説明

画像処理方法、画像処理装置および画像処理プログラム

【課題】検査対象物の風化の程度を簡易に検出する。
【解決手段】補正部12により、対象物を撮影したRGB画像をγ補正して明るさを調整し、変換部13により、HSV色空間モデルに変換して色相情報を抽出し、照合部14により、抽出した色相情報と、記憶装置16に格納された色相情報とをマッチングして類似する色相情報を探し出し、その色相情報に対応する対象物の風化の程度を表す情報を読み出す。これにより、対象物を撮影するだけで風化の程度を知ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影された画像を処理することにより自然環境の変化を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気象情報観測や自然環境変化の観察などは、固定センサを設置して行われてきた。例えば、自然環境変化の検出は、自然環境下の建築物、看板、標識などの経年変化による色彩の変化を検出することにより行われる。具体的には、錆、腐食、化学変化等によって変化した家・建物の壁、道路、橋などの色彩を調べることで自然環境の変化を検出する。
【0003】
また、錆、腐食、化学変化等の風化により看板、交通標識等の視認性が低下した場合など、補修・取替えが必要となるので、看板等の視認性を一定水準以上に管理することも重要である。なお、本願に関連する技術文献としては以下のものがある。
【非特許文献1】"色変換式集"、[online]、システム計画研究所、[平成18年12月15日検索]、インターネット<URL:http://image−d.isp.jp/commentary/color_cformula/>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、素人には、その風化の程度を即断することが困難なことがあるため、調査対象を撮影した画像の定量化処理が必要である。
【0005】
一方、近年のカメラ付き携帯電話などの携帯端末の高性能化により、固定センサの設置が困難な領域などにおいて携帯端末を利用することで、さまざまな場所での情報獲得が可能となってきた。
【0006】
しかしながら、屋外で撮影した場合には、さまざまな光、ノイズ、影により正しい色で画像を得ることが困難となる。画像の補正方法として、ホワイトバランスがもっとも広く利用されている。しかし、ホワイトバランスを利用した場合、暗いところ、部分的に光が当たっているところでは、撮影の中心を少しでもずらすと有効でなくなってしまう問題がある。
【0007】
また、明るさを補正するものとしてγ補正が知られている。γ補正は、撮影者がカメラの設定メニューを人為的に操作し、最適な明るさを持った画像に調整することにより行われる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、検査対象の風化の程度を簡易に検出することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、屋外でも、容易に正しい色情報を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明に係る画像処理方法は、入力手段により、RGB画像データを入力するステップと、補正手段により、RGB画像データの明るさを補正するステップと、変換手段により、明るさが補正されたRGB画像データを別の色空間モデルに変換し、色相情報を抽出するステップと、照合手段により、色相情報と当該色相情報に対応する情報とを関連付けて格納した記憶手段から、色相情報を抽出するステップにおいて抽出した色相情報にマッチングする色相情報を検索し、当該色相情報に対応する情報を記憶手段から読み出すステップと、出力手段により、色相情報に対応する情報を出力するステップと、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、入力されたRGB画像データの明るさを補正し、別の色空間モデルに変換して色相情報を抽出し、色相情報とその色相情報に対応する風化の程度を表す情報とを関連付けて格納した記憶手段から、抽出した色相情報とマッチングする色相情報を検索することで、入力されたRGB画像データに写された対象物の風化の程度を容易に知ることが可能となる。
【0012】
上記画像処理方法において、色空間モデルは、HSV色空間モデルであることが、色相情報を抽出する上で望ましい。
【0013】
上記画像処理方法において、明るさを補正するステップは、γ補正により明るさを補正することが、明るさを補正するうえで望ましい。
【0014】
上記画像処理方法において、RGB画像データはテストチャートであって、明るさを補正するステップは、変換手段により抽出された色相情報が所望の色相情報でない場合には、補正値を変更して再度明るさを補正し、所望の色相情報が得られた場合には、その時の補正値を明るさを補正する際に利用する補正値とすることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、RGB画像データとしてテストチャートを入力し、所定の補正値で明るさを補正して抽出した色相情報が所望の色相情報でない場合には、補正値を変更して再度明るさを補正し、明るさを補正した結果、所望の色相情報が得られた場合には、その時の補正値を最適な補正値とすることで、利用者を煩わせることなく、容易に最適な補正値を算出するができ、正しい色相情報を得ることが可能となる。
【0016】
第2の本発明に係る画像処理装置は、色相情報と当該色相情報に対応する情報とを関連付けて格納する記憶手段と、RGB画像データを入力する入力手段と、RGB画像データの明るさを補正する補正手段と、補正手段により補正されたRGB画像データを別の色空間モデルに変換し、色相情報を抽出する変換手段と、変換手段により抽出された色相情報と記憶手段に格納された色相情報とをマッチングし、記憶手段から色相情報に対応する情報を読み出す照合手段と、色相情報に対応する情報を出力する出力手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
上記画像処理装置において、色空間モデルは、HSV色空間モデルであることを特徴とする。
【0018】
上記画像処理装置において、補正手段は、γ補正により明るさを補正することを特徴とする。
【0019】
上記画像処理装置において、RGB画像データはテストチャートであって、補正手段は、変換手段により抽出された色相情報が所望の色相情報でない場合には、補正値を変更して再度明るさを補正し、所望の色相情報が得られた場合には、その時の補正値を明るさを補正する際に利用する補正値とすることを特徴とする。
【0020】
第3の本発明に係る画像処理プログラムは、上記画像処理方法における各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、検査対象の風化の程度を簡易に検出することができる。また、屋外でも、容易に正しい色情報を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態における画像処理装置の構成を示すブロック図である。同図に示す画像処理装置は、画像入力部11、補正部12、変換部13、照合部14、出力部15および記憶装置16を有する構成である。画像処理装置1は、演算処理装置、記憶装置、メモリ等を備えたコンピュータにより構成できるものであり、各部の処理はプログラムによって実行される。このプログラムは記憶装置16に記憶されており、記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。なお、画像処理装置1をカメラ付携帯端末などで構成することにより、さまざまな場所での情報の獲得が可能となる。
【0024】
本画像処理装置1は、その特徴として、画像入力部11により対象物を撮影したRGB画像を入力し、そのRGB画像をHSVモデルへ色空間を変換することによって色相情報を抽出し、対象物の色相情報とその色相情報に対応する対象物の状態を表す情報とを関連付けたデータを格納する記憶装置16から、抽出した色相情報と類似するデータをマッチングして求めることにより、対象物の状態を知るものであり、対象物の状態を判断することにより、自然環境の変化などを検出することができる。以下、各部での処理について詳細に説明する。
【0025】
画像入力部11は、カメラなどにより対象物を撮影したRGB画像データを入力し、記憶装置16に記憶させる。ほとんどのカメラ付携帯端末は、R(赤)、G(緑)、B(青)の受光素子により画像を撮影するので、得られる画像データは、各画素をRGBの要素によって表現したRGB画像データとなる。
【0026】
補正部12は、記憶装置16からRGB画像データを読み出し、γ補正を施して、記憶装置16に記憶させる。撮影した画像は、影や光沢の影響を受けた画像になりがちであるので、明るさを調整し、一様な環境光で撮影したような画像を得ることが適切である。明るさの調整は、各画素ごとのRGB値を指数関数で変換することにより行う。CCDカメラ等のイメージセンサにおいて、入力光量Eと出力値Dは、以下の式(1)に示すγ特性と呼ばれる指数関数の関係を有する。
【数1】

【0027】
γ補正とは、このγ特性を補正することであり、具体的には、各画素毎のRGB値に、以下に示す変換式を用いて行う。
【数2】

【0028】
画素値は、0〜255の値をとるものである。γ>1のときには、明るくなり、γ<1のときには、暗くなる。このように、入力したRGB画像データにγ補正を施すことにより、太陽光、影などの影響を抑制し、対象物の本来の色情報を得ることができる。適切なγ補正値の算出方法については後述する。
【0029】
変換部13は、記憶装置16からRGB画像データを読み出し、HSV色空間モデルに変換し、色相情報を抽出する。RGB色空間モデルは、図2に示すように、各軸にそれぞれR、G、Bを割り当てた直交座標系である。一方、HSV色空間モデルは、色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)の3つの成分からなる色空間であり、図3に示すように円錐座標系で表現することができる。色相は、赤み、黄み、青みなどの色みを表し、彩度は、色みの強弱、鮮やかさを表し、明度は、色の明暗を表している。
【0030】
照合部14は、変換部13において抽出した色相情報と記憶装置16に格納された色相情報とをマッチングして類似するものを探し出す。記憶装置16には、対象物の色相情報と、その色相情報に対応する対象物の状態を表す情報とが関連付けて格納されており、抽出した色相情報に類似する色相情報を記憶装置16から検索することで、撮影した対象物の状態を表す情報を得ることができる。対象物の状態を表す情報は、例えば、対象物の風化の程度を表す情報や対象物の錆の進行具合などの状態を表す情報などの情報である。具体的には、色相情報として色相分布を用い、色相の赤みの割合に応じて、錆の程度を、なし、弱い、強い、というような錆の進行状況を表す情報と関連付けて記憶装置16に格納しておく。対象物の色相情報と対象物の状態を表す情報の例としては、茶色の程度と水の濁り具合を関連付けたものや、空の色と空気汚染の程度を関連付けたものなどが考えられる。
【0031】
出力部15は、照合部14においてマッチングした色相情報に対応する対象物の状態を表す情報を記憶装置16から読み出して、出力する。
【0032】
次に、図4に示すフローチャートを用いて画像処理装置1の処理の流れについて説明する。画像入力部11により、検査対象物を撮影したRGB画像データを入力し(ステップS41)、補正部12により、撮影したRGB画像データにγ補正を施して、RGB画像データの明るさを適正な明るさに補正する(ステップS42)。変換部13により、補正したRGB画像データをHSV色空間モデルに変換し(ステップS43)、色相情報を抽出する(ステップS44)。
【0033】
続いて、対象物の色相情報とその色相情報に対応する対象物の状態を示す情報とを関連付けたデータを格納する記憶装置16から、ステップS44で抽出した色相情報と類似するデータをマッチングにより求め(ステップS45)、出力部15により、入力された画像に対応する対象物の状態を示す情報を出力する(ステップS46)。出力された情報を参照することで、対象物の風化の程度を知り、自然環境の変化を検出することができる。
【0034】
次に、補正部12において利用する適切な補正値の算出方法について説明する。
【0035】
図5は、適切な補正値を算出するために利用するテストチャートを示す図である。同図に示すテストチャート500は、符号501,502,503および504で示す4色の部分で構成され、各部分の占める面積は同じである。屋外でテストチャート500を撮影し、色相情報を抽出した場合には、太陽光、影などの各種ノイズの影響により、本来の色相分布が得られず、色相とそれに対する画素の頻度がばらついて図6に示すようなグラフとなる。図6に示すグラフは、横軸に色相を、縦軸に画素の頻度を表しており、色相は、例えば、0〜359の360段階に設定することができる。
【0036】
テストチャート500は同一面積の4色の部分で構成されているので、本来のテストチャート500の色相分布は、図7に示すように、グラフのピークの数が4つで、各ピークにおける画素の頻度数も同一である。
【0037】
本画像処理装置1では、テストチャート500を入力し、抽出した色相情報が入力したテストチャート500本来の色相分布になるようにγ補正値を変更することで適切な補正値を算出する。以下、補正値の算出について説明する。
【0038】
図8は、適切な補正値を求める処理の流れを示すフローチャートである。まず、キーボードやマウスなどの入力装置(図示せず)により、所望のピーク数を入力する(ステップS81)。例えば、テストチャート500は4色で構成されているので、ピーク数を4と入力する。テストチャート500を撮影し、画像入力部11により、撮影したRGB画像データを入力して記憶装置16に記憶させる(ステップS82)。
【0039】
次に、補正部12により、記憶装置16から撮影したテストチャート500のRGB画像データを読み出し、γ=0.0を初期値としてγ補正を行う(ステップS83)。変換部13により、γ補正を施したRGB画像データをHSV色空間モデルに変換し(ステップS84)、色相分布を抽出する(ステップS85)。
【0040】
抽出した色相分布の色相のピーク数が入力したピーク数と同じであって、各ピークにおける画素の頻度数が所定の条件を満たしているか否かを判断する(ステップS86)。例えば、テストチャート500は各色の面積は等しいので、各ピークにおける画素の頻度数がほぼ等しいときには、所望の色相分布が得られたことになる。
【0041】
所望の色相分布が得られた場合には、そのときのγ補正値を適正なγ補正値として補正部12の備えたメモリあるいは記憶装置16に記憶させる(ステップS87)。所望の色相分布が得られなかった場合には、補正値を変更し、再びステップS83の処理へ進む。例えば、γ補正値を0.01増加させて再度γ補正を行う。
【0042】
このように、テストチャート500を撮影して入力し、テストチャート500本来の色相分布が得られるようなγ補正値を算出することにより、屋外における明るさの条件のばらつきを抑制することができる。また、テストチャート500を利用することで、利用者の手を煩わすことなく、容易に適切なγ補正値を算出することができる。
【0043】
したがって、本実施の形態によれば、補正部12により、対象物を撮影したRGB画像をγ補正して明るさを調整し、変換部13により、HSV色空間モデルに変換して色相情報を抽出し、照合部14により、抽出した色相情報と、記憶装置16に格納された色相情報とをマッチングして類似する色相情報を探し出し、その色相情報に対応する対象物の風化の程度を表す情報を読み出すことにより、対象物を撮影するだけで風化の程度を知ることが可能となる。
【0044】
本実施の形態によれば、テストチャート500を撮影し、所望の色相情報が得られるまで、γ補正値を変更して明るさを補正することにより、容易に最適なγ補正値を算出することができるので、環境に左右されることなく、正しい色相情報を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】一実施の形態における画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】RGB色空間を示す説明図である。
【図3】HSV色空間を示す説明図である。
【図4】図1に示す画像処理装置の処理を示すフローチャートである。
【図5】γ補正値を算出するために使用するテストチャートを示す図である。
【図6】図5に示すテストチャートを撮影したときの色相分布を示すグラフである。
【図7】図5に示すテストチャートの本来の色相分布を示すグラフである。
【図8】図1に示す画像処理装置がγ補正値を算出する処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
1…画像処理装置
11…画像入力部
12…補正部
13…変換部
14…照合部
15…出力部
16…記憶装置
500…テストチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力手段により、RGB画像データを入力するステップと、
補正手段により、前記RGB画像データの明るさを補正するステップと、
変換手段により、明るさが補正された前記RGB画像データを別の色空間モデルに変換し、色相情報を抽出するステップと、
照合手段により、色相情報と当該色相情報に対応する情報とを関連付けて格納した記憶手段から、前記色相情報を抽出するステップにおいて抽出した前記色相情報にマッチングする色相情報を検索し、当該色相情報に対応する情報を前記記憶手段から読み出すステップと、
出力手段により、前記色相情報に対応する情報を出力するステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】
前記色空間モデルは、HSV色空間モデルであることを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記明るさを補正するステップは、γ補正により明るさを補正することを特徴とする請求項1又は2記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記RGB画像データはテストチャートであって、
前記明るさを補正するステップは、前記変換手段により抽出された色相情報が所望の色相情報でない場合には、補正値を変更して再度明るさを補正し、所望の色相情報が得られた場合には、その時の補正値を明るさを補正する際に利用する補正値とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の画像処理方法。
【請求項5】
色相情報と当該色相情報に対応する情報とを関連付けて格納する記憶手段と、
RGB画像データを入力する入力手段と、
前記RGB画像データの明るさを補正する補正手段と、
前記補正手段により補正された前記RGB画像データを別の色空間モデルに変換し、色相情報を抽出する変換手段と、
前記変換手段により抽出された色相情報と前記記憶手段に格納された色相情報とをマッチングし、前記記憶手段から前記色相情報に対応する情報を読み出す照合手段と、
前記色相情報に対応する情報を出力する出力手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
前記色空間モデルは、HSV色空間モデルであることを特徴とする請求項5記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記補正手段は、γ補正により明るさを補正することを特徴とする請求項5又は6記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記RGB画像データはテストチャートであって、
前記補正手段は、前記変換手段により抽出された色相情報が所望の色相情報でない場合には、補正値を変更して再度明るさを補正し、所望の色相情報が得られた場合には、その時の補正値を明るさを補正する際に利用する補正値とすることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載した画像処理方法における各ステップをコンピュータに実行させるための画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−175568(P2008−175568A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7103(P2007−7103)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】