説明

画像表示装置

【課題】スペーサ103の表面に生じる正負の帯電分布を制御することで、実効的な帯電量をゼロとし、スペーサ103自身の導電性や、材料の特性によることなく、帯電が電子軌道に与える影響を大幅に低減することができるスペーサ103を用いた画像表示装置を提供する。
【解決手段】主表面に凹凸構造106が形成されたスペーサ103とし、凹凸構造106における凹部と凸部の周期を、電子源を有する第一の基板101側の領域よりも第一の基板101と対向して配置されている第二の基板102側の領域において長くしたスペーサ103を用いた画像表示装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、電子を加速するための加速電極を有し、前記第一の基板と対向配置された第二の基板と、前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置されたスペーサとを有する画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子放出素子の利用形態としては、画像表示装置が挙げられる。例えば、冷陰極電子放出素子を多数形成した第一の基板と、電子放出素子から放出された電子を加速するアノード電極および発光部材としての蛍光体を具備した第二の基板とを平行に対向させ、真空に排気した平面型の電子線表示パネルが知られている。なお、一般には、第一の基板はリアプレートと称され、アノード電極および発光部材としての蛍光体を具備した第二の基板はフェースプレートと称される。また、真空排気した電子線表示パネル内には、耐大気圧構造として、スペーサが配置される。
【0003】
特許文献1には、スペーサにおける二次電子放出特性の角度依存増倍係数を規定し、電子の入射角度や分布に応じて、凹凸の構造を変える旨の記載がある。その一例として、ランダムな凹凸を有するスペーサに関する記載がある。
【0004】
特許文献2には、スペーサ表面にストライプ状の凹凸を形成し、スペーサの表面領域毎に溝の深さまたは溝のピッチを変更することが記載されている。また、スペーサ基板形成時に加熱延伸法を用いることも示されている。
【0005】
特許文献3には、スペーサ表面に形成された凹凸形状における帯電状態について、表面が電子源側に向いている面が負に、表面が被電子線照射部材側に向いている面あるいは電子源と被電子線照射部材とを結ぶ法線に沿った面が正に帯電することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−311632号公報(USP6809469)
【特許文献2】特開2003−223858号公報(USP6963159)
【特許文献3】特開2003−223857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のスペーサ構造を用いた画像表示装置においては、電子放出素子から放出された電子ビームの第二の基板上での到達位置が、駆動信号に応じて(輝度信号の大きさに応じて)変化する場合があるという新たな課題を我々は発見した。この課題をかかえる表示装置においては、駆動信号の変化に伴って、輝点の位置が変化し、その結果、表示画像の品位を下げることとなる。本発明は、この新たな課題を解決し得る新規な画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第一は、複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向における前記凹部の長さをA、前記凸部の長さをB、前記凹部の二次電子放出係数をδA、前記凸部の二次電子放出係数をδB、前記凹部に入射した電子が前記凹部にトラップされる確率をα、前記凹部と前記筒部の高低差である凹凸深さをd、前記画像表示装置の動作中の前記第一の基板と前記第二の基板との間の電界強度をEとしたときに、下記関係式を満たすことを特徴とする画像表示装置を提供するものである。
【0009】
【数1】

【0010】
【数2】

【0011】
【数3】

【0012】
また、本発明の第二は、複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向における前記凹部の長さをA、前記凸部の長さをBとしたときに、前記凹部の長さAと前記凸部の長さBの比である凹凸比A/Bが、前記第一の基板側から前記第二の基板側に向かって徐々に大きくなる領域を有することを特徴とする画像表示装置を提供するものである。
【0013】
また、本発明の第三は、複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成され、前記第一の基板と前記第二の基板側の対向方向に外向きに傾斜した平面または曲面の側面を有する複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、前記側面が平面である場合の傾斜角度または前記側面が曲面である場合の最大傾斜角度が、前記凹凸構造の前記第一の基板側の領域において前記第二の基板側の領域よりも大きいことを特徴とする画像表示装置を提供するものである。
【0014】
また、本発明の第四は、複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に周期的に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、
前記凹部と凸部の周期が、前記凹凸構造の前記第一の基板側の領域よりも前記第二の基板側の領域において長いことを特徴とする画像表示装置を提供するものである。
【0015】
また、本発明の第五は、複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、
前記凹部と前記凸部の高低差である凹凸深さが、前記凹凸構造の前記第一の基板側の領域において前記第二の基板側の領域よりも深いことを特徴とする画像表示装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
上記第一の発明によれば、スペーサ表面に照射する電子の入射エネルギーおよび入射角度を考慮し、スペーサ表面の領域ごとの二次電子放出係数に応じて、凹凸比(凹部と凸部の長さの比)を規定範囲内に制御する。この結果、凹凸一周期内で生じる正帯電量と負帯電量がほぼ同量となり、近傍の電子軌道に与える影響を小さくすることができる。したがって、駆動信号の変化に応じてスペーサ表面への入射電子量が変動しても、スペーサ表面の帯電量は凹凸一周期内でほぼ0となるため、駆動信号の変化によらず、電子ビーム軌道が安定する。
【0017】
このことは、以下のような要因によるものと我々は考えている。スペーサの二次電子放出係数は、第一の基板から第二の基板に向けて動作電圧に応じた分布を有している。また、その分布状態は、スペーサに入射する電子のスペーサへの入射角度によっても異なる値を示す。その一例を図12に示す。このため、従来技術のようなスペーサ表面に一様な凹凸を設けたり、またランダムな凹凸を設ける構造では、スペーサの表面に帯電量の分布が生じることとなる。このような二次電子放出係数の分布に基づくスペーサ表面の帯電量の分布の影響は、駆動信号の変化が小さい場合はあまり目立たない。しかし駆動信号の変化が大きくなるに従い、二次電子放出係数の分布に基づく、スペーサの領域ごとの帯電量の違いが顕著に現れ、その結果電子ビームの軌道の変化が大きくなり輝点の位置ずれが目視で確認される程度に生じることなる。このようにスペーサの二次電子放出係数は、スペーサの部分(領域)ごとに異なる値を示すため、部分(領域)ごとにスペーサの特性を制御する必要がある。特に、スペーサの第一の基板に近接する部分(領域)は、電子源から放出された電子の軌道に与える影響が大きく、帯電状態を精密に制御する必要がある。このような理由から、スペーサの二次電子放出係数は、スペーサの各領域毎に制御する必要があり、中でも第一の基板近傍の領域を重点的に制御する必要がある。そこで我々は、従前の技術のようなスペーサ表面に一様な凹凸を設けたり、またランダムな凹凸を設けるのではなく、二次電子放出係数の分布を考慮して凹凸に積極的な分布を持たせるという発想に至った。
【0018】
また、第二の発明によれば、スペーサ表面の帯電を効果的に抑制するとともに、電子源からの電子ビームの軌道への影響を効果的に抑制することができる。つまり、本発明ではスペーサへの入射電子のエネルギー依存を考慮しているので、スペーサ全体に渡って二次電子放出係数を抑えることができる。換言すると、スペーサの二次電子放出係数の分布を小さく抑えることができる。よって、駆動信号の変化に基づく入射電子量の変化が生じても、スペーサ表面の帯電量の変化を抑えることができる。この結果、駆動信号の変化によって電子ビームの軌道が変化することを抑制しえる。詳述すると、一般的な材料におけるスペーサの二次電子放出係数は、第一の基板から第二の基板にかけて変化しており、第一の基板側から第二の基板側に向けて徐々に大きくなる。そして第二基板のアノードに印加する電圧の大きさによっては、二次電子放出係数がやがて減少に転じる。ここで電子源から放出された直後の電子は、運動エネルギーが小さく、わずかな電界変化の影響を受けやすいのに対して、アノード近傍に到達した電子は、大きな運動エネルギーをもつため、電界変化の影響を受けにくい。したがって、第一の基板近傍の帯電量を実効的にゼロとすることで、電子軌道への影響の大きい第一の基板近傍の電界歪みを低減し、好適な作用を得ることができる。また、二次電子放出係数の変化に応じて、凹部の長さAと凸部の長さBの比を除除に大きくすることで、スペーサ全体の帯電を効果的に抑え、電子ビーム軌道の変化を抑制する。
【0019】
また、第三の発明によれば、スペーサ表面への入射電子の入射角度分布を考慮し、凹凸の側面の傾斜角度または最大傾斜角度を制御することで、スペーサ表面の全体に渡って二次電子放出係数を抑えることができる。換言すると、スペーサの二次電子放出係数の分布を小さく抑えることができる。よって、駆動信号の変化に基づく入射電子量の変化が生じても、スペーサ表面の帯電量の変化を抑えることができる。この結果、駆動信号の変化によって電子ビームの軌道が変化することを抑制しえる。詳述すると、スペーサ表面に入射する電子の衝突角度が、第一の基板側ほど大きく(浅い角度で入射する)、第二の基板側ほど小さいことから、凹凸の側面をその分布にあわせた傾斜面とすることで、平均的な衝突角度をより小さくすることができる。よって、スペーサ表面の帯電抑制をより効果的にする。
【0020】
また、第四の発明によれば、スペーサ表面の帯電の影響を、より効果的に低減することができる。スペーサは表面に凹凸を形成することにより、凹凸形状内に部分ごとに正負両符号の帯電が生じる。正負帯電間の距離が小さければ、お互いの影響がキャンセルし合い、電界への影響を抑制することができる。第一の基板側ほど近傍を飛翔する電子のエネルギーが小さい(加速されていない)ため、この領域で帯電の影響をキャンセルする効果を高めるために、より短い周期で凹凸を形成するほうが好ましい。また、第一の基板側に短周期の凹凸を配置することで、第一の基板近傍の電子軌道への影響を減少させると同時に、第二の基板側を長周期とすることで、スペーサ近傍の電子軌道が第二の基板寄りでスペーサに向かう電子軌道となる。これによって、電子ビームの挙動を所望に制御することが可能となる。
【0021】
また、第五の発明によれば、スペーサ表面の帯電を効果的に抑制するとともに、電子源からの電子ビームの軌道への影響を効果的に抑制することができる。つまり、本発明ではスペーサへの入射電子のエネルギー依存を考慮しているので、スペーサ全体に渡って二次電子放出係数を抑えることができる。換言すると、スペーサの二次電子放出係数の分布を小さく抑えることができる。よって、駆動信号の変化に基づく入射電子量の変化が生じても、スペーサ表面の帯電量の変化を抑えることができる。この結果、駆動信号の変化によって電子ビームの軌道が変化することを抑制しえる。詳述すると、二次電子放出係数が1を超えた領域となりやすい、第一の基板近傍の凹凸構造における凹部の深さを深くすることで、二次電子の閉じ込め効果を向上させ、この領域の二次電子放出係数を1に近づける。一方、二次電子放出係数が1より小さくなりやすい第二の基板近傍の凹凸構造における凹部の深さを浅くすることで、この領域の二次電子放出係数を1に近づける。より詳述すると、凹凸形状内には部分ごとに正負両符号の帯電が生じる。正負の帯電量が等しいとき、帯電の電子軌道に対する影響はキャンセルされる。第一の基板側と第二の基板側を比較した場合、第一の基板側の方が電子衝突時の二次電子放出係数が大きく、正帯電が発生しやすい。凹凸形状の深さを深くすると電子の閉じ込め効果が向上し、負帯電がより成長するため、正帯電をキャンセルする効果が高まり、電子軌道への影響を抑制することができる。よって、帯電を抑制するとともに、帯電の影響を効果的にキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施形態を説明する電子線装置の断面図である。
【図2】本発明の第二の実施形態を説明する電子線装置の断面図である。
【図3】本発明の第一の実施例における、スペーサ表面の凹凸比の分布を説明する図である。
【図4】本発明の第一の実施例における、スペーサ表面の他の凹凸比の分布を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態としてとることができる凹凸形状の例を説明する模式図である。
【図6】本発明の実施の形態である電子線装置の構造を示す一部を切り欠いた斜視図である。
【図7】凹凸構造を説明する説明図である。
【図8】凹凸内部の帯電の状態を示す説明図である。
【図9】スペーサ表面の帯電のバランスが崩れた場合の、スペーサ近傍の電界の様子を説明する図である。
【図10】本発明の実施の形態としてとることができる凹凸形状の例を説明する模式図である。
【図11】加熱延伸時に不要な反りの生じない母材形状に関する説明図である。
【図12】一般的な絶縁材量の二次電子放出係数の入射エネルギーおよび入射角度に対する依存性を説明する模式図である。
【図13】一般的な材量のスペーサ基材における、第一の基板から第二の基板にかけての凹凸比の好ましい分布の範囲を説明する図である。
【図14】スペーサ基板の作製に用いる加熱延伸装置の模式図である。
【図15】スペーサの表面に、複数の凹部が不連続に形成されている場合の形状例を示す図である。
【図16】本発明の第四の実施形態を示す画像表示装置の断面図である。
【図17】本発明の第五の実施形態を示す画像表示装置の断面図である。
【図18】本発明の第六の実施形態を示す画像表示装置の断面図である。
【図19】本発明の第二の実施形態の別の例を示す断面図である。
【図20】凹凸側面の最大傾斜角の定義を説明する図である。
【図21】スペーサへ衝突する電子軌道の様子を示す模式図である。
【図22】第二の基板に形成された蛍光膜の配列の一例を説明する模式図である。
【図23】本発明の実施例5における凹凸の最大傾斜角度を示す図である。
【図24】異なる凹凸構造を説明する説明図である。
【図25】スペーサ表面に複数の凹部が不連続に形成されている場合の面積比を説明する説明図である。
【図26】帯電の間隔と画質劣化の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は画像表示装置に関するものであり、特に複数の電子放出素子を平面基板上に配置した電子源を用いた、平面形の画像表示装置に対して好適に用いることができる。
【0024】
以下で、本発明の画像表示装置およびそこに用いたスペーサの構成ついて図面を用いて説明する。
【0025】
(第一の実施の形態)
図1は本発明に基づいて作製した画像表示装置の一実施形態の断面を示す模式図である。
【0026】
図1において、第一の基板(リアプレートともいう)101には複数の電子放出素子112が配置されており、複数の行方向配線113と複数の列方向配線(不図示)によって、マトリクス状に配線されている。
【0027】
電子放出素子112は、電界放出型や表面伝導形等の冷陰極電子放出素子であればよく、特に表面伝導形電子放出素子は構造が単純であり、製造も容易であることから、大面積にわたり多数の素子を形成することが容易に行える点で好ましい。
【0028】
第二の基板(フェースプレートともいう)102には、蛍光体層118およびメタルバック119および黒色体118bが形成されている。メタルバック119は、不図示の電源から高電圧を印加されることによって電子源111から放出された電子を第二の基板102側へ向けて加速するための加速電極として作用する。加速された電子は蛍光体層118に衝突し、蛍光体層118を発光させることで所望の画像が形成される。
【0029】
第一の基板101と第二の基板102との間の空間は、気密容器130(全体としては不図示)を形成しており、その内部は真空に保持されている。そのため大気圧による気密容器130の破壊を防止し、第一の基板101と第二の基板102の間隔を一定に保つために、必要な数のスペーサ103が設けられている。スペーサ103は電子線装置に加わる大気圧を支持するための十分な機械的強度、および電子線装置の製造工程で加えられる熱に対する耐熱性が必要である。加えて、スペーサ103には、第一の基板101と第二の基板102との間に印加される高電圧に耐えるだけの絶縁性が必要である。したがって、スペーサ103の材質としては、ガラスあるいはセラミックス等の耐熱性と絶縁性を有する材料を好適に用いることができる。また、スペーサ103は、一般に平板状や柱状等の様々な形態をとることができる。
【0030】
スペーサ103の主表面104には凹凸構造106が形成されている。ここで、スペーサ103の主表面104とは、第一の基板101と第二の基板102との間で露出するスペーサ103の表面であって、電子放出素子112の配置側に露出している面をいう。凹凸構造106は、第一の基板101及び第二の基板102に平行な凹部602と凸部603(図7参照)が、第一の基板101と第二の基板102の対向方向に交互に形成された構成となっている。この凹凸構造106は、スペーサ103全体にわたって一様である必要はなく、場所によって異なる構造をとっても良い。
【0031】
凹凸構造106は、図7に示すように、凹部602と凸部603で構成されている。ここで、凹部602とは、基準表面601よりも凹んだ部分であり、凸部603とは、逆に基準表面601よりも高い部分のことである。基準表面601は、凹部602の底部から凹凸深さの90%の位置で表される面のことである。また、凹凸構造106の凹凸深さ604は、凸部603と凹部602の高低差で表される。
【0032】
ここで、本発明における凹部602の長さと凸部603の長さは、それぞれ上記基準表面601との交点間の間隔(長さ)であって、第一の基板101と第二の基板102に対して垂直な方向における長さをいう。前記第一の基板101と前記第二の基板102の対向方向における凹部602の長さをA、凸部603の長さをBとしたときに、前記凹部602の長さAと前記凸部603の長さBの比である凹凸比A/Bが次の関係式を満たすように凹凸構造106が形成されていることが好ましい。
【0033】
【数4】

【0034】
ただし、αは凹部602に入射した電子が凹部602内にトラップされる(閉じ込められる)確率であり、0〜1の範囲の値をとる。画像表示装置の動作中に第一の基板101および第二の基板102間に印加される電界強度E(V/m)、凹部602の長さAによって次のようにして求めることができる。
【0035】
【数5】

【0036】
なお、放出される二次電子の平均初期エネルギーは5eVとしている。
【0037】
ここで、αは、凹部602に安定に負帯電を形成するために0.7以上の値をとることが好ましい。このとき、凹凸構造106の凹凸深さdは、下記式を満たしていることが必要である(換言すれば、凹部で負帯電を発生させるための必要条件である)。またδAおよびδBはそれぞれ、凹部602および凸部603における二次電子放出係数である。
【0038】
【数6】

【0039】
また、δAは、
【0040】
【数7】


である。
【0041】
二次電子放出係数は、入射する電子のエネルギーおよび衝突時の角度によって変化するため、第一の基板から第二の基板にかけて様々な値をとりうる。凹凸構造も、二次電子放出係数の変化に応じて、第一の基板から第二の基板に向かって、各位置で異なる凹凸比A/Bをとることが好ましい。
【0042】
ここで本発明の特徴部分である、上記の構成のスペーサの作用について説明する。
【0043】
画像表示装置を駆動すると、第二の基板表面で背面散乱された電子がスペーサ表面に衝突する。衝突した電子はスペーサ表面で二次電子を発生させることによって、衝突箇所に帯電電荷を生成する。表面に凹凸が形成されている場合、凹凸の形状に応じて図8に示すような帯電状態が形成される。すなわち、第二の基板を向いた面、あるいは第一の基板と第二の基板の対向方向に沿った面(凸部の頂面)が正に帯電するのに対して、第一の基板を向いた面は負に帯電する。これは、第一の基板を向いた面に電子が衝突することで生じた二次電子が、再衝突を繰り返す過程で吸収されるためである。言い換えると凹凸構造の凹部に電子が閉じ込められることにより、凹部内に負帯電が形成される。
【0044】
ひとつの凹凸構造内で生じる正帯電電荷量と負帯電電荷量がつりあえば、それぞれの帯電電荷による影響はキャンセルし合い、スペーサ近傍の電界に与える影響を抑制し、スペーサの近傍を飛翔する電子の軌道に与える影響を抑制することができる。凹凸構造の一周期内で、生じる正帯電電荷量と負帯電電荷量がつりあうためには、凸部に生じる正帯電量と凹部に生じる負帯電量とが同量生成されることが必要となる。
【0045】
一般に、凸部に生じる正帯電量qは、
【0046】
【数8】


として計算することができる。また、凹部に生じる負帯電量qは、
【0047】
【数9】


として計算することができる。ここでqは負の値となることが必要であるため、δAは、下記式を満たすことが必要となる。
【0048】
【数10】

【0049】
αは凹部内に入射した電子が、その凹部内に閉じ込められる確率であり、δAおよびδBはそれぞれ凹部および凸部に入射した電子による二次電子放出係数である。またNAおよびNBは凹部および凸部に入射する電子数である。
【0050】
1つの凹凸構造内で正負の帯電量がつりあう為には、qとqとの合計がゼロになればよい。すなわち、
【0051】
【数11】


となればよい。これを変形すると、
【0052】
【数12】


という関係が得られる。
【0053】
A/NBは凹部と凸部に入射する電子数の比であり、これは第一の基板と第二の基板の対向方向における凹部の長さAと凸部の長さBの比である凹凸比A/Bに等しい。すなわち、下記式が満たされれば、その凹凸構造内で同量の正電荷と負電荷が生じ、近傍の電界に対する帯電の影響はキャンセルすることができる。実際には完全に正負帯電がつりあう必要はなく、必要な作用が得られる範囲で凹凸比A/Bを決定すればよい。
【0054】
【数13】

【0055】
凹凸比A/Bが上記式の値からずれた場合、すなわち1つの凹凸構造内に負電荷が正電荷に比べて多く存在する場合や、逆に正電荷が負電荷に比べて多く存在するような場合には、スペーサ近傍の電場が歪み、近傍を飛翔する電子の軌道に影響を与えることがある。負電荷が多く存在する場合には、図9(a)に示すように、スペーサ近傍にスペーサから電子軌道を遠ざけるような電界が形成される。逆に、正電荷が多い場合には、図9(b)に示すように、スペーサ近傍にスペーサに向けて電子軌道を近づけるような電界が形成される。負電荷と正電荷のバランスが崩れるほど近傍の電界の乱れは大きくなり、ある程度以上に電界の乱れが大きくなると、近傍のビーム軌道のずれが、画像の乱れとして認識できる程度にまでひどくなる。
【0056】
官能評価等による発明者らの検討から、一般的な距離で画像を見た場合、正規の位置から2%以上ビーム位置がずれると、人間の目に画像の乱れとして認識されることが分かった。つまり、人間の目に画像の乱れとして認識される閾値があり、これが2%のずれ量であることが明らかになった。発明者らは、負帯電量と正帯電量のずれに対するスペーサ近傍の電子軌道の位置ずれ量に対して詳細な検討を行った。その結果、図10に示すように負帯電量と正帯電量のずれが50%を超えない範囲において、電子ビームの位置ずれが2%以内となり、所望の効果を得られることを見出した。
【0057】
さらに、正電荷が負電荷に比べて50%以上大きくなった場合、スペーサに向かう電界強度が強くなり、スペーサ表面で二次電子が衝突を繰り返しながら増大する、いわゆる二次電子なだれが発生する危険性が高くなる。二次電子なだれは二次電子放出係数に依存して指数関数的に増加するので、スペーサ表面の帯電も急激に進展し、第一の基板近傍の電界強度が増加して、放電が発生する可能性が急激に増加する。このことからも負帯電量と正帯電量のずれが50%を超えないことが必要となる。
【0058】
以上のことから、凹部の間隔Aと凸部の間隔Bの比である凹凸比A/Bは下記式を満たしていることが必要となる。
【0059】
【数14】

【0060】
また、近傍のビーム軌道までの距離が小さい場合や、二次電子放出係数や誘電率等によって生じる帯電量が大きい場合等は、下記式で示されるより好ましい範囲に凹凸比A/Bを制御することでその影響を小さくすることができる。
【0061】
【数15】

【0062】
また、一般的な画像表示装置の駆動時の印加電界強度を1mmあたり3kV程度とすると、凹部のサイズ(開口サイズ)が5μm程度の場合、凹部の深さは3μm以上あれば十分好適な効果を得ることができる。このような条件下における好ましいスペーサの凹凸構造としては、凹凸構造の深さが、3μm以上20μm以下、凹部の長さA及び凸部の長さBがr/10以下、であり、凹凸比A/Bが1以上30以下である。この場合、スペーサ表面の帯電を効果的に抑制できる。尚上記rとは、スペーサの主表面から最も近い位置にある電子放出素子までの距離である。
【0063】
また、前記凹部と前記凸部の高低差である凹凸深さdは、下記式を満たしていれば、凹凸内にトラップされる(閉じ込められる)確率αが、凹凸構造の断面形状や表面の材料に依らず、最大値で安定化するため、より好適な作用を得ることができる。
【0064】
【数16】

【0065】
二次電子放出係数δは一般に入射エネルギーおよび入射角度に応じて変化する。二次電子放出係数の入射エネルギー依存特性は、図12に示すように一般にピークを有した山型の特性を示す。多くの材料の場合、二次電子放出係数δのピーク値は1を超え、δ=1を満足する入射エネルギーを2つ有している。この二つのクロスポイントエネルギー間の入射エネルギーにおいては二次電子放出係数が正となり、衝突箇所に正電荷が発生する。二つのクロスポイントエネルギーのうち小さい方を第一クロスポイントエネルギーE1、大きい方を第二クロスポイントE2と称する。
【0066】
二次電子放出係数の測定には、汎用の走査型電子顕微鏡SEMの装置に電子電流電流計を備えたものを使用する。一次電子電流はファラデーカップを用いる。二次電子電流量は検出器としてコレクター(MCP等を使うことができる)を備えたものを用いて確定する。また、試料部を通過する試料電流と一次電子電流と二次電子電流の連続則の関係を用いて試料電流と一次電子電流から求めてもよい。
【0067】
二次電子放出係数は、一般に入射エネルギーによって変化するため、複数の入射エネルギー条件下で測定を行う。さらに二次電子放出係数は、一般に入射エネルギーのほかに入射角度によっても変化するため、同一の入射エネルギー条件下で、入射角度を0度および0度以外の角度にして測定を行う。このようにして得られた入射エネルギー依存性および入射角度依存性に対して、特開2000−311632に記載されている一般式(0)および(1)を用い、最小二乗法によるフィッティングを行う。これにより、各種の材料に対する二次電子放出係数δのエネルギーおよび角度に対する依存性を決定することができる。本発明においては、二次電子放出係数を、入射エネルギーが500eVから3000eVの範囲で、入射角度が0度、20度、40度、60度および80度のときの二次電子放出係数をそれぞれ測定して、上記フィッティングを行っている。凹部および凸部の二次電子放出係数δAおよびδBを測定するためには、測定時のビームスポットを凹部の長さAおよび凸部の長さB以下とし、凹部および凸部に照射すればよい。あるいは、後述するように計算によって凹部および凸部の二次電子放出係数を求めてもよい。測定時の真空度は10-7Torr(1.3×10-5Pa)以下とし、室温(20℃)で測定する。
【0068】
こうして得られた二次電子放出係数を用いて、画像表示装置の駆動条件下におけるスペーサ表面の二次電子放出係数δの分布を求めることができる。例えば、スペーサに衝突する電子の軌道をモンテカルロシミュレーションすることにより、スペーサ表面における二次電子放出係数の分布を数値的に計算することができる。このとき凹凸構造を有するスペーサ表面のモデルを用いて計算することにより、凹部および凸部における二次電子放出係数を求めることができる。こうして得られた二次電子放出係数の分布から、実効的に帯電をゼロとするための凹凸比A/Bの分布も求めることができる。
【0069】
発明者らの数値シミュレーションにより、一般的にスペーサ表面における帯電を実効的にゼロとするための凹凸比A/Bの分布は、図13に示すように第一の基板側から第二の基板側へ向けて大きくなる。そして、極大値となった後、再び小さくなるような分布となることがわかった。これは図12に示すように、二次電子放出係数の分布が、ピークを有する山形の分布となることに対応している。したがって、スペーサ表面の凹凸構造における凹凸比A/Bは、第一の基板側から第二の基板側に向かって徐々に大きくなり、極大値となった後に、再び小さくなるように配置されていることが望ましい。
【0070】
ここで、スペーサ表面の凹凸形状は必ずしも上述のような分布をとらなくても、スペーサ表面の一部に本発明に従った凹凸構造が形成されていることによって、本発明の効果を発揮することができる。すなわち上述したように、凹部と凸部の長さの比である凹凸比A/Bが上述の関係を満たしている場所においては、帯電の影響が実効的にキャンセルされる。一般に、電子線を用いた画像表示装置においては、電子源から放出された直後の電子は、運動エネルギーが小さく、わずかな電界変化の影響を受けやすいのに対して、アノード近傍に到達した電子は、大きな運動エネルギーをもつため、電界変化の影響を受けにくい。したがって、第一の基板近傍の帯電量を実効的にゼロとすることで、電子軌道への影響の大きい第一の基板近傍の電界歪みを低減することで、好適な作用を得ることができる。このためには、第一の基板側の一部領域において、凹凸比A/Bが本発明の関係に従い、第二の基板側に向けて徐々に大きくなるような凹凸構造が形成されていればよい(具体例は、後述の図19参照)。
【0071】
また、前述したように凹凸比A/Bの値は、負帯電量と正帯電量のずれが50%を超えない範囲において、所望の効果を得られる。これは図13において、斜線でハッチングした領域内で凹凸比A/Bを形成すれば所望の効果が得られるということを示している。
【0072】
本発明における凹凸構造の断面形状は図5に示すように(a))略台形状、(b)三角形状、(c)お椀形状、(d)矩形状等様々な形状を取ることができる。1種類だけでなく、複数の種類の断面形状を有する凹凸を混在して用いてもよい。特に、二次電子放出係数が大きい材料の場合、電子の入射角度分布を考慮して凹凸構造の断面形状を決定することで、より好適な作用を得ることができる。 尚、上記のように、スペーサの表面に様様な凹凸形状を有する場合の、凹部長さA、凸部長さBについて、図24を用いて説明する。様々な凹凸構造を有する場合などは、各凹部について基準面を算出することで、凹部長さAを個別に算出し、それをもとに各凸部の長さを個別に算出する。図24はその一例である。
【0073】
図24に示すように、凹凸1と凹凸2では凹部の深さが異なる。しかし、この場合も、図7に基づき上述したように、各凹部でその凹部の底部から深さ90%の位置において、第一の基板の法線と平行な線を伸ばし、この線が凹部内壁と交差する交点間の距離(長さ)で凹部の長さAを規定する。これを各凹部でおこなうことで各凹部の長さAを算出する。また、各凹部において、第二の基板(フェースプレート)に面する凹部の面と基準面との交点をその凹部の開始点とする。そして、隣り合う凹部(凹1と凹2)の開始点間の距離(長さ)から、第一の基板(リアプレート)に近い側の凹部(凹1)の長さAを減算した値が、隣り合う凹部に挟まれた凸部(凸1)の長さBである。そして、第一の基板側に位置する凹部と、該凹部に近接し該凹部よりも第二の基板側に位置する凸部とで1つの凹凸構造を形成し、隣り合う凹部間の距離(隣り合う凹部の開始点間の距離)が凹凸構造の1周期となる。
【0074】
また、凹凸構造は、例えば板状スペーサの長手方向に平行な凹部が、連続的に形成されているだけでなく、例えば図15(a)〜(c)に示すように、スペーサの表面に複数の凹部が、不連続に形成されているような形状であってもよい。図15は板状スペーサの主表面を表面からみた模式図であり、1401は凹部を1402は凸部(凹部でない部分)を示す。図15において、凹部1401はいずれも矩形状の開口部を有しているが、開口形状は矩形状に限られるわけではなく、例えば円状や不規則な形状であってもよい。要は凹凸構造が形成されている位置において、凹部と凸部(凹部でない部分)の面積比が上述の関係を満たしていればよい。
【0075】
尚、不連続に形成された凹部および凸部の面積は次のように定義する。
【0076】
図25に示すようにまずスペーサの主表面に一辺の長さがaである正方形の領域を考える。この正方領域に含まれる凹部の深さ(含まれる凹部がひとつの場合は該凹部の最大深さを、複数の凹部が含まれる場合は各凹部の最大深さの平均値、であらわされる)に対して、凹部の底部から凹部深さの90%の深さの位置で表される平面を基準面として、この基準面よりも深い部分を凹部、基準面よりも浅い部分を凸部として定義する。凹部および凸部の面積はこのようにして定義された凹部および凸部の面積であり、凸部の面積と凸部の面積を合わせるとa2となる。ここで正方領域のサイズについては次のようにして決める。
【0077】
近傍の電子軌道に対する、スペーサ表面における帯電の影響を小さくするためには、スペーサ表面における正負帯電の間隔を小さくすることが好ましい。発明者らはこの正負帯電の間隔の最適な範囲を次のようにして決定した。まず、数値シミュレーションによりさまざまな間隔で正負帯電が生じた場合の電子ビームの変位量を求め、模擬的な画像データを作成した。次にCCIR勧告500−5(ITUR勧告500−11)で推奨されている主観評価法に基づいて同画像を評価した。その結果、図26のような関係が得られた。ここで図26の横軸は、スペーサ主表面から該主表面に最も近い電子放出素子までの距離をrとしたときに、正負帯電の間隔がrの何分の1であるかをあらわしており、例えば10であれば正負帯電の間隔がr/10であることを示す。また縦軸は前記主観評価で、画質が気になる(5段階評価のうち評点2以下)であった人の割合を示す。評価の結果正負帯電の間隔は少なくともr/3以下であり、より好ましくはr/10以下であることが好ましいことがわかる。したがって、上記の正方領域のサイズは、一辺の長さaが、r/3以下、より好ましくはr/10以下とすることが必要である。
【0078】
また、上述したとおり、スペーサ表面に形成された凹凸構造においては、その内部で正負両符号の電荷が生成され、両者の影響が打ち消しあい、近傍の電界に与える影響を低減することができる。しかしながらスペーサのごく近傍では、すなわち正負帯電の間隔と比較して、スペーサに近接した領域においては、正負の帯電の影響がキャンセルされずに、電子軌道に影響をおよぼす程度の電界の変化が生じる範囲が存在する。その範囲はおよそ正負帯電の間隔程度であって、正負帯電の間隔が広いほど(凹凸の周期が長いほど)、広い範囲に帯電の影響がおよぶ。したがって、スペーサの主表面と、該主表面から最も近い位置にある電子放出素子との距離をrとしたとき、前記凹部の長さAと前記凸部の長さBの和A+B、すなわち正負帯電の間隔が、r以下であることが望ましい。
【0079】
続いて、上述した本発明のスペーサの製造方法について説明する。
【0080】
スペーサ表面への凹凸形状の加工方法としては、上述の凹凸形状を形成可能な手法の中から自由に選択することができる。機械的切削法、研磨等の物理的な方法や、フォトリソグラフィー、エッチング法等の化学的な方法の他、加熱等の手段により形状変化可能な材料を用いて型成型する方法等各種の製法が適用可能である。中でも、加熱により形状変形可能な材料のガラス等の母材に、切削あるいは金型等により凹凸形状を形成し、軟化点付近もしくはそれ以上の加熱下で延伸することにより、スペーサを形成する加熱延伸法が量産性に優れている点で特に好適である。
【0081】
凹凸形状を有する母材を加熱延伸法で加工する場合、母材の形状によっては、延伸後の部材に不要な反り等が発生する場合がある。これは母材の各部分において平均的な表面積や体積が異なるために場所ごとに熱容量の差が生じ、結果として加熱速度や冷却速度に差がついてしまうためである。本実施の形態においては、図11に示すように、母材の主断面中の(a)長手方向(高さ方向)あるいは(b)短手方向(厚さ方向)の中心軸で分けられる2領域において、その体積または表面積のいずれか、または両方が概ね等しい。このような母材形状とすることによって、加熱延伸工程においてその主断面中の一方向に沿った温度分布が、母材、あるいはスペーサ、あるいはその中間状態において概ね対称な分布となり、不要な反りの発生を抑制することができる。
【0082】
続いて、本発明のスペーサを用いた電子線装置である、画像表示装置の製造方法について簡単に説明する。本発明を適用した画像表示装置の作製にあたっては、特開2000−311633号で開示されたものと同様の構成、および製造法を用いた。
【0083】
図6は本発明に基づいて作製したスペーサを用いた画像表示装置の一実施態様における斜視図であり、内部構造を示すためにパネルの一部を切り欠いて示してある。
【0084】
図中、101は第一の基板、105は側壁、102は第二の基板であり、これらにより表示パネルの内部を真空に維持するための気密容器を形成している。
【0085】
103は本発明に基づいて作製されたスペーサであり、第一の基板101と第二の基板102との間隔を規定するとともに、真空排気された気密容器内外の気圧差による気密容器の破損を防止する目的で、必要な数がパネル内部に配置されている。107はスペーサを所望の位置に固定するために使用するブロックである。
【0086】
第一の基板101には冷陰極素子112がN×M個形成されている。(N,Mは2以上の正の整数であり、目的とする表示画素数に応じて適宜設定される。たとえば、高品位テレビジョンの表示を目的とした表示装置においては、N=3000,M=1000以上の数を設定することが望ましい。)前記N×M個の冷陰極素子は、M本の行方向配線113とN本の列方向配線114により単純マトリクス配線されている。
【0087】
本発明の画像表示装置に用いる電子源は、冷陰極素子を単純マトリクス配線した電子源であれば、冷陰極素子の材料や形状あるいは製法に制限はない。したがって、たとえば表面伝導型放出素子やFE型等の冷陰極素子を用いることができる。なかでも表面伝導形電子放出素子は構造が単純であり、製造も容易であることから、大面積にわたり多数の素子を形成することが容易に行える点で好ましい。
【0088】
第二の基板102の下面には蛍光膜118が形成されている。本実施例はカラー表示装置であり、蛍光膜118の部分にはCRTの分野で用いられる、赤、青、緑の3原色の蛍光体が塗り分けられている。各色の蛍光体は、ストライプ状に塗り分けられ、蛍光体のストライプの間には、黒色体が設けてある(図22参照。図中のRGBが蛍光体。)。
【0089】
また、蛍光膜118の第一の基板側の面には、CRTの分野では公知のメタルバック119を設けてある。このメタルバック119は、蛍光体118の発する光の利用効率の向上や、イオン等の衝撃からの蛍光体118の保護のため、さらには電子放出素子から放出された電子を加速するための加速電圧を印加するための電極として用いられる。
【0090】
なお、電子源や第二の基板、およびそれらを含む表示パネルの構成や製造法に関する詳細は、上記の特開2000−311633号に記載されている通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0091】
(第二の実施の形態)
次に本発明の第二の実施形態について説明する。
【0092】
図2は第二の実施形態における画像表示装置の断面図である。図中の符号は図1と共通である。本第二の実施の形態においては、第一の基板101と第二の基板102との間隔を規定するスペーサ103の表面に高抵抗膜105が形成されている点が第一の実施の形態と異なっている。その他の部分については第一の実施の形態と同様であるのでここでの説明は省略し、本実施の形態の特徴であるスペーサに関してその構成と作用を説明する。
【0093】
スペーサ103の表面に形成した高抵抗膜105は、スペーサ沿面の電位を規定するとともに、帯電電荷を除去するために形成される。高抵抗膜は上記の作用を実現するために必要な程度のシート抵抗値を有する必要がある。通常、高抵抗膜105のシート抵抗値としては、1014Ω/□以下であることが望ましく、さらに十分な効果を得るためには1012Ω/□以下であることが望ましい。一方、抵抗が低すぎる場合、スペーサにおける消費電力が増加するという問題が生じる。したがって、シート抵抗は107Ω/□以上が望ましい。つまり、107Ω/□以上1014Ω/□以下が望ましく、さらに望ましくは107Ω/□以上1012Ω/□以下である。
【0094】
こうした高抵抗膜105の材料としては、例えば金属酸化物を用いることができる。金属酸化物の中でも、クロム、ニッケル、銅の酸化物が好ましい材料である。その理由は、これらの酸化物は二次電子放出効率が比較的小さく、電子放出素子112から放出された電子がスペーサ103に当たった場合においても、発生する帯電量が小さいためである。金属酸化物以外にも炭素は二次電子放出効率が小さく好ましい材料である。特に、非晶質カーボンは高抵抗であるため、スペーサ抵抗を所望の値に制御しやすい。
【0095】
さらに、高抵抗膜105の他の材料として、アルミと遷移金属合金の窒化物は遷移金属の組成を調整することにより、良伝導体から絶縁体まで広い範囲に抵抗値を制御できるので好適な材料である。遷移金属元素としてはTi,Cr,Ta等があげられる。
【0096】
また、ゲルマニウムと遷移金属との窒化化合物も、同様に組成の調整によって良好な帯電緩和特性を有しており、高抵抗膜105の材料として好適に用いることができる。遷移金属元素としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W等があげられる。これらの遷移金属は単独で、あるいは2種類以上の遷移金属をあわせて用いることが可能である。
【0097】
これらの高抵抗膜は、その種類に応じてスパッタ、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、イオンアシスト蒸着法、CVD法、プラズマCVD等の薄膜形成手段によりスペーサ103の表面に形成することができる。
【0098】
また、スペーサ103は、第一の基板101上の行方向配線113、および第二の基板102上の加速電極であるメタルバック119と当接している。前記当接部において高抵抗膜105は行方向配線113およびメタルバック119と電気的に接続されている。なお、本例ではスペーサ103は行方向配線113と当接しているが、別途当接用の電極を第一の基板に設け、そこへ当接するようにしてもよい。
【0099】
また、第一の基板および第二の基板との当接面に、電気的接続を確実にとるための低抵抗膜を形成しても良い。低抵抗膜は、高抵抗膜に比べ十分に低い抵抗値を有する材料を選択すればよい。Ni、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属、あるいは合金、およびPd、Ag、Au、RuO2、Ag・PdO等の金属や金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体を用いることができる。あるいはSnO2等の半導体性材料よりなる微粒子をSb等のドーパントでドーピングした導電性微粒子を無機または有機バインダーに分散させた導電性微粒子分散膜や、In23−SnO2等の透明導体およびポリシリコン等の半導体材料等より適宜選択される。
【0100】
なお、図19にスペーサの形状として凹凸比A/Bが第二の基板に向かって徐々に大きくなる場合を示す。
【0101】
(第三の実施の形態)
次に本発明の第三の実施形態について説明する。
【0102】
本第三の実施形態は、基本的には図1に示される第一の実施形態と同様であるが、スペーサ103がわずかな導電性を有する基材からなる点で第一の実施形態と異なっている。その他の部分については第一の実施の形態と同様であるのでここでの説明は省略し、本実施形態の特徴であるスペーサに関して、その構成と作用を説明する。
【0103】
スペーサ基材への導電性の付与は、スペーサ表面の電位を規定するとともに、生じた帯電電荷を効果的に除去するために行われる。基材に導電性を与えることにより、例えば表面に高抵抗膜を形成して同様の効果を得る場合と比較して、成膜のための真空プロセス等が必要なくなるため、スペーサおよび画像表示装置の製造コストを低下することができる。
【0104】
しかしながら、スペーサ基材の抵抗が低くなると、スペーサ部の消費電力が増加するのに加え、電流が流れることによる発熱等により、スペーサの特性が損なわれることがある。
【0105】
こうした点を鑑み、上記の好ましい作用を得るため、スペーサの基材としては、体積抵抗率が105Ωcm以上であることが望ましい。さらに好ましくは体積抵抗率が108Ωcm以上であることが望ましい。
【0106】
導電性の基材としては、ガラス等の絶縁性の基材中に金属酸化物等導電性の粒子を混合させた材料を好適に用いることができる。
【0107】
次に、上述した導電性基材の作製方法について説明する。
【0108】
まず、絶縁性の基材と導体粒子の粉末をそれぞれ用意する。粉末作製手段は特に限定されないが、粉砕機やレーザー式および誘導加熱式微粒子製造機等の物理的方法、あるいはエアロゾル噴霧法や熱分解法等の化学的方法を適宜用いることができる。得られた微粉砕粉末は所望の粒径になるように、ふるい、乾式分級機あるいは湿式分級機等により分級を行なう。
【0109】
次に、種々の組成濃度比にあわせて検量を行なった上記絶縁性の基材と導体粒子の粉末を混合する。例えば、ガラスと金粒子の粉末を混合する。混合手段は特に限定されないが、ボールミル等で行なえばよい。導電性粒子の変質を防止するため、混合は窒素ガスやArガス等の非酸化性雰囲気中で行なうことが好ましい。混合後、必要な粒径に応じて、ふるい、乾式分級機あるいは湿式分級機等により分級する。
【0110】
次に、この混合粉末を、窒素ガスやArガス等の不活性ガス雰囲気中または真空中で仮焼成する。また、水素等の還元雰囲気中で仮焼成してもよい。好ましくは800〜1500℃で加熱し、仮焼成し固形物を得る。
【0111】
次に、こうしてできた固形物を粉砕する。粉砕手段は特に限定されないが、ボールミル等で行なえばよい。粉砕は、窒素ガスやArガス等の非酸化性雰囲気中で行なう。粉砕後、必要な粒径に応じて、ふるい、乾式分級機あるいは湿式分級機等により分級する。
【0112】
最後に、粉砕により得られた混合粉末を窒素ガスやArガス等の不活性ガス雰囲気中または真空中で加圧焼成することにより、焼結体を得る。水素等の還元ガス雰囲気中で加圧焼成してもかまわない。加圧焼成には、ホットプレス法を用いることが好ましい。所定の板厚や形状になるように成形し、好ましくは1〜2MPaの圧力下において800〜1500℃で加熱するという本焼成の工程を経て導電性部材とする。
【0113】
このようにして得られた導電性部材を所定の形状に適宜、切削加工を行い、表面に凹凸を有する本発明における画像表示装置のスペーサとする。
【0114】
得られたスペーサに対しては、第二の実施の形態と同様に、第一の基板および第二の基板との当接面に、電気的接続を確実にとるための低抵抗膜を形成しても良い。低抵抗膜は、基材に比べ十分に低い抵抗値を有する材料を選択すればよい。Ni、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属、あるいは合金、およびPd、Ag、Au、RuO2、Ag−PdO等の金属や金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体を用いることができる。あるいはSnO2等の半導体性材料よりなる微粒子をSb等のドーパントでドーピングした導電性微粒子を無機または有機バインダーに分散させた導電性微粒子分散膜を用いることができる。あるいはIn23−SnO2等の透明導体およびポリシリコン等の半導体材料等より適宜選択される。
【0115】
(第四の実施形態)
図16は本発明の第四の実施形態に係る画像表示装置の断面を示す模式図である。スペーサ103は、第一の基板101と第二の基板102との間に配置され、第一の基板と第二の基板との間隔を規定している。スペーサ103は、第一の基板101と第二の基板102との間で露出する主表面104に、第一の基板101と第二の基板102の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部からなる凹凸構造106を有している。この凹部と凸部は、第一の基板101と第二の基板102の対向方向に外向きに傾斜した平面または曲面の側面を有している。ここで凹凸は第一の基板101および第二の基板102と略平行な方向に形成された凹溝もしくは凸溝、もしくはその組み合わせによるものである。本実施形態においては、前記側面が平面である場合の傾斜角度または前記側面が曲面である場合の最大傾斜角度が、前記凹凸構造106の第一の基板101側の領域において前記第二の基板102側の領域よりも大きくなっている。なお、スペーサ103は、スペーサ103の沿面の電位を規定するとともに、帯電電荷を除去するために、絶縁性の基材の表面に高抵抗膜105を形成したものとなっている。
【0116】
ここで最大傾斜角度とは、図20に示すように、第一の基板と第二の基板とを結ぶ鉛直方向からの凹凸部のなす最大角度のことである。換言すると、最大傾斜角度とは、スペーサ基板の接線と第一の基板または第二の基板の法線とのなす角の最大値のことである。また、スペーサ基板の接線は、スペーサの第一の基板向きの面における接線をいう。また、スペーサの凹凸構造106のうち、第一の基板側の領域とは、スペーサの高さの半分の位置よりも第一の基板側の領域を意味する。つまり、スペーサの凹凸構造の、第一の基板側の領域と第二の基板側の領域との境界は、スペーサの高さの1/2の部分である。尚、スペーサの高さの1/2の部分は、領域の境界であって、必ずしもスペーサの高さの1/2の位置に最大傾斜角の変化する部分が位置する必要はない。付言すると、最大傾斜角が徐々に変化する構成においては、スペーサの高さの1/2の位置を境に、第一の基板側の領域と第二に基板側の領域とでそれぞれ最大傾斜角の平均を算出し、互いの領域の平均値の大小関係が上記を満たせばよい。次に、本発明の特徴部分である、上記の構成のスペーサの作用について説明する。
【0117】
電子線装置を駆動すると、第二の基板表面で背面散乱された電子がスペーサ表面に衝突する。衝突した電子はスペーサ表面で二次電子を発生させることによって、衝突箇所に帯電が生じる。表面に凹凸が形成されている場合、凹凸の形状に応じて図8に示すような帯電状態が形成される。即ち第二の基板を向いた面、或いは第一の基板と第二の基板とを結ぶ法線に沿った面(凹部の底面、凸部の頂面)が正に帯電するのに対して、第一の基板を向いた面は負に帯電する。これは、第一の基板を向いた面に電子が衝突することで生じた二次電子が、再衝突を繰り返す過程で吸収されるためであり、言い換えると凹凸の凹部に電子が閉じ込められることによる。
【0118】
ここで一つの凹凸形状内で生じる正帯電量と負帯電量が釣り合えば、その影響はキャンセルし合い、スペーサ近傍の電界およびそこを飛翔する電子の軌道に与える影響を抑制することができる。
【0119】
本発明者等はスペーサ表面の帯電進行に関する詳細な数値シミュレーションおよび実験的な手法による検討を行い、スペーサ表面の帯電電荷の分布に関して次のことを見出した。
【0120】
即ち、スペーサの表面に一定の条件を満たした凹凸が形成されている場合、負帯電はスペーサ表面に入射する電子の分布とほぼ同様の分布を持って生じる。これに対して正帯電はスペーサ表面のポテンシャルや各位置での入射角度によって定まる二次電子放出係数の変化とほぼ同様の分布を持って生じる。これは、第二の基板からの反射電子の衝突が原因で正帯電が生じた後、発生した二次電子が第一の基板向きの面に衝突して凹凸に閉じ込められることにより、第一の基板向きの面に負帯電が生じるからである。
【0121】
そこで第二の基板向きの面に生じる正帯電の量を制御して凹凸内部で正負帯電量を適正なバランスに保つことによって、帯電状態であっても近傍の電界に影響のないスペーサを実現することが可能となる。
【0122】
一回の衝突当たりの帯電量は二次電子放出係数で決定される。二次電子放出係数は、図12に示すように入射する電子のエネルギーと入射角度によって変化し、特に入射角度が大きくなるほど二次電子放出係数は大きくなる。即ち発生する正帯電が増加する。そこで、入射する電子に対して、その入射角度が小さくなるように表面を形成することで、発生する正帯電量を制御することが可能となる。
【0123】
スペーサ表面へ入射する電子は略放物線の軌道を描いて飛翔し、スペーサに衝突する。その軌道は大きく分けて図21に示す2種類に分類される。一つめは図21に符号(a)で示すようにスペーサへの衝突前に、放物線の変曲点を通過する軌道であり、こうした軌道で衝突する電子は、スペーサに対して第二の基板向きの速度成分を持って衝突する。一方、図21に符号(b)で示すように、スペーサの衝突前に放物線の変曲点を通過せずに衝突する電子も存在し、そうした電子はスペーサに対して第一の基板向きの速度成分を持って衝突する。このうち第二の基板向きの面に衝突する電子は、図21に符号(b)で示すような軌道を持って衝突する電子である。そのような電子がスペーサに対して入射する角度は、スペーサと近傍の電子放出素子までの距離にもよるが、その大部分が第一の基板または第二の基板と平行な方向に対しておよそ20°以上90°以下の範囲である。また、第一の基板側ほど入射角度が大きく、第二の基板側ほど入射角度が小さくなるように分布している。したがってスペーサ表面の凹凸部の最大傾斜角度は前記の範囲で設定されればよく、第一の基板側ほど大きな傾斜角度を持った凹凸となるようにスペーサが配置されることによって、上記の作用を実現することができる。また、第一の基板側から第二の基板側へ向けて最大傾斜角が徐々に変化するようにしてもよい。この時スペーサ表面に入射する電子の入射角度分布を考慮して、最大傾斜角度を変化させることでより好適な作用を得る事ができて好ましい。
【0124】
凹凸構造における凹部と凸部の断面形状は図5に示すように(a)略台形状、(b)三角形状、(c)椀形状、(d)矩形状等様々な形状を取ることができ、1種類だけでなく、複数の種類の断面形状を有する凹凸を混在して用いてもよい。尚、台形状や三角形状のように、1つの凹部または凸部で傾斜面の角度が一定の場合(側面が平面の場合)、最大傾斜角度と傾斜角度は同じであり、最大傾斜角度は傾斜角度を意味する。
【0125】
(第五の実施形態)
次に本発明の第五の実施形態について説明する。
【0126】
図17は第五の実施形態に係る画像表示装置の断面模式図である。図中の符号は図16と共通である。本第五の実施形態においては、スペーサ103の構成が第四の実施形態と異なっており、その他の部分については第四の実施形態と同様であるのでここでの説明は省略し、本実施形態の特徴であるスペーサ103の構成と作用を説明する。
【0127】
本実施形態におけるスペーサ103は、その主表面104に、第一の基板101と第二の基板102の対向方向に交互に周期的に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造106を有している。前記凹部と凸部の周期が、前記凹凸構造106の前記第一の基板101側の領域よりも前記第二の基板側102の領域において長くなっている。尚、周期が徐徐に変化する形態においては、上述の第四の実施形態と同様に、スペーサの高さの1/2の位置を境に、第一の基板側の領域と第二に基板側の領域とでそれぞれ周期の平均を算出し、互いの領域の平均値の大小関係が上記を満たせばよい。
【0128】
既に述べたように、凹凸が形成されたスペーサの表面は、画像表示装置の駆動に伴い帯電し、特に凹凸の内部において正負の帯電電荷が生成される。このため、正負帯電量の釣り合いによって、お互いの影響がキャンセルしあい、近傍の電界およびそこを飛翔する電子軌道に与える影響を低減できる。
【0129】
しかしながら、スペーサのごく近傍では、正負の帯電の影響がキャンセルされずに、電子軌道に影響をおよぼす程度の電界の変化が生じる範囲が存在する。その範囲はおよそ正負帯電の間隔、即ち凹凸の周期の3倍以内であり、より確実には10倍以内であって、正負帯電の間隔が広いほど(凹凸の周期が長いほど)、広い範囲に帯電の影響がおよぶ。
【0130】
ここで第一の基板近傍の電子は、電子放出素子から放出された直後であり、十分な運動エネルギーを得ていないため、わずかな電界の変化にも敏感に影響されやすい。これに対して、第二の基板側の電子は運動エネルギーが高いため、電界の乱れによる影響を受けにくくなる。したがって第一の基板側ほど正負帯電の間隔が小さい、言い換えると凹凸の周期がより短い方がよい。凹部と凸部の周期は、スペーサの主表面から該主表面に最も近い位置にある電子放出素子までの距離の1/3以下、より好ましくは1/10以下であれば、第一の基板近傍の電子軌道に対しても、帯電の影響を十分に抑制することが可能となる。
【0131】
(第六の実施形態)
本発明の第六の実施形態では、図18に示すように、スペーサ103の主表面104に、第一の基板101と第二の基板102の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造106を有している。また、前記凹部と前記凸部の高低差である凹凸深さが、前記凹凸構造106の前記第一の基板101側の領域において前記第二の基板102側の領域よりも深くなっている。この凹凸深さは、前記第一の基板101側から第二の基板102側へ向かって徐々に浅くなることが好ましい。尚、徐々に凹凸深さが変わる場合においては、上述の第四の実施形態と同様に、スペーサの高さの1/2の位置を境に、第一の基板側の領域と第二に基板側の領域とでそれぞれ凹凸深さの平均を算出し、互いの領域の平均値の大小関係が上記を満たせばよい。
【0132】
既に述べた通り、スペーサ表面に凹凸が形成されている場合、入射した電子が凹凸内部に閉じ込められることによって、凹凸内部に正負の帯電が生じ、両者の影響が打ち消しあうことで、近傍の電界に与える影響を低減させられる。この電子の閉じ込め効果は凹凸深さに依存しており、凹凸深さが深いほど大きな電子閉じ込め効果を得る事ができる。
【0133】
第一の基板近傍は、電子放出素子から放出された直後の、低い運動エネルギーを持った電子が飛翔しているため、凹凸内部での正負帯電のバランスが電子軌道に与える影響が大きい。スペーサ表面の帯電を決定する二次電子放出係数は、図12に示すように電子衝突時のエネルギーに依存しており、低エネルギー側にそのピークを持つ。したがって第一の基板側ほど正帯電が生じやすい。第一の基板側に正帯電が生じると、スペーサ近傍の電子はスペーサに向けてその軌道が偏向され、よりスペーサの近傍を飛翔する事になり、スペーサ表面の帯電等の影響をより受けやすくなる。
【0134】
したがって、第一の基板近傍での負帯電をより確実に生成するために、第一の基板近傍の凹凸深さを深くすることで、第一の基板近傍での電子軌道への影響を抑制することが可能となる。衝突した電子を閉じ込めるためには、凹凸深さが4μm以上の深さであることが好ましい。一方、一定以上の深さにおいては、帯電の量が飽和する。これは入射する電子の数以上には負帯電が発生しないためである。したがって、凹凸深さは20μm以内が好ましい。また、前述の第五の実施形態と同様、凹部と凸部の周期は、スペーサからその最近接の電子放出素子までの距離の1/3、より好ましくは1/10であれば、第一の基板近傍の電子軌道に対しても、帯電の影響を十分に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0135】
以下、具体的な実施例をあげて本発明を詳しく説明する。
【0136】
実施例1
本実施例は、図1に示される構成の画像表示装置の例である。
【0137】
本実施例で用いるスペーサを次のように作製した。
【0138】
基材としてはガラス(旭硝子製PD200)を幅49.23mm×長さ300mm×厚さ6.15mmの板状に加工し、そのうち49.23mm×300mmの面に切削により略矩形状の断面形状を有する凹部(溝)を加工した。凹部の長さAは、以下のようにして決定した。まず、凹凸構造を有さない平坦な表面をもち、PD200からなるスペーサを用意し、これに表示装置の実駆動時の電圧で加速した電子を照射し、基準となる二次電子放出係数の分布を得る。
【0139】
このようにして得た、平滑な表面を有するスペーサ表面での二次電子放出係数δの分布を図3(a)に示す。ここで、凹凸スペーサの凸部の二次電子放出係数δBは、図3(a)の二次電子放出係数δとほぼ同じ値になる。そこで、この二次電子放出係数δの分布から凸部(長さBの部分)の帯電量が〔数8〕より計算で求まる。この値に基づき、凸部の帯電量と同等の帯電量を凹部(長さAの部分)で生じるために必要な凹部の長さAを算出し、計算した凹凸比A/Bの分布が図3(b)である(凸部の値は予め決めた一定値とし、これに対して各位置での凹部の大きさを算出した)。尚、図3(c)の下段の「FP<−y[mm]−>RP」は、向かって左側がフェースプレート(第二の基板)、右側がリアプレート(第一の基板)で、両者間の間隔がymmであることを示す。この表記の意味は、図10および図13でも同様である。
【0140】
図3(b)において、3001は凹凸構造における実効的な帯電量がゼロとなる凹凸比A/Bであり、3002は負帯電が正帯電に対して50%多くなる凹凸比A/Bを示す。また、3003は正帯電が負帯電に対して50%多くなる凹凸比A/Bを示している。
【0141】
ここから図3(c)に示すような凹凸比A/Bの分布を決定した。その際、凹部と凹部の間の切削していない部分(凸部)の長さBを0.15mmとし、上述した関係に基づいて凹部の長さAを決定した。凹凸深さは総て0.3mmとした。スペーサの一方の端部1から6.7mmないし11.5mmの幅4.8mmの領域には、A/B=13となる凹部の長さA=1.95mmで凹凸構造を加工した。また、もう一方の端部(端部2とする)から幅8.1mmの領域はA/B=1となる凹部の長さA=0.15mmで凹凸構造を加工した。これ以外の途中の領域は図3(c)に示すプロファイルにしたがって徐々に凹凸比A/Bが変化するように加工した。
【0142】
この母材を、図14に示すような装置を用いて、以下の条件で加熱延伸することによりスペーサ基板を作製した。
【0143】
図14において、204はメカチャック、205は引き取りローラであり、203はヒータである。
【0144】
母材201を固定したメカチャックを2.5mm/minの速度で降下させることにより、母材201をヒーター203の中へ送り込み、ヒーター203で790℃に加熱した。この加熱を行いながら、ヒータ203の下方に配置された引き取りローラー205で2700mm/minの速度で引き取ることで延伸し、母材と略相似形の断面形状を有するスペーサ基板を得た。このとき、スペーサ基板に不要な反り等が見られることはなかった。
【0145】
得られたスペーサ基板は幅1.6mm、厚さ0.2mmであり、長さは800mmとなるようにカッター206を用いて切断した。得られたスペーサの1.6×800mmの主表面には、端部1から0.22mm以上0.38mmまでの幅0.16mmの領域に凹部の長さ=55μm、凹凸比A/B=13の略矩形状の断面を有する凹凸構造が形成されていた。また、端部2から0.27mmの領域には凹部の長さ=5μm、凹凸比A/B=1の略矩形状の断面を有する凹凸構造が形成されていた。さらにそれ以外の領域にも徐々に凹部の長さが変化しながら矩形状の凹部がそれぞれ形成されていた(図3(c)参照)。凹凸深さは、総ての凹凸構造で10μmであった。このようにして得たスペーサの凹凸構造の凹部における電子のトラップされる(閉じ込められる)確率αは図4(a)に示すようにスペーサの全域に渡って0.8以上となる。なお、図4(b)、(c)はそれぞれδA、δBの実測値である。
【0146】
次いで、得られたスペーサを洗浄した後、別途用意しておいた第一の基板101上に固定した。スペーサ103は、端部1が第一の基板101側で行方向配線113上に当接するように配置し、長手方向の端部において位置固定用のブロック(図1には不図示)により固定した。行方向配線の間隔は600μmである。
【0147】
スペーサ103を固定するためのブロックは、スペーサ103と同様にガラス(PD200)を切削加工することで作製した。ブロックは4mm×5mm×厚さ1mmの直方体状をしており、その側面にはスペーサ103の長手方向端部を挿入できるよう、幅210μmの溝を形成した。スペーサ103およびブロックは、パネル内に設置する際に、スペーサ103が第二の基板102や第一の基板101に対して、斜めに傾くことの無いよう調整を行った上で、セラミック系の接着剤により互いに固定した。
【0148】
この後、別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに、外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成をおこなった。この後封止を行うことにより、スペーサ103は外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定された。
【0149】
以上の図6に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)112には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynから、走査信号および変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加した。これにより、電子を放出させた。メタルバック119には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより、放出された電子ビームを加速し、蛍光膜118に電子を衝突させ、各色蛍光を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは13kVとし、各配線113,114間への印加電圧Vfは18Vとした。また素子を駆動するパルス幅は0.5〜20μsec、駆動周波数は60Hzとした。なお、第一の基板と第二の基板との間の間隔はスペーサの幅と同じ1.6mmである。
【0150】
画像表示装置を駆動した状態で、スペーサ103に最も近接する電子放出素子(以下、最近接素子という)112からの放出電子による発光スポットの位置を、各駆動パルス幅ごとに詳細に観測した結果、駆動パルス幅による発光スポットの位置の変化は4μmであった。これは行方向配線の間隔に対して0.16%であり、ビームスポットの位置ずれは認識することができず、非常に良好な画像を表示することができた。
【0151】
比較例1−1
比較例1−1として、すべての凹凸構造において凹凸比A/Bが1であるスペーサを実施例1と同様の方法で作製した。このとき凹部の長さは15μmとした。
【0152】
作製されたスペーサを用いて実施例1と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例1と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサに近づく方向におよそ30μm変位する様子が観測された。これは行方向配線間隔の5%に相当する。スペーサに近づく方向に変位していることから、スペーサ表面の帯電が正帯電側に寄っていることが分かる。さらに駆動を続けたところ、スペーサ沿面で放電が発生した。したがって、比較例1−1のスペーサは画像表示装置のスペーサとして好適に用いることはできないことが確認された。
【0153】
比較例1−2
比較例1−2として、総ての凹凸構造において凹凸比A/Bが13となるようなスペーサを実施例1と同様の方法で作製した。本比較例1−2においてすべての凹凸構造の凹部の長さは65μmである。
【0154】
作製されたスペーサを用いて実施例1と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例1と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサから離れる方向におよそ20μm変位する様子が観測された。スペーサから離れる方向にスポットが変位していることから、スペーサ表面の帯電が負帯電側によっていることが分かる。本比較例におけるスポットの変位量は、行方向配線間隔の3%に相当する量であり、発光スポットのずれ量が認識されるため、画像表示装置としては好適に用いることができないことが確認された。
【0155】
比較例1−3
比較例1−3として、総て凹凸構造において実施例1と同様の凹凸比A/Bの分布を持ちながら、凹凸構造の総ての凹凸深さが4μmであるスペーサを実施例1と同様の方法で作製した。
【0156】
作製されたスペーサを用いて実施例1と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例1と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサに近づく方向におよそ25μm変位する様子が観測された。スペーサに近づく方向にスポットが変位していることから、スペーサ表面の帯電が正帯電側によっていることが分かる。これは凹部に閉じ込められる電子の割合が減少したことと対応する。本比較例におけるスポットの変位量は、行方向配線間隔の4%に相当する量であり、発光スポットのすれ量が認識されるため、画像表示装置としては好適に用いることができないことが確認された。
【0157】
実施例2
本実施例においては、絶縁性の基材の表面に高抵抗膜(詳細は後述する)を形成したスペーサを作製し、それを用いて画像表示装置を作製した。
【0158】
本実施例に用いたスペーサは次のように作製した。
【0159】
まず、基材としてはガラス(旭硝子製PD200)を幅49.23mm×長さ300mm×厚さ6.15mmの板状に加工し、そのうち49.23mm×300mmの面に切削により略台形状の断面形状を有する凹部(溝)を加工した。凹部の長さAは、別途測定しておいた高抵抗膜の二次電子放出係数を用いて計算したスペーサ表面での二次電子放出係数の分布に基づいて次のように決定した。
【0160】
測定した二次電子放出係数を用いて求めたスペーサ表面での二次電子放出係数δの分布を図10(a)に示す。この二次電子放出係数δの分布から計算した凹凸比A/Bの分布が図10(b)である。図10(b)において、3001は凹凸構造における実効的な帯電量がゼロとなる凹凸比A/Bであり、3002は負帯電が正帯電に対して50%多くなる凹凸比A/Bを示す。また、3003は正帯電が負帯電に対して50%多くなる凹凸比A/Bを示している。
【0161】
ここから図10(c)に示すような凹凸比A/Bの分布を決定した。その際凹部と凹部の間の切削していない部分(凸部)の長さBを0.15mmとし、上述した関係に基づいて凹部の長さAを決定した。凹凸深さは総て0.3mmとした。スペーサの一方の端部1から14.4mmないし21.6mmの幅7.2mmの領域は、凹凸比A/B=11となる凹部の長さA=1.65mmで加工した。また、もう一方の端部(端部2とする)から幅6.7mmの領域は、凹凸比A/B=1となる凹部の長さA=0.15mmで加工した。これ以外の途中の領域は図10(c)に示すプロファイルにしたがって徐々に凹凸比A/Bが変化するように加工した。
【0162】
この母材を、図14に示すような装置を用いて、以下の条件で加熱延伸することによりスペーサ基板を作製した。
【0163】
図14において、204はメカチャック、205は引き取りローラであり、203はヒータである。
【0164】
母材201を固定したメカチャックを2.5mm/minの速度で降下させることにより、母材201をヒーター203の中へ送り込み、ヒーター203で790℃に加熱した。この加熱を行いながら、ヒータ203の下方に配置された引き取りローラー205で2700mm/minの速度で引き取ることで延伸し、母材と略相似形の断面形状を有するスペーサ基板を得た。このときスペーサ基板に不要な反り等が見られることはなかった。
【0165】
得られたスペーサ基板は、幅1.6mm、厚さ0.2mmであり、長さは800mmとなるようにカッター206を用いて切断した。
【0166】
得られたスペーサの1.6×800mmの主表面には、端部1から0.48mm以上0.72mmまでの幅0.24mmの領域には、凹部の長さ=55μm、凹凸比A/B=11の略台形状の断面を有する凹凸構造が形成されていた。また、端部2から0.22mmの領域には、凹部の長さA=5μm、凹凸比A/B=1の略台形状の断面を有する凹凸構造が形成されていた。さらにそれ以外の領域にも徐々に凹部の長さAが変化しながら台形状の凹部がそれぞれ形成されていた。凹凸深さは、総て15μmであった。形状については図11を参照する。
【0167】
次に、この様にして製作したスペーサ基板を洗浄し、清浄化したスペーサ基板の上に、高抵抗膜としてWとGeの窒化膜を真空成膜法により形成した。
【0168】
本実施例で用いたWとGeの窒化膜は、スパッタリング装置を用いてアルゴンと窒素の混合雰囲気中で、WとGeのターゲットを同時にスパッタすることにより成膜した。成膜時にはスパッタリングの条件を変更することで、高抵抗膜の抵抗値を制御した。なお、高抵抗膜の抵抗値は、WとGeのターゲットへの投入電力およびスパッタ時間の調整により、Wの添加量を調整することで行った。得られた高抵抗膜は厚さがおよそ200nmであり、シート抵抗値は3×1011Ω/□であった。
【0169】
次いで、得られたスペーサを別途用意しておいた第一の基板101上に固定した。ここで高抵抗膜105を形成したスペーサ103は、端部1側が第一の基板101側に位置するように配置された上で、第一の基板101側で行方向配線113上に配置し、長手方向の端部において位置固定用のブロック(図1には不図示)により固定した。
【0170】
スペーサ103を固定するためのブロックは、スペーサ103と同様にガラス(PD200)を切削加工する事で作製した。ブロックは4mm×5mm×厚さ1mmの直方体状をしており、その側面にはスペーサ103の長手方向端部を挿入できるよう、幅210μmの溝を形成した。スペーサ103およびブロックは、パネル内に設置する際に、スペーサ103が第二の基板102や第一の基板101に対して、斜めに傾くことの無いよう調整を行った上で、セラミック系の接着剤により互いに固定した。
【0171】
この後、別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに、外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成を行った。この後封止を行うことにより、スペーサ103は外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定された。
【0172】
以上の図6に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)112には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号および変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加した。これにより、電子を放出させた。メタルバック119には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出された電子ビームを加速し、蛍光膜118に電子を衝突させ、各色蛍光を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは13kVとし、各配線113,114間への印加電圧Vfは18Vとした。また素子を駆動するパルス幅は0.5〜20μsec、駆動周波数は60Hzとした。
【0173】
画像表示装置を駆動した状態で、スペーサ103の最近接にある電子放出素子112からの放出電子による発光スポットの位置を、駆動パルス幅ごとに詳細に観測した結果、駆動パルス幅による発光スポットの位置の変化は2μmであった。これは行方向配線の間隔に対して0.1%以下であり、ビームスポットの位置ずれは認識することができず、非常に良好な画像を表示することができることができた。
【0174】
比較例2−1
比較例2−1として、総ての凹凸構造において凹凸比A/Bが1であるスペーサを実施例2と同様の方法で作製した。このとき凹部の長さは総て15μmとした。
【0175】
作製されたスペーサを用いて実施例2と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例1と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサに近づく方向におよそ20μm変位する様子が観測された。これは行方向配線間隔の3%に相当する。スペーサに近づく方向に変位していることから、スペーサ表面の帯電が正帯電側に寄っていることがわかる。さらに駆動を続けたところ、スペーサ沿面で放電が発生した。したがって、比較例2−1のスペーサは画像表示装置のスペーサとして好適に用いることはできないことが確認された。
【0176】
比較例2−2
比較例2−2として、総ての凹凸構造において凹凸比A/Bが11となるようなスペーサを実施例2と同様の方法で作製した。本比較例2−2において総ての凹部の長さは55μmである。
【0177】
作製されたスペーサを用いて実施例2と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例2と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサから離れる方向におよそ20μm変位する様子が観測された。スペーサから離れる方向にスポットが変位していることから、スペーサ表面の帯電が負帯電側によっていることが分かる。本比較例におけるスポットの変位量は、行方向配線間隔の3%に相当する量であり、発光スポットのずれ量が認識されるため、画像表示装置としては好適に用いることができないことが確認された。
【0178】
比較例2−3
比較例2−3として、総て凹凸構造において実施例2と同様の凹凸比A/Bの分布を持ちながら、総ての凹凸深さが6μmであるスペーサを実施例1と同様の方法で作製した。
【0179】
作製されたスペーサを用いて実施例1と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例1と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサに近づく方向におよそ15μm変位する様子が観測された。スペーサに近づく方向にスポットが変位していることから、スペーサ表面の帯電が正帯電側によっていることが分かる。これは凹部に閉じ込められる電子の割合が減少したことと対応する。本比較例におけるスポットの変位量は、行方向配線間隔の2.5%に相当する量であり、発光スポットのずれ量が認識されるため、画像表示装置としては好適に用いることができないことが確認された。
【0180】
実施例3
本実施例においては、導電性の基材の表面に切削加工により凹凸構造を形成したスペーサを作製し、それを用いて画像表示装置を作製した。
【0181】
本実施例に用いたスペーサを次のように作製した。
【0182】
導体粒子の粉末として0.5nm〜50μmの範囲にある所定の粒径を有する金粒子、および絶縁性の基材として、金粒子の粒径に応じて50μm以下の所定の粒径を有するガラス粉末を用意した。金粒子の基材全体に占める体積率が50vol%以下になるように混合調整して、800〜1500℃で焼成することで導電性部材を作製した。
【0183】
この導電性部材を真空中に設置して所定の電界(0.01〜1000V/mm)を印加して体積抵抗を測定した。抵抗測定時に200℃加熱−冷却を行うことで抵抗温度特性もあわせて測定した。
【0184】
TEM(透過型電子顕微鏡)およびSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて導電性部材中に分散された金粒子の平均粒径を求めた。その結果、金の粒径が0.5nm〜50μmの範囲であり、金粒子の基材全体に占める体積率が50vol%以下であって、体積抵抗率ρ=1×105Ωcm以上である導電性部材を得た。
【0185】
この導電性部材を幅1.6mm、厚さ0.2mmであり、長さは100mmの薄板状に切断加工した。
【0186】
次いで、1.6mm×100mmの面に切削により略矩形状の断面形状を有する凹部(溝)を加工した。凹部の長さAは、別途測定しておいた導電性基材の二次電子放出係数を用いて計算したスペーサ表面での二次電子放出係数の分布に基づいて決定した。この際凹部と凹部の間の切削していない部分(凸部)の長さBを10μmとし、上述した関係に基づいて凹部の長さAを決定した。凹凸深さは総て10μmとした。凹部の長さAについては、スペーサの一方の端部(端部1とする)から0.4mmないし0.8mmの幅0.4mmの領域には、凹凸比A/B=5程度となる凹部の長さA=55μmで加工した。また、もう一方の端部(端部2とする)から幅0.1mmの領域は、凹凸比A/B=1となる凹部の長さA=10μmで加工した。これ以外の途中の領域は徐々に凹凸比A/Bが変化するように加工した。
【0187】
次いで、別途作製した第一の基板に対し、スペーサをその凹凸深さが深い側で第一の基板上の行方向配線と当接するように配置して固定した。その際、導電性のガラスフリットを用いて、行方向配線と電気的に接続した。
【0188】
さらに別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成を行った。この後封止を行うことにより、スペーサは外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定され、画像表示装置を作製した。
【0189】
以上のように完成した画像表示装置において、各冷陰極素子(表面伝導型放出素子)112には、容器外端子Dx1〜Dxm、Dy1〜Dynを通じ、走査信号および変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加することにより電子を放出させた。メタルバック119には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより、放出された電子ビームを加速し、蛍光膜118に電子を衝突させ、各色蛍光を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは13kVとし、各配線113,114間への印加電圧Vfは18Vとした。また、素子を駆動するパルス幅は0.5〜20μsec、駆動周波数は60Hzとした。
【0190】
画像表示装置を駆動した状態で、スペーサ103の最近接にある電子放出素子112からの放出電子による発光スポットの位置を、駆動パルス幅ごとに詳細に観測した結果、駆動パルス幅による発光スポットの位置の変化は2μmであった。これは行方向配線の間隔に対して0.1%以下であり、ビームスポットの位置ずれは認識することができず、非常に良好な画像を表示することができた。
【0191】
比較例3−1
比較例3−1として、総ての凹凸構造において凹凸比A/Bが1であるスペーサを実施例3と同様の方法で作製した。このとき凹部の長さAは総て10μmとした。
【0192】
作製されたスペーサを用いて実施例3と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例3と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサに近づく方向におよそ20μm変位する様子が観測された。これは行方向配線間隔の3%に相当する。スペーサに近づく方向に変位していることから、スペーサ表面の帯電が正帯電側に寄っていることが分かる。比較例3−1のスペーサは画像表示装置のスペーサとして好適に用いることはできないことが確認できた。
【0193】
比較例3−2
比較例3−2として、総ての凹凸構造において凹凸比A/Bが8となるようなスペーサを実施例3と同様の方法で作製した。本比較例3−2において凹部の長さAは総て55μmとした。
【0194】
作製されたスペーサを用いて実施例2と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例2と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサから離れる方向におよそ18μm変位する様子が観測された。スペーサから離れる方向にスポットが変位していることから、スペーサ表面の帯電が負帯電側によっていることが分かる。本比較例におけるスポットの変位量は、行方向配線間隔の3%に相当する量であり、発光スポットのすれ量が認識されるため、画像表示装置としては好適に用いることができないことが確認された。
【0195】
比較例3−3
比較例3−3として、総ての凹凸構造において実施例3と同様の凹凸比A/Bの分布を持ちながら、総ての凹凸深さが4μmであるスペーサを実施例3と同様の方法で作製した。
【0196】
作製されたスペーサを用いて実施例3と同様の方法で画像表示装置を作製し、実施例3と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置が、スペーサに近づく方向におよそ25μm変位する様子が観測された。スペーサに近づく方向にスポットが変位していることから、スペーサ表面の帯電が正帯電側によっていることが分かる。これは凹部に閉じ込められる電子の割合が減少したことと対応する。本比較例におけるスポットの変位量は、行方向配線間隔の4%に相当する量であり、発光スポットのずれが画像の乱れとして認識されるため、画像表示装置としては好適に用いることができないことが確認された。
【0197】
実施例4
本実施例は、図16に示される構成の電子線装置の例である。
【0198】
本実施例で用いるスペーサを次のように作製した。母材としてはガラス(旭硝子製PD200)を幅(図6におけるZ方向に該当)49.23mm×長さ(図6におけるX方向に該当)300mm×厚さ(図6におけるY方向に該当)6.15mmの板状に加工した。そのうち49.23mm×300mmの面に切削により深さ0.3mm、周期0.9mmの略台形状の断面形状を有する凹部(溝)を52本加工した。略台形状の凹凸の傾斜した側面の角度は、一方の端部側の幅15mmの領域においては30°であり、残りの領域においては70°とした。この母材を、図14に示すような装置を用いて、以下の条件で加熱延伸することによりスペーサ基材を作製した。
【0199】
図14において、204はメカチャック、205は引き取りローラであり、203はヒータである。母材201を固定したメカチャックを2.5mm/minの速度で降下させることにより、母材201をヒーター203の中へ送り込む。次いで、ヒーター203で790℃に加熱しながら、ヒータ203の下方に配置された引き取りローラー205で2700mm/minの速度で引き取ることで加熱しつつ延伸し、母材と略相似形の断面形状を有するスペーサ基材を得た。この時スペーサ基材に不要な反り等が見られることはなかった。得られたスペーサ基材は幅1.6mm、厚さ0.2mmであり、長さは800mmとなるようにカッター206を用いて切断した。得られたスペーサの1.6×800mmの主表面には、凹凸深さ10μm、周期30μmの略台形状の凹凸が形成されており、凹凸側面の最大傾斜角度は、一方の端部側の480μmの領域においては25°、残りの領域においては65°であった。尚、スペーサの形状は、母材の形状と略相似形ではあるが、加熱延伸工程によって、凹凸構造は略台形形状ではあるものの、若干の湾曲が見られた。
【0200】
この様にして製作したスペーサ基材は洗浄し、清浄化したスペーサ基材の上に、高抵抗膜としてWとGeの窒化膜を真空成膜法により形成した。
【0201】
本実施例で用いたWとGeの窒化膜は、スパッタリング装置を用いてアルゴンと窒素の混合雰囲気中で、WとGeのターゲットを同時にスパッタすることにより成膜した。成膜時にはスパッタリングの条件を変更することで、高抵抗膜の抵抗値を制御した。なお、高抵抗膜の抵抗値は、WとGeのターゲットへの投入電力およびスパッタ時間の調整により、Wの添加量を調整することで行った。得られた高抵抗膜は厚さがおよそ200nmであり、シート抵抗値は3×1011Ω/□であった。
【0202】
次いで得られたスペーサを別途用意しておいた第一の基板101上に固定した。図16および図6に示されるように、高抵抗膜105を形成したスペーサ103は、凹凸側面の最大傾斜角度が大きな領域が第一の基板101側に位置するように配置された上で、第一の基板101側で行方向配線113上に配置した。長手方向の端部において位置固定用のブロック(図16には不図示)により固定した。スペーサ103を固定するためのブロックは、スペーサ103と同様にガラス(PD200)を切削加工する事で作製した。ブロックは4mm×5mm×厚さ1mmの直方体状をしており、その側面にはスペーサ103の長手方向端部を挿入できるよう、幅210μmの溝を形成した。スペーサ103およびブロックは、パネル内に設置する際に、スペーサ103が第二の基板102や第一の基板101に対して、斜めに傾くことの無いよう調整を行った上で、セラミック系の接着剤により互いに固定した。
【0203】
この後、別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに、外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成を行った。この後封止を行うことにより、スペーサは外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定された。
【0204】
以上のように完成した、図6に示されるような表示パネルを用いた画像表示装置において、各電子放出素子112には、容器外端子Dx1乃至Dxm、Dy1乃至Dynを通じ、走査信号および変調信号を不図示の信号発生手段よりそれぞれ印加する。これにより電子を放出させる。一方、メタルバック119には、高圧端子Hvを通じて高圧を印加することにより放出された電子ビームを加速し、蛍光膜118に電子を衝突させ、各色蛍光を励起・発光させることで画像を表示した。なお、高圧端子Hvへの印加電圧Vaは5kV乃至13kVの範囲とし、各配線113、114間への印加電圧Vfは18Vとした。また、素子を駆動するパルス幅は0.5μsec以上20μsec以下、駆動周波数は60Hzとした。
【0205】
画像表示装置を駆動した状態で、スペーサ103の最近接にある電子放出素子112からの放出電子による発光スポットの位置を、駆動パルス幅ごとに詳細に観測した結果、駆動パルス幅による発光スポットの位置の変化は10μm以内であった。
【0206】
一方、比較例として全ての凹凸形状において最大傾斜角度が等しいスペーサを同様の方法で作製して、実施例と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置がおよそ28μm変位する様子が観測されたことから、駆動中の帯電の影響を抑制するという、本発明の有効性、および優位性を確認することができた。
【0207】
実施例5
本実施例においては、第一の基板側から第二の基板側へ向けて、徐々に側面の最大傾斜角度が変化する凹凸構造を有するスペーサを配置した画像表示装置を作製した。作製したスペーサ基材の主表面には凹凸側面の最大傾斜角度が30°乃至80°の範囲で、最大傾斜角度が徐々に変化するような凹凸構造を形成した。個々の凹凸側面の最大傾斜角度は、スペーサ表面の各位置で、そこに入射する電子の入射角度がほぼ0°(ほぼ垂直に入射)となるように決定されたものであり、概ね図23のような分布となっている。なお、図中横軸の溝番号はスペーサの短手方向(幅に該当)の一方の端部から数えた溝の番号であり、1から52(本実施例では溝の数は52本である)までプロットしてある。凹凸の断面形状は略台形状である。凹凸の深さは10μmであり、周期は30μmであった。スペーサは実施例4と同様にガラス(PD200)の母材に、切削加工により凹凸を形成した後に、加熱延伸工程を行うことにより作製した。得られたスペーサ基材のサイズは1.6mm×800mm×0.2mmであった。なお、本実施例においても、延伸後の基材に不要の反り等が発生することなく、安定したスペーサ基材の形成が行えた。また、実施例4同様、スペーサの凹凸構造は略台形形状ではあるものの、若干の湾曲が見られた。
【0208】
得られたスペーサ基材は洗浄後、高抵抗膜の成膜を行った後に、最大傾斜角度が80°である側が第一の基板側となるように配置して、第一の基板上へ固定した。なお、本実施例において、スペーサ以外の構成は実施例1と同様である。
【0209】
作製した画像表示装置を用いて、実施例4と同様の評価を実施したところ、実施例4と同様であり、また最近接の発光スポットの位置の駆動パルス幅による変位は5μm以内であり、実施例4の場合と比較して、さらに帯電による影響の抑制効果が向上した。
【0210】
実施例6
本実施例においては、図17に示すように凹凸の周期が第一の基板側と比較して第二の基板側で長くなっているスペーサを用いた画像表示装置を作製した。
【0211】
実施例4と同様に加熱延伸法を用いて作製したスペーサ基材のサイズは1.6mm×800mm×0.2mmであった。本実施例においても、延伸後の基材に不要の反り等が発生することなく、安定したスペーサ基材の形成が行えた。
【0212】
スペーサ基材の主表面に形成された凹凸の断面形状は椀形状であり、深さは10μm、最大傾斜角度は60°であり、周期は主表面の短手方向(第一の基板と第二の基板の対向方向(幅))の50%の領域で30μm、残りの50%の領域で50μmとした。
【0213】
得られたスペーサは洗浄後、高抵抗膜の成膜を行った後に、凹凸周期が30μmである側が第一の基板と当接する側となるように配置して、位置合わせをした上で別途用意しておいた第一の基板上へ固定した。本実施例において用いた第一の基板には、電子放出素子が450μmのピッチで形成されており、スペーサの最近接の電子放出素子までの距離は125μmとなる。
【0214】
さらに別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに、外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成を行った。この後封止を行うことにより、スペーサは外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定され、画像表示装置を作製した。
【0215】
作製した画像表示装置を用いて、実施例4と同様の評価を実施したところ、最近接の発光スポットの位置の駆動パルス幅による変位は4μmであった。
【0216】
一方、比較例として50μm周期で全ての凹凸形状を形成したスペーサを同様の方法で作製して、実施例と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置がおよそ15μm変位する様子が観測されたことから、駆動中の帯電の影響を抑制するという、本発明の有効性、および優位性を確認することができた。
【0217】
実施例7
本実施例においては、凹凸の周期が第一の基板側から第二の基板側へ向けて、徐々に長くなっているスペーサを用いた画像表示装置を作製した。
【0218】
実施例6と同様に加熱延伸法を用いて、表面に断面が椀形状の凹凸を有するスペーサ基材を作製した。得られたスペーサ基材のサイズは1.6mm×800mm×0.2mmであった。形成された凹凸の深さは10μm、最大傾斜角度は60°から65°であり、その周期は20μmから50μmまで一周期ごとに0.7μmずつ長くなるようにした。凹凸は総計44本形成した。なお、本実施例においても、延伸後のスペーサ基材に不要の反り等が発生することなく、安定したスペーサ基材の形成が行えた。
【0219】
洗浄後、高抵抗膜を成膜されたスペーサは、凹凸の周期が短い側が第一の基板と当接する側となるように配置して、位置合わせをした上で別途用意しておいた第一の基板上へ固定した。本実施例においても第一の基板には、電子放出素子が450μmのピッチで形成されており、スペーサの最近接の電子放出素子までの距離は125μmとなる。
【0220】
ここで別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに、外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成を行った。この後封止を行うことにより、スペーサは外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定され、画像表示装置が得られた。
【0221】
作製した画像表示装置を用いて、実施例6と同様の評価を実施したところ、最近接の発光スポットの位置の駆動パルス幅による変位は3μmであり、実施4と比較してもさらに帯電抑制効果が向上している事を確認した。なお、上述の実施例4または5と本実施例または実施例6を組み合わせた構成も可能であり、本実施例と同様の効果を得られる。
【0222】
実施例8
本実施例においては、図18に示すように凹凸の深さが第二の基板側と比較して、第一の基板側の方が深くなっているスペーサを用いた画像表示装置を作製した。
【0223】
本実施例に用いたスペーサは、アルミナに切削加工を行うことによって表面に凹凸を形成した。スペーサ基材のサイズは1.8mm×100mm×厚さ0.2mmであり、表面には切削により50μm周期で矩形状の凹凸を形成した。凹凸深さは一方の端部から1/3の領域は12μmとし、残りの領域では5μmとした。
【0224】
加工したスペーサに対して、実施例1と同様の高抵抗膜を成膜した。この際、矩形状の凹凸部において抵抗分布が生じないように、スペーサ基材の長手方向の軸を中心に基材を回転させながら高抵抗膜を成膜した。得られた高抵抗膜のシート抵抗値は1×1012Ω/□であった。
【0225】
次いで、別途作製した第一の基板に対し、スペーサ基材の凹凸深さが深い側で第一の基板と当接するように配置して固定した。
【0226】
さらに別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに、外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成を行った。この後封止を行うことにより、スペーサは外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定され、画像表示装置が得られた。
【0227】
作製した画像表示装置を用いて、実施例4と同様の評価を実施したところ、最近接の発光スポットの位置の駆動パルス幅による変位は4μmであった。
【0228】
一方、比較例として全ての凹凸において深さを5μmとして形成したスペーサを同様の方法で作製して、実施例と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置がおよそ20μm変位する様子が観測されたことから、駆動中の帯電の影響を抑制するという、本発明の有効性、および優位性を確認することができた。なお、本実施例において、溝の深さが第二の基板から第一の基板に向けて除除に深くなる構成を採用しても良く、この場合も本実施例と同様の効果を得ることができる。
【0229】
実施例9
本実施例において用いたスペーサを図19に示す。
【0230】
本実施例においては、アルミナ基材に切削加工を行い、第一の基板と第二の基板の対向方向において、凸部の頂面の面積が徐々に変化するように凹凸形状を形成した。作製したスペーサ基材は1.8mm×100mm×厚さ0.2mmであり、凹凸深さは8μm、凹凸の周期は50μmであった。凹凸の断面は湾曲した略台形状であり、側面の最大傾斜角度は60°、凸部の頂面の幅は20μmから5μmとし、凹部(溝)の間隔は20μmで一定とした。
【0231】
加工したスペーサには実施例4と同様に高抵抗膜を成膜した後に、第一の基板上に固定した。この時、頂面の幅(第一の基板と第二の基板の対向方向における頂面の間隔)が広い側(長い側)が第一の基板側となるように配置した。
【0232】
さらに別途作製しておいた第二の基板102および側壁115とともに、外囲器を形成し、真空排気および電子源の形成を行った。この後封止を行うことにより、スペーサは外囲器の外から加わる大気圧により、パネル内の所定の位置に完全に固定され、画像表示装置を作製した。
【0233】
作製した画像表示装置を用いて、実施例4と同様の評価を実施したところ、最近接の発光スポットの位置の駆動パルス幅による変位は4μmであった。
【0234】
一方、比較例として全ての凹凸において頂面の幅(第一の基板と第二の基板の対向方向における頂面の長さ)を20μmで一定として形成したスペーサを同様の方法で作製した。これを用いて、実施例と同様に駆動パルス幅ごとの、スペーサ最近接の電子放出素子からの放出電子による発光スポットの位置を詳細に観察した。その結果、駆動パルス幅が長くなるのにしたがって、発光スポットの位置がおよそ18μm変位する様子が観測されたことから、駆動中の帯電の影響を抑制するという、本発明の有効性、および優位性を確認することができた。
【符号の説明】
【0235】
101:第一の基板(リアプレート)、102:第二の基板(フェースプレート)、103:スペーサ、104:主表面、105:高抵抗膜、106:凹凸構造、107:スペーサ固定用ブロック、112:電子放出素子、113:行方向配線、114:列方向配線、115:側壁、118:蛍光体、119:メタルバック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向における前記凹部の長さをA、前記凸部の長さをB、前記凹部の二次電子放出係数をδA、前記凸部の二次電子放出係数をδB、前記凹部に入射した電子が前記凹部にトラップされる確率をα、前記凹部と前記凸部の高低差である凹凸深さをd、前記画像表示装置の動作中の前記第一の基板と前記第二の基板との間の電界強度をEとしたときに、下記関係式を満たすことを特徴とする画像表示装置。
【数1】


【数2】


【数3】

【請求項2】
前記凹部の長さAと凸部の長さBの比である凹凸比A/Bが下記関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【数4】

【請求項3】
前記凹凸深さdが以下の式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【数5】

【請求項4】
複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向における前記凹部の長さをA、前記凸部の長さをBとしたときに、前記凹部の長さAと前記凸部の長さBの比である凹凸比A/Bが、前記第一の基板側から前記第二の基板側に向かって徐々に大きくなる領域を有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項5】
前記凹凸比A/Bが、前記第一の基板側から前記第二の基板側に向けて徐々に大きくなり、極大値となった後に、再び小さくなることを特徴とする請求項4に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記スペーサの主表面と、該主表面から最も近い位置にある前記電子放出素子との距離をrとしたとき、前記凹部と前記凸部の高低差である凹凸深さdが3μm以上20μm以下、前記凹部の長さA及び凸部の長さBがr/10以下であり、前記凹凸比A/Bが1以上30以下であることを特徴とする請求項5に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記スペーサの主表面と、該主表面から最も近い位置にある前記電子放出素子との距離をrとしたとき、前記凹部の長さAと前記凸部の長さBとの和A+Bがr以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項8】
複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成され、前記第一の基板と前記第二の基板側の対向方向に外向きに傾斜した平面または曲面の側面を有する複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、前記側面が平面である場合の傾斜角度または前記側面が曲面である場合の最大傾斜角度が、前記凹凸構造の前記第一の基板側の領域において前記第二の基板側の領域よりも大きいことを特徴とする画像表示装置。
【請求項9】
前記側面の傾斜角度または最大傾斜角度が、前記第一の基板側から前記第二の基板側へ向かって徐々に小さくなることを特徴とする請求項8に記載の画像表示装置。
【請求項10】
前記凹部と凸部が周期的に形成されており、該周期が、前記凹凸構造の前記第一の基板側の領域よりも前記第二の基板側の領域において長いことを特徴とする請求項8または9に記載の画像表示装置。
【請求項11】
前記側面の傾斜角度または最大傾斜角度は20°以上90°以下であることを特徴とする請求項8乃至10項のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項12】
複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に周期的に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、
前記凹部と凸部の周期が、前記凹凸構造の前記第一の基板側の領域よりも前記第二の基板側の領域において長いことを特徴とする画像表示装置。
【請求項13】
前記凹部と凸部の周期が、前記第一の基板側から前記第二の基板側へ向かって徐々に大きくなることを特徴とする請求項12に記載の画像表示装置。
【請求項14】
前記凹部と凸部の周期は、前記スペーサの主表面から該主表面に最も近い位置にある前記電子放出素子までの距離の1/3以下であることを特徴とする請求項12または13に記載の画像表示装置。
【請求項15】
前記凹凸形状の周期は、前記スペーサ基材の主表面から該主表面に最も近い位置にある前記電子放出素子までの距離の1/10以下であることを特徴とする請求項12または13に記載の画像表示装置。
【請求項16】
複数の電子放出素子からなる電子源を有する第一の基板と、
前記電子源から放出された電子を加速する加速電極を有し、前記第一の基板と対向して配置されている第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間に配置され、前記第一の基板と前記第二の基板との間隔を規定するスペーサとを有する画像表示装置において、
前記スペーサは、その主表面に、前記第一の基板と前記第二の基板の対向方向に交互に形成された複数の凹部と凸部とからなる凹凸構造を有し、
前記凹部と前記凸部の高低差である凹凸深さが、前記凹凸構造の前記第一の基板側の領域において前記第二の基板側の領域よりも深いことを特徴とする画像表示装置。
【請求項17】
前記凹凸深さが、前記第一の基板側から前記第二の基板側へ向かって徐々に浅くなることを特徴とする請求項16に記載の画像表示装置。
【請求項18】
前記凹凸深さは4μm以上であることを特徴とする請求項16または17に記載の画像表示装置。
【請求項19】
前記凹凸深さは20μm以下であることを特徴とする請求項16乃至18のいずれか1項に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−182697(P2010−182697A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107898(P2010−107898)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2007−125150(P2007−125150)の分割
【原出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】