説明

生理学的パラメータ測定用ヘッドフォン装置

生体の耳内から得られた生体音から生理学的パラメータを決定する方法および装置。種々の好適な適用例において、本装置は、耳栓本体ケースと、その耳栓本体ケース内に設けられた検出素子と、その耳栓本体ケース内に設けられて体外ノイズを抑制或いは防止する防音シールドと、上記検出素子に電気的に接続された前置増幅回路とを含む。種々の好適な適用例において、本装置は、体内で発生する生体音によって引き起こされる外耳道や鼓膜の振動及び/又は動きを決定することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心音など身体内で発生する音を被測定者の耳の内部で検出することによって生体の生理学的パラメータを検出および/または測定し、そして測定された生体音を処理する装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定器に記録された心臓からの心音信号は、心音図(PCG)信号とも称される。健康な心臓は、心臓弁膜が閉じるときに同時に起こる二種類の異なる音を発生させる。これらの音は、第1心音S1と第2心音S2と称される。特に第2心音S2の発生は、大動脈弁の閉鎖と同時に発生する。大動脈弁の閉鎖は、ダイクロティックノッチと呼ばれる動脈血圧波すなわち圧脈波の波形上、明確な特徴を発生させる。
また、圧脈波伝播時間PTTは、心臓からその末梢部位へ伝播する動脈の圧脈波の必要時間を示す。そして、PTTは、大動脈弁の閉鎖と末梢部の測定点におけるダイクロティックノッチの到達との間における遅れ時間を決定することによって測定できる。これは、大動脈弁付近の胸部に心音(PCG)センサを設置することで可能となり、弁の閉鎖と胸部における第2心音S2の差(遅れ)は僅かであると仮定される。動脈の圧脈波速度PWVは、心臓と測定点との間の距離をPTTで割ることで算出される。そして、PWVの値は動脈壁の固さに依存することから、PWVは例えば動脈硬化状態などの心臓血管の健康状態の目安として有用なパラメータといえる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の方法や装置は、胸部の通常の位置に設置したPCGセンサと心臓よりも末梢部位における圧脈波の波形の測定を利用することでPWVを測定していた。しかし、末梢部位に設置されたPCGセンサを利用してPTT或いはPWV値を測定する場合には、以下に説明する伝播遅れS2Dについて考慮しない限り算定することはできない。ここでS2Dとは、弁の閉鎖と末梢部位における第2心音S2との間の遅れを測定したものをいう。PTT或いはPWVの測定値の正確さは上記SD2の正確さに比例する。
【0004】
PWVに加えて、連続するS1又S2成分のタイミングから心拍数を決定するために心音の情報が用いられる。呼吸数は、呼吸によりS2成分が大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖成分にそれぞれ分離することを監視することで決定され得る。呼気が大動脈弁の閉鎖と肺動脈弁の閉鎖との間の時間差の増大を引き起こすことが知られている。また、呼吸数は、心音センサから得られる呼吸音によってもまた測定することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、人間の外耳道または耳管内部において、身体内で発生する生体音を検出するための装置及び方法を提供するものである。
【0006】
本発明は、耳管内で検出された人間の身体内で発生する生体音に基づいた、人間の健康状態及び/又はパラメータを決定するための装置及び方法を独立して提供するものである。
【0007】
本発明は、耳管内で検出された人間の身体内で発生する生体音に基づいた心音を検出するための装置及び方法を独立して提供するものである。
【0008】
本発明は、耳管内で検出された身体内で発生する生体音の全部又はその一部に基づいた、心拍数(heart rate)、呼吸数(respiration rate)、圧脈波速度PWV、血圧BP又はその傾向、その他心臓に関連するパラメータのひとつ又はそれ以上を測定及び/又は検出するための装置及び方法を独立して提供するものである。
【0009】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、心音は、身体内に発生する生体音を検出するために人間の耳の中にトランスジューサを設置し、耳の中で発生する振動及び/又は動きを表す信号を取り出し、心音及び他の生理学的な情報を引き出すための信号処理を実行することにより得られる。
【0010】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、信号は体内で発生する生体音によって引き起こされる鼓膜の振動及び/又は動きを測定することによって得られる。
【0011】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、信号は身体内で発生する生体音によって引き起こされる外耳道の軟骨及び骨の部分の振動及び/又は動きを測定することによって得られる。
【0012】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、イヤーセンサ装置は、耳栓本体ケースと、耳栓本体ケースの少なくとも一部を通り抜けて配置された振動又は動きセンサと、データ取得および/または信号処理装置とそのセンサをつなぐひとつ又はそれ以上の電気信号接続器を含むものである。
【0013】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、増幅された末梢部位の心音図信号(PCG)の記録は、独立して得られた圧脈波のダイクロティックノッチによって開始されたイヤーセンサ装置からの信号の信号調節・信号処理作動を利用して実行される。
【0014】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、前記イヤーセンサ装置とは別のセンサによって得られるS2は、トリガー信号として用いられる。
【0015】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、信号調節・信号処理作動を利用してなされる増幅した末梢部位のPCGの記録は、独立して得られた圧脈波のダイクロティックノッチによって開始されるイヤーセンサ装置の検出波形の全体的平均処理を利用することで実行される。
【0016】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、DTすなわちダイクロティックノッチ信号とS2信号との間の遅れ時間は、共に心臓からの末梢部位において得られた圧脈波の波形の記録とイヤーセンサ型検出装置からの信号の記録を利用することで決定される。
【0017】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、正確なPTT値は、DT値にS2D値を加えることで決定される。
【0018】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、PWV値は正確なPTT値と動脈の長さを利用して決定される。
【0019】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、PWVの指数(PWVI)は、DT値を利用して決定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ここに説明するように、本発明は人間の耳内から生体音の情報を得るための装置と方法を提供するものであり、そして得られた生体音は、心拍数(heart rate)、心臓の弁が閉まるタイミング、圧脈波伝播速度(PWV)、血圧といった有用な生理学的なパラメータへと変換される。
【0021】
図1の(A)と(B)は、身体内で発生する生体音を、人の耳に挿入される耳内信号検出装置であるイヤーセンサ110で検出又は測定されることを可能とする本発明によるヘッドホン型のパラメータ測定装置100のひとつの好的な具体例を示すものである。図1の(A)と(B)に示すように、イヤーセンサ又はイヤーセンシング110は、耳栓本体ケース124、耳栓本体ケース124の一部分に内蔵された検出素子114、防音シールド112、そして電気的な接続線118を経て検出素子114と電気的に連結している前置増幅回路116を含む。防音シールド112の目的は、人間の身体外で発生した周囲の雑音から検出素子114を遮断することである。前置増幅回路116は、データ取得・信号処理装置130に入力するために、検出素子114によって得られた動き又は振動信号を電圧又は電流といった出力信号に転換することに用いられる。
【0022】
図2は、ひとつの好適な具体例では、耳に適切に装着した場合の心臓血管系パラメータ測定装置100を示したものである。
【0023】
ひとつの好適な具体例では、上記耳栓本体ケース124は圧縮可能な発泡性プラスチックのような材料により作られる。あるいは、生体親和性(不活性)の硬質又は半硬質ポリマーより作られる。
【0024】
図1(A)に示すように、ひとつの好適な具体例では、イヤーセンサ110は、頭に設置できるヘッドセット120に一体的に設けられている。このヘッドセット120は、従来のヘッドセットデバイスのいくつかの形式で構成される。一般に、ヘッドセットデバイスは、データ取得・信号処理装置130と電気的に接続されている。データ取得・処理装置130は、従来のいくつかのデータ取得・信号処理装置を含む。
【0025】
好適な具体例では、前記検出素子114により検出された耳内の振動や動きは、前置増幅回路116によって電気的信号へと変換され、そして電力・信号線であるケーブル122を経て、データ取得・信号処理装置130へと伝達される。
【0026】
データ取得・信号処理装置130は、アナログ信号からデジタル信号へ変換し、そして所望の生理学的なパラメータを獲得するために必要な信号処理を実行するために、ヘッドセット120の外部に配置されるか、或いはヘッドセット120にその少なくとも一部が内蔵される。
【0027】
図1に示されたパラメータ測定装置100は、本発明とともに用いられ得る装置の形式のうちの好的なひとつの具体例化を示すことは、当業者により明らかであろう。
【0028】
ヘッドセット120は、耳内部にセンシングデバイスを設置するために用いられる。そのヘッドセット120は、ひとつの耳のためのひとつのイヤーセンサ110を有するが、両方の耳のための複数のイヤーセンサ110センサを有してもよい。そして,外耳道200( 図4)のなかで、検出素子114と防音シールド112をしっかりと保持するために、耳に対し十分に圧力がかかるように設計されている。ヘッドセット120の二番目の機能として、イヤーセンサ110から、音響学的に外部の音を隔離することが挙げられる。そして、この目的のためにヘッドセット120は、外部の雑音を最小限にするために耳介206(図4)の周りに詰める材料を用いて耳介206を十分に囲む形状となるように組み立てられる。
【0029】
このパラメータ測定装置100の、別の好適な具体例では、イヤーセンサ110は、手で耳に装着することができ、保護用ヘッドセットは、センサからヘッドセットへとつなぐケーブルと共にセンサの上に配置される。
【0030】
好適な具体例では、前記前置増幅回路116は、検出素子114とともに耳栓本体ケース124に内蔵されており、イヤーセンサ110は、ヘッドセットなしでも用いられる。この具体例では、イヤーセンサ110は、前置増幅回路116からの出力信号がケーブルを通じて電源供給・データ取得・信号処理能力のある外部の装置に供給される独立した装置として設計される。そのイヤーセンサ110は、外耳道200に対する耳栓本体ケース124と防音シールド112との摩擦によって保持される。
【0031】
別の好適な具体例では、前記前置増幅回路116は、ヘッドセット120に内蔵される。
【0032】
図5は、図4に示す鼓膜202の振動を検出可能な振動または動きのセンサで構成する検出素子114を示す。外耳道(耳管)200が検出素子114と外耳の間で音響学的に遮断された場合、鼓膜の動きにおける余分な身体音の影響が減少するか消失することになる。したがって、鼓膜によって得られる動きは、専ら身体内から発生される音によるものとなる。
【0033】
イヤーセンサ110の別の具体例を、図6に示す。この具体例では、図4に示す外耳道200の動きと振動を検出するために用いられる検出素子150を示している。 身体内で発生する生体音は、生体の様々な組織を経て伝達され、その組織には体の骨や軟骨といった構造部分が含まれる。これらの構造部分には図4に示した外耳道200の骨210や軟骨部分212が含まれる。検出素子150は、外耳道200の動きや振動から得られる信号を最大にするように設計されている。
【0034】
図6は、外耳道200の振動を測定するために用いられるセンサのうち、ひとつの可能な具体例を示したものである。ストレインゲージ、ポリフッ化ビリニデン(PVDF)製樹脂等の検出素子150、又はそれと同様の物は、基板151に取り付けられており、そしてそれは耳栓本体ケース124のかなり内部に取り付けられるように構成されている。その検出素子150と、基板151と、それらを接続するワイヤとは、ポリウレタンエラストマといった生体親和性を有する半硬化性の圧縮変形可能な材料のなかに埋設されている。外耳道200から生じた振動は、基板151に取り付けられた検出素子150を歪ませ、それによって信号が発生する。埋め込まれている検出素子150は、ワイヤがヘッドセット120へ内部から接続されて前置増幅回路116へ接続し得るように、ヘッドセット120に取り付けられている。
【0035】
本発明の別の好適な具体例によると、前述の動き又は振動信号を2経路で得るために一対のイヤーセンサ110が左右の耳にそれぞれ適用される。それぞれの耳からの信号は、共に、信号の性質の評価、体動ノイズ除去、又はそれと同様のことをするために用いられる。例えば、外耳道200の振動を発生させた心音は、両方の耳に同一の時間帯に伝達される。第1心音S1或いは第2心音S2といった明確な特徴の検出に対して、両方の耳でほぼ同時に生じることが信号処理アルゴリズムにより要求される。もし、信号が片方の耳で検出され、もう片方の耳で検出されなかったとしたら、その場合信号は心音に無関係なものとして除去される。同様の原則は、両方の経路に共通すると思われる信号のいくつかの特徴成分に対して適用され得る。
【0036】
同様に、一方の耳におけるイヤーセンサ110が不適切に設置された場合、その結果、信号は検出不可能か又は検出されたとしても性質が悪いものとなる。反対の耳におけるイヤーセンサ110は、十分な信号品質の生理学的なパラメータを得るために用いられる。
【0037】
図3は、例えばS1、S2信号といった心音データのプロットを示している。これらのデータは、イヤーセンサ110から得られたものと、心音図を得るために一般に用いられている胸部マイクロフォンから同様に得られたものとの2種類である。図1に示すように、イヤーセンサ110は、明確に第1心音S1と第2心音S2とを検出することができる。第1心音S1と第2心音S2の波形は、一致しているとはいえない。なぜならば、イヤーセンサ110と胸部マイクロフォンの構成は相互に異なり、その上、音が耳に届くまでに必要な時間が異なるからである。しかしながら、得たい情報が存在し、そしてそれは本発明による方法と装置を用いて、耳において得ることができることが認められる。
【0038】
図3に示す胸部PCGデータは、コンデンサーマイクロフォン技術を用いて大量に販売された入手可能なPCGセンサによって得られる。同様の結果は、圧電材料や加速度計といったほかの技術を用いることによって得られる。示された波形データは、25乃至55ヘルツ(Hz)の周波数帯の信号成分を通過させるデジタルバンドパスフィルターによって強調される。
【0039】
本発明は、さらに信号処理を向上させることで、取得又は測定された心音の信号とノイズのSN比(SNR)を向上させる装置と方法を提供する。種々の好適な具体例において、信号調節又は信号処理の向上やその結果の取得又は測定された心音のSN比の向上は、二つ又はそれ以上の連続した心拍サイクルの波形をサイクル単位で全体的に平均することにより実行され、それは全体的平均処理とも呼ばれる。
【0040】
この全体的平均処理を実行するために、まず個々の心拍サイクルは確定されなければならない。これは、それぞれの心拍サイクルの間で生じる固有の特徴を検出することでなし得る。ひとつの好適な具体例において、独立して得られたECG信号のR波は、心拍サイクルの区間設定(区間開始)点として用いられている。これは、全体的平均処理(ensemble averaging)のR波トリガと呼ばれている。
【0041】
別の好適な具体例において、分離した胸部PCGセンサからのS2信号は、全体的平均処理のためにイヤーセンサ波形を限定することに用いることができる。S2トリガを使用することは、イヤーセンサから平均されたS2信号のために高いSN比が得られる点で、R波トリガよりも有利である。なぜなら、R波とS2信号との間における時間の心拍から心拍への可変性があるからである。この可変性は、R波トリガを使用した場合にS2信号の乱れを引き起こすことが可能となり、したがっていくつかの信号の振幅は、平均されてしまう。
【0042】
R波トリガは、容易に実行できる点で便利である。ECGのR波は、大変容易に信号を識別できる。
【0043】
S2トリガを用いた全体的平均処理の有利な点は、トリガとして、独立して得られた圧脈波のダイクロティックノッチを用い得ることである。ダイクロティックノッチとS2信号の双方は、大動脈弁の閉鎖の結果として生じるものであり、したがって同じタイミングである。
【0044】
本発明における装置と方法の種々の好適な具体例では、人の耳においてS2信号を検出するためには前記全体的平均処理は必要ないことが指摘されるだろう。このような一例として、耳のS2信号のSN比が身体内や外部の環境が原因(心臓弁以外の)である低いノイズと比べて相対的に高いことがある。これは、外部のノイズ及び/又は身体振動が低い或いは僅かであって、得たい信号成分が心拍からその周期毎に検出されるのであれば、全体的平均処理が必要とされないということである。
【0045】
前述したように、PTTは胸部において測定されたS2信号と動脈の血圧波形である圧脈波のダイクロティックノッチとの間の時間差として、既存の技術で測定される。本発明による装置と方法のさまざまな好適な具体例において、PTTは、末梢部位で測定されたS2信号すなわち耳で測定されたS2信号とダイクロティックノッチとの間の遅れ時間に、S2Dを加えた時間として測定される。ここでS2Dは、胸部において測定された大動脈弁の閉鎖と耳におけるS2信号の到達との間の遅れ(時間差)を測定したものである。
【0046】
ひとつの好適な具体例において、S2D値は人口全体の平均値として決定され得る。別の好適な具体例において、特定の個体のために予め決定したS2D値が用いられる。また、別の好適な具体例において、S2D値は、身長、体重、年齢といった人間の統計に基づいて経験的に決定できる。
【0047】
上記予め決定するS2D値は、補償作業(calibration step)の間に例えば胸部PCGセンサといった第1PCGセンサを用いて、個人のために得ることができる。S2Dは、イヤーセンサによって測定されたS2と胸部PCGによって測定されたS2の間の遅れ時間(時間差)として測定される。S2Dのために個々に測定された値は、イヤーセンサの使用に際して追加的な初期操作を必要とするが、統計的に求められた標準値を用いる場合よりは一層高い精度が得られる。しかしながら、いくつかの適用において、上記標準化されたS2D値は十分に正確な結果を与えている。
【0048】
本発明による装置と方法の好適な具体例において、例えばPWVといった人間の生理学的なパラメータは、ダイクロティックノッチとS2D信号を使わないで得たS2信号との間の遅れ時間DTを用いることにより得られる。これは、PWVの指数、例えばPWVIは、S2D信号を決定しなくても決定できるということである。全体を通じでモニターされているPWVIは、いまだPWVの増加或いは減少を示す。
【0049】
図7は、耳から得られた生体音を用いて生理学的なパラメータを決定するための方法のもうひとつの好適な具体例を概略したフローチャートを示したものである。
【0050】
図7に示すように、S700においてパラメータ測定方法がスタートし、そしてイヤーセンサが人間の耳管の中に設置されるS710へ続く。次に、S720において第1の生体音がイヤーセンサによって得られる。
【0051】
そして、S730において、イヤーセンサによって得られた生体音は、前置増幅回路により電気信号に変換される。信号処理制御作動はS740へと続き、そのS740ではS1とS2値が、検出波形内における他の不変の特徴と共に決定される。次に、S750においては人間の様々な生理学的パラメータが、S740においてよく知られている技術を用いて決定されたイヤー信号値から決定される。これらの生理学的パラメータは、人間の心拍数、呼吸数、弁が閉まるタイミング、心雑音の兆候、呼吸音、PWV値、そして血圧あるいはその傾向といったひとつまたはそれ以上のものを含む。
【0052】
図8は、S2Dを決定するための方法のうちひとつの好適な具体例を概略したフローチャートを示す。図8に示す方法の様々な段階は、一般に各個人のために実行される。
【0053】
図8に示すように、S800においてS2D決定方法が開始されて第1PCGセンサが胸部に設置され、第2イヤーセンサが耳管内に設置されるS810へと続く。次に、S820において、データは上記両方のセンサから同じように取得される。例えば、第一の心音信号は第1PCGセンサを用いて得られ、第二の心音信号は、イヤーセンサを用いて得られる。
【0054】
そして、S830において信号処理或いは信号調整作動は、得られた第一と第二の心音信号を用いて実行される。本発明による装置と方法の好適な具体例において、全体的平均処理は、得られた第1と第2の信号を用いて実行される。もうひとつの本発明による装置と方法の好適な具体例において、信号処理或いは信号調整するS830では、バンドパスフィルタを用いることで実行される。さらにもうひとつの本発明による装置と方法の好適な具体例においては、信号の処理は、イヤーセンサの検出信号中で安定した検出ポイントを決定するために実行される。
【0055】
次にS840において、例えば全体的平均処理作動といった信号処理或いは信号調整作動によって得られた結果を用いて、S2D値が決定される。そして、S850へと続き、終了する。
【0056】
図9は、生理学的パラメータを決定する方法であるひとつの好適な具体例を概略したフロ−チャートを示す。そして、生理学的パラメータは、例えば末梢部位で測定された心音を用いたPWV、PEP、それと同様のものが含まれる。好適な一具体例では、同時に得られたECG、圧脈波の波形と組み合わさった大動脈弁の閉鎖のタイミングは、心臓の前駆時間PEP(pre-ejection period)を算出するために用いられ得る。PEPは、等容積収縮期間としても知られ、また大動脈弁が閉まっている間に、心室の圧力が増加する時間のことである。心室の圧力が大動脈の圧力を上回る場合、大動脈弁が開き、PEPが終了する。PEPは、特に心室の排出時間の比率として用いられる場合、心臓血管の健康状態の指針となる重要な別のパラメータとなる。
【0057】
図9に示すように、S900において方法が開始され、そしてイヤーセンサが耳管の中に設置され、圧脈波センサが心臓からの第二の末梢部位に位置する場所に設置されるS910へと続く。次に、S920において、イヤーセンサによって第1波形が得られる。第2波形は、圧脈波センサから同時に得られる。
【0058】
そしてS930において、例えば全体的平均処理作動といった信号調整・信号処理作動が、S920で得られた第1の波形と第2の波形を用いて任意に実行される。作動は、S940まで続き、そしてそのS940では、圧脈波信号のダイクロティックノッチとイヤー信号のS2成分との間の遅れ時間DTが決定される。
【0059】
S950において圧脈波伝播時間(pulse transit time)PTTは、ダイクロティックノッチ成分とイヤー信号のS2成分との間の遅れ時間DTに、前に決定された又は知られているS2D値を加えることにより決定される。そして、S2D値は、人間の大動脈弁の閉鎖時間と耳におけるS2信号の到達時間との間の遅れ時間を表している。
【0060】
次にS960において、人間の心臓血管に関する心臓血管パラメータは、S950において計算された圧脈波伝播時間PTTと、大動脈弁と血圧波形センサの位置の長さとの間の動脈の距離を表す少なくともひとつのパラメータを用いて決定される。そして、S970まで続き、終了する。
【0061】
好適な一具体例において、図9に示された方法は、心臓と末梢部位の圧脈波測定点との間の動脈の距離をPTTで割ることによりPWV(動脈の血圧パルス波速度)を決定するために用いられる。そして、圧脈波伝播速度は、動脈血管の硬さに依存していることから、PWVは例えば動脈硬化といった心臓血管の健康状態を決定する有用な心臓血管系パラメータとなりうる。
【0062】
本発明による方法のひとつの好適な具体例において、前記S930は、例えば全体的平均処理作動といった信号調整・信号処理作動の実行は、人間の個々の心臓サイクルを決定することも含む。好適な一具体例において、人間個々の心臓のサイクルを決定することは、人間個々の心臓サイクルの区間設定(区間開始)点を決定することを含む。その心臓サイクルの区間設定点は、独立して得られるECG信号に含まれるR波から得られる。一方で、心臓サイクルの区間設定点を決定することは、イヤーセンサにより検出された第1の心音振動信号からのS2信号成分を決定することにより実行される。このS2信号成分とは、大動脈心臓弁の閉鎖に関連した第2心音を表す。
【0063】
本発明による装置と方法の作動の好適な具体例において、例えば全体的平均処理といった信号調整・信号処理を実行する作動は、トリガとして、単独で得られた圧脈波のダイクロティックノッチを用いることも含む。
【0064】
更に、圧脈波センサが、血圧カフ、血圧計、或いは血圧波形について高感度の他のセンサを含むことは、当業者により明らかであろう。
【0065】
図10は、例えばPWVやそれと同じようなものを含む生理学的なパラメータを末梢部位で測定した心音を用いて決定するための方法において、好適な一具体例の概略した作動をフローチャートで示したものである。
【0066】
図10に示すように、S1000においてパラメータ測定方法が開始され、イヤーセンサが耳管の中に設置され、圧脈波センサが心臓からの第2末梢部位に設置されるS1010へ続いている。次に、S1020において、第1波形はイヤーセンサによって得られた信号から得られる。第2波形は、圧脈波センサから同時に得られる。
【0067】
そして、S1030において、例えば全体的平均処理といった信号調整・信号処理作動は、S1020において得られた第1の波形と第2の波形とを用いて任意に実行される。作動はS1040まで続き、そしてそのS1040では、圧脈波信号のダイクロティックノッチの信号成分とイヤー信号からのS2信号成分との間の遅れ時間DTが決定される。
【0068】
次にS1050では、心臓血管系パラメータを含む生体の様々なパラメータが、S1040において計算された遅れ時間DTを用いて決定される。好適な一具体例において、図10に示す方法では、圧脈波伝播速度指数PWVIを決定するために用いられる。圧脈波伝播速度は、動脈の硬さに依存しているため、PWVIは動脈硬化といった心臓血管システムの健康状態を決定するパラメータとして有用である。そして、その方法はS1060まで続き、終了する。
【0069】
本発明による方法の好適な一具体例において、例えば全体的平均処理作動といった信号調整・信号処理作動を実行するS1030は、人間の個々の心拍サイクルを決定することも含む。好適な一具体例において、人間の個々の心拍サイクルを決定することは、人間の個々の心拍サイクルの区間設定点を決定することも含む。心拍サイクルの区間設定点を決定することは、第1のECG信号を用いてR波を決定することにより実行される。一方で、心拍サイクルの区間設定点を決定することは、第1のイヤーセンサの検出信号に由来するS2信号で、心臓弁の閉鎖と関係した第2心音を表すものを決定することにより実行される。
【0070】
本発明による装置と方法の種々の好適な具体例によると、例えば全体的平均処理作動といった信号調整・信号処理作動を実行することは、トリガとしての圧脈波のダイクロティックノッチの信号成分を用いることを含む。
【0071】
本発明が、前述した特定の具体化と共に説明されているいくつかの他の手段、具体化を修正したもの、変形したものは、当業者にとって明白である。したがって、前述の本発明の好適な実施例は、例示であって限定を意図するものではない。以下のクレームにおいて示した発明の趣旨及び範囲から外れることなく、様々な変化(修正)がなされ得る。
本発明の種々の好適な具体例は、以下の図に関して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】例えば第1心音S1及び第2心音S2といった身体内で発生する生体音を検出するシステムの好例を具体化した装置の構成を説明をする図であって、(A)は外観図、(B)はそのイヤーセンサ装置を示す図である。
【図2】身体内で発生する生体音を検出するシステムの好適な具体例であって、測定位置に設置されたものについての図面である。
【図3】図1で図示したイヤーセンサと、一般に心音図を得るために用いられる胸部のマイクとから同時に得られるプロットデータのグラフを示すものである。
【図4】耳の外部と内部に関する図を示すものである。
【図5】例えば第1心音S1第2心音S2といった身体内で発生する生体音を検出する装置であって、その中で鼓膜の振動及び/又は動きが検出されるものを具体的に示す図である。
【図6】例えば第1心音S1第2心音S2といった身体内で発生する生体音を検出するもうひとつの装置であって、その中で外耳道の振動及び・又は動きが検出されるものを具体的に示す図である。
【図7】第1心音S1第2心音S2といった身体内で発生する生体音を得るための方法の好適な具体例を概略説明するフローチャートである。
【図8】人間の耳の中において検出される大動脈弁の閉鎖と第2心音S2の到達の間の遅れであるS2Dを決定するためのひとつの方法としての好適な具体例を概略説明するフローチャートである。
【図9】S2D値を利用して、例えばPTT、PWV、PEPといった心臓血管のパラメータを含む人間の生理学的なパラメータを決定及び/又は測定するためのひとつの方法として好適な具体例を概略説明するフローチャートである。
【図10】S2D値を利用しないで、例えばPWVといった心臓血管系パラメータを含む人間の生理学的なパラメータを決定及び/又は測定するための別の方法としての好適な具体例を概略説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0073】
100:パラメータ測定装置
110:イヤーセンサ(検出装置)
112:防音シールド
114、150:検出素子
116:前置増幅回路
120:ヘッドセット
124:耳栓本体ケース
130:データ取得・信号処理装置
200:外耳道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道の動き及び/または振動を検出するための検出装置であって、
耳栓本体ケースと、
耳栓本体ケースの中に配置された検出素子と、
余分な身体音を減少又は排除するために前記耳栓本体ケースに連結された防音シールドと、
前記検出素子と電気的に接続された前置増幅回路と
を、含むことを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記前置増幅回路と接続されたデータ取得及び/又は信号処理装置をさらに含むことを特徴とする請求項1の検出装置。
【請求項3】
身体内で発生する生体音による外耳道の動き及び/又は振動を決定することが可能であることを特徴とする請求項2の検出装置。
【請求項4】
前記データ取得及び/又は信号処理装置が、心拍数、呼吸数、心音、血圧又はその傾向、PWV又はPWVI、心雑音の指数を決定するために前記決定された動き及び・又は振動を用いることを特徴とする請求項3の検出装置。
【請求項5】
前記データ取得及び/又は信号処理装置と電気的に接続された電源供給装置を更に含むことを特徴とする請求項1の検出装置。
【請求項6】
前記防音シールドが前記耳栓本体ケースと外部との間に配置されていることを特徴とする請求項1の検出装置。
【請求項7】
前記耳栓本体ケースが圧縮可能な発泡体、生体親和性の硬質又は半硬質のポリマー、又はそれと同様なもので構成されていることを特徴とする請求項1の検出装置。
【請求項8】
前記検出素子は、ストレインゲージ、PVDFフィルム、加速度計、圧電セラミック基板、又はそれと同様なものから構成されていることを特徴とする請求項1の検出装置。
【請求項9】
前記耳栓本体ケース、前記検出素子、前記前置増幅回路、および前記防振シールドは、耳の内部に設置されるものであることを特徴とする請求項1の検出装置。
【請求項10】
少なくとも一方の耳の外耳道において、請求項1の検出装置の少なくともひとつを配置及び/又は保持するヘッドセット装置。
【請求項11】
前記前置増幅回路はヘッドセット本体に配設されていることを特徴とする請求項10のヘッドセット装置。
【請求項12】
前記データ取得及び/または信号処理装置の少なくとも1部が、ヘッドセット本体の内部又は外部に配設されていることを特徴とする請求項10のヘッドセット装置。
【請求項13】
前記データ取得及び/または信号処理装置は、心拍数、呼吸数、S1タイミング、S2タイミング、血圧又はその傾向、PWV又はPWVI、心雑音の指数のうちのひとつ又はそれ以上を決定するために用いられるものである請求項12のヘッドセット装置。
【請求項14】
外耳道の動き及び/または振動を検出するための検出装置であって、
耳栓本体ケースと、
耳栓本体ケースの中に配置された検出素子と、
余分な身体音を減少又は排除するために前記耳栓本体ケースに連結された防音シールドと、
前記検出素子と電気的に接続された前置増幅回路と
を、含むことを特徴とする検出装置。
【請求項15】
前記前置増幅回路と接続されたデータ取得及び/又は信号処理装置をさらに含むことを特徴とする請求項14の検出装置。
【請求項16】
身体内で発生する生体音による外耳道の動き及び/又は振動を決定することが可能であることを特徴とする請求項15の検出装置。
【請求項17】
前記データ取得及び/又は信号処理装置が、心拍数、呼吸数、心音、血圧又はその傾向、PWV又はPWVI、心雑音の指数を決定するために前記決定された動き及び・又は振動を用いることを特徴とする請求項16の検出装置。
【請求項18】
前記データ取得及び/又は信号処理装置と電気的に接続された電源供給装置を更に含むことを特徴とする請求項14の検出装置。
【請求項19】
前記防音シールドが前記耳栓本体ケースと外部との間に配置されていることを特徴とする請求項14の検出装置。
【請求項20】
前記耳栓本体ケースが圧縮可能な発泡体、生体親和性の硬質又は半硬質のポリマー、又はそれと同様なもので構成されていることを特徴とする請求項14の検出装置。
【請求項21】
前記検出素子は、ストレインゲージ、PVDFフィルム、加速度計、圧電セラミック基板、又はそれと同様なものから構成されていることを特徴とする請求項14の検出装置。
【請求項22】
前記耳栓本体ケース、前記検出素子、前記前置増幅回路、および前記防振シールドは、耳の内部に設置されるものであることを特徴とする請求項14の検出装置。
【請求項23】
少なくとも一方の耳の外耳道において、請求項14の検出装置の少なくともひとつを配置及び/又は保持するヘッドセット装置。
【請求項24】
前記前置増幅回路はヘッドセット本体に配設されていることを特徴とする請求項23のヘッドセット装置。
【請求項25】
前記データ取得及び/又は信号処理装置の少なくとも1部が、ヘッドセット本体の内部又は外部に配設されていることを特徴とする請求項23のヘッドセット装置。
【請求項26】
前記データ取得及び/又は信号処理装置は、心拍数、呼吸数、S1タイミング、S2タイミング、血圧又はその傾向、PWV又はPWVI、心雑音の指数のうちのひとつ又はそれ以上を決定するために用いられるものである請求項25のヘッドセット装置。
【請求項27】
各々の耳に請求項1の検出装置を有し、各々の外耳道の動き及び/又は振動と関連する信号が、信号の性質の評価、体動ノイズ除去、又はそれと同様のことをするために用いられることを特徴とする請求項10のヘッドセット装置。
【請求項28】
各々の耳に請求項14の検出装置を有し、各々の外耳道の動き及び/又は振動と関連する信号が、信号の性質の評価、体動ノイズ除去、又はそれと同様のことをするために用いられることを特徴とする請求項23のヘッドセット装置。
【請求項29】
生体の心臓血管系パラメータを決定する方法であって、
耳内部に検出装置を設ける工程と、
圧脈波センサを末梢部位に設ける工程と、
前記検出装置から第1の波形を得る工程と、
前記圧脈波から第2の波形を得る工程と、
前記第1の波形と前記第2の波形とを用いて信号処理又は信号調整を実行する工程と、
調整された第2波形のダイクロティックノッチ成分と調整された第1波形のS2信号成分との間の遅れ時間を決定すること、
前記ダイクロティックノッチ成分と前記S2信号成分との間の遅れ時間に、心臓弁の閉鎖時刻と第1の末梢部位におけるS2信号の到達時刻との間の遅れ時間S2Dを加えることで圧脈波伝播時間を決定する工程と、
決定した圧脈波伝播時間と、心臓の大動脈弁の位置と圧脈波センサの位置との間の動脈の距離を表す少なくともひとつのパラメータを用いて心臓血管系パラメータを決定する工程と
を、含むことを特徴とする方法。
【請求項30】
前記検出装置は、耳管内の動き又は振動を検出するものであることを特徴とする請求項29の方法。
【請求項31】
前記心臓血管系パラメータは、圧脈波速度、心拍数、等容積収縮期間、又はそれと同様のものである請求項29の方法。
【請求項32】
前記信号処理又は信号調整作動を実行する工程は、全体的平均処理作動の実行、バンドパスフィルタを用いた処理の実行、耳からのS2信号の安定した検出ポイントを決定する処理の実行のうち、ひとつ又はそれ以上を行うものである請求項29の方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−505300(P2006−505300A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−585596(P2003−585596)
【出願日】平成15年4月18日(2003.4.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/012087
【国際公開番号】WO2003/088841
【国際公開日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(504019054)コーリンメディカルテクノロジー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】