説明

生理学的モニタリング衣類

【課題】被験者の特性をモニターするためのシステム及び方法に関する。
【解決手段】本システムは、センサーサブシステムと、該センサーサブシステムと通信状態にあるプロセッサ・サブシステムとを備える。センサーサブシステムは、被験者の直ぐ近くに配設され該被験者の呼吸系の特性を検出するように構成された少なくとも一つの呼吸系センサーと、被験者の直ぐ近くに配設され該被験者の生理学的特性を検出するように構成された少なくとも一つの生理学的センサーとを備える。センサーサブシステムは、該呼吸系特性を表す呼吸系信号を少なくとも一つ生成し送信するように構成されるとともに、該生理学的特性を表す生理学的信号を少なくとも一つ生成し送信するように構成される。プロセッサ・サブシステムは、該少なくとも一つの呼吸系信号及び該少なくとも一つの生理学的信号のうちの少なくとも一方を受信するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願への相互参照>
本出願は、2009年9月1日出願の米国仮出願第61/275,633号及び2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,627号に基づく優先権を主張するものであり、これら各出願の全体を本明細書に参照により援用する。
【0002】
本発明は、概ね、被験者の生理学的及び運動能力的な特性をモニター(monitor)するための方法及びシステムに関し、特に、生理学的及び運動能力的なモニターを行うための衣類及びこれに関連するシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
歩行可能ないし歩行不能な被験者を医学的に診断・処置する際、当該被験者に関する一以上の生理学的及び/又は運動能力的な特性及び/又はパラメータをモニターするのが望ましかったり、必要であったりする場合が多い。また、ストレスや危険を伴う可能性のある状況下、例えば、ファースト・リスポンダー(first responders。例えば、消防士、警察官、救急隊員等)が多くの場合遭遇するような状況下や、運動及び/又は競技のトレーニング中において、歩行可能な被験者の生理学的特性をモニターするのが望ましい場合も多い。
【0004】
このようなことから、歩行可能・歩行不能な被験者の生理学的な特性・パラメータをモニターするために種々のシステムや方法が開発されてきた。初期の生理学的モニタリングシステムは、一般に、着用可能な物品に固定したり、そのような物品のポケット(pouch)の中に入れられる電気/電子機器(例えば、心拍数センサー)を備えるものであった。各機器間の個々の電線類は、後から当該物品の外側に固定したり、その一部ないし全部を縫い目の中などに配設したりした。例を挙げるとすれば、2001年3月6日発行の米国特許第6,198,394号に開示された(軍事目的の)ハーネスシステムがある。当該文献全体を本明細書に参照により援用する。
【0005】
初期の着用可能なモニタリングシステムないし物品が孕む大きな問題点としては、電線類の一部ないし全部が、特に重要な接続領域において、布地材から分離独立しているという点が挙げられる。結果として、電線類は、他の物体に引っ掛かったり絡まったりして当該機器から切断される可能性があり、また多くの場合、そのようなことが実際起こった。
【0006】
当該初期のシステムの上記問題を解消するために、電子回路やデータ送信線を布地材に一体化した着用可能なモニタリング衣類が開発された。例を挙げるとすれば、2000年6月27日発行の米国特許第6,080,690号、1999年5月25日発行の米国特許第5,906,004号、2004年4月27日発行の米国特許第6,727,197号及び2004年8月20日出願の米国特許出願第10/922,336号(公開第2005/0054941 A1号)に開示された着用可能なモニタリング衣類がある。これら各文献の全体を本明細書に参照により援用する。
【0007】
米国特許第6,080,690号及び米国特許第5,906,004号には、導電性の繊維を有する着用可能なモニタリング衣類が開示されている。上記特許には、一以上のセンサーと制御装置とによる、当該機器間の接続を容易にするために、当該導電性繊維を衣類内の数多くの地点に色々な配向で配設することができる点が記載されている。
【0008】
しかし、上記衣類及びシステムには、当該布地内において電気・データ接続部を完璧に形成しておかないと、各機器間のデータ・電力のルーティングが制約されてしまうという大きな欠点がある。本技術分野で周知のように、上記の如き接続部を形成するには、多くの場合、非常に複雑で高価な製造プロセスが必要となる。
【0009】
米国特許第6,727,197号及び米国特許出願第10/922,336号には、更に別の着用可能なモニタリング衣類が開示されている。当該モニタリング衣類も同様に、各機器による機器間の接続を容易にするために導電性の繊維を含むものである。また、当該衣類は、各機器(センサー等)に電力を供給し、各機器の信号を信号送信/処理回路へルーティングするための一体化された(場合によっては「細長くて伸長可能な」)バスを備える。
【0010】
上記に開示された衣類によれば、各機器間で電力・データをルーティングするための効果的な一体型の手段が提供されるものの、それでも当該衣類(及びシステム)には幾つかの欠点・デメリットがある。主な欠点としては、機器間の接続が依然として複雑で、よって、製造に時間とコストがかかるという点が挙げられる。
【0011】
したがって、複数の生理学的特性を正確且つリアルタイムに決定するのが容易であり、簡単に製造することのできる、改良された生理学的モニタリング衣類を提供するのが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的や、以降記載し明らかとなる目的に従って、本発明は、被験者の生理学的・能力的な特性・パラメータのモニタリングを容易にする、着用可能な生理学的・能力的モニタリング衣類を対象とする。本発明の好ましい実施形態においては、本生理学的モニタリング衣類は、当該衣類と共に使用される各機器による各機器間の通信を容易にする、一体型の機器接続・データ送信手段(integral component connecting and data transmission means)を備える。
【0013】
本発明の幾つかの実施形態においては、生理学的モニタリング衣類は、当該着用可能な衣類に埋め込まれるか当該衣類によって運ばれる磁力計システムを備える。幾つかの実施形態においては、生理学的モニタリング衣類は、更に追加の生理学的センサー―例えばECG用、体温用又は血中酸素用のセンサー―及び処理・モニタリング手段を備え、これらは同様に、当該着用可能なモニタリング衣類に埋め込まれるか当該衣類によって運ばれる。
【0014】
更なる特徴や利点は、添付の図面に示す、本発明に関する以下の詳細な説明により明らかにされる。各図において、同一の部品ないし要素は概ね同様の参照符号で示してある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態による生理学的モニタリングシステムのブロック図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態による磁力計システムの概略図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態による磁力計の上方平面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態による、図3に示す磁力計の側方平面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態による磁力計のドライバ回路の概略図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態による磁力計のプリアンプ回路の概略図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態による磁力計の入力バッファ増幅回路の概略図である。
【図8】図8は、被験者の側面図であり、本発明の一実施形態により、図2に示す磁力計システムを被験者上に取り付ける位置を示す。
【図9】図9は、被験者の斜視図であり、本発明の一実施形態により、磁力計を被験者の前側に取り付ける位置を示す。
【図10】図10は、被験者の背中の平面図であり、本発明の一実施形態により、磁力計を被験者の背中に取り付ける位置を示す。
【図11】図11は、本発明の一実施形態による生理学的モニタリング衣類の前方平面図である。
【図12】図12は、本発明の一実施形態による、図11に示す生理学的モニタリング衣類の前方平面図であり、その側方開口部を示す。
【図13】図13は、本発明の一実施形態による、図11及び図12に示す生理学的モニタリング衣類を着用した被験者の前方斜視図である。
【図14】図14は、本発明の一実施形態による生理学的モニタリング衣類の一部側断面図であり、その上層及び下層を示す。
【図15】図15は、本発明の一実施形態による生理学的モニタリング衣類の一部側断面図であり、その上層と下層の間に形成されたポケットを示す。
【図16】図16は、本発明の一実施形態による、予め形成された衣類ポケットの前方平面図である。
【図17】図17は、本発明の一実施形態による生理学的モニタリング衣類の前方平面図であって、該衣類はこれに関連づけられた複数の一体型の衣類用導体を有する。
【図18】図18は、本発明の一実施形態による、図17に示す生理学的モニタリング衣類の後方平面図である。
【図19】図19は、本発明の一実施形態による、生理学的モニタリング衣類の後方平面図であり、組み込まれたECGセンサー用接続回路を示す。
【図20】図20は、本発明の一実施形態による、図19に示す生理学的モニタリング衣類の前方平面図であり、ECG回路及び磁力計回路を示す。
【図21】図21は、本発明の一実施形態による、図19に示す生理学的モニタリング衣類の後方平面図であり、磁力計回路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を詳細に説明する前に理解されたいのが、本発明が、特に例示した―当然変更される可能性のある―衣類、装置、システム、回路又は方法に限定されるものではないということである。したがって、本発明の実施にあたっては、本明細書に記載した着用可能な物品、装置、システム及び回路と類似ないし均等の数多くのものを使用することが可能ではあるが、本明細書では、好適な着用可能な物品、装置、システム及び回路について記載する。
【0017】
また、本明細書で使用する用語については、本発明の特定の実施形態を説明するためにのみ用いられているのであって、本発明を限定する意図はないことも理解されたい。
【0018】
特段の定義のない限り、本明細書で使用する技術的・科学的な用語は、いずれも、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解するであろう意味を有する。
【0019】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される、冠詞「a」、「an」及び「the」で示す単数形の対象には、文脈上明らかに単数である場合を除いて、複数の指示対象が含まれる。
【0020】
また、本明細書で参照するあらゆる刊行物、特許及び特許出願については、これ以前に参照したものも、これ以降参照するものも、その全体を参照により援用する。
【0021】
本明細書で言及する刊行物は、ただ単に、本願の出願日前に開示されたものであるため、ここに記載したまでである。本明細書の如何なる記載についても、先発明の規定に基づき、本発明がこれら刊行物よりも早い日付を得る権利を有しないことを自認するものであると解釈してはならない。また、ここに記載した公開日・公表日は、実際の公開日・公表日と異なる場合があるので、個別に確認する必要があると思われる。
【0022】
<定義>
本明細書で用いる「呼吸系のパラメータ(respiratory parameter)」及び「呼吸系の特性(respiratory characteristic)」との文言は、呼吸器系及びその機能に関連する特性を意味しこれを含むものとする。例えば、呼吸頻度(breathing frequency(fB))、1回呼吸気量(tidal volume(V))、吸息体積(inspiration volume(V))、呼息体積(expiration volume(V))、分時換気量(minute ventilation(VE))、吸息呼吸時間、呼息呼吸時間及び流量(例えば、胸壁容積の変化率等)が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、「呼吸系のパラメータ」及び「呼吸系の特性」との文言は、胸壁の区画の同期的・非同期的な動作による換気力学的な推測(inferences regarding ventilatory mechanics)を意味しこれを含むものとする。
【0023】
本発明によれば、体積信号から流量や呼吸の加速度を求めることができる。また、胸壁を構成する個々の区画間の動作の非同期性の度合いから、多くの換気力学的な推測を導くことができる。
【0024】
本明細書で用いる「生理学的パラメータ(physiological parameter)」及び「生理学的特性(physiological characteristic)」との文言は、心臓の電気的活動、他の筋肉の電気的活動、脳の電気的活動、脈拍数、血圧、血中酸素飽和度、皮膚温度及び核心温度を意味しこれらを含むものとするが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本明細書で用いる「空間的パラメータ(spatial parameter)」及び「空間的特性(spatial characteristic)」との文言は、被験者の位置・向き(orientation)及び/又は動作を意味しこれを含むものとする。
【0026】
本明細書で用いる「衣類(garment)」との文言は、被験者の身体の少なくとも一部を覆うのに適したあらゆる物品を意味し含むものとする。例えば、シャツ、ベスト、ジャケット、バンド等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本明細書で用いる「患者(patient)」及び「被験者(subject)」との文言は、ヒト及び動物を意味しこれを含むものとする。
【0028】
肺換気量、1回呼吸気量、呼吸速度や、その他の関連する呼吸系の特性は、生体内における酸素と二酸化炭素の遷移(transpiration)について実用的で信頼性のある測定基準となりうる。呼吸系の特性は、運動の成果、生理学的ストレスや、その他の生理学的特性と直結している。1回呼吸気量を外部から求める一つの方法は、胸部の容積変化を測定することである。胸部の容積変化は、肺の拡張・収縮に起因する。圧力範囲の最大値及び最小値での肺の気圧は雰囲気圧と平衡であるため、肺の容積と、吸い込んだ空気の体積との間には非常に緊密で単調な関係がある。
【0029】
胸部の容積変化を正確に測定するには、胸郭における胸部の直径の変化を測定する必要がある。さらに、胸部の直径の変化を胸郭の下方でも測定することで、より正確に測定することができる。胸郭下方で胸部の直径の変化をモニターすることで、横隔膜によってもたらされる呼吸(diaphragm delivered breathing)を明らかにすることができる。横隔膜による呼吸は、横隔膜筋の収縮・弛緩によって腹部の器官が下方及び外方に押されて、有効肺容積が増加するというものである。
【0030】
呼吸系の特性をモニタリング・分析することは、運動競技での用途に特に役立ちうる。なぜなら、運動能力と、運動競技者による酸素及び二酸化炭素の処理の仕方との間には直接的な関係があるからである。例えば、多くの運動トレーニングの場面では、運動競技者の身体が有酸素運動と無酸素運動との間で切り替わる時点―運動競技者の換気性作業閾値(ventilatory threshold)とも呼ばれる―を知ることが有益である。換気性作業閾値を超えることは、即ち、スポーツ活動の最中における懸案となる運動能力の限界を示すこととなる。例えば、運動競技者にとって、限られた時間、無酸素状態でトレーニングすることは有益である場合がある。しかし、多くのスポーツの場合、適正なトレーニングに必要なのは、限られた時間の無酸素運動と、その間に差し挟まれるより強度の低い有酸素運動だけである。ところが、運動競技者にとって、呼吸系特性等の生理学的特性を参照することなく、自分が無酸素状態・有酸素状態のどちらの状態にあるのかを知ることは困難である。したがって、呼吸をモニタリングしてデータ処理を行なうことで、運動競技者の運動状態を正確且つ略瞬時に測定することが可能となり、それにより、運動競技のトレーニングにおいて実質的なメリットを提供することができる。運動競技者の経時的な換気性作業閾値の変化や、運動後の回復期間中の1回呼吸気量のパターンは、あるトレーニング・プログラム中に運動競技者のフィットネス・レベルがどの程度改善したかを測る上で有用となりうる。また、呼吸をモニターすることで、被験者の静止時代謝率の変化をモニタリング・分析することが可能となる。
【0031】
そして、身体に対する負荷が、現在の肺換気量ではもはや十分に生命を維持することができないレベルに達する時点が、第2の換気性作業閾値である。この状態が長く続き過ぎると、虚脱を引き起こすことになるので、この地点を決定することは、医学的な用途、特にファースト・リスポンダー(first responder、現場に最初に駆けつける医学的訓練を受けた人)やその他の救急隊員にとって有益となりうる。
【0032】
本発明は、被験者の生理学的・能力的な特性・パラメータのモニタリングを容易にする、着用可能な生理学的モニタリング衣類を対象とする。上記の通り、本生理学的モニタリング衣類は、当該衣類と共に使用される各機器による各機器間の通信を容易にする、一体型の機器接続・データ送信手段(integral component connecting and data transmission means)を備える。
【0033】
本発明の幾つかの実施形態においては、生理学的モニタリング衣類は、磁力計システムを備え、当該磁力計システムは、当該着用可能な衣類に埋め込まれるか当該衣類によって運ばれる。以降詳細に説明するが、当該磁力計システムにより、種々の呼吸系の特性・パラメータを正確且つリアルタイムに求めるのが容易となる。
【0034】
幾つかの実施形態においては、生理学的モニタリング衣類は、更に追加の生理学的センサー及び処理・モニタリング手段を備え、これらは同様に、当該着用可能なモニタリング衣類に埋め込まれるか当該衣類によって運ばれる。上記生理学的センサーとしては、脳、心臓及び他の筋肉の電気的活動(例えばEEG、ECG、EMG等)、脈拍数、血中酸素飽和度(例えばSpO)、皮膚温度及び核心温度をモニターし記録するのに適したセンサーを含みうるが、これらに限定されるものではない。測定及び/又は算出される生理学的パラメータとしては、例えば、心拍数、呼吸速度、血中酸素濃度、血流量、水和状態、消費カロリー、筋肉疲労及び/又は体温が含まれうる。
【0035】
本技術分野における通常の知識を有する者であれば容易に理解するであろうが、本発明の着用可能な生理学的モニタリング衣類により、呼吸系やその他の生理学的な複数のパラメータ・特性を正確且つリアルタイムに求めることが容易となる。また、本モニタリング衣類によれば、歩行可能な外来患者の在宅でのモニタリングや、ストレスや危険を伴う可能性のある状況下にある被験者や、運動及び/又は競技のトレーニング中の被験者のモニターにも容易に対応することができる。
【0036】
以下、本発明に係る着用可能な生理学的モニタリング衣類及びこれに関連するシステムにつき、幾つかの実施形態を詳細に説明するが、本発明が本明細書中の衣類やシステムに限定されるものではないことを理解されたい。本技術分野における通常の知識を有する者であれば理解するであろうが、ここに記載した衣類及びシステムと類似ないし均等の衣類及びシステムも、本発明の範囲内において用いることができる。
【0037】
<生理学的モニタリングシステム>
まず、図1に、本発明の生理学的モニタリング衣類と共に使用可能な例示的な生理学的モニタリングシステム10のブロック図を示す。以下詳細に説明するように、本発明の一実施形態においては、本生理学的モニタリングシステム10は、(i)胸郭及び腹部それぞれの前後方向の直径の変化(ないし変位)と、胸壁の軸方向の変位とをモニタリング・検出するとともに、(ii)上記解剖学的変位を反映する磁力計信号との相関関係において、モニタリング中の被験者に関する解剖学的・生理学的・能力的情報を求めるのに適している。
【0038】
図1に示すように、この生理学的モニタリングシステム10は、好ましくは、データ取得サブシステム20と、制御データ処理サブシステム40と、データ送信サブシステム50と、データモニターサブシステム60と、バッテリー等の電源70とを備える。
【0039】
本発明の一実施形態においては、データ取得サブシステム20は、対を成す磁力計を含む磁力計システム21を備える。当該磁力計は、被験者上の選択的な解剖学的位置に配設された場合に、被験者の胸郭及び腹部それぞれの前後方向の直径の変化(ないし変位)と、被験者の胸壁の軸方向の変位とをモニタリング・検出するのに適している。しかしながら、本発明が、被験者の胸郭、腹部及び胸壁の変位測定のために磁力計対を使用することに限定されないことを理解されたい。
【0040】
本明細書では、磁力計及び磁力計システムに関連して本発明を説明するが、磁力計の代わりに、或いは磁力計と共に、システム内の二以上のセンサー間の距離の変化を測定可能な他のタイプのセンサーシステムを用いることができることを理解されたい。具体的には、本発明は、測定した胸郭及び腹部の前後方向の直径の変化と胸壁の軸方向の変位とを現す信号を取得するのに電磁コイルないし磁力計を使用することに限定されるものではない。上記解剖学的パラメータの測定に容易に適合可能な種々のその他の手段や装置を、本発明の範囲内で用いることができる。そのような手段や装置としては、ホール効果センサーや電子コンパスセンサーを含むが、これらに限定されない。本発明によれば、一方のセンサーから他方のセンサーへ送信された信号の時間遅延を測定し、それにより二つのセンサー間の距離を求める能力のある無線センサーを、磁力計の代わりに、或いは磁力計と共に、設けることができる。
【0041】
磁力計(ないし他のセンサー)は、例えばシャツやベスト等の着用可能な衣類に埋め込まれていてもよいし、当該衣類によって運ばれるものであってもよい。着用可能なモニタリング衣類とすることで、磁力計を被験者の皮膚に直接取り付ける必要性、ひいてはそれに纏わる全ての問題が解消される。また、着用可能なモニタリング衣類とすることで、被験者の胴体上の、事実上いかなる適切な(あるいは所望の)位置にも磁力計を繰り返し且つ簡便に位置決めすることが容易となる。
【0042】
本発明によれば、上記被験者のパラメータ(ないし変位)を測定するのに、少なくとも一つ、好ましくは二つの磁力計が使用される。よって、本発明の幾つかの実施形態においては、磁力計を二対、使用する。幾つかの実施形態においては、二対より多くの磁力計を使用する。
【0043】
図2に示すように、本発明の一実施形態においては、磁力計システム21は、第1送信用磁力計22aと、第1受信用磁力計22bと、第2送信用磁力計24aと、第2受信用磁力計24bとを含む。これら磁力計対22a、22b及び対24a、24bは、両者間の距離変化に応答可能である。以降詳細に説明するが、第1送信用磁力計22aは第1電磁場を送信するのに適し、第1受信用磁力計22bは当該第1電磁場を受信するのに適している。第1受信用磁力計22bは、第1電磁場(ひいては磁力計対22a、22b間の距離)の変化に応答可能であり、また、当該第1電磁場における第1の変化を表す第1の信号を生成し送信するのに適している。本発明の実施形態に係る電磁コイルは、「受信用」ないし「送信用」と記載されているが、各受信用コイルは、代わりに且つ独立して、送信用コイルであってもよいし、各送信用コイルは、代わりに且つ独立して、送信用コイルであってもよい。各コイルは、送信・受信の両機能を行うものであってもよい。
【0044】
第2送信用磁力計24aは第2電磁場を送信するのに適し、第2受信用磁力計24bは当該第2電磁場を受信するのに適している。一実施形態においては、第2受信用磁力計24bは、第1及び第2電磁場(ひいては磁力計対24a、24b間及び磁力計22a、24b間の距離)の変化に応答可能であり、また、当該第2電磁場における第1の変化を表す第2の信号と、当該第1電磁場における第2の変化を表す第3の信号とを送信するのに適している。
【0045】
以下、図3〜図7を参照して、本発明の新規な磁力計を詳細に説明するが、本発明が、本明細書中の磁力計の実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。本技術分野における通常の知識を有する者であれば理解するであろうが、解剖学的距離ないしパラメータをモニタリング及び/又は測定するのに、本発明の範囲内において種々の従来の磁力計を容易に用いることができる。
【0046】
まず、図3及び図4に、本発明の低背型磁力計80の一実施形態を示す。本発明の一実施形態においては、磁力計80は、導電性の円形コイル72を含む多層プリント回路を備える。
【0047】
本発明によれば、導電性のコイル72は、例えば銅、アルミやその他の導電性の金属等の標準的な導電性の電線を用いてコイルを巻回することで形成してもよいし、標準的な多層プリント回路技術を用いて製造してもよい。一実施形態においては、当該コイルは、直径約2インチで、各層にそれぞれ18ターン有し、各層を標準的なプリント回路層コネクタ(「ビア」)を用いて互いに直列に接続して計108ターンのコイルを形成した、6層のプリント回路基板により形成される。
【0048】
異なるサイズのコイルを、上記と同様の手法で、あるいは、薄い型にて巻回して得られたコイルを可撓な基板に接着することで形成することができることが理解される。このコイルの形状係数は、細長いコイルを強磁性のロッドに巻いて形成したソレノイド型の設計を利用した従来の呼吸系用磁力計の設計とは異なる。
【0049】
この磁力計80(及び関連するシステム)は、好ましくは、横方向に10cm〜40cm、軸方向に20cm〜50cmの物理的範囲に亘って動作し、上記距離に亘って極めて正確に変位を測定する能力を有する。システムのノイズも極めて少なく、10nV/rtHz未満であり、これを変換するとrmsで50ミクロンの測定誤差となる。
【0050】
一実施形態においては、磁力計80への電力は、電圧範囲が約2.8V〜3.7Vのバッテリーにより供給される。
【0051】
磁力計の回路(サーキットリー)は、制御されていない環境下にあるコイルに接続されるため、全ての接続を非常に広い周波数範囲に亘ってバランスさせるのが好ましい。外部接続を全てバランスさせることで、電磁両立性(EMC)の影響を、電磁波の放射(radiation)及び感受性(susceptibility)の両方について最小限に抑えることができ、静電気放電(ESD)が起こった際に極めて高いシステムのロバスト性が確保される。更に、接続をバランスさせることで、交流幹線の寄生ピックアップの除去にあたり60dB以上の低減効果が追加される。
【0052】
好ましくは、当該回路は、より小さな回路ブロックに分割される。各ブロックとしては、(i)マイクロコントローラ、(ii)A/D変換器(ADC)、記憶機構及びデジタル信号処理(DSP)、(iii)各種ドライバ、(iv)プリアンプ及び(v)入力バッファを挙げることができる。各回路ブロックにつき以下詳細に説明する。
【0053】
本発明によれば、ドライバ回路は、マイクロコントローラからの矩形波駆動を各コイルのための効率的な電流駆動に変換するとともに、実際の駆動信号のモニタリング情報(monitoring)をマイクロコントローラへ送り返す(図5参照)。演算増幅器が、マイクロコントローラの出力をバッファリングし、コイルをマイクロコントローラから絶縁する。
【0054】
多くのマイクロコントローラには十分な電流駆動能力があるので、(どのマイクロコントローラを選ぶかにより)バッファリングは必ずしも必要でない。
【0055】
比較的高電圧の矩形波駆動を、コイルの低電圧な駆動要件と整合させるために、インピーダンス整合コンデンサ網を使用する。これは、回路のQを利用するものであり、駆動の基本振動数成分を強化し、コイルを絶縁する。当該技術の使用により、コイルは、電源から1mAしか使用せずに約5.8mAで駆動する。
【0056】
保護ダイオードは、静電気放電(ESD)が起こった際に、既知の電圧にクランピングを行う。各ダイオードの静電容量は、1pF未満である。したがって、ダイオードは、通常の回路動作には何ら影響を与えない。
【0057】
本発明によれば、プリアンプ回路は、コイルからの微小な信号を取り出すために、低ノイズの利得を備えた、コイルに整合する網を提供する。
【0058】
図示の実施形態では、プリアンプは、二つのNPNトランジスタからなる単純な構造を備える。この接続形態では、搬送周波数で約90倍の利得を提供すべく低電力の2N5088高ベータトランジスタを利用する。バイパスコンデンサは、幹線周波数(50又は60Hz)を90:1以上で除去するよう選択される。プリアンプの出力は、グラウンドからVbeだけオフセットされる。
【0059】
出力フォロワは、電力消費を増大させることなくプリアンプの出力インピーダンスを低減するのに適しそのように設計される。100kΩの両端の電圧降下Vbeには、電源電流を6μAしか必要としないにもかかわらず、出力インピーダンスが120Ω未満まで低減される。
【0060】
好ましくは、プリアンプは、その入力ノイズ密度関数が10nV/√Hzであり、約14μA消費する。
【0061】
コンデンサ網は、コイルの低インピーダンスを、プリアンプの比較的高いインピーダンスに整合させ、これにより更に4倍の利得が追加される。したがって、プリアンプの総利得は360倍となる。
【0062】
本発明によれば、入力バッファ増幅器により、更に25倍の利得が追加され、マイクロコントローラでのデジタル化が可能な程度まで信号が増幅される(図7参照)。プリアンプからの信号は0.5mV〜60mVの範囲内にあるので、この段階で飽和することはまずないであろう。この時点では信号は十分大きく、単純なトランジスタ増幅器を用いた場合、容認できない歪みが生じてしまうので、演算増幅器を用いてもよい。
【0063】
本発明によれば、本発明の範囲内で、種々の系統の有効なマイクロコントローラチップを使用することができる。一実施形態では、テキサス・インスツルメンツ社製の「TI MSP430」マイクロコントローラチップを用いる。上記チップは、小サイズであり、必要な電流は3.5mA未満である。
【0064】
デジタル信号処理(DSP)機能に必要な要件は、ドライバに矩形波を4つ―1対を好ましくは8.95kHzで、他方の対を好ましくは8.85kHzで―供給することである。矩形波の各対は180度位相がずれている。
【0065】
マイクロコントローラは、20kHzよりも高いレートで8チャネルについて12ビットでデジタル化する能力があるのが好ましい。差動方式なので、入力値は、2つ一組で処理するのが好ましい。
【0066】
一実施形態では、8つのチャネルは、各時間サンプル毎にTxA、TxB、Rx1及びRx2を表す4つの値に縮約される。
【0067】
同じサンプリングレートで、4つの積、即ち、TxA*Rx1、TxA*Rx2、TxB*Rx1及びTxB*Rx2を生成するのが好ましい。これら4つの積を、Ss/Sp秒のランレングス(run length)の間4つのレジスタに蓄積する。したがって、ランレングス、即ちパケットサイズは400である。
【0068】
好ましくは、400蓄積毎に4つの値を取り出し、キャリブレーションファクターでそれらの値を調整し、呼吸系のサンプル値をメインコントローラへ供給する。
【0069】
図1を再び参照する。本発明によれば、制御データ処理サブシステム40は、データ取得サブシステム20(ひいては、これに関連する各磁力計)、データ送信サブシステム50及びモニターサブシステム60を制御するためのプログラム、指令や、関連するアルゴリズムを備える。
【0070】
制御データ処理サブシステム40は、更に、磁力計の場の変化(ひいては、磁力計対間の距離の変化)を反映する磁力計信号を取り込んで処理するようにプログラムされ構成されるとともに、少なくとも一つの呼吸系の特性(より好ましくは複数の呼吸系の特性)を含む、モニタリング中の被験者に関する解剖学的、生理学的及び/又は能力的な情報を(磁力計信号との相関関係において)求めるようにプログラムされ構成されている。なお、制御データ処理サブシステム40は、本明細書中、「プロセッサ・サブシステム」、「処理サブシステム」、「データ処理サブシステム」とも呼ぶ。これら「制御データ処理サブシステム」、「プロセッサ・サブシステム」、「処理サブシステム」及び「データ処理サブシステム」の各用語は、本願中、互いに置き換え可能なものとして用いられている。
【0071】
データモニターサブシステム60は、制御データ処理サブシステム40によって生成され送信された生理学的・能力的な特性・パラメータを表示するように設計され構成されている。
【0072】
本発明の実施形態によれば、データ送信サブシステム50は、上記通信リンク、ひいては、データ取得サブシステム20、制御データ処理サブシステム40及びデータモニターサブシステム60による各サブシステム間の送信をモニターし制御するようにプログラムされ構成されている。
【0073】
上記生理学的モニタリングシステムに関する更なる詳細については、2009年9月1日出願の米国仮出願第61/275,575号及び2010年8月26日に出願した同時係属中の米国出願第12/869,582号に記載されている。これら各文献の全体を本明細書に参照により援用する。
【0074】
本技術分野における通常の知識を有する者であれば容易に理解するであろうが、本発明の各磁力計は、各磁力計間の距離の変化(ないし変位)をモニタリング・測定すべく、被験者上の、解剖学的に適切な様々な位置に配置することができる。ここで、図8〜図10を参照する。これらの図は、上記で参照した米国仮出願第61/275,575号、米国出願第12/869,582号及び同時係属中の米国出願第12/231,692号に開示された発明に従って、被験者ないし患者100上に位置決めした各磁力計対22a、22b、24a、24bを示す。同様に、当該文献の全体を本明細書に参照により援用する。
【0075】
図8〜図10に示すように、第1送信用磁力計(即ち、第1送信器)22aは、好ましくは、被験者100の前側101であって被験者100の臍の近くに位置決めされ、第1受信用磁力計(即ち、第1受信器)22bは、好ましくは、軸方向に関しては上記と同じ位置の近くに、被験者100の後ろ側102に位置決めされる。第2受信用磁力計(即ち、第2受信器)24bは、好ましくは、被験者100の前側101であって胸骨の底部の近くに位置決めされ、第2送信用磁力計(即ち、第2送信器)24aは、軸方向に関しては上記と同じ位置の近くに、被験者100の後ろ側102に位置決めされる。
【0076】
被験者ないし患者100が呼吸をすると、各コイル対22a、22b及び対24a、24b間で測定された電圧変化から、胸郭及び腹部それぞれの変位(即ち、それぞれ矢印29及び矢印25で示す、各コイル対22a、22b及び対24a、24bの間の距離の変化)が求められる。また、送信用コイル22aと受信用コイル24bとの間で測定された電圧変化から、矢印23で示す胸壁の軸方向の変位(例えば、臍からの距離(xiphi-umbilical distance(Xi)))も求められる。本実施形態においては、磁力計24bは、デュアル機能電磁コイルであり、「デュアル機能コイル」とは、複数の異なる送信用コイルからの送信を受信することのできるコイルを意味する。(したがって、磁力計24bは、磁力計22a及び24aからの磁場送信を受信するのに適している。)
【0077】
上述したように、測定した変位は、少なくとも一つの呼吸系の特性を含む、測定中の被験者100に関する解剖学的・生理学的情報を求めるのに通常用いられる。2009年9月1日出願の米国仮出願第61/275,575号及び同時係属中の米国出願第12/869,582号に記載されているように、更に追加の磁力計対を使用してもよく、測定した複数の変位は、更に追加の解剖学的・生理学的・能力的特性―例えば、胸壁の動作と、呼吸活動や会話、くしゃみ、笑うこと、咳等の呼吸に関連する事象との関係性の決定・特徴づけ―を評価するのに用いることができる。
【0078】
また、2009年9月1日出願の米国仮出願第61/275,575号及び同時係属中の米国出願第12/869,582号に記載されているように、データ取得サブシステム20は、更に、モニタリング中の被験者100に関する一以上の生理学的特性をモニターし記録するのに適した更に追加の生理学的センサーを少なくとも一つ(好ましくは、更に追加の生理学的センサーを複数)備えてもよい。この生理学的センサーとしては、脳、心臓及び他の筋肉の電気的活動(例えばEEG、ECG、EMG等)、脈拍数、血中酸素飽和度(例えばSpO)、皮膚温度及び核心温度をモニターし記録するのに適したセンサーを含みうるが、これらに限定されるものではない。測定及び/又は算出される生理学的パラメータとしては、例えば、心拍数、呼吸速度、血中酸素濃度、血流量、水和状態、消費カロリー、筋肉疲労及び/又は体温を含みうる。
【0079】
生理学的センサー(及び関連するシステム)の一例は、2003年4月22日発行の米国特許第6,551,252号、2007年9月11日発行の米国特許第7,267,652号、2007年6月18日に出願した同時係属中の米国特許出願第11/764,527号及び国際出願第PCT/US2005/021433号に開示されている。これら各文献の全体を本明細書に参照により援用する。
【0080】
また、データ取得サブシステム20は、モニタリング中の被験者が発した音をモニターするための、例えばマイクロホン等の一以上の音声センサーと、モニタリング対象の被験者とモニタリング局ないしモニタリング者とによる、両者間における双方向通信を可能にするスピーカとを備えてもよい。
【0081】
本発明の幾つかの実施形態においては、データ取得サブシステム20は、被験者の位置・向き及び/又は動作、例えば空間的パラメータを直接モニターするための手段を備えてもよい。本発明によれば、被験者の位置・向きや動作をモニターないし測定するのに種々の従来の手段を使用することが可能であり、例えば、光学エンコーダ、近接スイッチ、ホール効果スイッチ、レーザー干渉計、加速度計、ジャイロスコープ及び/又は全地球測位システム(GPS)等が含まれる。
【0082】
一実施形態においては、被験者の位置・向きや動作を直接モニターするための上記手段は、多機能慣性センサー(例えば、3軸加速度計や3軸ジャイロスコープ)を少なくとも一つ備える。本技術分野で周知のように、被験者の位置・向きや動作は、多機能慣性センサーから送信される信号ないしデータから容易に求めることができる。
【0083】
<生理学的モニタリング衣類>
上述したように、本発明の生理学的モニタリング衣類は、上記生理学的モニタリングシステムと協働するのに適し且つそのように構成された着用可能な衣類を含む。したがって、本生理学的モニタリング衣類は、上述した対を成す磁力計22a、22b、24a、24b等の磁力計対及び/又は一以上の生理学的センサー、関連するプロセッサ、制御ユニット及び回路を備えうる。生理学的センサーとしては、脳、心臓及び他の筋肉の電気的活動(例えばEEG、ECG、EMG等)、脈拍数、血中酸素飽和度(例えばSpO)、皮膚温度及び核心温度をモニターし記録するのに適したセンサーを含みうるが、これらに限定されるものではない。測定及び/又は算出される生理学的パラメータとしては、例えば、心拍数、呼吸速度、血中酸素濃度、血流量、水和状態、消費カロリー、筋肉疲労及び/又は体温を含みうる。
【0084】
本発明によれば、生理学的モニタリング衣類は、例えば、シャツ、ベスト、ジャケット、バンド等の、被験者の身体の少なくとも一部を覆うのに適した種々の衣類や物品を含みうる。したがって、以下に記載するモニタリング衣類はベストに関するものであるが、本発明が当該記載の衣類に限定されるものではないことを理解されたい。
【0085】
ここで図11〜図13を参照する。これらの図に、本発明の生理学的モニタリング衣類110の一実施形態を示す。図13に示すように、モニタリング衣類110は、好ましくは、身体になじむ衣類(この例では、身体になじむ袖なしシャツ又はベスト)を含む。
【0086】
生理学的モニタリング衣類ないしベスト110は、好ましくは、前パネルないし前方部112と、後ろパネルないし後方部114とを備え、ベスト110の、好ましくは一方の側部に配設された開口部111を有する。図示の実施形態では、ベスト110は、更に、底パネルないし底部116を備える。
【0087】
図12に示すように、前パネル112及び後ろパネル114は、ベスト110を被験者の胴体に留めるための、協働する閉止手段115aを備える。本発明によれば、ベスト110を簡単に閉止できるように、例えば、ベルクロ社製の「ベルクロ」(登録商標)等のパイル・アンド・フック機構(面ファスナー)、スナップファスナー、ジッパーファスナー等の種々の従来の閉止手段をベスト110に組み込んでもよい。
【0088】
本発明の好ましい実施形態では、閉止手段115aは、従来式の一体型のジッパーファスナー機構を備える。一実施形態においては、ジッパーファスナー機構からなる閉止手段115aは、前パネル112と後ろパネル114とを互いに閉止するとともに、ジッパーのツマミ115bを移動させて下方向(矢印Aにて図示)に沿ってジッパーの歯同士を噛合させることで被験者の身体にベスト110を留めるのに適するとともにそのように配置されている。
【0089】
本発明によれば、ベスト110は、着用可能な衣類ないし衣類に適した材料であればどのようなものを含んでもよい。一実施形態においては、ベスト110を身体に留めた際にそれが体形になじむ(即ち、身体になじむ)ことができるように、ベスト110は、例えば、デュポン社製の「ライクラ」(登録商標)等のポリウレタン−ポリ尿素コポリマー等の弾性材料を含む。
【0090】
ここで図14及び図15を参照する。一実施形態においては、ベスト110は、外層120と内層124とを備え、各層120、124は好ましくは同じ材料からなる。ベスト100上の適切な解剖学的位置及び/又は所望の位置には、少なくとも一つの衣類ポケット122(好ましくは複数の衣類ポケット122)が設けられる。
【0091】
本発明によれば、ポケット122は、モニタリングシステムの選択的な構成要素(例えば、磁力計22a、22b、24a、24b、生理学的センサー、これらに関連するプロセッサや制御ユニット等)を容易に収容し且つ確実に位置決めするために、種々の形状・大きさを採りうる。
【0092】
また、ポケット122は、種々の従来の手段によって形成してもよい。一実施形態においては、ポケット122は、一方のパネル(例えば、パネル120又はパネル124)を切って開口を形成して、ポケットの縁を縫合することで所望の大きさ・形状の閉じたポケットとすることで作成される。一実施形態においては、予め形成したポケットを、ベスト110上又はベスト内(例えば、ベストパネル120、124の間)に縫い付ける。
【0093】
ここで図16を参照する。当該図に、本発明による予め形成したポケット130の一実施形態を示す。ポケット130は、本例ではポケット130の上部近くに設けられた開口134を備える。好ましい実施形態では、開口134を補強する。
【0094】
図示の実施形態においては、ポケット130は、ベストパネル120、124の間に縫い付けられる(参照符号「132」にて概略的に図示する)。上述のように、ポケット130は、上パネル120又は下パネル124の外表面上に又は外表面に対して縫い付けてもよい。
【0095】
上述のように、ポケット122、130は、モニタリングシステム10の選択的な構成要素―例えば、使用される磁力計、プロセッサ、制御ユニット等―を収容し且つ確実に位置決めするのに適し且つそのように構成される。
【0096】
また、上述のように、磁力計(例えば磁力計22a、22b、24a、24b)や、任意で使用される追加のセンサーは、ベスト110上又は内の事実上いかなる所望の位置にも位置決めすることができる。それにより、被験者がベスト110を着用したとき、磁力計や他のセンサーは、被験者の身体上の解剖学的に適切な又は所望の位置の直ぐ近くに位置決めされることとなる。
【0097】
モニタリングシステムの各構成要素への送電と、各構成要素による構成要素間の通信を容易にするために、ベスト110は、少なくとも一つの衣類回路(garment circuit)(好ましくは複数の衣類回路)を更に備え、当該衣類回路は、それに関連づけられた一体型の衣類用導体を少なくとも一つ有する。
【0098】
ここで図17及び図18を参照する。これらの図に示すのは、生理学的モニタリング衣類110の一実施形態であって、当該衣類は、これに関連づけられた複数の一体型の衣類用導体を有する。図17及び図18に示すように、本発明の幾つかの実施形態においては、衣類110は、第1の複数の一体型の導体ないし経路152を備える。幾つかの実施形態においては、当該第1の複数の一体型の導体152は、略水平方向に配設される。幾つかの実施形態においては、第1の複数の一体型の導体は、伸長可能な導体を含む。
【0099】
本発明によれば、上記第1の複数の一体型の導体152を設け(ないし構築し)、ひいては、磁力計等のセンサーや電子ユニットによる当該機器間の接続を容易にするために、種々の導電性の材料を、例えば織り込んだり、編み込んだり、表面に取り付けたりすることで、衣類110に組み込むことができる。
【0100】
本発明によれば、これら導電性の経路152を組み込む手法は、布地の作成法(例えば編んだのか織ったのか)に基づいて選択される。採用可能な実施形態としては、銀メッキした糸、銀を含有する糸や、その他の導電性の糸状材料を含みうるが、従来の銅配線は除くものとする。
【0101】
本発明の幾つかの実施形態においては、衣類110は、衣類外層120及び衣類内層124上に配設されたセンサー及び関連する機器による当該センサー・機器間の接続を容易にする導電性のコネクタを少なくとも一つ(より好ましくは導電性コネクタを複数)備える。一実施形態では、当該コネクタは、銀メッキしたスナップファスナーを含む。
【0102】
本発明によれば、生理学的モニタリング衣類110は、第1の複数の一体型の導体152と通信状態にある中央通信路(点線で図示。概ね参照符号「154」にて示す。)を更に備える。本発明によれば、中央通信路154は、細い電線を含むリボンや、金属被覆された、又は、他の手法で導電性を付与された撚り糸、糸又は布地の帯状片を含む一連のディスクリート・チャンネルを含みうる。
【0103】
図17及び図18に図示した実施形態では、生理学的モニタリング衣類110に関連づけられたモニタリングシステム10は、磁力計システム(例えば、磁力計対155a、155b、155c、155dと、図示しない少なくとも一つのECGセンサー)を備える。したがって、図17及び図18に示すように、モニタリング衣類110は、磁力計対155a、155b、155c、155dを収容し且つ確実に位置決めするように構成された複数のポケット133を備える。
【0104】
図19〜図21に示すように、生理学的モニタリング衣類110は、これに関連づけられた磁力計回路156と、ECG回路158とを更に備える。本発明の一実施形態では、磁力計回路156は、シャツの一方の側部に沿って鉛直方向に配置された導体であって、衣類110に織り込まれた水平方向の導体に接続された導体を複数対備える。本発明によれば、鉛直方向の対と水平方向の対との間の接続は、導電性材料で縫ったり、導電性エポキシで繋げたり、或いは好ましくは、標準的な圧着式の穿孔ファスナー(standard crimped-on piercing fasteners)によって鉛直方向の導体及び水平方向の導体に取り付けられる標準的な小型の衣類用スナップファスナーによって、確立することができる。
【0105】
一実施形態においては、衣類110の胸部及び腹部の領域に位置付けられた磁力計についても、同様の鉛直方向・水平方向の導体対が用いられる。
【0106】
本発明の一実施形態においては、ECG回路158は、シャツの一方の側部に沿って鉛直方向に配置された導体であって、衣類110に織り込まれた水平方向の導体に接続された導体を複数対備える。鉛直方向の対と水平方向の対との間の接続は、同様に、導電性材料で縫ったり、導電性エポキシで繋げたり、或いは好ましくは、標準的な圧着式の穿孔ファスナー(standard crimped-on piercing fasteners)によって鉛直方向の導体及び水平方向の導体に取り付けられる標準的な小型の衣類用スナップファスナーによって、確立することができる。
【0107】
また、幾つかの実施形態においては、水平方向の導体は、心臓の電気的活動を感知するための所望の位置の直ぐ近くに位置付けられた織り込み型の導電性パッチ157にて終端する。パッチ157は、それ自体がECGセンサーとして機能してもよいし、或いは、例えばパッチ内に圧着式のスナップファスナーを設けることで標準的な接着式ECG電極に電気的に接続されてもよい。
【0108】
<衣類の組み立て法>
以下、本発明のモニタリング衣類の組み立て法(construction)について詳細に説明するが、以下に記載する組み立て法は、モニタリング衣類を組み立てる方法の一例を示すのみであり、本発明の範囲を何ら限定するものではないことを理解されたい。
【0109】
一実施形態においては、衣類110は、導電性の糸と非導電性の糸とを使用して筒状の衣類部分を編み上げることを含む、半自動化された方法により組み立てられる。当該衣類部分は、衣類110の外層となるべき部分に編み込まれた水平方向の導電性領域と、衣類110の内層におけるECG電極となるべき領域に編みこまれた導電性のパッチと、衣類110のウエストバンドを形成すべく、弾性を有するように編まれた独立したバンドと、電子モジュールを収容するためのポケットとを備える。
【0110】
別の作業において、金属を含む導電性の糸と非導電性の材料とから織布リボンコネクタ(woven ribbon connector)を作成する。その一端に圧着コネクタを取り付けるとともに、編み込まれた水平方向の各導体と接続するための各取出し点(break-out points)に、鉛直方向に沿ってスナップファスナーを取り付ける。上記筒状部分をそれ自体の上に折り返して内層を外層の中に配置し、腕・首用の開口部を形成して、上記ウエストバンドを縫い付ける。衣類にスナップファスナーを取り付け、これにより、外層の導体からECGパッチへの接続を確立するとともに、鉛直方向のリボンケーブルへの接続点を提供する。
【0111】
磁力計、リボンケーブル及び電子モジュールのためのポケットを、例えば音波溶接、縫合、接着等の処理によって形成する。スナップファスナーを使って磁力計を取り付けるとともに、鉛直方向のリボンも挿入し、織り込んだ導体に対してスナップファスナーによって接続する。
【0112】
本技術分野における通常の知識を有する者であれば容易に理解するであろうが、上述した本発明の生理学的・能力的モニタリング衣類及び関連するシステムには、従来の生理機能モニタリング方法・システムと比較して、多くの顕著な利点がある。それら利点のうちの一つとしては、複数の生理学的特性を正確且つリアルタイムに求めることができ、動き易さを阻害せず、簡単に製造することのできる生理学的モニタリング衣類が実現される点が挙げられる。また、上記生理学的モニタリング衣類は、多くの用途、例えば、歩行可能な外来患者の在宅でのモニタリングや、ストレスや危険を伴う可能性のある状況下にある被験者や、運動及び/又は競技のトレーニング中の被験者のモニターにおいても有用である。
【0113】
本発明の更なる利点や用途は、2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,578号、2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,582号、2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,576号、2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,585号、2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,592号、2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,625号及び2010年8月26日出願の米国特許出願第12/869,586号に開示されたシステム及び方法を参照すれば明らかである。これら各文献の全体を本明細書に参照により援用する。
【0114】
当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明を種々の用途や条件に適合させるために本発明を種々変更・修正することができる。よって、そのような変更・修正も、適正且つ衡平に、本発明の均等の全範囲の内に包含されることを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体的活動に携わっている被験者の生理学的パラメータをモニターするためのフィットネスモニタリングシステムであって、
第1センサー及び第2センサーを備えたセンサーサブシステム
を備え、
前記第1センサーは、プリント回路基板により形成される導電性の円形コイルを備えた多層プリント回路を備え、各層は、互いに直列に接続されており、
前記第1及び第2センサーは、パラメータの変化に応答可能であり、
前記センサーサブシステムは、前記パラメータを表す信号を生成し送信するように構成される、フィットネスモニタリングシステム。
【請求項2】
前記導電性の円形コイルは、各層に18ターン有する6層のプリント回路基板を含むことを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コイルは、直径が約2インチであることを特徴とする、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記各層は、プリント回路層コネクタを用いて互いに直列に接続されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記磁力計へ電力を供給するように構成された、電圧範囲が約2.8V〜3.7Vのバッテリーを更に備えることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
マイクロコントローラと、
前記マイクロコントローラからの矩形波駆動を、コイルのための効率的な電流駆動に変換するとともに、実際の駆動信号のモニタリング情報を前記マイクロコントローラへ提供するように構成されたドライバ回路と
を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記センサーサブシステムと通信状態にあり、前記信号を受信するように構成されたプロセッサ・サブシステムであって、前記センサーサブシステムを制御するとともに前記信号を処理するのに適しそのようにプログラムされたプロセッサ・サブシステムであって、前記信号から呼吸系の特性を求めるための経験的関係式を備えたプロセッサ・サブシステムであって、前記呼吸系パラメータを表す呼吸系パラメータ信号を生成し送信するのに適したプロセッサ・サブシステムを更に備えることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1及び第2センサーは、両センサー間の距離の変化に応答可能であり、
前記信号は、前記第1及び第2センサー間の距離の変化を表すものであることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記矩形波駆動を、前記コイルの電圧駆動要件と整合させるように構成されたコンデンサ網を更に備えることを特徴とする、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
前記センサーサブシステムは、前記被験者の動作をモニターするための装置を備えることを特徴とする、請求項1に記載のフィットネスモニタリングシステム。
【請求項11】
前記センサーサブシステムは、慣性センサーを備えることを特徴とする、請求項10に記載のフィットネスモニタリングシステム。
【請求項12】
前記センサーサブシステムは、GPS受信器を備えることを特徴とする、請求項10に記載のフィットネスモニタリングシステム。
【請求項13】
被験者のパラメータをモニターするためのシステムであって、
モニタリング衣類と、
前記モニタリング衣類に取り付けられる磁力計と、
前記磁力計に接続される一体型の衣類用導体を備えた衣類回路であって、前記磁力計との間での信号の送信を可能とするように構成された衣類回路と
を備えるシステム。
【請求項14】
前記モニタリング衣類は、被験者の身体になじむように構成されることを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記モニタリング衣類は、弾性材料から形成されることを特徴とする、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記弾性材料は、ポリウレタン−ポリ尿素コポリマーを含むことを特徴とする、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記一体型の衣類用導体は、伸長可能であることを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記一体型の衣類用導体は、銀を含有する糸を含むことを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
前記磁力計を収容し且つ確実に位置決めするように構成されたポケットを更に備えることを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【請求項20】
前記ポケットは、前記モニタリング衣類の外層と内層との間に設けられることを特徴とする、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
生理学的モニタリング衣類の製造方法であって、
導電性の材料と非導電性の材料とを使用して、水平方向の導電性領域を備える外層と、導電性のパッチを備える内層とを有する衣類を作成することと、
前記衣類にポケットを形成することと、
前記ポケットに磁力計を挿入することと、
前記磁力計を、前記衣類の前記導電性材料に接続することと
を備える製造方法。
【請求項22】
前記導電性材料は、導電性の糸を含むことを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ポケットは、音波溶接、縫合又は接着のうちの少なくとも一つにより形成されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ポケットは、前記モニタリング衣類の前記外層と前記内層との間に形成されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記磁力計は、スナップファスナーにより前記導電性材料に取り付けられることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記導電性材料は、被験者が前記衣類を着用している際に、前記被験者の心拍数を測定するように構成されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−104351(P2011−104351A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−196123(P2010−196123)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(510204998)アディダス アーゲー (30)
【Fターム(参考)】