説明

画像処理装置及び画像処理方法、並びに画像撮像装置

【課題】少ないフレーム遅延で、理想的な撮像に近づけ、広ダイナミックレンジの調整を実現する。
【解決手段】撮像素子から出力される画像フレームF(i)からガンマ補正の効果を取り除く手段(322)、該ガンマ補正の効果が取り除かれた画像フレームF(i)から輝度ヒストグラムを作成する手段(323)、該輝度ヒストグラムの特徴から最適露光時間を算出する手段(324)、撮像素子が該最適露光時間で撮影した際の画像フレームF(i+1)の輝度(仮想輝度)を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成する手段(325)、該仮想輝度ヒストグラムの特徴から最適ガンマ補正値を算出する手段(326)を有し、これら最適露光時間及び最適ガンマ補正値を次の画像フレームF(i+1)に反映させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子におけるダイナミックレンジの調整を図る画像処理装置及び画像処理方法、並びに該画像処理装置を備えた画像撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像素子におけるダイナミックレンジとは、一枚の撮像の中で表現できる最小の被写体照度と最大照度の比を表わす。一般にレンズの絞りやシャッタースピードの調整により、ダイナミックレンジを輝度軸に対して平行移動させることで、明るい被写体から暗い被写体までを適切な階調で撮影することが可能である。また、実際にシャッタースピードを変化させる代わりに、撮像素子の電荷蓄積時間を制御することで露光時間を調整する電子シャッタも広く用いられている。
【0003】
しかし、明るい部分と暗い部分との輝度差が撮像素子のダイナミックレンジよりも大きいような被写体を撮影した際においては、明るい部分が白とびし、暗い部分が黒つぶれしてしまう。
【0004】
これを回避するため、従来、撮像フレームF(i)の輝度ヒストグラムを生成して該撮像フレームF(i)の明暗を判断し、明すぎる又は暗すぎる場合に応じて最適な露光時間を設定し、次の撮像フレーム(i+1)の輝度を調整することが知られている。また、例えば特許文献1では、露光時間に加え、最適なゲインや最適なガンマ補正値を設定して、広ダイナミックレンジの画像を得るようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような従来の撮像フレームF(i)の輝度ヒストグラムから、最適な露光時間とガンマ補正値を設定する方法では、露光時間とガンマ補正が互いに影響を及ぼし合う可能性があり、理想的な画像が得られるかどうか疑わしい問題があった。
【0006】
これの解決策としては、まず、撮像フレームF(i)の輝度ヒストグラムをもとに最適な露光時間を設定し、次に、その露光時間で撮影した撮像フレーム(i+1)の輝度ヒストグラムをもとに最適なガンマ補正を設定し、次の撮像フレーム(i+2)で、そのガンマ補正値を反映するようにする方法が考えられるが、理想的な画像を得るまでには2フレームの遅延が発生する。フレームレートを落として使用するときには、数十フレームの遅延が発生してしまう。
【0007】
本発明は、フレームの遅延を少なくして、かつ、より確実に理想的な撮像に近づけ、広ダイナミックレンジの画像を得ることができる画像処理装置及び画像処理方法、並びに該画像処理装置を備えた画像撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明の画像処理装置は、撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データからガンマ補正の効果を取り除くガンマ補正除去手段と、前記ガンマ補正の効果が取り除かれた画像フレームF(i)の画像データから輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム作成手段と、前記輝度ヒストグラムの特徴から最適露光時間を算出する最適露光時間算出手段と、前記撮像素子が前記最適露光時間で撮影した際の画像フレームF(i+1)の画像データの輝度(以下、仮想輝度)を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム推定手段と、前記仮想輝度ヒストグラムの特徴から最適ガンマ補正値を算出する最適ガンマ補正値算出手段とを有し、前記最適露光時間及び前記最適ガンマ補正値を設定して得られる次の画像フレームF(i+1)の画像データを送出することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の画像処理装置において、撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データの明度を分類する明度分類手段を有し、前記画像フレームF(i)の画像データの明度が所定の条件を満足する場合、該画像フレームF(i)の画像データをそのまま送出することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載の画像処理装置において、前記明度分類手段にて、前記画像フレームF(i)の画像データが高明度、中間明度、低明度に分類され、中間明度の画素数が予め定めた数より多く、高明度と低明度の画素数が予め定めた数より少ない場合、あるいは、高明度、中間明度、低明度ともに画素数が予め定めた数より少ない場合に、前記画像フレームF(i)の画像データをそのまま送出することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置において、前記輝度ヒストグラム推定手段は、前記ガンマ成分除去手段でガンマ補正の効果が除かれた撮像フレームF(i)の画像データの輝度Y(x,y)gammaoffと、前記最適露光時間算出手段で算出された最適露光時間Tb、現露光時間Tnとから、仮想輝度Y’(x,y)を、
Y’(x,y)=Y(x,y)gammaoff*Tb/Tn
として算出し推定することを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置において、前記輝度ヒストグラム推定手段は、仮想輝度が適正かどうか判定し、適正でない場合には、前記最適露光時間算出手段にフィードバックをかけて最適露光時間を調整せしめ、調整された最適露光時間をもとに再び仮想輝度を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成し直すことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5に記載の画像処理装置において、前記輝度ヒストグラム推定手段は、最高明度付近の仮想輝度の画素数が予め定めた数より多い場合、あるいは最低明度付近の仮想輝度の画素数が予め定めた数より多い場合に、仮想輝度が適当でないと判定することを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、請求項5又は6に記載の画像処理装置において、前記最適露光時間算出手段へのフィードバックは、最適露光時間及び最適ガンマ補正値の設定が1フレーム遅延内で収まる限り何回でも行われることを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明の画像処理方法は、撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データからガンマ補正の効果を取り除くガンマ補正除去ステップと、前記ガンマ補正の効果が取り除かれた画像フレームF(i)の画像データから輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム作成ステップと、前記輝度ヒストグラムの特徴から最適露光時間を算出する最適露光時間算出ステップと、前記撮像素子が前記最適露光時間で撮影した際の画像フレームF(i+1)の画像データの輝度(以下、仮想輝度)を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム推定ステップと、前記仮想輝度ヒストグラムの特徴から最適ガンマ補正値を算出する最適ガンマ補正値算出ステップとを有し、前記最適露光時間及び前記最適ガンマ補正値を設定して得られる次の画像フレームF(i+1)の画像データを送出することを特徴とする。
【0016】
請求項9の発明は、請求項8に記載の画像処理方法において、撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データの明度を分類する明度分類ステップを有し、前記画像フレームF(i)の画像データの明度が所定の条件を満足する場合、該画像フレームF(i)の画像データをそのまま送出することを特徴とする。
【0017】
請求項10の発明は、請求項8又は9に記載の画像処理方法において、前記輝度ヒストグラム推定ステップは、仮想輝度が適正かどうか判定し、適正でない場合には、前記最適露光時間算出手段にフィードバックをかけて最適露光時間を調整せしめ、調整された最適露光時間をもとに再び仮想輝度を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成し直すことを特徴とする。
【0018】
請求項11の発明は、請求項10に記載の画像処理方法において、前記最適露光時間算出ステップへのフィードバックは、最適露光時間及び最適ガンマ補正値の設定が1フレーム遅延内で収まる限り何回でも行われることを特徴とする。
【0019】
請求項12の発明の画像撮像装置は、被写体の光学像を集光する光学系と、前記光学系により集光された光学像を電気信号に変換し、画像データを出力する撮像素子と、前記請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理装置と、前記画像処理装置から送出される画像データを表示する表示装置とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の画像処理装置及び画像処理方法によれば、ガンマ補正の効果が取り除かれた撮像フレームF(i)の輝度ヒストグラムから最適な露光時間を算出するとともに、該露光時間を設定した際の撮像フレームF(i+1)の輝度を推定し、その輝度ヒストグラム(仮想輝度ヒストグラム)を元に最適なガンマ補正値を算出し、該最適化した露光時間とガンマ補正値を次の実際の撮像フレームF(i+1)に反映させることで、1フレームのみの遅延で、理想的な撮像に近づけ、広ダイナミックレンジの画像を得ることができる。また、撮像フレームF(i)の明度を分類し、所定の条件を満足する場合には、該撮像フレームF(i)をそのまま出力することで、不必要なフレームの遅延を抑止することができる。したがって、少ないフレーム遅延で、より確実に理想的な撮像に近づける広ダイナミックレンジの調整が可能な画像撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の画像処理装置を備えた画像撮像装置の全体構成図である。
【図2】図1中の画像処理装置の一実施形態の詳細機能ブロック図である。
【図3】図2の画像処理装置の全体的処理フローチャートである。
【図4】画像フレームの輝度ヒストグラムのタイプを説明する図である。
【図5】図2中の輝度ヒストグラム推定部の詳細機能ブロック図である。
【図6】ガンマ補正曲線の一例を示す図である。
【図7】図1中の画像処理装置の別の実施形態の詳細機能ブロック図である。
【図8】図7の画像処理装置の全体的処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。
図1は、本発明の画像処理装置を備えた画像撮像装置の全体構成図を示す。本画像撮像装置は、例えば、車載カメラ装置として使用されるが、勿論、用途はそれに限らない。
【0023】
図1において、光学系100は撮像素子200に被写体光を効率よく集光させる。撮像素子200はCCDやCMOSなどの光センサを有し、その光強度に応じた強弱の電気信号(アナログ信)に変換する。さらに、撮像素子200は、光センサの露光時間を調整する電子シャッタ、光センサから出力されるアナログ信号の画像信号を所定のレベルに調整するAGC回路、その画像信号をデジタル信号の画像データに変換するADC回路、該画像データに対してガンマ補正を行うガンマ補正回路などを内蔵している。
【0024】
画像処理装置300はフレームメモリ310と画像処理部320を有する。撮像素子200から出力される画像データは、フレームメモリ310に格納されると共に画像処理部320に入力される。画像処理部320は、その一実施形態では、撮像素子200から出力される画像データの明度を分類し、所定の条件を満足する場合には、フレームメモリ310に格納された現撮像フレームF(i)の画像データをそのまま出力する。一方、所定の条件を満足しない場合あるいは他の実施形態では、撮像素子200から出力された現撮像フレームF(i)の画像データからガンマ補正の効果を取り除いた後、該画像データの輝度ヒストグラムから最適露光時間を算出し、さらに、該露光時間で撮影して得られる画像データの輝度(仮想輝度)を推定(予測)して、その仮想輝度ヒストグラムから最適ガンマ補正値を算出し、これら最適露光時間及び最適ガンマ補正値を撮像素子200に設定する。そして、画像処理部320は、撮像素子200から出力されてフレームメモリ310に新たに格納される次の撮像フレームF(i+1)の画像データを送出するようにする。この画像処理部320の詳細については後述する。
【0025】
DAC(デジタル・アナログ変換器)400は、フレームメモリ310から出力される画像データを入力し、例えば、NTSC方式の映像信号に変換する。表示装置500は、該映像信号を表示する。
【0026】
図2は、画像処理装置300の主要構成である画像処理部320の一実施形態の詳細機能ブロック図を示す。本実施形態では、画像処理部320は、明度分類部321、ガンマ成分除去部322、輝度ヒストグラム作成部323、最適露光時間算出部324、輝度ヒストグラム推定部325、最適ガンマ補正値算出部326、及び、これら各部の動作やフレームメモリ310の読み書き動作、撮像素子200の動作を制御する制御部317などで構成される。
【0027】
なお、画像処理部320は、例えばCPU,ROM,RAM等で構成され、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することで、各部の機能が実現される。また、RAMは、処理途中の画像データや必要な閾値、パラメータ等を記憶するために用いられる。勿論、画像処理部320の各部はハードロジツクで構成することでもよい。
【0028】
図3に、本実施形態の全体的処理フローチャートを示す。以下、図3を参照して本実施形態の画像処理装置300(特に画像処理部320)の動作を詳述する。
【0029】
制御部327は、まず、フレーム番号iを初期設定する(ステップ1001)。そして、撮像素子200から出力される撮像フレームF(i)の画像データをフレームメモリ310に格納すると共に明度分類部321に入力する(ステップ1002)。
【0030】
明度分類部321は、この入力された撮像フレームF(i)の画像データの明度を分類する(ステップ1003)。具体的には、入力された画像データの輝度ヒストグラムを作成して、それを高明度、中間明度および低明度の各範囲に分け、それぞれの画素数をカウントし、該カウント値を所定の閾値と比較して、下記のタイプのいずれかに分類する。なお、輝度ヒストグラムを高明度、中間明度、低明度の各範囲に分ける閾値や、各範囲のカウント値を比較する閾値は予め決めておく。
【0031】
タイプa:低明度の画素数が多く、中間明度と高明度の画素数が少ない。
タイプb:高明度の画素数が多く、低明度と中間明度の画素数が少ない。
タイプc:中間明度の画素数が多く、低明度と高明度の画素数が少ない。
タイプd:低明度と高明度の画素数が多く、中間明度の画素数が少ない。
タイプe:低明度、中間明度、高明度の画素数がいずれも少ない。
図4は、上記タイプa〜eを輝度ヒストグラムで表わした図である。
【0032】
制御部327は、明度分類部321から分類結果を受け取り、撮像フレームF(i)がいずれのタイプに属するか判定する(ステップ1004)。そして、タイプcおよびeの場合、制御部327は、フレームメモリ310に対して、該フレームメモリ310に格納された撮像フレームF(i)の画像データをそのままDAC400へ出力するように制御し(ステップ1005)、i←i+1として(ステップ1006)、ステップ1018に進む。すなわち、タイプcおよびeの場合、撮像画像は明るすぎず、暗すぎず、良い状態であるので、露光時間もガンマ補正も変更する必要がない。本実施形態では、このような場合、現撮像フレームF(i)の画像データをそのまま出力することで、不必要なフレームの遅延を抑止することができる。
【0033】
一方、タイプa,bおよびdの場合には、制御部327は、フリームメモリ310に対して、該フレームメモリ310に格納された現撮像フレームF(i)の画像データをガンマ成分除去部322に入力するように制御する。以下、ガンマ成分除去部322から最適ガンマ補正値算出部326の各処理は、撮像素子200のブランキング期間に実施される。
【0034】
ガンマ成分除去部322は、入力された現撮像フレームF(i)の画像データからガンマ補正の効果を取り除き、撮像素子200の光センサが光電変換した状態の画像データを出力する(ステップ1007)。具体的には、現撮像フレームF(i)の各画素の輝度情報Y(x,y)について、逆ガンマ補正関数を乗じることで、撮像素子200の光センサが出力した生の輝度情報Y(x,y)_gammaoffを得る。
【0035】
いま、撮像素子200の光センサが出力した輝度Y(x,y)_gammaoffにガンマ補正を実行した輝度Y(x,y)が、下記の式で表わされるとする。
Y(x,y)=a*ln(Y(x,y)_gammaoff)+b (a,bは係数)
この場合、ガンマ補正の効果を除くためには、次のように計算すればよい。
Y(x,y)_gammaoff=e^((Y(x,y)−b)/a) (^はべき乗)
【0036】
輝度ヒストグラム作成部823は、ガンマ成分除去部322にてガンマ補正の効果が取り除かれた現撮像フレームF(i)の画像データを入力して、その輝度ヒストグラムを作成する(ステップ1008)。
【0037】
最適露光時間算出部324は、輝度ヒストグラム作成部323で作成された輝度ヒストグラムの特徴から最適露光時間を算出する(ステップ1009)。具体的には、輝度ヒストグラムのタイプa〜e(図4参照)によって、以下のように最適露光時間を決める。
【0038】
タイプa:露光時間を現設定値より長時間にする。
タイプb:露光時間を現設定値より短時間にする。
タイプc:露光時間を現設定値のままとする。
タイプd:高明度画素数>低明度画素数なら、露光時間を現設定値より短時間にする。
高明度画素数<低明度画素数なら、露光時間を現設定値より長時間にする。
タイプe:露光時間を現設定値のままとする。
なお、タイプa,b,dにおいて、露光時間を現設定値に対して、どの程度長時間あるいは短時間にするかは、その低明度画素数あるいは高明度画素数に応じて決めればよい。また、タイプdにおいて、高明度画素数≒低明度画素数の場合には、露光時間を現設定値より短時間にするか長時間にするかは、ユーザ設定等により予め決めておけばよい。
【0039】
最適露光時間算出部324は、算出した最適露光時間を撮像素子200に設定する(ステップ1010)。なお、後述するように、最適露光時間算出部324では、輝度ヒストグラム推定部325からのフィードバック指示により、算出した露光時間を調整することが可能である。この場合には、調整後の露光時間が最適露光時間として撮像素子200に設定されることとなる。
【0040】
輝度ヒストグラム推定部325は、ガンマ成分除去部322からガンマ補正の効果が取り除かれた現撮像フレームF(i)の画像データを入力し、さらに、最適露光時間算出部324から最適露光時間を入力して、該最適露光時間を設定した際の撮像素子200の光センサが出力する次撮像フレームF(i+1)の各画素の輝度(仮想輝度と称す)を予測計算して、その仮想輝度ヒストグラムを作成する(ステップ1011)。また、この輝度ヒストグラム推定部325では、仮想輝度が適正かどうかチェックし、適正でないし場合には、最適露光時間算出部324にフィードバックをかけて最適露光時間を調整させる。そして、調整後の最適露光時間を用いて、改めて仮想輝度を予測計算し、仮想輝度ヒストグラムを作成し直すようにする。
【0041】
図5に、輝度ヒストグラム推定部325の詳細機能ブロック図を示す。仮想輝度計算部3251は、ガンマ成分除去部322からのガンマ補正の効果が除かれた現撮像フレームF(i)の画像データの輝度Y(x,y)_gammaoffと、最適露光時間算出部324で算出された最適露光時間Tbと、現撮像フレームF(i)の露光時間Tnとから、仮想輝度Y’(x,y)を以下のように計算する。
Y’(x,y)=Y(x,y)_gammaoff*Tb/Tn
これを現撮像フレームF(i)の全画素について繰り返す。ここで、露光時間Tnは、前回算出された最適露光時間であり、最適露光時間算出部324から送付されたものを該仮想輝度計算部3251で保持しておくようにする。
【0042】
仮想輝度ヒストグラム作成部3253は、仮想輝度計算部3251で計算された仮想輝度のヒストグラム(仮想輝度ヒストグラム)を作成する。
【0043】
適正輝度判定部3252は、仮想輝度計算部3251で計算された仮想輝度が適正かどうかチェックし、適正でない場合、最適露光時間算出部324にフィードバックをかけて最適露光時間を調整させる。例えば、画像データが8ビットとした場合、仮想輝度Y’が255付近(最高明度付近)の画素数をカウントして、そのカウント値が予め設定した閾値より大きい場合には(明るすぎる)、最適露光時間Tbを短くするように最適露光時間算出部324にフィードバックする。また、仮想輝度Y’が0付近(最低明度付近)の画素数をカウントして、そのカウント値が予め設定した閾値より大きい場合には(暗すぎる)、最適露光時間Tbを長くするように最適露光時間算出部324にフィードバックする。
【0044】
最適露光時間算出部324では、輝度ヒストグラム推定部325(適正輝度判定部3252)からのフィードバックを受けて最適露光時間Tbを調整し、あらためて最適露光時間Tbを輝度ヒストグラム推定部325へ送出する。
【0045】
仮想輝度計算部3251は、最適露光時間計算部324からの調整後の最適露光時間Tbを用いて、あらためて仮想輝度Y’を計算し、仮想輝度ヒストグラム作成部3253では、該仮想輝度をもとに仮想輝度ヒストグラムを作成し直す。また、適正輝度判定部3252では、更に該仮想輝度が適正かどうかチェックし、適正でない場合、再び最適露光時間算出部324にフィードバックをかける。このフィードバッグは、最適露光時間および後述の最適ガンマ補正値の設定が1フレーム遅延内で収まる間、何回行っても構わない。
【0046】
図2及び図3に戻り、最適ガンマ補正値算出部326は、輝度ヒストグラム推定部325で作成された仮想輝度ヒストグラムの特徴から最適ガンマ補正値を算出する(ステップ1012)。ここでも、輝度ヒストグラムのタイプa〜e(図4参照)によって、以下のように最適ガンマ補正値を決める。
タイプa:低明度のコントラストを確保する。
タイプb:高明度のコントラストを確保する。
タイプc:中間明度のコントラストを確保する。
タイプd:高明度画素数>低明度画素数なら、高明度のコントラストを確保する。
高明度画素数<低明度画素数なら、低明度のコントラストを確保する。
タイプe:一般的なガンマ曲線とする。例えば、タイプcのケースと同じとする。
【0047】
なお、タイプa,b,c,dにおいて、どの程度、コントラストを確保するか(どの程度ガンマ補正するか)は、その低明度画素数、高明度画素数あるいは中間明度画素数に応じて決めればよい。また、タイプdにおいて、高明度画素数≒低明度画素数の場合には、高明度あるいは低明度のコントラストのいずれを確保するかは、ユーザ設定等により予め決めておけばよい。
【0048】
最適ガンマ補正値算出部326は、算出した最適ガンマ補正値を撮像素子200に設定する(ステップ1013)。図6に、上記タイプa〜eに対応するガンマ補正曲線の一例を示す。
【0049】
制御部327は、i←i+1とする(ステップ1014)。そして、撮像素子200から次に出力された撮像フレームF(i+1)の画像データをフレームメモリ310に格納し、そのままDAC400側へ出力するようにする(ステップ1015、1016)。この撮像フレームF(F+1)の画像データは、最適露光時間及び最適ガンマ補正が施されたものであり、理想的な撮像に近いものとなっている。
【0050】
その後、制御部327は、i←i+2として(ステップ1017)、ステップ1018に進み、最終フレームまで到達したかどうか判定する(ステップ1018)。そして、最終フレームまで到達しない場合には、ステップ1002に戻り、到達したなら処理を終了とする。
【0051】
本実施形態によれば、ガンマ補正の効果が取り除かれた撮像フレームF(i)の輝度ヒストグラムをもとに最適露光時間を算出して設定すると共に、この最適露光時間を設定した際に、撮像素子が出力する撮像フレームF(i+1)の仮想輝度を推定(予測)し、その仮想輝度ヒストグラムをもとに最適ガンマ補正値を算出して設定し、こうして最適化した露光時間とガンマ補正を次の実際の撮像フレームF(i+1)に反映することで、1フレームのみの遅延で、理想的な撮像に近づけ、広ダイナミックレンジの画像を得ることができる。また、撮像フレームF(i)の明度を分類し、露光時間もガンマ補正も変更する必要がない場合には、該撮像フレームF(i)を直ちに出力することで、不必要なフレームの遅延を抑止することができる。
【0052】
図7は、画像処理装置300の主要構成である画像処理部310の別の実施形態の詳細機能ブロック図を示したものである。図2との構成上の相違点は、明度分類部321がないことであり、それ以外は図2と同じである。
【0053】
図8に、本実施形態の画像処理装置300(特にその画像処理部320)の全体的処理フローチャートを示す。制御部327は、まず、フレーム番号iを初期設定する(ステップ2001)。そして、撮像素子200から出力される撮像フレームF(i)の画像データをフレームメモリ310を経由してガンマ成分除去部322に入力する(ステップ2002)。これ以降のステップ2003〜2014の処理は、先の図3のステップ1007〜1018とまったく同じであるので、説明は省略する。なお、ステップ2002では、撮像素子200から出力される撮像フレームF(i)の画像データを、フレームメモリ310を経由することなく直接、ガンマ成分除去部322に入力することでもよい。
【0054】
本実施形態においても、先の実施形態と同様に、1フレームのみの遅延で、理想的な画像に近づけ、広ダイナミックレンジの画像を得ることができる。しかも、構成の簡素化、処理の簡単化が可能になる。なお、本実施形態では、露光時間もガンマ補正も変更する必要がない場合でも、1フレームの遅延を必要とするが、表示面上の見た目には、先の実施形態と大差がない。
【0055】
以上、2つの実施形態を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、画像処理部320がガンマ補正部を備えることでもよい。この場合、図3や図8において、ステップ1002やステップ2002の後にガンマ補正のステップが追加されることになる。また、ステップ1013、2009は、最適ガンマ補正値を画像処理部320内のガンマ補正部へ設定と変更されることになる。
【0056】
さらに、実施形態の説明では、最適露光時間算出部と最適ガンマ補正値算出部が、算出した最適露光時間あるいは最適ガンマ補正値をそれぞれ個別に設定するとしたが、制御部が、これら最適露光時間及び最適ガンマ補正値を受け取り、まとめて設定することでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
例えば、車載カメラの場合、トンネルへの出入りなど、照度が変化しやすい環境で使用されることが多い。これに対応するため、まず、画面明度を露光調整で大まかに調整し、次いで、ガンマ補正で微調整を行う。この場合、露光調整が合っていない状態でガンマ補正を行うと、大胆なガンマ補正が実行される可能性があり、画像劣化の原因になるが、本発明の画像処理装置を備えた画像撮像装置によれば、このような事態を避けることができる。
【符号の説明】
【0058】
100 光学系
200 撮像素子
300 画像処理装置
310 フレームメモリ
320 画像処理部
321 明度分類部
322 ガンマ成分除去部
323 輝度ヒストグラム作成部
324 最適露光時間算出部
325 輝度ヒストグラム推定部
326 最適ガンマ補正値算出部
327 制御部
400 DAC
500 表示装置
3251 仮想輝度計算部
3252 適正輝度判定部
3253 仮想輝度ヒストグラム作成部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】
【特許文献1】特開2008−005365号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データからガンマ補正の効果を取り除くガンマ補正除去手段と、
前記ガンマ補正の効果が取り除かれた画像フレームF(i)の画像データから輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム作成手段と、
前記輝度ヒストグラムの特徴から最適露光時間を算出する最適露光時間算出手段と、
前記撮像素子が前記最適露光時間で撮影した際の画像フレームF(i+1)の画像データの輝度(以下、仮想輝度)を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム推定手段と、
前記仮想輝度ヒストグラムの特徴から最適ガンマ補正値を算出する最適ガンマ補正値算出手段とを有し、
前記最適露光時間及び前記最適ガンマ補正値を設定して得られる次の画像フレームF(i+1)の画像データを送出することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データの明度を分類する明度分類手段を有し、
前記画像フレームF(i)の画像データの明度が所定の条件を満足する場合、該画像フレームF(i)の画像データをそのまま送出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記明度分類手段にて、前記画像フレームF(i)の画像データが高明度、中間明度、低明度に分類され、
中間明度の画素数が予め定めた数より多く、高明度と低明度の画素数が予め定めた数より少ない場合、あるいは、高明度、中間明度、低明度ともに画素数が予め定めた数より少ない場合に、前記画像フレームF(i)の画像データをそのまま送出することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記輝度ヒストグラム推定手段は、前記ガンマ成分除去手段でガンマ補正の効果が除かれた撮像フレームF(i)の画像データの輝度Y(x,y)gammaoffと、前記最適露光時間算出手段で算出された最適露光時間Tb、現露光時間Tnとから、仮想輝度Y’(x,y)を、
Y’(x,y)=Y(x,y)gammaoff*Tb/Tn
として算出し推定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記輝度ヒストグラム推定手段は、仮想輝度が適正かどうか判定し、適正でない場合には、前記最適露光時間算出手段にフィードバックをかけて最適露光時間を調整せしめ、調整された最適露光時間をもとに再び仮想輝度を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成し直すことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記輝度ヒストグラム推定手段は、最高明度付近の仮想輝度の画素数が予め定めた数より多い場合、あるいは最低明度付近の仮想輝度の画素数が予め定めた数より多い場合に、仮想輝度が適当でないと判定することを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記最適露光時間算出手段へのフィードバックは、最適露光時間及び最適ガンマ補正値の設定が1フレーム遅延内で収まる限り何回でも行われることを特徴とする請求項5又は6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データからガンマ補正の効果を取り除くガンマ補正除去ステップと、
前記ガンマ補正の効果が取り除かれた画像フレームF(i)の画像データから輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム作成ステップと、
前記輝度ヒストグラムの特徴から最適露光時間を算出する最適露光時間算出ステップと、
前記撮像素子が前記最適露光時間で撮影した際の画像フレームF(i+1)の画像データの輝度(以下、仮想輝度)を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成する輝度ヒストグラム推定ステップと、
前記仮想輝度ヒストグラムの特徴から最適ガンマ補正値を算出する最適ガンマ補正値算出ステップとを有し、
前記最適露光時間及び前記最適ガンマ補正値を設定して得られる次の画像フレームF(i+1)の画像データを送出することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
撮像素子から出力される画像フレームF(i)の画像データの明度を分類する明度分類ステップを有し、
前記画像フレームF(i)の画像データの明度が所定の条件を満足する場合、該画像フレームF(i)の画像データをそのまま送出することを特徴とする請求項8に記載の画像処理方法。
【請求項10】
前記輝度ヒストグラム推定ステップは、仮想輝度が適正かどうか判定し、適正でない場合には、前記最適露光時間算出手段にフィードバックをかけて最適露光時間を調整せしめ、調整された最適露光時間をもとに再び仮想輝度を推定し、仮想輝度ヒストグラムを作成し直すことを特徴とする請求項8又は9に記載の画像処理方法。
【請求項11】
前記最適露光時間算出ステップへのフィードバックは、最適露光時間及び最適ガンマ補正値の設定が1フレーム遅延内で収まる限り何回でも行われることを特徴とする請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項12】
被写体の光学像を集光する光学系と、
前記光学系により集光された光学像を電気信号に変換し、画像データを出力する撮像素子と、
前記請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理装置と、
前記画像処理装置から送出される画像データを表示する表示装置と、
を備えていることを特徴とする画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−4621(P2012−4621A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134828(P2010−134828)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】