説明

生菌剤添加飼料

【課題】 商品性を低下させることなく、生菌を添加できるようにした生菌剤添加飼料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 粉砕した原料を調湿し、蒸煮した後、溶融状態で押し出し、ペレット状に切断することにより、飼料を製造するにあたり、切断されたペレット状の飼料と所定量の生菌剤とをミキサー内で攪拌し、熱溶解した蜜蝋またはエステルによって生菌剤をペレット状飼料の表面にコーティングして定着させる。
コーティング剤には各種蔗糖脂肪酸エステルを用いるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生菌剤添加飼料に関し、例えば観賞魚用の飼料に生菌剤を常温で固形で生菌生育可能な温度で溶融可能であるコーティング層で定着させたペレット状飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、動物の消化管内において有用に作用する微生物を有効成分とする生菌剤が人間の健康食品として注目され、種々の生菌剤が研究されて開発され、市場に提供されるようになっている。
【0003】
畜産や水産の分野においても上述の生菌剤の活用が注目される傾向にあり、飼料に生菌剤を添加することが求められている。
【0004】
しかし、生菌剤は生きていてこそ、その効果を発揮するものであるが、通常の飼料製造工程において原料に生菌剤を混ぜ込んで飼料を製造すると、製造中に原料が数秒間ではあるものの、120°Cないし140°Cの高温となるので、生菌の大部分が死滅してしまうという問題があった。
【0005】
これに対し、オイルによって生菌剤をペレット状飼料の表面にコーティングし、生菌を死滅させることなく添加できるようにしたようにした生菌剤添加飼料が開発されて市販されるようになった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−57120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、飼料をオイルによってコーティングすると、給餌時に水面に油膜が生じたり水が白濁することがあり、又飼料の包装材、例えば袋にオイルが付着あるいはしみ込み、さらには飼料の粒に色目のムラが生じ、ユーザに変色したような印象を与えるおそれがあり、商品性が悪くなるという問題があった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み、商品性を低下させることなく、生菌を添加できるようにした生菌剤添加飼料を提供することを課題として鋭意研究の結果、従来食品添加剤として使用されており、安全性が確保されているエステル系乳化剤が上記オイルに代わる被覆材として有用であることを見出した。
さらに、このエステル系乳化剤はオイル使用における問題を解消するだけでなく、化学的構成により脂溶性から水溶性に至る多種にわたり、その選択使用により、ペレット状飼料の水槽への投入時に飼料にとって必要な浮上性又は沈下性を阻害することなく、自在に水中での挙動を調整できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、ペレット状飼料の表面に所定量の生菌剤を担持し、該ペレット状飼料の表面に常温で固形で生菌生育可能な温度で溶融可能である少なくとも1層のコーティング層を形成してペレット状飼料の表面に近いコーティング層で生菌剤を飼料表面に定着してなることを特徴とする生菌剤添加飼料にある。
【0010】
本発明では、飼料表面に生菌定着のためのコーティング層を有するが、その上に第2のコーティング層を形成してもよい。コーティング層は1層または多層で形成されると、最外層のコーティング層は脂溶性の場合は浮上性に影響を与えず、水溶性の場合は沈下性に影響を与えない。そのため、飼料が沈下粒の場合には最外層のコーティング層はその沈下性を阻害しないようにグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から水溶性のコーティング剤が選ばれるのがよく、他方、飼料が浮上粒の場合には蜜蝋または、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から脂溶性または水溶性のいずれのコーティング剤が選ばれても浮上性を示す場合が多い。
【0011】
また、上記生菌定着のためのコーティング層は、沈下性と浮上性の中間の物性を有するものであっても飼料粒物性沈下性又は浮上性とは逆性の物性を有するものであってもよく、要するに上記生菌定着のためのコーティング層は常温で固形で、生菌の生育可能温度以下で加熱溶融可能なものであればよく、加熱溶融温度の高いもので90〜100℃、低いもので60〜70℃ものが選ばれる。
【0012】
蔗糖脂肪酸エステルにはステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、酢酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸等があり、親水性と親油性のバランスの幅が他のエステル系に比べて広いという特徴があり、本発明において好ましいコーティング剤である。
【0013】
生菌剤添加飼料を製造するにあたっては、上記切断されたペレット状の飼料と所定量の生菌剤とをミキサー内で攪拌し、蜜蝋またはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種であって、常温で固形で生菌剤耐熱温度で加熱溶解可能なコーティング剤によってペレット状飼料の表面をコーティングし、冷却して生菌剤をペレット状飼料の表面に定着させる。
【0014】
本発明によれば、コーティング層が常温で固形をなすことにより、生菌剤がペレット状飼料の表面に定着され、給餌時に水面に油膜を生じたり水を白濁することがない。また飼料の包装材、例えば袋がべたついたりしみ込んだりすることはない。さらには、飼料の粒に色目のムラが生じることはなく、ユーザに変色したような印象を与えるおそれもない。
【0015】
さらに、コーティング層の溶解温度が生菌の生育可能温度以下であることにより、生菌を死滅させることなく飼料を被覆し、定着することができるので、オイルに代えて生菌剤の定着された新規な生菌剤添加飼料を提供することができる。
【0016】
生菌剤添加前の飼料自体の製造には畜産用飼料あるいは水産動物用飼料の従来公知の製造方法、例えば観賞魚用飼料の場合にはエクスパンディット法を採用することができる。
【0017】
生菌剤には好気性菌(例えば、バチルス属菌)、嫌気性菌(例えば、クロシトリジウム属菌)あるいは乳酸菌(ビフィズス菌、乳酸球菌、乳酸桿菌)等、目的とする効能に応じて適宜選択して用いるのがよい。
【0018】
また、生菌剤添加飼料は生菌の効能を維持したまま長期保存できるのが好ましい。そこで、好気性菌及び嫌気性菌には芽胞形成菌を用いるのがよい。例えば、バチルス属の芽胞形成菌、クロシトリジウム属の芽胞形成菌等である。
【0019】
また、生菌剤を畜産動物や水産動物に悪影響を与えない食品添加物であるエステル系乳
化剤によって飼料表面にコーティングさせると、畜産動物や水産動物が健康に悪影響を受けることがない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施例1〜4〕浮上粒―脂溶性コーティング
錦鯉用飼料の原料(フィッシュミール、卵類、脱脂粉乳、小麦粉、脱脂胚芽、リン酸塩、酵母、藻類、消化酵素、魚油、各種ビタミン・ミネラル)を粉砕機で細かく粉砕し、これをエキスパンディットぺレット(以下、EPという)ミルによりペレット状に成形し、3、4、5、6mm径のEPを調整した。EPミルでは供給された原料粉がコンディショナーで温水や蒸気によって調湿され、クッカーにおいて蒸煮され、エクストルーダに送給される。
【0021】
エクストルーダでは送給された原料がスクリュープレスによって強圧され、摩擦熱によって更に過熱され、数秒間の間120°Cないし140°Cの高温となり、出口付近では溶融状態となってダイから大気中に放出される。この時、高温高圧により内部水分は急激に蒸発し、α化又はゼラチン化したデンプン質や熱変成したタンパク質の被膜が膨化して多孔質となり、浮上粒を調製する。
【0022】
こうして得られたペレット状飼料40kgとバチルス属菌の生菌剤40gをドラムミキサーに入れ、そこに飼料に対して0.5、1、2、3、4、5重量%の脂溶性の蔗糖脂肪酸エステル(HLB値=1)を添加し、60°Cに加熱しながらドラムミキサーを5分間回転させて生菌剤添加飼料を製造した。
【0023】
〔実施例5〜8〕浮上粒―水溶性コーティング
実施例1〜4と同様にして浮上性飼料を得た後、水溶性の蔗糖脂肪酸エステルを用いて生菌剤添加飼料を製造した。
【0024】
〔実施例9〜12〕沈下粒―脂溶性コーティング
EPミルでの加水量を調整して沈下性飼料とした以外、実施例1〜4と同様にして脂溶性の蔗糖脂肪酸エステルを用いて生菌剤添加飼料を製造した。
【0025】
〔実施例13〜16〕沈下粒―水溶性コーティング
EPミルでの加水量を調整して沈下性飼料とした以外、実施例5〜8と同様にして水溶性の蔗糖脂肪酸エステルを用い、生菌剤添加飼料を製造した。
【0026】
〔実施例17〜20〕緩慢沈下粒−水溶性コーティング
EPミルでの加水量を調整して緩慢沈下性飼料とした以外、実施例5〜8と同様にして水溶性の蔗糖脂肪酸エステルを用い、生菌剤添加飼料を製造した。
【0027】
〔実施例21〜24〕緩慢沈下粒−脂溶性コーティング
EPミルでの加水量を調整して緩慢沈下性飼料とした以外、実施例1〜4と同様にして脂溶性の蔗糖脂肪酸エステルを添加し、生菌剤添加飼料を製造した。
【0028】
〔試験例1〕
実施例1〜24で得られた飼料の表面の菌数を調べたところ、熱溶解したエステルの影響によって生菌は加熱前と比較すると、64%以上の生菌が残存していることが確認された。
【0029】
〔試験例2〕
実施例1〜12によって得られた飼料を水面に投入したところ、全て粒が完全に浮上した。また、水面の油膜や水の白濁は見られなかった。
【0030】
〔試験例3〕
実施例13〜16によって得られた飼料を水面に投入したところ、全て粒が完全に沈下した。また、水面の油膜や水の白濁は見られなかった。
【0031】
〔試験例4〕
実施例17〜20によって得られた飼料を水面に投入したところ、水面の油膜や水の白濁は見られなかったが、沈降性にバラツキが見られ、1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%と水溶性蔗糖脂肪酸エステルの使用濃度が高くなると、沈下率が上昇する、沈降開始時間が早まる作用が確認された。
つまり、水溶性エステルの使用濃度を調整することによって沈降開始時間や沈下率を操作できることが分かった。
【0032】
〔試験例5〕
実施例21〜24によって得られた飼料を水面に投入したところ、水面の油膜や水の白濁は見られなかったが、沈降性にバラつきが見られ、使用濃度が多くなると緩慢沈下から浮上性に変化することが分かった。
【0033】
以上の試験例1〜4から、
1)観賞魚用のEPに生菌剤を安定に添加できる、
2)特別な加工ラインを増設する必要がなく、コスト高を招来しない、
3)水面に油膜を生成したり水を白濁させることがない、
4)沈下粒、緩慢沈下粒に脂溶性エステルを適量使用することにより、浮上粒とすることができる、
5)緩慢沈下粒に水溶性エステルを適量使用することにより、沈降開始時間や沈下率を操作することができる、
6)包装材がべたついたりしない、
ことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレット状飼料の表面に所定量の生菌剤を担持し、該ペレット状飼料の表面に常温で固形で生菌生育可能な温度で溶融可能であるコーティング層を少なくとも1層形成してペレット状飼料の表面に近いコーティング層で生菌剤を飼料表面に定着してなることを特徴とする生菌剤添加飼料。
【請求項2】
上記定着コーティング層が蜜蝋またはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる常温で固形で生菌生育可能な温度で溶融可能であるコーティング剤で形成される請求項1記載の生菌剤添加飼料。
【請求項3】
上記ペレット状飼料が浮上粒であって、上記定着コーティング層が蜜蝋またはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる脂溶性または水溶性コーティング剤からなり、浮上性を有する請求項1記載の生菌剤添加飼料。
【請求項4】
上記ペレット状飼料が沈下粒であって、上記定着コーティング層が蜜蝋またはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる水溶性コーティング剤であって、沈下性を有する請求項1記載の生菌剤添加飼料。
【請求項5】
上記ペレット状飼料が緩慢沈下粒であって、上記定着コーティング層が蜜蝋またはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる脂溶性コーティング剤であって、浮上性を有する請求項1記載の生菌剤添加飼料。
【請求項6】
上記ペレット状飼料が緩慢沈下粒であって、上記定着コーティング層が蜜蝋またはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる水溶性コーティング剤であって、沈下性を有する請求項1記載の生菌剤添加飼料。
【請求項7】
エステルとして、蔗糖脂肪酸エステルの1種を用いる請求項2に記載のペレット状飼料。
【請求項8】
上記生菌剤が、好気性菌、嫌気性菌及び乳酸菌の群から選ばれる生菌を主成分とするものである請求項1記載の生菌剤添加飼料。
【請求項9】
上記好気性菌及び嫌気性菌が芽胞形成菌である請求項1記載の生菌剤添加飼料。
【請求項10】
粉砕した原料から生菌剤添加飼料を製造するにあたり、蜜蝋または、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび蔗糖脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種であって、常温で固形で生菌生育可能温度以下で加熱溶融可能であるコーティング剤を選択して溶融し、ペレット状飼料に対し0.5〜5重量%のコーティング層を冷却して形成することを特徴とする生菌剤添加飼料の製造方法。

【公開番号】特開2011−15626(P2011−15626A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161371(P2009−161371)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(502239379)キョーリンフード工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】