説明

画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラム

【課題】対象とする臓器全体について線維化部位のみを描出することができる画像処理方法を提供すること。
【解決手段】被験体の断層画像であって、対象臓器の線維化部位の信号強度が対象臓器の正常部位の信号強度よりも高い画像を準備する。被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、対象臓器の断層画像を作成する。対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成する。被検体の断層画像は、例えば核磁気共鳴画像法により撮影されたT2*強調画像である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体の断層画像から線維化部位を抽出して線維化部位の断層画像を作成する画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
線維化疾患は、全身のあらゆる臓器におこる疾患である。線維化疾患としては、肝硬変や肺線維症、腎硬化症などがよく知られている。また、アルツハイマー病や黄斑変性症、加齢などにおいても線維化が生じることが知られている。このように、線維化は人体の機能や生命を脅かす重要な病変であるが、線維化疾患に対する決定的な治療薬は開発されていない。現在、線維化疾患の患者に対しては、臓器移植や人工臓器などにより治療が行われており、患者のQOLの低下が問題となっている。
【0003】
これまでにも線維化疾患の治療薬は研究レベルでは多数提案されている。しかしながら、線維化の程度を評価するためのマーカーが確立されていないため、これらの治療薬について臨床試験を行うことは困難である。現在、線維化の程度を評価するためのマーカーを確立することが求められている。
【0004】
従来、線維化の程度を評価するためには、生検による病理学的検査を行うしかなかった。しかしながら、生検にも次のような問題がある。
【0005】
1)生検は、被検体(患者または健常人)に苦痛およびリスクを与える侵襲的検査である。したがって、生検を多くの人に行うことは、非現実的である。たとえば、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの生活習慣に伴う線維化疾患の潜在患者(脂肪肝患者)は非常に多い。これらの潜在患者のすべてに対して生検を行うことは不可能である。
【0006】
2)生検による病理学的検査は、定量的評価ではなく、定性的評価である。たとえば、肝生検による病理学的検査では、線維化スコア(fibrosis score)0〜4というように5段階で評価される。このように曖昧な評価では、医師により評価結果が異なってしまうおそれがある。また、このように曖昧な評価では、厳密な治療効果の判定を行うことはできない。特に腎生検では、統一された評価基準がない。また、組織を観察して定性的評価を行うことができる医師が少なくなっていることも問題である。
【0007】
3)線維化は臓器内において不均一に生じるため、サンプリングエラーにより評価結果がばらつくおそれがある。汎用されているエコー下生検においても、線維化部位と正常部位との区別が困難であるため、サンプリングエラーが生じるおそれがある。また、一人の患者について継続的に評価する場合、毎回異なる部位からサンプリングするため、治療効果を継続的に評価することは困難である。
【0008】
4)がんを除く疾患については、生検を行っても疾患が良くなるわけではない。したがって、患者にとって生検を行うメリットが少ない。
【0009】
これらの問題を解消するため、画像診断技術を用いて、非侵襲的かつ客観的に線維化の程度を評価する方法が提案されている。現在主流となっている画像診断方法としては、超音波検査法やX線コンピュータ断層撮影法(CT)、核磁気共鳴画像法(MRI)、ポジトロン断層法(PET)などが挙げられる。これらのうち、線維化部位を描出できる可能性があるのは、超音波検査法、CT、MRIである。
【0010】
超音波検査法を利用した評価方法としては、超音波エラストグラフィーがある。しかしながら、超音波エラストグラフィーには、肥満体型、腹水貯留または息止め不良の被検体に対して正確に評価することができないという問題がある。また、超音波エラストグラフィーでは、術者の技術によって結果が大きく変わるため、一人の患者について継続的に線維化の程度を評価することが困難である。
【0011】
また、CTを利用した評価方法としては、強調CT(weighted CT)およびROC(receiver operating curve)曲線を利用した評価方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、線維化部位を描出することができないため、定量的に評価することができない。また、この方法では、対象とする臓器全体について評価することもできない。
【0012】
また、MRIを利用した評価方法としては、拡散強調画像、プロトンMRS(magnetic resonance spectoscopy)または灌流強調画像を利用した評価方法が報告されている。しかしながら、これらの方法も、線維化部位を描出することができないため、定量的に評価することができない。また、これらの方法でも、対象とする臓器全体について評価することができない。
【0013】
一方、MRIを利用して線維化部位を描出した方法としては、非特許文献2で報告されている方法がある。非特許文献2に記載の方法では、1)被検体に陰性造影剤(フェルモキシデス;商品名フェリデックス)を30分以上かけて点滴投与し、2)その被検体に適した撮影条件を検討し、3)被検体にさらに陽性造影剤(ガドジアミド;商品名オプティマーク)を静脈注射し、4)T1強調画像を撮影する、ことで線維化部位が描出されたMRI画像を撮影している。しかしながら、この方法でも、線維化部位のみを描出することはできないため、定量的に評価することはできない。また、この方法は、撮影に要する時間が長いため、病院内において多くの人に適用するのは困難である。また、造影剤を2種類使用することから、被検体の体への負担も大きい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Romero-Gomez M et al., "Optical analysis of computed tomography images of the liver predicts fibrosis stage and distribution in chronic hepatitis C", Hepatology, Vol.47, No.3, pp.810-6.
【非特許文献2】Aguirre DA, et al., "Liver fibrosis: noninvasive diagnosis with double contrast material-enhanced MR imaging", Radiology, Vol.239, No.2, pp.425-437.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、従来の画像診断方法では、線維化部位のみを描出することができないため、線維化の程度を定量的かつ客観的に評価することはできない。また、仮に線維化部位のみを描出する画像診断方法があったとしても、従来の関心領域(ROI)によるエリア設定法では、同一の部位について定量的かつ客観的に評価することはできない。
【0016】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、対象とする臓器全体について線維化部位のみを描出することができる画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下の画像処理装置に関する。
[1]被験体の断層画像を入力する画像取得部と;前記被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、前記対象臓器の断層画像を作成する臓器部位抽出部と;前記対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成する線維化部位抽出部とを有する、画像処理装置。
[2]前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法またはX線コンピュータ断層撮影法により撮影された画像である、[1]に記載の画像処理装置。
[3]前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法により撮影された画像であり;前記被検体の断層画像は、T2*強調画像またはT2強調画像である、[2]に記載の画像処理装置。
[4]前記対象臓器は、肝臓、腎臓または脳である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の画像処理装置。
[5]前記対象臓器は、肝臓であり;前記被検体は、陰性造影剤として超常磁性体酸化鉄製剤を投与されている、[4]に記載の画像処理装置。
【0018】
また、本発明は、以下の画像処理方法に関する。
[6]被験体の断層画像を準備する第1のステップと;前記被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、前記対象臓器の断層画像を作成する第2のステップと;前記対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成する第3のステップとを含む、画像処理方法。
[7]前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法またはX線コンピュータ断層撮影法により撮影された画像である、[6]に記載の画像処理方法。
[8]前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法により撮影された画像であり;前記被検体の断層画像は、T2*強調画像またはT2強調画像である、[7]に記載の画像処理方法。
[9]前記対象臓器は、肝臓、腎臓または脳である、[6]〜[8]のいずれか一項に記載の画像処理方法。
[10]前記対象臓器は、肝臓であり;前記被検体は、陰性造影剤として超常磁性体酸化鉄製剤を投与されている、[9]に記載の画像処理方法。
【0019】
また、本発明は、以下の画像処理プログラムに関する。
[11]コンピュータに、被験体の断層画像を準備する第1のステップと;前記被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、前記対象臓器の断層画像を作成する第2のステップと;前記対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の画像を作成する第3のステップとを実行させる、画像処理プログラム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象とする臓器全体について線維化部位のみを描出することができる。したがって、本発明によれば、対象とする臓器全体について線維化の程度を定量的かつ客観的に評価することができる。また、本発明によれば、一人の患者について継続的に線維化の程度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る画像処理装置が行う処理手順を示すフローチャートである。
【図3】肝硬変の患者の肝臓のMRI画像の一例である。
【図4】図4Aは、図3に示されるMRI画像と同一の画像である。図4Bは、図4Aに示されるX軸の各地点における信号強度を示すグラフである。
【図5】線維化部位抽出処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】図6Aは、信号強度のピーク値およびボトム値の特定のしかたを説明するための図である。図6Bは、線維化部位の特定のしかたを説明するための図である。
【図7】肝硬変の患者の肝臓の線維化部位の断層画像である。
【図8】各種肝臓疾患の患者の肝臓全体における線維化部位の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態の画像処理装置は、例えば、本発明の画像処理プログラムがインストールされた、ワークステーションやパソコンなどの汎用コンピュータである。
【0024】
図1に示されるように、本実施の形態の画像処理装置100は、画像取得部110、入力部120、記録部130、演算部140、表示部150および制御部160を有する。
【0025】
画像取得部110は、画像処理の対象となる被験体の断層画像を入力する。たとえば、画像取得部110は、撮影装置に接続されており、撮影装置から直接断層画像を入力する。画像取得部110は、記録媒体に記録された断層画像を読み出すことで断層画像を入力してもよい。
【0026】
入力部120は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチなどである。入力部120は、ユーザによる入力に応じた操作信号を制御部160に出力する。
【0027】
記録部130は、例えば記録媒体とその読み取り装置とから構成される。記録媒体の例には、ROMやRAMなどのICメモリや、内蔵または外部接続されたハードディスク、メモリカードやUSBメモリなどの可搬型記録媒体などが含まれる。記録部130には、画像処理装置100を動作させるためのプログラムや、プログラムの実行中に使用されるデータなどが記録される。被検体の断層画像から線維化部位の断層画像を作成する本発明の画像処理プログラム132も記録部130に記録される。
【0028】
演算部140は、例えばCPUなどにより実現される。演算部140は、画像取得部110から入力された被検体の断層画像を処理し、線維化部位の断層画像を作成するための演算処理を行う。演算部140は、被検体の断層画像から対象臓器の断層画像を作成する臓器部位抽出部142と、対象臓器の断層画像から線維化部位の断層画像を作成する線維化部位抽出部144とを含む。
【0029】
表示部150は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置である。表示部150は、制御部160の制御により、被験体の断層画像や対象臓器の断層画像、線維化部位の断層画像などの各種画像を表示する。
【0030】
制御部160は、例えばCPUなどにより実現される。制御部160は、入力部120から入力された操作信号や、記録部130に記録されているプログラムなどに基づいて、画像処理装置100を構成する各部への指示やデータの転送を行い、画像処理装置100の全体の動作を統括的に制御する。
【0031】
次に、本実施の形態の画像処理装置100の動作について説明する。
【0032】
図2は、本実施の形態の画像処理装置100が行う処理手順を示すフローチャートである。これらの処理は、演算部140が記録部130に記録された画像処理プログラム132を実行することにより実行される。
【0033】
まず、画像取得部110は、被検体の断層画像を入力する(ステップS100;図2)。被検体の断層画像は、対象臓器全体の情報を含む一連の断層画像であることが好ましい。対象臓器全体の線維化の程度を定量的に評価するためである。なお、対象臓器は、特に限定されない。対象臓器の例には、肝臓、腎臓、脳、肺、腸(小腸、大腸)、心臓、胃、食道、血管、膵臓、胆嚢、消化管などが含まれる。入力された一連の断層画像は、制御部160を介して、その順序を示す情報とともに記録部130に記録される。記録部130に記録された一連の断層画像は、演算部140が任意に読み出すことができる。
【0034】
被検体の断層画像は、例えば超音波検査法やX線コンピュータ断層撮影法(CT)、核磁気共鳴画像法(MRI)などで撮影された画像である。被検体の断層画像は、対象臓器(例えば、肝臓)を表示している部位において、線維化部位の信号強度(輝度)が周囲の正常部位の信号強度よりも高い画像である。被検体の断層画像の撮影条件は、線維化部位の信号強度が周囲の正常部位の信号強度よりも高くなるように、撮影方法や撮影装置などに応じて適宜設定される。
【0035】
被検体の断層画像を撮影する際には、被検体に造影剤を投与してもよいし、投与しなくてもよい。対象臓器内において、線維化部位の信号強度と正常部位の信号強度との差が小さい場合は、公知の造影剤を投与すればよい。被検体の負担を軽減する観点からは、投与回数が少ない造影剤が好ましい。また、投与してから撮影を開始するまでの時間が短い造影剤が好ましい。
【0036】
たとえば、肝臓のMRI画像を撮影する場合は、肝臓用の陰性MRI造影剤として知られている超常磁性体酸化鉄(SPIO)製剤を被検体に投与した後に、MRIでT2*強調画像を撮影すればよい。このようにすることで、肝臓部位において、線維化部位の信号強度が高く、かつ正常部位の信号強度が低い、被検体の断層画像を得ることができる。
【0037】
超常磁性体酸化鉄製剤の種類は、特に限定されないが、例えばフェルカルボトラン(商品名リゾビスト)を使用すればよい。フェルカルボトランは、慢性肝炎や肝硬変などの肝実質病変を有する肝臓では良好かつ均一な画像を撮影しにくいという欠点がある。このため、フェルカルボトランは、肝実質病変を有さない肝臓における転移性肝癌の検出に使用されている。本発明者らは、この不良かつ不均一な画像という点に着目し、フェルカルボトランを投与することで肝臓の線維化部位を明瞭に描出できるのではないかと考えた。そして、本発明者らは、フェルカルボトランを投与した被検体の肝臓において、線維化部位を明瞭に描出できる撮影条件を検討した。その結果、本発明者らは、フェルカルボトランを使用し、かつルーチンの肝臓MRIでは行われていない撮影条件「T2*」で撮影することで、肝臓の線維化部位を明瞭に描出できることを見出した。
【0038】
図3は、フェルカルボトランを投与された肝硬変の患者の肝臓を通るMRI断層画像(水平断;T2*強調画像;512×512ピクセル)の一例である。
【0039】
次に、演算部140の臓器部位抽出部142は、被験体の断層画像から対象臓器の断層画像を作成する(ステップS200;図2)。具体的には、臓器部位抽出部142は、記録部130に記録されている被検体の断層画像を1枚ずつ順次読み出す。そして、臓器部位抽出部142は、読み出した被検体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、対象臓器の断層画像を作成する。作成された一連の断層画像は、制御部160を介して、その順序を示す情報とともに記録部130に記録される。
【0040】
一般的に、被検体の断層画像では、同一の臓器または組織は一定の範囲内の信号強度を有する。このことを利用して、被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出することができる。たとえば、被検体の断層画像がCT画像の場合は、CT値を利用して対象臓器の部位を抽出することができる。一方、被検体の断層画像がMRI画像の場合は、CT値のような定義された値を利用することはできない。しかしながら、MRI画像においても、同一の臓器または組織は、通常、信号強度が一定の範囲内となる。
【0041】
図4Aは、図3に示されるMRI画像と同一の画像である。図4Aでは、肝臓を示す部位が白色の破線で囲まれている。図4Bは、図4Aに示されるX軸の各地点における信号強度(輝度)を示すグラフである。図4Bのグラフに示されるように、このMRI画像では、肝臓部位の信号強度は、18〜55の範囲内であることがわかる。したがって、例えば信号強度が18〜55の範囲内の部位を抽出することで、肝臓部位を抽出して、肝臓の断層画像を作成できる。
【0042】
このように、被検体の断層画像がMRI画像の場合も、対象臓器の部位を抽出することができる。上記の例では、信号強度の分布を調べた上で、抽出すべき信号強度の範囲(18〜55)を設定した。しかしながら、同一の装置を用いて同一の撮影条件で撮影した場合、各臓器の信号強度はほぼ同じとなる。したがって、予め信号強度の範囲を設定しておけば、より迅速に対象臓器の部位を抽出して、対象臓器の断層画像を作成することができる。
【0043】
なお、上記の信号強度の例(18〜55)は、図3に示される断層画像を使用する場合のものである。異なる断層画像を使用する場合、信号強度の好ましい範囲は異なる。また、図4Aおよび図4Bに示される例では、X軸に沿って信号強度を見ているが、信号強度を見る軸はX軸に限定されるものではない。たとえば、信号強度を見る軸は、360°自由に回転させることができる。
【0044】
次に、演算部140の線維化部位抽出部144は、対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成する(ステップS300;図2)。具体的には、線維化部位抽出部144は、記録部130に記録されている肝臓の断層画像を1枚ずつ順次読み出す。そして、線維化部位抽出部144は、読み出した肝臓の断層画像から線維化部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成する。作成された一連の断層画像は、制御部160を介して、その順序を示す情報とともに記録部130に記録される。
【0045】
対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位(線維化部位)を抽出する方法は、特に限定されないが、例えば以下の手順により行えばよい。
【0046】
図5は、対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位(線維化部位)を抽出する手順の一例を示すフローチャートである。
【0047】
まず、線維化部位抽出部144は、対象臓器の断層画像において、信号強度のピーク値を特定する(ステップS310;図5)。「信号強度のピーク値」とは、対象臓器の断層画像において信号強度の最も高い値を意味する。たとえば、図6Aに示される例では、P1の信号強度がピーク値である。図6Aでは、説明の便宜上1次元(X軸のみ)で説明しているが、実際は2次元(X軸およびY軸からなる平面)でピーク値を特定する。
【0048】
次に、線維化部位抽出部144は、対象臓器の断層画像において、信号強度のボトム値を特定する(ステップS320;図5)。「信号強度のボトム値」とは、対象臓器の断層画像における、対象臓器の正常な部位の信号強度の上限値を意味する。ボトム値は、過去の知見を参照して予め設定しておいてもよい。たとえば、図6Aに示される例では、B1がボトム値である。なお、図6Aでは、説明の便宜上1次元(X軸のみ)で説明しているが、実際は2次元(X軸およびY軸からなる平面)でボトム値を特定する。
【0049】
次に、線維化部位抽出部144は、信号強度のピーク値とボトム値との差を算出する(ステップS330;図5)。たとえば、図6Aに示される例では、線維化部位抽出部144は、P1の信号強度とB1の信号強度との差H1を算出する。
【0050】
次に、線維化部位抽出部144は、対象臓器の断層画像において、信号強度が高い部位を抽出する(ステップS340;図5)。具体的には、線維化部位抽出部144は、対象臓器の断層画像において、ステップS310で特定した信号強度のピーク値から、ステップS330で算出した信号強度の差の0%超かつ80%以下(好ましくは5%以上かつ60%以下、より好ましくは10%以上50%以下、特に好ましくは15%以上40%以下)の所定の値を引いた値よりも信号強度が高い部位を抽出する。たとえば、図6Bに示される例では、P1の信号強度から、信号強度の差H1の70%の値H2を引いた値よりも信号強度が高い部位(色を付した領域)を抽出する。
【0051】
次に、線維化部位抽出部144は、ステップS340で抽出された部位を合成して、線維化部位の断層画像を作成する(ステップS350;図5)。
【0052】
以上の手順により、対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成することができる。
【0053】
図7は、肝臓の断層画像(図3および図4Aに示される断層画像の信号強度が18〜55の部分を抽出して作成)から、信号強度が高い線維化部位を抽出した結果を示す画像である。信号強度のボトム値は、30とした。また、信号強度のピーク値から、信号強度のピーク値とボトム値の差の70%を引いた値よりも信号強度が高い部位を抽出した。このように、対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出することで、線維化部位の断層画像を作成することができる。
【0054】
以上のように、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムは、対象とする臓器全体について、線維化部位のみを描出することができる。また、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムは、対象臓器の面積(体積)および線維化部位の面積(体積)を求めることができるため、線維化部位の割合を容易に求めることができる(実施例参照)。また、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムは、対象臓器の正常部位の信号強度および線維化部位の信号強度を求めることができるため、線維化部位の線維化強度も容易に求めることができる。したがって、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムによれば、対象とする臓器全体について線維化の程度および線維化強度を定量的かつ客観的に評価することができる。
【0055】
上記のように、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムは、対象臓器の全体について、線維化の程度および線維化強度を定量的かつ客観的に評価することができる。したがって、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムによれば、サンプリングエラーなどの影響を受けることなく、一人の患者について継続的に治療効果を評価することができる。
【0056】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0057】
本実施例では、各種肝臓疾患の患者のMRI画像から肝臓の線維化部位の断層画像を作成し、肝臓における線維化の程度を定量化した例を示す。
【0058】
各種肝臓疾患(脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎、肝線維症または肝硬変)の患者に、SPIO造影剤(フェルカルボトラン;商品名リゾビスト)を添付文書の記載に従い静脈注射により投与した(0.016mL/kg、最大量1.4mL)。各患者に対しては事前に十分な説明を行っており、各患者からは事前に書面で同意を得た。
【0059】
造影剤の投与前、投与5分後、投与20分後に、肝臓全体についてT2*強調画像(水平断:512×512ピクセル)を撮影した。撮影した画像は、標準規格のDICOMに準拠するフォーマットで保存した。
【0060】
各患者のすべてのT2*強調画像(造影剤投与後5分)から肝臓部位を抽出して、肝臓の断層画像を作成した。次いで、肝臓の断層画像から線維化部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成した(図7参照)。
【0061】
各患者について、肝臓全体における線維化部位の割合を算出した。具体的には、各患者のすべての画像について肝臓の面積に対する線維化部位の面積の割合を算出し、すべての画像の線維化部位の割合を合計した。
【0062】
図8は、各患者の肝臓全体における線維化部位の割合を示すグラフである。このグラフから、症状に合わせて線維化が進行していることがわかる。このように、本発明の画像処理方法を使用することで、ROIを設定することなく肝臓全体について線維化の進行度を知ることができる。
【0063】
以上のように、被検体にフェルカルボトランを投与して、T2*強調画像を撮影することで、線維化部位が明瞭に描出された被検体の断層画像を得ることができる(図3参照)。この方法では、フェルカルボトランを1回だけ投与すればよい。また、フェルカルボトランを投与した後5分後には撮影することができる。本実施例の方法では、造影剤の投与回数および撮影時間を従来の技術よりも大幅に低減できるので、患者への負担を大きく減らすことができる。
【0064】
また、本発明の画像処理方法を使用することで、対象臓器(肝臓)全体について、線維化の割合を定量的かつ客観的に求めることができる。したがって、本発明の画像処理方法を使用することで、一人の患者について継続的に治療効果を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムは、例えば線維化疾患の画像診断に有用である。
【0066】
また、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムは、一人の被検体について継続的かつ定量的に治療効果を評価することができるため、各種治療薬の臨床試験に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 画像処理装置
110 画像取得部
120 入力部
130 記録部
132 画像処理プログラム
140 演算部
142 臓器部位抽出部
144 線維化部位抽出部
150 表示部
160 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の断層画像を入力する画像取得部と、
前記被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、前記対象臓器の断層画像を作成する臓器部位抽出部と、
前記対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成する線維化部位抽出部と、
を有する、画像処理装置。
【請求項2】
前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法またはX線コンピュータ断層撮影法により撮影された画像である、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法により撮影された画像であり、
前記被検体の断層画像は、T2*強調画像またはT2強調画像である、請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記対象臓器は、肝臓、腎臓または脳である、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記対象臓器は、肝臓であり、
前記被検体は、陰性造影剤として超常磁性体酸化鉄製剤を投与されている、
請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
被験体の断層画像を準備する第1のステップと、
前記被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、前記対象臓器の断層画像を作成する第2のステップと、
前記対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の断層画像を作成する第3のステップと、
を含む、画像処理方法。
【請求項7】
前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法またはX線コンピュータ断層撮影法により撮影された画像である、請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記被検体の断層画像は、核磁気共鳴画像法により撮影された画像であり、
前記被検体の断層画像は、T2*強調画像またはT2強調画像である、請求項7に記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記対象臓器は、肝臓、腎臓または脳である、請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項10】
前記対象臓器は、肝臓であり、
前記被検体は、陰性造影剤として超常磁性体酸化鉄製剤を投与されている、
請求項9に記載の画像処理方法。
【請求項11】
コンピュータに、
被験体の断層画像を準備する第1のステップと、
前記被験体の断層画像から対象臓器の部位を抽出して、前記対象臓器の断層画像を作成する第2のステップと、
前記対象臓器の断層画像から信号強度が高い部位を抽出して、線維化部位の画像を作成する第3のステップと、
を実行させる、画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−174(P2013−174A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131390(P2011−131390)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(505156709)株式会社ステリック再生医科学研究所 (16)
【Fターム(参考)】