説明

画像表示装置

【課題】沿面放電を抑制し、放電が発生した際に生じる放電ダメージを抑制する。
【解決手段】画像形成装置は、電子を放出する電子放出素子(素子電極102、103、導電性膜107、電子放出部108)を複数有する基体101(電子源基板:リアプレート)と、該電子放出素子より放出された電子が照射される陽極基板(フェースプレート)とを有する。基体101上には、電子放出素子の電子放出部108を含む導電部材(素子電極102、103、導電性膜107、配線104、106)が配置される。電子放出素子の電子放出部108を含む電子放出領域近傍(第1の領域)に位置する導電部材上には開口部110が形成される。開口部110以外の領域(第2の領域)に位置する導電部材上には、絶縁層109が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子放出素子としては熱電子源と冷陰極電子源の2種類が知られている。冷陰極電子源には電界放出型素子(以下「FE型素子」と略す)、金属/絶縁層/金属型素子(以下「MIM素子」と略す)、表面伝導型電子放出素子(以下「SCE素子」と略す)等がある。
【0003】
また、上記の電子放出素子を基板上に多数配列形成し、これを電子源として用いた画像表示装置もまた提案されている。
【0004】
この種の画像表示装置は、一般に、複数の電子放出素子がマトリクス状に配置された電子源基板よりなるリアプレートと、複数の電子放出素子のそれぞれと対向して蛍光体が設けられた蛍光体基板よりなるフェースプレートとが対向配置された構造を有し、リアプレートとフェースプレートの間に高電圧を印加して、電子放出素子から放出された電子を加速し、フェースプレート側の蛍光体に衝突させることで、蛍光体が励起されて発光する。この際、各電子放出素子からの電子放出を制御することで、各蛍光体における発光を制御し、これにより画像が表示される。
【0005】
参考のために、上述したSCE素子に関する技術について、本出願人による先行技術の一部を以下に紹介する。
【0006】
例えば、SCE素子をマトリクス状に配置した電子源とこれを用いた画像表示装置の例としては、特許文献1、2などが挙げられる。
【特許文献1】特開平08−185818号公報
【特許文献2】特開平09−050757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の、電子放出素子を用いた画像表示装置では、装置内部で放電が発生する場合があり、このような放電が発生した場合には電子放出素子にダメージをもたらす事がある。また、このダメージが多数の電子放出素子にまで及んだ場合には、結果として画像表示装置自体が短寿命となることも懸念される。
【0008】
本発明は、放電が発生した際に生じるダメージを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の画像表示装置は、電子放出素子を複数有する電子源基板と、該電子放出素子より放出された電子を照射する陽極基板とを有する画像表示装置において、前記電子源基板上に配置された導電部材のうち、前記電子放出素子の電子放出領域以外の導電部材上を覆う絶縁部材を備えることを特徴とする。
【0010】
前記絶縁部材が覆う導電部材は、前記電子放出素子とその駆動回路とを結ぶ配線と、当該配線と前記電子放出領域とを接続する電極とを含んでもよい。
【0011】
前記電子放出素子は、間隔を置いて配置された一対の素子電極と、前記一対の素子電極に接続された、電子放出領域を有する導電性膜とを備えてもよい。
【0012】
前記絶縁部材が覆う導電部材は、前記電子放出素子とその駆動回路とを結ぶ配線と、前記一対の素子電極とを含んでもよい。
【0013】
前記電子放出領域は、前記導電性膜の一部に形成された間隙であってもよい。
【0014】
前記絶縁部材が覆う導電部材は、前記電子放出素子とその駆動回路とを結ぶ配線と、前記一対の素子電極と、前記導電性膜とを含んでもよい。
【0015】
前記基板の露出面及び前記絶縁部材を覆う抵抗膜をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放電の進行を抑制することができるため、放電による電子放出素子のダメージを最小限に抑えることができ、画像形成装置を長寿命化できる。
【0017】
また、本発明によれば、基板露出面、絶縁部材の帯電を抑制でき、これにより電子放出特性をより一層安定化することができ、かつ放電をより一層抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明にかかる画像形成装置とその製造方法を実施するための最良の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の製造方法に基づいた作製工程にて作製した画像形成装置の構成を模式的に示す表示パネルの平面図であり、フェースプレートの上方から見た場合の構成を示しており、便宜上、フェースプレートの上半分を取り除いた図となっている。
【0020】
1は、電子源を形成するための基板を兼ねるリアプレートであり、青板ガラスや、表面にSiO被膜を形成した青板ガラス、Na含有量を少なくしたガラス、石英ガラス、或はセラミックス等、条件に応じて各種材料を用いる。尚、電子源形成用の基板をリアプレートと別に設け、電子源を形成した後に両者を接合しても良い。
【0021】
11は、蛍光体を形成するための基板を兼ねるフェースプレートであり、青板ガラスや、表面にSiO被膜を形成した青板ガラス、Naの含有量を少なくしたガラス、石英ガラス、或はセラミックス等、条件に応じて各種材料を用いる。
【0022】
2は、電子源領域であり、FE型素子、SCE素子等の電子放出素子を複数配置し、さらに目的に応じて駆動できるように素子に接続された配線を形成したものである。3−1、3−2、3−3は、電子源駆動用配線であり、画像形成装置の外部に取り出され、電子源2の駆動回路(不図示)に接続される。4は、リアプレート1とフェースプレート11に挟持される支持枠であり、フリットガラスにより、リアプレート1に接合される。電子源駆動用配線3−1、3−2、3−3は、支持枠4とリアプレート1の接合部でフリットガラスに埋設されて外部に引き出される。また、電子源駆動用配線3−1、3−2、3−3との間には絶縁層(不図示)が形成されている。真空容器内には、このほかゲッタ(不図示)が支持部材(不図示)とともに配置される。また、場合によっては、大気圧支持用のスペーサ(不図示)が配置されることもある。
【0023】
また、7は、高圧導入端子18との高圧当接部位である。尚、画像表示領域12について、詳しくは後述する。
【0024】
図2(a)は、図1の実線A−A'に沿った断面の構成を示す模式図である。同図において、図1と同一の符号は、図1と同様の構成要素を示す。図示の如く、排気管5と真空パネルは、リアプレート1にあけられた孔6を通して空間的に接続されている。
【0025】
図2(b)は、図1の実線C−C'に沿った断面の構成を示す模式図である。同図において、図1と同一の符号は、図1と同様の構成要素を示す。図中、高圧導入端子18が画像表示領域12の高圧当接部位7に接続されている。18は、画像形成部材12に高電圧(アノード電圧Va)を供給するための高電圧導入端子である。この高圧導入端子18は、Ag,Cu等の金属よりなるロッドである。また、図2において、高電圧配線をリアプレート1側に取り出すような構成であっても良い。
【0026】
本実施形態に用いる電子源2を構成する電子放出素子の種類は、電子放出特性や素子のサイズ等の性質が目的とする画像形成装置に適したものであれば、特に限定されるものではない。熱電子放出素子、或はFE型素子、半導体電子放出素子、MIM素子、SCE素子等の冷陰極素子等が使用できる。
【0027】
後述する実施例において示されるSCE素子は、本実施形態に好ましく用いられるものである。上述の本出願人による特開平7−235255号公報に記載されたものと同様の素子であり、以下に簡単に説明する。
【0028】
図3は、本実施形態に係るSCE素子単体の構成の一例を示す模式図であり、図3(a)は平面図、図3(b)は側面図をそれぞれ示している。図3において、101は電子放出素子を形成するための基体、102、103は一対の素子電極、107は一対の素子電極102、103に接続された導電性膜であり、その一部に電子放出部108が形成されている。電子放出部108は、後述するフォーミング処理により、導電性膜107の一部が破壊、変形、変質されて形成される高抵抗の部分であり、導電性膜107の一部に間隔が形成され、その近傍から電子が放出されるものである。104、106は、駆動回路と電子放出素子を接続する配線である。105は、配線104、106間を絶縁するための絶縁層である。
【0029】
図3(a)及び(b)で示した導電部材は、先に述べたように沿面放電を抑制するために、絶縁層(絶縁部材)で覆われる。図3(c)では、本実施例に係る導電部材を絶縁層109で覆った一例を示す模式図であり、基体101に配置される導電部材のうち、lSCE素子の電子放出領域近傍、即ち電子放出部108、その周囲の導電性膜107、及び一対の素子電極102、103の一部を含む第1の領域に配置された導電部材上には、開口部110が形成されている。また、基体101に配置される導電部材のうち、SCE素子の電子放出領域近傍(第1の領域)以外、即ち第1の領域以外に位置する導電性膜107、一対の素子電極102、103、及び配線104、106を含む第2の領域上に配置された導電部材上は、絶縁層109で覆われている。開口部110は、絶縁層109で覆われていない導電部材の露出部分に対応する。絶縁層109は、電子放出領域を覆うと、SCE素子からの電子放出が遮られるため、電子放出領域近傍以外(第2の領域)の導電部材をすべて覆うことが好ましい。なお、開口部110の形状は、図3(c)に示した例では、矩形状に形成されているが、これに限らず円形状等の他の形状であってもよい。
【0030】
前述したフォーミング工程は、前述した一対の素子電極102、103間に電圧を印加することにより行う。印加する電圧は、パルス電圧が好ましく、図4(a)に示した同じ波高値のパルス電圧を印加する方法、図4(b)に示した、波高値を漸増させながらパルス電圧を印加する方法のいずれの方法を用いても良い。ここで、図4は、本実施例に係るフォーミング工程の印加電圧パターンの一例を示す図であり、T1はパルス幅、T2はパルス周期をそれぞれ示し、図中の縦軸は電圧値、横軸は時間をそれぞれ示している。尚、パルス波形は、図4に示した三角波に限定されるものではなく矩形波等の他の形状であっても良い。
【0031】
フォーミング処理により電子放出部を形成した後、「活性化工程」と呼ぶ処理を行う。これは、有機物質の存在する雰囲気中で、上記素子にパルス電圧を繰り返し印加することにより、炭素または炭素化合物を主成分とする物質を、上記電子放出部および/またはその周辺に堆積させるものである。この処理により、素子電極間を流れる電流(素子電流If)、電子放出に伴う電流(放出電流Ie)をともに増大することができる。
【0032】
このようなフォーミング工程および活性化工程を経て得られた電子放出素子は、続いて安定化工程を行うことが好ましい。この安定化工程は、真空容器内の特に電子放出部近傍の有機物質を排気する工程である。真空容器を排気する真空排気装置は、装置から発生するオイルが素子の特性に影響を与えないように、オイルを使用しないものを用いるのが好ましい。具体的には、ソープションポンプとイオンポンプからなる真空排気装置等を挙げることができる。
【0033】
真空容器内の有機物質の分圧は、上記の炭素または炭素化合物がほぼ新たに堆積しない分圧である1.3×10−6[Pa](パスカル)以下が好ましく、さらには1.3×10−8[Pa]以下が特に好ましい。さらに、真空容器内を排気するときには、真空容器全体を加熱して、真空容器内壁や電子放出素子に吸着した有機物質分子を排気しやすくするのが好ましい。このときの加熱条件は、80〜250[℃]、好ましくは150[℃]以上であり、できるだけ長時間処理するのが望ましいが、特にこの条件に限るものではなく、真空容器の大きさや形状、電子放出素子の構成等の諸条件により適宜選ばれる条件により行う。真空容器内の圧力は極力低くすることが必要であり、1×10−5[Pa]以下が好ましく、さらに1.3×10[Pa]以下が特に好ましい。
【0034】
安定化工程を行った後の駆動時の雰囲気は、上記安定化処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではなく、有機物質が十分除去されていれば、真空度自体は多少低下しても十分安定な特性を維持することができる。このような真空雰囲気を採用することにより、新たな炭素または炭素化合物の堆積を抑制でき、また真空容器や基板等に吸着したHO、O等も除去でき、結果として素子電流If,放出電流Ieが安定する。
【0035】
このようにして得られた表面伝導型電子放出素子の該素子に印加する素子電圧Vfに対する素子電流Ifおよび放出電流Ieとの関係は、図5に模式的に示すようなものとなる。図5においては、放出電流Ieが素子電流Ifに比べて著しく小さいので任意単位にて示している。尚、同図の縦軸及び横軸は、いずれもリニアスケールである。
【0036】
図5に示すように、本表面伝導型電子放出素子は、ある電圧(「閾値電圧」と呼ぶ、図5中のVth)以上の素子電圧Vfを印加すると急激に放出電流Ieが増加し、一方閾値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。つまり、本表面伝導型電子放出素子は、放出電流Ieに対する明確な閾値電圧Vthを有する非線形素子である。これを利用すれば、2次元的に配置した電子放出素子にマトリクス配線を施し、単純マトリクス駆動により所望の素子から選択的に電子を放出させ、これを画像形成部材に照射して画像を形成させることが可能である。
【0037】
次に、画像形成部材である蛍光膜の構成の例を説明する。図6は、本実施例に係る画像形成装置における蛍光膜を示す模式図であり、図6(a)はブラックストライプ、図6(b)はブラックマトリクスの蛍光膜をそれぞれ示している。蛍光膜61は、モノクロームの場合は、蛍光体63のみから構成することができる。カラーの蛍光膜61の場合は、蛍光体の配列によりブラックストライプ(図6(a))或はブラックマトリクス(図6(b))等と呼ばれる黒色導電材62とRGB3色等の蛍光体63とから構成することができる。ブラックストライプ或はブラックマトリクスを設ける目的は、カラー表示の場合、必要となる三原色蛍光体の各蛍光体63間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光膜61における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。ブラックストライプの材料としては、通常用いられている黒鉛を主成分とする材料の他、導電性があり、光の透過および反射が少ない材料を用いることができる。
【0038】
画像形成装置におけるフェースプレートに蛍光体63を塗布する方法は、モノクローム、カラーによらず、沈澱法や印刷法等が採用できる。蛍光膜61の内面側には、不図示のメタルバックが設けられる。メタルバックを設ける目的は、蛍光体63の発光のうち内面側への光をフェースプレート側へ鏡面反射させることにより輝度を向上させること、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させること、外囲器内で発生した負イオンの衝突によるダメージから蛍光体63を保護すること等である。メタルバックは、蛍光膜作製後、蛍光膜の内面側表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等を用いて堆積させることで作製できる。
【0039】
フェースプレート11には、さらに蛍光膜61の導電性を高めるため、蛍光膜61の外面側に透明電極を設けても良い。カラー表示の場合は、各色蛍光体と電子放出素子とを対応させる必要があり、十分な位置合わせが不可欠となる。
【0040】
上述のような構成を有する本実施形態によれば、導電部材を絶縁部材で覆うことで、放電の進行を抑制し、沿面放電を防ぐことができ、放電が発生した当該電子放出素子のみでダメージを抑えることができるため、放電による電子放出素子のダメージを最小限に抑えることができ、これにより薄型の平板型電子線画像形成装置を長寿命化し、その信頼性を向上させることが可能となる。このように形成された画像形成装置を用いて、行列配線座標上に形成した電子放出素子に走査信号と画像信号とを印加し、画像形成部材のメタルバックに高電圧を印加することにより、大型で薄型という特徴を有する画像表示装置を提供することができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、電子放出領域がその一部に間隙を有する導電性膜を備えたSCE素子で構成したため、構造が簡単で、製造方法も容易であり、高い電子放出効率が得られ、かつ大面積に多数の素子を配列形成できる。
【0042】
なお、本実施形態において、基板露出面及び絶縁部材を覆う抵抗膜をさらに設けてもよい。この場合には、基板露出面、絶縁部材の帯電を抑制でき、これにより電子放出特性をより安定化することができ、かつ放電をより一層抑制することができる。
【実施例】
【0043】
以下、図面を参照しつつ、本実施例に係る画像形成装置の製造方法についてさらに説明する。SCE素子を、基板を兼ねるリアプレート上に複数形成し、マトリクス状に配線して電子源を形成し、これを用いて画像形成装置を作成した。図7は、本実施例に係る画像形成装置の電子源基板の作製方法を示す図である。以下に図7(a)〜(e)を参照して、作成手順(工程a〜m)を説明する。
[工程a]
まず、図7(a)に示すように、洗浄した青板ガラスの表面に、0.5[μm]のSiO2層をスパッタリングにより形成し、リアプレート71とした。続いて、超音波加工機によりグランド接続端子の導入のための直径4[mm]の円形の通過孔を形成した。そして、リアプレート1上にスパッタ成膜法とフォトリソグラフィ法を用いてSCE素子の素子電極72、73を形成した。この素子電極72、73の材質は、厚さ5[nm]のTi、厚さ100[nm]のNiを積層したものである。また、素子電極間隔は、2[μm]とした。
[工程b]
続いて、図7(b)に示すように、Agペーストを所定の形状に印刷し、焼成することによりY方向配線74を形成した。Y方向配線74は、電子源形成領域の外部まで延長され、図2における電子源駆動用配線3−2となる。Y方向配線74の幅は100[μm]、厚さは約10[μm]である。
[工程c]
次に、図7(c)に示すように、PbOを主成分とし、ガラスバインダを混合したペーストを用い、同じく印刷法により絶縁層75を形成した。これは上記Y方向配線74と後述のX方向配線を絶縁するものであり、厚さ約20[μm]となるように形成した。尚、素子電極72の部分には切り欠きを設けて、X方向配線と素子電極の接続をとるようにしてある。
[工程d]
続いて、図7(d)に示すように、X方向配線76を上記絶縁層75上に形成した。このX方向配線76の形成方法は、Y方向配線74の場合と同じで、X方向配線76の幅は300[μm]、厚さは約10[μm]である。
[工程e]
続いて、図7(e)に示すように、PdO微粒子よりなる導電性膜77を形成した。この導電性膜77の形成方法は、Y、X方向配線74,76を形成した基板(リアプレート)71上に、スパッタリング法によりCr膜を形成し、フォトリソグラフィ法により、導電性膜77の形状に対応する開口部をCr膜に形成する。続いて、有機Pd化合物の溶液(ccp−4230:奥野製薬(株)製)を塗布して、大気中300[℃]、12分間の焼成を行って、PdO微粒子膜を形成した後、上記Cr膜をウェットエッチングにより除去して、リフトオフにより所定の形状の導電性膜77とする。
[工程f]
続いて、工程cと同様な方法で、図8に示すように絶縁層(絶縁部材)81を作成した。電子放出素子近傍の開口部82は絶縁層81で覆われていない領域(第1の領域)である。これは、放電が発生したときに、放電が発生した当該電子放出素子から隣接した電子放出素子への沿面放電を抑制するものである。
【0044】
ここで、電子放出素子中心から絶縁層端までの距離(第1の領域の範囲)の設定例を説明する。
【0045】
放電が発生した場合、放電が発生した素子から隣接素子に走査電圧が移行するまでに、すなわち1H時間内に、放電を止める必要がある。放電は電子放出素子中心から絶縁層端へ進行するため、1H時間内に放電を止めるためには、放電が終了するまでの時間τが次式を満足することが必要である。
【0046】
1H>L/Varc
(L/Varc=τ)
L<α(1H*Varc)
1Hは走査電圧が印加される時間であり、Lは電子放出素子中心から絶縁層端までの距離、Varcは放電アークの進行速度である。Varcは部材構成にもよるが、Handbook of vacuum arc science and technology Raymond L.Boxman, Philip J. Martin,and David M.Sanders Noyes Publications (1995)等より、10〜100m/sであることが知られており、種々の実験からもVarcがこの範囲にあることが確認された。ここでは、低速である最悪の場合を考えて、Varc=10m/sで考えるのが好ましい。αは絶縁層端に放電アークが到達してから、沿面放電が発生しない程度までの放電緩和時間を表すパラメータであり、α=1〜0.1程度である。αは絶縁層材料に依存する。
【0047】
1Hを20μsとすると、上記関係式より、距離Lが次のように求められる。
【0048】
L<(1〜0.1)×(10m/s×20μs)=200〜20μm
以上のことより、電子放出素子中心から絶縁層端までの距離Lは、200〜20μmよりも小さくなる必要があり、200μmより小さく、好ましくは20μmよりも小さくなるように設定されている。
[工程g]
図1に示すリアプレート1上に、さらにグラファイト微粒子を主成分としたシート抵抗が9乗〜12乗の帯電防止膜ペーストを塗布して乾燥させた。尚、その塗布領域は、基板全面、或は真空領域内のみである。
[工程h]
リアプレート1とフェースプレート11との間の隙間を形成する支持枠4(図1)と上記リアプレート1とをフリットガラスを用いて接続した。ゲッタ(不図示)の固定もフリットガラスを用いて同時に行った。
[工程i]
続いて、フェースプレート11(図1)を作成した。このフェースプレート11は、リアプレート1と同様に、SiO層を設けた青板ガラスを基体として用いた。次いで、超音波加工により、排気管接続用の開口部と高圧接続端子導入口を形成した。続いて、印刷により高圧導入端子当接部と、これを後述のメタルバックを接続する配線をAuにて形成し、さらに蛍光膜のブラックストライプ、続いてストライプ状の蛍光体を形成し、フィルミング処理を行った後、この上に厚さ約2000[Å]のAl膜を真空蒸着法により堆積して、メタルバックとした。尚、フィルミング材である有機物は焼成により焼失させた。
[工程j]
リアプレート1と接合した支持枠4(図1)をフェースプレート11とフリットガラスを用いて接合した。高電圧導入端子および排気管の接合も同時に行った。高圧導入端子はAgの棒である。尚、電子源の各電子放出素子と、フェースプレート11の蛍光膜の位置が正確に対応するように、注意深く位置合わせを行った。尚、この時、リアプレート1とフェースプレート11の間隔は約2[mm]となるようにした。
[工程k]
上記画像形成装置を、不図示の排気管を介して真空排気装置に接続し、容器内を排気すした。容器内の圧力が10−4[Pa]以下となったところで、フォーミング処理を行った。フォーミング工程は、X方向の各行毎に、X方向配線に図4(b)に模式的に示すような波高値の漸増するパルス電圧を印加して行った。パルス間隔T1は10[sec]、パルス幅T2は1[msec]とした。尚、図には示されていないが、フォーミング用のパルスの間に波高値0.1[V]の矩形波パルスを挿入して電流値を測定して、電子放出素子の抵抗値を同時に測定し、1素子あたりの抵抗値が1[MΩ]を越えたところで、その行のフォーミング処理を終了し、次の行の処理に移り、これを繰り返して、全ての行についてフォーミング処理を完了させた。
[工程l]
次に、活性化工程処理を行った。この処理に先立ち、上記画像形成装置を200[℃]に保持しながらイオンポンプにより排気し、圧力を10−5[Pa]以下まで下げた。続いて、アセトンを真空容器内に導入した。圧力は1.3×10−2[Pa]となるよう導入量を調整した。続いて、X方向配線にパルス電圧を印加した。パルス波形は、波高値16[V]の矩形波パルスとし、パルス幅は100[μsec]とし1パルス毎に125[μsec]間隔でパルスを加えるX方向配線を隣の行に切り替え、順次行方向の各配線にパルスを印加することを繰り返した。この結果、各行には10[msec]間隔でパルスが印加されることになる。この処理の結果、各電子放出素子の電子放出部近傍に炭素を主成分とする堆積膜が形成され、素子電流Ifおよび放出電流Ieが大きくなる。
[工程m]
続いて、安定化工程として、真空容器内を再度排気した。排気は、画像形成装置を200[℃]に保持しながら、イオンポンプを用いて10時間継続した。この工程は、真空容器内に残留した有機物質分子を除去し、上記炭素を主成分とする堆積膜のこれ以上の堆積を防いで、電子放出特性を安定させるためのものである。
[工程n]
工程lで行った方法と同様の方法で、X方向配線にパルス電圧を印加した。さらに上記の高電圧導入端子を通じて、画像形成部材に5[kV]の電圧を印加すると、蛍光膜が発光する。目視により、発光しない部分或は非常に暗い部分がないことを確認し、X方向配線および画像形成部材への電圧の印加をやめ、排気管を加熱溶着して封止した。続いて、高周波加熱によりゲッタ処理を行い、画像形成装置を完成した。
【0049】
上記工程にて作成した電子源基板を用いた画像形成装置に対して種々の実験を行った結果、放電時のダメージが最小限に抑えられ、沿面放電による連続的なダメージが抑制されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の製造方法に基づいた作成工程にて作成した画像形成装置の構成を模式的に示す表示パネルの平面図である。
【図2】図1の各部の断面構成を示す模式図であり、(a)は実線A−A´に沿った断面の構成、(b)は実線C−C´に沿った断面の構成をそれぞれ示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るSCE素子単体の構成の一例を示す模式図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は、(a)で示したSCE素子を構成する導電部材を絶縁部材で覆った模式図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるフォーミング工程の印加電圧パターンの一例を示す図であり、(a)は同じ波高値のパルス電圧を印加する場合であり、(b)は波高値を漸増させながらパルス電圧を印加させる方法をそれぞれ示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるSCE素子の該素子に印加する素子電圧Vfに対する素子電流Ifおよび放出電流Ieとの関係を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる画像形成装置における蛍光膜を示す模式図であり、(a)はブラックストライプ、(b)はブラックマトリクスの蛍光膜をそれぞれ示す図である。
【図7】本発明の一実施例に係る画像形成装置の電子源基板の作成方法を示す図であり、(a)は工程aの説明図、(b)は工程bの説明図、(c)は工程cの説明図、(d)は工程dの説明図、(e)は工程eの説明図である。
【図8】本発明の一実施例に係る画像形成装置の電子源基板の作成方法を示す図であり、工程fの説明図である。
【図9】従来例に係るSCE素子の平面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 リアプレート
2 電子源領域
3−1、3−2、3−3 電子源駆動用配線
4 支持枠
5 排気管
6 孔
7 高圧当接部位
11 フェースプレート
12 画像表示領域
18 高圧導入端子
61 蛍光膜
62 黒色導電材
63 蛍光体
71 リアプレート
72、73 素子電極
74 Y方向配線
75 絶縁層
76 X方向配線
77 導電性膜
81 絶縁層
82 開口部
91 基板
92、93 素子電極
94 導電性薄膜
95 電子放出部
101 基体(電子源基板)
102、103 一対の素子電極
104 配線
105 絶縁層
106 配線
107 導電性膜
108 電子放出部
109 絶縁層
110 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出素子を複数有する電子源基板と、該電子放出素子より放出された電子を照射する陽極基板とを有する画像表示装置において、
前記電子源基板上に配置された導電部材のうち、前記電子放出素子の電子放出領域以外の導電部材上を覆う絶縁部材を備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
前記絶縁部材が覆う導電部材は、前記電子放出素子とその駆動回路とを結ぶ配線と、当該配線と前記電子放出領域とを接続する電極とを含むことを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記電子放出素子は、間隔を置いて配置された一対の素子電極と、前記一対の素子電極に接続された、電子放出領域を有する導電性膜とを備えることを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記絶縁部材が覆う導電部材は、前記電子放出素子とその駆動回路とを結ぶ配線と、前記一対の素子電極とを含むことを特徴とする請求項3に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記電子放出領域は、前記導電性膜の一部に形成された間隙であることを特徴とする請求項3に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記絶縁部材が覆う導電部材は、前記電子放出素子とその駆動回路とを結ぶ配線と、前記一対の素子電極と、前記導電性膜とを含むことを特徴とする請求項5に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記基板の露出面及び前記絶縁部材を覆う抵抗膜をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−127794(P2006−127794A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311033(P2004−311033)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】