説明

画像レーダ装置

【課題】位相補償精度を向上させて、再生画像の分解能を向上させた画像レーダ装置を得る。
【解決手段】レーダ観測器は、レンジプロフィールの取得処理を、目標との相対位置関係を変えながら繰り返し実行してレンジヒストリを取得する。レーダ画像化器は、レンジ補償器12と、レンジ補償器12によるレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)上の代表的な複数の反射点の位相変化を調べ、レーダ画像のドップラー周波数方向のぼけの原因となるヒットに対する2次以上の不要位相変化の、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅の範囲での値を推定する不要位相変化推定器21と、不要位相変化推定器21で得られた不要位相変化φ2(h)に基づき、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)から、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅分だけ切出したレンジヒストリに含まれる不要位相変化成分を補償する位相補償回路22と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観測対象となる目標の電波画像を取得する画像レーダ装置に関し、特に目標と画像レーダ装置との間の距離の時間変化の影響で発生する画像のぼけを、受信信号そのものに基づいて補償する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の画像レーダ装置においては、送信機から発生した高周波信号を、送受切換器および送受信アンテナを介して目標に照射し、目標で散乱された高周波信号の一部を、送受信アンテナおよび送受切換器を介して受信機で受信し、受信信号のレンジ方向の分解能をレンジ圧縮により向上させてレンジプロフィールを得る、という一連の処理を、目標と画像レーダ装置との間の相対位置関係を変えながら繰り返し実行し、得られたレンジプロフィールの時間履歴(以下、「レンジヒストリ」という)を画像再生処理することにより目標のレーダ画像を得ている。
【0003】
レーダ画像を得る代表的なレーダ装置としては、合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)と、逆合成開口レーダ(Inverse SAR:ISAR)とが挙げられる。
【0004】
SARは、たとえば地表面などの観測対象を、レーダ装置(レーダプラットフォーム)が空間内を移動しながら観測し、得られたレンジプロフィールを適切に合成することにより、あたかも大口径のアンテナを空間に配置したような効果を得て、高分解能なレーダ画像を得るシステムである。
【0005】
逆に、ISARは、運動する目標をレーダ装置で観測することにより、SARと同様の効果を得て、高分解能なレーダ画像を得るシステムである。この場合、たとえば、目標に固定された座標系内でのレーダ位置の変化を考えれば、SARと同じ効果が得られることが分かる。
【0006】
SAR/ISARの画像再生処理としては、多数の種類が提案されているが、以下では、一例としてレンジドップラー画像再生の概要について説明する。
レンジドップラー画像再生においては、目標上の反射点を、レーダ装置からの距離を表すレンジと、目標とレーダ装置との間の相対運動で発生するドップラー周波数差とで、分離してレーダ画像を得ている。
【0007】
上記レーダ画像は、すでに得られたレンジヒストリを、観測の繰り返し方向にフーリエ変換することにより得られる。
以下、観測繰り返しの順番を「ヒット」といい、第h本目のレンジプロフィールを得たときの観測順番を、「第hヒット」という。また、繰り返し方向を、単に「ヒット方向」という。
【0008】
なお、等時間間隔でデータを観測する場合においては、ヒットは、それぞれの観測開始時刻に比例する。
以下の説明においては、等時間間隔の観測を想定している。
【0009】
この処理は、レンジに直交するクロスレンジ方向の分解能を向上させることから、「クロスレンジ圧縮」と呼ばれる。
ただし、このクロスレンジ圧縮処理においては、目標上の反射点が、目標とレーダ装置との間の相対運動の影響によって、観測中に以下の条件(a)、(b)となった場合に、レーダ画像にぼけが生じることが知られている。
【0010】
(a)目標上の反射点が、レンジ分解能セルを越えて移動する。
(b)目標上の反射点の位相が、(ドップラー周波数の時間変化を引き起こす)時間に対する2次以上の変化成分を含む。
【0011】
そこで、レーダ画像再生処理においては、上記条件(a)、(b)を補償するための運動補償処理が必要になる。
特に、上記条件(a)、(b)がセンサで計測不可能な場合(たとえば、SARにおいて、レーダプラットフォームに搭載する運動センサの精度が低い場合、または、ISARにおいて、運動が未知の目標を観測する場合)には、受信信号そのものから上記条件(a)、(b)の補償量を推定して補償するオートフォーカスが必要になる。
【0012】
画像レーダにおけるオートフォーカスは、以下の補償(A)、(B)に大別され、各補償(A)、(B)ごとに、それぞれ様々な方法が提案されている。
(A)条件(a)を推定して補償するレンジ補償。
(B)条件(b)を推定して補償する位相補償。
【0013】
基本的には、まずレンジ補償(A)を行うことにより、各反射点のレンジ分解能セルを越えた移動を除去した後に、1つ以上のレンジ分解能セル上のヒット方向に並ぶ受信信号に基づいて位相補償(B)を行う。
位相補償(B)の有力な方法の1つとして、PGA(Phase Gradient Autofocus)法が挙げられる(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)
【0014】
PGA法においては、注目するレンジ分解能セルに存在する孤立反射点に生じた「位相誤差の一次微分」を計算し、位相誤差の一次微分値を積分することにより、2次以上の位相変化(以下、「不要位相変化」という)を推定する。
特に、複数のレンジ分解能セル孤立反射点の位相誤差の一次微分値を加算することにより、雑音の影響は低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,924,229号公報
【特許文献2】特開2004−198275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の画像レーダ装置では、特許文献1、特許文献2に記載された位相補償法(PGA法)によれば、雑音の影響が低減されるものの、受信信号の性質(たとえば、注目するレンジセルの反射点の数や位置関係、不要位相変化の次数など)によっては、不要位相変化の推定誤差(たとえば、全ヒットにわたる推定誤差や、或るヒット付近のみで増大する局所的な推定誤差)が増大する可能性があるという課題があった。
【0017】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、PGA法を用いて不要位相変化を推定する際に、受信信号の条件によっては発生する可能性がある「全ヒットにわたる推定誤差」、または「或るヒット付近のみで増大する局所的な推定誤差」の影響を低減することにより、位相補償精度の向上、ひいては、再生されたレーダ画像の分解能向上を実現した画像レーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係る画像レーダ装置は、目標のレンジプロフィールを取得するレーダ観測器と、レンジプロフィールのレンジヒストリに基づいてレーダ画像を生成するレーダ画像化器とからなる画像レーダ装置であって、レーダ観測器は、高周波信号を発生する送信機と、高周波信号を目標に照射するとともに目標で散乱された高周波信号の一部を受信する送受信アンテナと、送受信アンテナを介して目標からの受信信号を取り込む受信機と、送信機からの高周波信号を送受信アンテナに送出するとともに送受信アンテナからの受信信号を受信機に入力する送受切換器と、受信信号のレンジ方向の分解能をレンジ圧縮により向上させてレンジプロフィールを取得するレンジ圧縮器と、を備え、レンジプロフィールを取得する一連の処理を、目標とレーダ観測器との間の相対位置関係を変えながら繰り返し実行してレンジヒストリを取得し、レーダ画像化器は、レンジヒストリをクロスレンジ圧縮することにより、目標上の反射強度分布をレンジドップラー分布として表現したレーダ画像を得るために、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅以上のヒット幅のレンジヒストリに対して、目標とレーダ観測器との間の相対運動で発生する観測中の各反射点のレンジ分解能セルの移動を推定して補償するレンジ補償器と、レンジ補償器によるレンジ補償後のレンジヒストリ上の代表的な複数の反射点の位相変化を調べ、レーダ画像のドップラー周波数方向のぼけの原因となるヒットに対する2次以上の不要位相変化の、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅の範囲での値を推定する不要位相変化推定器と、不要位相変化推定器で得られた不要位相変化に基づき、レンジ補償後のレンジヒストリから、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅分だけ切出したレンジヒストリに含まれる不要位相変化成分を補償する位相補償回路と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、位相補償精度を向上させて、再生されたレーダ画像の分解能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1に係る画像レーダ装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1内のレーダ観測器の構成を示すブロック図である。
【図3】図1内のレーダ画像化器の構成を示すブロック図である。
【図4】図3内の位相補償器の構成を示すブロック図である。
【図5】図4内の不要位相変化推定器の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態1による位相補償器の処理内容を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2による不要位相変化推定器の構成を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態3による不要位相変化推定器の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態4による不要位相変化推定器の構成を示すブロック図である。
【図10】この発明の実施の形態5による不要位相変化推定器の構成を示すブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態5による不要位相変化推定器の処理内容を示す説明図である。
【図12】この発明の実施の形態6による不要位相変化推定器の構成を示すブロック図である。
【図13】この発明の実施の形態6による不要位相変化推定器の処理内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る画像レーダ装置の全体構成を示すブロック図である。
図1において、画像レーダ装置は、レーダ観測器1と、レーダ画像化器2と、により構成されている。
【0022】
レーダ観測器1は、目標Tのレーダ画像U(r,f)を生成するために必要なレンジヒストリS(レンジプロフィールの時間履歴)を得るための観測を行う。
レーダ画像化器2は、レーダ観測器1で得られたレンジヒストリSに基づいて、レーダ画像U(r,f)を生成する。
【0023】
図2は図1内のレーダ観測器1の構成を示すブロック図である。
図2において、レーダ観測器1は、高周波信号を発生する送信機3と、送受切換器4と、送受信アンテナ5と、受信信号を増幅および検波する受信機6と、レンジ圧縮器7と、を備えている。
【0024】
送受切換器4は、送信時と受信時とで、信号の流れる方向を切り換える。
送受信アンテナ5は、目標Tに向けて電波を照射するとともに、目標Tからの散乱電波を受信する。
レンジ圧縮器7は、受信機6で得られた受信信号のレンジ分解能を、送信波形の情報に基づき高分解能化し、高分解能化したレンジプロフィールを取得してレーダ画像化器2に入力する。
【0025】
図3は図1内のレーダ画像化器2の構成を示すブロック図である。
図3において、レーダ画像化器2は、レンジヒストリ切出器11と、レンジ補償器12と、位相補償器13と、クロスレンジ圧縮器14と、を備えている。
【0026】
レンジヒストリ切出器11は、レーダ観測器1から入力されたレンジヒストリSに基づき、指定された切出し開始ヒットおよび指定されたヒット幅H0のレンジヒストリS0(r,h)を切出す。
レンジ補償器12は、レンジヒストリ切出器11で切出されたレンジヒストリS0(r,h)のレンジ補償を行う。具体的には、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅H以上のヒット幅H0のレンジヒストリS0(r,h)に対して、目標Tとレーダ観測器1との間の相対運動で発生する、観測中の各反射点のレンジ分解能セルの移動を推定して補償する。
【0027】
位相補償器13は、レンジヒストリ切出器11およびレンジ補償器12を介して入力されたレンジヒストリS1(r,h)に基づき、最終的に画像化に用いるヒット範囲のレンジヒストリS1(r,h)の位相補償を行う。
クロスレンジ圧縮器14は、位相補償器13で得られた位相補償後のレンジヒストリS3(r,h)のクロスレンジ圧縮を行い、レーダ画像U(r,f)を生成する。
【0028】
図4は図3内の位相補償器13の構成を示すブロック図である。
図4において、位相補償器13は、不要位相変化推定器21および位相補償回路22を備えている。
【0029】
不要位相変化推定器21は、レンジ補償器12で得られたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化を推定する。
具体的には、不要位相変化推定器21は、レンジ補償器12から得られるレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)上の代表的な複数の反射点の位相変化を調べ、レーダ画像U(r,f)のドップラー周波数方向のぼけの原因となる不要位相変化(ヒットに対する2次以上の変化成分)の、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅Hの範囲での不要位相変化φ2(h)の値を推定して、位相補償回路22に入力する。
【0030】
位相補償回路22は、不要位相変化推定器21から得られた不要位相変化φ2(h)に基づき、レンジ補償器12から得られたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)のうちの、最終的に画像化に用いるヒット範囲のレンジヒストリS3(r,h)の不要位相変化を補償する。
【0031】
具体的には、位相補償回路22は、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)から、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅H分だけ切出したレンジヒストリS3(r,h)に含まれる不要位相変化成分を補償して、クロスレンジ圧縮器14に入力する。
【0032】
図5は図4内の不要位相変化推定器21の構成を示すブロック図である。
図5において、不要位相変化推定器21は、PGA推定器31およびヒット範囲切出器111を備えている。
【0033】
PGA推定器31は、レンジ補償器12から入力されたレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)を、位相補償法の一種であるPGA法の原理にしたがって推定し、ヒット範囲切出器111に入力する。
ヒット範囲切出器111は、PGA推定器31から得られた不要位相変化φ1(h)に基づき、最終的に画像化に用いるヒット範囲のレンジヒストリに対応するヒット範囲のデータを切出して、不要位相変化φ2(h)として位相補償回路22に入力する。
【0034】
次に、図6を参照しながら、図1〜図5に示したこの発明の実施の形態1による動作について説明する。
図6は位相補償器13の処理内容を示す説明図であり、図6(b)〜図6(e)において、共通の横軸はヒットhを表し、縦軸はレンジr、不要位相変化レベルを表している。
【0035】
図6(a)はレンジヒストリS1(r,h)を格納する配列イメージを図式的に表している。
図6(b)はPGA推定器31で得られた不要位相変化φ1(h)を格納する配列イメージを図式的に表しており、ヒットhごとに1つの不要位相変化φ1(h)が得られる状態を示している。
【0036】
図6(c)は不要位相変化φ1(h)、φ2(h)の値の具体的な変化イメージを表しており、細実線は不要位相変化φ1(h)、太実線は不要位相変化φ2(h)を示している。
図6(d)は不要位相変化φ2(h)を格納する配列イメージを図式的に表しており、 図6(e)はレンジヒストリS0(r,h)を格納する配列イメージを図式的に表している。
【0037】
まず、レーダ観測器1(図2)においては、従来装置と同様に、送信機3から高周波信号を発生し、送受切換器4および送受信アンテナ5を介して、高周波信号を目標Tに照射する。
また、レーダ観測器1は、目標Tで散乱された高周波信号の一部を、送受信アンテナ5および送受切換器4を介して、受信機6で受信する。
【0038】
レンジ圧縮器7は、受信信号のレンジ方向の分解能を、一般的なパルス圧縮などで向上させて、レンジプロフィールを得る。
以上のレーダ観測器1による一連処理は、目標Tとレーダ観測器1との間の相対位置関係を変えながら繰り返し実行され、これにより、レンジヒストリS(レンジプロフィールの時間履歴)が得られる。
【0039】
レンジヒストリSは、ヒットhと、レンジセル番号(以下、単に「レンジ」、「レンジセル」ともいう)rと、を軸とする2次元配列で与えられる。各配列要素には、各ヒットhにおける、各レンジセルrの複数の反射点の振幅および位相情報を含む複素数値が格納される。
【0040】
続いて、レーダ画像化器2(図3)においては、レーダ観測器1で得られたレンジヒストリSを処理して、レーダ画像U(r,f)を生成する。
まず、レンジヒストリ切出器11は、レーダ観測器1から入力されたレンジヒストリSに基づき、指定された切出し開始位置、および、入力されたヒット幅以下の指定されたヒット幅H0のレンジヒストリS0(r,h)を切出して、レンジ補償器12に入力する。
【0041】
すなわち、レンジヒストリ切出器11は、レーダ画像再生および運動補償(レーダ画像再生の前処理)で用いるヒット位置およびヒット幅H0のレンジヒストリS0(r,h)を、レーダ観測器1から切出す。
【0042】
ここでは、レンジセル数をRで表し、レンジr=0、1、・・・、R−1、とする。
また、図6のように、切出したヒット幅H0を偶数とし、ヒットh=−H0/2、−H0/2+1、・・・、0、・・・、H0/2−2、H0/2−1、と番号付ける。
【0043】
なお、ヒット幅H0が奇数の場合は、ヒットh=−(H0−1)/2、・・・、0、・・・、(H0−1)/2とすればよいが、以下では、偶数/奇数の場合分けが煩雑になるので、ヒット幅H0が偶数の場合のみについて説明する。ヒット幅H0が奇数の場合も、以下の処理はそのまま適用できるのは言うまでもない。
【0044】
また、レーダ画像化器2(図3)においては、画像再生や運動補償に用いるヒット幅H以上の幅でレンジヒストリSを収集し、収集されたレンジヒストリSから、必要なヒット位置およびヒット幅のデータを切出して画像化するような運用(たとえば、切出し位置を連続的に変えて動画像を得るような場合)を想定して、レーダ画像化器2の初段にレンジヒストリ切出器11が配置されている。
【0045】
なお、レーダ観測器1において、画像再生や運動補償に用いるのと同じヒット幅H0のレンジヒストリのみを収集するような運用も当然考えられ、この場合には、切出処理そのものは不要となる。
ただし、この場合も、レンジヒストリ切出器11による切出処理は、入力されたレンジヒストリSと同じヒット幅H0のレンジヒストリS0(r,h)を切出す処理と等価なので、汎用性をもたせる意味で、レーダ画像化器2はレンジヒストリ切出器11を含むものとする。
【0046】
続いて、レンジ補償器12は、レンジヒストリ切出器11で得られた切出し後のレンジヒストリS0(r,h)に対して、既存のレンジ補償処理を適用して、目標Tとレーダ観測器1との間の相対運動の影響で発生した、各反射点のレンジセル移動成分を補償する。
なお、具体的なレンジ補償処理は、種々の公知文献(特許第3360562号公報、特開2006−343290号公報など)において参照することができる。
【0047】
レンジ補償器12から得られるレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)は、ヒットh=−H0/2、−H0/2+1、・・・、0、・・・、H0/2−2、H0/2−1、であり、レンジr=0、1、・・・、R−1、である。
レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)においては、各反射点のレンジ移動成分が補償されているので、図6(a)のように、各反射点は、全ヒットhにわたって、それぞれ同じレンジセルr内に留まる。
【0048】
次に、位相補償器13(図4)は、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)上に残存する「各反射点の位相の時間tに対する(または、ヒットhに対する)2次以上の変化成分(不要位相変化φ2(h))」を推定して補償する。
【0049】
一般に、或る時刻tにおける受信信号の位相φ(t)[rad]と、瞬時のドップラー周波数fd(t)[Hz]との間には、以下の式(1)で表される周知の関係がある。
【0050】
【数1】

【0051】
式(1)から明らかなように、ドップラー周波数fd(t)は、位相φ(t)に2次以上の時間変化成分が含まれれば、1次以上の時間変化が生じるので、各反射点を、レンジとドップラー差とで分離して目標Tを画像化する場合、各反射点の像は、ドップラー周波数fd(t)方向に画像ぼけが発生することになる。
したがって、上記画像ぼけを解消するためには、図3、図4のように、位相補償器13が必要となる。
【0052】
なお、不要位相変化φ1(h)は、前述のように、目標Tとレーダ観測器1との間の相対位置の変化の影響によって発生するが、相対位置の変化によって発生する見込角の変化が小さい場合には、レーダ観測器1と目標Tの重心との間の距離変化(時間に対する2次以上の成分)によって発生するものと見なすことができる。また、レーダ観測器1から目標Tまでの距離に比べて、目標Tの大きさが十分に小さい場合には、距離変化は全反射点に共通なものと見なすことができる。
【0053】
したがって、近似的に、不要位相変化φ1(h)も、全反射点で一致するものと見なすことができる。
ここでは、上記近似条件が成立する範囲での適用を想定しており、前述のPGA法(位相補償法)も、上記近似条件が成立する範囲での適用が想定されている。
【0054】
位相補償器13(図4)に入力されたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)は、不要位相変化推定器21および位相補償回路22の両方に入力される。
不要位相変化推定器21(図5)内のPGA推定器31は、公知のPGA法の原理に基づいて、レンジヒストリS1(r,h)の不要位相変化φ1(h)を推定する。
PGA法に基づく不要位相変化φ1(h)の推定方法については、たとえば前述の特許文献1に詳述されているので、以下に要点のみを述べる。
【0055】
一般に、目標T上の或る反射点に着目した場合、その反射点の受信信号g0(h)の位相には、反射点の位相やドップラー位置に関する1次以下の位相変化に画像ぼけの原因となる不要位相変化φe(h)が含まれる。
【0056】
この場合、反射点がぼけているので、反射点のドップラー位置を正確に推定することは困難であるが、反射点のドップラー位置の情報に基づき、受信信号g0(h)から1次の位相変化をできるだけ補償した結果をg(h)とする。
ここで、理想の(一次の位相変化が完全に除去された)状態においては、不要位相変化φe(h)と補償後の受信信号g(h)との間には、以下の式(2)で示す関係が成立する。
【0057】
【数2】

【0058】
PGA法においては、式(2)の関係を利用して、不要位相変化の一次微分値を取得して、これを積分することにより、最終的な不要位相変化φ1(h)を得る。
特に、受信機6の雑音の影響を低減するために、式(2)の関係を、複数のレンジセルrについて取得して、これを平均処理することができる。
【0059】
また、同じレンジセルrに複数の反射点が存在する場合を想定して、周波数軸上でウィンドウをかける処理や、推定された不要位相変化φ1(h)に基づいてレンジヒストリを位相補償したうえで、再度の推定処理を行うシーケンス処理を繰り返すことにより、段階的に不要位相変化φ1(h)の推定精度を向上させる方法なども含まれる。
【0060】
PGA推定器31は、上記公知のPGA法を用いて、入力されたレンジヒストリS1(r,h)に対する不要位相変化φ1(h)を得る。
図6(b)のように、レンジヒストリS1(r,h)の不要位相変化φ1(h)については、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)(図6(a))と同じように、ヒットh=−H0/2、−H0/2+1、・・・、0、・・・、H0/2−2、H0/2−1、のヒット範囲で値が得られる。
【0061】
従来装置のPGA処理では、以上のように得られた不要位相変化φ1(h)を用いて、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)の位相補償が行われている。
公知のPGA処理は、有力な方法ではあるが、受信信号の性質(たとえば、注目するレンジセルrの反射点の数や位置関係、不要位相変化φ1(h)の次数など)によっては、不要位相変化φ1(h)の推定誤差(たとえば全ヒットにわたる推定誤差や、或るヒット付近のみで増大する局所的な推定誤差)が増大する可能性がある。
【0062】
そこで、この発明の実施の形態1(図1〜図6)においては、特に、ヒットhの中央付近(−H/2〜H/2−1)では、不要位相変化φ1(h)の推定精度が比較的高いものの、ヒットhの端部付近(−H0/2〜−H/2−1、H/2〜H0/2−1)では、不要位相変化φ1(h)の推定精度が比較的低くなる、という状況を想定する。
【0063】
たとえば、図6(b)において、ヒットの端部付近では、相対運動の影響とは異なる位相変化が発生しているような状況をイメージしている。
このような場合に、全ヒットhの不要位相変化φ1(h)(推定値)を用いて位相補償を行うと、不要位相変化の推定誤差の影響で画像ぼけが残存し、場合によっては画像ぼけが増大する可能性もある。
【0064】
したがって、不要位相変化推定器21は、上記のような推定誤差の特性を仮定して、最終的に画像再生に用いるヒット幅H以上の広いヒット幅H0(≧H)でレンジ補償を行い、PGA法による不要位相変化φ1(h)を推定したうえで、不要位相変化φ1(h)のうち、誤差が発生している可能性がある不要な端部の推定結果を捨てて、位相補償に本来必要な不要位相変化φ2(h)を最終的に取得する。
【0065】
なお、処理順序の都合上、ヒット幅H0でレンジ補償を行い、不要位相変化φ1(h)を推定するという説明を先にしたが、本来的には、まず、画像化に必要なヒット幅Hが定まり、その後に、ヒット幅H以上の適当なヒット幅H0が定まることになる。
【0066】
具体的には、ヒット範囲切出器111は、ヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)として、不要位相変化φ1(h)のうちの中央付近(h=−H/2〜H/2−1)を、以下の式(3)のように抽出して、位相補償回路22に入力する。
【0067】
【数3】

【0068】
ヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)を格納する配列のイメージは、図6(d)に示した通りである。
また、不要位相変化φ2(h)の値の変化のイメージは、図6(c)内の太実線で示した通りである。
【0069】
続いて、位相補償回路22は、不要位相変化推定器21から最終的に得られた不要位相変化φ2(h)を用いて、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)の位相補償を行う。
【0070】
具体的には、まず、レンジ補償後のヒット幅H0のレンジヒストリS1(r,h)から、最終的に画像再生に用いるヒット幅HのレンジヒストリS2(r,h)を、以下の式(4)のように得る。
【0071】
【数4】

【0072】
ヒット幅HのレンジヒストリS2(r,h)を格納する配列のイメージは、図6(e)に示した通りである。
また、位相補償回路22は、以下の式(5)のように、レンジヒストリS2(r,h)の位相補償を行い、位相補償後のレンジヒストリS3(r,h)(h=−H/2、−H/2+1、・・・、0、・・・、H/2−2、H/2−1;r=0、1、・・・、R−1)を得る。
【0073】
【数5】

【0074】
これにより、クロスレンジ軸方向の画像ぼけの要因である不要位相変化φ2(h)を補償することができる。
位相補償後のレンジヒストリS3(r,h)は、クロスレンジ圧縮器14に入力される。
【0075】
最後に、レーダ画像化器2(図3)内のクロスレンジ圧縮器14は、公知のクロスレンジ圧縮処理、すなわちヒットh方向の離散フーリエ変換を行うことにより、レンジヒストリS3(r,h)のクロスレンジ方向の分解能を向上させたレーダ画像U(r,f)(f=0、1、・・・、H/2−1;r=0、1、・・・、R−1)を、以下の式(6)のように取得する。
【0076】
【数6】

【0077】
なお、切出処理のヒット幅H0が最終的な画像再生用のヒット幅Hと一致する場合は、通常のPGA法を用いた場合の位相補償と一致するので、この発明の実施の形態1による上記方法は、PGA法の自然な拡張方法の1つと位置付けられる。
【0078】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図6)に係る画像レーダ装置は、目標Tのレンジプロフィールを取得するレーダ観測器1と、レンジプロフィールのレンジヒストリSに基づいてレーダ画像U(r,f)を生成するレーダ画像化器2と、により構成されている。
【0079】
レーダ観測器1(図2)は、高周波信号を発生する送信機3と、高周波信号を目標Tに照射するとともに目標Tで散乱された高周波信号の一部を受信する送受信アンテナ5と、送受信アンテナ5を介して目標Tからの受信信号を取り込む受信機6と、送信機3からの高周波信号を送受信アンテナ5に送出するとともに送受信アンテナ5からの受信信号を受信機6に入力する送受切換器4と、受信信号のレンジ方向の分解能をレンジ圧縮により向上させてレンジプロフィールを取得するレンジ圧縮器7と、を備えている。
【0080】
レーダ観測器1は、レンジプロフィールを取得する一連の処理を、目標Tとレーダ観測器1との間の相対位置関係を変えながら繰り返し実行してレンジヒストリSを取得する。
レーダ画像化器2(図3)は、レンジヒストリSをクロスレンジ圧縮することにより、目標T上の反射強度分布をレンジドップラー分布として表現したレーダ画像U(r,f)を得る。
【0081】
レーダ画像化器2は、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅H以上のヒット幅H0のレンジヒストリS0(r,h)に対して、目標Tとレーダ観測器1との間の相対運動で発生する観測中の各反射点のレンジ分解能セルの移動を推定して補償するレンジ補償器12を備えている。
【0082】
また、レーダ画像化器2は、レンジ補償器12によるレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)上の代表的な複数の反射点の位相変化を調べ、レーダ画像のドップラー周波数方向のぼけの原因となるヒットhに対する2次以上の不要位相変化φ2(h)の、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅Hの範囲での値を推定する不要位相変化推定器21(図4、図5)を備えている。
【0083】
さらに、レーダ画像化器2は、不要位相変化推定器21で得られた不要位相変化φ2(h)に基づき、レンジ補償後のレンジヒストリから、最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅分だけ切出したレンジヒストリに含まれる不要位相変化成分を補償する位相補償回路22(図4)を備えている。
【0084】
不要位相変化推定器21(図5)は、何らかの方法で一度推定されたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)について、不要位相変化φ1(h)のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)のみを抽出するヒット範囲切出器111を含む。
【0085】
これにより、一般的なPGA法で位相補償する場合に発生する補償誤差、すなわち、不要位相変化φ1(h)の推定誤差を低減することができる。
すなわち、PGA法を用いて不要位相変化φ1(h)を推定する際に、受信信号の条件によっては発生する可能性がある「全ヒットにわたる推定誤差」、または「或るヒット付近のみで増大する局所的な推定誤差」の影響を低減して、位相補償精度を向上させることができる。
【0086】
特に、PGA法において、受信信号の性質(たとえば、注目するレンジセルrの反射点の数や位置関係、不要位相変化φ1(h)の次数など)によって、ヒットhの中央付近では不要位相変化の推定精度が比較的高いが、端部付近では不要位相変化φ1(h)の推定精度が悪くなるような状況を想定して、あらかじめ画像再生に用いるヒット幅Hよりも広いヒット幅H0のレンジヒストリS0(r,h)のレンジ補償および不要位相変化推定を施したうえで、ここから誤差が発生している可能性がある不要な端部の推定結果を捨てて、位相補償に本来必要な不要位相変化φ2(h)を最終的に得ることにより、仮定した不要位相変化φ1(h)の推定誤差の影響を低減することができる。
この結果、再生されたレーダ画像U(r,f)の分解能を向上させることができる。
【0087】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図5)では、不要位相変化推定器21内にヒット範囲切出器111を設けたが、図7のように、ヒット範囲切出器111に代えて、位相フィッティング器121を設けてもよい。
図7はこの発明の実施の形態2による不要位相変化推定器21Aの構成を示すブロック図である。また、この発明の実施の形態2に係る画像レーダ装置の他の構成は、図1〜図4に示した通りである。
【0088】
図7において、不要位相変化推定器21Aは、PGA推定器31の後段に、前述(図5)のヒット範囲切出器111に代えて、位相フィッティング器121を備えている。
位相フィッティング器121は、入力した不要位相変化φ1(h)に対し、あらかじめ設定した次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化φ3(h)として抽出し、位相補償回路22に入力する。
【0089】
次に、図1〜図4、図6および図7を参照しながら、この発明の実施の形態1による動作について説明する。
まず、レーダ観測器1(図1、図2)は、前述と同様に、レンジヒストリSの取得処理を行い、レンジヒストリ切出器11(図3)は、運動補償および画像再生に用いるレンジヒストリS0(r,h)の切出処理を行う。
【0090】
また、前述と同様に、レンジ補償器12(図3、図6)は、切出したレンジヒストリS0(r,h)のレンジ補償を行い、レンジヒストリS1(r,h)を取得し、不要位相変化推定器21A(図7)内のPGA推定器31は、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に基づき、不要位相変化φ1(h)を取得する処理を行う。
【0091】
以下、この発明の実施の形態2による不要位相変化推定器21A(図7)内の位相フィッティング器121は、最小2乗法を適用して、不要位相変化φ3(h)を抽出し、位相補償器13(図4)内の位相補償回路22に入力する。
【0092】
最後に、前述と同様に、位相補償回路22は、不要位相変化推定器21Aからの不要位相変化φ3(h)に基づき位相補償後のレンジヒストリS3(r,h)を取得し、クロスレンジ圧縮器14は、レンジヒストリS3(r,h)をクロスレンジ圧縮して、レーダ画像U(r,f)の取得処理を行う。
【0093】
ここでは、前述と同様に、PGA法を用いて不要位相変化φ1(h)を推定した際に、受信信号の性質によっては、不要位相変化φ1(h)の推定誤差が増大する可能性があることを想定し、この影響を低減することを目的としている。
また、特に、同じレンジrに存在する複数の反射点間の干渉の影響や、雑音の影響で、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化φ1(h)の推定誤差が存在するような状況に対処することを目的としている。
【0094】
上記推定誤差を低減するために、PGA推定器31の後段に設けられた位相フィッティング器121は、PGA推定器31で得られた不要位相変化φ1(h)に対し、あらかじめ設定した次数の一般的な最小2乗法を適用し、2乗誤差を最小とする不要位相変化φ3(h)を得る。
【0095】
このように、最小2乗法を適用することにより、最小2乗法の低域通過フィルタとしての性質を利用して、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化φ1(h)の推定誤差を低減することができる。
【0096】
なお、前述と同様に、レンジヒストリ切出器11(図3)で切出すヒット幅H0を、最終的に画像再生に用いるヒット幅Hと一致させることにより、不要位相変化φ1(h)、φ3(h)のヒット幅がいずれもHとなる。
また、切出しヒット幅H=H0の条件により、S1(r,h)と完全に一致する場合、位相補償器13(図4)内の位相補償回路22において、最終的に画像再生に用いるヒット幅Hのレンジ補償後のレンジヒストリS2(r,h)を、不要位相変化φ3(h)を用いて位相補償する処理についても、前述と同様である。
【0097】
以上のように、この発明の実施の形態2(図7)による不要位相変化推定器21Aは、一度推定されたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化φ3(h)の推定値として出力する位相フィッティング器121を備えている。
【0098】
これにより、PGA法を用いて不要位相変化を推定した際に、受信信号の性質によっては増大する可能性がある不要位相変化φ1(h)の推定誤差のうちの、特に同じレンジrに存在する複数の反射点間の干渉の影響や雑音の影響で、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化φ1(h)の推定誤差を、最小2乗法の低域通過フィルタとしての性質を利用して低減することができるので、不要位相変化の推定精度を向上させることができる。
【0099】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1、2(図5、図7)では、不要位相変化推定器21、21A内にヒット範囲切出器111、位相フィッティング器121の一方を設けたが、図8のように、不要位相変化推定器21B内にヒット範囲切出器111および位相フィッティング器121の両方を設けてもよい。
【0100】
図8はこの発明の実施の形態3による不要位相変化推定器21Bの構成を示すブロック図である。また、この発明の実施の形態3に係る画像レーダ装置の他の構成は、図1〜図4に示した通りである。
図8において、不要位相変化推定器21Bは、PGA推定器31の後段に、位相フィッティング器121を備え、さらに、位相フィッティング器121の後段に、ヒット範囲切出器111を備えている。
【0101】
次に、図1〜図4、図6および図8を参照しながら、この発明の実施の形態3による動作について説明する。
まず、レーダ観測器1(図1、図2)は、前述と同様に、レンジヒストリSの取得処理を行い、レンジヒストリ切出器11(図3)は、運動補償および画像再生に用いるレンジヒストリS0(r,h)の切出処理を行う。
【0102】
また、前述と同様に、レンジ補償器12(図3、図6)は、切出したレンジヒストリS0(r,h)のレンジ補償を行い、レンジヒストリS1(r,h)を取得し、不要位相変化推定器21B(図8)内のPGA推定器31は、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に基づき、不要位相変化φ1(h)を取得する処理を行う。
【0103】
以下、この発明の実施の形態3による不要位相変化推定器21B(図8)内の位相フィッティング器121は、最小2乗法を適用して、不要位相変化φ3(h)を抽出し、ヒット範囲切出器111に入力する。
ヒット範囲切出器111は、不要位相変化φ3(h)から不要位相変化φ2(h)を切出して位相補償器13(図4)内の位相補償回路22に入力する。
【0104】
位相補償回路22は、前述と同様に、不要位相変化推定器21Bからの不要位相変化φ2(h)に基づき、最終的に画像再生に用いるヒット幅Hのレンジ補償後のレンジヒストリS2(r,h)を補償して、位相補償後のレンジヒストリS3(r,h)を取得する。
最後に、クロスレンジ圧縮器14は、レンジヒストリS3(r,h)をクロスレンジ圧縮して、レーダ画像U(r,f)の取得処理を行う。
【0105】
この発明の実施の形態3においても、レーダ画像化器2(図3)内のレンジヒストリ切出器11により切出すヒット幅H0は、最終的に画像再生に用いるヒット幅H以上に設定されており、レンジヒストリS1(r,h)および不要位相変化φ1(h)のヒット幅はH0であり、不要位相変化φ2(h)のヒット幅はHである。
【0106】
また、前述と同様に、PGA法を用いて不要位相変化を推定した際に、受信信号の性質によっては、不要位相変化の推定誤差が増大する可能性があることを想定し、この影響を低減することを目的としている。
【0107】
さらに、特に、同じレンジrに存在する複数の反射点間の干渉の影響や、雑音の影響で、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差が存在するような場合や、ヒットhの中央付近では不要位相変化の推定精度が比較的高いが、端部付近では不要位相変化の推定精度が低いような場合が混在して発生するような状況に対処することを目的としている。
【0108】
PGA推定器31の後段の位相フィッティング器121は、PGA推定器31で得られた不要位相変化φ1(h)に対して、あらかじめ設定した次数の一般的な最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする不要位相変化φ3(h)(h=−H0/2、−H0/2+1、・・・、0、・・・、H0/2−2、H0/2−1)を得る。
【0109】
不要位相変化φ3(h)においては、最小2乗法の低域通過フィルタとしての性質により、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差が低減されているものと期待されるが、端部付近で増大する不要位相変化φ1(h)の推定誤差の影響が含まれている可能性がある。
【0110】
そこで、ヒット範囲切出器111は、不要位相変化φ3(h)のうちの、推定誤差が増大している可能性が高く、かつ不要な、端部付近のデータを捨てて、最終的に画像再生に用いるヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)を取得する。
この処理は、前述の式(3)のように、不要位相変化φ1(h)に基づき不要位相変化φ2(h)を取得する処理と同様である。
これにより、端部付近で増大する不要位相変化の推定誤差を低減することができる。
【0111】
以上のように、この発明の実施の形態3(図8)による不要位相変化推定器21Bは、一度推定されたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化φ3(h)の推定値として出力する位相フィッティング器121を備えている。
【0112】
また、不要位相変化推定器21Bは、位相フィッティング器121からの不要位相変化φ3(h)のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)を抽出するヒット範囲切出器111を備えている。
【0113】
これにより、前述と同様の効果を奏するとともに、同じレンジrに存在する複数の反射点間の干渉の影響や雑音の影響で、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差が存在するような場合や、ヒットhの中央付近では不要位相変化の推定精度が比較的高いが、端部付近では不要位相変化の推定精度が低いような場合が混在して発生するような状況でも、不要位相変化φ2(h)の推定誤差を低減して、高精度に位相補償を行うことができ、再生されたレーダ画像U(r,f)のぼけの発生を低減することができる。
【0114】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態3(図8)では、ヒット範囲切出器111の前段に位相フィッティング器121を設けたが、図9のように、ヒット範囲切出器111の後段に位相フィッティング器121を設けてもよい。
【0115】
図9はこの発明の実施の形態4による不要位相変化推定器21Cの構成を示すブロック図である。また、この発明の実施の形態4に係る画像レーダ装置の他の構成は、図1〜図4に示した通りである。
図9において、不要位相変化推定器21Cは、PGA推定器31の後段に、ヒット範囲切出器111を備え、さらに、ヒット範囲切出器111の後段に、位相フィッティング器121を備えている。
【0116】
次に、図1〜図4、図6および図9を参照しながら、この発明の実施の形態4による動作について説明する。
この場合、不要位相変化推定器21C内のヒット範囲切出器111および位相フィッティング器121の処理順序が入れ替わったのみであり、他の処理は前述と同様である。
【0117】
すなわち、レーダ観測器1(図2)によるレンジヒストリSの取得処理、レーダ画像化器2内のレンジヒストリ切出器11(図3)によるレンジヒストリS0(r,h)の切出処理、レンジ補償器12(図3、図6)によるレンジヒストリS1(r,h)の取得処理、不要位相変化推定器21C内のPGA推定器31による不要位相変化φ1(h)の取得処理、位相補償回路22(図4)によるレンジヒストリS3(r,h)の取得処理、および、クロスレンジ圧縮器14によるレーダ画像U(r,f)の取得処理は、前述と同様である。
【0118】
また、この発明の実施の形態4においても、レンジヒストリ切出器11で切出すヒット幅H0は、最終的に画像再生に用いるヒット幅H以上に設定されており、レンジヒストリS1(r,h)および不要位相変化φ1(h)のヒット幅はH0であり、不要位相変化φ2(h)のヒット幅はHである。
【0119】
また、前述と同様に、PGA法を用いて不要位相変化を推定した際に、受信信号の性質によっては不要位相変化の推定誤差が増大する可能性があることを想定し、この影響を低減することを目的としている。
【0120】
さらに、同じレンジに存在する複数の反射点間の干渉の影響や、雑音の影響で、ヒットごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差が存在するような場合や、ヒットの中央付近では不要位相変化の推定精度が比較的高いが、端部付近では不要位相変化の推定精度が低いような場合が混在して発生するような状況に対処することを目的としている。
【0121】
不要位相変化推定器21Cにおいて、PGA推定器31の後段のヒット範囲切出器111は、前述と同様に、不要位相変化φ1(h)から、最終的に画像再生に用いるヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)(h=−H/2、−H/2+1、・・・、0、・・・、H/2−2、H/2−1)を抽出する。
なお、ヒット幅Hは、前述の実施の形態3(図8)における不要位相変化φ3(h)のヒット幅とは異なる。
【0122】
不要位相変化φ2(h)においては、端部付近で増大する不要位相変化の推定誤差が低減されているものと期待されるが、ヒットごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差は残存している可能性が高い。
【0123】
そこで、ヒット範囲切出器111の後段の位相フィッティング器121は、不要位相変化φ2(h)に対して、あらかじめ設定した次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする不要位相変化φ3(h)(h=−H/2、−H/2+1、・・・、0、・・・、H/2−2、H/2−1)を取得する。
【0124】
不要位相変化φ3(h)においては、不要位相変化φ2(h)に対して、最小2乗法の低域通過フィルタとしての性質を適用することにより、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差を低減できているものと期待される。
【0125】
以上のように、この発明の実施の形態4(図9)による不要位相変化推定器21Cは、入力された不要位相変化φ1(h)に対して、不要位相変化φ1(h)のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)を抽出するヒット範囲切出器111と、入力された不要位相変化φ2(h)に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化φ3(h)の推定値として出力する位相フィッティング器121と、を備えている。
【0126】
すなわち、ヒット範囲切出器111は、一度推定されたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)について、不要位相変化φ1(h)のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)を抽出する。
位相フィッティング器121は、入力されたヒット範囲切出器111からの不要位相変化φ2(h)に対して、設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化φ3(h)の推定値として出力する。
【0127】
これにより、前述の実施の形態1、2と同様の効果を奏するとともに、実施の形態3と同様に、同じレンジに存在する複数の反射点間の干渉の影響や、雑音の影響で、ヒットごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差が存在するような場合や、ヒットの中央付近では不要位相変化の推定精度が比較的高いが、端部付近では不要位相変化の推定精度が低いような場合が混在して発生するような状況でも、不要位相変化の推定誤差を低減して、高精度に位相補償を行うことができ、換言すれば、再生画像のぼけの発生を低減することができる。
【0128】
ところで、前述の実施の形態3(図8)とこの発明の実施の形態4(図9)とを比較すると、構成的には、位相フィッティング器121とヒット範囲切出器111の順序が入れ替わっている点のみが相違しているが、この相違点による効果の違いについて述べる。
【0129】
前述(図8)の構成では、PGA推定器31の直後に位相フィッティング器121が配置されているので、位相フィッティング器121が出力する不要位相変化φ3(h)においては、端部付近の大きな推定誤差の影響が広いヒット範囲に伝播する可能性がある。これは特に、最小2乗法の次数を低くした場合に顕著になる。
つまり、図8の場合、位相フィッティング器121の後段のヒット範囲切出器111で抽出するヒット幅にも上記誤差の影響が漏れ込んでくる可能性がある。
【0130】
これに対し、図9の構成によれば、ヒット範囲切出器111により先に端部のデータを捨てた後に、位相フィッティング器121により最小2乗法を適用するので、図8の構成による上記誤差伝播の発生を低減することができる。
【0131】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態3、4(図8、図9)では、不要位相変化推定器21B、21C内に単一のヒット範囲切出器111を設けたが、図10のように、不要位相変化推定器21D内において、位相フィッティング器121の前後に、第1ヒット範囲切出器151および第2ヒット範囲切出器152を設けてもよい。
【0132】
図10はこの発明の実施の形態5による不要位相変化推定器21Dの構成を示すブロック図であり、図11は不要位相変化推定器21Dの処理内容を示す説明図である。また、この発明の実施の形態5に係る画像レーダ装置の他の構成は、図1〜図4に示した通りである。
【0133】
図10において、不要位相変化推定器21Dは、PGA推定器31の後段に、第1ヒット範囲切出器151を備え、さらに、ヒット範囲切出器111の後段に、位相フィッティング器121を介して、第2ヒット範囲切出器152を備えている。
【0134】
第1ヒット範囲切出器151は、運動補償に用いるレンジヒストリと同じヒット幅H0のデータ列(不要位相変化φ1(h))から、ヒット幅H0以下で、かつ、最終的に画像再生に用いるヒット幅H以上の中間的なヒット幅H1のデータ列(不要位相変化φ21(h))を抽出する。
【0135】
第2ヒット範囲切出器152は、位相フィッティング器121を介した中間的なヒット幅H1のデータ列(不要位相変化φ3(h))から、最終的に画像再生に用いるヒット幅Hのデータ列(不要位相変化φ22(h))を抽出する。
【0136】
次に、図1〜図4、図10および図11を参照しながら、この発明の実施の形態5による動作について説明する。
この場合、不要位相変化推定器21D内において、位相フィッティング器121の前後に第1ヒット範囲切出器151および第1ヒット範囲切出器152が設けられた点を除けば、他の処理は前述と同様である。
【0137】
すなわち、レーダ観測器1(図2)によるレンジヒストリSの取得処理、レーダ画像化器2内のレンジヒストリ切出器11(図3)によるレンジヒストリS0(r,h)の切出処理、レンジ補償器12(図3、図11)によるレンジヒストリS1(r,h)の取得処理、不要位相変化推定器21D内のPGA推定器31による不要位相変化φ1(h)の取得処理、位相補償回路22(図4)によるレンジヒストリS3(r,h)の取得処理、および、クロスレンジ圧縮器14によるレーダ画像U(r,f)の取得処理は、前述と同様である。
【0138】
また、この場合も、レンジヒストリ切出器11で切出すヒット幅H0は、最終的に画像再生に用いるヒット幅H以上に設定されており、レンジヒストリS1(r,h)および不要位相変化φ1(h)のヒット幅はH0であり、不要位相変化φ2(h)のヒット幅はHである。
【0139】
また、前述と同様に、PGA法を用いて不要位相変化を推定した際に、受信信号の性質によっては不要位相変化の推定誤差が増大する可能性があることを想定し、この影響を低減することを目的としている。
【0140】
さらに、同じレンジに存在する複数の反射点間の干渉の影響や、雑音の影響で、ヒットごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差が存在するような場合や、ヒットの中央付近では不要位相変化の推定精度が比較的高いが、端部付近では不要位相変化の推定精度が低いような場合が混在して発生するような状況に対処することを目的としている。
【0141】
このため、まず、PGA推定器31の後段の第1ヒット範囲切出器151は、不要位相変化φ1(h)から、以下の式(7)のように、中間的なヒット幅H1(H≦H1≦H0)の不要位相変化φ21(h)を抽出する。
【0142】
【数7】

【0143】
なお、レンジヒストリS1(r,h)および不要位相変化φ1(h)、φ21(h)のイメージは、図11(a)〜図11(c)に示した通りである。
これにより、不要位相変化φ21(h)においては、端部付近で増大する不要位相変化の推定誤差が低減されているものと期待される。ただし、ヒットごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差は残存している可能性が高い。
【0144】
そこで、第1ヒット範囲切出器151の後段の位相フィッティング器121は、不要位相変化φ21(h)に対して、あらかじめ設定した次数の最小2乗法を適用し、2乗誤差を最小とする不要位相変化φ3(h)(h=−H1/2、−H1/2+1、・・・、0、・・・、H1/2−2、H1/2−1)を取得する。
【0145】
不要位相変化φ3(h)のイメージは、図11(d)に示した通りである。
不要位相変化φ3(h)においては、不要位相変化φ21(h)に対して、さらに、最小2乗法の低域通過フィルタとしての性質を適用することにより、ヒットhごとに細かく変動する不要位相変化の推定誤差を低減できているものと期待される。
【0146】
ただし、最小2乗法を適用する際に、たまたま不要位相変化φ21(h)のヒット端部付近で、受信信号の性質の影響で誤差が増大していた場合には、端部付近で最小2乗法のフィッティングに失敗して推定誤差も増大する可能性がある。
【0147】
そこで、端部付近での最小2乗法のフィッティング失敗の可能性を考慮して、位相フィッティング器121の後段に、さらに第2ヒット範囲切出器152が設けられている。
第2ヒット範囲切出器152は、不要位相変化φ3(h)のヒット端部の付近のデータを捨てて、以下の式(8)のように、最終的に画像再生に用いるヒット幅Hの不要位相変化φ22(h)を取得する。
【0148】
【数8】

【0149】
実際には、まず、最終的なヒット幅Hに対して少し広げたヒット幅H1が設定され、その後、さらに広げたヒット幅H0が設定される。
ヒット幅Hの不要位相変化φ22(h)のイメージは、図11(e)に示した通りである。
【0150】
以上のように、この発明の実施の形態5(図10、図11)による不要位相変化推定器21Dは、第1ヒット範囲切出器151と、位相フィッティング器121と、第2ヒット範囲切出器152と、を備えている。
【0151】
第1ヒット範囲切出器151は、一度推定されたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)について、不要位相変化φ1(h)のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅H以上でレンジ補償後のレンジヒストリのヒット幅H0以下の中間的なヒット幅H1(H≦H1≦H0)の不要位相変化φ21(h)を出力する。
【0152】
位相フィッティング器121は、第1ヒット範囲切出器151からの不要位相変化φ21(h)に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を、中間的なヒット幅H1の不要位相変化φ3(h)として出力する。
第2ヒット範囲切出器152は、位相フィッティング器121からの不要位相変化φ3(h)のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅Hの不要位相変化φ22(h)を出力する。
【0153】
これにより、前述の実施の形態1〜4と同等の効果を奏するとともに、最小2乗法を適用した際にヒット端部で大きくなる可能性がある推定誤差を低減することが可能となる。
【0154】
実施の形態6.
なお、上記実施の形態5(図10)では、位相フィッティング器121の前後に、第1ヒット範囲切出器151および第2ヒット範囲切出器152を設けたが、図12のように、不要位相変化推定器21E内において、位相フィッティング器121の前段に分割ヒット範囲切出器161を設け、位相フィッティング器121の後段にヒット範囲切出器111を設けてもよい。
【0155】
図12はこの発明の実施の形態6による不要位相変化推定器21Eの構成を示すブロック図であり、図13は不要位相変化推定器21Eの処理内容を示す説明図である。また、この発明の実施の形態6に係る画像レーダ装置の他の構成は、図1〜図4に示した通りである。
【0156】
図12において、不要位相変化推定器21Eは、PGA推定器31の後段に、分割ヒット範囲切出器161を備え、さらに、分割ヒット範囲切出器161の後段に、位相フィッティング器121を介して、ヒット範囲切出器111を備えている。
分割ヒット範囲切出器161は、PGA推定器31で得られた不要位相変化φ1(h)から、範囲の分割も許容した切出範囲から、不要位相変化φc(h)を抽出する。
【0157】
次に、図1〜図4、図12および図13を参照しながらこの発明の実施の形態6による動作について説明する。
この場合、不要位相変化推定器21E内において、位相フィッティング器121の前段に分割ヒット範囲切出器161が設けられた点を除けば、他の構成は前述の実施の形態3(図8)と同様である。
【0158】
すなわち、レーダ観測器1(図2)によるレンジヒストリSの取得処理、レーダ画像化器2内のレンジヒストリ切出器11(図3)によるレンジヒストリS0(r,h)の切出処理、レンジ補償器12(図3、図11)によるレンジヒストリS1(r,h)の取得処理、不要位相変化推定器21D内のPGA推定器31による不要位相変化φ1(h)の取得処理、位相補償回路22(図4)によるレンジヒストリS3(r,h)の取得処理、および、クロスレンジ圧縮器14によるレーダ画像U(r,f)の取得処理は、前述と同様である。
【0159】
また、この場合も、レンジヒストリ切出器11で切出すヒット幅H0は、最終的に画像再生に用いるヒット幅H以上に設定されており、レンジヒストリS1(r,h)および不要位相変化φ1(h)のヒット幅はH0であり、不要位相変化φ2(h)のヒット幅はHである。
【0160】
また、前述と同様に、PGA法を用いて不要位相変化を推定した際に、受信信号の性質によっては不要位相変化の推定誤差が増大する可能性があることを想定し、この影響を低減することを目的としている。
ここでは、特に、或る複数の区分的なヒット範囲において不要位相変化φ1(h)の推定誤差が増大するような場合を想定し、この場合に不要位相変化の推定精度を向上させることを目的としている。
【0161】
図13において、図13(a)は不要位相変化φ1(h)のイメージであり、複数の区分的なヒット範囲において不要位相変化φ1(h)の推定誤差が増大するような状況を示している。
【0162】
図13(a)において、特定ヒット範囲A、Bでは、推定誤差が増大していると考えられ、このような不要位相変化の推定誤差が大きい特定ヒット範囲A、Bのデータで位相補償を行うと、画像のぼけが残存することになるうえ、場合によっては画像のぼけ量が位相補償前の状態よりも大きくなる可能性がある。
【0163】
そこで、分割ヒット範囲切出器161は、このような推定誤差が大きくなっている可能性がある特定ヒット範囲A、Bのデータを捨てて、推定誤差が小さいと期待されるヒット範囲のデータのみを切出して、不要位相変化φc(h)として位相フィッティング器121に入力する。
【0164】
ただし、不要位相変化φc(h)におけるデータ存在ヒット範囲は、これまでのように連続的な範囲ではなく、図13(b)に示すように、飛び飛びの範囲になることも有り得る。また、図13(b)内の特定ヒット範囲Aのように、データ欠落範囲が、最終的な画像再生に用いるヒット幅H内に含まれることも許容する。
【0165】
続いて、位相フィッティング器121は、図13(c)に示すように、不要位相変化φc(h)に対して、あらかじめ設定した次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とした不要位相変化φ3(h)を取得する。
【0166】
最小2乗法においては、推定された各次元の係数に基づいて、任意のヒットhの値を計算することができるので、不要位相変化φ3(h)においては、不要位相変化φc(h)でデータが欠落した特定ヒット範囲A、Bの領域のデータ(実線参照)も、当然ながら取得することが可能となる。
【0167】
すなわち、不要位相変化φ3(h)は、h=−H0/2、・・・、0、・・・、H0/2−1のヒット範囲で得られる。
以下、前述と同様に、ヒット範囲切出器111は、不要位相変化φ3(h)から、最終的に画像再生に使うヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)を抽出する。
【0168】
以上のように、この発明の実施の形態6(図12、図13)による不要位相変化推定器21Eは、分割ヒット範囲切出器161と、位相フィッティング器121と、ヒット範囲切出器111と、を備えている。
【0169】
分割ヒット範囲切出器161は、一度推定されたレンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)について、不要位相変化φ1(h)から、不要位相変化φ1(h)の推定精度の予測結果を踏まえて設定された特定ヒット範囲A、Bのデータを捨てて、特定ヒット範囲A、B以外のヒット範囲の不要位相変化φc(h)を抽出する。
【0170】
位相フィッティング器121は、特定ヒット範囲A、Bでデータが欠落する分割ヒット範囲切出器161からの不要位相変化φc(h)に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化φ3(h)の推定値として出力する
ヒット範囲切出器111は、位相フィッティング器121からの不要位相変化φ3(h)から、最終的に必要なヒット幅Hの不要位相変化φ2(h)を抽出して、位相補償回路22に入力する。
【0171】
これにより、前述の実施の形態1〜4と同様の効果を奏するとともに、最小2乗法を適用した際にヒット端部で大きくなる可能性がある推定誤差を低減することができる。
特に、複数の区分的な特定ヒット範囲A、Bで不要位相変化φ1(h)の推定誤差が増大するような場合を想定して、特定ヒット範囲A、Bのデータを捨てることにより、不要位相変化の推定精度を向上させることができる。
【0172】
なお、上記実施の形態1〜6による不要位相変化推定器21、21A〜21Eは、レンジ補償後のレンジヒストリS1(r,h)に含まれる不要位相変化φ1(h)を、公知のPGA(Phase Gradient Autofocus)法の原理を利用して推定するPGA推定器31を備えている。
これにより、一般的なPGA法で位相補償する場合に発生する補償誤差(換言すれば、不要位相変化の推定誤差)を低減することができる。
【符号の説明】
【0173】
1 レーダ観測器、2 レーダ画像化器、3 送信機、4 送受切換器、5 送受信アンテナ、6 受信機、7 レンジ圧縮器、11 レンジヒストリ切出器、12 レンジ補償器、13 位相補償器、14 クロスレンジ圧縮器、21、21A〜21E 不要位相変化推定器、22 位相補償回路、31 PGA推定器、111 ヒット範囲切出器、121 位相フィッティング器、151 第1ヒット範囲切出器、152 第2ヒット範囲切出器、161 分割ヒット範囲切出器、A、B 特定ヒット範囲、H 最適的なヒット幅、H0 切出後のヒット幅、H1 中間的なヒット幅、r レンジ(レンジセル)、S、S0(r,h)、S1(r,h)、S2(r,h)、S3(r,h) レンジヒストリ、T 目標、U(r,f) レーダ画像、φ1(h)、φ2(h)、φ21(h)、φ22(h)、φ3(h)、φc 不要位相変化。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標のレンジプロフィールを取得するレーダ観測器と、前記レンジプロフィールのレンジヒストリに基づいてレーダ画像を生成するレーダ画像化器とからなる画像レーダ装置であって、
前記レーダ観測器は、
高周波信号を発生する送信機と、
前記高周波信号を前記目標に照射するとともに前記目標で散乱された前記高周波信号の一部を受信する送受信アンテナと、
前記送受信アンテナを介して前記目標からの受信信号を取り込む受信機と、
前記送信機からの高周波信号を前記送受信アンテナに送出するとともに前記送受信アンテナからの受信信号を前記受信機に入力する送受切換器と、
前記受信信号のレンジ方向の分解能をレンジ圧縮により向上させて前記レンジプロフィールを取得するレンジ圧縮器と、を備え、
前記レンジプロフィールを取得する一連の処理を、前記目標と前記レーダ観測器との間の相対位置関係を変えながら繰り返し実行して前記レンジヒストリを取得し、
前記レーダ画像化器は、
前記レンジヒストリをクロスレンジ圧縮することにより、前記目標上の反射強度分布をレンジドップラー分布として表現した前記レーダ画像を得るために、
最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅以上のヒット幅のレンジヒストリに対して、前記目標と前記レーダ観測器との間の相対運動で発生する観測中の各反射点のレンジ分解能セルの移動を推定して補償するレンジ補償器と、
前記レンジ補償器によるレンジ補償後のレンジヒストリ上の代表的な複数の反射点の位相変化を調べ、前記レーダ画像のドップラー周波数方向のぼけの原因となるヒットに対する2次以上の不要位相変化の、前記最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅の範囲での値を推定する不要位相変化推定器と、
前記不要位相変化推定器で得られた不要位相変化に基づき、前記レンジ補償後のレンジヒストリから前記最終的にクロスレンジ圧縮に用いるヒット幅分だけ切出したレンジヒストリに含まれる不要位相変化成分を補償する位相補償回路と、
を備えたことを特徴とする画像レーダ装置。
【請求項2】
前記不要位相変化推定器は、
一度推定された前記レンジ補償後のレンジヒストリに含まれる不要位相変化について、前記不要位相変化のヒット両端付近の推定値を捨てて、前記最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅の不要位相変化のみを抽出するヒット範囲切出器を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項3】
前記不要位相変化推定器は、
一度推定された前記レンジ補償後のレンジヒストリに含まれる不要位相変化に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化の推定値として出力する位相フィッティング器を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項4】
前記不要位相変化推定器は、
入力された前記不要位相変化に対して、前記不要位相変化のヒット両端付近の推定値を捨てて、前記最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅の不要位相変化を抽出するヒット範囲切出器と、
入力された前記不要位相変化に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化の推定値として出力する位相フィッティング器と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項5】
前記不要位相変化推定器は、
一度推定された前記レンジ補償後のレンジヒストリに含まれる不要位相変化に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化の推定値として出力する位相フィッティング器と、
位相フィッティング器からの不要位相変化のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅の不要位相変化を抽出するヒット範囲切出器と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の画像レーダ装置。
【請求項6】
前記不要位相変化推定器は、
一度推定された前記レンジ補償後のレンジヒストリに含まれる不要位相変化について、前記不要位相変化のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅の不要位相変化を抽出するヒット範囲切出器と、
前記ヒット範囲切出器からの不要位相変化に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化の推定値として出力する位相フィッティング器と、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の画像レーダ装置。
【請求項7】
前記不要位相変化推定器は、
一度推定された前記レンジ補償後のレンジヒストリに含まれる不要位相変化について、前記不要位相変化のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅以上でレンジ補償後のレンジヒストリのヒット幅以下の中間的なヒット幅の不要位相変化を出力する第1ヒット範囲切出器と、
前記第1ヒット範囲切出器からの不要位相変化に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を、中間的なヒット幅の不要位相変化として出力する位相フィッティング器と、
前記位相フィッティング器からの不要位相変化のヒット両端付近の推定値を捨てて、最終的にクロスレンジ圧縮に必要なヒット幅の不要位相変化を出力する第2ヒット範囲切出器と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項8】
前記不要位相変化推定器は、
一度推定された前記レンジ補償後のレンジヒストリに含まれる不要位相変化について、前記不要位相変化から、前記不要位相変化の推定精度の予測結果を踏まえて設定された特定ヒット範囲のデータを捨てて、前記特定ヒット範囲以外のヒット範囲の不要位相変化を抽出する分割ヒット範囲切出器と、
前記特定ヒット範囲でデータが欠落する前記分割ヒット範囲切出器からの不要位相変化に対して、あらかじめ設定された次数の最小2乗法を適用して、2乗誤差を最小とする位相変化を不要位相変化の推定値として出力する位相フィッティング器と、
前記位相フィッティング器からの不要位相変化から、最終的に必要なヒット幅の不要位相変化を抽出するヒット範囲切出器と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項9】
前記不要位相変化推定器は、
前記レンジ補償後のレンジヒストリに含まれる不要位相変化を、特許文献1や特許文献2に記載のPGA(Phase Gradient Autofocus)法の原理を利用して推定するPGA推定器を含むことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の画像レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−247593(P2011−247593A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117656(P2010−117656)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】