説明

画像処理装置、画像処理方法

【課題】 コントラストの低いエッジを保存しつつノイズ低減を行うための技術を提供すること。
【解決手段】 着目画素の周辺画素のそれぞれの画素値から、着目画素の画素値xと同じ画素値を有する画素の数Hを求める。周辺画素のそれぞれの画素値から、着目画素の画素値xより小さい画素値のうち着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H1を求める。周辺画素のそれぞれの画素値から、着目画素の画素値xより大きい画素値のうち着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H2を求める。a=(H2−H1)/(2×H)を計算する。画素値x若しくは着目画素及び周辺画素のそれぞれの画素の画素値の平均画素値をIとし、係数C1,C2を用いて、σ=C1×I+C2を計算する。着目画素の画素値xを(x+a×σ)に更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ低減技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、デジタルカメラ等の撮像装置により撮影された撮影画像にはノイズが含まれている。ノイズにはランダムノイズと固定パターンノイズがある。ランダムノイズは画像上の位置に関係なく現れるノイズである。固定パターンノイズは画像上の固定した位置に現れるノイズである。
【0003】
ノイズは被写体と直接関係のない画像成分であるため、被写体像にノイズが混入すると、撮影画像の画質を低下させるという問題がある。そのため、デジタルカメラなどでは信号処理回路等にてノイズ低減処理を行うことで、ノイズによる撮影画像の画質の低下を抑制している。
【0004】
従来より、様々なノイズ低減処理方法が提案されているが、それらは主として、平滑化フィルタによる処理を基礎にしている。通常、被写体像は低周波成分に比べて高周波成分の強度が弱いため、撮影画像上の高周波領域ではノイズが支配的となる。そこで高周波成分を抑圧する平滑化フィルタを撮影画像に適用すれば、被写体像の低〜中周波成分を保存しつつ、ノイズを低減しうる。このような考えに基づく平滑化フィルタはノイズ低減手法として現在広く用いられている。
【0005】
また、平滑化フィルタの改良としてバイラテラルフィルタと呼ばれるエッジ保存平滑化フィルタなども提案されている(非特許文献1)。しかしながら、上述したような平滑化フィルタをベースとする従来のノイズ低減技術では、被写体像の高周波成分も抑圧されてしまい、細かなテクスチャ成分が除去されてしまうことがあった。また、仮にエッジ保存特性を備えたフィルタを用いたとしても、テクスチャの振幅がある程度大きくなければ、その効果が得られない。
【0006】
上記の課題に対し、特許文献1に記載のノイズ低減方法では、画像領域が平坦な領域であるか否かの判定を行い、平坦であると判定されれば、注目画素を領域の平均値に近づける処理を行う。特許文献1における平坦領域の判定の概要はおおよそ次のようなものである。特許文献1記載の領域判定方法は、領域の標準偏差に基づいて行い、コントラストの高いエッジ領域では標準偏差が大であるため、標準偏差が大であるときにはノイズ低減を行わない。従って、エッジ領域ではノイズ低減処理がなされず、エッジが保存される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-150441号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Fast Bilateral Filtering for the Display of High-Dynamic-Range IMAGES Proc. of ACM SIGGRAPH 2002, pp. 257-266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の技術では、コントラストの低いエッジは標準偏差が小であるため、このエッジに対してはノイズ低減処理が行われてしまい、コントラストの低いエッジがぼけるという課題がある。
【0010】
本発明は以上の問題に鑑みてなされたものであり、コントラストの低いエッジを保存しつつノイズ低減を行うための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的を達成するために、例えば、本発明の画像処理装置は以下の構成を備える。即ち、入力画像中の着目画素及び該着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素の画素値を取得する手段と、前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xと同じ画素値を有する画素の数Hを求める手段と、前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xより小さい画素値のうち前記着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H1を求める手段と、前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xより大きい画素値のうち前記着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H2を求める手段と、a=(H2−H1)/(2×H)を計算する手段と、前記画素値x、若しくは前記着目画素及び前記周辺画素のそれぞれの画素の画素値の平均画素値、をIとした場合に、予め設定された係数C1,C2を用いて、σ=C1×I+C2を計算する手段と、前記着目画素の画素値xを(x+a×σ)に更新する更新手段と、前記入力画像を構成する各画素の画素値を前記更新手段により更新した後、該入力画像を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、コントラストの低いエッジを保存しつつノイズ低減を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】画像処理装置の機能構成例を示すブロック図。
【図2】信号処理部103の構成例を示すブロック図。
【図3】ノイズ低減処理部201の構成例を示すブロック図。
【図4】ノイズ低減処理部201が行う処理のフローチャート。
【図5】ヒストグラムを示す図。
【図6】ヒストグラムを示す図。
【図7】ヒストグラムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照し、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態は、本発明を具体的に実施した場合の一例を示すもので、特許請求の範囲に記載の構成の具体的な実施例の1つである。
【0015】
[第1の実施形態]
先ず、本実施形態に係る画像処理装置の構成例について、図1のブロック図を用いて説明する。本実施形態では、ディジタルカメラに適用した画像処理装置について説明する。
【0016】
撮像部101は、外界の光をその光量に応じた映像信号として取得するものである。撮像部101は、例えば、ズームレンズ、フォーカスレンズ、ぶれ補正レンズ、絞り、シャッター、光学ローパスフィルタ、iRカットフィルタ、カラーフィルタ、CMOSやCCDなどのセンサ、等により構成されている。A/D変換部102は、撮像部101から送出された映像信号(アナログ信号)をディジタル信号(データ)に変換する。
【0017】
信号処理部103は、A/D変換部102により得られたデータが表す入力画像に対してホワイトバランス処理、ガンマ補正処理、ノイズ低減処理等の信号処理を行う。エンコーダ部105は、信号処理部103による信号処理済みの入力画像に対してJpegやMpegなどの圧縮符号化処理を行い、符号化画像データを生成する。もちろん、この圧縮符号化方法には様々なものがあり、特定の方法に限定するものではないし、そもそもこの圧縮符号化は必須ではない。
【0018】
メディアI/F106には、PC(パーソナルコンピュータ)やその他メディア(例えば、ハードディスク、メモリーカード、CFカード、SDカード、USBメモリ)を接続することができる。然るに、エンコーダ部105による符号化画像データ(若しくは非圧縮符号化画像データ)は、このメディアI/F106を介してPCやその他のメディアに対して記録することができる。
【0019】
D/A変換部104は、信号処理部103による信号処理済みの入力画像(ディジタル信号)をアナログ信号に変換する。表示部113は液晶画面などにより構成されており、このアナログ信号が表す入力画像を表示する。また、この表示部113には、キャラクタジェネレーション部112により生成された文字やグラフィックなども表示することができる。
【0020】
CPU107は、ROM108やRAM109に格納されているコンピュータプログラムやデータを用いて画像処理装置全体の動作制御を行う。ROM108には、画像処理装置を構成する各部の動作制御をCPU107に実行させるためのコンピュータプログラムやデータが格納されている。また、既知の情報(予め設定された情報)として後述する様々なものもこのROM108に格納されている。
【0021】
RAM109は、様々なデータを一時的に記憶するためのエリアや、CPU107が各種の処理を実行する際に用いるワークエリアを有する。即ち、RAM109は、各種のエリアを適宜提供することができる。
【0022】
撮像系制御部110は、上記の撮像部101の制御を行うものであり、フォーカスを合わせる、シャッターを開く、絞りを調節するなどの、CPU107から指示された様々な制御を行う。
【0023】
操作部111は、ボタンやモードダイヤル等のユーザインターフェースにより構成されており、ユーザはこの操作部111を操作することで、各種の指示をCPU107に対して入力することができる。なお、上記の表示部113がタッチパネル式の液晶画面で構成されている場合、ユーザは周知の如く、このタッチパネル式の液晶画面を自身の指などでタッチすることで、CPU107に対して様々な指示入力を行うことができる。
【0024】
なお、図1には、以下の説明で用いる構成用件を含む一部の構成のみについて示している。然るに、本実施形態に係る画像処理装置に適用可能な構成は、図1に示した構成に限るものではなく、図1に示した構成に適当な構成用件を加えたものであっても良いし、以下の処理が実現可能であれば、適当な構成用件を省いても良い。また、1つの構成用件が行うものとして後述する処理を他の構成用件に行わせても良いし、それぞれで分配しても良い。
【0025】
次に、信号処理部103のより詳細な構成について、図2のブロック図を用いて説明する。信号処理部103は、A/D変換部102から送出された入力画像の画質を向上させるためのもので、先ずはこの入力画像に対してノイズ低減処理部201によってノイズ低減処理が施される。そしてノイズ低減処理部201によりノイズ低減処理が施された入力画像に対して、ホワイトバランス制御部によるホワイトバランス処理、エッジ強調部によるエッジ強調処理、色変換部による色変換処理、ガンマ処理部によるγ補正処理、が順に施される。そしてガンマ処理部からは、以上の各処理が施された入力画像が出力される。なお、画質を向上させるためには、ノイズ低減処理部201による処理だけでも良いし、ノイズ低減処理部201による処理と、ホワイトバランス制御部、エッジ強調部、色変換部、ガンマ処理部の1以上による処理と、で実現させても良い。
【0026】
次に、ノイズ低減処理部201のより詳細な構成について、図3のブロック図、及び図4のフローチャートを用いて説明する。先ず、ステップS401において頻度計算部301は、A/D変換部102から送出された入力画像を取得する。
【0027】
ステップS402では頻度計算部301は先ず、入力画像中の着目画素及び着目画素の周辺に位置する周辺画素、のそれぞれの画素の画素値を取得する。例えば、着目画素、着目画素の周囲に位置する8画素、のそれぞれの画素の画素値を取得する。
【0028】
そして次に頻度計算部301は、着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、着目画素の画素値xと同じ画素値を有する画素の数を求める。更に頻度計算部301は、着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、着目画素の画素値xより小さい画素値のうち着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H1を求める。更に頻度計算部301は、着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、着目画素の画素値xより大きい画素値のうち着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H2を求める。
【0029】
例えば、着目画素の画素値がP3、着目画素の周辺に位置する8画素のそれぞれの画素値がP2、P4、P2、P1、P5、P4、P3、P2であったとする。ここで、P1<P2<P3<P4<P5であるとする。このとき、画素値P1を有する画素の数は1、画素値P2を有する画素の数は3、画素値P3を有する画素の数は2、画素値P4を有する画素の数は2、画素値P5を有する画素の数は1、となる。然るにこの場合、ステップS402では頻度計算部301は、着目画素の画素値x(=P3)と同じ画素値を有する周辺画素の数として「1」を求める。更に、着目画素の画素値xより小さい画素値のうち着目画素の画素値xに最も近い画素値(=P2)を有する周辺画素の数として「3」を求める。更に、着目画素の画素値xより大きい画素値のうち着目画素の画素値xに最も近い画素値(=P4)を有する周辺画素の数「2」を求める。
【0030】
なお、入力画像中の着目画素の周辺に位置する周辺画素を用いて各画素値に対する画素数を計算するものとしても良いが、全ての画素を用いなくても良く、着目画素の画素値に近い画素値を有する周辺画素数が得られればよい。例えば、着目画素の画素値が「100」である場合、画素値が「80」〜「120」の範囲内の画素の数を得るようにしても良い。
【0031】
ステップS403では、傾き計算部302は、以下の式を計算することで、着目画素を含む近傍領域内で、同じ画素値を有する画素数の増減(=傾きa)を求める。然るに、この増減を求めることができるのであれば、他の式を用いても構わない。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、H(x)は、着目画素の画素値がxである場合に、着目画素の周辺に位置する周辺画素のうち、画素値xを有する画素の数を示す。H(x−1)は上記のH1に対応し、H(x+1)は上記のH2に対応している。
【0034】
ステップS404では補正量調整部303は、ROM108等に格納されているノイズ特性係数を取得する。本実施形態では、このノイズ特性係数として、C1,C2を取得する。この係数C1,C2は以下の式を満たす。
【0035】
【数2】

【0036】
この式においてIは、着目画素の画素値としても良いし、着目画素の画素値及び着目画素の周辺に位置する周辺画素の画素値の平均画素値、としても良い。ノイズ特性係数は、撮影画像に含まれるノイズの大きさを示している。具体的にはチャートを撮影した画像から算出したノイズの分散などである。なおショットノイズは輝度に応じてノイズ量が増加することが知られている。そこで、撮影画像に含まれるノイズの分散σと画素値Iの関係を係数C1,C2を用いて上記の式(2)のように表して係数C1,C2をノイズ特性係数とすることが好適である。
【0037】
然るにC1は主としてショットノイズに関わる項、C2は主として暗電流ノイズに関わる項となる。C1,C2はグレイスケールチャートを撮影した画像から求める。具体的には、グレースケールチャートにおいて反射率一定の領域に対応する撮影画像の領域の平均値と分散値の関係を式(2)により回帰分析してC1,C2を求める。撮影画像から求める方法の他にも、設計パラメータから、撮影画像に含まれるであろうノイズの分散を算出しても良い。
【0038】
いずれにせよ、ショットノイズ量は輝度に依存するため、着目画素あるいは周辺画素の画素値に応じてノイズ量σを計算することが望ましい。なお、着目画素の画素値が大きい場合、式(2)により着目画素に含まれるであろうノイズ量σが増大する。以下に説明する補正量はノイズ量σに比例するため、着目画素の補正量は大きくなる事が分かる。なお、傾きaが正である場合とは、着目画素に対して、着目画素の画素値よりも値が大きい画素の数が着目画素よりも値が小さい画素の数に対して多いことを意味する。その場合には、補正は着目画素の画素値を増加させる作用があることが式(1)から分かる。逆も然りである。
【0039】
ステップS405では補正量調整部303は、ステップS404で取得したC1,C2、着目画素の画素値(若しくは着目画素の画素値及び着目画素の周辺に位置する周辺画素の画素値の平均画素値)I、を用いて上記の式(2)を計算し、σを求める。次に補正量調整部303は、求めたσと上記の式(1)で計算した傾きaとを用いてσ×aを、補正量として計算し、加算器304に送出する。
【0040】
ステップS406では加算器304は、着目画素の画素値xに対して補正量(σ×a)を加算した結果(x+σ×a)を、着目画素の新たな画素値として、ホワイトバランス制御部に対して出力する。
【0041】
図4のフローチャートは、1つの画素(=着目画素)に対する処理のフローチャートであるため、ノイズ低減処理部201は、図4のフローチャートに従った処理を、入力画像を構成する各画素について行うことになる。図4のフローチャートに従った処理を、入力画像を構成する各画素について行うことで得られる画像は、ノイズ低減後の画像となる。
【0042】
なお、画像の境界付近では着目画素の周辺画素が存在しない場合がある。その際は、仮想的に所定画素値の画素が周辺画素として存在するとして計算したり、領域内には画素が存在するよう領域の形状を変更するなどが考えられる。
【0043】
次に、入力画像を構成する各画素について図4のフローチャートに従った処理を行うことで得られる画像については、コントラストの低いエッジが暈けないことについて説明する。
【0044】
先ず、本実施形態に係る上記の処理によりノイズが良好に低減できる理由について説明する。入力画像中の着目画素の画素値をx、周辺画素のうち画素値xを有する画素数をH(x)、H(x)をxについて微分した結果をH’(x)、入力画像に混入しているノイズの標準偏差をσとする。このとき、ノイズ低減処理部201により着目画素の画素値xは以下の式(3)に従って画素値x’に更新されることになる。
【0045】
【数3】

【0046】
この式(3)により、なぜノイズ低減が良好に行われるのかを説明する。ノイズ混入前の画像が一様な画素値xを有しており、この画像に対して標準偏差σのノイズが混入すると、混入後の画像のヒストグラムは以下の式(4)の正規分布で表すことができる。
【0047】
【数4】

【0048】
上記の式(3)と式(4)から、ノイズ低減後の画素値x'は以下の式(5)に示すとおり、ノイズ混入前の画素値xがノイズ低減後の画素値x’となることが分かる。
【0049】
【数5】

【0050】
ただし、式(4)で表される正規分布はなめらかな関数であることに注意が必要である。仮に着目画素の周辺領域が小さすぎる場合、少ないサンプルからヒストグラムH(x)を計算することになり、式(4)のようななめらかな理想的なヒストグラムは得られないし、式(3)の計算結果が(式(5))となる保証は無い。
【0051】
正規分布に従う乱数を計算機で発生させて、そのヒストグラムを表したものを図5に示す。図5において実線がヒストグラムであり、波線が正規分布(理想的なヒストグラム)である。サンプル数が有限であるため、ヒストグラムは滑らかではなく正規分布に一致しない。このような事態を避けるため、ヒストグラムをとる画像領域を広くするか、サンプル数が少なくても良好な結果を得る工夫が必要である。例えば、式(1)は離散データから傾きを示す量を得る一般的な数式であるが、サンプル数が少ない場合にはヒストグラムは滑らかでないため、aは理想値より大きな値をとる可能性がある。そこで、以下の式(6)に示すように、サンプル数Nを用いて修正する工夫が考えられる。
【0052】
【数6】

【0053】
式(6)によれば、サンプル数が少ないときには分母が大きくなり、傾きを示す量aは小さくなる。つまり、式(6)は傾きを示す量aが過度に大きくなる事を防ぐ効果があり、良好な結果を得る事ができる。なお、式(6)のサンプル数Nはx-1,x,x+1の度数の総和である。
【0054】
次に、ノイズ混入前の画像が一様では無い場合を考える。ノイズ混入前の画像のヒストグラムをh(α)とする。するとノイズ混入後の画像のヒストグラムはh(α)を用いて以下の式(7)のように表すことができる。
【0055】
【数7】

【0056】
式(7)は、撮影画像のヒストグラムについて新しい見方を提供している。総和記号の中身はノイズ混入前に画素値がαであり、なおかつノイズ混入により画素値xに変化した画素の数に等しい。式(7)全体を見ると、入力画像の画素値xの度数は、ノイズ混入により画素値xに変化するようなノイズ混入前の画素値αの総和に等しい。式(7)を式(3)に代入すると以下の式(8)が得られる。
【0057】
【数8】

【0058】
式(8)の一部である次式(9)の意味を考える。
【0059】
【数9】

【0060】
式(9)が表す量は、ノイズ混入により画素値がαからxに変化した画素の数を、ノイズ混入後の画素xの数で割っている。すなわち式(9)が表す量は、撮影画像の画素値がxである画素のうち、何%がノイズ混入前は画素値αであったのかを示す量である。これはノイズがのった画素値xを取得したうえで、ノイズ混入前は画素値αである事後確率P(α|x)に等しい。式(9)が表す量をP(α|x)とおくと式(8)は以下の式(10)に示す如く変形できる。
【0061】
【数10】

【0062】
式(10)を展開すると、以下の式(11)が得られる。
【0063】
【数11】

【0064】
ここで、ΣP(α|x)=1(式(11)の右辺の最後の項)であるから、最終的に式(11)は以下の式(12)に変形することができる。
【0065】
【数12】

【0066】
式(12)は画素値xを取得したという条件付きで、ノイズ混入前は画素値がαである確率を用いてノイズ混入前の画素値の期待値を計算している。つまり、式(3)を用いてノイズ低減後の画素値を得ることは、実質的にノイズ混入前の画素値の期待値を求めていることになる。以上が式(3)によりノイズ低減が行える理由である。特筆すべきは、式(3)はノイズ混入前のヒストグラムを直接求めることなしに、期待値演算によりノイズ混入前の画素値の期待値を計算できることである。
【0067】
次に、本実施形態に係る上記の処理により低コントラストのエッジが保存できる理由について説明する。本実施形態に係る上記の処理によるノイズ低減方法の作用を図6に示す。図6には、撮影画像のヒストグラムと、画素値の補正方向の関係を表している。
【0068】
図6において平均値よりも値が小さい画素値は勾配が正となり、ヒストグラムのピークに近づくよう補正がなされる。一方、平均値よりも値が大きい画素値は勾配が負となり、補正結果としては着目画素の画素値は減少し、やはりヒストグラムのピークに近づくよう補正される。ノイズ混入によりヒストグラムは広がるため、本実施形態に係る上記の処理によるノイズ低減方法は、広がった画素値をノイズ混入前の状態に近づける作用があることが分かる。
【0069】
入力画像が低コントラストのエッジを含む場合のヒストグラムと画素値の補正方向の関係とを図7(a)に示す。図7(a)の画素値a,bはエッジを構成する画素値の、それぞれの平均値である。ノイズ混入前の状態では図7(b)に示すヒストグラムのように画素値a,bでのみ0でない度数を有する。図7(a)の画素値の補正方向を見ると、ピークa,b以外の入力画像の画素値はピークa,bに近づくように補正がなされる。ノイズ混入前の画素値であるa,bと等しい画素値を有する画素は傾きが0であるため補正がなされない。そのため、補正の効果としてはエッジのコントラストの低下を押さえて、ノイズ混入前の状態に近づける作用がある。
【0070】
以上のことは、ヒストグラムのピークに位置する画素値a,bが近い値をとっていたとしても成り立つ。従って、本実施形態に係る上記の処理によるノイズ低減方法では、コントラストの低いエッジでもコントラストを維持しつつ、ノイズ低減がなされる。
【0071】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、ノイズ低減処理部201をディジタルカメラに搭載した場合について説明したが、第1の実施形態で説明したノイズ低減処理部201の動作は、ノイズ低減処理が必要な様々な画像処理装置に組み込むことが可能である。
【0072】
また、ノイズ低減処理部201はハードウェアで構成しても良いが、ソフトウェアで実装し、ROMなどに格納しても良い。この場合、このROM及びCPUを有する機器において、CPUがこのROMに格納されたこのソフトウェアを実行することにより、この機器は第1の実施形態でノイズ低減処理部201が行うものとして上述した各処理を実行することになる。
【0073】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像中の着目画素及び該着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素の画素値を取得する手段と、
前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xと同じ画素値を有する画素の数Hを求める手段と、
前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xより小さい画素値のうち前記着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H1を求める手段と、
前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xより大きい画素値のうち前記着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H2を求める手段と、
a=(H2−H1)/(2×H)を計算する手段と、
前記画素値x、若しくは前記着目画素及び前記周辺画素のそれぞれの画素の画素値の平均画素値、をIとした場合に、予め設定された係数C1,C2を用いて、σ=C1×I+C2を計算する手段と、
前記着目画素の画素値xを(x+a×σ)に更新する更新手段と、
前記入力画像を構成する各画素の画素値を前記更新手段により更新した後、該入力画像を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
更に、
前記出力手段により出力された入力画像に対して、ホワイトバランス処理、エッジ強調処理、色変換処理、γ補正処理、を順に実行する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
画像処理装置が行う画像処理方法であって、
前記画像処理装置の取得手段が、入力画像中の着目画素及び該着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素の画素値を取得する工程と、
前記画像処理装置の数Hを求める手段が、前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xと同じ画素値を有する画素の数Hを求める工程と、
前記画像処理装置の数H1を求める手段が、前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xより小さい画素値のうち前記着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H1を求める工程と、
前記画像処理装置の数H2を求める手段が、前記着目画素の周辺に位置する周辺画素のそれぞれの画素値から、前記着目画素の画素値xより大きい画素値のうち前記着目画素の画素値xに最も近い画素値を有する画素の数H2を求める工程と、
前記画像処理装置のaを求める手段が、a=(H2−H1)/(2×H)を計算する工程と、
前記画像処理装置のσを求める手段が、前記画素値x、若しくは前記着目画素及び前記周辺画素のそれぞれの画素の画素値の平均画素値、をIとした場合に、予め設定された係数C1,C2を用いて、σ=C1×I+C2を計算する工程と、
前記画像処理装置の更新手段が、前記着目画素の画素値xを(x+a×σ)に更新する更新工程と、
前記画像処理装置の出力手段が、前記入力画像を構成する各画素の画素値を前記更新工程により更新した後、該入力画像を出力する出力工程と
を備えることを特徴とする画像処理方法。
【請求項4】
コンピュータを、請求項1又は2に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−134576(P2012−134576A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282400(P2010−282400)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】