説明

画像形成装置

【課題】 レンズを具備せずに適切に画像を形成することができる画像形成装置を提供する。
【解決手段】 本発明により提供される画像形成装置は、光透過性を有する基板31と複数の表示素子33とを有する有機ELパネル3を、感光性記録媒体22を露光するための手段として備える。基板31は、感光性記録媒体22に対向するための第1面31a、これとは反対の第2面31b、並びに当該第1面31aおよび第2面31bにより規定される厚さTを有している。複数の表示素子33は、相互に離隔して第2面31b上に設けられ、且つ、各々、感光性記録媒体22に向けて光を出射可能である。基板31の屈折率をnとし、複数の表示素子33において隣り合う表示素子33間の最小離隔距離をSとすると、基板31の厚さTは下記の式(1)を満たしている。
【数1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光方式により感光性記録媒体に画像を形成するための画像形成装置に関し、特に、感光性記録媒体を露光するための手段として表示パネルを有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性記録媒体に画像を形成するための画像形成装置としては、露光手段として表示パネルを具備するものが知られており、そのようなパネル露光型の画像形成装置については、例えば下記の特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されている画像形成装置は、透過型液晶パネルおよびバックライトからなる露光用の液晶表示パネルと、この液晶表示パネルおよび感光性記録媒体の間に位置するレンズとを備える。このような画像形成装置による画像形成においては、まず、液晶表示パネルにより感光性記録媒体が露光される。具体的には、形成目的の画像に相当する映像が液晶表示パネルに表示され、この表示パネルからの光がレンズを通過して表示映像が感光性記録媒体上に結像される。次に、感光性記録媒体に対して所定の手法で現像処理が施される。このようにして、感光性記録媒体において目的画像が形成される。
【0003】
【特許文献1】特開平7−304212号公報
【0004】
上述の画像形成装置は、液晶表示パネルからの表示映像を感光性記録媒体上に適切に結像させるために、液晶表示パネルと感光性記録媒体の間にレンズを具備する。しかしながら、このレンズは、有意な厚さおよび重量を有するので、装置について充分な薄型化および充分な軽量化を図るうえで障害となる場合がある。
【0005】
また、上述の画像形成装置においては、液晶表示パネルからの光は、感光性記録媒体に至る前にレンズを通過し、レンズを通過することによってその光量が低下してしまう。そして、このように光量が低下することを前提として、バックライトの出射光量が設定される。レンズ通過時の光量低下を前提としてバックライトの照射光量を設定することは、光量ロスの分の電力がバックライトにて消費されることを意味し、消費電力の低減を図るうえで好ましくない。
【0006】
このように、特許文献1に記載されているような従来のパネル露光型の画像形成装置は、レンズを具備することに起因する問題を潜在的に有している。また、例えば特許文献1の画像形成装置において液晶表示パネルおよび感光性記録媒体の間にレンズが配設されない場合、従来の技術によると、液晶表示パネルに表示される映像が感光性記録媒体上において適切に結像されず、形成画像においてムラが生じるなどして、良好な画像を形成することが困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、レンズを具備せずに適切に画像を形成することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により提供される画像形成装置は、光透過性を有する基板と複数の表示素子とを有する表示パネルを、感光性記録媒体を露光するための手段として備える。基板は、感光性記録媒体に対向するための第1面、これとは反対の第2面、並びに当該第1および第2面により規定される厚さを有している。複数の表示素子は、相互に離隔して第2面上に設けられ、且つ、各々、感光性記録媒体に向けて光を出射可能である。基板の厚さをTとし、基板の屈折率をnとし、複数の表示素子において隣り合う表示素子間の最小離隔距離をSとすると、厚さTは下記の式(1)を満たしている。最小離隔距離とは、隣り合う表示素子ごとの表示素子間距離のうち最小のものである。例えば、隣り合う表示素子ごとの表示素子間距離が全て同じである場合、当該表示素子間距離は全て最小離隔距離である。また、隣り合う表示素子ごとの表示素子間距離が、全て異なる場合や、複数の異なる距離に分類し得る場合、当該表示素子間距離のうち最小のものが最小離隔距離である。より具体的に例示すると、複数行および複数列からなる行列(マトリクス)を構成する行列要素のように、複数の表示素子が、行方向に等ピッチに且つ列方向に等ピッチに基板上に配置されている場合には、行方向における表示素子間距離と列方向における表示素子間距離とが同一であるとき、全ての表示素子間距離が最小離隔距離に相当し、行方向における表示素子間距離と列方向における表示素子間距離とが異なるとき、これらのうち何れか小さい方が最小離隔距離に相当する。
【0009】
【数1】

【0010】
本画像形成装置による画像形成過程においては、表示パネルにより感光記録媒体が露光され(露光処理)、その後、感光性記録媒体に対して所定の現像処理が施される。露光処理では、感光性記録媒体は、その感光対象面が表示パネル基板の第1面に密着するように配置されるか、或は、その感光対象面と第1面との隙間が充分に小さくなるように配置される。また、露光処理では、表示パネルの各表示素子から発せられて表示パネル基板の第2面から当該基板に入射した光は、基板内を通り、当該基板の第1面に至る。第1面に至った光のうち、第1面における入射角度が全反射臨界角未満の光(狭角光)は、第1面を通過して基板外に出射し、第1面における入射角度が全反射臨界角を超える光(広角光)は、第1面にて基板内方向に反射する。そして、基板外に出射した光により感光性記録媒体の感光対象面が照射され、感光性記録媒体が露光されることとなる。
【0011】
表示パネル基板の厚さTが上記式(1)を満たすように設定されている本画像形成装置では、このような露光処理において、隣り合う表示素子に由来する光が感光性記録媒体照射時に不当に干渉することが、解消ないし抑制される。すなわち、隣り合う表示素子に由来する光により感光性記録媒体が照射される領域が当該媒体上において不当に重なることが、解消ないし抑制される。表示パネル基板の厚さTが上記式(1)を満たすように設定されているため、表示パネルにおいて隣り合う任意の2つの表示素子に由来する2つの狭角光が、基板内で交差しないからである。2つの狭角光の第1面上での2つの光スポットを想定すると、当該2つの表示素子間の距離が最小離隔距離である場合、当該2つの光スポットは第1面上にて実質的に外接し、当該2つの表示素子間の距離が最小離隔距離より大きい場合、当該2つの光スポットは第1面上にて離隔する。2つの狭角光は、基板内で交差することなくこのように第1面に至った後、各々、第1面を通過して直ちに感光性記録媒体を照射する。したがって、隣り合う表示素子に由来する光(狭角光)が感光性記録媒体(その感光面が第1面に密着しているか、或は、その感光面と第1面との隙間は充分に小さい)を照射する際に不当に干渉することは、解消ないし抑制されるのである。露光処理において、隣り合う表示素子に由来する光の不当な干渉が解消ないし抑制されるため、感光性記録媒体においては、不当な画像ムラのない良好な画像が形成されることとなる。
【0012】
このように、本画像形成装置によると、露光手段としての表示パネルの全表示素子から出射される光を、感光性記録媒体上で互いに不当に干渉するのを解消ないし抑制しつつ、当該感光性記録媒体に照射することによって、不当な画像ムラのない良好な画像を当該媒体上に形成することができる。すなわち、本画像形成装置によると、表示パネルに表示される映像を感光性記録媒体上に結像するためのレンズを具備せずとも、当該表示映像に対応する画像を感光性記録媒体上に適切に形成することができるのである。レンズを具備しない本画像形成装置は、装置の軽量化および薄型化を図るうえで好適である。また、レンズを具備しない本画像形成装置においては、各表示素子から出射される光について、レンズを透過することに起因する光量低下が発生しないため、そのような光量低下を前提として表示パネルの出射光量を大きく設定する必要がない。したがって、本画像形成装置は、消費電力を低減するうえで好適である。
【0013】
好ましくは、本発明の画像形成装置は、基板の機械的強度を補うための補強部材を更に備える。このような構成は、基板における反りや撓み、破損などの発生を抑制するうえで好適である。
【0014】
好ましくは、表示素子は有機EL素子である。すなわち、本発明における表示パネルとしては、各表示素子が有機EL素子よりなる有機ELパネルが好ましい。有機ELパネルは、自発光型の表示パネルであるのでバックライトなどを必要とせず、バックライトなどを必要とする例えば液晶パネルよりも、一般的に軽量かつ薄型で、消費電力が少ない。したがって、本発明の画像形成装置において表示パネルとして有機ELパネルを具備する構成は、本装置の軽量化および薄型化を図るうえで、また、本装置の消費電力を低減するうえで、好適である。
【0015】
好ましくは、表示パネルは、感光性記録媒体に形成すべき画像(目的画像)の全体に対応する映像を表示することが可能である。このような構成によると、本画像形成装置による画像形成過程の露光処理において、目的画像の全体に対応する映像を表示パネルに表示させた状態において、当該表示パネルにより感光性記録媒体を一括露光することができる。したがって、本構成は、感光性記録媒体に目的画像を形成するのに要する時間を短縮するうえで好適である。
【0016】
好ましくは、本発明の画像形成装置は、感光性記録媒体に対して表示パネルを相対移動させるための移動手段を更に備え、表示パネルは、感光性記録媒体に形成すべき画像を構成する複数の部分画像(目的画像の一部)に対応する複数の映像を個別に表示することが可能である。このような構成によると、本画像形成装置による画像形成過程の露光処理において、目的画像の一部に対応する映像を表示パネルに表示させた状態において、当該表示パネルにより感光性記録媒体を露光する露光ステップ(露光ステップごとに表示映像は異なる)と、感光性記録媒体に対する表示パネルの相対位置を移動手段(送り機構)の作動により変化させる移動ステップとを、繰り返し交互に行うことによって、感光性記録媒体の全体を露光することができる。したがって、本構成は、当該表示パネルに表示可能な映像のサイズより大きい目的画像を感光性記録媒体に形成するうえで好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1から図3は、本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置X1を表す。図1は、画像形成装置X1の分解斜視図であり、図2は、画像形成装置X1の内部構造を概略的に表す平面図である。また、図3は、画像形成装置X1の部分断面図である。
【0018】
画像形成装置X1は、筐体1と、フィルムパック2と、有機ELパネル3と、一対のプラテンローラ4とを備える。
【0019】
筐体1は、図1に示すように、開口部11と、蓋体12と、送出口13とを有し、中空の略直方体状に構成されている。開口部11は、フィルムパック2を筐体1の内外へ出し入れ可能とするために設けられたものである。蓋体12は、この開口部11を開閉するためのものであり、2つの凸部12aを有する。各凸部12aは、蓋体12が開口部11を閉塞している状態において筐体1の内部に延出する。送出口13は、筐体1の側壁における所定の箇所に設けられており、画像形成装置X1による画像形成過程を経た後述の感光フィルム22(図3に示す)を本装置ないし筐体1の外部に送り出し可能とするためのものである。
【0020】
フィルムパック2は、図3に示すように、ケース21と、複数の感光フィルム22と、支持板23と、板バネ部材24とを有する。複数の感光フィルム22、支持板23、および板バネ部材24は、支持板23が感光フィルム22と板バネ部材24の間に介在する態様で、ケース21内に収容されている。板バネ部材24は、ケース21内において、支持板23とともに感光フィルム22を図中下方へ付勢する。フィルムパック2の有する感光フィルム22の数は、図示した数には限られない。
【0021】
ケース21は、複数の開口部21a,21b,21cを有する。開口部21aは、感光フィルム22における感光対象面をケース21外に露出させるためのものである。2つの開口部21bは、各々、上述の蓋体12の凸部12aに対応した箇所に設けられている。蓋体12が筐体1の開口部11を閉塞している状態では、各凸部12aは、対応する開口部21bを介してケース21内に突出し、支持板23に対して開口部21a側に向けた押圧力を作用させることができる。開口部21cは、ケース21の側壁に設けられており、感光フィルム22をケース21外に送り出し可能とするためのものである。また、開口部21cは、ケース21内への埃などの侵入を抑制するためのカーテン25により覆われている。
【0022】
感光フィルム22は、図4に示すように、透明基材22aと、感光層22bと、透明カバー22cと、接着シート22dと、現像液保持パック22eと、トラップ材22fとを備え、透明基材22a、感光層22b、および透明カバー22cよりなる積層構造を有する。図4は、図3に示す感光フィルム22の断面を具体的に表したものである。接着シート22dは、その矢印AB方向の中間部に開口部22d’を有して透明カバー22c上に積層されており、その矢印AB方向の両端部が折り返されて基材22aに接着されている。現像液保持パック22eは、感光フィルム22の矢印AB方向の一端部に設けられ、接着シート22dの一端部により包み込まれている。トラップ材22fは、感光フィルム22の矢印AB方向の他端部に設けられており、接着シート22dの他端部により包み込まれている。このトラップ材22fは、後述の現像処理において感光層22bを通過した現像液を捕捉するための部位である。このような感光フィルム22は、透明基材22aの側から感光層22bに光が照射されることによって露光される。また、感光層22bにて形成される画像は、透明カバー22cの側から視認される。
【0023】
図5は、有機ELパネル3の全体を概略的に表したものである。有機ELパネル3は、基板31と、カバー32と、複数の表示素子33と、駆動IC34とを備える。また、有機ELパネル3は、例えば、線順次方式によるパッシブ駆動によって各表示素子33を駆動させるように構成されている。
【0024】
基板31は、透明基板であり、例えば透明ガラスや透明樹脂よりなる。基板31は、第1面31aおよび第2面31bを有し、且つ、表示素子配置領域31Aおよびこれを囲む周縁領域31Bに区分される。図5では、両領域31A,31Bの境界を破線で表す。表示素子配置領域31Aは、有機ELパネル3における有効表示領域(表示画面)に相当する部位である。第1面31aは、画像形成装置X1内において、上述のフィルムパック2ないし感光フィルム22に対向する。本画像形成装置X1においては、基板31と上述のフィルムパック2ないし感光フィルム22とは、基板31の第1面31aと感光フィルム22の基材22aとが密着するように配置されている(密着型)か、或は、第1面31aと基材22aの隙間が充分に小さくなるように配置されている(プロキシ型)。また、基板31は、相当程度に薄く、その厚さは例えば2〜5μmである。本実施形態では、薄い基板31の強度を補強すべく、基板31の周縁領域31Bに枠状の補強部材35が取り付けられている。これにより、基板31の反りや撓み、破損などの発生が抑制される。このような薄い基板31は、充分な厚さ(例えば0.7mm)を有する状態において第2面31b上に複数の表示素子33などを形成した後に第1面31a側を機械研磨などすることによって、形成することができる。
【0025】
カバー32は、基板31の第2面31bの側において周縁領域31Bに対して所定のシール部材36を介して接合される。これにより、カバー32と基板31との間は密閉状態とされている。このようなカバー32は、例えば、ガラス、セラミック、樹脂などの絶縁材料よりなる。
【0026】
複数の表示素子33は、基板31の第2面31b側において、表示素子配置領域31A上にマトリクス状に配置されている。具体的には、第2面31b上にパターン形成された複数のアノード37と、この上に重なるようにパターン形成された複数の有機EL膜(図示略)と、この上に重なるようにパターン形成された複数のカソード38とからなる積層構造において、アノード37とカソード38の交差箇所に各表示素子33が構成されており、複数の表示素子33において、AB方向の配設ピッチは一定であり且つCD方向の配設ピッチは一定である。
【0027】
各アノード37は、第2面31b上に例えばITO(Indium Tin Oxide)膜を蒸着した後にエッチング処理などを施すことにより形成される透明電極であり、図5の矢印AB方向に延びる。各有機EL膜は、アノード37上に形成されており、例えば、アノード37上に順次積層形成されたホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層よりなる。発光層は蛍光性の有機物質を含み、発光層を構成するための蛍光性有機物質を選択することにより、各有機EL膜の発する光の色を赤色、緑色、または青色などに設定することができる。各カソード38は、有機EL膜の上方から例えばアルミニウム膜を蒸着した後にエッチング処理などを施すことにより形成される電極であり、図5の矢印CD方向に延びる。また、各表示素子33は、アノード37およびカソード38の間に所定電圧を印加すると有機EL膜の発光層中の蛍光性有機物質が発光するように構成されている。
【0028】
駆動IC34は、有機ELパネル3の外部からフレキシブルケーブル(図示略)などを介して供給される電力や各種信号に基づき、一組のアノード37およびカソード38の間の印加電圧を制御するものである。また、駆動IC34は、図5に示すように、カバー32の上面32aに実装されており、各アノード37および各カソード38に対し、各々異なる配線39を介して接続されている。
【0029】
有機ELパネル3においては、駆動IC34の作動により、基板31における第2面31b上の全ての表示素子33の発光状態が制御されて所望の画像が表示される。各表示素子33から発せられて基板31内に入射した光は、基板31を通過して第1面31aから出射される。有機ELパネル3は、基板31の第1面31aがフィルムパック2ないし感光フィルム22に対向する位置に、図示しない固定手段により固定されている。
【0030】
一対のプラテンローラ4は、画像形成装置X1による画像形成過程においてフィルムパック2から送り出される感光フィルム22を引き出しつつ搬送し、筐体1の送出口13を介して筐体1の外部に送り出すためのものである。更に、一対のプラテンローラ4は、感光フィルム22がプラテンローラ4間を通過する際に現像液保持パック22eに押圧力を作用させ、この現像液保持パック22eから現像液を押し出して感光層22bの全面に拡げる役割をも果たす。
【0031】
このような構成の有機ELパネル3において、基板31の厚さ(第1面31aおよび第2面31bにより規定される)をTとし、基板31の屈折率をn(>1)とし、複数の表示素子33において隣り合う表示素子間の最小離隔距離をSとすると、基板31の厚さTは、下記の式(1)を満たすように設定されている。最小離隔距離Sとは、有機ELパネル3における隣り合う表示素子33ごとの表示素子間距離のうち最小のものであり、複数の表示素子33が、行方向に等ピッチに且つ列方向に等ピッチに基板上に配置されている本実施形態の場合においては、行方向における表示素子間距離と列方向における表示素子間距離とが同一であるとき、全ての表示素子間距離が最小離隔距離Sに相当し、行方向における表示素子間距離と列方向における表示素子間距離とが異なるとき、これらのうち何れか小さい方が最小離隔距離Sに相当する。
【0032】
【数2】

【0033】
式(1)は、表示素子33から発せられて基板31内に入射した光のうちの、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角未満の光(狭角光)が、隣りの表示素子33に由来する狭角光と基板31内で交差しないための、条件式である。以下に、式(1)の導出について、図6を参照しつつ具体的に説明する。なお、図6は、基板31の第1面31aと感光フィルム22との間に充分に薄い空気層ALが介在する場合を表し、空気層ALが無視できる程に小さい場合が上述の密着型に相当し、そうでない場合が上述のプロキシ型に相当する。
【0034】
まず、基板31の屈折率をn1とし、空気層ALの屈折率をn2とし、表示素子33から発せられて基板31内に入射した後に基板31内から空気層ALに入射する光の、第1面31aにおける入射角をθ1とし、基板31内から空気層ALに出射しようとする光の第1面31aにおける屈折角(出射角)をθ2とすると、下記の式(2)が成り立つ。
【0035】
【数3】

【0036】
式(2)において、入射角θ1が全反射臨界角θCである場合、屈折角θ2は90°であり且つ空気層ALの屈折率n2は実質的に1(空気の絶対屈折率)であるため、下記の式(3)が得られる。これを変形すると、下記の式(4)が得られる。
【0037】
【数4】

【0038】
一方、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角θCである光が基板31内を通過する間に矢印AB方向に進む距離Lは、下記の式(5)により表され、これを変形して得られる下記の式(5)’に式(4)を代入すると下記の式(6)が得られる。
【0039】
【数5】

【0040】
この距離Lが、下記の式(7)に示すように、隣り合う表示素子間の最小離隔距離Sの半分以下であれば、表示素子33から発せられて基板31内に入射した光のうちの、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角θC未満の光(狭角光)が、隣りの表示素子33に由来する狭角光と基板31内で交差することはない。式(7)に式(6)を代入した後に変形すると上記式(1)が得られるところ、即ちこの式(1)が成立する場合、表示素子33から発せられて基板31内に入射した光のうちの、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角未満の光(狭角光)が、隣りの表示素子33に由来する狭角光と基板31内で交差することはないのである。
【0041】
【数6】

【0042】
以下に、画像形成装置X1により感光フィルム22に画像を形成する際の動作について説明する。
【0043】
画像形成装置X1による画像形成においては、まず、装置内で感光フィルム22に対向配置されている有機ELパネル3に所定の映像を表示させた状態において、当該有機ELパネル3により感光フィルム22の感光層22bを一括露光する(露光処理)。所定の映像とは、感光フィルム22に形成することを目的とする画像全体に対応する映像である。本露光処理では、有機ELパネル3の各表示素子33から発せられて第2面31bから基板31に入射した光は、基板31内を通り、基板31の第1面31aに至る。第1面31aに至った光のうち、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角未満の光(狭角光)は、第1面31aを通過して基板外に出射し、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角を超える光(広角光)は、第1面31aにて基板内方向に反射する。そして、基板31外に出射した光により感光フィルム22の感光層22bが照射され、感光層22bが露光されることとなる。
【0044】
露光処理の後、感光フィルム22は、図3にて二点鎖線で示すように、所定のプッシュ機構(図示略)により押動されてフィルムパック2から押し出される。押し出された感光フィルム22は、一対のプラテンローラ4の作動によりフィルムパック2から引き出され、筐体1の送出口13へ搬送され、更に、筐体1の外部に送り出される。一対のプラテンローラ4は、感光フィルム22がプラテンローラ4間を通過する際に、当該感光フィルム22の現像液保持パック22e(図4に示す)に押圧力を作用させ、この現像液保持パック22eから現像液を押し出して感光層22bの全面に行き渡らせる。このようにして、露光後の感光フィルム22の現像処理が実行される。この現像処理の後、感光フィルム22の感光層22bにて目的画像が現れる。
【0045】
基板31の厚さTが上記式(1)を満たすように設定されている本画像形成装置X1では、上述の露光処理において、隣り合う表示素子33に由来する光が感光フィルム22ないし感光層22bを照射する時に不当に干渉することが、解消ないし抑制される。すなわち、隣り合う表示素子33に由来する光により感光層22bが照射される領域が感光層22bにおいて不当に重なることが、解消ないし抑制される。基板31の厚さTが上記式(1)を満たすように設定されているため、有機ELパネル3において隣り合う任意の2つの表示素子33に由来する2つの狭角光が、基板内で交差しないからである。2つの狭角光は、基板内で交差することなく第1面31aに至った後、各々、第1面31aを通過して直ちに感光フィルム22ないし感光層22bを照射する。したがって、隣り合う表示素子33に由来する光(狭角光)が感光フィルム22ないし感光層22bを照射する際に不当に干渉することは、解消ないし抑制されるのである。露光処理において、隣り合う表示素子33に由来する光の不当な干渉が解消ないし抑制されるため、感光フィルム22においては、不当な画像ムラのない良好な画像が形成されることとなる。
【0046】
このように、画像形成装置X1によると、露光手段としての有機ELパネル3の全表示素子33から出射される光を、感光フィルム22上で互いに不当に干渉するのを解消ないし抑制しつつ感光フィルム22に照射することによって、不当な画像ムラのない良好な画像を感光フィルム22上に形成することができる。すなわち、画像形成装置X1によると、有機ELパネル3に表示される映像を感光フィルム22上に結像するためのレンズを具備せずとも、当該表示映像に対応する画像を感光フィルム22上に適切に形成することができるのである。
【0047】
レンズを具備しない本画像形成装置X1は、装置の軽量化および充分な薄型化を図るうえで好適である。また、レンズを具備しない本画像形成装置X1においては、各表示素子33から出射される光について、レンズを透過することに起因する光量低下が発生しないため、そのような光量低下を前提として有機ELパネル3の出射光量を大きく設定する必要がない。したがって、画像形成装置X1は、消費電力を低減するうえで好適である。
【0048】
また、画像形成装置X1は露光手段として有機ELパネル3を具備するところ、有機ELパネル3は、自発光型の表示パネルであるのでバックライトなどを必要とせず、バックライトなどを必要とする例えば液晶パネルよりも、一般的に軽量かつ薄型で、消費電力が少ない。したがって、有機ELパネル3は、本装置の軽量化および薄型化を図るうえで、また、本装置の消費電力を低減するうえで、露光手段として好適である。
【0049】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置X2の分解斜視図である。本発明の第2の実施形態において、本発明の第1の実施形態と実質的に同一の部材および部分には、同一の符号を付している。
【0050】
画像形成装置X2は、図7に示すように、筐体1と、フィルムパック2と、有機ELパネル3と、一対のプラテンローラ4と、アクチュエータ5とを備える。画像形成装置X2は、フィルムパック2に対する有機ELパネル3の相対的な画面サイズとアクチュエータ5を更に備える点とにおいて、画像形成装置X1と相違する。また、画像形成装置X2においても、画像形成装置X1と同様に、有機ELパネル3の基板31の厚さTは上記式(1)を満たす。
【0051】
アクチュエータ5は、有機ELパネル3を感光フィルム22に対して所定の態様で移動させるためのものであり、図7に示すように、送り機構5A,5Bと制御装置(図示略)とを備える。送り機構5Aは、矢印AB方向に延びる一対のガイドレール51aと、当該ガイドレール51aに沿って並進駆動可能な合計4個のスライダ52aとからなる。一方、送り機構5Bは、矢印CD方向に延びるガイドレール51bと支持プレート52bとからなる。各ガイドレール51bの両端は、異なるガイドレール51aに案内される2つのスライダ52aに固定されている。支持プレート52bは、有機ELパネル3を保持するためのものであり、ガイドレール51bに沿って並進駆動可能に設けられている。このようなアクチュエータ5において、スライダ52aおよび支持プレート52bの並進駆動は、各々、制御装置からの制御信号に基づいて制御される。また、図7では、支持プレート52b上に保持されている有機ELパネル3の上位に位置するフィルムパック2(感光フィルム22を内包している)を二点鎖線で表す。
【0052】
図8および図9は、画像形成装置X2により感光フィルム22に画像を形成する際の動作を説明するための説明図である。
【0053】
画像形成装置X2による画像形成においては、まず、アクチュエータ5の作動により、有機ELパネル3を所定の初期位置に移動させた後、有機ELパネル3に所定の映像を表示させた状態において、当該有機ELパネル3により感光フィルム22の感光層22bを露光することによって、図8(a)に示すように、感光層22bに露光エリアR1を形成する(露光ステップ)。所定の映像とは、感光フィルム22に形成することを目的とする画像の一部に対応する映像である。本ステップでは、有機ELパネル3の各表示素子33から発せられて第2面31bから基板31に入射した光は、基板31内を通り、基板31の第1面31aに至る。第1面31aに至った光のうち、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角未満の光(狭角光)は、第1面31aを通過して基板外に出射し、第1面31aにおける入射角度が全反射臨界角を超える光(広角光)は、第1面31aにて基板内方向に反射する。そして、基板31外に出射した光により感光フィルム22の感光層22bが照射され、感光層22bが露光されることとなる。以下の露光ステップにおいても、このようにして有機ELパネル3により感光層22bが露光される。
【0054】
次に、アクチュエータ5においてガイドレール51aに沿ってスライダ52aを矢印B方向に並進駆動させることにより、有機ELパネル3を上述の初期位置から矢印B方向に移動させる(移動ステップ)。本実施形態における有機ELパネル3の移動距離は、当該有機ELパネル3の表示素子配置領域31Aの矢印AB方向の長さと同等である。
【0055】
次に、有機ELパネル3に所定の映像を表示させた状態において、当該有機ELパネル3により感光フィルム22の感光層22bを露光することによって、図8(b)に示すように、感光層22bに新たな露光エリアR2を形成する(露光ステップ)。
【0056】
次に、アクチュエータ5においてガイドレール51bに沿って支持プレート52bを矢印D方向に並進駆動させることにより、有機ELパネル3を矢印D方向に移動させる(移動ステップ)。本実施形態における有機ELパネル3の移動距離は、当該有機ELパネル3の表示素子配置領域31Aの矢印CD方向の長さとほぼ同等である。
【0057】
次に、有機ELパネル3に所定の映像を表示させた状態において、当該有機ELパネル3により感光フィルム22の感光層22bを露光することによって、図9(a)に示すように、感光層22bに新たな露光エリアR3を形成する(露光ステップ)。
【0058】
次に、アクチュエータ5においてガイドレール51aに沿って支持プレート52aを矢印A方向に並進駆動させることにより、有機ELパネル3を矢印A方向に移動させる(移動ステップ)。本実施形態における有機ELパネル3の移動距離は、当該有機ELパネル3の表示素子配置領域31Aの矢印AB方向の長さとほぼ同等である。
【0059】
次に、有機ELパネル3に所定の映像を表示させた状態において、当該有機ELパネル3により感光フィルム22の感光層22bを露光することによって、図9(b)に示すように、感光層22bに新たな露光エリアR4を形成する(露光ステップ)。
【0060】
本実施形態では、以上のようにして、形成目的の画像の全体に対応する合計4箇所の露光エリアR1〜R4が、感光フィルム22の感光層22bに形成される。形成目的の画像の全体に対応する露光エリアR1〜R4が全て形成された後、感光フィルム22は、第1の実施形態に関して上述したのと同様にして、現像処理が実行される。この現像処理の後、感光フィルム22の感光層22bにて目的画像が現れる。
【0061】
基板31の厚さTが上記式(1)を満たすように設定されている本画像形成装置X2では、画像形成装置X1と同様に、上述の露光処理において、隣り合う表示素子33に由来する光が感光フィルム22ないし感光層22bを照射する時に不当に干渉することが、解消ないし抑制される。したがって、画像形成装置X2によると、画像形成装置X1と同様に、有機ELパネル3に表示される映像を感光フィルム22上に結像するためのレンズを具備せずとも、当該表示映像に対応する画像を感光フィルム22上に適切に形成することができるのである。
【0062】
加えて、画像形成装置X2では、上述のように露光ステップと移動ステップとを繰り返し交互に行うことにより、感光フィルム22の感光層22bの全域にわたって露光処理を施すため、有機ELパネル3に表示可能な映像のサイズより大きい(本実施形態では4倍)目的画像を感光フィルム22に形成することができる。
【0063】
本発明の画像形成装置X1,X2は、例えば、デジタルカメラやパーソナルコンピュータに保持されている画像データを出力するためのプリンタ装置に適用することができる。また、画像形成装置X1,X2は、デジタルカメラと一体化されて当該デジタルカメラで撮像された画像を出力するためのカメラ一体型のプリンタ装置に適用することもできる。
【0064】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置の分解斜視図である。
【図2】図1に示す画像形成装置の内部構造を概略的に表す平面図である。
【図3】図1に示す画像形成装置の部分断面図である。
【図4】図3に示す感光フィルムの断面構成を表す。
【図5】図1に示す有機ELパネルの概略斜視図である。
【図6】図5に示す有機ELパネルの基板の厚さについての条件式を導出するための説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る画像形成装置の内部構造を概略的に表す平面図である。
【図8】図7に示す画像形成装置による画像形成過程の一部を表す。(a)は、最初の露光ステップを終えた後の感光フィルム表面の状態を表し、(b)は、2回目の露光ステップを終えた後の感光フィルム表面の状態を表す。
【図9】図8に示す過程の後に続く過程を表す。(a)は、3回目の露光ステップを終えた後の感光フィルム表面の状態を表し、(b)は、4回目の露光ステップを終えた後の感光フィルム表面の状態を表す。
【符号の説明】
【0066】
X1,X2 画像形成装置
R 露光エリア
1 筐体
2 フィルムパック
22 感光フィルム
22b 感光層
3 有機ELパネル
31 基板
33 表示素子
4 プラテンローラ
5 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基板と複数の表示素子とを有する表示パネルを、感光性記録媒体を露光するための手段として備える画像形成装置であって、
上記基板は、上記感光性記録媒体に対向するための第1面、これとは反対の第2面、並びに当該第1および第2面により規定される厚さを有し、
上記複数の表示素子は、相互に離隔して上記第2面上に設けられ、且つ、各々、上記感光性記録媒体に向けて光を出射可能であり、
上記基板の厚さをTとし、上記基板の屈折率をnとし、上記複数の表示素子において隣り合う表示素子間の最小離隔距離をSとすると、上記厚さTは下記の式(1)を満たす、画像形成装置。
【数1】

【請求項2】
上記基板の機械的強度を補うための補強部材を更に備える、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
上記表示素子は有機EL素子である、請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
上記表示パネルは、上記感光性記録媒体に形成すべき画像の全体に対応する映像を表示することが可能である、請求項1から3のいずれか一つに記載の画像形成装置。
【請求項5】
上記感光性記録媒体に対して上記表示パネルを相対移動させるための移動手段を更に備え、
上記表示パネルは、上記感光性記録媒体に形成すべき画像を構成する複数の部分画像に対応する複数の映像を個別に表示することが可能である、請求項1から3のいずれか一つに記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−21384(P2006−21384A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200379(P2004−200379)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】