説明

画像形成装置の定着器

【課題】画像形成装置の定着器において、面状発熱体と伝熱筒の熱膨張量の違いに基づくしわの発生を解消して、面状発熱体の異常発熱や断線などを解消する。
【解決手段】定着器3の加熱ローラ11は、面状発熱体19を備えた伝熱筒20と、面状発熱体19を断熱筒18を介して支持する金属製の内管17と、加熱ローラ11のローラ端に配置されて、面状発熱体19に駆動電流を供給する給電軸38とを含む。給電軸38を、内管17の管端に固定した絶縁ブロック22でローラ軸心方向へスライド可能に支持する。面状発熱体19の電極端子部26を給電軸38に固定する。給電軸38と絶縁ブロック22との間に弾性体60を配置して、面状発熱体19にローラ軸心方向の外側へ向かう引っ張り力を作用させる。これにより、面状発熱体19の熱膨張変形を給電軸38のスライド動作で吸収してしわの発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコピー機、ファクシミリ機、あるいはプリンター装置等の画像形成装置の定着器に関し、とくに加熱ローラの熱源が面状発熱体で構成してある定着器に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱ローラの熱源として面状発熱体を用いることは、例えば特許文献1に公知である。そこでは、アルミニウム製の筒体からなるローラ本体(伝熱筒)の内面に、抵抗発熱部材(面状発熱体)が配置されている。抵抗発熱部材は、ポリイミド樹脂製のベースフィルムと、その内面に固定される抵抗部材(発熱体)と、その外面に固定される熱伝導体とで可撓性のシートとして構成されており、筒状に丸められたシートの筒端がローラ本体に対してかしめ体(リベット)で固定されている。抵抗部材および熱伝導体は、それぞれ箔状の銅またはステンレス鋼で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−305197号公報(段落番号0040〜0044、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、面状発熱体を熱源とする加熱ローラを備えた定着器によれば、ローラ本体をより短い時間で加熱でき、しかも発熱体の配置パターンを調整することでローラ本体の周面における温度分布を自由に設定できる。しかし、面状発熱体がローラ本体に対してリベットで固定されているため、面状発熱体とローラ本体の熱膨張量の違いによって面状発熱体にしわ(皺)ができ、しわ部分で異常発熱を生じるおそれがあった。具体的には、しわ部分が過熱状態に陥ってローラ本体の周面において温度むらを生じることがあった。さらに、しわの発生に伴って、面状発熱体に設けたヒーターエレメントに亀裂が生じ、あるいは断線するなどの致命的な故障に陥るおそれがあり、最悪の場合には発火するおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、面状発熱体と伝熱筒の熱膨張量の違いに基づくしわの発生を解消して、面状発熱体の異常発熱や断線などを解消できる画像形成装置の定着器を提供することにある。
本発明の目的は、面状発熱体に引っ張り力を作用させて熱膨張変形を強制的に吸収でき、したがってしわの発生をさらに確実に防止して、加熱ローラによる定着処理を的確に行なうことができる画像形成装置の定着器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る画像形成装置の定着器3は、面状発熱体19を熱源とする加熱ローラ11を備えている。加熱ローラ11は、内面に面状発熱体19が配置してある伝熱筒20と、面状発熱体19の内面を断熱筒18を介して支持する金属製の内管17と、加熱ローラ11のローラ端に配置されて、面状発熱体19に駆動電流を供給する給電軸38とを含む。図1に示すように、給電軸38は、内管17の管端に固定した絶縁ブロック22でローラ軸心方向へスライド可能に支持されている。面状発熱体19の電極端子部26を給電軸38に固定して、面状発熱体19の熱膨張変形を給電軸38のスライド動作で吸収する。
【0007】
給電軸38が弾性体60で付勢されており、該弾性体60の付勢力により、面状発熱体19にローラ軸心方向の外側へ向かう引っ張り力を作用させる。給電軸38と絶縁ブロック22との間に弾性体60を配置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、面状発熱体19に駆動電流を供給する給電軸38を、内管17の管端に固定した絶縁ブロック22でローラ軸心方向へスライド可能に支持して、面状発熱体19の熱膨張変形を給電軸38のスライド動作で吸収できるようにした。このように、面状発熱体19の熱膨張変形を給電軸38のスライド動作で吸収すると、面状発熱体19と伝熱筒20の熱膨張量の違いに基づくしわの発生を解消でき、したがって、面状発熱体19の異常発熱や断線などを解消できる。また、しわの発生がないので、面状発熱体19のヒーターエレメント25に亀裂が生じ、あるいは断線するなどの致命的な事故を一掃して、定着器3の信頼性を向上できる。
【0009】
給電軸38を弾性体60で付勢して、面状発熱体19にローラ軸心方向の外側へ向かう引っ張り力を作用させると、熱膨張変形するのと同時に面状発熱体19を給電軸38でローラ軸心方向の外側へ移動させて、熱膨張変形を強制的に吸収することができる。したがって、しわの発生をさらに確実に防止して、加熱ローラ11による定着処理を常に的確に行なうことができる定着器3を提供できる。
【0010】
給電軸38と絶縁ブロック22との間に弾性体60を配置して、面状発熱体19に引っ張り力を作用させるようにすると、給電軸38、絶縁ブロック22、弾性体60の三者を集約した状態で配置して、加熱ローラ11を小形化できる。したがって、加熱ローラ11および加圧ローラ12を含む定着器3の全体構造をコンパクト化して、画像形成装置の小形化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る加熱ローラを示す図3におけるA−A線断面図である。
【図2】本発明に係る画像形成装置の概略構造を示す概念図である。
【図3】本発明に係る定着器の平面図である。
【図4】本発明に係る面状発熱体の斜視図である。
【図5】本発明に係る加熱ローラの端部構造を示す一部を破断した分解正面図である。
【図6】図3におけるB−B線断面図である。
【図7】図1におけるC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例) 図1から図7に、本発明に係る画像形成装置をコピー機能とファクシミリ機能とを備えた複合機に適用した実施例を示す。なお、本発明における前後、左右、上下とは、図1から図3に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
【0013】
図2において、複合機1は、画像形成部2、および定着器3等が配置された本体部4と、本体部4の上部の画像読取部5などを備え、本体部4の下側に配置した給紙カセット6と本体部4の上側の排出部7との間に記録紙の搬送路8を備える。搬送路8の下部に画像形成部2が、上部に定着器3が配置されている。画像形成部2および定着器3に臨む本体部4の前壁および右側壁には、フロントカバーおよびサイドカバーが設けられている。これらのカバーを開放することにより、画像形成部2および定着器3のメンテナンスを行なうことができ、さらに定着器3やその周辺の搬送路8に詰まった記録紙を取り除くことができる。
【0014】
画像読取部5の前面には、各種の操作ボタンを備えた操作パネル9が設けられており、上面側には自動原稿搬送装置(ADF)10が設けられている。本などの綴られた原稿の画像は、画像読取部5の上面のプラテンガラスに載置した状態で読み込むことができ、さらに枚葉状の原稿は自動原稿搬送装置10を通すことにより連続して読み込むことができる。
【0015】
図3に示すように定着器3は、加熱ローラ11と、加熱ローラ11の周面に外接する加圧ローラ12と、加圧ローラ12を加熱ローラ11に向かって押し付け付勢する前後一対の加圧ばね13などで構成する。加熱ローラ11および加圧ローラ12は、ケース14に組み付けられてユニット化されている。
【0016】
図3および図6に示すように加熱ローラ11は、ローラ中央に配置される内管17と、内管17の外面に記載順に配置される断熱筒18、面状発熱体19、伝熱筒20、剥離層21と、内管17の前後端に設けた受電構造などで構成する。内管17はアルミニウム合金製の中空円筒体からなり、加熱ローラ11の主たる剛性構造体として機能する。断熱筒18は、シリコン発泡体からなる耐熱性を備えた中空円筒体であって、面状発熱体19の内面を支持している。内管17の前後の管端には、面状発熱体19を介して伝熱筒20を支持する絶縁ブロック22が固定されている(図1参照)。
【0017】
図4に示すように、面状発熱体19は、ポリイミド樹脂製のベースフィルム24の片面にヒーターエレメント25を備える。ベースフィルム24の長辺部の前後端に一対の電極端子部26が形成して構成されている。ヒーターエレメント25は、ステンレス鋼の箔体を所定のパターンでエッチングして形成してなるものであり、その殆どの部分はベースフィルム24の長辺部と平行に形成されている。したがって、所定の温度状態に加熱されたヒーターエレメント25は、主としてローラ軸心方向に沿って膨張変形する。電極端子部26には締結穴27が形成されている。図4に想像線で示すように、面状発熱体19はヒーターエレメント25が内面に位置する状態で伝熱筒20の内面に配置されている。
【0018】
伝熱筒20は、ステンレス鋼製の薄肉(0.1mm)の中空円筒体で構成されており、その外面には剥離層21が形成されている。剥離層21はフッ素系樹脂を伝熱筒20の外面にコーティングして形成する。丸めた面状発熱体19を伝熱筒20の内面に配置した状態において、電極端子部26のみが伝熱筒20の前後端から突出しており、該電極端子部26が受電構造に対して電気的に接続されている。
【0019】
図1および図5に示すように、絶縁ブロック22は、絶縁性のプラスチック成形品からなり、内管17の前後の管端に外嵌されてビス30で固定される連結基部31と、連結基部31から筒外方へ向かって突出されるボス部32とを一体に備えている。図7に示すように、ボス部32の周面において互いに直交する対向4箇所のうち3個所には締結座33が突設されており、残る1個所には逃げ溝34が形成されている。また、ボス部32の外端面にはばね受座35が凹み形成されている。絶縁ブロック22のボス部32で、受電構造の給電軸38と、加熱ローラ11の前後のローラ端を覆うカバーブロック39とを支持している。
【0020】
給電軸38は、加熱ローラ11の前後のローラ端に配置されて、面状発熱体19に駆動電流を供給するために設けられる。図1および図5に示すように、給電軸38は、絶縁ブロック22のボス部32に外嵌する筒壁41と、筒壁41の外面の中央から突接される受電ボス42とを一体に備えた銅合金(真鍮)製の旋削品からなる。受電ボス42の基端内面にはばね受座43が形成されている。筒壁41の周方向の3個所には、締結座33を受け入れる逃げ溝44が形成されている。このように、筒壁41の内面をボス部32でスライド可能に支持し、締結座33用の逃げ溝44を筒壁41に形成することにより、給電軸38の全体は、ボス部32の周面に沿ってローラ軸心方向へ移動できる。受電ボス42の大半の部分は、カバーブロック39の外端面から外方へ突出されて、そのボス周面に給電ブラシ45が外接されている。
【0021】
カバーブロック39は、ベアリング46で回転自在に支持されるジャーナル部47と、ジャーナル部47の外端面(前後端面)を塞ぐ端壁48を一体に備えた、絶縁性のプラスチック成形品からなる。加熱ローラ11の後側のローラ端を覆うカバーブロック39には、受動ギヤ49が一体に設けてあり、この受動ギヤ49を図示していないギヤで駆動することにより、加熱ローラ11を通紙方向へ回転できる。図7に示すように、ジャーナル部47の内面の3個所は先に説明した締結座33で受止められて、ジャーナル部47の外面からねじ込んだビス50で固定されている。これにより、カバーブロック39は絶縁ブロック22と一体化される。
【0022】
先に説明したように面状発熱体19の電極端子部26は、伝熱筒20の前後端から突出している。この電極端子部26を給電軸38の筒壁41に固定するために、ジャーナル部47に四角形状のガイド窓53を貫通状に形成し、ガイド窓53に嵌め込んだ伝動ブロック54を、電極端子部26と共にビス55で筒壁41に固定している。伝動ブロック54は銅合金(真鍮)製のブロックからなり、その対向側面(図7参照)56がガイド窓53で受止められて、ローラ軸心方向へのみ移動可能に案内されている。伝動ブロック54は、カバーブロック39の回転動作を給電軸38に伝えるための伝動体として機能する。先に説明した絶縁ブロック22の逃げ溝34は、ビス55のねじ軸端を受け入れるために設けられている。
【0023】
以上のように、電極端子部26が接続される給電軸38を、絶縁ブロック22でローラ軸心方向へスライド可能に支持すると、給電軸38がローラ軸心方向へスライドすることで面状発熱体19の熱膨張変形を吸収できる。したがって、面状発熱体19と伝熱筒20の熱膨張量の違いに基づくしわの発生を解消して、面状発熱体19の異常発熱を解消できる。
【0024】
この実施例では、給電軸38を弾性体60で付勢して、面状発熱体19にローラ軸心方向の外側へ向かう引っ張り力を作用させ、面状発熱体19の熱膨張変形を強制的に吸収することで、しわの発生をさらに確実に防止できるようにした。具体的には、図1に示すように、絶縁ブロック22のばね受座35と給電軸38に設けたばね受座43との間に、圧縮コイルばねからなる弾性体60を配置して、面状発熱体19をローラ軸心方向の前後方向へ引っ張り付勢するようにした。なお、弾性体60で付勢された給電軸38は、ローラ軸心方向の外側へは、図1に符号E1で示す範囲内をスライド移動でき、ローラ軸心方向の内側へは、図1に符号E2で示す範囲内をスライド移動できる。弾性体60は、内管17の前後の管端に固定した絶縁ブロック22と給電軸38との間にそれぞれ配置されている。
【0025】
上記の実施例では、弾性体60を圧縮コイル形のばねで構成したが、その必要はなくゴム、引っ張りコイルばね、あるいは皿ばねなどで構成することができる。弾性体60を引っ張りコイルばねで構成する場合には、引っ張りコイルばねを給電軸38とカバーブロック39との間に配置するとよい。必要があれば、一対の磁石で弾性体60を構成することができる。面状発熱体19は伝熱筒20の内面に密着していることが好ましいが、ごく僅かな隙間を介して内外に対向する状態で配置してもよい。
【符号の説明】
【0026】
3 定着器
17 内管
18 断熱筒
19 面状発熱体
20 伝熱筒
22 絶縁ブロック
38 給電軸
39 カバーブロック
60 弾性体(ばね)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状発熱体を熱源とする加熱ローラを備えている定着器であって、
前記加熱ローラは、内面に前記面状発熱体が配置してある伝熱筒と、
前記面状発熱体の内面を断熱筒を介して支持する金属製の内管と、
前記加熱ローラのローラ端に配置されて、前記面状発熱体に駆動電流を供給する給電軸とを含み、
前記給電軸は、前記内管の管端に固定した絶縁ブロックでローラ軸心方向へスライド可能に支持されており、
前記面状発熱体の電極端子部を前記給電軸に固定して、前記面状発熱体の熱膨張変形を前記給電軸のスライド動作で吸収するようにしてあることを特徴とする画像形成装置の定着器。
【請求項2】
前記給電軸が弾性体で付勢されており、該弾性体の付勢力により、前記面状発熱体にローラ軸心方向の外側へ向かう引っ張り力が作用するようにしてある請求項1に記載の画像形成装置の定着器。
【請求項3】
前記給電軸と前記絶縁ブロックとの間に前記弾性体が配置されている請求項2に記載の画像形成装置の定着器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−108338(P2012−108338A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257502(P2010−257502)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】