説明

用紙分離装置、定着装置及び画像形成装置

【課題】薄紙のようにこしの弱い記録媒体の搬送にも支障なく、また記録媒体の表面に筋画像を形成することもない用紙分離装置を提案する。
【解決手段】相接する2つの回転体によって形成されたニップ部の用紙搬送下流側に配されるべき用紙分離装置であって、上記回転体の軸方向に平行に先端を合わせた単数の又は複数の分離部材を備える用紙分離装置において、上記分離部材の用紙摺擦面の表面粗さRzが10〜18μmに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの機能を併せ持った複合機等の画像形成装置に装着される定着装置、特に熱定着装置の定着部材から記録媒体を分離する分離構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可視像形成のためにトナーを用いる画像形成装置においては、トナー画像を転写紙等の記録媒体に永久画像として定着するために定着装置が備えられている。定着装置では、加熱され回転する定着ローラや定着ベルトと、それに圧接・回転する加圧ローラや加圧ベルト等によって形成された圧接部を記録媒体が通過することによって、記録媒体上に載置されたトナーが溶融され記録媒体上にトナー画像が定着される。
【0003】
主に樹脂で構成されているトナーは圧接部で溶融し、定着ローラや定着ベルトと粘着する性質があるため、トナーにワックス成分を付加したり、定着ローラや定着ベルトの表面を離型性の材料で被覆したり、定着ローラや定着ベルトの表面にシリコーンオイル等の離型剤を塗布する等の様々なやり方を用いて、定着ローラや定着ベルトとトナーとが粘着することを防止している。
【0004】
更には、分離爪を備えた用紙分離機構を定着ローラや定着ベルトに付設することで、溶融したトナーのために定着ローラや定着ベルトに巻き付こうとする記録媒体を強制的に分離することも行われている。
【0005】
しかしながら、分離爪を用いて定着ローラや定着ベルトから強制的に記録媒体を分離する際、記録媒体上のトナー画像が、分離爪に接触したり、更には下流側の分離板の搬送面に接触することになる。分離爪や分離板は、定着ローラ/ベルトと加圧ローラ/ベルトにより形成された圧接部に近接して配置されるため、圧接部を通過した直後の冷えていないトナー、即ち、溶融状態の残るトナーが分離爪や分離板の搬送面に接触する。この際、分離爪や分離板の搬送面の表面性状が粗いと、溶融トナーが引っ掻かれ、筋画像となって出力されることとなる。逆に、分離爪や分離板の搬送面の表面性状が、平滑だと溶融トナーとの密着性が高まって搬送抵抗となり、記録媒体の搬送品質に問題が生じる。
【0006】
上記のような問題は、近年、需要の高まっているコート紙と称する、表面に樹脂層をコーティングした記録媒体で顕著となる。コート紙は、通常の紙繊維の上に樹脂層をコーティングした記録媒体であり、定着装置にて加熱されると剛性が弱くなる。そのため、定着ローラや定着ベルトとトナー間の粘着力に対抗する記録媒体の剛性(こし)が弱く、分離爪や分離板へのトナーの接触力が強くなる。これにより、上記の問題が顕著となる。
【0007】
従来から分離部材の搬送面とトナーの接触による筋画像は問題視され、例えば、分離爪の搬送面側の形状を記録媒体幅方向の端部と中央位置で異なる形状とし、端部側を搬送面側に突出させ、中央側を搬送面側から引っ込める構成の提案がなされ(特許文献1)、筋画像の発生を回避する試みがなされている。
【0008】
しかし、前述したコート紙のように剛性が弱い記録媒体の場合、引用文献1に提案の構成では、分離爪にかかる接触力が端部側の分離爪に集中するため、より強い筋画像となってしまうと予測できる。
【0009】
別の問題としては、分離爪や分離板の搬送面にトナーが接触することから、トナーが分離爪や分離板に固着してしまうことが懸念される。固着してしまうと、記録媒体の搬送問題や固着トナーによるトナー画像の引っ掻きが生じ、筋画像となることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の問題に鑑み、本発明の課題は、薄紙のようにこしの弱い記録媒体の搬送にも支障なく、また記録媒体の表面に筋画像を形成することもない用紙分離装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記課題は、相接する2つの回転体によって形成されたニップ部の用紙搬送下流側に配されるべき用紙分離装置であって、上記回転体の軸方向に平行に先端を合わせた単数の又は複数の分離部材を備える用紙分離装置において、上記分離部材の用紙摺擦面の表面粗さRz(最大高さ)を10〜18μmに設定することによって、解決される。
【発明の効果】
【0012】
分離部材の用紙摺擦面の表面粗さRzを10〜18μmに設定することによって、記録媒体たる用紙を搬送する際に、その搬送抵抗を適正化でき、また筋画像の発生も回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】画像形成装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る定着装置の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る用紙分離装置を説明するための概念図である。
【図4】分離部材の構成を示す斜視図である。
【図5】分離部材の構成を示す図で、図5aは側面図であり、図5bは分離部材先端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一つの実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る定着装置を設けた画像形成装置の略図である。画像形成装置全体の機構としては、従来と基本的に同じであり、感光体の周囲に、画像を形成するために必要な所定の装置、例えば帯電手段、露光手段(書き込みユニット)、現像手段等が設けられているが、当業者であれば構成、作動をよく知るものなので、簡単な説明とする。
【0015】
給紙ユニット31によって、記録媒体たる用紙が転写部へ搬送される。一方、書き込みユニット32によって、原稿読み取りのスキャナによる信号や外部PCによる信号に基づいて、作像ユニット33内の感光体上に露光が行われる。
【0016】
感光体上に露光された潜像は作像ユニット33によって可視像化され、転写ベルトに一次転写され、転写ユニット34によって、搬送されてきた用紙に未定着トナー像が二次転写される。そして未定着トナー像は定着装置35で定着され、分離ユニット7によって定着ベルトから剥離され、機外へ排出される。両面画像形成の場合には、両面ユニット36で用紙が反転され、再び転写部へ搬送された後に、定着装置35、分離ユニット7を経て排紙される。
【0017】
図2は、本発明の実施形態に係る定着装置35、分離ユニット7の側面図である。同図は定着ローラおよび加圧ローラの回転軸に対して垂直な断面を示している。
定着ベルト3内に定着ローラ2と加熱ローラ4が備えられ、定着ベルト3を介して定着ローラ2に対し加圧ローラ5が加圧して定着ニップ部を形成している。加熱ローラ4と加圧ローラ5の内部には熱源であるハロゲンヒータ6が内蔵され、図の右側から搬送されてくる未定着トナー像を担持した用紙9を、定着ニップ部で挟持・加熱し、定着する構成である。
【0018】
定着ベルト3は、例えば内径75mmで厚み90μmのポリイミド樹脂で形成された基体表層に厚み200μmのシリコーンゴム、更に最外層には厚さ20μmのPFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)コートが施されている。この定着ベルト3は、外径52mmで厚み14mmの発泡シリコーンゴムから成る定着ローラ2と外径35mmで厚み0.6mmのアルミ製中空円筒から成る加熱ローラ4によって巻き掛けられている。
【0019】
加圧ローラ5は、鋼製で厚み1mmの中空芯金に厚み1.5mmのシリコーンゴムが覆って、最外層にはPFAチューブを備えた外径50mmの構成である。加圧ローラ5は定着ベルト3を介して定着ローラ2に対して3mm食い込み、およそ14mmのニップ幅を形成している。
【0020】
定着ニップ部下流側で定着ベルト3の側には、用紙9を定着ベルト3から分離(剥離)するための用紙分離装置たる分離ユニット7が備えられている。分離ユニット7の定着ニップ部側先端には、分離部材1が備えられている。本例では、分離爪としての分離部材1を定着ローラ2や加圧ローラ5の軸方向に複数個備えた構成となっている。ただ、分離部材1が、分離対象たる想定用紙の幅方向最大幅に連続して延在する一様な爪状に形成されていてもよい。このような形状を分離板と称することもあるが、ここでは一般化して分離爪と呼ぶことにする。分離部材1の働きで分離された用紙は、その後、定着側ガイド板と加圧側ガイド板の案内によって排紙部へ搬送されることになる。
【0021】
なお同図において、符号10は未定着トナー、11は分離ユニット7のレバー、12は分離ユニット7に対する引っ張りスプリングをそれぞれ示す。
【0022】
図3は分離部材1を含む分離ユニット7の構成を詳しく示した詳細図である。分離部材1は支軸1bを中心に回動自在な構成となっている。更に、分離部材1は分離ユニット7の圧縮スプリング7bと調整ネジ7aによって、その分離部材頭部1cの位置を定着ベルト3に対して微調整可能な構成となっている。調整ネジ7aは固定部材としての分離ユニット7に設けられたねじ穴に対して進退可能に構成されていて、調整ネジ7aの回動により、支軸1bを中心として分離部材1を揺動できる。その結果、分離部材1を定着ベルト3に当接させてもよく、また所定のギャップ、例えば0.1〜0.6mm程度のギャップを設けるようにしてもよい。当接させれば、用紙を強制分離する確実性を高めることができ、また所定のギャップをとることで、接触式分離に近い分離性能を確保しつつ、分離部材と定着ベルトとの摺擦を避けることができ、定着ベルトの表面に摺擦跡がつくこともない。
【0023】
以上の説明では、分離ユニット7、分離部材1を定着装置に適用する場合で説明してきたが、ベルトやローラ類からシート状の媒体を剥離する場面というのは定着装置に限らず種々存在する。本発明の分離部材1、分離ユニット7は定着装置以外にも、例えば転写装置等にも用いることができる。
【0024】
図4は、分離部材1の構成の一例を示す斜視図である。定着ローラ2の軸方向に対し平行になるよう分離ユニット7に複数個備えられる分離部材1は、支軸1bを有した基材1aの先端(支軸から一方側に最も離れた部分)に分離部材先端部1cとして基材1aより柔らかい樹脂がインサート成形によって一体的に成形された構成となっている。このような分離部材1を用いることによって、紙詰まり等の外圧によっても永久変形することが無く、非攻撃性に優れた樹脂を分離部材先端部1cに使用しているので、相手部材に傷を付ける等の不具合を防ぐことができる。
【0025】
また、基材1aと分離部材先端部1cとはインサート成形により一体的に成形されているので、基材1aが有する支軸1bと分離部材先端部1cとの位置は精度良く成形することができる。そのため同一材料で成形された分離部材同様に分離性能にも優れている。
【0026】
図5も分離部材1を説明するための図である。図5aは図4に対応する分離部材の全体図、図bは図5aに示した範囲Bを部分拡大した分離部材先端部の詳細図である。図5bにおいて太線で外形を示した分離部材頭部1cは、基材先端部を囲むようにインサート成形によって一体化した樹脂製の爪形状をなしている。分離部材頭部1cの材質としてフッ素系樹脂を使用している。フッ素系樹脂は摺動性に優れているため、接触しても相手に傷を付けることも無く、トナーに対する離型性にも優れているためにトナー固着を起こすことも無い。以上から、分離手段頭部1cの材質をフッ素系樹脂にすることによって、トナーに対する非粘着性にも優れた分離部材1を提供できる。また、分離部材頭部1cの材質をPEEK材、PAI材またはPI材とし、用紙搬送面10にフッ素系樹脂をコーティングしてもよい。これら措置によって、分離部材の搬送面へのトナー固着を防止することができる。コーティング加工であれば、分離部材の表面性状を容易に加工でき、材質をフッ素系樹脂とすれば、コート層磨耗による劣化を回避できる。
【0027】
ここで、分離部材頭部1cの記録媒体搬送面10の表面性状は、表面粗さRz(最大高さ)=10〜18μmに設定されている。例えば、分離部材頭部1cの材質がフッ素系樹脂の場合は、金型の表面性状の設定を成型品の表面性状が上記規定値になるように仕上げることで実現する。また、成型後、後加工にて研磨することで表面性状が上記規定値になるように仕上げてもよい。分離部材頭部1cにフッ素系樹脂コーティングする場合は、ベースとなる樹脂の金型表面性状の設定を成型品の表面性状が上記規定値になるように仕上げ、その上からフッ素系樹脂コーティングすることで実現する。また、フッ素系樹脂コーティング条件を変えることで、コーティング層の凹凸を作り、表面性状が上記規定値になるように仕上げることもできる。
【0028】
分離部材頭部1cの記録媒体搬送面10の表面性状を上記規定値に設定すると結論を導いたテストを次に説明する。定着ローラ2の軸方向に7個の分離部材1を配する構成において、これら分離部材1の記録媒体搬送面10の表面粗さを異ならせたものをその都度用いて、高温高湿条件(27℃、80%)下で、実際に使用が想定される最薄のコート紙(坪量79g/m)を通常通りに通紙し、カラーのサンプルベタ画像形成時に表面に筋画像が現れるか、また用紙搬送がスムーズに行われるかを調べた。表面粗さの測定器とsちえは、ミツトヨ製の接触式表面粗さ測定器を用いた。結果を表1に示す。筋画像については、目視により用紙表面に筋状の跡が認められた場合をもって「筋画像あり」と認定した。これは用紙表面のトナー画像を分離部材1が局所的に引っかくことで発生するものである。搬送問題については、分離部材1の抵抗が高くなることで、用紙が搬送経路をスムーズに流れなくなり、用紙表面にキャタピラー状の跡がついて、最終的にジャムが発生するが、用紙が搬送抵抗のためにその場にとどまる現象が見られた状態をもって「搬送問題あり」と認定した。
【0029】
分離部材頭部1cの記録媒体搬送面10の表面粗さが10〜18μmでは、筋画像も搬送問題も発生しなかったのに対して、7μmでは、搬送抵抗が高くなって搬送問題が発生した。一方、記録媒体搬送面10の表面粗さが22μmでは、搬送抵抗は低く、搬送問題は発生しないが、筋画像が発生した。筋画像は、表面粗さの違いにより、用紙表面上に徐々に増えるのではなく、急に現れた。以上のテストは、高温高湿条件下で、想定上の最薄用紙を用いて行ったものであり、表面摺擦や用紙搬送にとって最も厳しい条件であるので、この条件で問題が生じないのであれば、通常の温度、湿度で普通紙を搬送する場合には当然問題を生じない。更に、定着温度は、通紙初期が最も温度が不安定で、或る程度通紙すると安定するものなので、この点を考慮して、筋画像や搬送性については通紙1枚目で評価した。
【0030】
【表1】

【符号の説明】
【0031】
2 定着ローラ
3 定着ベルト
4 加熱ローラ
5 加圧ローラ
6 ハロゲンヒータ
7 分離ユニット
7c 回動支点
9 用紙
10 未定着トナー
11 レバー
12 引っ張りスプリング
35 定着装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開2006−189688号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相接する2つの回転体によって形成されたニップ部の用紙搬送下流側に配されるべき用紙分離装置であって、前記回転体の軸方向に平行に先端を合わせた単数の又は複数の分離部材を備える用紙分離装置において、前記分離部材の用紙摺擦面の表面粗さRz(最大高さ)が10〜18μmに設定されていることを特徴とする用紙分離装置。
【請求項2】
前記分離部材が前記回転体に当接するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の用紙分離装置。
【請求項3】
前記分離部材が前記回転体に対して所定の隙間を有して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の用紙分離装置。
【請求項4】
前記表面粗さに設定された前記分離部材の用紙摺擦面がフッ素コーティングされたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の用紙分離装置。
【請求項5】
前記表面粗さに設定された前記分離部材の用紙摺擦面がフッ素樹脂材料で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の用紙分離装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の用紙分離装置を備える定着装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の用紙分離装置を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−105009(P2013−105009A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248572(P2011−248572)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】