説明

産業車両の制御方法および制御装置

【課題】産業車両において、積荷の重量を検出するための荷重センサを不要とする制御方法および制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置100は、積荷を含む系の速度として、車速またはマストの昇降速度を制御する。制御装置100は、荷重の変動に相当する外乱トルク13に対応する推定外乱トルク14を、速度入力指令値11および速度検出値12に基づいて算出する。この際、制御装置100は、積荷のない状態での運動方程式を用い、積荷がないと仮定した場合に加えられたと考えられる力を表す値と、実際の速度検出値12から逆算した値との差分に基づいて、積荷の重量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は産業車両の制御方法および制御装置に関し、とくに積荷の重量を算出することに関する。
【背景技術】
【0002】
荷役用の産業車両では、積荷の重量すなわち荷重に応じた制御が必要となる。たとえばフォークリフトでは、荷重に応じて、マストの傾斜角の調整、フォークの昇降速度の調整、走行速度の制限、等が行われる。このため、従来の産業車両では、荷重センサによって荷重の検出を行っている。荷重センサとしては、たとえば重量センサや圧力センサが用いられる。
【0003】
特許文献1には、このような産業車両の例が開示されている。この産業車両は、荷物の重量に比例した電圧を出力するOPアンプを備え、このOPアンプが重量検出手段として機能する。
【0004】
【特許文献1】特開昭54−118052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の構成では、荷重センサを取り付ける必要があるという点が問題となっていた。たとえば、荷重センサのためにコストが増加したり、必要となるスペースが増加したりする。
【0006】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、荷重センサを不要とする産業車両の制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の問題点を解決するため、この発明に係る積荷を扱う産業車両の制御方法は、積荷を含む系の速度に基づいて積荷の重量を算出する。
速度を表す値を入力として荷重を算出するので、荷重を直接的に検出するためのセンサ、たとえば重量センサや圧力センサは不要である。
【0008】
積荷を含む系の速度は産業車両の車速であってもよい。この場合、車速に基づいて荷重が算出される。
産業車両は積荷を昇降させる昇降手段を有し、積荷を含む系の速度は昇降手段の上昇速度または下降速度であってもよい。この場合、昇降手段の昇降速度に基づいて荷重が算出される。
積荷の重量が基準値である状態において積荷を含む系に加わる力を積荷を含む系の速度に変換する基準変換式をあらかじめ定義し、積荷を含む系の速度を基準変換式の逆関数に代入し、積荷を含む系に加えられた力を表す値と代入の結果を表す値との差分に基づいて積荷の重量を算出してもよい。ここで、積荷を含む系の速度は、積荷を含む系に加えられた力と、荷重に対応する外乱トルクの影響とを含むものである。よって、これを逆関数に代入した結果と、積荷を含む系に加えられた力との差分は、荷重を表す値となる。
【0009】
また、この発明に係る産業車両の制御装置は、積荷を扱う産業車両の制御装置であって、積荷を含む系の速度を検出する速度検出手段と、積荷を含む系の速度に基づいて積荷の重量を算出する演算手段とを備える。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、産業車両の制御方法および制御装置は、積荷を含む系の速度に基づいて荷重を算出するので、荷重センサが不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る制御装置100の制御による車両の挙動を説明するブロック線図である。制御装置100は、積荷を扱う産業車両用の制御装置、たとえばフォークリフト用の制御装置である。実施の形態1では、制御装置100は車両の走行速度に関する制御を行う。すなわち、実施の形態1では、積荷を積載した車両全体が、積荷を含む系として制御の対象となる。また、制御装置100は、積荷の重量を算出する演算手段としても機能し、後述の基準変換式および関連する情報を記憶する記憶手段としても機能する。
【0012】
図1のブロック線図において、車両モデルブロック21は、車両に対して加えられる力と車速との関係を表す。制御装置100からの出力は外乱トルク13と加算され、その結果がこの車両モデルブロック21に入力される。
車両モデルブロック21は、入力をトルクとし、出力を車速とした車両の伝達関数Pを表す。伝達関数Pは、P=1/(Js+D)で表される。
【0013】
ここで、Jは、積荷の重量が所定の基準値である場合の、車両の慣性を表す項の係数である。所定の基準値はたとえば0とすることができ、この場合は積荷を積載していない状態が基準となる。Jの値は、積荷を積載していない状態での車両の重量に基づいてあらかじめ決定することができる。
また、Dは、同様に積荷の重量が所定の基準値である場合の、車速に比例する抵抗を表す項の係数である。この値はタイヤと地面との摩擦係数等に応じて変動するが、たとえば実験によってあらかじめ決定することができる。なおsはラプラス演算子である。
【0014】
このように、伝達関数Pは車両の運動方程式を表す。すなわち、伝達関数Pは、荷重が所定の基準値である状態において、関数の入力であるトルク(力)を、関数の出力である車速に変換する、基準変換式である。この基準変換式はあらかじめ定義されるものであり、制御装置100は、係数Jおよび係数Dとともにこの基準変換式を記憶する。
外乱トルク13は、荷重の変動による車速の変動を、外乱として加わるトルクの形で表すものである。荷重が変化すると、実際には車両モデルブロック21の伝達関数Pが変化するが、図1では伝達関数Pは一定とし、外乱トルク13が加わることによって車速が変動すると見なしている。
【0015】
制御装置100は、速度入力指令値11および速度検出値12に基づいて制御を行う。 速度入力指令値11は車速制御の目標となる値を表し、図示しないアクセル開度センサ等からの入力に基づいて制御装置100が決定するものである。速度入力指令値11の決定には従来の技術が用いられる。また、速度入力指令値11は、外部から制御装置100に入力されるものであってもよい。
速度検出値12は、上述の車両モデルブロック21の出力に対応し、実際の車速を表す。速度検出値12は、図示しない速度検出手段としての車速センサからの入力に基づいて制御装置100が算出するものである。速度検出値12の検出には従来の技術が用いられる。
【0016】
制御装置100はPIDコントローラ10を含む。PIDコントローラ10は、速度入力指令値11と速度検出値12との差分を入力として受け取り、この差分が0となるようにPID制御を行う。なお、この制御の内容は一般の自動制御と同様のものである。
さらに、制御装置100は逆モデルブロック22およびフィルタブロック23を含む。逆モデルブロック22およびフィルタブロック23の伝達関数は、いずれも因子Qを含む。この因子Qは、車両モデルブロック21、逆モデルブロック22、およびフィルタブロック23から構成されるフィードバックループが発振せず安定となるように設計されるものであり、Q=1/(Ts+1)で表される。Tは定数であり、応答性および安定性を考慮し、実験等によってあらかじめ決定することができる。
【0017】
逆モデルブロック22の伝達関数QP−1は、車両モデルブロック21の伝達関数Pの逆関数P−1を含む。すなわち、逆モデルブロック22は、この逆関数P−1によって、速度検出値12を入力として車両モデルブロック21とは逆の演算を行い、外乱トルク13を含んで車両に加えられるトルクに対応する値を出力とすることになる。言い換えると、制御装置100は、車速を上述の基準変換式の逆関数に代入する。逆モデルブロック22の出力は、この代入の結果を表す値となる。
また、フィルタブロック23は、その伝達関数がQであり、PIDコントローラ10の出力を入力とする。ここで、PIDコントローラ10の出力は外乱トルク13を含まず、車両に加えられたトルクを表す値であるので、フィルタブロック23の出力は車両に加えられたトルクに対応する値となる。
【0018】
以上より、逆モデルブロック22の出力とフィルタブロック23の出力との差分は、外乱トルク13に対応する値を表すものとなる。これを推定外乱トルク14とする。制御装置100は、PIDコントローラ10の出力から推定外乱トルク14を減算し、これによって外乱トルク13の影響を打ち消す。
なお、逆モデルブロック22およびフィルタブロック23の制御内容は、図1では伝達関数によって表されるが、これを制御装置の回路構成またはアルゴリズムとして実際に構築することは当業者であれば容易である。
【0019】
ここで、推定外乱トルク14は外乱トルク13に対応する値であるが、外乱トルク13は、上述のように、荷重の変動による車速の変動を表すものであるので、推定外乱トルク14は荷重を表す値となる。
【0020】
図2は、図1の制御装置によって実現される制御の結果を概略的に示す図である。図2(a)は時間の経過に応じた速度入力指令値11の変動を表し、図2(b)はこれに対応する実際の速度すなわち速度検出値12の変動を表す。時刻0より前では0であった速度入力指令値11が、時刻0において1となり、さらに時刻t1においてまた0に戻る。これに対応して、速度検出値12は時刻0に上昇を始めて速やかに1に達し、時刻t1に減少を始めて速やかに0に達する。推定外乱トルク14のフィードバックによって外乱トルク13が打ち消されるので、制御の応答性は逆モデルブロック22およびフィルタブロック23を含まない単純なフィードバック制御よりも高く、より短時間で目標値に達する。
【0021】
このように、制御装置100は、積荷を含む系の速度としての速度入力指令値11および速度検出値12に基づいて荷重を算出することができる。このため、制御装置100は荷重センサを不要とすることができる。この結果として、たとえば、コストやスペースを節約することができる。
【0022】
上述の実施の形態1では、荷重を表す推定外乱トルク14は速度のフィードバック制御にのみ用いられる。変形例として、制御装置100は、推定外乱トルク14を他の制御の入力として用いてもよい。たとえば、推定外乱トルク14に基づいてマストの前傾角度を制限してもよく、推定外乱トルク14に基づいて車速の最大値を制限してもよい。その他、荷重を入力とする制御であれば、荷重を表す値として推定外乱トルク14を用いることができる。
【0023】
また、上述の実施の形態1では、車両の重量は運転者の体重を含まない。この場合、制御装置100は、実際の荷重すなわち積荷の正味重量と、運転者の体重とを含む全重量を、推定外乱トルク14が表す荷重として算出することになる。変形例として、運転者の体重を車両の重量に含めてもよい。運転者の体重は、所定の値たとえば60kgとしてもよい。この場合、推定外乱トルク14は実際の荷重を表すことになる。いずれにしても、実施の形態1では推定外乱トルク14がPIDコントローラ10の出力にフィードバックされるので、制御の結果は変わらない。
ただし、推定外乱トルク14が運転者の体重を含む場合において、運転者を含まない系の制御(たとえばマストの前傾角度の制御や、フォークの昇降速度の制御)に用いる場合には、運転者の体重を適宜差し引いてもよい。
【0024】
実施の形態2.
実施の形態1では、制御の対象となるのは積荷を積載した車両全体であるが、実施の形態2では積荷を昇降させる昇降手段としてのフォークを制御の対象とする。
実施の形態2に係る制御装置101の構成は図1に示すものと同様である。ただし、速度入力指令値11はフォークの上昇速度または下降速度の目標となる値を表し、図示しないリフトレバー等からの入力に基づいて制御装置101が決定するものである。すなわち、図1のブロック線図において、車両モデルブロック21は、フォークに対して加えられる力と昇降速度との関係を表す。
速度検出値12は、実際のフォークの上昇速度または下降速度を表す。速度検出値12は、図示しない速度検出手段としての昇降速度検出手段からの入力に基づいて制御装置101が算出するものである。
【0025】
車両モデルブロック21は、入力をトルクとし、出力を昇降速度としたフォークの伝達関数Pを表す。Jは、積荷の重量が所定の基準値である場合の、フォークおよび積荷の慣性を表す項の係数である。Dは、積荷の重量が所定の基準値である場合の、フォークおよび積荷の昇降速度に比例する抵抗を表す項の係数である。
その他の点については実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0026】
実施の形態2においても、推定外乱トルク14は荷重を表す値となるので、制御装置101は、積荷を含む系の速度としての速度入力指令値11および速度検出値12に基づいて荷重を算出することができる。このため、制御装置101は荷重センサを不要とすることができる。
【0027】
上述の実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、推定外乱トルク14を他の制御の入力として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1および2に係る制御装置の制御による、車両またはフォークの挙動を説明するブロック線図である。
【図2】図1の制御装置によって実現される制御の結果を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 コントローラ、11 速度入力指令値、12 速度検出値、13 外乱トルク、14 推定外乱トルク、21 車両モデルブロック、22 逆モデルブロック、23 フィルタブロック、100,101 制御装置、P 伝達関数(基準変換式)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積荷を扱う産業車両の制御方法であって、前記積荷を含む系の速度に基づいて前記積荷の重量を算出する、産業車両の制御方法。
【請求項2】
前記積荷を含む系の速度は前記産業車両の車速である、請求項1に記載の産業車両の制御方法。
【請求項3】
前記産業車両は前記積荷を昇降させる昇降手段を有し、前記積荷を含む系の速度は前記昇降手段の上昇速度または下降速度である、請求項1に記載の産業車両の制御方法。
【請求項4】
前記積荷の重量が所定の基準値である状態において、前記積荷を含む系に加わる力を、前記積荷を含む系の速度に変換する、基準変換式をあらかじめ定義し、
前記積荷を含む系の速度を、前記基準変換式の逆関数に代入し、
前記積荷を含む系に加えられた力を表す値と、前記代入の結果を表す値との差分に基づいて、前記積荷の重量を算出する
請求項1〜3のいずれか一項に記載の産業車両の制御方法。
【請求項5】
積荷を扱う産業車両の制御装置であって、
前記積荷を含む系の速度を検出する速度検出手段と、
前記積荷を含む系の速度に基づいて前記積荷の重量を算出する演算手段と
を備える、産業車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−269704(P2009−269704A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121173(P2008−121173)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】