生物組織におけるフラボノイド化合物の非侵襲的測定
ヒト皮膚等の生物組織における、フラボノイド化合物、並びにそれらの異性体及び代謝物質の濃度の、迅速かつ非侵襲的な定量測定を容易にする方法及び装置を開示する。無傷組織への低強度可視光照射は、高空間分解能をもたらし、組織におけるフラボノイドレベルの正確な定量化を可能にする。好適な実施形態は、フラボノイドの、従来知られていない低振動子強度光吸収遷移を利用する。これにより、他の潜在的に交絡する皮膚発色団の吸収域の外側で、生きているヒト組織中のフラボノイドを光学的に励起することが可能になる。本発明に従って構築されるシステムは、フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するための光源と、照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置と、検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するプロセッサと、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連文献の参照)
本出願は、参考としてその開示内容全体が本明細書で援用される、2009年1月13日付で出願された米国特許出願第12/352,702号による優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、生物組織中で見られる化合物を測定するための光学技術に関する。更に具体的には、本発明は、抗酸化状態の評価及び悪性疾患の危険性の検出において診断補助薬として使用可能な生体組織中のフラボノイド及び関連する化学物質のレベルの、非侵襲的検出及び非侵襲的測定のための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
フラボノイドは、ありふれた、天然に存在するポリフェノール化合物であって、多くの場合、植物の華やかで魅力的な色の一因である。フラボノイドは、多数の果実、野菜、ベリー類、穀物、根、茎、並びに茶、コーヒー、ビール及びワイン等の飲料中に濃縮され、食事と共に摂取されて、最終的には生きているヒト組織細胞中に蓄積する。フラボノイドは、人間の健康に明らかな恩恵があるために非常に関心を生んでいる。1つの要因は、地中海沿岸地方の住民は飽和脂肪摂取が比較的高いにも関わらず心血管系死亡率が驚くほど低いという、「フレンチパラドックス」である。地中海沿岸地方の食事で脂肪摂取と共に比較的高濃度で消費される赤ワイン中に存在するある種のフラボノイドが、実際にこの効果の原因であるという有力な証拠がある(非特許文献1)。おそらく、それらの共通の抗酸化機能に基づいて、異なる食物源中に存在する他の種類のフラボノイドも、同様に広範囲に及ぶ有益な効果を有するようである。これらは、フリーラジカルの捕捉、DNA損傷の防止、UV光により誘発される組織損傷からの保護、善玉コレステロールレベル及び悪玉コレステロールレベルの調節、動脈の開通、腫瘍成長の抑制、ウェイトコントロールの促進、網膜色素上皮細胞の酸化的ストレスによる死からの保護等と関連する(非特許文献2、3)。疫学的研究は、一貫して、フラボノイドを多く含む食品を消費することにより、癌の危険性が30〜75%の範囲に低下することを示す(非特許文献2)。
【0004】
全てのフラボノイドに共通の分子構造は、図1に示すように、3つの炭素原子を含む環状骨格(C3環骨格)の両側に2つの芳香族ベンゼン環を含む(C6−C3−C6)。C3環中の炭素二重結合の位置、OH基の置換、及び/又は二重結合酸素に応じて、フラボノイドは6つの主なカテゴリーに分類される。これらはフラボノール、フラボン、フラバノン、カテキン、イソフラボン、及びアントシアニジンであり、選択された代表的でかつ主な食物源と共に図2に記載する。
【0005】
最も多くの化合物を含むフラボノイドのカテゴリーは、フラボノール及びフラボンであり、どちらも中心のC3環中の二重結合のために平面構造を有する。最も有名で、おそらくは最もよく研究されているメンバーは、タマネギ、ブロッコリー、リンゴ、及びベリー類において高濃度で見出されるケルセチン及びケンフェロールである。第3のフラボノイドカテゴリーであるフラバノンは、主に柑橘類果実で見出される。この群のメンバーは、ナリンゲニン及びヘスペレチンである。第4のカテゴリーであるカテキンは、主に緑茶及び紅茶、並びに赤ワインにおいて見出され、一方、第5のカテゴリーであるイソフラボンは、食品における分布は比較的狭く、大豆が主な食物源である。最後のカテゴリーであるアントシアニジンは、サクランボ、ベリー類、及びブドウにおいて優勢である。植物によって合成される場合、フラボノイドは、多くの場合、糖などの他の分子と結合し、この場合、不活性なグリコシド複合体を形成する。糖基はグリコンとして知られ、非糖基はグリコシドのアグリコン又はゲニン部分として知られる。一例として、柑橘類果実は、ヘスペリジン(フラバノンヘスペレチンのグリコシド)、クエルシトリン、ルチン(フラボノールケルセチンの2つのグリコシド)、及びフラボンタンゲリチンを含む。人体等の生体において、酵素は必要に応じて不活性グリコシドを分解することができ、これにより糖及びフラボノイド成分が利用可能となる。
【0006】
これらのレベルを結びつける強力な電子吸収遷移が深紫外(深UV)から青色スペクトル領域における比較的高い光エネルギーで起こるということ以外、フラボノイドのエネルギーレベルについては比較的僅かしか知られていない。フラボン及びフラボノールにおける2つの特徴的な吸収バンド、すなわち、主にB環吸収を表す300〜400nm領域における「長波長」バンド、及び主にA環吸収を表す240〜280nm領域における「短波長」バンドが、文献に記載されている。特定のフラボノイドの吸収線形状及び強度は、ヒドロキシル基の具体的な数、及び/又は他の置換、並びにそれらの相対的な位置関係に依存すると考えられる(非特許文献4、5)。例えば、フラボノールケルセチン及びケンフェロールをフラボンルテオリン及びアピゲニンと比較すると、2つのフラボノールはどちらも、2つのフラボンメンバーに対して、それらの長波長B環吸収バンドの若干大きな(〜30nm)赤方シフトを有することが見出された(非特許文献6)。これは、2つのフラボノールはそれらのC3環と結合したヒドロキシル基を有するのに対して、2つのフラボンはそのような結合を有さないことが原因であった。ケルセチンに関して、主に観察される吸収遷移、すなわち高い振動子強度を有するものは、9つの最高被占分子軌道から9つの最低非被占分子軌道への全ての励起を考慮して、量子化学的な配置間相互作用計算でかなり正確にモデル化されている(非特許文献7、8)。300〜400nm範囲の吸収バンドは、主に、それぞれ最高被占π分子軌道と最低非被占π分子軌道との間の遷移によることが示され、この場合、B環からC環のC=O二重結合へと電子電荷密度が引き出される。240〜280nm領域の遷移は、それぞれ2番目に高いπ分子軌道と2番目に低いπ分子軌道との間の遷移に割り当てられ、これは1つの芳香族環の領域から炭素原子(C)を介する他の芳香族環への電荷移動を含む。エネルギーレベルの存在、関連する電荷分布、及びB環300〜400nm吸収の長波長側での吸収バンドを生じさせることができる潜在的な低エネルギー遷移に関する情報は得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Formica JV, Regelson W, Review of the biology of quercetin and related bioflavPersonNameonoids, Food Chem. Toxicol. 1995; 33:1061-80.
【非特許文献2】FlavPersonNameonoids: Chemistry, Biochemistry, and Applications, O. M. Andersen and K. R. Markham, Eds., CRC Press, placeCityTaylor & Francis Group, LLC, 2006.
【非特許文献3】Hanneken A, Lin F-F, Johnson J, Maher P 2006, Investigative Ophthalmology & Visual Science 47, 3164-77.
【非特許文献4】Rice-Evans CA, Miller NJ, Paganga G, Free Radic. Biol. Med. 1996; 20:933.
【非特許文献5】Bohm BA, Introduction to FlavPersonNameonoids. Chemistry and Biochemistry of Organic Natural Products. Harwood Academic Publisher: placeCityAmsterdam, 1998:200.
【非特許文献6】Jurasekova Z, Garcia-Ramos JV, Domingo C, Sanchez-Cortes S, Surface-enhanced Raman scattering of flavPersonNameonoids, J. Raman Spectrosc. 2006; 37: 1239-1241.
【非特許文献7】Cornard JP, Merlin JC, Boudet AC, Vrielynck L, http://www3.interscience.wiley.com/journal/56500/issue
【非特許文献8】Cornard JP, Dangleterre, Lapouge C 2005, J. Phys. Chem. A; 109:10044-10051.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生物組織におけるフラボノイド化合物及び関連する化学物質の非侵襲的検出及び非侵襲的測定のための方法及び装置に関する。特に、本発明は、ヒト皮膚等の生物組織における、フラボノイド化合物、並びにそれらの異性体及び代謝物質の濃度の、迅速かつ非侵襲的な定量的測定を可能にする。これは、従来の生化学分野の「金字塔的な」技術によって必要とされた、組織の除去又はHPLC及び質量分析のための試料の調製を必要とすることなく行われる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無傷組織の低強度の可視光照射を使用する直接的かつ定量的な光診断技術において使用することができ、高空間分解能を提供し、組織におけるフラボノイドレベルの正確な定量化を可能にする。そのような技術は果実及び野菜摂取量のバイオマーカーとして有用であり、悪性疾患等の組織異常の検出を援助することができる。フラボノイドの光検出は、皮膚におけるカロテノイドの共鳴ラマン検出等の、組織における他の抗酸化化合物の光検出を増大させ(Gellermann W et al., US patent 6,205,354 B1 を参照)、後者と組み合わせて使用して、測定される生体組織中に存在する生物活性化合物の、更に一般的な評価が得られる。本発明の技術を用いて非侵襲的に測定することができる生物組織の例としては、ヒト皮膚、粘膜組織、血清や尿等の体液、並びに植物及び果実の組織試料又は抽出物が挙げられる。
【0010】
生物組織におけるフラボノイドレベルを測定するための本発明の非侵襲的方法は、フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するステップと、照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップと、検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するステップと、を含む。
【0011】
組織はヒト皮膚であって良く、好ましくは指先又は手の他の部分の皮膚であって良い。濃度レベルを用いて、組織の抗酸化状態、及び/又は悪性疾患又は他の疾患の危険性若しくは存在を評価することができる。励起に用いられる光は、典型的には300〜650nmスペクトル領域にあり、フラボノイドにより放射される蛍光は、特に光がスペクトルの赤色領域にあり、組織の局所領域が実質的にメラニンを含んでいない場合、蛍光分光法又は光検出器を用いて特定することができる。
【0012】
好適な実施形態は、従来知られていない、フラボノイドの低振動子強度光吸収遷移を利用する。この遷移は、周知の300〜400nmのB環吸収バンドを超えてはるか可視波長範囲に及ぶ長波長吸収特性として現れる。これにより、他の潜在的に交絡する皮膚発色団の吸収域の外側で、生きているヒト組織中のフラボノイドを光学的に励起することが可能になる。カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含むそのような発色団は、通常、フラボノイドのA環又はB環の吸収バンドの光励起のもとで、望ましくないスペクトルの重なり、吸収、及び/又は蛍光反応を生じる。しかし、これらの他の皮膚発色団の吸収域の外側の長波長吸収テールで組織フラボノイドを励起することによって、本発明は、光学的に励起された組織容量中に存在するフラボノイド分子のみに起因する皮膚からの蛍光応答を生じさせることを可能にする。結果として、蛍光分光法を、皮膚等のヒト組織中のフラボノイドに関する新規な非侵襲的光定量的検出法として使用することができ、この情報をフラボノイド状態及び潜在的な疾患リスクの評価において補助的に使用することができる。
【0013】
本発明に従ってフラボノイドレベルを測定するためのシステムは、フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するための光源と、照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置と、検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するプロセッサと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】全てのフラボノイドの基本分子構造を示す。
【図2】フラボノイドの6つの別個のカテゴリー、それらの分子構造、及びそれらの主な食物源を表す。
【図3】ヒト皮膚組織部位を含む様々な試料中のフラボノイドの発光スペクトルを測定する本発明の装置の一般的概略図である。
【図4】純粋なケルセチン及びケンフェロール結晶粉末試料の吸収スペクトルを示す。
【図5】ケルセチン及びケンフェロールのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図6】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケルセチン結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図7】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケンフェロール結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図8】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケルセチンの水溶液の蛍光スペクトルを示す。
【図9】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケンフェロールの水溶液の蛍光スペクトルを示す。
【図10】純粋なアピゲニン及びルテオリン結晶粉末試料の吸収スペクトルを示す。
【図11】アピゲニン及びルテオリンのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図12】ジオスミン結晶粉末及びメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図13】青色、緑色、及び赤色励起波長でのアピゲニン結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図14】青色、緑色、及び赤色励起波長でのルテオリン結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図15】青色、緑色、及び赤色励起波長でのジオスミンの蛍光スペクトルを示す。
【図16】ヘスペリジン及びナリンゲニン結晶粉末試料の吸収スペクトルを示す。
【図17】ヘスペリジン及びナリンゲニンのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図18】ナリンゲニン及びヘスペリジン結晶粉末試料の蛍光スペクトルを示す。
【図19】エピカテキン結晶粉末の吸収スペクトルを示す。
【図20】カテキン、エピカテキン、及びガロカテキン結晶粉末のメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図21】青色、緑色、及び赤色励起波長でのカテキン、エピカテキン、及びガロカテキン結晶粉末試料の蛍光スペクトルを示す。
【図22】ゲニステイン結晶粉末及びゲニステインのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図23】青色、緑色、及び赤色励起波長でのゲニステイン粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図24】塩化ペラルゴニジン結晶粉末、及びその低濃度及び高濃度それぞれの2種類のメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図25】青色、緑色、及び赤色励起波長でのペラルゴニジン粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図26】青色励起で得られる、調べた全てのフラボノイドの蛍光スペクトルを示す。
【図27】緑色励起で得られる、調べた全てのフラボノイドの蛍光スペクトルを示す。
【図28】赤色励起で得られる、調べた全てのフラボノイドの蛍光スペクトルを示す。
【図29】532nm励起下及び632nm励起下でのケルセチン結晶粉末の退色速度を示す。
【図30】励起光パワーの増大に伴う、632nm励起下でのケルセチン結晶粉末の蛍光強度の直線性を示す。
【図31】生きているヒトの皮膚の手のひらの内側の組織部位の蛍光スペクトルを示す。
【図32】切除されたかかとの皮膚組織試料の蛍光スペクトルを示す。
【図33】コラーゲンの蛍光スペクトルを示す。
【図34】ケルセチン粉末及び生きている皮膚の正規化蛍光スペクトルを示す。
【図35】ケルセチンの退色速度と比較した、生きているヒト皮膚の退色速度を示す。
【図36】生きているヒト皮膚の退色速度を示す。
【図37】励起光パワーの増加に伴う、生きている皮膚の蛍光強度の直線性を示す。
【図38】連続測定における皮膚蛍光の再現性を示す。
【図39】種々の組織部位の皮膚蛍光スペクトルを示す。
【図40】4人の異なる被験者の皮膚蛍光スペクトルを示す。
【図41】青色、緑色、及び赤色励起で得られるタマネギの層の蛍光スペクトルを示す。
【図42】全て赤色励起下で得られる、タマネギの層の蛍光スペクトルとケルセチン及びケンフェロールの蛍光スペクトルとの比較を示す。
【図43】青ブドウ、赤ブドウ、及びタマネギの層の蛍光スペクトルを示す。
【図44】フラボノイド蛍光測定のために構築されたフィルターベースの実験装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の上述した利点及び目的や他の利点及び目的を得る方法を説明するため、添付の図面に示す具体的な実施形態を参照して、本発明について更に詳細に説明する。これらの図面は典型的な実施形態のみを表し、従って、本発明の範囲を限定するものではない。このような理解の元で、本発明を記載し、添付の図面を使用して更に具体的かつ詳細に説明する。
【0016】
本発明は、皮膚等の生物組織におけるフラボノイド及び類似物質の存在を同定し定量化するために蛍光を使用する。この技術では、組織に光を当て、組織から放射される蛍光をフィルターに通し、検出する。蛍光強度は、対象の皮膚中に存在するフラボノイドの濃度の指標(indicator)として使用することができる。なぜなら、蛍光強度は励起された組織容量中に存在するフラボノイドの濃度に直線的に対応すると予想されるからである。好適な実施形態は、手のひら等の組織部位を光学窓に当てて使用する。この装置により、蛍光の強度を連続して測定し、表示することが可能になる。対象の皮膚フラボノイドレベルを評価するために要する合計時間は非常に短く、たった数秒程度である。
【0017】
本発明の生物組織中のフラボノイド及び関連する化学物質の非侵襲的測定法では、タングステン−ハロゲンランプ、発光ダイオード、又はレーザー等の光源を使用し、そのいずれも、フラボノイド化合物の吸収バンドが存在する波長範囲、すなわち300〜650nmのスペクトル領域中のスペクトル位置で十分に高い強度の光の放射を特徴とする。皮膚フラボノイドから放射される蛍光強度は、励起された組織容量中のフラボノイドの濃度に比例する。従って、皮膚フラボノイドの蛍光強度を、皮膚フラボノイド濃度の光学的評価基準として使用することができ、この情報を用いて、組織のフラボノイド抗酸化状態を評価することができる。濃度レベルを正常な生物組織のレベルと比較して、悪性疾患の危険性(リスク)又は存在を評価することができる。
【0018】
図1に、全てのフラボノイドに共通の分子構造を概略的に示す。これは、両側で芳香族ベンゼン環と結合した、3個の炭素原子を有する中心環から構成される。図2は、フラボノイドの主なカテゴリー、それらの分子構造、種々のカテゴリーの主なメンバー及びそれらの主な食物源を示す。個々のフラボノイドは、種々の炭素部位で結合するヒドロキシル基の数及び位置、並びに中心環中の炭素二重結合の存在及び位置が異なる。
【0019】
図3は、蛍光分光法を用いて生物組織中のフラボノイド及び同様の物質の発光スペクトルを測定するための本発明の装置の一般的概略図である。当該装置は、627nmを中心として〜20nmのバンド幅を有する光を発する光源(本発明の好適な一実施形態では発光ダイオードである)を含む。或いは、光源は、フラボノイド吸収のスペクトル範囲中で光を発生させるための他の装置を含んでも良い。好ましくは、フラボノイドの場合、光源は、フラボノイド化合物の吸収バンドと重複する300〜650nmの波長範囲内の、独立した波長位置又はあるスペクトル範囲で、十分な強度を有する光を発生させる。そのような光は、例えば市販の安価なスライドプロジェクターランプ(適切にフィルターに通す)、発光ダイオード、又はレーザーにより、容易に利用可能である。
【0020】
励起光源は、測定対象の組織又は試料に励起光をあて、放射された蛍光を集めるための種々の光学部品を含み得る光線送達システム及び光線収集システムと光学的に通信可能である。図3に示すように、装置の光学部品は、光源、機械式シャッター、励起光の一部をモニタリング検出器に送るビームスプリッター、ビーム拡大器、フィルター、レンズ、測定対象の組織又は試料を当てる窓、集光レンズ、フィルター、ビーム縮小器、集光ファイバー、分光器、蛍光検出器、及びコンピュータプロセッサ/モニターを含む。これらの光学部品と光源からの光との相互作用は以下で更に詳細に考察する。
【0021】
装置の検出部分は、フラボノイド蛍光の光成分をスペクトル的に分散させる働きをする分光器又は分光計を含み得る。スペクトル分散システムは、回折格子、プリズム、ホログラフィックフィルター、誘電体フィルター、それらの組み合わせ等の種々の代替光学部品で置換することができる。
【0022】
スペクトル選択システムは、光検出システム等の検出手段と光学的に通信可能に構成されている。光検出システムは、ヒト皮膚中のフラボノイド化合物に特徴的な波長範囲等の対象の波長範囲における波長の関数としての放射された蛍光の強度を測定可能である。検出システムは、これらに限定されるものではないが、CCD(電荷結合素子)検出器アレイ、増倍型CCD検出器アレイ、光電子増倍管装置、フォトダイオード等の装置を含んでも良い。
【0023】
スペクトル選択システム及び光検出システムは、電荷結合シリコン検出器アレイでの迅速検出を用いる低分解能回折格子分光計等の市販の分光計システムから選択することができる。例えば、300本/mmの分散格子、及び個々の画素幅が14μmのシリコン検出器アレイを用いる回折格子分光計を用いることができる。別の好適な分光計はホログラフィックイメージング分光計であり、これは、CCD検出器アレイとインターフェースで接続し、透過型体積ホログラフィック回折格子を用いる。スペクトル選択システム及び光検出システムを、増倍型CCDカメラ等の微光CCDイメージングアレイと合わせて用いられるスペクトル選択的光学素子を含むイメージングシステム中に組み合わせることもできる。
【0024】
検出された光を、好ましくは、光検出システムによって、コンピュータのモニター等の出力ディスプレー上に視覚的に表示できるシグナルに変換する。光検出システムは、所望により光シグナルを他のデジタル形式又は数字形式に変換することもできると理解されるべきである。結果として放射された蛍光シグナルを、好ましくは、定量化システム等の定量化手段によって分析し、これは、他の実験から化学的に測定されたフラボノイドレベルとの比較により調整することができる。定量化手段は、コンピュータ、好ましくはスペクトルの発光基準に対する正規化、及び測定された組織容量中に存在するフラボノイドの濃度値の測定等のスペクトル操作が可能なデータ取得ソフトウェアがインストールされたものであって良い。定量化システムは、CCDイメージディスプレー又はモニターを含んでも良い。定量化システムは、1つのコンピュータ中で出力ディスプレーと組み合わせてもよく、また実際のフラボノイドレベルに比例する光学密度等の他の実験で得られるフラボノイドレベルで結果を調整することもできる。
【0025】
装置の操作中、光源から光線が発生し、これは入力光ファイバーを通って送達システムへと向けられる。或いは、鏡を利用して光線を光送達システムに向ける。システムへと送られた励起光の一部をビームスプリッターで分割して、その強度をモニタリングし、残りを拡大し、フィルターに通し、測定対象の試料又は組織容量の上の窓を通してレンズで画像化する。後者は窓と接触している。試料又は皮膚から放射される蛍光をレンズによって集め、格子分光器等のスペクトル選択システムに光を送る出力ファイバーの表面上に画像化する。スペクトル分散光を、全ての皮膚フラボノイドの蛍光範囲に及ぶ波長範囲において波長の関数として光強度を測定する光検出システムへ向ける。或いは、スペクトル選択システムを省略し、蛍光を光検出システムに直接送る。光検出システムは次いで、放射された蛍光シグナルを、コンピュータモニター等の画像表示装置に適した形式に変換し、得られるフラボノイド発光を定量化システムで分析する。
【0026】
本発明は、生きているヒト組織中のフラボノイド含有量の検出に特に有用である。人間は食事で相当量のフラボノイドを摂取する。人体に取り込まれた後、フラボノイドはアレルゲン、ウイルス、及び発癌物質に対する身体の反応を変えることができる。これらは、抗アレルギー活性、抗炎症活性、抗菌活性、及び抗癌活性を示すと考えられる。それらの薬理作用、特に癌及び心血管系疾患の予防における潜在的な役割のために、食品産業及び栄養補助食品産業でフラボノイドに対する関心が強い。明らかに、果実、野菜、及び茶、又は更には赤ワインの有用な効果は、他の化合物ではなく、固有のフラボノイドの寄与度が高い可能性がある。多くの例で、フラボノイド化合物について特定の生化学作用及び生理学的作用が示唆されている。例えば、ケンフェロールは、ホルボールエステルで処置されたマウスの線維芽細胞又はv−H−ras−転換NIH 3T3細胞の転換形質を元に戻すことが示されている。もう1つの例であるアピゲニンは、G2/M期で細胞周期を停止させることによって、細胞増殖を阻害することが判明している。細胞周期停止による増殖の阻害及びアポトーシスの誘発は、p53の誘発に関連するようである。腫瘍促進に対する阻害効果は、キナーゼ活性の阻害とその結果としての癌遺伝子発現の抑制によるものである可能性もある。トポイソメラーゼIにより触媒されるDNA再連結を阻害し、ギャップ結合による細胞間伝達を増強することも報告されている。第3の例であるガロカテキンは、口腔上皮細胞上のポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)の増殖及び付着を阻害することが示唆されている。第4の例であるゲニステインは、チロシンタンパク質キナーゼの阻害剤、他のタンパク質キナーゼ反応におけるATPの競合的阻害剤、及び血管形成の制御に関与する遺伝子の転写を減少調節する抗血管新生薬であることが示されている。
【0027】
それらの薬効の微視的機構は依然として研究対象であるが(Lotito SB, Frei B 2006; Free Radic. Biol. Med. 41 (12): 1727-46. を参照)、生きているヒト組織におけるフラボノイドの非侵襲的検出法が非常に有利であることは明らかであろう。現行の検出方法は、質量分析法及び液体クロマトグラフィー法を必要とし、侵襲的方法として生検組織試料及び体液にのみ適用可能である。これとは対照的に、非侵襲的光検出は、損傷を受けていない生きたヒト組織のin situ測定を可能とし、フラボノイド状態の迅速な評価を提供し、疫学的研究において果実及び野菜摂取のバイオマーカーとしての役割を果たし、食習慣の改善及び栄養補給によるフラボノイド摂取をモニタリングするための便利な手段を提供することが可能になる。
【0028】
種々の実験を実施し、これらの実験により、安全な露光レベルを用いて、生きているヒト皮膚の種々の部分について強力なフラボノイド蛍光シグナルを容易に得られることが示される。以下の実施例は、これらの実験で用いられる装置及び手順、並びにこれらから得られる結果を記載する。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
特徴的なフラボノイド蛍光シグナルを生成させるために有用な、潜在的な励起波長を調べるため、まず、代表的な化合物の吸収特性を測定した。最大級の純度を有する結晶粉末試料を、Sigma−Aldrich社から入手した。試料は、フラボノールの例としてケルセチン二水和物及びケンフェロール、フラボンの例としてアピゲニン、ルテオリン、及びジオスミンルチノシド、フラバノンとしてナリンゲニン及びヘスペリジン(ヘスペリチンのラムノグルコシド)、カテキンであるガロカテキン及びエピカテキン、イソフラボンであるゲニステイン、並びにアントシアニジン化合物である塩化ペラルゴニジンを含んでいた。製造業者は、測定したフラボノイド化合物のいくつかについて以下の異名を挙げている。
【0030】
ケンフェロールに関して:3,4’,5,7−テトラヒドロキシフラボン、3,5,7−トリヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン、ロビゲニン;
アピゲニンに関して:4’,5,7−トリヒドロキシフラボン;
ルテオリンに関して:3’,4’,5,7−テトラヒドロキシフラボン;
ジオスミンに関して:3’,5,7−トリヒドロキシ−4’−メトキシフラボン7−ルチノシド;
ナリンゲニンに関して:4’,5,7−トリヒドロキシフラバノン、(±)−2,3−ジヒドロ−5,7−ジヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン;
ヘスペリジンに関して:ヘスペレチン7−ラムノグルコシド、ヘスペリチン−7−ルチノシド;
カテキンに関して:(2S,3R)−2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ベンゾピラン−3,5,7−トリオール、(−)−trans−3,3’,4’,5,7−ペンタヒドロキシフラバン;
ガロカテキンに関して:(2S,3R)−2−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ベンゾピラン−3,5,7−トリオール;
エピカテキンに関して:(−)−cis−3,3’,4’,5,7−ペンタヒドロキシフラバン、(2R,3R)−2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ベンゾピラン−3,5,7−トリオール;
ゲニステインに関して:4’,5,7−トリヒドロキシイソフラボン、5,7−ジヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシフェニル)−4Η−1−ベンゾピラン−4−オン;
塩化ペラルゴニジンに関して:3,4’,5,7−テトラヒドロキシフラビリウムクロリド。
【0031】
各化合物に関して、白色光反射分光法を用いて結晶粉末形態の試料の吸収特性を決定した。この方法の実験の詳細は、その開示内容全体が参考として本発明で援用される、係属中の特許出願第12/134,667号に見出すことができる。化合物の溶液に関しては、Perkin−Elmer UV/VIS/NIR吸収分光光度計を使用した。
【0032】
図4及び図5において、フラボノール化合物であるケルセチン及びケンフェロールについての吸収結果を示す。吸収バンドは非常に類似し、400〜430nmの範囲にピークを有する著しく広いバンドを特徴とする。重要なことに、これらは約500〜800nmに及ぶ可視/遠赤色波長領域の、弱いが明らかに顕著な長波長吸収テールを特徴とする。この弱い長波長テールは、粉末形態のこれらのフラボノール化合物だけでなく、メタノール溶液についても見ることができ、これらは散乱効果を示す。ケルセチン及びケンフェロールの完全に透明なメタノール溶液、すなわち残存する懸濁したフラボノール物質が無い溶液について得られる吸収スペクトルを図5の上のパネルに示す。図中、曲線(a)はケルセチンのものであり、曲線(b)はケンフェロールのものである。スペクトルにより、2つのフラボノール溶液の場合、最大〜200nm、260nm、及び380nm付近の強力な光吸収遷移を特徴とする、深UV/青色スペクトル領域におけるフラボノイド溶液の周知の3バンド吸収パターンが明らかになる。固体状態と比較して、溶液中の化合物の長波長吸収バンドは、若干(数十nm)短波長側へシフトする。重要なことに、可視波長領域における更に高濃度の溶液の吸収挙動を測定する場合、2種のフラボノールの弱いが明らかに認識可能な吸収テールが再度現れ、これは十分に可視/赤色波長領域の波長まで(約650nmまで)伸びる。
【0033】
次に、図3の実験装置を使用して、両フラボノール化合物の発光挙動を測定した。励起光波長として、488nm、532nm、及び632nmを試験し、これらは全て長波長ショルダー上の吸収バンドを励起した。ケルセチン粉末試料の結果を図6に示す。結果から、3つの励起波長全てについて、強力な蛍光応答が得られることが明らかである。吸収と最も強い重複を有する488nm励起で、非常に広範囲の蛍光バンドが得られ、〜600nmで最大であり、半値幅は〜150nmであり、測定可能な蛍光強度は近赤外領域で約800nmまで及ぶ。488nmの鋭いピークは、分光計中への励起光のもれに起因する人為的結果である。532nm励起で、再度発光が起こり、〜600nmで最大であり、半値幅は若干減少し、励起と吸収バンドとの重複が減少するために強度は5倍減少する。632nm励起で、蛍光は、〜670nm付近まで最大の位置がシフトする。このシフトは、短く切られた短波長発光反応のためのようである。しかし、発光の蛍光性のために、得られるシグナル強度は、これらの「極端な」励起条件下でも、依然として比較的大きい。長波長吸収と得られた発光との間のストークスシフトは非常に小さく、このことは発光が吸収において到達した同じエネルギー状態に由来することを示し、従って、発光の振動子強度が吸収遷移の振動子強度に相当することを示唆する。
【0034】
図7では、同じ3つの励起条件下でのケンフェロールについての発光挙動を示す。ケルセチンと比較すると、488nm励起及び532nm励起の発光最大が若干(〜40nm)短波長側へシフトすることを除いて、全ての効果は非常に似ている。ここでも、発光範囲は非常に大きく、近赤外で約775nmに及ぶ。488nm及び532nmでの励起と比較すると、632nm励起で得られる蛍光強度は、大きさが1桁減少する。
【0035】
図8及び図9では、それぞれケルセチン及びケンフェロールの水溶液の発光挙動を示す。活性分子の濃度の減少のために粉末試料と比較して全てのシグナル強度は弱く、励起波長での強力で振り切れた(スケールアウトした)強度から明らかなように、分光計中への励起光の強力な散乱がある。しかしながら、重要なことに、いずれの場合もスペクトルの形状及び最大位置に関して、純粋な粉末試料と、発光挙動が非常に似ている。
【0036】
図10〜図25において、他の残りのフラボノイドのカテゴリー全ての代表的な化合物について、吸収結果及び発光結果を示す。それぞれ、粉末形態及び溶液中の双方の化合物について、注目すべき長波長吸収テールが観察される。また、それぞれの場合、青色励起、緑色励起、及び赤色励起について注目すべき蛍光パターン、すなわち各励起波長で600〜800nm領域における強くて広いバンドの蛍光応答がここでも得られ、励起波長が増加するとバンド幅は若干減少する。
【0037】
フラボンの吸収特性及び蛍光特性を、化合物アピゲニン、ルテオリン、及びジオスミンについて図10〜図15に示す。アピゲニン粉末では、図10から明らかなように、吸収テールはルテオリンよりも顕著である。しかし、全ての場合で、図11及び図12から明らかなように、高濃度の吸収測定で、メタノール溶液中でも吸収テールが観察される。図13〜図15に示す、3つのフラボン化合物の蛍光スペクトルは、青色励起、緑色励起、及び赤色励起下で非常に似ており、相対強度に関して若干異なるが、重要なことに、660nm範囲の高い蛍光強度は、632nmでの長波長励起を用いて3つの化合物全てについて得られる。
【0038】
フラバノンの例であるヘスペリジン及びナリンゲニンの吸収特性を、図16及び図17に示し、それらの蛍光挙動を図18に示す。図16に示すように、粉末形態で、両化合物は〜900nmまでの非常に強力な吸収テールを示す。ナリンゲニンの濃メタノール溶液について、テールは約700nmまで及ぶ。図18から分かるように、632nmでの長波長励起は650〜700nm領域で顕著な蛍光強度をもたらす。
【0039】
カテキンの吸収挙動を図19及び図20に示し、それらの発光挙動を図21に示す。エピカテキンについて図19に示すように、粉末形態で、強力な吸収テールが〜650nmまで存在する。カテキン、エピカテキン、及びガロカテキンについて図20に示すように、メタノール中に溶解させると、吸収テールは全ての場合で非常に弱い。しかし、全ての化合物は、図21のように、見慣れた特徴的な強い発光パターンを示す。
【0040】
イソフラボンであるゲニステインの吸収特性及び蛍光特性を、図22及び図23に示す。粉末形態で、顕著なバンド様吸収テールが450〜900nm範囲に存在する。図22から分かるように、これらのテールはメタノール溶液中で消失するようであるが、蛍光スペクトルはここでも、この化合物について650〜700nm領域で顕著な強度を示す。
【0041】
アントシアニジンの例である塩化ペラルゴニジンの吸収特性及び蛍光特性は、図24及び図25に示すように、全ての他のフラボノイドと最も異なる。吸収バンドテールは非常に強力で、粉末試料において約1000nmにまで及ぶ。メタノール溶液中で、可視波長領域全域に亘って顕著な吸収バンドが現れる。光学的励起により全ての励起波長で強力な蛍光応答が得られ、蛍光バンドの最大位置は〜700nmである。
【0042】
調べた全てのフラボノイド化合物の蛍光応答の類似性を図26〜図28にまとめた。ここでは、蛍光応答をそれぞれ青色励起(488nm)、緑色励起(532nm)、及び赤色励起(632nm)についてプロットした。調べた全ての化合物について、バンドの波長位置及びスペクトル形状を比較することができる。長波長側に顕著にシフトした塩化ペラルゴジニンを除いて、各励起波長について、化合物のスペクトル形状及び位置は若干異なる。重要なことに、比較的長波長の赤色励起の場合でも、全ての化合物において強力な蛍光シグナルが得られる。
【0043】
励起状態で、蛍光強度は時間の経過と共に若干減少することが判明し、ケルセチン粉末について、532nm励起及び632nm励起での効果を図29に示した。蛍光減衰は波長の増大の割にはそれほど大きくない。この効果は、フラボノイド化合物の光電離による可能性が高い。図30では、励起光パワーと共に増加する蛍光強度をケルセチン粉末について示す。この増加は、励起光パワーの大きさが約2桁を超えて変化する間、直線性を維持するようである。
【0044】
図31に、同じ励起条件下で同じ実験装置を用いて得られる、生きているヒト皮膚の手のひらの組織部位についての蛍光測定の結果を示す。3つの励起波長、すなわち488nm、532nm、及び632nmの全てで、広い発光バンドが得られた。これらは、最大スペクトルの位置、形状、半値幅、及び相対強度に関して、上述した純粋なフラボノイド試料の挙動に非常に似ている。570nm付近で発光スペクトルの一時的な下落が起こるが、これは、生体組織中のヘモグロビンの吸収が原因である可能性がある。図32に示される対応する発光スペクトルから分かるように、無血の厚く比較的均一な角質層から本質的に構成される切り取ったかかとの皮膚組織試料を測定すると、この下落は消失する。純粋なフラボノイド粉末試料と比較すると、皮膚における発光強度は、緑色励起及び赤色励起に対して、青色励起下では幾分強い。
【0045】
コラーゲン組織成分の、観察される発光挙動に対する潜在的な影響を調べるため、同じ励起条件下で純粋なコラーゲン試料(Sigma−Aldrich社から入手)を励起させた。得られる蛍光スペクトルを図33に示す。青色励起下で、強力な蛍光バンドが存在し、最大位置は〜540nmである。その強度は、励起波長が増加するに従い、急速に減少する。532nm励起下で強度は約200倍減少し、632nm励起下では、得られる応答は実質的にノイズシグナルのみからなる。この結果は、コラーゲンが対象の波長範囲で交絡する蛍光効果を生じないことを証明するため、重要である。
【0046】
図34において、直接比較するために、手のひらの内側の組織部位について632nm励起で得られる、生きているヒト皮膚の発光スペクトルを、ケルセチンの発光スペクトルと共に示す。明らかに、皮膚組織において蛍光のバンド幅が若干減少することを除いて、発光特性は非常に似ている。従って、顕著な交絡効果の影響を受けることなく、生きているヒト皮膚においてフラボノイドの存在を測定することが可能であると結論付ける。例外は、皮膚組織において受動的吸収体として機能するメラニンの影響である。しかし、この発色団は、手のひらの内側等の厚い角質層を有する組織部位を用いることによって、大部分は回避することができる。なぜなら、これらの部位は実質的にメラニンを含んでいないからである。
【0047】
(実施例2)
光学的励起条件下での皮膚フラボノイドの安定性を調べるため、フラボノイド発光の潜在的な退色効果を調べた。結果を図35に示す。これらは、純粋なフラボノイドの退色速度と非常に似ている。図35の上のパネルの曲線(a)は532nm励起下での皮膚蛍光の経時的減少を示し、曲線(b)は、比較として純粋なケルセチン粉末の対応する挙動を示す。両方の場合で非常に良く似た退色速度が観察される。しかし、皮膚蛍光は、純粋な粉末試料の減少ほど激しくは減少しない。この効果は、おそらくは、皮膚細胞中のフラボノイド化合物濃度の低下、及びその環境における安定性の増加による可能性がある。図35の下のパネルのプロットは、皮膚蛍光の経時的減少を示し、約300秒の初期減衰期間後に、励起光を100秒間オフにした。図から明らかなように、励起光をオンに戻した後、蛍光強度は初期レベルまで回復しなかった。従って、減衰は少なくとも10分の時間スケールで不可逆的であることを示している。赤色波長領域における励起を選択すること、励起光パワーを適切に減少させること、又は暴露時間を減少させることによって、皮膚フラボノイド含有量の光検出において、不可逆的退色効果を考慮しなければならない。実際、図36に示すように、632nm励起とすることが、達成するための最良の方法である。532励起及び632nm励起について退色速度を比較すると、明らかに、長波長で励起する場合に退色が最小限に抑えられる。
【0048】
図37に、632nm励起光パワーの増加に伴う皮膚蛍光の変化をプロットする。励起光パワーが0.3mWの低レベルから3mWまで増加するに従って、皮膚蛍光強度が直線的に増加することが観察される。従って、これらの条件下で、皮膚蛍光応答は直線的であり、これを照射組織容量中のフラボノイド濃度の測定基準として用いることができる。生きているヒト皮膚の有用な蛍光測定は、約2mW未満のレーザーパワー、及び5秒間の暴露時間によって達成されることが確証された。皮膚上のレーザー光スポットの大きさが直径約1.5mmであることを考慮すれば、その結果、皮膚表面で約0.11W/cm2の強度が得られた。これは、ANSI Z136.1−2000規格によれば安全と見なされる(American National Standards Institute, American National Standard for Safe Use of Lasers, ANSI Z136.1-2000, Laser Institute of America, Orlando, FL (2000). を参照)。実際、皮膚に対して使用したレーザー強度について、測定に必要な暴露時間は、この安全基準によって設定された暴露限度よりも約1000倍低い。
【0049】
これらの条件下での皮膚フラボノイド測定の再現性を図38に示す。被験者の手のひらの組織部位について、測定を13回繰り返し、〜660nmでのバンドの最大における皮膚フラボノイド蛍光強度をプロットする。再現性は約10%よりも良好である。
【0050】
(実施例3)
皮膚フラボノイドの光検出に最適な組織部位を試験するため、同一の励起条件及び検出条件を用いて、いくつかの皮膚組織部位を調べた。結果を図39に示す。人差し指の先端の組織部位については曲線(a)、親指の先端については曲線(b)、前腕の内側については曲線(c)、そして手のひらの内側については曲線(d)で示す。最高のフラボノイド応答は、人差し指組織部位に由来することが分かる。これは、組織増殖によって励起波長及び発光波長の散乱を減少させ、これにより組織用量中への光透過を増大させる、組織部位中の薄い角質層による可能性が高い。しかし、試験した組織部位の中で最も厚い角質層の利点を有する手のひらの組織部位についても、十分に強力な蛍光シグナルが得られる。角質層の強力な散乱のために、これは光透過を僅かな真皮層に限定する利点を有し、これにより、より深くに存在し血液を含む皮膚層と潜在的に交絡する効果を軽減する。
【0051】
(実施例4)
皮膚組織部位として手のひらの内側、及び632nm励起を使用して、数人の被験者における皮膚フラボノイド発光応答を測定した。結果を図40に示す。これらは全被験者において同じスペクトル形状を示すが、発光強度、ひいてはフラボノイド含有量においては、被験者間で大きなばらつきを示す。従って、光学的フラボノイド検出法は、皮膚フラボノイドレベルを非侵襲的に評価するため、被験対象間のフラボノイド状態を比較するため、そして状態を経時的に監視するために有用である。
【0052】
(実施例5)
タマネギの外側の輪層中におけるケルセチンのように、ある種のフラボノイドは、ある種の果実及び野菜中で選択的に濃縮される。外側の皮を除去した後、タマネギ試料は可視波長範囲で光学的に透明であり、従って、フラボノイド励起及び蛍光測定に十分適している。図3の装置を用いて、488nm励起、532nm励起、及び632nm励起下で試料の発光を測定した。結果を図41に示す。発光挙動はここでも図6の純粋なフラボノイド試料の発光挙動と非常に似ており、ほぼ同一の発光バンドの最大値、減少した半値幅、及び励起波長の増大に伴うスペクトルのシフトを特徴とする。図42において、632nm励起で得られたタマネギ試料の発光挙動を、純粋なケルセチン及びケンフェロールの発光スペクトルと直接比較する。明らかに、発光スペクトルの形状は非常に似ており、このことは、タマネギ試料の発光スペクトルが実際にフラボノイドによるものであり、本願に係る蛍光分光法は、測定対象の波長範囲で十分な光学的透明性を有する野菜の非侵襲的フラボノイド測定にも好適であることを示唆する。他の色素由来の潜在的交絡濃度を有する試料においても、本光検出法は実施可能であり得る。図43はその一例であり、フラボノイド以外の他の色素を含む赤ブドウ試料及び青ブドウ試料について、632nm励起で得られた蛍光スペクトルを示す。これらの色素由来の蛍光は、〜680nmを中心とする狭いバンドで現れ、例えばタマネギ試料等に存在するフラボノイド由来の蛍光(比較のためにここでも表示し、660nm付近で最大である)から、明確に区別できる。
【0053】
(実施例6)
生きているヒト組織におけるフラボノイドの光検出のため、少なくともメラニンを含まない皮膚組織部位の場合であって、かつ発色団との交絡を回避する赤色励起波長を用いる場合には、分光器を取り除くことによって必要な器具を簡素化し、代わりにフィルターベースの光学装置を使用することが可能であり得る。基本的に、図44に概略を示すような、経済的に非常に魅力的な器具は、対象の組織部位をフィルターに通した光源で照射する簡単な励起ビーム路程からなる。更に、これは、皮膚組織からの蛍光をコリメーターにより集め、発光を好適なロングパスフィルターに通し、そして発光強度をフォトダイオード/コンピュータの組み合わせにより定量化する検出ビーム路程を含む。
【技術分野】
【0001】
(関連文献の参照)
本出願は、参考としてその開示内容全体が本明細書で援用される、2009年1月13日付で出願された米国特許出願第12/352,702号による優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、生物組織中で見られる化合物を測定するための光学技術に関する。更に具体的には、本発明は、抗酸化状態の評価及び悪性疾患の危険性の検出において診断補助薬として使用可能な生体組織中のフラボノイド及び関連する化学物質のレベルの、非侵襲的検出及び非侵襲的測定のための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
フラボノイドは、ありふれた、天然に存在するポリフェノール化合物であって、多くの場合、植物の華やかで魅力的な色の一因である。フラボノイドは、多数の果実、野菜、ベリー類、穀物、根、茎、並びに茶、コーヒー、ビール及びワイン等の飲料中に濃縮され、食事と共に摂取されて、最終的には生きているヒト組織細胞中に蓄積する。フラボノイドは、人間の健康に明らかな恩恵があるために非常に関心を生んでいる。1つの要因は、地中海沿岸地方の住民は飽和脂肪摂取が比較的高いにも関わらず心血管系死亡率が驚くほど低いという、「フレンチパラドックス」である。地中海沿岸地方の食事で脂肪摂取と共に比較的高濃度で消費される赤ワイン中に存在するある種のフラボノイドが、実際にこの効果の原因であるという有力な証拠がある(非特許文献1)。おそらく、それらの共通の抗酸化機能に基づいて、異なる食物源中に存在する他の種類のフラボノイドも、同様に広範囲に及ぶ有益な効果を有するようである。これらは、フリーラジカルの捕捉、DNA損傷の防止、UV光により誘発される組織損傷からの保護、善玉コレステロールレベル及び悪玉コレステロールレベルの調節、動脈の開通、腫瘍成長の抑制、ウェイトコントロールの促進、網膜色素上皮細胞の酸化的ストレスによる死からの保護等と関連する(非特許文献2、3)。疫学的研究は、一貫して、フラボノイドを多く含む食品を消費することにより、癌の危険性が30〜75%の範囲に低下することを示す(非特許文献2)。
【0004】
全てのフラボノイドに共通の分子構造は、図1に示すように、3つの炭素原子を含む環状骨格(C3環骨格)の両側に2つの芳香族ベンゼン環を含む(C6−C3−C6)。C3環中の炭素二重結合の位置、OH基の置換、及び/又は二重結合酸素に応じて、フラボノイドは6つの主なカテゴリーに分類される。これらはフラボノール、フラボン、フラバノン、カテキン、イソフラボン、及びアントシアニジンであり、選択された代表的でかつ主な食物源と共に図2に記載する。
【0005】
最も多くの化合物を含むフラボノイドのカテゴリーは、フラボノール及びフラボンであり、どちらも中心のC3環中の二重結合のために平面構造を有する。最も有名で、おそらくは最もよく研究されているメンバーは、タマネギ、ブロッコリー、リンゴ、及びベリー類において高濃度で見出されるケルセチン及びケンフェロールである。第3のフラボノイドカテゴリーであるフラバノンは、主に柑橘類果実で見出される。この群のメンバーは、ナリンゲニン及びヘスペレチンである。第4のカテゴリーであるカテキンは、主に緑茶及び紅茶、並びに赤ワインにおいて見出され、一方、第5のカテゴリーであるイソフラボンは、食品における分布は比較的狭く、大豆が主な食物源である。最後のカテゴリーであるアントシアニジンは、サクランボ、ベリー類、及びブドウにおいて優勢である。植物によって合成される場合、フラボノイドは、多くの場合、糖などの他の分子と結合し、この場合、不活性なグリコシド複合体を形成する。糖基はグリコンとして知られ、非糖基はグリコシドのアグリコン又はゲニン部分として知られる。一例として、柑橘類果実は、ヘスペリジン(フラバノンヘスペレチンのグリコシド)、クエルシトリン、ルチン(フラボノールケルセチンの2つのグリコシド)、及びフラボンタンゲリチンを含む。人体等の生体において、酵素は必要に応じて不活性グリコシドを分解することができ、これにより糖及びフラボノイド成分が利用可能となる。
【0006】
これらのレベルを結びつける強力な電子吸収遷移が深紫外(深UV)から青色スペクトル領域における比較的高い光エネルギーで起こるということ以外、フラボノイドのエネルギーレベルについては比較的僅かしか知られていない。フラボン及びフラボノールにおける2つの特徴的な吸収バンド、すなわち、主にB環吸収を表す300〜400nm領域における「長波長」バンド、及び主にA環吸収を表す240〜280nm領域における「短波長」バンドが、文献に記載されている。特定のフラボノイドの吸収線形状及び強度は、ヒドロキシル基の具体的な数、及び/又は他の置換、並びにそれらの相対的な位置関係に依存すると考えられる(非特許文献4、5)。例えば、フラボノールケルセチン及びケンフェロールをフラボンルテオリン及びアピゲニンと比較すると、2つのフラボノールはどちらも、2つのフラボンメンバーに対して、それらの長波長B環吸収バンドの若干大きな(〜30nm)赤方シフトを有することが見出された(非特許文献6)。これは、2つのフラボノールはそれらのC3環と結合したヒドロキシル基を有するのに対して、2つのフラボンはそのような結合を有さないことが原因であった。ケルセチンに関して、主に観察される吸収遷移、すなわち高い振動子強度を有するものは、9つの最高被占分子軌道から9つの最低非被占分子軌道への全ての励起を考慮して、量子化学的な配置間相互作用計算でかなり正確にモデル化されている(非特許文献7、8)。300〜400nm範囲の吸収バンドは、主に、それぞれ最高被占π分子軌道と最低非被占π分子軌道との間の遷移によることが示され、この場合、B環からC環のC=O二重結合へと電子電荷密度が引き出される。240〜280nm領域の遷移は、それぞれ2番目に高いπ分子軌道と2番目に低いπ分子軌道との間の遷移に割り当てられ、これは1つの芳香族環の領域から炭素原子(C)を介する他の芳香族環への電荷移動を含む。エネルギーレベルの存在、関連する電荷分布、及びB環300〜400nm吸収の長波長側での吸収バンドを生じさせることができる潜在的な低エネルギー遷移に関する情報は得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Formica JV, Regelson W, Review of the biology of quercetin and related bioflavPersonNameonoids, Food Chem. Toxicol. 1995; 33:1061-80.
【非特許文献2】FlavPersonNameonoids: Chemistry, Biochemistry, and Applications, O. M. Andersen and K. R. Markham, Eds., CRC Press, placeCityTaylor & Francis Group, LLC, 2006.
【非特許文献3】Hanneken A, Lin F-F, Johnson J, Maher P 2006, Investigative Ophthalmology & Visual Science 47, 3164-77.
【非特許文献4】Rice-Evans CA, Miller NJ, Paganga G, Free Radic. Biol. Med. 1996; 20:933.
【非特許文献5】Bohm BA, Introduction to FlavPersonNameonoids. Chemistry and Biochemistry of Organic Natural Products. Harwood Academic Publisher: placeCityAmsterdam, 1998:200.
【非特許文献6】Jurasekova Z, Garcia-Ramos JV, Domingo C, Sanchez-Cortes S, Surface-enhanced Raman scattering of flavPersonNameonoids, J. Raman Spectrosc. 2006; 37: 1239-1241.
【非特許文献7】Cornard JP, Merlin JC, Boudet AC, Vrielynck L, http://www3.interscience.wiley.com/journal/56500/issue
【非特許文献8】Cornard JP, Dangleterre, Lapouge C 2005, J. Phys. Chem. A; 109:10044-10051.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生物組織におけるフラボノイド化合物及び関連する化学物質の非侵襲的検出及び非侵襲的測定のための方法及び装置に関する。特に、本発明は、ヒト皮膚等の生物組織における、フラボノイド化合物、並びにそれらの異性体及び代謝物質の濃度の、迅速かつ非侵襲的な定量的測定を可能にする。これは、従来の生化学分野の「金字塔的な」技術によって必要とされた、組織の除去又はHPLC及び質量分析のための試料の調製を必要とすることなく行われる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無傷組織の低強度の可視光照射を使用する直接的かつ定量的な光診断技術において使用することができ、高空間分解能を提供し、組織におけるフラボノイドレベルの正確な定量化を可能にする。そのような技術は果実及び野菜摂取量のバイオマーカーとして有用であり、悪性疾患等の組織異常の検出を援助することができる。フラボノイドの光検出は、皮膚におけるカロテノイドの共鳴ラマン検出等の、組織における他の抗酸化化合物の光検出を増大させ(Gellermann W et al., US patent 6,205,354 B1 を参照)、後者と組み合わせて使用して、測定される生体組織中に存在する生物活性化合物の、更に一般的な評価が得られる。本発明の技術を用いて非侵襲的に測定することができる生物組織の例としては、ヒト皮膚、粘膜組織、血清や尿等の体液、並びに植物及び果実の組織試料又は抽出物が挙げられる。
【0010】
生物組織におけるフラボノイドレベルを測定するための本発明の非侵襲的方法は、フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するステップと、照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップと、検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するステップと、を含む。
【0011】
組織はヒト皮膚であって良く、好ましくは指先又は手の他の部分の皮膚であって良い。濃度レベルを用いて、組織の抗酸化状態、及び/又は悪性疾患又は他の疾患の危険性若しくは存在を評価することができる。励起に用いられる光は、典型的には300〜650nmスペクトル領域にあり、フラボノイドにより放射される蛍光は、特に光がスペクトルの赤色領域にあり、組織の局所領域が実質的にメラニンを含んでいない場合、蛍光分光法又は光検出器を用いて特定することができる。
【0012】
好適な実施形態は、従来知られていない、フラボノイドの低振動子強度光吸収遷移を利用する。この遷移は、周知の300〜400nmのB環吸収バンドを超えてはるか可視波長範囲に及ぶ長波長吸収特性として現れる。これにより、他の潜在的に交絡する皮膚発色団の吸収域の外側で、生きているヒト組織中のフラボノイドを光学的に励起することが可能になる。カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含むそのような発色団は、通常、フラボノイドのA環又はB環の吸収バンドの光励起のもとで、望ましくないスペクトルの重なり、吸収、及び/又は蛍光反応を生じる。しかし、これらの他の皮膚発色団の吸収域の外側の長波長吸収テールで組織フラボノイドを励起することによって、本発明は、光学的に励起された組織容量中に存在するフラボノイド分子のみに起因する皮膚からの蛍光応答を生じさせることを可能にする。結果として、蛍光分光法を、皮膚等のヒト組織中のフラボノイドに関する新規な非侵襲的光定量的検出法として使用することができ、この情報をフラボノイド状態及び潜在的な疾患リスクの評価において補助的に使用することができる。
【0013】
本発明に従ってフラボノイドレベルを測定するためのシステムは、フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するための光源と、照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置と、検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するプロセッサと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】全てのフラボノイドの基本分子構造を示す。
【図2】フラボノイドの6つの別個のカテゴリー、それらの分子構造、及びそれらの主な食物源を表す。
【図3】ヒト皮膚組織部位を含む様々な試料中のフラボノイドの発光スペクトルを測定する本発明の装置の一般的概略図である。
【図4】純粋なケルセチン及びケンフェロール結晶粉末試料の吸収スペクトルを示す。
【図5】ケルセチン及びケンフェロールのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図6】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケルセチン結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図7】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケンフェロール結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図8】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケルセチンの水溶液の蛍光スペクトルを示す。
【図9】青色、緑色、及び赤色励起波長でのケンフェロールの水溶液の蛍光スペクトルを示す。
【図10】純粋なアピゲニン及びルテオリン結晶粉末試料の吸収スペクトルを示す。
【図11】アピゲニン及びルテオリンのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図12】ジオスミン結晶粉末及びメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図13】青色、緑色、及び赤色励起波長でのアピゲニン結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図14】青色、緑色、及び赤色励起波長でのルテオリン結晶粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図15】青色、緑色、及び赤色励起波長でのジオスミンの蛍光スペクトルを示す。
【図16】ヘスペリジン及びナリンゲニン結晶粉末試料の吸収スペクトルを示す。
【図17】ヘスペリジン及びナリンゲニンのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図18】ナリンゲニン及びヘスペリジン結晶粉末試料の蛍光スペクトルを示す。
【図19】エピカテキン結晶粉末の吸収スペクトルを示す。
【図20】カテキン、エピカテキン、及びガロカテキン結晶粉末のメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図21】青色、緑色、及び赤色励起波長でのカテキン、エピカテキン、及びガロカテキン結晶粉末試料の蛍光スペクトルを示す。
【図22】ゲニステイン結晶粉末及びゲニステインのメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図23】青色、緑色、及び赤色励起波長でのゲニステイン粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図24】塩化ペラルゴニジン結晶粉末、及びその低濃度及び高濃度それぞれの2種類のメタノール溶液の吸収スペクトルを示す。
【図25】青色、緑色、及び赤色励起波長でのペラルゴニジン粉末の蛍光スペクトルを示す。
【図26】青色励起で得られる、調べた全てのフラボノイドの蛍光スペクトルを示す。
【図27】緑色励起で得られる、調べた全てのフラボノイドの蛍光スペクトルを示す。
【図28】赤色励起で得られる、調べた全てのフラボノイドの蛍光スペクトルを示す。
【図29】532nm励起下及び632nm励起下でのケルセチン結晶粉末の退色速度を示す。
【図30】励起光パワーの増大に伴う、632nm励起下でのケルセチン結晶粉末の蛍光強度の直線性を示す。
【図31】生きているヒトの皮膚の手のひらの内側の組織部位の蛍光スペクトルを示す。
【図32】切除されたかかとの皮膚組織試料の蛍光スペクトルを示す。
【図33】コラーゲンの蛍光スペクトルを示す。
【図34】ケルセチン粉末及び生きている皮膚の正規化蛍光スペクトルを示す。
【図35】ケルセチンの退色速度と比較した、生きているヒト皮膚の退色速度を示す。
【図36】生きているヒト皮膚の退色速度を示す。
【図37】励起光パワーの増加に伴う、生きている皮膚の蛍光強度の直線性を示す。
【図38】連続測定における皮膚蛍光の再現性を示す。
【図39】種々の組織部位の皮膚蛍光スペクトルを示す。
【図40】4人の異なる被験者の皮膚蛍光スペクトルを示す。
【図41】青色、緑色、及び赤色励起で得られるタマネギの層の蛍光スペクトルを示す。
【図42】全て赤色励起下で得られる、タマネギの層の蛍光スペクトルとケルセチン及びケンフェロールの蛍光スペクトルとの比較を示す。
【図43】青ブドウ、赤ブドウ、及びタマネギの層の蛍光スペクトルを示す。
【図44】フラボノイド蛍光測定のために構築されたフィルターベースの実験装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の上述した利点及び目的や他の利点及び目的を得る方法を説明するため、添付の図面に示す具体的な実施形態を参照して、本発明について更に詳細に説明する。これらの図面は典型的な実施形態のみを表し、従って、本発明の範囲を限定するものではない。このような理解の元で、本発明を記載し、添付の図面を使用して更に具体的かつ詳細に説明する。
【0016】
本発明は、皮膚等の生物組織におけるフラボノイド及び類似物質の存在を同定し定量化するために蛍光を使用する。この技術では、組織に光を当て、組織から放射される蛍光をフィルターに通し、検出する。蛍光強度は、対象の皮膚中に存在するフラボノイドの濃度の指標(indicator)として使用することができる。なぜなら、蛍光強度は励起された組織容量中に存在するフラボノイドの濃度に直線的に対応すると予想されるからである。好適な実施形態は、手のひら等の組織部位を光学窓に当てて使用する。この装置により、蛍光の強度を連続して測定し、表示することが可能になる。対象の皮膚フラボノイドレベルを評価するために要する合計時間は非常に短く、たった数秒程度である。
【0017】
本発明の生物組織中のフラボノイド及び関連する化学物質の非侵襲的測定法では、タングステン−ハロゲンランプ、発光ダイオード、又はレーザー等の光源を使用し、そのいずれも、フラボノイド化合物の吸収バンドが存在する波長範囲、すなわち300〜650nmのスペクトル領域中のスペクトル位置で十分に高い強度の光の放射を特徴とする。皮膚フラボノイドから放射される蛍光強度は、励起された組織容量中のフラボノイドの濃度に比例する。従って、皮膚フラボノイドの蛍光強度を、皮膚フラボノイド濃度の光学的評価基準として使用することができ、この情報を用いて、組織のフラボノイド抗酸化状態を評価することができる。濃度レベルを正常な生物組織のレベルと比較して、悪性疾患の危険性(リスク)又は存在を評価することができる。
【0018】
図1に、全てのフラボノイドに共通の分子構造を概略的に示す。これは、両側で芳香族ベンゼン環と結合した、3個の炭素原子を有する中心環から構成される。図2は、フラボノイドの主なカテゴリー、それらの分子構造、種々のカテゴリーの主なメンバー及びそれらの主な食物源を示す。個々のフラボノイドは、種々の炭素部位で結合するヒドロキシル基の数及び位置、並びに中心環中の炭素二重結合の存在及び位置が異なる。
【0019】
図3は、蛍光分光法を用いて生物組織中のフラボノイド及び同様の物質の発光スペクトルを測定するための本発明の装置の一般的概略図である。当該装置は、627nmを中心として〜20nmのバンド幅を有する光を発する光源(本発明の好適な一実施形態では発光ダイオードである)を含む。或いは、光源は、フラボノイド吸収のスペクトル範囲中で光を発生させるための他の装置を含んでも良い。好ましくは、フラボノイドの場合、光源は、フラボノイド化合物の吸収バンドと重複する300〜650nmの波長範囲内の、独立した波長位置又はあるスペクトル範囲で、十分な強度を有する光を発生させる。そのような光は、例えば市販の安価なスライドプロジェクターランプ(適切にフィルターに通す)、発光ダイオード、又はレーザーにより、容易に利用可能である。
【0020】
励起光源は、測定対象の組織又は試料に励起光をあて、放射された蛍光を集めるための種々の光学部品を含み得る光線送達システム及び光線収集システムと光学的に通信可能である。図3に示すように、装置の光学部品は、光源、機械式シャッター、励起光の一部をモニタリング検出器に送るビームスプリッター、ビーム拡大器、フィルター、レンズ、測定対象の組織又は試料を当てる窓、集光レンズ、フィルター、ビーム縮小器、集光ファイバー、分光器、蛍光検出器、及びコンピュータプロセッサ/モニターを含む。これらの光学部品と光源からの光との相互作用は以下で更に詳細に考察する。
【0021】
装置の検出部分は、フラボノイド蛍光の光成分をスペクトル的に分散させる働きをする分光器又は分光計を含み得る。スペクトル分散システムは、回折格子、プリズム、ホログラフィックフィルター、誘電体フィルター、それらの組み合わせ等の種々の代替光学部品で置換することができる。
【0022】
スペクトル選択システムは、光検出システム等の検出手段と光学的に通信可能に構成されている。光検出システムは、ヒト皮膚中のフラボノイド化合物に特徴的な波長範囲等の対象の波長範囲における波長の関数としての放射された蛍光の強度を測定可能である。検出システムは、これらに限定されるものではないが、CCD(電荷結合素子)検出器アレイ、増倍型CCD検出器アレイ、光電子増倍管装置、フォトダイオード等の装置を含んでも良い。
【0023】
スペクトル選択システム及び光検出システムは、電荷結合シリコン検出器アレイでの迅速検出を用いる低分解能回折格子分光計等の市販の分光計システムから選択することができる。例えば、300本/mmの分散格子、及び個々の画素幅が14μmのシリコン検出器アレイを用いる回折格子分光計を用いることができる。別の好適な分光計はホログラフィックイメージング分光計であり、これは、CCD検出器アレイとインターフェースで接続し、透過型体積ホログラフィック回折格子を用いる。スペクトル選択システム及び光検出システムを、増倍型CCDカメラ等の微光CCDイメージングアレイと合わせて用いられるスペクトル選択的光学素子を含むイメージングシステム中に組み合わせることもできる。
【0024】
検出された光を、好ましくは、光検出システムによって、コンピュータのモニター等の出力ディスプレー上に視覚的に表示できるシグナルに変換する。光検出システムは、所望により光シグナルを他のデジタル形式又は数字形式に変換することもできると理解されるべきである。結果として放射された蛍光シグナルを、好ましくは、定量化システム等の定量化手段によって分析し、これは、他の実験から化学的に測定されたフラボノイドレベルとの比較により調整することができる。定量化手段は、コンピュータ、好ましくはスペクトルの発光基準に対する正規化、及び測定された組織容量中に存在するフラボノイドの濃度値の測定等のスペクトル操作が可能なデータ取得ソフトウェアがインストールされたものであって良い。定量化システムは、CCDイメージディスプレー又はモニターを含んでも良い。定量化システムは、1つのコンピュータ中で出力ディスプレーと組み合わせてもよく、また実際のフラボノイドレベルに比例する光学密度等の他の実験で得られるフラボノイドレベルで結果を調整することもできる。
【0025】
装置の操作中、光源から光線が発生し、これは入力光ファイバーを通って送達システムへと向けられる。或いは、鏡を利用して光線を光送達システムに向ける。システムへと送られた励起光の一部をビームスプリッターで分割して、その強度をモニタリングし、残りを拡大し、フィルターに通し、測定対象の試料又は組織容量の上の窓を通してレンズで画像化する。後者は窓と接触している。試料又は皮膚から放射される蛍光をレンズによって集め、格子分光器等のスペクトル選択システムに光を送る出力ファイバーの表面上に画像化する。スペクトル分散光を、全ての皮膚フラボノイドの蛍光範囲に及ぶ波長範囲において波長の関数として光強度を測定する光検出システムへ向ける。或いは、スペクトル選択システムを省略し、蛍光を光検出システムに直接送る。光検出システムは次いで、放射された蛍光シグナルを、コンピュータモニター等の画像表示装置に適した形式に変換し、得られるフラボノイド発光を定量化システムで分析する。
【0026】
本発明は、生きているヒト組織中のフラボノイド含有量の検出に特に有用である。人間は食事で相当量のフラボノイドを摂取する。人体に取り込まれた後、フラボノイドはアレルゲン、ウイルス、及び発癌物質に対する身体の反応を変えることができる。これらは、抗アレルギー活性、抗炎症活性、抗菌活性、及び抗癌活性を示すと考えられる。それらの薬理作用、特に癌及び心血管系疾患の予防における潜在的な役割のために、食品産業及び栄養補助食品産業でフラボノイドに対する関心が強い。明らかに、果実、野菜、及び茶、又は更には赤ワインの有用な効果は、他の化合物ではなく、固有のフラボノイドの寄与度が高い可能性がある。多くの例で、フラボノイド化合物について特定の生化学作用及び生理学的作用が示唆されている。例えば、ケンフェロールは、ホルボールエステルで処置されたマウスの線維芽細胞又はv−H−ras−転換NIH 3T3細胞の転換形質を元に戻すことが示されている。もう1つの例であるアピゲニンは、G2/M期で細胞周期を停止させることによって、細胞増殖を阻害することが判明している。細胞周期停止による増殖の阻害及びアポトーシスの誘発は、p53の誘発に関連するようである。腫瘍促進に対する阻害効果は、キナーゼ活性の阻害とその結果としての癌遺伝子発現の抑制によるものである可能性もある。トポイソメラーゼIにより触媒されるDNA再連結を阻害し、ギャップ結合による細胞間伝達を増強することも報告されている。第3の例であるガロカテキンは、口腔上皮細胞上のポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)の増殖及び付着を阻害することが示唆されている。第4の例であるゲニステインは、チロシンタンパク質キナーゼの阻害剤、他のタンパク質キナーゼ反応におけるATPの競合的阻害剤、及び血管形成の制御に関与する遺伝子の転写を減少調節する抗血管新生薬であることが示されている。
【0027】
それらの薬効の微視的機構は依然として研究対象であるが(Lotito SB, Frei B 2006; Free Radic. Biol. Med. 41 (12): 1727-46. を参照)、生きているヒト組織におけるフラボノイドの非侵襲的検出法が非常に有利であることは明らかであろう。現行の検出方法は、質量分析法及び液体クロマトグラフィー法を必要とし、侵襲的方法として生検組織試料及び体液にのみ適用可能である。これとは対照的に、非侵襲的光検出は、損傷を受けていない生きたヒト組織のin situ測定を可能とし、フラボノイド状態の迅速な評価を提供し、疫学的研究において果実及び野菜摂取のバイオマーカーとしての役割を果たし、食習慣の改善及び栄養補給によるフラボノイド摂取をモニタリングするための便利な手段を提供することが可能になる。
【0028】
種々の実験を実施し、これらの実験により、安全な露光レベルを用いて、生きているヒト皮膚の種々の部分について強力なフラボノイド蛍光シグナルを容易に得られることが示される。以下の実施例は、これらの実験で用いられる装置及び手順、並びにこれらから得られる結果を記載する。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
特徴的なフラボノイド蛍光シグナルを生成させるために有用な、潜在的な励起波長を調べるため、まず、代表的な化合物の吸収特性を測定した。最大級の純度を有する結晶粉末試料を、Sigma−Aldrich社から入手した。試料は、フラボノールの例としてケルセチン二水和物及びケンフェロール、フラボンの例としてアピゲニン、ルテオリン、及びジオスミンルチノシド、フラバノンとしてナリンゲニン及びヘスペリジン(ヘスペリチンのラムノグルコシド)、カテキンであるガロカテキン及びエピカテキン、イソフラボンであるゲニステイン、並びにアントシアニジン化合物である塩化ペラルゴニジンを含んでいた。製造業者は、測定したフラボノイド化合物のいくつかについて以下の異名を挙げている。
【0030】
ケンフェロールに関して:3,4’,5,7−テトラヒドロキシフラボン、3,5,7−トリヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン、ロビゲニン;
アピゲニンに関して:4’,5,7−トリヒドロキシフラボン;
ルテオリンに関して:3’,4’,5,7−テトラヒドロキシフラボン;
ジオスミンに関して:3’,5,7−トリヒドロキシ−4’−メトキシフラボン7−ルチノシド;
ナリンゲニンに関して:4’,5,7−トリヒドロキシフラバノン、(±)−2,3−ジヒドロ−5,7−ジヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン;
ヘスペリジンに関して:ヘスペレチン7−ラムノグルコシド、ヘスペリチン−7−ルチノシド;
カテキンに関して:(2S,3R)−2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ベンゾピラン−3,5,7−トリオール、(−)−trans−3,3’,4’,5,7−ペンタヒドロキシフラバン;
ガロカテキンに関して:(2S,3R)−2−(3,4,5−トリヒドロキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ベンゾピラン−3,5,7−トリオール;
エピカテキンに関して:(−)−cis−3,3’,4’,5,7−ペンタヒドロキシフラバン、(2R,3R)−2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−1(2H)−ベンゾピラン−3,5,7−トリオール;
ゲニステインに関して:4’,5,7−トリヒドロキシイソフラボン、5,7−ジヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシフェニル)−4Η−1−ベンゾピラン−4−オン;
塩化ペラルゴニジンに関して:3,4’,5,7−テトラヒドロキシフラビリウムクロリド。
【0031】
各化合物に関して、白色光反射分光法を用いて結晶粉末形態の試料の吸収特性を決定した。この方法の実験の詳細は、その開示内容全体が参考として本発明で援用される、係属中の特許出願第12/134,667号に見出すことができる。化合物の溶液に関しては、Perkin−Elmer UV/VIS/NIR吸収分光光度計を使用した。
【0032】
図4及び図5において、フラボノール化合物であるケルセチン及びケンフェロールについての吸収結果を示す。吸収バンドは非常に類似し、400〜430nmの範囲にピークを有する著しく広いバンドを特徴とする。重要なことに、これらは約500〜800nmに及ぶ可視/遠赤色波長領域の、弱いが明らかに顕著な長波長吸収テールを特徴とする。この弱い長波長テールは、粉末形態のこれらのフラボノール化合物だけでなく、メタノール溶液についても見ることができ、これらは散乱効果を示す。ケルセチン及びケンフェロールの完全に透明なメタノール溶液、すなわち残存する懸濁したフラボノール物質が無い溶液について得られる吸収スペクトルを図5の上のパネルに示す。図中、曲線(a)はケルセチンのものであり、曲線(b)はケンフェロールのものである。スペクトルにより、2つのフラボノール溶液の場合、最大〜200nm、260nm、及び380nm付近の強力な光吸収遷移を特徴とする、深UV/青色スペクトル領域におけるフラボノイド溶液の周知の3バンド吸収パターンが明らかになる。固体状態と比較して、溶液中の化合物の長波長吸収バンドは、若干(数十nm)短波長側へシフトする。重要なことに、可視波長領域における更に高濃度の溶液の吸収挙動を測定する場合、2種のフラボノールの弱いが明らかに認識可能な吸収テールが再度現れ、これは十分に可視/赤色波長領域の波長まで(約650nmまで)伸びる。
【0033】
次に、図3の実験装置を使用して、両フラボノール化合物の発光挙動を測定した。励起光波長として、488nm、532nm、及び632nmを試験し、これらは全て長波長ショルダー上の吸収バンドを励起した。ケルセチン粉末試料の結果を図6に示す。結果から、3つの励起波長全てについて、強力な蛍光応答が得られることが明らかである。吸収と最も強い重複を有する488nm励起で、非常に広範囲の蛍光バンドが得られ、〜600nmで最大であり、半値幅は〜150nmであり、測定可能な蛍光強度は近赤外領域で約800nmまで及ぶ。488nmの鋭いピークは、分光計中への励起光のもれに起因する人為的結果である。532nm励起で、再度発光が起こり、〜600nmで最大であり、半値幅は若干減少し、励起と吸収バンドとの重複が減少するために強度は5倍減少する。632nm励起で、蛍光は、〜670nm付近まで最大の位置がシフトする。このシフトは、短く切られた短波長発光反応のためのようである。しかし、発光の蛍光性のために、得られるシグナル強度は、これらの「極端な」励起条件下でも、依然として比較的大きい。長波長吸収と得られた発光との間のストークスシフトは非常に小さく、このことは発光が吸収において到達した同じエネルギー状態に由来することを示し、従って、発光の振動子強度が吸収遷移の振動子強度に相当することを示唆する。
【0034】
図7では、同じ3つの励起条件下でのケンフェロールについての発光挙動を示す。ケルセチンと比較すると、488nm励起及び532nm励起の発光最大が若干(〜40nm)短波長側へシフトすることを除いて、全ての効果は非常に似ている。ここでも、発光範囲は非常に大きく、近赤外で約775nmに及ぶ。488nm及び532nmでの励起と比較すると、632nm励起で得られる蛍光強度は、大きさが1桁減少する。
【0035】
図8及び図9では、それぞれケルセチン及びケンフェロールの水溶液の発光挙動を示す。活性分子の濃度の減少のために粉末試料と比較して全てのシグナル強度は弱く、励起波長での強力で振り切れた(スケールアウトした)強度から明らかなように、分光計中への励起光の強力な散乱がある。しかしながら、重要なことに、いずれの場合もスペクトルの形状及び最大位置に関して、純粋な粉末試料と、発光挙動が非常に似ている。
【0036】
図10〜図25において、他の残りのフラボノイドのカテゴリー全ての代表的な化合物について、吸収結果及び発光結果を示す。それぞれ、粉末形態及び溶液中の双方の化合物について、注目すべき長波長吸収テールが観察される。また、それぞれの場合、青色励起、緑色励起、及び赤色励起について注目すべき蛍光パターン、すなわち各励起波長で600〜800nm領域における強くて広いバンドの蛍光応答がここでも得られ、励起波長が増加するとバンド幅は若干減少する。
【0037】
フラボンの吸収特性及び蛍光特性を、化合物アピゲニン、ルテオリン、及びジオスミンについて図10〜図15に示す。アピゲニン粉末では、図10から明らかなように、吸収テールはルテオリンよりも顕著である。しかし、全ての場合で、図11及び図12から明らかなように、高濃度の吸収測定で、メタノール溶液中でも吸収テールが観察される。図13〜図15に示す、3つのフラボン化合物の蛍光スペクトルは、青色励起、緑色励起、及び赤色励起下で非常に似ており、相対強度に関して若干異なるが、重要なことに、660nm範囲の高い蛍光強度は、632nmでの長波長励起を用いて3つの化合物全てについて得られる。
【0038】
フラバノンの例であるヘスペリジン及びナリンゲニンの吸収特性を、図16及び図17に示し、それらの蛍光挙動を図18に示す。図16に示すように、粉末形態で、両化合物は〜900nmまでの非常に強力な吸収テールを示す。ナリンゲニンの濃メタノール溶液について、テールは約700nmまで及ぶ。図18から分かるように、632nmでの長波長励起は650〜700nm領域で顕著な蛍光強度をもたらす。
【0039】
カテキンの吸収挙動を図19及び図20に示し、それらの発光挙動を図21に示す。エピカテキンについて図19に示すように、粉末形態で、強力な吸収テールが〜650nmまで存在する。カテキン、エピカテキン、及びガロカテキンについて図20に示すように、メタノール中に溶解させると、吸収テールは全ての場合で非常に弱い。しかし、全ての化合物は、図21のように、見慣れた特徴的な強い発光パターンを示す。
【0040】
イソフラボンであるゲニステインの吸収特性及び蛍光特性を、図22及び図23に示す。粉末形態で、顕著なバンド様吸収テールが450〜900nm範囲に存在する。図22から分かるように、これらのテールはメタノール溶液中で消失するようであるが、蛍光スペクトルはここでも、この化合物について650〜700nm領域で顕著な強度を示す。
【0041】
アントシアニジンの例である塩化ペラルゴニジンの吸収特性及び蛍光特性は、図24及び図25に示すように、全ての他のフラボノイドと最も異なる。吸収バンドテールは非常に強力で、粉末試料において約1000nmにまで及ぶ。メタノール溶液中で、可視波長領域全域に亘って顕著な吸収バンドが現れる。光学的励起により全ての励起波長で強力な蛍光応答が得られ、蛍光バンドの最大位置は〜700nmである。
【0042】
調べた全てのフラボノイド化合物の蛍光応答の類似性を図26〜図28にまとめた。ここでは、蛍光応答をそれぞれ青色励起(488nm)、緑色励起(532nm)、及び赤色励起(632nm)についてプロットした。調べた全ての化合物について、バンドの波長位置及びスペクトル形状を比較することができる。長波長側に顕著にシフトした塩化ペラルゴジニンを除いて、各励起波長について、化合物のスペクトル形状及び位置は若干異なる。重要なことに、比較的長波長の赤色励起の場合でも、全ての化合物において強力な蛍光シグナルが得られる。
【0043】
励起状態で、蛍光強度は時間の経過と共に若干減少することが判明し、ケルセチン粉末について、532nm励起及び632nm励起での効果を図29に示した。蛍光減衰は波長の増大の割にはそれほど大きくない。この効果は、フラボノイド化合物の光電離による可能性が高い。図30では、励起光パワーと共に増加する蛍光強度をケルセチン粉末について示す。この増加は、励起光パワーの大きさが約2桁を超えて変化する間、直線性を維持するようである。
【0044】
図31に、同じ励起条件下で同じ実験装置を用いて得られる、生きているヒト皮膚の手のひらの組織部位についての蛍光測定の結果を示す。3つの励起波長、すなわち488nm、532nm、及び632nmの全てで、広い発光バンドが得られた。これらは、最大スペクトルの位置、形状、半値幅、及び相対強度に関して、上述した純粋なフラボノイド試料の挙動に非常に似ている。570nm付近で発光スペクトルの一時的な下落が起こるが、これは、生体組織中のヘモグロビンの吸収が原因である可能性がある。図32に示される対応する発光スペクトルから分かるように、無血の厚く比較的均一な角質層から本質的に構成される切り取ったかかとの皮膚組織試料を測定すると、この下落は消失する。純粋なフラボノイド粉末試料と比較すると、皮膚における発光強度は、緑色励起及び赤色励起に対して、青色励起下では幾分強い。
【0045】
コラーゲン組織成分の、観察される発光挙動に対する潜在的な影響を調べるため、同じ励起条件下で純粋なコラーゲン試料(Sigma−Aldrich社から入手)を励起させた。得られる蛍光スペクトルを図33に示す。青色励起下で、強力な蛍光バンドが存在し、最大位置は〜540nmである。その強度は、励起波長が増加するに従い、急速に減少する。532nm励起下で強度は約200倍減少し、632nm励起下では、得られる応答は実質的にノイズシグナルのみからなる。この結果は、コラーゲンが対象の波長範囲で交絡する蛍光効果を生じないことを証明するため、重要である。
【0046】
図34において、直接比較するために、手のひらの内側の組織部位について632nm励起で得られる、生きているヒト皮膚の発光スペクトルを、ケルセチンの発光スペクトルと共に示す。明らかに、皮膚組織において蛍光のバンド幅が若干減少することを除いて、発光特性は非常に似ている。従って、顕著な交絡効果の影響を受けることなく、生きているヒト皮膚においてフラボノイドの存在を測定することが可能であると結論付ける。例外は、皮膚組織において受動的吸収体として機能するメラニンの影響である。しかし、この発色団は、手のひらの内側等の厚い角質層を有する組織部位を用いることによって、大部分は回避することができる。なぜなら、これらの部位は実質的にメラニンを含んでいないからである。
【0047】
(実施例2)
光学的励起条件下での皮膚フラボノイドの安定性を調べるため、フラボノイド発光の潜在的な退色効果を調べた。結果を図35に示す。これらは、純粋なフラボノイドの退色速度と非常に似ている。図35の上のパネルの曲線(a)は532nm励起下での皮膚蛍光の経時的減少を示し、曲線(b)は、比較として純粋なケルセチン粉末の対応する挙動を示す。両方の場合で非常に良く似た退色速度が観察される。しかし、皮膚蛍光は、純粋な粉末試料の減少ほど激しくは減少しない。この効果は、おそらくは、皮膚細胞中のフラボノイド化合物濃度の低下、及びその環境における安定性の増加による可能性がある。図35の下のパネルのプロットは、皮膚蛍光の経時的減少を示し、約300秒の初期減衰期間後に、励起光を100秒間オフにした。図から明らかなように、励起光をオンに戻した後、蛍光強度は初期レベルまで回復しなかった。従って、減衰は少なくとも10分の時間スケールで不可逆的であることを示している。赤色波長領域における励起を選択すること、励起光パワーを適切に減少させること、又は暴露時間を減少させることによって、皮膚フラボノイド含有量の光検出において、不可逆的退色効果を考慮しなければならない。実際、図36に示すように、632nm励起とすることが、達成するための最良の方法である。532励起及び632nm励起について退色速度を比較すると、明らかに、長波長で励起する場合に退色が最小限に抑えられる。
【0048】
図37に、632nm励起光パワーの増加に伴う皮膚蛍光の変化をプロットする。励起光パワーが0.3mWの低レベルから3mWまで増加するに従って、皮膚蛍光強度が直線的に増加することが観察される。従って、これらの条件下で、皮膚蛍光応答は直線的であり、これを照射組織容量中のフラボノイド濃度の測定基準として用いることができる。生きているヒト皮膚の有用な蛍光測定は、約2mW未満のレーザーパワー、及び5秒間の暴露時間によって達成されることが確証された。皮膚上のレーザー光スポットの大きさが直径約1.5mmであることを考慮すれば、その結果、皮膚表面で約0.11W/cm2の強度が得られた。これは、ANSI Z136.1−2000規格によれば安全と見なされる(American National Standards Institute, American National Standard for Safe Use of Lasers, ANSI Z136.1-2000, Laser Institute of America, Orlando, FL (2000). を参照)。実際、皮膚に対して使用したレーザー強度について、測定に必要な暴露時間は、この安全基準によって設定された暴露限度よりも約1000倍低い。
【0049】
これらの条件下での皮膚フラボノイド測定の再現性を図38に示す。被験者の手のひらの組織部位について、測定を13回繰り返し、〜660nmでのバンドの最大における皮膚フラボノイド蛍光強度をプロットする。再現性は約10%よりも良好である。
【0050】
(実施例3)
皮膚フラボノイドの光検出に最適な組織部位を試験するため、同一の励起条件及び検出条件を用いて、いくつかの皮膚組織部位を調べた。結果を図39に示す。人差し指の先端の組織部位については曲線(a)、親指の先端については曲線(b)、前腕の内側については曲線(c)、そして手のひらの内側については曲線(d)で示す。最高のフラボノイド応答は、人差し指組織部位に由来することが分かる。これは、組織増殖によって励起波長及び発光波長の散乱を減少させ、これにより組織用量中への光透過を増大させる、組織部位中の薄い角質層による可能性が高い。しかし、試験した組織部位の中で最も厚い角質層の利点を有する手のひらの組織部位についても、十分に強力な蛍光シグナルが得られる。角質層の強力な散乱のために、これは光透過を僅かな真皮層に限定する利点を有し、これにより、より深くに存在し血液を含む皮膚層と潜在的に交絡する効果を軽減する。
【0051】
(実施例4)
皮膚組織部位として手のひらの内側、及び632nm励起を使用して、数人の被験者における皮膚フラボノイド発光応答を測定した。結果を図40に示す。これらは全被験者において同じスペクトル形状を示すが、発光強度、ひいてはフラボノイド含有量においては、被験者間で大きなばらつきを示す。従って、光学的フラボノイド検出法は、皮膚フラボノイドレベルを非侵襲的に評価するため、被験対象間のフラボノイド状態を比較するため、そして状態を経時的に監視するために有用である。
【0052】
(実施例5)
タマネギの外側の輪層中におけるケルセチンのように、ある種のフラボノイドは、ある種の果実及び野菜中で選択的に濃縮される。外側の皮を除去した後、タマネギ試料は可視波長範囲で光学的に透明であり、従って、フラボノイド励起及び蛍光測定に十分適している。図3の装置を用いて、488nm励起、532nm励起、及び632nm励起下で試料の発光を測定した。結果を図41に示す。発光挙動はここでも図6の純粋なフラボノイド試料の発光挙動と非常に似ており、ほぼ同一の発光バンドの最大値、減少した半値幅、及び励起波長の増大に伴うスペクトルのシフトを特徴とする。図42において、632nm励起で得られたタマネギ試料の発光挙動を、純粋なケルセチン及びケンフェロールの発光スペクトルと直接比較する。明らかに、発光スペクトルの形状は非常に似ており、このことは、タマネギ試料の発光スペクトルが実際にフラボノイドによるものであり、本願に係る蛍光分光法は、測定対象の波長範囲で十分な光学的透明性を有する野菜の非侵襲的フラボノイド測定にも好適であることを示唆する。他の色素由来の潜在的交絡濃度を有する試料においても、本光検出法は実施可能であり得る。図43はその一例であり、フラボノイド以外の他の色素を含む赤ブドウ試料及び青ブドウ試料について、632nm励起で得られた蛍光スペクトルを示す。これらの色素由来の蛍光は、〜680nmを中心とする狭いバンドで現れ、例えばタマネギ試料等に存在するフラボノイド由来の蛍光(比較のためにここでも表示し、660nm付近で最大である)から、明確に区別できる。
【0053】
(実施例6)
生きているヒト組織におけるフラボノイドの光検出のため、少なくともメラニンを含まない皮膚組織部位の場合であって、かつ発色団との交絡を回避する赤色励起波長を用いる場合には、分光器を取り除くことによって必要な器具を簡素化し、代わりにフィルターベースの光学装置を使用することが可能であり得る。基本的に、図44に概略を示すような、経済的に非常に魅力的な器具は、対象の組織部位をフィルターに通した光源で照射する簡単な励起ビーム路程からなる。更に、これは、皮膚組織からの蛍光をコリメーターにより集め、発光を好適なロングパスフィルターに通し、そして発光強度をフォトダイオード/コンピュータの組み合わせにより定量化する検出ビーム路程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物組織におけるフラボノイドレベルを測定するための非侵襲的方法であって、
フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するステップと、
前記照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップと、
検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記濃度レベルを用いて、前記組織の抗酸化状態を評価するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濃度レベルを正常な生物組織のレベルと比較して、悪性疾患又は他の疾患の危険性又は存在を評価するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織の前記局所領域を、300nm〜650nmのスペクトル領域の光で照射するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップが、蛍光分光法の使用を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップが、光検出器の使用を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記光が、スペクトルの赤色領域の光である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組織の前記局所領域が、実質的にメラニンを含んでいない請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記組織が、ヒトの皮膚である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記皮膚が、指先又は手の他の部分の皮膚である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記照射が、潜在的に交絡する皮膚発色団の吸収域の外側領域の光でなされる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記照射により、他の皮膚発色団の吸収域の外側の長波長吸収テールで前記組織のフラボノイドを励起する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項12に記載の方法。
【請求項15】
生物組織におけるフラボノイドレベルを非侵襲的に測定するためのシステムであって、
フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するための光源と、
前記照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置と、
検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するプロセッサと、
を含むシステム。
【請求項16】
前記プロセッサが、前記濃度レベルに基づいて組織の抗酸化状態を評価するように動作する請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
正常な生物組織に関連付けられたフラボノイドの濃度レベルを記憶するメモリを更に含み、
前記プロセッサが、測定された前記濃度レベルを前記メモリに記憶されたレベルと比較して、悪性疾患又は他の疾患の危険性又は存在を評価するように動作する請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記光源が、300nm〜650nmのスペクトル領域の光を提供する請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置が、前記プロセッサと電気的に通信可能に構成された蛍光分光器を含む請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置が、前記プロセッサと電気的に通信可能に構成された光検出器を含む請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
前記光源が、スペクトルの赤色領域の光を提供する請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記組織の前記局所領域が、実質的にメラニンを含んでいない請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
前記組織が、ヒトの皮膚である請求項15に記載のシステム。
【請求項24】
前記皮膚が、指先又は手の他の部分の皮膚である請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記光源が、潜在的に交絡する皮膚発色団の吸収域の外側領域の光を提供する請求項15に記載のシステム。
【請求項26】
前記光源が、他の皮膚発色団の吸収域の外側の長波長吸収テールの光で前記組織のフラボノイドを励起する請求項15に記載のシステム。
【請求項27】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項26に記載のシステム。
【請求項1】
生物組織におけるフラボノイドレベルを測定するための非侵襲的方法であって、
フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するステップと、
前記照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップと、
検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記濃度レベルを用いて、前記組織の抗酸化状態を評価するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濃度レベルを正常な生物組織のレベルと比較して、悪性疾患又は他の疾患の危険性又は存在を評価するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織の前記局所領域を、300nm〜650nmのスペクトル領域の光で照射するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップが、蛍光分光法の使用を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するステップが、光検出器の使用を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記光が、スペクトルの赤色領域の光である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組織の前記局所領域が、実質的にメラニンを含んでいない請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記組織が、ヒトの皮膚である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記皮膚が、指先又は手の他の部分の皮膚である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記照射が、潜在的に交絡する皮膚発色団の吸収域の外側領域の光でなされる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記照射により、他の皮膚発色団の吸収域の外側の長波長吸収テールで前記組織のフラボノイドを励起する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項12に記載の方法。
【請求項15】
生物組織におけるフラボノイドレベルを非侵襲的に測定するためのシステムであって、
フラボノイド化合物の吸収バンドと重なる光で組織の局所領域を照射するための光源と、
前記照射の結果としてフラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置と、
検出された蛍光に基づいてフラボノイド化合物の濃度レベルを決定するプロセッサと、
を含むシステム。
【請求項16】
前記プロセッサが、前記濃度レベルに基づいて組織の抗酸化状態を評価するように動作する請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
正常な生物組織に関連付けられたフラボノイドの濃度レベルを記憶するメモリを更に含み、
前記プロセッサが、測定された前記濃度レベルを前記メモリに記憶されたレベルと比較して、悪性疾患又は他の疾患の危険性又は存在を評価するように動作する請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記光源が、300nm〜650nmのスペクトル領域の光を提供する請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置が、前記プロセッサと電気的に通信可能に構成された蛍光分光器を含む請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前記フラボノイド化合物により放射される蛍光を検出するための装置が、前記プロセッサと電気的に通信可能に構成された光検出器を含む請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
前記光源が、スペクトルの赤色領域の光を提供する請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記組織の前記局所領域が、実質的にメラニンを含んでいない請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
前記組織が、ヒトの皮膚である請求項15に記載のシステム。
【請求項24】
前記皮膚が、指先又は手の他の部分の皮膚である請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記光源が、潜在的に交絡する皮膚発色団の吸収域の外側領域の光を提供する請求項15に記載のシステム。
【請求項26】
前記光源が、他の皮膚発色団の吸収域の外側の長波長吸収テールの光で前記組織のフラボノイドを励起する請求項15に記載のシステム。
【請求項27】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記皮膚発色団が、カロテノイド、血液、エラスチン、及びコラーゲンを含む請求項26に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【公表番号】特表2012−515349(P2012−515349A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546309(P2011−546309)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/020885
【国際公開番号】WO2010/083204
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(511170711)
【出願人】(511170722)
【出願人】(511170733)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/020885
【国際公開番号】WO2010/083204
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(511170711)
【出願人】(511170722)
【出願人】(511170733)
【Fターム(参考)】
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