説明

画像形成装置

【課題】モータやその他の高さ切り換え機構部品のコストが嵩むことなく、複雑でサイズの大きな機構部品のためにマシンサイズを大きくすることなく、高さ切り換え時にキャリッジにかかる衝撃を低減することができるキャリッジの最適な制御方法を用いた装置を提供する。
【解決手段】本発明の画像形成装置は、キャリッジ4の高さを切り換える高さ調整機構と、キャリッジを記録媒体の幅方向に案内するガイド部材3などを有し、高さ調整機構はカム部材502、回転誘導部材503,504を有し、カムを動作させる押圧部材603,604が装置本体に設けられ、誘導部材と押圧部材の接触によりカムが動作することでキャリッジ高さが調整され、上方から下方への高さ切り換え時であってキャリッジがガイド部材の一端から他端に向かう間の少なくとも一部において、キャリッジ速度を画像形成時よりも遅い速度に制御し、遅い速度で誘導部材と押圧部材が接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジに搭載された記録ヘッドからインクを吐出して用紙(紙に限定するものではなく、OHPなどを含み、インク滴、その他の液体などが付着可能なものの意味であり、被記録媒体あるいは記録媒体、記録紙、記録用紙などとも称される。)に画像を形成するインクジェット方式の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタでは、封筒、厚紙、光沢紙などの厚い記録媒体の印字にも対応するため、記録ヘッドのノズル面と搬送面の隙間(ギャップ)、すなわち記録ヘッドの高さを調整できる機構を有するものが多い。この高さ調整機構としては、カム、リンク機構、レバーなどを用いて手動で高さを切り換える方式や、モータなどの動力源を用いたギヤ駆動により自動で高さを切り換える方式がある。昨今では、自動の高さ切り換え方式のものが主流になっており、コスト低減やダウンサイジングなどのために、高さ調整機構の構成はより単純になってきている。
【0003】
ここで、高さ調整機構の高さ切り換えに要求される機能としては、常に正確な位置に切換わることはもちろん、切り換え動作時の記録ヘッドの動きも副次的な機能として重要である。すなわち、高さ切り換え時に、記録ヘッドが衝撃を受けないことが非常に重要である。記録ヘッドは衝撃に対して弱く、衝撃を受けるとヘッド面上でノズル抜けが発生し、インク不吐出という不具合が生じてしまうからである。
【0004】
しかし、従来のインクジェットプリンタにおいては、このような不具合を回避するために、モータなどの動力源を用いて高さ切り換え動作をゆっくり行ったり、切り換え部品の形状を利用して時間をかけて切り換え動作を行ったりしている。よって、前者では、モータやその他の切り換え機構部品を使用するためコストが嵩んでしまい、後者では、切り換え部品の設置場所が必要なため結果的にマシンサイズが大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
特許文献1には、高さ切り換え時又はヘッドキャッピング時に加わるキャリッジユニット(ヘッド)への衝撃を低減させるために、高さ切り換え部材及びキャリッジユニット支持部材を設け、支持部材によりキャリッジユニットを弾力付勢する技術が開示されている。
【0006】
しかし、部品コストをかけずに高さ切り換え時のキャリッジへの衝撃をより効果的に低減するためのキャリッジの制御方法は開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、モータやその他の高さ切り換え機構部品のコストが嵩むことなく、また、複雑でサイズの大きな機構部品のためにマシンサイズを大きくすることなく、キャリッジの高さ切り換え時にキャリッジにかかる衝撃を低減することができるキャリッジの最適な制御方法を用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するため、本発明の画像形成装置は、記録媒体にインクを吐出して画像を形成する画像形成手段を備えたキャリッジと、該キャリッジに設けられて該キャリッジの高さを切り換える高さ調整機構と、該高さ調整機構を支持して該キャリッジを該記録媒体の幅方向である主走査方向にガイドするためのガイド部材とを有し、前記高さ調整機構はカム部材及び回転誘導部材を有し、該カム部材を動作させる押圧部材が装置本体に設けられ、前記キャリッジの主走査方向の移動の際該回転誘導部材が該押圧部材によって押されて回転することで、該カム部材が動作して前記キャリッジの高さが調整され、上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時であって、前記キャリッジが前記ガイド部材の一端から他端に向かう間の少なくとも一部において、キャリッジ速度を画像形成時よりも遅い速度に制御し、該遅い速度で前記回転誘導部材を前記押圧部材に接触させる、ことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、キャリッジの高さ切り換え時のキャリッジ速度を最適に制御することにより、画像形成の効率を維持しつつ、高さ切り換え時に発生するキャリッジへの衝撃を低減することができる。また、キャリッジ速度の制御には付加的な部品を要しないため、新たな部品コストを招くこともない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例を示す外観斜視説明図である。
【図2】同装置の機構部の要部平面説明図である。
【図3】同じく機構部の要部斜視説明図である。
【図4】同じくキャリッジ部分の側面説明図である。
【図5】同じくキャリッジ部分の正面斜視説明図である。
【図6】同じくキャリッジ部分の正面説明図である。
【図7】カム部材の説明に供する側面説明図である。
【図8】回転誘導部材の説明に供する正面説明図である。
【図9】高さ切り換え時のキャリッジの挙動を示す側面説明図である。
【図10】本発明に従うキャリッジの速度制御を示す図である。
【図11】本発明に従うキャリッジの速度制御を示す図である。
【図12】本発明に従うキャリッジの速度制御を示す図である。
【図13】キャリッジ速度とノズル抜け防止及び高さ切り換え可能範囲の関係を示す概念図である。
【図14】本発明のキャリッジの変形例を示す側面説明図である。
【図15】本発明における高さ切り換え時のキャリッジの挙動を示す背面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。本発明に係る画像形成装置の一例の概要について図1及び図2を参照して説明する。なお、図1は同画像形成装置の外観斜視説明図、図2は同装置の機構部の平面説明図である。
【0012】
この画像形成装置は、シリアル型画像形成装置であり、装置本体100の上面側に開閉可能にカバー101が設けられ、このカバー101を開くことで内部の機構部にアクセスすることができる。
【0013】
機構部は、図2に示すように、左右のメイン側板1A、1Bに横架したガイド部材3にてキャリッジ4を主走査方向に摺動自在に支持し、主走査モータ5によって駆動プーリ6と従動プーリ7との間に張架されたタイミングベルト8を介してキャリッジ4を主走査方向に移動走査する。
【0014】
このキャリッジ4には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液滴を吐出する画像形成手段としての液体吐出ヘッド及びこの液体吐出ヘッドにインクを供給するヘッドタンクを含む記録ヘッドユニット(以下、単に「記録ヘッド」ともいう。)11を複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、滴吐出方向を下方に向けて装着している。これらの複数の記録ヘッド11はキャリッジ4に搭載されている。
【0015】
また、キャリッジ4の主走査方向に沿ってエンコーダスケール15を配置し、キャリッジ4側にはエンコーダスケール15の目盛り(スケール:位置識別部)を読み取る透過型フォトセンサからなるエンコーダセンサ16を取り付け、これらのエンコーダスケール15とエンコーダセンサ16とで位置検出装置としてのリニアエンコーダを構成している。
【0016】
一方、キャリッジ4の下側には、記録媒体を副走査方向に搬送する搬送ベルト21を配置している。この搬送ベルト21は、無端状ベルトであり、搬送ローラ22とテンションローラ23との間に掛け渡されて、副走査モータ31によってタイミングベルト32及びタイミングプーリ33を介して搬送ローラ22が回転駆動されることによって副走査方向に周回移動される。
【0017】
さらに、キャリッジ4の主走査方向の一方側には搬送ベルト21の側方に記録ヘッド11の維持回復を行う維持回復機構41が配置されている。なお、維持回復機構41は、例えば記録ヘッド11のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材、ノズル面を払拭するワイパ部材、画像形成に寄与しない液滴を吐出する空吐出受けなどで構成されている。
【0018】
また、図1に示すように、記録媒体を搬送ベルト21に給紙する給紙手段や、画像形成手段としての記録ヘッド11から吐出された液体が付着して画像が形成された記録媒体を排紙する排紙手段などを構成する給排紙トレイ103が装置本体100に対して装着される。
【0019】
このように構成したこの画像形成装置においては、給紙された記録媒体を搬送ベルト21で間歇的に搬送し、キャリッジ4を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド11を駆動することにより、停止している記録媒体に液滴を吐出して1行分を記録し、記録媒体を所定量搬送後、次の行の記録を行なう動作を繰り返して記録媒体上に画像を形成し、画像形成後記録媒体を排紙する。
【0020】
次に、この画像形成装置におけるキャリッジの支持構造及び高さ調整機構について図3ないし図6を参照して説明する。なお、図3は同じく機構部の要部斜視説明図、図4は同じくキャリッジ部分の側面説明図、図5は同じくキャリッジ部分の正面斜視説明図、図6は同じくキャリッジ部分の正面説明図である。
【0021】
ガイド部材3は板金部材からなり、キャリッジ4を摺動自在に案内するための支持面となるガイド面301、ガイド面302、303を有している。そして、キャリッジ4は、ガイド部材3のガイド面301に摺動自在に支持される高さ調整機構を含む摺動部401と、ガイド面302に摺接する摺動部402と、ガイド面303に摺接する摺動部403とを有している。この場合、ガイド部材3のガイド面301は、キャリッジ4の高さ位置を決める面となり、ガイド面302はキャリッジ4の自重によるモーメントを受ける面(回転止め部)となり、ガイド面303はキャリッジ4の副走査方向位置を決める面となる。
【0022】
図4を参照して、インクを吐出する為の記録ヘッド11を内部に搭載したキャリッジ4は、ガイド部材3上を案内され、搬送路47を搬送されて来た記録媒体45に作像する。このために、隙間49が記録ヘッド11のノズル面と搬送路47の搬送面で形成されている。記録媒体によって必要なギャップは異なるため、薄い記録媒体に印字した後に封筒や光沢紙などの厚い記録媒体に印字する場合、キャリッジ4を高くしてギャップを広げる必要がある。逆に、厚い記録媒体に印字した後に薄い記録媒体に印字する場合、キャリッジ4を低くしてギャップを狭める必要がある。
【0023】
ここで、キャリッジ4の摺動部401には、主走査方向を回転軸心とする回転部材501が、キャリッジ4に固定された4個の保持部材404にて回転自在に保持されている。この回転部材501は、ガイド部材3の支持面であるガイド面301に摺動自在に接する摺動面512を有する2つのカム部材502と、主走査方向に沿って回転部材501の周りに斜めに湾曲して形成された当接面513を有する第1回転誘導部材503と、同じく主走査方向に沿って回転部材501の周りに斜めに形成された当接面514を有する第2回転誘導部材504とが設けられている。
【0024】
カム部材502は、図7に示すように、回転位置に応じて回転軸心511とガイド部材3のガイド面301との距離が距離aと距離bとの間で変化する摺動面512を有している。この場合、図7(a)に示すようにカム部材502の摺動面512の距離aとなる部分502aがガイド面301に接しているときには、キャリッジ4は高さが低い位置(下方位置)となり、図7(b)に示すようにカム部材502の摺動面512の距離bとなる部分502bがガイド面301に接しているときには、キャリッジ4は高さが高い位置(上方位置)となる。
【0025】
第1回転誘導部材503は、カム部材502を図7(a)の位置から図7(b)の位置に回転させる、つまり、キャリッジ4をガイド面301に対して上昇させる(ギャップが広くなる)方向に回転部材501の回転を誘導する部材である。第2回転誘導部材504は、カム部材502を図7(b)の位置から図7(a)の位置に回転させる、つまり、キャリッジ4をガイド面301に対して下降させる(ギャップが狭くなる)方向に回転部材501の回転を誘導する部材である。
【0026】
また、図8に示すように、第1回転誘導部材503の当接面513と、第2回転誘導部材504の当接面514とは、第1回転誘導部材503の当接面513の傾斜を第2回転誘導部材504の当接面514の傾斜よりも緩やかにしている。つまり、回転部材501が同じ角度回転するために、第1回転誘導部材503では距離Lbの移動が必要であるのに対し、第2回転誘導部材504では距離La(La<Lb)の移動が必要である。
【0027】
これにより、キャリッジ4の移動速度を同じとしたとき、キャリッジ4を上昇させるときにはキャリッジ4を下降させるときよりも長い時間をかけて調整動作が行なわれる。これは、キャリッジ4を上昇させるときにはキャリッジ4の自重に抗してキャリッジ4を持ち上げることからゆっくり上昇させるためである。
【0028】
一方、装置本体100の側板1A(キャリッジ主走査方向一端部)には、第1回転誘導部材503の当接面513に当接可能な第1押圧部材603が配設され、側板1B(キャリッジ主走査方向他端部)には、第2回転誘導部材504の当接面514に当接可能な第2押圧部材604が配設されている。
【0029】
この場合、維持回復機構41を配設した側、すなわち、キャリッジ4のホーム位置側に第2回転誘導部材504と第2押圧部材604が配置されているので、キャリッジ4をホーム位置に移動させたときには、キャリッジ4は低い高さ位置に戻され、維持回復機構41の図示しないキャップ部材によるキャッピングを確実に行なうことができる。
【0030】
このように構成したので、図6において、キャリッジ4を矢示A方向に移動させて、第1押圧部材603に第1回転誘導部材503の当接面513を当接させて押し付けることによって、回転部材501、すなわちカム部材502は、図7(b)の状態に回転して、摺動面512の第1摺接部512bがガイド部材3のガイド面301に接触する位置まで移動し、キャリッジ4が上昇して高さが高くなり、ギャップ(記録ヘッド11のノズル面と搬送ベルト21による用紙搬送面との間の距離)が広がる。
【0031】
一方、図6において、キャリッジ4を矢示B方向に移動させて、第2押圧部材604に第2回転誘導部材504の当接面514を当接させて押し付けることによって、回転部材501、すなわちカム部材502は図7(a)の状態に回転して、摺動面512の距離aとなる部分がガイド部材3のガイド面301に接触する位置まで移動し、キャリッジ4が下降して高さが低くなり、ギャップが狭くなる。
このようにして、簡単な構成でキャリッジ4の移動のみによってキャリッジ4が昇降してギャップが変化する(ギャップが調整される)。
【0032】
図9は、高さ切り換え時のキャリッジの挙動を説明するための側面説明図である。
図9(a)は、カム部材502によって上方位置に支持されているキャリッジ4が鉛直下方に下降動作をする前の状態を示している。この状態では、記録ヘッド11のノズル面と搬送路47の搬送面の間には、距離Aがある。この状態においてカム部材502が図中時計回りに回転すると、キャリッジ4もカムの形状に従って下降し、キャリッジ4は、回転したカム部材502によって図9(b)に示される下方位置で再び支持される。このとき、記録ヘッド11のノズル面と搬送路47の搬送面の間には、距離Bがある。よって、この下降動作の前後において、キャリッジ4は距離H(=A−B)だけ変移しており、この下降距離Hがキャリッジ4に内包された記録ヘッド11に衝撃を与えることになる。このとき、比較的重いキャリッジ4の自重による衝撃によって、ノズル抜けが発生してしまう。
【0033】
本願発明者がこのときのキャリッジ4(記録ヘッド11)への衝撃力について評価を行ったところ、衝撃力はキャリッジ速度にある程度比例しており、従ってキャリッジ速度を低速にして高さ切り換えを行うと、キャリッジ4に掛かる衝撃力が低減することを確認した。
【0034】
電源投入時、キャリッジ4は当初、維持回復機構41の図示しないキャップ部材によりキャッピングされているホーム位置であって、下方位置にある。封筒、厚紙、光沢紙などの厚い記録媒体に印字するときは、キャリッジ4は第1押圧部材603側に移動し、第1押圧部材603が第1回転誘導部材503の当接面513に当接することで、キャリッジ4は下方位置から上方位置に切り換えられる。
【0035】
今、厚い記録媒体に印字していて、記録ヘッドのノズル面と搬送面の隙間が大きくなっているとき、すなわちキャリッジ4が上方位置にあるとき、その後薄い記録媒体に印字する場合は、高さ調整機構によってキャリッジ4を下方位置に調整しなければならない。そこで、キャリッジ4を下方位置に調整する際のキャリッジの速度制御が必要となる。
【0036】
図10〜12は、本発明に従うキャリッジの速度制御を示す図である。図の縦軸は、+側がキャリッジ移動方向の往路、−側が復路を示している。
キャリッジ4が、厚い記録媒体の印字のために上方位置であって第1押圧部材603の近傍にあり、次に薄い記録媒体に印字する場合を考える。図10に示すように、キャリッジ4は、一定の加速度で加速して速度V1に到達し、速度V1で記録媒体45の一端まで記録媒体45上に印字し、その後一定の加速度で減速して速度0に到達し(往路)、今度は逆方向に一定の加速度で加速して速度V1に到達し、速度V1で記録媒体45の他端まで記録媒体45上に印字し、その後一定の加速度で減速して速度0に到達する(復路)。キャリッジ4がこの動作を繰り返すことで、記録媒体45が印字される。
【0037】
そして、厚い記録媒体の印字動作が終了すると、キャリッジ4は、薄い記録媒体の印字に備えて上方位置から下方位置に切り換えられる。上述のように、維持回復機構41を配設した側、すなわち、キャリッジ4のホーム位置側に第2回転誘導部材504と第2押圧部材604が配置されているので、キャリッジ4を第2押圧部材604側に移動させることにより、キャリッジ4は下方位置に戻される。
【0038】
従って、上方位置から下方位置への高さ切り換え時であって、第1押圧部材603側から第2押圧部材604に向かうキャリッジ4のストロークの間、すなわちキャリッジ4がガイド部材3の一端から他端に向かう間、キャリッジ4の速度Vを画像形成時の速度V1ではなく、速度V1よりも小さい速度V2に制御する。そして、一定の速度V2のまま第2回転誘導部材504を第2押圧部材604に接触させることで、キャリッジ4を下方位置に切り換える。これによりキャリッジ4にかかる衝撃は低減される。ここでは、高さ切り換え時のストロークにおけるキャリッジ4の加速度は、画像形成時と同じとしているが、異なってもよい。
【0039】
これに代えて、破線で示すように、高さ切り換え時のキャリッジ4の速度Vを0から画像形成時よりも小さい加速度で加速させ、第2回転誘導部材504と接触する際に画像形成時よりも遅い速度V2になるように制御してもよい。
【0040】
また、高さ切り換え時のキャリッジ4のストローク全体を速度V2に抑えることに代えて、図11に示すように、このストロークの途中までは画像形成時の速度V1を維持しておき、第2押圧部材604の直前で大きく減速して速度V2に到達してもよい。これによっても、速度V2でキャリッジ4は下方位置に切り換えられるため、キャリッジ4にかかる衝撃は低減される。さらに、低速で移動する領域をより狭くすることができるため、ユーザーの待ち時間を短縮することができる。
【0041】
また、図12に示すように、高さ切り換え時のキャリッジ4のストロークの途中までは画像形成時の速度V1を維持しておき、第2押圧部材604の直前でさらに大きく減速して一旦キャリッジ4の速度を0とし、その後加速させて速度V2に到達させてもよい。これによっても、速度V2でキャリッジ4は下方位置に切り換えられるため、キャリッジ4にかかる衝撃は低減される。さらに、低速で移動する領域をより狭くすることができるため、ユーザーの待ち時間を短縮することができる。ここで、高さ切り換え時のキャリッジ4のストロークにおいて、速度V1に達するまでの加速度を画像形成時の加速度よりも大きくしてもよい。また、このときの速度をV1より大きくしてもよい。
【0042】
しかし、速度V2が小さすぎると、切り換え負荷との兼ね合いから高さ切り換えが正常に機能しない場合もある。よって、速度V2は、ある程度の大きさが必要であって、キャリッジ4の高さ切り換えが正常に機能する範囲内で設定される必要がある。一方、ノズル抜けは、生じる衝撃力の小さいキャリッジ速度の遅い範囲で防止される。従って、高さ切り換えに必要なキャリッジ速度と、記録ヘッドの機能維持(ノズル抜け防止など)に必要なキャリッジ速度を考慮して、高さ切り換え時のキャリッジ速度V2を設定する必要がある。特に、記録ヘッドの機能を損なわない範囲内で速度V2を大きくすることで、画像形成の効率を損なわずにすむ。
【0043】
図13は、キャリッジ速度とノズル抜け防止及び高さ切り換え可能範囲の関係を示す概念図である。
高さ切り換え時のキャリッジ速度V2が遅い範囲では、キャリッジへの衝撃力は小さくなり、ノズル抜けは防止される。一方、キャリッジ速度V2がある程度速い範囲において、高さ切り換えは正常に実行される。従って、これらが重なった範囲において、高さ切り換え時のキャリッジ速度V2を設定することができる。
【0044】
例えば、図においてXで示すように、上方位置から下方位置への高さ切り換え時のキャリッジ速度V2を、高さ切り換えが正常に機能する範囲内で最も低速とすることができる。これによれば、キャリッジ速度がより低減されることから、キャリッジへの衝撃力を最小限に抑えることができる。
また、Yで示すように、高さ切り換え時のキャリッジ速度V2を、ノズル抜けが防止される範囲内で最も高速とすることができる。これによれば、キャリッジ速度が増大されることから、画像形成の効率を高めることができる。
【0045】
今、薄い記録媒体に印字し、その後封筒などの厚い記録媒体に印字し、その後再び薄い記録媒体に印字する場合を考える。
当初、キャリッジ4は下方位置において薄い普通紙に印字しているため、その後手差しトレイ(不図示)に装置に対して略水平にセットされた厚紙は、記録ヘッド11の下方の搬送路47(図4)までは搬送されず、その手前で待機される。そして、キャリッジ4が上方位置に切り換えられた後、厚い記録媒体は記録ヘッド11の下方の搬送路47に搬送され、印字され、排紙される。
【0046】
次に再び薄い記録媒体に印字する場合、キャリッジ4は上方位置において厚い記録媒体に印字しているため、給紙トレイにセットされていた薄い記録媒体は、キャリッジの高さ切り換え動作の間待機されることなく、記録ヘッド11の下方の搬送路47(図4)に搬送される。そして、キャリッジ4が下方位置に切り換えられた後、薄い記録媒体は待ち時間なく印字される。これにより、待機時間を省くことができる分、画像形成の効率を向上させることができる。
【0047】
図14は、本発明のキャリッジの変形例を示す側面説明図である。
キャリッジ4を支持案内するガイド部材3の背面には、高さ切り換え時に下降するキャリッジ4を支持するための衝撃低減部材520が設置されている。この衝撃低減部材520の上部には、受け部522が紙面手前側と奥側にそれぞれ1つずつ形成されている。一方、キャリッジ4には、衝撃低減部材520の受け部522に対応する箇所に、湾曲した先端を有する接触部としてのピン部材524が紙面手前側と奥側にそれぞれ1つずつ形成されている。ここで、ピン部材524と受け部522の間の距離hは、従来の下降距離Hよりも小さく形成されている。
【0048】
よって、高さ切り換え時の下降動作において、従来のキャリッジは上方位置と下方位置の間の高さ(ギャップ)である距離Hだけ一度に落下していてキャリッジへの衝撃も大きかったが、本発明によれば、ピン部材524と受け部522の接触によって、ギャップ分の距離を一度に落下させずにキャリッジの下降距離を微小距離hとするため、落下による衝撃が低減される。
【0049】
衝撃低減部材はポリアセタールなどの摺動性の良好な材質で形成されると好ましい。後述するように、キャリッジが下方位置に切り換わるとき、キャリッジは衝撃低減部材の平面部を摺動し、斜面部を駆け降りる。従って、部材間の表面摺動負荷を低減することで、突発的な負荷上昇や部材表面の摩耗を防止することができる。
なお、設置スペースによっては、衝撃低減部材520はキャリッジ4を支持案内するガイド部材3の内側(図中右側)に設置されてもよい。
【0050】
また、キャリッジ4の重量はカム部材502によってガイド部材3上に支えられるため、衝撃低減部材520の取り付け位置はカム部材502を通る鉛直面の近傍であることが好ましい。例えば、図14において、カム部材502から離れたキャリッジ4の右側部分を受容するように衝撃低減部材を取り付けたとしても、衝撃の中心であるカム部材502からキャリッジ4の右側部分まで一定の距離があるため、落下時に大きな衝撃がキャリッジ4にかかった後に衝撃低減部材でキャリッジを受容する可能性があるからである。
【0051】
図15は、本発明における高さ切り換え時のキャリッジの挙動を示す背面説明図である。
図15(a)は、鉛直下方に下降動作をする前の、カム部材502によって上方位置に支持されているキャリッジ4を示す図である。図示のように、装置本体側のガイド部材3の背面に設けられた衝撃低減部材520の両側2箇所に形成された受け部522は、下降動作するキャリッジ4を一旦保持する保持部としての平面部526と、平面部526からキャリッジ4を下方位置に緩やかに下降させる移行部としての斜面部528を有している。
【0052】
一方、キャリッジ4側には、衝撃低減部材520により保持される相手として、滑らかな先端を有するピン部材524が、キャリッジの幅方向の両側2箇所に一体形成されている。よって、キャリッジ4がカム部材502の回転により下降動作をすると、キャリッジ4は、ピン部材524と平面部526との接触によって下降動作の途中で一旦保持され、その後下方位置に達する。受け部522の下部には外側から切り込みが入れられているため、キャリッジ4が落下した時に受け部522は撓み、衝撃を吸収するようになっている。従って、下降距離を従来の下降距離Hに比べてかなり小さい下降距離hとすることができ、さらには落下時の衝撃も大幅に低減することができる。また、受け部522とピン部材524がそれぞれ主走査方向に離れて2箇所に形成されることで、下降時のキャリッジの姿勢が安定し、余計な振動は生じない。
【0053】
図15(b)は、上方位置に保持されていたキャリッジ4がカム部材502の回転によって平面部526まで下降したときを示す図である。キャリッジ4は落下時に衝撃低減部材520により弾性的に保持され、次いで、キャリッジ4は図中左方向に移動し、キャリッジ4に形成されたピン部材524は斜面部528を滑り降りる。このようにして、キャリッジ4は下方位置まで緩やかに下降することができる。なお、距離hだけ下降したキャリッジ4は、斜面部528を滑り降りる最中に距離H−hだけ下降して、結局距離Hだけ下降し、下方位置に到達する。
【0054】
ここで、図2,15を参照して、下降動作時のキャリッジ4の動きを説明する。
衝撃低減部材520は、維持回復機構41の近傍においてガイド部材3の背面に配置されている。よって、キャリッジ4は、下降動作時にはガイド部材3に沿う主走査方向に摺動して維持回復機構41に近づき、図15(a)に示す位置まで移動し、第2押圧部材604に当接することで図15(b)に示す位置まで下降する。次に、キャリッジ4は維持回復機構41から遠ざかる方向に移動し、斜面部528を滑り降りる途中で低い高さ位置(下方位置)に切り換えられる。
なお、衝撃低減部材520の配置位置は維持回復機構41の近傍に限られない。
【0055】
また、図15(b)において、位置530は、維持回復機構41が記録ヘッド11のノズル面をキャッピングする位置を示している。キャリッジ4がその下方位置にて印字後に動作を終了する場合、キャリッジ4の図中右側のピン部材524はそのまま位置530で停止し、維持回復機構41により記録ヘッド11のノズル面がキャッピングされる。一方、キャリッジ4がその上方位置にて印字後に動作を終了する場合、キャリッジ4は図15(b)に示した下降動作により下方位置に達した後、ピン部材524は位置530で停止し、キャッピングがなされる。
【0056】
このように、キャリッジ4のためのキャッピング位置530を斜面部528の手前の平坦部に設定することで、高さ切り換え動作がキャッピング動作に干渉することも無く、キャッピング位置530と図15に示すピン部材524の位置の間で、斜面部528を設定することができる。なお、本実施例では平面部526、斜面部528及び低い平坦部の部分を直線状に形成しているが、平面部526から斜面部528と斜面部528から平坦部の部分を、S字状の滑らかな湾曲部として形成してもよい。
【0057】
このように、衝撃低減部材520をガイド部材3に設け、ピン部材524をキャリッジ4に設けることで、キャリッジの下降距離を従来の下降距離Hよりも小さい距離hにし、キャリッジにかかる衝撃を低減することができる。よって、これに加えて、上方位置から下方位置への高さ切り換え時におけるキャリッジ速度を前述のように低減させることで、キャリッジへの衝撃をさらに低減することができる。従って、画像形成の効率を高めるために、衝撃低減部材520とピン部材524を設けない場合に比べて速度V2を速くしてもよく、これにもかかわらず衝撃を小さく抑えることができる。
【0058】
以上のように、本発明は、キャリッジ4に設けられたカム部材502、回転誘導部材503,504と、これらを動作させる押圧部材603,604と、下降動作時に記録ヘッド11に大きな衝撃がかかるのを防ぐ衝撃低減部材520を有し、キャリッジの主走査方向の移動に連動してこれら部材によってキャリッジの昇降動作が行われる。つまり、キャリッジに設けられた回転誘導部材503,504が本体側に設けられた押圧部材603,604によって押され、カム部材502が回転することで、キャリッジが昇降する。このとき下降動作時には、キャリッジ速度を最適に制御することで、高さ切り換え時にキャリッジにかかる衝撃力が低減される。
【0059】
以上、本発明をプリンタ構成の画像形成装置に適用した例で説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明は、プリンタ、ファックス、コピー複写機などの画像形成装置に適用することができる。また、狭義のインク以外の液体や定着処理液、パターニング材料などを用いる画像形成装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
3 ガイド部材
4 キャリッジ
11 記録ヘッド(画像形成手段)
100 画像形成装置
502 カム部材
503 第1回転誘導部材(回転誘導部材)
504 第2回転誘導部材(回転誘導部材)
603 第1押圧部材(押圧部材)
604 第2押圧部材(押圧部材)
V1 画像形成時のキャリッジ速度
V2 画像形成時よりも遅いキャリッジ速度
【先行技術文献】
【特許文献】
【0061】
【特許文献1】特開2010−036345号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出して画像を形成する画像形成手段を備えたキャリッジと、該キャリッジに設けられて該キャリッジの高さを切り換える高さ調整機構と、該高さ調整機構を支持して該キャリッジを該記録媒体の幅方向である主走査方向にガイドするためのガイド部材とを有する画像形成装置であって、
前記高さ調整機構はカム部材及び回転誘導部材を有し、該カム部材を動作させる押圧部材が装置本体に設けられ、前記キャリッジの主走査方向の移動の際該回転誘導部材が該押圧部材によって押されて回転することで、該カム部材が動作して前記キャリッジの高さが調整される画像形成装置において、
上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時であって、前記キャリッジが前記ガイド部材の一端から他端に向かう間の少なくとも一部において、キャリッジ速度を画像形成時よりも遅い速度に制御し、該遅い速度で前記回転誘導部材と前記押圧部材とが接触する、ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時であって、前記キャリッジが前記ガイド部材の一端から他端に向かう間、キャリッジ速度を画像形成時よりも遅い一定速度に制御し、該一定速度で前記回転誘導部材と前記押圧部材とが接触する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時であって、前記キャリッジが前記ガイド部材の一端から他端に向かう間、前記キャリッジは画像形成時よりも小さい加速度で加速され、前記回転誘導部材と前記押圧部材とが接触する際に画像形成時よりも遅い速度に達する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時であって、前記キャリッジが前記ガイド部材の一端から他端に向かうとき、キャリッジ速度を先ず画像形成時の速度に制御し、その後画像形成時よりも遅い速度に制御し、該遅い速度で前記回転誘導部材と前記押圧部材とが接触する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項5】
上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時であって、前記キャリッジが前記ガイド部材の一端から他端に向かうとき、キャリッジ速度を先ず画像形成時の速度に制御し、その後前記押圧部材の手前で0とし、その後画像形成時よりも遅い速度に制御し、該遅い速度で前記回転誘導部材と前記押圧部材とが接触する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項6】
上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時のキャリッジ速度を、前記高さ調整機構が正常に機能する範囲内で最も低速とする、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え時のキャリッジ速度を、前記画像形成手段の機能を損なわない範囲内で最も高速とする、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
厚い記録媒体の画像形成に続いて薄い記録媒体に画像形成する場合、該薄い記録媒体は、上方位置から下方位置への前記キャリッジの高さ切り換え動作の間待機されることなく、前記画像形成手段の下方の搬送路に搬送される、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−99896(P2013−99896A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245365(P2011−245365)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】