説明

画像形成装置

【課題】設置面積の小型化、前面操作性の向上さらには印刷順序と頁順とが異なることなく印刷後の頁揃え等の付加作業を要しないで済む構成を備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】装置本体の前後方向に挿脱可能な給紙カセット2と、給紙カセット2から繰り出された記録紙Pに対して印字処理を行う印字部3と、印字後の記録紙Pが排出される排紙トレイ5とを備えた画像形成装置1において、給紙カセット2からの記録紙繰り出し位置と、印字後の記録紙Pの表裏を反転させて排紙トレイに排出する表裏反転搬送部12を装置本体前面側に位置させ、装置前面側の壁部1Aを開閉可能に設けることで、壁部開放時には記録紙繰り出し位置、印字部および表裏反転搬送路を外部に露呈させて装置本体の一方向からジャム処理操作を行えるようにすることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関し、特に、前面操作が可能な記録紙搬送機構に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プリンタ、ファクシミリ、複写装置、これらの機能を複合させた画像形成装置には、インクなどの液滴を吐出する液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッドを備えた液体吐出装置を用いる構成や、電子写真方式により、静電潜像を現像剤の供給により可視像処理する構成などが知られている。
【0003】
前者の液体吐出装置では、記録紙等の記録媒体を搬送しながら記録ヘッドから吐出される液滴を付着あるいは浸透させることで画像を形成するようになっている。
【0004】
なお、記録媒体の対象となるものとして、上述した記録紙だけでなく、糸などの繊維、皮革や金属さらには樹脂やガラス、木材そしてセラミックスなどの液体の付着あるいは浸透が可能な材質がある。
【0005】
液体吐出装置を備えた画像形成装置においては、液体吐出ヘッドからのインク吐出動作を安定化させるために、液体吐出ヘッド内のインクを所定の負圧に維持する(液体吐出ヘッド内のインクに作用する圧力を所定の負圧に保つ)ことが重要である。このため、一般には、液体吐出ヘッドにインクを供給するインク供給系中に負圧発生手段を備え、その負圧発生手段によって負圧を付与したインクを液体吐出ヘッドに供給している。
【0006】
後者の電子写真プロセスを用いた画像形成装置では、潜像担持体として用いられる感光体に対して帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程を施すことにより画像形成が行われる。潜像担持体に形成された静電潜像は現像装置により可視像処理された後、記録紙などの記録媒体に可視像として転写される。
【0007】
液滴吐出装置を用いる構成および電子写真方式を用いる構成のいずれにおいても、記録媒体への画像形成により複写出力を得るようになっているが、記録媒体の一つである記録紙は、給紙カセットから搬送される場合や給紙カセットとは別に設けられている手差しトレイなどから印字部や転写部に向けて給紙される。
【0008】
給紙カセットには、複数枚の記録紙を積載した状態で一枚ずつ繰り出しを行う構成が知られており、その構成としては、カセット本体において記録紙先端を繰り出しローラに向け変位させる載置板を備え、載置板に積載されている記録紙の内で最上位のものが繰り出しローラに当接すると繰り出しローラの回転力により繰り出される構成が知られている。
【0009】
一方、近年では、上述した給紙カセットの交換や記録済みの記録紙の取り出しを装置本体前面において操作できるようにして操作性を高めるようにすることが望まれている。
【0010】
このような要望を満たすための構成として、給紙カセットの挿脱部の上部に手差しトレイや排紙トレイを設けた構成が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0011】
上記特許文献1には、液滴吐出装置を備えたインクジェット記録装置の前面側から挿入された給紙カセットの奥側においてカセットに積載されている記録紙を繰り出し、繰り出された記録紙を搬送ベルトにより印字部に対面させて印字を行った後、排紙トレイに向け記録紙を排出する構成と、記録紙両面への印字を行う際に、記録紙を反転させて印字部に向け搬送する反転搬送路が給紙カセットの奥側で印字部に連続する搬送路に連結された構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示されているような装置前面に操作対象となる構造部を設けることでオペレータの手が入りにくい装置奥側での操作をなくすことが可能となる反面、次のような問題がある。
【0013】
給紙カセットが収容される装置本体に対して反転搬送路部分が外部にはみ出す構成であるので、装置の設置面積が大きくなる。
【0014】
また、給紙カセットから記録紙を繰り出す位置が装置内部に位置する給紙カセットの奥側、換言すれば、装置前面と反対側であることから、ジャムが発生した場合に奥側での操作が必要となり、操作性が前面で見やすい位置で行う場合に比べて悪くなる。
【0015】
さらに、給紙カセットから繰り出されて印字処理された記録紙は、そのまま排紙トレイに排出されることになるが、排出された記録紙の画像面が上向きとなり、この画像面に後続の記録紙が積載されるため、排紙トレイ上に積載された記録紙の印刷順序と頁順序とが異なってしまう。
【0016】
本発明の目的は、上記従来の給紙装置における問題に鑑み、設置面積の小型化、前面操作性の向上さらには印刷順序と頁順とが異なることなく印刷後の頁揃え等の付加作業を要しないで済む構成を備えた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的を達成するため、本発明は次の構成よりなる。
(1)装置本体の前後方向に挿脱可能な給紙カセットと、給紙カセットから繰り出された記録紙に対して印字処理を行う印字部と、印字後の記録紙が排出される排紙トレイとを備えた画像形成装置において、
前記給紙カセットにおける前記画像形成装置前方側の位置で該給紙カセットから記録紙を繰り出し、繰り出された記録紙を前記装置本体の前後方向に沿って折り返した状態で前記印字部に向けて搬送する搬送部と、
前記印字部における前記記録紙の通過部に連続して設けられ、印字部に搬送される記録紙を印字部に搬送される方向と逆方向に搬送するスイッチバック搬送部と、
前記スイッチバック搬送部を通過する前記記録紙を前記印字部にて印字処理された面を下方にして前記排紙トレイに搬送可能な表裏反転搬送部とを備え、
前記搬送部の繰り出し位置と前記表裏反転搬送部とが前記画像形成装置前方側に設けられていることを特徴とする画像形成装置。
(2)前記スイッチバック搬送路は、前記印字部に向けた前記記録紙の搬送方向下流側が前記画像形成装置内で上方に向け迂回させてあることを特徴とする(1)記載の画像形成装置。
(3)前記画像形成装置前方側に位置する壁部の一部は開閉可能に設けられ、開放時、外部から前記給紙カセットの繰り出し位置および前記表裏反転搬送部に向けた手の差し入れが可能であることを特徴とする(1)または(2)に記載の画像形成装置。
(4)前記壁部には、バイパス排紙部およびバイパス給紙部が設けられ、該バイパス給紙部は、前記給紙カセットからの記録紙の搬送部に合流し、前記バイパス排紙部は前記表裏反転搬送部に合流していることを特徴とする(3)記載の画像形成装置。
(5)前記搬送部と前記スイッチバック搬送部との合流部には、前記記録紙の搬送方向を、前記印字部側と前記表裏反転搬送部側とに切り換え可能な分岐部材が設けられていることを特徴とする(1)記載の画像形成装置。
(6)前記表裏反転搬送部と前記バイパス排紙部との合流部には、前記記録紙の搬送方向を、前記排紙トレイ側と前記バイパス排紙部側とに切り換え可能な排紙切り換え手段が設けられていることを特徴とする(4)記載の画像形成装置。
(7)前記バイパス排紙部は、前記壁部に対して開閉可能に設けられ、開放時、前記表裏反転搬送部の一部に連続する搬送路として使用可能であることを特徴とする(4)記載の画像形成装置。
(8)前記搬送部および前記表裏反転搬送部には、前記記録紙を挟持搬送可能な給送ローラが設けられ、該給送ローラは、前記搬送部および表裏反転搬送部の間に配置された共用ローラと、該共用ローラと対峙して前記搬送路および表裏反転搬送路にそれぞれ配置されている対向ローラとで構成されていることを特徴とする(1)乃至(7)のうちの一つに記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、搬送部および表裏反転搬送部において記録紙が装置本体の前後方向に沿って折り返されるようになっているので、装置前後方向と直角な方向での丈を小さくすることができる。しかも、印字後の記録紙がスイッチバック搬送されるようになっているので、スイッチバック搬送部を給紙カセットの長手方向に含ませることができ、これにより装置前後方向で無駄なスペースを設ける必要をなくすことができる。
【0019】
また、搬送部の繰り出し位置と前記表裏反転搬送部とが前記画像形成装置前方側に設けられているので、記録紙のジャム解消を一方向、つまり装置前方側から操作することができ、操作性を悪化させないようにできる。
【0020】
さらに、スイッチバック搬送路を通過した記録紙は、排紙トレイに排出される前に印字面の向きを反転させるので、排出順序と頁順とを整合させることが可能となると共に、印字面が外部から見えないことによりセキュリティの面で不利となることがないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】画像形成装置における問題点を説明するための比較例である。
【図2】画像形成装置における他の問題点を説明するための比較例である。
【図3】本発明による画像形成装置の要部構成を説明するための図である。
【図4】図3に示した要部構成に用いられる印字部の一態様を説明するための図である。
【図5】図3に示した要部構成の作用の一つを説明するための図である。
【図6】本発明による画像形成装置の外観図である。
【図7】図6に示した装置における一態様を説明するための図である。
【図8】図3に示した分岐構造に用いられる部材の一例を示す図である。
【図9】図8に示した分岐構造に用いられる分岐部材の構成および作用を示す図である。
【図10】図3に示した要部構成の一部変形例を説明するための図である。
【図11】図9に示した分岐部材の要部変形例の構成および作用を説明するための図である。
【図12】図3に示した印字部の構成に関する変形例を示す図である。
【図13】図3に示した印字部の構成に関するさらに別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面により本発明を実施するための形態について説明する。
【0023】
まず、本発明による画像形成装置の構成を説明する前に、本発明において着目した不具合を説明するために、図1,2に示す画像形成装置の比較例を用いて説明する。
図1に示す画像形成装置は、印字部にインクなどの液滴吐出装置101(以下、便宜上、印字部と称する場合もある)、およびプラテン102を備えたインクジェット記録装置であり、同図においてインクジェット記録装置100は、図1を示す紙面の左右方向が前後方向に相当している。
【0024】
インクジェット記録装置100の内部には、装置100に対して挿脱可能あるいは記録紙の補給部を装置前方側に開口させた給紙カセット103が下方に配され、給紙カセット103は、装置奥側、つまり後方側(紙面の左側)から記録紙Pを繰り出せるようになっている。
【0025】
記録紙Pの繰り出し位置には、給紙カセット103に積載されている記録紙Pの最上位のものに当接する繰り出しローラ104と繰り出しローラ104の下方に対向当接している摩擦パッドで構成されて重送された記録紙の摩擦分離を行う分離部105が設けられている。
装置の奥側壁面の一部には、開閉可能なカバー106が設けられており、開放することにより繰り出し部で生じた紙詰まり(ジャム)を解消できるようになっている。
【0026】
一方、給紙カセット103の繰り出し位置から液滴吐出装置101までの間には、反転経路で構成された搬送部107が設けられ、搬送部107には搬送ローラ108および印字部の手前で記録紙を押さえる押さえローラ109が配置されている。
【0027】
印字部に用いられる液滴吐出装置101の近傍には、装置前面側で給紙カセット103の上方に設けられている排紙トレイ110に向けて印字後の記録紙を排出搬送する排出路111が設けられており、印字後の記録紙は、印字部に向け搬送された搬送方向を維持しながら排紙搬送ローラ112および排出ローラ113を介して排紙トレイ110に向け排出される。
図1に示すインクジェット記録装置100には、装置本体上面に開閉可能な蓋カバー114が設けられており、装置内の搬送路に向けて手を差し入れることができるようになっている。
【0028】
このような構成においては、給紙カセット103から繰り出されて排紙トレイ110に向けて搬送される記録紙の搬送経路においてジャムなどが生じると、装置奥側に位置するカバー106を開放することあるいは、蓋カバー114を開放することで装置内部に手を差し入れてジャムを生じている記録紙を取り除くことになる。
【0029】
しかし、この構成では、カバー106の設置位置が装置奥側であることから前面操作と違ってジャム解消の際の視認性や操作性がきわめて悪くなる。
また、給紙カセット103の繰り出し位置とは別にジャムの発生が生じやすい箇所として、印字部に記録紙が進入を開始する位置がある。この位置では、記録紙先端が浮き上がった状態となると印字部に先端が衝突してジャムを起こす場合がある。
【0030】
図1に示した構成では、このような場合に対処するために装置前方側(紙面右側)からジャム解消処理が行えるように手を差し入れる箇所を設けることが考えられるが、装置内での印字部周辺には電装部品の設置空間100Aや装置以内の強度を保持するための構造体を設置する空間100Bが設けられている場合があり、装置前面からの操作が行えないことが多い。このため、蓋カバー114のように、装置上面から操作を行う構成が用いられている。
【0031】
しかし、このような構成とした場合、前面操作ほどではないものの、奥側操作に比べて視認性や操作性は改善されるが、前面から距離がある位置での操作であることから前面からの操作に比べて操作性が悪いといえる。
【0032】
一方、給紙カセット103から繰り出された記録紙は、反転搬送された状態で印字部を通過すると排紙トレイ110に排出されるが、排紙トレイ110上では、印字面、つまり印字処理された面が上向きとなる。
このため、後続の記録紙は先行排出された記録紙の印字面に積載されることになり、印刷順序と頁順序とが異なってしまうことになるばかりでなく、印字内容が外部に露呈することから、セキュリティの面でも好ましくない状態が得られる。
【0033】
このように、図1に示した構成においては、ジャム解消のための操作性の悪化や印刷順序と排出された記録紙の頁順が異なるなどの不具合がある。
【0034】
一方、図2は、他の比較構成を示す図であり、同図に示す構成は、図1に示した構成と違って、給紙カセット103から繰り出される記録紙を縦方向に搬送する構成が用いられている。
つまり、給紙カセット103における記録紙の繰り出し位置および印字部そして繰り出し位置から配置トレイ110に至る記録紙の搬送経路を装置前方側に配置した構成となっている。装置前方側の壁面は、搬送経路が外部に露呈できるように開閉できる構成とされている。
【0035】
しかし、この構成においては、印字部を通過する搬送経路を縦方向にしたことで印字部が占める水平方向での空間スペースが小さくできる反面、給紙カセット103は、収容される記録紙の長手方向の長さ(繰り出し方向の長さ)が必要であることから、水平方向での占有スペース(図2において、印字部101の後方(紙面左側)に位置する符号100Aで示す空間)は、印字部101が占有するスペースよりも大きくなる。しかも、搬送経路が縦方向であることが原因して、印字部周辺に設けられる電装部品の設置空間100Aも実際の設置スペースに比べて大きくなってしまい、いわゆる、丈が必要以上に大きくなる(高さが高い)虞がある。
【0036】
そこで、縦方向に設けてある搬送経路のうちで、給紙カセット103からの繰り出し位置側と排紙トレイ114側での折り返し曲率半径を小さくして丈を小さくすることも考えられるが、この場合には、印字面へのダメージが大きくなり、擦れによる画像欠損などが生じる虞がある。
以上のように、図1および図2の画像形成装置においては、設置スペースや記録紙への損傷などの問題が残されているといえる。
【0037】
次に、このような問題を解決できる本発明の構成について以下に説明する。
図3は、本発明実施例による画像形成装置の構成を示す図であり、同図に示す画像形成装置は、図1に示したインクジェット記録装置の構成と同様に、装置本体の前後方向(紙面左右方向)に給紙カセットが挿脱される構成を対象としている。
【0038】
本実施例によるインクジェット記録装置1は、装置本体下部で装置前後方向に挿脱可能な給紙カセット2と、給紙カセット2から繰り出された記録紙Pに対して印字処理を行う液滴吐出装置3とプラテン部4とで構成される印字部(以下、便宜上、印字部3と称する場合もある)と、印字後の記録紙が排出される排紙トレイ5とを備えている。
【0039】
本実施例における印字部に用いられる液滴吐出装置3は、図4に示すように昇降することができ、例えば、ジャム解消時には記録紙Pの搬送路から離すことができるようになっている。なお、本実施例では液滴吐出装置3が昇降する場合を対象としているが、昇降しない場合を対象としてもよい。
【0040】
給紙カセット2は、装置本体前後方向(紙面左右方向)の前方側(紙面右側)に繰り出し位置を設定されており、挿脱方向に沿った長手方向を有する記録紙Pを積載収容できる部材である。
【0041】
記録紙Pの繰り出し位置には、積載された記録紙Pの最上位のものに当接して回転可能な繰り出しローラ6と繰り出しローラ6に対峙する摩擦パッドが用いられた分離部材7とが設けられており、繰り出しローラ6により繰り出された記録紙Pの一枚分離が行われるようになっている。
【0042】
給紙カセット2における記録紙Pの繰り出し位置と印字部3との間には、繰り出された記録紙Pを装置本体の前後方向に沿って折り返した状態で印字部3に向け搬送する搬送ローラ8Aを備えた搬送路8が設けられている。
【0043】
一方、印字部3を記録紙Pが通過する位置には、印字後の記録紙Pを印字部3に向けて搬送される方向とは逆方向に搬送するスイッチバック搬送路9が設けられており、スイッチバック搬送路9には、正逆回転可能な給送ローラ10,11が設けられている。
【0044】
スイッチバック搬送路9には、印字部3を通過した記録紙Pの搬送方向を維持したままで記録紙Pを移動させることができる末端部が備えられており、末端部は、印字部3を通過する記録紙Pの搬送方向一端部近傍で上方に向け迂回させた迂回搬送路9Aで構成されている。
【0045】
迂回搬送路9Aは、最大長さの記録紙Pの端部が印字部3から移動して到達した際に給送ローラ10,11の一つに挟持されて記録紙Pの逆方向への搬送が行える長さに設定されている。本実施例では、給送ローラ10,11が星形周面形状を有するローラで構成され、印字後の記録紙Pに担持されている画像の摺擦損傷を少なくする構成とされている。
【0046】
このような迂回搬送路9Aを設けることで、記録紙Pが印字部3を通過した後、逆方向への搬送が可能となると共に、最大長さを対象とした記録紙の印字に際しても、搬送路長を給紙カセット2の長手方向長さの範囲内に含めることができるようになっている。この結果、給紙カセット2の長手方向に平行する搬送路が占めるスペース、つまり、給紙カセット2の挿脱方向に沿った長さを給紙カセット2の長手方向の長さ以上とすることがないようになっている。装置内での電装部品の設置スペース1Bは、スイッチバック搬送路12における記録紙Pが印字部3から迂回搬送路9Aに至る水平方向の範囲に設けられている。
【0047】
一方、スイッチバック搬送路9から排紙トレイ5までの間には、スイッチバック搬送路9を通過する記録紙Pを、印字部にて印字処理された面(印字面)を下方にして、換言すれば、フェースダウン状態で排紙トレイ5に搬送することができる搬送ローラ12A、12Bを備えた表裏反転搬送路12が設けられている。
【0048】
表裏反転搬送路12は、給紙カセット2側から印字部3に向けて延長されている搬送路8の一部に合流し、スイッチバック搬送路9から繰り出される記録紙Pが移動する過程で印字面を反転されて排紙トレイ5に向け排出する搬送路である。このため、排紙トレイ5上に排出された記録紙Pは、印字面が下向き、いわゆる、フェースダウンの状態となり、印字面が露見するのを防止できると共に、印刷順序と頁順とが整合されて排出されるようになっている。
【0049】
表裏反転搬送路12は、搬送路8における給紙カセット2からの記録紙繰り出し位置と同様に、装置本体前面側に折り返し部が位置しており、前面側の壁部1Aは、一部が装置本体側にヒンジ結合されることで、図6および図7に示すように、開閉可能に構成されている。
【0050】
図5は、壁部1Aを開放した状態を示しており、この状態において搬送路8内あるいは印字部3から表裏反転搬送路12に至る範囲でジャムを生じた記録紙Pの取り出しが行えるようになっている。図7には、壁部1Aの開放により、印字部3および搬送路の一部が露呈して図5に示した記録紙Pの取り出しを行える状態が示されている。なお、図7において符号18は、インクカートリッジを示している。
【0051】
図3において、装置本体前面側の壁部には、バイパス給紙部13およびその上方にバイパス排紙部14がそれぞれ設けられている。
【0052】
図6は、バイパス給紙部13およびバイパス排紙部14を示すインクジェット記録装置1の外観図であり、図3に示すように、バイパス排紙部14は、壁部に対して開閉可能なトレイで構成され、バイパス給紙部13は、図6に示すように、紙幅方向に摺動可能な端縁ガイド部材13Aを備えた開口部で構成されている。なお図6において、符号17は操作パネルを示している。
【0053】
図3においてバイパス給紙部13は、給紙カセット2からの搬送路8に合流し、そして、バイパス排紙部14は、表裏反転搬送部12に合流している。
【0054】
一方、上述したように、複数の搬送路が合流する構成を備えた本実施例においては、各合流部において記録紙Pの搬送方向を切り換えるための構成が設けられている。
【0055】
図3において、搬送路8と表裏反転搬送路12との合流部には、記録紙Pの搬送方向を搬送路8から印字部3に向ける場合と印字部3側から表裏反転搬送路12に向ける場合とに切り換えるための分岐部材15が設けられている。
【0056】
分岐部材15は、上記各搬送方向を設定できる方向に揺動可能な分岐爪で構成されており、図8に示すように、印字部3に対向するプラテン部4を構成するリブ4A間に入り込むことができるようになっている。プラテン部4を構成するリブ4Aは、分岐部材15が入り込む位置に設けてある場合、対向間隔を他のリブ同士の対向間隔よりも狭くされており、これにより、記録紙Pの落ち込みや先端の引っかかりが生じるのを防止できるようになっている。
【0057】
また、合流部のもう一つである、表裏反転搬送路12とバイパス排紙部14との合流部には、記録紙Pの搬送方向を、排紙トレイ5側とバイパス排紙部14側とに切り換える方向に揺動可能な排紙切り換え部材16が設けられている。
図9は、搬送方向を切り換える部材の一つである、分岐部材15の作用を説明するための図であり、同図において、(A)は、分岐部材15により記録紙Pの搬送方向が、印字部3側、つまりスイッチバック搬送路9側(図9では、スイッチバック搬送路の符号9で示してある)から表裏反転搬送路12側に向けて切り換えられた状態を示し、(B)は、搬送路8側から印字部3側、つまりスイッチバック搬送路9側(図9では、スイッチバック搬送路の符号9で示している)に向けて切り換えられた状態を示している。
【0058】
図9(A)に示すように、分岐部材15がその揺動端をプラテン部4のリブ内に入り込ませた場合には、印字部3側から表裏反転搬送路12に向け移動する記録紙Pを掬い上げることができる。また、図9(B)に示すように、プラテン部4のリブから浮き上がった際には、記録紙Pを搬送路8に押し付けた状態で移動させることができる。図9(B)に示した分岐部材15の状態では、記録紙Pが印字部3に導入される前にプラテン部4に向けて押圧されるので、印字部3への不用意な衝突によるジャムの発生を抑止することができる。
【0059】
本実施例は以上のような構成であるから、給紙カセット2から印字部3に至る搬送路8およびスイッチバック搬送路9から排紙トレイ5に至る表裏反転搬送路12において装置本体の前後方向に沿って折り返された構成を備えているので、装置本体の丈(高さ)を不用意に大きくすることがない。
しかも、印字部3から移動する記録紙Pをスイッチバックさせるスイッチバック搬送路9は、その末端部が上方に迂回させてあり、その迂回前の領域が給紙カセット2の長手方向端部までの領域に含まれているので、装置本体の設置面積を概ね、給紙カセット2の長手方向が収まる面積にすることができ、これにより設置スペースを最大限、給紙カセット2の長手方向長さとほぼ同じとして不用意に大きくしないようにできる。
【0060】
一方、印字部3に向け搬送された記録紙Pは、印字部3を通過した後、スイッチバック搬送路9に導入されるので、印字後、ある程度の期間、装置本体内に収まっているので、乾燥しにくい記録紙の場合、印字完了時から排紙トレイに向け排紙されるまでの間に十分時間を確保できることも可能である。これにより、使用者が誤って取り出してしまうことがない。このため、記録紙へのダメージを受けにくくすることができるとともに、印字完了後に記録紙Pをスイッチバック搬送路9に一旦、留めて待機させるようにすれば、使用者が記録紙を取りに来てから排出するようにすることも可能である。この結果、印字後の記録紙Pの印字面が表裏反転搬送路12の搬送により下向きとなるのに併せて、セキュリティの面で有利となる。
【0061】
また、装置内の搬送路中でジャムが発生した場合には、装置前面側の壁部1Aを開放することで給紙カセット2の繰り出し位置側、印字部3および排紙トレイ5に至る表裏反転搬送路12のそれぞれを装置前面側にて露呈させることができる、これにより、装置の一方向からのジャム解消作業が可能となるので、視認性の良い位置からの作業により操作性を向上させることができる。特に、ジャム解消時には、印字部3が記録紙Pの搬送路から離れるようになっているので、記録紙Pの取り出し性も併せて向上させることができる。
【0062】
次に、本発明の別実施例について説明する。
図10は、本発明の別実施例による画像形成装置の構成を示す図3相当の図である。
同図に示す実施例においては、記録紙の搬送に用いられる部材を共用化したことを特徴としている。
【0063】
つまり、図10において、搬送路8と表裏反転搬送と12には、それぞれ記録紙Pの搬送を行う給送ローラが設けられているが、給送ローラの一つを共通化して用いるようになっている。具体的には、給送ローラ20は、搬送路8および表裏反転搬送路12の間に配置され、これに対峙して記録紙Pを挟持搬送可能な対向ローラ20A、20Bが配置されている。これにより、給送ローラ20が共用ローラとして機能することになるので、対峙する対向ローラ同士を正逆方向に回転させることができ、各搬送路での異なる方向への記録紙Pの移動を可能にできる。この結果、搬送路に設けられる部品の点数を低減して低コスト化が図れるとともに、個別の搬送路毎に給送ローラを設けた場合と違って、搬送路同士の縦方向の間隔を狭められることにより、装置本体の高さ方向での余剰空間を広げることが可能となる。
【0064】
次に上記実施例における要部の一部変形例について説明する。
【0065】
図11は、分岐部材15の変形例を示す図である。
図11において分岐部材(便宜上、符号15’で示す)は、可撓性を有するマイラが用いられており、搬送路8近傍に有する不動部に片持ち梁状に支持されている。
【0066】
この構成においては、分岐部材15’が、その自由端をプラテン部4側に張り出す状態を初期態位として設けられており(図11(A)参照)、この状態で搬送路8から印字部3に向けて移動する記録紙Pの先端に押されることでプラテン部4から自由端が離れる向きに撓み変形することができるようになっている(図11(B)参照)。
【0067】
この構成においては、搬送路8から印字部3に向けて記録紙Pが移動する際(図11(B)に示す状態)には、その初期態位により記録紙Pが押圧されて浮き上がるのを防止され、表裏反転搬送路12に向けて記録紙Pが移動する際(図11(A)に示す状態)には、記録紙Pの先端を掬い上げることで容易にガイドすることができる。
【0068】
次に、図12,図13において、印字部3の構成に関する変形例を説明する。
図12は、プラテン部4に搬送ベルト21を設けた構成が示されている。この構成においては、搬送ベルト21の内部を負圧化し、その負圧を搬送ベルト表面に作用させることで記録紙Pを吸着搬送することができる。この構成では、記録紙Pが搬送ベルト21に吸着保持された状態で移動することになるので、記録紙Pが摺擦される虞がなく、印字部3との擦れによる画像損傷が防止できる。
【0069】
一方、図13には、印字部3および図12に示した構成のプラテン部に用いられる搬送ベルト21の展張方向を搬送路8あるいは表裏反転搬送路12の延長線上に沿うように傾けた構成が示されている。
この構成においては、搬送路8あるいは表裏反転搬送路12と印字部3とを結ぶ搬送路に直線性が得られる。これにより、例えば、バイパス給紙部13から厚手の記録紙を搬送するような場合には、搬送過程での曲路を少なくして搬送性を向上させることができる。また、表裏反転搬送路12での折り返し位置での曲率半径を大きくして折り返し部での突っかかりが生じるのを抑えることができる。
【0070】
なお、このような印字部3の傾きは、プラテン部4の構成として搬送ベルトを用いないで、図3および図8に示した不動状態のリブを用いた場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 画像形成装置
1A 壁部
1B 空間部
2 給紙カセット
3 印字部を構成する液滴吐出装置
5 排紙トレイ
6 繰り出しローラ
8 搬送路
9 スイッチバック搬送路
12 表裏反転搬送路
13 バイパス排紙部
14 バイパス給紙部
15 分岐部材
16 排紙切り換え部材
21 共用ローラとしての給送ローラ
21A、21B 対向ローラ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】特開2006−16188号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体の前後方向に挿脱可能な給紙カセットと、給紙カセットから繰り出された記録紙に対して印字処理を行う印字部と、印字後の記録紙が排出される排紙トレイとを備えた画像形成装置において、
前記給紙カセットにおける前記画像形成装置前方側の位置で該給紙カセットから記録紙を繰り出し、繰り出された記録紙を前記装置本体の前後方向に沿って折り返した状態で前記印字部に向けて搬送する搬送部と、
前記印字部における前記記録紙の通過部に連続して設けられ、印字部に搬送される記録紙を印字部に搬送される方向と逆方向に搬送するスイッチバック搬送部と、
前記スイッチバック搬送部を通過する前記記録紙を前記印字部にて印字処理された面を下方にして前記排紙トレイに搬送可能な表裏反転搬送部とを備え、
前記搬送部の繰り出し位置と前記表裏反転搬送部とが前記画像形成装置前方側に設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記スイッチバック搬送路は、前記印字部に向けた前記記録紙の搬送方向下流側が前記画像形成装置内で上方に向け迂回させてあることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記画像形成装置前方側に位置する壁部の一部は開閉可能に設けられ、開放時、外部から前記給紙カセットの繰り出し位置および前記表裏反転搬送部に向けた手の差し入れが可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記壁部には、バイパス排紙部およびバイパス給紙部が設けられ、該バイパス給紙部は、前記給紙カセットからの記録紙の搬送部に合流し、前記バイパス排紙部は前記表裏反転搬送部に合流していることを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記搬送部と前記スイッチバック搬送部との合流部には、前記記録紙の搬送方向を、前記印字部側と前記表裏反転搬送部側とに切り換え可能な分岐部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記表裏反転搬送部と前記バイパス排紙部との合流部には、前記記録紙の搬送方向を、前記排紙トレイ側と前記バイパス排紙部側とに切り換え可能な排紙切り換え手段が設けられていることを特徴とする請求項4記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記バイパス排紙部は、前記壁部に対して開閉可能に設けられ、開放時、前記表裏反転搬送部の一部に連続する搬送路として使用可能であることを特徴とする請求項4記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記搬送部および前記表裏反転搬送部には、前記記録紙を挟持搬送可能な給送ローラが設けられ、該給送ローラは、前記搬送部および表裏反転搬送部の間に配置された共用ローラと、該共用ローラと対峙して前記搬送路および表裏反転搬送路にそれぞれ配置されている対向ローラとで構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のうちの一つに記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−123362(P2012−123362A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158096(P2011−158096)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】