説明

画像形成装置及び画像形成方法

【課題】小ロットの印刷を低コストで行うことができ、且つ、高画質の印刷が可能な画像形成装置及び画像形成方法を提供する。
【解決手段】画像形成装置100は、転移温度を境界として可逆的に硬度が変化する材料が表面に設けられた版ローラ1と、前記転移温度以上に加熱されて軟化した版ローラ1の表面に複数の微細な穴からなる微細構造を形成するマイクロ構造ローラ4と、微細構造が形成された版ローラ1の表面のうち非画像領域に対応する部分を、転移温度以上に加熱して軟化させることにより平滑にするサーマルヘッド5と、非画像領域に対応する部分が平滑化された版ローラ1の表面にインクを供給するインク供給ローラ6と、版ローラ1の表面のうち非画像領域に対応する部分のインクを除去するエアーナイフ7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、代表的な画像形成方法として、画像情報に対応して版表面に親水性部分と親油性(疎水性)部分を形成し、親水性部分に湿し水を付着させ、親油性部分にのみ選択的にインクを付着させ、そのインクをブランケットローラを介して記録媒体上に転写することで画像形成を行う平版印刷版を用いたオフセット印刷方式がある。
【0003】
このオフセット印刷方式では連続的に高画質の画像形成を行うことが可能であるが、感光層で覆われたアルミニウム板に対し、画像情報に応じて露光、エッチングを行うなど製版工程が複雑であり、また、製版工程で排出される廃液の処理が必要となる。このため、オフセット印刷は製版コストが高く、印刷部数が少ない場合には単価が非常に高くなってしまう。そこで、小ロットの印刷を低コストで行うため、製版コストの低い印刷方式が求められている。
【0004】
これに対し、ダイレクトイメージング(機上描画)によって印刷機の中で自動的に版の切り替えを行うもの(例えば、特許文献1参照)や、乾式電子写真方式やインクジェット方式等のオンデマンド印刷(例えば、特許文献2参照)等が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−158506号公報
【特許文献2】特開2004−148618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ダイレクトイメージングでは、版の切り替えに数十分要するために既存のオフセット印刷の版の切り替え時間(約30分)と比べてほとんど差がなく、小ロットの印刷に適していない。また、乾式電子写真方式やインクジェット方式にあっては、オフセット印刷に比べて画質が低いという問題があり、更に、インクジェット方式においては目詰まりや滲み等の問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、小ロットの印刷を低コストで行うことができ、且つ、高画質の印刷が可能な画像形成装置及び画像形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
転移温度を境界として可逆的に硬度が変化する材料が表面に設けられた刷版と、
前記転移温度以上に加熱されて軟化した前記刷版の表面に複数の微細な穴からなる微細構造を形成する微細構造形成手段と、
前記微細構造が形成された前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分を、前記転移温度以上に加熱して軟化させることにより平滑にする第1加熱手段と、
前記非画像領域に対応する部分が平滑化された前記刷版の表面にインクを供給するインク供給手段と、
前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分のインクを除去するインク除去手段と、を備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、
転移温度を境界として可逆的に硬度が変化する材料を表面に有する刷版を前記転移温度以上に加熱して、前記刷版の表面を軟化させる加熱工程と、
軟化させた前記刷版の表面に複数の微細な穴からなる微細構造を形成するとともに、前記刷版の表面を前記転移温度未満に冷却して硬化させる微細構造形成工程と、
前記微細構造が形成された前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分を、前記転移温度以上に加熱して軟化させることにより平滑にする平滑化工程と、
前記非画像領域に対応する部分が平滑化された前記刷版の表面にインクを供給するインク供給工程と、
前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分のインクを除去するインク除去工程と、
前記刷版の表面上のインクを被転写体に転写する転写工程と、を備えることを特徴とする画像形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小ロットの印刷を低コストで行うことができ、オフセット印刷と同程度の画質の印刷が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る画像形成装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る画像形成方法の各工程を示す説明図である。
【図3】変形例に係る画像形成装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0013】
本発明に係る画像形成装置100について、図1を参照して以下説明する。
図1は、本発明の画像形成装置100の構成の一例を示す説明図である。
画像形成装置100は、版ローラ1の表面のうち画像領域に対応する部分に複数の微細な穴からなる微細構造のある領域を形成し、版ローラ1の表面のうち非画像領域に対応する部分に微細構造のない平滑な領域を形成し、この版ローラ1の表面にインクを供給した後、版ローラ1の表面のうち非画像領域に対応する部分のインクのみを除去して、版ローラ1上のインクを転写することで記録媒体S上に画像を形成する装置である。
【0014】
画像形成装置100は、回転方向A(図1参照)に回転駆動する版ローラ(刷版)1を備え、版ローラ1の周面に沿って、版ローラ1との間に記録媒体Sを挟持する圧胴ローラ2、版ローラ1の周面を加熱する熱ローラ(第2加熱手段)3、版ローラ1の周面に微細構造を形成するマイクロ構造ローラ(微細構造形成手段)4、版ローラ1の周面のうち非画像領域に対応する部分を加熱して軟化させることにより平滑領域11bを形成するサーマルヘッド(第1加熱手段)5、版ローラ1の周面全体にインクを供給するインク供給ローラ(インク供給手段)6、版ローラ1の周面に供給されたインクのうち平滑領域11b上のインクのみを除去するエアーナイフ(インク除去手段)7等を具備している。
【0015】
圧胴ローラ2、熱ローラ3、マイクロ構造ローラ4、サーマルヘッド5及びインク供給ローラ6は、それぞれバネ部材等を備えた接離機構(図示略)を具備し、当該接離機構により版ローラ1の周面に対して接離自在に構成されている。
また、圧胴ローラ2、熱ローラ3、マイクロ構造ローラ4及びインク供給ローラ6は、それぞれ所定の回転軸回りに回転自在に構成されており、その各回転軸は版ローラ1の回転軸1aと互いに平行となる向きに設けられている。圧胴ローラ2、熱ローラ3、マイクロ構造ローラ4及びインク供給ローラ6は、版ローラ1と互いに逆回転となるように、版ローラ1に連動して回転駆動されるように構成されている。
【0016】
版ローラ1は、所定の回転駆動機構(図示略)により回転軸1a回りに回転方向Aに回転自在に構成されている。版ローラ1の回転速度としては、例えば、50〜200mm/s程度である。
この版ローラ1は、回転駆動機構により回転されるドラム状の支持体12の周面に、表面層11が設けられて構成されている。
【0017】
版ローラ1の表面層11は、固有の転移温度Tm以上の温度で軟化し、転移温度Tm未満の温度で硬化する樹脂からなる。即ち、表面層11としては、転移温度Tmとしての融点未満の温度で結晶化し、且つ融点以上の温度で流動性を示す側鎖結晶性ポリマーを用いるのが好ましい。
本発明において融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていたポリマーの特定部分が無秩序状態となる温度を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)で、10℃/分の測定条件で測定して得られた値である。本発明では、側鎖結晶性ポリマーの融点は50℃以上、好ましくは50〜70℃が好ましい。
【0018】
側鎖結晶性ポリマーの組成としては、例えば、炭素数16以上、好ましくは炭素数16〜22の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート30〜99質量部と、炭素数1〜6のアルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル0〜70質量部と、極性モノマー1〜10質量部とを重合させて得られる重合体等が挙げられる。
【0019】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を側鎖とする(メタ)アクリレートとしては、例えば、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16〜22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。極性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有エチレン不飽和単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するエチレン不飽和単量体等が挙げられる。
【0020】
より具体的には、版ローラ1の表面層11を構成する材料としては、例えば、転移温度Tmが50℃、厚み40μmのニッタ株式会社製のクールオフインテリマーを用いることができる。
クールオフインテリマーは、転移温度Tm未満では結晶状態であり、転移温度Tm以上では非結晶状態である。クールオフインテリマーの結晶・非結晶の状態変化は約5℃の温度範囲で急峻に起きるため、加熱・冷却を行うことにより、クールオフインテリマー表面に微細構造を形成し、且つその微細構造を保持することが可能となる。この状態変化は、温度変化を与える度に可逆的に繰り返すことができる。
【0021】
版ローラ1の支持体12は、表面層11に比し耐熱性に優れた材料からなり、表面層11が転移温度Tm以上に加熱された状態であっても版ローラ1としての機能を維持できるように構成されている。
【0022】
圧胴ローラ2は、版ローラ1との間で記録媒体Sを挟持して、所定の接離機構(図示略)によって記録媒体Sを版ローラ1に押し付ける。この状態で圧胴ローラ2が版ローラ1の回転方向Aの逆方向である回転方向Cに回転することにより、記録媒体Sが搬送方向Bに搬送されるとともに、版ローラ1の表面層11上のインクが記録媒体Sに転写される。
【0023】
熱ローラ3は、圧胴ローラ2に対し版ローラ1の回転方向Aの下流側に配設されている。熱ローラ3にはヒータが内蔵されており、熱ローラ3の周面を表面層11の転移温度Tm以上の温度に加熱可能となっている。この熱ローラ3が、版ローラ1の表面層11に接触した状態で、版ローラ1の回転方向Aの逆方向である回転方向Dに回転することにより、表面層11の全体を転移温度Tm以上の温度に加熱することができる。
なお、熱ローラ3は、版ローラ1の表面層11に接触した状態で伝熱により表面層11を加熱する機構としているが、これに限られるものではなく、例えば、ハロゲンヒータ等のように、版ローラ1の表面層11から離間した状態で表面層11に向けて放射エネルギーを放射して加熱する機構としても良い。
【0024】
マイクロ構造ローラ4は、熱ローラ3に対し版ローラ1の回転方向Aの下流側に配設されている。マイクロ構造ローラ4の周面には、複数のピラー状の突起4bからなる微細突起構造が設けられている。マイクロ構造ローラ4が、版ローラ1の表面層11に接触した状態で、版ローラ1の回転方向Aの逆方向である回転方向Eに回転することにより、軟化した表面層11にマイクロ構造ローラ4の周面が押し付けられて表面層11に複数のピラー状の突起4bからなる微細突起構造を転写することにより、複数の微細な穴からなる微細構造を形成することができる。マイクロ構造ローラ4の周面に形成されたピラー状の突起4bは、例えば、直径2μm、高さ1μm、ピッチ幅2μmとなるように形成され、ニッケル電鋳やアルミニウム電鋳で形成することができる。
なお、マイクロ構造ローラ4の周面に形成される突起4bの形状は、ピラー状に限られるものではなく、円錐形状や多角錐形状に形成されていても良い。
【0025】
また、マイクロ構造ローラ4は冷却機構4aを内蔵しており、マイクロ構造ローラ4の周面を冷却可能に構成されている。これにより、マイクロ構造ローラ4が表面層11上に微細構造を形成すると同時に、表面層11を転移温度Tm未満の温度に冷却することができ、これにより表面層11を硬化させることができる。
【0026】
サーマルヘッド5は、マイクロ構造ローラ4に対し版ローラ1の回転方向Aの下流側に配設されている。サーマルヘッド5は、版ローラ1の回転軸1aと互いに平行となる向きに延在して設けられている。サーマルヘッド5の版ローラ1の表面層11に接する箇所には、サーマルヘッド5が延在する方向に沿って複数の発熱素子(図示略)が配設されている。サーマルヘッド5は、制御装置(図示略)により処理されて出力された画像信号に基づいて発熱素子を選択的に加熱することにより、版ローラ1の表面層11のうち非画像領域に対応する部分を選択的に加熱する。これにより、表面層11のうちサーマルヘッド5に接する領域が転移温度Tm以上の温度に加熱されて軟化し、当該領域に形成された微細構造が平滑化されて平滑領域11bが形成される。表面層11のうち画像領域に対応する部分は平滑化されず、当該領域を微細構造領域11aとする。
【0027】
なお、版ローラ1の表面層11上に平滑領域11bを形成する加熱手段として、サーマルヘッド5を用いているが、これに限られるものではなく、例えば、画像信号に応じて変調され放射するレーザー光を版ローラ1の回転軸1aの延在方向に平行な方向に走査させるレーザー書込手段を用いるものであっても良い。この場合、表面層11を加熱する領域を精密に制御することが可能となり、平滑領域11bを極めて高精度に形成することができるため、記録媒体S上に高画質の画像を形成することができる。
【0028】
インク供給ローラ6は、サーマルヘッド5に対し版ローラ1の回転方向Aの下流側に配設されている。インク供給ローラ6は、版ローラ1の表面層11に接触した状態で、版ローラ1の回転方向Aの逆方向である回転方向Fに回転することにより、表面層11の全体(微細構造領域11a及び平滑領域11b)にインクを供給することができるように構成されている。
【0029】
インク供給ローラ6から供給されるインクとしては、水性染料インクにIPA(イソプロピルアルコール)を混合して表面張力を調整したものが用いられる。IPAの含有量としては、15wt%以下であることが好ましく、15wt%よりも大きいと、エアーナイフ7によるインク除去の際に平滑領域11b上にインクが残存し、画質の劣化を引き起こす。より具体的には、本発明に適用されるインクとしては、表面張力が63.3mN/m以上に調整されたものが用いられる。なお、この表面張力の測定温度条件は15℃としている。
【0030】
エアーナイフ7は、インク供給ローラ6に対し版ローラ1の回転方向Aの下流側に配設されている。エアーナイフ7は、版ローラ1の表面層11に対して放出口7aから加圧気体Gを吹き付ける送風機構である。具体的には、エアーナイフ7は、内部に設けられたチャンバー内で圧縮空気を瞬時に生成し、生成した圧縮空気を放出口7aから吐出するように構成されている。このエアーナイフ7としては、例えば、株式会社ティックコーポレーション製のスーパーエアーナイフを用いることができる。
【0031】
ここで、版ローラ1の表面層11には微細構造領域11aと平滑領域11bとが形成されており、表面層11上に供給されたインクは、平滑領域11bにおいては表面上に塗布された状態となっているが、微細構造領域11aにおいては複数の微細な穴の中に入り込んだ状態となっている。これにより、エアーナイフ7により表面層11に加圧気体Gを吹き付けた際、平滑領域11b上のインクのみを吹き飛ばして除去することができる。エアーナイフ7の構成、配置、風量及び圧力等の各種条件は、エアーナイフ7が表面層11に加圧気体Gを吹き付けた際に、微細構造領域11a上のインクを吹き飛ばさず、且つ平滑領域11b上のインクのみを吹き飛ばすことができるような条件に設定されている。
例えば、エアーナイフ7の放出口7aは1.5mm×300mmの矩形状に形成され、放出口7aを版ローラ1の周面に対向させた状態で放出口7aの長手方向が版ローラ1の回転軸1aに平行となる向きに配設されている。また、放出口7aが向く方向は、図1に示すように、表面層11の周面に垂直な方向から回転方向Aの下流側に傾く方向であって、表面層11の周面に接する接線に対して60°となる方向に設定されている。更に、放出口7aから放出される加圧気体Gが表面層11に当接するまでの距離は11mmに設定されている。そして、このエアーナイフ7は、放出口7aから風量9.36m/分、圧力12.6kPaで加圧気体を放出させる。
なお、エアーナイフ7に関する上記の各種条件は一例であって、これらの数値に限定されるものではなく、微細構造領域11a上のインクを吹き飛ばすことなく平滑領域11b上のインクのみを吹き飛ばすことができれば、エアーナイフ7の構成、配置、風量及び圧力等の各種条件は適宜設定可能である。
【0032】
図2を参照して、本実施形態に係る画像形成方法について説明する。図2(a)〜(f)は、本実施形態に係る画像形成方法の各工程を示した説明図であって、各工程における版ローラ1の表面層11の拡大断面を示している。
【0033】
まず、版ローラ1を回転方向Aに回転させて、版ローラ1の表面層11を熱ローラ3に接触させる。熱ローラ3は所定の温度に加熱されており、表面層11の熱ローラ3に接した領域を転移温度Tm以上の温度に加熱する。これにより、表面層11のうち熱ローラ3に接した領域が軟化して流動性のある状態となる(図2(a)参照)。
【0034】
更に、熱ローラ3により軟化した表面層11を、回転方向Aの下流側に配設されたマイクロ構造ローラ4に接触させる。これにより、マイクロ構造ローラ4の周面が軟化した表面層11に押し付けられ、マイクロ構造ローラ4の周面上に形成された微細突起構造が転写される(図2(b))。同時に、マイクロ構造ローラ4に内蔵された冷却機構4aにより、表面層11のうちマイクロ構造ローラ4に接触した領域が転移温度Tm未満の温度に冷却されて硬化する。これにより、表面層11に微細構造が形成される(図2(c)参照)。
【0035】
続いて、微細構造が形成された表面層11を、回転方向Aの下流側に配設されたサーマルヘッド5に接触させる。サーマルヘッド5は、制御装置(図示略)により処理されて出力された画像信号に基づいて表面層11を選択的に転移温度Tm以上の温度に加熱し、表面層11のうち非画像領域に対応する部分を平滑にする。これにより、表面層11の非画像領域に対応する部分の微細構造が消去されて平滑領域11bが形成される(図2(d)参照)。表面層11のうち画像領域に対応する部分は平滑化されず、微細構造が形成された状態のままであり、当該部分が微細構造領域11aとなる。
【0036】
そして、微細構造領域11a及び平滑領域11bが形成された表面層11を、回転方向Aの下流側に配設されたインク供給ローラ6に接触させる。このインク供給ローラ6により、表面層11の全体にインクKが供給され、微細構造領域11a上及び平滑領域11b上にインクKが塗布された状態となる(図2(e)参照)。
【0037】
インクKが供給された表面層11を、回転方向Aの下流側に配設されたエアーナイフ7に対向させる。このエアーナイフ7により、表面層11の全体に所定の風量で加圧気体Gを吹き付ける。表面層11において、微細構造領域11a上においては複数の微細な穴の中にインクKが入り込んでいるが、平滑領域11b上においてはインクKは表面上に塗布された状態となっているため、平滑領域11b上のインクKのみが吹き飛ばされて、微細構造領域11a上のインクKは吹き飛ばされずに表面層11上に残存する(図2(f)参照)。
【0038】
このようにして、版ローラ1の表面層11のうち画像領域に対応する部分(微細構造領域11a)にのみインクKが塗布された状態となる。そして、この版ローラ1が圧胴ローラ2により記録媒体Sに押し付けられ、記録媒体S上にインクKが転写される。記録媒体S上に転写されたインクKは、UV照射や加熱処理等を行う定着手段(図示略)によって記録媒体S上に定着される。
これにより、記録媒体S上に画像が形成される。
上記各工程は、版ローラ1を回転方向Aに回転駆動させながら、版ローラ1の周面に沿って連続的に行われる。
【0039】
ここで、複数の記録媒体Sに同一の画像を繰り返して形成する場合には、版ローラ1上に微細構造領域11a及び平滑領域11bを形成した後に、熱ローラ3、マイクロ構造ローラ4及びサーマルヘッド5を版ローラ1から離間させ、版ローラ1の周回を継続させて、インク供給ローラ6及びエアーナイフ7により同一の画像を複数の記録媒体Sに連続的に形成する。
【0040】
一方、記録媒体Sに他の画像を形成する場合には、所定のクリーニング機構(図示略)により版ローラ1上に残存するインクを全て除去し、熱ローラ3により表面層11全体を加熱して軟化させて微細構造領域11aを全て消去して平滑な状態とし、その表面層11上にマイクロ構造ローラ4及びサーマルヘッド5により新たな微細構造領域11a及び平滑領域11bを形成する。インク供給ローラ6及びエアーナイフ7により表面層11上にインクを塗布し、これを記録媒体Sに転写することで、新たな画像を形成する。
【0041】
また、形成した画像の一部分のみを変更させる場合にあっては、所定のクリーニング機構(図示略)により版ローラ1上に残存するインクを全て除去した後、サーマルヘッド5により表面層11の一部分のみを選択的に加熱して微細構造領域11aの一部を消去する。インク供給ローラ6及びエアーナイフ7により表面層11上の微細構造領域11aにインクを塗布し、これを記録媒体Sに転写することで、一部分のみが変更された新たな画像を形成する。
【0042】
以上、本実施形態によれば、版ローラ1上に転移温度Tmで可逆的に軟化する表面層11が設けられ、この表面層11に形成した微細構造のうち非画像領域に対応する部分を平滑にし、表面層11にインクを供給した後に非画像領域に対応する部分のインクのみを除去するので、この版ローラ1上のインクを記録媒体Sに転写することで、記録媒体S上に容易に画像を形成することができる。また、版ローラ1を加熱することにより表面層11を平滑な状態に戻すことができるため、他の画像を形成する場合にも版ローラ1を繰り返して使用でき、小ロットの印刷における印刷コストを低く抑えることができる。
また、微細構造を形成した表面層11のうち非画像領域に対応する部分をサーマルヘッド5で平滑にし、表面層11のうち非画像領域に対応する部分のインクのみをエアーナイフ7で選択的に除去するので、版ローラ1上に精度良くインクを塗布することができ、これにより高画質の画像を形成することができる。
【0043】
また、熱ローラ3により表面層11を転移温度Tm以上の温度に加熱して軟化させ、軟化した表面層11にマイクロ構造ローラ4の周面を押し付けることで版ローラ1に微細構造を形成するので、画像形成の工程を簡略化でき、画像形成に要する時間を短縮することができる。
【0044】
また、マイクロ構造ローラ4は、冷却機構を有しているので、加熱されて軟化した表面層11に微細構造を形成すると同時に、表面層11を転移温度Tm未満の温度に冷却させることができる。したがって、表面層11に微細構造を形成すると同時に表面層11を硬化させることができるため、形成した微細構造が歪んだり崩れたりすることを抑制できる。
【0045】
また、サーマルヘッド5の代わりに、レーザー加熱手段を用いることにより、表面層11を加熱する領域を精密に制御することができ、高画質の画像を形成することができる。
【0046】
また、版ローラ1の表面に加圧気体を吹き付けることによってインクを除去するので、微細構造領域11a上のインクを除去することなく平滑領域11b上のインクのみを効率的に除去することができる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
以下に、画像形成装置100の変形例について図3を参照して説明する。
【0048】
<変形例1>
変形例1に係る画像形成装置200は、熱ローラ3を備えておらず、サーマルヘッド5によって版ローラ1の表面層11の加熱を行う。
なお、変形例1の画像形成装置200にあっては、以下に説明する以外の構成は上記実施形態の画像形成装置100と略同様であり、その詳細な説明は省略する。
【0049】
図3は、変形例1に係る画像形成装置200の概略構成を示す図である。
図3に示すように、変形例1に係る画像形成装置200は、版ローラ1、圧胴ローラ2、マイクロ構造ローラ4、サーマルヘッド5、インク供給ローラ6及びエアーナイフ7を具備しており、熱ローラ3を備えていない。サーマルヘッド5は、図3に示すように、版ローラ1の回転方向Aにおいて圧胴ローラ2の下流側であってマイクロ構造ローラ4の上流側に配設されている。
【0050】
変形例1に係る画像形成装置200を用いて画像を形成する場合には、サーマルヘッド5により表面層11の全体を転移温度Tm以上の温度に加熱して軟化させた後、マイクロ構造ローラ4により表面層11に微細構造を形成する。
【0051】
更に、マイクロ構造ローラ4により表面層11に微細構造を形成した後、版ローラ1を回転方向Aに回転させ、微細構造が形成された領域を再びサーマルヘッド5の対向位置に配置させる。微細構造が形成された領域がサーマルヘッド5の対向位置に配置されたら、制御装置(図示略)により処理され出力された画像信号に基づいて表面層11を選択的に転移温度Tm以上の温度に加熱して、平滑領域11bを形成する。そして、インク供給ローラ6及びエアーナイフ7により版ローラ1の微細構造領域11a上にインクを塗布し、記録媒体Sに転写する。
【0052】
以上のように、変形例1に係る画像形成装置200によれば、サーマルヘッド5により表面層11を転移温度Tm以上の温度に加熱して軟化させ、軟化した表面層11にマイクロ構造ローラ4の周面を押し付けることで表面層11に微細構造を形成するので、熱ローラ3を用いることなく、上記した画像形成装置100と同様に画像を形成することができる。つまり、本発明の画像形成装置において、熱ローラ3を省略することができるので、画像形成装置の構成が簡易になるとともに画像形成装置を小型化することができる。
【0053】
なお、上記実施形態では、版ローラ1はドラム状であるものとしたが、これに限られるものではなく、例えば、ベルト状であっても良い。
【0054】
また、上記実施形態では、版ローラ1の表面層11に塗布されたインクを記録媒体Sに対して直接転写する構成としたが、これに限られるものではなく、例えば、版ローラ1の表面層1に塗布されたインクを所定の被転写体に転写し、当該被転写体を介して記録媒体Sに転写する構成としても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 版ローラ(刷版)
2 圧胴ローラ
3 熱ローラ(第2加熱手段)
4 マイクロ構造ローラ(微細構造形成手段)
4a 冷却機構
5 サーマルヘッド(第1加熱手段)
6 インク供給ローラ(インク供給手段)
7 エアーナイフ(インク除去手段)
100 画像形成装置
S 記録媒体(被転写体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移温度を境界として可逆的に硬度が変化する材料が表面に設けられた刷版と、
前記転移温度以上に加熱されて軟化した前記刷版の表面に複数の微細な穴からなる微細構造を形成する微細構造形成手段と、
前記微細構造が形成された前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分を、前記転移温度以上に加熱して軟化させることにより平滑にする第1加熱手段と、
前記非画像領域に対応する部分が平滑化された前記刷版の表面にインクを供給するインク供給手段と、
前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分のインクを除去するインク除去手段と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記刷版の表面を前記転移温度以上に加熱して軟化させる第2加熱手段を更に備え、
前記微細構造形成手段は、前記第2加熱手段により加熱されて軟化した前記刷版の表面に前記微細構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記第1加熱手段は、前記刷版の表面を前記転移温度以上に加熱して軟化させ、
前記微細構造形成手段は、前記第1加熱手段により加熱されて軟化した前記刷版の表面に前記微細構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記微細構造形成手段は、冷却機構を有し、軟化した前記刷版の表面に前記微細構造を形成するとともに、前記冷却機構により、前記刷版の表面を前記転移温度未満に冷却することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記第1加熱手段は、前記刷版の表面をレーザー加熱することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記インク除去手段は、加圧気体を前記刷版の表面に吹き付けて、前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分のインクを吹き飛ばして除去することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
転移温度を境界として可逆的に硬度が変化する材料を表面に有する刷版を前記転移温度以上に加熱して、前記刷版の表面を軟化させる加熱工程と、
軟化させた前記刷版の表面に複数の微細な穴からなる微細構造を形成するとともに、前記刷版の表面を前記転移温度未満に冷却して硬化させる微細構造形成工程と、
前記微細構造が形成された前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分を、前記転移温度以上に加熱して軟化させることにより平滑にする平滑化工程と、
前記非画像領域に対応する部分が平滑化された前記刷版の表面にインクを供給するインク供給工程と、
前記刷版の表面のうち非画像領域に対応する部分のインクを除去するインク除去工程と、
前記刷版の表面上のインクを被転写体に転写する転写工程と、を備えることを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171203(P2012−171203A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35320(P2011−35320)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】