説明

画像形成装置

【課題】 本発明は、潮解性物質を含む水溶液によりシートに付加した水分の蒸発を妨げ、カールまたは波打ちの低減が持続する水溶液付加装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 シート103にトナー画像を加熱定着させる定着装置1を備え、該定着装置1によりトナー画像を加熱定着されたシート103に水分の蒸発を妨げる潮解性物質を含む水溶液109を付加する水溶液付加部2を有する水溶液付加装置として構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真方式等の画像形成装置に設けられる定着装置においてシートに水分または水溶液を付加することによってシートの波打ちまたはカールを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式を用いた画像形成装置は、像担持体としての感光体ドラム上に形成された潜像を現像して可視画像化し、この可視画像(トナー画像)をシートに静電気力を用いて転写させる。次いで転写画像を熱により定着させることによって、前記シート上に画像が形成されるようになっている。
【0003】
電子写真装置、静電記録装置などの画像形成装置においては、シート上にトナー画像を形成し、これを加熱、加圧して定着させることにより画像を形成している。このような定着装置として、内部にヒータを有する定着ローラに加圧ローラを圧接して定着ニップ部を形成し、画像定着を行うローラ定着方式が従来採用されている。
【0004】
従来、複写機等の電子写真方式を利用した画像形成装置内の定着装置においては、トナー画像をシートに定着させるために、熱ローラ定着装置を用いる例が多い。
【0005】
熱ローラ方式の定着装置は、ハロゲンヒータ等の内蔵熱源により加熱されて所定の温度に維持させた定着ローラと、これに圧接させた弾性を有する加圧ローラとの圧接ニップ部(定着ニップ部)にシートを導入して挟持搬送する。これによってシート表面の未定着トナー画像を熱定着させるものである。この工程では熱と圧力をトナー及びシートに付加するので、シートは加圧された状態でシート内部の水分が蒸発する。
【0006】
シートの水分量変化とシートにかかるストレスで波打ち及びカールが発生する。紙のシートを繊維のレベルで見ると、紙は短い繊維同士が絡み合って構成されており、繊維内部または繊維同士の間には水分が含まれ、繊維と水は水素結合を生じる。
【0007】
画像定着工程において紙のシートに熱と圧力が加わると、圧力により繊維同士にずれが生じ、その状態で、熱が加わり水分が蒸発すると繊維同士で水素結合が生じシートが変形する。紙を放置していると環境から吸湿し、繊維同士の水素結合が再び切り離される。だが、一部の繊維間には水分が入っていかず、それによりシートの変形が維持される。変形のパターンは紙の表裏の伸縮差で変形するもの(カール)と、紙の中央部と端部での伸縮差で起きるものがあり、これらの変形によりシートの波打ちまたはカールが生じる。
【0008】
この問題に対する解決策が特開平11−167317号公報(特許文献1)に提案されている。特許文献1の技術は静電複写又はプリントの定着ステップ中で、紙のコピーシートから水分が失われることによるカール及びエッジの波打ちを防ぐ静電複写装置で使用される装置及びシステムである。コピーシートの片面又は両面に制御された量の水分を付加する装置であって、コピーシートの両面に配置され、液体を貯蔵するためのリザーバを有するウォータージェットと、ほぼ円筒形外表面を有する一対の圧力ロールとを備える。そして、円筒形外表面の間にニップ部を定めるようにこの一対の圧力ロールはその軸に沿って互いに位置合わせされている。この装置は、更に、シートが円筒形外表面の間に形成されるニップ部に入る前に、通過する各シートの選択された部分にウォータージェットから付加される水分を制御する制御装置も備えるものである。そして、定着装置を通過するとシートの水分が減少しカール及び波打ちが起こる現象に対して、定着後に水分を付加することで失った水分を補充しカール及び波打ちを低減させたとしている。
【0009】
紙に水分を付加することにより、画像定着工程での熱と圧力により奪われた水分を補充し、波打ち及びカールが改善する。紙の水分が増えると紙自体のヤング率が低下し、こわさが小さくなり波打ちが低減する。また、繊維同士の隙間に水分が入ることにより、定着装置で一度水素結合した繊維同士の結合を再び切り離させ波打ちが低減すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−167317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の技術では、紙のシートに水分を付加することでシートのカールまたは波打ちが一時的に軽減するが、付加した水分が蒸発しシートが乾燥することでシートのカールまたは波打ちは再び増加してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための本発明に係る水溶液付加装置の代表的な構成は、シートにトナー画像を加熱定着させる定着手段を備え、前記定着手段によりトナー画像を加熱定着されたシートに、水分の蒸発を妨げる潮解性物質を含む水溶液を付加することを特徴とする水溶液付加装置である。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、潮解性物質を含む水溶液をシートに付加することで、付加した水分の蒸発を妨げ、カールまたは波打ちの低減が持続する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る水溶液付加装置を備えた画像形成装置の概略構成図である。
【図2】シートへ潮解性物質を含む水溶液を付加する水溶液付加装置の実施形態の概略図である。
【図3】(a)は潮解性物質の水分活性値を表したグラフである。(b)は界面活性剤を含む水溶液と水とでシートの膨張率を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、図1を用いて本発明に係る水溶液付加装置を備えた画像形成装置の構成について説明する。図1は本実施形態による画像形成装置の具体例としてフルカラー中間転写方式の画像形成装置を示す。この場合の画像形成装置の装置本体100は、紙のシート103にトナー画像を形成する画像形成手段を有する。この画像形成手段として、例えばY(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン),K(ブラック)の各色に対応する画像形成部200Y,200M,200C,200Kを直列に配置して構成されている。
【0016】
すなわち、図1に示す画像形成装置は、可視像化までのプロセスを各色で並列処理するタンデム方式が採用された画像形成装置である。以下、記述の煩雑化を防ぐために、Y,M,C,Kの4つの画像形成部200Y,200M,200C,200Kを画像形成部200で代表させて説明するものとし、関連する次の各プロセス手段についても同様とする。また、Y,M,C,K各色の画像形成部の配列順序はこれに限定されない。なお、フルカラー中間転写方式の画像形成装置に限らず、モノクロ画像形成装置の場合でも実施形態として可能である。
【0017】
各画像形成部200では以下の各プロセス手段が備わっている。Y,M,C,K各色に対応して表面に静電潜像を担持する像担持体120Y,120M,120C,120Kと、一次帯電装置121Y,121M,121C,121Kが設けられる。更に、露光装置122Y,122M,122C,122Kと、現像装置123Y,123M,123C,123Kが設けられる。一次帯電装置121は対応する像担持体120の表面を設定された電位の帯電バイアス電圧を印加して一様に帯電し、露光装置122によって露光して静電潜像が形成される。静電潜像は、現像装置123によってトナー現像され、トナー画像として可視画像化される。
【0018】
像担持体120の表面に形成して担持された各トナー画像は、一次転写装置124Y,124M,124C,124Kによって無端状ベルトによる中間転写体125の上に順次重ねて一次転写される。そして、Y,M,C,K全色が一次転写された中間転写体125上のトナー画像は、その後に二次転写装置126によってシート103の上に一括して二次転写される。転写されたトナー画像を担持したシート103は画像形成されたシート103にトナー画像を加熱定着させる定着手段を備えた定着装置1に搬送される。
【0019】
定着装置1では、定着ニップ部にてシート103を挟持して未定着のトナー画像に熱と圧を加えることで該シート103のトナー画像を定着させる。そして、定着装置1をシート103が通過した後、該定着装置1によりトナー画像を加熱定着されたシート103に水分の蒸発を妨げる潮解性物質を含む水溶液を付加する水溶液付加手段となる水溶液付加部2の噴霧ノズル107a,107bをシート103の表裏側に配置して設ける。そして、定着装置1の定着手段によりシート103が乾燥し、再びシート103の水分量が放置環境と平衡状態となる前に水溶液付加部2により該シート103の両面もしくは片面に潮解性物質を含む水溶液109を付加する。その後、シート103は装置本体100の排出トレイ150上またはシート両面搬送パス140などに向けて搬送される。
【0020】
以上のようにして、装置本体100では帯電、露光、現像、転写、定着など一連の画像形成プロセスを実行して、シート103上にカラートナー画像を形成して排出トレイ150上に排出する。なお、モノクロ画像形成装置の場合は、ブラック(K)の像担持体120Kのみが存在し、その像担持体120Kに形成されたトナー画像を一次転写装置124Kでシート103に転写する。
【0021】
図2は潮解性物質を含む水溶液109を紙のシート103に付加する水溶液付加部2の具体的構成を示す概略断面図である。図2において、定着装置1に設けられた定着手段は、加熱手段を備えた定着用回転体101と、該定着用回転体101に圧接して配設された加圧用回転体102とを有する。そして、この二つの定着用回転体101及び加圧用回転体102によりシート103上の未定着トナー画像を加熱及び加圧することによって画像定着を行う。そして、定着装置1をシート103が通過した後、シート103に潮解性物質を含む水溶液109を噴霧する。図2中、矢印aはシート103の搬送方向を示している。
【0022】
水溶液付加部2に設けられた噴霧ノズル107a,107bを用いる場合、シート103の表裏側に潮解性物質を含む水溶液109を噴霧するための2つの噴霧ノズル107a,107bを設ける。そして、噴霧ノズル107a,107bに圧縮空気を供給するためのコンプレッサ111を設ける。そして、潮解性物質を含む水溶液109を噴霧ノズル107a,107bに供給するためのタンク110a,110bを設ける。そして、コンプレッサ111からの圧縮空気とタンク110a,110bからの水溶液109をそれぞれ噴霧ノズル107a,107bに供給するためのチューブ108a〜108dを設ける。そして、圧縮空気と水溶液109の供給の開閉をおこなうバルブ112a〜112eを設ける。そして、2つの噴霧ノズル107a,107bをシート103が定着装置1を通過しトナー画像をシート103に定着した後のシート搬送途中に図示しない固定器具を用いて設置する。そして、2つの噴霧ノズル107a,107b或いは一方の何れかから紙のシート103に水溶液109を噴霧する。これにより、シート103が定着装置1を通過した後に水溶液109を該シート103に噴霧する。噴霧ノズル107a,107bはシート搬送途中にシート103の表裏側に配置されており、シート103の両面もしくは片面に溶液を付加する。
【0023】
紙のシート103に噴霧する水溶液109は潮解性物質を含み、シート103への浸透性を高めるための界面活性剤を含む。そして、界面活性剤の浸透性により紙からなるシート103の繊維の間に潮解性物質を含む水溶液109が入り込み易くなり紙の繊維間の水素結合を切り離してセルロースを溶解させる作用も高まりシート103の波打ちまたはカールを軽減する。また、界面活性剤を入れ浸透性が向上するとシート103の積載時の上下間での張り付きを軽減できる。
【0024】
ここで、潮解性とは、物質が空気中の水分を取り込んで水溶液となる現象のことで、この水溶液の濃度が一定の値に達すると水の吸収が止まる。大気中の水分が潮解性を有する物質に吸収され飽和水溶液となる。結晶の物質量は十分に大きく多少の水が結晶を溶かしても結晶が溶け尽くすことはない。したがって飽和水溶液の量は増え続け、すべての結晶を溶かし、なおかつその水溶液の水蒸気圧が大気中の水蒸気圧と等しくなるまで薄まる。大気の水蒸気圧と水溶液の水蒸気圧が平衡状態となったとき水分の吸収は止まる。
【0025】
また、水分の代わりに紙の繊維と水素結合し繊維同士の水素結合を抑制する非揮発性物質を含む溶液をシート103に付加することで、該溶液が繊維間に入り込み、シート103の乾燥にかかわらず繊維間の水素結合を生じさせない。これにより、シート103の波打ちまたはカールの低減を維持し続けることが可能となる。
【0026】
本実施形態の水溶液109は界面活性剤を含む。界面活性剤は、親水基と、疎水基を持つことを特徴とする物質である。ミセルやベシクル、ラメラ構造を形成することで、極性物質と非極性物質を均一に混合させる作用を有する。また、表面張力を弱める作用を有する。
【0027】
水溶液109に界面活性剤を混入することで浸透性が高まると紙の繊維の間に水溶液109が入り込み易くなり紙の繊維同士の水素結合を切り離してセルロースを溶解する作用も高まりシート103の波打ちまたはカールを軽減する。また、水のみを付加するだけではシート103への浸透性が低く水滴がシート103の表面に残ってしまう。そして、多数のシート103の積載時に上下間で張り付きが生じてしまうが、水溶液109に界面活性剤を混入することでシート103への浸透性が向上しシート103の積載性が改善する。
【0028】
本実施形態ではシート103に水溶液109を付加する機構として噴霧ノズル107a,107bを用いている。他に、シート103に水溶液109を付加する他の機構としてはウォータージェット機構や塗布ローラを用いたものなど種々の機構が適用できる。シート103に潮解性物質を含む水溶液109を付加する機構は噴霧ノズル107a,107bに限定されるものではない。
【0029】
図2に示す水溶液付加部2を用いて、定着装置1を通過した直後のシート103に水のみを噴霧した。そのときの水分の噴霧量すなわちシート103に付加する水分量を変化させたときのシート103の波打ちを測定した。紙種はキヤノン株式会社製CLC80g、サイズA3、すき目CDとし、画像は白ベタ、片面通紙とした。放置環境は温度約23℃、湿度約40%である。このとき、定着装置1における定着用回転体101の温度は170℃で、回転速度は300mm/secであり、加圧用回転体102の温度は100℃で、回転速度は300mm/secである。よって、水溶液付加部2の噴霧ノズル107a,107b間を通過するシート103の速度は300mm/secである。そのときの測定結果を以下の表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表1に示すように、紙のシート103が定着装置1を通過直後に水を噴霧しないものに比べて噴霧ノズル107a,107bを用いてシート103が定着装置1を通過直後に水を噴霧したものはシート103の波打ち高さが低減する。シート103への水の付加量を増加させていくと、水分付加直後は水分量が多いほうのシート103の波打ちが低減する傾向にある。噴霧から48時間後に紙の水分量が放置環境と平衡状態になると、水の噴霧量が多ければそれだけシート103の波打ちが大きくなる傾向にある。これは均一に噴霧した水分が時間をかけ不均一に蒸発したためだと考えられる。
【0032】
上記の検討結果より噴霧直後の水分量を保持することができれば、波打ちが低下したままの状態を維持すると考え、潮解性物質を含む水溶液109を用いる。
【0033】
潮解性物質は空気中の水分をとりこんで水溶液109となり、この水溶液109の濃度が一定の値に達するまで水を吸収しつづける性質を有する。潮解性物質を水と混ぜ水溶液109にしてシート103に噴霧することによって水分を付加し波打ち及びカールを低減しつつ、付加した水分をシート103内に維持する役割を果たす。
【0034】
適用可能な潮解性物質の一例を図3(a)に示す。各潮解性物質は水分活性値を用いてその保水力を評価する。水分活性値が小さいと保水効果が大きくなる。各潮解性物質において水分活性値が0.6以下の潮解性物質が特に紙のシート103における波打ち及びカール抑制に効果がある。図3(a)に示すように、水分活性値が0.6以下の潮解性物質としては、塩化マグネシウム(MgCl)、L−カルニチン、N−メチルグリシンがある。更に、BtEAC(ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド)、N−メチルモルホリン−N−オキシド(MMNO)、BtMAC(ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド)、塩化コリンなどがある。
【0035】
上記潮解性物質を紙のシート103に付加し水分量の変化を調べた。潮解性物質を含む水溶液109を付加する機構として図2に示す水溶液付加部2の噴霧ノズル107a,107bを用いた。ここでは潮解性物質として塩化コリン50%水溶液を用いた。そのときの測定結果を以下の表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
上記表2に示すように、シート103に対する水溶液109の噴霧から24時間放置後のシート103の水分量は、水溶液109を付加しないものに対して潮解性物質を含む水溶液109を付加したものの方が大きいことがわかる。そして、潮解性物質が水分をシート103の内部に保持していることがわかる。
【0038】
水溶液109に界面活性剤を入れシート103への水溶液109の浸透性が向上するとシート103の紙繊維の間に水溶液109が入り込み易くなる。そして、紙の繊維間の水素結合を切り離してセルロースを溶解する作用も高まりシート103の波打ちまたはカールを軽減する。水溶液109を噴霧するだけでは水滴がシート103の表面に残ってしまい、多数のシート103の積載時に上下間で張り付きが生じる。水溶液109に界面活性剤を混入することで浸透性を高め、シート103の表面の水滴をすばやくシート103の内部に吸収させることによりシート103の積載性を改善した。水溶液109に混入する界面活性剤としては非イオン性の界面活性剤であるアセチレングリコールを用いた。
【0039】
図3(b)は界面活性剤を1%含む水溶液109と、水のみをシート103に塗布したときのシート103の伸縮を測定したものである。シート103は水分が入ると膨張するので、膨張の速度が大きいと浸透性が高いと判断できる。図3(b)より界面活性剤を含む水溶液109の浸透性が水のみの場合の浸透性よりも高いことがわかる。
【0040】
定着装置1を通過直後のシート103に水溶液付加部2の噴霧ノズル107a,107bを用いて潮解性物質を含む水溶液109を噴霧し、シート103の波打ち高さを測定した。シート103を20枚積載したときのシート103の波打ち高さを測定した。噴霧直後と噴霧から48時間後にシート103の波打ち高さの測定をおこない、波打ち高さの変化をみた。放置環境は温度約23℃、湿度約40%である。このとき、定着装置1の定着用回転体101の温度は170℃で、回転速度は300mm/secであり、加圧用回転体102の温度は100℃で、回転速度は300mm/secである。よって、水溶液付加部2の噴霧ノズル107a,107b間を通過するシート103の速度は300mm/secである。シート103に噴霧する水溶液109は潮解性を有する塩化コリン50%水溶液と、潮解性を有しさらに紙の繊維間の水素結合を切り離す作用を有するN−メチルモルホリン−N−オキシド(MMNO)の50%水溶液を用いた。潮解性物質となるN−メチルモルホリン−N−オキシド(MMNO)はアミンオキシドからなる化合物群に属している。そのときの測定結果を以下の表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
上記表3に示すように、シート103に対して水溶液109を噴霧することでシート103の波打ちが低減し、さらに噴霧から48時間後もシート103の波打ちは低化せず低いままの状態を保っていた。水分量に関しては、水分を噴霧しない場合では、定着装置1を通過直後のシート103の水分量は4.4%、定着装置1を通過後に48時間放置するとシート103の水分量は5.5%となる。塩化コリン50%水溶液をシート103に噴霧した場合では、噴霧直後のシート103の水分量は7.7%、噴霧から48時間後のシート103の水分量は6.0%となる。N−メチルモルホリン−N−オキシドの50%水溶液をシート103に噴霧した場合では、噴霧直後のシート103の水分量は6.5%、噴霧から48時間後のシート103の水分量は5.8%となる。これにより潮解性物質を含む水溶液109を噴霧した場合、シート103の水分量を保持できていることがわかり、シート103の波打ち高さも低減した。さらに紙の繊維間の水素結合を切り離してセルロースを溶解する作用を有する潮解性物質を含む水溶液109はシート103の波打ち低減効果が大きい。
【0043】
また、潮解性物質として、N−エチルモルホリン−N−オキシド(EMNO)にもN−メチルモルホリン−N−オキシド(MMNO)と同等のシート103の波打ち及びカール抑制作用を有している。また、アミンからなる化合物群も潮解性を有する物質がある。例えば、L−カルニチン、N−メチルグリシン、BtEAC(ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド)、N−メチルモルホリン−N−オキシド(MMNO)、BtMAC(ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド)がある。さらには、塩化コリン、アセトアミドエタノール、チアミン塩酸塩、ピラゾールなどがある。ここで、アミンとはアンモニアの水素を炭化水素基で1つ以上置換した物質をいう。
【0044】
上記実験により潮解性物質を含む水溶液109を用いたシート103への水溶液109の付加はシート103の波打ち及びカールを抑制する効果があることを確認した。
【0045】
また、定着装置1を通過する前のシート103に対して図2に示した水溶液付加部2を用いて水溶液109を噴霧し、その後、定着装置1により熱と加圧力が加わった場合においてもシート103の波打ち及びカールの抑制効果を確認した。
【0046】
水分の代わりに紙の繊維と水素結合し繊維同士の水素結合を抑制する非揮発性物質を含む溶液をシート103に付加することで、溶液が紙の繊維間に入り込み、シート103の乾燥にかかわらず繊維間の水素結合を生じさせない。これにより、シート103の波打ちまたはカールの低減を維持し続けることが可能となる。
【0047】
また、水溶液109に界面活性剤を混入することで浸透性が高まると紙の繊維の間に水溶液109が入り込み易くなり紙の繊維同士の水素結合を切り離してセルロースを溶解する作用も高まりシート103の波打ちまたはカールを軽減する。また、水のみを付加するだけではシート103への浸透性が低く水滴がシート103の表面に残ってしまい、多数のシート103の積載時に上下間で張り付きが生じてしまう。界面活性剤を水溶液109に混入することでシート103への浸透性が向上しシート103の積載性が改善する。
【符号の説明】
【0048】
1…定着装置
103…シート
107a,107b…噴霧ノズル
109…溶解性物質を含む水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートにトナー画像を加熱定着させる定着手段を備え、前記定着手段によりトナー画像を加熱定着されたシートに、水分の蒸発を妨げる潮解性物質を含む水溶液を付加することを特徴とする水溶液付加装置。
【請求項2】
前記潮解性物質は、アミンオキシドからなる化合物群に属していることを特徴とする請求項1に記載の水溶液付加装置。
【請求項3】
前記シートが紙のとき、前記潮解性物質は、紙の繊維間の水素結合を切り離してセルロースを溶解する作用を有し、
前記潮解性物質において少なくとも一つは、N−メチルモルホリン−N−オキシド(MMNO)またはN−エチルモルホリン−N−オキシド(EMNO)を含む溶液であることを特徴とする請求項2に記載の水溶液付加装置。
【請求項4】
前記潮解性物質は、アミンからなる化合物群に属していることを特徴とする請求項1に記載の水溶液付加装置。
【請求項5】
前記潮解性物質において少なくとも一つは、塩化コリンを含む溶液であることを特徴とする請求項4に記載の水溶液付加装置。
【請求項6】
前記水溶液には、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の水溶液付加装置。
【請求項7】
シートに潮解性物質を含む水溶液を付加する水溶液付加手段が該シートの表裏側に配置されており、該水溶液付加手段により該シートの両面もしくは片面に水溶液を付加することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の水溶液付加装置。
【請求項8】
前記水溶液付加手段は噴霧ノズルまたはウォータージェット機構を有することを特徴とする請求項7に記載の水溶液付加装置。
【請求項9】
前記定着手段によりシートが乾燥し、再びシートの水分量が放置環境と平衡状態となる前に前記シートに潮解性物質を含む水溶液を付加することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の水溶液付加装置。
【請求項10】
シートにトナー画像を形成する画像形成手段と、画像形成されたシートにトナー画像を加熱定着させる請求項1〜9の何れか1項に記載の水溶液付加装置と、を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
シートが前記水溶液付加装置を通過しトナー画像をシートに定着した後のシート搬送途中にシートに潮解性物質を含む水溶液を付加する水溶液付加手段を有することを特徴とする請求項10に記載の画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−13971(P2012−13971A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150771(P2010−150771)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】