説明

画像表示装置およびその調整方法

【課題】高いコントラストの画像を出力できるように、画面内の表示ムラを少なくすることができる画像表示装置およびその調整方法を提供する。
【解決手段】黒表示または白表示を行う際に、液晶表示素子の第1領域と第2領域における位相差、または液晶表示素子の第1領域と第2領域から液晶表示素子の光学的共役面の対応領域に至る光路全体における位相差が揃うように、液晶表示素子の第1領域と第2領域に異なる電圧を印加する。また、画像表示装置の調整方法として、このような電圧印加ステップと、位相補償手段の方位角を調整する方位角調整ステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子を用いた画像表示装置およびその調整方法に関するもので、特に液晶表示素子からの光をスクリーン等の被投影面に拡大投影する画像表示装置およびその調整方法に適する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子などの画像表示素子を用いて画像情報に対応して変調された光束を投射レンズによってスクリーンなどに拡大投射する構成のプロジェクタが種々提案されている。液晶表示素子として、いわゆるVAN(Vertical Alignment Nematic)液晶型の反射型液晶変調素子を用いているものもある。これは、2つの基板の間に誘電異方性が正のネマチック液晶を封入し、液晶分子長軸を2枚の基板間に対してほぼ垂直に配向させたものである。
【0003】
液晶変調素子としては、ECB(Electrically Controlled Birefringence)効果を利用する方法が主に用いられる。即ち、液晶層を通過する光波動に対して位相差(位相差)を与えて、光波動の偏光状態を変化させる作用を制御して画像を形成する。
【0004】
VAN液晶表示素子は、光学的位相差が無い状態を黒表示とするために、コントラスト特性がよい。一方で、VAN液晶表示素子は横電界の影響を受けやすく、横電界により液晶配向が乱れてしまうと明るさの低下があったり、境界領域でのムラができてしまったりする。このような状態を防ぐために、液晶分子を基板の垂直方向から傾けて製作し、配向規制力を強くする対策が取られている。即ち、電圧無印加状態において、液晶分子は基板法線に対し平均的な傾き(プレチルト角)をもって形成されている。
【0005】
プレチルト角が大きくなると、電圧無印加状態においても液晶分子によって与えられる位相差量が増大し、偏光状態が理想とする直線偏光状態からずれてしまう。これを解決するため、プレチルト角に起因する偏光状態のずれを補正する方法が知られている。 特許文献1では、液晶分子の複屈折によって楕円偏光化した光を、位相補償板である1/4波長板によって直線偏光に変換し、後方の偏光板等の偏光遮断手段によって遮光することが開示されている。
【0006】
しかし、1/4波長板を用いて偏光状態のずれを補正しても、液晶変調素子および光学系の特性により発生した画面内での位相差のムラに起因する表示ムラが、問題となり得る。特許文献2においては、表示領域を複数の領域に分割して、各々の領域の輝度を均一化することで、このような表示ムラを補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3019813号公報
【特許文献2】特許第3202613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
画面内の表示ムラが補正されない場合、ムラが残ることにより、画面内で最適となる1/4波長板での調整位置が異なるので、表示領域全域で最適にはならず、コントラストが低下してしまう。しかしながら、輝度を均一化して画面内の表示ムラを補正しようとする特許文献2に開示された従来技術では、以下の理由でコントラストが低下してしまう。即ち、透過率と印加電圧の関係を示す図5において、領域1におけるコントラストは、領域1の透過率として本来A点とO点を結ぶ線分の長さ(本来の長さ)に相当する。しかし、
特許文献2に開示された従来技術では、コントラストが、D点とE点を結ぶ線分の長さ(領域2の透過率としてB点とO点を結ぶ線分の長さに等しい)に相当する値に減じられてしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高いコントラストの画像を出力できるように、画面内の表示ムラを少なくすることができる画像表示装置およびその調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係わる画像表示装置の代表的な構成は、入射光の偏光状態を変えることにより画像を表示する液晶表示素子と、前記液晶表示素子の互いに異なる第1領域と第2領域に対し、異なる電圧を印加することが可能な電圧印加手段を有する画像表示装置であって、前記電圧印加手段は、黒表示または白表示を行う際に、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域における位相差、または前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域から前記液晶表示素子の光学的共役面の対応領域に至る光路全体における位相差が揃うように、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域に異なる電圧を印加することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係わる画像表示装置の調整方法の代表的な構成は、入射光の偏光状態を変えることにより画像を表示する液晶表示素子と、前記液晶表示素子により生じる位相差を補償するための位相補償手段と、前記液晶表示素子の互いに異なる第1領域と第2領域に対し異なる電圧を印加することが可能な電圧印加手段を有する画像表示装置の調整方法であって、黒表示または白表示を行う際に、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域における位相差、または前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域から前記液晶表示素子の光学的共役面の対応領域に至る光路全体における位相差が揃うように、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域に異なる電圧を印加する電圧印加ステップと、前記位相補償手段の方位角を調整する方位角調整ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高いコントラストの画像を出力できるように、画面内の表示ムラを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態における投射型画像表示装置の光学系の構成を表す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る液晶のダイレクタ方向とチルト角と方位角を表す図である。
【図3】本発明の実施形態における最大のコントラストを得る時の液晶のチルト角と位相板調整角の関係を示す図である。
【図4】第2の実施形態における投射型画像表示装置の光学系の構成を表す図である。
【図5】従来技術におけるコントラスト低下を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
《第1の実施形態》
(投射型画像表示装置)
以下、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る投射型画像表示装置について説明する。図中、1は高圧水銀ランプなどからなる光源、2は均一な照明強度を有する照明領域を形成するためのインテグレーターからなる照明光学系、3は偏光方向によって光を透過または反射させる偏光ビームスプリッタ(偏光分離素子)である。4は1/4波長板であり、5は入射光の偏光を電気信号に応じて変調する反射型液晶表示素子、6は反射型液晶表示素子5からの光をスクリーン(図示せず)などの被投射物に投影する投影手段としての投射光学系である。
【0016】
本実施形態に係る投射型画像表示装置では、液晶表示素子において3色画像が時分割表示可能となるように、光源1から反射型液晶表示素子5に至る光路内に不図示の色フィルタ手段が介在可能である。あるいは3色の光源(不図示)が設けられて、順次点灯されるようにしても良い。これにより、単一の液晶表示素子を用いたカラー画像表示が可能となる。なお、図1で、100は液晶表示素子の画面内の各領域における液晶分子の基板法線に対する傾き角に関するデータ記憶装置、101はデータ記憶装置100に基づいて液晶表示素子の画面内の各領域に個別に電圧を印加する電圧印加手段である。
【0017】
図1において、光軸方向をz軸とし、紙面垂直方向をx軸としたときに、x軸とz軸で形成される面(xz断面)に垂直な方向をy軸としている。また、図中の矢印方向を正とする。照明光学系2は、第1フライアイレンズ11と第2フライアイレンズ12、偏光変換素子アレイ13、コンデンサーレンズ14から構成される。以下、照明光学系2における作用について説明する。光源1からの無偏光光を複数のレンズからなる第1フライアイレンズ11と第2フライアイレンズ12によって複数に光束分割する。
【0018】
第2フライアイレンズ12から射出される光の偏光方向を、偏光変換素子アレイ13によってP(紙面内平行方向であるy軸方向)またはS(紙面垂直方向であるx軸方向)の任意の方向に揃える。分割された光束をコンデンサーレンズ14により、液晶表示素子面に重畳することで略均一な照明を行う光学系となっている。
【0019】
本実施形態において照明光学系2から射出した光は、偏光ビームスプリッタ3を透過するようにP偏光(y軸方向)に揃えられている。偏光ビームスプリッタ3を透過した光は1/4波長板4を通過して、反射型液晶表示素子5に入射する。
【0020】
このとき、スクリーンに投射される白表示の光は、基本的にS偏光として偏光ビームスプリッタ3によって投射光学系6の方向に反射される。一方、スクリーンに投射されない黒表示の光は偏光ビームスプリッタ3を透過して光源の方向へ戻るように偏光状態を変調している。
【0021】
ここで、偏光ビームスプリッタ3での透過と反射は、偏光ビームスプリッタ3の膜面を形成する斜面と、斜面への入射光角度との幾何関係によって定められる、偏光の基準軸によって決まる。例えば、光を透過させる偏光ビームスプリッタ3の偏光透過軸は、偏光ビームスプリッタの膜面を形成する斜面の法線と入射光角度で形成される平面に平行な方向である。
【0022】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示素子5は、ノーマリーブラックであって、電圧無印加時に液晶層の液晶分子が基板面の法線に対しプレチルト角度を備え、黒表示が行われる。そして、所定電圧をかけることで白表示が行われる。このような3色画像に対して共通に用いられる、単一の液晶表示素子には、3色画像が時分割表示されることでカラー画像表示がなされる。
【0023】
反射型液晶表示素子5を形成する液晶分子の特性は、液晶分子の集まりを平均化した1つの屈折率楕円体とすると、簡易的に図2に示す特性となる。図2で、液晶分子22のダイレクタ方向21をxy平面に射影した角度を方位角φとし、ダイレクタ方向21がz軸となす角度をチルト角θとする。本願明細書では、電圧無印加時の液晶分子の傾き角であるプレチルト角に対し、電圧印加時の液晶分子の傾き角をチルト角と呼ぶ。なお、本実施形態においては、反射型液晶表示素子5の長辺方向をx軸としており、方位角φ=45°としている。
【0024】
反射型液晶表示素子5で反射する光の偏光方向は、反射型画像表示素子の液晶層で受ける位相差、つまり液晶分子の屈折率異方性と液晶分子のチルト角と液晶分子の方位角によって決定される。
【0025】
ここまで、液晶分子のチルト角を基準としたコントラスト特性について示してきたが、実際の反射型液晶表示素子5では、表示領域内において、電圧無印加時の液晶分子のプレチルト角が幅(ばらつき)を持っている。即ち、表示領域内の各領域で最適な1/4波長板4の方位角が異なるために、全ての箇所で最大のコントラスト特性を得ることはできない。
【0026】
(液晶表示素子の分割領域における位相差の統一化)
表1、表2に、本実施形態の反射型液晶表示素子5の表示領域における、電圧無印加時(黒表示)、電圧印加時それぞれの液晶分子の基板法線に対する角度(プレチルト角)を示す。ここで、表2の電圧印加時の印加電圧は、ゼロに近い値(液晶表示素子が表示可能な明るさの最大値の1%程度の明るさを表示する印加電圧値)である。反射型液晶表示素子5を構成する液晶分子の基板法線に対する角度は、電圧を印加することで大きくすることができる。このような電圧を印加することで、液晶表示素子の分割領域における位相差の統一化がされるので、黒表示を維持しながら表示ムラの調整を図ることができる。
【0027】
画像表示領域は少なくとも二つ以上の領域(第1領域、第2領域)に分割されているが、ここでは、縦横3つの領域に分割され、表1、表2は合計9個の分割された領域での液晶分子の基板法線に対する傾き角を示している。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
プレチルト角が表1に示す状態である場合、1/4波長板4の方位角は、各領域からのずれを最小とするように平均化され、液晶表示素子の中心を通る法線を中心とした回転角度として長辺方向から時計回りに0.95°となる。この時のコントラスト評価値を1とする。
【0031】
これに対し、反射型液晶表示素子5の分割された領域ごとに個別に電圧印加をし、表2に示すように、液晶分子の基板法線に対する角度を9個の分割領域で最大値である7.5°に統一する。理想的には、各分割領域において液晶分子の傾きの差はゼロとなるが、0.5°以内に共通化されれば、角度が統一されて位相差(位相差)の統一がされたものとする。
【0032】
電圧を印加している状態で1/4波長板4の調整を行うと、1/4波長板4の方位角は長辺方向から時計回りに1.3°となる。この時、コントラスト評価値は1.16と改善される。即ち、本実施形態においては、電圧無印加状態で調整した場合に比べて、およそ16%のコントラスト増加が見込まれる。
【0033】
上記の通り、電圧無印加状態で表示領域内にプレチルト角の幅(ばらつき)がある場合に、その最大値に統一するように分割された表示領域ごとに電圧印加を行うことで、画面内のムラを低減すると共に、コントラストの向上が図れる。
【0034】
(液晶表示素子に対する位相補償板の位相差調整)
液晶表示素子の分割領域における位相差(位相差)の統一化が図られると、液晶分子の傾きが共通化された液晶表示素子と、位相補償手段との相対的調整により、統一された位相差を補償するようにする。これにより、ムラの無くコントラストの高い表示が可能となる。
【0035】
位相補償板としての1/4波長板4は、反射型液晶表示素子5と偏光ビームスプリッタ3との間に配置され、遅相軸の方位角によって偏光方向を変化させる。そのため、1/4波長板4は、方位角を変更可能な構成にしておき、スクリーンでの照度が最小となるように固定する。なお、入射光の角度によって、反射型液晶表示素子5を反射した後の偏光状態は異なるので、全ての入射角度において最適な方位角とはならない。
【0036】
図3に、液晶分子のチルト角変化時に最大のコントラスト特性を得ることのできる、1/4波長板4の方位角変化を示す。横軸は液晶分子のチルト角であり、縦軸は1/4波長板4の方位角である。液晶分子のチルト角(基板法線に対する傾き角)が増加すると、反射型液晶表示素子5で与えられる位相差が増加するために、それを補正するために1/4波長板4の方位角が増加し続けることがわかる。
【0037】
液晶表示素子に対する位相補償板の位相差調整は、位相補償板を上述したように液晶表示素子の中心を通る法線を中心として回転調整するが、その替わりに、液晶表示素子の分割された各領域に対し一様な電圧を印加しても良い。
【0038】
(液晶表示素子面での分割領域におけるチルト角の検出方法)
分割された複数領域の内、一つの領域のみに所定角度分布を備えた光を液晶表示素子に入射させ、液晶表示素子からの光をカメラ等で取り込み、ある角度方向の光量が低下した場合に、その角度方向をチルト角(基板法線に対する傾き角)として検出する。あるいは、分割された複数領域の内、一つの領域のみに所定角度分布を備えた光を液晶表示素子に入射させ、位相補償板を液晶表示素子の中心を通る法線を中心として回転させたときの位相補償板を通過した光量変化に基づき、回転角からチルト角を検出する。
【0039】
《第2の実施形態》
図4に、本実施形態で使用する投射型画像表示装置の構成を示す。本実施形態では、第1の実施形態における偏光ビームスプリッタ3をワイヤーグリッド偏光素子63に置き換えている。また、図4で、102は液晶表示素子の画面内の各領域における液晶分子の基板法線に対する傾き角に関するデータ記憶装置、103はデータ記憶装置102に基づいて液晶表示素子の画面内の各領域に個別に電圧を印加する電圧印加手段である。
【0040】
ワイヤーグリッド偏光素子63は、微細構造の金属ワイヤーをリブ状に並列させた偏光素子であり、金属ワイヤーの格子方向に対して平行な電界ベクトルのS偏光は反射し、格子方向に垂直な電界ベクトルのP偏光を透過する特性を有する。即ち、偏光ビームスプリッタ3と異なり、偏光透過軸が入射光との斜面の幾何関係ではなく、素子構造のみで規定される。本実施形態においては、光を透過させる軸が図中のy軸方向となっている。ただし、偏光透過軸の設定が変わってはいるが、コントラスト特性向上のために最適な1/4波長板4の方位角に設定するという本質は依然として変わらない。
【0041】
他の光学構成、役割は図1で示している第1の実施形態と同様のため、説明は省略する。表3は、本実施形態における反射型画像表示素子の分割された各領域における液晶分子の電圧無印加時のプレチルト角の幅(ばらつき)を示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3において、使用する反射型液晶表示素子の液晶分子のプレチルト角の幅(ばらつき)が、第1の実施形態で示した表1とは異なる。表3に示すプレチルトの場合、1/4波長板4の方位角は各領域での最適値からの差が最小となるように平均化されるため、長辺方向から時計回りに0.83°である。このときのコントラスト評価値を1とする。
【0044】
これに対し、本実施形態での反射型液晶表示素子5のプレチルト角の最大値は6.5°であるため、分割された各領域に電圧を印加することで表示領域内の液晶のチルト角を最大値である6.5°に統一した後に、1/4波長板4での調整を行う。電圧を印加している状態で1/4波長板4の調整を行うことで、1/4波長板4の方位角は長辺方向から時計回りに0.97°となる。この時、コントラスト評価値は1.03となり、本実施形態においては電圧無印加で調整した場合と比べて、およそ3%のコントラスト増加が見込まれる。
【0045】
《第3の実施形態》
表4に本実施形態で使用する反射型液晶表示素子5の液晶分子のプレチルト角の幅(ばらつき)を示す。表4において、第1の実施形態で示した表1、表2に対し、使用する反射型液晶表示素子5の液晶分子のプレチルト角および最低照度を得るために電圧印加した時のチルト角が異なる。他の光学構成、役割は図1で示している第1の実施形態と同様のため、説明は省略する。
【0046】
【表4】

【0047】
表4に示すプレチルトの場合、1/4波長板4の方位角は各領域での最適値からの差が最小となるように平均化されるため、長辺方向から時計回りに0.95°である。このときのコントラスト評価値を1とする。
【0048】
これに対し、本実施形態での反射型液晶表示素子のプレチルト角の最大値は7.5°で
ある。電圧を印加することで表示領域内の液晶のチルト角を最大値の7.5°に統一した後に、1/4波長板4での調整を行う。電圧を印加している状態で1/4波長板4の調整を行うことで、1/4波長板4の方位角は長辺方向から時計回りに1.3°となる。この時、コントラスト評価値は1.38である。即ち、本実施形態においては、電圧無印加で調整する場合と比較して、およそ38%のコントラスト増加が見込まれる。
【0049】
《第4の実施形態》
第1の実施形態では、液晶表示素子の第1領域と第2領域における位相差が揃うように位相差の統一化が第1領域と第2領域への異なる電圧印加によって図られ、且つ液晶表示素子に対する位相補償板の位相差調整がなされ、ムラの無い黒表示を形成した。これに対し、本実施形態では、液晶表示素子の第1領域と第2領域から液晶表示素子の光学的共役面(スクリーン面)の対応領域に至る光路全体における位相差が揃うように、位相差の統一化が液晶表示素子の第1領域と第2領域への異なる電圧印加によって図られる。
【0050】
即ち、本実施形態では、液晶表示素子と光学的共役な面であるスクリーン面で、光路内の全部材の位相差(液晶表示素子、位相補償板、偏光ビームスプリッタ、投射光学系を含む)の各分割領域におけるムラを認識する。そして、スクリーン面における光路内の全部材の位相差のムラのある対応領域と光学的に共役な液晶表示素子の異なる領域に異なる電圧を印加することで、スクリーン面における光路内の全部材の位相差のムラを補正する。
【0051】
その後、スクリーン面における光路内の全部材の位相差のムラが補正された状態で、位相補償手段を液晶表示素子の中心を通る法線を中心として回転調整する。これにより、コントラストの高い表示となるように位相差が補償される。
【0052】
このような位相差調整がなされれば、ムラが無くコントラストの高い表示を形成することができる。理想的には、液晶表示素子を含み位相補償板を除く光路内の全部材と、位相補償板との相対的調整により、各分割領域における全系 のリタデーションの差はゼロとなるが、全系のリタデーションの差が10nm以内とされれば良い。
【0053】
(スクリーン面での分割領域における位相差のムラの検出方法)
液晶表示素子で、分割された複数領域の内、一つの領域のみに所定角度分布を備えた光を入射させ、位相補償板を液晶表示素子の中心を通る法線を中心として回転させたときの位相補償板を通過した光量変化に基づき、位相補償板の回転角からチルト角を検出する。光を入射させる領域を分割された他の領域に換えて、同様に位相補償板の回転角からチルト角を検出する。そして、分割された各領域におけるチルト角の最大値と最小値の差をチルト角度差として検出する。
【0054】
すると、スクリーン面での位相差のムラは、所定のチルト角度における液晶表示素子における屈折率異方性と、液晶表示素子の厚さから検出される。
【0055】
(各実施形態の効果)
上述した各実施形態によれば、VAN型液晶表示素子と偏光分離手段と1/4波長板を含む投射型画像表示装置において、製造上のばらつきに起因する面内ムラ、特に黒ムラの改善を図ると共に高いコントラストの画像表示を行うことが出来る。
【0056】
(変形例1)
以上、電圧無印加時に黒表示を行うVAN型の液晶について述べてきたが、本発明はこれに限らず、例えば、電圧無印加時に白表示を行うOCB型の液晶であっても良い。白表示における分割された各領域でプレチルト角の幅(ばらつき)がある場合に、最大値に統一するように各領域に電圧印加すれば良い。
【0057】
(変形例2)
また、上述した実施形態では、照明光学系として1枚の反射型画像表示素子からなる構成を示したが、これに限定されるものではなく、例えば色分離合成手段を有する光学系と共に3枚の反射型画像表示素子からなる構成であっても良い。
【0058】
(変形例3)
また、上述した実施形態では、先ず液晶表示素子の第1領域と第2領域への異なる電圧印加を行った後に、液晶表示素子の中心を通る法線を中心とした位相補償手段の回転調整(方位角調整)を行って調整を完了させたが、これを逆にしても良い。即ち、先ず液晶表示素子の中心を通る法線を中心とした位相補償手段の回転調整(方位角調整)を行った後に、液晶表示素子の第1領域と第2領域への異なる電圧印加を行って調整を完了させても良い。
【符号の説明】
【0059】
1・・光源、2・・照明光学系、3・・偏光ビームスプリッタ、4・・1/4波長板、5・・反射型画像表示素子、6・・投射光学系、21・・ダイレクタ方向、22・・液晶分子、100、102・・データ記憶装置、101、103・・電圧印加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光の偏光状態を変えることにより画像を表示する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子の互いに異なる第1領域と第2領域に対し、異なる電圧を印加することが可能な電圧印加手段を有する画像表示装置であって、
前記電圧印加手段は、黒表示または白表示を行う際に、
前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域における位相差、または前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域から前記液晶表示素子の光学的共役面の対応領域に至る光路全体における位相差が揃うように、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域に異なる電圧を印加することを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
前記液晶表示素子により変えられた偏光状態に応じて光路を分離する偏光分離素子と、
前記液晶表示素子と前記偏光分離素子の間に配置された位相補償手段を有し、
前記位相補償手段は、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域に異なる電圧を印加された状態で調整された方位角を有することを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記位相補償手段が、前記液晶表示素子の中心を通る法線を中心として回転調整されることを特徴とする請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記液晶表示素子の液晶層の液晶分子が、電圧無印加時に基板面の法線に対し傾いて配置されており、
前記液晶表示素子は、電圧無印加時に黒表示が行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記液晶表示素子において、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域の位相差が揃うように、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域に異なる電圧を印加する際に、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域の液晶分子の傾きの差が0.5°以内となるように、前記第1領域と前記第2領域に異なる電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項6】
入射光の偏光状態を変えることにより画像を表示する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子により生じる位相差を補償するための位相補償手段と、
前記液晶表示素子の互いに異なる第1領域と第2領域に対し異なる電圧を印加することが可能な電圧印加手段を有する画像表示装置の調整方法であって、
黒表示または白表示を行う際に、
前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域における位相差、または前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域から前記液晶表示素子の光学的共役面の対応領域に至る光路全体における位相差が揃うように、前記液晶表示素子の前記第1領域と前記第2領域に異なる電圧を印加する電圧印加ステップと、
前記位相補償手段の方位角を調整する方位角調整ステップと、を有することを特徴とする画像表示装置の調整方法。
【請求項7】
前記方位角調整ステップは、前記電圧印加ステップの後に行われることを特徴とする請求項6に記載の画像表示装置の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−25285(P2013−25285A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162984(P2011−162984)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】