説明

生物静止性の形成ポリマー物品

【課題】生物静止性表面または生物致死性表面を有する、フィルムまたは形成品を作製するための、方法および組成物を提供すること。
【解決手段】ポリビニルアルコールを、可塑剤である生物致死性剤と組み合わせてか、または生物致死性剤および適合性の可塑剤と組み合わせて含有する、組成物。この生物致死性剤は、例えば、第四級アンモニウム化合物である。この生物致死性剤は、このポリビニルアルコールと複合体を形成する。この組み合わせ物は、その融点より高温まで加熱されており、この組成物は、少なくとも7日間、生物静止性または生物致死性なままである表面を有する。この組成物のホットメルトは、フィルムまたはコーティングとしてキャスティングまたは塗布されても、物品に押出し成型などをされてもよい。加熱の間に形成する揮発性物質は、例えば、低圧によって、この組み合わせ物から除去され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、生物静止性表面または生物致死性表面を有する、フィルムまたは形成品を作製するための、方法および組成物に関する。本発明に従ってキャスティングされるか、押出し成形されるか、成形されるか、または他の様式で形成される物品は、長期間にわたって表面上での微生物のコロニー増殖に抵抗する、表面を有する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
本明細書中全体にわたる先行技術のあらゆる議論は、このような先行技術が広く公知であり、そして当該分野における共通の一般的な知識の一部を形成するという承認とみなされるべきではない。
【0003】
感染は、一人の人から別の人へと、直接の接触によってか、空気伝播感染性粒子の吸入によってか、または感染性流体との接触によって、伝達され得ることが、周知である。感染はまた、一般に、例えば、感染した人、または感染した空気伝播粒子もしくは流体と接触することにより感染した、表面との接触によって、間接的に伝達される。
【0004】
例えば、病院の蛇口は、感染を伝達する可能性により悪名高く、この可能性は、エルボーレバーの蛇口の使用によって、ある程度軽減されている。しかし、病院内の微生物因子(例えば、細菌、胞子、ウイルスおよび真菌)もまた、職員が取り扱う器具、器具滅菌浴、ドアノブ、および他の多くの表面に触ることによって、間接的に伝達され得る。病院の内部と外部との両方での感染は、例を挙げれば、トイレの個室の表面、トイレの水洗ボタン/レバー、トイレのドアノブ、電話の受話器、エレベーターのボタン、家具および建物の表面、書類、ならびに道具(これらは無数の例のうちの少数である)との接触を介して広がる。これらの表面の全ては、代表的に、微生物、カビなどの、かなりの量の、迅速に増殖するコロニーの隠れ場所を与える。本発明はまた、粘着物などが微生物に隠れ場所を与え得る表面(例えば、管類、水処理プラントなど、および管類)を包含するような範囲に及ぶ。
【0005】
このような表面からの感染の危険性は、殺菌剤溶液での規則的な掃除によって、低下する。しかし、このような表面を、有効な殺菌を提供するために充分に頻繁にぬぐうことは、実用的ではない。
【0006】
表面に塗布するための殺菌剤はいずれも、長期間の使用にわたって生物静止性表面または生物致死性表面を維持するために充分には耐久性がない。殺菌剤を、ゆっくりとした放出のために固体物品に組み込む試みは、充分には耐久性ではないことが示されたか、または充分には効果的ではないか、または毒性が高すぎるかもしくは費用が高すぎるので、いずれも、商業的に成功していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、先行技術の欠点のうちの少なくとも1つを克服もしくは低減すること、または有用な代用物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の簡単な説明)
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
ポリビニルアルコールを、可塑剤である生物致死性剤と組み合わせてか、または生物致死性剤および適合性可塑剤と組み合わせて含有する、組成物であって、該生物致死性剤は、該ポリビニルアルコールと複合体を形成し、該組み合わせ物は、該組み合わせ物の融点より高温まで加熱されており、該組成物は、少なくとも7日間、生物静止性または生物致死性なままである、組成物。
(項目2)
前記生物致死性剤は、第四級アンモニウム化合物であり、そして単独の可塑剤として働く、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記生物致死性剤が、一般式:
【化1】


を有する群から選択され、ここで、R’、R”、R’’’、R””は、同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、該アルキル基は、置換されていても非置換であってもよく、分枝であっても非分枝であってもよく、そして環式であっても非環式であってもよい、項目1または項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記生物致死性剤が、n−アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドである、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
(項目5)
前記ポリビニルアルコールが、前記組成物の0.5%w/w〜75%w/wを占める、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(項目6)
前記ポリビニルアルコールが、96.5%より高いアルコール置換の加水分解度を有する、項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
(項目7)
前記ポリビニルアルコールが、20℃の水溶液中で測定される場合に、4.6cpsより大きい粘度を有する、項目1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
(項目8)
前記生物致死性剤と組み合わせて可塑剤を含有する場合に、該可塑剤が、高沸点アルコール;ポリオール;および適合性エーテルからなる群より選択される1種以上の化合物である、項目1に従属する場合の項目3〜7のいずれか1項に記載の組成物。
(項目9)
前記選択される可塑剤が、フェノキシエタノール;1−ヘキサノール;1−ヘプタノール;2−ヘプタノール;3−ヘプタノール;1−オクタノール;2−オクタノール;1−ノナノール;オクチレングリコール;2−エチル−1,3−ヘキサンジオール;2モルまたは3モルのエチレンオキシドと縮合したノニルフェノール;あるいはフタル酸ジブチルまたはフタル酸ジオクチルのエステルからなる群より選択される1種以上の化合物である、項目8に記載の組成物。
(項目10)
前記組成物が、酸スカベンジャーを含有する、項目1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
(項目11)
融解形態の、項目1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
(項目12)
固化した融解物の形態の、項目11に記載の組成物。
(項目13)
項目1〜12のいずれか1項に記載の組成物から押出し成形される、任意の長さのシート、管、または成形品。
(項目14)
項目1〜10のいずれか1項に記載の組成物から押出し成形された任意の長さのシート、管または成形品から作製される、ペレット。
(項目15)
項目1〜10のいずれか1項に記載の組成物の溶液。
(項目16)
項目1〜10のいずれか1項に記載の組成物のホットメルトから作製される、キャスティング、フィルムまたはコーティング。
(項目17)
項目15または16に記載のホットメルトまたは溶液を含浸されたか、または該ホットメルトまたは溶液でコーティングされた、物品。
(項目18)
方法であって、
ポリビニルアルコールを、可塑剤である生物致死性剤、または生物致死性剤および可塑剤と組み合わせる工程であって、該生物致死性剤が、該ポリビニルアルコールと複合体を形成する、工程;ならびに
該組み合わせ物を、該組み合わせ物の融点より高温まで加熱する工程、
を包含する、方法。
(項目19)
前記加熱する工程の間に形成された揮発性物質が、前記組み合わせ物から除去される、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記揮発性物質が、前記加熱する工程の間に低圧下で除去される、項目18または項目19に記載の方法。
(項目21)
前記ポリビニルアルコールと、生物致死性剤と、存在する場合にはさらなる可塑剤との組み合わせ物が、押出し成形の間に押出し成形機内で加熱され、該押出し成形機は、押出し成形機バレルに少なくとも1つのポートを有し、該ポートから、揮発性物質が取り出され得る、項目18〜20のいずれか1項に記載の方法。
(項目22)
前記組み合わせ物が、90℃〜220℃の範囲の温度まで加熱される、項目18〜21のいずれか1項に記載の方法。
(項目23)
前記組み合わせ物が、140℃〜210℃の範囲の温度まで加熱される、項目18〜22のいずれか1項に記載の方法。
(項目24)
前記組み合わせ物が、190℃〜200℃の範囲の温度まで加熱される、項目18〜23のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
前記生物致死性剤が、第四級アンモニウム化合物であり、単独の可塑剤として働く、項目18〜24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26)
前記生物致死性剤が、一般式:
【化2】


を有する群から選択され、ここで、R’、R”、R’’’、R””は、同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、該アルキル基は、置換されていても非置換であってもよく、分枝であっても非分枝であってもよく、そして環式であっても非環式であってもよい、項目18〜25のいずれか1項に記載の方法。
(項目27)
前記生物致死性剤が、n−アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドである、項目18から26のいずれか1項に記載の方法。
(項目28)
前記ポリビニルアルコールが、前記組成物の0.5%w/w〜75%w/wを占める、項目18〜27のいずれか1項に記載の方法。
(項目29)
前記ポリビニルアルコールが、96.5%より大きい加水分解度を有する、項目18〜28のいずれか1項に記載の方法。
(項目30)
前記ポリビニルアルコールが、20℃の水溶液中で測定される場合に、4.6cpsより大きい粘度を有する、項目18〜29のいずれか1項に記載の方法。
(項目31)
前記生物致死性剤と組み合わせて可塑剤を含有する場合に、該可塑剤が、高融点アルコール;ポリオール;および適合性エーテルからなる群より選択される1種以上の化合物である、項目18に従属する場合の項目18〜30のいずれか1項に記載の方法。
(項目32)
前記選択される可塑剤が、フェノキシエタノール;1−ヘキサノール;1−ヘプタノール;2−ヘプタノール;3−ヘプタノール;1−オクタノール;2−オクタノール;1−ノナノール;オクチレングリコール;2−エチル−1,3−ヘキサンジオール;2モルまたは3モルのエチレンオキシドと縮合したノニルフェノール;あるいはフタル酸ジブチルまたはフタル酸ジオクチルのエステルからなる群より選択される1種以上の化合物である、項目31に記載の組成物。
(項目33)
前記組成物が、酸スカベンジャーをさらに含有する、項目18〜32のいずれか1項に記載の方法。
(項目34)
前記酸スカベンジャーが、金属水酸化物またはアミンである、項目33に記載の方法。
(項目35)
融解した前記組成物を、任意の長さのシート、管または成形品として押出し成形する工程をさらに包含する、項目18〜34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
前記押出し成形された組成物からペレットを形成する工程をさらに包含する、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記ペレットから物品を成形または形成する工程をさらに包含する、項目35に記載の方法。
(項目38)
項目18〜35のいずれか1項に記載の融解した組成物を、必要に応じて該融解物を冷却した後に溶解する工程をさらに包含する、方法。
(項目39)
前記組成物のホットメルトをキャスティングまたは形成して、該ホットメルトからフィルムまたはコーティングを形成する工程をさらに包含する、項目36に記載の方法。
(項目40)
項目38または39に記載のホットメルトまたは溶液を用いて、基材を含浸またはコーティングする工程を包含する、方法。
(項目41)
実施例を参照して実質的に本明細書中に記載されるような組成物。
(項目42)
実施例を参照して実質的に本明細書中に記載されるような、ペレットの形態の組成物。
(項目43)
実施例を参照して実質的に本明細書中に記載されるような方法。
(項目44)
実施例を参照して実質的に本明細書中に記載されるような押出し成形品。
(項目44)
実質的に本明細書中に記載されるような、成形品または形成品。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1つの局面によれば、本発明は、ポリビニルアルコールを、生物致死性剤と組み合わせて含有するか、または生物致死性剤および適合性可塑剤と組み合わせて含有する、組成物を提供し、この生物致死性剤は、このポリビニルアルコールと複合体を形成し、この組み合わせ物は、その融点より高温まで加熱されており、この組成物は、少なくとも7日間にわたって、生物静止性または生物致死性を維持する表面を有する。
【0010】
好ましい実施形態において、この生物致死性剤は、可塑剤であり、そしてさらなる可塑剤は必要とされない。しかし、望ましい場合、さらなる可塑剤が添加され得る。あるいは、生物致死性剤は、適合性可塑剤と組み合わせて選択され得、そしてこの場合、この生物致死性剤は、それ自体が可塑剤である必要はない。ただし、この生物致死性剤は、ポリビニルアルコールと複合体を形成する。
【0011】
非常に好ましい実施形態において、この生物致死性剤は、第四級アンモニウム化合物であり、この化合物は、単独の可塑剤として働き、そしてその表面は、7日間よりも充分に長い期間にわたって、生物静止性または生物致死性を維持する。好ましい実施形態は、製造後に微生物を含まず、そしてその表面が数ヶ月の期間の間に流水に絶えず曝露される場合でさえも、この表面上での微生物のコロニー増殖を、この数ヶ月の期間の後まで防止する。
【0012】
生物致死性剤とポリビニルアルコールとの間の水素結合によって形成される複合体は、生物致死性剤が物品の表面から浸出することを防止または抑止すると考えられる。
【0013】
本発明の他の実施形態は、可塑剤および生物致死性剤を含有するポリビニルアルコール(この生物致死性剤は、このポリビニルアルコールと複合体を形成する)から製造される、フィルムまたは形成された物品を提供する。好ましいこのような実施形態において、この生物致死性剤は、第四級アンモニウム化合物であり、そしてこの可塑剤は、フェノキシエタノール、適切な高沸点のアルコール、エーテル、エステルなどである。好ましい実施形態において、その表面は、7日間よりも充分に長い期間にわたって、生物静止性または生物致死性を維持し、そしてこの物品の寿命にわたって、生物静止性または生物致死性を維持すると考えられる。
【0014】
本発明はまた、融解した形態の組成物を提供し、この組成物は、ポリビニルアルコールを、可塑剤である生物致死性剤と組み合わせてか、または生物致死性剤および適合性可塑剤と組み合わせて含有し、そしてこの生物致死性剤は、このポリビニルアルコールと複合体を形成する。この融解物は、熱くかつ/または流動性であっても、冷たくかつ/または固化していてもよい。
【0015】
第二の局面によれば、本発明は、生物静止性表面または生物致死性表面を有する物品を形成するための方法を提供し、この方法は、ポリビニルアルコールを、可塑剤である生物致死性剤、または生物致死性剤および可塑剤と組み合わせる工程(この生物致死性剤は、このポリビニルアルコールと複合体を形成する)、ならびにこの組み合わせ物を、その融点より高温まで加熱する工程を包含する。
【0016】
望ましくは、加熱する工程の間に含有されたあらゆる酸が、酸スカベンジャーの組み込みによって除去されるか、または例えば減圧によって、揮発性物質として除去される。適切な酸スカベンジャーは、金属水酸化物(例えば、水酸化マグネシウム)または適切なアミンによって例示される。物品は、得られる組成物から、例えば、融解物の押出し成形によって、形成され得る。
【0017】
好ましくは、この生物致死性剤は、四級アンモニウムの生物致死性化合物であり、この化合物自体が、可塑剤として働く。可塑剤の組み合わせが使用され得、そしてこの組み合わせ物は、生物致死性剤であるものを含有しても、生物致死性剤ではないものを含有してもよい。例えば、良好な生物致死性剤であり、かつポリビニルアルコールと複合体を形成する、いくつかの第四級化合物は、良好な可塑剤ではないので、他のより有効な適合性可塑剤と組み合わせて、生物致死性剤として使用され得る。
【0018】
好ましくは、これらの材料は、最初にブレンドされ、次いで、このブレンド物が、押出し成形機で押出し成形される。この押出し成形機は、少なくとも1つ、そして好ましくは複数のポートを、その押出し成形出口チャネルに沿って有し、このポートから、押出し成形プロセスの間に、揮発性物質が低圧下で除去され得る。望ましくは、このブレンド物は、押出し成形の間、90℃〜220℃の範囲の温度、そしてより好ましくは、140℃〜210℃の範囲の温度、そしてなおより好ましくは、190℃〜200℃の範囲の温度まで、加熱される。この押出し成形物は、ペレット化され得、そしてキャスティング、成形(射出成形および吹込み成形を含む)、または他の形成プロセスのための原料として使用され得る。さほど好ましくない実施形態において、適切なブレンド融解物が、減圧下で反応器内で形成され得、次いで、キャスティングまたは押出し成形され得ることが予測される。
【0019】
好ましくは、上記組成物は、20%〜75%のポリビニルアルコール、および0.5%〜25%の第四級アンモニウム生物致死性剤を含有する。しかし、ポリビニルアルコールが、他のポリマーまたはコポリマー、あるいは充填剤と組み合わせられる場合、この組成物は、全体として、0.5重量%程度に低いポリビニルアルコールを含有し得る。好ましい実施形態において、このポリビニルアルコールは、その粘度が、20℃の1%水溶液中において20cp〜30cpであり、そして加水分解度が、97.5%過剰のアセテート基がヒドロキシル基に加水分解されるような加水分解度を有するような、重合度を有する。しかし、より剛性の物品を成形するためには、かなり高い重合度(およびその結果、溶液中での粘度)を有するポリビニルアルコールが好ましい。
【0020】
ポリビニルアルコールは、通常、約140℃で分解し始め、この温度は、その融点より低い。その結果、ポリビニルアルコールを単独で押出し成形または成形する、以前の試みは、熱および圧力の影響下で分解する組成物を生じたのみであった。このことは、ポリアルコール可塑剤(例えば、グリセリンおよびペンタエリトリトール)を、金属水酸化物の添加と組み合わせて、押出し成形されるブレンド物に添加することによって、克服された。得られるポリマーは、高価であり、そして水に易溶性であるいくらかの低アルコールのポリビニルアルコールを除いて、商業的に有用であると考えられる特定の特性を有さない。先行技術のポリマーのいずれも、生物静止性でも生物致死性でもなかった。本発明において、揮発性物質を組成物から除去するために、加熱の間に低い圧力が使用され得、そしてこのことが、分解を回避することを補助し、そして/または1種以上の酸スカベンジャーが添加されて、加熱の間の分解を回避し得る。
【0021】
本発明者らは、特定の条件下で、ポリビニルアルコールが、ある形状に形成され得ること、および第四級アンモニウム化合物が含有される場合に、この化合物は、ポリビニルアルコールと複合体を形成することを見出した。複合体形成の証拠は、OH基の赤外スペクトルが、純粋なポリビニルアルコールの3296cm−1から、第四級アンモニウム生物致死性剤との混合物中の3346cm−1へのかなりのシフトに見られる。このシフトは、かなり高いレベルの水素結合を示す。第四級アンモニウム化合物は、可塑剤として働くが、この化合物はまた、物品の表面において、長期間にわたる生物静止特性または生物致死特性を与えるために有効である。
【0022】
物品の表面は、形成されるときには微生物を含まず(すなわち、感染されていない)、そして形成された物品は、長期間にわたって、生物静止性または生物致死性を維持する。生物静止性とは、表面上の微生物コロニー(存在する場合)が、増殖も繁殖もしないことを意味する。生物致死性とは、表面上の細菌(必ずしもマイクロバクテリアではない)および真菌が、殺傷されることを意味する。「長期間」とは、この文脈において、少なくとも数週間、好ましくは数ヶ月、そしてより好ましくは、数年の期間を意味する。引き続いて汚染される場合、これは、(例えば、殺菌剤での処理によって)殺菌され得、そしてその後、再度、長期間にわたって、微生物のコロニー増殖に抵抗する。
【0023】
さらに、本発明の物品は、この物品が切断されるか、傷を付けられるか、引っかかれるか、または他の様式で破壊される場合に、新たな生物静止活性表面または生物致死活性表面を提供する。このことは、コーティングされた物品とは異なる。コーティングされた物品は、このコーティングの一体性が損なわれると、ある場合には、細菌に隠れ場所を与え得る。文脈がそうではないことを明白に要求しない限り、本明細書および特許請求の範囲の全体にわたって、用語「含む」、「含有する」などは、排他的な意味でも限定的な意味でもなく、包括的な意味で解釈されるべきである。すなわち、「含むが限定されない」意味である。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、第四級アンモニウム化合物は、n−アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドであり、そしてこの化合物は、乾燥組成物の0.5%w/w〜75%w/wの範囲、そしてより好ましくは、0.5%〜25%の範囲で存在する。
【0025】
本発明者らは、ポリビニルアルコールと第四級アンモニウム生物致死性剤との組み合わせが、分解を回避する条件下での融解後に、生物静止性である組成物(すなわち、その表面上で微生物が増殖しない)を生じることを見出した。
【0026】
押出し成形された組成物は、溶媒中に溶解され得、そして表面をコーティングするためのフィルムを形成し得るか、またはフィルムをキャスティングするために使用され得るが、好ましくは、押出し成形されて、無制限の長さのシート、管、押出し成形品を形成するか、またはペレット化され得、これらのペレットが、公知の技術によって、物品を成形または他の様式で形成するために、再利用または使用され得る。この物品は、生物静止性であり、そして長期間にわたって生物静止性である、表面を有する。
【0027】
上記組み合わせ物は、必要に応じて、接着促進剤、ビヒクル、顔料などを含有し得、そして酸スカベンジャー(例えば、金属水酸化物またはアミン)を含有し得る。
【0028】
用語「ポリビニルアルコール」は、本明細書中で使用される場合、ポリビニルエステル(例えば、ポリ酢酸ビニル)の加水分解(けん化)によって作製される、全ての樹脂を包含する。この樹脂の特性は、親ポリビニルエステルの重合度、および加水分解の程度(けん化度)に従って、変動する。ポリ酢酸ビニルから調製されるポリビニルアルコールの場合、ポリビニルアルコールの構造は、
−CHCHOH(CHCHOH)
によって表され得る。この式において、「1+m」は、重合度である。部分的加水分解の際に、残留するCHCOO−基の比例する量は、この鎖に沿って、OHの代わりに分布する。百分率として表現されるこのようなアセテート基の量は、アセテート含有量である。従って、70%アセテート含有量のポリビニルアルコールにおいて、元のポリ酢酸ビニルのアセテート基のうちの30%は、ヒドロキシル基に加水分解されており、そして70%が、アセテート基として残っている。このことは、70%アセテート含有量または30%アルコールと称され得る。市販等級において、「低アセテート」等級または「高アルコール」等級は、約15%のアセテート(すなわち、100%〜約85%のアルコール)を網羅し、「中程度のアセテート」等級は、約15%〜約45%のアセテートを網羅し、そして「高アセテート」または「低アルコール」等級は、45%アセテート(約55%未満のアルコール)を網羅する。
【0029】
用語「ポリビニルアルコール」は、本明細書中で使用される場合、全ての適切な等級、けん化度および重合度のものを包含する。
【0030】
ポリビニルアルコールはまた、酢酸エステル以外のポリビニルエステルを加水分解することによって作製され得、そして同じ原理が、このように形成される、本発明において同様に使用され得るポリビニルアルコールに適用される。本発明の好ましい実施形態は、96モル%より大きい加水分解の平均加水分解度を有するポリビニルアルコールを利用する。なぜなら、このような組成物は、冷水または温水による除去に対して、より耐性が高いからである。
【0031】
(本発明において使用するための第四級アンモニウム化合物)
本発明は、非常に好ましい第四級生物致死性剤として、n−アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリド(ベンザルコニウムクロリドとしてもまた公知)を参照することにより、例示される。アルキルベンジル第四級生物致死性化合物が、好ましい。しかし、他の第四級アンモニウム抗菌化合物が、本発明において使用され得ることを、当業者は認識する。
【0032】
第四級アンモニウム抗菌化合物は、以下の一般式:
【0033】
【化3】

を有する群から選択されることが、好ましい。この式において、R’、R”、R’’’、およびR””は、同じであっても異なっていてもよいアルキル基であり、このアルキル基は、置換されていても非置換であってもよく、分枝であっても非分枝であってもよく、そして環式であっても非環式であってもよい。Xは、任意のアニオンであるが、好ましくは、ハロゲンであり、より好ましくは、塩素または臭素である。
【0034】
非常に好ましい抗菌化合物は、モノ長鎖,トリ短鎖のテトラアルキルアンモニウム化合物、ジ長鎖,ジ短鎖のテトラアルキルアンモニウム化合物、およびこれらの混合物である。ここで、「長」鎖とは、約C6〜C30のアルキルを意味し、そして「短」鎖とは、C1〜C5のアルキル、好ましくは、C1〜C3のアルキル、またはベンジル、またはC1〜C3のアルキルベンジルを意味する。例としては、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB))、モノアルキルジメチルベンジル化合物、またはジアルキルベンジル化合物が挙げられる。クロロヘキサジングルコネートなどの第四級生物致死性剤が、使用され得る。
【0035】
本発明において使用するために最も好ましい化合物は、少なくとも1つのベンジル基を有し、このベンジル基は、置換ベンジルであり得る。例としては、C8〜C22ジメチルベンジルアンモニウムクロリド、C8〜C22ジメチルエチルベンジルアンモニウムクロリド、およびジ−C6〜C20アルキルジメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0036】
この第四級アンモニウム化合物は、(グラム陽性およびグラム陰性の)広いスペクトルの抗菌特性のために、組み込まれる。この第四級アンモニウム化合物は、乾燥したフィルム組成物の0.5%w/w〜75%w/wを占め得るが、乾燥したフィルム組成物の2%w/wより多くを使用することが好ましい。
【実施例】
【0037】
(本発明の実施例)
(実施例1)
70部のポリビニルアルコール(約98.5%のヒドロキシルのけん化度および20℃の1%溶液中で4.6〜6.0cpsの粘度を有する)を含有する組成物を、30部のn−アルキル(40%C12,50%C14,10%C16)ジメチルベンジルアンモニウムクロリドと、ポリマー配合機内でブレンドした。このブレンド物を、D.S.M.ブランドの実験室規模のミニ押出し成形機で押出し成形した。この押出し成形機は、押出し成形バレルにポートを有し、このポートを、適度な大きさの減圧ポンプによって、減圧に供した。市販バージョンのこの押出し成形機は、押出し成形機バレルに、10個までのポートを有する。押出し成形の速度は、20g/分であり、そして温度は、190℃〜200℃の範囲であった。次いで、この押出し成形物を使用して、射出成形装置に供給し、この射出成形装置を使用して、直径約3cmおよび厚さ0.4cmのディスク形状のサンプルを、試験のために製造した。
【0038】
(実施例2)
95部のポリビニルアルコール(約98.5%のヒドロキシルのけん化度および20℃の1%溶液中で4.6cps〜6.0cpsの粘度を有する)を含有する組成物を、5部のn−アルキル(40%C12,50%C14,10%C16)ジメチルベンジルアンモニウムクロリドと、ポリマー配合機内でブレンドした。次いで、このブレンド物を押出し成形し、そして実施例1に記載されるような成形されたディスクに形成した。
【0039】
(実施例3)
70部のポリビニルアルコール(98.5%ヒドロキシルのけん化度および20℃の1%溶液中で4.6cps〜6.0cpsの粘度を有する);
17.5部のグリセリン、
10部のペンタエリトリトール、
2部のn−アルキル(40%C12,50%C14,10%C16)ジメチルベンジルアンモニウムクロリド、
0.5部の水酸化マグネシウム
を含有する組成物を、ポリマー配合機内でブレンドした。次いで、このブレンド物を、実施例1においてと同様に押出し成形し、そして射出成形によって、サンプルディスクを調製した。
【0040】
(実施例4)
ポリビニルアルコール;低分子量;96.5%〜99.0%の加水分解% 70%w/w
ベンザルコニウムクロリド 20%w/w
可塑剤 10%w/w
可塑剤は、フェノキシエタノール;1−ヘキサノール;1−ヘプタノール;2−ヘプタノール;3−ヘプタノール;1−オクタノール;2−オクタノール;1−ノナノール;オクチレングリコール;2−エチル−1,3−ヘキサンジオールから選択される。
【0041】
(実施例5)
ポリビニルアルコール;低分子量;96.5%〜99.0%の加水分解% 96.0%w/w
ベンザルコニウムクロリド 1.0%w/w
可塑剤 3%w/w
可塑剤は、フェノキシエタノール;1−ヘキサノール;1−ヘプタノール;2−ヘプタノール;3−ヘプタノール;1−オクタノール;2−オクタノール;1−ノナノール;オクチレングリコール;2−エチル−1,3−ヘキサンジオールから選択される。
【0042】
実施例1〜5による組成物から形成された、成形されたディスクを、生物静止特性について試験した。これらのディスクに、試験方法AOAC 955.17に従って、静真菌効力についての基準に合わせて、Pseudomonas Originosa ATCC 15442(6.1log濃度)を接種した。
【0043】
他のディスクを、流水の流れに、24時間、7日間、および30日間曝露し、そしてこれらの期間の終了時に試験した。各場合において、これらのディスクは、静真菌効力についての試験方法AOAC 955.17の基準に合っていた。これらの試験は、進行中であり、そして本発明者らは、これらの表面が、この物品の寿命にわたって微生物静止特性を維持すると確信している。
【0044】
上記実施例に従う組成物から作製された、成形されたディスクの生物致死特性を、ASTM E2180−01に従って、乾燥直後(t=0)、7日後、および30日後に試験し、以下の結果を得た:
【0045】
【表1】

生物致死性剤と可塑剤との両方として働く生物致死性剤を使用することが好ましいが、このような生物致死性剤と他の可塑剤との組み合わせが使用され得るか、または選択された可塑剤が、それ自体では可塑剤ではないがポリビニルアルコールもしくは可塑剤もしくはその両方と結合を形成する生物致死性剤とともに使用され得、これによって、この生物致死性剤が物品から浸出することを抑止する。本発明において使用するために適切な可塑剤としては、フェノキシエタノール;1−ヘキサノール;1−ヘプタノール;2−ヘプタノール;3−ヘプタノール;1−オクタノール;2−オクタノール;1−ノナノール;オクチレングリコール;2−エチル−1,3−ヘキサンジオール;他の高沸点のアルコールおよびポリオール;ならびに適合性エーテル(例えば、2モルまたは3モルのエチレンオキシドと縮合したノニルフェノール)あるいはフタル酸ジブチルまたはフタル酸ジオクチルのエステル(例えば、PVC可塑剤として使用されるもの)が挙げられる。
【0046】
本発明による組成物は、他の適切なポリマーまたはコポリマーと組み合わせられ得ることが、理解される。この組み合わせは、例えば、本発明による組成物のペレットを、他のポリマーと組み合わせることによってか、またはポリビニルアルコールを融解させる前に他のポリマーと組み合わせることによって、なされる。
【0047】
本発明による組成物は、ホットメルトとして表面上にコーティングされ得、そして広範な表面上(紙、布、プラスチック、金属、ガラス、およびセラミックが挙げられるが、これらに限定されない)で有効である。これらの組成物は、無制限の長さのシート、棒、管、または成形品として、押出し成形され得る。押出し成形された組成物は、ペレット化され得、そして再利用され得るか、またはこれらのペレットが、より複雑な形状の物品を作製するための成形プロセスおよび形成プロセスのための原料として使用され得る。本発明による組成物は、物品(例えば、紙コップまたは食品容器)に組み込まれ得るか、または適切に処方される場合、組成物から物品が直接形成され得る。
【0048】
当業者は、本発明において使用するための、ポリビニルアルコールおよび第四級アンモニウム化合物の組み合わせを、本明細書の教示に基づいて選択し得、そして意図される最終製品の用途に従って、適切な比を選択し得る。本発明は、組み合わせ、適切な溶媒中での組み合わせ物の溶液、および溶媒ありもしくはなしでこの組み合わせ物から形成されるフィルムまたは物品を包含するような範囲に及ぶ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2013−56938(P2013−56938A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−276505(P2012−276505)
【出願日】平成24年12月19日(2012.12.19)
【分割の表示】特願2007−552469(P2007−552469)の分割
【原出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(507257057)ノバファーム リサーチ (オーストラリア) ピーティーワイ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】