説明

画像処理装置、画像処理方法およびプログラム

【課題】原画像を逆S字変換により変換する際に、明度が最大・最小となる座標を変換前後で変えないようにする。
【解決手段】画像処理装置の制御部は、取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定する。そして、制御部は、変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、前記原画像の各画素の明度を変換し、変換された明度のうち、前記第1座標の画素の明度を最小値とし、前記第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定して、変換された明度を、決定された範囲により正規化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像のコントラストやシャープネスを補正する処理として、局所逆S字変換処理が知られている。特許文献1には、逆S字変換処理により得られた値を出力レンジに適合するように補正することで局所的に(カラー)コントラストを強調した画像を得るための画像処理装置が開示されている。特許文献2には、表示機器の制約を満たすように画像のダイナミックレンジを変換する際に、明度を最適化するダイナミックレンジの変換手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−313436号公報
【特許文献2】特開2002−132243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、原画像を逆S字変換により変換する際に、明度が最大・最小となる座標を変換前後で変えないようにする画像処理装置および画像処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の請求項1に係る画像処理装置は、取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定する特定手段と、変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、前記原画像の各画素の明度を変換する変換手段と、前記変換手段により変換された明度のうち、前記第1座標の画素の明度を最小値とし、前記第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定する決定手段と、前記変換手段により変換された明度のうち、前記決定手段により決定された範囲外の明度を当該範囲内に収めるように補正する補正手段とを具備することを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項2に係る画像処理装置は、請求項1に係る態様において、前記逆S字変換は、任意の定数であるβON、βOFFと、或る画素の周囲に位置する画素から構成される領域における明度の平均値であるvaveと、原画像の明度の最小値及び最大値であるv、vとにより表される後述する式(1)を用いて、前記或る画素の明度vを入力値とする関数κ(v)が示す値を、前記入力値から変換された前記出力値とする変換であることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項3に係る画像処理装置は、請求項1または2に係る態様において、前記原画像の各画素を順に注目画素として走査し、当該注目画素の周囲にある画素群の明度の平均値を算出して、当該注目画素の明度を修正する修正手段を具備し、前記特定手段は、前記修正手段により修正された明度について、前記第1座標と前記第2座標とを特定することを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項4に係る画像処理方法は、画像処理装置が、取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定し、変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、前記原画像の各画素の明度を変換し、変換された明度のうち、前記第1座標の画素の明度を最小値とし、前記第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定して、変換された明度のうち、決定された範囲外の明度を当該範囲内に収めるように補正することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項5に係るプログラムは、コンピュータを、取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定する特定手段と、変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、前記原画像の各画素の明度を変換する変換手段と、前記変換手段により変換された明度のうち、前記第1座標の画素の明度を最小値とし、前記第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定する決定手段と、前記変換手段により変換された明度のうち、前記決定手段により決定された範囲外の明度を当該範囲内に収めるように補正する補正手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の画像処理装置によれば、原画像を逆S字変換により変換する際に、明度が最大・最小となる座標を変換前後で変えないようにすることができる。
請求項2に記載の画像処理装置によれば、局所的なコントラストの低下を抑制しつつ、原画像をコントラストが強調された画像に変換することができる。
請求項3に記載の画像処理装置によれば、周囲にある画素群の明度から突出した明度を有する画素の影響を低減させつつ、原画像をコントラストが強調された画像に変換することができる。
請求項4に記載の画像処理方法によれば、原画像を逆S字変換により変換する際に、明度が最大・最小となる座標を変換前後で変えないようにすることができる。
請求項5に記載のプログラムによれば、コンピュータに、原画像を逆S字変換により変換させる際に、明度が最大・最小となる座標を変換前後で変えないようにさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る画像処理システムの構成を示す図である。
【図2】画像処理装置の制御部の機能的構成を示す図である。
【図3】逆S字変換に基づく曲線の一例を示す図である。
【図4】画像処理装置における座標特定の動作の流れを示すフローチャートである。
【図5】画像処理装置における逆S字変換の動作の流れを示すフローチャートである。
【図6】画像処理装置における正規化の動作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.構成
1−1.画像処理システムの構成
図1は、本発明の実施形態に係る画像処理システム9およびこれに含まれる画像処理装置1の構成を示す図である。画像処理システム9は、画像処理装置1と供給装置2と出力装置3とを含む。供給装置2は、処理の対象となる原画像を示すデータ(以下、原画像データという)G0を画像処理装置1に供給する。供給装置としては、デジタルスティルカメラ(撮影装置)、スキャナ(読取装置)などが挙げられる。
【0013】
画像処理装置1は、供給装置2から原画像データG0を取得し、これに強調処理を施してコントラストが強調された画像(以下、強調画像という)を示す画像データ(以下、強調画像データという)G1を出力装置3へ出力する。画像処理装置1としては、パーソナルコンピュータや画像処理プロセッサなどが挙げられる。
【0014】
出力装置3は、画像処理装置1により原画像データG0に対して強調処理を施した結果、得られた強調画像データG1を受け取り、この強調画像データG1に基づいた出力をする。出力装置3としては、モニタ(表示装置)、プリンタ(画像形成装置)、プロジェクタ(投影装置)などが挙げられる。
【0015】
1−2.画像処理装置の構成
画像処理装置1は、制御部11、記憶部12、操作部13、取得部14、および出力部15を備える。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、VRAM(Video RAM)を備えており、CPUがROMに記憶されているブートローダや記憶部12に記憶されているコンピュータプログラムを読み出して実行することにより画像処理装置1の各部を制御する。RAMはCPUがプログラムを実行する際のワークエリアとして利用される。VRAMは、供給装置2から供給される原画像データG0やこれに対する種々の処理がなされた後のデータなどを記憶する。
【0016】
記憶部12はハードディスクドライブなどの大容量の記憶手段であり、制御部11に読み込まれるプログラムを記憶する。また、記憶部12は、出力装置3へ出力する強調画像データG1が示す強調画像の各画素の明度について、予め定められたレンジ(以下、出力レンジという)が記憶されている。なお、この出力レンジは、例えば、出力装置3において強調画像が表示などされるときのハードウェア上の制限に基づいて定められていてもよい。また、記憶部12は、供給装置2から供給される原画像データG0を記憶してもよい。
操作部13は各種の指示を入力するための操作子を備えており、ユーザによる操作を受け付けてその操作内容に応じた信号を制御部11に供給する。
【0017】
取得部14は、供給装置2から原画像データG0を取得するインターフェースであり、例えば各種のモデムやIMT−2000に準拠した無線通信回路、あるいは、USB(Universal Serial Bus)規格に準拠したシリアルインターフェースや、IrDA(Infrared Data Association)、Bluetooth(登録商標)などに準拠した無線インターフェースなどである。
出力部15は、出力装置3へ強調画像データG1を出力するインターフェースであり、取得部14と共通する構成例が挙げられるものである。
【0018】
1−3.制御部の機能的構成
図2は、画像処理装置1の制御部11の機能的構成を示す図である。制御部11は、供給装置2から取得部14を介して原画像データG0を取得する。制御部11の抽出部111は、原画像データG0から、原画像を構成する各画素の明度を抽出する。明度は画素の明るさを示す値であって、明度が大きいほど画素は明るく、小さいほど画素は暗く見える。原画像がモノクロの多階調画像であるならば、抽出部111が抽出する各画素の明度は、階調値である。原画像が各画素の色を表す色成分毎の階調値によって表されたカラー画像であるならば、抽出部111は、各画素の色成分毎の階調値を色相、彩度、明度の3成分からなる色空間に変換して、明度を抽出する。なお、各画素の明度は、画素の色の濃度を表す色濃度であってもよい。抽出部111が抽出した明度は、フィルタ部112と変換部114とにそれぞれ送られる。
【0019】
フィルタ部112は、原画像データG0が示す原画像の各画素を順に注目画素として走査し、抽出部111が抽出したその注目画素の明度をその周囲の画素の明度に応じて修正した明度(以下、修正明度という)を算出する。具体的には、フィルタ部112は、例えば注目画素の周囲にあるm行n列(m,nは2以上の整数であり、例えばm=n=3)の画素群の明度について相加平均値を算出し、算出された相加平均値を注目画素の修正明度とする。これにより、周囲の画素から突出した明度を有する画素があった場合、その画素の修正明度は、その画素の明度よりも周囲の画素の明度に近い値となる。すなわち、修正明度の分布は明度の分布に比べて平滑となる。なお、注目画素の修正明度を算出する際に使用される画素群は、m行n列の矩形の画素群に特に限定されず八角形など種々の形状を用いることができる。また、注目画素が原画像の輪郭部分にある場合には、注目画素の周囲に画素群の一部が無いことがある。この場合、フィルタ部112は、輪郭部分の画素と同じ明度を有する画素が、その輪郭の外側にあるものと仮定して、修正明度を算出する。したがって、フィルタ部112は、取得した原画像データが示す原画像の各画素を順に注目画素として走査し、当該注目画素の周囲にある画素群の明度の平均値を算出して、当該注目画素の明度を修正する修正手段の一例である。フィルタ部112により算出された各画素の修正明度は特定部113に送られる。
【0020】
特定部113は、フィルタ部112から送られた各画素の修正明度の中から最小値と最大値とを検出し、検出した最小値および最大値の修正明度を有する各画素の、原画像における座標をそれぞれ特定する。例えば、H行W列(H,Wは3以上の整数)の原画像においてy行x列(yは1以上H以下の整数、xは1以上W以下の整数)の位置にある画素の修正明度をr(x,y)と表すと、特定部113は、xを1からWまで、yを1からHまで順に走査して、原画像の全ての画素について修正明度を比較し、最小値であるrと最大値であるrとを検出する。そして、特定部113は、r=r(x,y)となる座標(x,y)を第1座標(x,y)とし、r=r(x,y)となる座標(x,y)を第2座標(x,y)としてそれぞれ特定し、これら2点の座標をRAMに記憶する。特定部113が特定した2つの座標は決定部115に送られる。したがって、特定部113は、取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定する特定手段の一例である。
【0021】
変換部114は、原画像の各画素を順に注目画素として走査し、注目画素の明度に対して逆S字変換処理を施して、変換された明度(以下、変換明度という)を算出する。
【0022】
逆S字変換とは、以下の特性を有する変換をいう。
(特性1)変換される入力値を独立変数とし、当該入力値を変換した出力値を従属変数とする関数が、単調に減少することが無い。すなわち、この関数の一次微分は0以上である。
(特性2)入力値が或る値未満で、上記の関数の二次微分は0未満であり、その或る値以上で、上記の関数の二次微分は0以上である。すなわち、入力値の最小値側において、上記の関数は上に凸の形状であり、入力値の最大値側において、上記の関数は下に凸の形状である。
【0023】
このような特性を有するため、逆S字変換は、変換される入力値を横軸にとり、その入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した曲線は、アルファベットのSを逆に描いたような形状となる。図3は、この逆S字変換に基づく曲線の一例を示す図である。
ここで、逆S字変換処理は、次式に従う。
【0024】
【数1】

【0025】
この式において、vは、注目画素の明度、κ(v)は、注目画素の明度から変換明度を算出する関数、v、vは、原画像の明度の最小値及び最大値、vaveは、近傍領域における明度の平均値、βON、βOFFは任意の定数である。近傍領域とは、注目画素の周囲に位置する画素から構成される領域であり、例えば、注目画素の周囲に位置するp行q列(p,qは2以上の整数であり、例えばp=q=5)の画素群である。なお、近傍領域はp行q列の矩形の画素群に特に限定されず八角形など種々の形状を用いることができる。変換部114によって算出された変換明度は決定部115および正規化部116へそれぞれ送られる。
【0026】
決定部115は、特定部113が特定した第1座標および第2座標に基づいて変換明度のレンジを決定する。決定部115は、原画像において最小の明度を有する画素の座標である第1座標(x,y)と、最大の明度を有する画素の座標である第2座標(x,y)とを特定部113から受け取る。次に、決定部115は、第1座標(x,y)の画素の変換明度V(x,y)を特定し、これをレンジの最小値であるVxLyLとしてRAMに記憶する。そして、決定部115は、第2座標(x,y)の画素の変換明度V(x,y)を特定し、これをレンジの最大値であるVxUyUとしてRAMに記憶する。これにより、最小値であるVxLyLから最大値であるVxUyUまでが変換明度のレンジとして決定される。したがって、決定部115は、変換手段により変換された明度のうち、第1座標の画素の明度を最小値とし、第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定する決定手段の一例である。
【0027】
なお、原画像における第1座標(x,y)の画素は最小の明度を有していたが、その画素の変換明度は、変換処理を経ているため、全画素における変換明度のうち最小とは限らない。また、第2座標(x,y)の画素の変換明度も、全画素における変換明度のうち最大とは限らない。決定されたレンジは正規化部116へ送られる。
【0028】
正規化部116は、決定部115が決定したレンジに沿って、変換明度の正規化を行う。以下、正規化部116によって正規化された変換明度を正規化明度という。正規化部116は、まず、各画素の変換明度のうち、レンジに収まらないものを書き換える、いわゆるクリッピング処理を行う。具体的には、正規化部116は、各画素を走査して、変換明度が上述した最小値VxLyLよりも小さい画素については、その変換明度を最小値VxLyLに書き換える。また、変換明度が最大値VxUyUよりも大きい画素については、その変換明度を最大値VxUyUに書き換える。
【0029】
次に、正規化部116は、クリッピング後の変換明度に対し、最小値が0に、最大値が1になるように比例計算する、正規化処理を行う。具体的には、正規化部116は、次式に沿って、変換明度を正規化明度にする。
【0030】
【数2】

【0031】
ここで、Vijは、クリッピング処理後における座標(i,j)の画素の変換明度、ξ(Vij)は、この画素の変換明度から正規化明度を算出する関数、VxLyL,VxUyUは、変換明度の最小値及び最大値である。これにより0から1までの実数で表される各画素の正規化明度が算出される。したがって、正規化部116は、変換手段により変換された明度のうち、決定手段により決定された範囲外の明度を当該範囲内に収めるように補正する補正手段の一例である。正規化部116により算出された正規化明度は、調整部117へ送られる。
【0032】
調整部117は、各画素の正規化明度に対し比例計算を行って、これらが予め決められた出力レンジに収まるように調整する。調整部117により調整された正規化明度を、以下、調整明度という。実数である正規化明度は、出力レンジの最大数を乗算され、小数点以下を切り捨てられることにより、整数である調整明度に変換される。例えば、記憶部12には、出力レンジとして「0〜255」の整数の範囲が予め定められているのであれば、調整部117は、正規化明度が0.000の場合に調整明度として0を算出し、正規化明度が1.000の場合に、調整明度として255を算出し、正規化明度が0.502の場合に、調整明度として128を算出する。
【0033】
調整部117により算出された調整明度は、強調画像における各画素の明度として強調画像データG1に記述される。これにより、原画像データG0が示す原画像のコントラストが強調された強調画像を示す強調画像データG1が生成される。生成された強調画像データG1は、出力部15を介して出力装置3へ出力される。強調画像における明度のレンジは、予め定められた出力レンジに一致する。そして、強調画像において最小の明度を有する画素の座標は、原画像において明度が最小であった画素の座標である第1座標となり、強調画像において最大の明度を有する画素の座標は、原画像において明度が最大であった画素の座標である第2座標となる。
【0034】
2.動作
次に、画像処理システム9における画像処理装置1の動作を説明する。以下に説明する画像処理装置1の動作は主に制御部11による動作であり、座標特定の動作、逆S字変換の動作、および正規化の動作の3つに分けられる。以下、これらの動作についてそれぞれ述べる。
【0035】
2−1.座標特定の動作
図4は、画像処理装置1における座標特定の動作の流れを示すフローチャートである。制御部11は、原画像の各画素の明度を抽出し(ステップS101)、各画素を注目画素として走査してその移動平均値を算出する(ステップS102)。これにより、原画像における明度のばらつきが抑制され、平滑化された修正明度が生成される。次に、制御部11は、全ての修正明度を比較してその最小値rと最大値rとを特定する(ステップS103)。そして、制御部11は、原画像において、修正明度の最小値rを有する画素の座標である第1座標(x,y)をRAMなどに記憶し(ステップS104)、修正明度の最大値rを有する画素の座標である第2座標(x,y)をRAMなどに記憶する(ステップS105)。これらの処理を実行する制御部11は、抽出部111、フィルタ部112、および特定部113として機能する。
これにより、原画像における明度を平滑化した修正明度が最小および最大となる各画素の座標が記憶される。
【0036】
2−2.逆S字変換の動作
図5は、画像処理装置1における逆S字変換の動作の流れを示すフローチャートである。制御部11は、原画像の全画素の明度を比較してその最小値vと最大値vとを特定する(ステップS201)。次に、制御部11は、原画像を画素ごとに走査するために、画素の列を表すパラメータiと、画素の行を表すパラメータjとにそれぞれ1を代入する(ステップS202)。そして、制御部11は、j行i列の画素を注目画素とし、その注目画素の周囲に位置する画素から構成される近傍領域を特定し、この近傍領域を構成する全画素について明度の相加平均値vaveを算出する(ステップS203)。ここで、制御部11は、j行i列の画素の明度vijが相加平均値vave以上であるか否かを判断する(ステップS204)。j行i列の画素の明度vijが相加平均値vave以上であると判断した場合(ステップS204でYES)、制御部11は、次式にしたがって、定数δONおよび定数δOFFを決定する(ステップS205)。なお、βON、βOFFは任意の定数である。
【0037】
【数3】

【0038】
一方、j行i列の画素の明度vijが相加平均値vave以上ではないと判断した場合(ステップS204でNO)、制御部11は、次式にしたがって、定数δONおよび定数δOFFを決定する(ステップS206)。
【0039】
【数4】

【0040】
定数δONおよび定数δOFFを決定すると、制御部11は、次式にしたがって、j行i列の画素の明度vijに対して逆S字変換を施し、その画素の変換明度Vijを算出する(ステップS207)。
【0041】
次に、制御部11は、パラメータjを1増加させ(ステップS208)、増加させたパラメータjが原画像の幅方向の画素数であるWを超えたか否かを判断する(ステップS209)。パラメータjがWを超えていないと判断した場合(ステップS209でNO)、制御部11は、処理をステップS203へ戻す。一方、パラメータjがWを超えていると判断した場合(ステップS209でYES)、制御部11は、パラメータjに1を代入し、パラメータiを1増加させる(ステップS210)。そして、制御部11は、増加させたパラメータiが原画像の高さ方向の画素数であるHを超えたか否かを判断する(ステップS211)。パラメータiがHを超えていないと判断した場合(ステップS211でNO)、制御部11は、処理をステップS203へ戻す。一方、パラメータiがHを超えていると判断した場合(ステップS211でYES)、制御部11は、処理を終了する。
これにより、H行W列の各画素について、変換明度がVij算出される。これらの処理を実行する制御部11は、変換部114として機能する。
【0042】
2−3.正規化の動作
図6は、画像処理装置1における正規化の動作の流れを示すフローチャートである。ステップS301およびステップS307〜S310の処理は、H行W列の画像を画素ごとに走査するための処理であり、図5におけるステップS202およびステップS208〜S211と共通するため、説明を省略する。
【0043】
制御部11は、注目画素の変換明度Vijが第1座標の変換明度VxLyLを下回っているか否かを判断する(ステップS302)。注目画素の変換明度Vijが第1座標の変換明度VxLyLを下回っていると判断した場合(ステップS302でYES)、制御部11は、注目画素の変換明度Vijを第1座標の変換明度VxLyLで上書きする(ステップS303)。一方、注目画素の変換明度Vijが第1座標の変換明度VxLyLを下回っていないと判断した場合(ステップS302でNO)、制御部11は、ステップS303の処理を行わず、処理をステップS304に進める。これにより、第1座標の変換明度VxLyLを下回る変換明度を有する画素がなくなる。
【0044】
次に、制御部11は、注目画素の変換明度Vijが第2座標の変換明度VxUyUを上回っているか否かを判断する(ステップS304)。注目画素の変換明度Vijが第2座標の変換明度VxUyUを上回っていると判断した場合(ステップS304でYES)、制御部11は、注目画素の変換明度Vijを第2座標の変換明度VxUyUで上書きする(ステップS305)。一方、注目画素の変換明度Vijが第2座標の変換明度VxUyUを上回っていないと判断した場合(ステップS304でNO)、制御部11は、ステップS305の処理を行わず、処理をステップS306に進める。これにより、第2座標の変換明度VxUyUを上回る変換明度を有する画素がなくなる。
【0045】
上述の通り、注目画素の変換明度Vijに対してクリッピングを行うと、制御部11は、注目画素の変換明度Vijを次式にしたがって正規化する(ステップS306)。
【0046】
【数5】

【0047】
制御部11は、正規化された変換明度Vijを正規化明度としてRAMに記憶する。これらの処理を実行する制御部11は、決定部115および正規化部116として機能する。
そして、この動作の後、制御部11は、記憶部12から読み出した出力レンジを参照して、正規化明度を出力レンジに適合するように調整し、調整結果に基づいて強調画像データG1を生成する。
【0048】
以上の動作により、画像処理装置1は、供給装置2から供給された原画像データG0から、これにより示される原画像のコントラストを強調した強調画像を示す強調画像データG1を生成する。そして、画像処理装置1は、生成した強調画像データG1を出力装置3へ出力する。
【0049】
従来の技術では、各画素の明度に対して逆S字変換を施して得られた変換明度の分布から強調画像の明度の範囲を決めていた。しかし、逆S字変換には、明度の範囲から変換明度の範囲が予測できないという性質があり、また原画像における明度の分布によっては、他の画素の変換明度と比較して突出した変換明度が算出されるといった性質もあった。したがって、従来技術において、変換明度を出力レンジに適合するように補正しようとすると、突出した変換明度を出力レンジに収めるために画像全体が暗くなりすぎたり明るくなりすぎたりといった偏りが生ずることがあり、適切な強調画像を表す強調画像データを得ることが難しかった。
【0050】
上述したように、画像処理装置1は、強調画像と原画像の双方において、最小明度と最大明度とを示す各画素の座標が一致するように、強調画像データG1を生成する。したがって、逆S字変換により、他の画素の変換明度と比較して突出した変換明度が算出されたとしても、その突出した変換明度は除外され、原画像において特定した座標に基づいて上書きされるので、変換明度を出力レンジに適合させる際に偏りが生じ難くなる。
【0051】
3.変形例
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
(1)上述の実施形態において、画像処理装置1は、供給装置2や出力装置3と別の装置であったが、これらが1つの装置を構成していてもよい。例えば、供給装置2の一例であるデジタルスティルカメラに画像処理装置1の機能が組み込まれていてもよい。
【0052】
(2)上述の実施形態において、変換部114は、注目画素の周囲に位置するp行q列の矩形の画素群を近傍領域としてその明度の平均値を算出していたが、フィルタ部112が注目画素について算出した修正明度を、上記近傍領域における明度の平均値として流用してもよい。
【0053】
(3)上述の実施形態において、変換部114は、上述した数式(1)に従った逆S字変換を行っていたが、数式(1)におけるδONおよびδOFFは注目画素の明度とその注目画素の周囲の画素における明度の平均値との比較に応じて決まる値ではなく、予め決められた定数であってもよい。この場合であっても、変換される入力値を横軸にとり、その入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いるのであれば、コントラストが強調された画像を得ることができる。すなわち、変換部114は、変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、原画像の各画素の明度を変換する変換手段として機能すればよい。また、特定部113により特定した第1座標と第2座標を用いて、決定部115が変換明度の範囲を決定するので、画像処理システム9は、逆S字変換により周囲の画素から突出した変換画素を有する画素が生じたとしても、その影響を抑制することができる。
【0054】
(4−1)上述の実施形態において、フィルタ部112は、注目画素の明度をその周囲の画素の明度に応じて修正していたが、フィルタ部112はなくてもよい。この場合であっても、原画像に周囲から孤立して突出した明度を有する画素が無いのであれば、特定部113によって特定される最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標は、フィルタ部112の有無によって変わることが無いからである。
【0055】
(4−2)上述のように、フィルタ部112を用いない場合、ステップS103において、制御部11は、修正明度の最小値rと最大値rとを特定するのではなく、明度の最小値vと最大値vとを特定することができる。したがって、この場合には、制御部11は、ステップS201を省略し、ステップS103で特定された明度の最小値vと最大値vとを用いればよい。
【0056】
(5)画像処理装置1の制御部11によって実行されるプログラムは、磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体、光ディスクなどの光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリなどの、コンピュータ装置が読み取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供し得る。また、このプログラムを、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。なお、上記の制御部11によって例示した制御手段としてはCPU以外にも種々の装置を適用することができ、例えば、専用のプロセッサなどを用いてもよい。
【0057】
(6)上述の実施形態において、正規化部116は、決定部115が決定したレンジに沿って、変換明度から正規化明度を算出し、調整部117は、各画素の正規化明度に対し比例計算を行って、予め決められた出力レンジに収まる調整明度を算出していたが、変換明度、決定部115が決定したレンジ、および出力レンジから直接、調整明度を算出してもよい。
【0058】
(7)上述の実施形態において、特定部113は、フィルタ部112から送られた各画素の修正明度の中から最小値と最大値とを検出し、検出した最小値および最大値の修正明度を有する各画素の、原画像における座標をそれぞれ特定していたが、最小値や最大値の修正明度を有する画素はそれぞれ一意に定まらない場合について言及しなかった。検出した最小値または最大値の修正明度を有する画素が複数ある場合、特定部113は、以下のような処理を行ってもよい。
【0059】
(7−1)特定部113は、複数ある画素の座標のうち、予め定められた条件に近い方の座標を特定するようにしてもよい。例えば、上述のようにxを1からWまで、yを1からHまで順に走査するとした場合、複数の画素のxが異なるときには、xの小さい方を、xが同じときには、yの小さい方を選ぶといった具合である。
【0060】
(7−2)検出された最小値または最大値の修正明度を有する画素が複数ある場合、フィルタ部112は、注目画素の周囲にある画素群の範囲を拡大し、拡大された画素群の明度について算出した相加平均値を修正明度として再び算出する。そして、特定部113は、フィルタ部112により再び算出された修正明度の中から最小値と最大値とを検出すればよい。再計算後であっても、検出された最小値または最大値の修正明度を有する画素が複数ある場合には、さらに上述した画素群の範囲を拡大して、これらの画素がそれぞれ1つずつになるまで処理を繰り返せばよい。
【0061】
(7−3)検出された最小値または最大値の修正明度を有する画素が複数ある場合、これらの中から、擬似乱数などを用いて一の画素を選択してもよい。
【0062】
(8)上述の実施形態において、正規化部116により算出された正規化明度は、調整部117にのみ送られていたが、変換部114に送られてもよい。すなわち、図2の二点鎖線で表した経路に沿って、画像処理が繰り返されてもよい。この場合、変換部114は、送られた正規化明度に2度目の逆S字変換処理を施して、2度目の変換明度を算出する。そして、決定部115は、特定部113が特定した第1座標および第2座標に基づいて、この2度目の変換明度のレンジを決定し、正規化部116は、この2度目に決定したレンジに沿って、2度目の変換明度の正規化を行ってもよい。このとき、特定部113による第1座標および第2座標の特定は、改めて行わなくてよい。特定部113は、原画像における修正明度の最小値と最大値は、変換部114による逆S字変換処理の回数によって変化しないからである。
【0063】
このように、正規化部116により算出された正規化明度は、さらにまた、変換部114に送られてもよい。すなわち、この繰り返しの回数は1回でも、2回以上でもよい。変換部114による逆S字変換処理の回数が増加するほど、変換後の画像のコントラストが強調される。
【符号の説明】
【0064】
1…画像処理装置、11…制御部、111…抽出部、112…フィルタ部、113…特定部、114…変換部、115…決定部、116…正規化部、117…調整部、12…記憶部、13…操作部、14…取得部、15…出力部、2…供給装置、3…出力装置、9…画像処理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定する特定手段と、
変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、前記原画像の各画素の明度を変換する変換手段と、
前記変換手段により変換された明度のうち、前記第1座標の画素の明度を最小値とし、前記第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定する決定手段と、
前記変換手段により変換された明度のうち、前記決定手段により決定された範囲外の明度を当該範囲内に収めるように補正する補正手段と
を具備することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記逆S字変換は、
任意の定数であるβON、βOFFと、
或る画素の周囲に位置する画素から構成される領域における明度の平均値であるvaveと、
原画像の明度の最小値及び最大値であるv、vとにより表される下記式(1)を用いて、
前記或る画素の明度vを入力値とする関数κ(v)が示す値を、前記入力値から変換された前記出力値とする変換である
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【数1】

【請求項3】
前記原画像の各画素を順に注目画素として走査し、当該注目画素の周囲にある画素群の明度の平均値を算出して、当該注目画素の明度を修正する修正手段を具備し、
前記特定手段は、前記修正手段により修正された明度について、前記第1座標と前記第2座標とを特定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
画像処理装置が、
取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定し、
変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、前記原画像の各画素の明度を変換し、
変換された明度のうち、前記第1座標の画素の明度を最小値とし、前記第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定して、
変換された明度のうち、決定された範囲外の明度を当該範囲内に収めるように補正する
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項5】
コンピュータを、
取得した原画像データが示す原画像の各画素のうち、最小の明度を示す画素の座標である第1座標と、最大の明度を示す画素の座標である第2座標とを特定する特定手段と、
変換される入力値を横軸にとり、当該入力値を変換した出力値を縦軸にとって描画した出力特性が逆S字型曲線を描く変換である逆S字変換を用いることにより、前記原画像の各画素の明度を変換する変換手段と、
前記変換手段により変換された明度のうち、前記第1座標の画素の明度を最小値とし、前記第2座標の画素の明度を最大値とする範囲を決定する決定手段と、
前記変換手段により変換された明度のうち、前記決定手段により決定された範囲外の明度を当該範囲内に収めるように補正する補正手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−64001(P2012−64001A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208000(P2010−208000)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】