説明

産業資材用膜材

【課題】従来対比、高強力であり、かつ耐熱性、屈曲性に優れた産業資材用膜材を提供すること。
【解決手段】ポリエステル繊維と樹脂からなり、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とする産業資材用膜材。さらには、該樹脂が熱可塑性樹脂であることや、該層状ナノ粒子が金属元素を含有すること、該層状ナノ粒子が金属−リン化合物であることが好ましい。また、ポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましく、該樹脂からなる樹脂層の厚さが250μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業資材用膜材に関し、さらに詳しくは樹脂と繊維からなる高強度の産業資材用膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
テントや帆布、ターポリン、養生シート、防水シート、膜式ガスホルダー、飛行船や気球の外皮膜など様々な用途において、産業資材用膜材が使用されている。これらの用途に用いられる産業資材用膜材は、一般に塩化ビニル樹脂などの樹脂層内部に、強度を確保するための補強用基布が埋設された構成を有するものである。
【0003】
この産業資材用膜材に用いられる補強用基布としては、その用途に応じポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、そして全芳香族ポリアミド繊維、ガラス繊維などの繊維が使用されている。しかしその主流は、強力や伸度、屈曲性などの糸物性やリサイクル性、コストなどのバランスの面から、ポリエステル繊維がもっとも多く使用されている。例えば特許文献1や特許文献2では、ポリエステルマルチフィラメントからなる産業資材用膜材が具体的に提案されている。
【0004】
だが、通常のポリエステル繊維を産業資材用膜材に用いた場合には、屋外使用時に太陽熱などによって膜材が高温になった際の、強度の低下率が大きいという問題があった。また、繰り返し屈曲して使用した時の強度低下率が大きいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−321132号公報
【特許文献2】特開2007−333045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来対比、高強力であり、かつ耐熱性、屈曲性に優れた産業資材用膜材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の産業資材用膜材は、ポリエステル繊維と樹脂からなる産業資材用膜材であって、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0008】
さらには、該樹脂が熱可塑性樹脂であることや、該層状ナノ粒子が金属元素を含有すること、該層状ナノ粒子が金属−リン化合物であることが好ましい。また、ポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましく、該樹脂からなる樹脂層の厚さが250μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来対比、高強力であり、かつ耐熱性、屈曲性に優れた産業資材用膜材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の産業資材用膜材は、ポリエステル繊維と樹脂からなるものである。そして膜材を構成するポリエステル繊維が層状ナノ粒子を含み、当該層状ナノ粒子の1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmであることを必須とする。
【0011】
そこでまず本発明の産業資材用膜材を構成するポリエステル繊維について以下説明する。
このポリエステル繊維に用いられるポリエステルポリマーとしては、汎用的なポリエステルポリマーであれば用いられるが、中でもポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましい。とりわけ物性に優れ、大量生産に適したポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。ポリエステルの主たる繰返し単位としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上さらには90モル%以上含有されていることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0012】
そして本発明の産業資材用膜材を構成するポリエステル繊維は上記のようなポリエステルからなる繊維であって、かつ1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを必須とする。通常のポリエステル繊維では、そのエステル交換触媒・重縮合触媒として用いられた球状の粒子を含むことが多いが、本発明ではその粒子の形状が、層状ナノ粒子であることにその最大の特徴がある。この本発明の作用機構は定かではないが、ポリマー中の粒子形状が層状構造をとることにより、球状粒子に比べてその表面積が大きくなり表面エネルギー活性も高く、結晶核剤としての作用を促進させるためであると考えられる。そしてこの微粒子が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmとの微小構造をとることによりさらにポリマーの結晶性が向上し、結晶構造の均一化や微分散化が促進され、分子配向を適切に抑制するため、繊維の物性が著しく向上したものであると考えられる。またこの層状ナノ粒子としては触媒となる金属成分が含有されていることが好ましい。
【0013】
層状ナノ粒子の一辺の長さとしてはさらには6〜80nmであることが好ましく、10〜60nmであることがさらに好ましい。このような本発明で用いられるポリエステル繊維中の層状ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡により確認することができる。層状ナノ粒子の大きさが100nmより大きいと繊維中で異物として作用し断糸や単糸切れが発生しやすく、強度やモジュラス等の機械特性を引き起こしてしまう。一方、粒子が小さすぎる場合には、ポリマーの結晶性向上や製糸性向上などの効果が得られにくく、得られる繊維の物性が低下する傾向にある。
【0014】
また層状ナノ粒子の各層の層間間隔としては1〜5nm、さらには1.5〜3nmであることが好ましい。層状ナノ粒子の一辺の長さが長すぎると微小構造とならずに欠点が目立つようになる。また一辺の長さが小さすぎると層状構造をとりにくくなる。一方、この層状ナノ粒子の層間間隔としては主に金属元素からなる層と、それ以外の元素である炭素、リン、酸素などの元素からなる層の間隔であり通常1〜5nm、さらに多くは1.5〜3nmの範囲をとることが好ましい。またここで層状構造とは、各層が少なくとも3層以上、好ましくは5〜100層並行して並んでいる状態である。またその各層の間隔は、各層の配列のほぼ直角方向に、各層の長さの1/5以下の間隔にて並んでいる状態であることが好ましい。
【0015】
さらにこのポリエステル繊維は、繊維の赤道方向の広角X線回折(XRD回折)回折において、2θ(シータ)=2〜7°に回折ピークを有することが好ましい。この数値は、nmオーダーの層間間隔を有する層状ナノ粒子が繊維軸方向に規則正しく配向していることを示すものである。このように繊維軸方向に特異的に配向することによって、本発明のポリエステル繊維は、ポリエステル製糸工程での断糸が極めて低くなり、生産性を飛躍的に向上せしめるとともに、得られたポリエステル繊維に欠点が少ないためにその物性を極めて高いレベルにすることが可能となった。
【0016】
また、層状ナノ粒子中には金属元素が含まれることが好ましく、周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。さらには層状ナノ粒子としては、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む化合物から構成されていることが好ましい。このような金属元素は、本願の微小な層状ナノ粒子を構成しやすいとともに、触媒活性が高く好ましい。
【0017】
さらに本発明で用いられる層状ナノ粒子は、金属及びリン化合物から構成されていることが好ましい。そしてリン化合物としては、下記一般式(I)で表されるリン化合物由来であることが好ましい。
【0018】
【化1】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0019】
ちなみに式中で用いられているArは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、またはOH基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を挙げることができる。さらにはRの炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、ベンジル基であることが好ましく、それらは未置換のもしくは置換されたものであっても良い。このときRの置換基としては立体構造を阻害しないのであることが好ましく、例えば、ヒドロキシル基、エステル基、アルコキシ基等で置換されているものを挙げることがきる。また上記(I)のArで示されるアリール基は、例えば、アルキル基、アリール基、ベンジル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子で置換されていても良い。ただし、例えばフェニルホスホン酸ジメチルなどのアルキルジエステルではアルキル基の存在により立体障害が起き、層状構造をとりにくい傾向にある。
【0020】
本発明で用いられるポリエステルには、このようなアリール基を有するリン化合物を添加すると、高い結晶性向上効果が現れる傾向にあり、好ましい。特にはこのリン化合物としては、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸およびそれら誘導体であることが最適であり、中でも下記式で表されるフェニルホスホン酸およびその誘導体は使用量も少なくて済むため有効である。また、得られるポリエステルの色相・溶融安定性、製糸性、高い層状ナノ粒子の形成能などの好ましい物性面、ポリエステル製造工程での副生成物が発生しない面、作業性の面からもフェニルホスホン酸であることが最も好ましい。
【0021】
【化2】

(上の式中、Arは未置換のもしくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を、Rは水素原子、または未置換のもしくは置換された1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基を示す。)
【0022】
逆に水酸基を有さないフェニルホスホン酸ジメチルなどのジアルキルエステルでは沸点が低く、真空下で飛散しやすいため本願では好ましくない傾向にある。飛散した場合には、添加したリン化合物がポリエステル中に残存する量が減り効果が得られない傾向にある。またそのように飛散した場合には、真空系の閉塞が発生しやすい傾向にあり不適である。このようなホスホン酸のジアルキルエステルは水酸基を有さず飛散性が高いため、高温で溶融・吐出される紡糸工程において、ポリマーから遊離・溶出する現象が発生し、口金に固着した異物を形成しやすい欠点があり、長期間での製糸の安定性を悪化させる原因となる傾向にある。また、ホスホン酸ジアルキルエステルはリンに直接結合する水酸基を有さないため、エステル交換触媒・重合触媒などの金属化合物を失活する能力が低く、得られるポリマーの溶融安定性・色相の悪化を招く傾向にある。
【0023】
本願発明で用いられる層状ナノ粒子は金属成分とリン成分からなることが好ましいが、この場合本願発明に用いられているポリエステル中の金属およびリンの含有量としては、下記の数式(III)式及び数式(IV)式を満たしていることが好ましい。
10≦M≦1000 (III)
0.8≦P/M≦2.0 (IV)
(ただし、式中Mはポリエステルを構成するジカルボン酸成分に対する金属元素のミリモル%、Pはリン元素のミリモル%を示す。)
【0024】
金属含有量が少なすぎると、結晶核剤として機能する層状ナノ粒子の量が不十分であり、製糸性向上の効果が得られない。逆に多すぎると異物として繊維中に残存し物性を低下させる、ポリマーの熱劣化が激しくなるなどの傾向にある。また式(IV)で示されるP/M比が小さすぎる場合には、金属化合物濃度Mが過剰となり、過剰金属原子成分がポリエステルの熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/M比が大きすぎる場合には、逆にリン化合物が過剰となり、過剰なリン化合物成分がポリエステルの重合反応を阻害し、繊維物性が低下する傾向にある。さらに好ましいP/M比としては0.9〜1.8であることが好ましい。
【0025】
本発明のポリエステル繊維は上記の層状ナノ粒子を含むことをその特徴とするものであるが、ポリエステル繊維を構成するポリエステルポリマーとしては、より具体的には次のような製造方法にて得られるものであることが好ましい。
【0026】
例えば、本発明で用いられるポリエステルポリマーとしては、テレフタル酸あるいはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエステルの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエステルが合成される。
【0027】
より具体的に本発明で用いられるポリエステルポリマーの製造方法を述べると、従来公知のポリエステルポリマーの製造方法を挙げることができる。すなわち、酸成分として、テレフタル酸ジメチル(DMT)あるいはナフタレン−2,6―ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表されるジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコール成分であるエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造することができる。あるいは、酸成分としてテレフタル酸(TA)あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させることにより、従来公知の直接重合法により製造することもできる。
【0028】
エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、上記の層状ナノ粒子を構成する金属を用いることが効率的であるが、それ以外の金属を用いてもよく、一般的に用いられるマンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛化合物を用いることができる。
【0029】
重合触媒については、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム化合物が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。中でも、ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
【0030】
なお、テレフタル酸のごとき芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールのごときグリコール成分とを直接エステル化反応させる方法においては、上記のようなエステル交換触媒やその直接エステル化反応の際の触媒は不要であるが、本発明の効果を発現させるために、あえて層状ナノ粒子を形成しうる金属成分を含有せしめることが必要となる。金属成分の含有量としては、ポリエステルを構成する全繰返し単位に対して10〜1000ミリモル%の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、層状ナノ粒子を生成するためにはこれら金属成分が存在するポリエステル中に本発明特有のリン化合物を添加する必要がある。
このリン化合物の添加時期は、特に限定されるものではなく、ポリエステル製造の任意の工程において添加することができる。好ましくは、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重合終了する間であり、より好ましくはエステル交換反応又はエステル化反応の終了した時点から重合反応の終了時点の間である。あるいは、ポリエステルの重合後に、混練機を用いて、リン化合物を練り込む方法を採用することもできる。
【0032】
本発明のポリエステル繊維を製造するためには、このようにして得られたポリエステルポリマーを溶融紡糸することによって得ることができる。また紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。
【0033】
また、このようにして溶融ポリマー組成物を紡糸口金から吐出し成形した後、さらに延伸する方法が、高効率の生産が行える点から好ましい。紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能となる。従来は例え低倍率で紡糸したとしても延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、断糸が起こることが多かったのである。しかし本発明では層状ナノ化合物の存在により延伸による結晶化において微細結晶が均一に形成されるため、延伸欠点が発生しにくく、高倍率に延伸でき、繊維を高強度化することが可能となったものである。
【0034】
このような製造方法においては、ポリエステルポリマーが本発明特有の層状ナノ粒子を含有することにより、ポリマー組成物の結晶性が向上し、溶融し、紡糸口金から吐出する段階で、微小結晶を多数形成することとなる。そしてこの微小結晶が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させるため、各工程での断糸率を大幅に低下させ、結果として得られるポリエステル繊維の物性が向上したのであると考えられる。
【0035】
本発明に用いられるポリエステル繊維は、繊維の極限粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い上、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、熱がかかった場合においても強度低下が小さくなる。さらに毛羽欠点が少なく、製糸性も良好となる。
【0036】
この本発明の効果を発揮するメカニズムは必ずしも明確ではないが、微小な層状ナノ粒子を含有し、この微粒子が分散することにより、ポリエステルポリマーが補強され、あるいは欠点への応力の集中を抑制し、繊維の構造的欠陥が低減したためであると考えられる。また、本発明のポリエステル繊維では、層状ナノ粒子が繊維軸に平行に特異的に配向していることが好ましいが、それによりポリマー分子が規則的に配向し、破断紡速の向上、毛羽欠点の低減、製糸性の向上、物性バラツキの減少などの効果を発揮しているものと考えられる。
【0037】
以上のような製造方法により得られるポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexであることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
【0038】
また180℃の乾熱収縮率は、1〜15%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、本発明の産業資材用膜材の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
【0039】
得られるポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点からまたは産業資材用膜材としたときの強力、屈曲性や耐熱性の観点から、0.1〜100dtex/フィラメントであることが、特には1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。
【0040】
総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特には、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも可能である。
【0041】
さらに本発明のポリエステル繊維は、産業資材用膜材にするに先立ち、上記のようなポリエステル繊維をマルチフィラメントとし撚りを掛けることも好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、膜材中での強力利用率が平均化し、その疲労性が向上する。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸したものであってもよい。合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や耐屈曲性がより向上する。
【0042】
そして本発明の産業資材用膜材に用いられるポリエステル繊維は、以上のようなポリエステル繊維をシート状の基布にして通常は使用される。ここで用いられる基布の形態としては、織物、編物、不織布など任意のものを採用することができるが、強度、および経方向、緯方向のバランスの面から、平織物であることがもっとも好ましい。また、基布の目付けとしては、50〜500g/mの範囲であることが好ましい。さらには70〜200g/mであることが好ましい。目付けが小さすぎると、基布の強力を維持することが困難になる。一方目付けが大きすぎると、経済性に劣るばかりではなく、基布の柔軟性が低下する傾向にある。
【0043】
さて本発明の産業資材用膜材は、上記のポリエステル繊維と樹脂からなるものである。樹脂としては塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂など公知の樹脂を任意に使用することができるが、塩化ビニル樹脂であることがもっとも好ましい。
【0044】
樹脂の付与方法としては、ポリエステル繊維からなる基布に対し、上述の樹脂を積層、含浸等して被覆することにより得ることができる。
この樹脂の積層や含浸の方法については、従来公知の手段を採用することができる。例えば、(1)基布の表面に溶融した塩化ビニル樹脂などの被覆樹脂を押し出し、これを基布に押圧しつつ基布中に該被覆樹脂の少なくとも一部を押し込んで接着させる方法(いわゆる溶融ラミネート法)、(2)T−ダイまたはカレンダー法によってシート状に成形された被覆樹脂シートを適切なアンカー剤を用いて接合する方法(いわゆるドライラミネート法)、(3)基布を被覆樹脂中に浸漬させる方法(いわゆるディップ法)や、(4)基布の片側面にウレタン樹脂などの被覆樹脂溶液を塗布する方法(いわゆるナイフコーター法)、などを挙げることができる。この中でも、製造工程が比較的に簡易な溶融ラミネート法およびドライラミネート法がもっとも好ましい。
【0045】
また、該樹脂からなる樹脂層の厚さとしては250μm以下であることが好ましい。さらには10μm以上であることが好ましく、特には30〜100μmであることが好ましい。厚すぎると柔軟性が低下する傾向にあり、薄すぎると防水性などの気密性が低下する傾向にある。なお、ここでいう樹脂層の厚みは、シートの片側面における、基布表面から樹脂層の外表面までの直線距離である。またこの樹脂層は、両側面に存在することが好ましい。
【0046】
さらに基布に対する樹脂の付与量としては、「基布を構成する繊維重量」に対する「付着した樹脂重量」の比が、0.2〜3倍、さらには0.3〜3倍の範囲にあることが好ましい。付与量が多すぎると柔軟性が低下する傾向にあり、少なすぎると防水性などの気密性が低下する傾向にある。
なお、樹脂を基布上に積層して膜材とした場合には樹脂層の厚さが、樹脂を基布に含浸させた場合には樹脂の付与量が、それぞれ特に重要な因子となる。
【0047】
また、本発明における産業資材用膜材においては、上記樹脂層と基布の間にガスバリア層がさらに積層されることも好ましい態様である。ガスバリア層を積層することで、気密性が増すからである。特に膜式ガスホルダーや飛行船、気球などの外皮膜のような、その中にヘリウムや空気といった気体を封じ込めたり、あるいはそれらの気体を仕切ったりするための部材に最適となる。ここでガスバリア層としては、たとえばポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム等を挙げることができ、中でもエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムが、特にガスバリア性の点から好ましい。さらにガスバリア性、耐候性を向上させる目的で、上記ガスバリア層にアルミ蒸着を施すことも好ましい。ガスバリア層の形成方法としては、上記樹脂を溶融コーティングあるいは湿式コーティングする方法、樹脂からなるフィルムをラミネートする方法などを例示することができる。
【実施例】
【0048】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0049】
(ア)層状ナノ粒子の長さ
層状ナノ粒子の有無、構成元素の確認は、ポリエステル樹脂・繊維を、常法によって厚さ50〜100nmの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(FEI社製 TECNAI G2)加速電圧120kVで観察し、透過電子顕微鏡(日本電子(株)製 JEM−2010)加速電圧100kV・プローブ径10nmで元素分析を行った。得られた画像から粒子の1片の長さを求めた。
【0050】
(イ)層状ナノ粒子の層間距離(X線回折測定)
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。そして、層状ナノ粒子の層間距離d(オングストローム)は、2θ(シータ)=2〜7°の赤道方向に現れる回折ピークから2θ(シータ)-d換算表を用いて算出した。
【0051】
(ウ)繊維の強伸度及び中間荷伸、
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。尚、中間荷伸は強度4cN/dtex時の伸度を表した。
【0052】
(エ)乾熱収縮率
JIS−L1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、無荷重状態で、乾燥機内で180℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
【0053】
(オ)膜材の強度
JIS L 1096に準拠し、30mm幅あたりの引張試験にて強度および伸度を測定した。
【0054】
(カ)膜材の高温時強度保持率
60℃雰囲気下で(ウ)と同様の方法で膜材の強度を測定し、下式により高温時の強度保持率(%)を算出した。
(60℃での強度)/(常温での強度)×100
【0055】
(キ)屈曲疲労性
タテ11cm、ヨコ1.5cmの布帛をMIT型屈曲試験機に荷重9.8Nでセットし、速度175回/分、角度135°で屈曲させた時の破断回数を示した。
【0056】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル194.2質量部とエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(DMT対比30mmol%)を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、フェニルホスホン酸0.0522質量部(DMT対比33mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に三酸化アンチモン0.0964質量部(DMT対比33mmol%)を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、ポリエステル組成物を得た。さらに常法に従いチップ化した。ポリエステルチップを透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの層状ナノ粒子を含有していた。
得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下160℃にて3時間の乾燥、予備結晶化し、さらに230℃真空下にて固相重合反応を行い、極限粘度1.00のポリエチレンテレフタレート組成物チップを得た。
【0057】
これをポリマー溶融温度296℃にて口径直径0.4mm、192孔数の紡糸口金より紡出し、口金直下に具備した長さ200mmの300℃に加熱した円筒状加熱帯を通じ、次いで吹き出し距離500mmの円筒状チムニーより20℃、65%RHに調整した冷却風を紡出糸条に吹き付けて冷却し、さらに脂肪族エステル化合物を主体成分とする油剤を、繊維の油剤付着量が0.5%となるように油剤付与したのち、表面温度50℃のローラーにて514m/minの速度で引き取った。この吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続いて連続的に合計5.45倍の2段延伸と230℃熱セットを行い、1100デシテックス/192フィラメントのマルチフィラメントを得た。このものの強度は7.85cN/dtex、伸度22.0%、乾熱収縮率4.8%(180℃×30min)で毛羽欠点もなく、製糸性に優れたものであった。
【0058】
また、得られたポリエステル繊維を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、長さ20nm、層間距離1.5nmの平均11層の層状ナノ粒子を含有しており、一般的な粒子状の金属含有粒子は観察されなかった。また、層状ナノ粒子は繊維軸に平行して配向していることが、透過型顕微鏡観察やX線回折から観察された。
得られたポリエチレンテレフタレート繊維マルチフィラメントを経緯共に使用した平織布(密度25本/インチ、目付100g/m)を作成した。この基布の表面に溶融した塩化ビニル樹脂組成物(平均重合度1,000のポリ塩化ビニル100重量部、ジ−2−エチルヘキシルフタレートを50重量部、Cd−Zn系安定剤を3重量部、炭酸カルシウムを10重量部、酸化チタンを7重量部からなるコンパウンド)を180℃で溶融押し出し、これを基布に押圧しつつ基布中に該塩化ビニル樹脂組成物の少なくとも一部を押し込んで接着させる方法(いわゆる溶融ラミネート法)にて基布と樹脂を一体化し、産業資材用膜材を得た。被覆樹脂の厚みは40μmであった。
得られた産業資材用膜材の物性を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
実施例1において使用した、192孔数の紡糸口金を250孔数に変更し、総繊度を1670デシテックスにしたこと以外は実施例1と同様に実施し、産業資材用膜材を得た。結果を表1に併せて示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、フェニルホスホン酸の代わりに亜リン酸を添加したこと以外は実施例1と同様に実施し産業資材用膜材を得た。ここで用いたポリエステル繊維では、電子顕微鏡で観察したが層状ナノ粒子は観察されず、粒子が存在した場合でも一般的な球状の形態であった。結果を表1に併せて示す。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の産業資材用膜材は、従来対比、高強力であり、かつ屈曲性に優れており、高温時の強力低下も小さく、テントや帆布、ターポリン、養生シート、防水シート、膜式ガスホルダー、飛行船や気球の外皮膜など様々な用途において最適な使用をすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維と樹脂からなる産業資材用膜材であって、該ポリエステル繊維が1辺の長さが5〜100nm、層間間隔が1〜5nmである層状ナノ粒子を含むことを特徴とする産業資材用膜材。
【請求項2】
該樹脂が熱可塑性樹脂である請求項1記載の産業資材用膜材。
【請求項3】
該層状ナノ粒子が金属元素を含有する請求項1または2記載の産業資材用膜材。
【請求項4】
該層状ナノ粒子が金属−リン化合物である請求項1から3のいずれか1項記載の産業資材用膜材。
【請求項5】
ポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものである請求項1〜4のいずれか1項記載の産業資材用膜材。
【請求項6】
該樹脂からなる樹脂層の厚さが250μm以下である請求項1〜5のいずれか1項記載の産業資材用膜材。

【公開番号】特開2010−284837(P2010−284837A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139077(P2009−139077)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】