説明

画像形成装置

【課題】装置の加振源であるキャリッジを挟んで用紙が上下に移動するような構成の画像形成装置においても効率的に振動を抑制する。
【解決手段】この課題は、画像形成装置が、用紙を収容する給紙トレイと、給紙トレイより上に設けられ、給紙トレイから搬送された用紙に液滴を吐出して画像を形成する記録ヘッドが搭載され、主走査方向に往復移動するキャリッジと、キャリッジより上に設けられ、記録ヘッドにより画像形成され排出された用紙を積載する排紙トレイと、給紙トレイに収容された用紙量を検出する給紙量検出手段と、排紙トレイに積載された用紙量を検出する排紙量検出手段と、キャリッジの移動による装置の振動を抑制するための振動抑制手段とを備え、給紙量検出手段で検出された給紙量及び排紙量検出手段で検出された排紙量に基づいて、キャリッジの加減速領域において装置の振動を抑制するように振動抑制手段を制御することで解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジに搭載された記録ヘッドからインクを吐出して用紙(紙に限定するものではなく、OHPなどを含み、インク滴、その他の液体などが付着可能なものの意味であり、被記録媒体あるいは記録媒体、記録紙、記録用紙などとも称される。)に画像を形成するインクジェット方式の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット方式の画像形成装置(インクジェットプリンタ)では、往復運動するキャリッジに搭載された記録ヘッドから記録液の液滴を吐出することで用紙に画像を形成している。そのため、往復運動するキャリッジの加減速時に生じる慣性力が装置本体の振動を誘発してしまう。特に、印刷速度向上のためにキャリッジ速度が高速化し、これに伴って加減速が急となり、装置本体の振動が大きくなってユーザに不快感を与えている。また、プリンタにスキャナユニットを搭載した複合機においては、プリンタ側の振動がスキャナキャリッジ走査に影響を与えてしまい、読み取り画像の劣化を引き起こしている。この対策として、キャリッジの加減速時のプロファイルを滑らかにし、又はノッチフィルターなどを使用して装置に入力する周波数帯域の一部にフィルターし、又は別アクチュエータで振動抑制を行うなどの振動対策が既に知られている。
【0003】
装置には様々なモード(振れや捩れなど)である一定の固有振動数があり、装置の固有振動数と同じ周波数を持つ入力を行うと、当該入力に反応して固有振動数で装置が大きく振動するため、ノッチフィルターを用いる方法は、ノッチフィルターで予めマシンの固有振動数を避ける入力を行うことで、固有振動数で装置が共振することを防ぐものである。
【0004】
しかし、用紙が、加振源であるキャリッジを挟んで上下に移動する構成の場合、装置上部に設けられている排紙トレイ上に排出・積載された用紙の質量と装置下方の給紙トレイの残量用紙の質量とのバランスがキャリッジに対して上下に大きく変化する。このような構成では、装置の固有振動数や重心もキャリッジに対して大きく変化する。そのため、キャリッジの加速を緩やかにしたり又はノッチフィルターなどを使用したりする場合も固有振動数が大きく変化するために、入力を避ける帯域を非常に大きく取ることになり、キャリッジの加速が遅くなり、生産性や装置幅に悪影響があった。同様に、別なアクチュエータで振動抑制を行う場合も、装置の固有振動数や重心位置が大きく変わると制振効率が悪化するという問題があった。
【0005】
特許文献1及び2には、キャリッジの振動を抑制するために、キャリッジを移動させるタイミングベルトにキャリッジと略同じ質量の制振部材を取付け、キャリッジと制振部材を反対方向に移動させることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、キャリッジの振動を抑制するために、プリンタヘッドを移動させる走査機構とは別に、プリンタヘッドとほぼ同じ質量の重りと、この重りをプリンタヘッドと逆方向に同一加速度で移動させる走査機構とを備えた構成が開示されている。
【0007】
しかし、これらは、前記のように用紙が加振源であるキャリッジを挟んで上下に移動するような構成の場合に、装置の重心も上下に移動することや装置の固有振動数が大きく変化することを考慮して装置の振動抑制を効果的に行うものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、前記の問題に鑑み、装置の加振源であるキャリッジを挟んで用紙が上下に移動するような構成の画像形成装置においても効率的に振動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、本発明による画像形成装置が、用紙を収容する給紙トレイと、給紙トレイより上に設けられ、給紙トレイから搬送された用紙に液滴を吐出して画像を形成する記録ヘッドが搭載され、主走査方向に往復移動するキャリッジと、キャリッジより上に設けられ、記録ヘッドにより画像形成され排出された用紙を積載する排紙トレイと、給紙トレイに収容された用紙量を検出する給紙量検出手段と、排紙トレイに積載された用紙量を検出する排紙量検出手段と、キャリッジの移動による装置の振動を抑制するための振動抑制手段とを備え、給紙量検出手段で検出された給紙量及び排紙量検出手段で検出された排紙量に基づいて、キャリッジの加減速領域において装置の振動を抑制するように振動抑制手段を制御することによって達成される。
【0010】
また、給紙量及び排紙量に加えて、高速モード、通常モード又は高画質モードなどの印刷モードに依存して、制振部材の加速度を変更すると好ましい。
さらに、給紙量及び排紙量に加えて、キャリッジの加速度に依存して、制振部材の加速度を変更すると好ましい。
【0011】
また、給紙量及び排紙量の算出結果から、給紙量が所定値以下であり、排紙量が所定値以下である領域I、給紙量が所定値より大きく、排紙量が所定値以下である領域II、給紙量が所定値より大きく、排紙量が所定値より大きい領域III、又は給紙量が所定値以下であり、排紙量が所定値より大きい領域IVのいずれか1つが判断され、これに基づいて制振部材の加速度を変更すると好ましい。
さらに、印刷モードが高画質モードであって、給紙量及び排紙量の算出結果から領域IVが判断された場合のみ、制振部材の加速度を変更すると好ましい。
【0012】
また、用紙1枚の印刷が終了するごとに、給紙量検出手段は給紙量を検出し、排紙量検出手段は排紙量を検出すると好ましい。
さらに、キャリッジの等速度領域において制振部材を停止させると好ましい。
【0013】
また、制振部材の質量がキャリッジの質量より小さいと好ましい。
さらに、制振部材の移動範囲がキャリッジの移動範囲より狭いと好ましい。
また、印刷モードが高画質モードであって、給紙量及び排紙量の算出結果が領域IIである場合、振動抑制手段による制御を行わないと好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、装置の重心位置や装置の固有振動数を変化させる要因である用紙の容量、すなわち給紙トレイ内の用紙の容量と排紙トレイ上の用紙の容量を検出し、これらを振動抑制機構の制御にフィードバックするので、装置の加振源であるキャリッジを挟んで用紙が上下に移動するような構成の場合でも装置の振動を効率的に抑制することができる。また、キャリッジの加減速領域において振動抑制機構を制御することで、必要最小限の電力消費で済む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における振動抑制機構を含む画像形成装置の主要部を示す断面図である。
【図2】本発明における振動抑制機構の実施形態を示す図である。
【図3】本発明における振動抑制機構の別な実施形態を示す図である。
【図4】キャリッジ振動抑制機構を制御するための制御部のブロック図である。
【図5】キャリッジの速度プロファイルを示す図である。
【図6】画像形成装置の制振制御の概略的なフローチャートと、給排紙トレイ枚数に基づく装置の振動し易さを示す図である。
【図7】制振制御部における制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明における振動抑制機構15を含む、インクジェットプリンタ等の画像形成装置の主要部を示す断面図である。
画像形成装置本体1は、下部に配置され用紙Pを収容する給紙トレイとしての給紙部9と、上部に配置され画像形成後に排出された用紙Pを積載する排紙トレイとしての排紙部2と、給紙部9から排紙部2へ向けて下方から上方(略垂直)へ配置される用紙搬送路4と、用紙搬送路4中に配置され搬送されてくる用紙Pに画像を形成する画像形成部5とを少なくとも備えている。
【0017】
給紙部9には、積載され収容された用紙量を検出するための給紙量検出手段が設けられている。この給紙量検出手段は、回動可能な用紙検出レバー13で構成され、用紙の積載量に応じてレバーの角度が変化するようになっており、その角度を検出することで用紙の積載量が測定される。
排紙部2には、排紙ローラ11を通過し、積載された用紙の積載量を検出するための排紙量検出手段が設けられている。この排紙量検出手段は、回動可能な用紙検出レバー14として構成され、用紙の積載量に応じてレバーの角度が変化するようになっており、その角度を検出することで用紙の積載量が測定される。
【0018】
なお、用紙検出レバー13,14は、歪みゲージなどの重さを量るセンサ(図示せず)を給紙部9と排紙部2の底部に設け、これで用紙の質量を検知することにより用紙量を検出してもよい。用紙の積載厚さではなく用紙の質量を直接検出する場合、排紙部9にレバーを設ける必要が必要なくなり、用紙の一部がレバーから外れたり、レバーが破損したりする問題を回避できるほか、固有振動数や重心にとってより本質的な質量を直接検出するために、より正確に振動抑制機構15の制御を行うことが出来る。
【0019】
印刷が開始されると、先ず、給紙部9に堆積した用紙Pが、給紙ローラ10と図示しない分離手段により1枚の用紙に分離して送り出される。そして、搬送ローラ対21,22に挟持され用紙の斜行が補正された後、画像形成部5における画像形成領域に向けて図中矢印で示した用紙搬送方向(副走査方向)に搬送される。
【0020】
画像形成部5は、キャリッジ3とキャリッジ駆動機構によって構成されている。キャリッジ3は、記録ヘッド20を収容し、装置一側方(記録ヘッド20が排紙ローラ11と給紙ローラ10よりも外側である)に配置されている。記録ヘッド20はキャリッジ3から引き出されたフレキシブルケーブル(図示せず)により制御基板(図示せず)と接続されている。キャリッジ3は、キャリッジ駆動機構によって用紙Pの搬送方向である副走査方向に対して垂直な主走査方向(図1において紙面を貫く方向)に往復移動する。キャリッジ駆動機構は、主走査モータ16、主走査モータ16に連結したプーリ17、駆動プーリ17に対向して配置された従動プーリ23(図2参照)及びこれらプーリに架け渡された歯付きのタイミングベルト18、主走査方向に延設されるガイドレール19を含んで構成されており、キャリッジ3は歯付きベルト18に固着されている。
【0021】
モータ16によりプーリ17が回転すると、歯付きベルト18に固着されたキャリッジ3は、主走査方向に走査される。ガイドレール19は、互いに平行な2本の丸棒であって、キャリッジ3の挿通穴を貫通しており、キャリッジ3は、ガイドレール19に沿って滑走するようになっている。そして、モータ16の回転方向を逆転すればキャリッジ3の移動方向を変更でき、また回転数を変更すればキャリッジ3の移動速度を変更することもできる。
【0022】
フレキシブルケーブルは、制御基板からの画像信号伝達手段に係わり、可撓性を有するフィルムに配線パターンをプリントしたものであって、キャリッジ3と制御基板との間でデータを伝達し、キャリッジ3の移動に追従するようになっている。また、キャリッジ3の側方且つ主走査方向に沿ってエンコーダ7が設けられている。エンコーダ7は、透明な樹脂のフィルムに所定の間隔で目盛りを付けたものであり、この目盛りをキャリッジ3に設けた光センサにより検出することでキャリッジ3の位置が検知される。
【0023】
また、記録ヘッド20は、搬送ローラ対21,22の間で用紙Pに対向して配設されている。用紙Pと対向している記録ヘッド20の面には、インク吐出口が設けられている。用紙Pが搬送ローラ対21,22によって記録ヘッド20の対向位置まで搬送されると、制御基板からの画像信号に従って記録ヘッド20のインク吐出口より用紙Pに向かって(図1における左から右方向)インクが吐出され、所望の画像が形成される。
【0024】
このようにして、用紙Pを副走査方向に移動させつつ、インク吐出口が設けられた記録ヘッド20を有するキャリッジ3を主走査方向に移動させて記録ヘッド20からインクを吐出させることで、用紙Pに画像を形成する。なお、画像形成後の用紙Pは、排紙ローラ対11により画像面を下側にして装置上側の排紙部2に排出される。
【0025】
以下に、本発明の特徴部を説明する。
先ず、用紙の記録領域に向けてキャリッジ3が加速して所定速度に達する間及び記録領域を通過した後にキャリッジ3が減速されて所定速度から速度0に達する間、装置はキャリッジ3から慣性力を受け、これが装置の振動を誘起する。また、図1に示すような画像形成装置1の加振源であるキャリッジ3を挟んで上下に給紙部9と排紙部2が配置されている装置では、用紙Pの位置によって、すなわち給紙部9と排紙部2における用紙Pの積載量によって、用紙Pの質量が加振源であるキャリッジ3に対して上下に大きく変化する。そのため、装置の固有振動数や重心も加振源であるキャリッジ3に対して大きく変化するので、従来の振動抑制方法では効率的に装置の振動を抑制できない。そこで、本発明では、装置の固有振動数や重心と加振源のバランスを変える原因である給紙部9の用紙量と排紙部2の用紙量を検出し、これを振動抑制機構15の制御にフィードバックする。
【0026】
振動抑制機構15は、図1に示すように装置左側に配置されている。特に、図1の斜線部で囲まれた領域には、制御基板や電源基板が配置されているが、画像形成に必要な構成部材は、キャリッジ3などが配置された装置の片側(図の右側)に集中しており、また記録ヘッドをクリーンな状態に維持する維持回復機構(図示せず)も同じ側に配置されている。従って、これら部材に対して基板類の質量が軽いため、装置の重心が図1の右側に位置してしまうことに対し、斜線部8に振動抑制機構15を配置することで、装置の重心位置を左側へ移動させることができ、装置のバランスをとることができる。このように、片側に配置された主要な構成部材が重く、装置の重心位置が片側に大きく移動している場合、振動抑制機構15をなるべく装置の反対側に配置することで、重心位置を装置の中央に移動させ、装置を安定化させることができる。なお、振動抑制部材15は斜線部8に配置されている制御基板や電源基板以外の空きスペースに配置されている。
【0027】
次に、図2を用いて本発明における振動抑制機構15の具体的な構成を説明する。
振動抑制機構15は、キャリッジ3の移動方向である主走査方向に移動可能に配設され歯部25(例えば、ラック)を有する制振部材24と、主走査モータ16と異なる別の駆動手段26からなる。そして、別の駆動手段26が回転し、別の駆動手段26の噛み合い部材27(例えば、ピニオン)が制振部材24の歯部25に噛み合うことで、制振部材24が主走査方向(矢印方向)に移動される。このように、キャリッジの駆動手段とは別の駆動手段26で制振部材を駆動することで、キャリッジの駆動手段の負荷が増大することはなく、また、制振部材の制御をキャリッジの制御から分離することができ、細やかな制御が可能となる。
【0028】
この際、キャリッジ3が図中左方向(主走査方向)に移動している場合、制振部材24を右方向に移動させ、キャリッジ3が図中右方向に移動している場合、制振部材24を左方向に移動させることで、キャリッジ3に働く加速度とは常に逆向きの加速度が制振部材24に働くことになる。従ってキャリッジ3と制振部材24によって装置に働く慣性力も常に逆向きとなり、装置に働く慣性力は低減又は相殺される。
【0029】
この際、F=m(質量)×a(加速度)より、キャリッジ3と制振部材24の質量が等しい場合、キャリッジ3と制振部材24の加速度も等しくすることで、同一の逆向きの慣性力を発生させることができる。また、キャリッジ3よりも制振部材24の質量が小さい場合、制振部材24の加速度をキャリッジ3のそれよりも大きくすることで、やはり同一の逆向きの慣性力を発生させることができる。
【0030】
また、このように構成することで、キャリッジ3と制振部材24の移動方向が平行になるため無駄な力が発生せず、キャリッジ3の慣性力を相殺する方向の慣性力を直接的に装置本体側に作用させることができ、効率がよい。また、振動抑制機構15はキャリッジ3と同じ高さに配置されても、キャリッジ3より上方に配置されてもよい。
【0031】
さらに、キャリッジ3の移動範囲のうち、装置の振動を発生させるキャリッジの慣性力は、キャリッジ3を移動させるときの加速時及び減速時にのみ発生し、等速度運動時には発生しないので、キャリッジ3とは別の駆動手段26で駆動される制振部材24の移動範囲はキャリッジ3の移動範囲と同じでなくても、キャリッジ3の加速時及び減速時のみ移動可能な範囲であればよい。従って、制振部材24の移動範囲がキャリッジ3の移動範囲より狭くなるように振動抑制機構15を構成することができ、これにより省スペース化及び省エネルギー化が実現される。
【0032】
次に、図3を用いて本発明の振動抑制機構15の別な実施形態について説明する。
キャリッジ3と主走査機構の構成は前記と同様であるが、この実施形態では、振動抑制機構15は、主走査モータ16と異なる別の駆動手段であるソレノイド28と、このソレノイド28の鉄芯(プランジャ)である制振部材29とからなり、ソレノイド28を駆動することによって制振部材29が主走査方向(矢印方向)に移動される。この際、前記と同様に、キャリッジ3が図中左方向に移動している場合、制振部材29を右方向に移動させ、キャリッジ3が図中右方向に移動している場合、制振部材29を左方向に移動させることで、装置に働く慣性力を低減又は相殺することができる。
また、このように振動抑制機構15を、ソレノイド28とプランジャを兼ねる制振部材29とから構成することによって、振動抑制機構15の構成が簡単になり、部品点数の削減を図れる。
【0033】
次に、図4のブロック図を用いて、キャリッジ3や振動抑制機構15を制御するための制御部について説明する。
印字制御部51は、図示しないパーソナルコンピュータなどの外部情報処理装置や画像読取り装置などからの画像データ50を受領して、受領した画像データ50に応じてヘッド駆動部52を介して記録ヘッド20を駆動制御することで液滴を吐出させ、用紙上に画像を形成する。主走査制御部53は、速度プロファイル格納部54に格納された図5に示すようなキャリッジ3の速度プロファイルと、キャリッジ3の主走査方向位置を検出するリニアエンコーダ7からのエンコーダ出力とに応じて、目標速度に対する現在速度の偏差から制御量(例えばPI制御値)を演算して、モータ駆動部55を介して主走査モータ16を駆動制御し、キャリッジ3を主走査方向に所要のキャリッジ速度で移動走査させる。
【0034】
ここで、キャリッジ3は、例えば図5に示すような速度プロファイルに従って往復運動する。この例では、往路を正として、キャリッジ3は、加速されて速度0 m/sから速度2.2 m/sに達し、等速度運動を行い、この等速度運動中に用紙上の印字領域を走査して用紙に液滴を吐出し、画像を形成する。復路も同様である。この際、キャリッジ3の加速時と減速時において装置に対する慣性力が生じ、等速度運動中は生じない。ここで、キャリッジ3の加速度の大きさは、オペレータがパーソナルコンピュータ又は装置のコントロールパネルから設定可能な印刷モードに依存し、高速モードでは大きめであり、通常モードでは普通であり、高画質モードでは小さめである。よって、装置の振動も、高速モードでは大きめであり、通常モードでは普通であり、高画質モードでは小さめである。ゆえに、これに伴い、制振部材の加速度も印刷モードに依存して決定される。
【0035】
一方、図4において、振動抑制機構15を制御するための制振制御部56は、主走査制御部53によって印刷モードに依存する加速度でキャリッジ3の主走査移動が行われるとき、特にキャリッジ3の加速及び減速の間、印刷モードに依存する速度プロファイル格納部54に格納されたキャリッジの速度プロファイルと、給紙部9と排紙部2の用紙量を検出する用紙量検出部58からの検出結果とに基づき、駆動部57を介して別の駆動手段26,28を駆動制御して制振部材24,29を加速・減速させ、装置の制振制御を行う。
【0036】
ここで、制振制御部56において給紙部9と排紙部2のそれぞれの用紙量を考慮するのは、前述のように、これらの用紙量によって装置の固有振動数や重心が大きく変化しうるからである。装置とその設置面との接点を支点とし、キャリッジの振動に伴って装置の重心が振動すると仮定すると、重心が支点に近いほど装置は振動しにくく、重心が支点から遠ざかるほど振動し易くなる。つまり、給紙部9の質量が大きければ装置は振動しにくく、排紙部2の質量が大きければ装置は振動し易くなる。
【0037】
図6の右側に示す図は、排紙トレイの用紙積載枚数と給紙トレイの用紙積載枚数に依存する装置の振動し易さを領域Iから領域IVの4つの領域に分けて表している。排紙トレイの用紙積載枚数が多く、給紙トレイの用紙積載枚数が少ない領域IVでは、装置の振動が大きくなるため、制振部材の質量にもよるが制振部材の加速度を大きくする必要がある。排紙トレイの用紙積載枚数が少なく、給紙トレイの用紙積載枚数が多い領域IIでは、装置の振動は小さいため、制振部材の加速度は小さくてよい。領域I及び領域IIIでの装置の振動の大きさは、領域IVと領域IIの間である。また、印刷モードが高画質モードであり、給排紙トレイの用紙積載枚数として領域IIが判断された場合、高画質モードではキャリッジの加速度及び速度は小さく、領域IIでは装置の振動が小さいので、制振部材を動かさず制振制御を行わなくてもよい。
【0038】
図6の左側に示す図は、装置の制振制御の概略的なフローチャートを示す。オペレータにより印刷モード及び印字内容を含む印字命令がなされると(S1)、主走査制御部53により印刷モード及び印字内容からキャリッジの加速度、加速開始位置、加速時間などが決定される(S2)。これと前後して又は同時に、用紙量検知部58により給紙トレイ上の用紙枚数と排紙トレイ上の用紙枚数が検出される(S3)。次いで、制振制御部56によりキャリッジの加速度、加速開始位置、加速時間と、給排紙トレイの用紙枚数とに基いて、加速度、加速開始位置、加速時間などの制振部材の動作条件が決定される(S4)。このとき、給排紙トレイの用紙枚数の検知の際、装置の振動し易さの指標として、給排紙トレイの用紙枚数に基づく領域Iから領域IVの4つの領域を考慮し、制振部材の動作条件をこれらの4つの領域に基づいて決定する。4つの領域の判断は、例えばオペレータにより高速モードで100枚印刷するという印字命令がなされた場合、給排紙トレイの用紙枚数として、最初に「100枚」を考慮してどの領域に該当するかを判断してもよいし、印刷中用紙1枚ごとにどの領域に該当するかを判断してもよい。最後に、制振部材を動作させながら、キャリッジによる印字動作が開始される(S5)。
【0039】
次に、図7のフローチャートを参照して制振制御部56における制御の例を説明する。
制振制御部56は、主走査制御部53により印刷モードに依存した加速度でキャリッジの主走査移動が開始されると(S1)、用紙量検出部58からの給排紙トレイ枚数の領域I〜IVに基づいて制振部材の加速度及び加速時間を決定し(S2)、キャリッジが加減速領域にあるか否かを速度プロファイル格納部54の速度プロファイルに基づいて判別し(S3)、キャリッジが加減速領域にあるときには、キャリッジの加速度に応じて、キャリッジの移動による慣性力で生じる装置の振動を相殺する方向に制振部材を決定された所要の加速度及び加速時間で移動させる一方(S4)、キャリッジが等速度領域にあるときには制振部材の移動を停止させる(S5)。キャリッジ移動が終了していなければ、ステップS3に戻って制振制御を繰り返す。
【0040】
しかし、例えば100枚印刷している間は1枚目と100枚目では給排紙トレイの枚数・用紙重量はかなり異なり、又は途中で排紙トレイの用紙が抜き取られる場合もあるため、途中で領域I〜IVが変動する場合がある。よって、1枚又は複数枚の印刷が終了するごとにステップS2に戻って領域I〜IVを判断してもよく(破線矢印)、これにより制振部材の加速度をより好ましく決定することができる。
【0041】
このように、キャリッジの移動による慣性力で生じる装置の振動を相殺するように制振部材のモータを駆動制御して制振部材を移動させる。このとき、キャリッジのモータとは別の駆動手段によって制振部材を移動させることができ、制振部材をキャリッジのモータで駆動させる必要がないので、キャリッジのモータの負荷が増大することはない。また、これにより制振部材の制御をキャリッジの制御から分離することができ、細やかな制御が可能となる。さらに、制振部材の駆動手段にエンコーダを搭載することで、より細やかな制御が可能となる。
【0042】
また、振動の原因となる衝撃力Fは、F=m(質量)×a(加速度)で表されるため、制振部材の質量はキャリッジの質量よりも小さくてもよく、その分加速度を増加させることで同等の衝撃力Fが得られ、キャリッジの慣性力による装置の振動を相殺することができる。また、制振部材を軽く小さくすることによって、装置全体の質量及びサイズの増加も最小限に抑えることができる。
【0043】
そして、キャリッジの加速時及び減速時に制振部材を移動させて制振動作を行わせ、等速度運動時には制振部材を停止させるので、画像形成時である等速度運動時には制振部材が移動しないことになり、例えば記録ヘッドからの液滴着弾位置ずれを発生させる振動の発生を防止し、画像品質の劣化を抑えることができる。
【0044】
このように、キャリッジの駆動源とは別の駆動手段により移動される、キャリッジの質量よりも小さな質量の制振部材を用いた制振制御によって、キャリッジの加速時と減速時の少なくともいずれかで振動抑制動作を行い、等速度運動時には制振部材の移動を停止させるので、画像品質に影響を与えることなく、装置の質量やサイズの大型化を招くことなく、キャリッジの移動に伴う装置本体の振動を効率的に抑制することができる。
【0045】
以上、本発明の装置の制振制御を図示例により説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の装置の制振制御は、用紙が給紙部から真っすぐ上方に搬送されキャリッジを通過して排紙部に排出されるタイプの画像形成装置のみならず、用紙の軌跡がS字を描くように、用紙が給紙部から上方に搬送されて水平になりキャリッジを通過して排紙部に向かって再び上方に搬送されるタイプにも適用可能である。
【0046】
また、振動抑制機構は、キャリッジの主走査モータとは別の駆動手段と、この駆動手段とアーム部を介して連結された制振部材とからなり、駆動手段の回転に伴って制振部材が振り子のように左右に揺動するものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
2 排紙部(排紙トレイ)
3 キャリッジ
9 給紙部(給紙トレイ)
13 用紙検出レバー(給紙量検出手段)
14 用紙検出レバー(排紙量検出手段)
15 振動抑制機構(振動抑制手段)
24,29 制振部材
P 用紙
【先行技術文献】
【特許文献】
【0048】
【特許文献1】特開2001−138499号公報
【特許文献2】特開2005−081673号公報
【特許文献3】特開平3−256772号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙を収容する給紙トレイと、
前記給紙トレイより上に設けられ、前記給紙トレイから搬送された用紙に液滴を吐出して画像を形成する記録ヘッドが搭載され、主走査方向に往復移動するキャリッジと、
前記キャリッジより上に設けられ、前記記録ヘッドにより画像形成され排出された用紙を積載する排紙トレイと、
前記給紙トレイに収容された用紙量を検出する給紙量検出手段と、
前記排紙トレイに積載された用紙量を検出する排紙量検出手段と、
前記キャリッジの移動による装置の振動を抑制するための振動抑制手段と、を備えた画像形成装置であって、
前記給紙量検出手段で検出された給紙量及び前記排紙量検出手段で検出された排紙量に基づいて、前記キャリッジの加減速領域において装置の振動を抑制するように前記振動抑制手段を制御することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記給紙量及び前記排紙量に加えて、高速モード、通常モード又は高画質モードなどの印刷モードに依存して、前記制振部材の加速度を変更することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記給紙量及び前記排紙量に加えて、前記キャリッジの加速度に依存して、前記制振部材の加速度を変更することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記給紙量及び前記排紙量の算出結果から、前記給紙量が所定値以下であり、前記排紙量が所定値以下である領域I、前記給紙量が所定値より大きく、前記排紙量が所定値以下である領域II、前記給紙量が所定値より大きく、前記排紙量が所定値より大きい領域III、又は前記給紙量が所定値以下であり、前記排紙量が所定値より大きい領域IVのいずれか1つが判断され、これに基づいて前記制振部材の加速度を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
印刷モードが高画質モードであって、前記給紙量及び前記排紙量の算出結果から前記領域IVが判断された場合のみ、前記制振部材の加速度を変更することを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
用紙1枚の印刷が終了するごとに、前記給紙量検出手段は前記給紙量を検出し、前記排紙量検出手段は前記排紙量を検出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記キャリッジの等速度領域において前記制振部材を停止させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記制振部材の質量が前記キャリッジの質量より小さいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制振部材の移動範囲が前記キャリッジの移動範囲より狭いことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
印刷モードが高画質モードであって、前記給紙量及び前記排紙量の算出結果が領域IIである場合、前記振動抑制手段による制御を行わないことを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−121330(P2011−121330A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282739(P2009−282739)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】