画像形成装置
【課題】記録材の連続加熱によって発生した非通紙部昇温を短時間で効率的に緩和して画像形成を再開することにより、本来の高い生産性を十分に活用できるようにした画像形成装置を提供する。
【解決手段】加圧ローラ2は、定着ベルト1に当接して記録材の加熱ニップを形成する。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して定着ベルト1を誘導加熱する。制御部102は、中間転写ベルト26におけるトナー像の形成が中断された際に、記録材の加熱を停止した状態で加熱領域を記録材の加熱時よりも狭く設定して誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行する。
【解決手段】加圧ローラ2は、定着ベルト1に当接して記録材の加熱ニップを形成する。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して定着ベルト1を誘導加熱する。制御部102は、中間転写ベルト26におけるトナー像の形成が中断された際に、記録材の加熱を停止した状態で加熱領域を記録材の加熱時よりも狭く設定して誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一回転体と第二回転体の加熱ニップにおける長手方向の加熱領域を記録材のサイズに応じて設定可能な画像形成装置、詳しくは、第一回転体の記録材通過領域の外側に発生する局所的な温度上昇を緩和させる緩和モードの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
トナー像を形成して記録材に転写した後に、トナー像が転写された記録材を、第一回転体と第二回転体の加熱ニップで挟持搬送して画像を記録材に定着させる画像形成装置が広く用いられている。第一回転体(ベルト部材又はローラ部材)の加熱源として誘導加熱装置を用いた像加熱装置も実用化されている(特許文献1、2)。
【0003】
誘導加熱装置は、比較的に小さな質量の第一回転体の一部分に加熱を集中できるため、第一回転体の温度の立ち上がりが早く、温調制御の応答性にも優れている。しかし、誘導加熱装置を用いた場合、第一回転体の記録材に接して冷却される領域の外側に、記録材による冷却を受けないために局所的に高温になってしまう領域が形成される。いわゆる非通紙部昇温であって、過剰な非通紙部昇温に長時間晒されると、第一回転体の耐久寿命が低下する可能性がある。
【0004】
特許文献1では、第一回転体(ベルト部材)の長手方向に複数の磁性体コアを配置し、両端部の磁性体コアについて、第一回転体に対する対向間隔を変化させることにより、非通紙部昇温を回避している。
【0005】
特許文献2では、第一回転体(ローラ部材)の端部をカバーする磁束遮蔽板のサイズを切り替えて、記録材のサイズが変化しても記録材の外側位置の加熱範囲を一定幅に保つことにより、非通紙部昇温を回避している。また、第一回転体の端部に温度センサを配置して非通紙部昇温を実測し、第一回転体と第二回転体の加熱ニップに対する記録材の給送(毎分枚数又は緊急停止)を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−194940号公報
【特許文献2】特開2006−120533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非通紙部昇温を第一回転体の設計上の上限温度以下に保つように記録材の給送を制御した場合、画像形成装置の生産性が非通紙部昇温によって限界付けられてしまい、画像形成装置本来の高い生産性を発揮できない。そこで、非通紙部に温度センサを配置して非通紙部昇温を実測し、第一回転体の非通紙部昇温が設計上の上限値に達すると、画像形成を中断して第一回転体をクールダウンさせる制御が提案された。しかし、この場合、冷却後に加熱ニップを元の温度状態へ復帰させるために時間がかかってしまい、トータルな生産性はかえって低下する傾向となる。
【0008】
また、定着装置の非通紙部昇温が設計上の上限値に達すると、画像形成を中断して、冷却ファンによる非通紙部の強制冷却を行う制御が提案された。しかし、非通紙部昇温が発生する位置は、ごく狭い領域であって、記録材のサイズに応じて変化するため、送風範囲が広い通常の冷却ファンでは効率的な冷却は難しい。
【0009】
本発明は、記録材の連続加熱によって発生した非通紙部昇温を短時間で効率的に緩和して画像形成を再開することにより、本来の高い生産性を十分に活用できるようにした画像形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の画像形成装置は、トナー像を形成して記録材に転写する画像形成部と、トナー像が転写された記録材に接触して加熱する第一回転体と、前記第一回転体に当接して記録材の加熱ニップを形成する第二回転体と、前記第一回転体の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して前記第一回転体を誘導加熱する誘導加熱装置とを備えるものである。そして、前記加熱ニップへの記録材の給送が停止された状態で、前記加熱ニップへ記録材が給送されている場合よりも前記加熱領域を狭く設定して前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行可能な制御手段を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の画像形成装置では、誘導加熱装置による第一回転体の加熱領域を設定する機能を用いて緩和モードの制御を実行し、非通紙部昇温が発生した領域に限定して磁束による加熱を停止させる。これにより、非通紙部昇温が発生した領域とその外側の領域とで大きな熱流入量差が形成されて、両者の温度差がすみやかに解消される方向に向かう。
【0012】
したがって、記録材の連続加熱によって発生した非通紙部昇温を短時間で効率的に緩和して画像形成を再開することにより、画像形成装置のトータルな生産性を損なうことなく、画像形成装置の本来の高い生産性を十分に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】画像形成装置の構成の説明図である。
【図2】定着装置の要部の構成の説明図である。
【図3】定着装置を二次転写部側から見た縦断面図である。
【図4】定着ベルト1の層構成の説明図である。
【図5】磁性体コアの移動の説明図である。
【図6】磁性体コアの移動機構の説明図である。
【図7】定着装置の斜視図である。
【図8】加熱領域が狭い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【図9】加熱領域が広い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【図10】加熱領域が適正な場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【図11】実施例1の緩和モードの制御のフローチャートである。
【図12】画像形成中の加熱領域の設定の説明図である。
【図13】画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。
【図14】緩和モードにおける非通紙部昇温の解消速度の説明図である。
【図15】実施例4の緩和モードの制御のフローチャートである。
【図16】画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。
【図17】実施例5の緩和モードの制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、第一回転体の加熱領域が可変である構成において画像形成の中断時に加熱領域を狭くして誘導加熱を継続する限りにおいて、実施形態の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0015】
従って、像加熱装置は、トナー像を転写された記録材を加熱処理して記録材にトナー像を定着させる定着装置のみならず、半定着又は定着済みトナー像を加熱処理して画像に所望の表面性を付与する画像加熱装置を含む。第一回転体及び第二回転体は、ベルト部材に限らずローラ部材であってもよい。
【0016】
画像形成の中断事由は、現像装置の調整に限らず、第一回転体の過熱検出、記録材の補給待ち、記録材のサイズ切り替え、画像データのダウンロード時間等でもよい。いずれの場合でも、第一回転体の冷却専用時間を設けることなく、他の処理の待ち時間を活用して非通紙部昇温を解消できる。
【0017】
画像形成装置は、モノクロ/フルカラー、枚葉型/記録材搬送型/中間転写型、トナー像形成方式、転写方式の区別無く本発明の像加熱装置を搭載できる。本実施形態では、トナー像の形成/転写/定着に係る主要部のみを説明するが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途の画像形成装置で実施できる。
【0018】
<画像形成装置>
図1は画像形成装置の構成の説明図である。図1に示すように、画像形成装置Eは、中間転写ベルト26に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部PY、PC、PM、PKを配列したタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。画像形成部の一例である中間転写ベルト26は、トナー像を形成して記録材に転写する。
【0019】
画像形成部PYでは、感光ドラム21(Y)にイエロートナー像が形成されて中間転写ベルト26に転写される。画像形成部PCでは、感光ドラム21(C)にシアントナー像が形成されて中間転写ベルト26に転写される。画像形成部PM、PKでは、感光ドラム21(M)、21(K)にそれぞれマゼンタトナー像、ブラックトナー像が形成されて中間転写ベルト26に転写される。
【0020】
中間転写ベルト26は、無端状の樹脂ベルトで構成され、駆動ローラ27、二次転写対向ローラ28、テンションローラ29に張架されて、駆動ローラ27によって駆動される。
【0021】
記録材Pは、記録材カセット31から給紙ローラ32により1枚ずつ取り出されてレジストローラ33で待機する。記録材Pは、レジストローラ33によって二次転写部T2へ給送されて、中間転写ベルト26からトナー像を転写される。四色のトナー像を転写された記録材Pは、定着装置Aへ搬送され、定着装置Aで加熱加圧を受けて表面にトナー像を定着された後に、排出搬送路36を通じて外部トレイ37へ排出される。なお、単色のみの画像形成(単色モード)時には、目的の色についてのみトナー像が形成されて中間転写ベルト26に担持させて記録材に転写される。
【0022】
画像形成部PY、PC、PM、PKは、現像装置23(Y)、23(C)、23(M)、23(K)で用いるトナーの色がイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックと異なる以外は、実質的に同一に構成される。以下では、画像形成部PYについて説明し、画像形成部PC、PM、PKに関する重複した説明を省略する。
【0023】
画像形成部PYは、感光ドラム21の周囲に、帯電ローラ22、露光装置25、現像装置23、転写ローラ30、及びドラムクリーニング装置24を配置している。帯電ローラ22は、感光ドラム21の表面を一様な電位に帯電させる。露光装置25は、レーザービームを走査して感光ドラム21に画像の静電像を書き込む。現像装置23は、静電像を現像して感光ドラム21にトナー像を形成する。転写ローラ30は、直流電圧を印加されて感光ドラム21のトナー像を中間転写ベルト26へ転写させる。
【0024】
<定着装置>
図2は定着装置の要部の構成の説明図である。図3は定着装置を二次転写部側から見た縦断面図である。図4は定着ベルト1の層構成の説明図である。定着装置Aは、搬送される記録材に転写されたトナー像(未定着画像)のトナー(現像剤)を、熱によって融解して記録材P上に融着させる。
【0025】
以下の説明において、定着装置または定着ローラの長手方向とは、記録材搬送路面内において記録材の搬送方向に直角な幅方向である。また、定着装置または定着ローラの短手方向とは、記録材の搬送方向と平行な方向である。また、定着装置の正面とは、定着装置を記録材入口側からみた面、背面とはその反対側の記録材出口側から見た面である。定着装置の左右とは、定着装置を正面から見て左または右である。上流側は記録材の搬送方向の上流側、下流側は記録材の搬送方向の下流側である。
【0026】
図2に示すように、第一回転体の一例である定着ベルト1は、トナー像を転写された記録材に接触して加熱する。第二回転体の一例である加圧ローラ2は、定着ベルト1に当接して記録材の加熱ニップを形成する。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の長手方向における誘導加熱の加熱領域を可変に設定して定着ベルト1を誘導加熱する。
【0027】
定着ベルト1は、金属層を有する内径が30mmの無端状のベルト部材である。加圧ローラ2は、外径が30mmの円筒状に形成され、圧力付与部材3によって内側面を支持された定着ベルト1の外側面に圧接して、定着ベルト1との間に記録材Pの定着ニップ部Nを形成する。
【0028】
加圧ローラ2は、長手方向中央部の径が20mmで両端部の径が19mmである鉄合金製の芯金2aに、厚さがほぼ5mmのシリコーンゴム層の弾性層2bを設けてある。弾性層2bの表面は、30μmの厚みでフッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)の離型層2cが設けられている。加圧ローラ2の長手方向中央部における硬度は、ASK−C70℃である。芯金2aにテーパー形状をつけているのは、加圧した時に圧力付与部材3が撓んでも、定着ベルト1と加圧ローラ2で挟まれる定着ニップ部N内の圧力が長手方向にわたって均一に確保できるからである。
【0029】
芯金2aにテーパー形状をつけて中央部と両端部とで弾性層2bの厚さが異なるため、定着ベルト1と加圧ローラ2の定着ニップ部Nの搬送方向長さは、定着ニップ圧が600Nにおいては、長手方向両端部で約9mm、中央部では約8.5mmである。これにより、記録材Pの両端部での搬送速度が中央部と比べて速くなるので、紙しわが発生しにくくなるという利点がある。
【0030】
圧力付与部材3は、その内側面を金属製のステー4に保持されて、その外側面で定着ベルト1の内側面を支持する。圧力付与部材3は、定着ベルト1を介して加圧ローラ2に押圧力を作用させて、定着ベルト1と加圧ローラ2の間に定着ニップ部Nを形成する。圧力付与部材3は、耐熱性樹脂である。圧力付与部材3は、ステー4のコイル6側には、誘導加熱による温度上昇を防止するための磁束遮蔽部材としての磁束遮蔽コア5が設けられている。
【0031】
図3に示すように、ステー4は、定着ベルト1と加圧ローラ2の圧接部に圧力を加えるために剛性が必要であるため、鉄製である。ステー4は、特に両端部で励磁コイル6と接近しており、ステー4の発熱を防止するために、励磁コイル6で生じる磁界を遮蔽するために、ステー4の上面に長手方向にわたって磁束遮蔽コア5を配置してある。
【0032】
定着フランジ10は、定着ベルト1の長手方向移動および周方向の形状を規制する左右の規制部材である。定着フランジ10内に挿通して配設したステー4のバネ受け部4aと装置シャーシ側のバネ受け部材9aとの間にステー加圧バネ9bを縮設することで、ステー4の全体に押し下げ力を作用させている。これにより、圧力付与部材3の下面と加圧ローラ2の上面とが定着ベルト1を挟んで圧設して、記録材の画像の定着ニップ部Nが形成される。
【0033】
回転する定着ベルト1は、基層が金属で構成されているので、回転状態にあっても幅方向への寄りを規制するための手段としては、定着ベルト1の端部を単純に受け止めるだけの定着フランジ10を設ければ十分である。これにより、定着装置Aの構成を簡略化できるという利点がある。
【0034】
図4に示すように、定着ベルト1は、電気鋳造法によって製造した厚み40μmのニッケルの基層(金属層)1aを有している。基層1aには、ニッケルのほかに、鉄合金や銅、銀などを適宜選択可能である。また、樹脂基層にそれら金属を積層させるなどの構成でも良い。金属層1aの厚みは、後で説明する励磁コイルに流す高周波電流の周波数と金属層の透磁率・導電率に応じて調整して良く、5〜200μm程度の間で設定すると良い。
【0035】
基層1aの外周には、耐熱性シリコーンゴム層の弾性層1bが設けられている。弾性層1bの厚さは100〜1000μmの範囲内で設定するのが好ましい。ここでは、定着ベルト1の熱容量を小さくしてウォーミングアップタイムを短縮し、かつカラー画像を定着するときに好適な定着画像を得ることを考慮して、弾性層1bの厚さは300μmである。弾性層1bのシリコーンゴムは、JIS−A20度の硬度を持ち、熱伝導率は0.8W/mKである。弾性層1bの外周には、フッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)の離型層1cが30μmの厚みで設けられている。基層1aの内面側には、定着ベルト内面と中央サーミスタ(TH1:図2)との摺動摩擦を低下させるために、フッ素樹脂やポリイミドなどの樹脂層による滑性層1dを10〜50μm設けている。滑性層1dは、ポリイミドを20μm設けた。
【0036】
<誘導加熱装置>
図2に示すように、誘導加熱装置70は、定着ベルト1を誘導加熱する加熱源である。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の外周面の上面側において、定着ベルト1に所定のギャップ(隙間)を存して対面させて配設してある。
【0037】
励磁コイル6は、電線として例えばリッツ線を用い、これを横長・船底状にして定着ベルト1の周面と側面の一部に対向するように巻回してなる。励磁コイル6の長手方向の内径は352mm、外径は392mmである。
【0038】
磁性体コア7aは、励磁コイル6によって発生した磁界が定着ベルト1の金属層(導電層)以外に実質漏れないように、励磁コイル6を覆わせている。磁性体コア7aは、励磁コイル6より発生した交流磁束を効率よく定着ベルト1に導く役割をする。交流磁束の磁気回路の効率を上げるためと、周囲へ磁束を漏らして周辺部材を誘導加熱することを回避する磁束遮蔽のために用いている。磁性体コア7aの材質として、フェライト等の高透磁率かつ残留磁束密度の低いものを用いると良い。
【0039】
モールド部材7cは、励磁コイル6と磁性体コア7aとを電気絶縁性の樹脂によって支持する。定着ベルト1と励磁コイル6は、0.5mmのモールドにより電気絶縁の状態を保つ。定着ベルト1と励磁コイル6の間隔は1.5mm(モールド表面と定着ベルト表面の距離は1.0mm)で一定である。
【0040】
定着ベルト1の回転状態において、誘導加熱装置70の励磁コイル6には、電源装置(励磁回路)101から20〜50kHzの高周波電流が印加されて、励磁コイル6によって発生した磁界により定着ベルト1の金属層(導電層)が誘導発熱する。
【0041】
中央サーミスタTH1は、温度センサ(温度検出素子)であり、定着ベルト1の幅方向中央部の位置に当接させて配設してある。中央サーミスタTH1は、圧力付与部材3に対して弾性支持部材を介して取り付けられているので、定着ベルト1の当接面が波打つなどの位置変動が生じたとしても、これに追従して良好な接触状態が維持される。
【0042】
中央サーミスタTH1は、記録材の搬送紙域のほぼ中央で、定着ベルト1の内側面の温度を検知し、その検知温度情報が制御部102にフィードバックされる。
【0043】
制御部102は、中央サーミスタTH1から入力する検知温度が所定の目標温度(定着温度)に維持されるように、電源装置101から励磁コイル6に入力する電力を制御している。制御部102は、定着ベルト1の検出温度が所定温度に昇温した場合、励磁コイル6への通電を遮断する。制御部102は、定着ベルト1の検出温度が、定着ベルト1の目標温度である180℃で一定になるように、中央サーミスタTH1の検出値に基づいて、高周波電流の周波数を変化させることにより、励磁コイル6に入力する電力を制御して温度調節を行っている。電源装置101に接続された誘導加熱装置70の励磁コイル6は、制御部102で制御され、定着ベルト1は、所定の定着温度に加熱される。
【0044】
前述したように、励磁コイル6には、20〜50kHzの高周波電流が印加されて、定着ベルト1の金属層1aが誘導発熱する。温度調節は、定着ベルト1の目標温度である180℃で一定になるように、中央サーミスタTH1の検出値に基づいて高周波電流の周波数を変化させて励磁コイル6に入力する電力を制御する。
【0045】
励磁コイル6を含む誘導加熱装置70が、高温になる定着ベルト1の内部ではなく外部に配置されているので、励磁コイル6の温度が高温になりにくい。また、電気抵抗も上昇せず高周波電流を流してもジュール発熱による損失を軽減する事が可能となる。また、励磁コイル6を外部に配置したことで定着ベルト1の小径化(低熱容量化)にも寄与しており、しいては省エネルギー性にも優れていると言える。
【0046】
本実施例の定着装置のウォーミングアップタイムは、非常に熱容量が低い構成であるため、例えば励磁コイル6に1200W入力すると約15秒で目標温度である165℃に到達できる。スタンバイ中の加熱動作が不要であるため、電力消費量を非常に低く抑える事が可能である。
【0047】
定着ベルト1は、制御部102で制御されるモータM1によって加圧ローラ2が回転駆動されることで、画像形成時には、図1の二次転写部T2から搬送されてくる記録材Pの搬送速度とほぼ同一の周速度で回転駆動される。定着装置Aでは、定着ベルト1の表面回転速度が300mm/secであって、A4サイズ横送りのフルカラー画像であれば1分間に80枚、同じくA4サイズ縦送りであれば1分間に58枚を連続的に定着可能である。
【0048】
未定着トナー画像Tを有する記録材Pは、そのトナー画像担持面側を定着ベルト1側に向けて、ガイド部材7で案内されて、定着ベルト1と加圧ローラ2とで加圧形成される定着ニップ部Nに導入される。記録材Pは、定着ニップ部Nにおいて、定着ベルト1の外周面に密着し、定着ベルト1と一緒に定着ニップ部Nを挟持搬送されていく。
【0049】
定着ベルト1の熱が付与されつつ定着ニップ部Nの加圧力を受けて、未定着トナー像Tは、記録材Pの表面に定着される。定着ニップ部Nを通った記録材Pは、定着ベルト1の表面が定着ニップ部Nの出口部分で変形するため、定着ベルト1の外周面から記録材Pが自己分離して定着装置A外へ搬送される。
【0050】
ところで、一般的に、像加熱装置は、記録材に転写されたトナー像のトナーを熱によって融解して記録材上に融着させる定着装置の他に、記録材に定着された画像を再加熱して画像の光沢度を向上させる光沢付与装置もある。
【0051】
像加熱装置の高速昇温を可能にするため、定着ローラを薄肉小径化したもの、樹脂ベルトの内側からヒーター加熱するもの、薄肉金属の回転体を誘導加熱するもの等が提案されている。材料コストやエネルギー効率の点からも、薄肉の回転体を採用して熱容量を小さくし、加熱効率の良い誘導加熱装置で加熱することが望まれている。
【0052】
しかし、薄肉の回転体を使用する場合、軸直角断面の断面積がきわめて小さくなるために、軸方向の熱移動率が良好でない。この傾向は薄肉なほど顕著であり、熱伝導率の低い樹脂等の材質ではさらに低くなる。
【0053】
これは、熱伝導率をλ、2点間の温度差をθ1−θ2、長さをLとしたとき、単位時間に伝わる熱量Qは、次式で表されるというフーリエの法則からも明らかである。
Q=λ・f(θ1−θ2)/L
【0054】
薄肉の回転体を使用して軸方向の熱移動率が良好でない状態で、小さいサイズの記録材を連続で通紙させると、回転体の非通紙領域の温度が通紙領域よりも上昇して回転体の長手方向に温度ムラが生じるいわゆる非通紙部昇温の問題が発生する。
【0055】
非通紙部昇温が発生すると、小さいサイズの記録材を連続で加熱処理した直後に大形サイズの記録材を加熱処理すると、記録材上で加熱ムラが発生して、紙シワや定着ムラの原因となる。著しい非通紙部昇温の場合、樹脂材料からなる周辺部材の寿命を低下させる場合もある。
【0056】
非通紙部昇温は、搬送される記録材の熱容量が大きく、単位時間あたりのプリント枚数を高くするほど広がるため、生産性の高い複写機では、薄肉の回転体と加熱効率の良い誘導加熱装置を組み合わせた像加熱装置を採用できなかった。生産性の高い複写機では、多くの場合、ハロゲンランプヒータや抵抗発熱体を分割して記録材サイズに応じた領域を加熱することで、非通紙部昇温を回避している。
【0057】
ところで、薄肉の回転体と加熱効率の良い誘導加熱装置を組み合わせた像加熱装置においても、回転体の長手方向の加熱領域を記録材サイズに応じて設定できるものがある。しかし、誘導加熱装置を複数設けたり分割したりすれば、その分だけ制御回路も複雑でコストが高くなる。薄肉の回転体の場合、分割された加熱領域の境目付近で温度分布が不連続になって、回転体が必要な定着性能を満たせなくなる問題もある。
【0058】
そこで、定着装置Aでは、第一回転体と誘導加熱装置との間に、誘導加熱装置から第一回転体へ導く磁束を10mmごとの領域で可変に設定できる磁性体コア7aを配置している。磁性体コア7aを記録材のサイズに応じた個数だけ移動させることで、加熱の必要な加熱領域以外は誘導加熱装置から届く磁束が少なくなって、定着ベルト1の発熱自体が抑えられる。これにより、加熱領域の制御が行われ、昇温される定着ベルト1の温度分布を精密にコントロールすることが可能となっている。
【0059】
<磁性体コアの移動機構>
図5は磁性体コアの移動の説明図である。図6は磁性体コアの移動機構の説明図である。図7は定着装置の斜視図である。
【0060】
図2に示すように、励磁コイル部材の一例である励磁コイル6は、定着ベルト1へ入射する磁束を発生する。電源装置101は、定着ベルト1の温度をトナー像の定着に必要な所定の温度範囲に保つように励磁コイル6への電力供給を制御する。
【0061】
複数個の磁性体コア7aは、定着ベルト1の長手方向に配列して励磁コイル6が発生する磁束をそれぞれの領域で定着ベルト1に案内する。コア移動機構71は、複数個の磁性体コア7aを定着ベルト1に対して接離する方向へ移動させる。制御部102は、記録材の幅方向の長さに応じた個数の磁性体コア7aを他の磁性体コア7aよりも定着ベルト1に近付けて加熱領域を設定する。
【0062】
図3に示すように、磁性体コア7aは、定着ベルト1の長手方向に分割され、1個の長手方向の幅は10mm、それぞれ1.0mmの間隔を開けて配置されている。通紙部においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの隙間を狭くすることで、定着ベルト1を通過する磁束密度を高めて、定着ベルト1の発熱量を高くする。これに対して、非通紙部においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの隙間を広げることで、定着ベルト1を通過する磁束密度を低下させて定着ベルト1の発熱量を低くする。
【0063】
図5の(a)に示すように、通紙領域においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの間隔は0.5mmである。図5の(b)に示すように、非通紙領域においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの間隔は10mmまで離間する。
【0064】
図6に示すように、磁性体コア7aは、磁性体コアホルダ77に保持されてハウジング76内に収まっている。磁性体コアホルダ77は、磁性体コア7aと励磁コイル6との間隙を変化させる方向に移動可能になっている。リンク部材75は、回転軸78周りに回転可動に組み立てられ、端部の長穴部が磁性体コアホルダ77と連結されている。リンク部材75が回転軸78周りにQ1方向へ回転すると、磁性体コアホルダ77と磁性体コア7aがP1方向へ移動する。リンク部材75がQ2方向へ回転すると、磁性体コアホルダ77と磁性体コア7aがP2方向へ移動する。リンク部材75は、励磁コイルばね74によってQ1方向へ回転する方向へ付勢されているが、規制部材73によって、リンク部材75のQ1方向への回転が規制されている。
【0065】
規制部材73によってリンク部材75が押し込まれている状態では、リンク部材75は、励磁コイルばね74に逆らってQ2方向へ回動している。このとき、磁性体コアホルダ77が矢印P2方向へ移動して磁性体コア7aが励磁コイル6に近付いている。
【0066】
規制部材73による押し込みが解除されると、リンク部材75は、励磁コイルばね74に付勢されてQ1方向へ回動してフレーム79に突き当たって停止する。これにより、磁性体コアホルダ77が矢印P1方向へ移動して磁性体コア7aが励磁コイル6から遠ざかる。
【0067】
図7に示すように、規制部材73は、中央のピニオンギア80と連結され、ピニオンギア80の回転運動により、記録材の搬送方向に直角な幅方向(Y1、Y2方向)へ移動可能となっている。規制部材73がY1方向へ移動すると、端部側のリンク部材75から順番に規制部材73による押し込みが解除され、端部側から中央側へ向かって順番に磁性体コア7aが励磁コイル6から遠ざかる。図7では、端部側から4個の磁性体コアホルダ77について規制部材73による押し込みが解除されて、磁性体コア7aと励磁コイル6との間隙が広がっている。
【0068】
制御部102は、コア移動機構71を制御して、磁性体コアホルダ77のうちで記録材の搬送幅方向に応じて定めた個数のものについて規制部材73による押し込みを解除する。これにより、記録材の外側に位置する磁性体コア7aと励磁コイル6との間隙を拡大させて、非通紙部昇温を防止している。ハガキサイズ、A5、B4、A3、A3ノビサイズ等、各種の記録材サイズに対応するため、規制部材73の位置を記録材のサイズによって異ならせて、各記録材のサイズに応じた加熱領域を設定して非通紙部昇温を抑制している。
【0069】
<定着ベルトの温度分布>
図8は加熱領域が狭い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。図9は加熱領域が広い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。図10は加熱領域が適正な場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【0070】
各図中、破線は定着装置立ち上げ30秒後、画像形成開始前である。実線は連続画像形成500枚終了時点である。記録材は、オーセダレ(登録商標)105g/m2のA4サイズ普通紙である。15℃環境において、80ppmの生産性、320mm/secのプロセススピードで画像形成及び定着を実行した。定着ベルトの温調温度は180℃に設定した。
【0071】
図8に示すように、A4サイズの記録材に対して同一の搬送幅方向長さに加熱領域を設定した場合、画像形成開始前も500枚の画像形成後も記録材の端部において温度低下が見られ、定着不良が発生した。トナーが定着ベルト1に付着して持ち去られるいわゆるコールドオフセットが発生した。
【0072】
図9に示すように、A4サイズの記録材の外側に磁性体コア7aが2個分20mmの余分の加熱領域を設定した場合、定着不良は発生しないが、500枚の画像形成後の記録材の外側領域に非通紙部昇温が発生して設計温度を超えてしまった。
【0073】
図10に示すように、A4サイズの記録材の外側に磁性体コア7aが1個分10mmの余分の加熱領域を設定した場合、定着不良は発生せず、500枚の画像形成後の記録材の外側領域に非通紙部昇温が発生しても設計温度を超えていなかった。
【0074】
ところで、上述したように、薄肉の回転体を誘導加熱装置で加熱する像加熱装置には、回転体が記録材の外側で局所的に昇温してしまういわゆる非通紙部昇温の問題がある。
【0075】
縁の余白の少ない画像の場合、記録材の搬送幅方向の両端部においてもトナーを定着するのに十分な温度を確保する必要がある。そのため、図10に示すように、記録材の外側まで誘導加熱の磁束を入射させて定着ベルト1を加熱することになる。
【0076】
しかし、この状態で画像形成を続けていると、通紙部に対して非通紙部では記録材に奪われる熱量が小さいため、次第に熱がこもって大きな非通紙部昇温が形成されてしまう。非通紙部昇温は、低熱容量のフィルム材料を用いた定着ベルト1においてより顕著に現れる。非通紙部昇温によって、定着ベルト1の耐久寿命が低下するため、非通紙部昇温を低減する必要がある。
【0077】
そこで、以下の実施例では、部分的に発熱量を調整できる構成において、通紙を中断した空回転動作中もしくは生産性を低下させている状態の時、発熱幅が通常時よりも狭くなるように磁性体コア7aを移動する。これにより、非通紙部昇温を抑制・低減して、定着ベルト1の耐久寿命を延ばしている。
【0078】
<実施例1>
図11は実施例1の緩和モードの制御のフローチャートである。図12は画像形成中の加熱領域の設定の説明図である。図13は画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。図14は緩和モードにおける非通紙部昇温の解消速度の説明図である。
【0079】
図2に示すように、第一回転体の一例である定着ベルト1は、トナー像が転写された記録材に接触して加熱する。第二回転体の一例である加圧ローラ2は、定着ベルト1に当接して記録材の加熱ニップを形成する。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して定着ベルト1を誘導加熱する。制御手段の一例である制御部102は、加熱ニップへの記録材の給送が停止された状態で、加熱ニップへ記録材が給送されている場合よりも加熱領域を狭く設定して誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行可能である。制御部102は、中間転写ベルト26におけるトナー像の形成が中断された際に緩和モードを実行する。
【0080】
図1に示すように、制御部102は、通常の画像形成であれば、500枚の画像形成ごとに画像形成を中断して現像装置の調整を実行する。また、トナー使用量の多い高デューティー画像が連続画像形成されるときは、現像装置23内のトナー濃度、トナー帯電量が大幅に変動するため、頻繁に現像装置の調整が行われる。
【0081】
現像装置の調整では、制御部102は、画像形成部PYにおいて、所定の画像形成条件で感光ドラム21にカラーパッチトナー像を形成して、中間転写ベルト26に転写する。中間転写ベルト26上のカラーパッチトナー像は、光学式センサ105で赤外光を照射して反射光を検出される。
【0082】
制御部102は、カラーパッチトナー像の検出結果基づいて現像装置23の現像条件(現像スリーブ直流電圧)を調整して、再びカラーパッチトナー像を形成して同様の制御を繰り返す。これを、画像形成部PY、PC、PM、PKで並行して実行することで5秒〜20秒間のダウンタイムが発生する。このようにして、現像におけるトナー濃度調整等が行われる。
【0083】
実施例1では、このダウンタイムを利用して、定着装置Aにおいて、緩和モードの制御を実行することで、前回からの500枚の画像形成を通じて発生していた非通紙部昇温を解消する。
【0084】
図2を参照して図11に示すように、制御部102は、画像形成を開始する(S100)。このとき、図12の(a)に示すように、A4サイズの搬送幅方向長さに磁性体コア7aの2個分の長さを加えた加熱領域が設定されている。
【0085】
制御部102は、画像形成の開始からトナー像の形成の中断までの時間が所定時間以上の場合に緩和モードを実行するが、所定時間未満の場合には実行しない。制御部102は、現像装置(23)の調整に伴う画像形成の中断が発生すると(S101)、画像形成開始からの経過時間が所定時間を超えているか否かを判断する(S102)。所定時間は、環境温度と記録材の単位面積当たり重量(坪量)により表1のように設定されている。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1では、非通紙部の温度を測定していないため、このように所定時間を設定して温度分布を見積もっている。所定時間は、20秒以上に設定するのが望ましい。所定時間が短すぎる場合、端部における昇温はそれほどしておらず、磁性体コア7aを移動する必要がない。上述したように、非通紙部昇温があまり発生していない状況において加熱領域を狭くすると、記録材の搬送幅方向の両端部において温度ダレして定着不良を発生する可能性がある。
【0088】
図12の(b)に示すように、画像形成の開始から調整処理の発生まで所定時間が経過していれば、実線で示すように、定着ベルト1に非通紙部昇温が発生している。画像形成の開始直後であれば、破線で示すように非通紙部昇温が発生していない。よって、所定時間を超えて実線のような温度分布になったとき、加熱領域を狭めることで非通紙部昇温を低減する。
【0089】
制御部102は、画像形成開始から所定時間が経過している場合(S102のYES)、図13の(a)に示すように、外側の1個ずつの磁性体コア7aを励磁コイル6から遠ざけて、加熱領域を記録材の搬送幅方向長さに縮小する(S107)。
【0090】
制御部102は、この状態で、中央サーミスタTH1の検出温度が180±5℃になるように励磁コイル6への供給電力を調整する(S103)。非通紙部昇温が発生している領域を加熱領域から外して、定着ベルト1の加熱を継続することで、非通紙部昇温が発生している領域としていない領域の温度差が急速に収束して、非通紙部昇温が速やかに解消される。
【0091】
図13の(b)に実線で示すように、磁性体コア7aの移動を行う前の状態では、定着ベルト1にかなりの非通紙部昇温が発生している。しかし、現像装置23の調整のためのダウンシーケンス中に、図13の(a)に示すように、両端に位置する磁性体コア7aを励磁コイル6から遠ざかる方向へ移動する(S107)。これにより、定着ベルト1の加熱領域が狭くなって非通紙部昇温が低減され(S103)、定着ベルト1の耐久性が向上する。
【0092】
制御部102は、緩和モードの開始後、所定時間が経過すると加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる。現像装置23の調整時間が長い場合、定着ベルト1の加熱領域を狭く設定している時間が長すぎる場合がある。このとき、記録材の内側領域において不必要な温度低下が進行して、続く画像形成において定着不良の原因となる。このため、制御部102は、加熱領域を狭く設定してから10秒程度で、外側の1個ずつの磁性体コア7aを励磁コイル6に近付けて元に戻す(S105)。なお、現像装置23の調整時間が10秒以下の場合、調整終了後の画像形成の再スタートと同時に加熱領域を元に戻す。その後、制御部102は、画像形成を再開させる(S106)。
【0093】
図14に示すように、磁性体コア7aの移動ありの実施例1によれば、加熱領域を狭くすることで、磁性体コア7aの移動なしで加熱領域が広いままの場合よりも2倍以上速く非通紙部昇温が解消される。
【0094】
磁性体コア7aの移動ありの実施例1によれば、10秒でおよそ30℃と急速に非通紙部昇温を低下させることができるので、画像形成が再スタートした時点での非通紙部昇温が低減されて、定着ベルト1の耐久性能向上につながる。
【0095】
次に、記録材Pとしてオーセダレ(登録商標)105g/m2のA4サイズ普通紙を用いて、15℃環境において、生産性80ppm、プロセススピード320mm/sesの条件で連続画像形成を実行した。中央サーミスタTH1の検出温度が180℃に保たれるように温調した。現像装置23の調整処理が500枚通紙ごとに10秒間のダウンシーケンス(通紙中断)に突入すると仮定した条件で、磁性体コア7aの移動ありの実施例1と磁性体コア7aの移動なしの比較例とで定着ベルト1の耐久寿命を比較した。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、磁性体コア7aによってダウンシーケンス時に加熱領域を狭くする実施例1では、ダウンシーケンス時に加熱領域を狭くしない比較例に比較して定着ベルト1の耐久寿命が長くなる。
【0098】
磁性体コア7aの移動によってダウンシーケンス中に加熱領域を狭くすることで、非通紙部昇温を低減し、連続画像形成中の非通紙部昇温を平均して10℃程度下げることができた。これにより、画像形成枚数に換算して50000枚以上の耐久寿命の向上が見られた。
【0099】
<実施例2>
実施例1では、非通紙部の温度を測定していないため、表1のように、画像形成の開始後の継続時間で非通紙部昇温を見積もった。しかし、特許文献2に記載されるように、非通紙部の温度を測定して、非通紙部昇温の発生状態を直接判断してもよい。
【0100】
図10に示すように、第一検出手段の一例である端部サーミスタTH2は、定着ベルト1の局所的な昇温を検出可能である。制御部102は、端部サーミスタTH2によって検出された局所的な昇温が所定範囲を超えている場合に緩和モードを実行するが、超えていない場合には実行しない。第二検出手段の一例である端部サーミスタTH3は、記録材の搬送幅方向の端部に相当する位置の定着ベルト1の温度を検出可能である。制御部102は、端部サーミスタTH3によって検出された定着ベルト1の温度がトナー像の定着に必要な所定の下限温度に達すると加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる。
【0101】
実施例2では、A4サイズの通紙幅よりも5mm外側に端部サーミスタTH2を設けて定着ベルト1の表面温度を非接触状態で検出している。また、A4サイズの通紙幅よりも5mm内側に端部サーミスタTH3を設けて定着ベルト1の表面温度を非接触状態で検出している。また、定着ベルト1の中央部には、図2に示すように定着ベルト1の内側に中央サーミスタTH1を配置して温調温度を測定している。
【0102】
制御部102は、非接触型の端部サーミスタTH2の出力を定期的に取り込んで定着ベルト1の非通紙部昇温を正確に把握している。制御部102は、現像装置23の調整処理によってダウンシーケンスに突入した時に、発熱幅を狭めることで、定着ベルト1の非通紙部昇温を低減する。
【0103】
制御部102は、現像装置23の調整に伴うダウンシーケンス突入時に、端部サーミスタTH2で検出された非通紙部昇温を設計温度に比較する。制御部102は、設計温度を超えていれば、非通紙部昇温を温調温度まで低下させるために、図8に示すように、加熱領域を狭くして、非通紙部昇温を生じた領域に磁束が入射しないようにする。
【0104】
そして、端部サーミスタTH2で検出された温度が温調温度の上限値まで低下する直前に磁性体コア7aを図10の状態に戻して、画像形成を再開させる。ただし、端部サーミスタTH3で検出された定着領域の温度が温調温度の下限値を割り込んだ場合には、磁性体コア7aを図10の状態に戻して温調温度に回復させることを優先する。
【0105】
実施例2では、端部サーミスタTH2、TH3のコストアップ要因もあるが、実施例1の時間推定の制御よりも、より精密な温度調整制御が行える。
【0106】
<実施例3>
実施例1では、誘導加熱装置70が発生する磁束が定着ベルト1へ入射する長手方向の磁束密度分布を調整する手段として可動の磁性体コア7aを使用した。しかし、特許文献2に示されるように、定着ベルト1と誘導加熱装置70との間に可動の磁束遮蔽板を配置して定着ベルト1へ入射する長手方向の磁束密度分布を調整する構成を採用してもよい。
【0107】
実施例3では、定着装置Aは、定着ベルト1と誘導加熱装置70との間に、誘導加熱装置70から定着ベルト1へ届く磁束の一部を遮蔽する磁束遮蔽板を可動に配置する。磁束遮蔽板を定着ベルト1の長手方向に移動させる変位機構を設け、変位機構を制御して定着ベルト1に任意の加熱領域を設定する。
【0108】
実施例3にあっては、磁束遮蔽板を設けて移動させることで、必要部分以外は誘導加熱装置70から届く磁束が遮蔽され、発熱自体が抑えられることにより、加熱領域の制御が行われ、定着ベルト1の非通紙部昇温の温度分布をコントロールする。
【0109】
<実施例4>
図15は実施例4の緩和モードの制御のフローチャートである。図16は画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。実施例1では、トナー像形成が中断された際に、その中断時間を利用して非通紙部昇温を解消もしくは軽減した。これに対して、実施例4では、加熱される記録材のサイズが大きくなる前に、積極的にトナー像形成を中断させて、それまでの小さいサイズの記録材の連続加熱で発生してしまった非通紙部昇温を解消させている。
【0110】
図2を参照して図15に示すように、制御部102は、加熱される記録材の搬送幅方向の長さが大きくなる前に中間転写ベルト26におけるトナー像の形成を中断させて緩和モードを実行可能である。制御部102は、小サイズの記録材の通紙中に(S201)大サイズの記録材の画像形成ジョブが発生したとする(S202)。制御部102は、小サイズの記録材の画像形成のスタートから所定時間が通紙していれば(S203のYES)、定着ベルト1の加熱領域を狭める(S206)。
【0111】
図10に示すように、A4サイズの記録材の通紙を重ねると、記録材の外側において定着ベルト1が局所的に昇温して非通紙部昇温が発生してしまう。この状態でA3ノビサイズの画像形成を開始するために、A3ノビサイズとのサイズ差分だけ加熱領域を拡大すると、非通紙部昇温が記録材の内側に取り込まれてしまう。
【0112】
図16の(b)に示すように、A4サイズの記録材の通紙で発生した定着ベルト1の局所的な昇温が中々下がらず、このままの状態でA3ノビサイズ(13inch)の記録材を通紙すると、局所的な昇温部分の内側と外側とで出力画像の光沢差が発生する。局所的な昇温部分においてトナーが定着ベルト1に持ち去られるホットオフセット画像不良が発生する場合もある。このため、通常は、局所的な昇温を温度低下させるためにウェイトタイムに移行し、長くユーザーを待たせる結果となってしまう。
【0113】
そこで、実施例4では、これらを解決するために、A4サイズの記録材の通紙後により大きなサイズの画像形成ジョブが発生すると、A4サイズの記録材の通紙終了後に、一旦、図16の(a)に示すように、定着ベルト1の加熱領域を狭める。局所的な昇温部分に対する加熱を局所的に停止させることにより、急速に昇温部の温度を低下させる。
【0114】
制御部102は、実施例1と同様に、通紙時間が表2に示す所定時間を超えていれば(S203のYES)、加熱領域を狭める(S206)。その後、加熱領域を狭めた状態を保持する時間としては、記録材の搬送幅の端部における定着ベルト1の温度低下が定着不良を引き起こさないために、実施例1と同じく10秒間とする。
【0115】
制御部102は、10秒経過後、13inchサイズの記録材に適した発熱幅を得るために、磁性体コア7aを移動する(S204)。そして、13inchサイズの記録材に対する画像形成を開始する(S205)。
【0116】
実施例4の緩和モードによれば、ウェイトタイムとその後の13inchの加熱領域の温度が安定するまでを合わせた時間が、通常30秒間かかっていたものを20秒間に短縮することができた。
【0117】
<実施例5>
図17は実施例5の緩和モードの制御のフローチャートである。実施例1では薄肉の定着ベルトを用いる実施形態における緩和モードの制御を説明したが、緩和モードは、薄肉の定着ローラを用いる実施形態でも同様に実施すれば、同様に効果を奏する。実施例5では、さらなる高速生産性のために薄肉の定着ローラを用いた実施形態について説明する。なお、実施例1と同一機能を有する構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0118】
図2に示すように、実施例5では、定着ベルト1を定着ローラ1Rに置き換える。定着ローラ1Rは、内径40mmで厚み1mmの鉄製の芯金の外側に、厚み400μmのシリコーンゴムの弾性層を形成し、弾性層の外周をフッ素樹脂(FRP)の離型層で覆って構成される。定着ローラ1Rの温度制御は、定着ローラ1Rの内面に配置された中央サーミスタTH1によって検出された温度が所定の温調温度範囲に保たれるように、誘導加熱装置70の出力を調整して行う。
【0119】
ここで、通常の使用環境と記録材の組み合わせであれば、設計上、定着ローラ1Rの温度は定着可能温度を下回ることはない。しかし、5℃以下の超低温環境において厚くて熱容量の大きな記録材を連続加熱処理した場合、供給電力が間に合わなくなって定着ローラ1Rの温度が定着可能温度を下回ってしまう(S302のYES)。定着ローラ1Rの温度が定着可能温度を下回ると、上述したように、コールドオフセット等の定着不良が発生する可能性が出てくるため、定着可能温度を下回る前に、紙間を空けるなどのダウンシーケンス処理が実行される。
【0120】
実施例5では、定着ローラ1Rの温度を回復させるためのダウンシーケンスの待ち時間を利用して、緩和モードを実行することにより、それまでの画像形成で発生していた非通紙部昇温を解消させる。定着ローラ1Rの温度が定着可能温度を下回った時に移行するダウンシーケンス時において、加熱領域を狭めることで、図10に示す定着ベルト1と同様に発生していた非通紙部昇温が低減される。
【0121】
図2を参照して図17に示すように、制御部102は、印刷ジョブに対して定着ローラ1Rの昇温を開始する(S300)。そして、定着ローラ1Rが所定の通紙開始温度を超えたところで通紙を開始する(S301)。画像形成ジョブは、A4サイズの記録材を毎分100枚(100ppm)の生産性で400mm/secのプロセススピードで通紙するものとし、定着ローラ1Rの通紙開始温度は190℃に設定してあるとする。
【0122】
中央サーミスタTH1によって検出される定着ローラ1Rの内面温度が、通紙中に、定着可能温度の下限値である170℃を下回ると(S302のYES)、ダウンシーケンスに突入する(S303)。ダウンシーケンスでは、実施例1と同様に表1の経過時間で判断して(S304のYES)、磁性体コア7aを移動することで加熱領域を狭く設定する(S310)。
【0123】
制御部102は、その後、定着ローラ1Rの温度が定着可能温度に回復すると(S305のYES)、加熱領域を元の状態に復帰させて(S306)、画像形成を再開する(S307のNO)。制御部102は、画像形成ジョブが終了すると(S307のYES)、定着装置Aを停止させる(S308)。
【0124】
実施例1で説明したように、通常の印刷動作中に非通紙部昇温を解消するために加熱領域を狭めると、定着ローラ1Rの記録材端部位置において温度低下が発生してコールドオフセット等の定着不良が発生する。しかし、ダウンシーケンス中であれば、記録材の加熱が中断されているため、記録材に奪われる熱量が下がるため、定着ローラ1Rの記録材端部位置における温度低下はあまり見られないため、加熱領域を狭めることによる非通紙部昇温の軽減を有効に実施できる。
【0125】
実施例1で説明したように、画像形成の開始から表1の所定時間が経過していれば、非通紙部昇温が発生しているため、緩和モードを実行して、磁性体コア7aを移動して加熱領域を狭めることによって非通紙部昇温を解消する。しかし、所定時間を超えていなければ、非通紙部昇温が発生していないため、緩和モードを実行しない。
【0126】
実施例1で説明したように、ダウンシーケンス中、長い時間加熱領域を狭めていると、通紙域における温度ダレが徐々に進行するため、定着ローラ1Rの温度が定着可能温度に回復しなくても、10秒間が経過すると加熱領域を元の状態に復帰させている。
【0127】
実施例5の緩和モードによれば、通常の画像形成時に発生した非通紙部昇温をすみやかに解消させることで、非通紙部の温度を平均して低い状態に保てるため、定着ローラ1Rの耐久寿命が向上する。
【符号の説明】
【0128】
1 定着ベルト、2 加圧ローラ、3 圧力付与部材、4 ステー
5 磁気遮蔽コア、6 励磁コイル、7a 磁性体コア
8 モールド部材、9a バネ受け部材、9b ステー加圧バネ
10 定着フランジ、11 外側磁性体コア、12 支持側板
21 感光ドラム、23 現像装置、26 中間転写ベルト
31 記録材カセット、33 レジストローラ
70 誘導加熱装置、71 コア移動機構、101 電源装置
102 制御部、105 光学式センサ
PY、PM、PC、PK 画像形成部
TH1 中央サーミスタ、TH2、TH3 端部サーミスタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一回転体と第二回転体の加熱ニップにおける長手方向の加熱領域を記録材のサイズに応じて設定可能な画像形成装置、詳しくは、第一回転体の記録材通過領域の外側に発生する局所的な温度上昇を緩和させる緩和モードの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
トナー像を形成して記録材に転写した後に、トナー像が転写された記録材を、第一回転体と第二回転体の加熱ニップで挟持搬送して画像を記録材に定着させる画像形成装置が広く用いられている。第一回転体(ベルト部材又はローラ部材)の加熱源として誘導加熱装置を用いた像加熱装置も実用化されている(特許文献1、2)。
【0003】
誘導加熱装置は、比較的に小さな質量の第一回転体の一部分に加熱を集中できるため、第一回転体の温度の立ち上がりが早く、温調制御の応答性にも優れている。しかし、誘導加熱装置を用いた場合、第一回転体の記録材に接して冷却される領域の外側に、記録材による冷却を受けないために局所的に高温になってしまう領域が形成される。いわゆる非通紙部昇温であって、過剰な非通紙部昇温に長時間晒されると、第一回転体の耐久寿命が低下する可能性がある。
【0004】
特許文献1では、第一回転体(ベルト部材)の長手方向に複数の磁性体コアを配置し、両端部の磁性体コアについて、第一回転体に対する対向間隔を変化させることにより、非通紙部昇温を回避している。
【0005】
特許文献2では、第一回転体(ローラ部材)の端部をカバーする磁束遮蔽板のサイズを切り替えて、記録材のサイズが変化しても記録材の外側位置の加熱範囲を一定幅に保つことにより、非通紙部昇温を回避している。また、第一回転体の端部に温度センサを配置して非通紙部昇温を実測し、第一回転体と第二回転体の加熱ニップに対する記録材の給送(毎分枚数又は緊急停止)を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−194940号公報
【特許文献2】特開2006−120533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非通紙部昇温を第一回転体の設計上の上限温度以下に保つように記録材の給送を制御した場合、画像形成装置の生産性が非通紙部昇温によって限界付けられてしまい、画像形成装置本来の高い生産性を発揮できない。そこで、非通紙部に温度センサを配置して非通紙部昇温を実測し、第一回転体の非通紙部昇温が設計上の上限値に達すると、画像形成を中断して第一回転体をクールダウンさせる制御が提案された。しかし、この場合、冷却後に加熱ニップを元の温度状態へ復帰させるために時間がかかってしまい、トータルな生産性はかえって低下する傾向となる。
【0008】
また、定着装置の非通紙部昇温が設計上の上限値に達すると、画像形成を中断して、冷却ファンによる非通紙部の強制冷却を行う制御が提案された。しかし、非通紙部昇温が発生する位置は、ごく狭い領域であって、記録材のサイズに応じて変化するため、送風範囲が広い通常の冷却ファンでは効率的な冷却は難しい。
【0009】
本発明は、記録材の連続加熱によって発生した非通紙部昇温を短時間で効率的に緩和して画像形成を再開することにより、本来の高い生産性を十分に活用できるようにした画像形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の画像形成装置は、トナー像を形成して記録材に転写する画像形成部と、トナー像が転写された記録材に接触して加熱する第一回転体と、前記第一回転体に当接して記録材の加熱ニップを形成する第二回転体と、前記第一回転体の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して前記第一回転体を誘導加熱する誘導加熱装置とを備えるものである。そして、前記加熱ニップへの記録材の給送が停止された状態で、前記加熱ニップへ記録材が給送されている場合よりも前記加熱領域を狭く設定して前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行可能な制御手段を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の画像形成装置では、誘導加熱装置による第一回転体の加熱領域を設定する機能を用いて緩和モードの制御を実行し、非通紙部昇温が発生した領域に限定して磁束による加熱を停止させる。これにより、非通紙部昇温が発生した領域とその外側の領域とで大きな熱流入量差が形成されて、両者の温度差がすみやかに解消される方向に向かう。
【0012】
したがって、記録材の連続加熱によって発生した非通紙部昇温を短時間で効率的に緩和して画像形成を再開することにより、画像形成装置のトータルな生産性を損なうことなく、画像形成装置の本来の高い生産性を十分に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】画像形成装置の構成の説明図である。
【図2】定着装置の要部の構成の説明図である。
【図3】定着装置を二次転写部側から見た縦断面図である。
【図4】定着ベルト1の層構成の説明図である。
【図5】磁性体コアの移動の説明図である。
【図6】磁性体コアの移動機構の説明図である。
【図7】定着装置の斜視図である。
【図8】加熱領域が狭い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【図9】加熱領域が広い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【図10】加熱領域が適正な場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【図11】実施例1の緩和モードの制御のフローチャートである。
【図12】画像形成中の加熱領域の設定の説明図である。
【図13】画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。
【図14】緩和モードにおける非通紙部昇温の解消速度の説明図である。
【図15】実施例4の緩和モードの制御のフローチャートである。
【図16】画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。
【図17】実施例5の緩和モードの制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、第一回転体の加熱領域が可変である構成において画像形成の中断時に加熱領域を狭くして誘導加熱を継続する限りにおいて、実施形態の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0015】
従って、像加熱装置は、トナー像を転写された記録材を加熱処理して記録材にトナー像を定着させる定着装置のみならず、半定着又は定着済みトナー像を加熱処理して画像に所望の表面性を付与する画像加熱装置を含む。第一回転体及び第二回転体は、ベルト部材に限らずローラ部材であってもよい。
【0016】
画像形成の中断事由は、現像装置の調整に限らず、第一回転体の過熱検出、記録材の補給待ち、記録材のサイズ切り替え、画像データのダウンロード時間等でもよい。いずれの場合でも、第一回転体の冷却専用時間を設けることなく、他の処理の待ち時間を活用して非通紙部昇温を解消できる。
【0017】
画像形成装置は、モノクロ/フルカラー、枚葉型/記録材搬送型/中間転写型、トナー像形成方式、転写方式の区別無く本発明の像加熱装置を搭載できる。本実施形態では、トナー像の形成/転写/定着に係る主要部のみを説明するが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途の画像形成装置で実施できる。
【0018】
<画像形成装置>
図1は画像形成装置の構成の説明図である。図1に示すように、画像形成装置Eは、中間転写ベルト26に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部PY、PC、PM、PKを配列したタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。画像形成部の一例である中間転写ベルト26は、トナー像を形成して記録材に転写する。
【0019】
画像形成部PYでは、感光ドラム21(Y)にイエロートナー像が形成されて中間転写ベルト26に転写される。画像形成部PCでは、感光ドラム21(C)にシアントナー像が形成されて中間転写ベルト26に転写される。画像形成部PM、PKでは、感光ドラム21(M)、21(K)にそれぞれマゼンタトナー像、ブラックトナー像が形成されて中間転写ベルト26に転写される。
【0020】
中間転写ベルト26は、無端状の樹脂ベルトで構成され、駆動ローラ27、二次転写対向ローラ28、テンションローラ29に張架されて、駆動ローラ27によって駆動される。
【0021】
記録材Pは、記録材カセット31から給紙ローラ32により1枚ずつ取り出されてレジストローラ33で待機する。記録材Pは、レジストローラ33によって二次転写部T2へ給送されて、中間転写ベルト26からトナー像を転写される。四色のトナー像を転写された記録材Pは、定着装置Aへ搬送され、定着装置Aで加熱加圧を受けて表面にトナー像を定着された後に、排出搬送路36を通じて外部トレイ37へ排出される。なお、単色のみの画像形成(単色モード)時には、目的の色についてのみトナー像が形成されて中間転写ベルト26に担持させて記録材に転写される。
【0022】
画像形成部PY、PC、PM、PKは、現像装置23(Y)、23(C)、23(M)、23(K)で用いるトナーの色がイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックと異なる以外は、実質的に同一に構成される。以下では、画像形成部PYについて説明し、画像形成部PC、PM、PKに関する重複した説明を省略する。
【0023】
画像形成部PYは、感光ドラム21の周囲に、帯電ローラ22、露光装置25、現像装置23、転写ローラ30、及びドラムクリーニング装置24を配置している。帯電ローラ22は、感光ドラム21の表面を一様な電位に帯電させる。露光装置25は、レーザービームを走査して感光ドラム21に画像の静電像を書き込む。現像装置23は、静電像を現像して感光ドラム21にトナー像を形成する。転写ローラ30は、直流電圧を印加されて感光ドラム21のトナー像を中間転写ベルト26へ転写させる。
【0024】
<定着装置>
図2は定着装置の要部の構成の説明図である。図3は定着装置を二次転写部側から見た縦断面図である。図4は定着ベルト1の層構成の説明図である。定着装置Aは、搬送される記録材に転写されたトナー像(未定着画像)のトナー(現像剤)を、熱によって融解して記録材P上に融着させる。
【0025】
以下の説明において、定着装置または定着ローラの長手方向とは、記録材搬送路面内において記録材の搬送方向に直角な幅方向である。また、定着装置または定着ローラの短手方向とは、記録材の搬送方向と平行な方向である。また、定着装置の正面とは、定着装置を記録材入口側からみた面、背面とはその反対側の記録材出口側から見た面である。定着装置の左右とは、定着装置を正面から見て左または右である。上流側は記録材の搬送方向の上流側、下流側は記録材の搬送方向の下流側である。
【0026】
図2に示すように、第一回転体の一例である定着ベルト1は、トナー像を転写された記録材に接触して加熱する。第二回転体の一例である加圧ローラ2は、定着ベルト1に当接して記録材の加熱ニップを形成する。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の長手方向における誘導加熱の加熱領域を可変に設定して定着ベルト1を誘導加熱する。
【0027】
定着ベルト1は、金属層を有する内径が30mmの無端状のベルト部材である。加圧ローラ2は、外径が30mmの円筒状に形成され、圧力付与部材3によって内側面を支持された定着ベルト1の外側面に圧接して、定着ベルト1との間に記録材Pの定着ニップ部Nを形成する。
【0028】
加圧ローラ2は、長手方向中央部の径が20mmで両端部の径が19mmである鉄合金製の芯金2aに、厚さがほぼ5mmのシリコーンゴム層の弾性層2bを設けてある。弾性層2bの表面は、30μmの厚みでフッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)の離型層2cが設けられている。加圧ローラ2の長手方向中央部における硬度は、ASK−C70℃である。芯金2aにテーパー形状をつけているのは、加圧した時に圧力付与部材3が撓んでも、定着ベルト1と加圧ローラ2で挟まれる定着ニップ部N内の圧力が長手方向にわたって均一に確保できるからである。
【0029】
芯金2aにテーパー形状をつけて中央部と両端部とで弾性層2bの厚さが異なるため、定着ベルト1と加圧ローラ2の定着ニップ部Nの搬送方向長さは、定着ニップ圧が600Nにおいては、長手方向両端部で約9mm、中央部では約8.5mmである。これにより、記録材Pの両端部での搬送速度が中央部と比べて速くなるので、紙しわが発生しにくくなるという利点がある。
【0030】
圧力付与部材3は、その内側面を金属製のステー4に保持されて、その外側面で定着ベルト1の内側面を支持する。圧力付与部材3は、定着ベルト1を介して加圧ローラ2に押圧力を作用させて、定着ベルト1と加圧ローラ2の間に定着ニップ部Nを形成する。圧力付与部材3は、耐熱性樹脂である。圧力付与部材3は、ステー4のコイル6側には、誘導加熱による温度上昇を防止するための磁束遮蔽部材としての磁束遮蔽コア5が設けられている。
【0031】
図3に示すように、ステー4は、定着ベルト1と加圧ローラ2の圧接部に圧力を加えるために剛性が必要であるため、鉄製である。ステー4は、特に両端部で励磁コイル6と接近しており、ステー4の発熱を防止するために、励磁コイル6で生じる磁界を遮蔽するために、ステー4の上面に長手方向にわたって磁束遮蔽コア5を配置してある。
【0032】
定着フランジ10は、定着ベルト1の長手方向移動および周方向の形状を規制する左右の規制部材である。定着フランジ10内に挿通して配設したステー4のバネ受け部4aと装置シャーシ側のバネ受け部材9aとの間にステー加圧バネ9bを縮設することで、ステー4の全体に押し下げ力を作用させている。これにより、圧力付与部材3の下面と加圧ローラ2の上面とが定着ベルト1を挟んで圧設して、記録材の画像の定着ニップ部Nが形成される。
【0033】
回転する定着ベルト1は、基層が金属で構成されているので、回転状態にあっても幅方向への寄りを規制するための手段としては、定着ベルト1の端部を単純に受け止めるだけの定着フランジ10を設ければ十分である。これにより、定着装置Aの構成を簡略化できるという利点がある。
【0034】
図4に示すように、定着ベルト1は、電気鋳造法によって製造した厚み40μmのニッケルの基層(金属層)1aを有している。基層1aには、ニッケルのほかに、鉄合金や銅、銀などを適宜選択可能である。また、樹脂基層にそれら金属を積層させるなどの構成でも良い。金属層1aの厚みは、後で説明する励磁コイルに流す高周波電流の周波数と金属層の透磁率・導電率に応じて調整して良く、5〜200μm程度の間で設定すると良い。
【0035】
基層1aの外周には、耐熱性シリコーンゴム層の弾性層1bが設けられている。弾性層1bの厚さは100〜1000μmの範囲内で設定するのが好ましい。ここでは、定着ベルト1の熱容量を小さくしてウォーミングアップタイムを短縮し、かつカラー画像を定着するときに好適な定着画像を得ることを考慮して、弾性層1bの厚さは300μmである。弾性層1bのシリコーンゴムは、JIS−A20度の硬度を持ち、熱伝導率は0.8W/mKである。弾性層1bの外周には、フッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)の離型層1cが30μmの厚みで設けられている。基層1aの内面側には、定着ベルト内面と中央サーミスタ(TH1:図2)との摺動摩擦を低下させるために、フッ素樹脂やポリイミドなどの樹脂層による滑性層1dを10〜50μm設けている。滑性層1dは、ポリイミドを20μm設けた。
【0036】
<誘導加熱装置>
図2に示すように、誘導加熱装置70は、定着ベルト1を誘導加熱する加熱源である。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の外周面の上面側において、定着ベルト1に所定のギャップ(隙間)を存して対面させて配設してある。
【0037】
励磁コイル6は、電線として例えばリッツ線を用い、これを横長・船底状にして定着ベルト1の周面と側面の一部に対向するように巻回してなる。励磁コイル6の長手方向の内径は352mm、外径は392mmである。
【0038】
磁性体コア7aは、励磁コイル6によって発生した磁界が定着ベルト1の金属層(導電層)以外に実質漏れないように、励磁コイル6を覆わせている。磁性体コア7aは、励磁コイル6より発生した交流磁束を効率よく定着ベルト1に導く役割をする。交流磁束の磁気回路の効率を上げるためと、周囲へ磁束を漏らして周辺部材を誘導加熱することを回避する磁束遮蔽のために用いている。磁性体コア7aの材質として、フェライト等の高透磁率かつ残留磁束密度の低いものを用いると良い。
【0039】
モールド部材7cは、励磁コイル6と磁性体コア7aとを電気絶縁性の樹脂によって支持する。定着ベルト1と励磁コイル6は、0.5mmのモールドにより電気絶縁の状態を保つ。定着ベルト1と励磁コイル6の間隔は1.5mm(モールド表面と定着ベルト表面の距離は1.0mm)で一定である。
【0040】
定着ベルト1の回転状態において、誘導加熱装置70の励磁コイル6には、電源装置(励磁回路)101から20〜50kHzの高周波電流が印加されて、励磁コイル6によって発生した磁界により定着ベルト1の金属層(導電層)が誘導発熱する。
【0041】
中央サーミスタTH1は、温度センサ(温度検出素子)であり、定着ベルト1の幅方向中央部の位置に当接させて配設してある。中央サーミスタTH1は、圧力付与部材3に対して弾性支持部材を介して取り付けられているので、定着ベルト1の当接面が波打つなどの位置変動が生じたとしても、これに追従して良好な接触状態が維持される。
【0042】
中央サーミスタTH1は、記録材の搬送紙域のほぼ中央で、定着ベルト1の内側面の温度を検知し、その検知温度情報が制御部102にフィードバックされる。
【0043】
制御部102は、中央サーミスタTH1から入力する検知温度が所定の目標温度(定着温度)に維持されるように、電源装置101から励磁コイル6に入力する電力を制御している。制御部102は、定着ベルト1の検出温度が所定温度に昇温した場合、励磁コイル6への通電を遮断する。制御部102は、定着ベルト1の検出温度が、定着ベルト1の目標温度である180℃で一定になるように、中央サーミスタTH1の検出値に基づいて、高周波電流の周波数を変化させることにより、励磁コイル6に入力する電力を制御して温度調節を行っている。電源装置101に接続された誘導加熱装置70の励磁コイル6は、制御部102で制御され、定着ベルト1は、所定の定着温度に加熱される。
【0044】
前述したように、励磁コイル6には、20〜50kHzの高周波電流が印加されて、定着ベルト1の金属層1aが誘導発熱する。温度調節は、定着ベルト1の目標温度である180℃で一定になるように、中央サーミスタTH1の検出値に基づいて高周波電流の周波数を変化させて励磁コイル6に入力する電力を制御する。
【0045】
励磁コイル6を含む誘導加熱装置70が、高温になる定着ベルト1の内部ではなく外部に配置されているので、励磁コイル6の温度が高温になりにくい。また、電気抵抗も上昇せず高周波電流を流してもジュール発熱による損失を軽減する事が可能となる。また、励磁コイル6を外部に配置したことで定着ベルト1の小径化(低熱容量化)にも寄与しており、しいては省エネルギー性にも優れていると言える。
【0046】
本実施例の定着装置のウォーミングアップタイムは、非常に熱容量が低い構成であるため、例えば励磁コイル6に1200W入力すると約15秒で目標温度である165℃に到達できる。スタンバイ中の加熱動作が不要であるため、電力消費量を非常に低く抑える事が可能である。
【0047】
定着ベルト1は、制御部102で制御されるモータM1によって加圧ローラ2が回転駆動されることで、画像形成時には、図1の二次転写部T2から搬送されてくる記録材Pの搬送速度とほぼ同一の周速度で回転駆動される。定着装置Aでは、定着ベルト1の表面回転速度が300mm/secであって、A4サイズ横送りのフルカラー画像であれば1分間に80枚、同じくA4サイズ縦送りであれば1分間に58枚を連続的に定着可能である。
【0048】
未定着トナー画像Tを有する記録材Pは、そのトナー画像担持面側を定着ベルト1側に向けて、ガイド部材7で案内されて、定着ベルト1と加圧ローラ2とで加圧形成される定着ニップ部Nに導入される。記録材Pは、定着ニップ部Nにおいて、定着ベルト1の外周面に密着し、定着ベルト1と一緒に定着ニップ部Nを挟持搬送されていく。
【0049】
定着ベルト1の熱が付与されつつ定着ニップ部Nの加圧力を受けて、未定着トナー像Tは、記録材Pの表面に定着される。定着ニップ部Nを通った記録材Pは、定着ベルト1の表面が定着ニップ部Nの出口部分で変形するため、定着ベルト1の外周面から記録材Pが自己分離して定着装置A外へ搬送される。
【0050】
ところで、一般的に、像加熱装置は、記録材に転写されたトナー像のトナーを熱によって融解して記録材上に融着させる定着装置の他に、記録材に定着された画像を再加熱して画像の光沢度を向上させる光沢付与装置もある。
【0051】
像加熱装置の高速昇温を可能にするため、定着ローラを薄肉小径化したもの、樹脂ベルトの内側からヒーター加熱するもの、薄肉金属の回転体を誘導加熱するもの等が提案されている。材料コストやエネルギー効率の点からも、薄肉の回転体を採用して熱容量を小さくし、加熱効率の良い誘導加熱装置で加熱することが望まれている。
【0052】
しかし、薄肉の回転体を使用する場合、軸直角断面の断面積がきわめて小さくなるために、軸方向の熱移動率が良好でない。この傾向は薄肉なほど顕著であり、熱伝導率の低い樹脂等の材質ではさらに低くなる。
【0053】
これは、熱伝導率をλ、2点間の温度差をθ1−θ2、長さをLとしたとき、単位時間に伝わる熱量Qは、次式で表されるというフーリエの法則からも明らかである。
Q=λ・f(θ1−θ2)/L
【0054】
薄肉の回転体を使用して軸方向の熱移動率が良好でない状態で、小さいサイズの記録材を連続で通紙させると、回転体の非通紙領域の温度が通紙領域よりも上昇して回転体の長手方向に温度ムラが生じるいわゆる非通紙部昇温の問題が発生する。
【0055】
非通紙部昇温が発生すると、小さいサイズの記録材を連続で加熱処理した直後に大形サイズの記録材を加熱処理すると、記録材上で加熱ムラが発生して、紙シワや定着ムラの原因となる。著しい非通紙部昇温の場合、樹脂材料からなる周辺部材の寿命を低下させる場合もある。
【0056】
非通紙部昇温は、搬送される記録材の熱容量が大きく、単位時間あたりのプリント枚数を高くするほど広がるため、生産性の高い複写機では、薄肉の回転体と加熱効率の良い誘導加熱装置を組み合わせた像加熱装置を採用できなかった。生産性の高い複写機では、多くの場合、ハロゲンランプヒータや抵抗発熱体を分割して記録材サイズに応じた領域を加熱することで、非通紙部昇温を回避している。
【0057】
ところで、薄肉の回転体と加熱効率の良い誘導加熱装置を組み合わせた像加熱装置においても、回転体の長手方向の加熱領域を記録材サイズに応じて設定できるものがある。しかし、誘導加熱装置を複数設けたり分割したりすれば、その分だけ制御回路も複雑でコストが高くなる。薄肉の回転体の場合、分割された加熱領域の境目付近で温度分布が不連続になって、回転体が必要な定着性能を満たせなくなる問題もある。
【0058】
そこで、定着装置Aでは、第一回転体と誘導加熱装置との間に、誘導加熱装置から第一回転体へ導く磁束を10mmごとの領域で可変に設定できる磁性体コア7aを配置している。磁性体コア7aを記録材のサイズに応じた個数だけ移動させることで、加熱の必要な加熱領域以外は誘導加熱装置から届く磁束が少なくなって、定着ベルト1の発熱自体が抑えられる。これにより、加熱領域の制御が行われ、昇温される定着ベルト1の温度分布を精密にコントロールすることが可能となっている。
【0059】
<磁性体コアの移動機構>
図5は磁性体コアの移動の説明図である。図6は磁性体コアの移動機構の説明図である。図7は定着装置の斜視図である。
【0060】
図2に示すように、励磁コイル部材の一例である励磁コイル6は、定着ベルト1へ入射する磁束を発生する。電源装置101は、定着ベルト1の温度をトナー像の定着に必要な所定の温度範囲に保つように励磁コイル6への電力供給を制御する。
【0061】
複数個の磁性体コア7aは、定着ベルト1の長手方向に配列して励磁コイル6が発生する磁束をそれぞれの領域で定着ベルト1に案内する。コア移動機構71は、複数個の磁性体コア7aを定着ベルト1に対して接離する方向へ移動させる。制御部102は、記録材の幅方向の長さに応じた個数の磁性体コア7aを他の磁性体コア7aよりも定着ベルト1に近付けて加熱領域を設定する。
【0062】
図3に示すように、磁性体コア7aは、定着ベルト1の長手方向に分割され、1個の長手方向の幅は10mm、それぞれ1.0mmの間隔を開けて配置されている。通紙部においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの隙間を狭くすることで、定着ベルト1を通過する磁束密度を高めて、定着ベルト1の発熱量を高くする。これに対して、非通紙部においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの隙間を広げることで、定着ベルト1を通過する磁束密度を低下させて定着ベルト1の発熱量を低くする。
【0063】
図5の(a)に示すように、通紙領域においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの間隔は0.5mmである。図5の(b)に示すように、非通紙領域においては、励磁コイル6と磁性体コア7aの間隔は10mmまで離間する。
【0064】
図6に示すように、磁性体コア7aは、磁性体コアホルダ77に保持されてハウジング76内に収まっている。磁性体コアホルダ77は、磁性体コア7aと励磁コイル6との間隙を変化させる方向に移動可能になっている。リンク部材75は、回転軸78周りに回転可動に組み立てられ、端部の長穴部が磁性体コアホルダ77と連結されている。リンク部材75が回転軸78周りにQ1方向へ回転すると、磁性体コアホルダ77と磁性体コア7aがP1方向へ移動する。リンク部材75がQ2方向へ回転すると、磁性体コアホルダ77と磁性体コア7aがP2方向へ移動する。リンク部材75は、励磁コイルばね74によってQ1方向へ回転する方向へ付勢されているが、規制部材73によって、リンク部材75のQ1方向への回転が規制されている。
【0065】
規制部材73によってリンク部材75が押し込まれている状態では、リンク部材75は、励磁コイルばね74に逆らってQ2方向へ回動している。このとき、磁性体コアホルダ77が矢印P2方向へ移動して磁性体コア7aが励磁コイル6に近付いている。
【0066】
規制部材73による押し込みが解除されると、リンク部材75は、励磁コイルばね74に付勢されてQ1方向へ回動してフレーム79に突き当たって停止する。これにより、磁性体コアホルダ77が矢印P1方向へ移動して磁性体コア7aが励磁コイル6から遠ざかる。
【0067】
図7に示すように、規制部材73は、中央のピニオンギア80と連結され、ピニオンギア80の回転運動により、記録材の搬送方向に直角な幅方向(Y1、Y2方向)へ移動可能となっている。規制部材73がY1方向へ移動すると、端部側のリンク部材75から順番に規制部材73による押し込みが解除され、端部側から中央側へ向かって順番に磁性体コア7aが励磁コイル6から遠ざかる。図7では、端部側から4個の磁性体コアホルダ77について規制部材73による押し込みが解除されて、磁性体コア7aと励磁コイル6との間隙が広がっている。
【0068】
制御部102は、コア移動機構71を制御して、磁性体コアホルダ77のうちで記録材の搬送幅方向に応じて定めた個数のものについて規制部材73による押し込みを解除する。これにより、記録材の外側に位置する磁性体コア7aと励磁コイル6との間隙を拡大させて、非通紙部昇温を防止している。ハガキサイズ、A5、B4、A3、A3ノビサイズ等、各種の記録材サイズに対応するため、規制部材73の位置を記録材のサイズによって異ならせて、各記録材のサイズに応じた加熱領域を設定して非通紙部昇温を抑制している。
【0069】
<定着ベルトの温度分布>
図8は加熱領域が狭い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。図9は加熱領域が広い場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。図10は加熱領域が適正な場合の定着ベルトの長手方向の温度分布の説明図である。
【0070】
各図中、破線は定着装置立ち上げ30秒後、画像形成開始前である。実線は連続画像形成500枚終了時点である。記録材は、オーセダレ(登録商標)105g/m2のA4サイズ普通紙である。15℃環境において、80ppmの生産性、320mm/secのプロセススピードで画像形成及び定着を実行した。定着ベルトの温調温度は180℃に設定した。
【0071】
図8に示すように、A4サイズの記録材に対して同一の搬送幅方向長さに加熱領域を設定した場合、画像形成開始前も500枚の画像形成後も記録材の端部において温度低下が見られ、定着不良が発生した。トナーが定着ベルト1に付着して持ち去られるいわゆるコールドオフセットが発生した。
【0072】
図9に示すように、A4サイズの記録材の外側に磁性体コア7aが2個分20mmの余分の加熱領域を設定した場合、定着不良は発生しないが、500枚の画像形成後の記録材の外側領域に非通紙部昇温が発生して設計温度を超えてしまった。
【0073】
図10に示すように、A4サイズの記録材の外側に磁性体コア7aが1個分10mmの余分の加熱領域を設定した場合、定着不良は発生せず、500枚の画像形成後の記録材の外側領域に非通紙部昇温が発生しても設計温度を超えていなかった。
【0074】
ところで、上述したように、薄肉の回転体を誘導加熱装置で加熱する像加熱装置には、回転体が記録材の外側で局所的に昇温してしまういわゆる非通紙部昇温の問題がある。
【0075】
縁の余白の少ない画像の場合、記録材の搬送幅方向の両端部においてもトナーを定着するのに十分な温度を確保する必要がある。そのため、図10に示すように、記録材の外側まで誘導加熱の磁束を入射させて定着ベルト1を加熱することになる。
【0076】
しかし、この状態で画像形成を続けていると、通紙部に対して非通紙部では記録材に奪われる熱量が小さいため、次第に熱がこもって大きな非通紙部昇温が形成されてしまう。非通紙部昇温は、低熱容量のフィルム材料を用いた定着ベルト1においてより顕著に現れる。非通紙部昇温によって、定着ベルト1の耐久寿命が低下するため、非通紙部昇温を低減する必要がある。
【0077】
そこで、以下の実施例では、部分的に発熱量を調整できる構成において、通紙を中断した空回転動作中もしくは生産性を低下させている状態の時、発熱幅が通常時よりも狭くなるように磁性体コア7aを移動する。これにより、非通紙部昇温を抑制・低減して、定着ベルト1の耐久寿命を延ばしている。
【0078】
<実施例1>
図11は実施例1の緩和モードの制御のフローチャートである。図12は画像形成中の加熱領域の設定の説明図である。図13は画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。図14は緩和モードにおける非通紙部昇温の解消速度の説明図である。
【0079】
図2に示すように、第一回転体の一例である定着ベルト1は、トナー像が転写された記録材に接触して加熱する。第二回転体の一例である加圧ローラ2は、定着ベルト1に当接して記録材の加熱ニップを形成する。誘導加熱装置70は、定着ベルト1の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して定着ベルト1を誘導加熱する。制御手段の一例である制御部102は、加熱ニップへの記録材の給送が停止された状態で、加熱ニップへ記録材が給送されている場合よりも加熱領域を狭く設定して誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行可能である。制御部102は、中間転写ベルト26におけるトナー像の形成が中断された際に緩和モードを実行する。
【0080】
図1に示すように、制御部102は、通常の画像形成であれば、500枚の画像形成ごとに画像形成を中断して現像装置の調整を実行する。また、トナー使用量の多い高デューティー画像が連続画像形成されるときは、現像装置23内のトナー濃度、トナー帯電量が大幅に変動するため、頻繁に現像装置の調整が行われる。
【0081】
現像装置の調整では、制御部102は、画像形成部PYにおいて、所定の画像形成条件で感光ドラム21にカラーパッチトナー像を形成して、中間転写ベルト26に転写する。中間転写ベルト26上のカラーパッチトナー像は、光学式センサ105で赤外光を照射して反射光を検出される。
【0082】
制御部102は、カラーパッチトナー像の検出結果基づいて現像装置23の現像条件(現像スリーブ直流電圧)を調整して、再びカラーパッチトナー像を形成して同様の制御を繰り返す。これを、画像形成部PY、PC、PM、PKで並行して実行することで5秒〜20秒間のダウンタイムが発生する。このようにして、現像におけるトナー濃度調整等が行われる。
【0083】
実施例1では、このダウンタイムを利用して、定着装置Aにおいて、緩和モードの制御を実行することで、前回からの500枚の画像形成を通じて発生していた非通紙部昇温を解消する。
【0084】
図2を参照して図11に示すように、制御部102は、画像形成を開始する(S100)。このとき、図12の(a)に示すように、A4サイズの搬送幅方向長さに磁性体コア7aの2個分の長さを加えた加熱領域が設定されている。
【0085】
制御部102は、画像形成の開始からトナー像の形成の中断までの時間が所定時間以上の場合に緩和モードを実行するが、所定時間未満の場合には実行しない。制御部102は、現像装置(23)の調整に伴う画像形成の中断が発生すると(S101)、画像形成開始からの経過時間が所定時間を超えているか否かを判断する(S102)。所定時間は、環境温度と記録材の単位面積当たり重量(坪量)により表1のように設定されている。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1では、非通紙部の温度を測定していないため、このように所定時間を設定して温度分布を見積もっている。所定時間は、20秒以上に設定するのが望ましい。所定時間が短すぎる場合、端部における昇温はそれほどしておらず、磁性体コア7aを移動する必要がない。上述したように、非通紙部昇温があまり発生していない状況において加熱領域を狭くすると、記録材の搬送幅方向の両端部において温度ダレして定着不良を発生する可能性がある。
【0088】
図12の(b)に示すように、画像形成の開始から調整処理の発生まで所定時間が経過していれば、実線で示すように、定着ベルト1に非通紙部昇温が発生している。画像形成の開始直後であれば、破線で示すように非通紙部昇温が発生していない。よって、所定時間を超えて実線のような温度分布になったとき、加熱領域を狭めることで非通紙部昇温を低減する。
【0089】
制御部102は、画像形成開始から所定時間が経過している場合(S102のYES)、図13の(a)に示すように、外側の1個ずつの磁性体コア7aを励磁コイル6から遠ざけて、加熱領域を記録材の搬送幅方向長さに縮小する(S107)。
【0090】
制御部102は、この状態で、中央サーミスタTH1の検出温度が180±5℃になるように励磁コイル6への供給電力を調整する(S103)。非通紙部昇温が発生している領域を加熱領域から外して、定着ベルト1の加熱を継続することで、非通紙部昇温が発生している領域としていない領域の温度差が急速に収束して、非通紙部昇温が速やかに解消される。
【0091】
図13の(b)に実線で示すように、磁性体コア7aの移動を行う前の状態では、定着ベルト1にかなりの非通紙部昇温が発生している。しかし、現像装置23の調整のためのダウンシーケンス中に、図13の(a)に示すように、両端に位置する磁性体コア7aを励磁コイル6から遠ざかる方向へ移動する(S107)。これにより、定着ベルト1の加熱領域が狭くなって非通紙部昇温が低減され(S103)、定着ベルト1の耐久性が向上する。
【0092】
制御部102は、緩和モードの開始後、所定時間が経過すると加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる。現像装置23の調整時間が長い場合、定着ベルト1の加熱領域を狭く設定している時間が長すぎる場合がある。このとき、記録材の内側領域において不必要な温度低下が進行して、続く画像形成において定着不良の原因となる。このため、制御部102は、加熱領域を狭く設定してから10秒程度で、外側の1個ずつの磁性体コア7aを励磁コイル6に近付けて元に戻す(S105)。なお、現像装置23の調整時間が10秒以下の場合、調整終了後の画像形成の再スタートと同時に加熱領域を元に戻す。その後、制御部102は、画像形成を再開させる(S106)。
【0093】
図14に示すように、磁性体コア7aの移動ありの実施例1によれば、加熱領域を狭くすることで、磁性体コア7aの移動なしで加熱領域が広いままの場合よりも2倍以上速く非通紙部昇温が解消される。
【0094】
磁性体コア7aの移動ありの実施例1によれば、10秒でおよそ30℃と急速に非通紙部昇温を低下させることができるので、画像形成が再スタートした時点での非通紙部昇温が低減されて、定着ベルト1の耐久性能向上につながる。
【0095】
次に、記録材Pとしてオーセダレ(登録商標)105g/m2のA4サイズ普通紙を用いて、15℃環境において、生産性80ppm、プロセススピード320mm/sesの条件で連続画像形成を実行した。中央サーミスタTH1の検出温度が180℃に保たれるように温調した。現像装置23の調整処理が500枚通紙ごとに10秒間のダウンシーケンス(通紙中断)に突入すると仮定した条件で、磁性体コア7aの移動ありの実施例1と磁性体コア7aの移動なしの比較例とで定着ベルト1の耐久寿命を比較した。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示すように、磁性体コア7aによってダウンシーケンス時に加熱領域を狭くする実施例1では、ダウンシーケンス時に加熱領域を狭くしない比較例に比較して定着ベルト1の耐久寿命が長くなる。
【0098】
磁性体コア7aの移動によってダウンシーケンス中に加熱領域を狭くすることで、非通紙部昇温を低減し、連続画像形成中の非通紙部昇温を平均して10℃程度下げることができた。これにより、画像形成枚数に換算して50000枚以上の耐久寿命の向上が見られた。
【0099】
<実施例2>
実施例1では、非通紙部の温度を測定していないため、表1のように、画像形成の開始後の継続時間で非通紙部昇温を見積もった。しかし、特許文献2に記載されるように、非通紙部の温度を測定して、非通紙部昇温の発生状態を直接判断してもよい。
【0100】
図10に示すように、第一検出手段の一例である端部サーミスタTH2は、定着ベルト1の局所的な昇温を検出可能である。制御部102は、端部サーミスタTH2によって検出された局所的な昇温が所定範囲を超えている場合に緩和モードを実行するが、超えていない場合には実行しない。第二検出手段の一例である端部サーミスタTH3は、記録材の搬送幅方向の端部に相当する位置の定着ベルト1の温度を検出可能である。制御部102は、端部サーミスタTH3によって検出された定着ベルト1の温度がトナー像の定着に必要な所定の下限温度に達すると加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて誘導加熱装置70による定着ベルト1の誘導加熱を継続させる。
【0101】
実施例2では、A4サイズの通紙幅よりも5mm外側に端部サーミスタTH2を設けて定着ベルト1の表面温度を非接触状態で検出している。また、A4サイズの通紙幅よりも5mm内側に端部サーミスタTH3を設けて定着ベルト1の表面温度を非接触状態で検出している。また、定着ベルト1の中央部には、図2に示すように定着ベルト1の内側に中央サーミスタTH1を配置して温調温度を測定している。
【0102】
制御部102は、非接触型の端部サーミスタTH2の出力を定期的に取り込んで定着ベルト1の非通紙部昇温を正確に把握している。制御部102は、現像装置23の調整処理によってダウンシーケンスに突入した時に、発熱幅を狭めることで、定着ベルト1の非通紙部昇温を低減する。
【0103】
制御部102は、現像装置23の調整に伴うダウンシーケンス突入時に、端部サーミスタTH2で検出された非通紙部昇温を設計温度に比較する。制御部102は、設計温度を超えていれば、非通紙部昇温を温調温度まで低下させるために、図8に示すように、加熱領域を狭くして、非通紙部昇温を生じた領域に磁束が入射しないようにする。
【0104】
そして、端部サーミスタTH2で検出された温度が温調温度の上限値まで低下する直前に磁性体コア7aを図10の状態に戻して、画像形成を再開させる。ただし、端部サーミスタTH3で検出された定着領域の温度が温調温度の下限値を割り込んだ場合には、磁性体コア7aを図10の状態に戻して温調温度に回復させることを優先する。
【0105】
実施例2では、端部サーミスタTH2、TH3のコストアップ要因もあるが、実施例1の時間推定の制御よりも、より精密な温度調整制御が行える。
【0106】
<実施例3>
実施例1では、誘導加熱装置70が発生する磁束が定着ベルト1へ入射する長手方向の磁束密度分布を調整する手段として可動の磁性体コア7aを使用した。しかし、特許文献2に示されるように、定着ベルト1と誘導加熱装置70との間に可動の磁束遮蔽板を配置して定着ベルト1へ入射する長手方向の磁束密度分布を調整する構成を採用してもよい。
【0107】
実施例3では、定着装置Aは、定着ベルト1と誘導加熱装置70との間に、誘導加熱装置70から定着ベルト1へ届く磁束の一部を遮蔽する磁束遮蔽板を可動に配置する。磁束遮蔽板を定着ベルト1の長手方向に移動させる変位機構を設け、変位機構を制御して定着ベルト1に任意の加熱領域を設定する。
【0108】
実施例3にあっては、磁束遮蔽板を設けて移動させることで、必要部分以外は誘導加熱装置70から届く磁束が遮蔽され、発熱自体が抑えられることにより、加熱領域の制御が行われ、定着ベルト1の非通紙部昇温の温度分布をコントロールする。
【0109】
<実施例4>
図15は実施例4の緩和モードの制御のフローチャートである。図16は画像形成中断時の加熱領域の設定の説明図である。実施例1では、トナー像形成が中断された際に、その中断時間を利用して非通紙部昇温を解消もしくは軽減した。これに対して、実施例4では、加熱される記録材のサイズが大きくなる前に、積極的にトナー像形成を中断させて、それまでの小さいサイズの記録材の連続加熱で発生してしまった非通紙部昇温を解消させている。
【0110】
図2を参照して図15に示すように、制御部102は、加熱される記録材の搬送幅方向の長さが大きくなる前に中間転写ベルト26におけるトナー像の形成を中断させて緩和モードを実行可能である。制御部102は、小サイズの記録材の通紙中に(S201)大サイズの記録材の画像形成ジョブが発生したとする(S202)。制御部102は、小サイズの記録材の画像形成のスタートから所定時間が通紙していれば(S203のYES)、定着ベルト1の加熱領域を狭める(S206)。
【0111】
図10に示すように、A4サイズの記録材の通紙を重ねると、記録材の外側において定着ベルト1が局所的に昇温して非通紙部昇温が発生してしまう。この状態でA3ノビサイズの画像形成を開始するために、A3ノビサイズとのサイズ差分だけ加熱領域を拡大すると、非通紙部昇温が記録材の内側に取り込まれてしまう。
【0112】
図16の(b)に示すように、A4サイズの記録材の通紙で発生した定着ベルト1の局所的な昇温が中々下がらず、このままの状態でA3ノビサイズ(13inch)の記録材を通紙すると、局所的な昇温部分の内側と外側とで出力画像の光沢差が発生する。局所的な昇温部分においてトナーが定着ベルト1に持ち去られるホットオフセット画像不良が発生する場合もある。このため、通常は、局所的な昇温を温度低下させるためにウェイトタイムに移行し、長くユーザーを待たせる結果となってしまう。
【0113】
そこで、実施例4では、これらを解決するために、A4サイズの記録材の通紙後により大きなサイズの画像形成ジョブが発生すると、A4サイズの記録材の通紙終了後に、一旦、図16の(a)に示すように、定着ベルト1の加熱領域を狭める。局所的な昇温部分に対する加熱を局所的に停止させることにより、急速に昇温部の温度を低下させる。
【0114】
制御部102は、実施例1と同様に、通紙時間が表2に示す所定時間を超えていれば(S203のYES)、加熱領域を狭める(S206)。その後、加熱領域を狭めた状態を保持する時間としては、記録材の搬送幅の端部における定着ベルト1の温度低下が定着不良を引き起こさないために、実施例1と同じく10秒間とする。
【0115】
制御部102は、10秒経過後、13inchサイズの記録材に適した発熱幅を得るために、磁性体コア7aを移動する(S204)。そして、13inchサイズの記録材に対する画像形成を開始する(S205)。
【0116】
実施例4の緩和モードによれば、ウェイトタイムとその後の13inchの加熱領域の温度が安定するまでを合わせた時間が、通常30秒間かかっていたものを20秒間に短縮することができた。
【0117】
<実施例5>
図17は実施例5の緩和モードの制御のフローチャートである。実施例1では薄肉の定着ベルトを用いる実施形態における緩和モードの制御を説明したが、緩和モードは、薄肉の定着ローラを用いる実施形態でも同様に実施すれば、同様に効果を奏する。実施例5では、さらなる高速生産性のために薄肉の定着ローラを用いた実施形態について説明する。なお、実施例1と同一機能を有する構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0118】
図2に示すように、実施例5では、定着ベルト1を定着ローラ1Rに置き換える。定着ローラ1Rは、内径40mmで厚み1mmの鉄製の芯金の外側に、厚み400μmのシリコーンゴムの弾性層を形成し、弾性層の外周をフッ素樹脂(FRP)の離型層で覆って構成される。定着ローラ1Rの温度制御は、定着ローラ1Rの内面に配置された中央サーミスタTH1によって検出された温度が所定の温調温度範囲に保たれるように、誘導加熱装置70の出力を調整して行う。
【0119】
ここで、通常の使用環境と記録材の組み合わせであれば、設計上、定着ローラ1Rの温度は定着可能温度を下回ることはない。しかし、5℃以下の超低温環境において厚くて熱容量の大きな記録材を連続加熱処理した場合、供給電力が間に合わなくなって定着ローラ1Rの温度が定着可能温度を下回ってしまう(S302のYES)。定着ローラ1Rの温度が定着可能温度を下回ると、上述したように、コールドオフセット等の定着不良が発生する可能性が出てくるため、定着可能温度を下回る前に、紙間を空けるなどのダウンシーケンス処理が実行される。
【0120】
実施例5では、定着ローラ1Rの温度を回復させるためのダウンシーケンスの待ち時間を利用して、緩和モードを実行することにより、それまでの画像形成で発生していた非通紙部昇温を解消させる。定着ローラ1Rの温度が定着可能温度を下回った時に移行するダウンシーケンス時において、加熱領域を狭めることで、図10に示す定着ベルト1と同様に発生していた非通紙部昇温が低減される。
【0121】
図2を参照して図17に示すように、制御部102は、印刷ジョブに対して定着ローラ1Rの昇温を開始する(S300)。そして、定着ローラ1Rが所定の通紙開始温度を超えたところで通紙を開始する(S301)。画像形成ジョブは、A4サイズの記録材を毎分100枚(100ppm)の生産性で400mm/secのプロセススピードで通紙するものとし、定着ローラ1Rの通紙開始温度は190℃に設定してあるとする。
【0122】
中央サーミスタTH1によって検出される定着ローラ1Rの内面温度が、通紙中に、定着可能温度の下限値である170℃を下回ると(S302のYES)、ダウンシーケンスに突入する(S303)。ダウンシーケンスでは、実施例1と同様に表1の経過時間で判断して(S304のYES)、磁性体コア7aを移動することで加熱領域を狭く設定する(S310)。
【0123】
制御部102は、その後、定着ローラ1Rの温度が定着可能温度に回復すると(S305のYES)、加熱領域を元の状態に復帰させて(S306)、画像形成を再開する(S307のNO)。制御部102は、画像形成ジョブが終了すると(S307のYES)、定着装置Aを停止させる(S308)。
【0124】
実施例1で説明したように、通常の印刷動作中に非通紙部昇温を解消するために加熱領域を狭めると、定着ローラ1Rの記録材端部位置において温度低下が発生してコールドオフセット等の定着不良が発生する。しかし、ダウンシーケンス中であれば、記録材の加熱が中断されているため、記録材に奪われる熱量が下がるため、定着ローラ1Rの記録材端部位置における温度低下はあまり見られないため、加熱領域を狭めることによる非通紙部昇温の軽減を有効に実施できる。
【0125】
実施例1で説明したように、画像形成の開始から表1の所定時間が経過していれば、非通紙部昇温が発生しているため、緩和モードを実行して、磁性体コア7aを移動して加熱領域を狭めることによって非通紙部昇温を解消する。しかし、所定時間を超えていなければ、非通紙部昇温が発生していないため、緩和モードを実行しない。
【0126】
実施例1で説明したように、ダウンシーケンス中、長い時間加熱領域を狭めていると、通紙域における温度ダレが徐々に進行するため、定着ローラ1Rの温度が定着可能温度に回復しなくても、10秒間が経過すると加熱領域を元の状態に復帰させている。
【0127】
実施例5の緩和モードによれば、通常の画像形成時に発生した非通紙部昇温をすみやかに解消させることで、非通紙部の温度を平均して低い状態に保てるため、定着ローラ1Rの耐久寿命が向上する。
【符号の説明】
【0128】
1 定着ベルト、2 加圧ローラ、3 圧力付与部材、4 ステー
5 磁気遮蔽コア、6 励磁コイル、7a 磁性体コア
8 モールド部材、9a バネ受け部材、9b ステー加圧バネ
10 定着フランジ、11 外側磁性体コア、12 支持側板
21 感光ドラム、23 現像装置、26 中間転写ベルト
31 記録材カセット、33 レジストローラ
70 誘導加熱装置、71 コア移動機構、101 電源装置
102 制御部、105 光学式センサ
PY、PM、PC、PK 画像形成部
TH1 中央サーミスタ、TH2、TH3 端部サーミスタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像を形成して記録材に転写する画像形成部と、トナー像が転写された記録材に接触して加熱する第一回転体と、前記第一回転体に当接して記録材の加熱ニップを形成する第二回転体と、前記第一回転体の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して前記第一回転体を誘導加熱する誘導加熱装置と、を備える画像形成装置において、
前記加熱ニップへの記録材の給送が停止された状態で、前記加熱ニップへ記録材が給送されている場合よりも前記加熱領域を狭く設定して前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行可能な制御手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記画像形成部におけるトナー像の形成が中断された際に前記緩和モードを実行可能であることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、加熱される記録材の搬送幅方向の長さが大きくなる前に前記画像形成部におけるトナー像の形成を中断させて前記緩和モードを実行可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、画像形成の開始からトナー像の形成の中断までの時間が所定時間以上の場合に前記緩和モードを実行するが、所定時間未満の場合には実行しないことを特徴とする請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記緩和モードの開始後、所定時間が経過すると前記加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させることを特徴とする請求項4記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記第一回転体の前記局所的な昇温を検出可能な第一検出手段を備え、
前記制御手段は、前記第一検出手段によって検出された前記局所的な昇温が所定範囲を超えている場合に前記緩和モードを実行するが、超えていない場合には実行しないことを特徴とする請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項7】
記録材の搬送幅方向の端部に相当する位置の前記第一回転体の温度を検出可能な第二検出手段を備え、
前記制御手段は、前記第二検出手段によって検出された前記第一回転体の温度がトナー像の定着に必要な所定の下限温度に達すると前記加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させることを特徴とする請求項6記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記誘導加熱装置は、前記第一回転体へ入射する磁束を発生する励磁コイル部材と、前記第一回転体の温度をトナー像の定着に必要な所定の温度範囲に保つように前記励磁コイル部材への電力供給を制御する電源装置と、前記第一回転体の長手方向に配列して前記励磁コイル部材が発生する磁束をそれぞれの領域で前記第一回転体に案内する複数個の磁性体コアと、前記複数個の磁性体コアを前記第一回転体に対して接離する方向へ移動させるコア移動機構と、を有し、
前記コア移動機構は、記録材の前記幅方向の長さに応じた個数の前記磁性体コアを他の前記磁性体コアよりも前記第一回転体に近付けて前記加熱領域を設定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項1】
トナー像を形成して記録材に転写する画像形成部と、トナー像が転写された記録材に接触して加熱する第一回転体と、前記第一回転体に当接して記録材の加熱ニップを形成する第二回転体と、前記第一回転体の長手方向における誘導加熱の加熱領域を記録材の搬送方向に直角な搬送幅方向の記録材長さに応じて設定して前記第一回転体を誘導加熱する誘導加熱装置と、を備える画像形成装置において、
前記加熱ニップへの記録材の給送が停止された状態で、前記加熱ニップへ記録材が給送されている場合よりも前記加熱領域を狭く設定して前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させる緩和モードを実行可能な制御手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記画像形成部におけるトナー像の形成が中断された際に前記緩和モードを実行可能であることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、加熱される記録材の搬送幅方向の長さが大きくなる前に前記画像形成部におけるトナー像の形成を中断させて前記緩和モードを実行可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、画像形成の開始からトナー像の形成の中断までの時間が所定時間以上の場合に前記緩和モードを実行するが、所定時間未満の場合には実行しないことを特徴とする請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記緩和モードの開始後、所定時間が経過すると前記加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させることを特徴とする請求項4記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記第一回転体の前記局所的な昇温を検出可能な第一検出手段を備え、
前記制御手段は、前記第一検出手段によって検出された前記局所的な昇温が所定範囲を超えている場合に前記緩和モードを実行するが、超えていない場合には実行しないことを特徴とする請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項7】
記録材の搬送幅方向の端部に相当する位置の前記第一回転体の温度を検出可能な第二検出手段を備え、
前記制御手段は、前記第二検出手段によって検出された前記第一回転体の温度がトナー像の定着に必要な所定の下限温度に達すると前記加熱領域を記録材の加熱時の状態に復帰させて前記誘導加熱装置による前記第一回転体の誘導加熱を継続させることを特徴とする請求項6記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記誘導加熱装置は、前記第一回転体へ入射する磁束を発生する励磁コイル部材と、前記第一回転体の温度をトナー像の定着に必要な所定の温度範囲に保つように前記励磁コイル部材への電力供給を制御する電源装置と、前記第一回転体の長手方向に配列して前記励磁コイル部材が発生する磁束をそれぞれの領域で前記第一回転体に案内する複数個の磁性体コアと、前記複数個の磁性体コアを前記第一回転体に対して接離する方向へ移動させるコア移動機構と、を有し、
前記コア移動機構は、記録材の前記幅方向の長さに応じた個数の前記磁性体コアを他の前記磁性体コアよりも前記第一回転体に近付けて前記加熱領域を設定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−37053(P2013−37053A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170800(P2011−170800)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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