説明

画像形成装置、及び画像形成方法

【課題】測定対象のイメージング画像を短時間に比較的簡易な構成で取得することができる画像形成装置、及び画像形成方法を提供する。
【解決手段】画像形成装置において、電磁波発生器1から発生した電磁波8が、空間的な信号強度変調を付与する空間的変調付与手段2を介して、測定対象3に照射される。測定対象3からの電磁波10は電磁波検出手段4で測定され、その測定信号は、空間的変調付与手段2で付与された強度変調と同期した参照信号を用いて信号処理部5により信号処理され、画像取得部7によって画像が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及び画像形成方法に関する。特に、30GHz乃至30THzの周波数領域内の少なくとも一部の周波数を含む電磁波(本明細書では、テラヘルツ(THz)波と呼ぶ)を用いて対象物体の画像を生成する画像形成装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テラヘルツ波の信号を用いて対象物体のテラヘルツ画像を生成する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、テラヘルツ波を対象物体の特定の領域上に集光させるとともに、対象物体を移動させるなどして集光点が対象物体上の空間的に別個の複数の領域を通過するようにさせる。そして、対象物体の空間的に分離された別個のポイントを通って伝播する個々の透過信号を集め、これらの信号を処理して物体のイメージを生成する。
【0003】
この方法でイメージングする場合には、テラヘルツ波の強度を上げてSN比を向上させるために、テラヘルツ波を対象物体の1点に集光させることが行われる。しかし、このようにテラヘルツ波を1点に集光させた場合には、対象物体上の全ての領域を点ビームでスキャンする必要があり、イメージングするのにかなりの時間を要してしまう。
【0004】
そのため、特許文献1には、対象物体全体をTHzビームで照射し、その透過光をレンズシステムで焦平面THz検出器アレイに集光し、一度にイメージングを行う方法が記述されている。しかしながら、焦平面THz検出器アレイがTHzダイポールアンテナの2次元アレイで構成されているため、イメージングするには素子毎にロックインアンプが必要となる。ロックインアンプはスペースを必要とする装置であるので、焦平面THz検出器アレイに使用している素子の数だけロックインアンプを用意することになると装置がかなり大型になってしまう。そこで、小型な装置で手軽に短時間にイメージングするための方法が期待されている。
【0005】
小型な装置で手軽に短時間イメージングするための方法の一つとして、常温で動作し、かつ小型である焦電型センサアレイをテラヘルツ波の検出器として使用するという方法が検討されている。しかし、焦電型センサアレイは赤外線に対しては感度が良いが、テラヘルツ波に対する感度は十分でなく、また応答特性も不十分である。そのため、長時間の加算平均を行うことでSN比を向上させることが行なわれているが、この方法では短時間のイメージングは困難である。
【0006】
一方、テラヘルツ波を利用する画像処理システム及び方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、複数のテラヘルツ光源で干渉縞を作成し、間隔をおいた複数の検出器から成る干渉計アレイによって信号を検出する。そして、検出した出力信号からフーリエ変換平面の成分を生成し、このフーリエ成分を逆フーリエ変換することで画像を再構成する。しかし、この方法は、広い「視野」内で、多数のTHz光源を同時に検出することが可能な空間THz画像処理技術を提供するものであり、複数のTHz光源が必要とされる。
【特許文献1】特開平8−320254号公報
【特許文献2】特表2006−508333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の様な状況において、テラヘルツイメージングを短時間に行うことができる比較的小型の画像形成装置、及び画像形成方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る画像形成装置は、次の構成要素を有することを特徴とする。
すなわち、電磁波発生器と、
電磁波検出手段と、
前記電磁波発生器から出力される電磁波に、少なくとも1つの周期の成分を含む空間的な信号強度変調を付与する空間的変調付与手段と、
前記空間的変調付与手段により空間的に信号強度変調された電磁波が測定対象物を介して前記電磁波検出手段に入力されることによって、
該電磁波検出手段で検出される測定信号から、前記空間的変調付与手段で付与された信号強度変調と同期した成分の信号を抽出する処理を行うための信号処理部と、
前記信号処理部からの信号を画像処理して前記測定対象の画像を得るための画像取得部とを有する。
【0009】
また、本発明に係る画像形成装置は、電磁波発生器と、電磁波検出手段と、電磁波検出手段に達する電磁波に、少なくとも1つの周期の成分を含む空間的な信号強度変調を付与する空間的変調付与手段と、信号処理部と、画像取得部とを有する。本画像形成装置において、前記信号処理部は、電磁波発生器からの電磁波で照射される測定対象及び空間的変調付与手段を経て到達する電磁波を電磁波検出手段で検出することで生成された測定信号から、空間的変調付与手段で付与された信号強度変調と同期した成分の信号を抽出する処理を行う。前記画像取得部は、信号処理部からの信号を画像処理して測定対象の画像を得る。
【0010】
また、本発明に係る画像形成方法は、電磁波に、該電磁波の波長以下の少なくとも1つの周期の成分を含む空間的な信号強度変調を付与して、該電磁波が照射される測定対象から電磁波検出手段に達する電磁波に空間的な信号強度変調を付与する。そして、電磁波検出手段に達する電磁波による測定信号と、前記強度変調の周期と同じ周期を持つ予め作成しておいた空間的な参照信号とを用いて、空間的な同期検波を行い、前記強度変調と同期した成分の信号を測定信号から抽出する。更に、該抽出した信号を画像処理して前記測定対象の画像を得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、空間的なロックイン検出ないしヘテロダイン検出を用いることができ、たとえ検出手段の電磁波に対する感度が十分でなくても、測定対象の画像を短時間に比較的簡易な構成で取得することができる。電磁波は原理的にどのような周波数のものでも使用できるが、特に、感度の良い検出器やパワーの大きい発生器を得るのが容易でないテラヘルツ波を用いるものにおいて、本発明は顕著な効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る画像形成装置は、図1に示すように、電磁波発生器1と、電磁波検出手段としての検出器アレイ4とを有する。そして、前記電磁波発生器から出力される電磁波(照射電磁波8)に、少なくとも1つの周期の成分を含む空間的な信号強度変調を付与する空間的変調付与手段2が設けられている。前記空間的変調付与手段により空間的に信号強度変調された電磁波が測定対象物を介して前記電磁波検出手段に入力されることによって、測定信号が該電磁波検出手段で検出される。更に、該測定信号から、前記空間的変調付与手段で付与された信号強度変調と同期した成分の信号を抽出する処理を行うための信号処理部5が設けられている。そして、該信号処理部からの信号を画像処理して前記測定対象の画像を得るための画像取得部が設けられている。本発明に係る画像形成装置は、斯かる構成を有することが特徴であるが、以下に、具体的な実施例を用いてより詳細に説明する。
【0013】
(実施例1)
図1は本発明の実施例1を説明する概略構成図である。本実施例では、図1に示すように、電磁波発生器1から照射される電磁波8が、空間的な信号強度変調を付与する空間的変調付与手段2を介して、試料(測定対象)3に照射される。試料3からの透過電磁波10は、電磁波検出手段である電磁波検出器アレイ4で検出される。検出器アレイ4で検出された信号は、参照信号生成部6を含む信号処理部5で信号処理され、画像取得部7で画像処理等が行われてディスプレイなどに画像が表示される。
【0014】
典型的には、照射電磁波8として、30GHz乃至30THzの周波数領域内の少なくとも一部の周波数を含むテラヘルツ波を照射する。例えば、1THzの周波数を持つ電磁波を試料3に照射することができる。テラヘルツ波は無極性物質などを透過する性質があるので、紙やプラスチックなどの物質を透過する。試料3が、この様なテラヘルツ波を透過する物質である場合には、試料3を透過した透過電磁波10を電磁波検出器アレイ4で検知することができる。ここでは、図2(a)、(b)に示すように、検出器アレイ4は、例えば、焦電型の素子(3μm×3μm)の2次元のアレイで構成されている。
【0015】
空間的変調付与手段2は、電磁波発生器1から照射される電磁波8の波長以下の周期の空間的な信号強度変調を、検出器アレイ4に到達する電磁波に付与するためのものである。別の言い方をすれば、検出器アレイ4における1画素は、回折の関係から電磁波8の波長以下にするのは好ましくないので、空間的変調付与手段2による空間的強度変調は、検出器アレイ4の1画素よりも小さな周期の空間周波数を有する。照射電磁波8として1THzの電磁波を用いたときには、波長が300μmであるので、1画素は、例えば、これに等しい300μm×300μmの領域と考えることができる。従って、空間的変調付与手段2は、300μm以下の周期の空間的な信号強度変調を付与するように設計される。後述する信号処理によりノイズに埋もれた微小信号を良好に検出するためには、電磁波の波長以下の周期の空間的な信号強度変調をするのが好ましい。
【0016】
図2は電磁波検出器アレイ4と測定信号について説明する図である。図2(a)は電磁波検出器アレイ4の正面を模式的に示した正面図であり、画素がX方向とY方向の2次元に配列されている様子を示している。各画素は、図2(b)に示すように、X方向とY方向に2次元に配列された素子で構成されている。こうした2次元アレイを用いることで、短時間に後述するイメージングができることになる。
【0017】
図2(c)は、空間的変調付与手段2によって、電磁波発生器1からの電磁波8の波長以下の周期の空間的な信号強度変調を検出器アレイ4に付与した場合に、検出器アレイ4の各素子で検出される信号の一例を示したものである。説明を簡単にするために、図2(b)の一番下の素子列(X方向)で検出された信号を、横軸を位置座標(X方向)、縦軸を信号強度として表示してある。ここでは、前述したように、1画素のX方向とY方向の大きさは、1THzの電磁波の波長と同じ300μmとしている。また、このときの信号は、試料3がない状態で空間的変調電磁波9が検出器アレイ4に全面照射されているときの信号を示している。
【0018】
電磁波発生器1から照射される電磁波8の波長をλ、空間的な信号強度変調を行う長さ(周期)をL、1画素のX方向とY方向の長さを波長λとすると、1画素の長さに存在する周期の数Mは、1方向あたりM=λ/Lで表される。そのため、照射電磁波8が同じ場合には波長は同じなので、空間的な信号強度変調を行う長さLを短くすればするほど、波長λと同じ空間に存在する周期の数Mは増加する。図2(c)では、λ=300μm、L=30μmであるため、波長λの長さの1画素に存在する周期の数Mは10となっている。
【0019】
空間的変調付与手段2の実現方法には、機械的に変調を実現する方法と電気的に変調を実現する方法の2つがある。機械的方法では、電磁波発生器1から照射される電磁波の波長以下のサイズで誘電率(ないし屈折率)が周期的に変化するように構成されたものを使用する。例えば、金属、繊維状高分子材料、シリコンなどを用いて格子を作成すればよい。本実施例では、例えば、格子の間隔(周期)を30μmとする。
【0020】
一方、電気的方法は、印加電圧により誘電率が変化する物質を用いて、印加電圧を電磁波の波長以下の間隔(例えば、100nm程度の長さのオーダー)で制御し、照射電磁波8の空間的な信号強度を波長以下の周期で周期的に変化させるというものである。電気的方法の利点としては、機械的方法とは違い、空間的な周期の大きさを印加電圧の制御によって任意に柔軟に変化させられるということがある。ただし、変化させたときは、それに合わせて、後述する参照信号12を、コンピュータなどを用いて参照信号生成部6で作成し直し、信号処理部5内に記憶させる。
【0021】
本実施例では、例えば、シリコンを用い、機械的方法によって空間的変調付与手段2を実現している。その一例を図3に示す。幅15μmのシリコンが30μmピッチでX方向に配置されており、その間の空間は空気によって満たされている。なお、この場合、信号強度変調させる方向はX方向の1方向となる。
【0022】
図4は、テラヘルツ波を図3の空間的変調付与手段2に照射している様子を示した断面図である。図4の中央には、1画素分(長さ300μm)のシリコン製の格子2が示されている。シリコンの屈折率は3.4、横幅は15μm、奥行き(厚さ)は30μm、ピッチは30μmとなっており、シリコンとシリコンの間は空気(屈折率1.0)によって満たされている。ここにおいて、図4のように、このシリコン製の格子2に対して下側から垂直に1THzの周波数のテラヘルツ波8を照射すると、格子2に近接した領域で照射電磁波8の信号強度が変調される。この電磁波が変調される領域(格子2に近接した領域)は、図4の斜線で示した部分であり、その奥行きはおよそアパーチャ(空気で満たされた部分)の大きさと同程度の15μmである。従って、この領域に試料3と電磁波検出器アレイ4の素子を図1の位置関係で配置すれば、試料3を透過した空間変調された信号を検出することができる。
【0023】
または、この領域に電磁波検出器アレイ4の素子のみを配置し、試料3については、空間的変調付与手段2と電磁波発生器1の間に配置してもよい。ただし、この場合には、試料3を透過した透過電磁波が電磁波検出器アレイ4上に結像するように、光学系を構築する必要がある。本実施例では、図1に示すように、空間的変調付与手段2の直後に試料3を置く方法を採用した。
【0024】
電磁波検出器アレイ4の各素子で検出された信号は、信号処理部5に送られる。信号処理部5では、空間的なロックイン検出を実現するために、空間的な参照信号12が必要となる。そのため、予め信号処理部5内に、参照信号12を、コンピュータなどを用いて参照信号生成部6で作成しておく。この空間的な参照信号12は、空間的変調付与手段2で与えられる変調信号9と同期した信号である必要がある。例えば、空間的変調付与手段2で与えられる変調信号9が図5-1(a)に示すものとすると、空間的な参照信号12は、例えば、図5-1(b)に示す同じ周期を有するもので与えられる。ただし、図5-1(a)の信号は、試料3がない状態で電磁波8が全面照射されている場合を表示している。図5-1(c)は、変調信号9と参照信号12との位置関係(X方向)を分かり易くするために、変調信号9と参照信号12を同じ位置で重ねたものを示す。
【0025】
実際には試料3があるため、試料3があるところでは、検出器アレイ4で検出される測定信号は、図5-1(a)の信号9よりも信号強度が小さくなる。更に、実際の測定信号には、検出器アレイ4内等に存在するノイズ(例えば、1画素内において1素子毎に異なっているホワイトノイズ)が混ざって検出される。従って、測定信号は図5-1(a)のものとは異なる。図5-2に測定信号の一例を実線で示す。なお、図5-2には、比較のために、同時に変調信号9を破線で表示してある。
【0026】
次に、空間的なロックイン検出(またはヘテロダイン検出)を行う方法について説明する。理解を容易にするために、図5-2の横軸の長さの単位μmを時間(秒(s))に置き換えて考える。こうすると、時間領域でのロックイン検出原理の説明を、ここでもそのまま用いることができる。図6に示すように、電磁波検出器アレイ4での測定信号11と、予め準備しておいた上記参照信号12とを掛算すると、測定信号11に含まれる各種の信号のうち、参照信号12の周波数と等しい周波数成分のみが直流となり、ローパスフィルタ13を通過できる。ローパスフィルタ13のカットオフ周波数を適切に選択することによって、ローパスフィルタ13を通過した信号(フィルタ出力14)は、X方向の位置座標を読み込むにつれて、一定の値に収束していく。この収束した値を、読み込んだX方向の素子全体の値、すなわち1画素の信号であるとする。
【0027】
これを、FFT(fast-Fourier-transformation)を用いて周波数領域で説明する。図7(a)は、測定信号11(図5-2の実線)のFFTを模式的に表したものである。変調信号の変調周波数にスペクトルがあること、及びその周波数以外の周波数に均一にノイズのスペクトルが存在していることが分かる。この信号を復調し、ローパスフィルタ(LPF)13をかけることは、図7(b)のように、変調信号の変調周波数を周波数零(0)にシフトさせ、直流成分以外の信号をカットし、ノイズのスペクトルを減らすことに相当する。
【0028】
以上述べてきた処理を全ての画素に対して行うことによって、測定信号11からノイズを低減することができる。このとき、信号処理部5で行うデジタル処理を複数のCPUで並列処理してもよい。または、デジタル処理の一部をアナログ回路にして並列処理してもよい。このようにすることによって、イメージングに要する時間を短縮することができる。
【0029】
こうして、電磁波の波長以下の空間的な信号強度変調を行い、電磁波検出器アレイ4からの測定信号を空間的に同期検波することで、ノイズに埋もれた検出したい微小信号を精度良く取得できる。
【0030】
以上に述べた信号処理部5による空間的なロックイン検出法は次の様に要約される。空間的変調付与手段2によって電磁波検出手段4に達する電磁波に付与された空間的な信号強度変調の周期と同じ周期を持つ空間的な参照信号12を予め信号処理部6内に作成しておく。そして、電磁波検出手段4からの測定信号11と空間的な参照信号12とを用いて、空間的な同期検波を行い、空間的変調付与手段2で付与された信号強度変調の周期と同じ周期の成分の信号を測定信号11から抽出する。なお、測定信号11からの信号抽出に際しては、前記空間的変調付与手段2で付与された信号強度変調の周期と同じ周期の成分の信号のみを抽出することが好ましい形態である。理想的には、空間的変調付与手段2で付与された信号強度変調の周期と同じ周期の成分の信号を選択的に抽出することが望ましい。しかし、図6のローパスフィルタが理想フィルタではない場合、空間的変調付与手段2で付与された信号強度変調の周期と同じ周期の成分の信号のみを抽出できずに図7(a)の変調周波数近傍のノイズを若干含む場合もありえる。但し、斯かる場合でも、当該ノイズの大きさは、変調周波数に対応した信号の大きさと比較して十分小さいので、前記画像処理による画像化は可能である。
【0031】
信号処理された信号から画像を形成するためには、信号処理された信号を画像取得部7で適切な順番に並べてイメージング画像を得る。このとき、イメージング画像をそのまま表示してもよいが、画素毎に処理しているため、画素と画素のつなぎ目が不連続になってしまう場合もある。そのため、必要に応じて平滑化フィルタなどの画像処理を行ったり、窓関数を用いた画像処理を行ったりすることで、画質を向上させることができる。
【0032】
以上に述べた画像形成過程を画像形成方法として述べれば、次のようになる。電磁波に、その波長以下の周期の空間的な信号強度変調を付与して、電磁波が照射される測定対象3から電磁波検出手段4に達する電磁波に空間的な信号強度変調を付与する。この電磁波検出手段4に達する電磁波による測定信号11と、空間的な信号強度変調の周期と同じ周期を持つ予め作成しておいた空間的な参照信号12とを用いて、空間的な同期検波を行う。これにより、空間的な信号強度変調の周期と同じ周期の成分の信号を測定信号11から抽出し、該抽出した信号を画像処理して測定対象3の画像を得る。ここでも、測定信号11からの信号抽出に際しては、前記空間的変調付与手段2で付与された信号強度変調の周期と同じ周期の成分の信号のみを抽出することが好ましい形態である。
【0033】
上述した本実施例によれば、電磁波を1点に集光させて点ビームでスキャンする必要がなく、比較的簡単な構成で、SN比の良い画像を短時間に取得することができる。また、たとえ検出器のテラヘルツ波などの電磁波に対する感度が十分でなくても、良好なイメージング画像を短時間に手軽に取得でき、テラヘルツイメージングを短時間に手軽に取得できる小型の装置を実現できる。また、複数のTHz光源を必要とすることなくテラヘルツイメージングを取得できる装置を実現できる。
【0034】
ところで、従来、メカニカルチョッパーを用いてロックイン検出する方法がある(この方法では、例えば、図1の構成の空間的変調付与手段2をメカニカルチョッパーで置き換える)。この方法では、例えば、テラヘルツパルス光検出器から出力される電流信号は微弱信号であるため、メカニカルチョッパーで電磁波発生側のポンプパルス光の変調を行う。そして、電磁波検出側で検出される電流信号を電圧信号に変換した後に、このメカニカルチョッパーの駆動周波数を持つ信号を参照信号として利用してロックインアンプにてロックイン検出を行って、テラヘルツパルス光の電場強度の時間変化を測定する。
【0035】
このメカニカルチョッパーで電磁波を時間的に強度変調する方法に対して、本実施例では、空間的変調付与手段2により電磁波を空間的に強度変調するもので、検出側の信号処理の方法が両者間では異なってくる。すなわち、本実施例では、ロックインアンプにてロックイン増幅を行うときに利用される上記参照信号は、既に確立している空間的変調付与手段2の空間的な変調周波数(周期)に対応して予め作成しておいて記憶しておけばよい。後述する実施例3のように空間的変調付与手段で付与される空間的な変調周波数が複数ある場合でも、これらに対応して複数の周波数の参照信号を予め作成しておいて、信号処理の際に参照信号を切り替えて使用すればよい。これに対して、電磁波を時間的に強度変調するメカニカルチョッパーを使う方法では、これが駆動されるときの周波数から各時間において参照信号を作成しなければならない。従って、本実施例の構成は、メカニカルチョッパーを用いる方法に比べて、比較的簡単になる。
【0036】
(実施例2)
本発明の実施例2について図面を用いて説明する。本実施例の基本構成は、実施例1で説明した図1のものと同じであるが、空間的変調付与手段2と、信号処理部5での処理が実施例1とは異なる。
【0037】
図8は、本実施例で使用する空間的変調付与手段2である。図8に示すように、幅15μmのシリコンが、30μmピッチで上下左右に配置されており、その間の空間は空気によって満たされている。実施例1では信号強度変調させる方向はX方向の1方向であったが、本実施例ではX方向とY方向の2方向である。こうして、空間的変調付与手段2が、電磁波検出手段4に達する電磁波に2方向の信号強度変調を与える。
【0038】
図9は、電磁波検出器アレイ4の1画素の拡大図であり、i番目の行とj番目の列を黒くして示している。測定信号11のうち、X方向についてはi番目の行での測定信号を、Y方向についてはj番目の列での測定信号を用いて、夫々実施例1で説明した方法で測定信号からノイズを低減する。その結果、ローパスフィルタ13からのフィルタ出力14がX方向とY方向夫々について得られる。
【0039】
次にこれらの2つのフィルタ出力14の値から当該画素全体の値を決定する。X方向に関するフィルタ出力14をα、Y方向に関するフィルタ出力14をβとすると、画素全体の値Vは、例えば、次の式で表すことができる。ここでmとnは重み付けである。
V=(mα+nβ)/(m+n)
【0040】
以上の操作を全ての画素について行うことで、X方向とY方向の素子情報を含んだノイズの低減された画像を得ることができる。その他については実施例1と同じである。
【0041】
(実施例3)
本発明の実施例3について説明する。本実施例の基本構成も、実施例1で説明した図1のものと同じであるが、空間的変調付与手段2を電気的方法で実現している点が異なる。
【0042】
図10は、空間的変調付与手段2を電気的に実現している一例を示す。印加電圧により誘電率が変化する物質、例えば、液晶や線形光学結晶などを用い、この各部への印加電圧を制御することによって、図10の空間的な位置の誘電率を、100nm程度の長さの単位で制御できるようになっている。このため、空間的な変調のかけ方を変えることができる。すなわち、空間的な信号強度変調を行う長さL(図2(c)参照)を変化させることができる。
【0043】
例えば、図10(a)のように空間的変調付与手段2の大きさが30mm×30mmであるとする。このとき、試料3を変える毎に、空間的な信号強度変調を行う長さLを全領域に渡って変えることができる。例えば、L=300μmで行っていたのを、印加電圧の制御によってL=30μmとすることができる。
【0044】
または、図10(b)のように、同じ試料3を用いていた場合でも、試料3の空間分布に応じて、空間的変調付与手段2の空間的な信号強度変調を行う長さLを変化させることもできる。例えば、試料3の中心部に対応する部分(図10(b)の黒ないし灰色の部分)ではL=3μmとなるように印加電圧を制御し、その他の部分ではL=30μmとなるように印加電圧を制御する。ただし、変化させたときは、それに合わせて、複数の参照信号12を、コンピュータなどを用いて参照信号生成部6で各部に対応して作成し、信号処理部5内に記憶させる。そして、試料3の各部の信号処理の際に参照信号を切り替えて用いる。その他については実施例1と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例の基本構成を示す概略図。
【図2】電磁波検出器アレイと測定信号について説明する図。
【図3】実施例1で使用する空間的変調付与手段であるシリコン製の格子を模式的に示す正面図。
【図4】空間的変調付与手段に電磁波を照射している様子を示した図。
【図5−1】1画素のX方向における変調信号、参照信号、測定信号について説明する図。
【図5−2】1画素のX方向における変調信号、参照信号、測定信号について説明する図。
【図6】測定信号と参照信号からノイズを低減する原理を説明する図。
【図7】周波数領域での図6の説明図。
【図8】実施例2で使用する空間的変調付与手段であるシリコン製の格子を模式的に示す正面図。
【図9】1画素の拡大図であり、素子のi番目の行とj番目の列を説明する図。
【図10】実施例3における空間的変調付与手段を電気的に実現する方法を説明する図。
【符号の説明】
【0046】
1…電磁波発生器
2…空間的変調付与手段
3…試料
4…電磁波検出手段(電磁波検出器アレイ)
5…信号処理部
6…参照信号生成部
7…画像取得部
8…照射電磁波(テラヘルツ波)
9…空間的に信号強度変調された電磁波
10…透過電磁波
11…測定信号
12…参照信号
13…ローパスフィルタ
14…フィルタ出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置であって、
電磁波発生器と、
電磁波検出手段と、
前記電磁波発生器から出力される電磁波に、少なくとも1つの周期の成分を含む空間的な信号強度変調を付与する空間的変調付与手段と、
前記空間的変調付与手段により空間的に信号強度変調された電磁波が測定対象物を介して前記電磁波検出手段に入力されることによって、該電磁波検出手段で検出される測定信号から、前記空間的変調付与手段で付与された信号強度変調と同期した成分の信号を抽出する処理を行うための信号処理部と、
前記信号処理部からの信号を画像処理して前記測定対象の画像を得るための画像取得部と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記電磁波検出手段は2次元の電磁波検出器アレイである請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記空間的変調付与手段は、前記電磁波検出手段に達する電磁波に、前記電磁波発生器から照射される電磁波の波長以下の周期の空間的な信号強度変調を付与するものである請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記空間的変調付与手段は、前記電磁波発生器から照射される電磁波の波長以下の周期で誘電率が空間的に変化するように構成されたものである請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記空間的変調付与手段は、印加電圧により誘電率が変化する物質で構成され、印加電圧を前記電磁波の波長以下の間隔で制御することで、前記電磁波の波長以下の周期で誘電率が空間的に変化するように構成されたものである請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記空間的変調付与手段が、前記電磁波検出手段に達する電磁波に2方向の信号強度変調を与えるものである請求項3、4または5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、
前記空間的変調付与手段によって前記電磁波検出手段に達する電磁波に付与された空間的な信号強度変調の周期と同じ周期を持つ空間的な参照信号を予め当該信号処理部に作成しておき、
前記電磁波検出手段からの測定信号と前記空間的な参照信号とを用いて、空間的な同期検波を行い、前記空間的変調付与手段で付与された信号強度変調の周期と同じ周期の成分の信号のみを前記測定信号から抽出する請求項1乃至6のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記電磁波は30GHz乃至30THzの周波数領域内の少なくとも一部の周波数を含む電磁波である請求項1乃至7のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項9】
電磁波に、該電磁波の波長以下の少なくとも1つの周期の成分を含む空間的な信号強度変調を付与して、該電磁波が照射される測定対象から電磁波検出手段に達する電磁波に前記空間的な信号強度変調を付与し、
前記電磁波検出手段に達する電磁波による測定信号と、前記空間的な信号強度変調と同期した予め作成しておいた空間的な参照信号とを用いて、空間的な同期検波を行い、前記空間的な信号強度変調と同期した成分の信号を前記測定信号から抽出し、
該抽出した信号を画像処理して前記測定対象の画像を得ることを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5−2】
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【公開番号】特開2008−275595(P2008−275595A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70499(P2008−70499)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】