説明

画像形成装置

【課題】インク吸引処理を終えてからワイピング処理を終了するまでの処理時間を短縮することを課題とする。
【解決手段】駆動部230によりキャップ211Bをキャッピング位置へ移動させてキャップにより記録ヘッド7A,7Bをキャッピングし、吸引ポンプによる吸引動作を実行して記録ヘッドのノズルからインクを吸い出すインク吸引処理を行った後、駆動部によりキャップをデキャップ位置へ移動させる。この移動の動作に連動して、キャップがデキャップ位置に位置した時にワイパー部材240がワイピング動作開始位置に位置するように、ワイパー部材を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドの吐出口から吐出されるインク液滴を記録材に付着させることにより記録材上に画像を形成するインクジェット方式の画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の画像形成装置としては、主に、プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、これらの複合機などの製品として知られている。インクジェット方式の画像形成装置は、記録ヘッドから記録材に対してインク液滴を吐出して、画像形成(記録、印字、印写、印刷も同義語で使用される場合がある。)を行う。なお、記録材とは、紙に限定するものではなく、OHPなどを含み、画像を構成するインク液滴が付着可能なものを意味し、画像記録媒体、被記録媒体あるいは記録媒体などとも称されることがある。インクジェット方式の画像形成装置には、記録ヘッドが主走査方向に移動しながらインク液滴を吐出して画像を形成するシリアル型の画像形成装置と、記録ヘッドが移動しない状態でインク液滴を吐出して画像を形成するライン型ヘッドを用いるライン型の画像形成装置とがある。
【0003】
本願明細書における「画像形成装置」とは、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の記録材にインク液滴を吐出して画像形成を行う装置を意味する。ここでいう「画像形成」には、文字や図形等の意味を持つ画像を記録材に付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を記録材に付与すること(単にインク液滴を記録材に着弾させること)も含まれる。また、吐出する「インク」は、一般にインクと称されるものに限らず、吐出される時に液体であるものであれば特に限定されるものではない。したがって、例えば、DNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる。また、「画像」とは、平面に付与されるものに限らず、立体物に付与されるもの、あるいは、立体物自体を造形して形成される像も含まれる。
【0004】
インクジェット方式の画像形成装置は、記録ヘッドの吐出性能を維持するために、非稼動時の所定のタイミングで、記録ヘッドの吐出面に形成された吐出口からインクを吸い出すインク吸引処理を行い、その後、ワイパー部材で記録ヘッドの吐出面上の不要なインクを除去するワイピング処理を行うものがある(例えば特許文献1)。インク吸引処理の際に吐出口付近にインクが付着してしまうことがあるが、ワイピング処理を行うことによりこれを除去することができる。
【0005】
インクジェット方式の画像形成装置は、一般に、1つの記録ヘッドの吐出面に多数の吐出口が配置されており、1つの記録ヘッドの吐出面に設けられている各吐出口から吐出されるインクは同色である。このような画像形成装置においては、ワイピング処理を簡素化するために、次のような簡素なワイピング機構を採用することが多い。すなわち、主走査方向へ移動する記録ヘッドの吐出面移動経路に対してワイパー部材を進退させるワイピング機構である。このワイピング機構は、インク吸引処理を終えて記録ヘッドが主走査方向へ移動するときに、その吐出面移動経路上にワイパー部材を移動させる。これにより、主走査方向へ移動する記録ヘッドがワイピング機構を通過する際、記録ヘッドの吐出面がワイパー部材によって摺擦され、ワイピング処理がなされる。
【0006】
一方、1つの記録ヘッドの吐出面上に、例えば互いに異なる色のインクをそれぞれ吐出する吐出口の列を複数列設けたインクジェット方式の画像形成装置も提案されている。この画像形成装置においては、吐出口の列の延び方向と主走査方向とが一致しておらず、多くの場合には吐出口の列の延び方向は主走査方向に対して直交している。そのため、上述したような簡素なワイピング機構を用いたワイピング処理、すなわち、ワイパー部材に対する吐出面の相対移動方向が主走査方向に一致するワイピング処理では、一方の吐出口の列を摺擦したときのインクが付着したままのワイパー部材で、他方の吐出口の列を摺擦することになる。この場合、当該他方の吐出口に対し、その吐出口から吐出されるインクの色とは異なる色のインクが付着してしまい、混色を生じさせ、色再現性が低下するなどの不具合が生じる。そのため、異なる色のインクを吐出する吐出口の列を1つの記録ヘッドの吐出面上に設けた画像形成装置においては、記録ヘッドの移動を停止させた状態で、その吐出面に対してワイパー部材を吐出口の列の延び方向に沿って移動させるワイピング機構を用いることにより、その吐出面を摺擦してワイピング処理を行うことが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、このようなワイピング機構を用いる場合、インク吸引処理を終えてからワイピング処理を終了するまでの間に、少なくとも、キャップ部材を記録ヘッドの吐出面から離間させる移動動作、記録ヘッドをワイピング機構まで主走査方向へ移動させてワイピング処理の開始準備をする移動動作、ワイパー部材を吐出面に沿って移動させてワイピング処理を実行する移動動作という、3段階の移動動作を順次行うものであった。そのため、処理に時間がかかってしまうという問題があった。
【0008】
以上の問題は、異なる色のインクを吐出する吐出口の列を1つの記録ヘッドの吐出面上に複数設けた画像形成装置に限らず、記録ヘッドの吐出面とワイパー部材とを主走査方向とは異なる方向に沿って相対移動させてワイピング処理を行う画像形成装置であれば、同様に生じ得るものである。
【0009】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、インク吸引処理を終えてからワイピング処理を終了するまでの処理時間を短縮することができる画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、記録材に対して吐出面上の吐出口からインク液滴を吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドの吐出面を被覆するためのキャップ部材と、該キャップ部材により該記録ヘッドの吐出面を被覆する被覆状態となる被覆位置と被覆しない非被覆状態となる非被覆位置との間で該キャップ部材と該記録ヘッドとを相対移動させる第1移動手段と、該キャップ部材に設けられた吸引口から該キャップ部材の内部を吸引する吸引手段と、該記録ヘッドの吐出面を摺擦して該吐出面上の不要なインクを除去するワイパー部材と、該記録ヘッドの吐出面に沿って該吐出面の始端側から終端側に向けて該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させる第2移動手段とを備え、所定のタイミングで、上記第1移動手段により上記被覆状態にし、上記キャップ部材の内部が密閉された状態で上記吸引手段による吸引動作を実行することにより該吐出口からインクを吸い出すインク吸引処理を行った後、該第1移動手段により該キャップ部材及び上記記録ヘッドを上記非被覆位置に位置させ、その後、上記第2移動手段により上記ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させて該ワイパー部材により該記録ヘッドの吐出面上の不要なインクを除去するワイピング処理を行う画像形成装置において、上記第1移動手段は、上記キャップ部材及び上記記録ヘッドを上記被覆位置から上記非被覆位置へ相対移動させる動作に連動して、該キャップ部材及び該記録ヘッドが該非被覆位置に位置した時に上記ワイパー部材及び該記録ヘッドが上記第2移動手段による相対移動開始位置に位置するように、該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の画像形成装置において、上記第1移動手段は、上記キャップ部材を移動させることで該キャップ部材と上記記録ヘッドとを相対移動させるものであり、上記第2移動手段は、上記ワイパー部材を移動させることで該ワイパー部材と上記記録ヘッドとを相対移動させるものであり、上記ワイパー部材を上記キャップ部材に固定するとともに、上記第1移動手段と上記第2移動手段とを単一の移動手段で構成したことを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項2の画像形成装置において、上記単一の移動手段は、上記キャップ部材を所定の移動経路に沿って往復移動させるものであり、上記所定の移動経路は、上記被覆位置と上記非被覆位置との間で上記キャップ部材を上記記録ヘッドの吐出面に対して接離させる第1移動経路部と、上記ワイパー部材が該記録ヘッドの吐出面を摺擦するように該記録ヘッドの吐出面に沿って該キャップ部材を移動させる第2移動経路部とから構成されていることを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置において、上記被覆状態のときに上記記録ヘッドの吐出面が鉛直方向真下以外の方向を向くように構成されており、上記被覆状態のときに下端となる上記吐出面の端部の下方に位置する箇所にインク受部が設けられており、上記第2移動手段は、上記被覆状態のときに上端となる上記吐出面の端部が始端となり、かつ、該被覆状態のときに下端となる該吐出面の端部が終端となるように、上記ワイパー部材と上記記録ヘッドとを相対移動させることを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項4の画像形成装置において、上記インク受部は、上面が開口していて内部にインクを収容するインク収容室を有し、該インク収容室の側壁は、上記被覆状態のときに該記録ヘッドと当接して高さが低くなり、かつ、上記非被覆状態のときに該記録ヘッドとの当接が解除されて元の高さに戻るように変形可能に構成されていることを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、請求項4の画像形成装置において、上記インク受部には、インク吸収体が設けられていることを特徴とするものである。
また、請求項7の発明は、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の画像形成装置において、上記記録ヘッドの吐出面に当接する上記ワイパー部材の当接端部の幅は、該吐出面の幅よりも広く、かつ、上記インク受部のインク収容室の幅よりも狭いことを特徴とするものである。
また、請求項8の発明は、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置において、上記インク受部は、そのインク収容室が上記キャップ内部と連通していて、上記被覆状態のときに上記記録ヘッドの外壁に当接して該インク収容室が密閉状態となる構成を有し、上記吸引手段により上記インク収容室内のインクを上記キャップ部材内のインクとともに吸引可能に構成したことを特徴とするものである。
また、請求項9の発明は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像形成装置において、上記ワイパー部材は、上記記録ヘッドの吐出面に当接して撓んだ状態となり、その状態で該吐出面を摺擦することにより該吐出面上の不要なインクを払拭するワイパーブレードであり、上記第2移動手段は、上記ワイパー部材が上記記録ヘッドの吐出面の終端に到達する直前に、該ワイパー部材の撓みが小さくなるように該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させ、上記ワイパー部材が当接したまま上記記録ヘッドの吐出面の終端を通過するように該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させることを特徴とするものである。
また、請求項10の発明は、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の画像形成装置において、上記記録ヘッドの吐出面が鉛直面に対して略平行となる状態で記録材に対してインク液滴を吐出するように構成されており、上記被覆状態のときにも、上記記録ヘッドの吐出面が鉛直面に対して平行となるように構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、被覆位置と非被覆位置との間でキャップ部材と記録ヘッドとを相対移動させる第1移動手段により、その相対移動動作に連動して、ワイパー部材と記録ヘッドとを相対移動させることができる。このように連動する構成は、例えば、キャップ部材と記録ヘッドとの相対移動動作を動力源として、ワイパー部材と記録ヘッドとを相対移動させる機構的な構成で実現することができる。そして、本発明では、キャップ部材及び記録ヘッドを相対移動させて非被覆位置に位置させた時、これに連動して相対移動するワイパー部材及び記録ヘッドは、第2移動手段による相対移動開始位置に位置するようになる。したがって、インク吸引処理を終えた後、第1移動手段によりキャップ部材及び記録ヘッドを被覆位置から非被覆位置へ相対移動させる動作が完了した時点で、第2移動手段によりワイパー部材及び記録ヘッドを相対移動させて行うワイピング処理を開始する準備が完了することになる。その結果、本発明によれば、インク吸引処理を終えてからワイピング処理を終了するまでの間の移動動作は、キャップ部材を記録ヘッドの吐出面から離間させる移動動作(第1移動手段による被覆位置から非被覆位置への相対移動動作)とワイピング処理の開始準備をする移動動作(ワイパー部材及び記録ヘッドを第2移動手段による相対移動開始位置に位置させる移動動作)とが同時に完了し、その後、ワイパー部材を吐出面に沿って移動させる移動動作(第2移動手段による相対移動動作)を行うという2段階の移動動作を順次行うものとなる。よって、インク吸引処理を終えてからワイピング処理を終了するまでの間の処理時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明によれば、インク吸引処理を終えてからワイピング処理を終了するまでの処理時間を短縮することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1に係るインクジェットプリンタの要部を示す概略構成図である。
【図2】同インクジェットプリンタの記録ヘッド周囲の構成を、記録ヘッドの吐出方向(水平方向)から見たときの概略構成図である。
【図3】同インクジェットプリンタのメンテナンスユニットを示す斜視図である。
【図4】同メンテナンスユニットのキャッピング部の斜視図である。
【図5】(a)乃至(c)は、ノズル吸引処理及びワイピング処理を行う構成及び動作を模式的に表した説明図である。
【図6】同キャッピング部と一緒に駆動部130を示した斜視図である。
【図7】同キャッピング部の背面側の構成を示す斜視図である。
【図8】同キャッピング部の背面側の構成を、図7とは別の角度から見たときの示す斜視図である。
【図9】同メンテナンスユニットを用いて行うメンテナンス処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】(a)〜(c)は、同メンテナンスユニットにおける吸引用のキャップを水平方向から見たときの構成及び動作を説明するための模式図である。
【図11】(a)〜(c)は、キャップ移動用カムの回転角(回転位置)と、キャッピング部の状態との関係を示す説明図である。
【図12】(a)〜(c)は、実施形態2に係るプリンタにおいて、ノズル吸引処理終了後からワイピング処理の開始後までのキャッピング部の構成及び動作を模式的に表した説明図である。
【図13】同プリンタにおける印字前に行うメンテナンス処理の流れの概要を示すフローチャートである。
【図14】同プリンタにおいて、ラックが前進位置(被覆位置)、後退位置(非被覆位置=ワイピング動作開始位置)、ワイピング動作終了位置のそれぞれに位置するときのガイドレール上における被ガイド部の位置I,II,IIIを示す説明図である。
【図15】同プリンタにおける連続印字中に行うメンテナンス処理の流れの概要を示すフローチャートである。
【図16】同プリンタにおける印字後に行うメンテナンス処理の流れの概要を示すフローチャートである。
【図17】(a)及び(b)は、変形例1におけるL字型キャップの概略構成を示す説明図である。
【図18】変形例2におけるL字型キャップの概略構成を示す説明図である。
【図19】(a)は、変形例3におけるL字型キャップの上面図であり、(b)は、同L字型キャップの側面図であり、(c)は、同L字型キャップを記録ヘッドとともに図示した斜視図である。
【図20】(a)及び(b)は、変形例4におけるキャッピング部の動作を模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態を「実施形態1」という。)について、画像形成装置としてのインクジェット記録装置であるシリアル型プリンタを例にとって、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態1に係るインクジェットプリンタの要部を示す概略構成図である。
図2は、本インクジェットプリンタの記録ヘッド周囲の構成を、記録ヘッドの吐出方向(水平方向)から見たときの概略構成図である。
このインクジェットプリンタにおいて、プリンタ側部に位置する2つの本体側板60間に横架したガイドロッド61に対してガイドブッシュ(軸受け)3aを介してキャリッジ3が摺動自在に保持されている。キャリッジ3は、主走査モータ4に接続された駆動プーリ6Aと従動プーリ6Bとの間に架け渡されたタイミングベルト5の移動に伴ってガイドロッド61に沿った方向(主走査方向)に移動する。
【0015】
本実施形態1では、キャリッジ3に2つの記録ヘッド7A,7B(図2中2点鎖線で示す。)が搭載されている。各記録ヘッド7A,7Bのノズル面(吐出面)には、それぞれ、多数のノズル(吐出口)が副走査方向(記録材搬送方向)に延びた2列のノズル列が形成されている。よって、キャリッジ3には、合計4つのノズル列が設けられ、各ノズル列からは、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)のインク滴がそれぞれ吐出される。記録ヘッド7A,7Bとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどのインク(記録液)を吐出するためのエネルギー発生手段として備えたもの等を使用できる。キャリッジ3は、記録ヘッド7A,7Bに各色のインクを供給するための各色のヘッドタンクを搭載している。このヘッドタンクには、インク供給チューブを介して図示しないメインタンク(インクカートリッジ)からインクが補充供給される。なお、インク滴を吐出する記録ヘッド7A,7B以外に、画像記録液としてのインクと反応することで当該インクの定着性を高める定着用処理液(定着用インク)を吐出する記録ヘッドを設けてもよい。
【0016】
記録ヘッド7A,7Bのノズルは、乾燥によるノズル詰まりを発生させやすい。そのため、印字エラー等による動作停止中や電源OFF時などのキャリッジ3の非稼動時には、ノズル面をキャップ部材で覆って保湿し、乾燥によるノズル詰まりを防ぐ必要がある。本実施形態1においては、記録ヘッドの主走査方向における画像形成領域外に配置されているメンテナンスユニット100にキャップ部材としての2つのキャップ111A,111Bが設けられている。なお、メンテナンスユニット100は、主走査方向における画像形成領域外における少なくとも一端側に設ければよい。
【0017】
また、本プリンタの下部には、図1に示すように、給紙カセット10内の用紙を給紙するための給紙部が設けられている。この給紙部において、給紙カセット10には用紙積載部(圧板)11が設けられ、その用紙積載部11上には複数枚の用紙(記録材)12が積載される。用紙積載部11から用紙12を給紙する際、その最上位の用紙12に給紙ローラ13を当接させて回転駆動する。給紙ローラ13との対向位置には摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド14が設けられており、この分離パッド14は給紙ローラ13側に付勢されている。このような給紙部の構成によって、給紙ローラ13により送り出された最上位の用紙12は、他の用紙から分離して給紙される。
【0018】
また、本プリンタは、図1に示すように、給紙部によって給紙された用紙12を記録ヘッド7A,7Bのノズル面と対向する画像記録領域へ搬送するための搬送部を備えている。この搬送部は、用紙12を静電力で表面に吸着させて搬送する搬送ベルト21と、給紙部から給紙された用紙12の搬送方向を略鉛直方向上向きに案内するためのガイド15と、用紙12の先端を検知する第1反射型センサ(用紙有無検知センサ)200と、押え部材24によって搬送ベルト21側に付勢された先端加圧コロ25と、押え部材24に取り付けられ用紙12の先端を検知する第2反射型センサ(用紙有無検知センサ)201とを備えている。また、搬送ベルト21の表面を帯電させるための帯電手段を構成する帯電ローラ26も備えている。帯電ローラ26は、搬送ベルト21の表面に接触して搬送ベルト21の移動に従動回転するように配置されている。
【0019】
搬送ベルト21は、無端状ベルトであり、搬送ローラ27とテンションローラ28との間に掛け渡されている。副走査モータ31からタイミングベルト32及びタイミングローラ33を介して搬送ローラ27が回転駆動することにより、搬送ベルト21の表面に担持された用紙12を副走査方向に沿って鉛直方向上側に向けて搬送する。また、搬送ベルト21の内周面側には、記録ヘッド7A,7Bと対向する画像形成領域に対応する箇所に、ガイド部材29が設けられている。
【0020】
図2に示すように、搬送ローラ27の軸には、光を透過する透過部と透過しない非透過部とが交互に周方向に配列された円板型エンコーダシート34が取り付けられ、この円板型エンコーダシート34の透過部と非透過部を検知するエンコーダセンサ35が設けられている。これらの円板型エンコーダシート34及びエンコーダセンサ35によってエンコーダ36が構成されている。このエンコーダ36の検知結果と第2用紙有無検知センサ201の検知結果等に基づいて、用紙12の副走査方向位置を把握することが可能である。
また、キャリッジ3には、光を透過する透過部と透過しない非透過部とが交互に直線状に配列されたリニアエンコーダシート42が設けられており、このリニアエンコーダシート42の透過部と非透過部を検出する透過型フォトセンサからなる図示しないエンコーダセンサが設けられている。このエンコーダセンサの検知結果に基づいて、キャリッジ3の主走査方向位置を把握することができる。
【0021】
また、本プリンタは、図1に示すように、記録ヘッド7A,7Bで画像が記録された用紙12を排紙するための排紙部を備えている。この排紙部は、搬送ベルト21から用紙12を分離するための分離爪51と、排紙ローラ52及び排紙コロ53と、排紙される用紙12をストックする排紙トレイ54とを備えている。
【0022】
以上のように構成された本実施形態1のプリンタにおいては、給紙部から用紙12が1枚ずつ分離給紙され、給紙された用紙12の搬送方向をガイド15によって鉛直方向上向きに案内される。そして、その用紙先端が第1用紙有無検知センサ200によって検知された後、搬送ベルト21上に送られた用紙12は、先端加圧コロ25で搬送ベルト21に押し付けられ、その用紙先端が第2用紙有無検知センサ201によって検知され、搬送ベルト21の移動に伴って鉛直方向上向きに搬送される。このとき、帯電ローラ26に対してプラス(正極)出力とマイナス(負極)出力とが交互に繰り返される電圧すなわち交番電圧が印加され、搬送ベルト21には、ベルト移動方向(副走査方向)に、プラスとマイナスの電荷が所定の幅で帯状に交互に印加される。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト21上に用紙12が給送されると、用紙12が搬送ベルト21に静電力で吸着され、搬送ベルト21の周回移動に伴って用紙12が副走査方向に搬送される。
【0023】
記録ヘッド7A,7Bによって画像を記録する際、搬送ベルト21による用紙12の搬送は一時停止され、キャリッジ3を主走査方向へ移動させながら、画像信号に応じて記録ヘッド7A,7Bを駆動して、停止している用紙12に対してインク滴を吐出し、1行分の画像を記録する。その後、用紙12を所定量だけ副走査方向へ搬送して再び一時停止した後、次の行の記録を行う。記録終了信号あるいは用紙12の後端が所定の副走査方向位置に到達した旨の信号を受けることにより、画像形成動作は終了し、用紙12は排紙トレイ54に排紙される。
【0024】
なお、キャリッジ3の走査方向と画像形成との関係では、一方向の走査時にだけ画像を形成する片方向記録モードと、両方向の走査時のいずれでも画像を形成する両方向記録モードがある。いずれかのモードをユーザーからの指定や印刷画像に応じて設定したり、あるいは、いずれかのモードだけを行う構成としたりすることは任意である。
【0025】
次に、メンテナンスユニット100の構成及び動作について説明する。
図3は、メンテナンスユニット100を示す斜視図である。
メンテナンスユニット100は、記録ヘッド7A,7Bの吐出性能の回復、維持や、非稼働中に記録ヘッドのノズルの保湿を行うためのものである。メンテナンスユニット100は、記録ヘッド7A,7Bをキャッピングするキャッピング部110と、メンテナンスのために記録ヘッド7A,7Bから吐出させるイングを受ける空吐出部120と、キャッピング部110及び空吐出部120並びに後述の吸引ポンプに対して駆動力を伝達する駆動部130とを有する。メンテナンスユニット100は、図2中右側の本体側板60に位置決めされた状態でネジ固定されている。図3においては、キャリッジ3上の記録ヘッド7A,7Bが紙面前方からメンテナンスユニット100に対向するように位置することになる。
【0026】
図4は、キャッピング部110の斜視図である。
キャッピング部110は、2つのキャップ111A,111Bを有し、非稼働中に、2つの記録ヘッド7A,7Bのノズル面をそれぞれキャップ111A,111Bで被覆してノズルの保湿を行う。また、キャッピング部110は、キャップ111Bで被覆した状態の記録ヘッドのノズルから記録ヘッド内のインクを吸い出すノズル吸引処理を行ってインク詰まり等を解消し、記録ヘッド7A,7Bの吐出性能の回復、維持する処理も行う。更に、本実施形態1において、キャッピング部110は、ノズル吸引処理後のノズル面をワイパー部材でワイピングするワイピング処理も行う。キャップ111A,111Bは、ラック113に対して水平方向(図中前後方向)へスライド移動可能に取り付けられており、そのスライド移動範囲はラック113に設けられたガイド溝113aによって制限されている。キャップ111A,111Bは、上下2つの圧縮バネ118によってラック113から図中前方へ付勢されている。
【0027】
キャップ111A,111Bを搭載したラック113は、駆動部130からの駆動力を受けて、水平方向(図3及び4中前後方向)へ移動することができる。これにより、ラック113に搭載されたキャップ111A,111Bとの対向位置に記録ヘッド7A,7Bが位置するとき、各記録ヘッド7A,7Bに向けてキャップ111A,111Bを近付けて記録ヘッド7A,7Bのノズル面を被覆状態としたり、記録ヘッド7A,7Bからキャップ111A,111Bを離間させて記録ヘッド7A,7Bのノズル面を非被覆状態としたりすることができる。2つのキャップ111A,111Bは、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に対向する開口の縁部111aがゴム等の弾性変形部材で形成されている。これにより、キャップ111A,111Bが圧縮バネ118の付勢力を受けて記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接すると、キャップ111A,111Bの縁部111aが弾性変形し、キャップ111A,111Bの開口が記録ヘッド7A,7Bのノズル面によって高いシール性をもって閉塞される。
【0028】
図5(a)乃至(c)は、ノズル吸引処理及びワイピング処理を行う構成及び動作を模式的に表した説明図である。
ノズル吸引処理を行うためのキャップ111Bは、その開口とは反対側の背面部に吸引口が設けられており、その吸引口に吸引管114の一端が接続されている。この吸引管114の他端には、吸引手段としての吸引ポンプ150が接続されている。図5(a)に示すように、ラック113に搭載されたキャップ111Bとの対向位置にいずれかの記録ヘッド7A,7Bが位置するとき、駆動部130からの駆動力を受けてキャップ移動用カム135を回転させると、図5(b)に示すように、ラック113が記録ヘッド7A,7Bに向けて移動し、最終的にはキャップ111Bの縁部111aが記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接して被覆状態にする。その後、吸引ポンプ150を駆動して吸引動作を実行することにより、キャップ111Bと記録ヘッド7A,7Bのノズル面との吸着力が高まってキャップ内部の密閉性が高まるとともにキャップ内部が負圧となり、記録ヘッド内のインクがノズルから吸い出される。吸い出されたインクは、吸引ポンプ150の吸引力によってキャップ111Bの吸引口から吸引管114を通って廃液タンク151に送られる。
【0029】
ここで、本実施形態1においては、後述するように、キャップ111Bで記録ヘッド7A,7Bのノズル面を被覆した状態のままそのキャップ内部を外部に連通させてキャップ内を大気開放する。そのため、本実施形態1のキャップ111Bは、キャップ内外を連通させる連通孔である大気開放孔111bがキャップ111Bの背面に設けられている。ただし、上述したノズル吸引処理を行うためには、キャップ内部を密閉状態にする必要があるので、その大気開放孔111bを塞がなければならない。そのため、本実施形態1では、大気開放孔111bを塞ぐ蓋部材としての大気開放弁116が設けられている。この大気開放弁116は、ラック113に対して水平方向(図5中左右方向)へスライド移動可能な状態で、ラック113の内壁における大気開放孔111bの対向位置に取り付けられている。そのスライド移動範囲はラック113に設けられた図示しないガイド溝によって制限されている。そして、この大気開放弁116は、圧縮バネ117によってラック113から図5中右側(大気開放孔111b側)へ付勢されている。
【0030】
本実施形態1においては、ラック113が後退位置にある時、図5(a)に示すように、キャップ111Bはキャップ用圧縮バネ118の付勢力によってラック113に対して最前進位置までスライドした状態でそこに位置決めされる。また、大気開放弁116も、大気開放用圧縮バネ117の付勢力によってラック113に対して最前進位置までスライドした状態でそこに位置決めされる。このとき、大気開放弁116は、図5(a)に示すように、最前進位置に位置するキャップ111Bに設けられた大気開放孔111bから離間した状態になる。
一方、ラック113が前進位置にある時、図5(b)に示すように、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接したキャップ111Bは、キャップ用圧縮バネ118の付勢力に抗してラック113内側へ押し込まれた後退位置に位置することになる。キャップ111Bがラック113に対して後退位置に位置するとき、大気開放弁116は、そのキャップ用圧縮バネ118の背面に当接し、大気開放用圧縮バネ117の付勢力に抗してラック113内側へ押し込まれる。よって、ラック113が前進位置にある時には、図5(b)に示すように、キャップ111Bの開口はノズル面に密着し、かつ、そのキャップ背面に設けられた大気開放孔111bは大気開放弁116によって閉塞された状態になるので、キャップ内は密閉状態になる。これにより、ノズル吸引処理が可能な状態になる。
【0031】
また、本実施形態1においては、図5(b)に示すようにラック113が前進位置(被覆位置)にある状態でノズル吸引処理を行った後、再び、ラック113を後退位置(非被覆位置)に移動させて図5(a)に示す状態に戻り、ワイピング処理に移行する。本実施形態1では、ワイパー部材140がキャップ111Bの上方位置で、ワイパー保持部141によってラック113に固定されている。このため、ワイパー部材140は、ラック113の移動と一体となって移動する。本実施形態1では、ラック113が後退位置(非被覆位置)に移動した時、図5(a)に示すように、ワイパー部材140は、ワイピング移動開始位置に位置するように構成されている。したがって、本実施形態1においては、ラック113が後退位置(非被覆位置)に移動した後、そのままワイパー部材140を下方へ移動させることで、そのワイパー部材140により記録ヘッド7A,7Bのノズル面を摺擦(ワイピング)して、ノズル面に付着した不要なインクを除去するともに、ノズルのメニスカスを形成させるワイピング処理を行うことができる。
【0032】
本実施形態1では、ワイパー部材140の上下方向の移動は、第1移動手段としての駆動部130とは別の駆動源からの駆動力を受けて行うように構成されている。具体的には、図示しない駆動源からの駆動力を受けてキャッピング部110のフレーム部112を上下動させるフレーム駆動機構(第2移動手段)により、フレーム部112を上下動させることによってワイパー部材140を上下動させる。なお、ワイパー部材140を上下動させる構成はこれに限らず、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に沿ってそのノズル面の始端側から終端側に向けてワイパー部材140と記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させることができるものであればよい。
【0033】
ワイパー部材140は、ゴムブレード等の一般的なワイパー部材を用いることができる。ワイパー部材140は、ワイピング時には、図5(c)に示すように、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に押し付けられて撓んだ状態となって、ノズル面を摺擦しながらノズル面に対して相対移動する。そして、ワイピング終了時にはワイパー部材140をノズル面から離間させるのであるが、その離間時に撓んだ状態のワイパー部材140が復元して跳ね上がり、ノズル面から除去したインクが飛散することがある。このように飛散したインクが機内を汚染することがないように、本実施形態1のキャッピング部110には、ワイパー部材140の上下に飛散防止板142が配置されている。なお、ワイパー部材140の下方に位置する飛散防止板142は、ノズル面から除去したインクがワイパー部材140から垂れ落ちたり、ノズル吸引処理後のデキャップ時にキャップ111Bの内部に残った僅かなインクが垂れ落ちたりして、機内を汚染するのを防止する機能も果たしている。
【0034】
空吐出部120は、非稼働中に、各記録ヘッド7A,7Bに対向して、その記録ヘッドから吐出されるインクを受け取って回収するものである。本実施形態1では、記録ヘッド7A,7Bの吐出性能の回復、維持のため、所定のタイミングで、各記録ヘッド7A,7Bを空吐出部120に対向させ、ノズルからインクを空吐出する空吐出処理を行う。空吐出部120には、図3に示すように、空吐出処理の際に、記録ヘッドから垂れ落ちるインクで機内が汚染されるのを防止するため、垂れ落ちるインクを受けるインク受け部材121が設けられている。
【0035】
図6は、キャッピング部110と一緒に駆動部130を示した斜視図である。
駆動部130は、キャッピング部110及び空吐出部120での処理に必要な駆動力を、これらに伝達するためのものである。駆動部130は、キャッピング部110のフレーム部112(図6では説明のため図示を省略してある。)に取り付けられている。駆動部130は、駆動源であるステッピングモータ131と、ステッピングモータ131で発生した駆動力を伝達するためのギヤ列132と、ギヤ列132によって伝達された駆動力によって回転駆動する駆動シャフト133とを備えている。ステッピングモータ131は、正逆回転駆動可能な構成であり、図示しない制御部によりその回転方向、回転位置、回転角速度が制御される。駆動シャフト133の一端側は、キャッピング部110のフレーム部112の内部へ挿通されている。
【0036】
駆動シャフト133上には、これと同軸にギヤ列132と噛み合う被駆動ギヤ134と、キャップ移動用カム135と、空吐出部移動用カム136とが設けられている。キャップ移動用カム135は、図7に示すように、キャッピング部110のラック113の背面(キャップ111A,111Bが設けられた面とは反対側の面)に設けられたピン115の対向位置に配置される。本実施形態1のキャップ移動用カム135は、図8に示すように外枠135aと内枠135bの間に略楕円状のカム溝135cが形成された構造を有し、このカム溝135c内にラック113の背面のピン115を入り込ませた状態で組み付けられる。このような構造を採用することで、駆動シャフト133が回転し、キャップ移動用カム135の回転角が変わると、ラック113のピン115がキャップ移動用カム135のカム溝内を移動して、ラック113が水平方向へ変位する。したがって、ステッピングモータ131によりキャップ移動用カム135の回転角を制御することにより、各記録ヘッド7A,7Bに対してキャップ111A,111Bを近接させる方向へ前進させて被覆状態としたり、各記録ヘッド7A,7Bに対してキャップ111A,111Bを離間させる方向へ後退させて非被覆状態としたりすることができる。
【0037】
空吐出部移動用カム136も、キャップ移動用カム135と同様に、空吐出部120を水平方向へ変位させるためのものである。駆動シャフト133に対するキャップ移動用カム135及び空吐出部移動用カム136の取り付け角は、互いにずれている。具体的には、キャップ111A,111Bが前進位置に位置して記録ヘッド7A,7Bを被覆状態にしているときには、空吐出部120は後退位置に位置し、逆に、空吐出部120が前進位置に位置して記録ヘッド7A,7Bの空吐出処理を行うときには、キャップ111A,111Bは後退位置に位置するように、駆動シャフト133に対するキャップ移動用カム135及び空吐出部移動用カム136の取り付け角が設定されている。
【0038】
また、本実施形態1においては、ステッピングモータ131が正転しているときには駆動シャフト133に駆動力が伝達され、ステッピングモータ131が逆転しているときには駆動シャフト133に駆動力が伝達されないように構成されている。このような構成は、例えば、駆動部130のギヤ列132にワンウェイクラッチを介在させることで実現できる。一方、ステッピングモータ131が逆転しているとき、その駆動力は吸引ポンプ150に伝達されるように構成されている。吸引ポンプ150への駆動力伝達経路も、例えばワンウェイクラッチを用いるなどして、ステッピングモータ131が逆転しているときには吸引ポンプ150に駆動力が伝達され、ステッピングモータ131が正転しているときには吸引ポンプ150に駆動力が伝達されないように構成されている。このように、本実施形態1では、キャッピング部110や空吐出部120を駆動する駆動源と、吸引ポンプの駆動源とを共通化し、駆動源の数を減らすことで、低コスト化を図っているが、それぞれ別々の駆動源を使用してもよい。
【0039】
図9は、メンテナンスユニット100を用いて行うメンテナンス処理の流れを示すフローチャートである。
図10(a)〜(c)は、メンテナンスユニット100における吸引用のキャップ111Bを水平方向から見たときの構成及び動作を説明するための模式図である。なお、図10では、2つのキャップ用圧縮バネ118が1つのバネとして図示されている。
図11(a)〜(c)は、キャップ移動用カム135の回転角(回転位置)と、キャッピング部110の状態との関係を示す説明図である。
【0040】
本実施形態1においては、プリンタの電源投入直後、プリント動作の終了時、ユーザーのメンテナンス指示を受けた時などの所定のタイミングで、メンテナンス処理を実行する。メンテナンス処理では、まず、プリンタの制御部は、ステッピングモータ131の回転位置(回転角)がホームポジション(HP)であるか否かを確認する(S1)。ホームポジションの確認は、例えば、ステッピングモータ131のモータ軸に突起部を設けるとともに、その突起部が通過する回転軌道を通るように透過型の光学センサを配置し、その光学センサが突起部によって光路を遮られたことを検知したタイミングをホームポジションとする。ステッピングモータ131の回転位置がホームポジション(HP)でない場合には、ステッピングモータ131をホームポジションとなるまで正転させる(S2)。このホームポジションでは、キャッピング部110のキャップ111A,111Bは、図10(c)に示すように後退位置に位置し、空吐出部120も同様に後退位置に位置する。
【0041】
ステッピングモータ131をホームポジションとした後、制御部は、主走査モータ4を制御して、第1記録ヘッド7Aが吸引用のキャップ111Bと対向する位置(第1ヘッド吸引位置)まで、キャリッジ3を主走査方向に移動させる(S3)。その後、メンテナンスユニット100のステッピングモータ131を正転させてラック113を水平移動させ、キャップ111Bを記録ヘッド7Aに向けて前進させる(S4)。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S5)。これにより、図11(a)に示すように、キャップ移動用カム135のカム溝135cにおける長辺方向の部分にラック113の背面のピン115が位置し、ラック113は前進位置に位置決めされる。その結果、キャップ111Bの開口はキャップ用圧縮バネ118の付勢力により記録ヘッド7Aのノズル面に密着してノズル面が被覆状態となり、かつ、そのキャップ背面に設けられた大気開放孔111bは大気開放用圧縮バネ117によって付勢された大気開放弁116によって閉塞状態になる。したがって、キャップ111Bの内部は密閉状態になり、ノズル吸引処理が可能な状態になる。
【0042】
このようにしてキャップ111Bの内部を密閉状態にしたら、制御部は、ステッピングモータ131を逆転させ、吸引ポンプ150を駆動して吸引動作を実行し(S6)、インク吸引処理を実行する。これにより、吸引ポンプ150の吸引力によって第1記録ヘッド7Aのノズルからインクが吸い出され、吸い出されたインクはキャップ111Bの吸引口から吸引管114を通って廃液タンク151に送られる。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S7)。
【0043】
ここで、吸引動作を停止した時点において、キャップ111Bの内部にはノズルから吸い出したインクの一部が残っている。本実施形態1では、鉛直面に平行なノズル面に対して水平方向からキャップ111Bでキャッピングしているので、キャップ111Bの内部にインクが残っている状態でデキャップすると、キャップ111Bをノズル面から離間させた時にそのキャップの開口からキャップ内のインクが流れ出てしまい、機内をインクで汚染してしまう。そこで、本実施形態1では、次のような処理動作を実行する。
【0044】
制御部は、インク吸引処理後、所定時間経過するのを待ってから(S8)、ステッピングモータ131を正転させてラック113を後退させる(S9)。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S10)。これにより、図11(b)に示すように、キャップ移動用カム135のカム溝135cにおける長辺と短辺の中間方向の部分にラック113の背面のピン115が位置し、ラック113は、図10(b)に示す大気開放位置(前進位置と後退位置との間)に位置決めされる。ラック113が大気開放位置に位置するとき、キャップ111Bはキャップ用圧縮バネ118の付勢力によって記録ヘッド7Aのノズル面に当接した状態であるが、大気開放弁116は、キャップ背面に設けられた大気開放孔111bから離間した状態になる。これにより、大気開放孔111bは開放状態となり、キャップ111Bの内部は、その開口をノズル面で塞いだままの状態で、大気開放孔111bを通じて大気に開放された状態になる。この状態であれば、キャップ111Bの開口からインクが流れ出ることはない。しかも、大気開放孔111bは、キャップ内に残ったインクの液面よりも高い位置であるキャップ上部に設けられている。よって、その大気開放孔111bを開放状態にしても、大気開放孔111bからインクが漏れ出すこともない。
【0045】
このようにしてキャップ111Bを大気開放したら、制御部は、所定時間経過するのを待ってから(S11)、ステッピングモータ131を逆転させ、吸引ポンプ150を駆動して吸引動作を実行する(S12)。このとき、キャップ内は大気開放孔111bを通じて大気開放された状態となっているので、キャップ内部を吸引ポンプ150で吸引しても、記録ヘッド7Aのノズルからインクを吸い出すことはなく、キャップ内のインクを吸引口から吸引管114を通って廃液タンク151へ回収することができる。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S13)。
【0046】
このようにしてキャップ111B内のインクを除去したら、制御部は、ステッピングモータ131を正転させてラック113を更に後退させ(S14)、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S15)。これにより、図11(c)に示すように、キャップ移動用カム135のカム溝135cにおける短辺方向の部分にラック113の背面のピン115が位置し、ラック113は、図10(c)に示す後退位置に位置決めされる。ラック113が後退位置まで後退することで、キャップ111Bはラック113の移動に追従して記録ヘッド7Aのノズル面から離間し、デキャップされる。
【0047】
このようにラック113が後退位置まで後退した時、キャップ111Bの上方位置に設けられたワイパー部材140の先端部は、記録ヘッド7Aのノズル面の上端位置よりも僅かに上方に位置決めされる。この位置は、ワイピング移動開始位置であり、この位置からワイパー部材140を下方へ移動させることで、記録ヘッド7Aのノズル面を摺擦してワイピング処理を行うことができる。よって、制御部は、ラック113が後退位置まで後退したら、図示しないフレーム駆動機構を制御して、キャッピング部110のフレーム部112を下方へ移動させる。これにより、第1記録ヘッド7Aのノズル面がワイパー部材140によってワイピングされ(S16)、ノズル面上の不要なインクが除去される。
【0048】
続いて、制御部は、主走査モータ4を制御して、第1記録ヘッド7Aを空吐出部120と対向する位置までキャリッジ3を主走査方向に移動させ、記録ヘッド7Aを駆動制御してノズルからインクを空吐出部120内へ吐出する空吐出処理を行う(S17)。なお、ワイピング処理を終了した時点では、フレーム部112に取り付けられた空吐出部120は、第1記録ヘッド7Aのノズル面よりも下方に位置しているので、空吐出処理開始前の適当なタイミングでフレーム駆動機構を制御して、フレーム部112を上方へ移動させ、元の位置へ戻す。
【0049】
このようにして第1記録ヘッド7Aのメンテナンス処理が終了したら、次に、第2記録ヘッド7Bのメンテナンス処理に移行し、まず、制御部は、ステッピングモータ131の回転位置(回転角)がホームポジション(HP)であるか否かを確認する(S18)。ステッピングモータ131の回転位置がホームポジション(HP)でない場合には、ステッピングモータ131をホームポジションとなるまで正転させる(S19)。ステッピングモータ131をホームポジションとした後、制御部は、主走査モータ4を制御して、第2記録ヘッド7Bが吸引用のキャップ111Bと対向する位置(第2ヘッド吸引位置)まで、キャリッジ3を主走査方向に移動させる(S20)。その後、メンテナンスユニット100のステッピングモータ131を正転させてラック113を水平移動させ、キャップ111Bを記録ヘッド7Bに向けて前進させる(S21)。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S22)。これにより、ラック113は前進位置に位置決めされ、キャップ111Bは図10(a)に示す密閉状態となり、ノズル吸引処理が可能な状態になる。
【0050】
このようにしてキャップ111Bの内部を密閉状態にしたら、制御部は、ステッピングモータ131を逆転させ、吸引ポンプ150を駆動して吸引動作を実行し(S23)、インク吸引処理を実行する。これにより、吸引ポンプ150の吸引力によって第2記録ヘッド7Bのノズルからインクが吸い出され、吸い出されたインクはキャップ111Bの吸引口から吸引管114を通って廃液タンク151に送られる。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S24)。その後、制御部は、所定時間経過するのを待ってから(S25)、ステッピングモータ131を正転させてラック113を後退させる(S26)。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S27)。これにより、ラック113は、図10(b)に示す大気開放位置(前進位置と後退位置との間)に位置決めされる。これにより、大気開放孔111bは開放状態となり、キャップ111Bの内部は、その開口をノズル面で塞いだままの状態で、大気開放孔111bを通じて大気に開放された状態になる。そして、制御部は、所定時間経過するのを待ってから(S28)、ステッピングモータ131を逆転させ、吸引ポンプ150を駆動して吸引動作を実行する(S29)。このとき、キャップ内は大気開放孔111bを通じて大気開放された状態となっているので、キャップ内部を吸引ポンプ150で吸引しても、記録ヘッド7Bのノズルからインクを吸い出すことはなく、キャップ内のインクを吸引口から吸引管114を通って廃液タンク151へ回収することができる。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S30)。
【0051】
このようにしてキャップ111B内のインクを除去したら、制御部は、ステッピングモータ131を正転させてラック113を更に後退させ(S31)、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S32)。これにより、ラック113は、図10(c)に示す後退位置に位置決めされ、キャップ111Bがデキャップされる。この時、キャップ111Bの上方位置に設けられたワイパー部材140の先端部は、記録ヘッド7Bのノズル面の上端位置よりも僅かに上方に位置決めされ、ワイピング移動開始位置をとる。よって、制御部は、ラック113が後退位置まで後退したら、図示しないフレーム駆動機構を制御して、キャッピング部110のフレーム部112を下方へ移動させる。これにより、第2記録ヘッド7Bのノズル面がワイパー部材140によってワイピングされ(S33)、ノズル面上の不要なインクが除去される。その後、制御部は、主走査モータ4を制御して、第2記録ヘッド7Bを空吐出部120と対向する位置までキャリッジ3を主走査方向に移動させ、記録ヘッド7Bを駆動制御してノズルからインクを空吐出部120内へ吐出する空吐出処理を行う(S34)。なお、ワイピング処理を終了した時点では、フレーム部112に取り付けられた空吐出部120は、第2記録ヘッド7Bのノズル面よりも下方に位置しているので、空吐出処理開始前の適当なタイミングでフレーム駆動機構を制御して、フレーム部112を上方へ移動させ、元の位置へ戻す。
【0052】
このようにして2つの記録ヘッド7A,7Bのメンテナンス処理が終了したら、制御部は、ステッピングモータ131の回転位置(回転角)がホームポジション(HP)であるか否かを確認する(S35)。ステッピングモータ131の回転位置がホームポジション(HP)でない場合には、ステッピングモータ131をホームポジションとなるまで正転させる(S36)。そして、制御部は、主走査モータ4を制御して、第2記録ヘッド7Bが吸引用のキャップ111Bと対向する位置まで、キャリッジ3を主走査方向に移動させる(S37)。本実施形態1のメンテナンスユニット100は、第2記録ヘッド7Bが吸引用のキャップ111Bと対向するとき、第1記録ヘッド7Bがキャッピング用のキャップ111Aと対向するように構成されている。本実施形態1では、2つの記録ヘッド7A,7Bがそれぞれキャップ111A,111Bと対向する位置が、キャリッジ3のホームポジションとなる。
【0053】
キャリッジ3がホームポジションに位置した後、制御部は、ステッピングモータ131を正転させてラック113を水平移動させ、キャップ111A,111Bを記録ヘッド7A,7Bに向けて前進させる(S38)。そして、ステッピングモータ131のパルス数(ステップ数)が所定パルス数に達したら、ステッピングモータ131の回転を停止させる(S39)。これにより、ラック113は前進位置に位置決めされ、キャップ111A,111Bによって記録ヘッド7A,7Bのノズル面がキャッピングされ、ノズル面が保湿される。
【0054】
以上のように、本実施形態1ではインク吸引処理時に記録ヘッド7A,7Bのノズル面が鉛直面に平行であるため、そのノズル面をキャッピングするキャップ111Bの開口面も鉛直面となり、インク吸引処理後にそのままデキャップすると、キャップ111B内に残ったインクがその開口面からこぼれ落ちてしまう。しかしながら、本実施形態1によれば、インク吸引処理後、デキャップ前に、キャップ111B内を大気開放して吸引ポンプ150によりキャップ111B内に残ったインクを排出することができる。よって、デキャップ前にキャップ111B内のインクは排出されているので、デキャップ時に、ノズル面で塞がれていたキャップ111Bの開口からインクがこぼれ落ちる事態を防止できる。
しかも、本実施形態1においては、デキャップ前に大気開放するための構成として、キャップ111Bに設けられた連通孔である大気開放孔111bを塞ぐための蓋部材としての大気開放弁116を設け、この大気開放弁116で大気開放孔111bを塞いで大気開放孔111bを閉塞状態とし、また、大気開放孔111bを塞いでいる大気開放弁116を退避させることで大気開放孔111bを開放状態にする構成を採用している。このような構成を採用したことで、圧縮変形により連通孔を閉塞状態にし、また圧縮変形を復元させることにより連通孔を開放状態にするような従来の構成よりも、インク吸引処理時におけるキャップ内部の高い密閉性を確保することができ、インク吸引処理を安定、確実に行うことができる。
更に、本実施形態1においては、キャップ111Bを被覆位置と非被覆位置との間で移動させる第1移動手段としての駆動部130により、その移動動作に連動して、ワイパー部材140が記録ヘッド7A,7Bに対して相対移動するように構成されている。しかも、キャップ111Bを移動させて非被覆位置に位置させた時、これに連動して移動するワイパー部材140は、第2移動手段としてのフレーム駆動機構によるワイピング移動開始位置に位置するようになる。したがって、インク吸引処理を終えた後、駆動部130によりキャップ111Bを被覆位置から非被覆位置へ移動させる動作を行うだけで、ワイパー部材140を移動させて行うワイピング処理を開始することが可能となる。よって、インク吸引処理を終えてからワイピング処理を開始するまでの間の移動動作が少なく、処理時間の短縮化を図ることができる。
【0055】
なお、本実施形態1では、ワイパー部材140をキャッピング部110のフレーム部112に固定することで、キャップ111Bの被覆位置から非被覆位置への移動動作に連動してワイパー部材140が移動する構成を例に挙げて説明したが、この連動を実現する構成はこれに限られない。例えば、キャップ111Bとワイパー部材140とをリンク機構を介して互いに連動して移動するように構成するものが挙げられる。
【0056】
〔実施形態2〕
次に、本発明の他の実施形態(以下、本実施形態を「実施形態2」という。)について、画像形成装置としてのインクジェット記録装置であるシリアル型プリンタを例にとって、添付図面を参照して説明する。
なお、本実施形態2のプリンタは、メンテナンスユニットの構成を除いて、上記実施形態1のものと同様であるため、以下の説明では、上記実施形態1との共通点の説明は省略する。
【0057】
図12(a)〜(c)は、ノズル吸引処理終了後からワイピング処理の開始後までのキャッピング部210の構成及び動作を模式的に表した説明図である。
本実施形態2におけるキャッピング部210は、上記実施形態1と同様に、2つのキャップ211A,211Bを有し、そのうちの1つが吸引用のキャップ211Bとして使用される。ただし、本実施形態2のキャップ211Bには、上記実施形態1で設けられていた大気開放孔は設けられておらず、したがってその大気開放孔を塞ぐための大気開放弁も設けられている。そのため、インク吸引処理後のデキャップ前にキャップ111Bの内部に残ったインクを吸い出すことができない。しかしながら、本実施形態2のキャップ211Bは、その下部が記録ヘッド7A,7Bの下方まで迫り出したインク受部211cを有し、その鉛直方向断面が図12に示すように略L字型に形成されている。このインク受部211cが設けられていることで、インク吸引処理後のデキャップ時にキャップ111Bの内部に残ったインクが流れ出ても、そのインクをインク受部211cに収容し、機内汚染を防止している。
【0058】
インク受部211cの内部に形成されるインク収容室は、L字型キャップ211Bの本体内部と連通しており、図12(a)に示すように、L字型キャップ211Bが記録ヘッド7A,7Bを被覆状態にしたときにその記録ヘッド7A,7Bの下面外壁に当接して密閉状態となる。よって、駆動部230によりラック213を記録ヘッド7A,7Bに向けて移動し、L字型キャップ211Bの縁部が記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接して被覆状態になると、L字型キャップ211Bの本体内部及びこれに連通するインク受部211cのインク収容室が密閉状態となり、吸引ポンプ150で吸引することでキャップ内が負圧となって、記録ヘッド内のインクがノズルから吸い出される。吸い出されたインクは、吸引ポンプ150の吸引力によってL字型キャップ211Bのインク受部211cの底部に形成された吸引口から吸引管214を通って廃液タンク151に送られる。
【0059】
このようにしてインク吸引処理を行った後はL字型キャップ211B内にインクが残っているが、そのインクは重力の作用を受けて、L字型キャップ211Bの下部に形成されたインク受部211cのインク収容室内に収まる。よって、図12(b)に示すように、L字型キャップ211B内にインクが残ったままの状態でデキャップしても、そのインクがL字型キャップ211Bの外部にこぼれ落ちる事態は生じない。そして、このようにデキャップすることで、L字型キャップ211Bの内部は大気開放された状態になるので、この状態で吸引ポンプ150を駆動して吸引を行えば、インク受部211cのインク収容室内に残っているインクをインク受部211cの底部に形成された吸引口から吸引管214を通って廃液タンク151に排出できる。
【0060】
また、本実施形態2においては、上記実施形態1と同様、駆動部230によりラック213を図12(a)に示す前進位置(被覆位置)から後退位置(非被覆位置)まで移動させた時、L字型キャップ211Bの上部に取り付けられたワイパー部材240が、ワイピング移動開始位置に位置するように構成されている。したがって、本実施形態2においても、ラック213が後退位置(非被覆位置)に移動した後、そのままワイパー部材240を下方へ移動させることで、そのワイパー部材240により記録ヘッド7A,7Bのノズル面を摺擦(ワイピング)してノズル面に付着した不要なインクを除去するワイピング処理を行うことができる。
【0061】
本実施形態2における駆動部230は、吸引ポンプを駆動する駆動源と、ラック213を駆動する駆動源とが別々に設けられており、互いに独立して制御可能に構成されている。ラック213を駆動する駆動源は、ステッピングモータ231で構成されており、そのモータ軸には駆動ギヤ232が接続されている。この駆動ギヤ232は、ラック213の背面に多数の歯部が上下方向に配列された被駆動歯列233と噛み合っている。これにより、ステッピングモータ231の駆動による駆動ギヤ232の回転に追従してラック213が上下動する。本実施形態2では、ステッピングモータ231を正転させることでラック213を上方へ移動させることができ、ステッピングモータ231を逆転させることでラック213を下方へ移動させることができる。
【0062】
ここで、本実施形態2においては、このステッピングモータ231を逆転させるだけで、デキャップ動作及びワイピング動作の両方が実現される移動経路上をラック213が移動するように、ラック213の移動経路を規制して案内するガイドレール234が設けられている。このガイドレール234には、ラック213と一体形成された被ガイド部213aが嵌り込んでいて、ステッピングモータ231を駆動してラック213を上下動させる際、そのラック213はガイドレール234に規制されながら移動することになる。
【0063】
図13は、印字前に行うメンテナンス処理の流れの概要を示すフローチャートである。なお、このフローチャートでは、メンテナンス処理の要部の流れを抽出して説明している。
図14は、ラック213が、前進位置(被覆位置)、後退位置(非被覆位置=ワイピング動作開始位置)、ワイピング動作終了位置のそれぞれに位置するときのガイドレール234上における被ガイド部213aの位置I,II,IIIを示す説明図である。
長時間放置後に画像形成を行う場合などにおいては、ノズル抜けの可能性が高く、印字前にメンテナンス処理を実施する場合がある。この場合の手順としては、まず、プリンタの制御部は、ステッピングモータ231の回転位置(回転角)に基づき、ラック213が前進位置(被覆位置)に位置してキャップ211Bが被覆状態であることを確認する(S41)。このとき、ガイドレール234上の被ガイド部213aは、図14に示すキャッピング位置Iに位置する。ステッピングモータ231の回転位置(回転角)は、例えば、ステッピングモータ231のモータ軸に突起部を設けるとともに、その突起部が通過する回転軌道を通るように透過型の光学センサを配置し、その光学センサが突起部によって光路を遮られたことを検知したタイミングを見て把握することができる。
【0064】
その後、制御部は、吸引ポンプ150を駆動させ(S42)、L字型キャップ211B内を負圧にして記録ヘッド7A,7Bのノズルからインクを吸い出すインク吸引処理を行う。そして、制御部は、インク吸引処理の終了タイミングにあわせて吸引ポンプ150の駆動を停止させる(S43)。このようにしてインク吸引処理を終了したら、今度は、ステッピングモータ231を逆転駆動して(S44)、ラック213を下降させる。これにより、ガイドレール234上の被ガイド部213aは、図14に示すキャッピング位置Iからデキャップ位置IIへ移動する。その結果、ラック213は、図12(b)に示すように後退位置(非被覆位置=ワイピング動作開始位置)に位置して、キャップ211Bはデキャップ状態になり、ワイパー部材240はワイピング動作開始地点に位置決めされる。
【0065】
その後もステッピングモータ231が逆転駆動し続けてラック213が下降すると、ガイドレール234上の被ガイド部213aは、図14に示すデキャップ位置IIからワイピング終了位置IIIへ移動する。この移動時には、図12(c)に示すように、ラック213は記録ヘッド7A,7Bのノズル面に沿って平行移動し、これによりワイパー部材240は記録ヘッド7A,7Bのノズル面をその上端側から下端側に向けて摺擦してワイピング処理が行われる。そして、被ガイド部213aがガイドレール234の下端すなわち図14に示すワイピング終了位置IIIまで移動すると、ワイパー部材240は記録ヘッド7A,7Bのノズル面下端よりも下方まで移動する。よって、記録ヘッド7A,7Bのノズル面の上端から下端の全域にわたってワイパー部材240によりワイピング処理がなされる。
【0066】
ワイピング処理において、ワイパー部材240が記録ヘッド7A,7Bのノズル面下端を抜ける際、ノズル面との当接によって撓んでいたワイパー部材240が復元し、ワイパー部材240の先端部が跳ね上がる。このとき、そのワイパー部材240の先端部に付着しているインクが鉛直方向下方に向けて飛翔する。本実施形態2においては、インクが飛翔する先にはインク受部211cが位置しているので、ワイパー部材240が記録ヘッド7A,7Bのノズル面下端を抜ける際に飛翔するインクは、インク受部211c内のインク収容室に受け取られる。よって、このインクの飛翔によって機内が汚染されることはない。
【0067】
以上のようにしては、ワイピング処理を終えた後、制御部は、メンテナンスユニット100の制御と記録ヘッド7A,7Bの制御とを並行して行う。メンテナンスユニット100の制御では、まず、吸引ポンプ150を駆動して(S45)、L字型キャップ211Bのインク受部211c内のインク収容室に残っているインクを、吸引管214を通って廃液タンク151へ回収する。そして、制御部は、この残インク回収処理の終了タイミングにあわせて吸引ポンプ150の駆動を停止させる(S46)。その後、制御部は、ステッピングモータ231を正転駆動して(S47)、ラック213を上昇させる。これにより、ガイドレール234上の被ガイド部213aは、図14に示すワイピング終了位置IIIからデキャップ位置IIへ移動し、その位置で待機する。
【0068】
一方、上述したメンテナンスユニット100の制御と並行して行われる記録ヘッド7A,7Bの制御では、主走査モータ4を制御して、記録ヘッド7A,7Bを空吐出部120と対向する位置までキャリッジ3を主走査方向に移動させる(S48)。そして、制御部は、記録ヘッド7A,7Bを駆動制御してノズルからインクを空吐出部120内へ吐出する空吐出処理を行う(S49)。
【0069】
図15は、連続印字中に行うメンテナンス処理の流れの概要を示すフローチャートである。なお、このフローチャートでは、メンテナンス処理の要部の流れを抽出して説明している。
連続印字中にヘッドタンクの負圧が強くなりすぎてノズルからのインク吐出負荷が大きくなった場合などにおいては、連続印字中にメンテナンス処理を実施する場合がある。この場合の手順としては、まず、プリンタの制御部は、ステッピングモータ231の回転位置(回転角)に基づき、ラック213が後退位置(非被覆位置)に位置してキャップ211Bが非被覆状態であることを確認する(S51)。すなわち、ガイドレール234上の被ガイド部213aが、図14に示すデキャップ位置IIに位置していることを確認する。その後、制御部は、主走査モータ4を制御して、記録ヘッド7A,7Bをキャッピング部110のL字型キャップ211Bと対向する位置までキャリッジ3を主走査方向に移動させる(S52)。そして、制御部は、ステッピングモータ231を正転駆動して(S53)、ラック213を上昇させると、これによりガイドレール234上の被ガイド部213aは、図14に示すデキャップ位置IIからキャッピング位置Iへ移動する。これにより、ラック213が前進位置(被覆位置)に位置してキャップ211Bにより記録ヘッド7A,7Bが被覆状態となる。
【0070】
その後、制御部は、吸引ポンプ150を駆動させ(S42)、L字型キャップ211B内を負圧にして記録ヘッド7A,7Bのノズルからインクを吸い出すインク吸引処理を行うが、以後の処理動作は図13に示したフローチャートのS42〜S49と同様であるため、説明を省略する。
【0071】
図16、印字後に行うメンテナンス処理の流れの概要を示すフローチャートである。なお、このフローチャートでは、メンテナンス処理の要部の流れを抽出して説明している。
印字後は、ゴミ等のノズルへの不純物侵入防止とインク固着によるノズル詰まり防止の保湿のため、キャッピングを実施し、マシンを停止状態にさせる。この場合の手順としては、まず、プリンタの制御部は、ステッピングモータ231の回転位置(回転角)に基づき、ラック213が後退位置(非被覆位置)に位置してキャップ211Bが非被覆状態であることを確認する(S61)。すなわち、ガイドレール234上の被ガイド部213aが、図14に示すデキャップ位置IIに位置していることを確認する。その後、制御部は、主走査モータ4を制御して、記録ヘッド7A,7Bのそれぞれがキャッピング部110の各キャップ211A,211Bそれぞれに対向する位置まで、キャリッジ3を主走査方向に移動させる(S62)。そして、制御部は、ステッピングモータ231を正転駆動して(S63)、ラック213を上昇させると、これによりガイドレール234上の被ガイド部213aは、図14に示すデキャップ位置IIからキャッピング位置Iへ移動する。これにより、ラック213が前進位置(被覆位置)に位置して2つのキャップ211A,211Bにより各記録ヘッド7A,7Bがそれぞれ被覆状態となる。
【0072】
本実施形態2によれば、L字型キャップ211B上にワイパー部材240が取り付けられているので、主走査方向においてキャップ部材とは別にワイパー部材を配置する位置を確保する必要がなくなり、主走査方向における装置の省スペース化を図るとともに、部品点数の削減効果が得られる。しかも、本実施形態2によれば、デキャップ後に、キャリッジ3を主走査方向へ移動させる必要がなく、かつ、ワイパー部材をワイピング動作開始位置に位置させる移動も必要なく、デキャップ後すぐにワイピング動作を実施できる。そのため、メンテナンス処理全体の処理時間を短縮することができる。
【0073】
〔変形例1〕
次に、上記実施形態2におけるL字型キャップ211Bの一変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
図17(a)及び(b)は、本変形例1におけるL字型キャップ311Bの概略構成を示す説明図である。
本変形例1におけるL字型キャップ311Bは、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に対向する開口及び記録ヘッド7A,7Bの下面に対向するインク受部311cの開口の縁部311aがジャバラ形状となっている点で、上記実施形態2のものと異なっている。このジャバラ状縁部311aの材質としては、例えば軟質なシリコンゴムを用いることができる。本変形例1では、L字型キャップ311Bが記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接して被覆位置に位置すると、図17(b)に示すように、ジャバラ状縁部311aが圧縮された状態となり、L字型キャップ311Bの開口が記録ヘッド7A,7Bのノズル面によって高いシール性をもって閉塞される。一方、L字型キャップ311Bが記録ヘッド7A,7Bのノズル面から離間して非被覆位置に位置すると、図17(a)に示すように、圧縮されていたジャバラ状縁部311aが復元された状態となる。これにより、L字型キャップ311Bの本体内の容積及びインク受部311cのインク収容室内の容積が、いずれも被覆状態のときよりも広くなる。
【0074】
以上のような構成により、本変形例1によれば、記録ヘッド7A,7Bのノズル面が被覆状態であるときは、L字型キャップ311B内の密閉空間を狭くなるので、吸引ポンプ150の吸引力により効率よくノズルからインクを吸い出すことができる。そして、記録ヘッド7A,7Bのノズル面が非被覆状態であるときは、L字型キャップ311Bのインク受部311c内のインク収容室の容積が広くなるので、L字型キャップ311B内に残存したインクがこぼれにくい。
【0075】
〔変形例2〕
次に、上記実施形態2におけるL字型キャップ211Bの他の変形例(以下、本変形例を「変形例2」という。)について説明する。
図18は、本変形例2におけるL字型キャップ411Bの概略構成を示す説明図である。
本変形例2におけるL字型キャップ411Bは、その本体内の空間並びにインク受部411cのインク収容室内に、インクを吸収、保持可能なL字型の吸収体419が設けられている点で、上記実施形態2のものと異なっている。この吸収体419は、図18に示すように、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に対向する鉛直部が、L字型キャップ411Bの本体の開口縁部よりも外側(ノズル面側)に突出しないように構成されている。これにより、L字型キャップ411Bが記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接して被覆位置に位置しても、吸収体419の鉛直部はノズル面に非接触の状態となり、吸収体419がインク吸引処理の妨げになることはない。一方、インク受部411cのインク収容室内に配置される吸収体419の水平部は、インク収容室よりも高い位置に位置するように構成されている。この水平部の吸収体部分は、柔らかくて弾性力の高い材質のものを用い、L字型キャップ411Bが記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接して被覆位置に位置したときに圧縮変形してL字型キャップ411Bの開口縁部によるシール性を妨げないようにする。なお、吸収体419は、全体が一体形成されたものであっても複数部材を組み合わせて構成されたものでもよい。
【0076】
以上のような構成により、本変形例2によれば、インク吸引処理後のデキャップ時に、吸収体419の水平部が膨らみながらインクを吸収する。さらに、ノズル面から垂れて記録ヘッド7A,7Bの下端に集まるインクも、この吸収体419の水平部が吸収する。よって、本変形例2によれば、L字型キャップ411Bの外部へインクがこぼれるのを防止する効果だけではなく、記録ヘッド7A,7Bの下部を吸収体419によって清掃できるので、記録ヘッド7A,7Bの下部にインクが固着し、その固着インクが用紙と擦れて用紙を汚すなどの不具合が発生することも防止できる効果が得られる。
【0077】
〔変形例3〕
次に、上記実施形態2におけるL字型キャップ211Bの更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例3」という。)について説明する。
図19(a)は、本変形例3におけるL字型キャップ511Bの上面図であり、図19(b)は、このL字型キャップ511Bの側面図であり、図19(c)は、このL字型キャップ511Bを記録ヘッド7A,7Bとともに図示した斜視図である。
本変形例3におけるL字型キャップ511Bは、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接するワイパー部材の当接端部の幅W1がノズル面の幅W2よりも広く、かつ、インク受部のインク収容室の幅W3よりも狭くなるように、構成されている。このような構成を実現するため、本変形例3では、ワイパー部材540が、L字型キャップ511Bへの取付端部の幅よりもノズル面に当接する当接端部の幅W1の方が広くなるような台形状に形成されたものを用いている。なお、台形状に限らず、段付き長方形状などの他の形状であってもよい。また、本変形例3では、L字型キャップ511Bの本体内部とインク受部511c内のインク収容室とが連通した構成であるため、被覆状態のときにそのインク収容室の開口が記録ヘッド7A,7Bの下面で塞がれるように構成する必要がある。そのため、本変形例3においては、図19(c)に示すように、記録ヘッド7A,7Bの下面形状がインク収容室の開口を塞ぐことができるようになっている。
【0078】
以上のような構成により、本変形例3によれば、ワイピング処理の終了時にワイパー部材540の当接端部が跳ね上がってインクを下方へ飛翔させたとしても、その当接端部の幅W1よりも広い幅W3をもったインク収容室で飛翔インクを受け取ることができる。機内にインクが飛散した場合、装置内を汚すだけではなく、インクミストとして装置内を浮遊してリニアエンコーダシート42や円板型エンコーダシート34等に付着することがあり、キャリッジ3や搬送ベルト21の位置検知不良に繋がる恐れがあるが、本変形例3によればこのような不具合が生じにくい。
しかも、本変形例3によれば、ワイパー部材540の当接端部の幅W1はノズル面の幅W2よりも広く形成されているため、ノズル面全域をワイパー部材540によってワイピングすることができる。なお、本変形例3では、ワイパー部材540の当接端部の幅W1はノズル面の幅W2よりも広く形成しているが、ワイパー部材540の当接端部の幅W1は各記録ヘッドのノズル面に形成された2つのノズル列をワイピングできる幅であれば、ノズル面の幅W2よりも狭く形成してもよい。この場合、記録ヘッド7A,7Bの下面形状は、一般的な長方形状のものを使用することが可能である。
【0079】
〔変形例4〕
次に、上記実施形態2におけるラック613の移動経路の一変形例(以下、本変形例を「変形例4」という。)について説明する。
図20(a)及び(b)は、本変形例4におけるキャッピング部610の動作を模式的に表した説明図である。
本変形例4においては、上記実施形態2と同様、ステッピングモータ231の回転により上下動するラック613の移動経路はガイドレール634によって規制されている。本変形例4のガイドレール634の下端は、図示のように、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接しているワイパー部材640をノズル面から離れる方向へ変位させるように曲げられている。これにより、ワイパー部材640は、ワイピング動作開始位置より下方へ移動し、ノズル面に撓んだ状態で当接しながらノズル面に沿って移動し、そのノズル面の下端近傍でノズル面から離れる方向へ変位し、ノズル面下端の下方まで抜ける。このようにノズル面の下端近傍でノズル面から離れる方向へワイパー部材640が変位することで、ワイパー部材640がノズル面下端を抜ける際のワイパー部材640の撓み量が小さくなる。その結果、ワイパー部材640がノズル面下端を抜ける際にその撓みが復元することでインクが飛散する不具合の発生を抑制することができる。
【0080】
以上、本実施形態1及び2(各変形例を含む。)に係るインクジェットプリンタは、記録材としての用紙12に対してノズル面(吐出面)上の吐出口であるノズルからインク液滴を吐出する記録ヘッド7A,7Bと、記録ヘッド7A,7Bのノズル面を被覆するためのキャップ部材としてのキャップ111B,211B,311B,411B,511B,611Bと、キャップにより記録ヘッド7A,7Bのノズル面を被覆する被覆状態となる被覆位置(キャッピング位置I)と被覆しない非被覆状態となる非被覆位置(デキャップ位置II)との間でキャップと記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させる第1移動手段としての駆動部130,230,630と、キャップ111B,211B,311B,411B,511B,611Bに設けられた吸引口からそのキャップの内部を吸引する吸引手段としての吸引ポンプ150と、記録ヘッド7A,7Bのノズル面を摺擦してノズル面上の不要なインクを除去するワイパー部材140,240,340,440,540,640と、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に沿ってノズル面の始端側から終端側に向けてワイパー部材140,240,340,440,540,640と記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させる第2移動手段としての駆動部130,230,630とを備え、所定のタイミングで、第1移動手段により被覆状態にし、キャップ111B,211B,311B,411B,511B,611Bの内部が密閉された状態で吸引ポンプ150による吸引動作を実行することによりノズルからインクを吸い出すインク吸引処理を行った後、第1移動手段によりキャップ及び記録ヘッド7A,7Bをデキャップ位置IIに位置させ、その後、第2移動手段によりワイパー部材140,240,340,440,540,640と記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させてワイパー部材により記録ヘッド7A,7Bのノズル面上の不要なインクを除去するワイピング処理を行う画像形成装置である。そして、上記第1移動手段である駆動部130,230,630は、キャップ111B,211B,311B,411B,511B,611Bをキャッピング位置Iからデキャップ位置IIへ相対移動させる動作に連動して、キャップがデキャップ位置IIに位置した時にワイパー部材140,240,340,440,540,640が第2移動手段による相対移動開始位置(ワイピング動作開始位置)に位置するように、ワイパー部材と記録ヘッドとを相対移動させる。このような構成により、インク吸引処理を終えた後、キャップ111B,211B,311B,411B,511B,611Bをキャッピング位置Iからデキャップ位置IIへ移動させる動作を行うだけで、ワイパー部材140,240,340,440,540,640を移動させて行うワイピング処理を開始することが可能となる。その結果、インク吸引処理を終えてからワイピング処理を終了するまでの間に必要な移動動作が少なく、メンテナンス処理にかかる時間を短縮することができる。
また、本実施形態2(各変形例を含む。)において、駆動部230,630は、キャップ211B,311B,411B,511B,611Bを移動させてキャップと記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させるものであり、ワイピング処理のための上記第2移動手段は、ワイパー部材240,340,440,540,640を移動させてワイパー部材と記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させるものであり、ワイパー部材240,340,440,540,640はキャップ211B,311B,411B,511B,611Bに固定されていて、駆動部230,630は上記第2移動手段としても機能する。これにより、部品点数の削減を実現でき、低コスト化を図ることができる。
また、本実施形態2(各変形例を含む。)において、駆動部230,630は、キャップ211B,311B,411B,511B,611Bを所定の移動経路に沿って往復移動させるものであり、この所定の移動経路は、キャッピング位置Iとデキャップ位置IIとの間でキャップ211B,311B,411B,511B,611Bを記録ヘッド7A,7Bのノズル面に対して接離させる第1移動経路部と、ワイパー部材240,340,440,540,640が記録ヘッド7A,7Bのノズル面を摺擦するように記録ヘッド7A,7Bのノズル面に沿ってキャップを移動させる第2移動経路部とから構成されている。これにより、ガイドレールを利用した簡易な構成により、単一の移動手段で、デキャップ動作及びワイピング動作を実現できる。
また、本実施形態2(各変形例を含む。)においては、被覆状態のときに記録ヘッド7A,7Bのノズル面が鉛直方向真下以外の方向、具体的には水平方向を向くように構成されており、ノズル面の下端の下方に位置する箇所にインク受部211c,311c,411c,511cが設けられており、駆動部230,630は、ノズル面の上端が始端となりかつノズル面の下端が終端となるように、ワイパー部材240,340,440,540,640を移動させる。これにより、ワイパー部材240,340,440,540,640がノズル面から除去したインクがワイパー部材から下方へ落ちたとしても、これをインク受部211c,311c,411c,511cで受けとめて、機内にインクが飛散するのを抑制できる。
また、変形例1において、インク受部311cは、上面が開口していて内部にインクを収容するインク収容室を有しており、そのインク収容室の側壁となるジャバラ状縁部311aは、被覆状態のときに記録ヘッド7A,7Bと当接して高さが低くなり、かつ、非被覆状態のときに記録ヘッド7A,7Bとの当接が解除されて元の高さに戻るように変形可能に構成されている。これにより、インク収容室内に収容したインクがこぼれにくい。
また、変形例2においては、インク受部411cにインク吸収体419が設けられているので、インク受部411c内に溜まったインク界面にインクが飛び込んできたときにインクが跳ねたり、プリンタの振動等によってインク受部411c内のインクが波打ってこれによりインクがインク収容室外へ飛び出したりする事態が抑制され、機内にインクが飛散するのを更に抑制できる。
また、変形例3においては、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接するワイパー部材540の当接端部の幅W1が、ノズル面の幅W2よりも広く、かつ、インク受部511cのインク収容室の幅W3よりも狭いので、ノズル面全域をワイパー部材540によってワイピングすることができるとともに、そのワイピング処理終了時にワイパー部材540の当接端部が跳ね上がってインクを下方へ飛翔させたとしてもインク収容室で飛翔インクを安定して受け取ることができる。
また、本実施形態2(各変形例を含む。)において、インク受部211c,311c,411c,511cは、そのインク収容室がキャップ内部と連通していて、被覆状態のときに記録ヘッド7A,7Bの外壁に当接してインク収容室が密閉状態となる構成を有しており、吸引ポンプ150によりインク収容室内のインクをキャップ211B,311B,411B,511B,611B内のインクとともに吸引可能に構成されている。このような構成により、ノズルからインクを吸い出すインク吸引処理と、インク吸引処理後にキャップ内に残ったインクを除去する処理とを、単一の吸引ポンプ150で実現することができる。
また、変形例4において、ワイパー部材640は、記録ヘッド7A,7Bのノズル面に当接して撓んだ状態となり、その状態でノズル面を摺擦することによりノズル面上の不要なインクを払拭するワイパーブレードであり、駆動部630は、ワイパー部材640が記録ヘッド7A,7Bのノズル面の終端に到達する直前に、ワイパー部材640の撓みが小さくなるようにワイパー部材640と記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させ、ワイパー部材640が当接したまま記録ヘッド7A,7Bのノズル面の終端を通過するようにワイパー部材640と記録ヘッド7A,7Bとを相対移動させる。これにより、ワイパー部材640がノズル面下端を抜ける際のワイパー部材640の撓み量が小さくなるので、ワイパー部材640がノズル面下端を抜ける際にその撓みが復元することでインクが飛散するという不具合の発生を抑制することができる。
また、上記実施形態(各変形例を含む。)に係るインクジェットプリンタは、記録ヘッド7A,7Bのノズル面が鉛直面に対して略平行となる状態で用紙12に対してインク液滴を吐出するように構成された、いわゆる水平吐出型の画像形成装置であり、被覆状態のときにも記録ヘッド7A,7Bのノズル面が鉛直面に対して平行となるように構成される。上述した各種効果は、このような水平吐出型の画像形成装置において特に有益である。
【0081】
なお、上述した説明では、水平吐出型の画像形成装置を例に挙げて説明したが、本発明は、このような構成に限らず、例えば鉛直吐出型の画像形成装置であっても同様に適用できる。
また、上述した説明では、異なる色のインクを吐出する吐出口の列を1つの記録ヘッドのノズル面上に2つ設けた画像形成装置を例示したが、記録ヘッドのノズル面とワイパー部材とを主走査方向とは異なる方向に沿って相対移動させてワイピング処理を行う画像形成装置であれば、同様に適用される。
【符号の説明】
【0082】
3 キャリッジ
7A,7B 記録ヘッド
100 メンテナンスユニット
110,210,610 キャッピング部
111A,111B,211A,211B,311B,411B,511B,611B キャップ
111a 縁部
111b 大気開放孔
112 フレーム部
113,213,613 ラック
116 大気開放弁
120 空吐出部
130,230,630 駆動部
131,231 ステッピングモータ
140,240,340,440,540,640 ワイパー部材
150 吸引ポンプ
151 廃液タンク
211c,311c,411c,511c インク受部
213a 被ガイド部
232 駆動ギヤ
233 被駆動歯列
234,634 ガイドレール
311a ジャバラ状縁部
419 吸収体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2007−118344号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材に対して吐出面上の吐出口からインク液滴を吐出する記録ヘッドと、
該記録ヘッドの吐出面を被覆するためのキャップ部材と、
該キャップ部材により該記録ヘッドの吐出面を被覆する被覆状態となる被覆位置と被覆しない非被覆状態となる非被覆位置との間で該キャップ部材と該記録ヘッドとを相対移動させる第1移動手段と、
該キャップ部材に設けられた吸引口から該キャップ部材の内部を吸引する吸引手段と、
該記録ヘッドの吐出面を摺擦して該吐出面上の不要なインクを除去するワイパー部材と、
該記録ヘッドの吐出面に沿って該吐出面の始端側から終端側に向けて該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させる第2移動手段とを備え、
所定のタイミングで、上記第1移動手段により上記被覆状態にし、上記キャップ部材の内部が密閉された状態で上記吸引手段による吸引動作を実行することにより該吐出口からインクを吸い出すインク吸引処理を行った後、該第1移動手段により該キャップ部材及び上記記録ヘッドを上記非被覆位置に位置させ、その後、上記第2移動手段により上記ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させて該ワイパー部材により該記録ヘッドの吐出面上の不要なインクを除去するワイピング処理を行う画像形成装置において、
上記第1移動手段は、上記キャップ部材及び上記記録ヘッドを上記被覆位置から上記非被覆位置へ相対移動させる動作に連動して、該キャップ部材及び該記録ヘッドが該非被覆位置に位置した時に上記ワイパー部材及び該記録ヘッドが上記第2移動手段による相対移動開始位置に位置するように、該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1の画像形成装置において、
上記第1移動手段は、上記キャップ部材を移動させることで該キャップ部材と上記記録ヘッドとを相対移動させるものであり、
上記第2移動手段は、上記ワイパー部材を移動させることで該ワイパー部材と上記記録ヘッドとを相対移動させるものであり、
上記ワイパー部材を上記キャップ部材に固定するとともに、上記第1移動手段と上記第2移動手段とを単一の移動手段で構成したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項2の画像形成装置において、
上記単一の移動手段は、上記キャップ部材を所定の移動経路に沿って往復移動させるものであり、
上記所定の移動経路は、上記被覆位置と上記非被覆位置との間で上記キャップ部材を上記記録ヘッドの吐出面に対して接離させる第1移動経路部と、上記ワイパー部材が該記録ヘッドの吐出面を摺擦するように該記録ヘッドの吐出面に沿って該キャップ部材を移動させる第2移動経路部とから構成されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置において、
上記被覆状態のときに上記記録ヘッドの吐出面が鉛直方向真下以外の方向を向くように構成されており、
上記被覆状態のときに下端となる上記吐出面の端部の下方に位置する箇所にインク受部が設けられており、
上記第2移動手段は、上記被覆状態のときに上端となる上記吐出面の端部が始端となり、かつ、該被覆状態のときに下端となる該吐出面の端部が終端となるように、上記ワイパー部材と上記記録ヘッドとを相対移動させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4の画像形成装置において、
上記インク受部は、上面が開口していて内部にインクを収容するインク収容室を有し、
該インク収容室の側壁は、上記被覆状態のときに該記録ヘッドと当接して高さが低くなり、かつ、上記非被覆状態のときに該記録ヘッドとの当接が解除されて元の高さに戻るように変形可能に構成されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項4の画像形成装置において、
上記インク受部には、インク吸収体が設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項に記載の画像形成装置において、
上記記録ヘッドの吐出面に当接する上記ワイパー部材の当接端部の幅は、該吐出面の幅よりも広く、かつ、上記インク受部のインク収容室の幅よりも狭いことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項4乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置において、
上記インク受部は、そのインク収容室が上記キャップ内部と連通していて、上記被覆状態のときに上記記録ヘッドの外壁に当接して該インク収容室が密閉状態となる構成を有し、
上記吸引手段により上記インク収容室内のインクを上記キャップ部材内のインクとともに吸引可能に構成したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像形成装置において、
上記ワイパー部材は、上記記録ヘッドの吐出面に当接して撓んだ状態となり、その状態で該吐出面を摺擦することにより該吐出面上の不要なインクを払拭するワイパーブレードであり、
上記第2移動手段は、上記ワイパー部材が上記記録ヘッドの吐出面の終端に到達する直前に、該ワイパー部材の撓みが小さくなるように該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させ、上記ワイパー部材が当接したまま上記記録ヘッドの吐出面の終端を通過するように該ワイパー部材と該記録ヘッドとを相対移動させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の画像形成装置において、
上記記録ヘッドの吐出面が鉛直面に対して略平行となる状態で記録材に対してインク液滴を吐出するように構成されており、
上記被覆状態のときにも、上記記録ヘッドの吐出面が鉛直面に対して平行となるように構成されていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−35498(P2012−35498A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177620(P2010−177620)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】