組織片、組織切片、体液、天然の、任意に単離されたタンパク質、合成または変性タンパク質、天然の、任意に単離した核酸、合成または変性核酸、脂質、炭水化物、代謝産物および代謝物等の他の生体分子、植物または植物の一部、糞便、スワブ、吸引物、食品試料、環境試料、法医学試料を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程iii)の後に、前記材料を包埋材料(C)中、好ましくは、パラフィン、鉱物油、非水溶性ワックス、セロイジン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、寒天、ゼラチン、ニトロセルロース、メタクリレート樹脂、エポキシ樹脂、または他のプラスチック媒体より選択される包埋材料(C)中に、浸透および/または包埋させることをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記の処理した生物材料を保存すること、
前記試料中に元来含有されていた少なくとも一つの生物学的成分の単離、
生物材料中のまたは生物材料の、少なくとも一つの生物学的成分の分析であって、
生物学的成分が核酸、タンパク質、ペプチドおよび/もしくはペプチド核酸を含む、分析
ならびに/または
特に、染色、顕微鏡検査、解剖、ハイブリダイゼーションおよび/もしくは免疫組織化学を含む、生物材料の組織学的分析
をさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
生物材料の保存のための非水性組成物(A)であって、
(α1) 10〜80容量%未満のメタノール、および
(α2) 少なくとも一つのさらなる添加剤、および
(α3) 酸
を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法において使用可能な、組成物。
【請求項10】
成分(α1)が、20%〜80容量%未満、好ましくは30〜80%未満、および最も好ましくは50〜80容量%未満の量で存在する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
成分(α2)または(a2)が1〜50%の量で存在する、請求項9または10に記載の組成物または請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
成分(α3)または(a3)が少なくとも一つの有機酸であり、好ましくは弱有機酸であり、より好ましくはギ酸、酢酸およびプロピオン酸またはそれらの混合物から選択される、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物または方法。
【請求項13】
成分(α2)または(a2)が、1以上の洗浄剤、核酸および/またはタンパク質の分解を阻害する1以上の阻害剤、1以上の粘度調整剤、1以上の染料、1以上の緩衝化合物、1以上の保存料、1以上の錯形成剤、1以上の還元剤、細胞透過性を改善する1以上の物質、1以上のカオトロピック物質、1以上の固定剤、メタノールと異なる1以上のさらなる溶媒および少なくとも2つのこれらの添加物の混合物を含む群から選択される、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物または方法。
【請求項14】
成分(α2)または(a2)が、C2〜C12ポリオール、特に1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、グリコール;PEGおよびDEGMEA等のジオールおよび/またはトリオールより選択される、請求項13に記載の組成物または方法。
【請求項15】
(b1) 請求項1〜8のいずれかの方法において工程ii)の第一の組成物として使用可能な組成物、および
(b2) 組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含む、キット。
【請求項16】
(b1) 組成物(A)
(b2) 任意に、組成物(B)
(b3) 任意に、包埋材料(C)、および/または、生物材料中のまたは生物材料の生体分子の分析または生物材料の形態分析のための試薬
を含む、キット。
【請求項17】
生物材料の処理のための、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項14または15に記載のキットの使用。
【請求項18】
請求項1〜8または11〜14のいずれかに記載の方法における、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項15または16に記載のキットの使用。
【請求項19】
処理された生物材料の製造方法であって、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項15または16に記載のキットを使用する、方法。
【請求項20】
生体外の生物材料の分析方法であって、請求項1〜8または11〜14のいずれかに記載の方法、請求項9〜14のいずれかに記載の組成物(A)または請求項15または16に記載のキットを使用する、方法。
【請求項21】
請求項1〜8または11〜14のいずれかに記載の方法によって、または、請求項9〜14のいずれかにおいて定義された通りの組成物(A)と生物材料を接触させることによって得られる、処理された生物材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−518870(P2010−518870A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551197(P2009−551197)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052371
【国際公開番号】WO2008/104564
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052371
【国際公開番号】WO2008/104564
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】
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